【解決手段】溶接電圧値Vwを電圧設定信号Vrの値に制御する出力制御部と、溶接ワイヤの送給速度Fwを送給速度設定信号Frの値に制御する送給制御部と、を備えたアーク溶接電源において、溶接電流Iwが時刻t1に通電を開始すると、第1期間T1、第2期間T2及び定常期間へと経時的に移行する期間信号を出力する期間設定部と、第1期間T1中は第1電圧設定値V1rとなり、第2期間T2中は第2電圧設定値V2rとなり、定常期間中は定常電圧設定値Vcrとなる電圧設定信号Vrを出力する電圧設定部と、第1期間T1中は第1送給速度設定値F1rとなり、第2期間T2中は第2送給速度設定値F2rとなり、定常期間中は定常送給速度設定値Fcrとなる送給速度設定信号Frを出力する送給速度設定部と、を備えている。
前記期間設定部は、前記第1期間中に前記溶接電圧値が増加して前記第1電圧設定値と等しくなってから第1所定期間が経過すると前記第2期間に移行し、前記第2期間中に前記溶接電圧値が増加して前記第2電圧設定値と等しくなってから第2所定期間が経過すると前記定常期間に移行する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接電源。
前記期間設定部は、前記第1期間の経過時間が第1上限時間以上となると前記第2期間に移行し、前記第2期間の経過時間が第2上限時間以上となると前記定常期間に移行する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接電源。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術においては、電圧設定値が定常電圧設定値よりも大きな値のスタート電圧設定値となる第1期間を設けている。この第1期間中の、アーク長は、定常期間中の定常アーク長よりも長くなる。このために、アーク長は、第1期間中にオーバーシュートし、定常期間に移行するときにアンダーシュートし、その後に定常アーク長に収束する。送給速度の過渡特性、給電チップ・母材間距離、溶接ワイヤの材質等の溶接条件によっては、上記のオーバーシュート及びアンダーシュートが大きくなり、溶接開始部の溶接品質が悪くなるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明では、種々の溶接条件に影響されることなく、常に良好な溶接開始部の溶接品質を得ることができるアーク溶接電源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接開始に際して、溶接電流が通電を開始すると、第1期間中は電圧設定信号を定常電圧設定値よりも大きな値のスタート電圧設定値に設定し、続く定常期間中は前記電圧設定信号を前記定常電圧設定値に設定して定電圧制御によって溶接電流を通電する消耗電極アーク溶接のアークスタート制御方法において、
溶接電圧値を電圧設定信号の値に制御する出力制御部と、
溶接ワイヤの送給速度を送給速度設定信号の値に制御する送給制御部と、
を備えたアーク溶接電源において、
溶接電流が通電を開始すると、第1期間、第2期間及び定常期間へと経時的に移行する期間信号を出力する期間設定部と、
前記期間信号が前記第1期間であるときは第1電圧設定値となり、前記期間信号が前記第2期間であるときは第2電圧設定値となり、前記期間信号が前記定常期間であるときは定常電圧設定値となり、前記第1電圧設定値<前記第2電圧設定値<前記定常電圧設定値である前記電圧設定信号を出力する電圧設定部と、
前記期間信号が前記第1期間であるときは第1送給速度設定値となり、前記期間信号が前記第2期間であるときは第2送給速度設定値となり、前記期間信号が前記定常期間であるときは定常送給速度設定値となり、前記第1送給速度設定値<前記第2送給速度設定値<前記定常送給速度設定値である前記送給速度設定信号を出力する送給速度設定部と、を備え、
前記期間設定部は、前記第1期間中に前記溶接電圧値が増加して前記第1電圧設定値と等しくなると前記第2期間に移行し、前記第2期間中に前記溶接電圧値が増加して前記第2電圧設定値と等しくなると前記定常期間に移行する、
ことを特徴とするアーク溶接電源である。
【0007】
請求項2の発明は、
前記期間設定部は、前記第1期間中に前記溶接電圧値が増加して前記第1電圧設定値と等しくなってから第1所定期間が経過すると前記第2期間に移行し、前記第2期間中に前記溶接電圧値が増加して前記第2電圧設定値と等しくなってから第2所定期間が経過すると前記定常期間に移行する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接電源である。
【0008】
請求項3の発明は、
