【解決手段】細胞分注装置1は、容器21と分注容器22とを互いに接続する第1チューブ23aと、第1チューブ23aに形成された分岐部31と接続している第2チューブ23bに取り付けられたシリンジポンプ24と、シリンジポンプ24と分岐部31との間に設けられたバッファタンク25とを備える。そして、シリンジポンプ24によって、容器21に収容された細胞懸濁液はバッファタンク25に一時的に貯留され、バッファタンク25に貯留された細胞懸濁液は、分注容器22に送出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、細胞培養には、培地交換及び継代を複数回行うことによって増殖させた細胞を回収し、保存用のバイアルやバッグ等へ小分けする分注も含まれる。しかし、特許文献1の装置においては、分注を自動で行うことは想定しておらず、作業者が手作業で分注を行う必要がある。手作業による分注では、作業の手間がかかる上、作業中に細菌等が混入するリスクが増大する。
【0006】
そこで、本発明の目的は、細菌等の混入のリスクを低減しつつ、効率良く分注を行うことが可能な閉鎖系の細胞分注装置及び細胞分注方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る細胞分注装置は、内部の無菌状態を維持しながら細胞を分注する細胞分注装置であって、細胞懸濁液が収容されている容器と、前記容器から分注された前記細胞懸濁液を収容する分注容器と、前記容器と前記分注容器とを互いに接続する第1接続管と、前記第1接続管に形成された分岐部と接続する第2接続管と、を有する接続経路と、前記第2接続管に取り付けられ、前記接続経路を介して、前記分注容器からの気体の吸引、前記容器からの細胞懸濁液の吸引及び前記分注容器への細胞懸濁液の送出が可能なポンプ部と、前記分岐部と前記ポンプ部との間に配置され、前記容器から吸引された前記細胞懸濁液を貯留するバッファ部と、前記容器と前記分岐部との間、及び、前記分注容器と前記分岐部との間にそれぞれ設けられ、前記第1接続管の開閉制御を行うバルブと、を備え、前記ポンプ部によって、前記バッファ部に貯留された前記細胞懸濁液の一部又は全部が前記分注容器に送出されることを特徴とする。
【0008】
内部の無菌状態を維持可能な閉鎖系においては、細胞懸濁液が収容された容器と分注容器とが第1接続管で接続されている。ここで、分注容器の内部に気体が入っている場合、この気体の存在によって、分注容器への細胞懸濁液の収容が阻害される。このため、閉鎖系の装置で分注を行う場合、予め、分注容器の内部の気体を取り除いておく必要がある。そこで、上記構成では、容器と分注容器とを接続している第1接続管に分岐部を設け、分岐部と接続された第2接続管にポンプ部を取り付けた。そして、容器と分岐部との間に設けられたバルブを閉じ、分注容器と分岐部との間のバルブを開いた状態で、ポンプ部による吸引を行うことにより、分注容器の内部の気体を取り除くことができる。
【0009】
一方で、上記のように第1接続管に分岐部を設け、分岐部と接続された第2接続管にポンプ部を取り付けた場合、細胞懸濁液を、第1接続管を介して容器から分注容器へと直接移動させることができない。そこで、上記構成では、分岐部とポンプ部との間にバッファ部を配置した。これにより、ポンプ部を駆動することで、培養が終了した細胞を含む細胞懸濁液が収容された容器から細胞懸濁液を吸引し、吸引した細胞懸濁液を一時的にバッファ部に貯留し、貯留された細胞懸濁液を分注容器へ送出することができる。このため、内部の無菌状態を維持可能な閉鎖系において、細胞を分注することが可能となり、分注の際に、細菌等が混入するリスクを低減することができる。また、ポンプ部を駆動させることで細胞の分注を行うことができるため、作業者の手作業によって分注が行われる場合と比べて、効率が良い。
【0010】
また、上記細胞分注装置は、前記ポンプ部と前記バッファ部との間に配置されたガス抜き部と、前記ガス抜き部と前記バッファ部との間に配置されたエアフィルタと、をさらに備えていることが好ましい。
【0011】
前述したように、分注容器の内部の気体は、ポンプ部によって吸引されることで、予め取り除かれる。ポンプ部によって吸引された気体は、その後の細胞の分注を行う上で不要であり、装置の外部に排出することが望ましい。このため、上記構成では、ポンプ部によって吸引された気体を排出するためのガス抜き部が、ポンプ部とバッファ部との間に配置されている。一方で、気体を装置の外部に排出する際、ガス抜き部を介して外気が装置の内部に侵入する可能性がある。このときに、細菌等がバッファ部や分岐部などに侵入するおそれがある。この状態で、分注を行った場合、細菌等が細胞懸濁液に混入してしまう。そこで、上記構成によれば、ガス抜き部とバッファ部との間に、塵や細菌などを取り除くエアフィルタを配置している。これにより、不要な気体を装置の外部に排出したとしても、細菌等のバッファ部などへの侵入を防ぐことができる。
