(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-181151(P2021-181151A)
(43)【公開日】2021年11月25日
(54)【発明の名称】ワーク加工装置、砥石、およびワーク加工方法
(51)【国際特許分類】
B24B 9/00 20060101AFI20211029BHJP
B24B 53/07 20060101ALI20211029BHJP
B24B 53/053 20060101ALI20211029BHJP
B24D 5/00 20060101ALI20211029BHJP
B24D 5/14 20060101ALI20211029BHJP
B24B 55/00 20060101ALI20211029BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20211029BHJP
【FI】
B24B9/00 601H
B24B53/07
B24B53/053
B24D5/00 P
B24D5/14
B24B55/00
H01L21/304 621E
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【公開請求】
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2021-105043(P2021-105043)
(22)【出願日】2021年6月24日
(71)【出願人】
【識別番号】521278782
【氏名又は名称】片山 一郎
(71)【出願人】
【識別番号】521278793
【氏名又は名称】青木 裕虎
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】片山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 裕虎
【テーマコード(参考)】
3C047
3C049
3C063
5F057
【Fターム(参考)】
3C047BB15
3C047CC08
3C049AA03
3C049AA12
3C049AA13
3C049AA19
3C049BA02
3C049BA07
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3C049BC02
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3C063AA02
3C063AB03
3C063BA21
3C063BA32
3C063EE10
3C063FF30
5F057AA02
5F057AA32
5F057BA12
5F057BB03
5F057BB06
5F057BB07
5F057BB09
5F057BB12
5F057CA09
5F057DA11
5F057EB20
5F057GA03
5F057GA04
(57)【要約】
【課題】ワークの面取り加工を容易に効率良くかつ高精度に行え、ワークおよび砥石の支持機構が簡単で、砥石の整形が容易にできるようにする。
【解決手段】外周部に凸状研削部分5bを有し回転可能な円板状の砥石5であって、凸状研削部分5bの、砥石5の回転軸6を通る断面形状は、外周側に向かって凸状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分5eを有する形状である砥石5を用いて、円板状のワーク2を所望の断面形状に形成するために、ワーク2と砥石5を互いに平行に配置し、砥石5を回転させるとともに、砥石5の回転軸6と平行な回転軸3を中心としてワーク2を回転させつつ、凸状研削部分5bとワーク2との接触部分がワーク2の所望の断面形状に沿って移動するように砥石5の円弧状部分5eの曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、砥石5をワーク2に対して相対的に移動させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工装置であって、
前記ワークを支持するワーク支持機構と、前記ワークに対して平行に配置される円板状の砥石と、前記砥石を支持する砥石支持機構と、を有し、
前記ワーク支持機構は前記ワークを回転させ、前記砥石支持機構は前記砥石を回転させ、前記ワーク支持機構による前記ワークの回転の中心となる回転軸と、前記砥石支持機構による前記砥石の回転の中心となる回転軸とは互いに平行であり、
前記砥石は外周部に凸状研削部分を有しており、前記凸状研削部分の、前記砥石の前記回転軸を通る断面における断面形状は、外周側に向かって凸状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有する形状であり、
前記砥石と前記ワークは、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構によって互いに接近したり離れたりするように相対的に移動可能であり、
前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構は、前記凸状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させることを特徴とする、ワーク加工装置。
【請求項2】
前記ワーク支持機構は、前記ワーク支持機構の前記回転軸の温度を一定に保つための液体または気体の流れを発生させる温度調整機構を有する、請求項1に記載のワーク加工装置。
【請求項3】
前記凸状研削部分の、前記砥石の回転軸を通る断面における断面形状は、半円形状、または、厚さ方向の両端部に位置する1対の前記円弧状部分と1対の前記円弧状部分の間に位置する直線部分とを有する形状である、請求項1または2に記載のワーク加工装置。
【請求項4】
前記砥石の外周部には、前記凸状研削部分と、前記ワークと対向する面が前記回転軸に沿う断面において前記砥石の厚さ方向と平行な直線状である断面長方形状研削部分とが、厚さ方向に並んで設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載のワーク加工装置。
【請求項5】
前記凸状研削部分を有する前記砥石に加えて、前記ワークの外周の接線方向に対して斜めに配置されて前記砥石の前記凸状研削部分による研削よりも精密な研削に用いられる円板状の溝付き砥石と、前記溝付き砥石を支持する溝付き砥石支持機構と、をさらに有し、
前記溝付き砥石支持機構は前記溝付き砥石を回転させる、請求項1から4のいずれか1項に記載のワーク加工装置。
【請求項6】
前記ワークに代えて前記ワーク支持機構に取り付け可能なツルーイング砥石をさらに有し、
前記ツルーイング砥石は、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構により、前記移動条件に従って前記砥石に対して相対的に移動させられることによって外形が形成されており、
前記溝付き砥石は、前記ツルーイング砥石に押し当てられて前記ツルーイング砥石の外形が転写されることによって溝が形成または整形されている、請求項5に記載のワーク加工装置。
【請求項7】
請求項3に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
前記凸状研削部分の、前記砥石の回転軸を通る断面における断面形状は、厚さ方向の両端部に位置する1対の前記円弧状部分と1対の前記円弧状部分の間に位置する直線部分とを有する形状であり、
前記直線部分は前記円弧状部分よりも砥石粒度が粗い部分であって、前記円弧状部分は前記直線部分による研削よりも精密な研削に用いられる部分であることを特徴とする、砥石。
【請求項8】
請求項4に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、前記断面長方形状研削部分は前記凸状研削部分よりも砥石粒度が粗い部分であって、前記凸状研削部分は前記断面長方形状研削部分による研削よりも精密な研削に用いられる部分であることを特徴とする、砥石。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、厚さ方向の一方の端部の前記円弧状部分と他方の端部の前記円弧状部分とは、それぞれの曲率半径の平均値が所望の大きさになるように個別に形成された部分であることを特徴とする、砥石。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか1項に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、
厚さ方向の一方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の最大値と最小値の差と、他方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の最大値と最小値の差とが、いずれも第1の所定値以下であり、
厚さ方向の一方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の平均値と、他方の端部の前記円弧状部分の曲率半径の平均値との差が、第2の所定値以下であることを特徴とする、砥石。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか1項に記載のワーク加工装置に含まれている前記砥石であって、厚さ方向に延びるストレート状またはテーパ状の取付穴を有することを特徴とする、砥石。
【請求項12】
外周部に凸状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凸状研削部分の、前記砥石の回転軸を通る断面における断面形状は、外周側に向かって凸状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工方法であって、
前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、
前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凸状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含むことを特徴とする、ワーク加工方法。
