【課題】ポジショナの単位移動角度の移動に係る駆動モータの回転速度を最適化し、全ての測定ポジションに亘る移動端末の総測定時間を短縮可能な移動端末試験装置及び移動端末試験方法を提供する。
【解決手段】測定装置1は、OTAチャンバ50内に設けられ、駆動モータ56f、56gにより回転駆動可能な2軸ポジショナで構成され、DUT100を球座標系の予め設定された全ての方位を順次向くように回転させるDUT走査機構56と、全ての方位にそれぞれ対応する各測定ポジションでDUT100を測定させる統合制御装置10と、DUT100の測定中、測定終了した測定ポジションから次の測定ポジションまで、2軸ポジショナを単位ステップ角度で移動させる際、該移動に要する時間を短縮する回転速度で駆動モータ56f、56gの回転速度を制御する回転速度管理制御部18bと、を有する。
電波暗箱(50)の内部空間(51)内に設けられ、駆動モータ(56f、56g)によってそれぞれ回転駆動可能なアジマス軸及びロール軸を有し、被試験対象を、球座標系の中心を基準点として該球座標系の予め設定された複数の方位を順次向くように回転させるポジショナ(56)と、
前記内部空間内の試験用アンテナ(5)に接続される模擬測定装置(20)と、
前記試験用アンテナから前記被試験対象である移動端末(100)に対して試験信号を送信し、該試験信号を受信した前記移動端末から送信される被測定信号を前記試験用アンテナで受信させ、該受信された被測定信号に基づき前記移動端末に関する特定の測定項目を測定させる測定動作を、前記複数の方位のそれぞれに対応する各測定ポジションで実施させるように前記模擬測定装置を制御する測定制御手段(10)と、
前記特定の測定項目の測定中、測定が終了した前記測定ポジションから次に測定を行う前記測定ポジションまでを単位移動角度として前記ポジショナを移動させる際、前記駆動モータの回転速度を前記ポジショナの前記単位移動角度の移動に要する時間を短縮する回転速度に制御する回転速度制御手段(18b)と、
を有することを特徴とする移動端末試験装置。
異なる複数の前記単位移動角度に対応して、前記ポジショナの前記各単位移動角度の移動時間を最短にし得る前記駆動モータの回転速度を格納した回転速度管理テーブル(16b)と、
前記単位移動角度を設定する設定手段(18a)と、をさらに有し、
前記回転速度制御手段は、前記設定手段により設定された前記単位移動角度の前記ポジショナの移動に際し、前記回転速度管理テーブルに前記設定された前記単位移動角度に対応して格納されている回転速度で前記駆動モータを回転駆動する
ことを特徴とする請求項1に記載の移動端末試験装置。
前記測定制御手段は、前記特定の測定項目として、TRP(全球面放射電力)を測定させるように前記模擬測定装置を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の移動端末試験装置。
前記回転速度制御手段は、前記駆動モータの回転速度を前記ポジショナの前記単位移動角度の移動に要する時間を最短にするために最適な回転速度に制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の移動端末試験装置。
電波暗箱(50)の内部空間(51)内に設けられ、駆動モータによってそれぞれ回転駆動可能なアジマス軸及びロール軸を有し、被試験対象を、球座標系の中心を基準点として該球座標系の予め設定された複数の方位を順次向くように回転させるポジショナ(56)と、
前記内部空間内の試験用アンテナ(5)に接続される模擬測定装置(20)と、
前記試験用アンテナから前記被試験対象である移動端末(100)に対して試験信号を送信し、該試験信号を受信した前記移動端末から送信される被測定信号を前記試験用アンテナで受信させ、該受信された被測定信号に基づき前記移動端末に関する特定の測定項目を測定させる測定動作を、前記複数の方位のそれぞれに対応する各測定ポジションで実施させるように前記模擬測定装置を制御する測定制御手段(10)と、
を有する移動端末試験装置における移動端末試験方法であって、
前記特定の測定項目の測定中、測定が終了した前記測定ポジションから次に測定を行う前記測定ポジションまでを単位移動角度として前記ポジショナを移動させる移動制御ステップ(S3)と、
前記移動制御ステップで前記ポジショナを移動させる際、前記駆動モータの回転速度を前記ポジショナの前記単位移動角度の移動に要する時間を短縮する回転速度に制御する回転速度制御ステップ(S20)と、
を有することを特徴とする移動端末試験方法。
異なる複数の前記単位移動角度に対応して、前記ポジショナの前記各単位移動角度の移動時間を最短にし得る前記駆動モータの回転速度を格納した回転速度管理テーブル(16b)を用意するステップ(S11)をさらに有し、
前記回転速度制御ステップは、
前記単位移動角度を設定する設定ステップ(S11)と、
前記設定ステップで設定された前記単位移動角度で前記ポジショナを移動させる際、前記回転速度管理テーブルに前記設定された前記単位移動角度に対応して格納されている回転速度で前記駆動モータを回転駆動する駆動ステップ(S12、S13)と、
を含むことを特徴とする請求項6に記載の移動端末試験方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る移動端末試験装置及びこれを用いた移動端末試験方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0028】
まず、本発明の一実施形態に係る測定装置1の構成について、
図1〜
図4を参照して説明する。測定装置1は、本発明の移動端末試験装置を構成する。本実施形態に係る測定装置1は、全体として
図1に示すような外観構造を有し、かつ、
図2に示すような機能ブロックにより構成されている。
図1、
図2において、OTAチャンバ50についてはその側面から透視した状態における各構成要素の配置態様を示している。
【0029】
測定装置1は、例えば、
図1に示す構造を有するラック構造体90の各ラック90aに前述したそれぞれの構成要素を載置した態様で運用される。
図1においては、ラック構造体90の各ラック90aに、それぞれ、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、OTAチャンバ50を載置した例を示している。
【0030】
