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特開2021-184795組織癒着防止用温度感受性組成物およびその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-184795(P2021-184795A)
(43)【公開日】2021年12月9日
(54)【発明の名称】組織癒着防止用温度感受性組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20211112BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20211112BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20211112BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20211112BHJP
   A61P 41/00 20060101ALI20211112BHJP
   C08G 65/325 20060101ALI20211112BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20211112BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20211112BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20211112BHJP
   A61K 31/728 20060101ALN20211112BHJP
   A61K 31/717 20060101ALN20211112BHJP
   A61K 31/727 20060101ALN20211112BHJP
   A61K 31/715 20060101ALN20211112BHJP
   A61K 31/734 20060101ALN20211112BHJP
   A61K 31/737 20060101ALN20211112BHJP
   A61K 31/722 20060101ALN20211112BHJP
   A61K 31/77 20060101ALN20211112BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20211112BHJP
【FI】
   A61L31/06
   A61L31/04 100
   A61L31/04 120
   A61L31/14 300
   A61L31/16
   A61P41/00
   C08G65/325
   C08L5/00
   C08L71/00 Z
   C08K3/105
   A61K31/728
   A61K31/717
   A61K31/727
   A61K31/715
   A61K31/734
   A61K31/737
   A61K31/722
   A61K31/77
   A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2021-73645(P2021-73645)
(22)【出願日】2021年4月23日
(31)【優先権主張番号】63/014,756
(32)【優先日】2020年4月24日
(33)【優先権主張国】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】521178367
【氏名又は名称】博唯生技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】PRO‐VIEW BIOTECH CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲育▼嘉
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲運▼坤
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 文延
(72)【発明者】
【氏名】薛 ▲敬▼和
(72)【発明者】
【氏名】▲蔡▼ 協▲致▼
(72)【発明者】
【氏名】林 宣因
(72)【発明者】
【氏名】徐 ▲迺▼盛
(72)【発明者】
【氏名】林 子▲楡▼
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4C086
4J002
4J005
【Fターム(参考)】
4C081BA12
4C081BA16
4C081BB06
4C081BB08
4C081CA181
4C081CA241
4C081CC01
4C081CC08
4C081CD021
4C081CD081
4C081CF21
4C081DA12
4C084AA17
4C084MA28
4C084NA12
4C084ZC801
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086EA23
4C086EA25
4C086EA27
4C086FA02
4C086MA02
4C086MA06
4C086MA28
4C086MA67
4C086NA12
4C086ZC80
4J002AB02X
4J002AB05X
4J002CH02W
4J002DB006
4J002GB01
4J005AA02
4J005BD02
4J005BD05
(57)【要約】
【課題】
生体適合性、生分解性/生体吸収性、およびインビボでの持続性のある特性を、持続時間が長く、十分な被覆性または送達性を有し、さらに投与のための便利な操作性を有する癒着防止剤またはベクターの提供。
【解決手段】
本発明は、アミノ酸修飾ポリマー、カルボキシ多糖を含む組成物に関するものであり、癒着防止やベクター用途のための金属イオンをさらに含んでいてもよい。より具体的には、本発明は、組織の癒着を効率的に防止するための強化された機械的特性および改善された水食耐性特性を有する温度感受性組成物に関するものであり、生体適合性、生体分解性/吸収性、およびインビボ持続可能性を有するベクターとして機能することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと、カルボキシ多糖とを含む組成物であって、前記ポリマーが、下記式(I)のいずれか1つの構造またはその組み合わせを有する、組成物。
【化1】
(式中、
POLYは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)−ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)−ポリ(エチレンオキシド)(PEO)のトリブロックコポリマーであり、
mおよびnは、互いに独立して0または1であり、mおよびnが同時に0になることはなく、
AAは、アミノ酸残基であり、そのアミノ基は、POLYの鎖末端に直接結合して、カルバメート(O−C(=O)−NH)結合を形成する。)
【請求項2】
前記カルボキシ多糖が、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、ヒアルロン酸(HA)、アルギン酸塩、カルボキシメチルキトサン、ペクチン、カルボキシメチルデキストラン、ヘパリン硫酸、およびコンドロイチン硫酸からなる群から選択される1つまたは複数である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記POLYが、1,000〜20,000ダルトンの範囲の平均分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリマーのいずれか1つまたはその組み合わせの量が、組成物の5重量%〜30重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記カルボキシ多糖が、50kg/mol〜4,000kg/molの範囲の分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記カルボキシ多糖の含有量が、最終組成物の0.1重量%〜20重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記POLYが、プルロニックF−127(PF127)、プルロニックF−68(PF68)、およびプルロニックL−35(PL35)からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記アミノ酸残基が、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、および芳香族アミノ酸からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記POLYが、プルロニックであり、前記AAが、ロイシン、メチオニン、リジン、アスパラギン酸、アスパラギン、チロシン、セリン、およびシステインからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記組み合わせが、混合された式(I)のうちの2つ以上であり、前記POLYが、プルロニックF−127(PF127)であり、前記AAが、リジン、セリン、およびシステインからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
金属イオンをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記金属イオンが、Na、K、Ag、Cu+2、Mg+2、Ca+2、Zn+2、Al+3、Fe+3、Se+4、およびTi+4からなる群から選択される1つまたは複数である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、薬学的に活性な薬剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記薬学的に活性な薬剤が、抗癌剤、抗生物質、止血剤、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤、ホルモン、鎮痛剤、および麻酔薬からなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
術後組織癒着の防止および薬物送達のための、請求項1に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の参照〕
