【解決手段】給電チップ6は、軸線Oxに沿ってワイヤ挿通孔が形成された筒状部612、および筒状部612先端から延び、軸線Oxを含む分離面S1の下方に位置する第1延出片613、を有するベースチップ61と、分離面S1の上方に位置し、かつ分離面S1を挟んで第1延出片613に対向配置される第2延出片621を有し、ベースチップ61から分離可能な加圧チップ62と、加圧チップ62の分離を防止する分離防止リング63と、を備え、加圧チップ62は、ベースチップ61に対し回動軸Oy周りに回動可能であり、回動軸Oyよりもベースチップ61の基端側で分離面S1の下方に位置するレバー部622を含み、分離防止リング63は、レバー部622に対し分離面S1の下方から上方への付勢力を与える。
軸線に沿ってワイヤ挿通孔が形成された筒状部、およびこの筒状部の先端から延び、かつ上記軸線を含む分離面に対して一方側に位置する第1延出片、を有するベースチップと、
上記分離面に対して上記一方側とは反対の他方側に位置し、かつ上記分離面を挟んで上記第1延出片に対向配置される第2延出片を有し、上記ベースチップから分離可能な加圧チップと、
上記加圧チップが上記ベースチップから分離するのを防止する分離防止手段と、を備え、
上記加圧チップは、上記ベースチップに対し、上記第2延出片の基端側において上記軸線に直角で上記分離面の面内方向に沿う回動軸の周りに回動可能に組み合わされており、
上記加圧チップは、上記回動軸よりも上記ベースチップにおける基端側であり、かつ上記分離面に対して上記一方側に位置するレバー部を含み、
上記分離防止手段は、上記レバー部に対し、上記分離面における上記一方側から上記他方側への付勢力を与える、給電チップ。
上記ベースチップおよび上記加圧チップのうち、一方には上記回動軸に沿って延びる凹部が形成されており、他方には上記凹部に嵌まる突起が形成されている、請求項1に記載の給電チップ。
上記軸線が延びる方向において、上記回動軸から上記分離防止手段によって上記レバー部へ付勢力を与える位置までの第1距離は、上記回動軸から上記第2延出片の先端までの第2距離よりも大である、請求項1または2に記載の給電チップ。
筒状のトーチボディと、このトーチボディの先端に取り付けられる筒状のチップボディと、このチップボディの先端に取り付けられ、請求項1ないし4のいずれかに記載の給電チップと、を備える、溶接トーチ。
【背景技術】
【0002】
例えば消耗電極アーク溶接において使用される溶接トーチは、給電チップからの給電を受けて溶接ワイヤが送り出されるように構成される。溶接ワイヤは、給電チップが有するワイヤ挿通孔に通され、このワイヤ挿通孔の内面に接触することにより給電を受ける。安定した溶接を行うために給電チップから溶接ワイヤへの給電をより確実に行うように構成された溶接トーチとして、たとえば、特許文献1に記載されているような強制加圧給電型の溶接トーチがある。
【0003】
特許文献1に示された溶接トーチは、加圧シャフトを介して給電チップを弾性的にトーチ先端に向けて押圧可能に構成されている。加圧シャフトには、コンジットケーブル内のワイヤガイドライナを通って供給される溶接ワイヤが挿通されており、この溶接ワイヤは、給電チップを経て溶接トーチ先端から導出される。また、加圧シャフトは、チップボディと呼ばれる筒状部材の内部に軸線方向に移動可能に収容されており、基端側に配置されたコイルスプリングによってトーチ先端方に向けて弾性押圧される。チップボディの先端には、チップホルダが装着されている。給電チップの先端部には縦すり割りが形成されており、この給電チップの先端部がチップホルダに内挿される。加圧シャフトを介して給電チップを弾性的にトーチ先端に向けて押圧することにより、給電チップのワイヤ挿通孔を強制的に弾性縮径させ、ワイヤ挿通孔が加圧力をもって溶接ワイヤに接触する。これにより、給電チップによる溶接ワイヤへの給電の安定化が図られる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された溶接トーチにおいて、チップボディの内面と加圧シャフトの外面との間にスパッタなどの塵埃が侵入すると、チップボディの内面と加圧シャフトの外面との間に抵抗が生じたり、傷が入ったりする。そうすると、圧縮コイルスプリングによる加圧シャフトを介した給電チップに対する弾性押圧が不安定となる。このことは、溶接の安定性を阻害する。
