【実施例】
【0064】
〔全体組成がSm(Fe
0.8Co
0.2)
12Bで表される希土類化合物を含有するエピタキシャル薄膜の作製〕
薄膜の作製には、DCマグネトロンスパッタ法を用いた。
0.167Pa(1.30mTorr)のAr雰囲気下、超高真空(UHV)対応のDCマグネトロンスパッタ装置のチャンバ内の圧力を10
−8Pa以下とし、MgO(100)単結晶基板を700℃で20分間熱処理し、表面を清浄化した。その後、325℃の基板温度にて、このMgO(100)単結晶基板上に、下地層として、Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12と格子ミスマッチの小さいV(厚み=20nm)を配置した(以下、上記下地層を配置したMgO(100)単結晶基板を単に「基板」ともいう。)。
続いて、上記と同じ325℃の基板温度にて、Sm、Fe、Fe
50Co
50、Fe
80B
20ターゲットを同時にスパッタすることによりSm(Fe
0.8Co
0.2)
12B層を成膜した。更に、酸化防止のためキャップ層としてV(厚み=10nm)を堆積した。
【0065】
なお、予めDCマグネトロンスパッタ装置の設定条件と、成膜レートとの関係を段差計を用いて測定し、この結果を用いて、各試料膜におけるホウ素の導入量を成膜レートから見積もった。
すなわち、同じ厚みの膜であっても、成膜レートを制御することでホウ素の導入量を制御でき、成膜レートを一定とすれば、一定のホウ素含有量を有し膜の厚みの異なる試料を成膜することもできる。なお、本発明者らの予備実験によれば、上記の材料、成膜条件、及び、成膜装置を用いて、基板上に5nm以上の厚みを有するSm(Fe
0.8Co
0.2)
12B層を成膜することができることが確認されている。また、必要に応じて、Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B層の厚みを5nm未満とすることも可能である。
【0066】
ICP−OES分析は、以下の手順によって実施した。
まず、試料を石英ビーカーに採取し、硝酸と水との1:1(体積)溶液の5ml、塩酸と水との1:1(体積)溶液の10ml、及び、硫酸と水との1:1(体積)溶液の3mlを加え、120℃で30分間加熱して溶解させ、放冷後100mlに定容した。この溶液中の各元素の含有量をアジレント社製ICP−OES装置「720−ES ICP−OES」により測定した。
【0067】
(例1〜例2)
ホウ素(B)の導入(目標)量を0体積%から1.5体積%まで変化させて、基板上に100nmの厚みを有するSm(Fe
0.8Co
0.2)
12B膜を作製した。以下では、Bの含有量が0体積%である試料(Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12膜;例1)、及び、Bの含有量が0.5体積%である試料(Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B
0.5膜;例2)の特性について説明する。
【0068】
図2(a)及び(b)には、それぞれ、膜の厚みが100nmである例1及び例2の薄膜の、面内(In−Plane(IP))及び面直(Out−of−Plane(OOP))方向の磁化曲線を示した。磁気特性の測定には、超伝導量子干渉磁束計(SQUID)を用い、室温下で±7T(70kOe)の範囲で磁場を印加した。後述する
図11、
図12、
図16、
図21についても同様である。
【0069】
図2(a)によれば、Bが0体積%である例1の膜は強い垂直異方性を示している。保磁力は0.1Tであり、ゼロ磁場での残留磁化は0.2Tであった。
図2(b)によれば、Bが0.5体積%である例2の膜は、例1の膜に匹敵する強い垂直異方性を示し、例1の膜を有意に上回る1.2Tの保磁力を示した。また、ゼロ磁場での残留磁化は1.50Tであった。加えて、300〜500K(27〜227℃)の温度範囲における例2の膜の保磁力の温度係数(β)は、−0.22%/℃と計算された。従来報告されている異方性Nd−Fe−B系磁石の保磁力の温度係数(β)は約−0.4〜−0.6%/℃であるので、例2の膜に関して得られた上記温度係数の絶対値は従来のNd−Fe−B系磁石よりも非常に小さく、このことは、本発明の実施形態に係る希土類化合物を含有する膜が、従来のNd−Fe−B系磁石に比べて保磁力の熱安定性に優れることを示している。
【0070】
なお、例2の膜の磁化曲線(
図2(b))については、後述する薄膜の微細構造解析の結果に基づき、減磁率を0.83とする反磁界補正を行っている。例2の膜で得られたゼロ磁場での残留磁化の値(1.50T)は、従来報告されている異方性Nd
