【解決手段】本発明の排煙処理材は、リン酸二水素カルシウムの粉末と、水酸化カルシウムの粉末とを含み、前記リン酸二水素カルシウムのレーザー回折散乱式測定により測定した体積基準累積50%粒子径D
が180μm未満である。また本発明は、前記排煙処理材と、酸性ガス及び重金属を含む排煙とを接触させて、該排煙中の酸性ガス及び重金属を処理する排煙の処理方法も提供する。
酸性ガス及び重金属類含有固体成分を含む排煙と、水酸化カルシウムの粉末とを接触させ、然る後に、前記固体成分と、リン酸二水素カルシウムとを接触させる工程を備え、
前記リン酸二水素カルシウムは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した体積基準累積50%粒子径D50が180μm未満である、排煙の処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の説明では、「X〜Y[Z]」(X及びYは任意の数字であり、[Z]は単位である。)と記載した場合、特に断らない限り「X[Z]以上Y[Z]以下」を意味する。
【0015】
本発明の排煙処理材は、リン酸二水素カルシウムと、水酸化カルシウムとを含むものである。リン酸二水素カルシウム及び水酸化カルシウムは、運搬時及び使用時における取り扱い性を高める観点から、その性状が、それぞれ独立して、好ましくは粉末状である。また運搬時及び使用時における取り扱い性を高める観点から、本発明の排煙処理材は、粉末状の混合物であることも好ましい。本発明における粉末とは、粒子の集合体を指す。
以下の説明では、排煙処理材の好適な態様として、リン酸二水素カルシウムの粉末と、水酸化カルシウムの粉末とを含む混合物である態様を例にとり説明する。
【0016】
排煙処理材は、リン酸二水素カルシウムを含む。リン酸二水素カルシウムは、典型的には、リン酸に炭酸カルシウムや水酸化カルシウムを添加して製造され、肥料や家畜飼料添加剤、醸造用発酵助剤として用いられる。リン酸二水素カルシウムは、その用途に応じて粉状や顆粒状の製品が使用されている。本発明においては、排煙中の飛灰に主に含まれるヒ素、六価クロム、鉛、及びセレン等の重金属類を不溶化するために用いられる。本発明の排煙処理材に含まれるリン酸二水素カルシウムは、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
【0017】
排煙処理材に含有されるリン酸二水素カルシウムの粉末は、該粉末を構成する粒子の粒子径に特徴の一つを有している。本発明者は、検討の結果、意外にも、粒子径を所定の範囲に制御したリン酸二水素カルシウムを水酸化カルシウムとともに用いることによって、排煙中の鉛等の重金属類を不溶化しつつ、酸性ガスを中和して、これらの環境中への排出を抑制できることを見出した。これに加えて、排煙の処理にあたり、カルシウム化合物単独又はリン酸化合物単独で使用した場合の使用量と同等又はそれ以下の使用量で、埋立判定基準値及び大気汚染防止法の排出基準値を満たすように排煙を処理できることも見出した。
【0018】
詳細には、リン酸二水素カルシウムの粉末は、該粉末を構成する粒子の粒子径が、好ましくは180μm未満、より好ましくは3〜100μm、更に好ましくは3〜40μmである。このような粒子径を有していることによって、排煙中の鉛等の重金属類の不溶化性能を高めて、排煙や排煙中の飛灰を効率よく不溶化処理することができる。特に、排煙処理材を煙道等に直接吹き込んで使用する等の乾式法によって排煙処理を行う際に、重金属類の不溶化性能を高められる点で有利である。リン酸二水素カルシウムの粒子径は、例えば粉砕機による粉砕処理や、解砕処理、あるいはふるい分け等の処理を行って適宜調整してもよい。
【0019】
リン酸二水素カルシウムの粒子径は、例えば以下の方法で測定することができる。まず、循環経路内をエタノール(屈折率1.36、25℃)で満たしたレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT−3000EXII)に測定対象のサンプルを投入し、装置内蔵の超音波分散装置で40Wの超音波を3分間照射し、分散液を得て粒度分布を測定する。得られた体積基準粒度分布のチャートから、体積基準累積50%粒子径D
50を得る。このようにして得られたD
50を本発明の粒子径とする。上述した測定装置において、粒子情報の設定は、屈折率:1.63(25℃)、形状:非球形、透過/非透過の別:透過、とする。
【0020】