前記期間設定部は、前記第1期間の経過時間が第1上限時間以上となると前記第2期間に移行し、前記第2期間の経過時間が第2上限時間以上となると前記定常期間に移行する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接電源である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、種々の溶接条件に影響されることなく、常に良好な溶接開始部の溶接品質を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係るアーク溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0013】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を上記の駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトルを備えている。
【0014】
溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生して溶接が行われる。溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4は、ロボット(図示は省略)に搭載されている。
【0015】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧フィルタ回路VAVは、この電圧検出信号Vdを入力として、ローパスフィルタによって高周波成分を除去して、電圧フィルタ信号Vavを出力する。ローパスフィルタのカットオフ周波数は、0.1〜1kHz程度に設定される。この電圧フィルタ信号Vavの値とアーク長とは略比例関係にあるので、この電圧フィルタ信号Vavによってアーク長を検出していることになる。アーク長を誤検出しないようにするために、この回路によってインバータ回路からの高周波ノイズを除去している。さらに、溶融池からのガスの噴出等による一時的な変動を除去してアーク長の変化をより正確に検出するために、この回路は設けられている。
【0016】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。通電判別回路CDは、この電流検出信号Idを入力として、この値がしきい値以上のときはHighレベルとなる通電判別信号Cdを出力する。この通電判別信号Cdは、溶接電流Iwが通電するとHighレベルとなる信号である。したがって、しきい値は、5A程度に設定される。
【0017】
ロボット制御装置RCは、予め教示された作業プログラムを記憶しており、この作業プログラムに従ってロボット(図示は省略)の動作を制御すると共に、溶接電源に対して溶接開始信号Stを出力する。
【0018】
第1電圧設定回路V1Rは、予め定めた第1電圧設定信号V1rを出力する。第2電圧設定回路V2Rは、予め定めた第2電圧設定信号V2rを出力する。定常電圧設定回路VCRは、予め定めた定常電圧設定信号Vcrを出力する。ここで、V1r<V2r<Vcrに設定される。
【0019】
第1送給速度設定回路F1Rは、予め定めた第1送給速度設定信号F1rを出力する。第2送給速度設定回路F2Rは、予め定めた第2送給速度設定信号F2rを出力する。定常送給速度設定回路FCRは、予め定めた定常送給速度設定信号Fcrを出力する。ここで、F1r<F2r<Fcrに設定される。
【0020】
ホットスタート期間設定回路THRは、予め定めたホットスタート期間設定信号Thrを出力する。
【0021】
第1期間終了判別回路ST1は、上記の電圧フィルタ信号Vav、上記の第1電圧設定信号V1r及び後述する期間信号Msを入力として、期間信号Ms=3(第1期間T1)のときに、Vav≧V1rとなり、その後に予め定めた第1所定期間が経過した時点で短時間Highレベルとなる第1期間終了信号St1を出力する。上記の第1所定期間を0秒としても良い。また、第1期間T1の経過時間が予め定めた第1上限時間以上になったときは、その時点で第1期間終了信号St1を出力するようにしても良い。
【0022】
第2期間終了判別回路ST2は、上記の電圧フィルタ信号Vav、上記の第2電圧設定信号V2r及び後述する期間信号Msを入力として、期間信号Ms=4(第2期間T2)のときに、Vav≧V2rとなり、その後に予め定めた第2所定期間が経過した時点で短時間Highレベルとなる第2期間終了信号St2を出力する。上記の第2所定期間を0秒としても良い。また、第2期間T2の経過時間が予め定めた第2上限時間以上になったときは、その時点で第2期間終了信号St2を出力するようにしても良い。
【0023】
期間設定回路MSは、上記の溶接開始信号St、上記の通電判別信号Cd、上記のホットスタート期間設定信号Thr、上記の第1期間終了信号St1及び上記の第2期間終了信号St2を入力として、以下の処理を行い、期間信号Msを出力する。
1)溶接開始信号StがHighレベル(開始)に変化すると、その値が0から1となる期間設定信号Msを出力する。Ms=1の期間はスローダウン送給期間となる。
2)その後に、通電判別信号CdがHighレベル(通電)に変化すると、その値が2となる期間設定信号Msを出力する。Ms=2の期間はホットスタート期間Thとなる。
3)その後に、ホットスタート期間設定信号Thrによって定まる期間が経過すると、その値が3となる期間設定信号Msを出力する。Ms=3の期間は第1期間T1となる。