【0005】
また、上記構成の溶接トーチにおいては、チップボディ、加圧シャフト、チップホルダ、および給電チップのアセンブリ時にこれら部材が相互に協働する。このため、これらの部材を含めた溶接トーチ自体が専用品となっており、またアセンブリ状態の構造も複雑であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、溶接ワイヤに対する給電をより安定、確実に行うのに適した、溶接トーチ用の給電チップを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0009】
本発明の第1の側面によって提供される給電チップは、軸線に沿ってワイヤ挿通孔が形成された筒状部、およびこの筒状部の先端から延び、かつ上記軸線を含む分離面に対して一方側に位置する第1延出片、を有するベースチップと、上記分離面に対して上記一方側とは反対の他方側に位置し、かつ上記分離面を挟んで上記第1延出片に対向配置される第2延出片を有し、上記ベースチップから分離可能な加圧チップと、上記加圧チップが上記ベースチップから分離するのを防止する分離防止手段と、を備え、上記加圧チップは、上記ベースチップに対し、上記第2延出片の基端側において上記軸線に直角で上記分離面の面内方向に沿う回動軸の周りに回動可能に組み合わされており、上記加圧チップは、上記回動軸よりも上記ベースチップにおける基端側であり、かつ上記分離面に対して上記一方側に位置するレバー部を含み、上記分離防止手段は、上記レバー部に対し、上記分離面における上記一方側から上記他方側への付勢力を与えることを特徴としている。
【0010】
好ましい実施の形態においては、上記ベースチップおよび上記加圧チップのうち、一方には上記回動軸に沿って延びる凹部が形成されており、他方には上記凹部に嵌まる突起が形成されている。
【0011】
好ましい実施の形態においては、上記軸線が延びる方向において、上記回動軸から上記分離防止手段によって上記レバー部へ付勢力を与える位置までの第1距離は、上記回動軸から上記第2延出片の先端までの第2距離よりも大である。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記第2延出片と上記レバー部とは、金属材料により一体形成される。
【0013】
本発明の第2の側面によって提供される溶接トーチは、筒状のトーチボディと、このトーチボディの先端に取り付けられる筒状のチップボディと、このチップボディの先端に取り付けられ、本発明の第1の側面に係る給電チップと、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る給電チップによれば、溶接時に送給される溶接ワイヤは、給電チップにおいてワイヤ挿通孔を通過した後に第1延出片および第2延出片の間を通過する。ここで、分離防止手段からの付勢力によってレバー部が他方側に動くと、加圧チップが回動軸周りに回動し、第2延出片は第1延出片に近づくように動く。そうすると、溶接ワイヤは第1延出片および第2延出片に挟まれた状態になり、溶接ワイヤに加圧力が付与される。したがって、本発明の給電チップによれば、従来のような加圧シャフトやチップホルダといった専用部品を用いることなく、溶接ワイヤに対して加圧給電が可能である。これにより、給電チップを標準の溶接トーチに組み込むことが可能であり、強制加圧給電型の溶接トーチを低コストで容易に提供することができる。
【0015】
