【実施例】
【0072】
(反応スキーム)
【化4】
【0073】
(実験)
本発明は、当業者に知られている有機合成、生化学、レオロジーなどの従来技術を用いて行われる。
【0074】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。ただし、以下の各実施例は、実施された実施形態の説明のためにのみ提供されるものであり、本発明の範囲は、これらの実施例によってこれに限定されるものではない。
【0075】
実施例および比較例を実行するために使用される化学物質は、以下の通りである。
【0076】
プルロニック−F127(12,500Da)、プルロニックF−68(8,400Da)、およびプルロニックL−35(1,900Da)は、BASF Corporationから入手した。無水テトラヒドロフラン(以下、「THF」と称す)、4−ジメチルアミノピリジン(以下、「DMAP」と称す)、無水ジメチルスルホキシド(以下、「無水DMSO」と称す)は、Acroseから入手した。N,N’−ジスクシンイミジルカーボネート(以下、「DSC」と称す)、パクリタキセル(以下、「PTX」と称す)は、Fluorochem社から入手した。L−アスパラギン酸、L−アスパラギン、L−リジン、L−セリン、L−チロシンは、Acroseから入手した。L−ロイシン、L−システイン、L−メチオニンは、cj haide(ningbo) biotech co. ltd.から入手可能した。カルボキシメチルセルロース(CMC)はSigma社から、ヒアルロン酸(HA)はKewpie社から、NaClはAcroseから入手した。
【0077】
実施例1
疎水性アミノ酸修飾プルロニックの調製
【0078】
(1)ロイシン修飾プルロニックF−127
疎水性アミノ酸であるL−ロイシンを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−127および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間撹拌した。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、ロイシンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌し続けた。得られたロイシン修飾プルロニック溶液を透析で精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:45%)。
1H NMR (D
2O): δ 4.30, 4.21 (m, −
CH2−O−(C=O)−NH−), 4.01 (m, −O−(C=O)−NH−
CH−), 1.70 (m, −
CH2−CH−(CH
3)
2), 1.60 (m, −
CH−(CH
3)
2), 0.96 (m, −CH−(
CH3)2); FTIR: 780 cm
−1(−NH wag), 1531 cm
−1 (−CNH), 1569 cm
−1 (−(C=O)−NH−), 1731 cm
−1 (−(C=O))。
【0079】
ロイシン修飾プルロニックF−127の例示的な化学構造は、以下のように提供される。
【化5】
【0080】
(2)ロイシン修飾プルロニックF−68
疎水性アミノ酸であるL−ロイシンを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−68および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間撹拌した。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、ロイシンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌し続けた。得られたロイシン修飾プルロニック溶液を透析で精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:40%)。
1H NMR (D
2O): δ 4.28, 4.23 (m, −
CH2−O−(C=O)−NH−), 4.06 (m, −O−(C=O)−NH−
CH−), 1.72 (m, −
CH2−CH−(CH
3)
2), 1.62 (m, −
CH−(CH
3)
2), 0.97 (m, −CH−(
CH3)2); FTIR: 780 cm
−1 (−NH wag), 1531 cm
−1(−CNH), 1569 cm
−1 (−(C=O)−NH−), 1731 cm
−1 (−(C=O))。
【0081】
ロイシン修飾プルロニックF−68の例示的な化学構造は、以下のように提供される。
【化6】
【0082】
(3)ロイシン修飾プルロニックL−35
疎水性アミノ酸であるL−ロイシンを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックL−35および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間撹拌した。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、ロイシンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌し続けた。得られたロイシン修飾プルロニック溶液を透析で精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:35%)。
1H NMR (D
2O): δ 4.30 (m, −O−(C=O)−NH−
CH−), 4.22 (m, −
CH2−O−(C=O)−NH−), 1.70 (m, −
CH2−CH−(CH
3)
2), 1.61 (m, −
CH−(CH
3)
2), 0.97 (m, −CH−(
CH3)2); FTIR: 780 cm
−1 (−NH wag), 1531 cm
−1(−CNH), 1569 cm
−1 (−(C=O))−NH−), 1731 cm
−1(−(C=O))。
【0083】
ロイシン修飾プルロニックL−35の例示的な化学構造は、以下のように提供される。
【化7】
【0084】
(4)メチオニン修飾プルロニックF−127
疎水性アミノ酸であるL−メチオニンを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−127および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、室温で24時間攪拌を続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、メチオニンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌した。得られたメチオニン修飾プルロニック溶液を透析で精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:45%)。
1H NMR (D
2O): δ 4.30 (m, −O−(C=O)−NH−
CH−), 4.23 (m, −
CH2−O−(C=O)−NH−), 2.61 (m, −
CH2−CH
2−S−CH
3), 2.16 (s, −S−
CH3), 2.13, 1.96 (m, −CH
2−
CH2−S−CH
3); FTIR: 1215 cm
−1 (−CNH), 1603 cm
−1 (−(C=O)−NH−), 1733 cm
−1(−(C=O))。
【0085】
実施例2
塩基性アミノ酸修飾プルロニックの調製
【0086】
(1)リジン修飾プルロニックF−127
塩基性アミノ酸であるL−リジンを2.4ミリモルの量で蒸留水に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−127および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、リジンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌し続けた。得られたリジン修飾プルロニック溶液を透析で精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:45%)。
1H NMR (D
2O): δ 4.25 (m, −
CH2−O−(C=O)−NH−), 3.16 (m, −O−(C=O)−NH−
CH2−), 1.81, 1.70 (m, NH−CH
2−CH
2−CH
2−
CH2), 1.57 (m, NH−CH
2−
CH2−CH
2−CH
2−), 1.41 (m, NH−CH
2−CH
2−
CH2−CH
2−, 2H); FTIR: 776 cm
−1 (−NH wag), 1557 cm
−1 (−CNH), 1710 cm
−1(−(C=O)).
