【課題】金属板との熱ラミネートにおいて広範な温度域で熱ラミネート処理ができ、密着性、製缶性、缶成形後の透明性に優れ、レトルト殺菌処理および長期保存後の密着性や被覆性、缶内容物の保味保香性に優れたポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(A)と、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(B)とを含むポリエステルフィルムであって、ポリエステル(A)と(B)の質量比(A/B)が70/30〜55/45であり、フィルム面の4方向(0°、45°、90°、135°)における、200℃、15分の熱処理による乾熱収縮率(B)がいずれも35%以下であり、これらの乾熱収縮率の最大値と最小値の差が5%以下であり、前記4方向における厚み斑が10%以下であり、DSC測定で示す結晶化指数が25〜55J/gであることを特徴とするポリエステルフィルム。
フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに、45°、90°、135°の4方向における、200℃、15分の熱処理による乾熱収縮率(B)がいずれも5%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに、45°、90°、135°の4方向における、160℃、30分の熱処理による乾熱収縮率(A)がいずれも3〜20%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルフィルムを製造するための方法であって、未延伸シートを、シートの流れ方向に延伸(MD延伸)し、次いで、巾方向に延伸(TD延伸)する延伸工程において、
MD延伸を2段以上で行ない、
MD延伸の各段における延伸倍率の積で表されるMD延伸倍率(X)と、TD延伸倍率(Y)とを、
延伸倍率比(X/Y)が0.82〜1.10
面倍率(X×Y)が12.00〜16.00
を満たすように延伸することを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。
未延伸シートに押出成形するときの温度において、溶融粘度差が65Pa・s以下であるポリエステル(A)とポリエステル(B)を用いることを特徴とする請求項5または6に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステルフィルムは、ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(A)と、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(B)とを含むポリエステルフィルムであって、ポリエステル(A)と(B)の質量比(A/B)は、70/30〜55/45であることが必要である。
【0017】
本発明におけるポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(A)は、ブチレンテレフタレート単位のみからなるホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を80モル%以上、中でも90モル%以上、さらには95モル%以上含有する共重合体であってもよい。本発明においては、ポリエステル(A)は、ブチレンテレフタレート単位を90モル%以上含有する共重合体であることが好ましく、中でもホモポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。ポリエステル(A)は、ブチレンテレフタレート単位の含有量が80モル%未満であると、結晶化速度が低下し、得られるフィルムは結晶化指数が小さくなり、レトルト処理後の密着性やバリア特性が低下しやすくなる。
【0018】
ポリエステル(A)における共重合成分としては、特に限定されないが、酸成分としてイソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンや乳酸などが挙げられる。
また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等が挙げられる。
さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3官能化合物等を少量用いてもよい。
これらの共重合成分は2種以上併用してもよい。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの耐熱性の観点で、ポリエステル(A)由来の融点が200〜223℃の範囲にあることが好ましく、融点が200℃より低いと、フィルムの耐熱性が低下する。
【0020】
