(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-183149(P2021-183149A)
(43)【公開日】2021年12月2日
(54)【発明の名称】脳神経活動の監視
(51)【国際特許分類】
A61B 5/37 20210101AFI20211105BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20211105BHJP
A61B 5/374 20210101ALI20211105BHJP
A61B 5/383 20210101ALI20211105BHJP
【FI】
A61B5/37
A61N1/36
A61B5/374
A61B5/383
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-124348(P2021-124348)
(22)【出願日】2021年7月29日
(62)【分割の表示】特願2018-513699(P2018-513699)の分割
【原出願日】2016年5月31日
(31)【優先権主張番号】2015902022
(32)【優先日】2015年5月31日
(33)【優先権主張国】AU
(71)【出願人】
【識別番号】521018764
【氏名又は名称】クローズド・ループ・メディカル・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ルイス・パーカー
(72)【発明者】
【氏名】ゲリット・エデュアルド・ジーメル
【テーマコード(参考)】
4C053
4C127
【Fターム(参考)】
4C053JJ01
4C053JJ40
4C127AA03
4C127DD03
4C127GG01
4C127GG11
4C127GG16
4C127GG18
(57)【要約】
【課題】本発明は、脳における神経調節に関し、特に、電気刺激によって誘発される脳内の神経応答を監視し、かつそのような記録を経時的に繰り返し監視して、他の発生源に起因する局所電場電位を検出および監視するための方法に関する。
【解決手段】脳の神経活動の監視は、脳内で神経応答を誘発するために電気刺激を繰り返し印加することを含む。刺激によって誘発された神経応答が記録される。記録された神経応答は、電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の記録された神経応答に対する時変効果を監視するために、経時的に変化する特性について評価される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳神経活動を監視するデバイスの作動方法であって、
パルス発生器によって、少なくとも1つの刺激電極に、脳内での誘発複合活動電位を誘発するための電気刺激を繰り返し印加するステップと、
測定回路構成によって、前記刺激によって誘発された誘発複合活動電位を記録するステップと、
処理装置によって、各々の記録された誘発複合活動電位の少なくとも1つの特性を観察するために、かつ経時的に変化する特性を特定するために、前記記録された誘発複合活動電位を評価して、前記電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の前記誘発複合活動電位の観察された少なくとも1つの特性に対する時変効果を監視するステップと
を含むデバイスの作動方法。
【請求項2】
前記記録された誘発複合活動電位の観察された少なくとも1つの特性を評価するステップが、記録された誘発複合活動電位の振幅を評価するステップを含む、請求項1に記載のデバイスの作動方法。
【請求項3】
前記記録された誘発複合活動電位の観察された少なくとも1つの特性を評価するステップが、誘発複合活動電位のスペクトル成分を評価するステップを含む、請求項1に記載のデバイスの作動方法。
【請求項4】
心拍を評価するために、0.6〜3Hzの範囲で生じる振幅変動を評価するステップをさらに含む、請求項3に記載のデバイスの作動方法。
【請求項5】
7〜35Hzのβ帯域振動範囲で生じる振幅変動を評価するステップをさらに含む、請求項3または4に記載のデバイスの作動方法。
【請求項6】
前記時変効果が、疾病状態を診断するために健康的な範囲と比較され、かつ/または経時的な変化について監視される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のデバイスの作動方法。
【請求項7】
