【実施例】
【0030】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定される
ものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0031】
本実施例中、飲料中の各成分の分析は以下の測定により実施した。
(亜鉛含有量の分析)
緑茶飲料中の亜鉛含有量は、ICP発光分光分析装置(Optima2100DV、パーキンエルマー社製)を用いてICP発光分光分析法により測定した。
(カテキン類含有量の分析)
試料となる緑茶飲料をフィルター(0.45μm)でろ過し、HPLC分析に供した。HPLCの分析条件は以下のとおり。
・HPLC装置:TOSOH HPLCシステム LC8020 model II
・カラム:TSKgel ODS80T sQA(4.6mm×150mm)
・カラム温度:40℃
・移動相A:水-アセトニトリル-トリフルオロ酢酸(90:10:0.05)
・移動相B:水-アセトニトリル-トリフルオロ酢酸(20:80:0.05)
・検出:UV275nm
・注入量:20μL
・流速:1mL/min.
・グラジエントプログラム:
時間(分) %A %B
0 100 0
5 92 8
11 90 10
21 90 10
22 0 100
29 0 100
30 100 0
・標準物質:カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート(クリタ高純度試薬)
(アスコルビン酸含有量の分析)
試料となる緑茶飲料をフィルター(0.45μm)でろ過した液1〜5gに5%メタリン酸溶液に加え(50mL)て希釈した。これを遠心分離、ろ過した後、ろ液1mLを小試験管にとり、5%メタリン酸溶液1mLを加えた後、0.2%ジクロロフェノールインドフェノール溶液100μLと2%チオ尿素−5%メタリン酸溶液2mLを加え、これに2%2,4−ジニトロフェニルヒドラジン−4.5mol/L硫酸0.5mLを加え、38〜42℃で16時間反応させた。反応後、酢酸エチル3mL(振盪60分間)で抽出して無水硫酸ナトリウムで乾燥し、HPLC分析に供した。HPLCの分析条件は以下のとおり。
・HPLC装置:LC−10AS(島津製作所製)
・検出:UV−VIS検出器(波長495nm)、SPD−10AV(島津製作所製)
・カラム:Senshupak Silca-1100(4.6mm×100mm)、
・カラム温度:35℃
・移動相:酢酸エチル-ヘキサン-酢酸-水の混合液(60:40:5:0.05)
・流速:1.5mL/min
(濁度の測定)
飲料の濁度は、飲料を500mLPETボトルに充填して20℃にし、攪拌(上下に10回振る)して10秒静置後に、分光光度計(島津製作所 分光光度計 UV−1600)を用いて、680nmにおける吸光度OD
680を測定した。
(pHの測定)
飲料100mLを300mLのビーカーに量り取り、20℃に温度調整をしてpHメーター(堀場製作所製、HORIBA pHメーターF21)を用いて測定した。
【0032】
実験1:亜鉛による抹茶風味付与効果(1:亜鉛の水溶性塩)
まず、緑茶飲料のベースとなる緑茶葉エキスを製造した。煎茶葉(一番茶を中心とした弱火煎茶)の乾燥重量に対して30重量部の水を抽出溶媒として用いた。60℃の水で5分間抽出した後、茶葉を分離し、さらに遠心分離処理(6000rpm、10分)して粗大な粉砕茶組織や茶粒子などの固形分を除去して、カテキン類含有量が60mg/100mL緑茶葉エキスを得た(緑茶葉エキスA)。緑茶葉エキスAをカテキン類含有量が12.5mg/100mLとなるように水で希釈して、緑茶抽出液を製造した。この緑茶抽出液に、粉砕茶葉として、碾茶を石臼で挽いて製造された抹茶(D
90:20μm)を0.007g/100mLとなるように混合した。これに、40mg/100mLの濃度となるようにアスコルビン酸を添加し、さらにpH6.4となるように重曹(炭酸水素ナトリウム)を混合した。さらに、グルコン酸亜鉛(扶桑化学社製、亜鉛含有量約14%)を亜
