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特開2021-176837歯周炎の予防、改善、及び治療用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-176837(P2021-176837A)
(43)【公開日】2021年11月11日
(54)【発明の名称】歯周炎の予防、改善、及び治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20211015BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20211015BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20211015BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20211015BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20211015BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20211015BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20211015BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20211015BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20211015BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20211015BHJP
   A61K 31/37 20060101ALI20211015BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20211015BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20211015BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20211015BHJP
【FI】
   A61K31/192
   A61P1/02
   A61K8/49
   A61Q11/00
   A61K8/36
   A61K8/37
   A61K9/20
   A61K9/06
   A61K9/70
   A61K31/365
   A61K31/37
   A61K31/352
   A61K31/216
   A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-73776(P2021-73776)
(22)【出願日】2021年4月26日
(31)【優先権主張番号】特願2020-79910(P2020-79910)
(32)【優先日】2020年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋子
(72)【発明者】
【氏名】大島 光宏
(72)【発明者】
【氏名】深田 一剛
(72)【発明者】
【氏名】巽 一憲
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C083
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD07
4B018MD10
4B018ME14
4C076AA06
4C076AA36
4C076AA89
4C076BB01
4C076BB22
4C076BB23
4C076FF01
4C076FF11
4C083AC471
4C083AC472
4C083AC841
4C083AC842
4C083CC41
4C083DD12
4C083DD15
4C083DD21
4C083DD22
4C083DD23
4C083EE33
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086BA17
4C086BA19
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA28
4C086MA34
4C086MA35
4C086MA52
4C086MA57
4C086NA14
4C086ZA67
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA21
4C206DB13
4C206DB20
4C206DB56
4C206KA01
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA36
4C206MA48
4C206MA54
4C206MA55
4C206MA72
4C206MA77
4C206NA14
4C206ZA67
(57)【要約】      (修正有)
【課題】歯周炎の予防、症状の改善、治療のために有効な成分、ならびにこれを用いた食品、医薬品、及び医薬部外品を提供する。
【解決手段】フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路におけるいずれかの中間代謝物、又はアルクチゲニンを有効成分として少なくとも1つ以上含む歯周炎の予防、改善、治療のための口腔用組成物である。前記フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路における中間代謝物がケイヒ酸誘導体であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路におけるいずれかの中間代謝物、又はアルクチゲニンを有効成分として少なくとも1つ以上含む歯周炎の予防、改善、治療のための口腔用組成物。
【請求項2】
前記フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路における中間代謝物がケイヒ酸誘導体である請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