図2に示すように、測定装置1は、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、信号処理部23、OTAチャンバ50を有している。
【0031】
これらの構成について、OTAチャンバ50から先に説明する。
図1、
図2に示すように、OTAチャンバ50は、例えば、長方体形状の内部空間51を有する金属製の筐体本体部52により構成され、内部空間51に、アンテナ110を有するDUT100、試験用アンテナ5、リフレクタ7、DUT走査機構56を収容している。
【0032】
OTAチャンバ50の内面全域、つまり、筐体本体部52の底面52a、側面52b及び上面52c全面には、電波吸収体55が貼り付けられている。これにより、OTAチャンバ50は、内部空間51内に配置される各要素(DUT100、試験用アンテナ5、リフレクタ7、DUT走査機構56)が外部からの電波の侵入及び外部への電波の放射を規制する機能が強化されている。このように、OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有する電波暗箱を実現している。本実施形態で用いる電波暗箱は、例えば、Anechoic型のものである。
【0033】
OTAチャンバ50の内部空間51に収容されるもののうち、DUT100は、例えばスマートフォンなどの無線端末である。DUT100の通信規格としては、セルラ(LTE、LTE−A、W−CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV−DO、TD−SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びデジタル放送(DVB−H、ISDB−T等)が挙げられる。また、DUT100は、IEEE802.11adや5Gセルラ等に対応したミリ波帯の無線信号を送受信する無線端末であってもよい。
【0034】
本実施形態において、DUT100のアンテナ110は、例えば、LTE、あるいは5G NRの通信規格に準拠したそれぞれの規定の周波数帯の無線信号を使用するものである。DUT100は、本発明における被試験対象、移動端末を構成する。
【0035】
OTAチャンバ50の内部空間51において、DUT100は、DUT走査機構56の一部機構により保持されている。DUT走査機構56は、OTAチャンバ50の内部空間51における筐体本体部52の底面52aに、鉛直方向に延在して設けられている。DUT走査機構56は、性能試験を行うDUT100を保持しつつ、該DUT100に対する後述の全球面走査(
図5〜
図6参照)を実施するものである。
【0036】
DUT走査機構56は、
図1に示すように、ターンテーブル56a、支柱部材56b、DUT載置部56c、駆動部56eを有している。ターンテーブル56aは、円盤形状を有する板部材で構成され、アジマス軸(鉛直方向の回転軸)を中心に回転する構成(
図3、
図7参照)を有する。支柱部材56bは、ターンテーブル56aの板面上に垂直方向に延びるように配置される柱状部材により構成されている。
【0037】
DUT載置部56cは、支柱部材56bの上端近傍にターンテーブル56aと平行に配置され、DUT100を載置する載置トレイ56dを有している。DUT載置部56cは、ロール軸(水平方向の回転軸)を中心に回転可能な構成(
図3、
図7参照)を有している。
【0038】
駆動部56eは、例えば、
図3に示すように、アジマス軸を回転駆動する駆動モータ56fと、ロール軸を回転駆動する駆動モータ56gと、を有する。駆動部56eは、駆動モータ56fと駆動モータ56gとによって、アジマス軸とロール軸とをそれぞれの軸中心に回転させる機構を備えた2軸ポジショナにより構成されている。このように、駆動部56eは、載置トレイ56dに載置されたDUT100を、載置トレイ56dごと2軸(アジマス軸とロール軸)方向に回転させることができるものである。以下、駆動部56eを含むDUT走査機構56全体を2軸ポジショナと称することもある(
図3参照)。駆動部56e、駆動モータ56f、56gは、それぞれ、本発明における第1の駆動モータ、第2の駆動モータを構成する。
【0039】
DUT走査機構(2軸ポジショナ)56は、載置トレイ56dに載置(保持)されているDUT100を、例えば、球体(
図5の球体B参照)の中心O1に配置したと仮定し、球体表面の全ての方位(予め設定された複数の方位)に対してアンテナ110が向く状態にDUT100の姿勢を順次変化させる全球面走査を行うものである。DUT走査機構56におけるDUT走査の制御は、後述するDUT走査制御部16よって行われる。DUT走査機構56は、本発明におけるポジショナを構成する。
【0040】
試験用アンテナ5は、OTAチャンバ50の筐体本体部52の底面52aの所要位置に、適宜な保持具(図示せず)を用いて取り付けられている。試験用アンテナ5の取り付け位置は、底面52aに設けられた開口67aを介してリフレクタ7から見透しが確保できる位置となっている。試験用アンテナ5は、DUT100のアンテナ110と同じ規定(NR規格)の周波数帯の無線信号を使用するものである。
【0041】
試験用アンテナ5は、OTAチャンバ50内でのDUT100のNRに関連する測定に際し、NRシステムシミュレータ20からDUT100に対する試験信号の送信、及び該試験信号を受信したDUT100から送信される被測定信号の受信を行う。試験用アンテナ5は、その受光面がリフレクタ7の焦点位置Fとなるように配置されている。なお、試験用アンテナ5をその受光面がDUT100に向き適切な受光ができるように配置できる場合には、リフレクタ7は必ずしも必要とされない。
【0042】
リフレクタ7は、OTAチャンバ50の側面52bの所要位置にリフレクタ保持具58を用いて取り付けられている。リフレクタ7は、DUT100のアンテナ110により送受信される無線信号(試験信号、及び被測定信号)を、試験用アンテナ5の受光面へと折り返す電波経路を実現する。
【0043】
次に、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20の構成について説明する。
【0044】
図2に示すように、統合制御装置10は、NRシステムシミュレータ20に対して、例えばイーサネット(登録商標)等のネットワーク19を介して相互に通信可能に接続されている。また、統合制御装置10は、OTAチャンバ50における被制御系要素、例えば、DUT走査制御部16にもネットワーク19を介して接続されている。