排煙処理材は、水酸化カルシウムを含む。水酸化カルシウムは、塩化水素(HCl)、一酸化硫黄、二酸化硫黄や三酸化硫黄等の硫黄酸化物(SOx)、並びに一酸化窒素や二酸化窒素等の窒素酸化物(NOx)などを含む酸性ガスの中和処理に主に用いられる。本発明の排煙処理材に含まれる水酸化カルシウムは、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
【0021】
水酸化カルシウムの粉末は、該粉末を構成する粒子の粒子径が、好ましくは1〜20μm、より好ましくは1〜10μm、更に好ましくは1〜8μmである。このような粒子径を有していることによって、酸性ガスとの接触効率を高めて、酸性ガスの種類によらず酸性ガスを効率よく中和処理することができる。水酸化カルシウムの粒子径は、例えば粉砕機による粉砕処理や、解砕処理、あるいはふるい分け等の処理を行って適宜調整してもよい。
【0022】
水酸化カルシウムの粒子の粒子径は、例えば以下の方法で測定することができる。まず、循環経路内をエタノール(屈折率1.36、25℃)で満たしたレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT−3000EXII)に測定対象のサンプルを投入し、装置内蔵の超音波分散装置で40Wの超音波を3分間照射し、分散液を得て粒度分布を測定する。得られた体積基準粒度分布のチャートから、体積基準累積50%粒子径D
50を得る。このようにして得られたD
50を本発明の粒子径とする。上述した測定装置において、粒子情報の設定は、屈折率:1.57(25℃)、形状:非球形、透過/非透過の別:透過、とする。
【0023】
水酸化カルシウムの粉末は、該粉末を構成する粒子のBET比表面積が、好ましくは30m
2/g以上、より好ましくは30〜60m
2/g、更に好ましくは35〜55m
2/g、一層好ましくは40〜50m
2/gである。このような比表面積を有していることによって、酸性ガスとの接触効率を高めて、酸性ガスの種類によらず酸性ガスを効率よく中和処理することができる。酸性ガスの処理効率は、BET比表面積に加えて、上述した粒子径を好適な範囲とすることによって、より顕著となる。また、上述したBET比表面積を有する水酸化カルシウム粉末を用いることは、排煙処理材を煙道等に吹き込んで使用する等の乾式法によって排煙処理を行う際に、酸性ガスの中和処理効率を高められる点で有利である。
BET比表面積は、例えばJIS Z8830の規定に従い、BET一点法により測定することができる。このようなBET比表面積を有する水酸化カルシウムの粉末は、例えば、市販品を用いてもよく、あるいは、特開2005−350343号公報や特開2008−290940号公報に記載の方法によって得ることができる。
【0024】
また水酸化カルシウムの粉末は、該粉末を構成する粒子が細孔を有していることが好ましく、特定の細孔容積を有していることが更に好ましい。詳細には、水酸化カルシウムの粉末の20〜1000Åの細孔径範囲における全細孔容積が、好ましくは0.10〜0.30mL/g、より好ましくは0.15〜0.25mL/g、更に好ましくは0.20〜0.25mL/gである。水酸化カルシウムの粒子が細孔を有し、且つ上述の細孔容積の範囲であることによって、酸性ガスを細孔内に多く吸着させて、酸性ガスの種類によらず酸性ガスを更に効率的に中和処理することができる。酸性ガスの処理効率は、細孔容積の好適な範囲に加えて、上述した粒子径及びBET比表面積を好適な範囲とすることによって、より顕著となる。また、上述した細孔容積を有する水酸化カルシウム粉末を用いることは、排煙処理材を煙道等に吹き込んで使用する等の乾式法によって排煙処理を行う際に有利である。
このような細孔及び細孔容積を有する水酸化カルシウムの粉末は、例えば、市販品を用いてもよく、あるいは、特開2005−350343号公報や特開2008−290940号公報に記載の方法によって得ることができる。
【0025】
水酸化カルシウムの粉末における細孔容積は、例えばBJH法で測定することができる。具体的な手順は以下のとおりである。すなわち、前処理として、測定対象のサンプルを加熱処理温度105℃で8時間の真空脱気処理を行ったあと、測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、Belsorp−max)を用いて、液体窒素温度における窒素がサンプルから脱離するときの相対圧と、窒素吸着量との関係である脱着等温線を得る。そして、BJH法にて、脱着等温線から20〜1000Åの細孔径範囲における全細孔容積(mL/g)を算出する。
【0026】
水酸化カルシウムの粉末における見かけ比重は、ゆるみ比重において、好ましくは0.20〜0.50g/cm