【0087】
実施例3
酸性アミノ酸修飾プルロニックの調製
【0088】
(1)アスパラギン酸修飾プルロニックF−127
酸性アミノ酸であるL−アスパラギン酸を4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−127および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、アスパラギン酸を含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌した。得られたアスパラギン酸修飾プルロニック溶液を透析により精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:45%)。
1H NMR (D
2O): δ 4.38 (m, −O−(C=O)−NH−
CH−), 4.26 (m, −
CH2−O−(C=O)−NH−), 2.70, 2.51 (m, −
CH2−(C=O)−OH); FTIR: 776 cm
−1 (−NH wag), 1557 cm
−1 (−CNH), 1710 cm
−1(−(C=O)).
【0089】
(2)アスパラギン修飾プルロニックF−127
酸性アミノ酸であるL−アスパラギンを2.4ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−127および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、アスパラギンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌した。得られたアスパラギン酸修飾プルロニック溶液を透析により精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:45%)。
1H NMR (D
2O): δ 4.35 (m, −O−(C=O)−NH−
CH−), 4.27 (m, −
CH2−O−(C=O)−NH−), 2.82, 2.68 (m, −
CH2−(C=O)−NH
2); FTIR: 1416 cm
−1 (−CN), 1680 cm
−1 (−(C=O)−NH−), 1720 cm
−1(−(C=O))。
【0090】
実施例4
芳香族アミノ酸修飾プルロニックの調製
【0091】
チロシン修飾プルロニックF−127
芳香族アミノ酸であるL−チロシンを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量のプルロニックF−127および4.8ミリモルの量のDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分攪拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、チロシンを含む溶液を加え、24時間撹拌を続けた。得られたチロシン修飾プルロニック溶液を透析により精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:40%)。
1H NMR (D
2O): δ 7.20 (d,
2CH,
6CH −phenyl ring), .6.89 (d,
3CH,
5CH−phenyl ring), 4.21 (m, −
CH2−O−(C=O)−NH−), 4.11 (m, −O−(C=O)−NH−
CH−), 3.15, 2.83 (m, −
CH2−ph); FTIR: 1403 cm
−1 (−CN), 1517 cm
−1 (−CNH), 1604 cm
−1 (−C−C−/C=C), 1710 cm
−1 (−(C=O))。
【0092】
実施例5
親水性アミノ酸修飾プルロニックの調製
【0093】
(1)セリン修飾プルロニックF−127
親水性アミノ酸であるL−セリンを4.8ミリモルの量で蒸留水に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量のプルロニックF−127および4.8ミリモルの量のDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分攪拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、セリンを含む溶液を加え、24時間撹拌を続けた。得られたセリン修飾プルロニック溶液を透析により精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:40%)。
1H NMR (D
2O): δ 4.30 (m, −
CH2−O−(C=O)−NH−), 4.16 (m, −O−(C=O)−NH−
CH−), 3.93, 3.83 (m, −
