【解決手段】ウェブ4におけるスチフナ51,52(第1補強部材)の上側の等価幅厚比およびスチフナ51,52の下側の等価幅厚比それぞれが、必要となるウェブ4の幅厚比の条件を満たし、鉄骨梁1におけるスチフナ51,52が設けられる部分の設計用モーメントが、鉄骨梁1におけるスチフナ51,52が設けられない部分の局部座屈限界耐力よりも大きくなるようにスチフナ51,52の長さ寸法およびスチフナ51,52を設置する範囲を設定し、ウェブ4におけるスチフナ51,52が設けられない部分のせん断余裕度が1.29以上となるように設計する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態による鉄骨梁の一例を示す水平断面図(
図2のA−A線断面図)である。
【
図3】(a)は鋼構造設計基準に示された圧縮応力度分布係数を示す図、(b)は、本実施形態の圧縮応力度分布係数を示す図である。
【
図5】せん断余裕度、塑性変形倍率および補剛長さの関係を示すグラフである。
【
図8】無次元化した荷重変形関係を示すグラフである。
【
図9】最大耐力の90%時、最大耐力時それぞれの塑性変形倍率および累積塑性変形倍率を示す表である。
【
図11】(a)は試験体No.C−1の側面図、(b)は平面図、(c)はスチフナ設置部分の断面図である。
【
図12】(a)は試験体No.C−3の側面図、(b)は平面図、(c)はスチフナ設置部分の断面図である。
【
図13】(a)は試験体No.D−1の側面図、(b)は平面図、(c)はスチフナ設置部分の断面図である。
【
図14】(a)は試験体No.D−2の側面図、(b)は平面図、(c)はスチフナ設置部分の断面図である。
【
図16】試験体No.C−1およびC−3の加力装置を示す図である。
【
図17】試験体No.D−1およびD−2の加力装置を示す図である。
【
図19】塑性変形能力の評価手法を示すグラフである。
【
図20】(a)は試験体ごとの最大耐力時の塑性変形倍率の実験結果、(b)は試験体ごとの最大耐力の90%時の塑性変形倍率の実験結果、(c)は試験体ごとの累積塑性変形倍率の実験結果である。
【
図22】試験体No.C−1の各サイクルの変形性状を示す写真である。
【
図23】試験体No.C−1の無次元化した荷重と部材角との関係を示すグラフである。
【
図24】試験体No.C−1の骨格曲線を示す図である。
【
図25】試験体No.C−1の実験結果を示す表である。
【
図26】試験体No.C−3の各サイクルの変形性状を示す写真である。
【
図27】試験体No.C−3の無次元化した荷重と部材角との関係を示すグラフである。
【
図28】試験体No.C−3の骨格曲線を示す図である。
【
図29】試験体No.C−3の実験結果を示す表である。
【
図30】試験体No.D−1の各サイクルの変形性状を示す写真である。
【
図31】試験体No.D−1の無次元化した荷重と部材角との関係を示すグラフである。
【
図32】試験体No.D−1の骨格曲線を示す図である。
【
図33】試験体No.D−1の実験結果を示す表である。
【
図34】試験体No.D−2の各サイクルの変形性状を示す写真である。
【
図35】試験体No.D−2の無次元化した荷重と部材角との関係を示すグラフである。
【
図36】試験体No.D−2の骨格曲線を示す図である。
【
図37】試験体No.D−2の実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態による鉄骨梁の設計方法について、
図1−
図9に基づいて説明する。
図1および
図2に示すように、本実施形態による鉄骨梁1は、H型鋼で、上フランジ2、下フランジ3およびウェブ4を有している。
図1では、鉄骨梁1の長さ方向の一方の端部近傍11(鉄骨梁1における長さ方向の一方の端部1aから中央に向かった所定の範囲)を示している。鉄骨梁1の端部1aは、柱12に接合されている。鉄骨梁1の端部1a近傍には、ハンチ13が形成されている。
【0012】