鉛含有量が表1の含有量となるように添加した。これを125℃で7分間加熱殺菌処理した。この加熱殺菌済緑茶飲料をPET容器(500mL)に充填して容器詰緑茶飲料を得た。容器詰緑茶飲料のカテキン類含有量は13mg/100mL、アスコルビン酸含有量は31mg/100mLであり、濁度(OD
680)は0.15、pHは6.2であった。
【0033】
得られた容器詰緑茶飲料について、専門パネル6名にて、抹茶風味の指標として、緑茶飲料の濃厚感(コクや甘みの強さ)を評価した。評価は、20℃の飲料50mLずつをプラスチックカップに注いで飲用し、亜鉛無添加を1点(コントロール)、サンプル1−10の飲料の濃厚感を4点として4段階評価法にて評価した。すなわち、1点:コントロールと同程度の濃厚感である、2点:濃厚感がわずかに付与されている、3点:濃厚感が付与されている、4点:濃厚感がよく付与されている、として、各パネルが評価した結果を再度全員で自由討議し、全員の合意のもとに整数値で表記した。なお、評価点は、3点以上のものが嗜好性の高い香味良好な緑茶飲料であると判定した。評価結果を表1に示す。0.08mg/100mL以上の亜鉛を含有する緑茶飲料は、じんわりと拡がる旨味と濃厚で深い味わい(コクや甘み)を有する緑茶飲料であった。
【0034】
また、この緑茶飲料をPETボトルから直接に飲用した際の抹茶風味の強さについても評価した。6名のパネル全員が、PETボトルから直接飲用した場合に、亜鉛無添加の飲料と0.08mg/100mL以上の亜鉛を含有する緑茶飲料の違いがより鮮明であり、特に、飲用後の余韻(コクとレトロネーザルアロマ)が強化されていると答えた。
【0035】
【表1】
【0036】
実験2:粉砕茶葉の効果(1:含有量)
実験1の1−5の緑茶飲料について、表2の濁度となる量の抹茶を配合すること以外は、実験1と同様にして容器詰緑茶飲料(アスコルビン酸含有量:31mg/100mL、pHは6.1)を製造し、評価した。また、参考例として、グルコン酸亜鉛中のグルコン酸と同量のグルコン酸を配合した緑茶飲料(アスコルビン酸含有量:31mg/100mL、pHは6.1)を製造した。
【0037】
評価結果を表2に示す。グルコン酸のみを配合し、亜鉛を含まない緑茶飲料(参考例)では全く抹茶風味付与効果が確認できなかったことから、亜鉛が粉砕茶葉の風味を増強していることが判明した。この亜鉛による抹茶風味付与効果は、濁度が0.08以上となる粉砕茶葉が含有されている場合に発現することが示唆された。
【0038】
【表2】
【0039】
実験3:粉砕茶葉の効果(2:粉砕茶葉の種類(煎茶))
実験1の1−1、1−5、及び1−8の緑茶飲料で使用した抹茶を、煎茶(深蒸し茶)をミルで粉砕して得られた粉砕茶葉(D90:25μm)に変える以外は、実験1と同様にして容器詰緑茶飲料を製造して、評価した。評価結果を表3に示す。粉砕茶葉が煎茶の場合にも、亜鉛と粉砕茶葉を共存させることによりコクや甘みといった抹茶風味が強化された。
【0040】
【表3】
【0041】
実験4:粉砕茶葉の効果(3:粉砕茶葉の種類(微細化抹茶))
実験1の抹茶を20倍量の水に懸濁させて、マルチ撹拌システム(プライミクス株式会社製、商品名「T.K.ロボミックス」、仕様:T.K.ホモミキサー、処理条件:回転数10,000rpm×5分間)を用いて微細化抹茶(D90:2μm)の分散液を得た。この微細化抹茶分散液を、実験1の緑茶葉エキスAをカテキン類含有量が12.5mg/100mLとなるように水で希釈した緑茶抽出液に、15重量%、30重量%の濃度で混合し、さらに実験3と同様に、アスコルビン酸、重曹、グルコン酸亜鉛を添加し、加熱殺菌処理して容器詰緑茶飲料を得た。容器詰緑茶飲料のカテキン類含有量は13〜14mg/100mL、アスコルビン酸含有量は31mg/100mLであり、pHは6.2であった。表4に、実験1と同様に評価した結果を示す。粉砕茶葉として微細化抹茶を用いた場合にも、亜鉛による抹茶風味付与効果が確認できた。