また、加圧チップの第2延出片とレバー部とは、軸線を含む分離面を挟んで互いに反対側に位置する。加えて、第2延出片とレバー部とは、軸線の延びる方向において、回動軸を挟んで互いに反対側に位置する。回動軸は軸線に直角で分離面の面内方向に沿っており、加圧チップは当該回動軸周りに回動可能である。このような第2延出片、レバー部、分離面、および回動軸の位置関係によれば、分離防止手段によってレバー部に与えられた分離面に近づく方向への力は、回動軸を支軸として第2延出片がベースチップの第1延出片側に近づく方向へ変換される。したがって、第1延出片と第2延出片との間を通過する溶接ワイヤに対して加圧力を適切に与えることができる。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る溶接トーチを示す。本実施形態の溶接トーチA1は、トーチボディ1と、チップボディ2と、絶縁ブッシュ3と、オリフィス部材4と、ノズル5と、給電チップ6と、を含んで構成される。
【0020】
トーチボディ1は筒状であり、トーチボディ1の先端にはチップボディ2が接続されている。チップボディ2は、軸線方向に貫通する中心孔21を有する。このチップボディ2は、トーチボディ1の先端に対し、ねじ手段22によって接続されている。チップボディ2はまた、導電性金属で形成されており、トーチボディ1から溶接電流の給電を受ける。
【0021】
絶縁ブッシュ3は、チップボディ2の長手方向中間部外面に外嵌されている。この絶縁ブッシュ3は、たとえば、耐熱性の硬質樹脂などの絶縁部材によって形成され、チップボディ2に対してねじ手段31によって連結されている。
【0022】
オリフィス部材4は、チップボディ2の長手方向先端部外面に外嵌されている。オリフィス部材4は、チップボディ2の長手方向において絶縁ブッシュ3と隣接するように配置されている。このオリフィス部材4については、さらに後述する。
【0023】
給電チップ6は、チップボディ2の先端に取り付けられている。
図2〜
図7に示すように、本実施形態において、給電チップ6は、ベースチップ61と、加圧チップ62と、分離防止リング63と、を備える。
【0024】
ベースチップ61は、接続部611、筒状部612、および第1延出片613を有する。接続部611は、ねじ手段によりチップボディ2の先端に接続される部分である。
図5に示すように、接続部611には、溶接ワイヤを通すための中心孔611aが形成されている。中心孔611aはテーパ状であり、溶接トーチA1に送給される溶接ワイヤ(図示略)は、中心孔611aにおいて芯出し案内されながら筒状部612側に送られる。
【0025】
筒状部612は、接続部611の先端につながっている。筒状部612は、軸線Oxに沿って形成されたワイヤ挿通孔612aを有する。筒状部612の軸線Oxに沿う方向の寸法は、後述の第1延出片613における軸線Oxに沿う方向の寸法よりも大であり、本実施形態では、筒状部612はベースチップ61の大半を占める。
図3に示すように、筒状部612の基端寄りの外周部には、装着用溝612dが形成されている。装着用溝612dは、分離防止リング63を装着するための溝であり、筒状部612の外周部において周方向に沿って形成されている。筒状部612の先端寄りの外周部は、先細りテーパ状であり、先端側に向かうほど軸線Oxに近づくように傾斜している。
【0026】
図3、
図6に示すように、筒状部612の先端部は、軸線Oxと交差するように傾斜しており、この傾斜部に凹部612bが形成されている。凹部612bは、軸線Oxに直角である方向に延びており、横断面略半円状とされている。
【0027】
図3、
図7、
図8に示すように、筒状部612には、切欠き部612cが形成されている。切欠き部612cは、概略円筒形状から図中下方の一部を切除した形状とされている。切欠き部612cは、筒状部612の軸線Oxに沿う方向において広範囲に形成されている。
【0028】
第1延出片613は、筒状部612の先端から軸線Oxが延びる方向に延びている。第1延出片613は、筒状部612の周方向における約半分の領域から延出している。詳細は後述するが、この第1延出片613に対して加圧チップ62の第2延出片621が対向配置される。第1延出片613は、横断面略半円状であり、第2延出片621と向かい合う内側部613aと、この内側部613aに対して第2延出片621とは反対側を向く外周部613bと、を有する。内側部613aは平面状である。外周部613bは、先細りテーパ状であり、先端に向かうほど軸線Oxに近づくように傾斜している。