ウェブ4の長さ方向の端部近傍41(ウェブ4における鉄骨梁1の長さ方向の端部近傍11に対応する部分、長さ方向の一方の端部4aから中央に向かった所定の範囲)には、ウェブ4の座屈を防止するためのスチフナ51,52(第1補強部材)が設けられている。本実施形態では、ウェブ4の片側(厚さ方向の一方側)に上下方向に間隔をあけて2つずつスチフナ51,52が設けられている。上側のスチフナ51(以下、上側スチフナ51とする)は、上フランジ2の下側に間隔をあけて設けられ、下側のスチフナ52(以下、下側スチフナ52とする)は下フランジ3の上側に間隔をあけて設けられている。スチフナ51,52は、上フランジ2および下フランジ3と平行に設けられている。上側スチフナ51と下側スチフナ52とは、略同じ形状に形成されている。
上側スチフナ51および下側スチフナ52は、ウェブ4の長さ方向の両側の端部近傍41にそれぞれ設けられている。
【0013】
ウェブ4の長さ方向の端部近傍41には、例えば、設備配管を通すための貫通孔43が形成されている。貫通孔43は、ウェブ4を厚さ方向に貫通し、ウェブ4の長さ方向の端部4aよりも中央に向かった位置で、スチフナ51,52の長さ方向の他方側に設けられている。貫通孔43は、ウェブ4の長さ方向の端部近傍41におけるスチフナ51,52が設けられていない区間に設けられている。ウェブ4の片側(厚さ方向の一方側)には、貫通孔43の縁部に沿ってリング状の貫通孔補強部材6(第2補強部材)が設けられている。
【0014】
本実施形態による鉄骨梁の設計方法では、ウェブの等価幅厚比、スチフナの長さ寸法(補剛長さle、
図1および
図2参照)および設置位置、スチフナの必要剛性、ウェブのせん断余裕度、貫通孔の位置について検討する。
【0015】
(ウェブの等価幅厚比の検討)
ウェブの等価幅厚比の検討では、
図2に示すウェブ4における上側スチフナ51の上側の領域45(外側サブパネル45とする)、ウェブ4における下側スチフナ52の下側の領域46(外側サブパネル46とする)、およびウェブ4における上側スチフナ51と下側スチフナ52との間の領域47(内側サブパネル47とする)それぞれの等価幅厚比を検討する。本実施形態では、外側サブパネル45のせいd、外側サブパネル46のせいd、内側サブパネル47のせいdの比率は、1:2:1としている。
等価幅厚比は、等価幅厚比の算定方法(星川努、原田幸博:ウェブを軸方向スチフナで補強したH形鋼梁の塑性変形能力、鋼構造論文集、第20巻、第80号、p.19−32、2013.12)を準用し、下式(1)−(4)を用いて算定する。算定した等価幅厚比が鉄骨梁として必要な幅厚比制限を満足するように設計する。
図3(a)に(鋼構造設計基準に示された圧縮応力度分布係数を示し、
図3(b)に本実施形態の圧縮応力度分布係数を示す。
【0017】
算定された外側サブパネル45の等価幅厚比、外側サブパネル46の等価幅厚比、および内側サブパネル47の等価幅厚比のうちの値の大きい等価幅厚比を採用してウェブ4の等価幅厚比の検討を行う。
なお、スチフナがウェブの片側に対して1つのみ設けられている場合は、ウェブにおけるスチフナの上側の領域、およびウェブにおけるスチフナの下側の領域のそれぞれの等価幅厚比を検討し、大きい等価幅厚比を採用して幅厚比制限の照査を行う。また、スチフナがウェブの片側に対して3つ以上設けられている場合は、ウェブにおける一番上のスチフナの上側の領域、およびウェブにおける一番下のスチフナの下側の領域、ウェブにおける上下に並んだスチフナの間の領域のそれぞれの等価幅厚比を検討し、大きい等価幅厚比を採用して幅厚比制限の照査を行う。
【0018】
(スチフナの長さ寸法および設置位置の検討)
スチフナ51,52を設ける長さ寸法(補剛長さle、
図1参照)および設置位置は、鉄骨梁の設計用モーメント分布に応じて設定する。
図4に示すように、鉄骨梁1におけるスチフナ51,52が設けられている部分の端部71(補剛端部)の設計用モーメントM´
Dに対して、鉄骨梁1におけるスチフナ51,52が設けられていない部分の梁断面の局部座屈限界耐力M
cが上回ることを確認する。ここで、局部座屈限界耐力は、「日本建築学会:鋼構造限界状態設計指針」に基づき算定する。薄肉化したウェブ4について着目すると、局部座屈限界耐力は、下式(5)−(7)を用いて算定する。
【0020】
(スチフナの必要剛性の検討)
スチフナの必要剛性は、「日本建築学会:鋼構造設計規準」に基づき検討する。スチフナの断面2次半径i(ウェブ面を主軸として算定)が、下式(8)−(12)を用いて算定した値以上であることを確認する。
