特開2021-181596(P2021-181596A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-181596(P2021-181596A)
(43)【公開日】2021年11月25日
(54)【発明の名称】キー溝を備えた機械部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/09 20060101AFI20211029BHJP
   C21D 9/28 20060101ALI20211029BHJP
【FI】
   C21D1/09 G
   C21D9/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-87135(P2020-87135)
(22)【出願日】2020年5月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594006817
【氏名又は名称】新光機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【弁理士】
【氏名又は名称】増子 尚道
(74)【代理人】
【識別番号】100100066
【弁理士】
【氏名又は名称】愛智 宏
(72)【発明者】
【氏名】柳 英二郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 真也
(72)【発明者】
【氏名】新堀 隆
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA14
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA03
4K042BA04
4K042BA09
4K042DA01
4K042DB04
(57)【要約】
【課題】キー溝の強度を高める(特に隅角部15に確実に表面焼入れによる硬化層21を形成する)ことによりキー溝に亀裂が発生することを防ぎ、亀裂の進展や部品の破断が生じることを回避する。
【解決手段】キー溝を備えた機械部品の製造方法で、キー溝12の側面14にレーザ光を照射して表面焼入れを行う側面焼入れ工程と、キー溝の側面と底面13とが突き合わされることにより形成される隅角部15にレーザ光を照射して表面焼入れを行う隅角部焼入れ工程とを含み、側面焼入れ工程の後に隅角部焼入れ工程を実施する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キー溝を備えた機械部品の製造方法であって、
前記キー溝の側面と底面とが突き合わされることにより形成される隅角部にレーザ光を照射して表面焼入れを行う工程
を含むことを特徴とするキー溝を備えた機械部品の製造方法。
【請求項2】
キー溝を備えた機械部品の製造方法であって、
前記キー溝の側面にレーザ光を照射して表面焼入れを行う工程
を含むことを特徴とするキー溝を備えた機械部品の製造方法。
【請求項3】
キー溝を備えた機械部品の製造方法であって、
前記キー溝の側面にレーザ光を照射して表面焼入れを行う側面焼入れ工程と、
前記キー溝の側面と底面とが突き合わされることにより形成される隅角部にレーザ光を照射して表面焼入れを行う隅角部焼入れ工程と
を含み、
前記側面焼入れ工程の後に、前記隅角部焼入れ工程を実施する
ことを特徴とするキー溝を備えた機械部品の製造方法。
【請求項4】
前記表面焼入れは、
前記キー溝を平面から見たときの前記レーザ光の照射点を移動させながら行い、且つ、
前記キー溝を平面から見たときの前記レーザ光の照射開始点と照射終了点とが共に、前記キー溝の、前記機械部品の軸方向に関する端部に位置するように前記レーザ光の照射を行う
ことにより実施する
請求項1から3のいずれか一項に記載のキー溝を備えた機械部品の製造方法。
【請求項5】
前記機械部品はシャフトである
請求項1から4のいずれか一項に記載のキー溝を備えた機械部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キー溝を備えた機械部品の製造方法に係り、特にシャフトなどの機械部品に備えられるキー溝にレーザ光を照射して表面焼入れを行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
軸と回転体を滑らないように締結させるキーは、回転体の動力を他の機械要素に効率良く伝達できることから、様々な産業分野の機械装置において今日広く使用されている。またキー溝は、キーを挿し込む溝(穴)で、キーを嵌め込むことが出来るようにキーに対応した形状を有する。