【0029】
第1延出片613の内側部613aには、第1凹溝613cが形成されている。第1凹溝613cは、軸線Oxに沿って延びており、筒状部612のワイヤ挿通孔612aからつながって延びる。本実施形態において、第1凹溝613cは、第1延出片613の長手方向(軸線Oxが延びる方向)の全長にわたって形成されている。本実施形態において、第1凹溝613cの断面形状は半円状である。
【0030】
図2に示すように、加圧チップ62は、第2延出片621、レバー部622、および連絡部623を有する。第2延出片621は、給電チップ6の先端側に位置し、軸線Oxが延びる方向に延びている。第2延出片621は、ベースチップ61の第1延出片613に対して、分離面S1を挟んで対向配置されている。分離面S1は、軸線Oxを含む仮想平面である。
図2、
図6に示すように、ベースチップ61の第1延出片613は分離面S1に対して図中下方(一方側)に位置しており、第2延出片621は分離面S1に対して図中上方(一方側とは反対の他方側)に位置する。加圧チップ62は、
図3に示すように、ベースチップ61から分離可能である。
【0031】
第2延出片621は、横断面略半円状であり、第1延出片613と向かい合う内側部621aと、この内側部621aに対して第1延出片613とは反対側を向く外周部621bと、を有する。内側部621aは、平面状であり、第1延出片613の内側部613aと所定の間隔を隔てて対向している。外周部621bは、先細りテーパ状であり、先端に向かうほど軸線Oxに近づくように傾斜している。
【0032】
第2延出片621の内側部621aには、第2凹溝621cが形成されている。第2凹溝621cは、第2延出片621の長手方向に延びている。本実施形態において、第2凹溝621cは、第2延出片621の長手方向(軸線Oxが延びる方向)の全長にわたって形成されている。本実施形態において、第2凹溝621cの断面形状は半円状である。
【0033】
本実施形態において、第2延出片621の基端部は、筒状部612の先端傾斜部と間隔を隔てて対向して傾斜しており、この傾斜部に突起621dが形成されている。突起621dは、第2延出片621の基端傾斜部から突出している。突起621dは、軸線Oxに直角である方向に延びており、横断面略半円状とされている。突起621dは、筒状部612の凹部612bに嵌まっている。
【0034】
レバー部622は、連絡部623を介して第2延出片621の基端部とつながっている。本実施形態において、レバー部622は、軸線Oxが延びる方向に長状とされている。
図3、
図8から理解されるように、レバー部622は、筒状部612の切欠き部612cに収容されている。レバー部622は、分離面S1に対して図中下方(一方側)に位置する。
図8に示すように、レバー部622において図中右方を向く内側面622aは筒状部612と当接している。一方、レバー部622において図中上方を向く内側面622bは、筒状部612と所定の間隔を隔てている。
【0035】
本実施形態において、レバー部622の基端寄りの外周部には、装着用溝622cが形成されている。装着用溝622cは、分離防止リング63を装着するための溝であり、レバー部622の外周部において周方向に沿って形成されている。
【0036】
図2、
図3に示すように、本実施形態において、連絡部623は、第2延出片621とレバー部622とをつないでいる。
図7に示すように、連絡部623は、筒状部612の切欠き部612cに収容されている。また、
図2、
図7から理解されるように、連絡部623は、分離面S1と交差している。
【0037】
本実施形態において、加圧チップ62の第2延出片621、レバー部622、および連絡部623は、導電性を有する金属材料により一体形成される。加圧チップ62(第2延出片621、レバー部622、および連絡部623)を一体形成する手法については特に限定されないが、たとえば、切削加工、3Dプリンタによる積層造形、鍛造、鋳造などが挙げられる。
【0038】