【0045】
統合制御装置10は、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20、及びDUT走査制御部16を統括的に制御するものであり、例えば、パーソナル・コンピュータ(PC)により構成される。なお、DUT走査制御部16は、OTAチャンバ50に付随して独立に設けられる(
図2参照)他、
図3に示すように、統合制御装置10に設けられていてもよい。以下では、統合制御装置10が
図3に示す構成を有するものとして説明する。統合制御装置10は、本発明の測定制御手段を構成している。
【0046】
図3に示すように、統合制御装置10は、制御部11、操作部12、表示部13を有している。制御部11は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、測定装置1の機能を実現するための所定の情報処理や、NRシステムシミュレータ20、及びDUT走査制御部16を対象とする統括的な制御を行うCPU(Central Processing Unit)11aと、CPU11aを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)11bと、CPU11aが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)11c、外部I/F部11d、入出力ポート(図示せず)等を有する。
【0047】
外部I/F部11dは、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20、及びDUT走査機構(2軸ポジショナ)56の駆動部56eとそれぞれ通信可能に接続されている。入出力ポートには、操作部12、表示部13が接続されている。操作部12は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部13は、上記各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
【0048】
上述したコンピュータ装置は、CPU11aがRAM11cを作業領域としてROM11bに格納されたプログラムを実行することにより制御部11として機能する。制御部11は、
図3に示すように、呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT走査制御部16、信号解析制御部17、設定制御部18a、回転速度管理制御部18bを有している。呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT走査制御部16、信号解析制御部17、設定制御部18a、回転速度管理制御部18bも、CPU11aがRAM11cの作業領域でROM11bに格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
【0049】
呼接続制御部14は、NRシステムシミュレータ20、信号処理部23を介して試験用アンテナ5を駆動してDUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信させることにより、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に呼(無線信号を送受信可能な状態)を確立する制御を行う。
【0050】
信号送受信制御部15は、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザによりDUT100の送信及び受信特性の測定に係る所定の測定開始操作が行われことを契機に、呼接続制御による呼の確立後のNRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信し、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ5を介して試験信号を送信させる制御、及び信号受信指令を送信し、試験用アンテナ5を介して被測定信号を受信させる制御を行う。
【0051】
DUT走査制御部16は、DUT走査機構56の駆動モータ56f及び56gを駆動制御することにより、DUT載置部56cの載置トレイ56dに載置されているDUT100の全球面走査を行わせるものである。
【0052】
ここで、DUT100の全球面走査について
図5〜
図7を参照して説明する。一般に、DUT100が放射する信号の電力測定(放射電力測定)に関しては、等価等方輻射電力(EIRP)を測定する方法と、全放射電力(TRP)を測定する方法が知られている。EIRPは、例えば、
図5(a)に示す球座標系(γ,θ,φ)の各測定点(θ,φ)で測定した電力値である。これに対し、TRPは、上記球座標系(γ,θ,φ)の全ての方位、すなわち、DUT100の全球面走査の中心O1(以下、基準点)から等距離にある球面上の予め規定した複数の角度標本点PS(
図5(b)参照)でのEIRPを測定し、その総和を求めたものである。
【0053】
DUT100の全球面走査とは、載置トレイ56dに載置されているDUT100を、例えば、球体B(
図5参照)の中心O1を基準(中心)に、球体Bの表面の全ての方位、つまり角度標本点PSに対してアンテナ110が向く状態にDUT100の姿勢を順次変化させる制御動作のことをいう。
【0054】
DUT100の全球面走査に合わせて各角度標本点PSでのEIRPを測定するため、
図6に示すように、上記球座標系(γ,θ,φ)系における特定の角度標本点PS(1点)の位置には、
図6に示すように、DUT100が放射する信号を受信するための試験用アンテナ5が配置されている。
【0055】
全球面走査において、DUT100は、アンテナ110のアンテナ面が試験用アンテナ5の受光面に順次に向くように駆動(走査)される。これにより、試験用アンテナ5は、全球面走査が行われるDUT100のアンテナ110との間でTRP測定のための信号の送受信を行うことが可能となる。ここで送受信される信号は、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ5を介して送信される試験信号と、該試験信号を受信したDUT100がアンテナ110より送信する信号であって、試験用アンテナ5を介して受信される被測定信号である。