4)その後に、第1期間終了信号St1が短時間Highレベルとなると、その値が4となる期間設定信号Msを出力する。Ms=4の期間は第2期間T2となる。
5)その後に、第2期間終了信号St2が短時間Highレベルとなると、その値が5となる期間設定信号Msを出力する。Ms=5の期間は定常期間となる。
【0024】
電圧設定回路VRは、上記の第1電圧設定信号V1r、上記の第2電圧設定信号V2r、上記の定常電圧設定信号Vcr及び上記の期間信号Msを入力として、Ms≦3のときは第1電圧設定信号V1rの値となり、Ms=4のときは第2電圧設定信号V2rの値となり、Ms=5のときは定常電圧設定信号Vcrの値となる電圧設定信号Vrを出力する。
【0025】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vrと上記の電圧フィルタ信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0026】
ホットスタート電流設定回路IHRは、予め定めたホットスタート電流設定信号Ihrを出力する。電流誤差増幅回路EIは、このホットスタート電流設定信号Ihrと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0027】
制御方式切換信号生成回路CSは、上記の期間信号Msを入力として、Ms=3〜5のときはHighレベル(定電圧制御)となり、それ以外の期間はLowレベル(定電流制御)になる制御方式切換信号Csを出力する。制御切換回路SWは、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の電流誤差増幅信号Ei及び上記の制御方式切換信号Csを入力として、Cs=Lowレベル(定電流制御)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、Cs=Highレベル(定電圧制御)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。駆動回路DVは、この誤差増幅信号Ea及び上記の溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは誤差増幅信号Eaに基づいてPWM変調制御を行い、上記の電源主回路PM内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力し、溶接開始信号StがLowレベルのときは駆動信号Dvの出力を停止する。
【0028】
送給速度設定回路FRは、上記の第1送給速度設定信号F1r、上記の第2送給速度設定信号F2r、上記の定常送給速度設定信号Fcr及び上記の期間信号Msを入力として、Ms=0及び1のときは予め定めたスローダウン送給速度となり、Ms=2及び3のときは第1送給速度設定信号F1rの値となり、Ms=4のときは第2送給速度設定信号F2rの値となり、Ms=5のときは定常送給速度設定信号Fcrの値となる送給速度設定信号Frを出力する。
【0029】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Fr及び上記の溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは溶接ワイヤ1を送給速度設定信号Frによって定まる速度で送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力し、溶接開始信号StがLowレベルのときは送給を停止するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0030】
図2は、
図1のアーク溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Stの時間変化を示し、同図(B)は制御方式切換信号Csの時間変化を示し、同図(C)は溶接ワイヤの送給速度Fwの時間変化を示し、同図(D)は送給速度設定信号Frの時間変化を示し、同図(E)は電圧設定信号Vrの時間変化を示し、同図(F)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(G)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(H)は第1期間終了信号St1の時間変化を示し、同図(I)は第2期間終了信号St2の時間変化を示す。同図は、ロボットを使用した溶接の場合を例示している。以下、同図を参照して説明する。
【0031】
同図において、時刻t1〜t2の期間が
図1の期間信号Ms=1のスローダウン送給期間となり、時刻t2〜t3の期間が
図1の期間信号Ms=2のホットスタート期間Thとなり、時刻t3〜t4の期間が
図1の期間信号Ms=3の第1期間T1となり、時刻t4〜t5の期間が
図1の期間信号Ms=4の第2期間T2となり、時刻t5以降の期間が
図1の期間信号Ms=5の定常期間となる。同図(D)に示す送給速度設定信号Frは、スローダウン送給期間中は予め定めたスローダウン送給速度となり、ホットスタート期間Th中は