前記ケイヒ酸誘導体がヒドロキシケイヒ酸である請求項2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
前記ヒドロキシケイヒ酸がクマル酸、クマリン、クロロゲン酸、コーヒー酸、フェルラ酸である請求項3に記載の口腔用組成物。
【請求項5】
前記フラボノイドがアピゲニン、又はシアニジンであることを特徴とする請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載の前記口腔用組成物を含む保健機能食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品。
【請求項7】
前記保健機能食品がサプリメント、飲食品の形態として、
前記医薬品、又は医薬部外品がチュアブル剤、トローチ剤、含嗽剤、軟膏剤、フィルム剤、用事調製剤、洗口液又は歯磨剤の形態として、
化粧品が歯磨剤の形態として提供される請求項6記載の保健機能食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯周炎の予防、症状の改善、治療のために有効な成分、及びこれを用いた食品、医薬品、及び医薬部外品に関する。
【背景技術】
【0002】
平成28年歯科疾患実態調査(厚生労働省)によると、未成年(15〜19歳)でも30%強に歯肉出血が認められ、25〜34歳の年齢層では歯周ポケットが4 mm以上となるいわゆる慢性歯周炎患者が30%以上も認められる。さらに、4 mm以上の歯周ポケットを有する者は加齢とともに増加し、55歳以上では50%以上に達する。慢性歯周炎は言わば国民病である。
【0003】
慢性歯周炎は、歯肉の腫れ、歯周からの出血、噛むと痛い、口臭、歯茎が下がる、あるいは知覚過敏などの気になる症状として自覚される。しかし、気になる症状といった軽度の自覚症状、単なる炎症に留まらず、重度になると歯槽骨が2/3以上吸収され、それにより歯が動揺し、最終的には歯の脱落に至るため、高齢化社会においてQOLを著しく低下させる主因ともなっている。歯の動揺や脱落となる重度慢性歯周炎となると主な治療方法は歯周外科治療しかなく、重症化する前の予防・治療がQOL維持に欠かせない。しかし、軽度慢性歯周炎における歯周治療はかえって症状を悪化させると言われており(非特許文献1)、未病や軽度の内に予防・治療できる方法が求められている。
【0004】
歯周炎を予防したり悪化を抑制する最も重要なポイントはプラークコントロールであり、プラークを取り除くことが歯周病の予防と治療の基本となると考えられてきた。この50年でプラークコントロールの技術は大幅に向上し、また数多くの口腔用殺菌成分が開発され、その結果、齲歯の罹患率は劇的に減少した。
【0005】
一方で、歯周病の代表疾患である慢性歯周炎の罹患率において、1990年と2010年の比較で、世界のどの地域においても減少傾向は認められていない(非特許文献2)。このことは、少なくともプラークコントロールや口腔細菌叢の制御、すなわち悪玉菌の殺菌では慢性歯周炎は予防も治療もできないことを意味しており、慢性歯周炎の根本的予防・治療方法が強く求められている。
【0006】
そもそも、慢性歯周炎の発症、進行のメカニズムは十分に解明されているとは言えないにも関わらず、これまでの予防・治療成分のスクリーニング方法としては、いわゆる歯周病病原菌に対する殺菌力が指標とされてきた。現在までに、歯周病病原菌に対して明らかな殺菌効果を有する殺菌剤があまた開発されてきたにも関わらず慢性歯周炎罹患率が減っていないことは、殺菌が慢性歯周炎の発症機序には直接関係ないことを示唆しており、慢性歯周炎の真のメカニズムの解明が求められてきた。
【0007】
近年この研究において大きな進歩があり、慢性歯周炎は、歯肉組織中に存在する線維芽細胞の中にコラーゲン分解能の高い細胞の比率が増え、その結果歯肉を構成する結合組織の分解が生じることが主因であることが明らかとなった。さらに、慢性歯周炎患者の歯肉から採取された歯周炎関連線維芽細胞(Periodontitis−Associated Fibroblast、PAF)の三次元培養法が確立され、コラーゲン組織の退縮を抑制する成分のスクリーニング方法に関する技術が確立された(非特許文献3〜5、特許文献1)。そして、歯周炎関連線維芽細胞をスクリーニングに用いて、慢性歯周炎のメカニズムに即した予防・治療剤の探索が進められている。
【0008】
本発明者らは、すでにPAFの三次元培養系を用いて生薬をスクリーニングし、コラーゲン分解を阻害する生薬の探索を行っている。その結果、オウゴン、ケイヒ、ブクリョウに特に有効性が認められた。さらに、カンゾウ、サイシン、センキュウ、ボウフウ、リュウタン、オウレン、オンジ、キョウカツ、コウボク、ゴシュユ、ショウキョウ、ショウブコン、センコツ、シンイなどにも有効性が認められたことから、生薬の有効成分を含む新たな予防薬や治療薬の開発の可能性が期待されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−220561号公報
【特許文献2】特開2011−256136号公報
【特許文献3】特開2011−162455号公報
【特許文献4】特開2013−216589号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Badersten, A. et al., 1985, J. Clinical Periodontology, Vol.12,pp.351-359.
【非特許文献2】Kassebaum, N.J. et al., 2014, J. Dent. Res. Vol.93(11),pp.1045-1053.
【非特許文献3】Ohshima, M. et al., 2010, J. Dent. Res., Vol. 89(11), pp.1315-1321.
【非特許文献4】Ohshima, M. et al., 2016, J. Clin. Periodontol., Vol.43, pp.128-137.
【非特許文献5】Horie, M. et al., 2016, Scientific Reports, 6:33666, DOI:10.1038/srep33666.
【非特許文献6】西條 了康、2012年、茶業研究報告、第114号、p.79−88.