3、更に好ましくは0.25〜0.45g/cm
3である。また、固め比重において、好ましくは0.40〜0.70g/cm
3、更に好ましくは0.45〜0.68g/cm
3である。このような比重を有していることによって、排煙処理材を煙道等に吹き込んで使用する等の乾式法によって排煙処理を効率的に行うことができる。
見かけ比重におけるゆるみ比重及び固め比重は、例えばJIS Z8807「固体の密度及び比重の測定方法」に準じて測定することができる。このような見かけ比重を有する水酸化カルシウムの粉末は、例えば、特開2002−255597号公報に記載の方法によって得ることができる。
【0027】
排煙処理材におけるリン酸二水素カルシウムの含有割合は、無水物換算で、好ましくは5質量%以上50質量%未満、より好ましくは15〜40質量%、更に好ましくは25〜35質量%である。このような含有割合となっていることによって、排煙中の鉛等の重金属類の不溶化性能を十分に発揮させることができる。
【0028】
また、排煙処理材における水酸化カルシウムの含有割合は、無水物換算で、好ましくは50質量%以上95質量%未満、より好ましくは60〜85質量%、更に好ましくは65〜75質量%である。このような含有割合となっていることによって、排煙中の酸化ガスの処理性能を十分に発揮させることができる。
特に、排煙処理材におけるリン酸二水素カルシウムの含有割合と、水酸化カルシウムの含有割合との双方を上述した範囲に設定することによって、排煙中の鉛等の重金属類の不溶化性能及び酸化ガスの処理性能を高いレベルでバランスよく発揮させることができる点で有利である。
【0029】
本発明の排煙処理材は、水酸化カルシウムとリン酸二水素カルシウムとのみから構成されていてもよい。あるいは、本発明の効果が奏される限りにおいて、排煙処理材は、添加材を更に含んでいてもよい。前者の場合、排煙処理材は、添加材を非含有とする。
【0030】
添加材としては、例えば、活性炭、活性白土、ゼオライトなどの多孔性物質、オルトケイ酸及びメタケイ酸等のケイ酸の金属塩等の少なくとも一種を用いることができる。多孔性物質等の添加材を更に含むことによって、酸性ガスの除去及び重金属の不溶化を両立して達成でき、環境基準に適合した排煙を大気中に排出することができる。また、ケイ酸塩等を含むことによって、重金属の不溶化性能を更に高めることができる。
各種添加材の性状は、それぞれ独立して、粉末状であってもよく、あるいは水等の溶媒に溶解又は分散させた液状又はスラリー状であってもよい。
各種添加材の添加の有無及び混合量については、予備的試験を行って、その結果に基づいて決定することが好ましい。
【0031】
本発明の排煙処理材は、例えば、必要に応じて、リン酸二水素カルシウム及び水酸化カルシウムの両粉末のうち少なくとも一方に対して、粉砕や解砕などの粒径制御処理をあらかじめ行ったあと、リン酸二水素カルシウムの粉末と、水酸化カルシウムの粉末とを混合することによって製造することができる。両粉末を混合するための装置は、当該技術分野で通常用いられる混合装置を用いることができ、例えば、リボンミキサー、パドルミキサー、ナウターミキサーなどを用いることができる。
【0032】
本発明の排煙処理材は、該排煙処理材と、排煙とを接触させて排煙を処理する方法に供することができる。本方法は、酸性ガス及び重金属類を含有する排煙に対して排煙処理材を接触させて、排煙中の酸性ガス及び重金属類の双方を好適に中和及び不溶化処理することができる。典型的には、排煙は、酸性ガスなどを含む気体のみであるか、又は該気体と、飛灰等の微粒子状の固体成分とを含む混合物である。このような排煙は、例えば、都市ごみ焼却場、産業廃棄物焼却場、あるいは、石炭を燃料とする火力発電所等で発生する。排煙中の重金属類は、主に飛灰等の固体成分に含まれており、ヒ素、六価クロム、鉛及びセレンの少なくとも一種の重金属であり、好ましくは重金属として鉛を少なくとも含む。
【0033】
排煙処理材と排煙との接触方法は、例えば、排煙処理材を収容した容器に排煙を通過させたり、排煙の流路(煙道)に排煙処理材を吹き込んだりすることによって行うことができる。排煙処理に用いられる排煙処理材の性状は、粉末であってもよく、分散液又は溶液であってもよい。排煙処理後の気体以外の残存物の体積増加を防止する観点、使用した排煙処理材の回収効率を高める観点、及び酸性ガス及び重金属類の処理効率の向上の観点から、排煙処理に用いられる排煙処理材の性状は、好ましくは粉末である。
【0034】
排煙1m