【0012】
また、上記実施形態において、前記ポンプ部は、筒状に形成されたシリンダと、前記シリンダ内に配置され、往復運動によって気体又は液体の吸引及び送出を行うピストンと、前記ピストンの動作を制御する駆動部と、を含むシリンジポンプであることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、シリンジポンプを用いることで、容器から吸引する細胞懸濁液の量、及び、分注容器へと送出する細胞懸濁液の量を、より正確に調節することができる。このため、適切な量の細胞懸濁液を分注容器に収容することができ、作業の効率化につながる。
【0014】
また、上記細胞分注装置は、複数の分注容器が配置され、それぞれの前記複数の分注容器は、前記第1接続管を介して前記容器と接続されていることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、ポンプ部によって、バッファ部に貯留された細胞懸濁液の一部を、複数の分注容器に対して連続的に送出することが可能である。このため、さらに効率良く分注を行うことができる。
【0016】
本発明に係る細胞分注方法は、無菌状態を維持しながら細胞を分注する細胞分注方法であって、細胞懸濁液が収容されている容器と、前記容器から分注された前記細胞懸濁液を収容する分注容器と、前記容器と前記分注容器とを互いに接続する第1接続管と、前記第1接続管に形成された分岐部と接続する第2接続管と、を有する接続経路と、前記第2接続管に取り付けられたポンプ部と、前記分岐部と前記ポンプ部との間に配置されたバッファ部と、を備えた細胞分注装置が用いられ、前記ポンプ部によって、前記分注容器の内部の気体を取り除くガス抜き工程と、前記ポンプ部によって、前記容器から、前記細胞懸濁液を吸引し、前記バッファ部に貯留する吸引工程と、前記ポンプ部によって、前記バッファ部に貯留された前記細胞懸濁液の一部又は全部を前記分注容器に送出する分注工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、ガス抜き工程によって、予め、分注容器の内部の気体を取り除くことで、容器と分注容器とが第1接続管によって接続された閉鎖系の細胞分注装置において、分注容器に細胞懸濁液を収容可能な状態とすることができる。また、容器から細胞懸濁液を吸い上げてバッファ部に貯留する吸引工程と、バッファ部に貯留された細胞懸濁液を分注容器へ送出する分注工程とを行うことで、無菌状態を維持しながら分注を行うことが可能である。これにより、分注の際に、細菌等が混入するリスクを低減することができる。また、ポンプ部を駆動させることで細胞の分注を行うことができるため、作業者の手作業によって分注が行われる場合と比べて、効率が良い。
【発明の効果】
【0018】
細菌等の混入のリスクを低減しつつ、効率良く分注を行うことが可能な細胞分注装置及び細胞分注方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
本実施形態に係る細胞分注装置1は、細胞培養装置10によって培養された細胞を分注容器22へ分注する装置である。
図1に示すように、細胞分注装置1は、細胞培養装置10に取り付けられている。
【0022】
細胞培養装置10は、培養環境を調整しながら、自動で細胞を培養する装置である。細胞培養装置10は、培地、剥離液などの試薬を保存する冷蔵保存部11と、細胞が収容されている培養容器14が内部に配置され、内部の環境を調整しながら細胞培養を行う培養部12と、培養部12の内部において、細胞の培養及び継代、培養容器14の内部の培地交換、細胞懸濁液の回収などが行われるように制御する制御部13とを含む。さらに、回収した細胞懸濁液を攪拌する攪拌部15と、攪拌後の細胞懸濁液中に存在する生細胞数をカウントするカウント部16とを含む。細胞培養装置10において培養が終了した細胞は、容器21に収容される。
【0023】
細胞分注装置1は、細胞培養装置10で培養が行われた細胞を含む細胞懸濁液を、所定量ずつ、分注容器22に分注する装置である。細胞分注装置1は、
図2に示すように、細胞懸濁液が収容されている容器21と、分注容器22と、接続経路23と、シリンジポンプ24と、バッファタンク(バッファ部)25と、ガス抜き部26a及び26bと、エアフィルタ27a及び27bと、制御部28とを含んでいる。
【0024】