CH2−OH); FTIR: 1410 cm
−1 (−CN), 1604 cm
−1 (−(C=O)−NH−), 1720 cm
−1 (−(C=O))。
【0094】
(2)システイン修飾プルロニックF−127
親水性アミノ酸であるL−システインを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量のプルロニックF−127および4.8ミリモルの量のDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分攪拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、システインを含む溶液を加え、24時間撹拌を続けた。得られたシステイン修飾プルロニック溶液を透析により精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:50%)。
1H NMR (D
2O): δ 4.46 (m, −O−(C=O)−NH−
CH−), 4.27 (m, −
CH2−O−(C=O)−NH−), 3.20, 2.98 (m, −
CH2−SH); FTIR: 1412 cm
−1 (−CN), 1515 cm
−1 (−CNH), 1604 cm
−1(−(C=O)−NH−), 1700 cm
−1 (−(C=O))。
【0095】
実施例6〜9
癒着防止用温度感受性組成物の調製
【0096】
温度感受性組成物を、様々な成分および所定の含有比率を用いて調製し、その処方を以下の表1に示した。簡単に説明すると、まず、ある量の塩化ナトリウム(NaCl)を蒸留水に溶解して、濃度20%(w/v)の原液を得た。次に、実施例2で調製したある量のポリマー粉末を、ある量のヒアルロン酸(HA)またはカルボキシメチルセルロース(CMC)、ある量の蒸留水、および塩化ナトリウム(NaCl)の溶液(含むまたは含まない場合あり)と混合して、リジン修飾プルロニックF−127、ヒアルロン酸またはカルボキシメチルセルロース、および塩化ナトリウムを含む、または塩化ナトリウムを含まない温度感受性組成物を得た。
【0097】
【表1】
【0098】
実施例10〜14
癒着防止および薬物送達用の温度感受性組成物の調製
【0099】
温度感受性組成物は、主ポリマー成分のそれぞれがリジンおよびシステイン修飾プルロニックF−127の組み合わせで置き換えられていることを除いて、実施例6〜9と同じ方法を使用して調製された。リジンの含有量は、最終的組み合わせの80重量%、システインは20重量%である。調製した組成物の処方を、次の表2に示す。
【表2】
【0100】
実施例15〜18
粘膜付着性測定用温度感受性組成物の調製
【0101】
カルボキシメチルセルロース成分の各濃度を、最終組成物の1重量%の濃度に置き換えたこと以外は、実施例8〜9および13〜14と同じ方法で、温度感受性組成物を調製した。調製した組成物の処方を、以下の表3に示す。
【0102】
【表3】
【0103】
実験例1
レオロジーの特性評価
【0104】
(1)アミノ酸修飾ポリマーヒドロゲルの調製
実施例1〜5で調製したアミノ酸修飾プルロニックF−127のそれぞれを、15%(w/v)の最終濃度で蒸留水に溶解した。
【0105】
(2)ポリマー組成物の調製
ポリマー組成物の各ヒドロゲルを、実施例6〜14に記載されているように調製し、その処方を表1および2に示す。
【0106】
(3)比較例1の調製
ある量の未修飾プルロニックF127に、ある量の蒸留水を加えて、最終濃度が15%(w/v)のポリマーヒドロゲルを形成した。
【0107】
(4)ゾル−ゲル相転移温度の測定
実施例1〜5で調製したヒドロゲル、実施例6〜14のヒドロゲル組成物、および比較例1の未修飾の対応物のゾル−ゲル相転移温度を、コーンプレート構成と溶媒の蒸発を防止するための金属カバーを備えたHR10レオメーター(TA Instruments社)を用いて特徴付けた。前記ゾル−ゲル相転移温度は、材料の貯蔵弾性率と損失弾性率が交差する特定の温度で定義され,20℃〜37℃の範囲で、温度ランプ2℃/分、トルク値100μN・m、固定周波数1Hzの振動モードで測定した。前記ゾル−ゲル相転移温度の測定結果を、表4に示す。
【0108】