本発明におけるポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(B)は、エチレンテレフタレート単位のみからなるホモポリエチレンテレフタレート樹脂であっても、エチレンテレフタレート単位を含有する共重合体であってもよく、共重合体の場合は、エチレンテレフタレート単位を80モル%以上含有することが好ましく、中でも85〜98モル%含有することがより好ましい。特に、製缶工程時の熱量低減および、貼り合わせる金属板の薄膜化といった、低コスト化の観点で、ポリエステル(B)は、共重合体であることが好ましい。
【0021】
ポリエステル(B)における共重合成分としては、酸成分、アルコール成分ともに、ポリエステル(A)の場合と同様の成分を用いることができる。中でも、ポリエステル(B)は、酸成分としてイソフタル酸を含有することが好ましく、酸成分におけるイソフタル酸の含有量は、2〜15モル%であることが好ましく、中でも3〜10モル%であることがより好ましく、4〜7モル%であることが最も好ましい。
イソフタル酸を上記の範囲で共重合したポリエチレンテレフタレートは、熱ラミネートの温度域が拡大し、金属板への密着性が向上する傾向にある。一方、得られるポリエステルフィルムは、厚み斑が拡大しやすい傾向にあるが、後述するような本発明の方法(MD延伸工程を2段以上の多段延伸法で行う方法)で製造することによって、厚み斑を改善することができ、金属板に対する密着性や被覆性に優れたものとすることができる。
イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートは、単体で使用することも、また、ホモポリエチレンテレフタレート樹脂と混合して使用することもできる。ホモポリエチレンテレフタレートと混合する場合、ポリエステル(B)全体に対するホモポリエチレンテレフタレートの含有量は、製缶工程時の熱量低減および、貼り合わせる金属板の薄膜化といった、低コスト化の観点で、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル(B)由来の融点が225〜256℃の範囲にあることが好ましく、230〜256℃の範囲にあることがより好ましく、235〜256℃の範囲にあることがさらに好ましい。ポリエステル(B)は、融点が225℃未満であると、得られるフィルムは、レトルト処理後に白化や白斑が発生したり、レトルト処理後の密着性が低下する。特に、ポリエステル(B)の融点が225℃以上であると、フィルムは、耐熱性、レトルト処理後および長期保存後の密着性が向上し、また、缶加工時の治具との融着トラブルや、缶胴部の加工途中における破断トラブルの低減に効果がある。
【0023】
なお、ポリエステル(A)とポリエステル(B)は、ともに、バイオマス由来成分や、樹脂廃材等を解重合して得られた再生モノマーや再生オリゴマーを出発材料として重合されたケミカルリサイクル樹脂成分や、フィルム製造時に発生する、耳部トリミング屑、スリット屑などを粉砕したり、前記廃屑や不良品となったフィルムを再度溶融ペレット化したマテリアルリサイクル成分などのいずれかの成分、またはこれらの成分の複数を含有してもよい。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル(A)とポリエステル(B)の質量比(A/B)は、70/30〜55/45であることが必要であり、さらに本発明の効果を十分に得るために、67/33〜58/42であることが好ましく、63/37〜60/40であることがさらに好ましい。
ポリエステル(A)とポリエステル(B)の合計質量におけるポリエステル(A)の割合が70質量%を超えると、得られるフィルムは、レトルト処理後の密着性が低下する。一方、ポリエステル(B)の割合が45質量%を超えると、フィルム中の高融点成分の割合が高くなるため、低温での金属板ラミネート加工において、フィルムと金属板との密着性が低下し、レトルト処理後にも密着性が低下する。
特に、ポリエステル(A)の割合が70〜55質量%の範囲の場合、ラミネート金属板は、高速で、高次の絞りしごき加工を行う場合の成形加工追随性が良好であり、フィルムは、無理な変形によるボイドの発生による白化現象や、マイクロクラックの発生が無く、かつ金属板との密着性に優れ、レトルト処理後に長期間保存した場合においても、金属板に対する密着性および被覆性が良好である。その結果、内面にフィルムを使用した缶は、長期保存後においても、金属板が被覆されているため、耐食性(内容物の保護性、保味保香性、フレーバー維持性)に優れたものとなる。また、外面にフィルムを使用した缶においては、さびの発生がなく、また印刷図柄の光沢度がよいなど、商品価値の高い製品が得られ、外面のフィルムは、缶そのもののデザイン性を損なわない程度の透明性を有する。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムは、広範な温度域で金属板との熱ラミネート処理を可能とするために、下記(1)〜(3)の条件を同時に満足することが必要である。