【請求項13】
前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップは、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凸状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から一方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記一方の面側の外周部を研削することと、
前記砥石を前記ワークの外周端面に沿って前記一方の面側から前記他方の面側へ前記ワークに対して相対的に移動させることと、
前記ワークと前記砥石とを回転させつつ、前記砥石の前記凸状研削部分の前記円弧状部分を前記ワークの外周端面から他方の面に向かって、前記移動条件に従って予め算出された角度だけ前記ワークに対して相対的に曲線的に移動させることにより、前記ワークの前記他方の面側の外周部を研削することと、を含む、請求項12に記載のワーク加工方法。
【請求項14】
液体または気体の流れによって前記ワークの前記回転軸の温度を調整することを含み、
前記ワークの加工を行う前に、前記ワークの回転時の回転中心となる前記回転軸を、前記ワークが取り付けられていない状態で回転させる予備回転動作を行い、
前記予備回転動作では、前記砥石による加工中の前記ワークの高速回転時と同じ速度での高速回転と、前記砥石による加工中の前記ワークの低速回転時と同じ速度での低速回転と、を交互に繰り返し、
前記予備回転動作における前記高速回転の継続時間と前記低速回転の継続時間との比を、前記砥石による加工中の前記ワークの高速回転の継続時間と低速回転の継続時間との比と一致させ、
前記予備回転動作における前記高速回転の継続時間および前記低速回転の継続時間を、前記砥石による加工中の前記ワークの高速回転の継続時間と低速回転の継続時間よりもそれぞれ短くする、請求項12または13に記載のワーク加工方法。
【請求項15】
前記凸状研削部分の、前記砥石の回転軸を通る断面における断面形状は半円形状である、請求項12から14のいずれか1項に記載のワーク加工方法。
【請求項16】
前記凸状研削部分の、前記砥石の回転軸を通る断面における断面形状は、または、厚さ方向の両端部に位置する1対の円弧状部分と1対の前記円弧状部分の間に位置する直線部分とを有する形状であり、
前記直線部分を用いて、少なくとも、前記直線部分を前記ワークの外周端面に当接させて前記ワークの直径を小さくする加工を行い、前記円弧状部分を用いて、少なくとも、前記円弧状部分を前記ワークの前記一方の面と前記他方の面にそれぞれ当接させて前記ワークを前記所望の断面形状に形成する加工を行う、請求項12から14のいずれか1項に記載のワーク加工方法。
【請求項17】
前記砥石の外周部には、前記凸状研削部分と、前記ワークと対向する面が前記回転軸に沿う断面において前記砥石の厚さ方向と平行な直線状である断面長方形状研削部分とが、厚さ方向に並んで設けられており、
前記断面長方形状研削部分を用いて、少なくとも、前記断面長方形状研削部分を前記ワークの外周端面に当接させて前記ワークの直径を小さくする加工を行い、前記凸状研削部分を用いて、少なくとも、前記凸状研削部分を前記ワークの前記一方の面と前記他方の面にそれぞれ当接させて前記ワークを前記所望の断面形状に形成する加工を行う、請求項12から15のいずれか1項に記載のワーク加工方法。
【請求項18】
前記ワークを前記所望の断面形状に形成する加工では、前記ワークの直径を小さくする加工における研削よりも精密な研削を行う、請求項16または17に記載のワーク加工方法。
【請求項19】
前記砥石に加えて、前記ワークの外周の接線方向に対して斜めに配置された円板状の溝付き砥石を有し、
前記砥石の前記凸状研削部分を前記ワークに当接させて前記ワークの研削を行った後に、前記溝付き砥石の前記溝の内周面を前記ワークに当接させて、前記凸状研削部分による研削よりも精密な研削を行う、請求項12から17のいずれか1項に記載のワーク加工方法。
【請求項20】
前記ワークと円板状の前記砥石とを互いに平行に配置するステップの前に、円板状のツルーイング砥石を前記砥石と平行に配置するステップと、前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ツルーイング砥石を回転させつつ、前記砥石を前記ツルーイング砥石に対して相対的に移動させることにより、前記ツルーイング砥石の外形を形成するステップと、前記溝付き砥石の材料を前記ツルーイング砥石に押し当てて前記ツルーイング砥石の外形を転写することによって前記溝を形成または整形するステップと、を含み、
前記ツルーイング砥石の外形を転写することによって前記溝を形成または整形するステップにおいて、前記溝は、当該溝の内周面に当接する前記ワークを前記所望の断面形状に形成するために予め設定された形状に形成され、
前記ツルーイング砥石の外形を形成するステップにおいて、前記砥石の前記凸状研削部分と前記ツルーイング砥石との接触部分が、前記溝の前記予め設定された形状に対応する形状に沿って移動する移動条件を、前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出しておき、前記ツルーイング砥石の外形を形成するステップにおいて、当該移動条件に従って、前記ツルーイング砥石を前記砥石に対して相対的に移動させる、請求項19に記載のワーク加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワーク加工装置、砥石、およびワーク加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェーハ等の円板状のワーク(被加工物)の外周部の面取り加工を行うために、ワークの外周部に砥石を押し当てて研削を行っている。ワークの面取り部の形状および寸法の精度を向上させるために、砥石の外周部に、ワークの完成形状に対応した形状および寸法の溝(総形溝)を形成し、その溝内にワークの外周部を挿入してワークを回転させ、溝の内周面によってワークの外周部を研削する方法がある。しかし、この方法では、製造すべきワークの形状や寸法が変わる度に砥石を交換する必要があり、多品種の少量生産には適していない。また、面取り加工を繰り返すと砥石の外周部の溝の内周面が摩耗または破損して溝の形状および寸法が変化するため、ワークの面取り加工の精度が低下する。従って、長期間にわたってワークの面取り加工を行ったら、砥石を交換または整形し直す必要が生じる。
【0003】
必要に応じて砥石の交換または整形を行うために、特許文献1,2に記載されている方法では、ワークの完成形状に対応する総形溝を有するマスター砥石を作製しておき、砥石材料の外周部をマスター砥石の溝の内周面に当接させて研削することにより、型材であるツルーイング砥石(ツルアー)を作製する。さらに、砥石材料にツルーイング砥石の外周部を当接させてマスター砥石と同様な総形溝を形成することにより、実際のワークの面取り加工に用いるための砥石の形状を整える(整形する)ことができる。ツルーイング砥石は面取り用の砥石(例えばレジンボンド砥石)よりも硬い材料(例えばGC砥石)からなり、マスター砥石はツルーイング砥石よりも硬い材料(例えばメタルボンド砥石)からなる。このようにツルーイング砥石を用いて砥石を整形する工程は、ツルーイングと呼ばれる。
【0004】
特許文献1,2には、円板状のワークに対して平行に配置された円板状の砥石の総形溝を用いて面取り加工を行う方法に加えて、円板状のワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された円板状の砥石の溝を用いてワークの面取りを行う方法(ヘリカル方式の加工方法)も示唆されている。ヘリカル方式の面取り加工方法については、特許文献3にも記載されている。特許文献3に記載された方法では、ワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された砥石は、外周部に凹状の溝が形成されており内側向きの傾斜面を有している。この傾斜面をワークの外周部に当接させて研削を行う。特許文献4には、円板状のワークに対して平行に配置された円板状の砥石により研削を行い、その後に、円板状のワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された円板状の砥石により、ヘリカル方式でより精密な研削を行う加工方法と、ヘリカル方式の精密研削用の砥石をツルーイングするためのツルーイング砥石およびツルーイング方法が開示されている。
【0005】
特許文献1〜4に記載されているようにワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された砥石を用いてワークの面取り加工を行うと、砥石の外周部に設けられた溝の内周面とワークの外周部との接触部分の長さが長い状態で研削が行われ、さらにワークを低速で回転させながら研削することにより、ワークの面取り部の表面粗さを小さくすることができる。従って、後で行われる仕上げの研磨工程が実施しやすくなる。
【0006】
特許文献5には、厚さ方向の寸法がワークの厚さよりも大きい溝が外周部に設けられた砥石を用いて、砥石の溝の内周面をワークの外周部に当接させて面取り加工を行う方法が開示されている。また、特許文献5には、ワークよりも厚く外周部に溝が設けられておらず外周部の断面形状が凸状である砥石を用いて、砥石の外周部の凸状部分の一部を構成する傾斜面をワークの外周部に当接させて面取り加工を行う方法も開示されている。
【0007】
特許文献6に記載された方法では、円板状のワークに対して直交するように円板状の砥石を配置する。ワークは、その平面形状の中心に位置する回転軸を中心として回転可能である。砥石は、ワークの回転軸に直交する回転軸を中心として回転可能であるとともに、その回転軸に垂直な方向(円板状のワークに平行な方向)にも、回転軸に平行な方向(円板状のワークに直交する方向)にも移動可能である。ワークを回転させた状態で、砥石を回転させながらワークに接近させて、回転する砥石の外周部を、砥石の回転方向と直交する方向に回転するワークの外周部に当接させつつ砥石を移動させることで、ワークの面取り加工を行う。このような加工工程はコンタリングと呼ばれる。