本出願は、米国仮特許出願第63/014,756号(2020年4月24日出願)の優先権の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔技術分野〕
本発明は、一般的に、組織癒着防止およびベクター用途に関するものである。特に、本発明は、組織癒着を効率的に防止するための強化された機械的特性および改善された水食耐性特性を有する温度感受性組成物に関し、生体適合性、生体分解性/生体吸収性、およびインビボで持続可能な特性を有するベクターとして機能することができる。
【背景技術】
【0003】
組織または臓器の癒着は、線維化を伴う損傷した組織が治癒する過程で、隣接する組織または臓器の表面に異常に結合する損傷した組織を称す。したがって、組織癒着は、組織修復メカニズムが、手術、外傷、感染症などによって引き起こされる損傷に反応するときに生じる。組織癒着は、どこでも生じ得るが、組織癒着を引き起こす最も一般的な要因は、手術である。手術の過程により引き起こされる組織癒着は、慢性的な痛み、虚血、腸閉塞、臓器障害などの重篤な臨床合併症を引き起こす可能性があり、癒着剥離のための再手術が必要となることが多く、そのような2回目の手術は生命を脅かす可能性がある。術後癒着除去のための再手術は、不十分な麻酔、過度の出血、異物に対する組織の反応、術後の炎症などの多くの危険因子が導入されるため、リスクが高い。したがって、術後の組織癒着を防止するために、損傷した組織と隣接する組織との間に物理的なバリアを導入して組織癒着の形成を妨げることが、広く受け入れられ、臨床的に使用されてきた。
【0004】
ポリマーまたはポリマー複合材料は、組織癒着を防止するための物理的な組織バリアとして広く使用されており、その生分解能に基づいて、非生分解性および生分解性/生体吸収性の2つのタイプに一般的に分類することができる。生分解性の癒着バリアは、フィルム・シート、液体、およびゲルなどを含む多くのタイプで、配合されている。非生分解性ポリマーは、創傷を持続的に分離することにより優れた癒着防止作用を発揮するが、生体適合性が低いため異物として存在し、結果的に創傷周辺の組織に炎症を引き起こす可能性がある。最悪の状況では、炎症が発生したときに非生分解性ポリマーを除去するために再手術が必要となる。一般的に、生分解性ポリマーは、優れた生体適合性を示すが、その癒着防止能は、非生分解性ポリマーの癒着防止能よりも相対的に低い。
【0005】
フィルム・シート型の組織バリアにより、損傷した組織が隣接する組織から物理的に隔離されるので、組織癒着を防止することができる。しかし、緊急手術の状況では、フィルム・シート型の癒着防止剤を取り扱うことは、困難である。さらに、フィルム・シート型組織バリアは、適用部位が位置的に複雑であったり、微細であったり、管状であったり、手の届きにくい位置にある場合の使用には適していない。また、フィルム/シート型の癒着防止剤を使用すると、縫合過程中に損傷部位にさらなる損傷をもたらす可能性があるという欠点がある。
【0006】
液状の癒着防止剤が、いくつか市販されており、術後に傷口全体を洗浄するための滴下注入剤として適用するのが容易である。しかし、これらの製品には共通して、適用部位への付着性が不十分であるという1つの欠点がある。
【0007】
これらの問題を解決するために、様々なゲル型癒着バリアが開発され、ポリマー溶液コーティング、注射剤、スプレー、ヒドロゲルコーティングとして損傷した組織に適用されている。これらの癒着防止剤の適用は、フィルム・シート型の癒着防止剤に比べて、操作時間を大幅に短縮することができる。しかし、ゲル型の癒着防止剤は、生体内での分解または溶解が早いため、早期に吸収されてしまい、最終的には癒着防止効果が低くなる。また、噴霧式のゲル型癒着防止剤の多くでは、凝集性バリアを形成するために粉末が使用されるが、バリア形成におけるそれらの有効性は低い。したがって、操作中に溶液特性を示すが、損傷組織に接触した後にゲル特性を示す温度感受性癒着防止剤が好ましい。さらに、ポリマー系癒着防止剤の前述の欠点を克服するために、このような防止剤は、体内での急速な溶解に対して強い機械的強度を示すこともできることが非常に望ましい。
【0008】
一般にa−ポリ(エチレンオキシド)−b−ポリ(プロピレンオキシド)−a−ポリ(エチレンオキシド)(PEO−PPO−PEO)の構造を有するトリブロックコポリマーとして公知のプルロニック(Pluronic)またはポロキサマーは、感熱性のゾル−ゲル転移挙動を示す熱可逆性材料である。一般的に、プルロニックは低温では溶液状態で存在しているが、温度が上がるとゲル化する。このようなゾル−ゲル転移挙動は、組成、濃度、分子量、環境イオン強度、pH値、添加剤などの要因によって影響を受ける可能性がある。したがって、プルロニックをベースにしたポリマーは、その多彩な物理化学的特性および生分解特性により、非常に魅力的である。プルロニックは優れたゾル−ゲル相転移挙動を示すものの、その水和構造は比較的弱く、水に容易に溶解する。したがって、プルロニックは滞留時間が短いという問題があり、手術部位で十分な時間の癒着抑制を行うことができない。また、プルロニックはベクターとして製薬科学の分野で長い間広く研究されてきたが、機械的強度および安定性が不十分であり、ベクターとしての用途には適さないことがわかっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、この分野は発展しているが、さらなる改善が依然必要である。理想的には、生体適合性、生分解性/生体吸収性、およびインビボでの持続性のある特性を、持続時間が長く、十分な被覆性または送達性を有し、さらに投与のための便利な操作性を有する癒着防止剤またはベクターに提供することが望ましい。このような癒着防止剤またはベクターはまだ開発されていないが、これらの目的の少なくともいくつかは、以下に開示される本発明によって達成されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の概要)
本発明の第一態様は、ポリマーと、カルボキシ多糖(carboxypolysaccharide)とを含む組成物であって、前記ポリマーが、下記式(I):
【化1】
(式中、
POLYは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)−ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)−ポリ(エチレンオキシド)(PEO)のトリブロックコポリマーであり、
mおよびnは、互いに独立して0または1であり、mおよびnが同時に0になることはなく、
AAはアミノ酸残基であり、そのアミノ基は、POLYの鎖末端に直接結合して、カルバメート(O−C(=O)−NH)結合を形成する。)
のいずれか1つの構造またはその組み合わせを有する、組成物を提供することである。
【0011】
本発明の一実施形態では、前記カルボキシ多糖は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、ヒアルロン酸(HA)、アルギン酸塩、カルボキシメチルキトサン、ペクチン、カルボキシメチルデキストラン、ヘパリン硫酸、およびコンドロイチン硫酸からなる群から選択される。
【0012】
一または複数の実施形態では、前記カルボキシ多糖は、好ましくは、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびヒアルロン酸(HA)のうちの1つであってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態では、前記ポリ(エチレンオキシド)(PEO)−ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)−ポリ(エチレンオキシド)(PEO)のトリブロックコポリマーは、プルロニックF−127(PF127)、プルロニックF−68(PF68)、およびプルロニックL−35(PL35)から選択される。
【0014】
本発明の第二態様は、アミノ酸修飾ポリマーとカルボキシ多糖との組み合わせを含む組成物を提供することである。
【0015】
本発明の一実施形態では、アミノ酸修飾ポリマーの組み合わせは、2つ以上の異なるアミノ酸修飾ポリマーからなる。
【0016】
本発明の一実施形態では、アミノ酸修飾ポリマーの組み合わせは、リジン修飾ポリマーとシステイン修飾ポリマーである。
【0017】
本発明の別実施形態では、アミノ酸修飾ポリマーの組み合わせは、リジン修飾ポリマーとセリン修飾ポリマーである。
【0018】
本発明の一実施形態では、前記組成物は、金属イオンをさらに含む。
【0019】
一実施形態では、前記金属イオンは、好ましくは、ナトリウムイオンであってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態では、前記組成物は、薬学的に活性な薬剤をさらに含む。
【0021】
一実施形態では、前記薬学的に活性な薬剤は、抗癌剤、抗生物質、止血剤、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤、およびホルモンからなる群から選択される。好ましくは、前記抗癌剤は、パクリタキセルである。
【0022】
本発明の第三態様は、術後組織癒着の防止および薬物送達のための組成物の使用を提供することである。
【0023】
一または複数の実施形態において、本発明は、アミノ酸修飾ポリマーおよびカルボキシ多糖を含む組成物であって、薬学的に活性な薬剤の送達のための改善された充填容量およびより優れた放出プロファイルを有する組成物を特徴とする。
【0024】
明らかに、本発明の上記の説明に基づいて、本発明の基本的な技術的思想から逸脱することなく、当該技術分野における一般的な技術的知識および従来の手段を参照して、他の様々な改変、置換、または変更を行うことができる。
【0025】
発明の主題のより完全な理解は、以下の図と併せて考慮される詳細な説明および特許請求の範囲を参照することによって導き出すことができる。以下の各図は、実行された実施形態の説明のためにのみ提供されており、本発明の範囲は、これらの図によってそれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、Hoffmann癒着スコアリングシステムを使用して組織癒着を評価した結果を示す。対照群と実験群との間の統計的差異を、Prism 9 for Mac(GraphPad Software、USA)を使用する両側(two−tailed)計算による一元配置分散分析(ANOVA)によって分析した。p<0.05の値を統計的有意と見なし、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示し、***はp<0.001を示し、****はp<0.0001を示し、nsは、統計的に有意な差ではないことを表す。