(1)フィルム面の4方向(0°、45°、90°、135°)における、200℃、15分の熱処理による乾熱収縮率(B)がいずれも35%以下であることが必要であり、33%以下であることが好ましく、30%であることがさらに好ましい。一方、乾熱収縮率(B)は5%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%であることがさらに好ましい。乾熱収縮率(B)の範囲は5〜35%であることが好ましく.7〜35%であることがより好ましく、10〜33%であることがさらに好ましく、15〜30%であることが最も好ましい。
乾熱収縮率(B)が35%を超えると、フィルムは、耐衝撃性やレトルト処理後のバリア特性、保味保香性、フレーバー特性が低下する恐れがある。これは、フィルムの結晶化指数が小さすぎるためである。
一方、乾熱収縮率(B)が5%より小さいフィルムは、金属板との熱ラミネート性が低下する恐れがある。これは、フィルムの結晶化指数が大きすぎるためである。
また、これらの乾熱収縮率(B)の最大値と最小値の差が5%以下であることが必要であり、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。
【0026】
(2)前記4方向における下式にて算出した厚み斑が10%以下であることが必要であり、8%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましい。
厚み斑(%)=(T
max−T
min)/T
ave×100
T
max:ポリエステルフィルム4方向における最大厚み
T
min:ポリエステルフィルム4方向における最小厚み
T
ave:ポリエステルフィルム4方向における平均厚み
【0027】
(3)DSC測定で示す結晶化指数が25〜55J/gであることが必要である。
本発明において、結晶化指数は、DSC測定においてフィルムを20℃/minで20℃から280℃に昇温したときの、融解熱量ΔHmと昇温時結晶化熱量ΔHcの差(ΔHm−ΔHc)を意味する。
金属缶への熱ラミネート性に着目すると、フィルムは、結晶化指数が小さい方が好ましいが、金属缶用ラミネートフィルムとして最低限必要な、耐衝撃性、レトルト処理後のバリア特性、保味保香性、フレーバー特性を保持するためには、ある程度の結晶化指数を保持しておくことも重要である。
本発明のフィルムは、結晶化指数が、25〜55J/gであることが必要であり、30〜50J/gであることが好ましく、35〜45J/gであることがより好ましい。
フィルムは、結晶化指数が25J/g未満であると、耐衝撃性、レトルト処理後のバリア特性、保味保香性、フレーバー特性に劣り、55J/gを超えると金属板との熱ラミネート性が低下する傾向にある。
フィルムは、結晶化指数が前記範囲にあることで、耐衝撃性、バリア特性、保味保香性、フレーバー特性を維持しながら、金属板との熱圧着および絞りしごき成形のような厳しい加工にも耐えることが可能となる。
フィルムの結晶化指数を前記範囲に調整とする方法として、ポリエステル(A)とポリエステル(B)の質量比を所定の範囲に調整し、フィルムのMD延伸を2段以上で行う方法が挙げられる。
【0028】
上記(1)〜(3)の条件が同時に満たされない場合、得られるラミネート金属板のフィルムは、熱ラミネート時の温度によって、金属板に対する密着性や被覆性が不十分となることがあり、またレトルト処理および長時間の保存後において、金属板に対する密着性が低下することがある。さらに、ラミネート金属板は、缶への成形性も低下することがある。
なお、フィルム面の4方向とは、任意の一方向を0°方向とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の方向をいう。中でも、フィルムの流れ方向(MD)を0°とすることが好ましい。
【0029】
また、フィルム面の4方向(0°、45°、90°、135°)における、160℃、30分の熱処理による乾熱収縮率(A)は、いずれも3〜20%であることが好ましく、4〜20%であることがより好ましく、5〜18%であることがさらに好ましく、10〜16%であることが最も好ましい。乾熱収縮率(A)が小さすぎると、金属板との熱ラミネート性が低下する場合がある。これは、フィルムの結晶化指数が大きすぎるためである。よって、金属板ラミネート用としては、乾熱収縮率がある程度大きいフィルムを用いることが好ましい。乾熱収縮率(A)が3%より小さいフィルムは、金属板との熱ラミネート性が低下する恐れがある。一方、乾熱収縮率(A)20%よりが大きいと、耐衝撃性やレトルト処理後のバリア特性、保味保香性、フレーバー特性が低下する場合がある。これは、フィルムの結晶化指数が小さすぎるためである。
また、これらの乾熱収縮率(A)の最大値と最小値の差が5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、特に限定はないが、5〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
【0031】
本発明のポリエステルフィルムの層構成は、製膜工程や熱ラミネート加工工程において、フィルム表面に存在すると悪影響を及ぼす添加物、例えば、後述する低分子量ポリマーなどを、フィルム内部に含有させておくために、単層構成よりも複層構成であることが好ましい。
複層構成のポリエステルフィルムを製造するための未延伸シートは、例えば、一般的な多層化装置である多層フィードブロック、スタティックミキサー、多層マルチマニホールドなどを用いて、複層のシートからなる構成のシート状成形体として得ることができる。
複層構成の未延伸シートから得られるフィルムは、層数が増えるほど厚み方向の凝集力が弱くなるため、特に高温でのラミネート加工時に、金属板との熱圧着性およびその後の密着性が低下し、層間剥離が起こる傾向にある。したがって、複層構成における構成層数は、少ない方が好ましく、9層以下がより好ましく、5層以下がさらに好ましく、3〜5層であることが最も好ましい。
【0032】
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造方法について説明する。
本発明のフィルムを製造するために用いる原料ポリエステルの極限粘度(IV)は、ポリエステル(A)では0.75〜1.6dl/gであることが好ましく、ポリエステル(B)では0.65〜1.0dl/gであることが好ましく、溶融混合した後の極限粘度は0.75〜1.2dl/gであることが好ましい。
ポリエステルの極限粘度が上記範囲より低いと、ラミネート金属板の高次加工時に、フィルムが破断し、生産性が極端に低下する。特に、容量が大きい缶の製造では、ラミネート金属板を絞りしごき加工する工程において、フィルムは、変形加工度が大きくなるため、それに追随できず、ボイドが発生したり、クラックが発生し、外部からのわずかな衝撃によってすら、金属板からの剥離やクラックの成長が助長される。
したがって、内面にフィルムを用いた缶では、ボイドやクラックによって、内容物と缶の金属とが直接接触する結果、保味保香性が低下したり、フレーバー性に問題が生じたりする。また、外面にフィルムを用いた缶では、ボイドによりフィルムが白化した部分において、印刷外観が低下する。また、ボイドやクラックによって、長期保存時に缶が腐食する問題が生じる恐れがある。
一方、ポリエステルの極限粘度が上記範囲を超えると、樹脂を溶融してフィルムを生産する工程において、溶融押出機にかかる負荷が大きくなり、生産速度を犠牲にせざるを得なかったり、押出機中の樹脂の溶融滞留時間が長くなりすぎて、ポリエステル樹脂間の反応が進みすぎ、フィルムの特性の劣化を招き、結果的にラミネート金属板の物性低下をもたらす。また、あまりに極限粘度の高いポリエステルは、重合時間や重合プロセスが長く、コストを押し上げる要因ともなる。
【0033】
原料のポリエステルの重合方法は、特に限定されず、例えば、エステル交換法、直接重合法等が挙げられる。エステル交換触媒としては、Mg、Mn、Zn、Ca、Li、Tiの酸化物、酢酸塩等が挙げられる。また、重縮合触媒としては、Sb、Ti、Ge、Alの酸化物、酢酸塩等の化合物や、有機スルホン酸化合物が挙げられ、製膜後のフィルムが食品に直接接触することがある場合には、フィルムはSb化合物や、有機スルホン酸化合物を含有しないことが好ましく、重縮合触媒としてTiやGe化合物を使用してポリエステルを重合することが好ましい。重合後のポリエステルは、モノマーやオリゴマー、副生成物のアセトアルデヒドやテトラヒドロフラン等を含有しているため、減圧もしくは不活性ガス流通下、200℃以上の温度で固相重合することが好ましい。
【0034】
ポリエステルの重合においては、必要に応じ、添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられ、熱安定剤としては、例えばリン系化合物等が挙げられ、紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系の化合物等が挙げられる。また、ポリエステル(A)と(B)との反応を抑制するために、従来知られている反応抑制剤のリン系化合物を重合前、重合中、重合後に添加することが好ましく、固相重合前の溶融重合終了時に添加することがより好ましい。
【0035】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル(A)とポリエステル(B)を含む溶融混練物を、シート状に成形して、未延伸シートを得るシート成形工程の後に、未延伸シートを、シートの流れ方向に延伸(MD延伸)し、次いで、巾方向に延伸(TD延伸)する延伸工程によって製造することができる。
【0036】
