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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-178610(P2021-178610A)
(43)【公開日】2021年11月18日
(54)【発明の名称】バラストタンクの排水構造
(51)【国際特許分類】
   B63B 11/04 20060101AFI20211022BHJP
   B63B 13/00 20060101ALI20211022BHJP
【FI】
   B63B11/04 Z
   B63B13/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-85942(P2020-85942)
(22)【出願日】2020年5月15日
(71)【出願人】
【識別番号】391058082
【氏名又は名称】株式会社名村造船所
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】篠田 岳思
(72)【発明者】
【氏名】小畑 英郎
(72)【発明者】
【氏名】中森 隆一
(72)【発明者】
【氏名】黒木 賢二
(57)【要約】
【課題】従来より通水孔を減らしても、バラストタンクから残留バラスト水を排水する時間を著しく長くすることがないバラストタンクの排水構造を提供する。
【解決手段】横方向小区画室列20Wに含まれる4つの小区画室(2−1)〜(2−4)が、横方向小区画室列20W内に位置する3本の縦フレーム材17をそれぞれ貫通する3つの通水孔25を介して連通状態にある。また横方向小区画室列20Wを構成する4つの小区画(2−1)〜(2−4)の1つを含んで船舶の縦方向Lに並ぶ複数の小区画室[(1−1)〜(4−1),(1−2)〜(4−2),(1−3)〜(4−3),(1−4)〜(4−4)]からなる4つの縦方向小区画室列20Lにそれぞれ含まれる複数の小区画室のそれぞれが、複数のフロア材13をそれぞれ貫通する複数の通水孔25によって連通状態にある。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船底外板と内底板との間に形成されるバラストタンク内に、前記船底外板上に船体の縦方向に延び且つ前記縦方向と直交する横方向に間隔をあけて設けられた複数のガーダ材と、前記船底外板上に前記複数のガーダ材と交差し且つ前記バラストタンク内を前記幅方向に延び且つ前記縦方向に間隔をあけて設けられた複数のフロア材とが、前記船底外板と前記内底板との間に格子状の複数の大区画室を形成するように配置され、前記複数の大区画室内の前記船底外板上には前記縦方向に延び且つ前記横方向に間隔をあけてなる複数の縦フレーム材が配置され、前記複数の大区画室内のそれぞれの船底側領域に、前記複数のフレーム材によって前記横方向に仕切られた複数の小区画室が形成されている板骨構造が構成されており、
1つの前記大区画室内の少なくとも1つの前記小区画室に対して設けられる少なくとも1つの吸込口と、
前記複数のガーダ材及び前記複数のフロア材に設けられて前記複数の大区画室間でバラスト水を流通しうる複数の流水孔と、
前記複数のガーダ材及び前記複数のフロア材並びに前記複数の縦フレーム材に設けられて、前記複数の大区画室内の前記複数の小区画室内に残る残留バラスト水を、前記吸込口が設けられる前記1つの小区画室に導く複数の通水孔を備えて、
前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラストタンクの排水構造であって、
前記吸込口が設けられた前記少なくとも1つの小区画室を含んで前記横方向に直列に並ぶ前記複数の前記小区画室からなる少なくとも1つの横方向小区画室列に含まれる前記複数の小区画室を通してその他の前記複数の大区画室内の前記複数の小区画室内の残留バラスト水が前記少なくとも1つの吸込口に吸い込まれるように前記複数の通水孔が配置されていることを特徴とするバラストタンクの排水構造。
【請求項2】
前記1つの横方向小区画室列に含まれる前記複数の小区画室のうちの2つ以上の小区画室にそれぞれ前記吸込口が設けられている請求項1に記載のバラストタンクの排水構造。
【請求項3】
前記少なくとも1つの横方向小区画室列に含まれる前記複数の小区画室は、前記横方向小区画室列内に位置する前記複数の縦フレーム材及び前記複数のガーダ材をそれぞれ貫通する複数の横方向通水孔を介して連通状態にあり、