容器21には、細胞と、分注後の凍結保存の際に必要な凍結液と、を含む細胞懸濁液が収容されており、細胞の分散は容器21内の全体で均一となっている。容器21としては、例えば、バッグ、ボトルなどが挙げられる。
【0025】
分注容器22は、容器21から分注された細胞懸濁液を収容する容器であって、例えば、バイアル、バッグなどが挙げられる。分注容器22の材質は、細胞懸濁液を収容するのに適したものであれば特に限定されず、硬い材質であってもよく、柔軟性及び弾力性を有する材質であってもよい。具体的な材料としては、例えば、ガラス、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シリコン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコンゴム、天然ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、軟質塩化ビニル樹脂、ポリブタジエン樹脂、エチレン―酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、スチレン系エラストマーなどが挙げられる。スチレン系エラストマーの例としては、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン)、SEBE(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン)、SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン)などを挙げることができる。
【0026】
また、容器21及び分注容器22は、内部が無菌状態である。容器21は、チューブなどを介して前述の培養容器14と接続されており、培養容器14から細胞懸濁液を回収した後、攪拌部15による攪拌、カウント部16による生細胞数のカウントなどを経て、細胞分注装置1へ移される。
【0027】
接続経路23は、容器21と分注容器22とを互いに接続する第1チューブ(第1接続管)23aと、第1チューブ23aに形成された分岐部31と、分岐部31に接続されている第2チューブ(第2接続管)23bと、を含む。第1チューブ23aの、容器21と分岐部31との間にはバルブV1が設けられ、分注容器22と分岐部31との間にはバルブV2が設けられている。バルブV1及びV2の開閉によって、第1チューブ23aの内部の流路の開放又は閉鎖が行われる。なお、第1チューブ23a及び第2チューブ23bは、樹脂からなる。
【0028】
シリンジポンプ24は、第2チューブ23bに接続されている。また、シリンジポンプ24は、筒状に形成されたシリンダ24aと、シリンダ24aの内部で往復運動することにより、気体又は液体の吸引及び送出を行うピストン24bと、ピストン24bを駆動するモーター24cとを含んでいる。シリンダ24aには、目盛りが設けられており、シリンダ24aの内部に存在している気体又は液体の量を確認することができる。また、モーター24cは、後述する制御部28からの出力に基づいて、ピストン24bの往復運動を精密に制御することが可能である。このため、シリンジポンプ24は、所定量の気体又は液体の吸引及び送出を正確に行うことができる。モーター24cは、例えば、サーボモーターやステッピングモーターなどが挙げられる。
【0029】
バッファタンク25は、内部が無菌状態であって、内部に液体を貯留することのできる容器である。また、バッファタンク25は、分岐部31とシリンジポンプ24との間に配置され、分岐部31及びシリンジポンプ24と、第2チューブ23bによって接続されている。
【0030】
第2チューブ23bの、シリンジポンプ24とバッファタンク25との間の位置には、分岐部32が形成されている。ガス抜き部26aは、一端側が分岐部32に取り付けられており、他端側が大気に通じている。また、ガス抜き部26aにはバルブV3が形成されており、バルブV3が開状態のとき、ガス抜き部26aは大気開放される。
【0031】
分注容器22と分岐部31との間には、エアフィルタ27bを有するガス抜き部26aがさらに配置されている。詳細には、第1チューブ23aの、バルブV2と分岐部31との間の位置に分岐部33が形成されている。そして、ガス抜き部26bの一端側は分岐部33に取り付けられており、他端側は大気に通じている。また、ガス抜き部26bにはバルブV4が形成されており、バルブV4が開状態のとき、ガス抜き部26bは大気開放される。
【0032】