前記時変効果が、療法の療法効果を決定するために健康的な範囲と比較され、かつ/または経時的な変化について監視される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のデバイスの作動方法。
【請求項8】
前記時変効果に基づいて療法応答を指示、命令、要求、および/または管理するステップをさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のデバイスの作動方法。
【請求項9】
脳内に位置決めされ、かつ前記脳に電気刺激を送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
前記脳内に位置決めされ、かつ前記刺激によって誘発された誘発複合活動電位を検知するように構成された少なくとも1つの検知電極と、
前記少なくとも1つの刺激電極から前記脳に電気刺激を印加するように構成されたパルス発生器と、
前記電気刺激に応答して前記少なくとも1つの検知電極によって検知された脳誘発複合活動電位を記録するように構成された測定回路構成と、
各々の記録された誘発複合活動電位の少なくとも1つの特性を観察するために、かつ経時的に変化する特性を特定するために、前記記録された誘発複合活動電位を評価して、前記電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の前記誘発複合活動電位の観察された少なくとも1つの特性に対する時変効果を監視する処理装置と
を含む脳神経刺激装置デバイス。
【請求項10】
前記処理装置は、記録された誘発複合活動電位の振幅を評価することによって、前記記録された誘発複合活動電位の観察された少なくとも1つの特性を評価するように構成される、請求項9に記載の脳神経刺激装置デバイス。
【請求項11】
前記処理装置は、誘発複合活動電位のスペクトル成分を評価することによって、前記記録された誘発複合活動電位の観察された少なくとも1つの特性を評価するように構成される、請求項9に記載の脳神経刺激装置デバイス。
【請求項12】
前記処理装置は、心拍を評価するために、0.6〜3Hzの範囲で生じる振幅変動を評価するようにさらに構成される、請求項11に記載の脳神経刺激装置デバイス。
【請求項13】
前記処理装置は、7〜35Hzのβ帯域振動範囲で生じる振幅変動を評価するようにさらに構成される、請求項11または12に記載の脳神経刺激装置デバイス。
【請求項14】
前記処理装置は、疾病状態を診断するために、前記時変効果を健康的な範囲と比較し、かつ/または前記時変効果を経時的な変化について監視するようにさらに構成される、請求項9〜13のいずれか一項に記載の脳神経刺激装置デバイス。
【請求項15】
前記処理装置は、療法の療法効果を決定するために、前記時変効果を健康的な範囲と比較し、かつ/または前記時変効果を経時的な変化について監視するようにさらに構成される、請求項9〜14のいずれか一項に記載の脳神経刺激装置デバイス。
【請求項16】
前記処理装置は、前記時変効果に基づいて療法応答を指示、命令、要求、および/または管理するようにさらに構成される、請求項9〜15のいずれか一項に記載の脳神経刺激装置デバイス。
【請求項17】
脳神経活動を監視するためのコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラムコード手段が、
脳内での誘発複合活動電位を誘発するために電気刺激を繰り返し印加し、
前記刺激によって誘発された誘発複合活動電位を記録し、かつ
各々の記録された誘発複合活動電位の少なくとも1つの特性を観察するために、かつ経時的に変化する特性を特定するために、前記記録された誘発複合活動電位を評価して、前記電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の前記誘発複合活動電位の観察された少なくとも1つの特性に対する時変効果を監視するように構成される、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される2015年5月31日出願のオーストラリア仮特許出願第2015902022号明細書の利益を主張する。
【0002】
本発明は、脳における神経調節に関し、特に、電気刺激によって誘発される脳内の神経応答を監視し、かつそのような記録を経時的に繰り返し監視して、他の発生源に起因する局所電場電位を検出および監視するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