表4は、実施例1〜14で調製されたヒドロゲルおよびヒドロゲル組成物のゾル−ゲル相転移温度を示している。表4に示すように、まず、調製した全てのヒドロゲルおよび組成物が、温度感受性の特性を有することが確認された。次に、実施例1〜6で調製したヒドロゲル、および実施例10の組成物は、すべて比較例1のものよりも高いゾル−ゲル相転移温度を示した。有意に、実施例2、5(2)、および10で調製されたヒドロゲルは、比較例1よりも著しく高いゾル−ゲル相転移温度を示しており、このことは、ヒドロゲルと水との間により多くの水素結合または相互作用が形成されたことを示しており、水素結合または相互作用の形成は、ポリマー鎖におけるリジンのアミノ基またはシステインのチオール基に起因すると考えられ、その結果、これらの修飾ヒドロゲルの疎水性鎖が凝集し最終的に固体状のゲルを形成するためには、より高い温度を必要とする可能性がある。さらに、ヒアルロン酸(HA)またはカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む組成物は、それらの主成分よりもわずかに低いゾル−ゲル相転移温度を示した。これは、ヒアルロン酸(HA)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)の吸水性に起因するものと考えられる。一般的に、ある範囲では、プルロニックベースのヒドロゲルのゾル−ゲル相転移温度は、プルロニックの濃度が高くなるにつれて低下する。そのため、組成物の水がカルボキシ多糖の添加成分に部分的に吸収されると、カルボキシ多糖と周囲の水との間に一定の水素結合が形成され、組成物中のプルロニックの相対的な濃度が高くなり、その結果、組成物のゾル−ゲル相転移温度が低下する。さらに、HAまたはCMCにNaClを加えた組成物のゾル−ゲル相転移温度が、NaClを加えずに調製した組成物のゾル−ゲル相転移温度よりも低い理由も、同じメカニズムで説明できる。NaClが周囲の水に溶解すると、ある量のナトリウムイオンが、周囲の水およびカルボキシ多糖とイオン結合による強い相互作用を形成し、これにより水分子が固定化されて組成物中のプルロニックの相対的な濃度が高まり、その結果、組成物のゾル−ゲル相転移温度が劇的に低下する可能性がある。ゾル−ゲル相転移温度の測定結果を通じて、金属イオンを有するカルボキシ多糖の添加がゾル−ゲル相転移温度に大きな影響を及ぼす可能性があり、前記金属イオンは組成物のゾル−ゲル相転移温度の調整に有用である可能性がある。
【0109】
【表4】
【0110】
実験例2
インビトロでのポリマー滞留時間の測定
【0111】
(1)アミノ酸修飾ポリマーヒドロゲルの調製
実施例1〜5で調製されたアミノ酸修飾プルロニックF−127のそれぞれを、15%(w/v)の最終濃度で蒸留水に溶解した。
【0112】
(2)ヒドロゲル組成物の調製
ポリマー組成物の各ヒドロゲルを、実施例6〜14に記載されたように調整し、その処方を表1および2に示した。
【0113】
(3)比較例1の調製
ある量のプルロニックF−127に、ある量の蒸留水を加えて、最終濃度が15%(w/v)のポリマーヒドロゲルを形成した。
【0114】
(4)比較例2の調製
ある量のヒアルロン酸に、ある量の蒸留水を加えて、最終濃度が0.5%(w/v)のポリマーゲルを形成した。
【0115】
(5)比較例3の調製
ある量のカルボキシメチルセルロースに、ある量の蒸留水を加えて、最終濃度が5%(w/v)のポリマーゲルを形成した。
【0116】
(6)滞留時間の測定
本発明において、調製されたポリマーヒドロゲルの滞留時間を測定するために適用される方法論は、米国特許第10,105,387号を参照する。
【0117】
簡単に言えば、実施例1〜5および比較例1、2、3で調製した各ポリマーヒドロゲル1mLを、7mLの個々のバイアルに加えた。次に、すべてのバイアルを37℃のインキュベーターに入れて、固体のポリマーヒドロゲルを得た。各個別のバイアル内のヒドロゲルがすべてゲル相になった後、リン酸緩衝液(PBS、pH7.4)を1mL添加した。その後、バイアルを37℃のインキュベーターで保管しながら、1日1回、一定時間間隔で、調製したポリマーゲルの表層のリン酸緩衝液を除去した。ポリマーゲルの残量を観察して、インビトロでのポリマーの滞留時間を測定し、その結果を表5に示した。
【0118】
表5に示すように、実施例1〜5で調製したヒドロゲルのゲル滞留時間は、いずれも比較例1のゲル滞留時間よりも長く、4〜18日であった。特に、実施例2および5(2)で調製されたヒドロゲルは、それぞれ16日および18日と著しく優れたゲル滞留時間を示した。比較例1は、いかなるタイプのアミノ酸でも修飾されておらず、最も短いゲル滞留時間を示し、約2日であった。これらの結果から、アミノ酸で修飾したプルロニックヒドロゲルでは、ポリマー鎖内の水素結合、ポリマー鎖間の水素結合、ポリマー鎖と周囲の水との間の水素結合が増加し、それによりヒドロゲルの水食耐性能が向上することが示唆される。さらに、リジンおよびシステイン修飾プルロニックヒドロゲルは、そのアミン基およびチオール基が水素結合を形成するか、さらには(チオール基を介して)ジスルフィド結合を形成する傾向があり、これにより最終的には水食に対するゲルの安定性が大きく向上するため、水食耐性能の向上を示すさらなる具体的証拠が提供される。結論として、本発明は、未修飾のプルロニックと比較して、ゲルの滞留時間が改善されたアミノ酸修飾プルロニック化合物を提供する。
