【解決手段】検査ライン上を搬送される物品の検査を行う物品検査装置1は、各軸方向の加速度及び角速度を検出するモーションセンサ12を有する試験体2が搬送されたときに試験体2から得られる各軸方向の加速度及び角速度のデータに基づいて検査ラインの搬送系の診断を行う診断部25cを備える。
前記診断部(25c)は、前記試験体(2)が有する記憶部(14)に記憶される前記データを、媒体を介して取得することにより診断を行うことを特徴とする請求項1に記載の物品検査装置。
前記診断部(25c)は、前記試験体(2)が有する通信部(15)からの前記データによる無線送信を介して取得することにより診断を行うことを特徴とする請求項1に記載の物品検査装置。
前記診断部(25c)は、前記物品を搬送する搬送部(3,21)の乗り継ぎ区間での前記データの変位量が所定範囲内であるか否かを判別することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の物品検査装置。
前記診断部(25c)は、前記モーションセンサ(12)を取り付けたマスタワークが前記試験体(2)として搬送されたときに得られる検査領域における前記データの変位量が所定範囲内であるか否かを判別することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の物品検査装置。
前記診断部(25c)は、診断結果を記憶する記憶部(25b)を有し、該記憶部に記憶された診断結果の推移を監視して性能低下や劣化を推定する予知保全機能を備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の物品検査装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態の物品検査装置1は、例えば検査ラインの上流から搬送される物品(被検査物)の検査を行う金属検出装置、X線異物検出装置、重量選別機などで構成されるものであり、試験体2からのデータを取得して検査ラインの搬送系の診断を行う機能を有する。
【0019】
[試験体の構成]
試験体2は、物品検査装置1が配置される検査ラインの搬送系の診断を行う際に用いる。試験体2は、
図2(a)に示すように、検査ラインの搬送系の診断を行う場合、検査ライン上の物品検査装置1に向かって物品を搬送する例えばベルトコンベアなどの搬送装置3の搬送面3aと接する面を底面とする保持部材11に対し、
図2(b)のモーションセンサ12、環境診断用センサ13、記憶部14、通信部15が収容される。
【0020】
保持部材11の一面には、試験体2を正規配置で搬送するため、保持部材11の一面には
図2(a)や
図3に示すように、例えば矢印のマークからなる識別子11aが付されている。試験体2を正規配置する場合には、識別子11aが付された面を上にして識別子11aの矢印のマークを搬送方向Aに一致させて搬送装置3の搬送面3a上に配置する。これにより、ユーザが試験体2を用いて診断を行う際に、試験体2が搬送装置3の搬送面3a上を誤った方向に搬送されるのを防ぐことができる。
【0021】
なお、保持部材11は、検査対象となる被検査物(物品)の構造的・物理的な特徴を模した形状および材質で構成するのが好ましい。
【0022】
構造的・物理的な特徴とは、例えば重心位置、重心位置の自由度、機械的安定性、搬送装置3の搬送面3aと接する基準面の形状や面積、基準面の硬度、基準面の摩擦係数などである。
【0023】
具体的に説明すると、例えば
図4(a)に示すようなパック製品が被検査物Wの場合には、
図4(b)に示す保持部材11が用いられる。
図4(b)の保持部材11は、
図4(a)の被検査物Wと同等の高さに重心Gが位置し、底面側が欠切されて搬送装置3の搬送面3aと接する被検査物Wの基準面Wa(図の斜線部分)と同じ形状および面積の基準面11b(図の斜線部分)が形成された略直方体形状の金属または樹脂で構成される。
【0024】
また、例えば
図4(c)に示すような容器製品が被検査物Wの場合には、
図4(d)に示す保持部材11が用いられる。
図4(d)の保持部材11は、