前記横方向小区画室列を構成する前記複数の小区画の1つを含んで前記船舶の縦方向に並ぶ複数の前記小区画室からなる複数の縦方向小区画室列にそれぞれ含まれる前記複数の小区画室のそれぞれが、前記複数のフロア材をそれぞれ貫通する複数の縦方向通水孔によって連通状態にあることを特徴とする請求項1に記載のバラストタンクの排水構造。
【請求項4】
前記横方向小区画室列に含まれる前記小区画室以外の前記横方向に隣り合う二つの小区画室を仕切る前記フレーム材及び前記複数のガーダ材には、前記横方向通水孔が形成されていない請求項3に記載のバラストタンクの排水構造。
【請求項5】
前記複数の横方向通水孔のそれぞれの開口面積及び前記複数の縦方向通水孔の開口面積は、前記横方向小区画室列内の隣り合う二つの前記小区画室内の水位差が0に近い状態になるように定められている請求項3に記載のバラストタンクの排水構造。
【請求項6】
前記横方向通水孔と前記縦方向通水孔の断面形状は、それぞれ前記縦方向の長さが高さ方向の長さよりも長い請求項4に記載のバラストタンクの排水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の船底外板と内底板との間に形成されるバラストタンクの底部領域からより短い時間で残留バラスト水を排水するバラストタンクの排水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の荷役時における、バラストタンクの底部領域から残留バラスト水の排水に要する時間は、荷主や海上輸送を担う海運会社の収益に関わる重要課題である。
【0003】
仮に、排水時間が一定時間を越えると、荷役時間が増大、つまり港湾占拠時間が増大し港湾から改善を要求され、海運会社にとって非常に重大な問題となるリスクがある。また、バラストタンク内の残水量が多い場合には、所定の貨物量を積載できなくなる場合もあり、荷主にとっても利益を逸失する要因にもなる。
【0004】
しかし、短時間に排水を終え、また、バラストタンク内の最終残水量を最小にするほど、上記のようなリスクは最小化され、船舶の価値の向上にも繋がる。このような問題を解消するために、残留バラスト水を排出する構造上の工夫の一例として、実開昭54−66390号公報(特許文献1)には、バラストタンク内の船底外板に設けたフロアープレートの下辺部の中央に、船底外板に達する切り欠き部を設けて、この切り欠き部から残留バラスト水を排水する発明が開示されている。また特開2010−120469号公報(特許文献2)には、船底外板に設けた複数のロンジの下部に数個の通水孔を形成し、この通水孔からバラスト水を船側から船体中心線方向に流す構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭54−66390号公報
【特許文献2】特開2010−120469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来は、残留バラスト水を排水するための時間を短縮化するために、残留バラスト水を通す通水孔の形状や数を単純に検討しているだけで、通水孔の数を減らして、しかも残留バラスト水を排水するための時間が著しく長くなることがないようにすることについては十分な検討がなされていなかった。通水孔の数が減れば、加工作業にかかる手間と時間を大幅に削減できる上、バラストタンクの機械的強度の低下を防止できる。
【0007】
本発明の目的は、通水孔を減らしても、バラストタンクから残留バラスト水を排水する時間を著しく長くすることがないバラストタンクの排水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