【0056】
DUT100の全球面走査は、DUT走査機構56を構成する駆動モータ56f及び56gによりアジマス軸及びロール軸を回転駆動することにより実現される。測定装置1におけるDUT100の全球面走査に係るDUT走査機構(2軸ポジショナ)56のアジマス軸及びロール軸周りの回転駆動イメージを
図7に示している。
図7に示すように、本実施形態に係る測定装置1のDUT走査機構56では、アジマス軸をその軸中心にφの角度方向に例えば180度の範囲内で移動させる一方で、ロール軸をその軸中心にθの角度方向に例えば360度の範囲内で移動させることによって、DUT100をその中心O1を基準に全方位向けに回転させる全球面走査(
図5、
図6参照)を行うことができる。
【0057】
図7において、φ0は、アジマス軸の回転方向(φの角度方向)の全移動角度(180度)中の単位移動角度を示し、θ0は、ロール軸の回転方向(θの角度方向)の全移動角度(360度)中の単位移動角度(以下、ステップ角度)を示している。φ0、θ0は、例えば、予め規定された複数の異なる値のステップ角度のうちから所望の値のステップ角度を選択的に設定できるようになっている。設定されたφ0、θ0は、
図5(b)に示す隣り合う角度標本点PS間の角度を規定し、結果として角度標本点PS、つまり測定ポジションの数を規定するものとなる。
【0058】
DUT走査制御部16によるDUT100の全球面走査の制御を実現するために、例えば、ROM11bには、予め、DUT走査制御テーブル16aが用意されている。DUT走査制御テーブル16aは、例えば、DUT100の全球面走査に係る球座標系(
図5(a)参照)における各角度標本点PS(
図5(b)参照)の座標、各角度標本点PSの座標に対応付けられた駆動モータ56f及び56gの駆動データ、及び各角度標本点PSでの停止時間(測定時間)などが関係付けられた制御データを格納している。駆動モータ56f及び56gが例えばステッピングモータの場合には、上記駆動データとして例えば駆動パルス数が格納される。
【0059】
ROM11bには、DUT走査機構56の駆動モータ56f、及び駆動モータ56gの回転速度を管理するための回転速度管理テーブル16bがさらに用意されている。回転速度管理テーブル16bの構成例を
図8に示している。この回転速度管理テーブル16bは、ロール軸を回転駆動する駆動モータ56gの回転速度、より詳しくは、DUT走査機構56をステップ角度ごとに回転駆動するときの駆動モータ56gの回転速度を管理するものである。
【0060】
ここでステップ角度とは、
図5を参照して説明すると、全球面走査に係る球座標系(
図5(a)参照)における隣り合う角度標本点PS(
図5(b)参照)の間の角度を表している。角度標本点PSは、DUT100の測定ポジションに対応するものであり、測定項目、測定条件などに応じてその数を適宜可変設定できるようになっている。つまり、単位ステップ角度は、隣り合う測定ポジション間の角度を規定したものであり、測定項目、測定条件などに応じて可変し得るものである。本実施形態に係るDUT走査機構56については、駆動モータ56gによるロール軸のステップ角度θ(
図7参照)について、例えば、5度(deg)、10度、15度、30度、90度、180度、360度の値を選択的に設定できるようになっている。
【0061】
図8に示す回転速度管理テーブル16bでは、ロール軸のステップ角度(
図7におけるθ0に相当)に関して5度、10度、15度、30度の各値が設定され、該各ステップ角度に対応して、それぞれ、3、4、4、7という値の回転速度(単位はrpm)が格納されている。これらの回転速度(設定値)は、それぞれ対応するステップ角度でロール軸周りにDUT走査機構56を移動させる際に、DUT走査機構56の当該ステップ角度の移動に要する時間を最短とするために最適な駆動モータ56gの回転速度であって、いずれも、駆動モータ56gの最大回転速度(
図9の表における15rpm)よりも小さい値となっている。
【0062】
図8においては、ロール軸の各ステップ角度θ(例えば、5度、10度、15度、30度)に対応するDUT走査機構56の各ステップ区間での移動時間を最短とし得る駆動モータ56gの回転速度を管理する回転速度管理テーブル16bの例を挙げている。
【0063】
これに限らず、本発明では、回転速度管理テーブル16b(第1の回転速度管理テーブル)に代わり、アジマス軸の各ステップ角度(
図7のφに相当)、例えば、5度、10度、15度、30度に対応してDUT走査機構56の各ステップ区間での移動時間を最短とし得る駆動モータ56fの回転速度を管理する第2の回転速度管理テーブルを設けてもよい。
【0064】
さらに本発明では、第1の回転速度管理テーブル及び第2の回転速度管理テーブルに代わり、ロール軸の各ステップ角度θ、及びアジマス軸の各ステップ角度φにそれぞれ対応してDUT走査機構56の各ステップ区間での移動時間を最短とし得る駆動モータ56g、及び駆動モータ56fの回転速度を管理する第2の回転速度管理テーブルを採用してもよい。
【0065】
DUT走査制御部16は、DUT走査制御テーブル16aをRAM11cの作業領域に展開し、該DUT走査制御テーブル16aに記憶されている制御データに基づき、DUT走査機構56の駆動モータ56f及び56gを駆動制御する。これにより、DUT載置部56cに載置されるDUT100の全球面走査が行われる。全球面走査では、球座標系における角度標本点PSごとにDUT100のアンテナ110のアンテナ面が該角度標本点PSに向いて規定の時間(上記停止時間)だけ停止し、その後、次の角度標本点PSに移動する動作(DUT100の走査)が、全ての角度標本点PSを対象にして順次実施される。
【0066】
また、DUT走査制御部16は、DUT走査制御テーブル16aを用いたDUT走査機構56の全球面走査に合わせて、後述する回転速度管理制御部18bの制御下で、回転速度管理テーブル16bを用い、ロール軸の各ステップ角度θを対象とするDUT走査機構56の移動に係る駆動モータ56gの回転速度制御を実施する。
図8に示す回転速度管理テーブル16bのデータ構成例によれば、ステップ角度θとして、例えば、5度、10度、15度、30度が設定されたときには、DUT走査機構56の当該ステップ角度θの移動に際し、駆動モータ56gを、それぞれ、3、4、4、7の回転速度(単位はrpm)とする制御が実施される。回転速度制御については、後で