神経調節は、複合活動電位(ECAP)を誘発して療法効果をもたらすために生物学的組織に電気刺激を印加することを含む。神経調節は、経皮電気神経刺激(TENS)や経頭蓋磁気刺激(TMS)などによる非侵襲性となり得、または深部脳刺激(DBS)の場合のように1つもしくは複数の電極および制御刺激装置の埋込みを必要とする場合には高侵襲性になり得る。DBSは後期パーキンソン病の最も有効な治療法となっているが、皮質下核の深くへの1本以上のリード線の埋込み、および胸部に埋め込まれた1つまたは複数のパルス発生器への接続を必要とする高侵襲性の療法である。多様な疾病を治療するために多くのDBS電極標的構造が研究されており、電極の好ましい位置は、治療されている疾病により異なる。パーキンソン病の場合、好ましい標的は、淡蒼球(GPi)および視床下核(STN)の内節である。GPiは、ハンチントン病およびトゥレット障害に関する標的にもされており、側坐核は、慢性うつ病およびアルコール依存に関する標的とされており、脳弓、視床下部、およびマイネルト基底核は、アルツハイマー病の標的とされている。
【0004】
パーキンソン病は、黒質でのドーパミン放出細胞に影響を及ぼす変性疾患である。大脳基底核の機能およびこの変性がパーキンソン病にどのように関係しているかについて述べる多くの理論が提案されているが、そのような理論は全て、パーキンソン病の全ての側面を述べるにはかなり不十分であり、DBSのメカニズムの理解に相当な研究努力が注がれている。
【0005】
本明細書に含まれている文献、行為、材料、デバイス、物品などの任意の論述は、単に本発明に関する文脈を提供する目的のためのものである。これらの事項の任意のものまたは全てが、先行技術の基礎の一部を成すこと、または本出願の各クレームの優先日前に存在していた本発明に関連する分野における共通の一般知識であったことを認めるものとみなすべきではない。
【0006】
本明細書を通じて、「含む」という語またはその活用変化は、記載された要素、整数、もしくはステップ、または要素、整数、もしくはステップの群の包含を示唆するが、任意の要素、整数、もしくはステップ、または要素、整数、もしくはステップの群の除外を示唆しないことを理解されたい。
【0007】
本明細書において、ある要素が選択肢の列挙の「少なくとも1つ」であり得るという記述は、その要素が列挙された選択肢のうちの任意の1つであり得るか、または列挙された選択肢のうちの2つ以上の任意の組合せであり得るものと理解されるべきである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様によれば、本発明は、脳神経活動を監視する方法であって、
脳内での神経応答を誘発するために電気刺激を繰り返し印加するステップと、
刺激によって誘発された神経応答を記録するステップと、
電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の神経応答に対する時変効果を監視するために、記録された神経応答を経時的に変化する特性について評価するステップと
を含む方法を提供する。
【0009】
第2の態様によれば、本発明は、
脳内に位置決めされ、かつ脳に電気刺激を送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
脳内に位置決めされ、かつ刺激によって誘発された神経応答を検知するように構成された少なくとも1つの検知電極と、
少なくとも1つの刺激電極から脳に電気刺激を印加するように構成されたパルス発生器と、
電気刺激に応答して少なくとも1つの検知電極によって検知された脳神経応答を記録するように構成された測定回路構成と、
電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の神経応答に対する時変効果を監視するために、記録された神経応答を経時的に変化する特性について評価する処理装置と
を含む脳神経刺激装置デバイスを提供する。
【0010】
さらに、本発明は、脳内での神経応答を誘発するために電気刺激を繰り返し印加するように構成され、かつ刺激によって誘発された神経応答を記録するようにさらに構成され、かつ電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の神経応答に対する時変効果を監視するために、記録された神経応答を経時的に変化する特性について評価するようにさらに構成されている、コンピュータソフトウェア、コンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品、非一時的なコンピュータ可読媒体、または前記ソフトウェアもしくは製品の制御下で動作するコンピューティングデバイスを提供する。