【0003】
なお、キーに関するものではないが、レーザ光を使用して焼入れを行う発明を開示するものとして下記特許文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−149424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、キーを用いた締結構造は、回転動力を確実に伝達できる信頼性から高速回転や重荷重を伴う機械装置に使用されることも多く、このような装置では、継続的なあるいは繰返しの大きな荷重負荷による金属疲労によってキー溝に亀裂が入ったり部品が破断したりするなどキー溝部分から部品に損傷が生じることがあった。
【0006】
一方、キー構造は比較的シンプルな構造で分解することが可能であり、損傷が生じた場合には締結部を分解して部品交換により対処することも可能である。しかしながら、作業には時間と労力と費用を要する。またその間、装置の稼働を停止し、操業を中断する必要も生じる。
【0007】
また、前記特許文献1記載の発明は、このようなキー構造における問題を指摘するものではなく、その解決方法を示すものでもない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、キー溝の強度を向上させることによりキー溝に亀裂が発生することを防ぎ、亀裂の進展や部品の破断が生じることを回避する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し目的を達成するため、本願の第一の発明に係るキー溝を備えた機械部品の製造方法は、キー溝の側面と底面とが突き合わされることにより形成される隅角部にレーザ光を照射して焼入れを行う工程を含む。
【0010】
キー溝を備えた機械部品においては、誘導加熱を利用するなどして部品全体に表面焼入れを行うことはあっても、キー溝だけを対象として表面焼入れ処理を別に行うことは従来なかった。これに対し、本発明ではキー溝を対象として焼入れを行い、焼入れはレーザ光を照射することにより実施する。レーザ光によれば、レーザ光を照射された部分のみを発熱させ、加熱部周辺への熱的影響を非常に小さくすることが出来るからで、これによりキー溝以外の部分に焼き戻しが生じたり、焼入れ歪みや焼割れが発生したりすることを防ぐことが出来る。また、焼入れに伴うキー溝の変形も最小限に抑えることが可能となる。
【0011】
またレーザ光によれば、誘導加熱と異なり、部品表面から加熱されて熱伝導で部品内部へ熱が伝えられるから焼入れの深さが浅く、自己冷却効果によりピンポイントで正確な場所に硬化層を形成することが出来る。さらに、誘導加熱コイルや冷却剤も必要なく、冷却管理(冷却剤の濃度や流量、冷却時間などの管理)も不要である。
【0012】
また、レーザ焼入れは小径ビームを移動させることによる焼入れ処理のため、加熱冷却時に加熱されない部分からの拘束力が大きく、焼入れ硬化層に発生する圧縮残留応力が大きくなる。したがって、キー溝の耐疲労強度を向上させ、キー溝に亀裂が発生することを効果的に防ぐことが出来る。
【0013】
したがって、本願の第一の発明では前述のようにキー溝の側面と底面とが突き合わされることにより形成される隅角部にレーザ光を照射して表面焼入れを行う。キー溝の隅角部に表面焼入れを行うのは、金属疲労などによりキー溝に発生する亀裂はキー溝の隅角部で発生しやすく、発生した亀裂が徐々に進展して部品の破断に繋がるからである。このため、隅角部の硬度を高めることにより強度を向上させることが重要となる。
【0014】
また、本願の第二の発明に係るキー溝を備えた機械部品の製造方法は、キー溝の側面にレーザ光を照射して表面焼入れを行う工程を含む。
【0015】
この第二の発明でキー溝の側面に表面焼入れを行うのは、キー溝の側面はキーが当接しキーからの荷重を直接受ける部分だからであり、本願の第二の発明では当該部分にレーザ焼入れによって硬化層を形成し、強度と耐摩耗性を向上させる。
【0016】
なお、焼入れはキー溝全体、つまり隅角部と側面の両方に行うことが好ましい。隅角部と側面の両方に連続した硬化層を形成することによりキー溝全体の強度と耐摩耗性を高めるためである。ただしこの場合、本願の第三の発明として述べる次のような順序で焼入れを実施することが望ましい。
【0017】
本願の第三の発明に係るキー溝を備えた機械部品の製造方法は、キー溝の側面にレーザ光を照射して表面焼入れを行う側面焼入れ工程と、キー溝の側面と底面とが突き合わされることにより形成される隅角部にレーザ光を照射して表面焼入れを行う隅角部焼入れ工程とを含み、側面焼入れ工程の後に、隅角部焼入れ工程を実施する。
【0018】
上記第三の発明において焼入れの順序として側面に表面焼入れを行った後に隅角部に表面焼入れを行うのは、前述のように亀裂が発生しやすくキー溝の強度を高めるうえで特に重要となる隅角部に硬化層をより確実に形成するためである。つまり、焼入れをした後に再度焼入れを行うと、焼き戻しにより部分的に硬度低下部が発生するおそれがある。このため、先ず側面に表面焼入れを行い、その後に隅角部に表面焼入れを行うことで、隅角部が焼き戻されることを防ぎ、隅角部に硬化層をより確実に形成する。
【0019】
さらに上記第一から第三の発明では、表面焼入れ(側面への表面焼入れ及び隅角部への表面焼入れ)を、キー溝を平面から見たときのレーザ光の照射点を移動させながら行い、且つ、キー溝を平面から見たときのレーザ光の照射開始点と照射終了点とが共に、キー溝の、機械部品の軸方向に関する端部に位置するようにレーザ光の照射を行うことにより実施することが好ましい。
【0020】
キー溝に表面焼入れ(側面への表面焼入れ及び隅角部への表面焼入れ)を行う場合には、レーザ光の照射点を移動させながら行うが、照射開始点と照射終了点との間には、短い区間ではあるが、レーザ光が照射されずに焼入れが十分ではないか、あるいは逆に、レーザ光が重複して(再度)照射されることにより焼き戻される区間が生じる可能性があり、そのような区間では他の焼入れ区間に比べれば強度が向上されない虞がある。
【0021】
一方、キー溝の端部(当該機械部品の軸方向に関する端部)は、キー溝の中間部(当該機械部品の軸方向に平行な部分)に比べればキーから受ける荷重は小さく、中間部ほど強度を高める必要は必ずしもない。そこで、前記第一から第三発明の好ましい態様では、照射開始点と照射終了点が、比較的高強度を必要としないキー溝の端部に位置するようにレーザ光の照射を行い、これにより照射開始点と照射終了点の影響を回避する。
【0022】
本願の各発明に言う機械部品は、典型的にはシャフトである。ただし、これに限定されず、本発明はキー溝を備えた様々な他の機械部品に適用することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、キー溝の強度を向上させることによりキー溝に亀裂が発生することを防ぎ、亀裂の進展や部品の破断が生じることを回避することが出来る。
【0024】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面に基づいて述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。なお、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るキー溝を備えた機械部品の製造方法が対象とするシャフトの一部(キー溝部分)を示す斜視図である。
図2図2は、前記実施形態に係るシャフトのキー溝部分を示す平面図である。
図3図3は、前記実施形態に係るシャフトのキー溝部分を示す縦断面図(図1および図2のA−A断面図)である。
図4図4は、前記実施形態に係るシャフトのキー溝部分(焼入れ処理が完了した状態)を拡大して示す横断面図(図1および図2のB−B断面図)である。
図5図5は、前記実施形態においてキー溝を平面から見たときのレーザ光の照射点(照射位置)を示す平面図である。
図6図6は、前記実施形態に係るシャフトのキー溝部分を拡大して示す横断面図(図1および図2のB−B断面図)で、側面焼入れ工程を示すものである。
図7図7は、前記実施形態に係るシャフトのキー溝部分を拡大して示す横断面図(図1および図2のB−B断面図)で、隅角部焼入れ工程を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第1実施形態〕
図1から図7に示すように本発明の一実施形態に係るキー溝を備えた機械部品の製造方法は、シャフト11に形成されたキー溝12にレーザ光22を照射して表面焼入れを行う工程を含むものである。なお、各図には前後左右上下の各方向を示す三次元直交座標、または前後左右上下のうちのいずれか4方向を示す二次元直交座標を示し、以下の説明はこれらの方向に基いて行う。
【0027】
シャフト11に形成したキー溝12は、本実施形態では側面14と底面13を有し天面が開放された穴状の溝で、当該シャフト11の軸方向に延びる(言い換えればシャフト11の軸方向を長手方向とした)前後方向に長い長方形の両端部を半円状に湾曲させた平面形状を有する。また、キー溝12の底面13は水平に広がる平面で、キー溝12の側面14は当該底面13の周縁から垂直上方に起立する。また、キー溝12の底面13と側面14とが突き合わされることにより形成される隅角部15は、キー溝底面13の周縁に沿って底面13を取り囲むように延びている。