図12を参照して詳述する。
【0067】
信号解析制御部17は、DUT100の全球面走査時に、試験用アンテナ5が受信したNRに関連する無線信号を、NRシステムシミュレータ20を介して取り込み、特定の測定項目の信号として解析処理(測定処理)するものである。
【0068】
設定制御部18aは、DUT走査制御部16による回転速度管理テーブル16bを用いた駆動モータ56fの回転速度制御を実行するのに必要な各種の情報を設定する機能部である。設定制御部18aは、特定の測定項目の測定に際し、例えば、5度、10度、15度、30度といった複数の異なる値のステップ角度(θ、φ)の中から、所望の値のステップ角度を選択的に設定できるようになっている。設定制御部18aは、本発明の設定手段を構成している。
【0069】
回転速度管理制御部18bは、例えば、TRP測定時、DUT走査機構56の全球面走査に合わせて、回転速度管理テーブル16bを用い、ロール軸の各ステップ角度θを対象とするDUT走査機構56の移動に係る駆動モータ56fの回転速度制御をDUT走査制御部16と協働して実施する。回転速度管理制御部18bは、本発明の回転速度制御手段を構成している。
【0070】
NRシステムシミュレータ20は、
図4に示すように、信号発生部21a、信号測定部21b、送受信部21c、制御部21d、操作部21e、表示部22fを有している。NRシステムシミュレータ20は、本発明の模擬測定装置を構成する。
【0071】
信号発生部21aは、試験信号の元となる信号(ベースバンド信号)を発生する。送受信部21cは、信号発生部21aが発生した信号から各通信規格の周波数に対応した試験信号を生成して信号処理部23に送出するとともに、信号処理部23から送られてくる被測定信号からベースバンド信号を復元するRF部の機能を果たす。信号測定部21bは、送受信部21cで復元されたベースバンド信号に基づいて被測定信号の測定処理を行う。
【0072】
制御部21dは、信号発生部21a、信号測定部21b、送受信部21c、操作部21e、表示部22fの各機能部を統括的に制御する。操作部21eは、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部22fは、各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
【0073】
上述した構成を有する測定装置1では、OTAチャンバ50の内部空間51内で、DUT走査機構(2軸ポジショナ)56の載置トレイ56dにDUT100を載置し、該DUT100を、載置トレイ56dごと2軸(アジマス軸とロール軸)方向に予め設定されたステップ角度ずつ移動(回転)させながら、各測定ポジションでのEIRPの測定、全ての測定ポジションに亘るTRPの測定など、特定の測定項目の測定を行うことができる。
【0074】
次に、本実施形態に係る測定装置1の統合制御装置10によるDUT100の測定制御について説明する。測定装置1は、本発明の移動端末試験方法を適用して
図11に示すフローチャートに沿ったDUT100の特定の項目(TRPなど)の測定制御を実施する。
【0075】
測定装置1において、特定項目の測定を行うためには、まず、OTAチャンバ50のDUT走査機構(2軸ポジショナ)56のDUT載置部56cに試験対象となるDUT100をセットしたうえで、操作部12より測定パラメータの設定を行う(ステップS1)。ここで設定するパラメータとしてはまず測定項目が挙げられる。設定項目が、全球面走査を必要とするTRP等の放射電力特性の場合には、さらにステップ角度を設定する必要がある。
【0076】
測定パラメータの設定終了後、統合制御装置10は、操作部12において測定開始操作が行われたか否かを監視する(ステップS2)。ここで測定開始操作が行われると(ステップS2でYES)、統合制御装置10の制御部11において、DUT走査制御部16は、ステップS1で設定された測定パラメータ(例えば、ステップ角度)に従って、2軸ポジショナを、
図5(a)に示す球座標系(γ,θ,φ)における初期測定ポジションに対応する(θ,φ)の角度位置まで回転(移動)させるように駆動モータ56f、56gを回転駆動する(ステップS3)。
【0077】
引き続き、制御部11は、NRシステムシミュレータ20を駆動制御し、ステップS3における2軸ポジショナの角度位置に対応する測定ポジション(初回の測定は、初期測定ポジション)での予め設定(指定)されている測定項目(TRP測定にあっては、当該測定ポジションでのEIRP)の測定を行わせるように制御する(ステップS4)。
【0078】
なお、ステップS4での測定処理を行うには、呼接続制御部14の制御によって、事前に、NRシステムシミュレータ20とDUT100間の呼接続がなされていることが前提となる。呼接続状態において、信号送受信制御部15は、NRシステムシミュレータ20から試験信号を送信させ、信号解析制御部17が、試験信号の受信に応答してDUT100が応答送信する被測定信号を受信して、指定測定項目の解析処理(測定処理)を実施する。
【0079】
ステップS4における現在の測定ポジションでの指定測定項目の測定が終了すると、次いで、DUT走査制御部16は、残りの測定ポジションが存在するか否かを判定する(ステップS5)。
【0080】
ここで残りの測定ポジションが存在すると判定された場合(ステップS5でYES)、DUT走査制御部16は、2軸ポジショナを、球座標系(γ,θ,φ)における次の測定ポジションに対応する(θ,φ)の角度位置まで移動させるように駆動モータ56f、56gを回転駆動する(ステップS3)。ここで2軸ポジショナを移動させる角度(前回の測定ポジションから次の測定ポジションまでの角度)は、ステップS1で設定を受け付けたステップ角度に相当する。
【0081】
ステップS3での2軸ポジショナのステップ角度の移動に合わせ、回転速度管理制御部18bは、ステップS1で設定されたステップ角度に対応して回転速度管理テーブル16bに格納されている回転速度で駆動モータ56f、56gを回転駆動させる制御を行う(
図12参照)。
【0082】
2軸ポジショナのステップ角度の移動が終了して次の測定ポジションで停止すると、制御部11は、NRシステムシミュレータ20を駆動制御し、ステップS3における2軸ポジショナの角度位置に対応する次の(2回目の)測定ポジションでの指定測定項目の測定を行わせるように制御する(ステップS4)。
