【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業CREST「スピントロニック・サーマルマネージメント」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【解決手段】熱ホール効果情報取得装置100は、試料1に対して光を照射し試料1を加熱する加熱部と、試料に1おいて加熱部によって加熱されかつ磁石7によって磁場が印加された領域または磁化した領域の温度分布を検知する検知部30と、検知部30によって検知された温度分布に基づいて、領域における熱ホール効果に関する情報を取得する取得部50とを備える。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態について詳細に説明する。
<熱ホール効果計測装置100の構成>
図1は、本実施の形態に係る熱ホール効果計測装置100を示す概略構成図である。
まず、
図1を参照して、本実施の形態が適用される熱ホール効果計測装置100の構成を説明する。
図1に示すように、本実施の形態が適用される熱ホール効果計測装置100は、板状に形成された測定試料1を支持する支持台3と、磁場を形成する磁石7と、加熱用光源として機能するレーザ10と、レーザ10を制御するレーザドライバ20と、測定試料1に対向して設けられる赤外線サーモグラフィ(ロックインサーモグラフィ)30と、赤外線サーモグラフィ30からの信号を受けるコンピュータ50と、周期的信号を発生させレーザ10および赤外線サーモグラフィ30へと出力する周期的信号発生器70とを備える。
【0013】
このように構成された熱ホール効果計測装置100においては、レーザ10から出射されたレーザ光が、測定試料1に周期的に照射される。この測定試料1においては、レーザ光が照射される箇所(領域)が周期的に加熱される。すなわち、測定試料1の表面における特定の領域が、スポット周期加熱される。付言すると、レーザ10の照射により、測定試料1の面内方向に沿う熱流が形成される。
【0014】
また、レーザ10のレーザ光により周期的に加熱された測定試料1の温度は、赤外線サーモグラフィ30によって測定される。なお、赤外線サーモグラフィ30は、レーザ10によりスポット周期加熱される領域を含む予め定めた範囲を、赤外線画像として撮像(測定)する。この赤外線サーモグラフィ30には、周期的信号発生器70から周期的信号が入力される。また、赤外線サーモグラフィ30で測定された温度のデータである温度分布データは、周期的信号とともにコンピュータ50へと出力される。
【0015】
コンピュータ50は、赤外線サーモグラフィ30とあわせて、所定間隔のフレームレートに基づいて、赤外線画像の取り込みと演算とを連続的に実行し、レーザによる周期加熱と同期して変化する温度変化をフーリエ解析により抜き出した画像を作成する(ロックイン方式)。さらに説明をすると、赤外線サーモグラフィ30で得られたデータがコンピュータ50により演算処理され、試料1における熱ホール係数(詳細は後述)を算出する。
【0016】
なお、以下の説明においては、
図1における図中左側から右側に向かう向きを+x方向反対向きを−x方向ということがある。また、
図1における図中下側から上側に向かう向きを+z方向、反対向きを−z方向ということがある。また、
図1における紙面手前側から奥側に向かう向きを+y方向、反対向きを−y方向ということがある。
【0017】
<コンピュータ50の機能構成>
図2は、コンピュータ50の機能構成図である。
次に、
図1および
図2を参照して、本実施の形態が適用されるコンピュータ50の機能構成を説明する。
図2に示すように、本実施の形態が適用されるコンピュータ50は、赤外線サーモグラフィ30(
図1参照)から入力される温度分布データおよび周期的信号を取得するデータ取得部51と、データ取得部51によって取得された温度分布データおよび周期的信号に基づいて温度変化の強度分布である温度振幅を算出する振幅分布算出部52と、データ取得部51によって取得された温度分布データおよび周期的信号に基づいて位相差の分布を算出する位相分布算出部53と、データ取得部51によって取得された温度分布データおよび周期的信号に基づいて新たに温度分布を算出する温度分布算出部54と、算出された振幅および位相差に基づいて熱ホール係数(後述)を算出する熱ホール係数算出部55と、算出された熱ホール係数の算出結果などを液晶ディスプレイ(不図示)に表示する算出結果表示部56とを備える。
【0018】
本実施の形態のコンピュータ50は、赤外線サーモグラフィ30により検出された測定試料1(