【0011】
神経刺激装置は、深部脳刺激装置を含むことがある。
【0012】
記録された神経応答を変化する特性について評価するステップは、観察された神経応答の振幅を評価するステップを含むことがある。観察された神経応答は、周波数領域で評価され得る。0.6〜3Hzの範囲で生じる振幅変動は、被験者の心拍が評価されることを可能し得る。そのような実施形態では、心拍が記録電極での局所電場電位に機械的にまたはレオロジー的に影響を及ぼし、観察されるECAP振幅に変調または変動をもたらすことが認識されている。
【0013】
7〜35Hz範囲での観察された誘発ECAPの振幅の変動(β帯域振動とも呼ばれる)は、パーキンソン病の患者のオフ状態を示すことがあり、または50〜1000Hzの範囲ではパーキンソン病の患者のオン状態を示すことがある。スペクトル解析により、いくつかの実施形態は、神経刺激装置以外の発生源による神経活動のそのような各信号を同時に評価することが可能になり得る。
【0014】
したがって、電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位は、例えば機械的に、レオロジー的に、または神経学的に生じる局所電場電位変動を包含するものと意図されていることを理解されたい。特にβ帯域振動の場合、神経刺激装置によって印加される刺激は、そのようなβ帯域振動を変化させる療法を行い得ることに留意されたい。ただし、そのようなメカニズムはあまり理解されていない。したがって、刺激に直接起因する局所的に誘発された神経応答またはECAPと、一連のそのようなECAPの振幅またはスペクトル成分を経時的に変調するβ帯域振動の別個の寄与との間には注目すべき区別がある。β帯域振動の別個の寄与は電気刺激以外の発生源であり、したがって、本発明のいくつかの実施形態の範囲内にあると理解されるべきである。
【0015】
神経測定は、好ましくは、本出願人による国際公開第2012/155183号パンフレットの教示に従って得られ、その特許文献の内容が参照により本明細書に援用される。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態は、電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の時変効果を監視することにより、診断法を提供することができる。疾病状態を診断するために、他の発生源に起因する神経応答効果の存在、振幅、形態、および/または潜伏期を健康的な範囲と比較し、かつ/または経時的な変化について監視することができる。本発明の方法は、いくつかの実施形態では、刺激の療法効果を決定するため、薬剤の療法効果を決定するため、および/または疾病状態を監視するために適用することができる。その後、診断に基づいて療法応答を命令、要求、および/または管理することができる。
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の一例を述べる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】埋込式の刺激装置と脳組織との相互作用を示す概略図である。
【
図4】1人の患者での誘発された応答振幅のダイナミクスを時間領域における2つの別個の記録チャネルで示す。
【
図5】ECAP振幅のダイナミクスの周波数領域解析を示す。
【
図6】STNにおける観察されたECAPのスペクトルを示す。
【
図7b】ECAPのスペクトルを示し、ECAPスペクトルにおける心拍の存在を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、埋込式の深部脳刺激装置100を概略的に示す。刺激装置100は、患者の胸部の適切な位置に埋め込まれた電子モジュール110と、脳内に埋め込まれ、適切なリード線によってモジュール110に接続された2つの電極アセンブリ150、152とを含む。埋込式の神経デバイス100のいくつかの動作態様は、外部制御デバイス(図示せず)によって再構成可能である。さらに、埋込式の神経デバイス100は、データを収集する役割を果たし、収集されたデータは外部デバイスに伝送される。
【0020】