【0008】
特許文献7に記載された方法では、円板状のワークに対して直交するように配置されたカップ型砥石を用い、特許文献6と同様に、ワークを回転させた状態で、カップ型砥石を回転させながらワークに接近させる。回転するカップ型砥石のカップ形状の先端面を、カップ型砥石の回転方向と直交する方向に回転するワークの外周部に当接させつつカップ型砥石を移動させることで、ワークの面取り加工を行う。
【0009】
特許文献8には、円板状の砥石を2個用いて特許文献6と同様に面取り加工を行う方法と、カップ型砥石を2個用いて特許文献7と同様に面取り加工を行う方法が開示されている。
【0010】
特許文献9に記載された方法では、内周側の砥石要素(カップ形状)と、外周側の、内周側の砥石要素による研削よりも精密な研削のための砥石要素(カップ形状)とを有する大型で二重構造のカップ型である第一砥石と、カップの第二砥石とを用いて、ワークの外周部の加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-153085号公報
【特許文献2】特開2007-165712号公報
【特許文献3】特開平5-152259号公報
【特許文献4】特開2007-044817号公報
【特許文献5】特開平11-207585号公報
【特許文献6】特開2000-317789号公報
【特許文献7】特開2008-034776号公報
【特許文献8】特開2014-37014号公報
【特許文献9】特開2017-154240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1〜4に記載されているようにワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置される砥石の外周部に、精度良くワークを面取りするための溝を形成することは容易ではない。ワークに所望の形状の面取り部を形成するためには、溝の内周面がワークの外周部に適切な角度および適切な接触長さで接触しなければならない。ワークの外周の接線方向に対して傾けて配置される砥石において、このようにワークの外周部に適切な角度および適切な接触長さで正確に接触する内周面を有する溝を形成することは難しい。特に、ワークを回転させる駆動部や、ワークを研削するための砥石を回転させる駆動部を利用してツルーイング砥石を回転させてツルーイングを行う場合には、ワークの外周の接線方向に対して傾いた状態で良好な面取り加工ができる溝を精度良く形成することは難しく、より容易にツルーイングできる方法が求められている。また、製造すべきワークの面取り部の形状や寸法が変わると、ツルーイング砥石を作製するためのマスター砥石の溝の形状も変更する必要があり、作業が煩雑である。
【0013】
ワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された砥石を用いてワークの加工を行う場合には、溝の内周面の形状や寸法は容易に変更できないため、所望の加工形状に近づけるために微細な補正を行うことは困難である。従って、ワークとしてオリエンテーションフラット部を有するウェーハを作製する場合に、ワークの外周の接線方向に対して斜めに傾けて配置された砥石の、主にワークの外周の円弧状の部分を形成するための溝を用いてオリエンテーションフラット部も精度良く形成することはできない。そのため、オリエンテーションフラット部形成用の溝を、円弧状の部分の形成用の溝とは別に形成しておく必要があり、砥石の製造が煩雑になるとともに、2つの溝を使い分けるために加工時間が長くなる。
【0014】
特許文献5に記載されている方法では、砥石の溝の内周面の一部である傾斜面、または砥石の外周の凸状部分の一部である傾斜面にワークの外周部を当接させて研削する。ワークを砥石の傾斜面に沿って相対的に移動させることによりワークの外周面を研削するため、研削されたワークの外周部の形状は砥石の傾斜面に対応した形状になる。砥石の外周の傾斜面の角度を任意に変更することはできないため、ワークの面取り部を任意の形状に形成することは難しい。また、ワークの両面の面取り部と、先端の直線部と、直線部と面取り部との間の曲面部とにおいて、ワークを砥石に沿って相対的に往復動作(トラバース)させながら研削を行うため、加工が煩雑で加工時間が長い。
【0015】
特許文献6に記載された方法では、円板状の砥石が円板状のワークに対して直交するように配置されるため、大型の砥石を用いると、砥石がワークの支持や駆動のための機構(例えば吸着テーブルや回転機構)に干渉するおそれがある。従って、ワークの安定的な支持や円滑な駆動を妨げないようにするため、大型の砥石ではなく小型の砥石が用いられる。その結果、加工効率が悪く加工時間が長くなる。また、小型の砥石は大型の砥石に比べて、同一のワークの面取り加工を行う際に、同一個所がワークの外周部に接触して研削する時間が長いため、砥石の寿命が短い。さらに、ワークは、砥石との接触個所が所望の断面形状に沿うような軌跡で移動するが、ワークのそれぞれの個所が十分に研削されてからワークが移動するので、高効率化のためにはワークは高速で回転する必要がある。このようにワークを高速で回転させながら研削を行い、かつ、ワークの外表面に、ワークの回転方向と直交する方向に回転する砥石の条痕が、ワークの厚さ方向に沿って延びる形状で形成されるため、研削された部分の表面粗さが大きい。この研削工程の後に、より精密な仕上げの研磨工程を行おうとしても、ワークの回転方向と直交する方向に沿う条痕が存在するため研磨しにくい。特に、ワークの傾斜面状になった部分が、後工程である精密な研磨工程において研磨しにくく、十分に研磨されずに条痕が残る可能性がある。
【0016】
特許文献7に記載された方法では、カップ型砥石の作製が煩雑であり、特にツルーイングが困難である。また、カップ形状の先端面がワークの外周部に適切に接触するようにカップ型砥石を配置して駆動することは容易ではなく、カップ型砥石の支持および駆動のための機構が複雑である。
【0017】
特許文献8に記載された方法では、前述した特許文献6,7に記載された方法における問題点に加えて、2個の砥石を同時に駆動するために装置が複雑になるとともに、2個の砥石の間に寸法や形状の違いが生じやすく、安定して高精度の面取り加工を行うことが容易ではないという問題がある。
【0018】
特許文献9に記載された方法では、第一砥石の形状が非常に複雑であり、第一砥石の作製が煩雑である。また、ワークは2本の回転軸を中心としてそれぞれ回転させられるため、ワークの支持および駆動のための機構も複雑である。このように、特許文献9に記載された方法を実施する加工装置は非常に複雑である。
【0019】
本発明は、ワークの面取り加工を容易に効率良くかつ高精度に行うことができ、ワークおよび砥石を支持および駆動する機構が簡単であって、しかも砥石の整形が容易にできるワーク加工装置、砥石、およびワーク加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のワーク加工装置は、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工装置であって、前記ワークを支持するワーク支持機構と、前記ワークに対して平行に配置される円板状の砥石と、前記砥石を支持する砥石支持機構と、を有し、前記ワーク支持機構は前記ワークを回転させ、前記砥石支持機構は前記砥石を回転させ、前記ワーク支持機構による前記ワークの回転の中心となる回転軸と、前記砥石支持機構による前記砥石の回転の中心となる回転軸とは互いに平行であり、前記砥石は外周部に凸状研削部分を有しており、前記凸状研削部分の、前記砥石の前記回転軸を通る断面における断面形状は、外周側に向かって凸状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有する形状であり、前記砥石と前記ワークは、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構によって互いに接近したり離れたりするように相対的に移動可能であり、前記砥石支持機構または前記ワーク支持機構は、前記凸状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させることを特徴とする。
【0021】
本発明のワーク加工方法は、外周部に凸状研削部分を有しており回転可能な円板状の砥石であって、前記凸状研削部分の、前記砥石の回転軸を通る断面における断面形状は、外周側に向かって凸状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分を有する形状である砥石を用いて、円板状のワークを所望の断面形状に形成するためのワーク加工方法であって、前記ワークと前記砥石とを互いに平行に配置するステップと、前記砥石を回転させるとともに、前記砥石の前記回転軸と平行な回転軸を中心として前記ワークを回転させつつ、前記凸状研削部分と前記ワークとの接触部分が前記ワークの前記所望の断面形状に沿って移動するように前記砥石の前記円弧状部分の曲率半径に基づいて算出された移動条件に従って、前記砥石を前記ワークに対して相対的に移動させるステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、ワークの面取り加工を容易に効率良くかつ高精度に行うことができ、ワークおよび砥石を支持および駆動する機構が簡単であって、しかも砥石の整形が容易にできるワーク加工装置、砥石、およびワーク加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るワーク加工装置を模式的に示す正面図である。
【
図2】
図1に示すワーク加工装置の砥石を示す断面図である。
【
図3】(a)〜(d)は本発明の第1の実施形態に係るワーク加工方法の一例を順番に模式的に示す正面図である。
【
図5】
図4に示す工程に続く工程を示す拡大図である。
【
図6】
図5に示す工程に続く工程を示す拡大図である。
【
図7】従来のワーク加工方法の一例を示す正面図である。
【
図8】(a)〜(b)は本発明の第1の実施形態において加工されたワークの例を示す正面図である。
【
