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特開2021-179559ナノ構造体、防汚フィルム及びターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-179559(P2021-179559A)
(43)【公開日】2021年11月18日
(54)【発明の名称】ナノ構造体、防汚フィルム及びターゲット
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/18 20150101AFI20211022BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20211022BHJP
   G02B 5/128 20060101ALI20211022BHJP
【FI】
   G02B1/18
   B82Y20/00
   G02B5/128
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-85745(P2020-85745)
(22)【出願日】2020年5月15日
(71)【出願人】
【識別番号】520169166
【氏名又は名称】西野 朋季
(71)【出願人】
【識別番号】592105620
【氏名又は名称】ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】西野 朋季
(72)【発明者】
【氏名】栗林 賢一
(72)【発明者】
【氏名】谷田 聡
(72)【発明者】
【氏名】辻家 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】松本 理佐
【テーマコード(参考)】
2H042
2K009
【Fターム(参考)】
2H042EA07
2H042EA15
2K009CC26
2K009EE05
(57)【要約】
【課題】物体表面への汚れの付着を防止する。
【解決手段】ナノ構造体1は、基材2の表面に形成されるものである。このナノ構造体1は、複数の突起3を備える。突起3の間隔P及び高さHは、可視光の波長域より短い。基材2及び突起3は、同じ撥水性材料から成る。防汚フィルム4は、ナノ構造体1を有し、その基材2は、フッ素樹脂から成る樹脂フィルムである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に形成されるナノ構造体であって、
複数の突起を備え、
前記突起の間隔及び高さは、可視光の波長域より短く、
前記基材及び突起は、同じ撥水性材料から成ることを特徴とするナノ構造体。
【請求項2】
前記撥水性材料は、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のナノ構造体。
【請求項3】
前記フッ素樹脂は、パーフルオロエチレン‐プロペンコポリマーであること特徴とする請求項2に記載のナノ構造体。
【請求項4】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項2に記載のナノ構造体。
【請求項5】
前記突起は、平面視でランダムに配置されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のナノ構造体。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれか一項に記載のナノ構造体を有する防汚フィルムであって、
前記基材は、前記フッ素樹脂から成る樹脂フィルムであることを特徴とする防汚フィルム。
【請求項7】
前記基材は、無色透明であることを特徴とする請求項6に記載の防汚フィルム。
【請求項8】
被測定物に設けられて撮像されるためのターゲットであって、
被測定物に支持される支持部と、
前記支持部上に設けられ、再帰性反射体を有する反射部と、
前記反射部の表面を覆う請求項7に記載の防汚フィルムとを備えることを特徴とするターゲット。
【請求項9】
前記被測定物は、鉄道のレールであり、
前記支持部は、レールからまくらぎ方向に突出する部材であり、
前記反射部は、入射した白色光を白色のまま反射することを特徴とする請求項8に記載のターゲット。
【請求項10】
被測定物に設けられて撮像されるためのターゲットであって、
前記被測定物の表面に設けられる反射部を備え、
前記反射部は、再帰性反射体を有し、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のナノ構造体を表面に有することを特徴とするターゲット。
