【実施例】
【0028】
図1は、本発明の一実施例による診断システム構成の一例を示す。
【0029】
本実施例の診断システム1000は、送信側レンズ手段1010と、送信アンテナ1020と、受信側レンズ手段1030と、受信アンテナ1040と、送信モジュール1050と、受信モジュール1060と、周波数掃引手段1070と、計測情報解析手段1080と、移動制御手段1310と、制御手段1300と、計測情報記憶部1090とを備える。
【0030】
送信側レンズ手段1010は、建築外壁への送信波を集光(フォーカス)する。送信側レンズ手段1010は、好ましくは、外壁面(例えばタイル面)上における測定の空間分解能を1cm以下とすることができるような、誘電体レンズを用いる。
【0031】
送信アンテナ1020は、建物外壁に電波(本実施例では、マイクロ波・ミリ波)を送信する。
【0032】
受信側レンズ手段1030は、建築外壁からの反射波を集光(フォーカス)する。受信側レンズ手段1030は、好ましくは、測定の空間分解能を1cm以下とすることができるような、誘電体レンズである。
【0033】
受信アンテナ1040は、受信側レンズ手段1030で集光された反射波を受信する。なお、送信アンテナ1010に含まれていてもよい。
【0034】
また、送信アンテナと送信側レンズ手段、受信アンテナと受信側アンテナ手段の組み合わせの代わりに、広帯域特性かつE面で高い指向性を有する基板アンテナ(例えば、テーパードスロットルアンテナ)を使用することが可能である。基板アンテナを使用することにより多チャンネル化が容易となり、高空間分解特性を保有しつつ、測定空間も広げることができる。
【0035】
送信モジュール1040は、送信アンテナを介して送信するための電波を生成する。
【0036】
受信モジュール1060は、受信アンテナを介して受信した電波を受信して、増幅するとともに、A/D変換などを行い、解析/記憶できるような情報に加工する。ここで、受信したデータは、ファブリ・ペロー干渉に起因する受信電力の最大値と最小値の差に閾値を設定することにより判定を行う。本システムでは、送信周波数幅を、レーダ測定に必要な掃引周波数幅(本課題に対しては10GHz程度)よりも狭く(2〜3GHz程度)することができる。
【0037】
周波数掃引手段1070は、予め決められた周波数の範囲で掃引する。
【0038】
計測情報解析手段1080は、取得した情報などを基にして、建物外壁の剥離地点を判定したり、剥離した面積を推定したりする。
【0039】
計測情報記憶部1090は、測定位置情報と反射波の信号強度に関する情報とを紐付けて記憶する。また、計測したデータを解析するための情報を記憶してもよい。計測したデータを解析するための情報とは、例えば、剥離の有無を判定する閾値の設定などである。
【0040】
アンテナモジュール1100は、送信側レンズ手段1010と、送信アンテナ1020と、受信側レンズ手段1030と、受信アンテナ1040とから構成される。なお、別の実施例として、送信側レンズ手段1010と受信側レンズ手段1030とを一体化し、送信アンテナ1020と受信アンテナ1040とを一体化する場合は、サーキュレータ(図示せず)を送信モジュール1050および受信モジュール1060との間に入れる。
【0041】
制御手段1300は、各手段を制御するものであり、CPUなどのプロセッサでもよい。
【0042】
移動制御手段1310は、アンテナモジュール1100を移動させる。
【0043】
更に、本実施例の診断システム1000は、測定対象物3000を診断する。
【0044】
タイル3020(3020−1、3020−2、・・・)は、(有機系)接着剤3030を介して、建物外壁3010に付着している。ここで、本実施例において、接着剤が付されていない部分を、剥離(浮き)3040と称する。
【0045】
また、本実施例において、建物外壁3010の主要な材質はコンクリートであり、タイル3020の主要な材質は、セラミックであり、例えば、JIS A5209:2014に準じている。
【0046】
図2は、本発明の一実施例による診断方法における情報処理手順の一例を示す。
【0047】