図9】(a)〜(c)は本発明の第1の実施形態に係るワーク加工方法の他の例を順番に模式的に示す正面図である。
【
図10】(a)は本発明の第1の実施形態の砥石の変形例を示す断面図、(b)は(a)に示す砥石を用いた研削工程を模式的に示す正面図である。
【
図11】(a)は本発明の第2の実施形態に係るワーク加工装置の砥石を示す断面図、(b)〜(c)は(a)に示す砥石を用いた研削工程を模式的に示す正面図である。
【
図12】本発明の第3の実施形態に係るワーク加工装置を模式的に示す正面図である。
【
図13】本発明の第4の実施形態に係るワーク加工装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るワーク加工装置1を模式的に示す正面図である。
図2は、ワーク加工装置1の砥石5を示す断面図である。ワーク加工装置1は、半導体ウェーハやガラス基板やセラミックス等の円板状のワーク2を研削して、ワーク2の外周部の面取りを行う装置である。ワーク加工装置1は、シリコン(Si)やシリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)やヒ化ガリウム(GaAs)やサファイア等を含む高硬度のワーク2の面取り加工に特に適している。ただし、ワーク加工装置1を、その他の種類のワークの加工に用いることもできる。
【0025】
ワーク加工装置1は、円板状のワーク2を支持するとともに回転軸3を中心として回転させるワーク支持機構4と、円板状の砥石5を支持するとともに回転軸6を中心として回転させる砥石支持機構7と、を有している。一例としては、ワーク2は直径が50〜300mmで厚さが1mm以下程度の円板状であり、砥石5は直径が100〜200mmで厚さが20〜60mm程度の円板状である。便宜上、図面中ではワーク2の厚さを厚く図示している。ワーク支持機構4と砥石支持機構7とは、円板状のワーク2と円板状の砥石5とを互いに平行に支持している。ワーク支持機構4は、円板状のワーク2を、ワーク2の平面形状の中心に位置してワーク2に対して直交する回転軸3を中心として回転させることができる。同様に、砥石支持機構7は、円板状の砥石5を、砥石5の平面形状の中心に位置して砥石5に対して直交する回転軸6を中心として回転させることができる。ワーク支持機構4によるワーク2の回転の中心となる回転軸3と、砥石支持機構7による砥石5の回転の中心となる回転軸6とは互いに平行である。砥石5とワーク2は、砥石支持機構7またはワーク支持機構4によって互いに接近したり離れたりするように相対的に移動可能である。一例としては、砥石支持機構7は、砥石5を回転させている状態で、砥石5およびワーク2に対して平行な面内(回転軸3および回転軸6に直交する面内)で、砥石5がワーク2に対して接近する方向にもワーク2から離れる方向にも砥石5を移動させることができ、かつ砥石5およびワーク2に対して直交する面内(回転軸3および回転軸6に平行な面内)で、砥石5がワーク2に対して接近する方向にもワーク2から離れる方向にも砥石5を移動させることができる。従って、砥石5は、砥石支持機構7によって、少なくとも回転軸3,6を含む面内で、ワーク2に対して任意の方向から接近することができ、かつ任意の方向に離れることができる。ワーク支持機構4は、ワーク支持機構4の回転軸3の温度を一定に保つための液体または気体の流れを発生させる温度調整機構15を有している。なお、詳述しないが、ワーク支持機構4および砥石支持機構7は、公知の吸着テーブルや回転モータや可動ステージ等から構成されていてよい。
【0026】
ワーク加工装置1の砥石5は、
図2に示すように、基体になるベース円板部5aと、ベース円板部5aの外周部に位置する凸状研削部分5bとを有している。ベース円板部5aは、アルミニウムやステンレス等の合金からなり、厚さ方向に延びて回転軸6が挿通されるストレート状の取付穴5cと、砥石支持機構7の図示しない保持部(例えばフランジ部)に取り付けるための凹部5dとが設けられている。砥石5の外周部に位置する凸状研削部分5bはメタルボンド砥石またはレジンボンド砥石等からなり、回転軸6を通る断面における断面形状は、半径方向外側(外周側)に向かって凸状であり、少なくとも厚さ方向の両端部にそれぞれ円弧状部分5eを有する形状である。
図2に示されている例では、厚さ方向の両端部に位置する円弧状部分5eが、同様な円弧状部分で接続されて、凸状研削部分5bは全体として1個の半円形を構成している。そして、凸状研削部分5bは、半径方向内側に向かう凹形状の部分を含んでいない。
【0027】
図1に示すワーク加工装置1を用いたワーク加工方法について説明する。
図3はこのワーク加工方法の一例を順番に模式的に示す正面図である。
図3では、見易くするためにワーク2と砥石5とのサイズの差がさほど大きくないように図示しているが、実際には砥石5はワーク2に比べてはるかに大きい。まず、被加工物であるワーク2(例えば半導体ウェーハ)をワーク支持機構4にセットして、回転軸3を中心として回転させる。ワーク2は回転させられるが移動はしない。砥石支持機構7に取り付けられている砥石5を、砥石支持機構7によって、回転軸6を中心として回転させるととともに、砥石5の外周部がワーク2の外周部に当接するように移動させる。一例としては、
図3(a)に示すように、砥石支持機構7に取り付けられた砥石5を、ワーク支持機構4にセットしたワーク2に対して、厚さ方向の中心が一致するように配置する。ワーク2を、回転軸3を中心として回転させるとともに、砥石5を、回転軸6を中心として回転させながら、
図3(b)に示すように砥石5の外周部をワーク2の外周部に当接させて研削する。
【0028】
それから、砥石5を、ワーク2の一方の面側(
図3に示す例ではワーク2の上方)に移動させつつ、ワーク2の回転と砥石5の回転とを続行したまま、
図3(c)に示すように、砥石5の外周部をワーク2の一方の面の外周部に当接させた状態で、砥石5をワーク2に対して移動させる。具体的には、砥石5をワーク2の厚さ方向の中心付近かつ半径方向外側から、ワーク2の一方の面側かつ半径方向内側に向けて徐々に移動させる。それにより、砥石5がワーク2の外周部の一方の面側(上側)のエッジを研削して面取りが行われ、面取り部2aが形成される。
【0029】
ワーク2の外周部の上側のエッジの面取りが完了したら、砥石5をワーク2の半径方向の内側から最外端部の外側まで移動させてからワーク2の他方の面側(
図3に示す例ではワーク2の下方)に移動(下降)させる。この時、砥石5はワーク2の半径方向の最外端部に当接しつつ下降してもよいが、砥石5はワーク2の最外端部よりも外側まで移動してからワーク2の最外端部に接することなく下降してもよい。
【0030】
図3(d)に示すように、ワーク2の厚さ方向の中心よりも下側に移動した砥石5の外周部をワーク2の他方の面の外周部に当接させた状態で、砥石5を引き続き下降させながら、ワーク2の半径方向外側から内側に向けて移動させる。このように、回転する砥石5の外周部をワーク2の外周部に当接させてワーク2を研削することで、ワーク2の外周部の下側のエッジの面取りが行われ、面取り部2aが形成される。最終的には、砥石5がワーク2の下面よりも下方に移動して、砥石5がワーク2に接しない状態になり、ワーク2の面取り加工が終了する。
図3(a)〜3(d)に示すように、ワーク2および砥石5の厚さ方向において、砥石5がワーク2の中心に対向する位置から一方の面側と他方の面側(上下)に往復移動(トラバース)して、ワーク2の外周部の上側のエッジの面取りと下側のエッジの面取りとを行う。ワーク2の外周部の上側のエッジの面取りも下側のエッジの面取りも、ワーク2の半径方向における砥石5の同一方向の移動(ワーク2の半径方向外側から内側に向かう移動)によって行われる。本実施形態では、砥石5が往復移動しながら研削するのはワーク2の先端の直線部(両面の面取り部同士の間の中間部)のみであって、両面の面取り部2aは、砥石5がワーク2の半径方向外側から内側に向かう一方向の動作だけで形成される。例えば、特許文献5に記載されているように、ワークの先端の直線部のみならず、直線部と面取り部との間の曲面部や両面の面取り部においても、砥石とワークとが相対的に往復動作(トラバース)して研削する方法に比べて、本実施形態では、研削加工を容易かつ短時間で効率良く実施できる。そして、本実施形態の砥石5の凸状研削部分5bは主に円弧状の曲面であるため、形成する面取り部2aの形状および寸法に合わせて曲面形状の計算および設計が容易である。なお、一部の図面においては、ワーク2の所望の断面形状を判りやすくするために、面取り部2aの形成途中または形成前の段階であっても、ほぼ完成した状態の面取り部2aの形状を図示している場合がある。
【0031】
このワーク加工方法について、
図4〜6を参照して、より詳細に説明する。本実施形態の加工方法では、砥石5の凸状研削部分5bとワーク2との接触部分がワーク2の所望の断面形状に沿って移動するように、砥石5とワーク2との相対的な移動の移動条件を計算によって求める。本実施形態の砥石5の寸法は既知であるため、砥石5とワーク2とを相対的に移動させるための移動条件は、砥石5の凸状研削部分5bの厚さ方向の両端部に位置する円弧状部分5eの曲率半径に基づいて算出する。こうして算出された移動条件に従って、砥石支持機構7またはワーク支持機構4が、砥石5をワーク2に対して相対的に移動させる。例えば、ワーク2の所望の断面形状を、ワーク2の回転軸3と砥石5の回転軸6とを含む面内の2次元の座標として表し、砥石5とワーク2との接触部分が各座標の点を辿るように砥石5とワーク2の相対的な移動条件が設定される。こうして、本実施形態では、砥石5とワーク2がNC制御(数値制御)されて相対的に移動することでワーク2の研削が行われる。
【0032】
具体的には、
図4に示すように、砥石5をワーク2の外周端面に当接させて研削しワーク2の直径を小さくする。砥石5はワーク2に比べてはるかに大きいため、砥石5の凸状研削部分5bの、ワークの外周端面に接する部分はほぼ直線状である。従って、ワーク2の外周部はほぼ直線状になるように研削されてワーク2の直径が小さくなる。砥石5の凸状研削部分5bの厚さ方向(