【0022】
(ウェブのせん断余裕度の検討)
ウェブにおけるスチフナが設けられていない区間(以下、無補剛区間とする)におけるせん断座屈による崩壊についてせん断余裕度に着目して検討を行う。ここで、せん断余裕度とは、ウェブのせん断耐力Q
wと鉄骨梁の端部が全塑性モーメントに達するときの鉄骨梁に作用するせん断力Qpの比であるQ
w/Q
pとして表現できる。鉄骨梁の耐力上昇の影響を考慮し、ウェブの無補剛区間においてせん断余裕度が1.29以上を確保できるように設計する。ウェブのせん断耐力Q
wは、下式(13)を用いて算定する。
図5に、せん断余裕度、塑性変形倍率および補剛長さの関係を示すグラフを示す。
【0024】
(スチフナと貫通孔の位置の検討)
上記のように設計されたスチフナは、貫通孔(貫通孔補強部材)と干渉しない場合には、上記のスチフナの補剛長さおよび設置位置を採用する。スチフナと貫通孔とが干渉する場合は、貫通孔の芯からウェブの長さ方向の一方側に向かう貫通孔補強部材の内径φの1.5倍の(1.5φ)長さ範囲でスチフナを省略することが可能である。
図6に、スチフナ51,52の省略可能範囲53、スチフナ51,52の省略された部分511,521を示す。
【0025】
図7の終局状態の鉄骨梁を示す図、
図8の無次元化した荷重変形関係を示すグラフ、
図9のFEM解析結果から最大耐力の90%時の塑性変形倍率μ
90%が4以上(FAランク相当)を確保できており、十分な塑性変形能力を有すると考えられる。ηは、累積塑性変形倍率を示している。
【0026】
次に、上記の本実施形態による鉄骨梁の設計方法の作用・効果について説明する。
上記の本実施形態による鉄骨梁の設計方法では、スチフナ51,52と貫通孔43とが干渉する場合は、貫通孔43の芯からウェブ4の長さ方向の一方側に向かう貫通孔補強部材6の内径φの1.5倍の(1.5φ)長さ範囲でスチフナ51,52を省略することが可能である。これにより、貫通孔43をスチフナ51,52と干渉しないように設けることができるとともに、貫通孔43のサイズの制限が限定されず設計の自由度を高めることができる。
【0027】
本実施形態による鉄骨梁の設計方法の効果を確認する実験を行った。
実験では、
図10に示す試験体No.C−1、試験体No.C−3、試験体No.D−1、試験体No.D−2の計4体の試験体を用いた。
図11−14に示すように、4つの試験体は、それぞれ同じH形鋼を使用しており、ウェブ4の片側に上下2つのスチフナ51,52が接合され、それぞれ貫通孔43が形成されている。試験体No.C−1および試験体No.C−3には、鉄骨梁の長さ方向に間隔をあけて3つの貫通孔43が形成され。試験体No.D−1および試験体No.D−2には、鉄骨梁の長さ方向に間隔をあけて2つの貫通孔43が形成されている。4つの試験体は、それぞれ貫通孔43の縁部に貫通孔補強部材6が設けられている。
【0028】
図11に示す試験体No.C−1と
図12に示す試験体No.C−3とは、梁長さ、貫通孔43の設置位置が互いに同じで、貫通孔補強部材6が異なっている。試験体No.C−1では、貫通孔補強部材6として日本ファブテック株式会社のEGリング(登録商標)を採用し、試験体No.C−2では、貫通孔補強部材6としてセンクシア株式会社のハイリング(登録商標)を採用している。
試験体No.C−1および試験体No.C−3は、いずれも梁長さが2112mmで、貫通孔補強部材6の内径が192mmである。
【0029】
図13に示す試験体No.D−1と
図14に示す試験体No.D−2とは、梁長さ、貫通孔補強部材6が互いに同じで、2つの貫通孔43の設置間隔が異なっている。試験体No.D−1および試験体No.D−2は、いずれも貫通孔補強部材6として日本ファブテック株式会社のEGリング(登録商標)を採用している。試験体No.D−1よりも試験体No.D−2の方が2つの貫通孔43の貫通孔の設置間隔が広く設定されている。貫通孔43の貫通孔の設置間隔は、試験体No.D1では720mm、試験体No.D−2では864mmである。
試験体No.D−1および試験体No.D−2は、いずれも梁長さが3312mmで、貫通孔補強部材6の内径が288mmである。
【0030】