図1参照)の温度分布に基づいて、測定試料1における熱ホール係数(後述)を算出する。さらに説明をすると、コンピュータ50は、測定試料1の温度分布の変化の振幅および応答の遅れ、そして温度変化の磁場もしくは磁化依存性に基づいて、測定試料1における熱ホール効果による温度情報と、熱ホール効果ではない通常の熱拡散による温度情報とを分離する処理を行う。
【0019】
なお、振幅分布算出部52は、後述する式(9)および式(10)に基づいて温度振幅を算出する。すなわち、振幅分布算出部52は、通常の熱拡散による温度振幅と、熱ホール効果よる温度振幅とを算出する。また、位相分布算出部53は、後述する式(11)および式(12)に基づいて位相差を算出する。すなわち、位相分布算出部53は、通常の熱拡散による位相差と、熱ホール効果による位相差とを算出する。また、温度分布算出部54は、振幅分布算出部52が算出する温度振幅に基づいて、温度分布を算出する。すなわち、温度分布算出部54は、通常の熱拡散による温度分布と、熱ホール効果による温度分布とを算出(推定)する。
【0020】
また、熱ホール係数算出部55は、温度分布算出部54が算出する通常の熱拡散による温度分布に基づいて、熱ホール係数R
THE(後述する式(1)参照)を仮定した場合の熱ホール効果によって生じた温度分布を算出する。そして、熱ホール係数算出部55は、算出された温度分布と、温度分布算出部54によって得られた熱ホール効果による温度分布とを比較することで、熱ホール係数を算出する。
【0021】
<測定試料1周辺の構成>
図3は、熱ホール効果計測装置100における測定試料1周辺の構成を示す図である。
次に、
図3を参照して、測定試料1の構成および熱ホール効果計測装置100における測定試料1周辺の構成を説明する。
【0022】
まず、測定試料1の構成について説明をする。
図3に示すように、測定試料1は、平板状の部材である。測定試料1の材質は、特に限定されないが、例えばビスマスなどの多結晶の金属材料で構成される。測定試料1は、レーザ10によってレーザ光が照射される側、すなわち図中上側の面である上面11と、レーザ10によってレーザ光が照射される側とは反対側、すなわち図中下側の面である下面13とを有する。なお、上面11は、赤外線サーモグラフィ30と対向する面である。付言すると、赤外線サーモグラフィ30は、測定試料1の上面11における熱分布を測定する。
【0023】
次に、熱ホール効果計測装置100における測定試料1周辺の構成を説明する。
図3に示すように、支持台3は、測定試料1が搭載される板部材である搭載板31と、搭載板31を支持する支持脚33とを有する。ここで、搭載板31は板面中央に開口35が形成されている。この開口35は、測定試料1におけるレーザ光が照射される光照射領域HAと、z方向に見て重なる位置にある。言い替えると、測定試料1の光照射領域HAと重なる位置となる下面13の板面中央部は、開口35が形成されていることにより搭載板31から離間している。すなわち、搭載板31の開口35により、測定試料1から搭載板31に熱が伝達されることが抑制される。
【0024】
磁石7は、搭載板31を挟んで測定試料1とは反対側に位置する。さらに説明をすると、磁石7は、開口35と対向する位置に設けられている。図示の例においては、磁石7は、硬質磁性材料(永久磁石)である。図示の磁石7は直方体状であり、測定試料1と対向する側(図中上側)がN極71、測定試料1と反対側(図中下側)がS極73である。この向きに配置された磁石7は、測定試料1が配置される空間において+z方向の磁場を形成する。
【0025】
さて、磁石7は、上下の向きを変更可能である。この向きの変更により、磁石7が生じさせる磁場が+z方向と−z方向とで切り替わる。さらに説明をすると、本実施の形態においては、磁石7の配置を変更することで、磁場の向きを反転させながら、熱ホール効果の測定を行う。
【0026】
レーザ10は、測定試料1の上面11に対して斜めにレーザ光が入射するよう配置されている。図示の例においては、レーザ10の照射方向ANは、上面11の法線方向NMと入射角θをなす。上面11に対してレーザ光が斜めに入射することによって、測定試料1に楕円形状の光照射領域HAが形成される。なお、光照射領域HAは、例えば光強度が最大強度となる加熱中心HPと所定の関係の光強度(例えば加熱中心HPの1/e
2)となる領域である。この光照射領域HAは、非円形であることから、回転方向に対して非対称な二次元の温度場を形成する。
【0027】
<測定原理>
図4は、測定試料1における温度変化を示す模式図である。
次に、
図3および
図4を参照しながら、本実施の形態における熱ホール効果の測定原理を説明する。以下では、まず熱ホール効果について説明をしたのち、本実施の形態における熱ホール効果の測定原理について詳細に説明する。
【0028】
まず、熱ホール効果は、熱流の非相反応答として磁化または磁場環境下において見られる現象である。この熱ホール効果においては、測定試料1に印加した熱流と磁場(磁化)の両方向に対して垂直方向の熱流が生じる。この熱流による温度勾配の大きさは、熱流および磁場(磁化)の大きさに比例し、その比例係数は物質種に依存する。以下では、磁場に依存した熱ホール効果について記述するが、各式における磁場を磁化に置き換えれば、磁化に依存した熱ホール効果に対しても同様の測定方法を適用できる。ここで、熱ホール効果は、式(1)で表される。
【0030】
R
THEは熱ホール係数であり、H
Zは磁場であり、Λは単位磁場強さにおける熱流歪曲の割合である。
【0031】
ここで、従来、熱ホール効果の計測は、熱電対や抵抗温度計を用いた接触式による定常法で行われていた。これらの手法においては、例えば試料と温度計との間において熱損失が生じ、測定の信頼性が低下することがあった。そこで、本実施の形態においては、レーザ10によって測定試料1を周期加熱しながら赤外線サーモグラフィ30を用いて計測することで、非接触な2次元温度分布の計測を行う。
【0032】
さらに説明をすると、本実施の形態においては、
図4(a)に示すように、レーザ10によって測定試料1の周期加熱を周期fで行う。このことにより、測定試料1の光照射領域HAは、周期的に温度上昇を繰り返す。
【0033】
ここで、
図4(b)に示すように、磁場を+z方向すなわち+Hとした場合において、測定試料1の所定の位置で、熱ホール効果による温度変化が観察されるものとする。この熱ホール効果による温度変化は、レーザ10による周期加熱と同期する。一方で、
図4(c)に示すように、磁場を−z方向すなわち−Hとすると、所定の位置における熱ホール効果による温度変化が符号反転し、
図4(b)に示すように磁場を+z方向すなわち+Hとした場合と比べて周期的に変化する温度変化の位相が180°変化する。
【0034】
ここで、測定試料1をレーザで周期加熱したとき、複素温度波Tは、レーザ周期加熱成分とそれに伴う熱ホール効果成分の合成波として,式(2)のように表される。
【0036】
ここで、T
normalはレーザ周期加熱によって生じた複素温度波であり、T
THEは熱ホール効果によって生じた複素温度波であり、角周波数をwとし、レーザ加熱によって生じた温度振幅をA
normalとし、その位相差をφ
normalとし、熱ホール効果によって生じた温度振幅をA
THEとし、その位相差をφ
THEとすると、式(3)および式(4)のように表される。
【0039】
式(2)に式(3)および式(4)を代入すると、式(5)が得られる。
【0041】
ここで、t=0のとき、式(6)となる。
【0043】
ここで、測定試料1にN極を対向させた場合の複素温度波と、測定試料1にS極を対向させた場合の複素温度波は、式(6)より式(7)および式(8)となる。
【0046】
式(7)および式(8)を変形すると、式(9)乃至式(11)となる。
【0051】
上記のように、本実施の形態においては、熱ホール効果による温度情報と、レーザ加熱によって生じた温度情報、すなわち通常熱拡散による温度情報とを分離することが可能となる。さらに説明をすると、測定試料1に印加している磁場分極を反転させると、熱ホール効果で誘導された温度分布の符号は反転するが、通常熱拡散現象の温度分布は変化しない。このことから、本実施の形態においては、向きが異なる磁場分極方向で測定された結果を比較し、熱ホール効果で誘導された温度情報のみを取得可能とした。
【0052】
図5は、測定試料1における温度分布の模式図である。さらに説明をすると、
図5(a)は磁場をかけない場合、
図5(b)は+z方向(紙面の奥から手前向き)の磁場をかけた場合、
図5(c)は−z方向(紙面の手前から奥向き)の磁場をかけた場合における測定試料1の表面温度分布を示す。また、
図5(d)は、レーザ加熱の影響を除いた熱ホール効果による測定試料1の表面温度分布を示す。
【0053】
次に、
図3および
図5を参照しながら、測定試料1において熱ホール効果により生じる温度分布について説明をする。
まず、
図5(a)に示すように、磁場をかけない場合、すなわち熱ホール効果が生じない場合においては、レーザ10の楕円照射により、測定試料1に長軸がx方向に沿う楕円上の表面温度分布が形成される。
【0054】
そして、
図5(b)に示すように+z方向の磁場(第1磁場)をかけた場合、熱ホール効果が生じる。すなわち、測定試料1の表面温度分布に、熱ホール効果による熱流成分による変化が含まれる。その結果、表面温度分布が回転する。この回転の向きは、熱ホール係数が負のときには、
図5(b)に示すように+ψ方向である。
【0055】
また、
図5(c)に示すように−z方向の磁場(第2磁場)をかけた場合においても、熱ホール効果が生じ、表面温度分布が回転する。この回転の向きは、
図5(c)に示すように、−ψ方向である。すなわち、−z方向に磁場をかけた場合においては、
図5(b)に示すように+z方向の磁場をかけた場合とは反対向きに、表面温度分布が回転する。
【0056】
ここで、上記の測定原理により、レーザ加熱の影響を取り除くと、
図5(d)に示すように、熱ホール効果による温度変化が得られる。すなわち、熱ホール効果による発熱現象および吸熱現象が観察される。
図5(d)においては、発熱現象が起こる領域AHと、吸熱現象が起こる吸熱領域ALとが各々2つずつ形成される。さらに説明をすると、周方向において領域AHおよび吸熱領域ALが交互に並ぶ、所謂四葉型が形成される。
【0057】
<動作>
図6は、熱ホール効果計測装置100(
図1参照)の動作を説明するフローチャートである。
次に、
図1、
図2および
図6を参照して、本実施の形態における熱ホール効果計測装置100の動作を説明する。
【0058】
まず、磁石7のN極71を測定試料1と対向させ、+z方向の磁場をかける第1磁場に設定する(S601)。そして、この第1磁場で第1測定を行う(S602)。すなわち、レーザ10が測定試料1の上面11をスポット周期加熱し、赤外線サーモグラフィ30が温度分布を測定する。
【0059】
次に、磁石7のS極73を測定試料1と対向させ、−z方向に磁場をかける第2磁場に設定する(S603)。そして、第2磁場で第2測定を行う(ステップ604)。すなわち、レーザ10が測定試料1の上面11をスポット周期加熱し、赤外線サーモグラフィ30が温度分布を測定する。
【0060】
次に、第1測定および第2測定で測定される温度分布から、振幅分布算出部52が振幅の分布を算出する(ステップ605)。また、第1測定および第2測定で測定される温度分布から、位相分布算出部53が位相分布を算出する(ステップ606)。
【0061】
そして、算出された振幅の分布および位相分布に基づき、温度分布算出部54が熱ホール効果による温度分布を算出する(ステップ607)。また、算出された振幅分布および位相分布に基づき、熱ホール係数算出部55が熱ホール係数を算出する(ステップ607)。
【0062】
そして、算出結果表示部56が、上記算出結果である振幅分布、位相分布、温度分布、熱ホール係数をコンピュータ50の液晶ディスプレイ(不図示)などに表示する(ステップ609)。
【0063】
<測定結果>
図7は、通常熱拡散熱流についての測定結果を示す。さらに説明をすると、
図7(a)は上記式(10)で示す温度振幅A
normalの分布を示し、
図7(b)は上記式(12)で示す位相差φ
normal(−180°<φ
normal<0°)の分布を示し、
図7(c)は通常熱拡散熱流による温度変化の実数成分の分布A
normalcosφ
normalを示す。
【0064】
図8は、熱ホール効果についての測定結果を示す。さらに説明をすると、
図8(a)は上記式(9)で示す温度振幅A
THEの分布を示し、
図8(b)は上記式(11)で示す位相差φ
THE(−180°<φ
normal<0°)の分布を示し、
図8(c)は熱ホール効果による温度変化の実数成分の分布A
THEcosφ
THEを示す。
【0065】
なお、
図7および
図8に示す各グラフは、測定試料1の中心から5×5mm
2の範囲で計測されている。また、各グラフの測定条件は、周波数が12.5Hz、入射角が26deg、磁場強さが415mTである。
【0066】
次に、
図1、
図3、
図7および
図8を参照して、測定試料1を用いた測定結果を説明する。以下では実験条件を説明した後に、測定結果について詳細に説明をする。
まず、実験条件を説明する。測定試料1は、アーク溶解により作製した多結晶ビスマスを寸法10×10×1mm
3に切断したものである。また、測定試料1においては、放射率向上およびレーザ光の波長における吸収率を向上させるため、表面にグラファイトをスプレーで塗布し、黒化処理を行った。レーザ10は、ファイバを増幅媒体とする青色ファイバーレーザー(445nm、BrixX(登録商標)445‐2500HP、Omicron)を用いた。ビーム径1.5mmであり、測定試料1に対して入射角θは、13、26degとした。
【0067】
支持台3は、厚さ1mmのアルミ板で形成し、開口35は直径12mmとした。磁石7は、寸法20×20×20mm
3のネオジム磁石単体であり、Halbach配列化することで磁束密度を強化した磁石を用いた。磁場強さは、測定試料1の上面11において286mT、415mTであった。測定周波数は、0.785、1.56、3.125、6.25、12.5、25、50Hzとした.そして、赤外線サーモグラフィ30(H9000、InfraTec)によって、レーザ光と同期した周波数でロックイン信号としてデータを取得した。
【0068】
次に、測定試料1の測定結果について説明をする。まず、
図7(a)に示すように、測定試料1は、最大4000mK程度の振幅で、楕円状に周期加熱されていることが確認された。また、
図7(b)に示すように、加熱中心から楕円状に熱拡散していく様子が確認された。さらに、
図7(a)および
図7(b)の結果から、
図7(c)に示すような楕円状の温度分布A
normalcosφ
normalが算出された。
【0069】
また、
図8(a)に示すように、熱ホール効果による温度振幅は、四方に分割された分布が確認された。また、
図8(b)に示すように、位相は4隅で各々180°反転していることが確認され、発熱現象と吸熱現象とが観察された。さらに、
図8(a)および
図8(b)の結果から、
図8(c)に示すような温度情報が得られ、上記
図5(d)で説明した通り、四葉型の温度分布A
THEcosφ
THEが算出された。付言すると、
図8(a)乃至
図8(c)は、熱ホール効果の可視化の一例である。
【0070】
さて、
図7(c)で測定された温度分布A
normalcosφ
normalを用いて、熱ホール係数R
THEをシミュレーションで仮定した場合の温度分布A
THEcosφ
THEについての計算を行うと、−0.027T
−1とした場合において、
図8(c)の温度分布A
THEcosφ
THEとよく一致した。この−0.027T
−1の値は、室温のビスマスの熱ホール係数の文献値(−0.02〜−0.03T
−1程度)と、符号および値ともに類似した結果となった。すなわち、本実施の形態における測定手法の妥当性が実験的に確認された。
【0071】
上記の通り、熱ホール効果計測装置100においては、測定試料1における小さな領域で熱ホール効果を評価することが可能となる。また、熱ホール効果計測装置100による測定においては、従来法よりも測定試料1の大きさや形状についての自由度が高い。また、熱ホール効果計測装置100においては、測定試料1を破壊せずに測定を行うことが可能である。ここで、熱ホール効果計測装置100は、非接触で計測を行うことにより、計測にともない測定試料1の温度分布を乱すことが抑制される。
【0072】
<コンピュータ50のハードウェア構成>
図9は、コンピュータ50のハードウェア構成例を示した図である。
図9に示すように、コンピュータ50は、演算手段であるCPU(Central Processing Unit)501と、記憶手段であるメインメモリ503およびHDD(Hard Disk Drive)505とを備える。ここで、CPU501は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行する。また、メインメモリ503は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域である。HDD505は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。そして、コンピュータ50が備えるこれらの構成部材により、上記
図2などで説明した各機能構成が実行される。
【0073】
なお、コンピュータ50は、赤外線サーモグラフィ30など外部との通信を行うための通信インターフェイス(通信I/F)507を備えている。また、CPU501が実行するプログラム(例えば、上記熱ホール係数を算出するプログラム)は、予めメインメモリ503に記憶させておく形態の他、例えばCD−ROM等の記憶媒体に格納してCPU501に提供したり、あるいは、ネットワーク(不図示)を介してCPU501に提供したりすることも可能である。
【0074】
<光照射領域HAの変形例>
図10は、測定試料1の光照射領域HAの変形例を説明する図である。
次に、
図10を参照しながら、測定試料1の光照射領域HAの変形例について説明をする。
上記の実施の形態においては、測定試料1の上面11に形成される光照射領域HAを楕円形とすることを説明したが、光照射領域HAが真円形以外の形状であればこれに限定されない。
【0075】
例えば、
図10(a)に示すように、マイクロレンズアレイなど周知のビーム成型技術を用いることにより、光照射領域HA1が直線状、すなわち略長方形状に形成されてもよい。また、
図10(b)に示すように、光照射領域HA2が十字状、すなわち2つの略長方形状が交差する形状に形成されてもよい。また、
図10(c)に示すように、光照射領域HA3が卍字状、すなわち先端が屈曲した十字状に形成されてもよい。
【0076】
<他の変形例>
上記の実施の形態においては、測定試料1の上面11に対してレーザ光を斜めに入射させることを説明したが、これに限定されない。すなわち、光照射領域HAが円形でなければ、測定試料1の上面11に対して直交する向きにレーザ光を入射させてもよい。
【0077】
また、レーザ10から測定試料1までの光路に、レンズやピンホールなどの光学部材を設けてもよい。例えば、レーザ10の光路に高分解能顕微赤外レンズを導入してもよい。なお、高分解能顕微赤外レンズを用いることにより、測定試料1におけるマイクロスケールでの熱ホール効果の検出が可能となる。
【0078】
また、上記の実施の形態においては、赤外線サーモグラフィ30が測定試料1の上面11、すなわちレーザ10によって測定試料1が加熱される側の面を測定することを説明したがこれに限定されない。例えば、測定試料1の下面13、すなわちレーザ10によって測定試料1が加熱される側とは反対の面と対向する位置に赤外線サーモグラフィ30を設け、下面13における熱分布を測定してもよい。
【0079】
また、上記の説明においては、測定試料1が多結晶の金属材料であることを説明したが、固体の試料であれば結晶性や熱キャリアの種類は問わない。さらに説明をすると、測定試料1における熱キャリアは、伝導電子のみならずフォノンやマグノンであってもよい。例えば、測定試料1は、強磁性金属や、半導体、絶縁体などにより構成されてもよい。
【0080】
また、上記の説明においては、磁場の向きを切り替えながら、熱ホール効果の測定を行うことを説明したが、磁場の向きを変化させることは必須ではない。すなわち、差分演算をする前の温度分布から、熱ホール効果が生じた場合と生じない場合とにおける光照射領域HAの変化が検知できれば、磁場の向きを変化させなくともよい。この場合、磁場をかけて赤外線サーモグラフィ30によって温度分布を測定し、熱ホール効果を生じない場合における光照射領域HAの向きを基準としながら熱ホール効果に関する情報を算出してもよい。
【0081】
また、上記の説明においては、磁石7により磁場を印加しているが、磁場の印加手段(磁場印加部)は特に限定されない。例えば、磁石7が電磁石により代替されてもよい。
また、磁石7により形成される磁場の向きがz方向に沿う向きであることを説明したが、これに限定されない。例えば、測定試料1においてz方向に沿う向きに温度勾配が生じていれば、磁場はz方向と交差する向きでも熱ホール効果が生じる。
【0082】
また、測定試料1において、熱ホール効果が発生する大きさの磁場が形成されていれば、磁石7を設けなくてもよい。例えば、測定試料1自身が自発磁化を形成すれば、外部磁場がなくてもよい。さらに説明をすると、測定試料1が板面に垂直方向に磁化している構成においては、磁石7を設けなくてもよい。なお、磁石7は、磁場に比例する正常熱ホール効果を測定する場合に設けるとよい。
【0083】
なお、上記の説明においては、熱ホール効果に関する情報として、熱ホール効果による温度振幅、位相、および温度分布や、熱ホール係数などを算出することを説明したが、熱ホール効果の現象を表現可能であればこれらに限定されない。例えば、式(1)により単位磁場強さにおける熱流歪曲の割合を算出してもよい。
【0084】
また、上記の説明においては、赤外線サーモグラフィ30を用いた外線検知に基づくサーモグラフィ法を用いることを説明したが、温度観測の手段はイメージングが可能であればこれに限定されない。例えば、光の反射率の温度依存性から温度計測を行うサーモリフレクタンス法を利用してもよい。
【0085】
なお、測定試料1は、試料の一例である。レーザ10は、加熱部および光照射部の一例である。光照射領域HAは、領域の一例である。赤外線サーモグラフィ30は、検知部および温度検知部の一例である。熱ホール係数算出部55は、取得部および係数算出部の一例である。熱ホール効果計測装置100は、熱ホール効果情報取得装置および熱ホール係数計測装置の一例である。搭載板31は、支持体の一例である。開口35は、離間部の一例である。磁石7は、磁場形成部の一例である。
【0086】
さて、上記では種々の実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態や変形例同士を組み合わせて構成してももちろんよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。