【0028】
キー溝12への表面焼入れは、キー溝12の側面14にレーザ光22を照射して焼入れを行う側面焼入れ工程と、キー溝12の隅角部15にレーザ光22を照射して焼入れを行う隅角部焼入れ工程とを順に実施することにより行う。なお、側面14への焼入れの後に隅角部15に焼入れを行うのは、既に述べたように隅角部15が焼き戻されることを防ぎ、キー溝12に亀裂や損傷が生じるのを防ぐ観点からより重要な隅角部15に確実に焼入れによる硬化層21を形成するためである。
【0029】
また各工程ではそれぞれ、図5に示すようにキー溝12の左側半分について焼入れを行い、続いて、右側半分について焼入れを行うが、各焼入れでは、レーザ光22の照射開始点S1,S2と、照射終了点E1,E2が共にキー溝12の端部にくるようにレーザ光22の照射を実施する。この理由は、既に述べたように焼き戻しや焼入れ不足が生じる可能性のある照射開始点S1,S2と照射終了点E1,E2が、キー(図示せず)からの荷重負荷が小さく比較的高強度を必要としない端部に配置されるようにレーザ光22の照射を行うことによりキー溝全体の強度を効果的に高めるためである。
【0030】
〔側面焼入れ工程〕
まず、キー溝12の側面14に表面焼入れを行う。具体的には、図6に示すようにキー溝12の上面開口16を通して斜め上方からキー溝12の側面14にレーザ光22を照射し、この照射スポットを、キー溝12の前側端部左側の照射開始点S1(図5参照)からキー溝12の後側端部左側の照射終了点E1まで移動させる(矢印R1参照)。これにより、キー溝12の左側側面に表面焼入れを行うことが出来る。
【0031】
そして、同様にレーザ光22の照射スポットを、キー溝12の後側端部右側の照射開始点S2からキー溝12の前側端部右側の照射終了点E2まで移動させることにより(図5の矢印R2参照)、キー溝12の右側側面に表面焼入れを行う。
【0032】
〔隅角部焼入れ工程〕
次に、隅角部15への表面焼入れを行う。具体的には、図7に示すようにキー溝12の上面開口16を通して斜め上方からキー溝12の隅角部15にレーザ光22を照射し、この照射スポットを、キー溝12の前側端部左側の照射開始点S1(図5参照)からキー溝12の後側端部左側の照射終了点E1まで移動させる(矢印R1参照)。これにより、キー溝12の左側の隅角部15に表面焼入れを行うことが出来る。
【0033】
そして、同様に照射スポットを、キー溝12の後側端部右側の照射開始点S2からキー溝12の前側端部右側の照射終了点E2まで移動させることにより(図5の矢印R2参照)、キー溝12の右側の隅角部15に焼入れを行う。
【0034】
これにより、図4に示すようにキー溝12の側面14と隅角部15とに亘る硬化層21を形成することができ、キー溝12の強度を向上させることが出来る。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。
【0036】
例えば、キー溝の形状は、前記実施形態では両端部が丸形の平行キーに対応したキー溝としたが、他の形状のキー溝、例えば両端が直線状の平行キーに対応したキー溝や、片端が丸形の片端丸形平行キーに対応したキー溝、丸キーや半円キーのような円柱状や角錐台形状等のキーに対応した形状のキー溝などについても本発明を適用することが可能である。また、前記実施形態のように底面の周囲すべてが側面で囲まれている穴状のキー溝に限らず、例えば両端または片端が開放された(側面がない)キー溝に対しても本発明を同様に適用することが可能である。
【0037】
さらに、前記実施形態では、キー溝の左側と右側との2工程で表面焼入れを行ったが、1工程で、つまり全周に亘って続けて(左側と右側とを連続して)レーザ光を照射して焼入れ行うようにしても良い。なお、この場合も前記実施形態と同様に、レーザ光の照射開始点と照射終了点が共にキー溝の端部に位置するように照射を行うことが好ましい。
【符号の説明】
【0038】
11 機械部品(シャフト)
12 キー溝
13 キー溝の底面
14 キー溝の側面
15 キー溝の隅角部
16 キー溝の上面開口
21 焼入れにより形成された硬化層
22 レーザ光
E1,E2 レーザ光の照射終了点
R1,R2 レーザ光の照射スポットの移動
S1,S2 レーザ光の照射開始点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7