図2A図2Aは、対照群の組織癒着を示す。
図2B図2Bは、比較例1の処置後の組織癒着を示す。
図2C図2Cは、実施例6の処置後の組織癒着を示す。
図2D図2Dは、実施例7の処置後の組織癒着を示す。
図2E図2Eは、実施例8の処置後の組織癒着を示す。
図2F図2Fは、実施例9の処置後の組織癒着を示す。
図2G図2Gは、実施例10の処置後の組織癒着を示す。
図2H図2Hは、実施例11の処置後の組織癒着を示す。
図2I図2Iは、実施例12の処置後の組織癒着を示す。
図2J図2Jは、実施例13の処置後の組織癒着を示す。
図2K図2Kは、実施例14の処置後の組織癒着を示す。
図3A図3Aは、比較例1で調製されたヒドロゲルのPTX放出プロファイルを示す。
図3B図3Bは、実施例10で調製されたヒドロゲル組成物のPTX放出プロファイルを示し、ここで、ポリマーの組み合わせは、最初にPTXが充填され、続いて、形成されたPTX−ポリマーの組み合わせに、ある量のカルボキシメチルセルロースを加えて、PTX−ポリマー−5%(w/v)CMC組成物を得た。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(技術的課題)
前述の癒着防止材料の問題点を解決するために、本発明は、まず、温度感受性を有し、未修飾のポリマー対応物と比較して、強化された機械的強度、強化された水食耐性能、ポリマーと組織との間の付着性の増加、強化された組織癒着防止能、および薬学的に活性な薬剤の送達における改善された放出プロファイルを有するアミノ酸修飾ポリマー化合物を提供する。
【0028】
本発明で使用される、ある種の未修飾ポリマーは、癒着防止能および熱可逆性ゾル−ゲル相転移挙動を示すことが報告されており、癒着防止とベクター用途の両方に適用できる可能性があるが、それは、組織への付着性が弱く、水への溶解が速いという多くの欠陥を有しており、人体における癒着防止効果が低下するということに結びつく。
【0029】
しかし、本発明では、提供される化合物は、アミノ酸で化学的に修飾されたポリマーであり、これは、ポリマーと組織との間の付着性を高めるだけでなく、ポリマーの構造の機械的強度を大幅に高める。その結果、前記アミノ酸修飾ポリマーは、最大16日以上の増加した保持時間を示すことができ、したがって、より優れた癒着防止効果を発揮することができる。
【0030】
本発明はさらに、強化された癒着防止剤およびベクター用の高性能な組成物を提供し、この組成物は、アミノ酸修飾ポリマー、カルボキシ多糖を含んでいてもよく、金属イオンをさらに含んでいてもよい。
【0031】
本発明で使用するカルボキシ多糖の一種は、組織癒着防止のための持続時間が不十分であることや、人体による溶解が早いためベクターとしての機械的強度が不十分であることが報告されているが、優れた組織付着性、良好な生体適合性、生分解性、高い化学反応性、標的部位(腫瘍)に特異的に結合する能力などは、癒着防止とベクター用途との両方に依然として有益である。
【0032】
本発明では、組織付着特性を有する一種のカルボキシ多糖が、前記組成物に追加の組織付着性を提供するために使用され得る。さらに、それは、ポリマーと、ポリマーの鎖末端に組み込まれたアミノ基との間のさらなる相互作用にも寄与し得、組成物の付着性の増加および機械的強度の強化につながる。
【0033】
本発明では、ポリマーと、ポリマーの鎖末端に組み込まれたアミノ基と、カルボキシ多糖とに対する追加の結合能を提供するために、少量の金属イオンが、さらに使用され得る。したがって、ポリマー組成物の体内安定性は、金属イオンの添加によって補強され、安定化される可能性がある。さらに、前記組成物の設計における金属イオンは、体成分であってもよく、それは、有毒な化学架橋剤を使用することによって引き起こされる異物反応を防止するために、非毒性の架橋剤として機能し得る。
【0034】
その結果、アミノ酸修飾ポリマーとカルボキシ多糖とを、金属イオンと共に含む組成物は、危険な有害作用をもたらすことなく、十分な持続性、効果的な癒着防止能、操作の利便性、持続的な薬物送達を提供することができ、このことは、本発明で開示された目的に適合する。
【0035】
(技術的解決策)
本発明はまず、アミノ酸修飾ポリマーからなる温度感受性化合物を提供し、これは、単独で癒着防止剤、薬剤ベクター、またはそれらの用途のための主成分として単独で使用され得る。
【0036】
本発明はさらに、アミノ酸修飾ポリマーとカルボキシ多糖とを含んでいてもよい高度な組織癒着防止剤およびベクター用の組成物を提供し、ここで、前記アミノ酸修飾ポリマーは、2つ以上の異なるアミノ酸修飾ポリマーからなるポリマーの組み合わせであってもよい。
【0037】
本発明はさらに、強化された組織癒着防止剤およびベクター用の組成物を提供し、これは、アミノ酸修飾ポリマー、カルボキシ多糖を含み得、そして金属イオンをさらに含み得る。
【0038】
本発明の一または複数の実施形態を詳細に説明する前に、本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「一つの(a)」、「一つの(an)」および「前記(the)」は、文脈で明確に指定されていない限り、複数の対象を含むことに留意することが重要である。したがって、例えば、「アミノ酸」への言及は、単一のアミノ酸、ならびに2つ以上の同じまたは異なるアミノ酸を含み、「ポリマーの鎖末端」への言及は、単一の鎖末端、ならびに2つの同じまたは異なるポリマーの鎖末端などを含む。
【0039】
本発明を説明および特許請求するにあたり、別段の指定がない限り、本明細書で使用される用語は、以下の定義を有する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「有する(has)」、「有する(having)」、またはそれらの他の任意の変形の用語は、非排他的な包含をカバーすることを意図している。例えば、要素のリストを含む成分、構造、物品、または装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されるものではなく、明示的に挙げられていない他の要素や、そのような構成要素、構造、物品、または装置に固有の要素を含んでもよい。
【0041】
用語「アミノ酸」とは、タンパク質の構造単位を称す。遺伝暗号によってコードされている20種類のアミノ酸は、「標準アミノ酸」と呼ばれる。これらのアミノ酸は、構造HN−CHR−COOHを有し、ここで、Rは、アミノ酸に特有の側鎖である。標準アミノ酸は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンである。アミノ酸は、5つのグループ、具体的には、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、および芳香族アミノ酸に分類できる。本明細書では、アミノ酸は、本明細書に記載の「D.」および「L.」と呼ばれる2つの立体異性体で存在し得る。
【0042】
本発明のアミノ酸修飾ポリマーおよび組成物は、様々な術後のタイプのいずれかとの関連で、癒着を防止するために適用され得る。本明細書で使用される「術後」という用語は、腹部、腹腔骨盤、眼科、整形外科、胃腸、胸部、頭蓋、頭頸部、心臓血管、婦人科、産科、関節(例えば、関節鏡検査)、泌尿器科、形成外科、再建外科、筋骨格外科、および神経筋の手術を非限定的に含む、本発明のアミノ酸修飾ポリマーおよび組成物が使用される術後処置の例を称す。
【0043】
本発明によれば、術後の組織癒着を効果的に防止することが、可能である。本発明に用いられる癒着防止ポリマーおよびその組成物は、粉末状、溶液状、ゲル状等の任意の形態を有し得、したがって、例えば、内視鏡手術のような比較的局所的な手術であっても容易に実行することができる。
【0044】
本発明で用いられる癒着防止ポリマーおよびその組成物は、例えば、創傷部位および創傷部位の周囲に位置する臓器の表面または周囲の組織に塗布または噴霧することによって、手術に適用することができる。適用は、1回で行ってもよいし、複数回に分けて対象となる臓器や周辺組織の表面の局所部分に塗布または噴霧を行ってもよい。また、塗布または噴霧装置を用いてもよい。前記装置は、事前に充填された注射器であってもよい。投与量は、当業者により適切に選択または調整され得る。
【0045】
「アミノ酸修飾ポリマー」という用語は、その鎖末端がカルバメート結合を介してアミノ酸および/またはポリアミノ酸と結合されたポリマーを称し、ここで、このポリマーは、ポリエチレンオキシド含有コポリマーであってもよく、前記ポリエチレンオキシドは、−(O−CH−CH)−を含む化合物の繰り返し単位からなる親水性ポリマーである。前記コポリマーは、ポリエチレンオキシドと共重合する別の化合物を含んでいてもよい。別の化合物は、例えば、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ−L−リジン(PLL)、ポリ(ジオキサノン)(PDO)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)からなる群から選択される2つ以上、例えば、2つまたは3つ以上であってもよい。
【0046】
さらに、前記コポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)−ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)−ポリ(エチレンオキシド)(PEO)からなるトリブロックポリマーであるプルロニックであってもよい。前記アミノ酸修飾ポリマーの構造は、以下の式(I)で表される。
【0047】
【化2】
(式中、
POLYは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)−ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)−ポリ(エチレンオキシド)(PEO)を含むコポリマーを表し、