【0119】
一般的に、創傷が治癒するまでの時間は、創傷の程度によって異なるが、約7日間である。したがって、創傷治癒過程における組織癒着の発生を防止するためには、設計された組成物は、7日よりも長いゲル滞留時間を有する処方を有する必要がある。
【0120】
ここで、本発明は、7日よりもはるかに長いゲル滞留時間を有する、設計された組成物を提供することを目的としており、21日を超えるゲル滞留時間を有する組成物は、効率的な癒着防止効果を呈し得ると想定される。表5に示すように、実施例6〜14のヒドロゲル組成物のゲル滞留時間は、いずれも比較例1、2、3のゲル滞留時間よりも長く、21日超の長時間のゲル滞留時間を示すものが多いことが確認される。さらに、実施例2のヒドロゲルと、実施例6〜9のヒドロゲル組成物とを比較することにより、ヒアルロン酸の添加は、前記組成物の機械的強度をわずかに増加させる可能性があり(16日から17日)、塩化ナトリウムを伴うヒアルロン酸の添加は、前記組成物のゲル滞留時間を大幅に改善する可能性がある(17日から21日超)ことが明らかである。興味深いことに、カルボキシメチルセルロースの添加は、前記組成物の機械的強度を大幅に向上させることができ(16日から21日まで)、塩化ナトリウムを有するカルボキシメチルセルロースの添加により、前記組成物のゲル滞留時間を大幅に延長することができた(16日から21日超)。さらに、実施例2および実施例5(2)で調製されたヒドロゲルと、実施例10〜14のヒドロゲル組成物とを比較することにより、80%の実施例2と20%の実施例5(2)との混合で調製されたポリマーの組み合わせ(実施例10)は、実施例2と実施例5(2)との間でゲル滞留時間が合理的に増加したことが示される。興味深いことに、実施例10をヒドロゲル組成物の主成分として使用した場合、塩化ナトリウムを含むまたは含まないに関わらず、ヒアルロン酸またはカルボキシメチルセルロースの添加は、いずれも21日超の顕著に長いゲル滞留時間を示した。これらの結果から、アミノ酸修飾プルロニックF−127に、金属イオンを含むまたは含まないに関わらず、カルボキシ多糖(carboxypolysacchride)を添加することで、前記組成物の機械的強度を向上させることができ、組成物における各成分間の、より多くの相互作用の形成を促進して、組成物の水性構造を強化・安定化させ、最終的にヒドロゲル組成物のゲル滞留時間を延長させ得ることが示唆される。
【0121】
【表5】
【0122】
実験例3
インビトロ粘膜付着性の測定
【0123】
(1)ポリマー組成物溶液の調製
ポリマー組成物の各溶液を、表6に記載されるように調製した。注意すべきことに、実施例15〜18では、測定が非常に困難であったため、最終濃度1%(w/v)のカルボキシメチルセルロースを使用した。成分として5%(w/v)のカルボキシメチルセルロースを使用した場合、組成物は非常に高い粘度を示し、前記組成物の粘膜付着性を正確に測定することができなかった。そこで、カルボキシメチルセルロースの濃度を下げることで、この問題を解決し、異なる処方間の粘膜付着性の違いの傾向を観察することができる。測定した組成物の処方を、以下の表6に示す。
【0124】
【表6】
【0125】
(2)比較例1の調製
ある量のプルロニックF−127に、ある量の超純水を加えて、最終濃度が15%(w/v)のポリマーヒドロゲルを形成した。
【0126】
(3)ムチン溶液の調製
ムチン粉末を超純水に溶解して5%(w/v)の溶液を得ることによって、ムチン溶液を調製した。詳細には、4℃に維持された冷水浴中で、穏やかな磁気撹拌(200rpm)の下、100mlの超純水に、ある量のムチンをゆっくりと加えた。調製を終了すると、ムチン溶液を、使用するまで4℃で保存した。
【0127】
(4)ポリマー組成物−ムチン混合物の調製
表5に示すような溶液で調製したポリマー組成物のそれぞれと、(2)に記載したように比較例1で調製した未修飾ポリマー粉末とを、調製した5%(w/v)のムチン溶液と個別に混合して、15%(w/v)のポリマー組成物−ムチン混合物を得た。
【0128】
(5)インビトロ粘膜付着性判定
ヒドロゲル粘膜付着の予測的かつ間接的な評価を得るために、レオロジー法を用いた(Hassan, E.E.,ら, A Simple Rheological method for the in Vitro Assessment of Mucin−Polymer Bioadhesive Bond Strength,Pharm Res 7,491−495, 1990)。実施例6〜7、10〜12、および15〜18で調製された組成物溶液、比較例1の未修飾の対応物、調製されたムチン溶液、およびポリマー組成物とムチン溶液との混合物の粘膜付着性を、コーンプレート構成と、溶媒の蒸発を防止するための保護金属カバーとを備えたHR10レオメーター(TA Instruments)を用いて評価した。レオロジー分析は、37℃で10秒