【非特許文献7】Ohshima et al., 1994, J. Periodontal Res., Vol.29, pp.421-429.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
慢性歯周炎の予防・治療については、一般的にはプラークコントロール、口腔内細菌(特にいわゆる悪玉菌と言われる細菌)の除菌方法が提案されている。また、令和元年度末には、口腔内フローラを改善する機能性表示食品が消費者庁に登録されている。しかしながら、これらの方法は、齲歯で成功した予防・治療戦略ではあるものの、上述の慢性歯周炎発症のメカニズムに即した予防・治療法ではない。本発明は、慢性歯周炎の主因である歯肉線維芽細胞によるコラーゲン線維の分解による歯肉の退縮の予防、症状の改善、及び治療のための組成物を提供することを課題とする。
【0012】
特許文献2には、慢性歯周炎発症のメカニズムに即した予防薬・治療薬として、多くの生薬が開示されている。これら生薬には種々の成分が含まれており、複数の有効成分があると考えられる。これら生薬に含まれる有効成分を特定することができれば、より強い効果を奏する予防薬、治療薬が得られるだけではなく、歯周炎の起こる作用機序を解明することも可能となる。本発明は生薬に含まれる慢性歯周炎の予防、症状の改善、治療に効果のある有効成分を特定し、さらに効果的な食品、医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の成分を有効成分として含む歯周炎の予防、改善、治療のための口腔用組成物に関する。
(1)フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路におけるいずれかの中間代謝物、又はアルクチゲニンを有効成分として少なくとも1つ以上含む歯周炎の予防、改善、治療のための口腔用組成物。
(2)前記フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路における中間代謝物がケイヒ酸誘導体である(1)に記載の口腔用組成物。
(3)前記ケイヒ酸誘導体がヒドロキシケイヒ酸である(2)に記載の口腔用組成物。
(4)前記ヒドロキシケイヒ酸がクマル酸、クマリン、クロロゲン酸、コーヒー酸、フェルラ酸である(3)に記載の口腔用組成物。
(5)前記フラボノイドがアピゲニン、又はシアニジンであることを特徴とする(1)に記載の口腔用組生物。
(6)(1)〜(5)いずれか1つ記載の前記口腔用組成物を含む保健機能食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品。
(7)前記保健機能食品がサプリメント、飲食品の形態として、前記医薬品、又は医薬部外品がチュアブル剤、トローチ剤、含嗽剤、軟膏剤、フィルム剤、用事調製剤、洗口液又は歯磨剤の形態として、化粧品が歯磨剤の形態として提供される(6)記載の保健機能食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】コラーゲンゲル三次元培養系を用いたケイヒ酸誘導体のコラーゲン分解抑制能に対する効果を解析した結果を示す。
図2】生コーヒー、クロロゲン酸、p-クマル酸添加によるコラーゲンゲル内の細胞の状態を示す顕微鏡像。コントロールはDMSOを添加している。各ゲルのHE染色、シリウスレッド染色による顕微鏡写真を示す。
図3】コーヒー酸、フェルラ酸添加によるコラーゲンゲル内の細胞の状態を示す顕微鏡像。コントロールはDMSOを添加している。各ゲルのHE染色、シリウスレッド染色、抗ビメンチン抗体染色による顕微鏡写真を示す。
図4】コラーゲンゲル三次元培養系を用いたアルクチゲニン、アピゲニン、シアニジンのコラーゲン分解抑制能に対する効果を解析した結果を示す。
図5】アルクチゲニン、アピゲニン、シアニジン添加によるコラーゲンゲル内の細胞の状態を示す顕微鏡像。コントロールはDMSOを添加している。各ゲルのHE染色、シリウスレッド染色による顕微鏡写真を示す。
図6】フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らはコラーゲン分解を抑制する生薬の含有成分を分析し、コラーゲン分解抑制能を有する可能性のある化合物候補の推定を行った。コラーゲン分解を抑制する生薬の中には、ケイヒ、センキュウ、ボウフウ、オウレン、オンジ、キョウカツ、シンイなど、ケイヒ酸誘導体を含有する生薬が認められた。そこで、ケイヒ酸誘導体がコラーゲン分解抑制能を有すると仮定し、最初に検討を行った。
【0016】