【請求項11】
前記被測定物は、土木構造物であることを特徴とする請求項10に記載のターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土及び鉄粉等に対する防汚に適したナノ構造体、それを有する防汚フィルム、及びそれらを用いたターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の軌道には、列車の繰り返し荷重によって軌道狂いが発生する。軌道狂いのうち、軌道形状の上下方向の狂いを高低狂い、左右方向の狂いを通り狂いという。軌道狂いは、検査、判定、修繕によって許容範囲内に保守管理される。軌道狂いには、相対値と絶対値の2種類がある。一般的な軌道狂いは、相対値であり、弦を用い、その始端点、中点、終端点間で測定される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
光を反射し易いターゲットをレールに設け、位置が分かっているカメラでターゲットを撮像すれば、ターゲットが設けられた箇所の上下及び左右方向の位置を測定できる。そして、異なる時点のターゲットの位置の差から、その期間に生じたレールの変位、すなわち軌道狂いの絶対値を測定できる。
【0004】
しかし、そのようなターゲットは、レールに設けられるため、道床からの土が汚れとして表面に付着する。また、車輪とレールとの摩擦、ブレーキダスト等に起因して、鉄粉(酸化鉄粒子)がターゲットに付着する。さらに、車両の台車、線路のレール継目部や分岐器等に使用されている潤滑油がターゲットに飛散して付着する可能性がある。ターゲットが汚れると、位置検出の精度が低下する。このような、土や鉄粉等の汚れが付着する問題は、鉄道以外にも存在する。
【0005】
従来から、光触媒を塗ることによって油等の汚れの付着を防止しようとする技術が知られている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。油は、有機物であり、光触媒によって分解されるので、付着が防止される。しかし、土、鉄粉等の無機物は、光触媒によって分解されないので、付着が防止されるとは限らない。また、光触媒は、太陽光が当たらない箇所では汚れを分解するための光エネルギーを得ることが難しい。
【0006】
また、ナノ構造体を表面に設けた防曇用フィルムが知られている(特許文献4参照)。この防曇用フィルムは、表面を水の接触角30°以下の親水性にして結露を防止する。しかし、このような防曇用フィルムは、土や鉄粉等の汚れの付着を防止するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017−62156号公報
【特許文献2】特開平9−220524号公報
【特許文献3】特開2016−114530号公報
【特許文献4】特開2015−78924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するものであり、物体表面への汚れの付着を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のナノ構造体は、基材の表面に形成されるものであって、複数の突起を備え、前記突起の間隔及び高さは、可視光の波長域より短く、前記基材及び突起は、同じ撥水性材料から成ることを特徴とする。
【0010】
このナノ構造体において、前記撥水性材料は、フッ素樹脂であることが好ましい。
【0011】
このナノ構造体において、前記フッ素樹脂は、パーフルオロエチレン‐プロペンコポリマーであることが好ましい。
【0012】
このナノ構造体において、前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであってもよい。
【0013】
このナノ構造体において、前記突起は、平面視でランダムに配置されることが好ましい。
【0014】
本発明の防汚フィルムは、前記ナノ構造体を有する防汚フィルムであって、前記基材は、前記フッ素樹脂から成る樹脂フィルムであることを特徴とする。
【0015】
この防汚フィルムにおいて、前記基材は、無色透明であることが好ましい。
【0016】
本発明のターゲットは、被測定物に設けられて撮像されるためのものであって、被測定物に支持される支持部と、前記支持部上に設けられ、再帰性反射体を有する反射部と、前記反射部の表面を覆う前記防汚フィルムとを備えることを特徴とする。
【0017】
このターゲットにおいて、前記被測定物は、鉄道のレールであり、前記支持部は、レールからまくらぎ方向に突出する部材であり、前記反射部は、入射した白色光を白色のまま反射することが好ましい。