mおよびnは、互いに独立して0または1であり、mおよびnが同時に0になることはなく、
AAは、そのアミノ基がPOLYの鎖末端に直接結合してカルバメート結合を形成するアミノ酸またはポリアミノ酸残基を表し、AAは、疎水性アミノ酸、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、芳香族アミノ酸、および親水性アミノ酸からなる群から選択される。前記疎水性アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニンおよびそれらのポリマーなどの疎水性アミノ酸および/または疎水性ポリアミノ酸が挙げられ、前記塩基性アミノ酸としては、リジン、ヒスチジン、アルギニンおよびそれらのポリマーなどの、塩基性アミノ酸および/または塩基性ポリアミノ酸が挙げられる。前記酸性アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸およびそれらのポリマーなどの、酸性アミノ酸および/または酸性ポリアミノ酸が挙げられる。前記芳香族アミノ酸としては、例えば、チロシン、トリプトファンおよびそれらのポリマーなどの、芳香族アミノ酸および/または芳香族ポリアミノ酸が挙げられる。前記親水性アミノ酸は、例えば、セリン、スレオニン、システイン、プロリンおよびそれらのポリマーなどの、親水性アミノ酸および/または親水性ポリアミノ酸が挙げられる。)
【0048】
用語「アミノ酸修飾ポリマー組成物」は、式(I)の構造を有するポリマーのいずれか1つ、またはそれらの組み合わせを含む組成物を称す。
【0049】
コポリマーであるPOLYは、特性に応じて、1,000〜20,000ダルトンの範囲の平均分子量を有する。さらに、前記コポリマーであるPOLYは、プルロニックF−127(PF127)、プルロニックF−68(PF68)、およびプルロニックL−35(PL35)からなる群から選択される。
【0050】
「の量で」という用語は、本発明における最終組成物に基づくポリマーまたはその組み合わせのいずれか1つの重量を称す。ポリマーまたはその組み合わせは、最終組成物の5重量%〜30重量%、7重量%〜25重量%、好ましくは10重量%〜20重量%、12重量%〜18重量%、より好ましくは13重量%〜17重量%の量であってもよい。
【0051】
「ポリマーの組み合わせ」という用語は、その異なるアミノ酸修飾ポリマーの2つ以上を混合する組み合わせを称す。2つのアミノ酸修飾ポリマーの組み合わせの場合、ポリマーの含有量は、最終組成物の1重量%:99重量%、10重量%:90重量%、20重量%:80重量%、30重量%:70重量%、40重量%:60重量%、50重量%:50重量%の範囲で、特定の重量比から選択され得る。2種類を超えるアミノ酸修飾ポリマーの組み合わせの場合、組み合わせにおけるすべてのポリマー成分の含有量は、最終的な組み合わせの100重量%であり、ポリマー成分の含有量は、任意の比率から選択されてもよく、例えば、前記組み合わせにおける任意のポリマー成分の含有量は、最終的な組み合わせの0重量%を超え100重量%未満の量で使用され得る。
【0052】
前記アミノ酸修飾ポリマー組成物は、カルボキシ多糖を含んでいてもよい。前記カルボキシ多糖は、前記組成物の機械的強度を高める追加の相互作用を提供し得、これにより、前記組成物の保持時間を増加させる。さらに、前記カルボキシ多糖は、前記組成物に、改善された粘膜付着特性を提供し、前記組成物の創傷被覆時間を増加させ得る。
【0053】
前記カルボキシ多糖は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、ヒアルロン酸(HA)、アルギン酸塩、カルボキシメチルキトサン、ペクチン、カルボキシメチルデキストラン、ならびにヘパリン、ヘパリン硫酸、およびコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカンを含む群から選択される1つまたは複数であってもよい。
【0054】
前記カルボキシ多糖は、特性に応じて、50kg/mol〜4,000kg/molの範囲の分子量を有する材料から選択され得る。前記カルボキシ多糖の分子量は、50kg/mol〜4,000kg/mol、100kg/mol〜3,500kg/mol、500kg/mol〜3,000kg/mol、または1,000kg/mol〜2,500kg/molであってもよい。
【0055】
前記カルボキシ多糖の含有量は、最終組成物の0.1重量%〜20重量%、0.5重量%〜15重量%、好ましくは1重量%〜10重量%、2重量%〜8重量%、より好ましくは3〜7重量%の範囲から選択することができる。
【0056】
前記アミノ酸修飾ポリマー組成物は、金属イオンをさらに含んでいてもよい。前記金属イオンは、前記コポリマーの鎖末端で終結するアミノ酸基の間のイオン結合、前記コポリマーと前記カルボキシ多糖との間の水素結合、前記コポリマーを終結させるアミノ酸基の間の水素結合、コポリマーの鎖末端で終結するアミノ基とカルボキシ多糖との間の水素結合を提供してもよい。したがって、前記組成物は、水素結合およびイオン結合による増強により、安定したヒドロゲルを形成することができる。さらに、金属の添加は、前記組成物のゾル−ゲル転移温度を調整するために使用され得る。
【0057】
前記金属イオンは、Li、Na、K、Ag、Cu+2、Mg+2、Ca+2、Zn+2、Sn+2、Fe+2、Al+3、Fe+3、Co+3、Ni+3、Ce+4、Se+4、およびTi+4からなる群から選択される1つ以上であってもよい。
【0058】
前記金属イオンの含有量は、最終組成物の0.5重量%〜2重量%の範囲からおおよそ選択され得る。
【0059】
「生体適合性」という用語は、使用される量および箇所において、レシピエントの細胞に対して実質的に非毒性、非免疫原性、および非刺激性であり、また、使用される箇所において、レシピエントの身体に重大な有害または望ましくない影響を誘発または引き起こすことのない材料を称す。
【0060】
「癒着防止」という用語は、隣接する組織または臓器の表面が互いに癒着するのを防止するための組成物を投与して、そのような投与がない場合に生じる、癒着の数、癒着の範囲(例えば、面積)、および/または癒着の程度(例えば、厚さ、または機械的もしくは化学的破壊に対する抵抗力)の相対的な減少を引き起こすことを称す。
【0061】
「癒着防止剤」という用語は、隣接する組織または臓器の表面が一緒に癒着するのを防止するために投与または適用する組成物を称す。
【0062】
「ベクター」という用語は、薬学的に活性な薬剤を運搬および放出することができる担体を称す。
【0063】
「ベクター用途」という用語は、薬学的に活性な薬剤を送達および放出するための担体を必要とする用途を称す。
【0064】
「カルバメート結合」という用語は、アミノ酸のアミノ基とポリマーの鎖末端の炭酸エステルとの間のカルバメート結合を称す。このようなカルバメート結合の化学構造は、以下の式(II)のように表される。
【0065】
【化3】
【0066】
「薬学的に活性な薬剤」という用語は、ヒトまたは動物の身体に一定の治療効果、予防効果および/または診断効果をもたらす可能性のある任意の薬用有用物質を称す。ここで、前記薬学的に活性な薬剤は、抗癌剤、抗生物質、止血剤、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤、ホルモン、鎮痛剤、および麻酔薬からなる群から選択される。好ましくは、前記抗癌剤は、パクリタキセルである。
【0067】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、液体または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒または封入材料などの薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクルを称す。各担体は、製剤の他の成分と適合性があり、患者に害を及ぼさないという意味で「許容される」ものでなければならない。
【0068】
本発明では、アミノ酸修飾ポリマーと多糖類とを含む組成物が、ヒドロゲルとして存在し得、また、温度感受性を有し得る。したがって、前記組成物は、温度の変化によってゾル状態とゲル状態との間で可逆的に転移し得、前記ポリマーの含有量を調整することによって、ゾル−ゲル相転移(ゲル化)の温度を制御することができる。前記ポリマー組成物は、室温ではゾル状態を呈し得ても、温度が人の体温未満、本明細書では28℃〜36℃になるとゲル状態に変化し得るため、それらは、人または動物の体内の手術部位に注入または噴霧され得て、十分な創傷被覆を提供する。手術部位に適用された後、前記ポリマー組成物は、その後ゲル化を経て、組織癒着を防止するためのバリアとして創傷に付着する可能性がある。
【0069】
前記ポリマー組成物は、それらが多くの薬学的に活性な薬剤の、経皮的、注射可能な、噴霧可能なおよび制御された送達を実行するためのベクターとして作用することを可能にする、感熱性のゾル−ゲル状態の遷移を可能にすることができる。
【0070】
ポリ(エチレンオキシド)(PEO)−ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)−ポリ(エチレンオキシド)(PEO)を含むコポリマーであるプルロニックは、熱可逆性のゾル−ゲル相転移挙動および一定の癒着防止能を示すことが報告されており、これは、ベクター用途と癒着防止の両方で広く研究されている。しかし、これは、機械的強度が低く、組織への付着性が弱く、水に溶けるのが早い(2日未満)ため、癒着防止効果が低く、人体内での薬物放出プロファイルが悪いという問題がある。
【0071】
本発明では、本発明の化合物の未修飾の比較例となる純粋なプルロニックを比較対象とし、アミノ酸修飾プルロニックとカルボキシ多糖とを含む本組成物から寄与される癒着防止能および薬物放出効果に関する本発明の発明ステップを評価しているが、金属イオンの有無は問わない。そこで、本発明者らは、広範な研究の結果、本組成物が、(1)ポリマー構造の機械的強度を高め、(2)水食耐性能を高め、(3)ポリマーと組織との間の付着性を高め、(4)組織癒着防止能を高め、(5)薬学的に活性な薬剤の送達における放出プロファイルを改善し得ることを見出した。
【実施例】
【0072】
(反応スキーム)
【化4】
【0073】
(実験)
本発明は、当業者に知られている有機合成、生化学、レオロジーなどの従来技術を用いて行われる。