【0083】
その後、ステップS5で残りの測定ポジションが存在すると判定されている(ステップS5でYES)間、DUT走査制御部16、信号解析制御部17は、ステップS3で2軸ポジショナを次の測定ポジションに対応する(θ,φ)の角度位置まで上記ステップ角度で回転させ、かつステップS4でその測定ポジションでの指定測定項目を測定させる制御を、測定ポジションを更新させつつ繰り返し実施する。いずれの回の2軸ポジショナの上記ステップ角度の移動においても、回転速度管理制御部18bは、ステップS1で設定されたステップ角度に対応して回転速度管理テーブル16bに格納されている回転速度で駆動モータ56f、56gを回転駆動させる制御を行うようになっている。
【0084】
測定ポジションを更新させつつ測定を繰り返している間、ステップS5において残りの測定ポジションが存在しないと判定されると(ステップS5でNO)信号解析制御部17は、ステップS4での最初の測定ポジションから最後の測定ポジションまでの各測定ポジションの測定結果(測定データ:TRP測定においてはEIRP)を集計して、その総和を求め、指定測定項目の測定結果として保持したうえで一連の測定制御動作を終了する。
【0085】
次に、本実施形態に係る測定装置1の統合制御装置10による2軸ポジショナ56の単位ステップ角度移動時の駆動モータ56f、56gの回転速度制御動作について、
図12に示すフローチャートを参照して説明する。
図12においては、特に、駆動モータ56gを駆動する場合について説明する。
【0086】
この回転速度制御を行うためには、事前に、回転速度管理テーブル16b(
図8参照)を用意しておく必要がある(ステップS11)。
図8に示すように、回転速度管理テーブル16bには、
図11のステップS1で設定可能な各ステップ角度(5度、10度、15度、30度)にそれぞれ対応して、2軸ポジショナの当該各ステップ角度の移動時間を最短とし得る駆動モータ56gの回転速度が格納されている。
【0087】
回転速度管理テーブル16bを生成するには、実際の測定を模してあるステップ角度、駆動モータ56gの回転速度を設定したうえで、2軸ポジショナを、各測定ポジション間で設定された回転速度で駆動モータ56gを回転駆動しつつ、最初の測定ポジションから最後の測定ポジションに至るまで、順次、移動させる疑似測定動作を実施し、この疑似測定動作にかかるトータルの時間を計測する作業が必要となる。このような疑似測定動作は、ステップ角度ごとに、駆動モータ56gの回転速度を変えてそれぞれ複数回実施することが好ましい。
【0088】
図9は、上記作業での計測結果から得られる、測定装置1の2軸ポジショナの単位ステップ角度ごとの移動に要する時間と駆動モータ56gの回転速度の関係をデータ形式で示したものであり、
図10は上記関係をグラフ化して示したものである。
【0089】
図9、
図10に示す、2軸ポジショナの単位ステップ角度ごとの移動に要する時間と駆動モータ56gの回転速度の関係によれば、ステップ角度を5度とし、駆動モータ56gの回転速度を1、2、3、4、5と変えたときにかかる2軸ポジショナのトータルの移動時間(単位:分)については、それぞれ、47.83、32.88、31.71、34.30、36.34が得られている。
【0090】
また、ステップ角度を10度とし、駆動モータ56gの回転速度を1、2、3、4、5と変えたときにかかる2軸ポジショナのトータルの移動時間(単位:分)は、それぞれ、23.32、14.17、12.35、11.92、12.65である。
【0091】
また、ステップ角度を15度とし、駆動モータ56gの回転速度を1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15と変えたときにかかる2軸ポジショナのトータルの移動時間(単位:分(min))は、それぞれ、15.89、9.44、7.67、6.91、6.92、7.33、7.63、7.91、8.16、8.22、8.59、8.79、8.98、9.13、9.30である。
【0092】
さらに、ステップ角度を30度とし、駆動モータ56gの回転速度を1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15と変えたときにかかる2軸ポジショナのトータルの移動時間(単位:分)については、それぞれ、8.68、4.91、3.77、3.28、3.01、2.94、2.93、3.02、3.12、3.21,3.28、3.35、3.39、3.50、3.56が得られている。
【0093】
図9、
図10に示す疑似測定動作に係る2軸ポジショナのトータルの移動時間の集計結果から、2軸ポジショナのトータルの移動時間を最短と(最適化)するには、ステップ角度5度の設定時には駆動モータ56gの回転速度を3とすればよいことが分かる。
【0094】
同様に、ステップ角度10度、15度、30度の設定時に2軸ポジショナのトータルの移動時間を最短とするには、駆動モータ56gの回転速度をそれぞれ、4、4、7とすればよいことが分かる。
【0095】
図8に示す回転速度管理テーブル16bは、
図9、
図10に示す疑似測定動作に係る2軸ポジショナのトータルの移動時間の集計結果に基づき生成されたものであり、ステップ角度5度、10度、15度、30度にそれぞれ対応して、駆動モータ56gの回転速度(単位:rpm)の最適値として3、4、4、7が格納されている。いずれの値も、駆動モータ56gの最大回転速度(15rpm:
図9参照)より小さい値となっている。
【0096】
本実施形態に係る測定装置1では、上記ステップS11において、上記データ構成を有する回転速度管理テーブル16bを、例えば、RAM11cに記憶しておく。この状態で、統合制御装置10の回転速度管理制御部18bは、
図11のステップS3での2軸ポジショナの移動制御に合わせて、
図12に示すステップS12以降での駆動モータ56gの回転速度制御(ステップS20)を行うことができる。
【0097】
ステップS20での回転速度制御を開始するために、回転速度管理制御部18bは、
図11に示す測定動作制御中、ステップS2、あるいはステップS5でそれぞれYESの判定がなされたか否かを判定する(ステップS12)。すなわち、回転速度管理制御部18bは、