図2は、埋込式の神経刺激装置100のブロック図である。モジュール110は、バッテリ112および遠隔測定モジュール114を含む。本発明の実施形態では、外部デバイスと電子モジュール110との間で電力および/またはデータを伝送するために、遠隔測定モジュール114により、赤外線(IR)、電磁気、容量性、および誘導性の伝送などの任意の適切なタイプの経皮伝送190が使用されることがある。
【0021】
モジュール制御装置116は、患者設定120および制御プログラム122などを記憶する関連するメモリ118を有する。制御装置116は、パルス発生器124を制御して、患者設定120および制御プログラム122に従って電流パルスの形態で刺激を発生させる。電極選択モジュール126は、発生されたパルスを電極アレイ150および152の適切な電極に切り替えて、選択された電極の周囲の組織に電流パルスを送達する。測定回路構成128は、電極選択モジュール126によって選択された電極アレイの検知電極で検知された神経応答の測定値を得るように構成される。
【0022】
図3は、埋込式の刺激装置100の電極アレイ150と神経組織180(この場合には視床下核)との相互作用を示す概略図である。しかし、代替実施形態は、任意の適切な脳構造に隣接して位置決めすることができる。
図3には示されていないが、対側大脳半球においてアレイ152が同様に動作する。電極選択モジュール126は、周囲の神経組織180に電流パルスを送達するために電極アレイ150の刺激電極2を選択し、また、正味ゼロの電荷移動を維持するために刺激電流を回収するためにアレイ150の戻り電極4を選択する。
【0023】
神経組織180への適切な刺激の送達は、療法の目的で、関連する神経経路に沿って伝播する複合活動電位を含む神経応答を誘起する。
【0024】
さらに、デバイス100は、神経組織180内を伝播する複合活動電位(CAP)の存在および強度を検知するように構成され、ここで、そのようなCAPが電極2および4からの刺激によって誘起されるか、そうではなく例えばアレイ152の対側電極によって誘起されるかは関係ない。このために、電極選択モジュール126により、アレイ150の任意の電極を測定電極6および測定基準電極8として機能するように選択することができる。測定電極6および8によって検知された信号は、測定回路構成128に渡され、測定回路構成128は、例えば、内容が参照により本明細書に援用される本出願人による国際公開第2012155183号パンフレットの教示に従って動作することがある。
【0025】
本発明では、刺激の関数として測定されて記録された神経応答が、刺激されているニューロンおよびそれらの特性に関する多くの情報を提供できることが認識されている。この情報は、刺激に関するパラメータの選択だけでなく、疾病の経過の監視にも重要な役割を果たすことができる。複合活動電位の形状は、活動電位の変化の時間経過中の電気生理学的特性およびイオンチャネル伝導性に直接関係する。この形状は、背景にあるイオンチャネル挙動を反映しており、このイオンチャネル挙動は、背景にある疾病状態を反映している。
【0026】
本発明では、適応、心拍と同時に起こる電極微小環境の変化、疾病の状態の悪化、薬剤摂取の過程、患者の現在の全体的な状態(睡眠、休息、運動など)を含めた多くの原因が、刺激に対する組織の応答を変え得ることが認識されている。さらに、ECAPを使用して、そのような他の神経活動源のダイナミクスを解析することが可能である。
【0027】
パーキンソン病は、深部脳刺激によって影響され得るβ帯域振動の増加に関連していることが多い。本発明者らは、誘発複合活動電位(ECAP)の測定を使用して、ECAP振幅の変調を観察することによって脳内の信号の周波数スペクトルを解析し得ることを示している。
【0028】
観察される変調が脳内での遅い振動を直接反映し、刺激を提供してECAP振幅によってリアルタイムで遅い波を記録するフィードバックシステムを設計することができる。フィードバックを調節して、特定の周波数帯域(例えば、パーキンソン病に関してはβ帯域)を最小化または最大化するために刺激パラメータを最適化することができる。
【0029】
ECAP特徴の周波数解析は、疾病の経過中の患者の状態のより完全な病像を提供するのに役立ち得る患者からの他の生理学的情報、例えば心拍を抽出するために使用することもできる。
図4および5は、本発明の実施形態で観察することができる動的変化の一例を示す。
【0030】
図4に、時間領域での2つの別個の記録チャネルでの1人の患者の|N1−P2|振幅のダイナミクスを示す。
図5には、患者の1人に対する|N1−P2|振幅のダイナミクスの周波数解析を示す。
【0031】