エアフィルタ27a及び27bは、空気中の塵や細菌などを取り除くことが可能なフィルタである。エアフィルタ27aは、バッファタンク25と分岐部32との間に配置される。また、エアフィルタ27bは、ガス抜き部26bのバルブV4より他端側に配置される。バルブV3が開状態のとき、外気が、ガス抜き部26aを通って、細胞分注装置1の内部に侵入する可能性がある。また、バルブV4が開状態のとき、外気が、ガス抜き部26bを通って、細胞分注装置1の内部に侵入する可能性がある。このとき、侵入した空気中の塵や細菌などは、エアフィルタ27a又は27bに吸着され、取り除かれる。よって、エアフィルタ27a、エアフィルタ27b、容器21、分注容器22、及び、これらに囲まれた接続経路23の内部は、無菌状態が維持される。
【0033】
また、分岐部31とガス抜き部26bとの間には、第1チューブ23aの内部の液体を検出する液面センサ40が配置されている。具体的には、液面センサ40は、第1チューブ23aの、分岐部31と分岐部33との間の位置に配置されている。
【0034】
制御部28は、モーター24c及びバルブV1〜V4と接続されている(バルブV1〜V4との接続は不図示)。制御部28は、予め設定された分注容器22の内部の気体の吸引量、容器21の内部の細胞懸濁液の吸引量及び分注容器22への細胞懸濁液の送出量に基づいて、バルブV1〜V4の開閉制御と、シリンジポンプ24の動作制御とを自動で行う部分である。バルブV1〜V4は、制御部28によって、開閉タイミングが制御される。また、モーター24cは、制御部28からの出力に基づき、ピストン24bを駆動する。なお、制御部28と、モーター24c及びバルブV1〜V4との接続は、無線接続でも電気的接続でもよい。
【0035】
続いて、以下に、本実施形態に係る細胞分注装置1を用いた細胞分注方法について、
図3〜
図7を参照しつつ説明する。細胞分注装置1を用いた細胞分注方法は、ガス抜き工程と、吸引工程と、分注工程と、を含む。ガス抜き工程は、分注容器22の内部の気体を取り除く工程である。吸引工程は、シリンジポンプ24によって、容器21から細胞懸濁液を吸引し、バッファタンク25に貯留する工程である。分注工程とは、シリンジポンプ24によって、バッファタンク25に貯留された細胞懸濁液を分注容器22に分注する工程である。なお、
図3〜
図7において、黒抜きのバルブは閉状態を示し、白抜きのバルブは開状態を示している。
【0036】
まず、細胞分注方法が行われる前の予備動作が行われる。細胞培養装置10の培養部12において、培養容器14の内部に収容されている細胞は、培養終了後、不図示のチューブを通って容器21に回収される。このとき、容器21に収容される細胞から培地が取り除かれ、凍結液が加えられる。凍結液を加えることによって、細胞を損傷させることなく長期の冷凍保存が可能となり、融解後の細胞の生存率を向上させることができる。
【0037】
容器21に収容された細胞と凍結液とを含む細胞懸濁液は、攪拌部15において、細胞の分散が均一となるように攪拌される。攪拌後、細胞懸濁液中に存在する生細胞数は、カウント部16においてカウントされる。カウント結果を元に、細胞懸濁液中の生細胞数が所定の密度となるように、容器21に凍結液が追加される。なお、容器21は、細胞懸濁液が培養容器14から容器21に回収される段階では、細胞培養装置10の内部に配置されている。そして、攪拌、生細胞のカウント及び凍結液の添加が行われた後、細胞分注装置1の内部に移される。
【0038】
所定の密度の細胞及び凍結液を含む細胞懸濁液が収容された容器21は、第1チューブ23aに接続される。このとき、容器21及び第1チューブ23aの内部の無菌状態は維持される。以上によって、予備動作が終了する。
【0039】
(ガス抜き工程)
予備動作が終了した時点で、細胞分注装置1のバルブV1〜V4は、全て閉状態となっている。ガス抜き工程では、まず、制御部28は、
図3に示すように、バルブV2を開状態とし、モーター24cを駆動してピストン24bを引くことで、分注容器22の内部の気体を吸引する。分注容器22の内部の気体は、第1チューブ23a、分岐部31、第2チューブ23b、バッファタンク25の順に通って、シリンジポンプ24の内部に充填される。
【0040】
続いて、制御部28は、
図4に示すように、バルブV2を閉状態とし、バルブV3を開状態として、モーター24cを駆動してピストン24bを押すことで、シリンジポンプ24の内部に充填された気体を大気に排出する。シリンジポンプ24の内部の気体は、ガス抜き部26aを通って大気に排出される。このとき、外気が、ガス抜き部26aを介して、バッファタンク25及び接続経路23に侵入する可能性がある。しかし、分岐部32とバッファタンク25との間にエアフィルタ27aが配置されているため、外気に含まれる塵や細菌などがエアフィルタ27aに吸着され、取り除かれる。これによって、エアフィルタ27a、容器21、分注容器22、及び、これらに囲まれた接続経路23の内部は、無菌状態が維持される。