以下に詳細に結果を示すが、ケイヒ酸誘導体にコラーゲン分解を抑制する作用が明らかとなった。ケイヒ酸誘導体のうち、特にヒドロキシケイヒ酸、具体的には、p−クマル酸、クロロゲン酸、コーヒー酸、フェルラ酸にコラーゲン分解を抑制する作用があった。また、ここではクマリンの結果は示さないが、クマリンもコラーゲンゲル分解抑制能があることを確認している。クマリンはクマル酸の閉環反応によって生じる化合物であり、クマル酸から容易に変換される化合物である。クマリン自体もコラーゲン分解抑制能があるが、クマル酸が強いコラーゲンゲル分解抑制能を有することや、生体内でクマリンからクマル酸が生じることを鑑みると原材料にクマリンが存在すれば、クマル酸に変換され、コラーゲン分解抑制能を有するものと考えられる。
【0017】
ケイヒ酸誘導体によるコラーゲン分解抑制の機序については明確ではないものの、複数のケイヒ酸誘導体に効果があることから、フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路に存在する中間代謝産物が効果を奏する可能性が考えられた(非特許文献6)。そこで、この代謝経路のケイヒ酸誘導体以外の中間代謝物の一つであり、アントシアニン誘導体であるアピゲニンについて同様の解析を行ったところ、コラーゲン分解抑制能を有することが明らかとなった。フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドを合成する経路には、実際に解析を行ったケイヒ酸誘導体の他にも、ナリンゲニン、ルテオリン、ケンフェロール、ケルセチン、ペラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジン等種々の化合物が存在する(図6参照)。これら化合物がコラーゲン分解抑制能を有するかは詳細に解析を行う必要があるが、構造の類似性を考えると効果を有する可能性が高い。
【0018】
さらに、発明者らは、アルクチゲニンにもコラーゲン分解抑制効果があることを見出した。アルクチゲニンは、リグナンであり、上述の代謝経路に含まれるものではない。しかし、その合成経路であるケイヒ酸モノリグノール経路は、フェニルアラニンを起点としてケイヒ酸、コーヒー酸、フェルラ酸を経て、リグナン合成の起点となるコニフェリルアルコールを合成する経路である。合成経路の一部が、コラーゲン分解抑制効果が見られた多くの中間代謝物を共有していることから、アルクチゲニンについて解析したところコラーゲン分解抑制能を有することが明らかとなった。リグナンに関しては、アルクチゲニンの解析にとどまっているが、コニフェリルアルコールに由来するリグナンは同様の活性が認められる可能性がある。
【0019】
これら化合物は単独で保健機能食品、あるいは医薬用組成物の有効成分として用いることができる。フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路に含まれる中間代謝物、特に、ケイヒ酸誘導体、あるいはフラボノイドであり効果が確認されたアピゲニン、シアニジンを有効成分として混合して用いてもよい。これらの化合物を単独で、あるいは複数の化合物を混合して用いてもよいし、配糖体を用いてもよい。市販のケイヒ酸誘導体含有の抽出物としては、例えば株式会社アクセスワン製の「ピーナッツ種皮エキス」(商品名)、バイオアクティブズジャパン株式会社製の「ガーリックエキス」、オリザ油化株式会社製の「生コーヒー豆エキス−P」(商品名)、バイオアクティブズジャパン株式会社製の「コーヒー豆エキス(クロロゲン酸)」(商品名)、オリザ油化株式会社製の「フェルラ酸」(商品名)、あるいは一丸ファルコス株式会社製の「バイオベネフィティF(アーティチョーク葉エキス)」(商品名)を例示できる。
【0020】
また、これら化合物を多く含む植物の抽出物を用いてもよい。例えば、p−クマル酸はピーナツ、トマト、ニンジン、ニンニク、レモン、オリーブ、タケノコに、クマリンは桜の葉、シナモン、トンカマメ、アンジェリカ、当帰(トウキ)、オレンジに、クロロゲン酸はコーヒー豆、ヨモギ、ナス、クランベリー、食用菊、ヒメウコギ、サツマイモ茎葉に、コーヒー酸はコーヒー豆、オリーブ、ブドウ葉、サツマイモ茎葉、芋焼酎粕、ホウレンソウ、アーティチョーク、ナツメヤシ種子、シソ抽出物、甜茶抽出物、イチョウ抽出物、ナス、ゴボウに、フェルラ酸は米、小麦、ライ麦、大麦、大豆、小豆、トウモロコシ、ゴマ、コーヒー豆、リンゴ、アーティチョーク、ピーナッツ、オレンジ、パイナップル、ネギ、月見草、ホホバ、ワイン、ホウレンソウ、タケノコ、ナツメヤシ種子に、多く含まれることが知られている。また、アピゲニンは、グァバ、ニンニク、セロリ、パセリ、クマツヅラに、アルクチゲニンは、ゴボウ、特にその種子、及びスプラウト、茶葉として使用されているレンギョウ属の植物に多く含まれることが知られている。したがって、これら植物やその加工品の抽出物を使用してもよい。
【0021】
アピゲニンはアントシアニン誘導体であるが、市販のアントシアニン誘導体含有の抽出物としては、例えば興新物産株式会社製の「ブラックベリーエキス末」(商品名)、あるいはオリザ油化株式会社製の「黒米エキス−P」(商品名)や「マキベリーエキス−P35」(商品名)、あるいはBGG Japan株式会社製の「アロニアエキスパウダー」(商品名)、あるいは海佑商事株式会社製の「エルダーベリーエキス30.5%」(商品名)、あるいは株式会社ニュートネクス製の「ビルベリーエキス末(25%品)」(商品名)、あるいは松浦薬業株式会社製の「カシスエキスパウダー」(商品名)を例示できる。