【0074】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。ただし、以下の各実施例は、実施された実施形態の説明のためにのみ提供されるものであり、本発明の範囲は、これらの実施例によってこれに限定されるものではない。
【0075】
実施例および比較例を実行するために使用される化学物質は、以下の通りである。
【0076】
プルロニック−F127(12,500Da)、プルロニックF−68(8,400Da)、およびプルロニックL−35(1,900Da)は、BASF Corporationから入手した。無水テトラヒドロフラン(以下、「THF」と称す)、4−ジメチルアミノピリジン(以下、「DMAP」と称す)、無水ジメチルスルホキシド(以下、「無水DMSO」と称す)は、Acroseから入手した。N,N’−ジスクシンイミジルカーボネート(以下、「DSC」と称す)、パクリタキセル(以下、「PTX」と称す)は、Fluorochem社から入手した。L−アスパラギン酸、L−アスパラギン、L−リジン、L−セリン、L−チロシンは、Acroseから入手した。L−ロイシン、L−システイン、L−メチオニンは、cj haide(ningbo) biotech co. ltd.から入手可能した。カルボキシメチルセルロース(CMC)はSigma社から、ヒアルロン酸(HA)はKewpie社から、NaClはAcroseから入手した。
【0077】
実施例1
疎水性アミノ酸修飾プルロニックの調製
【0078】
(1)ロイシン修飾プルロニックF−127
疎水性アミノ酸であるL−ロイシンを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−127および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間撹拌した。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、ロイシンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌し続けた。得られたロイシン修飾プルロニック溶液を透析で精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:45%)。H NMR (DO): δ 4.30, 4.21 (m, −CH−O−(C=O)−NH−), 4.01 (m, −O−(C=O)−NH−CH−), 1.70 (m, −CH−CH−(CH), 1.60 (m, −CH−(CH), 0.96 (m, −CH−(CH); FTIR: 780 cm−1(−NH wag), 1531 cm−1 (−CNH), 1569 cm−1 (−(C=O)−NH−), 1731 cm−1 (−(C=O))。
【0079】
ロイシン修飾プルロニックF−127の例示的な化学構造は、以下のように提供される。
【化5】
【0080】
(2)ロイシン修飾プルロニックF−68
疎水性アミノ酸であるL−ロイシンを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−68および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間撹拌した。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、ロイシンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌し続けた。得られたロイシン修飾プルロニック溶液を透析で精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:40%)。H NMR (DO): δ 4.28, 4.23 (m, −CH−O−(C=O)−NH−), 4.06 (m, −O−(C=O)−NH−CH−), 1.72 (m, −CH−CH−(CH), 1.62 (m, −CH−(CH), 0.97 (m, −CH−(CH); FTIR: 780 cm−1 (−NH wag), 1531 cm−1(−CNH), 1569 cm−1 (−(C=O)−NH−), 1731 cm−1 (−(C=O))。
【0081】
ロイシン修飾プルロニックF−68の例示的な化学構造は、以下のように提供される。
【化6】
【0082】
(3)ロイシン修飾プルロニックL−35
疎水性アミノ酸であるL−ロイシンを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックL−35および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間撹拌した。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、ロイシンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌し続けた。得られたロイシン修飾プルロニック溶液を透析で精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:35%)。H NMR (DO): δ 4.30 (m, −O−(C=O)−NH−CH−), 4.22 (m, −CH−O−(C=O)−NH−), 1.70 (m, −CH−CH−(CH2), 1.61 (m, −CH−(CH), 0.97 (m, −CH−(CH2); FTIR: 780 cm−1 (−NH wag), 1531 cm−1(−CNH), 1569 cm−1 (−(C=O))−NH−), 1731 cm−1(−(C=O))。
【0083】
ロイシン修飾プルロニックL−35の例示的な化学構造は、以下のように提供される。
【化7】
【0084】
(4)メチオニン修飾プルロニックF−127
疎水性アミノ酸であるL−メチオニンを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−127および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、室温で24時間攪拌を続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、メチオニンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌した。得られたメチオニン修飾プルロニック溶液を透析で精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:45%)。H NMR (DO): δ 4.30 (m, −O−(C=O)−NH−CH−), 4.23 (m, −CH−O−(C=O)−NH−), 2.61 (m, −CH−CH−S−CH), 2.16 (s, −S−CH), 2.13, 1.96 (m, −CHCH−S−CH3); FTIR: 1215 cm−1 (−CNH), 1603 cm−1 (−(C=O)−NH−), 1733 cm−1(−(C=O))。
【0085】
実施例2
塩基性アミノ酸修飾プルロニックの調製
【0086】
(1)リジン修飾プルロニックF−127
塩基性アミノ酸であるL−リジンを2.4ミリモルの量で蒸留水に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−127および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、リジンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌し続けた。得られたリジン修飾プルロニック溶液を透析で精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:45%)。H NMR (DO): δ 4.25 (m, −CH−O−(C=O)−NH−), 3.16 (m, −O−(C=O)−NH−CH−), 1.81, 1.70 (m, NH−CH−CH−CHCH), 1.57 (m, NH−CHCH−CH−CH−), 1.41 (m, NH−CH−CHCH−CH−, 2H); FTIR: 776 cm−1 (−NH wag), 1557 cm−1 (−CNH), 1710 cm−1(−(C=O)).
【0087】
実施例3
酸性アミノ酸修飾プルロニックの調製
【0088】
(1)アスパラギン酸修飾プルロニックF−127
酸性アミノ酸であるL−アスパラギン酸を4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−127および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、アスパラギン酸を含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌した。得られたアスパラギン酸修飾プルロニック溶液を透析により精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:45%)。H NMR (DO): δ 4.38 (m, −O−(C=O)−NH−CH−), 4.26 (m, −CH−O−(C=O)−NH−), 2.70, 2.51 (m, −CH−(C=O)−OH); FTIR: 776 cm−1 (−NH wag), 1557 cm−1 (−CNH), 1710 cm−1(−(C=O)).
【0089】
(2)アスパラギン修飾プルロニックF−127
酸性アミノ酸であるL−アスパラギンを2.4ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量でのプルロニックF−127および4.8ミリモルのDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分間撹拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、アスパラギンを含む溶液を加え、混合物を24時間撹拌した。得られたアスパラギン酸修飾プルロニック溶液を透析により精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:45%)。H NMR (DO): δ 4.35 (m, −O−(C=O)−NH−CH−), 4.27 (m, −CH−O−(C=O)−NH−), 2.82, 2.68 (m, −CH−(C=O)−NH); FTIR: 1416 cm−1 (−CN), 1680 cm−1 (−(C=O)−NH−), 1720 cm−1(−(C=O))。