本実施形態において、ベースチップ61および加圧チップ62は、同一の導電性金属材料からなる。これらベースチップ61および加圧チップ62の材質は、特に限定されないが、たとえば銅およびクロムを含む合金(クロム銅)が挙げられる。ベースチップ61および加圧チップ62は、溶接ワイヤよりも導電性に優れる。
【0039】
分離防止リング63は、加圧チップ62がベースチップ61から分離するのを防止し、ベースチップ61に加圧チップ62が組み合わされた状態を維持するものである。本実施形態において、分離防止リング63は、略環状の金属製の弾性リングである。分離防止リング63は、周方向の一箇所が切り欠かれており、当該分離防止リング63を装着する際、第1延出片613および第2延出片621の先端側から基端に向けてこれらの外周部613b,621bに外嵌して押し込む。これにより、分離防止リング63は拡径しながら筒状部612およびレバー部622の外周部を通過し、これらの外周部に形成された装着用溝612d,622cに装着される。
【0040】
なお、本実施形態において、上記の凹部612bおよびこれに嵌まる突起621dは、軸線Oxに直角である方向に延びており、横断面略半円状である。これにより、分離防止リング63による拘束がなければ、加圧チップ62は、回動軸Oy(軸線Oxに対して直角)の周りに回動可能である(
図5〜
図7参照)。回動軸Oyは、分離面S1と平行であり、分離面S1の面内方向に沿って延びている。ここで、回動軸Oyについて軸線Oxに対して「直角」とは、厳密に直角である場合のみに限らず、製造上許容される程度の誤差がある場合も含む。また、回動軸Oyが「分離面S1と平行」であることや「分離面S1の面内方向に沿う」ことについても、製造上許容される程度の誤差がある場合も含む。
【0041】
上述の分離防止リング63の装着時には、当該分離防止リング63は、レバー部622に対し、
図4や
図8に示した分離面S1における図中下方(一方側)から図中上方(他方側)に向けて付勢力を与える。レバー部622は、回動軸Oyよりもベースチップ61における基端側であって分離面S1に対して図中下方(一方側)に位置する。第2延出片621は、分離面S1に対して図中上方(他方側)に位置する。これにより、加圧チップ62が回動軸Oy周りに回動し、レバー部622が図中上方(
図4において矢印N1で示す)に動くと、回動軸Oyに対してレバー部622とは反対側にある第2延出片621については、図中下方(
図4において矢印N2で示す)に向かって第1延出片613に近づくように動く。分離防止リング63は、本発明で言う分離防止手段の一例に相当する。
【0042】
本実施形態では、軸線Oxが延びる方向において、回動軸Oyから分離防止リング63によってレバー部622へ付勢力を与える位置までの距離(第1距離L1)は、回動軸Oyから第2延出片621の先端までの距離(第2距離L2)よりも大である(
図6参照)。
図6に示した例では、第1距離L1は第2距離L2の1.5倍以上であり、第1距離L1は、第2距離L2の2倍以上としてもよい。
【0043】
図6〜
図9を参照すると理解されるように、溶接トーチA1に送給される溶接ワイヤ9は、ワイヤ挿通孔612aを通過した後に、第1延出片613の第1凹溝613cと加圧チップ62(第2延出片621)の第2凹溝621cの間を通過する。このとき、溶接ワイヤ9は、第1延出片613および第2延出片621(第1凹溝613cおよび第2凹溝621c)により加圧された状態で挟まれている。これにより、溶接ワイヤ9には所定の摺動抵抗が作用する。
【0044】
図1に示すように、ノズル5は、チップボディ2ないし給電チップ6の外側において、前方に開放する環状空間を形成する筒状部材である。ノズル5は、その基端部が絶縁ブッシュ3に対してねじ手段51によって連結されている。
【0045】
トーチボディ1およびチップボディ2の内部には、たとえばワイヤガイドライナ(図示略)が収容されている。溶接ワイヤ(図示略)は、上記ワイヤガイドライナ内を通って溶接トーチA1に送給される。この送給された溶接ワイヤは、トーチボディ1の内部、チップボディ2の内部、給電チップ6の中心孔611a、ワイヤ挿通孔612a、第1凹溝613cおよび第2凹溝621cの間を通って、給電チップ6(第1延出片613および第2延出片621)の先端から導出される。