−1のせん断速度のフローモードを用いて行い、熱衝撃による構造変化を避けるために、各分析の前に室温で5分間の休止時間を設けた。
【0129】
この実験は、ポリマー組成物とムチンの溶液との混合物から得られた分散液の測定された粘度の評価に基づいている。組成物とムチンとの間の相互作用の程度は、混合物の最終粘度(η
最終)の測定であり、これはこれらの成分間の確立された相互作用に対するパラメータを表し、以下の式によって計算することができる。
【0130】
η
最終=η
混合物−(η
ポリマー組成物+η
ムチン)
ここで、
η
混合物=ポリマー組成物とムチンとを含む混合物の粘度
η
ポリマー組成物=ポリマー組成物の粘度
η
ムチン=ムチンの粘度
【0131】
ポリマーとムチンの間に相互作用がある場合、値はη
最終>0(Mayol L.ら、A novel poloxamers/hyaluronic acid in situ forming hydrogel for drug delivery:Rheological,mucoadhesive and in vitro release properties,Eur J Pharm Biopharm 70(1);199−206,2008)であり、結果を表7に示す。
【0132】
表7に示されるように、すべての実施例で調製したポリマー組成物の粘膜付着性を、η
最終の計算された粘度で表した。明らかに、実施例10および15〜18のポリマー組成物は一定の程度の粘膜付着性を示し、それらはすべて比較例1の粘膜付着性よりも有意に高い値を示した。一方、他の実施例のポリマー組成物はすべてη
最終の負の値を示し、成分としてのカルボキシメチルセルロースの使用はポリマー組成物への粘膜付着性の増加をもたらすが、ヒアルロン酸の使用は逆の結果をもたらすことを示唆している。さらに、実施例16および18は、実施例17と比較してη
最終の値が著しく高く、金属イオンの添加が前記組成物の粘膜付着特性を促進するであろうことを示している。これらの結果は、カルボキシメチルセルロースの天然の特性によるものである可能性がある。カルボキシメチルセルロースは、組織と水素結合を形成できる複数のカルボキシル基を有しているため、優れた組織付着性を有することが報告されている。さらに、金属イオンを添加することで、カルボキシメチルセルロース、ポリマー、組織間の相互作用がより強くなり、結果として組成物の粘膜付着特性を向上させる効果が高まる。
【0133】
また、カルボキシメチルセルロースを添加していない実施例10自体のポリマー組成物は、有意に強い粘膜付着性を示し、このことは、リジンからのアミン基およびシステインからのチオール基がムチンと水素結合および/またはジスルフィド結合を形成できる利用可能な側鎖を、このポリマー組成物が有しているためと説明できる。その結果、このポリマー組成物は、強い粘膜付着性を示すことができる。
【0134】
【表7】
【0135】
実験例4
動物モデルでの癒着防止効果の試験
【0136】
(1)比較例1の作成
ある量のプルロニックF127に、ある量の蒸留水を加えて、最終濃度が15%(w/v)のポリマーヒドロゲルを形成した。
【0137】
(2)ヒドロゲル組成物の調製
ポリマー組成物の各ヒドロゲルを、実施例6〜14に記載されているように調製し、その処方を表1および2に示す。
【0138】
(2)動物試験
提供されたポリマー組成物の組織癒着防止効果を評価するために、いくつかの改変を加えた側壁欠損−盲腸擦過のラットモデルを実施した。ここでは、実施例6〜14で調製したポリマー組成物を実験群として用い、比較例1で調製した未修飾の対応物を比較群として用い、手術部位に材料を適用しない対照群を用いた。
【0139】
動物試験では、1群あたり4匹の雄のSprague Dawley(SD)ラットを、Zoletil(登録商標)とRompun(登録商標)(1:1)とを含む混合液を1mL/Kg注入することにより腹腔内麻酔した。麻酔をかけたラットを剃毛し、ポビドンで消毒した後、腹壁の白線に沿って5cmの長さで切開して腹膜を開いた。その後、メスを用いて右腹壁に1×2cm
2の腹膜欠損を形成した。滅菌した手術用ガーゼを用いて、穿孔しない程度に漿膜が損傷して出血するまで擦り切って、盲腸の欠損を作成した。その後、損傷した盲腸および損傷した腹壁を3−0絹縫合糸で縫合し、強制的に癒着を起こさせた。実験群では、実施例6〜14および比較例1で調製した各ヒドロゲル0.5mLを損傷部位に個別に均一に適用したところ、2分以内にその場でゲル化が起こった。対照群では、0.5mLの滅菌した通常の生理食塩水で欠損部を洗浄した。最後に、腹膜を3−0絹縫合糸で縫合し、皮膚を4−0絹縫合糸で縫合した。