図4(c)の被検査物Wと同等の高さに重心Gが位置し、底面側が欠切されて搬送装置3の搬送面3aと接する被検査物Wの基準面Wa(図の斜線部分)と同じ形状および面積の基準面11b(図の斜線部分)が形成された略円柱形状の金属または樹脂で構成される。
【0025】
なお、実際に検査を行う被検査物Wを保持部材11として用い、被検査物Wにモーションセンサ12、記憶部14、通信部15を設けて試験体2を構成することもできる。また、実際に検査を行う被検査物Wに合わせて寸法、形状、密度などの代表特性を定義したマスタワークを保持部材11として用い、このマスタワークにモーションセンサ12、記憶部14、通信部15を設けて試験体2を構成してもよい。その際、環境診断用センサ13を必要に応じて設けることもできる。
【0026】
モーションセンサ12は、3軸加速度センサと3軸角速度センサから構成され、6軸のデータを出力するものである。3軸加速度センサは、
図3のX軸(搬送面3aの搬送方向A)、Y軸(搬送面3aのX軸と直角をなす方向)、Z軸(搬送面3aの鉛直方向)それぞれの軸方向に対する加速度を検知する。3軸角速度センサは、
図3のロール軸(搬送面3aの搬送方向A)、ピッチ軸(搬送面3aのX軸と直角をなす方向)、ヨー軸(搬送面3aの鉛直方向)それぞれの軸方向に対する角速度を検知する。モーションセンサ12は、検知したデータを、3軸加速度センサが検知する加速度に比例した電圧や3軸角速度センサが検知する角速度に比例した電圧値をデジタル化して出力する。
【0027】
モーションセンサ12は、検知目的に応じて保持部材11内の所定位置に配置される。例えば乗り継ぎ時の衝撃の検知を目的とする場合には、搬送装置3の搬送面3aに近い保持部材11の底面寄りの位置にモーションセンサ12を配置する。その際、保持部材11の底面寄りの位置における中央や搬送方向Aの前後左右の複数箇所にモーションセンサ12を配置するのが好ましい。
【0028】
安定性の検知を目的とする場合には、保持部材11の重心近傍にモーションセンサ12を配置する。
【0029】
揺れの検知を目的とする場合には、保持部材11の上面寄りの位置にモーションセンサ12を配置する。その際、保持部材11の上面寄りの位置における中央や搬送方向Aの前後左右の複数箇所にモーションセンサ12を配置するのが好ましい。
【0030】
環境診断用センサ13は、例えば温度、湿度、気圧、圧力、風速、マイクロフォン(音)、磁気等の試験体2の周囲環境の物理量を検知するセンサである。例えば音のデータでは搬送時の異音診断が行え、気圧、風量データでは風などの環境診断にも適用できる。環境診断用センサ13は、1つまたは複数のセンサを組み合わせて保持部材11の内部に必要に応じて設けられる。環境診断用センサ13が検知したデータは、各センサが検知して出力する値(電圧)をデジタル化して出力する。
【0031】
なお、環境診断用センサ13は、モーションセンサ12と一緒に保持部材11の内部に設けることが可能な場合、モーションセンサ12が検知したい情報(例えば乗り継ぎ時の衝撃、安定性、揺れなど)が得られる最適な位置を実験などにより求めて配置するのが好ましい。
【0032】
記憶部14は、モーションセンサ12が出力するデータを、所定周期(例えば5ms周期、200Hz)で時系列的に取得して記憶するものであり、所定期間分のデータを記憶するFIFO構造となっている。
【0033】
また、記憶部14は、環境診断用センサ13が出力するデータを、モーションセンサ12の時間軸に対応させて記憶する。
【0034】
外部インタフェース部としての通信部15は、自身を特定する試験体2の情報とともに記憶部14のデータを所定のタイミングで無線で外部に転送するものである。通信部15は、例えば国際無線通信規格「Wi−SUN(Wireless Smarty Utility Network )」などの産業用の特定小電力無線やブルートゥース(登録商標)(Bluetooth (登録商標))などの近距離無線通信、無線LANの無線通信を可能とする。
【0035】
なお、通信部15は、記憶部14のデータを一括して転送する例えばUSB(Universal Serial Bus)規格の通信ケーブル(USBケーブル)等を介した各種の有線通信方式の有線通信や、外部インタフェース部としてUSBメモリなどの媒体を介してデータを転送するものであってもよい。
【0036】
また、データの記憶及び転送は、試験体2の搬送を検知(X軸方向(搬送方向A)の加速度を検知)してリスタートするようにしてもよいし、試験体2に動作スイッチを設けて動作スイッチがON(リスタート)の状態のときに行うようにしてもよい。
【0037】
[物品検査装置の構成]
図1に示すように、物品検査装置1は、搬送部21、検査部22、表示操作部23、判定部24、検査制御部25を備えて概略構成される。
【0038】
搬送部21は、例えば、生肉、魚、加工食品、薬品などの様々な品種の中から予め表示操作部23で設定される品種の物品を被検査物Wとして順次搬送するもので、例えば装置本体に対して水平に配置されたベルトコンベアにより構成される。
【0039】
搬送部21は、不図示の駆動モータにより駆動され、
図1に示すように、検査ラインの上流の搬送装置3(3A)から搬入された被検査物Wを、予め設定された所定の搬送速度で
図1の矢印方向A(右方向:搬送方向)に搬送面21a上を搬送し、下流の搬送装置3(3B)に搬出する。
【0040】
検査部22は、被検査物Wの品種状態を表す信号として、被検査物Wに含まれる異物の種類やサイズに応じた検出信号、または被検査物Wの重量に応じた検出信号などを出力する。
【0041】
さらに説明すると、物品検査装置1が金属検出装置として構成される場合の検査部22は、所定周波数の交番磁界を発生し、交番磁界中を通過する被検査物Wによる磁界の変化に対応して振幅および位相が変化する信号を出力するような構成となっている。
【0042】
なお、被検査物Wに含まれる金属を磁石等で着磁し、磁化された金属の残留磁気を磁気センサで検出するような構成としてもよい。
【0043】
また、物品検査装置1がX線検査装置として構成される場合の検査部22は、X線発生源とX線検出器とから構成され、X線発生源からX線が照射されたときに被検査物Wを透過したX線をX線検出器が検出し、その透過量に応じた検出信号を出力するような構成となっている。
【0044】
X線検出器としては、例えば搬送部21によって搬送される被検査物Wの搬送方向Aと直交する方向にライン状に配列された複数のフォトダイオードと、フォトダイオード上に設けられたシンチレータとを備えたアレイ状のラインセンサが用いられる。このようなX線検出器は、被検査物Wを透過したX線をシンチレータで受けて光に変換し、その光をその下部に配置されるフォトダイオードによって電気信号に変換して出力するようになっている。すなわち、X線の透過量に応じた電気信号が出力される。
【0045】
また、物品検査装置1が重量測定装置として構成される場合の検査部22は、搬送部21の一部を秤量台にし、その秤量台の下方に配置された、電磁平衡機構などのはかり機構で構成された荷重センサによって、秤量台に載った被検査物Wの荷重を計量し、荷重に応じた信号を出力するような構成となっている。
【0046】
なお、荷重センサは、重量を測定できるはかり機構であればよく、例えば、差動トランス機構や歪ゲージ機構などのはかり機構で構成してもよい。
【0047】
検査部22の上流側には、搬送部21により搬送される被検査物Wの通過を検知する搬入センサ26が設けられている。搬入センサ26は、搬送部21を幅方向(
図1の手前および奥方向)に跨ぐように対向して配置された図示しない一対の投光部および受光部からなる透過型光電センサでそれぞれ構成される。
【0048】
搬入センサ26は、被検査物Wが各々の投光部と受光部の間を通過すると、被検査物Wにより受光部が遮光されるので、被検査物Wが通過して検査部22に搬入が開始されたことを検出する。この搬入センサ26からの検出信号は、検査制御部25に出力される。
【0049】
表示操作部23は、入力操作機能および表示機能を兼用するタッチパネルから構成される。表示操作部23の入力操作としては、搬送部21によって搬送される被検査物Wの品種の設定操作や、被検査物Wの異物検出、計量や動作確認に関する各種設定操作や指示操作を受け付ける。
【0050】
また、表示操作部23の表示機能としては、被検査物Wの品種の設定操作が行なわれるときの設定値、指示操作が行なわれているときの指示値、各種判定結果、データ取得部25aにて取得した試験体2のモーションセンサ12や環境診断用センサ13のデータの個別表示や履歴表示、診断部25cによる診断結果やグラフの表示など、種々の表示を行う。
【0051】
なお、表示操作部23は、入力操作機能と表示機能とが独立した構成としてもよい。この場合、入力操作機能のために、設定や指示などの入力操作を受け付ける複数のキーやスイッチ等を設けるとともに、表示機能のために、液晶表示器等を設けた構成とすることができる。
【0052】
判定部24は、検査部22からの検出信号に基づいて、被検査物Wの中に異物が含まれているか否か、または被検査物Wの重量が所定範囲内であるか否か等の良否判定を行うとともに、判定結果を含む画面を表示操作部23に表示させる。
【0053】
検査制御部25は、物品検査装置1の全体の制御を行うものであり、データ取得部25a、記憶部25b、診断部25c、軸補正部25d、制御部25eを含む。
【0054】
データ取得部25aは、試験体2から無線で出力されるモーションセンサ12や環境診断用センサ13のデータを無線LANなどのネットワークを介して取得する。
【0055】
なお、試験体2からのデータの取得は、例えばブルートゥース(登録商標)(Bluetooth (登録商標))などの近距離無線通信や国際無線通信規格「Wi−SUN(Wireless Smarty Utility Network )」などの産業用の特定小電力無線で試験体から直接取得するようにしてもよいし、ネットワーク接続されているサーバやPC上でデータを取得し、そこで取得したデータをUSBメモリなどの媒体を介して取得するようにしてもよい。また、試験体2がUSB規格のポートを有しているものであれば、試験体のUSBのポートから有線または媒体を介して取得するようにしてもよい。
【0056】
記憶部25bは、制御部25eが物品検査装置1を制御するための各種プログラム、判定部24が被検査物Wについて良否判定を行うための各種パラメータ、試験体2のモーションセンサ12や環境診断用センサ13から取得したデータや診断結果等を記憶する。
【0057】
診断部25cは、データ取得部25aで取得した試験体2のモーションセンサ12のデータ(それぞれ診断データともいう)を基に検査ラインの搬送系の診断を行う。例えば試験体2のモーションセンサ12の各軸の測定値と最適な設定条件で予め測定されたモーションセンサ12の各軸の規格値とを比較して搬送装置3や搬送部21の搬送面3a,21aの高さ、搬送部21とのギャップ(渡し板とのギャップ)が適切に調整されているか否かを診断する。また、物品検査装置4の機種ごとに定義された寸法の検査用マスタワークにモーションセンサ12(必要に応じて環境診断用センサ13を含む)を取り付けた試験体2を搬送装置3により搬送させ、試験体2から取得したデータから検査領域における基準からの変位量(波形にすると波高値)を求め所定範囲内であるか否か、および軸ごとの搬送特性を規格値と比較して合否を診断する。なお、診断部25cによる診断の具体例については後述する。
【0058】
また、診断部25cは、データ取得部25aで取得したデータの中に、環境診断用センサ13のデータが含まれている場合、環境診断用センサ13のデータから検査部22における検査精度や特性の診断を行う。さらに、診断部25cは、記憶部25bに時系列的に記憶された試験体2のモーションセンサ12や環境診断用センサ13のデータ(診断データ)をグラフ化し、データの時間的な変化を示す波形を生成するようにもなっている。なお、グラフには、記憶部25bに記憶されている各種閾値を合わせてグラフとすることもできる。この診断部25cによる診断結果やグラフを表示操作部23に表示すれば、ユーザは目視により診断結果やその状況を確認することができる。
【0059】
制御部25eは、記憶部25bに記憶されたプログラムを実行して、判定部24のパラメータの変更、物品検査装置1の各種制御等を行う。
【0060】
なお、軸補正部25dは、後述するように、被検査物Wを保持部材11として用い、モーションセンサ12を後付けで被検査物Wに保持したものを試験体2として用いる場合に必要な構成であり、その処理内容については追って説明する。
【0061】
[診断の具体例]
次に、試験体2を用いた検査ラインの搬送系の診断の具体例として例1〜3について説明する。なお、以降の説明では、診断部25cが診断データから生成した波形のグラフ(
図6、
図8〜
図14)を用いて説明する。
【0062】
[例1:搬送装置間の乗り継ぎ時の姿勢変化]
図5(a),(b)に示すように、搬送方向Aに並んで上流側の搬送装置3Aと下流側の物品検査装置1の搬送部21とが配置され、搬送装置3Aから搬送部21に試験体2が受け渡される際の乗り継ぎ時の姿勢変化について説明する。
【0063】
物品検査装置1は、搬送装置3Aから搬送部21への試験体2の乗り継ぎ区間での波形が所定範囲内の波高値(変位量)であるか否かにより姿勢変化を判別する。具体的には、試験体2のモーションセンサ12の検知によるデータからY軸方向の角速度の変化について、搬送装置3Aから搬送部21への試験体2の乗り継ぎ時にY軸方向の角速度Gyによる回転が無ければ、
図6(a)の実線で示す振幅の小さな波形を得るので、Y軸方向の回転による試験体2の姿勢変化は殆ど無いと判別する。これに対し、
図5(a)の矢印Cで示すように、搬送装置3Aから搬送部21への試験体2の乗り継ぎ時にY軸方向の角速度Gyによる回転が有ると、
図6(a)の点線で示すように、Y軸方向の角速度Gyによる回転が無いときよりも振幅が大きい波形を得るので、Y軸方向の回転による試験体2の姿勢変化が有ると判別する。
【0064】
また、物品検査装置1は、試験体2のモーションセンサ12の検知によるデータからZ軸方向の角速度の変化について、搬送装置3Aから搬送部21への試験体2の乗り継ぎ時にZ軸方向の角速度Gzによる回転が無ければ、
図6(b)の実線で示すように、ほとんど振幅の変化が無い波形を得るので、Z軸方向の回転による試験体2の姿勢変化は殆ど無いと判別する。これに対し、搬送装置3Aから搬送部21への試験体2の乗り継ぎ時にZ軸方向の角速度Gzによる回転が有ると、
図6(b)の点線で示すように、搬送装置3Aから搬送部21への試験体2の乗り継ぎ時に対応して振幅が変化した波形を得るので、Z軸方向の回転による試験体2の姿勢変化が有ると判別する。
【0065】
このように、試験体2のモーションセンサ12の検知によるデータ、すなわち、Y軸方向の角速度GyおよびZ軸方向の角速度Gzの回転に伴う波形の振幅の大きさ(変位量)から搬送装置3Aと搬送部21との間の乗り継ぎ時の試験体2の姿勢の変化を診断することができる。そして、この診断結果により、例えば搬送装置3Aや搬送部21の搬送ベルトのテンション状態、搬送装置3Aや搬送部21の搬送ベルトの水平度の調整状態などを診断でき、物品検査装置1の設置時や保全時の調整作業をアシストすることが可能となる。
【0066】
[例2:X線検査装置のシールドカーテンを通過する際の搬送乱れ]
図7(a),(b)に示すように、物品検査装置1としてのX線検査装置にシールドカーテン1aが無い場合と有る場合の搬送乱れについて説明する。
【0067】
X線検査装置1にシールドカーテン1aが無い場合、
図7(a)に示すように、搬送部21の入口P0にある試験体2は、搬送部21の搬送ベルトが速度Vcで駆動されると、速度V0を保って搬送部21の出口P1まで搬送方向Aに搬送される。
【0068】
これに対し、X線検査装置1にシールドカーテン1aが有る場合、
図7(b)に示すように、搬送部21の入口P0にある試験体2は、搬送部21の搬送ベルトが速度Vcで駆動されると、速度V0を保ってシールドカーテン1aに到達するまで搬送方向Aに搬送される。しかし、試験体2は、シールドカーテン1aを通過するときに抵抗を受けて速度がV1(<V0)に落ち、シールドカーテン1a通過による遅れが生じた状態で搬送部21の出口P1まで搬送される。
【0069】
X線検査装置1は、シールドカーテン1aが有る場合、
図8に示すように、搬送方向Aに対して加速度Axの変動が生じたデータを取得し、この取得したデータの加速度の積分値(加速度波形の面積)から試験体2の搬送速度を算出する。このとき、