図1の第1送給速度設定信号F1rの値となり、第1期間T1中は
図1の第1送給速度設定信号F1rの値となり、第2期間T2中は
図1の第2送給速度設定信号F2rの値となり、定常期間中は定常送給速度設定信号Fcrの値となる。ここで、スローダウン送給速度<第1送給速度設定信号F1r<第2送給速度設定信号F2r<定常送給速度設定信号Fcrである。同図(E)に示す電圧設定信号Vrは、スローダウン送給期間、ホットスタート期間Th及び第1期間T1中は
図1の第1電圧設定信号V1rの値となり、第2期間T2中は
図1の第2電圧設定信号V2rの値となり、定常期間中は定常電圧設定信号Vcrの値となる。ここで、第1電圧設定信号V1r<第2電圧設定信号V2r<定常電圧設定信号Vcrである。
図1の電圧フィルタ信号Vavは、溶接電圧Vwから高周波ノイズを除去した信号であり、以下では、Vw=Vavとして説明している。
【0032】
時刻t1において、ロボットが移動して溶接トーチが溶接開始位置に到達すると、ロボット制御装置から溶接電源に対して溶接開始信号Stが出力される。
【0033】
(1)時刻t1〜t2のスローダウン送給期間
同図(A)に示すように、時刻t1において、ロボット制御装置からの溶接開始信号StがHighレベルになると、溶接電源の出力が開始されるので、同図(G)に示すように、無負荷電圧が溶接ワイヤと母材との間に印加される。同時に、同図(C)に示すように、送給速度Fwは1〜2m/min程度の遅いスローダウン送給速度となり、溶接ワイヤは母材へと次第に接近する。同図(B)に示すように、制御方式切換信号Csは、ホットスタート期間Thが終了する時刻t3まではLowレベル(定電流制御)となり、それ以降はHighレベル(定電圧制御)となる。この制御方式切換信号Csは、溶接電源の出力制御の方式を定電流制御にするか定電圧制御にするかを切り換える信号である。
【0034】
(2)時刻t2〜t3のホットスタート期間Th
時刻t2において、溶接ワイヤと母材とが接触して導通すると、同図(G)に示すように、溶接電圧Vwは、数V程度の短絡電圧値に急減する。同時に、同図(F)に示すように、溶接電流Iwの通電が開始されて、時刻t2〜t3の予め定めたホットスタート期間Th中は、予め定めたホットスタート電流Ihが通電する。このホットスタート期間Th中は、同図(B)に示すように、制御方式切換信号CsがLowレベルであるので、定電流制御となる。ホットスタート期間Thは、例えば5ms程度に設定され、ホットスタート電流Ihは、例えば500A程度に設定される。両値ともに、溶接ワイヤの材質、直径等に応じて適正値に設定される。このホットスタート電流Ihは、溶接ワイヤの先端を早急に溶融してアークを発生させるために通電する。したがって、時刻t2から1ms程度の短時間経過後の時刻t21において、アークが発生する。アークが発生すると、同図(G)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。時刻t21〜t3の期間中は、ホットスタート電流Ihによって溶接ワイヤ先端が溶融されるので、アーク長は次第に長くなる。これに応動して、同図(G)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t21〜t3の期間中次第にその値が大きくなる。また、同図(D)に示すように、送給速度設定信号Frは、時刻t2において
図1の第1送給速度設定信号F1rの値になり、同図(C)に示すように、送給速度Fwは時刻t2〜t3の期間中は傾斜を有して速くなる。このホットスタート期間Thは、絶対に設けなければいけない必須の期間ではない。溶接ワイヤが母材と接触したときから次項で説明する第1期間T1であっても短絡期間中は大電流値の溶接電流Iwが通電するので、溶接条件によってはアークの発生にそれほどの問題は生じない。
【0035】
(3)時刻t3〜t4の第1期間T1
時刻t3においてホットスタート期間Thが終了すると、同図(B)に示すように、制御方式切換信号CsがHighレベルに変化するので、定電圧制御に切り換えられる。同図(E)に示すように、時刻t3時点での電圧設定信号Vrの値は
図1の第1電圧設定信号V1rの値であるので、この設定値によって定電圧制御が行われる。同図(G)に示すように、溶接電圧Vwの値は、時刻t3時点では第1電圧設定信号V1rに対応する値よりも小さな値であるので、定電圧制御によってその値は次第に増加する。これに伴い、アーク長も次第に長くなる。そして、時刻t31において、同図(G)に示すように、溶接電圧Vwの値は第1電圧設定信号V1rに対応する値と等しくなる。そして、時刻t31から予め定めた第1所定期間が経過した時刻t4において、同図(H)に示すように、第1期間終了信号St1が短時間Highレベルになる。これに応動して、第1期間T1が終了して、第2期間T2へと移行する。同図(G)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t21から徐々に増加して、時刻t31において第1電圧設定信号V1rの値となり、時刻t4までその値を維持する。アーク長は、時刻t21から徐々に長くなり、時刻t31において第1アーク長となり、時刻t4までその値を維持する。