【0046】
溶接トーチA1はまた、先端のノズル5から不活性ガスなどからなるシールドガスが噴出するように構成されている。具体的には、オリフィス部材4の内周に環状溝41を形成してチップボディ2の外面との間に環状空間42を形成するとともに、この環状空間42とノズル5内空間をオリフィス孔43により連通させる。また、チップボディ2にその中心孔21と上記環状空間42を連通させる通気孔23を形成している。これにより、溶接トーチA1に送られてきたシールドガスは、チップボディ2の中心孔21内に導入され、通気孔23、オリフィス部材4の環状空間42、ないしオリフィス孔43からノズル5の内部空間に送られ、最終的にノズル5の先端から噴出させられる。
【0047】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0048】
本実施形態において、
図2〜
図9等に示したように、給電チップ6は、ベースチップ61、加圧チップ62および分離防止リング63(分離防止手段)を備える。ベースチップ61は、ワイヤ挿通孔612aが形成された筒状部612、およびこの筒状部612の先端から延びる第1延出片613を有し、第1延出片613は、軸線Oxを含む分離面S1に対して図中下方(一方側)に位置する。加圧チップ62は、分離面S1に対して図中上方(他方側)に位置する第2延出片621を有し、当該第2延出片621は、分離面S1を挟んで第1延出片613に対向配置される。また、加圧チップ62は、ベースチップ61から分離可能であるとともに、ベースチップ61に対し、第2延出片621の基端側において回動軸Oy(軸線Oxに直角で分離面S1の面内方向に沿う)の周りに回動可能に組み合わされている。さらに、加圧チップ62はレバー部622を含み、当該レバー部622は、回動軸Oyよりもベースチップ61における基端側であり、かつ分離面S1に対して下方(一方側)に位置する。そして、分離防止リング63が筒状部612の外周部およびレバー部622の外周部に跨って装着され、分離防止リング63は、分離面S1における図中下方(一方側)から図中上方(他方側)に向けて付勢力を与える。
【0049】
このような構成の給電チップ6を溶接トーチA1に組み付けて使用する際には、溶接トーチA1に送給される溶接ワイヤは、給電チップ6においてワイヤ挿通孔612aを通過した後に第1延出片613および第2延出片621の間を通過する。ここで、分離防止リング63からの付勢力によってレバー部622が図中上方に動くと、加圧チップ62が回動軸Oy周りに回動し、第2延出片621は第1延出片613に近づくように動く。そうすると、溶接ワイヤ9は第1延出片613および第2延出片621に挟まれた状態になり、溶接ワイヤ9に加圧力が付与される。したがって、本実施形態の給電チップ6によれば、従来のような加圧シャフトやチップホルダといった専用部品を用いることなく、溶接ワイヤに対して加圧給電が可能である。これにより、給電チップ6を標準の溶接トーチA1に組み込むことが可能であり、強制加圧給電型の溶接トーチA1を低コストで容易に提供することができる。
【0050】
また、加圧チップ62の第2延出片621とレバー部622とは、軸線Oxを含む分離面S1を挟んで互いに反対側に位置する。加えて、第2延出片621とレバー部622とは、軸線Oxの延びる方向において、回動軸Oyを挟んで互いに反対側に位置する。回動軸Oyは軸線Oxに直角で分離面S1の面内方向に沿っており、加圧チップ62は当該回動軸Oy周りに回動可能である。このような第2延出片621、レバー部622、分離面S1、および回動軸Oyの位置関係によれば、分離防止リング63によってレバー部622に与えられた分離面S1に近づく方向への力は、回動軸Oyを支軸として第2延出片621がベースチップ61の第1延出片613側に近づく方向へ変換される。したがって、第1延出片613と第2延出片621との間を通過する溶接ワイヤ9に対して加圧力を適切に与えることができる。
【0051】