【0041】
(吸引工程)
ガス抜き工程終了後、制御部28は、
図5に示すように、バルブV3を閉状態とし、バルブV1を開状態とする。そして、制御部28は、モーター24cを駆動してピストン24bを引くことで、容器21の内部の細胞懸濁液を吸引する。容器21の内部の細胞懸濁液は、第1チューブ23a、分岐部31、第2チューブ23bの順に通って、バッファタンク25に貯留される。なお、容器21から吸引される細胞懸濁液の量は、制御部28に予め設定されている。また、制御部28は、細胞懸濁液が、エアフィルタ27aを通って、第2チューブ23bの分岐部32が形成されている側に流れ込むことのないように、モーター24cの駆動を制御する。
【0042】
(分注工程)
吸引工程によって、バッファタンク25に所定の量の細胞懸濁液を貯留した後、制御部28は、
図6に示すように、バルブV1を閉状態とし、バルブV4を開状態とする。そして、制御部28は、モーター24cを駆動して、ピストン24bを押すことで、バッファタンク25に貯留された細胞懸濁液の送出を開始する。すると、第1チューブ23a及び第2チューブ23bの内部に残存している気体が、送出された細胞懸濁液に押し出され、ガス抜き部26bを通って大気に排出される。この動作によって、第1チューブ23a及び第2チューブ23bの内部に残存している気体が、分注容器22に流れ込むことを抑制できるため、より正確な量の細胞懸濁液を分注容器22に収容することができる。なお、このとき、外気が、ガス抜き部26bを介して、接続経路23に侵入する可能性がある。しかし、ガス抜き部26bにはエアフィルタ27bが配置されているため、外気に含まれる塵や細菌などがエアフィルタ27bに吸着され、取り除かれる。これによって、エアフィルタ27b、容器21、分注容器22、及び、これらに囲まれた接続経路23の内部は、無菌状態が維持される。
【0043】
ピストン24bを押し、バッファタンク25に貯留された細胞懸濁液を送出する過程で、液面センサ40によって液体が検出されると、制御部28は、一旦、モーター23cを停止する。そして、制御部28は、
図7に示すように、バルブV4を閉状態とし、バルブV2を開状態とする。その後、制御部28は、再び、モーター24cを駆動してピストン24bをさらに押すことで、細胞懸濁液は分注容器22へと送出される。バッファタンク25に貯留された細胞懸濁液は、第2チューブ23b、分岐部31、第1チューブ23aの順に通って、分注容器22に収容される。なお、バッファタンク25から送出される細胞懸濁液の量は、制御部28に予め設定されている。
【0044】
なお、上述のようにして分注工程を行ったとしても、分注容器22に気体が流入してしまうことがある。この場合、制御部28は、バルブV2を開状態として、モーター24cを駆動し、ピストン24bを引くことで、分注容器22の内部の気体を吸引する。そして、液面センサ40によって気体が検出されると、制御部28は、一旦モーター24cを停止し、バルブV2を閉状態とし、バルブV4を開状態とする。なお、液面センサ40は、第1チューブ23aの内部の液体を検出しなくなったときに、気体を検出したと判断する。そして、制御部28は、モーター24cを駆動して、ピストン24bを押すことで、気体をガス抜き部26bから大気に開放する。その後、制御部28は、バルブV4を閉状態とし、再度、バルブV2を開状態として、モーター24cを駆動し、細胞懸濁液の分注容器22への送出を行う。
【0045】
分注工程の終了後、制御部28は、バルブV2を閉状態とする。そして、細胞懸濁液が収容された分注容器22を、内部の無菌状態を維持しながら、第1チューブ23aから分離する。具体的な分離の手順は、例えば、以下の通りである。
【0046】
まず、第1チューブ23aを、バルブV2と分注容器22の間の所定の位置において、所定の長さ範囲にわたって封をする。樹脂からなる第1チューブ23aは、加熱によって溶着され、当該所定の長さ範囲にわたって封がされる。そして、封がされた当該所定の長さ範囲の任意の位置で、第1チューブ23aを切断することによって、第1チューブ23aの一部を含む分注容器22は、内部の無菌状態を維持しながら、分離することができる。分離された分注容器22は、冷凍保存される。
【0047】