3当たりの排煙処理材の添加量は、焼却場や火力発電所における焼却対象物の種類や処理量に応じて適宜変更可能であるが、排煙中の酸性ガス及び重金属類の効率的な処理と、処理コストの低減とを両立する観点から、好ましくは5〜200g/m
3であり、より好ましくは10〜100g/m
3であり、更に好ましくは30〜90g/m
3である。排煙の体積は、0℃、1気圧での値とする。
【0035】
また、飛灰の質量に対する、排煙処理材におけるリン酸二水素カルシウムの質量割合は、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは1〜20質量%であり、更に好ましくは1〜10質量%である。このような比率となるように添加割合を調整することによって、飛灰中の鉛等の重金属類の不溶化を一層効率よく達成することができる。
【0036】
以下に、本発明の排煙処理材を用いた排煙の処理方法の一例について、
図1を参照して説明する。
図1には、ごみ焼却場の設備に関する模式図が示されている。本方法は、排煙処理材の粉末を排煙の流路に直接吹き込む乾式法を採用することが好ましい。
図1中、矢印は、排煙、排ガス及び排煙処理材の流通方向を示す。
【0037】
ごみ焼却場10の設備として、典型的には、収集車によって収集された都市ごみや産業廃棄物(以下、これらを単に「ごみ」ともいう。)を蓄積するためのごみピット20、ごみピット20に蓄積されたごみを焼却する焼却炉30、焼却炉30でのごみ焼却によって生じた高温の排煙から熱を回収する廃熱ボイラー40、排煙を冷却するための冷却塔50、冷却された排煙中の飛灰を集塵するためのバグフィルタ等の集塵設備60、及び集塵後の排煙を大気中へ排出する煙突70を備える。焼却炉30と廃熱ボイラー40との間、廃熱ボイラー40と冷却塔50との間、冷却塔50と集塵設備60との間、並びに集塵設備60と煙突70との間は、第1流路11、第2流路12、第3流路13及び第4流路14によってそれぞれ接続されており、これらの内部に排煙が流通可能なようにそれぞれ連通している。
これに加えて、排煙処理材と排煙とが接触できるように構成された処理材供給部100を備えている。
図1に示す処理材供給部100は第3流路13と連通しており、第3流路13内に対して排煙処理材を吹き込むことによって、排煙処理材と、第3流路13内に流通する排煙とが互いに接触できるように構成されている。
【0038】
ごみ焼却場10においては、まず、ごみピット20に蓄積されたごみをクレーン等の移送設備を用いて空気とともに焼却炉30に供給し、ごみを焼却処理する。焼却炉30では、約800〜1000℃程度で焼却処理が行われており、ごみの焼却に伴って、主灰と、高温の排煙が発生する。主灰は別途集積され、最終処分場にて処分されたり、他の製品の原材料として再利用されたりする。また、発生した排煙には、ごみの原料に起因して、酸性ガスや、鉛等の重金属類や塩化物、ケイ素化合物等を含む飛灰が含まれている。高温の排煙は、第1流路11、廃熱ボイラー40、第2流路12及び冷却塔50を通過して、300℃程度に急速冷却される。冷却後の排煙には、気体成分である酸性ガスや、固体成分として該ガスとともに飛散した飛灰等が含まれている。冷却後の排煙は、第3流路13側に流通する。
【0039】
次いで、排煙処理材と冷却後の排煙とを接触させる。接触方法は、水酸化カルシウム粉末を排煙流路内に予め保持しておき、粉末に排煙を通過させる方法であってもよく、排煙流路内に水酸化カルシウム粉末を吹き込む方法であってもよい。これらのうち、排煙が流通している第3流路13内に、処理材供給部100から本発明の排煙処理材を吹き込んで行うことが排煙処理の利便性を高める観点から好ましい。
【0040】
排煙処理材は水酸化カルシウムを含むので、水酸化カルシウムと、塩化水素等を含む酸性ガスとを接触させることで、中和反応により中性カルシウム塩を形成させて、排煙中の酸性ガスを除去する。また、排煙処理材はリン酸二水素カルシウムを含むので、リン酸二水素カルシウムと飛灰等の固体成分とを接触させることで、重金属類とリン酸との不溶性塩を形成させて、排煙中の飛灰に含まれる鉛等の重金属類を不溶化させる。生成した中性カルシウム塩及び重金属類とリン酸との不溶性塩並びに未反応の排煙処理材は、粉状等の固体の性状で第3流路13を流通するので、これらは飛灰とともに集塵設備60にて回収除去され、排煙から固体成分が除去された排ガスとなる。集塵設備60にて集塵された排煙処理材、各種塩及び飛灰等の固体成分は、飛灰集積部61に収容される。このとき、飛灰集積部61では、集積された粉体の発塵を防止することを目的として、飛灰や、排煙に接触したあとの排煙処理材等の固体成分に対して、水を散布等によって添加して、水と接触させることがある。