S2010では、分解能を決める。
【0048】
S2020では、アンテナモジュールを移動させて、測定開始位置を決める。
【0049】
S2030では、測定対象位置に電波(マイクロ波)を送信する。
【0050】
S2040では、反射波を受信する。
【0051】
S2050では、測定位置と反射波の強度とを紐付けて記憶する。
【0052】
S2060では、アンテナモジュールの次の測定位置を移動する。もし、最終測定位置の場合は移動しなくてよい。
【0053】
S2070では、全ての位置での測定が終了したかを判定する。終了していない場合は、S2030に戻って、S2030−S2060を実行する。
【0054】
S2080では、外壁の剥離(浮き)を判定にあたり、必要な情報を取得する。例えば、受信電力の最大値と最小値の差、最大・最小となる送信周波数の値などである。
【0055】
S2090では、外壁の剥離(浮き)を判定する。本実施例における剥離(浮き)とは、
図1に示すように、建物外壁とタイルとの間に接着剤が付着していないことを意味する。
【0056】
S2100では、判定された外壁の剥離(浮き)の位置を基に、剥離した面積を計算すると共に、外壁全体に対する剥離した面積の割合を計算する。
【0057】
ここで、一般的には、外壁全体に対して、タイルを完全に敷き詰めて貼り付ける場合もあるが、
図3に示すように、隣り合うタイルの間で一定の間隔(隙間)をあけて配置することもある。
【0058】
かかる場合には、反射強度の違いから、剥離(浮き)であるか隙間であるかを判定してもよい。また、付加的な実施例として、位置情報(x,y)毎にタイルが貼り付けてあるか否かの情報を事前に入力しておくことで、隙間に相当する位置ではS2080の判定を保留するように構成されてもよい。
【0059】
図3(a)は、本発明の一実施例による診断方法における測定手順の一例を示す。ここで、本実施例の解像度は、例えば、縦横1cmの幅であり、ステップ幅が1cmすなわち(x,y)=(0,0)から(x,y)=(1,1)がなす正方形である。
【0060】
(x,y)=(0,0)の位置に送信電波が当たるように、アンテナモジュールの位置を移動する。
【0061】
電波を送信して、反射波の受信を確認する。
【0062】
本実施例では、x軸に沿って掃引するので、(x,y)=(1,0)の位置に送信電波が当たるように、送信アンテナの位置を移動する。
【0063】
(x,y)=(11、0)まで測定が終わったら、(x,y)=(0,1)の位置に送信電波が当たるように、送信アンテナの位置を移動する。
【0064】
(x,y)=(11、11)まで測定が終わったら、測定を終了する。
【0065】
測定位置ごとに、剥離の有無を判定する。
【0066】
剥離があると判定された位置を基に、剥離の面積を推定する。
【0067】
推定結果を表示する。また、剥離の割合も表示する。
【0068】
測定手順の別の実施例においては、解像度が縦横1cmの幅であるが、ステップ幅が2mmすなわち(x,y)=(0,0)から(x,y)=(5,5)が縦横1cmの幅でもよい。このように解像度よりも細かいステップ幅で測定をすることにより、一層高解像度で測定結果を得ることができる。
【0069】
図4は、本発明の一実施例による診断システムにおける測定結果の一例を示す。ある測定位置においては、周波数を所定範囲内で掃引すると、反射波の強度が相対的に大きく変化していることがわかる。この相対的に大きく変化した位置では、タイルの表面と浮き面との間の多重反射に起因して、剥離(浮き)が生じていると判断することができる。本実施例のシステムにおける剥離(浮き)を判断する手法の一例について説明する。例えば、まず、各測定位置で、所定範囲内で周波数を掃引して、受信強度を測定する。次に、所定の閾値よりも低い受信強度を有している測定位置を抽出する。測定位置毎に、浮きの有無を判断するので、浮きが有ると判定された点をそれぞれ結ぶことによって、浮きの面積を判定することができる。例えば、