【0090】
実施例4
芳香族アミノ酸修飾プルロニックの調製
【0091】
チロシン修飾プルロニックF−127
芳香族アミノ酸であるL−チロシンを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量のプルロニックF−127および4.8ミリモルの量のDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分攪拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、チロシンを含む溶液を加え、24時間撹拌を続けた。得られたチロシン修飾プルロニック溶液を透析により精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:40%)。H NMR (DO): δ 7.20 (d, CHCH −phenyl ring), .6.89 (d, CHCH−phenyl ring), 4.21 (m, −CH−O−(C=O)−NH−), 4.11 (m, −O−(C=O)−NH− CH−), 3.15, 2.83 (m, −CH−ph); FTIR: 1403 cm−1 (−CN), 1517 cm−1 (−CNH), 1604 cm−1 (−C−C−/C=C), 1710 cm−1 (−(C=O))。
【0092】
実施例5
親水性アミノ酸修飾プルロニックの調製
【0093】
(1)セリン修飾プルロニックF−127
親水性アミノ酸であるL−セリンを4.8ミリモルの量で蒸留水に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量のプルロニックF−127および4.8ミリモルの量のDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分攪拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、セリンを含む溶液を加え、24時間撹拌を続けた。得られたセリン修飾プルロニック溶液を透析により精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:40%)。H NMR (DO): δ 4.30 (m, −CH−O−(C=O)−NH−), 4.16 (m, −O−(C=O)−NH−CH−), 3.93, 3.83 (m, −CH−OH); FTIR: 1410 cm−1 (−CN), 1604 cm−1 (−(C=O)−NH−), 1720 cm−1 (−(C=O))。
【0094】
(2)システイン修飾プルロニックF−127
親水性アミノ酸であるL−システインを4.8ミリモルの量でアルカリ性溶液に溶解し、アミノ酸溶液を形成した。0.6ミリモルの量のプルロニックF−127および4.8ミリモルの量のDMAPを30mLの無水THFに溶解し、透明な溶液を得た。30分攪拌した後、4.8ミリモルのDSCを含む10mLの無水DMSOを1時間以内に滴下して加え、混合物を室温で24時間攪拌し続けた。プロセスはすべて窒素雰囲気下で行った。24時間後、システインを含む溶液を加え、24時間撹拌を続けた。得られたシステイン修飾プルロニック溶液を透析により精製し、凍結乾燥して白色のポリマー粉末を得た(収率:50%)。H NMR (DO): δ 4.46 (m, −O−(C=O)−NH−CH−), 4.27 (m, −CH−O−(C=O)−NH−), 3.20, 2.98 (m, −CH−SH); FTIR: 1412 cm−1 (−CN), 1515 cm−1 (−CNH), 1604 cm−1(−(C=O)−NH−), 1700 cm−1 (−(C=O))。
【0095】
実施例6〜9
癒着防止用温度感受性組成物の調製
【0096】
温度感受性組成物を、様々な成分および所定の含有比率を用いて調製し、その処方を以下の表1に示した。簡単に説明すると、まず、ある量の塩化ナトリウム(NaCl)を蒸留水に溶解して、濃度20%(w/v)の原液を得た。次に、実施例2で調製したある量のポリマー粉末を、ある量のヒアルロン酸(HA)またはカルボキシメチルセルロース(CMC)、ある量の蒸留水、および塩化ナトリウム(NaCl)の溶液(含むまたは含まない場合あり)と混合して、リジン修飾プルロニックF−127、ヒアルロン酸またはカルボキシメチルセルロース、および塩化ナトリウムを含む、または塩化ナトリウムを含まない温度感受性組成物を得た。
【0097】
【表1】
【0098】
実施例10〜14
癒着防止および薬物送達用の温度感受性組成物の調製
【0099】
温度感受性組成物は、主ポリマー成分のそれぞれがリジンおよびシステイン修飾プルロニックF−127の組み合わせで置き換えられていることを除いて、実施例6〜9と同じ方法を使用して調製された。リジンの含有量は、最終的組み合わせの80重量%、システインは20重量%である。調製した組成物の処方を、次の表2に示す。
【表2】
【0100】
実施例15〜18
粘膜付着性測定用温度感受性組成物の調製
【0101】
カルボキシメチルセルロース成分の各濃度を、最終組成物の1重量%の濃度に置き換えたこと以外は、実施例8〜9および13〜14と同じ方法で、温度感受性組成物を調製した。調製した組成物の処方を、以下の表3に示す。
【0102】
【表3】
【0103】
実験例1
レオロジーの特性評価
【0104】
(1)アミノ酸修飾ポリマーヒドロゲルの調製
実施例1〜5で調製したアミノ酸修飾プルロニックF−127のそれぞれを、15%(w/v)の最終濃度で蒸留水に溶解した。
【0105】
(2)ポリマー組成物の調製
ポリマー組成物の各ヒドロゲルを、実施例6〜14に記載されているように調製し、その処方を表1および2に示す。
【0106】
(3)比較例1の調製
ある量の未修飾プルロニックF127に、ある量の蒸留水を加えて、最終濃度が15%(w/v)のポリマーヒドロゲルを形成した。
【0107】
(4)ゾル−ゲル相転移温度の測定
実施例1〜5で調製したヒドロゲル、実施例6〜14のヒドロゲル組成物、および比較例1の未修飾の対応物のゾル−ゲル相転移温度を、コーンプレート構成と溶媒の蒸発を防止するための金属カバーを備えたHR10レオメーター(TA Instruments社)を用いて特徴付けた。前記ゾル−ゲル相転移温度は、材料の貯蔵弾性率と損失弾性率が交差する特定の温度で定義され,20℃〜37℃の範囲で、温度ランプ2℃/分、トルク値100μN・m、固定周波数1Hzの振動モードで測定した。前記ゾル−ゲル相転移温度の測定結果を、表4に示す。
【0108】
表4は、実施例1〜14で調製されたヒドロゲルおよびヒドロゲル組成物のゾル−ゲル相転移温度を示している。表4に示すように、まず、調製した全てのヒドロゲルおよび組成物が、温度感受性の特性を有することが確認された。次に、実施例1〜6で調製したヒドロゲル、および実施例10の組成物は、すべて比較例1のものよりも高いゾル−ゲル相転移温度を示した。有意に、実施例2、5(2)、および10で調製されたヒドロゲルは、比較例1よりも著しく高いゾル−ゲル相転移温度を示しており、このことは、ヒドロゲルと水との間により多くの水素結合または相互作用が形成されたことを示しており、水素結合または相互作用の形成は、ポリマー鎖におけるリジンのアミノ基またはシステインのチオール基に起因すると考えられ、その結果、これらの修飾ヒドロゲルの疎水性鎖が凝集し最終的に固体状のゲルを形成するためには、より高い温度を必要とする可能性がある。さらに、ヒアルロン酸(HA)またはカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む組成物は、それらの主成分よりもわずかに低いゾル−ゲル相転移温度を示した。これは、ヒアルロン酸(HA)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)の吸水性に起因するものと考えられる。一般的に、ある範囲では、プルロニックベースのヒドロゲルのゾル−ゲル相転移温度は、プルロニックの濃度が高くなるにつれて低下する。そのため、組成物の水がカルボキシ多糖の添加成分に部分的に吸収されると、カルボキシ多糖と周囲の水との間に一定の水素結合が形成され、組成物中のプルロニックの相対的な濃度が高くなり、その結果、組成物のゾル−ゲル相転移温度が低下する。さらに、HAまたはCMCにNaClを加えた組成物のゾル−ゲル相転移温度が、NaClを加えずに調製した組成物のゾル−ゲル相転移温度よりも低い理由も、同じメカニズムで説明できる。NaClが周囲の水に溶解すると、ある量のナトリウムイオンが、周囲の水およびカルボキシ多糖とイオン結合による強い相互作用を形成し、これにより水分子が固定化されて組成物中のプルロニックの相対的な濃度が高まり、その結果、組成物のゾル−ゲル相転移温度が劇的に低下する可能性がある。ゾル−ゲル相転移温度の測定結果を通じて、金属イオンを有するカルボキシ多糖の添加がゾル−ゲル相転移温度に大きな影響を及ぼす可能性があり、前記金属イオンは組成物のゾル−ゲル相転移温度の調整に有用である可能性がある。
【0109】
【表4】
【0110】
実験例2
インビトロでのポリマー滞留時間の測定
【0111】
(1)アミノ酸修飾ポリマーヒドロゲルの調製
実施例1〜5で調製されたアミノ酸修飾プルロニックF−127のそれぞれを、15%(w/v)の最終濃度で蒸留水に溶解した。
【0112】
(2)ヒドロゲル組成物の調製
ポリマー組成物の各ヒドロゲルを、実施例6〜14に記載されたように調整し、その処方を表1および2に示した。
【0113】
(3)比較例1の調製
ある量のプルロニックF−127に、ある量の蒸留水を加えて、最終濃度が15%(w/v)のポリマーヒドロゲルを形成した。
【0114】
(4)比較例2の調製
ある量のヒアルロン酸に、ある量の蒸留水を加えて、最終濃度が0.5%(w/v)のポリマーゲルを形成した。
【0115】
(5)比較例3の調製
ある量のカルボキシメチルセルロースに、ある量の蒸留水を加えて、最終濃度が5%(w/v)のポリマーゲルを形成した。
【0116】
(6)滞留時間の測定
本発明において、調製されたポリマーヒドロゲルの滞留時間を測定するために適用される方法論は、米国特許第10,105,387号を参照する。
【0117】