図11のステップS2で測定開始操作が行われたか、同ステップS5で残りの測定ポジションが存在すると判定された場合(ステップS12でYES)、ステップS20での回転速度制御に移行する。
【0098】
ステップS20での回転速度制御において、回転速度管理制御部18bはまず、
図11のステップS1で設定されたステップ角度を読み込む(ステップS13)。
【0099】
次いで、回転速度管理制御部18bは、ステップS13で読み込んだステップ角度をキーに、該ステップ角度に対応して回転速度管理テーブル16bに格納されている回転速度データを読み込む(ステップS14)。さらに回転速度管理制御部18bは、ステップS14で読み込んだ回転速度データに対応する回転速度で駆動モータ56gを回転駆動する(ステップS15)。
【0100】
引き続き回転速度管理制御部18bは、2軸ポジショナの移動角度がステップS1(
図11参照)で設定されたステップ角度に達したか否を判定する(ステップS16)。ここで2軸ポジショナの移動角度が設定されたステップ角度に達していないと判定されると(ステップS16でNO)、回転速度管理制御部18bはステップS15における駆動モータ56gの回転駆動を継続する。
【0101】
これに対し、2軸ポジショナの移動角度が設定されたステップ角度に達したと判定された場合(ステップS16でYES)、回転速度管理制御部18bは
図11におけるステップS4以降の処理を継続する。
【0102】
図12に示す駆動モータ56gの回転速度制御(ステップS20)は、残り測定位置がなくなるまで(
図11のステップS5でNOと判定されるまで)、ステップ角度区間ごとに実施される。
【0103】
ステップS20における駆動モータ56gの回転速度制御では、例えば、5度、10度、15度、30度のいずれのステップ角度が設定された場合も、その設定されたステップ角度の2軸ポジショナの移動に際し、該ステップ角度に対応して回転速度管理テーブル16bに格納されている回転速度で駆動モータ56gが回転駆動される(ステップS13参照)。
【0104】
回転速度管理テーブル16bに格納されている回転速度は、いずれのステップ角度についても、駆動モータ56gの最大回転速度よりも小さく、2軸ポジショナステップ角度の移動に要する時間を最短とするために最適となる回転速度(最適値:
図9参照)となっている。
【0105】
ステップ角度の移動区間を、最大回転速度ではなく、最適値の回転速度で駆動モータ56gを回転駆動して2軸ポジショナを移動させる本実施形態に係る測定装置1では、最大回転速度で回転駆動しても必ずしも最短時間とならない、という問題を解消することができる。
【0106】
この点について、
図13を参照して説明する。
図13は、
図12に示す駆動モータ56gの回転速度制御に基づく2軸ポジショナのステップ角度(特定の1区間)の移動時間と回転速度の関係(特性)を示す図である。
図13において、実線は、本実施形態に係る回転駆動制御(
図12のステップS20参照)を適用したときの特性を示し、点線は、本実施形態に係る回転駆動制御を適用せず、最大の回転速度で回転駆動したときの特性を示している。
【0107】
図13に示すように、駆動モータ56gを最大の回転速度で回転駆動したときには、回転速度の立ち上がりが早いものの、その分制動(減速)制御にも時間がかかり、必ずしも最短時間を達成することはできなかった(
図9も併せ参照)。これに対して、回転速度管理テーブル16bを用い、各ステップ角度に応じた最適値で駆動モータ56gを回転駆動する本実施形態によれば、回転速度の立ち上がりが緩いものの、制動制御も容易であることから、結果として、最大回転速度で回転駆動する場合に比べて短時間での移動を実現できる(
図9の網掛け部分も併せ参照)。
【0108】
なお、上記実施形態(
図12参照)では、回転速度管理テーブル16bを用いて、2軸ポジショナの1ステップ角度移動時に駆動モータ56gの回転速度を最適化する回転速度制御を例に挙げて説明した、本発明はこれに限らず、同様の回転速度制御を駆動モータ56f、あるいは、駆動モータ56f及び56gの双方に適用する構成としてもよい。
【0109】
前者の構成については、回転速度管理テーブル16b(第1の回転速度管理テーブル)に換えて、アジマス軸の各ステップ角度(
図7のφに相当)、例えば、5度、10度、15度、30度に対応して2軸ポジショナ56の各ステップ区間での移動時間を最短とし得る駆動モータ56fの回転速度(最適値)を管理する第2の回転速度管理テーブルを設け、2軸ポジショナのステップ角度の移動の際に駆動モータ56fを最適値で回転駆動させるように制御すればよい。
【0110】
また、後者の構成については、第1の回転速度管理テーブル及び第2の回転速度管理テーブルに代わり、ロール軸の各ステップ角度θ、及びアジマス軸の各ステップ角度φにそれぞれ対応して2軸ポジショナ56の各ステップ区間での移動時間を最短とし得る駆動モータ56g、及び駆動モータ56fの回転速度(最適値)を管理する第2の回転速度管理テーブルを採用すればよい。かかる構成において、回転速度管理制御部18bは、2軸ポジショナのθ及びφ方向いずれのステップ角度の移動に際しても駆動モータ56f、56gをそれぞれ最適値で回転駆動させることが可能となる。
【0111】
上述したように、本実施形態に係る測定装置1は、OTAチャンバ50の内部空間51内に設けられ、駆動モータ56f、56gによってそれぞれ回転駆動可能なアジマス軸及びロール軸を有し、DUT100を、球座標系の中心を基準点として該球座標系の予め設定された複数の方位を順次向くように回転させる2軸ポジショナ(DUT走査機構)56と、内部空間51内の試験用アンテナ5に接続されるNRシステムシミュレータ20と、試験用アンテナ5からDUT100に対して試験信号を送信し、該試験信号を受信したDUT100から送信される被測定信号を試験用アンテナ5で受信させ、該受信された被測定信号に基づきDUT100に関するTRP等の測定項目を測定させる測定動作を、複数の方位のそれぞれに対応する各測定ポジションで実施させるようにNRシステムシミュレータ20を制御する統合制御装置10と、TRP等の測定項目の測定中、測定が終了した測定ポジションから次に測定を行う測定ポジションまでをステップ角度として2軸ポジショナ56を移動させる際、駆動モータ56gの回転速度を2軸ポジショナ56のステップ角度の移動に要する時間を短縮する回転速度に制御する回転速度管理制御部18bと、を有して構成されている。