船舶の船底外板と内底板との間に形成されるバラストタンク内には、板骨構造が形成されている。この板骨構造では、船底外板上に船体の縦方向に延び且つ縦方向と直交する横方向に間隔をあけて設けられた複数のガーダ材と、船底外板上に複数のガーダ材と交差し且つバラストタンク内を幅方向に延び且つ縦方向に間隔をあけて設けられた複数のフロア材とが、船底外板と内底板との間に格子状の複数の大区画室を形成するように配置され、複数の大区画室内の船底外板上には縦方向に延び且つ横方向に間隔をあけて設けられた複数の縦フレーム材が配置されている。さらに板骨構造は、複数の大区画室内のそれぞれの船底側領域が、複数の縦フレーム材によって横方向に仕切られた複数の小区画室を備えている。そして1つの大区画室内の少なくとも1つの小区画室に対して設けられる少なくとも1つの吸込口を備えている。そして複数のガーダ材及び複数のフロア材には、複数の大区画室間でバラスト水を流通しうる複数の流水孔が設けられている。また複数のガーダ材及び複数のフロア材並びに複数の縦フレーム材には、複数の大区画室内の複数の小区画室内に残る残留バラスト水を、吸込口が設けられる1つの小区画室に導く複数の通水孔がそれぞれ設けられている。
【0009】
本発明のバラストタンクの排水構造においては、吸込口が設けられた少なくとも1つの小区画室を含んで横方向に直列に並ぶ複数の小区画室からなる少なくとも1つの横方向小区画室列に含まれる複数の小区画室を通して、その他の複数の大区画室内の複数の小区画室内の残留バラスト水が少なくとも1つの吸込口に吸い込まれるように複数の通水孔が配置されている。このような排水構造を用いると、横方向小区画室列に位置する複数の小区画室内の水位差が小さいものとなり、横方向小区画室列に位置する複数の小区画室から吸込口が設けられる小区画室に効率的にバラスト水が集まることとなる。言い換えれば、横方向小区画室列に位置する複数の小区画室まで吸込口が広がったような効果が生じる。その結果、横方向小区画室列に位置する複数の小区画室から縦方向に並ぶその他の小区画室を挟む複数のガーダ材及び複数の縦フレーム材に設ける通水孔の数及び面積を減らしても、通水孔の数、面積を減らさない場合と同等の時間で残留バラスト水を吸入口へ導入することができる。その結果、本発明によれば、通水孔の数及び面積を減らして、バラストタンクの作成作業工数を減らすことができ、しかもバラストタンクの機械的強度の低下を抑制することができる。
【0010】
1つの横方向小区画室列に含まれる複数の小区画室のうちの2つの小区画室にそれぞれ吸込口が設けられていてもよい。このようにすると横方向小区画室列の吸込機能を高めることができる。
【0011】
複数の通水孔の配置としては、横方向小区画室列に含まれる複数の小区画室が、横方向小区画室列内に位置する複数の縦フレーム材及び複数のガーダ材をそれぞれ貫通する複数の横方向通水孔を介して連通状態にあり、横方向小区画室列を構成する複数の小区画の1つを含んで前記船舶の縦方向に並ぶ複数の小区画室からなる複数の縦方向小区画室列にそれぞれ含まれる複数の小区画室のそれぞれが、複数のフロア材をそれぞれ貫通する複数の縦方向通水孔によって連通状態にあるのが好ましい。このようにすると吸込口と各小区画室との間の流路抵抗をより小さいものとすることができるので、通水孔の数を減らしても、排水時間が長くなることを抑制できる。この場合、横方向小区画室列に含まれる小区画室以外の横方向に隣り合う二つの小区画室を仕切る縦フレーム材及び複数のガーダ材には、横方向通水孔を形成する必要がなくなる。その結果、通水孔の数を減らすことができる。
【0012】
複数の横方向通水孔のそれぞれの開口面積及び複数の縦方向通水孔の開口面積は、横方向小区画室列内の隣り合う二つの小区画室内の水位差が、0に近い状態になるように定められているのが好ましい。このような状態にすると、横方向小区画室列の吸込機能を高めることができる。
【0013】
また横方向通水孔と縦方向通水孔の断面形状は、それぞれ前記縦方向の長さが高さ方向の長さよりも長いことが好ましい。このような断面形状を採用すると、残留バラスト水の量が減った場合でも、吸込量が極端に少なくなることがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)乃至(E)は、船舶のバラストタンクの従来の構造を説明するために用いる斜視図である。
図2】(A)は本発明の基本思想を確認するために用意した本実施の形態の排水構造の実験用模型の構成を示す図であり、(B)は比較例の排水構造の実験用模型の構成を示す図である。
図3図2(B)の排水構造において、吸込口を設置する小区画室の違いによる残留水の排水量の経時変化を示す図である。
図4】ポンプ容量の大きさの違いによる排水量の経時変化を示す図である。
図5】通水孔の開口部の大きさの違いによる排水量の経時変化を示す図である。
図6】実験に用いた通水孔の形状と寸法を示す図である。
図7】通水孔の開口部の大きさの違いによる排水量の経時変化を示す図である。