【0042】
【表4】
【0043】
実験5:亜鉛による抹茶風味付与効果(2)
実験1の緑茶葉エキスAをカテキン類含有量が16mg/100mLとなるように水で希釈し、抹茶の配合量を0.02g/100mLとなるようにした以外は、実験1と同様に、グルコン酸亜鉛を用いて種々の亜鉛含有量の容器詰緑茶飲料(アスコルビン酸含有量:31mg/100mL、pHは6.2)を製造した。実験1と同様に、亜鉛無添加を1点(コントロール)、サンプル5−7の飲料の濃厚感を4点として4段階評価法にて評価した。評価結果を表5に示す。濁度が0.4の緑茶飲料においても、亜鉛による抹茶風味付与効果が確認できた。緑茶飲料5−8について、少しくどいと感じるパネルが1名存在したことから、亜鉛量の上限は4mg/100mL程度であることが示唆された。
【0044】
【表5】
【0045】
実験6:カテキン類含有量の影響
表6に示すカテキン類含有量となるように、緑茶抽出液Aの希釈度合いを変える以外は、実験5−1、5−3、及び5−5の緑茶飲料と同様にして容器詰緑茶飲料(アスコルビン酸含有量:31mg/100mL、pHは6.2)を製造し、評価した。評価は、それぞれのカテキン類含有量の緑茶飲料において、亜鉛無添加の飲料の濃厚感を1点として4段階評価した以外は実験1と同様に行った。評価結果を表6に示す。カテキン類含有量が45mg/100mLの緑茶飲料は、カテキン類の渋味が強く知覚され、亜鉛による抹茶風味付与効果が知覚されにくい傾向にあった。カテキン類含有量が8mg/100mLの緑茶飲料は、亜鉛による抹茶風味付与効果は確認できるが、渋味が少なくて水っぽい(薄すぎる)と評価するパネルが存在した。これより、カテキン類含有量は、10〜40mg/100mLの緑茶飲料が、亜鉛による抹茶風味付与効果が顕著にあり、風味豊かな緑茶飲料であることが示唆された。
【0046】
【表6-1】
【0047】
【表6-2】
【0048】
実験7:亜鉛による抹茶風味付与効果(3)
実験6の6−7及び6−8の緑茶飲料について、抹茶配合量を表7に示す濁度となる量にする以外は、実験1と同様にして緑茶飲料と同様にして容器詰緑茶飲料(アスコルビン酸含有量:31mg/100mL、pHは6.2)を製造し、評価した。濁度0.08となるような少ない量の抹茶を添加した緑茶飲料においても、0.08mg/100mLの亜鉛による抹茶風味付与効果が確認できた。
【0049】
【表7】
【0050】
実験8:亜鉛による抹茶風味付与効果(4)
実験7の7−1及び7−2の緑茶飲料について、抹茶配合量を表8に示す濁度となる量にする以外は、実験1と同様にして緑茶飲料と同様にして容器詰緑茶飲料8−1及び8−3(アスコルビン酸含有量:31mg/100mL、pHは6.2)を製造し、評価した。また、亜鉛含有量を0.07mg/100mLとした以外は8−1及び8−3と同じ緑茶飲料8−2も製造した。結果を表8に示す。濁度0.09の緑茶飲料においても、0.08mg/100mLの亜鉛による抹茶風味付与効果が確認できた。
【0051】
【表8】
【0052】
実験9:亜鉛含有酵母による抹茶風味付与効果(5)
グルコン酸亜鉛を水溶性の亜鉛含有酵母エキス(イーストリッチシリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5質量%亜鉛含有)に変える以外は実験6−7及び6−9と同様にして、容器詰緑茶飲料(アスコルビン酸含有量:31mg/100mL、pHは6.2)を製造した。実験1と同様に、緑茶飲料の風味を評価した。濁度0.85の緑茶飲料においても、0.08mg/100mLの亜鉛による抹茶風味付与効果が確認できた
。
【0053】
【表9】
【0054】
実験10:亜鉛含有酵母による抹茶風味付与効果(1:水溶性の亜鉛含有酵母エキス)