【0036】
同図(D)に示すように、時刻t3時点での送給速度設定信号Frの値は
図1の第1送給速度設定信号F1rの値である。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、時刻t3時点では第1送給速度設定信号F1rに対応する値よりも小さな値であるので、その値は次第に速くなる。そして、時刻t31よりも早い時点において、同図(C)に示すように、送給速度Fwは第1送給速度設定信号F1rに対応する値と等しくなる。送給速度Fw=F1rとなる時点が、溶接電圧Vw=V1rとなる時刻t31よりも早い時点となるのは、送給速度Fwの過渡速度が溶接電圧Vwの過渡速度よりも速いためである。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、時刻t2から徐々に加速して、時刻t31よりも早い時点において第1送給速度設定信号F1rの値となり、時刻t4までその値を維持する。同図(F)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t3時点でのホットスタート電流値Ihから急速に小さくなり、その後は徐々に増加して、送給速度Fw=F1rとなる時点で第1溶接電流値となり、時刻t4までその値を維持する。
【0037】
上記においては、時刻t4に第1期間T1が終了するタイミングは、時刻t31にVw≧V1rとなり、その後に第1所定期間が経過した時点である。ここで、第1所定期間は、例えば20ms程度に設定される。時刻t3〜t31の過渡期間は50ms程度であり、時刻t3〜t4の第1期間T1は70ms程度である。時刻t3からFw=F1rとなる過渡期間は30ms程度である。ここで、第1所定期間を0秒に設定して、この期間を削除しても良い。また、第1期間T1の経過時間が第1上限時間以上になると、強制的に第1期間T1を終了するようにしても良い。第1上限時間は、例えば100ms程度に設定される。
【0038】
(4)時刻t4〜t5の第2期間T2
同図(E)に示すように、時刻t4時点での電圧設定信号Vrの値は
図1の第2電圧設定信号V2rの値であるので、この設定値によって定電圧制御が行われる。同図(G)に示すように、溶接電圧Vwの値は、時刻t4時点では第2電圧設定信号V2rに対応する値よりも小さな値であるので、定電圧制御によってその値は次第に増加する。これに伴い、アーク長も次第に長くなる。そして、時刻t41において、同図(G)に示すように、溶接電圧Vwの値は第2電圧設定信号V2rに対応する値と等しくなる。そして、時刻t41から予め定めた第2所定期間が経過した時刻t5において、同図(I)に示すように、第2期間終了信号St2が短時間Highレベルになる。これに応動して、第2期間T2が終了して、定常期間へと移行する。同図(G)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t4から徐々に増加して、時刻t41において第2電圧設定信号V2rの値となり、時刻t5までその値を維持する。アーク長は、時刻t4から徐々に長くなり、時刻t41において第2アーク長となり、時刻t5までその値を維持する。
【0039】
同図(D)に示すように、時刻t4時点での送給速度設定信号Frの値は
図1の第2送給速度設定信号F2rの値である。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、時刻t4時点では第2送給速度設定信号F2rに対応する値よりも小さな値であるので、その値は次第に速くなる。そして、時刻t41よりも早い時点において、同図(C)に示すように、送給速度Fwは第2送給速度設定信号F2rに対応する値と等しくなる。送給速度Fw=F2rとなる時点が、溶接電圧Vw=V2rとなる時刻t41よりも早い時点となるのは、送給速度Fwの過渡速度が溶接電圧Vwの過渡速度よりも速いためである。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、時刻t2から徐々に加速して、時刻t41よりも早い時点において第2送給速度設定信号F2rの値となり、時刻t5までその値を維持する。同図(F)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t4時点での第1溶接電流値から徐々に増加して、送給速度Fw=F2rとなる時点で第2溶接電流値となり、時刻t5までその値を維持する。
【0040】
上記においては、時刻t5に第2期間T2が終了するタイミングは、時刻t41にVw≧V2rとなり、その後に第2所定期間が経過した時点である。ここで、第2所定期間は、例えば20ms程度に設定される。時刻t4〜t41の過渡期間は50ms程度であり、時刻t4〜t5の第2期間T2は70ms程度である。時刻t3からFw=F1rとなる過渡期間は30ms程度である。ここで、第2所定期間を0秒に設定して、この期間を削除しても良い。また、第2期間T2の経過時間が第2上限時間以上になると、強制的に第2期間T2を終了するようにしても良い。第2上限時間は、例えば100ms程度に設定される。