図4の上下方向)の中心とワーク2の厚さ方向の中心とを位置合わせた状態で、ワーク2の直径が所望の大きさになるまでワーク2を研削する。その後に、砥石5をワーク2に対して相対的に厚さ方向に移動させて、ワーク2の所望の断面形状(2点鎖線にて図示)の直線部分を形成するようにワーク2の研削を行う。このように砥石5をワーク2の厚さ方向に相対的に移動させてワーク2の所望の断面形状の直線部分を形成し、砥石5が一方の面側(例えば上側)において予め設定された位置P1に到達したら、
図5に示すように、一方の面側への相対的な移動を続行させながらワーク2の半径方向外側から内側に向けて曲線的に相対的に移動させる。予め算出された移動条件に基づいて、砥石5とワーク2とが相対的に厚さ方向と半径方向とに適切に移動することにより、砥石5はワーク2に対して相対的に所望の曲線軌跡を辿る。そして、ワーク2の半径方向外側から内側に向かう相対的な移動の開始点P1からの角度αが、予め設定された所定の角度になる位置P2に到達したら、砥石5とワーク2との相対的な移動量を一定にして、砥石5をワーク2に対して相対的に直線的に移動させる。この角度αは、ワーク2の回転軸3と砥石5の回転軸6とを含む面内でワーク2の内周側から測定される角度である。そして、砥石5はワーク2の厚さ方向の一方の面の外側まで相対的に移動してワーク2と非接触になり、ワーク2の一方の面の研削が完了する。ワーク2の他方の面側においても、
図6に示すように、
図5に示すワーク2の一方の面側における動作を実質的に上下反転した動作を行うことにより、ワーク2の他方の面の研削を行う。
【0033】
砥石5とワーク2の大きさの差は、実際には、
図4〜6に示されているよりもはるかに大きく(例えば砥石5の円弧状部分5eの曲率半径はワーク2の厚さの数十倍であり)、砥石5の円弧状部分5eの、ワーク2の外周面に接する部分はほぼ直線状になる場合がある。例えば、砥石5が移動して移動角度αが所定の大きさになった時点(
図5,6参照)で、砥石5の円弧状部分5eが、ワーク2に形成される面取り部2aの所望の形状(
図5,6には2点鎖線にて図示)との間に生じる隙間が無視できるほど非常に小さく、ワーク2の面取り部2a全体を所望の形状に研削できるようにワーク2に接する可能性がある。その場合には、砥石5が移動して移動角度αが所定の大きさになった時点で砥石5の移動を中止して、その後に砥石5をワーク2に対して相対的に直線的に移動させる工程を省略することも考えられる。より精密な研削を行う場合には、移動角度αが所定の大きさになるまで砥石5を曲線的に移動させた後に、砥石5をワーク2に対して相対的に直線的に移動させる工程を行うことが好ましい。しかし、精密な研削の前段階として比較的粗い研削を行う場合には、移動角度αが所定の大きさになるまで砥石5を曲線的に移動させた後に、砥石5をワーク2に対して相対的に直線的に移動させる工程を省略して、作業を簡略化してもよい。
【0034】
このように、本実施形態では、予め算出した移動条件に従って砥石5とワーク2とを相対的に移動させることにより、砥石5とワーク2との接触部分がワーク2の所望の断面形状に基づいて算出された移動軌跡を辿る。その結果、ワーク2を所望の断面形状に形成することができる。そして、種類の異なるワーク2の加工を行う場合には、新たに加工するワーク2の所望の断面形状に合わせて、そのワーク2を加工するための移動条件を算出する。この時、砥石5の円弧状部分5eの曲率半径に基づいて移動条件を算出するため、同一の砥石5を用いて様々な形状のワーク2を正確に加工することができる。
【0035】
本実施形態の効果について説明する。
図7に示すように、従来の総形溝16aを有する砥石16を用いる加工方法の場合、砥石16の特定の部位、例えば総形溝16aの内周面においてワーク2が最初に当接する部分P3に摩耗や損傷を生じる可能性が高い。多数のワーク2の加工を行うと、この部分P3に摩耗や損傷を生じて総形溝16aの形状が変化するため、その砥石16を用いてワーク2を加工すると加工精度が低くなる。その場合、砥石16の交換や整形が必要である。それに対し、本実施形態では、砥石5の凸状研削部分5bの様々な部位がワーク2に当接して研削するため、特定の部位のみが特別に摩耗または損傷しやすいわけではない。従って、砥石5の寿命が比較的長い。
【0036】
特許文献6に記載されている従来の加工方法では、構造上、あまり大きな(大径の)砥石を用いることは困難であるため、小さい(小径の)砥石で加工を行わなければならない。その結果、砥石の寿命は短く、砥石の交換や整形を行う頻度が高い。しかし、本実施形態では、砥石5および砥石支持機構7が他の部材、具体的にはワーク支持機構4に干渉するおそれが小さいため、構造上の制約が小さく、大きな(大径の)砥石5を用いてワーク2を加工することができる。従って、砥石5の寿命が長く、砥石5の交換や整形の頻度が低い。また、特許文献6に記載されている加工方法では、砥石の回転方向と、ワークに対する相対的な移動方向とが、実質的に一致している(いずれもワーク2の厚さ方向である)。そのため、砥石の外周部に大きな凹凸部があると、砥石の回転によりワークの外周面に回転方向(ワークの厚さ方向)に沿う線状痕が生じやすい。この砥石は回転しながら、ワークに対して相対的に、回転方向と同じ方向、すなわち線状痕と実質的に平行な方向に移動するため、線状痕は消されずに残りやすい。砥石の、ワークの外周面に線状痕を生じさせた部分(大きな凹凸部)は、ワークの周方向の位置は変わらないままワークの厚さ方向に相対移動する。従って、ワークには、この大きな凹凸部に当接せず線状痕と同程度に深く研削されることはない部分が残る可能性がある。その結果、砥石が移動しても線状痕は消されずに残りやすい。なお、砥石の回転方向と直交する方向にワークが回転するが、ワークの回転により周方向に移動する長さは、砥石とワークとがワークの厚さ方向に相対移動する長さに比べてはるかに長い。砥石は、ワークの全周の研削と、ワークの厚さ方向への相対移動とを行うため、ワークの加工時間があまり長くならないようにするためには、砥石がワークに対して相対的にワークの厚さ方向に移動する速度があまり遅くならないようにすることが必要である。ワークの砥石に当接する部分は、ワークの周方向の幅が狭く、砥石がワークに対して相対的にワークの厚さ方向に移動する速度が遅くならないようにするためには、ワークの回転速度(周方向の移動速度)を速くして、砥石がワークの全周に当接して研削するのに要する時間を短くすることが求められる。このように、ワークの回転速度を速くすることにより、ワークと砥石とが互いに直交する方向に回転しても、研削後のワークの表面粗さが粗くなる。これに対し、本実施形態では、砥石5の回転方向と、ワーク2に対する相対的な移動方向とが、実質的に直交する。砥石5の回転方向はワーク2の周方向であり、相対移動方向はワーク2の厚さ方向である。砥石5の外周部に大きな凹凸部があると、砥石5の回転によりワーク2の外周面に周方向に沿う線状痕が生じる。この砥石5は回転しながら、ワーク2に対して相対的に、回転方向と直交する方向、すなわち線状痕と実質的に直交する方向に移動するため、線状痕は残りにくい。砥石5の、ワーク2の外周面に線状痕を生じさせた部分(大きな凹凸部)は周方向に回転しながら線状痕に直交する方向に移動するため、この大きな凹凸部はワーク2の外周面のほぼ全体に順次当接する。従って、ワーク2の外周面のほぼ全体が、この大きな凹凸部によって線状痕と同程度に深く研削される。このように、砥石5の回転方向と、ワーク2に対する相対的な移動方向とが実質的に直交することにより、ワーク2の外周面に生じた線状痕は消されて平滑になりやすい。なお、この構成では、ワーク2の回転速度が速くても、砥石5の回転方向(ワーク2の周方向)と砥石5の相対移動方向(ワーク2の厚さ方向)とが直交しており相対移動距離が短いため、砥石5がワーク2の厚さ方向に非常にゆっくりと相対移動しても、加工時間はそれほど長くならない。従って、砥石5のワーク2の厚さ方向の相対移動速度を比較的遅くして、ワーク2の全周を十分に研削することにより、研削後のワークの表面粗さを良好にすることができる。
【0037】
特許文献5に記載されている従来の加工方法では、砥石の外形に沿ってワークを相対的に移動させることにより研削を行うため、加工後のワークの形状は砥石の外形(特に砥石の曲線状または直線状の傾斜面の形状や角度)によって決まる。従って、形状の異なるワークを形成するためには、砥石の交換が必要である。これに対し、本実施形態では、砥石5とワーク2の相対的な移動が、砥石5の外形に沿うように行われるのではなく、砥石5の凸状研削部分5bの円弧状部分5eの曲率半径を考慮して算出された移動条件に従って行われる。そのため、形状の異なるワーク2を形成する際には、砥石5を交換する必要はなく、移動条件を変更すればよい。すなわち、砥石5を交換することなく、同一の砥石5を用いて様々な形状のワーク2を形成できる。移動条件は砥石5の凸状研削部分5bの円弧状部分5eの曲率半径等に基づく計算によって求められ、砥石5とワーク2の相対的な移動はこの移動条件に基づいて数値制御されるため、加工精度は良好である。このように、本実施形態によると、同一の砥石5により様々な形状のワーク2を形成でき、しかも加工精度が良好であり、さらに砥石5の寿命が長いという多くの優れた効果を奏することができる。
【0038】
本実施形態の加工装置および加工方法によると、
図8(a)に示すように、外周部が1対の円弧状部分とそれらを接続する直線部分とよって形成されたいわゆるT形状のワーク2も、
図8(b)に示すように、外周部が半円状であるいわゆるR形状のワーク2も、精度良く形成することができる。
図8(a)に示すT形状のワーク2の場合、外周部の1対の円弧状部分のそれぞれの曲率半径R1,R2と、それぞれの円弧状部分から繋がる直線的な傾斜面部分の長さX1,X2と、これらの傾斜面部分のワーク2の表面に対する角度θ1,θ2と、1対の円弧状部分の間の直線部分の長さX3と、
図8(a)には示されていない砥石5の凸状研削部分5bの円弧状部分5eの曲率半径とに基づく計算によって求められた移動条件に従って加工が行われる。
図8(b)に示すR形状のワーク2の場合、外周部の半円状の部分の半径Rと、半円状の部分から両側にそれぞれ繋がる直線的な傾斜面部分の長さX1,X2と、これらの傾斜面部分のワーク2の表面に対する角度θ1,θ2と、
図8(b)には示されていない砥石5の凸状研削部分5bの円弧状部分5eの曲率半径とに基づく計算によって求められた移動条件に従って加工が行われる。このように、
図8(a)に示すT形状のワーク2も、
図8(b)に示すR形状のワーク2も、図示されている所望の断面形状の各部の寸法と、砥石5の凸状研削部分5bの円弧状部分5eの曲率半径とに基づく計算によって求めた移動条件に従う数値制御により、精度良く加工することができる。なお、
図8(b)に示すR形状のワーク2の場合、外周端に直線部分が存在しないので、ワーク2の直径が所望の大きさになるまでワーク2を研削した後に、砥石5を厚さ方向に相対的に移動させながらワーク2に直線部分を形成するための加工は不要である。
【0039】
次に、
図1に示すワーク加工装置1を用いたワーク加工方法の他の例について説明する。
図9はこのワーク加工方法の一例を順番に模式的に示す正面図である。この例では、砥石支持機構7に取り付けられた砥石5を、ワーク支持機構4にセットしたワーク2の半径方向内側においてワーク2の厚さ方向の一方の面側(
図9に示す例ではワーク2の上方)から砥石5の外周部をワーク2の外周部に当接させて、ワーク2の外周部のエッジ部分の研削を開始する。そして、ワーク2の回転と砥石5の回転とを続行したまま、砥石支持機構7が砥石5を移動させる。具体的には、
図9(a)に示すように、砥石5を、ワーク2の厚さ方向の他方の面側(
図9に示す例ではワーク2の下方)へ向けて、かつワーク2の半径方向内側から外側に向けて移動させる。この移動によってワーク2の外周部の上側のエッジの面取りが行われ、面取り部2aが形成される。
図9(b)に示すように、砥石5がワーク2の半径方向の最外端部に到達したら、砥石5の下降を続行させてワーク2の厚さ方向の中心よりも下側に移動させる。この時、砥石5をワーク2の半径方向の最外端部に当接させてワーク2を研削しながら下降させる。
【0040】
図9(c)に示すように、ワーク2の厚さ方向の中心よりも下側に移動した砥石5を、引き続き下降させながら、ワーク2の半径方向外側から内側に向けて移動させる。この時、回転する砥石5の外周部をワーク2の外周部に当接させてワーク2を研削し、ワーク2の外周部の下側のエッジの面取りが行われ、面取り部2aが形成される。最終的には、砥石5がワーク2の下面よりも下方に移動して、砥石5がワーク2に接しない状態になり、ワーク2の面取り加工が終了する。
図9(a)〜9(c)に示すように、砥石5を、ワーク2の半径方向内側から外側に向けて移動させ、僅かに下降させた後に、ワーク2の半径方向外側から内側に向けて移動させる、砥石5のごく簡単な移動により、ワーク2の両面の面取りが可能である。ただし、ワーク2の外周部の上側のエッジの面取りを行う際に、砥石5を回転させながらワーク2に当接させて、ワーク2の半径方向外側から内側に向けて移動させてもよい。その場合、ワーク2の外周部の上側のエッジの面取りも下側のエッジの面取りも、砥石5の同一方向の移動(半径方向外側から内側に向かう移動)によって行われる。
【0041】
図3〜6に示す例と
図9に示す例のいずれにおいても、砥石支持機構7が、ワーク2の半径方向における、面取り加工開始前の砥石5の位置、すなわち砥石5がワーク2に接触開始する位置と、面取り加工終了時の砥石5の位置、すなわち砥石5のワーク2との接触が終了する位置とを調整することにより、面取り部2aの大きさを調整することができる。また、このように調整された面取り部2aの大きさと、砥石5によってワーク2が研削される速度とを考慮した上で、砥石支持機構7が、砥石5を下降させる速度と、ワーク2の半径方向に移動させる速度とを調整することによって、ワーク2の面取り部2aの角度や形状等を調整することができる。さらに、砥石5の外周部の曲線部のうちのどの部分をワークに接触させて研削するかによって、砥石5のワーク2に対する接触角度が変わるため、ワーク2の面取り部2aの角度や形状等を調整することができる。このように、主に砥石支持機構7による砥石5の移動の制御によって、ワーク2の面取り部2aの所望の形状や寸法を実現することができる。そのために、砥石支持機構7は、砥石5を数値制御(NC制御)によって駆動することが好ましい。
【0042】
前述した構成は、砥石支持機構7が砥石5を回転させつつ移動させ、ワーク支持機構4はワーク2を回転させるが移動させない構成であるが、そのような構成に限定されない。すなわち、砥石支持機構7は砥石5を回転させるのみで移動させず、ワーク支持機構4がワーク2を回転させるとともに、数値制御によってワーク2を移動させる構成にすることもできる。その場合、ワーク支持機構4は、砥石5およびワーク2に対して平行な面内(回転軸3および回転軸6に直交する面内)で、ワーク2が砥石5に対して近づく方向にも砥石5から離れる方向にもワーク2を移動させることができ、かつ砥石5およびワーク2に対して直交する面内(回転軸3および回転軸6に平行な面内)で、ワーク2が砥石5に対して近づく方向にも砥石5から離れる方向にもワーク2を移動させることができる。従って、ワーク2は、砥石支持機構7によって、少なくとも回転軸3,6を含む面内で、砥石5に対して任意の方向から接近することができ、かつ任意の方向に離れることができる。この構成でも、ワーク2と砥石5とが
図3〜6または
図9に示す各工程と同様の位置関係になるようにワーク2と砥石5とを相対的に移動させることができ、
図3〜6または
図9に示す加工方法と同様の加工を実施することができる。
【0043】
本実施形態では、砥石5とワーク2とを、互いに直交する方向ではなく同一または正反対の方向に回転させるため、砥石5の回転とワーク2の回転とは相乗効果を生じ、砥石5自体の回転速度はさほど高速にする必要はない。従って、砥石支持機構7は、高速回転駆動可能なものでなくてよく、構造の簡略化や低コスト化が図れる。また、ワーク2を砥石5と平行に回転させながら研削を行うため、ワーク2の面取り部の表面粗さを小さくすることができる。
【0044】
本実施形態によると、砥石5はワーク2に対して平行に配置されるため、砥石5がワーク支持機構4に干渉することなく砥石5を大きくすることができる。それにより、砥石支持機構7を含む加工装置1の構成を複雑にすることなく、大型の砥石5を用いてワーク2の外周部を任意の断面形状に形成することができる。また、大型の砥石5を用いることにより加工効率が良く加工時間を短くできるとともに、砥石5の外周部の広い範囲を利用して加工できるため砥石5の寿命が長くなる。さらに、完成状態のワーク2の形状に対応した形状の溝(総形溝)が形成された砥石を用いて加工する場合には、面取り加工前のワークのエッジと当接する溝の内周面(特に傾斜面の部分)の摩耗や破損を生じやすいが、本実施形態では、面取り加工前のワークのエッジに対して砥石5の特定の1個所のみが当接し続ける構成ではないため、砥石5の破損を生じにくく寿命が長い。
【0045】
砥石に設けられた総形溝内にワークを挿入して加工する場合には、特定の形状および寸法の面取り部を形成できるが、異なる形状および寸法の面取り部を形成するためには、異なる溝を有する砥石に交換する必要がある。しかし、本実施形態によると、凸状研削部分5bを有する砥石5をワーク2に対して相対的に移動させて面取りを行うため、数値制御によって砥石5の移動の経路を変更することにより、形成される面取り部2aの形状や寸法を変更することができる。すなわち、単一の砥石5によって、様々な形状および寸法の面取り部2aを形成することができる。
【0046】
また、砥石に設けられた溝内にワークを挿入して加工する場合には、閉じられた狭い空間で加工が行われるため、加工部に研削水(クーラント)を供給することが容易ではない。しかし、本実施形態では、砥石5の外周部の凸形状の部分がワーク2に当接し、開放された空間において加工が行われるため、加工部に研削水を容易に確実に供給できる。それにより、目詰まりや過剰な摩擦や発熱を生じることなく円滑に研削できる。特に、砥石に設けられた溝内にワークを挿入して加工する場合には困難である低角度の面取り(例えば角度11度以下の面取り)を容易かつ高精度に実現することができる。そして、1個の大型の砥石5で、ワーク2の外周部の円弧状部分のエッジの面取りとオリエンテーションフラット部のエッジの面取りとを連続して行うことが可能であり、複数の溝を設ける必要がない。従って、砥石5を簡単な構成にできるとともに、一続きの工程で面取り部2aとノッチ部やオリエンテーションフラット部とを形成できるため、加工時間が短く加工コストを低減できる。
【0047】
図10に本実施形態の砥石の変形例を示している。この変形例の砥石8は、
図10(a)に示すように、例えば金属製のベース円板部8aと、その外周部に位置するレジンボンド砥石からなる凸状研削部分8bとを有しており、ベース円板部8aには、厚さ方向に延びて回転軸6が挿通されるストレート状の取付穴8cと、凹部8dとが設けられている。凸状研削部分8bは半径方向外側に向かう凸形状であって、回転軸に沿う断面において少なくとも一部に曲線部分を有しており、半径方向内側に向かう凹形状の部分は設けられていない。本実施形態の砥石8の凸状研削部分8bは、外周部の一部、特に厚さ方向の中間部(厚さ方向の両端部に位置する1対の円弧状部分8eの間の位置)に平面部分、すなわち回転軸6を通る断面における直線部分8fを有している。
図10(a)では、円弧状部分8eと直線部分8fとの境界を仮想的な線(2点鎖線)で示している。凸状研削部分8bの直線部分8fは、
図10(b)に示すように、主にワーク2の外周部の厚さ方向の中間部、すなわち、ワーク2の厚さ方向の両端のエッジの面取り部2a同士の間の部分を研削してワーク2の直径を小さくする際に用いられる。この砥石8によると、ワーク2の外周部の厚さ方向の中間部を効率良く高精度に研削でき、表面粗さを小さくできる。直線部分8fは砥石粒度が粗い部分であって、円弧状部分8eは砥石粒度が細かく、直線部分8fによる研削よりも精密な研削を行う部分であってよい。
【0048】