本実施形態の細胞分注装置1は、容器21と分注容器22とを互いに接続する第1チューブ23aと、第1チューブ23aに形成された分岐部31と接続している第2チューブ23bに取り付けられたシリンジポンプ24と、シリンジポンプ24と分岐部31との間に設けられたバッファタンク25とを備える。そして、シリンジポンプ24によって、容器21に収容された細胞懸濁液はバッファタンク25に一時的に貯留され、バッファタンク25に貯留された細胞懸濁液は、分注容器22に送出される。内部の無菌状態を維持可能な閉鎖系においては、細胞懸濁液が収容された容器21と分注容器22とが第1チューブ23aで接続されている。ここで、分注容器22の内部に気体が入っている場合、この気体の存在によって、分注容器22への細胞懸濁液の収容が阻害される。このため、閉鎖系の装置で分注を行う場合、予め、分注容器22の内部の気体を取り除いておく必要がある。そこで、容器21と分注容器22とを接続している第1チューブ23aに分岐部31が設けられ、分岐部31と接続された第2チューブ23bにシリンジポンプ24が取り付けられている。そして、容器21と分岐部31との間に設けられたバルブV1を閉じ、分注容器22と分岐部31との間のバルブV2を開いた状態で、シリンジポンプ24による吸引を行うことにより、分注容器22の内部の気体を取り除くことができる。
【0048】
一方で、上記のように第1チューブ23aに分岐部31を設け、分岐部31と接続された第2チューブ23bにシリンジポンプ24を取り付けた場合、細胞懸濁液を、第1チューブ23aを介して容器21から分注容器22へと直接移動させることができない。そこで、本実施形態の構成では、分岐部31とシリンジポンプ24との間にバッファタンク25を配置した。これにより、シリンジポンプ24を駆動することで、容器21から細胞懸濁液を吸引し、吸引した細胞懸濁液を一時的にバッファタンク25に貯留し、貯留された細胞懸濁液を分注容器22へ送出することができる。このため、内部の無菌状態を維持可能な閉鎖系において、細胞を分注することが可能となり、分注の際に、細菌等が混入するリスクを低減することができる。また、制御部28によって、シリンジポンプ24を駆動させることで細胞の分注を行うことができるため、作業者の手作業によって分注が行われる場合と比べて、効率が良い。
【0049】
本実施形態の細胞分注装置1は、シリンジポンプ24とバッファタンク25との間に配置されたガス抜き部26aと、ガス抜き部26aとバッファタンク25との間に配置されたエアフィルタ27aと、を更に備えている。シリンジポンプ24によって、分注容器22から吸引された気体は、その後の細胞の分注を行う上で不要であり、細胞分注装置1の外部に排出することが望ましい。このため、シリンジポンプ24によって吸引された気体を排出するためのガス抜き部26aが、シリンジポンプ24とバッファタンク25との間に配置されている。一方で、気体を細胞分注装置1の外部に排出する際、ガス抜き部26aを介して外気が細胞分注装置1の内部に侵入する可能性がある。このときに、細菌等がバッファタンク25や分岐部31などに侵入するおそれがある。この状態で、分注を行った場合、細菌等が細胞懸濁液に混入してしまう。そこで、ガス抜き部26aとバッファタンク25との間に、塵や細菌などを取り除くエアフィルタ27aを配置している。これにより、不要な気体を細胞分注装置1の外部に排出したとしても、細菌等のバッファタンク25などへの侵入を防ぐことができる。また、ガス抜き部26aにはバルブV3が形成されている。そして、制御部28は、分注容器22から吸引された気体を外部に排出するときに、バルブV3を開状態とし、それ以外のときはバルブV3を閉状態としている。これによって、外気が細胞分注装置1の内部に侵入する可能性をさらに抑え、ひいては、細菌等のバッファタンク25などへの侵入をより確実に防ぐことができる。
【0050】
本実施形態では、ポンプとして、筒状に形成されたシリンダ24aと、シリンダ24a内を往復運動することで気体又は液体の吸引及び送出を行うピストン24bと、ピストン24bの往復運動を駆動するモーター24cと、を含むシリンジポンプ24が用いられている。また、モーター24cは、制御部28によって制御されている。シリンジポンプ24を用いることで、容器21から吸引する細胞懸濁液の量、及び、分注容器22へと送出する細胞懸濁液の量を、より正確に調節することができる。このため、適切な量の細胞懸濁液を分注容器22に収容することができ、作業の効率化につながる。
【0051】