【0041】
(5)時刻t5以降の定常期間
同図(E)に示すように、時刻t5時点での電圧設定信号Vrの値は
図1の定常電圧設定信号Vcrの値であるので、この設定値によって定電圧制御が行われる。同図(G)に示すように、溶接電圧Vwの値は、時刻t5時点では定常電圧設定信号Vcrに対応する値よりも小さな値であるので、定電圧制御によってその値は次第に増加する。これに伴い、アーク長も次第に長くなる。そして、時刻t51において、同図(G)に示すように、溶接電圧Vwの値は定常電圧設定信号Vcrに対応する値に収束する。そして、アーク長は、時刻t5から徐々に長くなり、時刻t51において定常アーク長に収束する。時刻t5〜t51の過渡期間は30ms程度である。
【0042】
同図(D)に示すように、時刻t5時点での送給速度設定信号Frの値は
図1の定常送給速度設定信号Fcrの値である。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、時刻t5時点では定常送給速度設定信号Fcrに対応する値よりも小さな値であるので、その値は次第に速くなる。そして、時刻t51よりも早い時点において、同図(C)に示すように、送給速度Fwは定常送給速度設定信号Fcrに対応する値に収束する。送給速度Fw=Fcrとなる時点が、溶接電圧Vw=Vcrとなる時刻t51よりも早い時点となるのは、送給速度Fwの過渡速度が溶接電圧Vwの過渡速度よりも速いためである。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、時刻t5から徐々に加速して、時刻t51よりも早い時点において定常送給速度設定信号Fcrの値に収束する。同図(F)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t5時点での第2溶接電流値から徐々に増加して、送給速度Fw=Fcrとなる時点で定常溶接電流値に収束する。時刻t5からFw=Fcrとなる時点までの過渡期間は20ms程度となる。
【0043】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。本実施の形態に係るアーク溶接電源によれば、溶接電流が通電を開始すると、第1期間、第2期間及び定常期間へと経時的に移行する期間信号を出力する期間設定部と、期間信号が第1期間であるときは第1電圧設定値となり、期間信号が第2期間であるときは第2電圧設定値となり、期間信号が定常期間であるときは定常電圧設定値となり、第1電圧設定値<第2電圧設定値<定常電圧設定値である電圧設定信号を出力する電圧設定部と、期間信号が第1期間であるときは送給速度設定値となり、期間信号が第2期間であるときは第2送給速度設定値となり、期間信号が定常期間であるときは定常送給速度設定値となり、第1送給速度設定値<第2送給速度設定値<定常送給速度設定値である送給速度設定信号を出力する送給速度設定部と、を備え、期間設定部は、第1期間中に溶接電圧値が増加して第1電圧設定値と等しくなると第2期間に移行し、第2期間中に溶接電圧値が増加して第2電圧設定値と等しくなると定常期間に移行する。本実施の形態では、溶接開始時において、第1期間、第2期間及び定常期間を設け、溶接電圧値が設定値に収束した後に次の期間に移行するように制御されている。これに伴い、アーク長は、各機関で一旦収束した後に次の期間へと移行する。このために、アーク長が定常アーク長に収束するまでに、オーバーシュート及びアンダーシュートすることを抑制することができる。このために、本実施の形態では、種々の溶接条件に影響されることなく、常に良好な溶接開始部の溶接品質を得ることができる。
【0044】
さらに、本実施の形態に係るアーク溶接電源によれば、期間設定部は、第1期間中に溶接電圧値が増加して第1電圧設定値と等しくなってから第1所定期間が経過すると第2期間に移行し、第2期間中に溶接電圧値が増加して第2電圧設定値と等しくなってから第2所定期間が経過すると定常期間に移行するようにすることが好ましい。第1所定期間及び第2所定期間を設けることにより、各機関においてアーク長を十分な収束状態にすることができる。この結果、アーク長のオーバーシュート及びアンダーシュートをより確実に小さく抑制することができるので、溶接開始部の溶接品質をさらに良好にすることができる。
【0045】
さらに、本実施の形態に係るアーク溶接電源によれば、期間設定部は、第1期間の経過時間が第1上限時間以上となると前記第2期間に移行し、第2期間の経過時間が第2上限時間以上となると定常期間に移行するようにすることが好ましい。第1期間の経過時間及び第2期間の経過時間が所定時間以上になると、溶接開始部の溶接品質が悪くなることがある。本実施の形態では、このような場合を抑制することができる。
【0046】
本実施の形態に係るアーク溶接電源は、消耗電極式アーク溶接に使用することができる。消耗電極式アーク溶接としては、炭酸ガスアーク溶接、マグ溶接、ミグ溶接、パルスアーク溶接等がある。