【0022】
本発明の口腔用組成物は、より高い効果を期待してケイヒ酸誘導体含有の抽出物とアントシアニン類含有の抽出物を組み合せて、さらに今までに本願発明者らがコラーゲン分解抑制能によるスクリーニングで見出したホスホジエステラーゼ阻害剤(特許文献3)、チロシンキナーゼ阻害剤(特許文献4)など、他の有効成分を混合することもできる。また、慢性歯周炎に有効性が認められるとの報告がある有効成分を添加してもよい。そのような有効成分としては、乳酸菌などのプロバイオティクス、CoQ10、アスタキサンチン、イソフラボン、プロタミン分解産物、糖アルコール、ウーロン茶などに含まれる茶ポリフェノール、甘草ポリフェノール、ワサビ微量揮発成分、ユーカリ抽出物、ゲッケイジュ葉抽出物、ポリグルタミン酸、クマザサ葉抽出液などが挙げられる。複数の有効成分を組み合わせることにより、相加的、相乗的な効果を期待することができる。
【0023】
コラーゲン分解抑制能を有する化合物は、具体的な区分として、保健機能食品、健康食品(サプリメント)、医薬部外品、医薬品、化粧品として用いることができる。特に、未病や軽度の歯周炎の段階から継続的に使用できるオーラルケア製品、あるいは保健機能食品、機能性表示食品、健康食品などの飲食品(飲料、食品)形態として使用することが好ましい。保健機能食品とは、我が国の制度における特定保健用食品、栄養機能食品を言い、機能性表示食品とは、事業者自らが科学的根拠を基にその機能を表示する食品を言い、さらに、そのいずれにも属さない、いわゆる健康食品、サプリメントがある。いずれの区分であっても継続的に使用できるような形態であることが望ましい。また、医薬品、医薬部外品として、さらに歯磨剤などの化粧品の成分としても使用することができる。
【0024】
本発明の口腔用組成物を歯周用サプリメントや健康食品として用いる場合、対象とする未病又は前駆病変は、歯周のコラーゲン分解が原因の一つと考えられるのであれば特に限定されない。対象となる歯肉は、歯肉の発赤、歯肉の腫脹も無く、又歯周ポケットの深さが3 mm以内でプロービング時の出血(BOP)を認めない症状で明らかな口臭も感じられない状態が好ましい。このような未病、前駆症状の段階であれば、歯周炎の罹患を抑制することができ、前駆病変や軽度歯周炎であれば、歯周炎の進行を遅らせ、歯の動揺や脱落といった著しくQOLを低下させる症状への進行を抑制する。
【0025】
サプリメントは健康食品の一形態であり、特定の成分が濃縮されており、通常の食品と紛らわしくない形状のものと考えることができる。本発明の口腔用組成物がサプリメントの形態をとる場合は、特に限定されないが、顆粒剤、錠剤、ソフトカプセル、チュアブル剤、フィルム剤、トローチ剤、液剤、含嗽剤、飴、ガム、あるいはグミ等の剤型が例示できる。また、本発明に係るサプリメントは、保存剤、賦形剤、緩衝剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤などの製剤上許容される担体又は添加剤をさらに含んでよい。また、歯周用サプリメントとして用いる場合、口腔内が清浄な状態で摂取することが望ましく、歯磨きや含嗽剤で口腔をすすぎ洗った後の摂取が特に好ましい。
【0026】
実施形態が保健機能食品である場合、当該食品は有効成分としてケイヒ酸誘導体、あるいはこれを多く含む植物等から得られた抽出物、濃縮エキス、乾燥エキス(スプレードライ、フリーズドライなど)を含むことができる。保健機能食品の具体的な形態としては、ガム、飴、グミ等のように、口腔内に長時間留まる食品であって、長期保存できるものが好ましい。また、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料などの液体食品のように、摂取回数の多い食品形態であることが好ましいがこれらに限定されることはない。
【0027】
本実施形態の組成物を医薬品又は医薬部外品として治療に用いる場合に、対象とする疾患は、歯周のコラーゲン分解が原因の一つと考えられるのであれば特に限定されないが、慢性歯周炎、特に慢性化して歯肉退縮が重篤化していく慢性歯周炎が好ましい。また、投与方法としては、塗布、注射、内服、歯周ポケット内注入などの方法によることができる。特に、本発明に係る医薬は、経口用又は口腔用であることが好ましい。本発明に係る医薬品は、錠剤、カプセル剤、チュアブル剤、トローチ剤、ゲル剤、フィルム剤、用事調製剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、徐放性製剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤、液剤、軟膏剤、貼付剤、含嗽剤、スプレー剤等の剤型でありうるが、これに限定されない。また、本発明に係る医薬品は、保存剤、賦形剤、緩衝剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤などの製薬上許容される担体又は添加剤をさらに含んでよい。