2Fe
14B/FeCoナノコンポジット薄膜での値(1.61T)と比べてやや小さいものの、本発明者らが知る限りにおいて、異方性Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12膜の中では最大の値である。また、XRDの回折パターン(データ示さず。)から、Bが0体積%である例1の膜では、格子定数a、c、及び、c/aは、それぞれ、a=0.8524nm、c=0.4811nm、c/a=0.564であり、Bが0.5体積%である例2の膜では、a=0.8656nm、c=0.4755nm、c/a=0.549であった。
【0071】
図3(a)及び(b)には、それぞれ、例1及び例2の薄膜の、面内及び断面の透過型電子顕微鏡像(BF−TEM像)を示した。
【0072】
図3(a)(例1の膜)では、上側の面内像からは薄膜が連続的であり、下側の断面像からは柱状構造を持っていることがわかる。柱状構造を持つ粒子の間には粒界相は観察されない。
これに対して、
図3(b)(例2の膜)では、柱状のSmFe
12系結晶粒が確認された。この柱状粒の平均粒径は、約40〜50nmであり、高さと幅(平均粒径)の比率は、約2.5:1(平均アスペクト比約2.5)であった。また、この柱状粒を主相として、主相間に一定の幅(約1nm以上)を有する粒界相が存在する構造であることがわかる。
これらのBF−TEM像から、本発明の実施形態に係る希土類化合物を含有する膜では、所定量のホウ素が添加されることにより、主相のThMn
12型の結晶相(1−12相)が柱状成長すると共に柱状結晶相間に一定の厚みを有する粒界相が形成され、このような微細構造によって高い保磁力が発揮されることが示唆された。
【0073】
図4(a)〜(d)に、高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)像を示した。
図4(a)及び(b)は、例1の薄膜(Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12膜)のHAADF−STEM像であり、
図4(c)及び(d)は、例2の薄膜(Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B
0.5膜)のHAADF−STEM像である。
【0074】
図4(a)によれば、例1の膜では、2つのSm(Fe,Co)
12結晶粒の間には明確な相は見られず、2つの結晶粒が互いに直接接触していることがわかる。
図4(b)は、例1の膜におけるSm(Fe,Co)
12結晶粒の[100]の晶帯軸(
図4(a)の紙面上方向)に沿って得た高倍率画像である。HAADF−STEM像では試料中に含まれる元素の原子数に起因してコントラストが生じるので、画像中、より明るいスポットとして見られるのは、より重い元素の原子カラムに対応する、すなわち、Sm(Fe,Co)
12化合物中のSmであると考えられる。また、
図4(b)中に記号iで示した領域のナノビーム電子回折パターン(右上)、及び、原子分解能STEM−EDSマッピングの結果を投影することにより、例1の膜におけるSm(Fe,Co)
12結晶粒はThMn
12型構造を有することが示された。しかしながら、例1の膜では、
図4(b)中に記号iiで示すように、ナノビーム電子回折パターン(左上)、及び、原子分解能STEM−EDSマッピングの結果が異なる領域も存在している。
【0075】
図4(c)によれば、例2の膜では、2つのSm(Fe,Co)
12結晶粒の間に約3nmの厚みを有するアモルファスの粒界相(GB)が確認された。
図4(d)は、例2の膜におけるSm(Fe,Co)
12結晶粒の[100]の晶帯軸(
図4(c)の紙面上方向)に沿って得た高倍率画像である。
図4(d)中に挿入したナノビーム電子回折パターン(右上及び左上)から、上記粒界相によって隔てられている2つのSm(Fe,Co)
12結晶粒はいずれもThMn
12型構造を有し、ミスアラインメントは2°程度と小さく、両者の近接するSm(Fe
0.8Co
0.2)
12結晶粒の[001]方向(c軸)が上向き(
図4(d)の紙面上方向)に配向していることが示された。
【0076】
図5(a)及び(b)には、それぞれ、例1及び例2の薄膜の、面内及び断面の走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析の結果(STEM−EDS像)を示した。
【0077】