図示しないが、ベース円板部8aの取付穴8cおよび凹部8dにはフランジが配置され、回転軸6を構成するスピンドルが取付穴8c内のフランジ内に挿入され、凹部8d内に突出するスピンドルの先端にナット等の固定部材が取り付けられる。それにより、砥石8が、回転軸6を構成するスピンドルに固定され、スピンドルとともに回転可能である。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図11(a)は、本実施形態のワーク加工装置の砥石9を示す断面図である。本実施形態では、ワーク2の半径を小さくするための研削と、ワーク2を所望の断面形状に形成するためにワーク2の外周部の両面の面取りを行う研削との2段階の研削工程を行う。一般的に、前者の研削は粗研削、後者の研削は精密研削である。精密研削と粗研削とは相対的な表現であり、精密研削は、粗研削に比べて、形状寸法精度が良く、研削された面の表面粗さが小さくなる研削のことである。本実施形態の砥石9には、ベース円板部9aの外周部に、主にワーク2を所望の断面形状に形成するための研削に用いられる凸状研削部分(精密研削部分)9bと、主にワーク2の半径を小さくするための研削に用いられる断面長方形状研削部分(粗研削部分)9fとが設けられている。凸状研削部分9bは、第1の実施形態の砥石5,8の凸状研削部分5b,8bと同様な構成であり、厚さ方向の両端部に円弧状部分9eをそれぞれ有している。本実施形態の砥石9の断面長方形状研削部分9fは、
図11に示すように、回転軸6に沿う断面において長方形状である。すなわち、断面長方形状研削部分9fのワーク2と対向する面は、回転軸6に沿う断面において砥石9の厚さ方向と平行な直線状である。
【0050】
本実施形態では、未加工のワーク2をワーク支持機構4にセットして回転させ、砥石支持機構7に取り付けられた砥石9を、回転軸6を中心として回転させながら、
図11(b)に示すように断面長方形状研削部分9fをワーク2の外周部に当接させる。これにより、ワーク2の外周部を粗研削し、ワーク2の外径を所望の大きさにするとともに、主に外周部の厚さ方向の中間部を平滑にする。次いで、
図11(c)に示すように、砥石9の凸状研削部分9bを用いて、
図3〜6または
図9に示す第1の実施形態の加工方法と実質的に同様な方法で、ワーク2を所望の断面形状に形成するためにワーク2の両面のエッジの面取りを行う。本実施形態では、砥石9の凸状研削部分9bは、ワーク2の半径を小さくするための研削よりも精密な研削(精密研削)を行うために用いられる。本実施形態では、第1の実施形態と同様な効果を得られるとともに、2段階の研削工程によって面取り部を行う場合に単一の砥石9のみによって両工程を容易に行うことができ、製造工程が簡単で低コストである。ただし、ワーク2の半径を小さくするための研削を、断面長方形状研削部分9fを用いて行うだけでなく、凸状研削部分9bも用いて行ってもよい。同様に、ワーク2を所望の断面形状に形成するためにワーク2の両面のエッジの面取りを行う研削を、凸状研削部分9bを用いて行うだけでなく、断面長方形状研削部分9fも用いて行ってもよい。一例としては、断面長方形状研削部分9fは砥石粒度が粗い部分であって、凸状研削部分9bは断面長方形状研削部分9fよりも砥石粒度が細かく精密な研削に用いられる部分である。
【0051】
一般に半導体ウェーハ等のワーク2の面取りを行う場合、砥石によってワーク2の外周面を研削して半径を小さくし、ワーク2の不要部分を除去しながら所望の大きさにしつつ外形を整えるとともに、中心合わせを行う。その後に、砥石によってワーク2に面取り部2aを形成する。1つの凸状研削部分によってこれらの研削を行う場合には、前段階のワーク2の半径を小さくするための研削(粗研削)は、主に、砥石の凸状研削部分の、厚さ方向の中心付近の部位をワークに当接させることによって行う。後段階の面取り部2aを形成するための研削(精密研削)は、凸状研削部分の、厚さ方向の両端の円弧状部分をワークに当接させることによって行う。通常、ワーク2の半径を小さくするための研削は、面取り部2aを形成するための研削よりも研削量(研削する体積)が大きい。従って、凸状研削部分の、厚さ方向の中心付近の部位は、厚さ方向の両端の円弧状部分よりも摩耗が激しく、凸状研削部分の全体形状が崩れる。その結果、ワーク2の加工精度が低下するおそれがある。それに対し、本実施形態では、ワーク2の半径を小さくするための研削は、主に断面長方形状研削部分9fによって行い、面取り部2aを形成するための研削は、凸状研削部分9bによって行うことができる。すなわち、ワーク2の半径を小さくするための研削と面取り部2aを形成するための研削とを、砥石9の別の部位によって行うことができる。断面長方形状研削部分9fの形状および寸法と、凸状研削部分9bの形状および寸法とはそれぞれ独立して管理でき、それぞれの摩耗量が異なっていても、加工条件を適宜に調整することにより、良好な加工が行える。そして、凸状研削部分9bは、主に面取り部2aを形成するための研削のみに用いられ、一部分(厚さ方向の中心付近の部位)のみが他の部分に比べて著しく大きな摩耗を生じることはなく、比較的均等に摩耗する。従って、砥石の凸状研削部分9bの形状はさほど大きく変化せず、ワーク2の加工精度の低下を抑えることができる。断面長方形状研削部分9fは大きく摩耗するが、ワーク2と対向する面は砥石9の厚さ方向と平行な直線状であって単純な形状であるため、摩耗を生じても加工精度がさほど低下しない。
【0052】
なお、本実施形態の砥石9の取付穴9cはテーパ形状に形成されている。この構成では、図示しないが、フランジを用いることなく、回転軸6を構成するスピンドルのテーパ状部分をテーパ形状の取付穴9c内に挿入し、凹部9d内に突出するスピンドルの先端にナット等の固定部材を取り付けることにより、砥石9を、回転軸6を構成するスピンドルに固定し、スピンドルとともに回転可能に支持することができる。すなわち、本実施形態の砥石9は、フランジが不要であるとともに、砥石9を、回転軸6を構成するスピンドルに安定的に固定でき、しかも砥石9が回転軸6(スピンドル)に対して偏心することを抑制している。
【0053】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図12は、本実施形態のワーク加工装置を模式的に示す正面図である。本実施形態のワーク加工装置は、第2の実施形態と同様な砥石9と、円板状のワーク2の外周の接線方向に対して斜めに配置された円板状の溝付き砥石12と、を有している。溝付き砥石12は、溝付き砥石支持機構13によって支持されるとともに回転軸14を中心として回転可能である。このワーク加工装置は、2段階の研削工程によって面取りを行うものであり、前段の粗研削工程を、第2の実施形態と同様な砥石9の断面長方形状研削部分9fと凸状研削部分9bとを用いて、前述した加工方法を実施することによって行う。そして、後段の精密研削工程を、ワーク2の外周の接線方向に対して斜めに配置された溝付き砥石12によって行う。溝付き砥石12の外周部には凹形状の溝12aが設けられており、この溝12a内にワーク2の外周部を挿入することにより、溝12aの内周面をワーク2の外周部に当接させて研削し、面取り部を形成することができる。本実施形態によると、表面粗さが小さいなどのヘリカル方式の加工方法による効果が得られるとともに、回転しながら移動する砥石9によって粗研削を行うことにより、その後に行う溝付き砥石12を用いたヘリカル方式の精密研削をより短時間で効率良く行うことができるという効果も得られる。
【0054】
本実施形態のワーク加工装置は、ワーク2の代わりにワーク支持機構4に取り付けることができ回転軸3を中心として回転可能な、溝付き砥石12のツルーイング用のツルーイング砥石11を有している。ツルーイング砥石11は、例えばレジンボンド砥石からなる溝付き砥石12よりも硬いGC砥石等からなり、ワーク2とほぼ同等な直径と厚さを有する砥石である。GC砥石等からなるツルーイング砥石11を、通常はメタルボンド砥石からなる砥石9を用いてワーク2の加工と同様な方法で加工して、傾斜した溝付き砥石12に転写したい断面形状(予め設定された溝12aの形状に対応する形状)に形成する。ワーク2の加工と同様な方法とは、砥石9の凸状研削部分9bとツルーイング砥石11との接触部分が、予め設定された溝12aの形状に対応する形状に沿って移動する移動条件を、砥石9の円弧状部分9eの曲率半径に基づいて算出しておき、その移動条件に従って、ツルーイング砥石11を砥石9に対して相対的に移動させることによって、ツルーイング砥石11の外形を形成することである。予め設定された溝12aの形状とは、溝12aの内周面に当接するワーク2を所望の断面形状に形成するために適した形状である。このようにして断面形状が形成されたツルーイング砥石11を、回転軸3を中心として回転させながら、溝が形成または整形される前の傾斜した溝付き砥石12の外周部に押し当てて、ツルーイング砥石11の外形を溝付き砥石12の外周部に転写して、溝12aを形成または整形する。こうして、溝付き砥石12のツルーイングを容易に行うことができる。なお、ツルーイング砥石11は、傾斜した溝付き砥石12のツルーイング時に生じるわずかな断面形状の変化を経験的に予想した上で、予想される断面形状の変化を予め含めた形状に形成される。
【0055】
なお、砥石の摩耗強さは、例えば粒度が#3000のレジンボンド砥石よりも粒度が#320のGC砥石の方が強く、粒度が#320のGC砥石よりも粒度が#800のメタルボンド砥石の方が強い。従って、粒度が#800のメタルボンド砥石で粒度が#320のGC砥石を研削して所望の断面形状に形成することができる。また、粒度が#320のGC砥石を、粒度が#3000のレジンボンド砥石に設けられた溝の内周面に押し付けることで、溝の形状を整形することができる。なお、以下に記載する各砥石は、基本的に、前述した粒度をそれぞれ有するものである。メタルボンド砥石からなり総形溝を有する砥石を用いて粗研削を行い、レジンボンド砥石からなる傾斜した溝付き砥石を用いて精密研削を行う従来のワーク加工装置では、GC砥石からなるツルーイング砥石を、メタルボンド砥石の総形溝の内周面に当接させて総形溝の形状を転写する。その後に、GC砥石からなるツルーイング砥石を、傾斜したレジンボンド砥石に当接させて溝の形成または整形を行う。こうして形成されたレジンボンド砥石からなる傾斜した溝付き砥石の溝によって、ワーク(ウェーハ)の精密研削を行う。そのため、ワークは、メタルボンド砥石の総形溝の形状に依存した断面形状にしか形成できず、異なる断面形状に形成することはできない。
【0056】