図8】縦方向小区画室列を設定した場合の通水孔の開口部の大きさの違いによる排水量の経時変化を示す図である。
図9】縦方向小区画室列の設置の有無について通水孔の開口の幅と高さをB. 24 mm ×H. 9 mm とB. 18 mm ×H. 9 mm とした場合の排水量の経時変化を比較して示す図である。
図10】拡張した変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
[バラストタンクの一般的な構造]
図1(A)乃至(E)は、船舶のバラストタンクの従来の構造を説明するために用いる斜視図である。図1(A)はバラストタンクを備える船舶の中間ブロックの斜視図を示している。図1(B)は図1(A)に破線で示した領域を切り出し断面としいて切り出した拡大斜視図であり、図1(C)は図1(B)から内底板5及びビルジホッパ斜板6を除いた状態を示す斜視図である。バラストタンク1の一部は、船殻の船底外板3と内底板5との間に形成される。また船側外板4とビルジホッパ斜板6との間にもバラストタンク1の一部を構成するビルジホッパタンク7が形成されている。船底外板3と内底板5との間に形成されるバラストタンク1内には、板骨構造9が形成されている。なお図1に示した方向マークLは、船舶の長手方向すなわち縦方向を示しており、Wは船舶の幅方向すなわち横方向を示している。
【0017】
図1(D)は図1(C)の部分拡大斜視図であり、図1(E)は図1(D)の部分拡大斜視図である。これら図1(D)及び(E)に示すように、板骨構造9は、船底外板3上に船体の縦方向Lに延び且つ縦方向とL直交する横方向Wに間隔をあけて設けられた複数のガーダ材11と、船底外板3上に複数のガーダ材11と交差し且つバラストタンク1内を幅方向Wに延び且つ縦方向Lに間隔をあけて設けられた複数のフロア材13とが、船底外板3と内底板5との間に格子状の複数の大区画室15を形成するように配置され、複数の大区画室15内の船底外板3上には縦方向Lに延び且つ横方向Wに間隔をあけて設けられた複数の縦フレーム材17が配置されている。さらに板骨構造9は、複数の大区画室15内のそれぞれの船底側領域が、複数の縦フレーム材17によって横方向Wに仕切られた複数の小区画室19を備えている。後述するように1つの大区画室内15の1つの小区画室19に対して排水ポンプから延びる排水パイプの先端に設けられた吸込ベルマウスを備えた吸込口21(図1(E)には破線で示してある)が設けられる。そして複数のガーダ材11及び複数のフロア材13には、複数の大区画室15間でバラスト水を流通させる複数の流水孔23が設けられている。また複数のガーダ材11及び複数のフロア材13並びに複数の縦フレーム材17には、複数の大区画室15内の複数の小区画室19内に残る残留バラスト水を、吸込口21が設けられる1つの小区画室19に導く複数の通水孔25がそれぞれ設けられている。
【0018】
なおビルジホッパタンク7内のバラスト水は、最終的に板骨構造9内の大区画室15内に残留バラスト水として移行することになるので、特に考慮する必要はない。
【0019】
[実施形態]
図2(A)は、本発明の基本思想を確認するために用意した本実施の形態の排水構造の実験用模型の構成を示す図であり、図2(B)は比較例の排水構造の実験用模型の構成を示す図である。図2(A)の模型は、4つの大区画室15A乃至15Dにそれぞれ4つの小区画室19を有する排水構造の模型である。16の小区画室19には、便宜的に各小区画室を区別するために(1−1)乃至(4−4)までの番号を付してある。また「B」の記号は、吸込口21の吸込ベルマウスBの位置を示している。吸込ベルマウスBは、船底外板3との間に所定の間隙をあけて船底外板3と対向している。図2(B)は、比較実験例の排水構造の実験用模型の構成を示している。なお図2(A)及び(B)に示した方向マークLは、船舶の長手方向すなわち縦方向を示しており、Wは船舶の幅方向すなわち横方向を示している。
【0020】