【0018】
本発明のターゲットは、被測定物に設けられて撮像されるためのものであって、前記被測定物の表面に設けられる反射部を備え、前記反射部は、再帰性反射体を有し、前記ナノ構造体を表面に有することを特徴としてもよい。
【0019】
このターゲットにおいて、前記被測定物は、土木構造物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のナノ構造体は、突起の間隔が可視光の波長域より短く、土、鉄粉、油滴、水滴等の外来物よりも小さいので、接触面積が小さくなり、摩擦が低下し、外来物である汚れが付着し難くなる。また、このナノ構造体は、突起の間隔及び高さが可視光の波長域より短いので、可視光と干渉せず、白色光を白色のまま透過する。本発明の防汚フィルム及びターゲットは、本発明のナノ構造体を有するので同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るナノ構造体の断面模式図。
図2】同実施形態の変形例に係るナノ構造体の断面模式図。
図3】同実施形態の別の変形例に係るナノ構造体の断面模式図。
図4】本発明の一実施形態に係るターゲットの正面図。
図5】泥水の付着状況の試験結果を写真で示す図。
図6】酸化鉄粒子を含んだ水の付着状況の試験結果を写真で示す図。
図7】ターゲットを用いた変位測定の結果を示す図。
図8】別のターゲットを用いた変位測定の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係るナノ構造体を図1乃至図3を参照して説明する。図1に示すように、ナノ構造体1は、基材2の表面に形成されるものである。このナノ構造体1は、複数の突起3を備える。突起3の間隔P及び高さHは、可視光の波長域より短い。基材2及び突起3は、同じ撥水性材料から成る。なお、撥水性材料は、撥水性の材料である。
【0023】
代表的な撥水性材料として、フッ素樹脂がある。フッ素樹脂は、フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂である。本実施形態では、フッ素樹脂は、パーフルオロエチレン‐プロペンコポリマー(FEP)又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。なお、撥水性材料として、他の撥水性の高分子化合物、例えば、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)等を用いてもよい。
【0024】
ナノ構造体1の構成をさらに詳述する。ナノ構造体1は、ナノレベル(1μm未満)の微細な凹凸を有する構造体であるので、ナノ構造体と呼ばれる。突起3は、サイズがナノレベルの微小な突起であるので微小突起とも呼ばれる。ナノ構造体1は、基材2の表面に多数の突起3を有し、突起3が凹凸構造の凸部、それ以外の部分が凹部となる。
【0025】
図1に示す突起3(3A)は、インプリントという精密プレス加工によって形成される。インプリントによって突起3Aを形成する方法は、ナノインプリンティング法とも呼ばれる。インプリントでは、微細構造を有する金型(モールド)を電子ビーム等によって作製し、その金型を基材2にプレスすることにより、金型の微細構造を基材2の表面に転写する。本実施形態では、転写された微細構造は、平面視で格子状に配置された複数の突起3Aである。突起3Aの平面配置は、格子状に限定されず、例えば、千鳥状であってもよい。
【0026】
可視光の波長域(波長範囲)の下界(短波長限界)は、360〜400nmである(JIS Z8120参照)。突起3の間隔P及び高さHは、可視光の波長域より短い100〜200nm程度が望ましい。突起3の間隔P及び高さHが過大であると、可視光の波長域の下界に接近し、短過ぎると、突起3の形成が困難となる。本実施形態では、突起3(3A)の間隔P(P1)は200nm、高さH(H1)は200nmである。突起3Aのサイズは、この値に限定されない。突起3Aの間隔P1と高さH1は、異なってよい。
【0027】
変形例として、図2に示すように、基材2にブラストを行って突起3(3B)を形成してもよい。ブラストでは、多数の微小な金属球(鉄球)を基材2に噴射することにより、基材2の表面に凹凸を形成する。その凹凸の凸部が突起3(3B)となる。突起3Bのサイズは、例えば、間隔P(P2)が概ね100nm、高さH(H2)が概ね100nmである。突起3Bの間隔P2と高さH2は、異なってよい。
【0028】