実験6の6−9の緑茶飲料のグルコン酸亜鉛を亜鉛含有酵母に変えて、容器詰緑茶飲料を製造した。まず、実験1の緑茶葉エキスAをカテキン類含有量が25mg/100mLとなるように水で希釈して、緑茶抽出液を製造した。次に、この緑茶抽出液に、実験1の抹茶を0.02g/100mLとなるように混合した。これに、40mg/100mLの濃度となるようにアスコルビン酸を添加し、さらにpH6.4となるように重曹(炭酸水素ナトリウム)を混合した。さらに、水溶性の亜鉛酵母エキス(イーストリッチシリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5質量%亜鉛含有)を、緑茶飲料中の亜鉛含有量が0.2mg/100mLとなるように添加した。実験1と同様にして加熱殺菌処理して容器詰緑茶飲料(10−1)を得た。容器詰緑茶飲料のカテキン類含有量は26mg/100mL、アスコルビン酸含有量は32mg/100mLであり、濁度(OD
680)は0.4、pHは6.2であった。
【0055】
10名の専門パネルに対し、亜鉛含有酵母を用いて製造された緑茶飲料(10−1)と、グルコン酸亜鉛を用いて製造された緑茶飲料(6−9)とを組み合わせたペアを提示した。パネルは、提示されたペアのうちどちらの飲料が緑茶風味をより強く感じるか、2点識別試験により評価した。評価は、PETボトルから直接に飲用して行った。上記2点識別試験は日付を変えて3回繰り返して実施した。10名のパネルによる延べ30回分の結果を二項検定により有意差検定した。亜鉛含有酵母を用いた緑茶飲料(10−1)の抹茶風味を、グルコン酸亜鉛を用いた緑茶飲料(6−9)のそれと比較して強く感じると指摘した数は22/30であり、有意(p<0.01)に多かった。パネルは、緑茶飲料(10−1)は、レトロネーザルがより強いと指摘した。
【0056】
実験11:亜鉛含有酵母による抹茶風味付与効果(2:水不溶性亜鉛含有酵母)
実験9の緑茶飲料の亜鉛含有酵母を水不溶性亜鉛含有酵母に変えて、容器詰緑茶飲料を製造した。まず、実験1の緑茶葉エキスAをカテキン類含有量が25mg/100mLとなるように水で希釈して、緑茶抽出液を製造した。この緑茶抽出液に、実験10の緑茶飲料10−1で用いた亜鉛酵母エキスと同量の水不溶性亜鉛含有酵母(ミネラル酵母シリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5質量%亜鉛含有)を混合して5分間攪拌
した後、遠心分離(株式会社コクサン製、商品名「冷却/高速遠心機 H-9R」、処理条件
:6300rpm、2分間)して上澄みを採取した。この上澄み液に実験1の抹茶0.02g/100mL、40mg/100mLのアスコルビン酸を添加し、さらにpH6.4となるように重曹(炭酸水素ナトリウム)を混合した。実験1と同様にして加熱殺菌処理して容器詰緑茶飲料(11−1)を得た。容器詰緑茶飲料のカテキン類含有量は25mg/100mL、亜鉛含有量は0.2mg/100mL、アスコルビン酸含有量は30mg/100mLであり、濁度(OD
680)は0.4、pHは6.1であった。
【0057】
専門パネル10名により、亜鉛含有酵母を用いた緑茶飲料(11−1)と、水溶性の亜鉛含有酵母(酵母エキス)を用いた緑茶飲料(10−1)とを比較し、実験10と同様の評価方法で評価した。その結果、緑茶風味(コク、甘み、レトロネーザル)において差はなく、いずれも濃厚な抹茶風味を有する緑茶飲料であるという指摘であった。
【0058】
実験12:亜鉛含有酵母による抹茶風味付与効果(3:水溶性の亜鉛酵母エキス)
原材料名が緑茶、ビタミンC(アスコルビン酸)と表記された市販の緑茶飲料5種(A〜E;表8参照)に、実験10で用いた水溶性の亜鉛酵母エキスを亜鉛含有量が0.08mg/100mL、0.2mg/100mLとなるように添加した。A〜Eの飲料それぞれについて、亜鉛無添加飲料と亜鉛添加飲料をそれぞれ組み合わせたペアを提示して、実験10と同様に2点識別試験により評価した。濁りのある緑茶飲料で、カテキン類含有量が少ない緑茶飲料において、亜鉛添加による抹茶風味付与効果が有意に強く、コクや甘みが強いと指摘した。
【0059】
【表10】
【0060】
【表11】