シート成形工程では、ポリエステル(A)とポリエステル(B)を含む溶融混練物を、シート状に成形することにより未延伸シートを得る。
溶融混練においては、ポリエステル(A)およびポリエステル(B)の、押出温度における溶融粘度の差が小さいことが好ましい。ポリエステル(A)とポリエステル(B)の溶融粘度の差が大きいと、フィルムは、全体にフローマークと呼ばれる外観不良が発生しやすくなる他、フィルム幅方向においてブレンド比率の精度が低下したり、厚み斑が発生しやすくなる。具体的には、押出温度におけるポリエステル(A)とポリエステル(B)の溶融粘度差は、65Pa・s以下であることが好ましく、60Pa・s以下であることがより好ましく、40Pa・s以下であることがさらに好ましく、20Pa・s以下であることが最も好ましい。したがって、ポリエステルフィルムの製造原料として、溶融粘度差が上記範囲となるポリエステル(A)とポリエステル(B)を組み合わせて用いることが好ましい。
【0037】
溶融混練物の調製は、公知の方法に従って実施すればよい。例えば、加熱装置を備えた押出機に、ポリエステル(A)とポリエステル(B)を含む原料を投入し、所定温度に加熱することによって溶融させる。
【0038】
溶融混練物の調製にあたり、フィルム製造時や製缶時の工程通過性をよくするため、シリカ、アルミナ、カオリン等の無機滑剤を少量添加して、フィルム表面にスリップ性を付与することが望ましい。さらに、フィルム外観や印刷性を向上させるため、たとえば、シリコーン化合物等を含有させることもできる。
無機滑剤の添加量は、0.001〜0.5質量%であることが好ましく、0.05〜0.3質量%であることが好ましい。
無機滑剤の平均粒子径は1〜3μmであることが好ましく、2〜3μmであることがさらに好ましい。無機滑剤は、平均粒子径が1μm未満であると、スリップ性の発現が不十分であり、3μmを超えると、フィルムの透明性が低下する。
また、滑剤の機能と併用して、隠蔽性の目的から二酸化チタンを20質量%程度まで添加することもできる。
【0039】
また、製缶工程におけるアモルファス処理時に、滑剤が埋もれ、滑り性が不足しないように、ポリエステル(A)およびポリエステル(B)に非相溶な低分子量ポリマーを添加してもよい。上記低分子量ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド等を挙げることができ、ポリエステル(A)、ポリエステル(B)と混合する場合の安定性および相溶性のバランス面から、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。缶内面用フィルムは、絞りしごき加工時において、パンチと呼ばれる型と直接接触するため、外面用フィルムに比べて、滑り性能が要求される。よって缶内面用フィルムは、無機滑剤に加えて、ポリエチレンなどの低分子量ポリマーを添加することが好ましい。
低分子量ポリマーの重量平均分子量Mwは、30000以下であることが好ましく、25000以下であることがより好ましく、20000以下であることがさらに好ましい。
低分子量ポリマーの含有量は、0.01〜1.0質量%であることが好ましく、0.01〜0.3質量%であることがさらに好ましい。低分子量ポリマーの含有量が0.01質量%未満では、滑り性改良の効果が認められないことがある。また、フィルムは、低分子量ポリマーの含有量が1.0質量%を超えると、表面の滑り性が過剰品質になるばかりでなく、非相溶の低分子量ポリマーが多くなるにつれて、脆くなったり、製缶後の衝撃性が劣り、さらにフレーバー性が低下することがある。
フィルムは、最外層に低分子量ポリマーを含有すると、滑り性が過剰品質になる上、製膜時の巻きズレ、製缶工程時のロール汚染などが発生しやすくなるため、低分子量ポリマーは、複層構成のフィルムの最外層以外の層に含有させておき、製缶工程時のアモルファス処理において、フィルムの表面にブリードアウトさせることが好ましい。
本発明のフィルムは、動摩擦係数が、後述する熱ラミネート前の状態において、0.20〜0.60であることが好ましく、0.30〜0.50であることがさらに好ましい。フィルムは、動摩擦係数が0.20未満であると、滑り性が過剰であり、製膜時の巻ズレが発生しやすくなり、0.60を超えると、製膜工程内のロールとの摩擦で擦り傷が発生したり、巻取後にブロッキングと呼ばれるフィルム同士の剥離不良が起き、フィルムの巻き出し時に外観不良が見られたりする。
【0040】
未延伸シートは、上記溶融混練物をTダイにより押し出し、室温以下に温度調節したキャスティングドラム等により冷却固化させることによって、シート状の成形体として得ることができる。Tダイ吐出口の間隔は、1.0〜2.5mmであることが好ましく、1.5〜2.2mmであることがより好ましい。Tダイ吐出口の間隔が1.0mm未満では、未延伸シートの厚み調整が困難となり、2.5mmより大きいと、未延伸シートは厚み斑が大きくなる傾向がある。