別の変形例として、図3に示すように、インプリントによって基材2の表面に突起3Aを形成し、突起3Aが形成された基材2の表面に、さらにブラストを行って突起3Cを形成してもよい(インプリント+ブラスト)。このように形成された突起3Cは、各突起3Aが複数の突起3Bを有するような、フラクタルに似た形状になる。突起3Cのサイズは、例えば、間隔P(P3)が約200nm、高さH(H3)が概ね100nmである。突起3Cの間隔P3と高さH3は、異なってよい。
【0029】
これら3つの表面加工方法で形成された突起3(3A、3B、3C)は、基材2と一体である。また、基材2が撥水性材料から成るので、突起3に撥水性を付与するためのコーティングを施す必要が無い。したがって、基材2及び突起3は、同じ撥水性材料から成る。
【0030】
撥水性、親水性の程度は、接触角の大きさ(接触角度)で定量的に評価される。接触角とは、固体面上にある液体が気体又は別の液体中にあるとき、液体と固体面のなす角のうち液体を含む角である(JIS K 3211参照)。撥水性と親水性の区分は相対的なものであるが、撥水性は接触角が90°以上、親水性は接触角が90°未満と区分されることがある。本実施形態の撥水性材料は、大気中の水の接触角が90°以上の材料である。
【0031】
上記のように構成されたナノ構造体1は、突起3の間隔Pが可視光の波長域より短く、土、鉄粉、油滴、水滴等の外来物よりも小さいので、接触面積が小さくなり、摩擦が低下し、平らな撥水性材料の表面よりも外来物である汚れが付着し難くなる。撥水性材料から成るナノ構造体1は、平らな撥水性材料の表面よりも撥水性が高くなる。なお、試験結果については、後述する。
【0032】
また、ナノ構造体1は、突起3から成る層が単層であり、突起3の間隔P及び高さHが可視光の波長域より短いので、可視光と干渉せず、白色光を白色のまま透過する。
【0033】
ナノ構造体1の突起3の形成にブラストを用いることにより、突起3Bのサイズがばらつき、突起3Bは、平面視でランダムに配置される。また、ナノ構造体1の突起3の形成にインプリントを用いる場合に、突起3A、3Cを平面視でランダムに配置してもよい。これにより、突起3の間隔Pが一定ではないので、ナノ構造体1は、可視光といっそう干渉し難くなる。
【0034】
本発明の一実施形態に係る防汚フィルム4について再び図1乃至図3を参照して説明する。防汚フィルム4は、膜状に成形された樹脂フィルム(樹脂シート)であり、表面にナノ構造体1を有する。すなわち、基材2は、樹脂フィルムである。その樹脂フィルムは、フッ素樹脂から成る。本実施形態では、そのフッ素樹脂は、パーフルオロエチレン‐プロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から選択される。パーフルオロエチレン‐プロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)以外のフッ素樹脂を用いてもよい。防汚フィルム4は、裏面に接着層又は粘着層を設け、物体の表面に貼り付けられるように構成することが望ましい(図示せず)。
【0035】
上記のように構成された防汚フィルム4は、表面にナノ構造体1を有するので、土、鉄粉等の汚れが付着し難い。
【0036】
本実施形態では、防汚フィルム4の基材2は、無色透明である。基材2が無色透明であり、ナノ構造体1が白色光を白色のまま透過するので、防汚フィルム4は、白色光を白色のまま透過する。
【0037】
本発明の一実施形態に係るターゲットについて図4を参照して説明する。ターゲット5は、被測定物6に設けられて撮像されるためのものである。ターゲット5は、支持部51と、反射部52と、防汚フィルム4とを備える。支持部51は、被測定物6に支持される部材である。反射部52は、支持部51上に設けられ、再帰性反射体を有する。防汚フィルム4は、反射部52の表面を覆う。
【0038】
ターゲット5についてさらに詳述する。ターゲット5は、被測定物6の位置を測定するために撮像される。支持部51は、平らな面を有する部材であり、例えば、被測定物6に接着によって支持される。
【0039】
反射部52は、シート状の再帰性反射体と、その裏面の接着層とを有し、接着層によって支持部51に接着される。再帰性反射とは、広い照射角にわたって、入射光の光路にほぼ沿う方向に、選択的に反射光が戻るような反射である(JIS Z 8713参照)。再帰性反射体は、その反射光のほとんどが戻る表面を有する(同JIS参照)。本実施形態の再帰性反射体は、屈折率が高い微小なガラス球(ガラスビーズ)が透明なポリエステル樹脂に多数埋め込まれている。ガラス球が入射光を再帰性反射する。