図8の加速度のデータから算出(生成)される試験体2の搬送速度の波形を
図9に示す。
【0070】
そして、X線検査装置1は、
図10の点線で示すように、
図9の試験体2の搬送速度のデータから試験体2が入口P0から出口P1に到達するまでの時間における搬送距離Lxを算出する。
【0071】
ここで、試験体2に加速度の変動が無ければ、
図10の実線で示すように、試験体2が搬送部21の入口P0から出口P1までの距離(
図10の搬送距離L1)を移動するのに要する時間がT1となる。
【0072】
これに対し、試験体2に
図8に示す加速度の変動が有ると、
図10の点線で示すように、試験体2が搬送部21の入口P0から出口P1までの距離(
図10の搬送距離L1)に到達するまでに要する時間がT1’と算出され、試験体2に加速度の変動が無い場合の時間T1に対して遅れ時間(変位量)tが生じる。
【0073】
そして、X線検査装置1は、
図11に示すように、遅れ時間(変位量)tが許容+と許容−との間(許容範囲)に収まっている場合には、試験体2がシールドカーテン1aを通過する際の搬送遅れ(搬送乱れ)が許容範囲内であると診断する。
【0074】
これに対し、X線検査装置1は、
図12に示すように、遅れ時間(変位量)tが許容+と許容−との間(許容範囲)に収まっていない場合には、試験体2がシールドカーテン1aを通過する際の搬送遅れ(搬送乱れ)が許容範囲から超えていると診断する。
【0075】
このように、目標の搬送速度V0に対する試験体2の実際の速度変動を算出し、搬送遅れ(搬送乱れ)の要因が搬送部21のどの区間で発生しているかを判断し、搬送遅れが許容範囲に収まっているか否かを診断することができる。
【0076】
[例3:予知保全]
試験体2からのデータにより物品検査装置1の搬送系を定期的に監視して予知保全する場合について説明する。
【0077】
物品検査装置1は、試験体2のモーションセンサ12や環境診断用センサ13から取得したデータや診断結果を記憶部25bに記憶し、記憶したデータや診断結果に基づいて予知保全する機能を有する。
【0078】
具体的に、試験体2を搬送させる試験を月日ごとに定期的に行い、その際に試験体2のモーションセンサ12から取得したデータを記憶部25bに記憶しておく。そして、物品検査装置1は、月日ごとのZ軸方向の加速度を記憶部25bに記憶されたデータから読み出し、
図13に示すように、Z軸方向の加速度の履歴を閾値(Z軸:図中の点線)とともに表示操作部23に表示する。
図13の表示例では、Z軸方向の加速度が月日の経過とともに徐々に増して閾値に近づいていることが判る。
【0079】
また、物品検査装置1は、月日ごとのピッチ軸方向の角速度を記憶部25bに記憶されたデータから読み出し、
図14に示すように、ピッチ軸方向の角速度の履歴を閾値(ピッチ軸:図中の点線)とともに表示操作部23に表示する。
図14の表示例では、ピッチ軸方向の角速度が月日の結果とともに増え、ある時期t1に閾値を超えたことが判る。
【0080】
このように、記憶部25bに記憶された試験体2のモーションセンサ12(環境診断用センサ13を含む)のデータや診断結果の推移を監視し、その結果から物品検査装置1の搬送系に伴う性能低下や劣化を推定して予知保全することができる。
【0081】
[変形例について]
変形例として、
図15に示すように、実際に検査される被検査物Wを保持部材11として用い、通信部15とモーションセンサ12とが一体となったモーションセンサユニットを被検査物Wに取り付けて(貼付して)保持することにより試験体2を構成することができる。この試験体2を用いれば、物品検査装置1が重量選別機の場合、搬送装置3や秤量コンベアの平面度や水平度だけでなく、搬送装置3と秤量コンベアとの間の乗り継ぎ時の揺れやモーションセンサ12の各軸の振動や変動値を測定し、重量波形との相関を周波数や振幅、波形形状から判定して計量精度に与える乗り継ぎ要因の割合も求めて診断を行うことができる。
【0082】
但し、このモーションセンサ12を被測定物Wに取り付けた試験体2を用いた診断を行う場合、
図15に示すように、モーションセンサ12の各軸は、