図2(A)の実験用模型では、1つの大区画室15A内にあって吸込口21が設けられた1つの小区画室(2−2)を含んで横方向Wに直列に並ぶ4つの小区画室(2−1)〜(2−4)からなる横方向小区画室列20Wに含まれる4つの小区画室(2−1)〜(2−4)を通して、その他の大区画室15A、15C及び15D内の複数の小区画室内の残留バラスト水が吸込口21に吸い込まれるように複数の通水孔25が配置されている。具体的には、複数の通水孔25の配置としては、横方向小区画室列20Wに含まれる4つの小区画室(2−1)〜(2−4)が、横方向小区画室列20W内に位置する3本の縦フレーム材17をそれぞれ貫通する3つの通水孔(横方向通水孔)25を介して連通状態にある。また横方向小区画室列20Wを構成する4つの小区画(2−1)〜(2−4)の1つを含んで船舶の縦方向Lに並ぶ複数の小区画室[(1−1)〜(4−1),(1−2)〜(4−2),(1−3)〜(4−3),(1−4)〜(4−4)]からなる4つの縦方向小区画室列20Lにそれぞれ含まれる複数の小区画室のそれぞれが、複数のフロア材13をそれぞれ貫通する複数の通水孔(縦方向通水孔)25によって連通状態にある。このようにすると吸込口21と各小区画室との間の流路抵抗をより小さいものとすることができる。なおこの構成では、横方向小区画室列20Wに含まれる小区画室(2−1)〜(2−4)以外の横方向に隣り合う二つの小区画室を仕切る縦フレーム材17の部分には、通水孔(横方向通水孔)25が形成されていない。
【0021】
このような排水構造を用いると、横方向小区画室列20Wに位置する小区画室(2−1)〜(2−4)内の水位差が小さいものとなり、横方向小区画室列20Wに位置する小区画室(2−1)〜(2−4)から吸込口が設けられる1つの小区画室(2−2)に効率的にバラスト水が集まることとなる。言い換えれば、横方向小区画室列20Wに位置する小区画室[(2−1)〜(2−4)]まで吸込口21が広がったような効果が生じる。その結果、吸込口21が設けられる1つの小区画室(2−2)を含む横方向小区画室列20W以外の他の横方向小区画室列に位置する複数の小区画室[(1−1)〜(1−4),(3−1)〜(3−4),(4−1)〜(4−4)]から横方向小区画室列20Wに位置する複数の小区画室[(2−1)〜(2−4)]に通水孔の数、面積を減らさない場合と同等の時間で残留バラスト水を吸入口21へ導入することができる。
【0022】
これに対して、図2(B)の比較実験例の排水構造では、吸込口21が設けられた1つの小区画室(2−2)を含んで横方向Wに直列に並ぶ4つの小区画室(2−1)〜(2−4)からなる横方向小区画室列20W以外の3つの横方向小区画室列に含まれる小区画室(1−1)〜(1−4)、(3−1)〜(3−4)及び(4−1)〜(4−4)の横方向に隣り合う二つの小区画室を仕切る縦フレーム材17の部分に、通水孔(横方向通水孔)25が形成されている。
【0023】
以下、本発明の効果を確認するために図2(A)及び(B)の排水構造を用いた実験について説明する。
【0024】
[実験の概要]
実験では、図2(A)及び(B)に示す構造で1/10スケールの模型を製作した。観察が容易なようにアクリル材を用いて製作した。また、通水孔25の位置を変更できるように縦フレーム17及びフロア材13の小区画室19に面する壁部にはスロットを作り、このスロットに閉塞板を嵌め込むようにしている。実験では海水では無く精水(水道水)を用いる。実験で精水を排水するポンプは、3つのダイヤフラムポンプを連動させて脈動を抑え、リニアに吸引できるプロセスポンプ(株式会社タクミナ社製、FXD-FXW-8)を用いた。また、タンク水位の計測にはデジタル超音波センサ(株式会社キーエンス社製、FW-02)を用いた。積算流量はタンク水位によるタンク内の精水の体積変化から求める。なお、実験では積算流量とポンプ吸引量との比較を行って整合性を得ている。
【0025】
残留水(残留バラスト水に相当)の排水時間に関係する要因には、ポンプ流量とバラストタンク内の流れの影響を考慮して、残留水の排水量の違いを見るために、実験では1) ポンプの吸込口21(吸込ベルマウスB)の設置位置、2) ポンプ吸引量、3) 通水孔25の大きさ、4) 縦方向小区画室列20Lの設定の有無の4つの要素が検討できるように設計した。なお、実験では、ストリッピングポンプの切替は考慮せず、ポンプ流量を一定にして残留水の最終段階では空気を巻き込みながら吸引していることから5mm程度残水がある。
【0026】
[実験の結果]
以下に実験結果を示す。
【0027】
(1) 吸込口21を設置する小区画室の設置位置