【0040】
図4に示すように、本実施形態では、被測定物6は、鉄道のレールである。ターゲット5の支持部51は、ポリカーボネート製の板状部材であり、レールからまくらぎ方向(図4の左右方向)に突出する。支持部51を正面から見た形状は、例えば、基部が上下に狭く、反射部52がある部分が上下に広いL字型であり、矩形でもよい。支持部51の基部は、レールの腹部に接着される。なお、支持部51の基部をレールの脚部に接着してもよい。反射部52を正面から見た形状は、円である。反射部52の形状は、円に限定されず、四角形又は三角形等であってもよい。反射部52は、入射した白色光を白色のまま反射する。防汚フィルム4は、反射部52上に接着される。防汚フィルム4の基材2は、無色透明である。ターゲット5を撮像するカメラは、反射部52の表面に略直交する方向に設置される。
【0041】
上記のように構成されたターゲット5は、反射部52が防汚フィルム4で覆われるので、土、鉄粉等の汚れが付着し難い。また、反射部52が入射した白色光を白色のまま反射し、基材2が無色透明である防汚フィルム4が白色光を白色のまま透過するので、ターゲット5は、白色光を白色のまま反射する。鉄道の線路において、もし、反射光が着色されると、鉄道の場合、その色によっては信号の色と紛らわしい場合がある。ターゲット5は、白色光を白色のまま反射するので、そのような紛らわしさを避けることができる。
【0042】
ターゲット5をレール以外、例えば、ホーム下の縁端部に設けてもよい。その場合、ホームの縁端部が被測定物となり、ホームは動かないので、レールの変位測定の基準等として利用される。
【0043】
実施形態の変形例として、ターゲット5の支持部51を省略してもよい。例えば、橋梁等の土木構造物を被測定物とする場合、再帰性反射体を被測定物に直接取り付け、その表面に撥水性材料を塗布し、インプリント又はブラスト、或いはその両方によってナノ構造体1を形成する。すなわち、ターゲット5は、被測定物の表面に設けられる反射部52を備え、反射部52は、再帰性反射体を有し、ナノ構造体1を表面に有する(図示せず)。
【0044】
他の利用分野として、ナノ構造体1を標識の表面に設けてもよい。標識は、視覚で認識される情報を示す標(しるし)である。標識は、例えば、鉄道標識又は道路標識である。鉄道標識は、列車に対して運転条件などを示すものの一つである。道路標識は、道路上の交通が安全かつ円滑に移動できるようにし、かつ道路の保全をはかる目的で設置されるものである。そのような標識は、表面にナノ構造体1を有することにより、土、鉄粉等の汚れが付着し難い。
【0045】
また、ナノ構造体1を光学系における露出した表面に設けてもよい。光学系とは、光線の性質を利用して物体の像をつくる器具の一まとまりであり、光を集中、発散、反射、屈折させるためのレンズ又は反射鏡又はプリズム或いはそれらの組み合わせである。そのような光学系は、露出した表面にナノ構造体1を有することにより、汚れが付着し難い。また、ナノ構造体1を発光装置又は照明装置における光を透過するカバーの表面に設けてもよい。そのような発光装置又は照明装置は、光を透過するカバーの表面にナノ構造体1を有することにより、汚れが付着し難い。
【0046】
試験として、防汚フィルム4を有しない従来のターゲットをレールに設け、ターゲットに付着した汚れについて調べた。新品時に白かったターゲットは、45日経過後に褐色の汚れが付着していた。エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)で新品のターゲットと45日経過後のターゲットを比較すると、Fe(鉄)とSi(ケイ素)が増加していた。Feは、酸化鉄(鉄粉)由来の元素であり、Siは、土壌由来の元素である。45日経過後のターゲットの光学像と、蛍光X線マッピングを比較すると、蛍光X線マッピングにおけるFeの分布及びSiの分布は、光学像の濃淡との相関が見られた。したがって、汚れの主な成分は、酸化鉄(鉄粉)及び土であると確認された。なお、汚れに油は含まれない可能性が高かった。ターゲットをレールに設けた45日間には、油滴がターゲットにほとんど飛来しなかったと考えられる。
【0047】
次に、ナノ構造体1が撥水性に与える影響を評価する試験を行った。防汚フィルム4の有無、基材の材料、ナノ構造体の形成方法等を変えて、大気中で水(純水)の接触角を測定した。
【0048】
防汚フィルム4無しの反射部52の場合(供試体N)、接触角(水)は87°であった。
【0049】
アクリル樹脂の平らな表面の場合(供試体A)、接触角(水)は75°であった。アクリル樹脂は、親水性の樹脂であるので、水の接触角が90°より小さい。
【0050】
アクリル樹脂の表面にインプリントでナノ構造体を形成した場合(供試体Ai)、接触角(水)は14°であった。親水性の基材にナノ構造体を形成すると接触角がさらに小さくなる(親水性が高くなる)。
【0051】
アクリル樹脂の表面にインプリントとブラストでナノ構造体を形成した場合(供試体Ai+b)、接触角(水)は22°であった。基材がアクリル樹脂の場合、インプリントにさらにブラストを行うと、接触角は、平らな場合よりは小さいが、インプリントだけの場合よりも若干大きくなった。
【0052】
光触媒の平らな表面の場合(供試体P)、接触角(水)は110°であった。
【0053】
パーフルオロエチレン‐プロペンコポリマー(FEP)の平らな表面の場合(供試体F)、接触角(水)は106°であった。FEPは、撥水性の樹脂であるので、水の接触角が90°より大きい。
【0054】
FEPの表面にブラストでナノ構造体を形成した場合(供試体Fb)、接触角(水)は106°であった。FEPにブラストを行っても、純水の接触角は平らな場合と変わらなかった。
【0055】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の平らな表面の場合(供試体T)、接触角(水)は106°であった。PTFEは、撥水性の樹脂であるので、接触角が90°より大きい。
【0056】
PTFEの表面にブラストでナノ構造体を形成した場合(供試体Tb)、接触角(水)は106°であった。PTFEにブラストを行っても、純水の接触角は平らな場合と変わらなかった。
【0057】
付着を防ぎたい汚れの一つとして土がある。屋外には雨等による水が存在する。サラサラと乾燥した土よりも、水に混ざった土、すなわち泥水のほうが、粘性によって物体表面に付着しやすくなる。そこで、純水を泥水に替えて、同様の試験を行った。泥水は、真砂土と水を質量比1:1で混合して作った。真砂土の粒径分布は、2μm〜200μmである。防汚フィルム4の有無、基材の材料、ナノ構造体の形成方法等を変えて、大気中で泥水の接触角を測定した。
【0058】
防汚フィルム4無しの反射部52の場合(供試体N)、接触角(泥水)は35°であった。泥水は、純水よりも接触角が小さく、付着しやすい。
【0059】
アクリル樹脂の平らな表面の場合(供試体A)、接触角(泥水)は27°であった。アクリル樹脂は、親水性の樹脂であるので、接触角が小さい。
【0060】
アクリル樹脂の表面にインプリントでナノ構造体を形成した場合(供試体Ai)、接触角(泥水)は14°であった。親水性の基材にナノ構造体を形成すると接触角がさらに小さくなる。
【0061】
アクリル樹脂の表面にインプリントとブラストでナノ構造体を形成した場合(供試体Ai+b)、接触角(泥水)は12°であった。泥水の場合、インプリントにさらにブラストを行うと、接触角は、インプリントだけの場合よりも若干小さくなった。
【0062】
光触媒の平らな表面の場合(供試体P)、接触角(泥水)は21°であった。
【0063】
パーフルオロエチレン‐プロペンコポリマー(FEP)の平らな表面の場合(供試体F)、接触角(泥水)は85°であった。この接触角は、水の接触角よりも小さい。したがって、泥水は、水よりもFEPに付着しやすい。
【0064】
FEPの表面にブラストでナノ構造体を形成した場合(供試体Fb)、接触角(泥水)は101°であり、泥水の接触角は平らな場合より大きくなった。したがって、ナノ構造体を有するFEPは、泥水が付着し難い。
【0065】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の平らな表面の場合(供試体T)、接触角(泥水)は86°であった。この接触角は、水の接触角よりも小さい。したがって、泥水は、水よりもPTFEに付着しやすい。
【0066】
PTFEの表面にブラストでナノ構造体を形成した場合(供試体Tb)、接触角(泥水)は101°であり、泥水の接触角は平らな場合より大きくなった。したがって、ナノ構造体を有するPTFEは、泥水が付着し難い。
【0067】
次に、前記の各供試体について、泥水の付着状況を比較した。
【0068】
比較例としての供試体N、A、Ai、Ai+b、T、F、及び実施例としての供試体Tb、Fbの新品を用意した。各供試体の表面を水平にし、上から泥水(土を含んだ水滴)を付けた。供試体の表面が垂直になるように立てて、供試体の表面に残った泥水の有無等を肉眼で観察し、カメラで撮影した。この試験を各供試体について、2回行った。その試験結果を図5に写真で示す。なお、図5において、中央付近に写っているチェックマークは泥水ではない。
【0069】
やや親水性の供試体N、Aは、汚れがかなり付着した。親水性が高い供試体Ai、Ai+bは、汚れが広がる傾向があった。撥水性の供試体T、Fは、1回目は汚れが付着し、2回目は汚れがほとんど付着しなかった。ナノ構造体を有し撥水性が強い供試体Tb、Fbは、2回とも汚れがほとんど付着しなかった。
【0070】
泥水のほかに、付着を防ぎたい汚れの一つとして鉄粉(酸化鉄粒子)がある。サラサラと乾燥した鉄粉よりも、水に混ざった鉄粉のほうが、粘性によって物体表面に付着しやすくなる。そこで、泥水を、酸化鉄粒子を含んだ水に替えて、同様の付着状況比較試験を行った。
【0071】
酸化鉄粒子と水を質量比1:2で混合し、酸化鉄粒子を含んだ水を作った。比較例としての供試体N、A、Ai、Ai+b、T、F、及び実施例としての供試体Tb、Fbの新品を用意した。各供試体の表面を水平にし、上から酸化鉄粒子を含んだ水滴を付けた。供試体の表面が垂直になるように立てて、供試体の表面に残った酸化鉄粒子を含んだ水の有無等を肉眼で観察し、カメラで撮影した。この試験を各供試体について、2回行った。その試験結果を図6に写真で示す。
【0072】
供試体N、A、Ai、Ai+bは、汚れが付着した。撥水性の供試体T、Fは、それよりは汚れの付着は若干少なかった。ナノ構造体を有し撥水性が強い供試体Tb、Fbは、汚れがほとんど付着しなかった。
【0073】
次に、比較例としての供試体N、A、Ai、Ai+b、P、及び実施例(防汚フィルム4)としての供試体Fb、Tbについて、ターゲットの表面に用いた場合の効果を試験した。
【0074】
環境条件をできるだけ合わせるため、1つの支持部51上に2つの反射部52を設けた試験用のターゲットを作った。フィルム状の供試体を反射部52に貼ったターゲットを、線路のレールに取り付けた。これにより、カメラから約45mプラスマイナス2.5m以内に全ての供試体N、A、Ai、Ai+b、P、Fb、Tbを配置した。
【0075】
カメラでターゲットを撮像し、上下方向の変位を45日間測定した。45日間では、レールに上下方向の変位は実際にはほとんど生じない。しかし、ターゲットが汚れると、測定誤差が生じるため、その誤差が見かけの計測値となって表れる。
【0076】
図7及び図8に測定結果をグラフで示す。横軸は経過日数[日]、縦軸は上下方向変位の計測値、すなわち誤差[mm]である。図7は、比較例としての供試体N、Ai、Ai+b、Pの測定結果である。図8は、実施例としての供試体Fb、Tb、及び比較例としての供試体N、Pの測定結果である。
【0077】
図7から分かるように、防汚フィルム無しのターゲット(供試体N)、親水性のフィルムで覆われたターゲット(供試体Ai、Ai+b)は、日数が経過するにしたがって誤差が増加した。ターゲットが汚れることによって、誤差が増加したためである。
【0078】
図8から分かるように、光触媒で覆われたターゲット(供試体P)と撥水性のターゲット(供試体Fb、Tb)は、誤差の増加が少なかった。ターゲットへの汚れの付着が防止されたためである。
【0079】
ターゲットの汚れによる計測値誤差の増加量には、次の大小関係があった。
【0080】
供試体N>>Ai(親水)≒Ai+b(親水)>>P≒Tb(撥水)≒Fb(撥水)
【0081】
すなわち、ターゲットの防汚対策には、撥水性の基材2とナノ構造体1の組み合わせが効果的であることが確認された。撥水性の供試体Fb、Tbは、本発明の実施形態に係るターゲット5であり、反射部52の表面が防汚フィルム4で覆われている。防汚フィルム4は、撥水性の基材2の表面にナノ構造体1を有する。したがって、確認された防汚効果は、ナノ構造体1が物体表面への汚れの付着を防止する効果である。
【0082】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。ナノ構造体1を用いて付着を防ぐ汚れは、土、鉄粉、油に限定されない。また、ナノ構造体1を設ける対象物は限定されない。防汚フィルム4をターゲット5以外に用いてもよく、ターゲット5をレールや土木構造物以外に用いてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 ナノ構造体
2 基材
3 突起
3A インプリントによって形成された突起
3B ブラストによって形成された突起
3C インプリントとブラストによって形成された突起
4 防汚フィルム
5 ターゲット
51 支持部
52 反射部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8