飛灰集積部61に集積された排煙接触後の排煙処理材、各種塩及び飛灰は、一定期間、例えば1日以上養生したあと、最終処分場へ移送され、処分される。そして、集塵設備60を通過した排ガスは、必要に応じて、有害物質除去設備や脱硝設備等を通過させて、排ガスに残存している酸性ガスや有害物質を除去してもよい。その後、排ガスは、第4流路14を介して煙突70から大気中へ排出される。
【0041】
リン酸二水素カルシウムを含む本発明の排煙処理材が、固体状態で飛灰と接触することによって、重金属類とリン酸との不溶性塩を形成できる理由を、本発明者は以下のように推測している。
一般的に、排煙中の飛灰には、塩化鉛や酸化鉛等の重金属類化合物の他に、酸性ガス除去に使用される水酸化カルシウム、並びに水酸化カルシウムと塩化水素の反応によって生成した塩化カルシウム等の塩化物が含まれている。このような成分を含む飛灰と、リン酸二水素カルシウムとが反応することによって、水酸アパタイト等の不溶性塩が生成し、その生成の際に、鉛等の重金属類を結晶構造中に取り込むことによって、不溶化を達成できる。リン酸二水素カルシウムは、他のリン酸カルシウムと比較して水への溶解度が比較的高く、冷却後の排煙に存在する微量の水や飛灰集積部61で散布等される水に溶解して、リン酸二水素カルシウムに由来するリン酸イオン、重金属類化合物に由来する鉛イオン等の重金属類イオン、塩化物に由来する塩化物イオン、並びにリン酸二水素カルシウムや消石灰に由来するカルシウムイオンが相互に生成・反応しやすくなるので、重金属類の不溶性塩の生成を促進することができる。その結果、鉛等の重金属類の不溶化を効率的に達成できる。そして、リン酸二水素カルシウムの粒子径を特定の範囲となるように制御することによって、180μm超の粒子と比較して、水への溶解性を向上させて重金属類との反応性を更に高め、不溶化性能を短時間で更に効率的に発現できる点で有利である。
このような効果を十分に発現させる観点から、排煙処理材を排煙に接触させたあと、その排煙処理材に対して水を添加する等して、排煙に接触させた排煙処理剤と水とを更に接触させることがより一層好ましい。水の添加量は、飛灰集積部61において、排煙に接触させた排煙処理材を含んで集積された全粉体質量に対して、25℃において、好ましくは5〜40質量%とすることができる。
【0042】
このように、本発明の排煙処理材を用いることによって、排煙中の酸性ガスを効率的に除去し、飛灰中の重金属類を不溶化することができる。これに加えて、排煙の処理にあたり、カルシウム化合物単独又はリン酸化合物単独で使用した場合の使用量と同等又はそれ以下の使用量で、埋立判定基準及び大気汚染防止法等に規定される各種規格値以下となるように、排煙中の酸性ガス及び鉛等の重金属類を処理することができる。
【0043】
本発明の排煙の処理方法について、別の実施形態を
図2を例にとり以下に説明する。本実施形態において特に説明しない点については、上述した各形態の説明が適宜適用される。また、
図2に示す形態については、
図1に示される構成と異なる構成部分を主として説明し、同様の構成部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0044】
本形態の処理方法は、上述した排煙処理材に含まれる水酸化カルシウムとリン酸二水素カルシウムとを別途使用する方法である。この方法を採用することによって、水酸化カルシウムとリン酸二水素カルシウムとを予め混合しなくとも、排煙中の酸性ガスの処理と、重金属類の不溶化とを効率的に行うことができる。
本方法を採用する場合であっても、リン酸二水素カルシウムの粒子径D
50は上述した範囲とすることができる。
また、水酸化カルシウム及びリン酸二水素カルシウムの総使用質量に対する、水酸化カルシウムの使用割合は、好ましくは50質量%以上95質量%未満、より好ましくは60〜85質量%、更に好ましくは65〜75質量%である。同様に、水酸化カルシウム及びリン酸二水素カルシウムの総使用質量に対する、リン酸二水素カルシウムの使用割合は、5質量%以上50質量%未満、より好ましくは15〜40質量%、更に好ましくは25〜35質量%である。このような範囲とすることによって、排煙中の酸化ガスの処理性能と、重金属類の不溶化性能とを十分に発揮させることができる。
【0045】
図2に示すごみ焼却場10は、
図1に示す処理材供給部100に代えて、水酸化カルシウムを供給する第1供給部150と、リン酸二水素カルシウムを供給する第2供給部160とを別個に備える。
図2に示す第1供給部150は第3流路13と連通しており、水酸化カルシウムを第3流路13内に吹き込むことができるように構成されている。また、