簡単に言えば、実施例1〜5および比較例1、2、3で調製した各ポリマーヒドロゲル1mLを、7mLの個々のバイアルに加えた。次に、すべてのバイアルを37℃のインキュベーターに入れて、固体のポリマーヒドロゲルを得た。各個別のバイアル内のヒドロゲルがすべてゲル相になった後、リン酸緩衝液(PBS、pH7.4)を1mL添加した。その後、バイアルを37℃のインキュベーターで保管しながら、1日1回、一定時間間隔で、調製したポリマーゲルの表層のリン酸緩衝液を除去した。ポリマーゲルの残量を観察して、インビトロでのポリマーの滞留時間を測定し、その結果を表5に示した。
【0118】
表5に示すように、実施例1〜5で調製したヒドロゲルのゲル滞留時間は、いずれも比較例1のゲル滞留時間よりも長く、4〜18日であった。特に、実施例2および5(2)で調製されたヒドロゲルは、それぞれ16日および18日と著しく優れたゲル滞留時間を示した。比較例1は、いかなるタイプのアミノ酸でも修飾されておらず、最も短いゲル滞留時間を示し、約2日であった。これらの結果から、アミノ酸で修飾したプルロニックヒドロゲルでは、ポリマー鎖内の水素結合、ポリマー鎖間の水素結合、ポリマー鎖と周囲の水との間の水素結合が増加し、それによりヒドロゲルの水食耐性能が向上することが示唆される。さらに、リジンおよびシステイン修飾プルロニックヒドロゲルは、そのアミン基およびチオール基が水素結合を形成するか、さらには(チオール基を介して)ジスルフィド結合を形成する傾向があり、これにより最終的には水食に対するゲルの安定性が大きく向上するため、水食耐性能の向上を示すさらなる具体的証拠が提供される。結論として、本発明は、未修飾のプルロニックと比較して、ゲルの滞留時間が改善されたアミノ酸修飾プルロニック化合物を提供する。
【0119】
一般的に、創傷が治癒するまでの時間は、創傷の程度によって異なるが、約7日間である。したがって、創傷治癒過程における組織癒着の発生を防止するためには、設計された組成物は、7日よりも長いゲル滞留時間を有する処方を有する必要がある。
【0120】
ここで、本発明は、7日よりもはるかに長いゲル滞留時間を有する、設計された組成物を提供することを目的としており、21日を超えるゲル滞留時間を有する組成物は、効率的な癒着防止効果を呈し得ると想定される。表5に示すように、実施例6〜14のヒドロゲル組成物のゲル滞留時間は、いずれも比較例1、2、3のゲル滞留時間よりも長く、21日超の長時間のゲル滞留時間を示すものが多いことが確認される。さらに、実施例2のヒドロゲルと、実施例6〜9のヒドロゲル組成物とを比較することにより、ヒアルロン酸の添加は、前記組成物の機械的強度をわずかに増加させる可能性があり(16日から17日)、塩化ナトリウムを伴うヒアルロン酸の添加は、前記組成物のゲル滞留時間を大幅に改善する可能性がある(17日から21日超)ことが明らかである。興味深いことに、カルボキシメチルセルロースの添加は、前記組成物の機械的強度を大幅に向上させることができ(16日から21日まで)、塩化ナトリウムを有するカルボキシメチルセルロースの添加により、前記組成物のゲル滞留時間を大幅に延長することができた(16日から21日超)。さらに、実施例2および実施例5(2)で調製されたヒドロゲルと、実施例10〜14のヒドロゲル組成物とを比較することにより、80%の実施例2と20%の実施例5(2)との混合で調製されたポリマーの組み合わせ(実施例10)は、実施例2と実施例5(2)との間でゲル滞留時間が合理的に増加したことが示される。興味深いことに、実施例10をヒドロゲル組成物の主成分として使用した場合、塩化ナトリウムを含むまたは含まないに関わらず、ヒアルロン酸またはカルボキシメチルセルロースの添加は、いずれも21日超の顕著に長いゲル滞留時間を示した。これらの結果から、アミノ酸修飾プルロニックF−127に、金属イオンを含むまたは含まないに関わらず、カルボキシ多糖(carboxypolysacchride)を添加することで、前記組成物の機械的強度を向上させることができ、組成物における各成分間の、より多くの相互作用の形成を促進して、組成物の水性構造を強化・安定化させ、最終的にヒドロゲル組成物のゲル滞留時間を延長させ得ることが示唆される。
【0121】
【表5】
【0122】
実験例3
インビトロ粘膜付着性の測定
【0123】
(1)ポリマー組成物溶液の調製
ポリマー組成物の各溶液を、表6に記載されるように調製した。注意すべきことに、実施例15〜18では、測定が非常に困難であったため、最終濃度1%(w/v)のカルボキシメチルセルロースを使用した。成分として5%(w/v)のカルボキシメチルセルロースを使用した場合、組成物は非常に高い粘度を示し、前記組成物の粘膜付着性を正確に測定することができなかった。そこで、カルボキシメチルセルロースの濃度を下げることで、この問題を解決し、異なる処方間の粘膜付着性の違いの傾向を観察することができる。測定した組成物の処方を、以下の表6に示す。
【0124】
【表6】
【0125】
(2)比較例1の調製
ある量のプルロニックF−127に、ある量の超純水を加えて、最終濃度が15%(w/v)のポリマーヒドロゲルを形成した。
【0126】
(3)ムチン溶液の調製
ムチン粉末を超純水に溶解して5%(w/v)の溶液を得ることによって、ムチン溶液を調製した。詳細には、4℃に維持された冷水浴中で、穏やかな磁気撹拌(200rpm)の下、100mlの超純水に、ある量のムチンをゆっくりと加えた。調製を終了すると、ムチン溶液を、使用するまで4℃で保存した。
【0127】
(4)ポリマー組成物−ムチン混合物の調製
表5に示すような溶液で調製したポリマー組成物のそれぞれと、(2)に記載したように比較例1で調製した未修飾ポリマー粉末とを、調製した5%(w/v)のムチン溶液と個別に混合して、15%(w/v)のポリマー組成物−ムチン混合物を得た。
【0128】
(5)インビトロ粘膜付着性判定
ヒドロゲル粘膜付着の予測的かつ間接的な評価を得るために、レオロジー法を用いた(Hassan, E.E.,ら, A Simple Rheological method for the in Vitro Assessment of Mucin−Polymer Bioadhesive Bond Strength,Pharm Res 7,491−495, 1990)。実施例6〜7、10〜12、および15〜18で調製された組成物溶液、比較例1の未修飾の対応物、調製されたムチン溶液、およびポリマー組成物とムチン溶液との混合物の粘膜付着性を、コーンプレート構成と、溶媒の蒸発を防止するための保護金属カバーとを備えたHR10レオメーター(TA Instruments)を用いて評価した。レオロジー分析は、37℃で10秒−1のせん断速度のフローモードを用いて行い、熱衝撃による構造変化を避けるために、各分析の前に室温で5分間の休止時間を設けた。
【0129】
この実験は、ポリマー組成物とムチンの溶液との混合物から得られた分散液の測定された粘度の評価に基づいている。組成物とムチンとの間の相互作用の程度は、混合物の最終粘度(η最終)の測定であり、これはこれらの成分間の確立された相互作用に対するパラメータを表し、以下の式によって計算することができる。
【0130】
η最終=η混合物−(ηポリマー組成物+ηムチン
ここで、
η混合物=ポリマー組成物とムチンとを含む混合物の粘度
ηポリマー組成物=ポリマー組成物の粘度
ηムチン=ムチンの粘度
【0131】
ポリマーとムチンの間に相互作用がある場合、値はη最終>0(Mayol L.ら、A novel poloxamers/hyaluronic acid in situ forming hydrogel for drug delivery:Rheological,mucoadhesive and in vitro release properties,Eur J Pharm Biopharm 70(1);199−206,2008)であり、結果を表7に示す。
【0132】
表7に示されるように、すべての実施例で調製したポリマー組成物の粘膜付着性を、η最終の計算された粘度で表した。明らかに、実施例10および15〜18のポリマー組成物は一定の程度の粘膜付着性を示し、それらはすべて比較例1の粘膜付着性よりも有意に高い値を示した。一方、他の実施例のポリマー組成物はすべてη最終の負の値を示し、成分としてのカルボキシメチルセルロースの使用はポリマー組成物への粘膜付着性の増加をもたらすが、ヒアルロン酸の使用は逆の結果をもたらすことを示唆している。さらに、実施例16および18は、実施例17と比較してη最終の値が著しく高く、金属イオンの添加が前記組成物の粘膜付着特性を促進するであろうことを示している。これらの結果は、カルボキシメチルセルロースの天然の特性によるものである可能性がある。カルボキシメチルセルロースは、組織と水素結合を形成できる複数のカルボキシル基を有しているため、優れた組織付着性を有することが報告されている。さらに、金属イオンを添加することで、カルボキシメチルセルロース、ポリマー、組織間の相互作用がより強くなり、結果として組成物の粘膜付着特性を向上させる効果が高まる。
【0133】
また、カルボキシメチルセルロースを添加していない実施例10自体のポリマー組成物は、有意に強い粘膜付着性を示し、このことは、リジンからのアミン基およびシステインからのチオール基がムチンと水素結合および/またはジスルフィド結合を形成できる利用可能な側鎖を、このポリマー組成物が有しているためと説明できる。その結果、このポリマー組成物は、強い粘膜付着性を示すことができる。
【0134】
【表7】
【0135】
実験例4
動物モデルでの癒着防止効果の試験
【0136】
(1)比較例1の作成
ある量のプルロニックF127に、ある量の蒸留水を加えて、最終濃度が15%(w/v)のポリマーヒドロゲルを形成した。
【0137】
(2)ヒドロゲル組成物の調製
ポリマー組成物の各ヒドロゲルを、実施例6〜14に記載されているように調製し、その処方を表1および2に示す。
【0138】
(2)動物試験
提供されたポリマー組成物の組織癒着防止効果を評価するために、いくつかの改変を加えた側壁欠損−盲腸擦過のラットモデルを実施した。ここでは、実施例6〜14で調製したポリマー組成物を実験群として用い、比較例1で調製した未修飾の対応物を比較群として用い、手術部位に材料を適用しない対照群を用いた。
【0139】