【0140】
術後10日目に、組織癒着の程度を、スコアが高いほど組織の癒着が激しいことを示すHoffmann癒着スコアリングシステムに従って二重盲検法で調べた。
【0141】
Hoffmann癒着スコアリングシステムを用いた組織癒着の程度の検討に関する詳細な説明を、以下の表8に示す(Hoffmann NE.,ら,Choice of hemostatic agent influences adhesion formation in a rat cecal adhesion model,J Surg Res.155(1),77−81,2009)。組織の癒着度の評価された定量的な結果は、表9に示されており、
図1にグラフで示すことができる。統計分析は、Prism 9 for Mac(GraphPad Software、USA)を用いて、両側計算による一元配置分散分析(ANOVA)で行い、対照群と実験群の差がp<0.05の場合に統計的に有意であると判断した。対照群、比較群、実験群の組織癒着の写真を、
図2(A−K)に示した。
【0142】
表9(
図1も参照)に示すように、実施例6〜14で調製されたヒドロゲルは、いずれも組織癒着を有意に抑制する効果を示したが、比較例1で調製したヒドロゲルは、対照群と比較して、組織癒着を防止する効果がわずかであった(
図2(A〜K)も参照)。特に、実施例9、13、および14で調製されたヒドロゲルは、組織癒着防止効果が著しく優れていた。さらに、ゲル滞留の結果を見ると、実施例9、13、14はいずれも21日を超える長いゲル滞留時間を示した。これらの結果から、滞留時間の長いヒドロゲルは、組織癒着防止効果が高いと考えられ、本発明者らの想定を裏付けるものであった。しかし、実施例7および実施例11〜12も、21日を超える長いゲル滞留時間を示したが、優れた癒着防止性能を示さなかった(
図2(D、H〜J)参照)。これは、それらの粘膜付着特性に起因する可能性がある。癒着防止剤の粘膜付着性は、癒着防止剤が創傷組織にしっかりと付着できなければ、何らかの必要な活動の際に変形して被覆率が低下し、組織癒着を十分に防止できない可能性がある。粘膜付着性の測定結果に示されるように、実施例7および11〜12の組成物はすべてη
最終の負の値を示し、これらの組成物とムチンとの間の弱い相互作用を示し、これが癒着防止能にさらに影響を及ぼす可能性がある。
【0143】
結論として、理想的な癒着防止剤を設計するために、滞留時間だけが考慮すべき1つの側面ではなく、粘膜付着性も注意深く考慮すべきである。本発明は、長時間の滞留時間を呈するだけでなく有意な粘膜付着特性を示す1つまたはいくつかの設計されたポリマー組成物を提供し、前記ポリマー組成物を優れた癒着防止剤となる。
【0144】
【表8】
【0145】
【表9】
a:平均±SEM(n = 4); *:p <0.05; **:p <0.01; ***:p <0.001; ****:p <0.0001; ns:有意差なし
【0146】
実験例5
薬学的に活性な薬剤の充填、封入、および放出
【0147】
(1)PTXとアミノ酸修飾ポリマーとの組み合わせの溶液混合物の調製
まず、12mgのPTXを、8mLのメタノールに溶解した。その後、800mgのリジン修飾プルロニックF−127と、200mgのシステイン修飾プルロニックF−127とを含む実施例10のポリマー1gを、PTX−メタノール溶液に溶解し、PTXとアミノ酸修飾ポリマーとの組み合わせの混合物を得た。
【0148】
(2)比較例1の調製
PTX12mgをメタノール8mLに溶解した。PTX−メタノール溶液に未修飾のプルロニックF−127を1g加え、PTX−プルロニックF−127混合物を形成した。
【0149】
(3)薬剤の充填と封入
ここでは、薬学的に活性な薬剤としてパクリタキセルを選択し、これを、薄膜水和法を用いて充填および封入した(Wei Z.,ら,Paclitaxel−Loaded Pluronic P123/F127 Mixed Polymeric Micelles:Formulation,Optimization and in Vitro Characterization,Int.J.Pharm,376(1),176−185,2009)。比較例1および実施例10で調製した薬剤とアミノ酸修飾ポリマーとの混合物を、それぞれ個別のナス型のガラス瓶に移し、1時間かけて回転蒸発させてメタノールを除去した。メタノールが除去されると、ボトル内にはPTX−充填ポリマー薄膜の層が形成され、これを50℃の真空オーブンに一晩入れて溶媒の除去を完了した。各PTX−充填ポリマー薄膜を8mLの蒸留水で再水和してPTXを封入した後、23μmのセルロース膜でろ過して、封入されていないPTXを除去した。その後、薬物充填容量と薬物封入効果を評価するために、PTXを封入したポリマーを凍結乾燥して、PTXポリマー粉末を生成した。