図2に示す第2供給部160は飛灰集積部61と連通しており、リン酸二水素カルシウムを飛灰集積部61内に添加及び混合できるように構成されている。
【0046】
本実施形態の排煙の処理方法は、まず、酸性ガス及び重金属類含有固体成分を含む排煙と水酸化カルシウム粉末とを接触させる工程を行う。本工程は、水酸化カルシウム粉末を排煙流路内に予め保持しておき、粉末に排煙を通過させる方法であってもよく、排煙流路内に水酸化カルシウム粉末を吹き込む方法であってもよい。これらのうち、水酸化カルシウムの粉末を排煙の流路である第3流路13内に吹き込むことによって、排煙と水酸化カルシウム粉末とを接触させることが、酸性ガスの処理効率の利便性を高める観点から好適である。
また、排煙と水酸化カルシウム粉末との接触にあたり、リン酸二水素カルシウムを非含有として、水酸化カルシウムの粉末のみを排煙に接触させることが酸性ガスの処理性能を高める観点から好ましいが、リン酸二水素カルシウムの粉末が含まれることは妨げられない。リン酸二水素カルシウムを含有させる場合、上述した使用質量の範囲となるように含有させる。
【0047】
排煙と水酸化カルシウム粉末とを接触させた後の排煙は、重金属類含有固体成分の一種である飛灰に加えて、生成した中性カルシウム塩及び未反応の水酸化カルシウム粉末が固体成分として含まれている。これらの固体成分は第3流路13を流通して、集塵設備60にて回収除去される。集塵設備60にて集塵された、水酸化カルシウム粉末各種塩及び飛灰等の固体成分の混合物は、飛灰集積部61に収容される。
【0048】
次いで、重金属類含有固体成分と、リン酸二水素カルシウムとを接触させる工程を行う。本工程においては、飛灰集積部61に収容された飛灰あるいは飛灰を含む固体成分に対して、第2供給部160からリン酸二水素カルシウムを供給して、両者を接触させる。これによって、飛灰に含まれる鉛等の重金属類を不溶化させることができる。
【0049】
固体成分とリン酸二水素カルシウムとの接触方法は、水の非存在下で行ってもよく、水の存在下で行ってもよい。リン酸二水素カルシウムの水への高い溶解性を利用して、リン酸二水素カルシウムと重金属類との反応性を更に高め、不溶化性能を短時間で効率的に発現させる観点から、重金属類含有固体成分と、リン酸二水素カルシウムとを水の存在下で接触させることが好ましい。
【0050】
水の存在下で両者を接触させる方法としては、例えば、(a)飛灰を含む固体成分に水を添加して、その後、該固体成分にリン酸二水素カルシウム粉末を供給して両者を接触させる方法、(b)乾燥状態若しくは含水状態の飛灰を含む固体成分と、リン酸二水素カルシウム粉末を溶解又は分散させた液体とを接触させる方法、又は、(c)乾燥状態の飛灰を含む固体成分と、リン酸二水素カルシウム粉末とを存在させた状態で水を添加して、飛灰を含む固体成分とリン酸二水素カルシウムとを接触させる方法が挙げられる。
リン酸二水素カルシウムの添加時における利便性の向上、重金属類の不溶化性能の効率的な発現、及び不溶化処理後における水の過度な存在に起因する廃棄物の質量増加の低減を図る観点から、リン酸二水素カルシウムは粉末として添加することが好ましく、リン酸二水素カルシウム粉末として上述したD
50を有するものを用いることが更に好ましい。すなわち、上述した(a)又は(c)の方法を採用することが好ましい。
【0051】
排煙の処理にあたり、飛灰を含む排煙を、該排煙中の酸性ガスを処理するために水酸化カルシウムと接触させると、処理後の排煙は強アルカリ性雰囲気となってしまう。排煙中の重金属類、特に鉛は両性金属元素であり、飛灰中の含有量が多いので、飛灰中の鉛が強アルカリ条件にさらされると、水への溶出量が多くなるイオン形に変化しやすくなる。このため、典型的には、例えば上述した飛灰集積部61等の集塵設備などに排煙を通過させて、排煙中の飛灰等の固形分を集塵したあと、集塵した飛灰を含む粉体に対して有機キレート材を混合して、鉛等の重金属類を不溶化処理し、不溶化処理後の飛灰を廃棄物として処分場にて処分する。
詳細には、飛灰を含む固形廃棄物は、排水処理施設を有する管理型の最終処分場にて埋め立て処分される。管理型の処分場では、廃棄物を透過した雨水等の水は上述の排水処理施設に集められるが、鉛等の重金属類を含む水や、CODが高い水は、別途浄化処理をしなければならず、その結果、長期にわたって莫大な処理コストが発生してしまう。有機キレート材を用いない場合は、鉛などの重金属類の不溶化が達成できず、処理場から発生した排水処理コストを低減できない。また有機キレート材を用いる場合、鉛等の重金属類の不溶化はある程度達成可能であるが、処分場において有機キレート材が分解して、処分場からの浸出水のCODが過度に高くなることがあり、この場合でも、処理場から発生した排水処理コストの低減が困難である。