【0028】
また、医薬部外品、化粧品として、予防、あるいは軽度の歯周炎の治療に用いる組成物の具体的な製品形態としては、歯磨剤、液体ハミガキ、歯肉マッサージ用ジェル、洗口液(マウスウォッシュ)など、オーラルケアに使用する製品形態とすることができる。医薬部外品、化粧品に分類される予防用、あるいは軽度の歯周炎の治療用組成物の製品形態の場合であっても、担体又は添加剤を含むことができるのは言うまでもない。
【0029】
本発明の口腔用組成物が含有する、ケイヒ酸誘導体、例えば、クロロゲン酸、p-クマル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、あるいはこれらの薬学的に許容される塩あるいは配糖体、さらに、フラボノイドであるアピゲニンやシアニジン、又はアルクチゲニンは、特に限定されないが、1日あたりの配合量として、1〜2000mg/dayであり、5〜1000mg/dayであることが好ましく、10〜200mg/dayであることがより好ましい。あるいは、これら成分を多く含む植物抽出物、又はそれ由来の成分として、例えばクロロゲン酸であれば、コーヒー豆エキス等の植物抽出物又はそれ由来の成分として、1日あたりの配合量として、上記と同程度の配合量を含むことができる。またこれらの成分は単独で含有しても良いし、特に限定されないが複数成分を組合せて含有しても良い。
【0030】
また、本発明の歯周炎の予防、改善、治療のための組成物は未病や軽度の歯周炎を対象とする。ここで、慢性歯周炎とは、歯周ポケット(PPD)4 mm超、あるいは2018年のアメリカ歯周病学会・ヨーロッパ歯周病連盟による歯周病新分類の定義するステージI以上と定義されるが、慢性歯周炎の未病状態の定義にはグレーゾーンがあり、未病と疾患の境界は必ずしも明瞭ではない。本願で言うところの未病とは、一般的に歯周炎治療が行われない歯周ポケット3 mm未満、あるいはステージIより軽度であり臨床的アタッチメントレベル(CAL)1 mm未満の状態と考えるが、言い方を替えれば、何らかの処置により健常状態に戻すことができる可逆的な症状を慢性歯周炎の未病状態と呼ぶ。
【0031】
すなわち、歯肉炎の段階では、歯周ポケットはアタッチメントロスのない仮性ポケットであり、臨床的ポケット深さ(PPD)は1〜3 mmである。また、歯肉炎の段階では、歯肉の軽度の炎症や歯周ポケットからプロービング時に出血(BPD)が認められる。これらのうち歯肉炎から進行する歯周炎に対して本発明は有効であり、歯肉炎から慢性歯周炎への進行を抑止し、歯肉を健康な状態に近づける可能性がある。
【0032】
軽度歯周炎の段階では、アタッチメントロスが生じ歯周ポケットは真性ポケットとなることで、臨床的ポケット深さは3 mmを超える。また、歯周炎の段階では、歯肉の炎症やBOPが見られ、骨吸収が生じ始める。この歯周炎の悪化を抑制しなければ、さらに症状が進行し、歯が動揺・脱落するに至り、著しいQOLの低下を招く。本発明は、軽度歯周炎で生じたアタッチメントロスを回復することまではできないものの、コラーゲン分解を抑制することから、歯周炎の状態の進行を抑制、あるいは遅らせて、QOLの低下を抑止することができる。
【0033】
また本願で言うところの予防とは、慢性歯周炎と確定診断されないように未病状態を維持したり、健常状態に近づけると定義され、例えば歯周ポケットが3 mm未満であるものの徐々に深くなっていることが懸念される状態とか、慢性歯周炎とは言えないが放置しておくと慢性歯周炎の確定診断に至る恐れがある状態を確定診断に至らない状態で維持するか、健常な元の状態に近づけていくことを予防と定義する。
【0034】
[実施例]コラーゲンゲル三次元培養系による検討
以下に結果を示しながら、本発明について説明する。
1.細胞の調製
コラーゲンゲル三次元培養技術によって、歯周組織より得られた線維芽細胞及び上皮細胞を用いて解析を行った。歯周炎治療のための外科手術または歯周外科手術の際に切除され、不要となった歯肉片を結合組織と上皮組織に分離し細切する。上皮組織片は、ディスパーゼ処理後組織片をプレートに静置し、組織片から外生した歯肉上皮細胞を第1代として継代培養を行った(非特許文献7)。同様に、歯肉結合組織を細切後、組織片をプレートに静置し、それぞれの組織片から外生した線維芽細胞を第一代として継代培養を行った。同一検体から複数の細胞群を得た。継代培養をした歯肉上皮細胞並びに歯肉線維芽細胞を用いてコラーゲンゲルを構築し解析に用いた。結合組織から得た細胞群の中から、コラーゲンゲル三次元培養によるスクリーニングを行い、コラーゲン分解能の高い線維芽細胞を得た。
【0035】
2.コラーゲンゲルの構築