図2のモーションセンサ12を収容した保持部材11のように搬送装置3の搬送面3aと搬送方向Aを基準とした場合の軸と異なる。このため、物品検査装置1の検査制御部25は、被測定物Wにモーションセンサ12を取り付けた試験体2から得られる各軸方向のデータに対し、各軸方向の軸を補正して診断データとする軸補正部25dを備える。
【0083】
軸補正部25dは、被検査物Wに取り付けたモーションセンサ12がDC成分を検出してデータを出力する場合、保持部材11に収容されたモーションセンサ12の加速度センサ(DC検出タイプ)の傾き検出データ(
図16のデータ)を使用して、被検査物Wに取り付けたモーションセンサ12の取り付け向きを把握して各軸方向の軸を補正する。すなわち、被検査物Wにモーションセンサ12を取り付けて、停止状態の搬送装置3の搬送面3a上に配置したときの重力加速成分を検知して補正する。例えば
図15においてモーションセンサ12を被測定物Wに取り付けた試験体2の流れ方向がZ+の場合、
図16の傾き検出データに示すように、加速度センサのY軸方向の重力加速成分を+1gとして補正する。
【0084】
また、軸補正部25dは、被検査物Wに取り付けたモーションセンサ12がAC成分を検出してデータを出力する場合、予めデータを取得したモーションセンサ12を正規配置で停止状態の搬送装置3の搬送面3a上に配置する。そして、停止状態から所定の速度で搬送装置3を作動させたときのX軸方向の加速度データに対し、XY角とXZ角を所定の角度で少しずつずらして分解した3軸の分解データを得る。そして、この3軸の分解データの中で、停止状態の搬送装置3の搬送面3a上に被検査物Wにモーションセンサ12を貼り付けた試験体2を配置して同一の搬送条件で搬送装置3を作動する。これにより、得られる各軸方向の加速度データが最も近いときのXY角とXZ角を補正量として求めて軸を補正する。
【0085】
このように、本実施の形態によれば、センサ(モーションセンサ12、環境診断用センサ13)を有する試験体2の搬送中のセンシング結果(データ)を取得することにより、検査ラインの搬送系に起因する物品の動的挙動による検査機能不良を容易に診断することができ、物品検査装置の検査性能について、静的特性と動的特性をそれぞれ個別に検証およびバリデーションすることが可能となる。
【0086】
また、試験体2から取得したデータを診断データとして物品検査装置1で分析することにより、物品検査装置1の搬送系の状態(搬送装置3と搬送部21との間の乗り継ぎ調整の状態、搬送ベルトの搬送面の水平度の調整状態など)を診断でき、物品検査装置1の設置時や保全時の調整作業をアシストすることが可能となる。
【0087】
これにより、ユーザや海外代理店の保守員など、熟練のサービスマンでなく装置や保守スキルの低い人でも正しく設置・調整が可能となる。また、精度不良トラブル時に精度阻害要因の特定が可能となることで、ダウンタイム低減の効果が見込める。
【0088】
さらに、試験体2を用いた場合の検査性能の結果と実際の生産の結果を比較することにより、実際に生産される被検査品の構造的・物理的な特徴のばらつきを把握することが可能となる。
【0089】
また、試験体2を動作確認用マスタワークとして使用すれば、設置時からの搬送装置3や搬送部21の搬送状態の変化を確認でき、性能低下や劣化を早期に発見することで予知保全機能としても使用することができる。
【0090】
さらに、試験体2を使用した動作確認時に試験体2がNGワークとして排出されたことを、試験体2のセンサ(モーションセンサ12、環境診断用センサ13)のデータから判断し、試験体2が選別されたか否かを、人による確認から物品検査装置1側で確認できるようになり、無人化ラインの実現が可能になる。
【0091】
なお、物品検査装置1に試験体2専用の格納場所を設けておけば、稼働中は物品検査装置1に備わる設置環境特性(例えば温度、湿度、振動、風速など)をセンシングするセンサとして用いることが可能となる。
【0092】
以上、本発明に係る物品検査装置の最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。