動物試験では、1群あたり4匹の雄のSprague Dawley(SD)ラットを、Zoletil(登録商標)とRompun(登録商標)(1:1)とを含む混合液を1mL/Kg注入することにより腹腔内麻酔した。麻酔をかけたラットを剃毛し、ポビドンで消毒した後、腹壁の白線に沿って5cmの長さで切開して腹膜を開いた。その後、メスを用いて右腹壁に1×2cmの腹膜欠損を形成した。滅菌した手術用ガーゼを用いて、穿孔しない程度に漿膜が損傷して出血するまで擦り切って、盲腸の欠損を作成した。その後、損傷した盲腸および損傷した腹壁を3−0絹縫合糸で縫合し、強制的に癒着を起こさせた。実験群では、実施例6〜14および比較例1で調製した各ヒドロゲル0.5mLを損傷部位に個別に均一に適用したところ、2分以内にその場でゲル化が起こった。対照群では、0.5mLの滅菌した通常の生理食塩水で欠損部を洗浄した。最後に、腹膜を3−0絹縫合糸で縫合し、皮膚を4−0絹縫合糸で縫合した。
【0140】
術後10日目に、組織癒着の程度を、スコアが高いほど組織の癒着が激しいことを示すHoffmann癒着スコアリングシステムに従って二重盲検法で調べた。
【0141】
Hoffmann癒着スコアリングシステムを用いた組織癒着の程度の検討に関する詳細な説明を、以下の表8に示す(Hoffmann NE.,ら,Choice of hemostatic agent influences adhesion formation in a rat cecal adhesion model,J Surg Res.155(1),77−81,2009)。組織の癒着度の評価された定量的な結果は、表9に示されており、図1にグラフで示すことができる。統計分析は、Prism 9 for Mac(GraphPad Software、USA)を用いて、両側計算による一元配置分散分析(ANOVA)で行い、対照群と実験群の差がp<0.05の場合に統計的に有意であると判断した。対照群、比較群、実験群の組織癒着の写真を、図2(A−K)に示した。
【0142】
表9(図1も参照)に示すように、実施例6〜14で調製されたヒドロゲルは、いずれも組織癒着を有意に抑制する効果を示したが、比較例1で調製したヒドロゲルは、対照群と比較して、組織癒着を防止する効果がわずかであった(図2(A〜K)も参照)。特に、実施例9、13、および14で調製されたヒドロゲルは、組織癒着防止効果が著しく優れていた。さらに、ゲル滞留の結果を見ると、実施例9、13、14はいずれも21日を超える長いゲル滞留時間を示した。これらの結果から、滞留時間の長いヒドロゲルは、組織癒着防止効果が高いと考えられ、本発明者らの想定を裏付けるものであった。しかし、実施例7および実施例11〜12も、21日を超える長いゲル滞留時間を示したが、優れた癒着防止性能を示さなかった(図2(D、H〜J)参照)。これは、それらの粘膜付着特性に起因する可能性がある。癒着防止剤の粘膜付着性は、癒着防止剤が創傷組織にしっかりと付着できなければ、何らかの必要な活動の際に変形して被覆率が低下し、組織癒着を十分に防止できない可能性がある。粘膜付着性の測定結果に示されるように、実施例7および11〜12の組成物はすべてη最終の負の値を示し、これらの組成物とムチンとの間の弱い相互作用を示し、これが癒着防止能にさらに影響を及ぼす可能性がある。
【0143】
結論として、理想的な癒着防止剤を設計するために、滞留時間だけが考慮すべき1つの側面ではなく、粘膜付着性も注意深く考慮すべきである。本発明は、長時間の滞留時間を呈するだけでなく有意な粘膜付着特性を示す1つまたはいくつかの設計されたポリマー組成物を提供し、前記ポリマー組成物を優れた癒着防止剤となる。
【0144】
【表8】
【0145】
【表9】
a:平均±SEM(n = 4); *:p <0.05; **:p <0.01; ***:p <0.001; ****:p <0.0001; ns:有意差なし
【0146】
実験例5
薬学的に活性な薬剤の充填、封入、および放出
【0147】
(1)PTXとアミノ酸修飾ポリマーとの組み合わせの溶液混合物の調製
まず、12mgのPTXを、8mLのメタノールに溶解した。その後、800mgのリジン修飾プルロニックF−127と、200mgのシステイン修飾プルロニックF−127とを含む実施例10のポリマー1gを、PTX−メタノール溶液に溶解し、PTXとアミノ酸修飾ポリマーとの組み合わせの混合物を得た。
【0148】
(2)比較例1の調製
PTX12mgをメタノール8mLに溶解した。PTX−メタノール溶液に未修飾のプルロニックF−127を1g加え、PTX−プルロニックF−127混合物を形成した。
【0149】
(3)薬剤の充填と封入
ここでは、薬学的に活性な薬剤としてパクリタキセルを選択し、これを、薄膜水和法を用いて充填および封入した(Wei Z.,ら,Paclitaxel−Loaded Pluronic P123/F127 Mixed Polymeric Micelles:Formulation,Optimization and in Vitro Characterization,Int.J.Pharm,376(1),176−185,2009)。比較例1および実施例10で調製した薬剤とアミノ酸修飾ポリマーとの混合物を、それぞれ個別のナス型のガラス瓶に移し、1時間かけて回転蒸発させてメタノールを除去した。メタノールが除去されると、ボトル内にはPTX−充填ポリマー薄膜の層が形成され、これを50℃の真空オーブンに一晩入れて溶媒の除去を完了した。各PTX−充填ポリマー薄膜を8mLの蒸留水で再水和してPTXを封入した後、23μmのセルロース膜でろ過して、封入されていないPTXを除去した。その後、薬物充填容量と薬物封入効果を評価するために、PTXを封入したポリマーを凍結乾燥して、PTXポリマー粉末を生成した。
【0150】
薬物充填容量と薬物封入効果の計算式を、以下のように示した。
【数1】
【数2】
とし、その結果を表10に示す。
【0151】
【表10】
【0152】
表9に示すように、実施例10で調製したヒドロゲルは、比較例1と比較して、薬物充填容量およびPTX封入効果が向上することが確認された。
【0153】
(4)薬物放出
本明細書において、無膜拡散法(Zhang L.,ら,Development and in−Vitro Evaluation of Sustained Release Poloxamer 407(P407)Gel Formulations of Ceftiofur,J.Controlled Release,85(1),73−81,2002)を用いて、薬物放出プロファイルを調べた。簡単に説明すると、まず、50mgのカルボキシメチルセルロースを、実施例10で調製されたPTX封入ポリマー粉末に添加して、最終的なポリマー成分が実施例13と同じである組成物を得た。次いで、比較例1で調製されたPTX封入ポリマー粉末のサンプルと、得られた組成物のサンプルとを、それぞれ対応するビーカーに入れ、再水和させて、ポリマーまたはポリマー組成物を20%(w/v)含むPTX−ポリマーヒドロゲルを形成した。ここでは、比較例1から、ポリマー含有量が20%(w/v)のPTX−未修飾プルロニックヒドロゲルを調製し、比較サンプルとした。次に、調製したPTX−ポリマーヒドロゲルを含む各ビーカーを、37℃のインキュベーター内で予備加温し、ゲル状態を保持した。その後、PBS−メタノール混合溶液(90%:10%;v/v)を含む予め温めておいた放出媒体25mLを、調製した各PTX−ポリマーヒドロゲルの表面に直接添加し、37℃のインキュベーター内で100rpmの振とう速度で静置した。所定の時間に各ビーカーから1mLの溶液を取り出して薬剤の放出を調べ、続いて1mLの放出媒体を加えてシンク状態(sink condition)を維持した。調製した組成物および比較例1の薬物放出試験を3連で行い、UV波長を236nmに設定したUV−Vis分光計で薬物放出データを検出した。分析された薬物放出プロファイルは、図3(A−B)に表示されている。
【0154】
図3Aは、未修飾のプルロニックF−127から調製したヒドロゲルのPTX放出プロファイルを示す。図3Aに示すように、封入されたPTXの約50%が24時間以内に放出され、すべてのPTXが48時間以内に未修飾プルロニックF−127から完全に放出され、迅速な薬物放出挙動を示した。さらに、封入されたPTXの約30%が最初の12時間以内に放出されたことから、ダンピング(dumping)薬物放出が起こったことがわかる。図3Bは、実施例10の組成物によってPTXを最初に封入し、続いて得られたPTX−ポリマーに、ある量のカルボキシメチルセルロースを添加した、実施例13と同じ成分を含むヒドロゲルのPTX放出パターンを示す。図3Bに示すように、最初の24時間では、実施例10で調製されたヒドロゲルから10%未満のPTXが放出され、続く144時間では40%未満のPTXがゆっくりと放出され、このヒドロゲル組成物の顕著に持続可能な薬物放出プロファイルを示した。これらの結果は、これら2つのヒドロゲルの機械的強度の違いに起因すると考えられる。また、実験例2における実施例13のゲル滞留結果に示されるように、実施例13のヒドロゲル組成物は、比較例1で調製したヒドロゲルと比較して、極めて長いゲル滞留時間を示した。
【0155】
結論として、本発明者らの実験結果に基づき、プルロニックベースの薬物放出システムは、様々なアミノ酸修飾プルロニックポリマーからなるポリマーの組み合わせを用いることにより、薬物充填容量および薬物封入効果を大幅に向上させ得ることが確認される。さらに、異なるアミノ酸修飾プルロニックポリマーとカルボキシ多糖との組み合わせを含む組成物を使用することにより、薬物放出の持続可能性を大きく向上させることができる。
【0156】
要約すると、本発明は、金属イオンを含むまたは含まないアミノ酸修飾プルロニック/組み合わせとカルボキシ多糖とを含む組成物が、以下のことを行うことができることを見出した。(1)ポリマー構造の機械的強度を高め、(2)水食耐性能を高め、(3)ポリマーと組織との間の付着性を高め、(4)組織癒着防止能を高め、(5)薬学的に活性な薬剤の送達における放出プロファイルを改善することができる。
【0157】
本発明を前述の好ましい実施形態を参照して詳細に説明してきたが、前述の説明は本発明を限定するものとして解釈されるべきではない、ことを理解されたい。前述の内容を読めば、様々な修正や置換が当業者には明らかになるであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるべきである。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J
図2K
図3A
図3B
【外国語明細書】
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