図5(a)によれば、例1の膜では、Sm、Fe及びCoが膜中に均一に分布していることがわかる。なお、部分的にSmの濃度が異なる部分が見られるが、当該部分は、主相とは異なる第2相の存在に起因するものであり、当該第2相は、
図4(b)に示すHAADF−STEM像から、Th
2Mn
17型相(Sm
2(FeCo)
17相)又はTbCu
7型相(Sm(FeCo)
7相)のいずれかであると考えられる。
図5(b)によれば、例2の膜では、不均一なCoの分布が確認され、Coの濃度が低い部分は、
図3(b)に示すBF−TEM像を参照して説明した粒界相に対応する部分であることが確認された。なお、エネルギー分散型X線分析装置の検出限界により、STEM−EDS像からはBの分布に関する情報は得られていない。
【0078】
図6(a)及び(b)には、例1の膜の、3次元アトムプローブ(3DAP)による分析結果を示した。
図6(a)に示す3DAPマップは、薄膜の面に対して平行にプローブを走査して得た。
図6(b)は、
図6(a)中の直方体で示した領域におけるSmの3DAPマップ(上段)、当該領域のSm、Co及びFeの組成プロファイル(中段)、及び、中段に示すSmの組成プロファイルを拡大したもの(下段)である。
【0079】
図6(a)及び(b)によれば、例1の膜では、CoとFeの原子%(at%)基準の含有量比は1:4であり、成膜条件から予測される組成比の値であった。Smの含有量に関しては、
図5(a)に示すSTEM−EDS像を参照して説明したように、部分的にSmの濃度が異なる部分が見られ、当該部分ではSmの含有量は約10〜11原子%であったが、Smの平均含有量としては約7.95原子%であり、この値は、ThMn
12型構造を有する異方性Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12相におけるSmの組成と一致している。
【0080】
図7(a)及び(b)には、例2の膜の、3次元アトムプローブ(3DAP)による分析結果を示した。
図7(a)に示す3DAPマップは、薄膜の面に対して平行にプローブを走査して得た。つまり、
図7(a)の紙面貫通方向が、薄膜の面直方向である。
図7(b)は、
図7(a)中の直方体で示した領域における構成元素(Sm、Co、Fe及びB)の組成プロファイルである。
【0081】
図7(a)によれば、
図5(b)に示すSTEM−EDS像を参照して説明した、Coの濃度が低い部分において、Bが多く分布していることがわかる。また、このことは、
図7(b)に示す原子%(at%)基準の組成プロファイルからもはっきりと確認することができる。
より具体的には、
図7(b)によれば、Bは、主相(1−12相)及び粒界相(GB)の両方に分布し、特に粒界相に偏って分布する(偏在している)ことがわかる。言い換えると、例2の膜では、主相とは元素組成が明確に異なる粒界相が存在し、当該粒界相は、B濃化相であることが確認された。なお、
図7(b)に示す組成プロファイルに基づいて計算された粒界相におけるBの含有量は、約10.3原子%であった。
【0082】
主相である1−12相(ThMn
12型の結晶相)におけるSmの平均含有量は、約8.0原子%であり、1−12相の化学量論組成と一致した。一方、粒界相におけるSmの平均含有量は1−12相より若干低く、約5.8原子%であった。上述したように、Bは主相中にも分布するが、その量は無視できる程度に低い。Coの含有量は、1−12相の中央部において約19.8原子%であるが、B濃化相である粒界相では約10.6原子%であった。
【0083】
例2の膜についてICP−OES分析を行った結果、膜の全体組成は、Sm
7.7Fe
72.1Co
16.5B
3.7(原子%)であり、主相の1−12相及びアモルファスの粒界相の組成は、それぞれ、Sm
8.0Fe
71.9Co
19.8B
0.3及びSm
5.8Fe
73.3Co
10.6B
10.3(いずれも原子%)であった。また、粒界相におけるFeとCoの合計含有量が約84%であることから、当該粒界相は強磁性であると考えられる。加えて、Nd−Fe−B磁石について確認されているように、当該粒界相は磁壁移動の障壁として作用し得ることが、1.2Tの高い保磁力を示した要因であると考えられる。そして、例2の膜において、すべての相は、Vの下地層上で[001]方向に優先配向しているため、1.50Tの残留磁化が得られたと考えられる。
【0084】
図8には、上述した特性分析の結果から導かれる、例1及び例2の薄膜の微細構造の模式図を示した。
図8の左側が、例1の薄膜(Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12膜、保磁力(μ