図3に、図2(B)の排水構造において、吸込口21を設置する小区画室の違いによる残留水の排水量の経時変化を示す。なお、実験では、実船との幾何学的な1/10スケールを保持して、ポンプ容量を1,000 ton/h. 相当(実験では27.8L/sec.)、縦フレーム材17の高さ300mm(実験では30mm)、初期水位を500mm 相当(実験では50mm)として、通水孔25を形成するスリットの開口寸法は横幅B. 240 mm ×高さH. 90mm(実験ではB. 24 mm ×H. 9mm)としている。ポンプ容量やトリムの有無にも積算流量への影響があるポンプ容量は固定し、トリムは無しとしている。この図3によると、吸込口21を設置する小区画室は、センタラインより幅方向に1区画ずらした小区画室(2−2)や小区画室(1−2)を選択する方が排水効率がよく、特に小区画室(2−2)への吸込口21の設置が良いことが判る。特に小区画室(1−1)への設置は効率が悪い。
【0028】
(2) ポンプ流量
図4にポンプ容量の大きさの違いによる排水量の経時変化を示す。図4にはポンプ容量を実船でのポンプ相当容量として示している。実験では、吸込口21を小区画室(2−2)に設置し、縦フレーム17の高さを30mm、初期水位を50mmとして、通水孔25を設けるスリットの開口寸法は幅B. 18 mm ×高さH. 9 mm としている。図4からは、ポンプ容量が相対的に小さい場合には、大きな排水量は得られないが、ポンプ容量を増やした場合には収束値が現れ、この場合には、800ton/h. と1,000ton/h. はほぼ一致している。このため図4は、ポンプ容量を増やしたとしても効果が表れにくい場合があることを示している。
【0029】
(3) 通水孔25の大きさ
図5に通水孔25の開口部の大きさの違いによる排水量の経時変化を示す。実験では、ポンプ容量を1,000 ton/h. 相当として、吸込口21の設置位置を小区画室(2−2)として、縦フレーム材17の高さを30mm、初期水位を50mmとしている。
【0030】
図5には通水孔25の開口の幅を一定値の9mmとした場合の高さの違いによる排水量の経時変化を示す。開口の高さを増大させていくと、収束値が現れ、この場合は、B. 9 mm ×H. 18mm とB. 9 mm ×H. 24mm はほぼ一致している。このため開口の高さを増大したとしても効果が表れにくい場合があることを示している。図6には、実験に用いた通水孔25の形状と寸法を示してある。
【0031】
図7には通水孔25の開口の高さを一定値の9mmとした場合の幅の違いによる排水量の経時変化を示す。開口の幅を増大させていくと、排水量が増大していく、特に、この場合にはB. 24 mm ×H. 9 mm の場合に効果が大きく表れている。
【0032】
(4) 縦方向小区画室列20Lの設置
図2(A)に示すように、縦方向小区画室列20Lを設置することにより各区画のドレンホールの開口数を減らしながらも、排水効率を上げることができるかを検討した。ここでは、図2(A)に示すように、横方向小区画室列20Wを構成する4つの小区画(2−1)〜(2−4)の1つを含んで船舶の縦方向Lに並ぶ複数の小区画室[(1−1)〜(4−1),(1−2)〜(4−2),(1−3)〜(4−3),(1−4)〜(4−4)]からなる4つの縦方向小区画室列20Lにそれぞれ含まれる複数の小区画室のそれぞれが、複数のフロア材13をそれぞれ貫通する複数の通水孔(縦方向通水孔)25によって連通状態にある場合について考える。
【0033】
図8に縦方向小区画室列20Lを設定した場合の通水孔25の開口部の大きさの違いによる排水量の経時変化を示す。この図では通水孔25の開口の高さを一定値の9mmとした場合の幅さの違いによる排水量の経時変化を示す。開口の幅を増大させていくと、(3) で考察したことと同様に、排水量が増大していく、特に、この場合は、B. 24mm ×H. 9 mm の場合に効果が表れている。
【0034】
また、通水孔25の開口の幅を一定値の9mmとした場合の高さの違いによる排水量の経時変化では、(3) で考察したことと同様に収束値が現れ、開口高さを増やしたとしても効果が表れにくいことが分かった。
【0035】
図9には縦方向小区画室列20Lの特徴を明確にするために、縦方向小区画室列20Lの設置の有無について通水孔25の開口の幅と高さをB. 24 mm ×H. 9 mm とB. 18 mm ×H. 9 mmとした場合の排水量の経時変化を比較して示している。この図によると、縦方向小区画室列20Lの設置が無く通水孔25の開口数が多い場合には、排水量は大きくなる。しかしながら、縦方向小区画室列20Lの設置が無い場合の通水孔(B. 18 mm ×H. 9 mm )と縦方向小区画室列20Lを設置した場合の通水孔(B. 24 mm ×H. 9 mm)の排水量の経時変化はほぼ同等であることから、縦方向小区画室列20Lの設置は通水孔25の開口数の削減には有効であることが分かった。