この点に関して、無機化合物を含んで構成されている本発明の排煙処理材、又は排煙処理材の各構成材料を別個に排煙処理に用いることによって、排煙中の酸性ガスの除去と、鉛等の重金属類の排出抑制とを有機キレート材を別途用いなくとも両立して達成することができる。特に、本発明の排煙処理材を用いることによって、一度の処理のみで、排煙中の酸性ガスの除去と、鉛等の重金属類の排出抑制とを両立して達成できる点で有利である。
これに加えて、処理後の飛灰に対しても、重金属類や有機物質に起因する水質環境への悪影響が低減され、処理場から発生した排水の処理コストも低減できるという利点も奏される。また、リン酸二水素カルシウムは他のリン酸塩と比較して低コストであり、水酸化カルシウムとの相互作用が少ないので、本発明の排煙処理材のように、水酸化カルシウムと混合して用いる場合でも各原料の変質が低減できるので有利である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0053】
〔実施例1〜5及び比較例1〜3〕
固体の市販リン酸二水素カルシウム原料を、粉砕装置(日清エンジニアリング株式会社製ジェットミル、CJ−10;奈良機械株式会社製、奈良式自由粉砕機M−5型;株式会社セイシン企業製、中粉砕機ピンミルDD−2−7.5;のいずれか)に投入して、粒子径D
50が3μm(前記ジェットミル使用、実施例1〜3)、40μm(前記自由粉砕機使用、実施例4〜5)又は180μm(ピンミル使用、比較例1〜3)となるように粉砕し、リン酸二水素カルシウムの各粉末を得た。そして、この粉末と、水酸化カルシウムの粉末(宇部マテリアルズ株式会社製、カルブリードSII)とを以下の表1に示す質量割合でそれぞれ混合し、実施例又は比較例の排煙処理材を得た。これらの排煙処理材は、いずれも粉末状のものであった。用いた水酸化カルシウムの粉末は、その粒子径D
50が6.5μm、BET比表面積が45m
2/g、20〜1000Åの細孔径範囲における全細孔容積が0.22mL/g、見かけ比重が0.36g/cm
3(ゆるみ比重)及び0.65g/cm
3(固め比重)であった。
【0054】
〔比較例4〕
本比較例は、水酸化カルシウムの粉末(宇部マテリアルズ株式会社製、カルブリードSII)のみを用いた。つまり、本比較例はリン酸二水素カルシウムを非含有とした排煙処理材である。
【0055】
〔重金属類の不溶化性能の評価〕
重金属類として鉛を対象として、排煙処理材による鉛の不溶化性能の評価を行った。まず、鉛を含む模擬灰を、シリカ源、水酸化カルシウム(カルブリードSII)、塩化カルシウム、塩化鉛などを混合して調製した。産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法(昭和48年2月環境庁告示第13号、以下環境庁告示第13号)に定められた方法に準じて測定した模擬灰の鉛イオン濃度は、3.2mg/Lであった。
そして、この模擬灰と、実施例又は比較例の排煙処理材と、水とを混合し、その混合物を1日間養生した。水は、混合物の全質量に対して30質量%となるように添加した。その後、養生した混合物について、鉛の溶出試験を環境庁告示第13号に定められた方法に準じて行い、鉛イオン濃度(mg/L)を定量した。養生後の各混合物におけるpH(25℃)は、いずれも10.8〜12.4の範囲であった。
鉛イオン濃度の評価基準値を0.3mg/Lとし、該基準値以下であれば、鉛の不溶化性能は良好であると評価した。鉛イオン濃度が低いほど、鉛の不溶化性能が高いことを示す。結果を以下の表1に示す。なお表1に示す各排煙処理材の混合質量比は、模擬灰に含まれる水酸化カルシウムの含有量も考慮して算出された値である。
【0056】
【表1】
【0057】
〔酸性ガス除去性能の評価〕
実施例4及び比較例4の排煙処理材を用いて、酸性ガス除去性能の評価を行った。具体的な手順は以下のとおりである。まず、実施例4又は比較例4の排煙処理材を粒径1mm程度の顆粒状に成形して、該成形品を常温で24時間真空脱気処理した。その後、該成形品を吸着カラム内に充填して180℃に加熱し、系内にO
2:12体積%、HCl:400体積ppm、SO
2:40体積ppm、H
2O:25体積%、N
2:残部とした模擬排ガスを流した。そして、吸着カラムを通過した模擬排ガスを、25mLの捕集液(組成:1w/v%過酸化水素水)に導入し、所定時間(30分)ごとに捕集液を交換しながら2時間捕集した。