本実施形態の細胞分注方法は、分注容器22の内部の気体を取り除くガス抜き工程と、容器21から、細胞懸濁液を吸引し、バッファタンク25に貯留する吸引工程と、バッファタンク25に貯留された細胞懸濁液を分注容器22に送出する分注工程と、を含む。ガス抜き工程によって、予め、分注容器22の内部の気体を取り除くことで、容器21と分注容器22とが第1チューブ23aによって接続された閉鎖系の細胞分注装置1において、分注容器22に細胞懸濁液を収容可能な状態とすることができる。また、容器21から細胞懸濁液を吸い上げてバッファタンク25に貯留する吸引工程と、バッファタンク25に貯留された細胞懸濁液を分注容器22へ送出する分注工程とを行うことで、無菌状態を維持しながら分注を行うことが可能である。これにより、分注の際に、細菌等が混入するリスクを低減することができる。また、制御部28によって、シリンジポンプ24を駆動させることで細胞の分注を行うことができるため、作業者の手作業によって分注が行われる場合と比べて、効率が良い。
【0052】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、これらの例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0053】
上記実施形態では、1つの分注容器22が配置されていた。しかしながら、複数の分注容器が配置されていてもよい。例えば、第1変形例の細胞分注装置101では、
図8に示すように、容器21は、第1チューブ23aを介して、複数の分注容器221〜22n(nは正の整数)と接続されている。この場合、それぞれの分注容器と分岐部31との間に、バルブV21〜V2nが設けられる。また、バッファタンク25の容積は、分注容器221〜22nの容積の合計より大きいことが好ましい。これによって、一度の吸引工程でバッファタンク25の内部に貯留した細胞懸濁液を、全ての分注容器221〜22nに送出することができる。細胞分注装置101を用いた細胞分注方法においては、まず、分注容器221に対して、前述したガス抜き工程における動作と同様の動作が行われる。その後、分注容器222から22nまで、順にガス抜き工程を繰り返す。全ての分注容器の内部の気体を取り除いた後、吸引工程が行われる。また、分注工程においては、まず、バルブV21を開状態として、バッファタンク25に貯留された細胞懸濁液のうち、所定量を分注容器221に送出する。所定量の細胞懸濁液の分流容器221への収容が完了した後、バルブV21を閉状態とするとともに、バルブV22を開状態として、バッファタンク25から分注容器222に所定量の細胞懸濁液を送出する。このようにして、細胞懸濁液が、全ての分注容器221〜22nに送出されるまで、分注工程を繰り返す。第1変形例の細胞分注装置101では、バッファタンク25に貯留された細胞懸濁液を、所定量ずつ、複数の分注容器221〜22nに対して、連続的に送出することができる。このため、効率良く分注を行うことができる。
【0054】
上記実施形態では、培養終了後の細胞を含む細胞懸濁液が収容された容器21は、1つの第1チューブ23aと接続されていた。しかしながら、複数の第1チューブ23aと接続されていてもよい。例えば、第2変形例の細胞分注装置201では、
図9に示すように、容器21は、2つの第1チューブ23a1及び23a2と接続されている。一方の第1チューブ23a1は、分注容器221〜22nと接続されており、他方の第1チューブ23a2は、分注容器321〜32m(mは正の整数)と接続されている。また、分注容器221〜22nと分岐部31との間にはそれぞれバルブが設けられ、分注容器321〜32mとの間にも、それぞれバルブが設けられている。第2変形例の細胞分注装置201では、容器21が1つの第1チューブ23aと接続されている場合と比べて、ガス抜き工程、吸引工程及び分注工程をより効率良く行うことができる。また、2つのシリンジポンプに対応するモーター24c1及び24c2は、1つの制御部28に接続されていてもよい。
【0055】
上記実施形態では、容器21は、細胞懸濁液が培養容器14から容器21に回収される段階では、細胞培養装置10の内部に配置されており、攪拌、生細胞のカウント及び凍結液の添加が行われた後、細胞分注装置1の内部に移される。しかしながら、容器21は、攪拌、生細胞のカウント及び凍結液の添加が行われた後も細胞培養装置10の内部、すなわち、細胞分注装置1の外部に配置されたままでもよい。この場合でも、接続経路23を細胞培養装置10の中まで延ばして容器21と接続すれば、容器21は、細胞分注装置1の内部の分注容器22、シリンジポンプ24、バッファタンク25と接続される。
【0056】
また、容器21は、培養容器14から細胞懸濁液が回収される段階において、細胞分注装置1の内部に配置されていてもよい。この場合、培養容器14から回収される細胞懸濁液は、一旦、容器21とは別の容器に回収される。別の容器は、チューブなどを介して容器21と接続されている。別の容器に回収された細胞懸濁液は、攪拌、生細胞のカウント及び凍結液の添加が行われた後、チューブを介して容器21に送られる。