【0036】
この実験からは、以下の知見が得られた。
【0037】
1) ポンプの吸込口21の小区画室の設置位置については、吸込口21の位置はタンクセンターラインよりも離すことや、バルクヘッドから離す方が排水効率改善に繋がる。
【0038】
2) ポンプ容量をいたずらに増大させても吸込口21を設置した小区画室の水位の低下が大きくなり、効果は薄い。適正なポンプ容量の選択が排水効率の改善に望ましい。
【0039】
3) 通水孔25の大きさは、通水孔25の開口高さよりも開口幅が排水効率改善に有利に働く。
【0040】
4) 縦方向小区画室列20Lの設定が排水効率改善に効果的に働くことが期待でき、通水孔25の開口数の削減に有効である。
【0041】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、横方向小区画室列20Wを設けて、しかも縦方向小区画室列20Lの通水孔25の位置、数及び開口面積を適宜に定めることにより、目的を達成する。したがって縦方向小区画室列20Lに含まれる小区画室の一部において、縦フレーム材17に通水孔25が形成されている場合があっても、これが本発明の技術的範囲から完全に排除されるものではない。
【0042】
[その他]
複数の横方向通水孔のそれぞれの開口面積及び複数の縦方向通水孔の開口面積は、横方向小区画室列内の隣り合う二つの小区画室内の水位差が0に近い状態になるように定められているのが好ましい。このような状態にすると、横方向小区画室列の吸込機能を高めることができる。
【0043】
また実際のバラストタンクに本発明を適用する場合には、図10に示すように多数の大区間室と小区画室を備えた構成になる。図10の場合には、16の大区画室15A乃至15Pと64の小区画室が設けられている。この例では、2つの大区画室15B及び15Jの二つに含まれる8つの小区画室19が直接に接続されて横方向小区画室列20Wが構成されており、また8つの縦方向小区画室列20Lは、それぞれ8個の小区画室19が直列に接続されて、構成されている。
【0044】
図10のような多数の小区画室だけでは、残留バラスト水の排出時間が長くなる場合には、破線で示したように例えば小区画室(2−4)にさらに別の吸込ベルマウスを設けてもよい。また2つの大区画室15C及び15Kに含まれる8つの小区画室19を直接に接続して追加の横方向小区画室列を形成するようにしてもよい。この場合には、この追加の横方向小区画室列に含まれる少なくとも1つの小区画室にも吸込ベルマウスを配置するのが好ましい。なお本発明により得られる効果に大きな影響がない場合には、吸込ベルマウスからある程度の距離、離れた位置にあるガーダ材11または縦フレーム材17の一部に通水孔25を設けたものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0045】
吸込ベルマウスの好ましい配置位置は、バラストポンプ容量,吸込管の口径,小区画室の縦フレーム材の間隔等,様々な要因によって異なる。本実施の形態の吸込ベルマウスの配置位置は、船体を縦方向の後ろ側に傾けながら残留バラスト水を排出する排水方式を採用する場合の例である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれは、通水孔の数及び面積を減らしても、残留バラスト水の排水時間が著しく長くなることがなく、しかもバラストタンクの作成作業工数を減らすことができて、バラストタンクの機械的強度の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 バラストタンク
3 船底外板
5 内底板
7 ビルジホッパタンク
9 板骨構造
11 ガーダ材
13 フロア材
15,15A〜15P 大区画室
17 縦フレーム材
19 小区画室
20W 横方向小区画室列
20L 縦方向小区画室列
21 吸込口
23 流水孔
25 通水孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10