試験体への載荷は、
図15に示すような漸増変位振幅繰り返し載荷とする。漸増変位振幅繰り返し載荷では既往の文献(建築研究所、日本鉄鋼連盟:鋼構造建築物の構造性能評価試験法に関する研究委員会報告書、2002.04)に示される載荷履歴を用い、θpを基準として増分変位を2θp、各振幅を2回繰り返すものとした。実験の制御では、θpの値を試験体パラメータごとに算定し実験に用いた。
図16に試験体No.C−1および試験体No.C−3の加力装置
図81を示し、
図17に試験体No.D−1および試験体No.D−2の加力装置
図82を示す。加力は、2000kN串型ジャッキを用いて静的載荷を行う。荷重の計測は、ジャッキに取り付けたロードセルを用いる。4つの試験体それぞれの変形は、
図18に示す試験体における位置の変位を変位計により計測する。試験体軸心の加力点における水平変位(d1、d2)、エンドプレートの水平変位(d3〜d6)および鉛直変位(d7〜d10)を計測する。
図19には、塑性変形能力の評価手法を示す。
【0031】
図20および
図21に実験結果における最大耐力、最大耐力時の塑性変形倍率、最大耐力の90%時の塑性変形倍率および累積塑性変形倍率をに示す。実験を行ったすべての試験体においてμ
90%は、FAランク相当の鉄骨梁に求められる塑性変形倍率4以上を確保していることが確認できる。今回の実験結果から本実施形態による鉄骨梁の施工方法を用いることによる塑性変形能力の向上に対する有効性を示すことができた。
【0032】
試験体ごとの実験結果について説明する。
(試験体No.C−1)
図22−
図25に示すように、試験体No.C−1は、4θ
pまでは安定した履歴性状を示す。+6θ
pの1サイクル目で鉄骨梁端部のフランジおよび、ウェブにおけるスチフナが設けられている区間(以下、スチフナ補剛区間)の局部座屈が顕著に確認され、耐力は低下した。終局時の変形性状は、ハンチ拡幅開始部におけるフランジの局部座屈およびウェブのスチフナ補剛区間のせん断型の局部座屈が確認された。
【0033】
(試験体No.C−3)
図26−
図29に示すように、試験体No.C−3は、−4θ
pの1サイクル目にスチフナ間でウェブの局部座屈が発生した。+4θ
pの2サイクル目にスチフナ間のウェブの局部座屈の影響を受けて耐力低下が確認された。+6θ
pの1サイクル目の載荷途中に局部座屈が進展し、耐力上昇が期待できないため+6θ
pの1サイクル目の途中で載荷を終了した。
【0034】
(試験体No.D−1)
図30−
図33に示すように、試験体No.D−1は、+4θ
pの2サイクル目で鉄骨梁端部のフランジの局部座屈に伴う耐力低下が発生した。このとき、全体座屈モードの影響による鉄骨梁のねじれも確認された。+6θ
pの1サイクル目の2θ
pを超えたところで全体座屈モードが顕著に表れ、貫通孔補強付近のフランジの変形が急速に進展したため+6θ
pの1サイクル目の途中で載荷を終了した。
【0035】
(試験体No.D−2)
図34−
図37に示すように、試験体No.D−2は、4θ
pの1サイクル目で鉄骨梁端側の貫通孔補強部材付近のフランジに局部座屈が発生した。4θ
pの2サイクル目で鉄骨梁端側の貫通孔補強部材付近のフランジの局部座屈に伴う耐力低下が発生した。+6θ
pの1サイクル目の載荷途中に鉄骨梁端側の貫通孔補強部材付近のフランジとスチフナ補剛区間のウェブの局部座屈が急速に進展し、耐力上昇も期待できないため+6θ
pの1サイクル目の途中で載荷を終了した。
【0036】
以上、本発明による鉄骨梁の設計方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、ウェブ4の片側のみにスチフナ51,52が設けられているが、ウェブ4の両側にスチフナ51,52が設けられていてもよい。また、スチフナ51,52が設けられる位置や向き、スチフナ51,52の数は適宜設定されてよい。
上記の実施形態では、ウェブ4の片側のみに貫通孔補強部材6が設けられているが、ウェブ4の両側に貫通孔補強部材6が設けられていてもよい。
【0037】
上記の実施形態では、ウェブ4の座屈を防止するための第1補強部材としてスチフナ51,52が設けられているが、スチフナ51,52以外の部材が設けられていてもよい。