【0112】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、駆動モータ56gの回転速度を制御することにより2軸ポジショナ56のステップ角度の移動時間を短縮することができ、ステップ角度の移動中に常に最大速度で駆動モータ56gを回転駆動する場合に比べて、設定した複数の測定ポジションに亘るDUT100のTRP等の項目の総測定時間を短縮することが可能になる。
【0113】
また、本実施形態に係る測定装置1は、異なる複数のステップ角度に対応して、2軸ポジショナ56の各ステップ角度の移動時間を最短にし得る駆動モータ56gの回転速度を格納した回転速度管理テーブル16bと、ステップ角度を設定する設定制御部18aと、をさらに有し、回転速度管理制御部18bは、設定制御部18aにより設定されたステップ角度の2軸ポジショナ56の移動に際し、回転速度管理テーブル16bに上記設定されたステップ角度に対応して格納されている回転速度で駆動モータ56gを回転駆動する構成を有している。
【0114】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、2軸ポジショナ56のステップ角度の移動時間を最短とする駆動モータ56gの回転速度の最適化を、回転速度管理テーブル16bを用いて容易に実現することができる。
【0115】
また、本実施形態に係る測定装置1において、2軸ポジショナ56は、アジマス軸を回転駆動する第1の駆動モータ56fと、ロール軸を回転駆動する第2の駆動モータ56gと、を有し、回転速度管理テーブル16bは、複数のステップ角度に対応して、2軸ポジショナ56の各ステップ角度の移動時間を最短にし得る駆動モータ56fの回転速度、または駆動モータ56gの回転速度、若しくは駆動モータ56fの回転速度、及び駆動モータ56gの回転速度の双方のいずれかを格納している構成である。
【0116】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、アジマス軸を回転駆動する駆動モータ56f、ロール軸を回転駆動する駆動モータ56gの回転速度を個々に最適化する運用の他、駆動モータ56f及び駆動モータ56g双方の回転速度を同時に最適化する運用もでき、いずれの運用においてもDUT100のTRPなどの測定項目のトータルな測定時間の短縮が可能となる。
【0117】
また、本実施形態に係る測定装置1において、統合制御装置10は、TRP(全球面放射電力)を測定させるようにNRシステムシミュレータ20を制御する構成である。この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、測定ポジション数が膨大な数となるTRP測定において、単位移動角度あたりの2軸ポジショナ56の移動時間の短縮効果の蓄積によって、全ての測定ポジションに亘る総測定時間を大幅に短縮することが可能になる。
【0118】
また、本実施形態に係る測定装置1において、回転速度管理制御部18bは、駆動モータ56gの回転速度を2軸ポジショナ56のステップ角度の移動に要する時間を最短にするために最適な回転速度に制御する構成である。この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、駆動モータ56gの回転速度の最適化により2軸ポジショナ56のステップ角度の移動時間を最短とすることができ、ステップ角度の移動中に常に最大速度で駆動モータ56gを回転駆動する場合に比べて、設定した複数の測定ポジションに亘るDUT100の特定の項目の総測定時間を短縮することが可能になる。
【0119】
また、本実施形態に係る移動端末試験方法は、OTAチャンバ50の内部空間51内に設けられ、駆動モータ56f、56gによってそれぞれ回転駆動可能なアジマス軸及びロール軸を有し、DUT100を、球座標系の中心を基準点として該球座標系の予め設定された複数の方位を順次向くように回転させる2軸ポジショナ(DUT走査機構)56と、内部空間51内の試験用アンテナ5に接続されるNRシステムシミュレータ20と、試験用アンテナ5からDUT100に対して試験信号を送信し、該試験信号を受信したDUT100から送信される被測定信号を試験用アンテナ5で受信させ、該受信された被測定信号に基づきDUT100に関するTRP等の測定項目を測定させる測定動作を、複数の方位のそれぞれに対応する各測定ポジションで実施させるようにNRシステムシミュレータ20を制御する統合制御装置10と、を有する測定装置1における移動端末試験方法であって、TRPなどの測定項目の測定中、測定が終了した測定ポジションから次に測定を行う測定ポジションまでをステップ角度として2軸ポジショナ56を移動させる移動制御ステップ(S3)と、移動制御ステップで2軸ポジショナ56を移動させる際、駆動モータ56gの回転速度を2軸ポジショナ56のステップ角度の移動に要する時間を短縮する回転速度に制御する回転速度制御ステップ(S20)と、を有する。
【0120】
この構成により、本実施形態に係る移動端末試験方法は、駆動モータ56gの回転速度を制御することにより2軸ポジショナ56のステップ角度の移動時間を短縮することができ、ステップ角度の移動中に常に最大速度で駆動モータ56gを回転駆動する場合に比べて、設定した複数の測定ポジションに亘るDUT100のTRP等の項目の総測定時間を短縮することが可能になる。
【0121】
また、本実施形態に係る移動端末試験方法は、異なる複数のステップ角度に対応して、2軸ポジショナ56の各ステップ角度の移動時間を最短にし得る駆動モータ56gの回転速度を格納した回転速度管理テーブル16bを用意するステップ(S11)をさらに有し、回転速度制御ステップは、ステップ角度を設定する設定ステップ(S11)と、設定ステップで設定されたステップ角度で2軸ポジショナ56を移動させる際、回転速度管理テーブル16bに上記設定されたステップ角度に対応して格納されている回転速度で駆動モータ56gを回転駆動する駆動ステップ(S12、S13)と、を含む構成である。
【0122】
この構成により、本実施形態に係る移動端末試験方法は、2軸ポジショナ56のステップ角度の移動時間を最短とする駆動モータ56gの回転速度の最適化を、回転速度管理テーブル16bを用いて容易に実現することができる。