0H
c=0.1T))であり、右側が、例2の薄膜(Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B
0.5膜、保磁力(μ
0H
c=1.2T))である。
【0085】
例1の膜では、部分的に主相とはSm含有量が異なる第2相が存在し得るが、当該第2相以外に、主相の1−12相と構造的かつ組成上明確に区別できるような相は存在しない。
【0086】
これに対して、例2の膜では、Bを含有するSm(Fe,Co)
12膜であることにより、主相(1−12相)としてThMn
12型構造を有する異方性の結晶粒を含み、当該主相は、一定の厚みを有するアモルファスの粒界相に囲まれており、当該粒界相は、B濃化相である。具体的には、例2の膜では、3.7原子%のBを含有するSm(Fe,Co)
12膜であることにより、平均粒径が約40〜50nmの柱状の1−12相を有し、当該1−12相は、平均で約3nm程度の厚みを有するアモルファスの粒界相に囲まれており、当該粒界相は、約10.3原子%のB含有量を有するB濃化相である。そして、このような微細構造を有することにより、例2の膜は、従来のBを含まないSm(Fe,Co)
12膜では得られなかった1.2Tの保磁力を示した。
【0087】
(例3)
次に、上記例2と同様の材料、及び、成膜装置を用いて、100nmの厚みを有し、Bの含有量が0.5体積%である試料(Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B
0.5膜)を作製した。例3では、成膜条件として、Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B層の成膜時の基板温度を350℃とし、Vのキャップ層(10nm)を堆積した後の温度条件を以下の(a)〜(i)のように設定して、計9種類の試料を作製した。
(a)自然冷却(30分間で60℃まで冷却)
(b)窒素ガスによる冷却(4分間で20℃まで冷却後、30分間保持)
(c)200℃で60分間保持した後、自然冷却(30分間で50℃まで冷却)
(d)250℃で60分間保持した後、自然冷却(30分間で60℃まで冷却)
(e)300℃で60分間保持した後、自然冷却(30分間で65℃まで冷却)
(f)350℃で60分間保持した後、自然冷却(30分間で65℃まで冷却)
(g)400℃で60分間保持した後、自然冷却(30分間で70℃まで冷却)
(h)450℃で60分間保持した後、自然冷却(30分間で70℃まで冷却)
(i)500℃で60分間保持した後、自然冷却(30分間で80℃まで冷却)
【0088】
上記(a)〜(i)の温度条件に関し、以下では、条件(a)を通常のプロセス(Normal process)とし、条件(b)〜(i)については、Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B層の成膜時の基板温度(350℃)を基準として、当該温度未満のもの((b)〜(e))を冷却条件(Cooling)、当該温度以上のもの((f)〜(i))を加熱条件(Annealing)と分類して、各条件で作製した試料の特性について説明する。
【0089】
図9には、条件(a)、及び、条件(b)〜(e)の冷却条件(Cooling)によって得られた膜の面外(Out−of−Plane)XRDパターンを示した。
【0090】
図9によれば、いずれの試料でも、(002)及び(004)に由来する回折パターン(図中、下向き白三角印で示す。)が観測され、(001)面が強く配向したThMn
12型の結晶相が主相であること、すなわち、Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B層の結晶方位が[001]方向に優先配向していることがわかった。また、条件(a)と条件(b)〜(e)との比較では、主相のピーク強度及び位置に大きな変化は見られなかった。
【0091】
図10には、条件(a)、及び、条件(f)〜(i)の加熱条件(Annealing)によって得られた膜のOut−of−Plane XRDパターンを示した。
【0092】
図10によれば、いずれの試料でも、(002)及び(004)に由来する回折パターン(図中、下向き白三角印で示す。)が観測され、(001)面が強く配向したThMn
12型の結晶相が主相であること、すなわち、Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B層の結晶方位が[001]方向に優先配向していることがわかった。また、条件(a)と条件(f)〜(i)との比較では、主相のピークの強度及び位置に大きな変化は見られなかった。一方、条件(f)〜(i)の試料では、第2相(α−Fe、Sm(FeCo)