セルマトリックスtype−A(新田ゼラチン)、5×DMEM、再構成用緩衝液(新田ゼラチン)、及びケイヒ酸誘導体等の被験物質、又はコントロールとして溶媒であるDMSOを混合し、コラーゲン混合溶液を作製した。このコラーゲン混合溶液に、歯周炎由来の線維芽細胞を懸濁した後、6穴プレートで30分間ゾルをゲル化させ、歯周炎由来線維芽細胞を含むコラーゲンゲルを構築した。次に、コラーゲンゲル上に、上記で調製した上皮細胞をトリプシンで分散させた後に播種し、上皮細胞層を形成させ、三次元コラーゲンゲルを作製した。
【0036】
3.コラーゲンゲル収縮の観察
上皮細胞、歯周炎由来線維芽細胞を含むコラーゲンゲルをコラーゲンゲル構築24時間後(培養1日目)にプレートの底からコラーゲンゲルを浮かせ、浮遊培養を開始する。浮遊培養開始時に、前日に播種した上皮細胞の容量に合わせて、被験物質の濃度が適正になるように、被検物質、又は溶媒を再度培養液に添加した。5日〜7日程度浮遊培養を行いコラーゲンゲルの収縮レベルを観察し、被験物質がコラーゲン分解能を抑制するか解析を行った。
【0037】
コラーゲンゲルによる三次元培養解析の前に、二次元培養線維芽細胞を用いて、添加する化合物の細胞毒性を検討した。添加する化合物としては、生薬に含まれているケイヒ酸誘導体、及び類似の構造を有するケイヒ酸誘導体であるフェルラ酸、また、ケイヒ酸誘導体であるp-クマル酸、クロロゲン酸、コーヒー酸について解析を行った。さらに、コーヒー酸を多く含む生コーヒー豆抽出物(生コーヒー豆エキス−P(商品名、オリザ油化株式会社))についても解析を行った。生コーヒー豆抽出物は、コ−ヒ−豆すなわちアカネ科コーヒーノキ(Coffea canephora)の種子から含水エタノールで抽出して得られた粉末である。本品を定量すると、クロロゲン酸を24.0%以上、クロロゲン酸類を45.0%以上含む、水溶性抽出物である。
【0038】
いずれの化合物もDMSOに溶解し、1/1000容量を上限として培地に添加して解析を行った。少なくとも、生コーヒー豆抽出物は200μg/ml、コーヒー酸は20μM、フェルラ酸は100μM、クロロゲン酸は20μg/ml、p-クマル酸は300μg/mlまで細胞毒性は認められなかった。
【0039】
そこで、細胞毒性のない濃度範囲で各化合物を添加した三次元コラーゲンゲルを用いてコラーゲンゲルの収縮レベルを観察し、PAFのコラーゲン分解能を抑制するか観察を行った。各化合物とコントロールのペアは、それぞれ同一の患者由来の細胞を用いた結果を示している。いずれの化合物もPAFのコラーゲンゲル分解能を抑制することが示された(図1)。いずれのケイヒ酸誘導体、またケイヒ酸誘導体を含む生コーヒー豆抽出物も、コラーゲンゲル分解を抑制することを示している。特に、フェルラ酸とp-クマル酸は顕著な抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0040】
コラーゲンゲル三次元培養解析後のゲルを常法によりホルマリン固定し薄切後、生コーヒー豆抽出物、クロロゲン酸、p-クマル酸を添加した群では、HE染色、シリウスレッド染色(図2)、コーヒー酸、フェルラ酸を添加した群ではHE染色、シリウスレッド染色に加えて抗ビメンチン抗体染色により細胞の状態を観察した(図3)。HE染色の結果からは、コラーゲンゲル内の細胞が、シリウスレッド染色はコラーゲン線維の配向、抗ビメンチン抗体による免疫染色はビメンチンが構成する線維芽細胞の細胞骨格を観察することができる。
【0041】
生コーヒー豆抽出物、クロロゲン酸を添加した場合には、固定のために空気に曝露すると、上皮細胞が中央に寄り、コラーゲンゲルがその周囲に薄く広がる傾向が見られた。生コーヒー豆抽出物、クロロゲン酸ともに培養時にはコラーゲンゲル分解抑制効果が認められるものの、固定を行う際の空気曝露によってコラーゲン分解が進むものと考えられる。顕微鏡像においても、クロロゲン酸、生コーヒー豆抽出物を添加したゲルでは空隙が認められる。しかし、コントロールでは、HE染色、シリウスレッド染色どちらの染色像でも空隙が目立つのに対し、生コーヒー豆抽出物は、コントロールと比較して明らかに空隙が少なく、コラーゲン分解を抑制していることが示された。また、クロロゲン酸を添加したゲルは、浮遊培養の状態では明らかにコラーゲン分解を抑制していたが、顕微鏡像では空隙が認められるもののコントロールと比較するとその数は少なかった(図2)。クロロゲン酸、生コーヒー豆抽出物を添加した場合には、空気曝露によってゲルの状態が変わることから、この変化は、空気に曝露されることによる抗酸化作用の消失などが原因と推測される。クロロゲン酸、生コーヒー豆抽出物を用いる場合には、抗酸化剤等の添加によってコラーゲン分解をさらに抑制できるものと考えられる。
【0042】
一方、p-クマル酸を添加したゲルでは、図1に示したように、細胞に対するダメージも全くなく、顕著なコラーゲン分解抑制能が認められた。また、図2に示すように、HE染色でもゲル内に空隙がなく、また、シリウスレッド染色においてもコラーゲン線維のきれいな配向が認められた。