心拍により誘発されるECAP振幅の変動は、例えば、誘発された応答振幅が各心臓周期を通じて一定であるように、または所望の軌跡上に留まるようにフィードバックによって制御することができる。追加または代替として、薬剤により誘発される神経興奮性の変動、したがってECAP振幅は、パーキンソン病のためのL−ドーパなどの薬剤の各投与の過程を通じて、誘発された応答振幅が一定のままであるように、または所望の軌跡上に留まるようにフィードバックによって制御することができる。
【0032】
したがって、ECAP振幅は遅い電位によって変調され、これは、ECAP振幅測定値を、観察された周波数成分の少なくともいくつかに関するプロキシ尺度にする。STNではβ帯域振動に焦点が向けられ、VIMでは振戦周波数が考慮に入れられる。
【0033】
図6は、電極R1/R2に対する双極二相刺激を用いて電極R4で測定された、患者1の右STNにおける4つの異なる刺激電流振幅に関する最初の1000個の連続した刺激の周波数成分のプロットである(合計測定時間7.7秒)。評価された5人のSTN患者のほぼ全員において、
図6で見られるタイプのβ範囲での鋭い低周波数ピークが観察されたが、各ピークの位置は患者ごとに異なり、刺激振幅の増加に伴って正味の増加または減少は観察できなかった。例えば、
図6の患者1では、1.156Hzでのピークが観察された。次のピークは約7Hzで現れ、その後、7Hz間隔で周期的なピークが続き、約18Hzで別のピークが現れた。ピークは核にわたって変化する。ピークの周期性は、より高い周波数のピークの大部分が同じ基本波の高調波であることを示唆する。これは、この患者では、約1Hz、7Hz、および18Hzでの振動挙動が信号に存在することを示唆する。
【0034】
記録電極によって検知される局所電場電位(LFP)は、電極の周囲の組織での全ての電気的活動の合計である。したがって、この活動は、観察されたECAP振幅に対する調節効果を有する。位相振幅カップリングおよびパルス化阻害が、LFPによる神経興奮性の変調の2つの既知の態様である。
図7aおよび7bに示されるように、患者3でのECGとECAPとの同時測定により、周波数スペクトルの最低ピークが心拍に関連付けられた。特に、
図7aのECGスペクトルは、1.557Hzでの心拍の寄与(約93bpm)を示す。これは、
図7bのECAPスペクトルで見られる1.56Hzでのピークの発生源に密接に対応し、したがってこの発生源を裏付ける。より詳細には、
図7bは、患者3におけるパルス幅90μsおよび周波数130Hzを有する2.5mAの刺激での、電極R4(右)でのECAP振幅の周波数スペクトルを示す。患者3は、見掛け上では指数関数的なスペクトルプロファイルをもたらす大きい測定アーチファクトを受けたサンパウロ試験で評価されたが、1.56Hzでのピークは、それにも関わらず、
図7bでの大きいアーチファクトを超えて現れ、ECAPスペクトルからの心拍の観察を支援する。
【0035】
図6における7Hzおよび18Hzでの他のピークの起源は現在のところ未知であるが、それでも、それらのピークはバイオマーカとなり、経時的に追跡することができ、これらのバイオマーカによって疾病進行または他の生物学的変化を評価することができる。LFPによって測定されるβ領域内での振動(8〜35Hz)は、パーキンソン病のバイオマーカとして提案されており、そのような振動の途絶がDBSの療法有効性のマーカとして提案されている。β帯域振動は、PDと、DBS療法による症状緩和とにおいて役割を果たすように思えるが、レボドパ(最も広く使用されている抗パーキンソン病薬)およびDBSは、同様の臨床効果を有するものの、β帯域振動に同様の影響を及ぼさない理由を説明できない。本発明の実施形態は、そのような振動に対する所与の療法の効果を効果的に観察することができる手段を提供する。
【0036】
したがって、ECAP振幅は、心拍を含めた遅い振動の少なくともいくつかによって変調され、これらの周波数成分を測定するためにプロキシとして使用し得ることが示されている。したがって、本発明のいくつかの実施形態は、記憶および処理能力に制限があるインプラントにおいて周波数解析機能を実現することができる。各ショットでECAP振幅を記憶することにより、刺激周波数の半分(ナイキスト周波数)までの周波数の遅い振動は、それらが局所電場電位、したがって観察されるECAPを変調する限り取り出され得る。
【0037】