各捕集液中のHCl及びSO
2濃度をイオンクロマトグラフ法(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Integrion)にて定量して、各捕集液中のHCl及びSO
2濃度の算術平均値を算出し、これを酸性ガス濃度(体積ppm)とした。酸性ガスの評価基準値は、塩化水素において60体積ppm、二酸化硫黄において30体積ppmとし、該基準値以下であれば、酸性ガス除去性能は良好であると評価した。結果を以下の表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表1及び表2に示すように、実施例の排煙処理材は、比較例と比較して、酸性ガスの効率的な除去と、鉛等の重金属類の溶出抑制とを両立して、且つ排出の規格値を十分に満たすレベルとなるように、排煙を処理できることが判る。また、各実施例の排煙処理材は、比較例4と比較して、従来と同等以下の使用量で、排煙における酸性ガスの除去及び重金属の溶出抑制を両立して達成できることも判る。特に、リン酸二水素カルシウムの粒子径、及びリン酸二水素カルシウムと水酸化カルシウムとの混合比率の少なくとも一方を好適な範囲となるように調整することによって、排煙における酸性ガスの効率的な除去を達成しつつ、鉛等の重金属類の溶出が一層抑制できることも判る。
【0060】
〔リン酸二水素カルシウムと酸性ガス中和性能との関係性の評価〕
本評価では、排煙処理材におけるリン酸二水素カルシウムの含有量と、酸性ガス処理性能との関係について、モデル実験を行った。
まず、実施例4と比較例4の排煙処理材を同一質量で用いて、上述の方法で塩化水素ガスの処理性能の挙動を実際に評価した。排煙処理材と塩化水素ガスとを接触させて、30分、60分、90分及び120分経過時点における塩化水素ガスの出口濃度(体積ppm)を上述のイオンクロマトグラフ法でそれぞれ測定し、得られたデータについて、縦軸(y軸)を塩化水素ガスの濃度(体積ppm)、横軸(x軸)を試験時間(分)としたグラフにそれぞれプロットした。そして、実施例又は比較例の各測定点についてそれぞれ線形近似を行い、回帰直線を得た。各回帰直線の関係式は以下のとおりであった。
・実施例4の回帰直線:y=0.2075x(R
2=0.9859)
・比較例4の回帰直線:y=0.0103x(R
2=0.7208)
【0061】
次いで、実施例4と比較例4から得られた各回帰直線の傾きと、排煙処理材におけるリン酸二水素カルシウムの含有量との関係を、縦軸(y軸)を回帰直線の傾きの値、横軸(x軸)をリン酸二水素カルシウムの含有量(質量%)としたグラフにプロットし、線形近似を行い、第2回帰直線を得た。第2回帰直線の関係式は以下のとおりであった。
・第2回帰直線:y=0.0066x+0.0103(R
2=1)
【0062】
そして、排煙処理材におけるリン酸二水素カルシウムの含有量を第2回帰直線に代入して求められる傾きの値から、縦軸(y軸)を塩化水素ガスの出口濃度(体積ppm)、横軸(x軸)を試験時間(分)としたグラフにおける仮想的な線形式をそれぞれ得た。リン酸二水素カルシウムの含有量に基づく仮想的な線形式は以下のとおりであった。
・リン酸二水素カルシウム10質量%での仮想線形式:y=0.0763x
・リン酸二水素カルシウム20質量%での仮想線形式:y=0.1423x
・リン酸二水素カルシウム40質量%での仮想線形式:y=0.2743x
・リン酸二水素カルシウム50質量%での仮想線形式:y=0.3403x
・リン酸二水素カルシウム70質量%での仮想線形式:y=0.4723x
・リン酸二水素カルシウム80質量%での仮想線形式:y=0.5383x
排煙処理材におけるリン酸二水素カルシウムの含有量を30質量%としたときの仮想線形式は、実施例4の回帰直線(y=0.2075x)をそのまま用いた。
【0063】
最後に、上述の各仮想線形式において、試験時間を180分(x=180)としたときの、塩化水素ガスの出口濃度(体積ppm)の推定値(yの値)を算出した。この試験時間は、バグフィルタ等の集塵設備に蓄積した飛灰等を払い落として除去するための一般的な間隔に相当するものである。本評価における塩化水素ガスの評価基準値は60体積ppmとし、推定値が該基準値以下であれば、酸性ガス除去性能は良好となることが推測される。結果を以下の表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示すように、排煙処理材におけるリン酸二水素カルシウムの含有量が50質量%未満であれば、長時間にわたって塩化水素ガス等の酸性ガスの中和処理が可能になると推測される。