【0043】
コーヒー酸は、図1で示したように、コラーゲンゲルゲル三次元培養を用いた解析においては弱いコラーゲン分解抑制が認められた。HE染色、シリウスレッド染色、抗ビメンチン抗体による免疫染色でもそれを裏付けるように、コントロールと比較して、空隙の抑制、コラーゲン分解の抑制、細胞骨格の維持が認められた(図3)。フェルラ酸は添加によって、コラーゲン分解能の顕著な抑制が認められたが(図1)、コラーゲン線維、また、ビメンチンを含む細胞骨格もコントロールと比較して維持されているのが認められた(図3)。
【0044】
以上の結果から、ケイヒ酸誘導体、特にクマル酸とフェルラ酸に強いコラーゲン分解抑制作用が認められた。複数のケイヒ酸誘導体にコラーゲン分解抑制作用があることから、フェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路に存在する中間代謝産物が効果を奏する可能性を考え(図6参照)、この代謝経路のケイヒ酸誘導体以外の中間代謝物の一つであり、アピゲニンについて同様の解析を行った。以下に結果を示すが、アピゲニンは高いコラーゲン分解阻害効果を示したことから、類似の構造を有するアントシアニン誘導体であるシアニジンについても解析を行った。また、フェニルアラニンを起点としてケイヒ酸、コーヒー酸、フェルラ酸を経て、リグナン合成の起点となるコニフェリルアルコールを合成する経路の一部が、コラーゲン分解抑制効果が見られた多くの中間代謝物を共有していることから、アルクチゲニンについても解析を行った。
【0045】
アルクチゲニン、アピゲニン、シアニジンのコラーゲンゲル分解能を確認した。まず、アルクチゲニン、アピゲニン、シアニジンを2次元で培養した線維芽細胞を用いて、細胞毒性を確認した。その後、細胞毒性の無い範囲でコラーゲンゲル三次元培養を行い解析した。アルクチゲニンは100μg/ml、アピゲニンは10μg/ml、シアニジンは20μg/mlの濃度になるように各化合物を添加した三次元コラーゲンゲルを用いてコラーゲンゲルの収縮レベルを観察し、化合物がPAFのコラーゲン分解能を阻害するか観察を行った。なお、アルクチゲニン、アピゲニンはDMSOに、シアニジンはエタノールに溶解して用いた。エタノールもDMSO同様、1/1000容量を上限として培地に添加して解析を行った。コントロールはDMSOを添加したゲルを示している。結果を図4に示す。
【0046】
図4上段はホルマリン固定後の、下段は固定前の細胞の状態を示している。アルクチゲニン、アピゲニンは顕著なコラーゲン分解阻害効果が認められた。シアニジンはコントロールと比べて、若干収縮の程度が弱く、弱いコラーゲン分解阻害効果を有している可能性があった。
【0047】
さらに、コラーゲンゲル三次元培養解析後のゲルを常法によりホルマリン固定し薄切後、HE染色、シリウスレッド染色を行った(図5)。シリウスレッド染色の結果は、アルクチゲニン、又はアピゲニンを作用させたゲルでは、コラーゲン線維がきれいに配向していることが観察され、これらの化合物にコラーゲン分解阻害効果があることが認められた。また、シアニジンを添加したゲルでは細胞の周囲の空胞の減少が見られることから、弱いコラーゲン分解抑制効果を備えているものと考えられる。
【0048】
図6はフェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路を示している。起点となるフェニルアラニン、及び解析した化合物を構造式で示しているが、ケイヒ酸誘導体であるp-クマル酸、コーヒー酸、クロロゲン酸、フェルラ酸と、p-クマル酸からナリンゲニンを経て合成されるフラボノイドであるアピゲニン、シアニジンにコラーゲン分解阻害効果が認められた。代謝経路が関与しているとすれば、ここでは解析を行うことができなかった、図6に示した他の化合物、例えば、ナリンゲニン、ルテオリン、ケンフェロール、ケルセチン、ペラルゴニジン、デルフィニジン等もコラーゲン分解阻害効果を有する可能性が高い。また、アルクチゲニンにもコラーゲン分解阻害効果が認められたことから、フェルラ酸からコニフェリルアルコールを経てリグナンが合成される経路の中間代謝物も活性がある可能性が高い。
【0049】
コラーゲンゲル三次元培養を用いた解析系は、生体の歯周炎発症モデルであることから、ケイヒ酸誘導体をはじめとするフェニルアラニンからフェニルプロパノイドを経由してフラボノイドに至る代謝経路に存在する化合物、あるいはアルクチゲニンを歯周炎患部に作用させることで、歯周炎の治療を行うことができると考えられる。歯周炎発症メカニズムに即したケイヒ酸誘導体やフラボノイド、アルクチゲニンを含む口腔用組成物は、特に、組織中のコラーゲン分解がさほど進行していない軽度の歯周炎の治療や、歯周炎の予防に有効であると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6