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、EEG、EMG、またはECoGセンサなどの任意の追加のセンサを提供する必要なく、かつ療法的電気刺激を中断する必要さえなく、二次発生源に起因する神経活動を埋込可能な神経刺激装置が検出できる手段を提供することができる。次いで、そのような観察を使用して、刺激の療法効果を決定し、薬剤の療法効果を決定し、かつ/または疾病状態を監視することができる。その後、診断に基づいて療法応答を指示、命令、要求、および/または管理することができる。
【0038】
広範に述べた本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態において示される本発明に対して多くの変形形態および/または修正形態がなされ得ることが当業者に理解されるであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で例示的なものであり、限定または制約ではないとみなされるべきである。
【0039】
本願の実施形態は、以下の項目を含む。
[項目1]
脳神経活動を監視する方法であって、
脳内での神経応答を誘発するために電気刺激を繰り返し印加するステップと、
前記刺激によって誘発された神経応答を記録するステップと、
前記電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の前記神経応答に対する時変効果を監視するために、前記記録された神経応答を経時的に変化する特性について評価するステップと
を含む方法。
[項目2]
前記記録された神経応答を評価するステップが、観察された神経応答の振幅を評価するステップを含む、項目1に記載の方法。
[項目3]
前記記録された神経応答を評価するステップが、観察された神経応答のスペクトル成分を評価するステップを含む、項目1に記載の方法。
[項目4]
心拍を評価するために、0.6〜3Hzの範囲で生じる振幅変動を評価するステップをさらに含む、項目3に記載の方法。
[項目5]
7〜35Hzのβ帯域振動範囲で生じる振幅変動を評価するステップをさらに含む、項目3または4に記載の方法。
[項目6]
前記時変効果が、疾病状態を診断するために健康的な範囲と比較され、かつ/または経時的な変化について監視される、項目1〜5のいずれか一項に記載の方法。
[項目7]
前記時変効果が、療法の療法効果を決定するために健康的な範囲と比較され、かつ/または経時的な変化について監視される、項目1〜6のいずれか一項に記載の方法。
[項目8]
前記時変効果に基づいて療法応答を指示、命令、要求、および/または管理するステップをさらに含む、項目1〜7のいずれか一項に記載の方法。
[項目9]
脳内に位置決めされ、かつ前記脳に電気刺激を送達するように構成された少なくとも1つの刺激電極と、
前記脳内に位置決めされ、かつ前記刺激によって誘発された神経応答を検知するように構成された少なくとも1つの検知電極と、
前記少なくとも1つの刺激電極から前記脳に電気刺激を印加するように構成されたパルス発生器と、
前記電気刺激に応答して前記少なくとも1つの検知電極によって検知された脳神経応答を記録するように構成された測定回路構成と、
前記電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の前記神経応答に対する時変効果を監視するために、前記記録された神経応答を経時的に変化する特性について評価する処理装置と
を含む脳神経刺激装置デバイス。
[項目10]
脳神経活動を監視するためのコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラムコード手段が、
脳内での神経応答を誘発するために電気刺激を繰り返し印加し、
前記刺激によって誘発された神経応答を記録し、かつ
前記電気刺激以外の発生源に起因する局所電場電位の前記神経応答に対する時変効果を監視するために、前記記録された神経応答を経時的に変化する特性について評価する
ように構成される、コンピュータプログラム製品。
【符号の説明】
【0040】
100 深部脳刺激装置、神経デバイス、神経刺激装置、刺激装置、デバイス
110 電子モジュール
112 バッテリ
114 遠隔測定モジュール
116 モジュール制御装置
118 メモリ
120 患者設定
122 制御プログラム
124 パルス発生器
126 電極選択モジュール
128 測定回路構成
150、152 電極アセンブリ、電極アレイ
180 神経組織
190 経皮伝送
2 刺激電極
4 戻り電極
6 測定電極
8 測定基準電極
【外国語明細書】