7、Sm
2(FeCo)
17相等)のピーク(図中、下向き黒三角印で示す。)のピーク強度が増加する傾向が見られた。また、下地層及びキャップ層に用いたVのピーク強度が減少する傾向が見られた。このことから、加熱条件(Annealing)では、V層が主相内に拡散していることが示唆される。
【0093】
図11には、条件(a)、及び、条件(b)〜(e)の冷却条件(Cooling)によって得られた膜の、面内及び面直方向の磁化曲線を示した。
【0094】
図11によれば、いずれの試料でも、1.16T(図中ではエルステッド単位Oeを用いて11.6kOeと表している)の保磁力を有することが確認された。
【0095】
図12には、条件(a)、及び、条件(f)〜(i)の加熱条件(Annealing)によって得られた膜の、面内及び面直方向の磁化曲線を示した。
【0096】
図12によれば、条件(f)〜(i)の試料では、保磁力の値は条件(a)の試料で得られた値(11.6kOe)よりも低く、保持温度が高いほどその値は低い結果であった。
【0097】
図13(a)〜(d)には、それぞれ、条件(c)〜(i)の試料の磁気特性(飽和磁化、保磁力、ゼロ磁場での残留磁化比、及び、垂直異方性)を示した。
【0098】
図13(a)によれば、飽和磁化(M
s)は、保持温度の増加に伴い線形に増加する傾向が見られた。
図13(b)によれば、保磁力(H
c)は、保持温度が350℃以上の加熱条件(Annealing)において減少することが確認された。
図13(c)によれば、ゼロ磁場での残留磁化比(M
r/M
s)は、保磁力と同様に、保持温度が350℃以上の加熱条件(Annealing)において減少することが確認された。
図13(d)によれば、垂直異方性(K
u)は、保持温度が350℃以上の加熱条件(Annealing)において増加するものの、保持温度が500℃の条件(i)では減少することが確認された。
【0099】
これらの結果、及び、
図11及び
図12を参照して説明した各条件での保磁力の結果から、上述したアモルファスの粒界相(B濃化相)は、Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B層の成膜時に形成されることが示唆された。また、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法において、基板上に本発明の実施形態に係る希土類化合物を含有する磁石層をスパッタリング法によって成膜する場合には、基板を所定の温度に加熱して当該希土類化合物を構成する元素を含むターゲットをスパッタした後、当該基板の加熱温度未満の温度で冷却することが望ましいことが確認された。
【0100】
(例4〜例12)
次に、上記例2と同様の材料、及び、成膜装置を用いて、膜の厚みを20nmから200nmまで変化させて、Bの含有量が5.0体積%である試料(Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B膜)を作製した。
【0101】
(例13〜例21)
また、上記例2と同様の材料、及び、成膜装置を用いて、ホウ素(B)の導入(目標)量を0体積%から8.0体積%まで変化させて、50nmの厚みを有する試料(Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B膜)を作製した。
【0102】
以下の表1には、例4〜例21の試料の、ホウ素(B)の導入(目標)量、及び、ICP−OESによる元素分析結果をまとめて示した。
【0103】
【表1】
【0104】
なお、表1中、「−」はICP−OES測定を実施しなかったことを示す。また、表中「at%」は原子%を表す。
【0105】
図14には、膜の厚みを20nmから200nmまで変化させた例4、例7〜10及び例12の薄膜のOut−of−Plane XRDパターンを示した。
(002)及び(004)からの回折線(図中、下向き白三角印で示す。)の強度は膜の厚みの増加とともに増加する。一方で、65°付近に観測される第2相(α−Fe、Sm(FeCo)
7、Sm
2(FeCo)
17)からの回折線(図中、下向き黒三角印で示す。)の強度は膜の厚みによって変化しなかった。
【0106】
図15には、膜の厚み(t
SFC)を変化させた例4〜12の薄膜の格子定数a、c、及び、c/aの変化を示した。aは30nmの8.70Åまで増加するが、その後80nmまでは8.70Åの一定値を示し、その後減少した。