【0150】
薬物充填容量と薬物封入効果の計算式を、以下のように示した。
【数1】
【数2】
とし、その結果を表10に示す。
【0151】
【表10】
【0152】
表9に示すように、実施例10で調製したヒドロゲルは、比較例1と比較して、薬物充填容量およびPTX封入効果が向上することが確認された。
【0153】
(4)薬物放出
本明細書において、無膜拡散法(Zhang L.,ら,Development and in−Vitro Evaluation of Sustained Release Poloxamer 407(P407)Gel Formulations of Ceftiofur,J.Controlled Release,85(1),73−81,2002)を用いて、薬物放出プロファイルを調べた。簡単に説明すると、まず、50mgのカルボキシメチルセルロースを、実施例10で調製されたPTX封入ポリマー粉末に添加して、最終的なポリマー成分が実施例13と同じである組成物を得た。次いで、比較例1で調製されたPTX封入ポリマー粉末のサンプルと、得られた組成物のサンプルとを、それぞれ対応するビーカーに入れ、再水和させて、ポリマーまたはポリマー組成物を20%(w/v)含むPTX−ポリマーヒドロゲルを形成した。ここでは、比較例1から、ポリマー含有量が20%(w/v)のPTX−未修飾プルロニックヒドロゲルを調製し、比較サンプルとした。次に、調製したPTX−ポリマーヒドロゲルを含む各ビーカーを、37℃のインキュベーター内で予備加温し、ゲル状態を保持した。その後、PBS−メタノール混合溶液(90%:10%;v/v)を含む予め温めておいた放出媒体25mLを、調製した各PTX−ポリマーヒドロゲルの表面に直接添加し、37℃のインキュベーター内で100rpmの振とう速度で静置した。所定の時間に各ビーカーから1mLの溶液を取り出して薬剤の放出を調べ、続いて1mLの放出媒体を加えてシンク状態(sink condition)を維持した。調製した組成物および比較例1の薬物放出試験を3連で行い、UV波長を236nmに設定したUV−Vis分光計で薬物放出データを検出した。分析された薬物放出プロファイルは、
図3(A−B)に表示されている。
【0154】
図3Aは、未修飾のプルロニックF−127から調製したヒドロゲルのPTX放出プロファイルを示す。
図3Aに示すように、封入されたPTXの約50%が24時間以内に放出され、すべてのPTXが48時間以内に未修飾プルロニックF−127から完全に放出され、迅速な薬物放出挙動を示した。さらに、封入されたPTXの約30%が最初の12時間以内に放出されたことから、ダンピング(dumping)薬物放出が起こったことがわかる。
図3Bは、実施例10の組成物によってPTXを最初に封入し、続いて得られたPTX−ポリマーに、ある量のカルボキシメチルセルロースを添加した、実施例13と同じ成分を含むヒドロゲルのPTX放出パターンを示す。
図3Bに示すように、最初の24時間では、実施例10で調製されたヒドロゲルから10%未満のPTXが放出され、続く144時間では40%未満のPTXがゆっくりと放出され、このヒドロゲル組成物の顕著に持続可能な薬物放出プロファイルを示した。これらの結果は、これら2つのヒドロゲルの機械的強度の違いに起因すると考えられる。また、実験例2における実施例13のゲル滞留結果に示されるように、実施例13のヒドロゲル組成物は、比較例1で調製したヒドロゲルと比較して、極めて長いゲル滞留時間を示した。
【0155】
結論として、本発明者らの実験結果に基づき、プルロニックベースの薬物放出システムは、様々なアミノ酸修飾プルロニックポリマーからなるポリマーの組み合わせを用いることにより、薬物充填容量および薬物封入効果を大幅に向上させ得ることが確認される。さらに、異なるアミノ酸修飾プルロニックポリマーとカルボキシ多糖との組み合わせを含む組成物を使用することにより、薬物放出の持続可能性を大きく向上させることができる。
【0156】
要約すると、本発明は、金属イオンを含むまたは含まないアミノ酸修飾プルロニック/組み合わせとカルボキシ多糖とを含む組成物が、以下のことを行うことができることを見出した。(1)ポリマー構造の機械的強度を高め、(2)水食耐性能を高め、(3)ポリマーと組織との間の付着性を高め、(4)組織癒着防止能を高め、(5)薬学的に活性な薬剤の送達における放出プロファイルを改善することができる。
【0157】
本発明を前述の好ましい実施形態を参照して詳細に説明してきたが、前述の説明は本発明を限定するものとして解釈されるべきではない、ことを理解されたい。前述の内容を読めば、様々な修正や置換が当業者には明らかになるであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるべきである。