【解決手段】本発明に従えば、銀ナノプレートを金で被覆する際に、金イオンの錯化剤を使用し、かつ、銀濃度を一定値以下にし、金濃度を一定値以上にして、両濃度が所定の関係を満たすようにそれらを調整することによって、粒子径が小さい割に厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを安定に作製することができる。
請求項1〜5のいずれか1項に記載の懸濁液中の前記金被覆銀ナノプレートに、前記被験物質に対する特異的結合物質を担持させて、請求項6に記載の懸濁液を調製する工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銀ナノプレートを金で被覆することによって、酸化耐性を付与することができるものの、薄い被膜ではその保護効果は不十分であった。一方、金層を厚くするために被覆工程における金の濃度を高くすると、銀は金よりも電気陰性度が低いため電子を放出してイオン化しすくなり、結果としてコアの銀ナノプレートから銀が溶出して被覆前後で光学特性が変化してしまう。特に粒子径の小さい銀ナノプレートは、比表面積が大きいため、酸化の影響を受けやすい。さらに、成長した金層が他の粒子の金層と接触すると、凝集塊が形成されてしまう。そこで、本発明は、粒子径が小さい割に厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを安定に提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、銀ナノプレートを金で被覆する際に、金イオンの錯化剤を使用し、かつ、銀濃度と金濃度のバランスを調整することによって、粒子径が小さい割に厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを安定に作製できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す金被覆銀ナノプレートの懸濁液及びその乾燥物及び製造方法、当該懸濁液を使用して被験物質を検出する方法、並びに、被験物質を検出するためのキットを提供するものである。
〔1〕コアとしての銀ナノプレートと、前記銀ナノプレートを被覆する金層とを有する金被覆銀ナノプレートの懸濁液であって、
前記銀ナノプレートの平均粒子径が、55nm以下であり、前記金層が、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に形成されており、
前記銀ナノプレートの平均粒子径(D)に対する前記端面での前記金層の平均厚み(T)の比率(T/D)が0.05以上であり、
前記懸濁液が可視光領域に極大吸収波長を有し、前記懸濁液の波長900nmにおける消光度(E
900)に対する前記極大吸収波長における消光度(E
max)の比率(E
max/E
900)が5以上である、懸濁液。
〔2〕前記金層の平均厚みが、1.5nm〜10.0nmである、前記〔1〕に記載の懸濁液。
〔3〕前記コアとしての銀ナノプレートのアスペクト比が、1より大きく10以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の懸濁液。
〔4〕前記極大吸収波長が、400nm〜680nmに存在している、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の懸濁液。
〔5〕前記極大吸収波長における消光度が2以上である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の懸濁液。
〔6〕前記金被覆銀ナノプレートが、被験物質に対する特異的結合物質を担持している、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の懸濁液。
〔7〕前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の懸濁液の乾燥物。
〔8〕前記〔6〕に記載の懸濁液を使用して、被験物質を検出する方法であって、
前記懸濁液中の前記金被覆銀ナノプレートと前記被験物質とを接触させて、これらの複合体を形成する工程、及び、
前記複合体を検出する工程を含む、方法。
〔9〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の懸濁液中の前記金被覆銀ナノプレートに、前記被験物質に対する特異的結合物質を担持させて、前記〔6〕に記載の懸濁液を調製する工程をさらに含む、前記〔8〕に記載の方法。
〔10〕前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の懸濁液又は前記〔7〕に記載の乾燥物を含む、被験物質を検出するためのキット。
〔11〕コアとしての銀ナノプレートと、前記銀ナノプレートを被覆する金層とを有する金被覆銀ナノプレートの製造方法であって、
平均粒子径が55nm以下の銀ナノプレート、金含有水溶性化合物、及び金イオンの錯化剤を含む被覆混合液を調製して、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に前記金層を形成する工程を含み、
前記銀ナノプレートの平均粒子径(D)に対する前記端面での前記金層の平均厚み(T)の比率(T/D)が0.05以上であり、
前記被覆混合液において、銀濃度(C
Ag)が0.25mM以下であり、金濃度(C
Au)が0.1mM以上であり、かつC
Agに対するC
Auの比率(C
Au/C
Ag)が0.50以上である、製造方法。
〔12〕前記錯化剤が、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、シアン塩、チオ硫酸、及びチオ尿素からなる群から選択される少なくとも1種である、前記〔11〕に記載の製造方法。
〔13〕コアとしての銀ナノプレートと、前記銀ナノプレートを被覆する金層とを有する金被覆銀ナノプレートの懸濁液を用意する工程と、
前記懸濁液と被験物質に対する特異的結合物質との混合液を調製して、前記金被覆銀ナノプレートと前記特異的結合物質とを接触させる工程と
を含む、前記特異的結合物質を担持している金被覆銀ナノプレートの製造方法であって、
前記銀ナノプレートの平均粒子径が、55nm以下であり、前記金層が、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に形成されており、
前記銀ナノプレートの平均粒子径(D)に対する前記端面での前記金層の平均厚み(T)の比率(T/D)が0.05以上であり、
前記懸濁液が可視光領域に極大吸収波長を有し、前記懸濁液の波長900nmにおける消光度(E
900)に対する前記極大吸収波長における消光度(E
max)の比率(E
max/E
900)が5以上であり、
前記懸濁液の極大吸収波長における消光度が2以上であり、前記接触工程における前記特異的結合物質の濃度が、前記混合液全体の容量に対して100μg/mL以下である、製造方法。
〔14〕前記懸濁液の極大吸収波長における消光度が100以下であり、及び/又は、
前記接触工程における前記特異的結合物質の濃度が、前記混合液全体の容量に対して0.5μg/mL以上である、前記〔13〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従えば、銀ナノプレートを金で被覆する際に、金イオンの錯化剤を使用し、かつ、銀濃度を一定値以下にし、金濃度を一定値以上にして、両濃度が所定の関係を満たすようにそれらを調整することによって、粒子径が小さい割に厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを安定に作製することができる。したがって、酸化耐性に優れた粒子径の小さい金被覆銀ナノプレートを作製することが可能となる。粒子径が小さい金被覆銀ナノプレートは可視光領域に極大吸収波長を有するため、イムノクロマトグラフィーなどの目視判定を必要とする被験物質の検出方法のマルチカラー化を図ることができる。また、粒子径が小さく厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートは、分散性が高く、被験物質に対する特異的結合物質を効率的に担持することができるため、当該特異的結合物質の使用量を節約することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、コアとしての銀ナノプレートと、前記銀ナノプレートを被覆する金層とを有する金被覆銀ナノプレートの懸濁液に関している。本明細書に記載の「銀ナノプレート」とは、銀から製造されたナノメートル(nm)オーダーの大きさを持つプレート(板)状粒子のことをいい、主平面となる上面及び下面、並びに、当該上面及び下面の間の端面(側面)を備えている。前記銀ナノプレートの上面と下面の形状は、特に制限されないが、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形(角が丸みを帯びた形状を含む)又は円形などであってもよい。前記金被覆銀ナノプレートにおいては、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に前記金層が形成されており、いわゆる銀ナノプレートと金層のコアシェル構造が形成されている。
【0010】
前記銀ナノプレートの主平面の最大長径を粒子径といい、これは、例えば円形の場合は直径に相当し、三角形の場合は最大辺の長さに相当する。前記銀ナノプレートの上面と下面で最大長径が異なる場合には、長い方をその銀ナノプレートの最大長径とする。本発明の懸濁液に使用される銀ナノプレートの平均粒子径は、約55nm以下であり、好ましくは約50nm以下、約40nm以下、又は約30nm以下である。前記銀ナノプレートの平均粒子径の下限値は、特に限定されないが、例えば、約1nm以上であってもよく、好ましくは約10nm以上である。また、前記銀ナノプレートの平均厚さは、特に制限されないが、例えば、約20nm以下であってもよく、好ましくは約3〜約15nmである。なお、前記銀ナノプレートの粒子径及び厚さは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)観察、走査透過電子顕微鏡(STEM)観察、又は透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行って計測してもよく、粒子径に関しては動的光散乱式粒度分布測定装置(DLS)で測定してもよい。SEM観察写真、STEM観察写真、又はTEM観察写真を用いて前記銀ナノプレートの粒子径を計測する場合には、任意の銀ナノプレート100個の粒子径を計測した合計100点のデータから、上下10%を除いた80点のデータを用意し、それらの平均値を求めることによって平均粒子径を算出してもよい。
【0011】
最大長径対最大長径に直交する幅の比、すなわち「最大長径/厚さ」で定義される指数を「アスペクト比」といい、これはナノプレートの形状を表すための指標の1つとして用いることができる。銀ナノプレートの形状が変わると、その極大吸収波長の位置も変化するので、銀ナノプレートのアスペクトは、極大吸収波長の指標ともいえる。本発明の懸濁液においては、前記銀ナノプレートのアスペクト比は、特に制限されないが、例えば、約1より大きくてもよく、好ましくは約1.5〜約10である。アスペクト比がこのような範囲にあると、水懸濁液中における表面プラズモン共鳴による極大吸収波長を可視光領域に調節しやすい。
【0012】
前記金被覆銀ナノプレートの金層は、前記銀ナノプレートの平均粒子径(D)に対する前記端面での前記金層の平均厚み(T)の比率(T/D)が、約0.05以上、好ましくは約0.1以上であり、さらに好ましくは約0.16以上となるように形成されている。ある態様では、T/Dは、約0.5以下、約0.4以下、又は約0.3以下であってもよい。ある態様では、前記金層の平均厚みは、約1.5nm〜約10.0nm又は約2.0nm〜約10.0nm、好ましくは約2.0nm〜約8.0nmである。前記金層の厚さがこのような範囲であると、前記銀ナノプレートの光学特性を維持しつつ、当該銀ナノプレートの酸化をより効果的に抑制することができる。なお、前記端面での前記金層の厚みは、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF−STEM)を用いて測定することができる。具体的には、HAADF−STEM観察写真から選択した任意の粒子10個について、各粒子の任意の端部10点で金の厚さを測定した合計100点のデータから、上下10%を除いた80点のデータを用意し、それらの平均値を求めることによって平均厚み(T)を算出してもよい。
【0013】
また、前記端面での前記金層の厚みは、透過走査顕微鏡を用いて測定した金被覆前後の銀ナノプレートの大きさから算出することもできる。例えば、銀ナノプレートの主平面の形状が円形状の場合には、金被覆前の平均粒子径(a)及び金被覆後の平均粒子径(b)を測定し、以下の式:
T=(b−a)/2
によって平均厚み(T)を算出することができる。銀ナノプレートの主平面の形状が正三角形状の場合には、金被覆前の正三角形の平均高さ(c)及び金被覆後の正三角形の平均高さ(d)を測定し、以下の式:
T=(d−c)/3
によって平均厚み(T)を算出することができる。
【0014】
本発明の懸濁液が呈する色調は、コアとなる銀ナノプレートの大きさ及び/又は形状と金層の厚さを調整し、前記金被覆銀ナノプレートの極大吸収波長を変化させることによって調整することが可能である。すなわち、前記銀ナノプレートの大きさ及び形状は、その後の金被覆による極大吸収波長の変化を考慮し、本発明の懸濁液が可視光領域に極大吸収波長を有するように調整されている。ある態様では、前記極大吸収波長は、約400nm〜約680nmに存在している。
【0015】
本発明の懸濁液中の金被覆銀ナノプレートは、粒子径の均一性が高いため、その懸濁液はシャープな分光スペクトルを示す。すなわち、本発明の懸濁液の色彩は鮮やかであり、彩度が高い。前記懸濁液の波長900nmにおける消光度(E
900)に対する前記極大吸収波長における消光度(E
max)の比率(E
max/E
900)は、約5以上、好ましくは約10以上である。ある態様では、本発明の懸濁液においては、前記極大吸収波長における消光度が約2以上又は約4以上であってもよく、好ましくは約2〜約100、更に好ましくは約2〜約50、又は約2〜約20である。特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の懸濁液中の金被覆銀ナノプレートは厚い金層を有しているため、高濃度でも安定に存在し得ると考えられる。
【0016】
本発明の懸濁液中の金被覆銀ナノプレートを調製するための銀ナノプレートとしては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができ、例えば、市販品を用いてもよく、公知の製造方法や後述の実施例に記載の方法に従って製造したものを用いてもよい。他方、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に、上述の条件を満たすような比較的厚い金層を形成しようとする場合、単純に被覆工程における金の濃度を高くしただけでは、銀は金よりも電気陰性度が低いため電子を放出してイオン化しやすくなり、結果としてコアの銀ナノプレートから銀が溶出して被覆前後で光学特性が変化してしまう。特に、本発明の懸濁液における銀ナノプレートは、粒子径が比較的小さく、比表面積が大きいため、酸化の影響を受けやすい。さらに、成長した金層が他の粒子の金層と接触すると、凝集塊が形成されてしまう。そこで、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に前記金層を形成する工程においては、銀濃度(C
Ag)が0.25mM以下であり、金濃度(C
Au)が0.1mM以上であり、かつC
Agに対するC
Auの比率(C
Au/C
Ag)が0.50以上となるように、前記銀ナノプレート、金含有水溶性化合物、及び金イオンの錯化剤を含む被覆混合液を調製して、所定の時間静置する。このような被覆混合液を用いれば、前記金被覆銀ナノプレートを効率よく安定に作製することができる。より詳細には後述を参照されたい。
【0017】
本発明の懸濁液においては、固体の金被覆銀ナノプレートが液体の分散媒中に懸濁されている。前記分散媒は、前記金被覆銀ナノプレートを分散できるものであれば特に制限なく採用できるが、例えば、水、水性緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、HEPES緩衝液など)、アルコール類(エタノール、メタノールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、及びテトラヒドロフランなどを1種類又はそれ以上含んでもよく、好ましくは、生化学実験において好適である水又は水性緩衝液を含む。本発明の懸濁液は、静置状態で前記分散媒中に前記金被覆銀ナノプレートが分散しているものであってもよく、静置状態ではそれが沈降しているが振盪や超音波処理によって分散状態になるものであってもよい。
【0018】
本発明の懸濁液は、水溶性高分子を任意に含んでもよく、含まなくてもよい。本明細書に記載の「水溶性高分子」とは、分子量が500以上、好ましくは500〜1,000,000、さらに好ましくは500〜100,000の水溶性物質のことをいう。本明細書に記載の「水溶性」とは、常温常圧下で高分子が水に0.001質量%以上溶解することをいう。前記水溶性高分子としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸又はそのナトリウム塩、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアリルアミン、デキストラン、ポリメタクリルアミド、ポリビニルフェノール、ポリ安息香酸ビニル、リン脂質ポリマー、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、又は、ビス(p−スルホナトフェニル)フェニルホスフィンを使用してもよく、これらは、前記金被覆銀ナノプレートと化学結合する官能基である水酸基、メルカプト基、ジスルフィド基、アミノ基、カルボキシル基などで修飾されていてもよい。好ましくは、前記水溶性高分子は、ポリスチレンスルホン酸又はそのナトリウム塩、PVP、又は、チオール末端ポリエチレングリコールである。
【0019】
本発明の懸濁液に含まれる水溶性高分子の種類は、その懸濁液の用途に応じて選択することができる。例えば、生体実験や細胞実験に使用する場合、生体適合性が良好なポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコールなどを用いてもよい。本発明の懸濁液が水溶性高分子を含む場合には、その懸濁液中に溶解又は分散している水溶性高分子の濃度は、例えば100μM以下であってもよく、好ましくは50μM以下、さらに好ましくは10μM以下である。あるいは、前記水溶性高分子の濃度は、例えば1質量%以下であってもよく、好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。本発明の懸濁液に水溶性高分子を配合すると、前記懸濁液中において前記金被覆銀ナノプレートの分散安定性が向上する。特定の理論に拘束されるものではないが、水溶性高分子の濃度が100μM以下又は1質量%以下であると、その濃度が100μM又は1質量%を超える場合と比較して、例えば、本発明の懸濁液を被験物質の検出のために用いる際に、被験物質に対する特異的結合物質が前記金被覆銀ナノプレートに良好に担持されるか、又は、被験物質に対する特異的結合物質を担持した前記金被覆銀ナノプレートが被験物質と安定した複合体を形成するため、結果としてその被験物質の検出感度を高めることができる。
【0020】
水溶性高分子の濃度の測定方法として、核磁気共鳴分光法(NMR)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC))、示唆熱・熱重量測定(TG−DTA)などが挙げられる。NMRの場合、本発明の懸濁液を乾燥させ、得られた固形分を重溶媒で溶解(分散)させて測定する。重溶媒には既知濃度の内部標準物質(例えば、マレイン酸)を予め添加し、得られたスペクトル中の水溶性高分子由来のシグナルの積分値と内部標準物質由来のシグナルの積分値を比較することで水溶性高分子の濃度を算出することができる。また、GPCの場合、初めに複数の既知濃度の水溶性高分子水溶液を分析し、得られたチャート中の水溶性高分子由来のピーク面積より検量線を作成する。次に、本発明の懸濁液を測定し、得られたチャート中の水溶性高分子由来のピーク面積より水溶性高分子の濃度を算出することができる。さらに、TG−DTAの場合、本発明の懸濁液の乾燥固形分を測定した際の、重量変化から水溶性高分子量を算出することができる。
【0021】
本発明の懸濁液は、クエン酸ナトリウムを任意に含んでもよく、含まなくてもよい。クエン酸ナトリウムが含まれていると、前記懸濁液中の前記金被覆銀ナノプレートの分散性が向上する。前記懸濁液がクエン酸ナトリウムを含む場合には、その懸濁液中のクエン酸ナトリウムの濃度は、例えば50mM以下であってもよく、好ましくは25mM以下、さらに好ましくは13mM以下である。クエン酸ナトリウムの濃度が50mM以下であると、前記懸濁液中の前記金被覆銀ナノプレートは凝集しにくい。
【0022】
本発明の懸濁液は、前記金被覆銀ナノプレートへ悪影響を与えない限り任意の成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、金被覆銀ナノプレートを製造する際に用いた試薬(例えば、水素化ホウ素ナトリウムやアスコルビン酸)や分散剤(例えば、分子量が500より小さいポリエチレングリコール)などが挙げられる。
【0023】
ある態様では、本発明の懸濁液は、被験物質を検出することを目的として、被験物質に対する特異的結合物質、すなわち検出試薬を標識するために用いることができる。換言すると、前記金被覆銀ナノプレートは、被験物質に対する特異的結合物質を担持することができる。本明細書に記載の「担持」とは、共有結合若しくは非共有結合又は直接的若しくは間接的な結合などの様式にかかわらず、前記金被覆銀ナノプレートと被験物質に対する特異的結合物質とが結合して複合体を形成していることを意味している。担持の方法としては、通常の担持方法を特に制限なく用いることができ、物理吸着、化学吸着(表面への共有結合)、化学結合(共有結合、配位結合、イオン結合又は金属結合)等を利用して、前記金被覆銀ナノプレートと被験物質に対する特異的結合物質とを直接的に結合させる方法や、前記金被覆銀ナノプレートの表面に前述の水溶性高分子の一部を結合させて、その水溶性高分子の末端又は主鎖若しくは側鎖に、直接的又は間接的に被験物質に対する特異的結合物質を結合させる方法を採用することができる。例えば、被験物質に対する特異的結合物質が抗体である場合には、前記金被覆銀ナノプレートと抗体の溶液とを混合し、振盪し、遠心分離することで、抗体を担持した金被覆銀ナノプレート(標識された検出試薬)を沈殿物として得ることができる。また、前記金被覆銀ナノプレートと抗体とを静電吸着により担持させる場合、マイナス電荷を有するポリスチレンスルホン酸で前記金被覆銀ナノプレート表面を被覆すると、前記抗体の担持効率が向上し得る。なお、前記被験物質に対する特異的結合物質は、前記水溶性高分子と同様に、本発明の懸濁液中での前記金被覆銀ナノプレートの分散安定性を向上し得るので、特に前記被験物質に対する特異的結合物質を担持する金被覆銀ナノプレートの分散剤としても好適である。
【0024】
前記被験物質に対する特異的結合物質としては、検出の対象である被験物質を、該被験物質との複合体形成により検出できるものであって、前記金被覆銀ナノプレートを標識として利用することができるものであれば、特に制限なく用いることができる。被験物質と被験物質に対する特異的結合物質との組み合わせの具体例としては、抗原とそれに結合する抗体、抗体とそれに結合する抗原、糖鎖又は複合糖質とそれに結合するレクチン、レクチンとそれに結合する糖鎖又は複合糖質、ホルモン又はサイトカインとそれに結合する受容体、受容体とそれに結合するホルモン又はサイトカイン、タンパク質とそれに結合する核酸アプタマー若しくはペプチドアプタマー、酵素とそれに結合する基質、基質とそれに結合する酵素、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジン、アビジン又はストレプトアビジンとビオチン、IgGとプロテインA又はプロテインG、プロテインA又はプロテインGとIgG、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)とホスファチジルセリン(PS)、PSとTim4、あるいは、第1の核酸とそれに結合する(ハイブリダイズする)第2の核酸等があげられる。前記第2の核酸は、前記第1の核酸と相補的な配列を含む核酸であってもよい。
【0025】
被験物質が抗原である場合には、該抗原に対する特異的結合物質は抗体であってもよい。前記抗体は、前記抗原に対して特異的に結合するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体又はそれらの断片であってもよく、該断片は、F(ab)フラグメント、F(ab’)フラグメント、F(ab’)
2フラグメント又はF(v)フラグメントであってもよい。被験物質としての抗原は、コンカナバリンA(ConA)、麦芽アグルチニン及びリシンなどのレクチンであってもよく、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス及びB型肝炎ウイルス、ジカウイルス、デングウイルスなどのウイルス又はそれらが有する物質(例えば、B型肝炎ウイルス抗原(HBs抗原)又はインフルエンザウイルスのヘマグルチニン)であってもよく、アスペルギルス・フラバス、クラミジア、梅毒トレポネーマ、溶連菌、炭疽菌、黄色ブドウ球菌、赤痢菌、大腸菌、サルモネラ菌、ネズミチフス菌、パラチフス菌、緑膿菌及び腸炎ビブリオ菌などの病原性微生物又はそれらが有する物質(例えば、アスペルギルス・フラバスのアフラトキシン(B1、B2、G1、G2又はM1など)、腸管出血性大腸菌のベロ毒素又は溶連菌のストレプトリジンO)であってもよく、免疫グロブリンG(IgG)、リウマチ因子及びC反応性タンパク質(CRP)などの血中タンパク質であってもよく、ムチンなどの糖タンパク質であってもよく、インスリン、下垂体ホルモン(例えば、成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、プロラクチン、又はメラニン細胞刺激ホルモン(MSH))、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、甲状腺ホルモン(例えば、ジヨードサイロニン又はトリヨードサイロニン)、絨毛性ゴナドトロピン、カルシウム代謝調節ホルモン(例えば、カルシトニン又はパラトルモン)、膵ホルモン、消化管ホルモン、血管作動性腸管ペプチド、卵胞ホルモン(例えば、エストロン)、天然又は合成黄体ホルモン(例えば、プロゲステロン)、男性ホルモン(例えば、テストステロン)、及び副腎皮質ホルモン(例えば、コルチゾール)などのホルモンであってもよく、セロトニン、ウロキナーゼ、フェリチン、サブスタンP、プロスタグランジン及びコレステロールなどのその他生体内物質であってもよく、前立腺性酸性フォスファターゼ(PAP)、前立腺特異抗原(PSA)、アルカリ性フォスファターゼ、トランスアミナーゼ、トリプシン、ペプシノーゲン、α−フェトプロテイン(AFP)及び癌胎児性抗原(CEA)などの腫瘍マーカーであってもよく、血液型抗原などの糖鎖抗原であってもよく、ヘモグロビン及びトランスフェリンなどの便潜血の検出に用いられるマーカーであってもよく、血液凝固・線溶系において活性型第XIII因子作用によりクロスリンクを受けた安定化フィブリンがプラスミンによって分解されたフィブリン分解産物の一種であるDダイマーであってもよく、細胞外小胞が有するタンパク質や核酸であってもよい。そして、被験物質である抗原がホルモン又はサイトカインなどの生体内物質である場合には、該生体内物質に対する特異的結合物質は、抗体だけでなく受容体であってもよく、被験物質である抗原が糖鎖又は糖鎖を有する複合糖質である場合には、該糖鎖又は糖鎖を有する複合糖質に対する特異的結合物質は、抗体だけでなくレクチンであってもよい。また、被験物質としての抗原は、ペニシリン及びカドミウムなどのハプテンであってもよい。
【0026】
被験物質が抗体である場合には、該抗体に対する特異的結合物質は抗原であってもよい。前記抗原は、前記抗体に対して特異的に結合する抗原全体又はその断片であってもよく、それらを他の担体と結合した融合物質であってもよい。被験物質としての抗体は、抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体又は抗リン脂質抗体などの自己抗体であってもよく、抗クラミジア抗体、抗HIV抗体又は抗HCV抗体などの外来抗原に対する抗体であってもよい。
【0027】
被験物質が糖鎖である場合には、該糖鎖に対する特異的結合物質はレクチンであってもよい。前記レクチンは、前記糖鎖に特異的に結合するガレクチン、C型レクチン、マメ科レクチン又はそれらの断片であってもよい。被験物質としての糖鎖は、単糖又は多糖であってもよく、それらがタンパク質又は脂質に結合した複合糖質であってもよい。例えば、被験物質がマンノースを含む糖鎖である場合には、該糖鎖に対する特異的結合物質としてマメ科レクチンのコンカナバリンA(ConA)を使用することができる。
【0028】
被験物質がレクチンである場合には、該レクチンに対する特異的結合物質は糖鎖であってもよい。前記糖鎖は、前記レクチンに特異的に結合する単糖、多糖、複合糖質又はそれらが他の担体と結合した融合物質であってもよい。被験物質としてのレクチンは、ガレクチン、C型レクチン又はマメ科レクチンであってもよい。例えば、被験物質がマメ科レクチンのコンカナバリンA(ConA)である場合には、該レクチンに対する特異的結合物質としてマンノースを含む糖鎖を使用することができる。
【0029】
被験物質と被験物質に対する特異的結合物質との組み合わせが、タンパク質とそれに結合する核酸アプタマー若しくはペプチドアプタマーである場合には、核酸アプタマーは、例えば、炭疽菌(Bacillus anthracis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、D群赤痢菌・ソンネ赤痢菌(Shigella sonnei)、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、溶連菌(Streptococcus hemolyticus)、パラチフス(Salmonella paratyphi A)、ブドウ球菌エンテロトキシンB(Staphylococcal enterotoxin B)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)等の細菌、ムチン1等の上皮の細胞表面に表れる腫瘍マーカー、若しくはβ−ガラクトシダーゼやトロンビン等の酵素等と結合するDNAアプタマー、又は、ヒト免疫不全ウイルスのTatタンパク質やRevタンパク質と結合するRNAアプタマーであってもよく、ペプチドアプタマーは、例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)の腫瘍性タンパク質HPV16 E6と結合するペプチドアプタマーであってもよい。
【0030】
被験物質がビタミン類である場合には、該ビタミン類に対する特異的結合物質は、ビタミンDと結合するトランスカルシフェリン及びビタミンB12と結合するトランスコバラミンなどのビタミン結合タンパク質であってもよい。被験物質が抗生物質である場合には、該抗生物質に対する特異的結合物質は、ペニシリンに結合するPBP1及びPBP2などのペニシリン結合タンパクであってもよい。
【0031】
被験物質又は被験物質に結合する物質としての核酸は、例えば、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、又は、それらの増幅物であってもよい。
【0032】
別の態様では、本発明は、上述の懸濁液の乾燥物にも関している。本発明の乾燥物は、当技術分野で通常使用される方法によって、前記懸濁液から適宜作製することができる。本発明の乾燥物は、前記金被覆銀ナノプレートを運搬又は保管するのに好適な形態である。ある態様では、前記乾燥物は、凍結乾燥物である。本発明の乾燥物を使用する際には、上述の分散媒を適宜添加して再懸濁し、前記懸濁液を再構成することができる。
【0033】
別の態様では、本発明は、上述の懸濁液を使用して、被験物質を検出する方法にも関しており、当該方法は、前記懸濁液中の前記被験物質に対する特異的結合物質を担持している金被覆銀ナノプレートと、前記被験物質とを接触させて、これらの複合体を形成する工程、及び、前記複合体を検出する工程を含んでいる。前記被験物質に対する特異的結合物質を担持している金被覆銀ナノプレートは、本発明の方法を実施する直前に調製してもよい。換言すれば、本発明の方法は、前記被験物質に対する特異的結合物質を担持していない金被覆銀ナノプレートにそれを担持させて、前記被験物質に対する特異的結合物質を担持している金被覆銀ナノプレートの懸濁液を調製する工程をさらに含んでもよい。また、本発明の方法は、前記被験物質に対する特異的結合物質を担持している金被覆銀ナノプレートの懸濁液の乾燥物を再懸濁する工程をさらに含んでもよい。
【0034】
前記複合体は、被験物質の検出の分野で通常用いられる手段又は凝集物若しくは沈殿物を検出するのに通常用いられる手段を、特に制限なく利用することによって検出することができる。例えば、前記複合体の形成を、消光度測定、吸光度測定、粒度分布測定、粒子径測定、ラマン散乱光測定、色調変化の観察、凝集又は沈殿形成の観察、イムノクロマトグラフィー法、電気泳動、及び、フローサイトメトリーから成る群から選択される手段によって検出してもよい。
【0035】
別の態様では、本発明は、上述の懸濁液又は乾燥物を含む、被験物質を検出するためのキットにも関している。本発明のキットは、被験物質の標準品、イムノクロマト試験紙(テストストリップ)、又は、使用方法を記載した取扱説明書などをさらに含んでもよい。
【0036】
別の態様では、本発明は、コアとしての銀ナノプレートと、前記銀ナノプレートを被覆する金層とを有する金被覆銀ナノプレートの製造方法にも関しており、当該方法は、平均粒子径が55nm以下の銀ナノプレート、金含有水溶性化合物、及び金イオンの錯化剤を含む被覆混合液を調製して、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に前記金層を形成する工程を含んでいる。前記金層は、前記被覆混合液を所定の時間静置することによって形成され得る。前記銀ナノプレートの平均粒子径(D)に対する前記端面での前記金層の平均厚み(T)の比率(T/D)は、約0.05以上であり、好ましくは約0.1以上であり、さらに好ましくは約0.16以上である。ある態様では、T/Dは、例えば約0.5以下、約0.4以下、又は約0.3以下であってもよい。
【0037】
前記被覆混合液において、銀濃度(C
Ag)は、約0.25mM以下であり、好ましくは約0.20mM以下である。前記被覆混合液において、金濃度(C
Au)は、約0.1mM以上であり、好ましくは約0.13mM以上である。そして、前記被覆混合液において、C
Agに対するC
Auの比率(C
Au/C
Ag)は、約0.50以上であり、好ましくは約1.00以上である。ある態様では、C
Au/C
Agは、例えば約3.50以下又は約3.00以下であってもよい。特定の理論に拘束されるものではないが、このような条件下で前記銀ナノプレートの金被覆処理を行うと、前記銀ナノプレートからの銀の溶出による光学特性の変化が抑えられ、かつ、金層の形成中に生じ得る凝集塊の発生も抑えられるため、均一性の高い金被覆銀ナノプレートを効率よく安定に作製することができると考えられる。
【0038】
本明細書に記載の「金含有水溶性化合物」とは、金原子を構成要素として含む水溶性化合物のことをいう。前記金含有水溶性化合物は、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に金層を形成できる限り特に制限されないが、例えば、塩化金(III)酸又はそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、シアン化金(I)カリウム、シアン化金(II)カリウム、又は、亜硫酸金(I)ナトリウムなどであってもよく、好ましくは、塩化金(III)酸又はそのナトリウム塩若しくはカリウム塩である。
【0039】
本明細書に記載の「金イオンの錯化剤」とは、金イオンと錯体を形成することができる化合物のことをいう。前記錯化剤は、前記銀ナノプレートの主平面及び端面への金層形成を妨げない限り特に制限されないが、例えば、亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、又は亜硫酸アンモニウムなど)、チオ硫酸塩(チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、又はチオ硫酸アンモニウムなど)、シアン塩(シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、又はシアン化アンモウムなど)、チオ硫酸、チオ尿素、及び、塩化物塩などからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、好ましくは、亜硫酸塩又はチオ硫酸塩などの銀イオンとの錯体形成能が低い化合物(特に亜硫酸ナトリウム又はチオ硫酸ナトリウムなど)である。特定の理論に拘束されるものではないが、前記錯化剤は、前記銀ナノプレートと前記金イオンの接触機会を減らし、被覆反応を穏やかに進めることによって、均一性の高い金被覆銀ナノプレートの安定な作製に寄与し得るものと考えられる。
【0040】
前記被覆混合液は、前記金層の形成を妨げない限り任意の成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、銀ナノプレートを製造する際に用いた試薬(例えば、水素化ホウ素ナトリウムやアスコルビン酸)や分散剤(例えば、分子量が500より小さいポリエチレングリコール)などが挙げられる。
【0041】
別の態様では、本発明は、コアとしての銀ナノプレートと、前記銀ナノプレートを被覆する金層とを有する金被覆銀ナノプレートの懸濁液を用意する工程と、前記懸濁液と被験物質に対する特異的結合物質との混合液を調製して、前記金被覆銀ナノプレートと前記特異的結合物質とを接触させる工程とを含む、前記特異的結合物質を担持している金被覆銀ナノプレートの製造方法にも関している。前記懸濁液において、前記銀ナノプレートの平均粒子径は、約55nm以下であり、好ましくは約50nm以下、約40nm以下、又は約30nm以下である。ある態様では、前記銀ナノプレートの平均粒子径は、約1nm以上であってもよく、好ましくは約10nm以上である。前記金層は、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に形成されている。前記銀ナノプレートの平均粒子径(D)に対する前記端面での前記金層の平均厚み(T)の比率(T/D)は、約0.05以上であり、好ましくは約0.1以上であり、さらに好ましくは約0.16以上である。ある態様では、T/Dは、例えば約0.5以下、約0.4以下、又は約0.3以下であってもよい。前記懸濁液は可視光領域に極大吸収波長を有し、前記懸濁液の波長900nmにおける消光度(E
900)に対する前記極大吸収波長における消光度(E
max)の比率(E
max/E
900)は、約5以上、好ましくは約10以上である。
【0042】
前記懸濁液の極大吸収波長における消光度は、約2以上、好ましくは約4以上である。ある態様では、前記懸濁液の極大吸収波長における消光度は、約100以下、約50以下又は約20以下であってもよい。また、前記接触工程における前記特異的結合物質の濃度は、前記混合液全体の容量に対して約100μg/mL以下、好ましくは約50μg/mL以下である。ある態様では、前記接触工程における前記特異的結合物質の濃度は、約0.5μg/mL以上、好ましくは約1.0μg/mL以上であってもよい。
【0043】
従来の金属ナノ粒子は高濃度では凝集しやすいため、担持させる特異的結合物質が分散剤やブロッキング剤としても作用するような濃度で、両者を接触させる必要があった。他方、本発明の製造方法で使用する前記懸濁液中の金被覆銀ナノプレートは、高濃度でも安定に存在し得るため、担持させる特異的結合物質の濃度を低減させることが可能となったと考えられる。
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
1.調製例
(1)銀ナノプレートの種粒子の調製
2.5mMのクエン酸三ナトリウム水溶液200mLに、0.5g/Lのポリスチレンスルホン酸(分子量70,000)水溶液10mLと、10mMの水素化ほう素ナトリウム水溶液11.5mLとを撹拌しながら添加し、次いで、0.74mMの硝酸銀水溶液200mLを86mL/分で添加した。撹拌停止後、得られた溶液をインキュベーター(30℃)中に60分間静置し、銀ナノプレート種粒子の水分散液(シード懸濁液)を作製した。
【0046】
(2)銀ナノプレート水分散液の調製
蒸留水2000mLに、10mMのアスコルビン酸水溶液45mLと、上記シード懸濁液72mLを撹拌しながら添加した。次いで、7.4mMの硝酸銀水溶液120mLを26mL/分で添加した。得られた溶液に、250mMのクエン酸三ナトリウム水溶液20mLを添加し、撹拌を停止した。得られた溶液を大気雰囲気下のインキュベーター(23℃)中に20時間静置し、銀ナノプレート水分散液1(AgPL懸濁液1)を調製した。このAgPL懸濁液1の銀濃度は0.41mMと計算された。そして、調製された銀ナノプレートの平均粒子径は24.8nmだった。なお、この平均粒子径は、AgPL懸濁液1を走査透過電子顕微鏡(STEM)で観察し、任意の銀ナノプレート100個の最大長径を計測した合計100点のデータから上下10%を除いた80点のデータの平均値を求めることによって算出した。
【0047】
また、上記シード懸濁液の使用量を300mL又は24mLに変えた以外は同様の方法で、AgPL懸濁液2及びAgPL懸濁液3をそれぞれ調製した。調製された銀ナノプレートの平均粒子径は、それぞれ13.2nm(AgPL懸濁液2)及び48.4nm(AgPL懸濁液3)であった。
【0048】
(3)銀ナノプレートの金被覆処理
蒸留水150mLに、24mMの塩化金酸水溶液を14mL、200mMの水酸化ナトリウム水溶液を8mL、10mMの亜硫酸ナトリウム水溶液を103mL混合して、成長溶液1を調製した。そして、蒸留水312mLに、AgPL懸濁液1を312mL、5質量%のポリビニルピロリドン水溶液を69mL、500mMのアスコルビン酸水溶液を14mL、500mMの水酸化ナトリウム水溶液を14mL、100mMの亜硫酸ナトリウム水溶液を3mL、成長溶液1を275mL混合して室温で24時間静置し、金被覆銀ナノプレートの水分散液1(Ag@Au懸濁液1)を調製した。そして、成長溶液1を1.33倍又は2倍に希釈して使用した以外は同様の方法で、Ag@Au懸濁液2及びAg@Au懸濁液3をそれぞれ調製した。Ag@Au懸濁液1〜3を適宜希釈し、分光光度計 V−770(日本分光株式会社製)により測定した分光スペクトルを
図1に示す。そして、Ag@Au懸濁液1〜3中の金被覆銀ナノプレートのSTEM観察写真を、それぞれ
図2〜4に示す。
【0049】
また、AgPL懸濁液1に代えてAgPL懸濁液2又はAgPL懸濁液3を使用し、かつ2.5倍又は2倍に希釈した成長溶液1をそれぞれ使用した以外はAg@Au懸濁液1と同様の方法で、Ag@Au懸濁液4及びAg@Au懸濁液5をそれぞれ調製した。Ag@Au懸濁液4又は5を適宜希釈し、分光光度計 V−770(日本分光株式会社製)により測定した分光スペクトルを
図5に示す。そして、Ag@Au懸濁液4及び5中の金被覆銀ナノプレートのSTEM観察写真をそれぞれ
図6及び7に示し、Ag@Au懸濁液4中の金被覆銀ナノプレートのHAADF−STEM観察写真を
図8に示す。
【0050】
比較例として、金被覆反応時にAgPL懸濁液1を倍量(624mL)使用して蒸留水を使用しなかった以外はAg@Au懸濁液1と同様の方法で、Ag@Au懸濁液6を調製した。また、成長溶液1に代えて成長溶液2(蒸留水25mLに、24mMの塩化金酸水溶液を28mL、200mMの水酸化ナトリウム水溶液を16mL、10mMの亜硫酸ナトリウム水溶液を206mL混合して調製したもの)を使用した以外はAg@Au懸濁液6と同様の方法で、Ag@Au懸濁液7を調製した。Ag@Au懸濁液6又は7を適宜希釈し、分光光度計 V−770(日本分光株式会社製)により測定した分光スペクトルを
図9に示す。そして、Ag@Au懸濁液6及び7中の金被覆銀ナノプレートのSTEM観察写真を、それぞれ
図10及び11に示す。
【0051】
そして、特許文献1(国際公開第2015/182770号)の実施例1に記載の懸濁液A1の調製方法に従って、金被覆銀ナノプレートの水分散液を調製し、炭酸水素ナトリウム水溶液でpHを7.3に調整して、Ag@Au懸濁液8を調製した。Ag@Au懸濁液8を適宜希釈し、分光光度計 V−770(日本分光株式会社製)により測定した分光スペクトルを
図12に示す。
【0052】
(4)金被覆銀ナノプレートの特性
Ag@Au懸濁液1〜8を透過走査顕微鏡で観察し、各懸濁液中の金被覆銀ナノプレートの端面における金層の平均厚みを算出した。具体的には、計算の便宜のため形状が円形状の金被覆銀ナノプレートを選定して平均粒子径を測定し、金被覆前に測定していた平均粒子径との差を2で割って、端面における金層の平均厚みを算出した。表1に、金被覆操作時の混合液の銀濃度及び金濃度、コアの銀ナノプレートの平均粒子径及び端面における金層の平均厚み、並びに、金被覆銀ナノプレートの極大吸収波長及び当該極大吸収波長又は900nmにおける消光度をまとめて示す。
【0053】
【表1】
【0054】
Ag@Au懸濁液1〜5は、いずれも鮮やかな色を呈しており、シャープな分光スペクトルを示した(
図1及び5)。また、いずれの懸濁液においても均一な粒子が形成されていた(
図2〜4及び6〜8)。一方、Ag@Au懸濁液6及び7の呈する色は濁りが感じられ、それらの分光スペクトルにおいては、極大吸収波長より長波長側でも光の吸収が観察された(
図9)。そして、Ag@Au懸濁液6及び7中には、凝集して連なった粒子も多く観察された(
図10及び11)。極大吸収波長より長波長側にも光の吸収が観察され、全体として彩度が低下したのは、このような凝集塊が影響したからだと考えられる。したがって、厚い金層を有する金被覆銀ナノ粒子を均一に作製し、彩度の高い懸濁液を作製するためには、金の錯化剤を添加して金濃度を高くするだけでは足りず、銀濃度を下げて、銀濃度及び金濃度が所定の関係を満たすように調整する必要がある。
【0055】
2.酸化耐性試験例
Ag@Au懸濁液1〜8に対して、終濃度が5%となるように塩化ナトリウム水溶液をそれぞれ添加し、添加前後での色調変化を目視で観察した。また、Ag@Au懸濁液3及び8について、塩化ナトリウム水溶液の添加前後の分光スペクトルを測定して比較した。結果を表2並びに
図13及び14に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
Ag@Au懸濁液1〜7の金被覆銀ナノプレートは厚い金層を有するため、塩化ナトリウムの添加前後で色調は変化せず、分光スペクトルも変化していなかった(表2及び
図13)。一方、Ag@Au懸濁液8の金被覆銀ナノプレートは金層が薄いため、塩化ナトリウムの添加によりコアの銀ナノプレートが容易に酸化し、その形状が変化して、分光スペクトル及び色調が大きく変化してしまった(表2及び
図14)。
【0058】
実施例の金被覆銀ナノプレートの酸化耐性向上作用が、水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)の分散安定化作用とは関係がないことを確認するため、当該金被覆銀ナノプレートを洗浄した後に、塩化ナトリウムによる酸化耐性試験を実施した。具体的には、Ag@Au懸濁液1〜8中の金被覆銀ナノプレートを遠心分離で沈殿させ、上清を除去後、0.5mMのクエン酸三ナトリウム水溶液を添加し、沈殿した金被覆銀ナノプレートを再分散させた。同様の操作を二回繰り返し、Ag@Au懸濁液1’〜8’を調製した。各Ag@Au懸濁液は極大吸収波長における消光度が2.0になるように濃度を調整した。これらの懸濁液に対して、終濃度が5%となるように塩化ナトリウム水溶液をそれぞれ添加し、添加前後での色調変化を目視で観察した。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
洗浄操作を行って水溶性高分子の大部分を除去しても、酸化耐性試験の結果は変わらなかった。すなわち、Ag@Au懸濁液1〜7においては、厚い金層のおかげで塩化ナトリウムの添加前後での懸濁液の色調は変化せず、金層の薄いAg@Au懸濁液8では、塩化ナトリウムの添加によりコアの銀ナノプレートが容易に酸化し、その形状が変化して、色調が大きく変化してしまった(表3)。
【0061】
3.イムノクロマト試験例
Ag@Au懸濁液3中の金被覆銀ナノプレートを遠心分離で沈殿させ、上清を除去後、0.5mMのクエン酸三ナトリウム水溶液を添加し、沈殿した金被覆銀ナノプレートを分散させた。同様の操作を二回繰り返し、最終的に極大吸収波長における消光度が2.0になるように、Ag@Au懸濁液の濃度を調整した。この懸濁液1mLを、5mMのホウ酸緩衝液(pH7.5)で50μg/mLの濃度に希釈した抗ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)抗体溶液0.1mLと混合して、得られた混合液を室温下で60分間静置した。ここへ80μMのポリエチレングリコール溶液(5mMのホウ酸緩衝液中)を0.05mL添加して、得られた懸濁液を室温下で30分間静置した。次いで、0.5mMのウシ血清アルブミン溶液(5mMのホウ酸緩衝液中)を0.100mL添加し、得られた懸濁液を室温下で60分間静置した。これを遠心分離して前記抗体と金被覆銀ナノプレートとの複合体を沈殿させ、上澄み液を除去した。その後、前記複合体に20mMのトリス塩酸緩衝液(8μMのポリエチレングリコール、0.25mMのBSA、及び150mMのNaClを含む)を0.40mL添加して再分散させ、極大吸収波長の消光度が1.0になるように濃度を調整して、展開液3を作製した。また、同様にして、Ag@Au懸濁液4及び5から、それぞれ展開液4及び5を作製した。
【0062】
吸水パッドが一方の端に取付けられている短冊形のニトロセルロースメンブレンを備えたイムノクロマト試験紙(株式会社フォーディクス製)の中央部に、抗hCG抗体を捕捉抗体として直線状に固定した。イムノクロマト試験紙の吸水パッドが取り付けられていない方の端を、200mIU/mLのhCGを含む又は含まない試験液(0.25mMのBSAを含む10mMリン酸緩衝生理食塩水)50μLに浸して、これをイムノクロマト試験紙に展開した。次に、展開液3〜5のいずれか60μLを展開した。最後に、捕捉抗体を固定していた部分の着色を、目視又は輝度解析によって評価した。輝度解析では、展開液3〜5を展開した後のイムノクロマト試験紙をスキャナー(装置名:CanoScan LiDE500F、製造元:キヤノン株式会社)によりスキャニングし、検出ライン(捕獲抗体を固定した部分)及び当該検出ライン以外の部分(対照領域)の最低輝度(着色すると低くなる)を、画像解析ソフトImage−J(アメリカ国立衛生研究所でWayne Rasbandが開発したオープン・ソースで公有の画像処理ソフトウェア;http://imagej.nih.gov/ij/)を用いて数値化した。より具体的には、各部分の最低輝度をそれぞれ5回ずつ測定し、得られた数値の中央値を検出ライン又は対照領域の最低輝度として採用した。そして、対照領域の最低輝度から検出ラインの最低輝度を引いて、輝度差を求めた。結果を表4に示す。
【0063】
【表4】
(目視判定の基準)
++:鮮明な着色あり
+ :着色あり
− :着色なし
【0064】
厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートに検出抗体を担持させて、イムノクロマトグラフィー法に使用することができた。粒子径の異なる銀ナノプレートをコアに採用することにより、被験物質を種々の色調で標識することができた。
【0065】
4.他の調製例及び試験例
上記項目1(2)に記載の方法に準じ、シード懸濁液の使用量を100mL又は42mLに代えた以外はそれと同様にして、AgPL懸濁液4及びAgPL懸濁液5をそれぞれ調製した。調製された銀ナノプレートの平均粒子径は、それぞれ20.2nm(AgPL懸濁液4)及び32.8nm(AgPL懸濁液5)であった。
【0066】
上記項目1(3)に記載の方法に準じ、AgPL懸濁液1に代えてAgPL懸濁液4を使用し、かつ1.7倍に希釈した成長溶液1を使用した以外はAg@Au懸濁液1と同様の方法で、Ag@Au懸濁液9を調製した。また、AgPL懸濁液1に代えてAgPL懸濁液5を使用し、かつ1.4倍に希釈した成長溶液1を使用した以外はAg@Au懸濁液1と同様の方法で、Ag@Au懸濁液10を調製した。そして、AgPL懸濁液1に代えてAgPL懸濁液2を使用し、かつ2.9倍に希釈した成長溶液1を使用した以外はAg@Au懸濁液1と同様の方法で、Ag@Au懸濁液11を調製した。Ag@Au懸濁液9〜11を適宜希釈し、分光光度計 V−770(日本分光株式会社製)により測定した分光スペクトルを
図15に示す。そして、Ag@Au懸濁液9及び10中の金被覆銀ナノプレートのSTEM観察写真をそれぞれ
図16及び17に示し、当該金被覆銀ナノプレートのHAADF−STEM観察写真をそれぞれ
図18及び19に示す。
【0067】
上記項目1(4)の記載に従って、Ag@Au懸濁液9〜11中の金被覆銀ナノプレートの端面における金層の平均厚みを算出した。表5に、金被覆操作時の混合液の銀濃度及び金濃度、コアの銀ナノプレートの平均粒子径及び端面における金層の平均厚み、並びに、金被覆銀ナノプレートの極大吸収波長及び当該極大吸収波長又は900nmにおける消光度をまとめて示す。
【表5】
【0068】
Ag@Au懸濁液9〜11は、いずれも鮮やかな色を呈しており、シャープな分光スペクトルを示した(
図15)。また、懸濁液9〜11のいずれの懸濁液においても均一な粒子が形成されていた(
図16〜19)。
【0069】
Ag@Au懸濁液9〜11に対して、塩化ナトリウムの終濃度が5%となるように塩化ナトリウム水溶液をそれぞれ添加し、添加前後での色調変化を目視で観察した。Ag@Au懸濁液9〜11の金被覆銀ナノプレートは厚い金層を有するため、塩化ナトリウムの添加前後で色調は変化しなかった(表6)。
【表6】
【0070】
また、上記項目2に記載の方法と同様にして金被覆銀ナノプレートを洗浄し、Ag@Au懸濁液9’〜11’を調製した。各Ag@Au懸濁液は極大吸収波長における消光度が2.0になるように濃度を調整した。これらの懸濁液に対して、終濃度が5%となるように塩化ナトリウム水溶液をそれぞれ添加し、添加前後での色調変化を目視で観察した。結果を表7に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
洗浄操作を行って水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)の大部分を除去しても、厚い金層のおかげで塩化ナトリウムの添加前後での懸濁液の色調は変化せず、酸化耐性試験の結果は変わらなかった(表7)。
【0073】
5.被験物質に対する特異的結合物質の担持方法の例
Ag@Au懸濁液10中の金被覆銀ナノプレートを遠心分離で沈殿させ、上清を除去後、0.5mMのクエン酸三ナトリウム水溶液を添加し、沈殿した金被覆銀ナノプレートを分散させた。同様の操作を二回繰り返し、最終的に極大吸収波長における消光度が2、4、又は8になるようにクエン酸三ナトリウム水溶液を添加し、Ag@Au懸濁液10(2)、10(4)、及び10(8)を調製した。なお、濃度が高い懸濁液は適宜希釈してから消光度を測定し、希釈倍率を乗算して原液の消光度を算出した。
【0074】
抗体の終濃度が後掲の表6に記載の濃度になるように、50μg/mLの抗hCG抗体溶液(5mMのホウ酸緩衝液、pH7.5)を、1mLのAg@Au懸濁液10(2)、10(4)、又は10(8)に添加して、この混合液を室温で60分間静置した。そこに80μMのポリエチレングリコール溶液(5mMのホウ酸緩衝液中)を50μL添加して、得られた懸濁液を室温で30分間静置した。次いで、0.5mMのウシ血清アルブミン溶液(5mMのホウ酸緩衝液中)を100μL添加し、得られた懸濁液を室温で60分間静置した。このとき、各懸濁液の色調に変化はなく、分散状態も良好だった。他方、イムノクロマト試験の標識としてよく用いられている金ナノコロイド(球状金ナノ粒子;粒子径40nm)の懸濁液を使用して同様の操作を行うと、極大吸収波長での消光度が2.0で抗体の終濃度が1.25μg/mL又は極大吸収波長での消光度が4.0で抗体の終濃度が2.50μg/mLの条件では、球状金ナノ粒子が凝集してしまい、イムノクロマト試験に使用できるような状態ではなかった。なお、球状金ナノ粒子に対する抗体の担持は、通常は、極大吸収波長での消光度が1.0で抗体の終濃度が5μg/mLの条件下で行われる。
【0075】
金被覆銀ナノプレートの各懸濁液を遠心分離し、抗hCG抗体を担持している金被覆銀ナノプレートを沈殿させて、上清を除去した。沈殿した金被覆銀ナノプレートに、20mMのトリス塩酸緩衝液(8μMのポリエチレングリコール、0.25mMのBSA、及び150mMのNaClを含む)を0.40mL添加して再分散させ、極大吸収波長の消光度が1.0になるように濃度を調整し、イムノクロマト試験用の展開液10(2)−1、10(2)−2、10(4)−1、10(8)−1、及び10(8)−2を作製した。抗hCG抗体の担持条件及び対応する展開液を表8にまとめる。
【表8】
【0076】
展開液10(2)−1、10(2)−2、10(4)−1、10(8)−1、及び10(8)−2を使用した以外は上記項目3に記載したのと同様の方法で、hCGを検出するイムノクロマト試験を実施した。結果を表9に示す。
【表9】
【0077】
一般に、金属ナノ粒子への抗体の担持工程においては、金属ナノ粒子の凝集が問題となり得る(表8の球状金ナノ粒子の結果参照)。金属ナノ粒子の凝集を防ぐため、その懸濁液には一定以上のタンパク質濃度が必要となるので、金属ナノ粒子の濃度を高くする場合には、それだけ抗体の濃度も高くすることが求められる。しかしながら、意外なことに、粒子径が小さく厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを用いた場合には、比表面積が増加するにもかかわらず、当該金被覆銀ナノプレートを濃くしたときに抗体濃度を下げても凝集が発生しなかった。加えて、異なる抗体濃度条件下で前記金被覆銀ナノプレートを担持工程に付しても、イムノクロマト試験で使用したときの検出感度に大きな差は無かった。したがって、粒子径が小さく厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートは、分散性が優れており、抗体担持の効率が高いと考えられる。
【0078】
以上より、銀ナノプレートを金で被覆する際に、金イオンの錯化剤を使用し、かつ、銀濃度を一定値以下にし、金濃度を一定値以上にして、両濃度が所定の関係を満たすようにそれらを調整することによって、粒子径が小さい割に厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを均一に作製できることが分かった。したがって、酸化耐性に優れた粒子径の小さい金被覆銀ナノプレートを作製することが可能となる。粒子径が小さい金被覆銀ナノプレートは可視光領域に極大吸収波長を有するため、イムノクロマトグラフィーなどの目視判定を必要とする被験物質の検出方法のマルチカラー化を図ることができる。また、粒子径が小さく厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートは、分散性が高く、被験物質に対する特異的結合物質を効率的に担持することができるため、当該特異的結合物質の使用量を節約することが可能となる。