図3において、x=9から10およびy=9から10がなすマス目において、本実施例のシステムは、(x,y)=(9,10)の点のみが浮き無しであると判断したとする。この場合は、(x,y)=(9,9)、(x,y)=(10,9)、(x,y)=(10,10)の三点をむすぶ三角形の部分が浮きの部分(剥離部分2−2)であると判断できる。
図3の剥離部分2−1についても同様に判断できる。
【0070】
また、
図3において、x=9から10およびy=8から9がなすマス目においては、本実施例のシステムは、4点すべてが浮き有りと判断した。この場合は、この4点を結ぶ四角形の部分が浮きの部分(剥離部分2−3)であると判断できる。
【0071】
図3のマス目が仮に1cm×1cmであるとすると、剥離部分2−1、2−2、2−3の合計は、0.5+0.5+1.0=2.0平方センチメートルであると計算できる。
【0072】
剥離部分の合計面積が計算できることによって、タイル全体の何パーセントが剥離をしているかを計算することができる。
【0073】
次に、剥離部分1についても、剥離部分2−1から2−3までの計算方法と同じ考え方を用いて計算することができる。但し、剥離部分1には、複数のタイルにわたって剥離が生じており、且つ、目地の部分が含まれている。目地の部分は、剥離部分から除外することが望ましい。つまり、剥離部分1の面積から目地の面積を引いたものが、実際の剥離の面積となる。このような実際の剥離の面積を計算するためには、例えば、目地部分の存在の有無については、該当する位置(x、y座標)を事前に記憶させてもよい。例えば、すべての位置での測定終了後、剥離部分1の面積を計算する。
図3の1目盛りが1センチメートルであると仮定すると、x軸方向3目盛りであり、y軸方向7目盛りであるので、21平方センチメートルとなる。ここで、本実施例のシステムでは、xy座標に基づく目地に関する情報が記憶されており、剥離部分1内の目地の面積は、11平方センチメートルであることが計算できる。よって、剥離部分1の実際の剥離面積は、10平方センチメートルであると計算できる。
【0074】
なお、実際に、周波数を掃引しながら、反射強度を測定する際に、測定位置が、タイルではなく目地であるという付加情報が、本実施例の診断システムに事前に記録されていれば、当該測定位置での測定をしないで、次の測定位置に移動してもよい。
【0075】
剥離奥行き方向の三次元情報を計算する一例を示す。剥離奥行き方向の三次元情報とは、剥離の程度すなわち剥離の深さに関する情報である。剥離の深さは、反射波が最大および最小となる周波数に基づいて判断する。例えば、最大・最小を示す周波数の値と剥離の深さの値の関係を示す一覧表を準備しておき、反射波を測定後に、一覧表を参照して、剥離の深さを判定するように構成される。なお、この一覧表内の最大・最小となる周波数の値と剥離の深さの値との関係については、任意にまたは自動的に調整(変更)可能なように構成されてもよい。
【0076】
本実施例の技術的効果の一例は、以下である。
【0077】
剥離有無の決定方法がシンプル且つ明確である。
【0078】
自動判定と画像化技術(三次元イメージングが実現可能)
【0079】
送受信部に誘電体レンズを使用することにより、1cm以下の空間分解を実現しているので、タイル剥奪有無の境界を高い空間分解能で表示することができる。
【0080】
ファブリ・ペロー方式によりシステムの簡略化を図ることができるので、基板化が実現可能である。
【0081】
受信部にマイクロ波アンプを使用することにより、測定の信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)を維持しつつ送信電力の微弱化(1μW=−30dBm以下)を図ることができ、電波法の許容範囲で屋外使用を可能にする。
【0082】
従来のレーダ法(タイムドメインも含まれる)で必要となる周波数帯域幅(10GHz程度)と比較して、狭い周波数幅(2から3GHz程度)で検知可能である。
【0083】
以上のように本発明の実施態様について説明したが、上述の説明に基づいて当業者にとって種々の代替例、修正又は変形が可能であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で前述の種々の代替例、修正又は変形を包含するものである。