一方、cは30nmの4.75Åまで減少し、その後、4.75Åの一定値を示した。c/aは30nmまで減少するが、その後、一定値を示した。
【0107】
図16に、膜の厚みを変化させた例4、例7〜10及び例12の薄膜の磁化曲線を示す。いずれも垂直磁化膜であった。膜の厚みの増加とともに垂直方向の保磁力が増加し、100nmのときに0.94Tの最大値を示す。この値は例4〜例21の膜の中では最大の値だった。
【0108】
なお、膜の厚みが100nmのとき、磁化の値は1.55Tと比較的高い値を示している。更にB濃度を増加させると、保磁力は低下した。
【0109】
図17に、Bの含有量を一定とした薄膜の磁化(M
s)、ゼロ磁場での残留磁化比(M
r/M
s)、保磁力(H
c)、垂直異方性(K
u)の膜の厚み(t
SFC)に対する依存性を示した。
【0110】
図18に保磁力の温度依存性を示した。図中、横軸は温度(K)、縦軸は保磁力(T)を示している。保磁力の温度依存性の測定には、試料振動型磁力計を備えたSQUID−VSMを用い、温度を50〜700Kの範囲で変化させて測定した。
黒色の丸のプロットがホウ素の含有量が5体積%となるよう成膜条件を調整して得られた試料、黒色の四角のプロットがSm(Fe
0.8Co
0.2)
12にCu拡散をしたもの、黒色の三角のプロットがSm(Fe
0.8Co
0.2)
12にCu−Ga拡散をしたものである。
黒色の実線、黒色の破線2本の計3本は商用のNd
2Fe
14B磁石(NMX−36(Dy含有量8%)、NMX−43(Dy含有量4%)、NMX−52(Dyフリー))の温度依存性を表している。
図18によれば、Sm(FeCo)
12磁石はNd
2Fe
14B磁石よりも小さい温度依存性を示すことがわかる。Sm(FeCo)
12磁石の中でも、ホウ素を5体積%含む試料は全温度領域にわたって高い保磁力を示し、300〜700Kの温度範囲における保磁力の温度係数(β)は最も低い値(−0.15%/K)であった。
【0111】
なお、例2の薄膜に関して
図4(c)及び(d)を参照して説明したような微細構造、及び、
図5(b)、
図7(a)及び(b)を参照して説明したような構成元素の分布及び組成プロファイルは、例9の薄膜のHAADF−STEM像、ナノビーム電子回折パターン、STEM−EDS像、及び、3DAPによる分析結果からも確認された(データ示さず。)。
【0112】
図19には、膜の厚みを50nmとした例13及び例15〜21のSm(Fe
0.8Co
0.2)
12B膜のOut−of−Plane XRDパターンを示した。Out−of−Plane XRDの結果より、(002)及び(004)に由来する回折パターン(図中、下向き白三角印で示す。)が観測され、ThMn
12型の結晶相の(001)面が強く配向していること、すなわち、Sm(Fe
0.8Co
0.2)
12B層の結晶方位が[001]方向に優先配向していることがわかった。
【0113】
ここで、Bの含有量を増やしていくと(002)、(004)からの回折線は高角側へシフトするとともに、α−Fe、Sm(FeCo)
7、Sm
2(FeCo)
17に起因するピーク(図中、下向き黒三角印で示す。)が2θ=65°付近に観測された。また、その強度はBの含有量の増加とともに増加した。
【0114】
図20には、膜の厚みを一定(50nm)とした例13〜18及び例21の薄膜の格子定数a、c、及び、c/a(縦軸)と、Bの含有量(横軸)との関係を示した。aはBの含有量が4体積%までは約8.56Å(オングストローム)でほぼ一定値を示すが、Bが4体積%を超えると急激に増加した。一方、c、及び、c/aはBの含有量の増加とともに単調に減少した。
【0115】
図21に、膜の厚みを一定としてBの含有量を変化させた例13及び例15〜21の薄膜の、面内及び面直方向の磁化曲線を示した。
図21によれば、Bが0体積%では強い垂直異方性を示している。保磁力は0.14Tである。
図21によれば、Bの含有量の増加とともに面直方向の保磁力が増加し、Bの含有量が5.0体積%で0.75Tの保磁力を示した。また、上記においては1.59Tの高い磁化を示した。更に、面内成分も増加した。
【0116】
更にBの含有量を増加させると面直方向の保磁力は減少し、磁化容易方向が面内へと変化した。
図22には、膜の厚みを一定とした薄膜の磁化(M
s)、ゼロ磁場での残留磁化比(M
r/M
s)、保磁力(H
c)、及び、垂直異方性(K
u)のBの含有量への依存性を示した。なお、
図22には、例13〜21のB導入目標量とは異なる成膜条件で作製した試料の結果も併せて示した。