これに対し、本発明では、GC砥石からなるツルーイング砥石11は、メタルボンド砥石からなる砥石9の凸状研削部分9bによって任意の断面形状に形成できるため、このツルーイング砥石11によってツルーイングされる溝付き砥石12に、任意の断面形状の溝12aを形成できる。それにより、砥石を交換することなく、様々な断面形状のワーク2の加工を行うことができる。また、溝付き砥石12をツルーイングした後に、ワーク2の加工を一度行い、加工したワーク2の断面形状を実際に測定して、目標の形状と比較してフィードバックすることができる。仮に、加工したワーク2の断面形状が目標の形状と相違している場合には、砥石9の凸状研削部分9bによって整形するツルーイング砥石11の断面形状を変更(補正)し、変更した断面形状を有するツルーイング砥石11によって溝付き砥石12を再ツルーイングする。このようにして、溝付き砥石12によって整形するワーク2の断面形状を、目標の形状に近づけることができる。前述した従来のワーク加工装置では、総形溝を有するメタルボンド砥石を用いているため、加工したワークの断面形状が目標の形状から相違していても、ツルーイング砥石11の断面形状の変更(補正)は不可能である。しかし、本発明の方法によると、加工したワークの断面形状の精度、すなわち、ワーク2の加工精度を格段に向上させることが可能である。
【0057】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図13は、本実施形態のワーク加工装置を模式的に示す正面図である。本実施形態のワーク加工装置は、第3の実施形態と同様な、円板状のワーク2の外周の接線方向に対して斜めに配置された溝付き砥石12を有している。第2の実施形態と同様な砥石9が砥石支持機構7に取り付けられ、回転軸6を中心として回転可能である。ワーク2がワーク支持機構4に取り付けられ、回転軸3を中心として回転可能であるとともに、ワーク2および砥石9に対して平行な面内(回転軸3および回転軸6に直交する面内)で砥石9に対して近づく方向にも砥石9から離れる方向にも移動可能であり、かつ砥石9およびワーク2に対して直交する面内(回転軸3および回転軸6に平行な面内)で砥石9に対して近づく方向にも砥石9から離れる方向にも移動可能である。
図13に示すように、ワーク支持機構4は、X方向移動ステージ4aと、Y方向移動ステージ4bと、Z方向移動ステージ4cと、モータ4dと、を有している。X方向移動ステージ4aは、砥石9およびワーク2に対して平行な面内で、砥石9およびワーク2の幅方向(
図13の紙面に直交する方向)に移動可能である。Y方向移動ステージ4bは、X方向移動ステージ4a上に搭載され、砥石9およびワーク2に対して平行な面内で、砥石9およびワーク2の接離方向(
図13の左右方向)に移動可能である。Z方向移動ステージ4cは、Y方向移動ステージ4b上に搭載され、砥石9およびワーク2に対して直交する面内で高さ方向(
図13の上下方向)に移動可能である。詳述しないが、X方向移動ステージ4aと、Y方向移動ステージ4bと、Z方向移動ステージ4cとは、公知の案内手段(例えばLMガイド)と移動手段(例えばボールねじおよびナットと回転駆動手段)とをそれぞれ有し、前述した各方向に移動可能である。モータ4dは、Z方向移動ステージ4c上に搭載され、回転軸3を介してワーク2を支持するとともに、回転軸3を回転させる駆動手段である。モータ4dは発熱する部材であり、このモータ4dおよび回転軸3の少なくとも一方を覆うように温度調整機構15が設けられている。温度調整機構15は、図示しない流路に液体または気体が流されて、モータ4dおよび回転軸3の少なくとも一方の温度を調整する。
【0058】
このワーク加工装置によると、前述した第1〜3の実施形態のそれぞれの効果を奏することができる。また、図示しないが、第3の実施形態と同様なツルーイング砥石11を回転させながら溝付き砥石12に当接するように移動させて、溝付き砥石12のツルーイングを容易かつ効率良く高精度に行うこともできる。
【0059】
ワーク支持機構4は、ワーク2を常に高速回転させるわけではなく、低速回転させる場合や、ワーク2の回転を行わない場合もある。具体的には、砥石5,8,9の凸状研削部分5b,8b,9bや断面長方形状研削部分9fによってワーク2の研削を行う時には、ワーク2は高速回転される。円板状のワーク2の外周の接線方向に対して斜めに配置された溝付き砥石12によってワーク2の研削を行う時には、ワーク2は低速回転される。そして、ワーク2の交換時には、ワーク支持機構4は回転運動を行う必要がない。従来、複数のワーク2を連続的に加工する場合には、ワーク支持機構4は、回転軸3を中心とするワーク2の高速回転と、ワーク2の低速回転と、回転運動停止状態とを繰り返す。ワーク支持機構4は、ワーク2の高速回転の際には発熱して高温になり、ワーク2の低速回転時には高速回転時よりも低温になり、回転運動停止状態にはさらに低温になる。ワーク支持機構4がこのような温度変化を繰り返す結果、特に回転軸3が伸縮等の変形を生じる。ワーク2が取り付けられる回転軸3が変形し、ワーク2の厚さ方向の位置が変化すると、前述したように数値制御してワーク2と砥石とを相対移動させても加工精度が大幅に低下する。
【0060】
そこで、本発明の各実施形態では、ワーク支持機構4に付属する温度調整機構15が設けられている。温度調整機構15は、液体または気体の流れを発生させて、ワーク支持機構4の回転軸3の温度の変動を小さくして、回転軸3の変形を抑える。こうして、ワーク2の加工時に、回転軸3の熱による変形を抑えることにより、ワーク2の加工精度の低下を防ぐ。
【0061】
また、回転軸3の温度をできるだけ一定に保つためには、回転軸3を中心とする回転運動を行い続けることが好ましい。例えば、ワーク2の交換や補充の際や作業工程上の問題でワーク2の加工が中断している時であっても、ワーク支持機構4は回転軸3を中心とする回転運動を続行することが好ましい。こうして、ワーク支持機構4を、ワーク2が取り付けられておらずワーク2の加工を行っていない状態で回転軸3を中心とする回転運動を行っている状態(便宜上、アイドリング状態または予備回転動作と称する)に保つことによって、温度の変動を小さく抑えて、短時間で温度が安定し易くなるようにすることができる。さらに、この予備回転動作では、高速回転のみ、または低速回転のみを行うのではなく、実際のワーク2の加工時と同様に高速回転(砥石による加工中のワーク2の高速回転時と同じ速度での回転)と、低速回転(砥石による加工中のワーク2の低速回転時と同じ速度での回転)と、を交互に繰り返すことが、温度変動を小さく抑えられる点で好ましい。それにより、予備回転動作からワーク2の加工に移行する際に、直ちに、回転軸3の温度を安定させることができ、高精度の加工が行える。特に、予備回転動作における高速回転の継続時間と低速回転の継続時間との比を、実際のワーク2の加工における高速回転の継続時間と低速回転の継続時間との比と一致させると、実際のワーク2の加工時に準じた温度管理が可能であるため好ましい。ただし、予備回転動作の高速回転の継続時間と低速回転の継続時間が長時間であると、実際のワーク2の加工を開始する際に、予備回転動作を終了してワーク2の加工に移行するのに適したタイミング(例えば予備回転動作の回転速度が切り替わるタイミング)を待つための待機時間が長くなり、作業効率が低下する可能性がある。そこで、前述したように予備回転動作における高速回転の継続時間と低速回転の継続時間との比を、実際のワーク2の加工における高速回転の継続時間と低速回転の継続時間との比と一致させつつ、予備回転動作における高速回転の継続時間および低速回転の継続時間を、実際のワーク2の加工における高速回転の継続時間と低速回転の継続時間よりもそれぞれ短くすることが好ましい。それにより、実際のワーク2の加工時に準じた温度管理により回転軸3の温度変化を小さく抑えて加工精度の低下を抑えるとともに、さらに、予備回転動作からワーク2の加工に移行する際の待機時間を短くして作業効率の低下を抑えることができる。
【0062】
本発明の砥石5,8,9は、凸状研削部分5b,8b,9bの、砥石5,8,9の回転軸6を通る断面における断面形状が、厚さ方向の両端部に位置する1対の円弧状部分5e,8e,9eを有する形状である。厚さ方向の両端部に位置する円弧状部分5e,9eが、同様な円弧状部分で接続されている場合には、凸状研削部分5b,9bは、
図1〜3,9,11〜13に示すように全体として1個の半円形を構成する断面形状を有する。一方、
図10に示すように、凸状研削部分8bが、厚さ方向の両端部に位置する円弧状部分8eが直線部分8fによって接続された断面形状を有する構成にすることもできる。いずれの場合であっても、砥石5,8,9の厚さ方向の一方の端部の円弧状部分5e,8e,9eと、他方の端部の円弧状部分5e,8e,9eとは、それぞれの曲率半径の平均値が所望の大きさになるように個別に形成された部分であることが好ましい。それにより、凸状研削部分5b,8b,9b全体を同一の曲率半径になるように加工する場合よりも、厚さ方向の一方の端部と他方の端部のいずれも高精度に良好に形成できる。そして、厚さ方向の一方の端部の円弧状部分5e,8e,9eの曲率半径と、他方の端部の円弧状部分5e,8e,9eの曲率半径のそれぞれの誤差を、ある程度小さくすることが好ましい。例えば、厚さ方向の一方の端部の円弧状部分5e,8e,9eの曲率半径の最大値と最小値の差と、他方の端部の円弧状部分5e,8e,9eの曲率半径の最大値と最小値の差とが、いずれも許容範囲内に入る、すなわち予め設定された所定の数値(第1の所定値)以下になるようにする。また、厚さ方向の一方の端部の円弧状部分5e,8e,9eの曲率半径の平均値と、他方の端部の円弧状部分5e,8e,9eの曲率半径の平均値との差が許容範囲内に入る、すなわち予め設定された所定の数値(第2の所定値)以下になるようにする。
【符号の説明】
【0063】
1 ワーク加工装置
2 ワーク
2a 面取り部
3,6,14 回転軸
4 ワーク支持機構
4a X方向移動ステージ
4b Y方向移動ステージ
4c Z方向移動ステージ
4d モータ
5,8,9 砥石
5a,8a,9a ベース円板部
5b,8b,9b 凸状研削部分
5c,8c,9c 取付穴
5d,8d,9d 凹部
5e,8e,9e 円弧状部分
7 砥石支持機構
8f 直線部分
9f 断面長方形状研削部分
11 ツルーイング砥石(ツルアー)
12 溝付き砥石
12a 溝
13 溝付き砥石支持機構
15 温度調整機構
16 砥石
16a 総形溝