【0057】
上記実施形態では、所定の密度の細胞及び凍結液を含む細胞懸濁液が収容された容器21は、内部の無菌状態を維持しながら、第1チューブ23aに接続される。しかしながら、容器21は、予め第1チューブ23aと接続されていてもよい。この場合、培養容器14から容器21へと細胞懸濁液を回収する段階では、バルブV1は閉状態となっている。また、所定の密度の細胞及び凍結液を含む細胞懸濁液が容器21に収容されて以降、容器21の、第1チューブ23a以外との接続は遮断される。
【0058】
また、容器21は、攪拌機能を有していてもよい。この場合、第1チューブ23aと接続された後において、内部に収容されている細胞懸濁液を攪拌することが可能である。
【0059】
上記実施形態では、細胞分注装置1は、細胞培養装置10に取り付けられている(
図1を参照)。しかしながら、細胞培養装置10の内部に配置されていてもよい。
【0060】
上記実施形態では、ポンプ部としてシリンジポンプ24が用いられている。しかしながら、他の種類のポンプでもよい。例えば、ポンプ部として、弾力性のあるチューブをローラーで押すことで吸引及び送出を行うチューブポンプを用いてもよい。但し、チューブポンプは、気体の吸引に適しておらず、シリンジポンプと比べて所定量の細胞懸濁液の吸引及び送出を正確に行うことができない。このため、ポンプ部は、シリンジポンプであることが好ましい。
【0061】
また、ポンプ部として、送出を行う部分と、吸引を行う部分とがそれぞれ別個に配置されていてもよい。
【0062】
上記実施形態では、シリンジポンプ24の駆動制御は、制御部28によって行われているが、作業者によって行われてもよい。この場合、モーター24cは配置されず、手作業によって、ピストン24bが往復運動する。但し、精密な駆動制御及び作業の効率化の観点から、シリンジポンプ24の動作は、制御部28によって自動で制御されることが好ましい。
【0063】
上記実施形態では、シリンジポンプ24とバッファタンク25との間にガス抜き部26aが配置されている。しかしながら、ガス抜き部26aは、シリンジポンプ24に直接取り付けられていてもよい。
【0064】
また、バッファタンク25に流量センサが設けられていてもよい。流量センサは、容器21から吸引し、バッファタンク25に貯留した細胞懸濁液の量、及び、バッファタンク25から分注容器22に送出された細胞懸濁液の量を測定する。流量センサの測定値に基づいて、制御部28は、モーター24cの駆動を制御することできるため、ピストン24bの往復運動をより精密に制御することができる。
【0065】
上記実施形態では、バッファ部としてバッファタンク25が採用されている。しかしながら、単に、分岐部31とシリンジポンプ24との間に、第2チューブ23bの長さを長くする部分、又は、太さを太くする部分を設け、その部分をバッファ部としてもよい。
【0066】
また、バルブV1及びV2の開閉度合いは、調整可能であってもよい。これにより、第1チューブ23aを通る細胞懸濁液の流量を調整することができる。
【0067】
上記実施形態では、バルブV3及びV4は、開閉可能なバルブである。しかしながら、バルブV3及びV4は、逆止弁でもよい。逆止弁は、気体の流れを一方向に保ち、逆流を防ぐ機能を有する。このため、ガス抜き部26a及び26bに逆止弁が配置されていることによって、細胞分注装置1の内部の気体が大気に排出されることは可能だが、外気が細胞分注装置1の内部に流入することは妨げられる。
【0068】
上記実施形態では、第1チューブ23aの、分岐部31と分岐部33との間の位置には液面センサ40が配置されている。しかしながら、液面センサ40は配置されていなくてもよい。この場合、第1チューブ23a及び第2チューブ23bの内径、並びに、バッファタンク25から分岐部33までの距離に基づいて、制御部28は、バルブV2及びV4の開閉タイミングの制御を行いつつ、シリンジポンプ24の動作を制御する。これによって、液面センサ40が配置されていない場合でも、第1チューブ23a及び第2チューブ23bの内部に残存している気体を取り除いた上で、細胞懸濁液を分注容器22に送出することができる。
【0069】
さらに、エアフィルタ27bを有するガス抜き部26bは配置されていなくてもよい。但し、この場合、第1チューブ23a及び第2チューブ23bに残存している気体が分注容器22に流れ込む可能性がある。これは、正確な量の細胞懸濁液を分注する妨げとなるため、分注容器22への気体の流入を抑制することのできるガス抜き部26bは、配置されていることが好ましい。