また、加圧チップ62は、ベースチップ61から分離可能であるとともに、ベースチップ61の第1延出片613に対して加圧チップ62の第2延出片621が対向配置される。このような構成によれば、互いに対向する第1延出片613および第2延出片621(互いの内側部613a,621a)の間に適度な隙間を確保することが可能である。したがって、溶接時に発生するスパッタなどの塵埃が給電チップ6の内部に侵入しても、第1延出片613と第2延出片621との間の隙間から塵埃の排出が促される。これにより、給電チップ6の長寿命化が図られる。
【0052】
筒状部612(ベースチップ61)には、回動軸Oyに沿って延びる凹部612bが形成されており、第2延出片621(加圧チップ62)には、凹部612bに嵌まる突起621dが形成されている。このような構成によれば、加圧チップ62を回動軸Oy周りの円周方向に適切に回動させることができる。
【0053】
本実施形態では、軸線Oxが延びる方向において、回動軸Oyから分離防止リング63によってレバー部622へ付勢力を与える位置までの第1距離L1は、回動軸Oyから第2延出片621の先端までの第2距離L2よりも大である。このような構成によれば、レバー部622に与えられた力がてこの原理よってより大きな力に変換され、当該増大した力によって第1延出片613と第2延出片621との間を通過する溶接ワイヤ9を加圧することが可能である。
【0054】
第2延出片621とレバー部622とは、金属材料により一体形成される。このような構成によれば、レバー部622の動きが的確に第2延出片621に伝わり、第1延出片613と第2延出片621との間を通過する溶接ワイヤ9に対して所望の加圧力を与えることができる。
【0055】
第1延出片613には、軸線Oxに沿って延びる第1凹溝613cが形成されており、加圧チップ62において第1延出片613に対向する部位(第2延出片621)には、第1凹溝613cに対向する第2凹溝621cが形成されている。このような構成によれば、筒状部612のワイヤ挿通孔612aを通過した溶接ワイヤが、給電チップ6の先端に向けて適切にガイドされながら送り出される。このことは、溶接品質の向上に寄与する。
【0056】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0057】
上記実施形態においては、分離防止リング63を装着するための装着用溝612d,622cが、ベースチップ61(筒状部612)の基端寄りに形成されていた。この装着用溝612d,622cの形成位置を変えることにより、支軸となる凹部612bと突起621dとの嵌合部(回動軸Oy)からの距離が変わり、給電チップ6における溶接ワイヤへの加圧力の調整を行うことができる。また、分離防止リング63の弾性強度を変更することによっても、溶接ワイヤへの加圧力の調整を容易に行うことができる。
【0058】
上記実施形態において、分離防止リング63は一箇所に切り欠きを有する金属製のリング部材により構成されていたが、これに限定されない。たとえば、分離防止部材は、無端環状の耐熱性を有する弾性体により構成してもよい。
【0059】
上記実施形態では、ベースチップ61の第1延出片613に形成された第1凹溝613cの断面形状は半円状であり、また、加圧チップ62の第2延出片621に形成された第2凹溝621cの断面形状は半円状であるが、これに限定されない。たとえば、
図10、
図11に示すように、ベースチップ61の第1凹溝613cおよび加圧チップ62の第2凹溝621cそれぞれの断面形状をV字状に形成してもよい。また、第1凹溝613cおよび第2凹溝621cそれぞれの断面形状を、半円状やV字状とは異なる他の形状に形成してもよい。
【0060】
レバー部622の形状や材質、その他の具体的構成についても、上記実施形態に限定されず、種々変更が可能である。たとえばレバー部を第2延出片621とは別体からなる二股状のバネ鋼によって構成し、当該バネ鋼を第2延出片621に固定した構成としてもよく、当該バネ鋼の第2延出片621側とは反対側の端部をループ状として分離防止手段としての機能を持たせてもよい。