【0041】
未延伸シートの平均厚みは、特に限定されないが、一般的には50〜1000μmであり、100〜800μmであることが好ましい。未延伸シートは、平均厚みをこのような範囲内に設定することによって、より効率的に延伸することができる。
【0042】
本発明においては、未延伸シートを、シートの流れ方向に延伸するMD延伸と、次いで、巾方向に延伸するTD延伸とからなる延伸工程において、MD延伸を2段以上で行なうことが必要である。
MD延伸の各段における延伸倍率の積で表されるMD延伸倍率(X)と、TD延伸倍率(Y)との比である延伸倍率比(X/Y)は、0.82〜1.10であることが必要である。金属缶の外面を構成するポリエステルフィルムを製造する場合は、高次の絞りしごき加工後の透明性の観点で、延伸倍率比(X/Y)は、1.00〜1.10であることが好ましく、1.05〜1.10であることがより好ましい。一方、金属缶の内面を構成するポリエステルフィルムを製造する場合は、フィルムと金属板との密着性、レトルト処理後の長期保存性能の観点で、延伸倍率比(X/Y)は、0.85〜0.95であることが好ましく、0.85〜0.90であることがより好ましい。
また、面倍率(X×Y)は、12.00〜16.00であることが必要である。金属缶の外面を構成するポリエステルフィルムを製造する場合は、高次の絞りしごき加工後の透明性の観点で、面倍率(X×Y)は、14.50〜16.00であることが好ましい。一方、金属缶の内面を構成するポリエステルフィルムを製造する場合は、フィルムと金属板との密着性、レトルト処理後の長期保存性能の観点で12.50〜14.00であることが好ましい。
【0043】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法において、MD延伸工程は、2段以上の多段延伸法であることが必要である。MD延伸は、一般的に、2個以上のロールの周速差を用いて行われる。MD延伸に多段延伸法を用いることによって、延伸応力の削減が可能となり、ロールへの負荷が軽減される。また、延伸温度を下げることが可能となり、ロールへのフィルムの融着や巻きつきを抑制することが可能となることから、フィルムの流れ方向(MD)の厚み斑が低減される。フィルムの流れ方向(MD)の厚み斑が低減されたMD延伸後のフィルムを、TD延伸することによって、本発明で規定する4方向における厚み斑を低減することができる。また、多段延伸することによって、フィルムは、結晶化指数が大きくなるため、耐衝撃性やレトルト処理後のバリア特性、保味保香性、フレーバー特性が向上する。
【0044】
多段のMD延伸において、延伸前の未延伸シートは、25〜60℃の範囲で予め温調しておくことが好ましい。未延伸シートは、温度が25℃未満であると、延伸時に破断することがあり、温度が60℃を超えると、ロールに巻付く可能性がある。
1段目のMD延伸(MD1延伸)は、延伸温度が50〜80℃であることが好ましく、55〜75℃であることがより好ましく、60〜70℃であることがさらに好ましい。
また、MD1延伸の延伸倍率は、1.1〜1.5倍であることが好ましい。延伸倍率が1.1倍以下では、延伸効果が現れず、延伸倍率が1.5倍を超えると、フィルムは、配向結晶化が著しく進行し、2段階目以降の延伸において応力が高くなり、破断しやすくなる。
【0045】
1段目のMD延伸(MD1延伸)に続いて、2段目のMD延伸(MD2延伸)を行う。さらに3段目以降のMD延伸を行ってもよい。MD延伸工程は、2段〜3段の多段延伸法であることが好ましい。以下、n段目のMD延伸をMDn延伸と呼ぶ。
MDn延伸は、延伸温度が50〜80℃であることが好ましく、55〜75℃であることがより好ましく、55〜70℃であることがさらに好ましい。
また、MDn延伸の延伸倍率は、1.2〜3.5倍であることが好ましい。
延伸倍率は、n段目の延伸倍率(X
n)よりも(n+1)段目の延伸倍率(X
n+1)が高くなるように、段階的に増加させることが好ましく、比(X
n+1/X
n)は、1.1〜3.5であることが好ましく、1.3〜3.3であることがより好ましく、1.5〜3.0であることがさらに好ましい。比(X
n+1/X
n)が1.1未満であると、フィルムは、結晶化指数が大きくなり、金属板への熱ラミネート性が低下しやすく、比(X
n+1/X
n)が3.5より大きいと、フィルムは、結晶化指数が小さくなるため、特に保味保香性およびフレーバー特性において性能が不十分となりやすい。
また、この多段延伸において、各段における延伸倍率の積で表されるMD延伸倍率(X)は、2.5〜3.8倍であることが好ましく、2.8〜3.5倍であることがより好ましい。
【0046】
MD延伸工程におけるフィルムの加熱方法として、加熱ロールにフィルムを通過させる方法や、MD延伸を行うロール間において赤外線加熱する等の公知の方法を、単独もしくは組み合わせて用いることができる。特に、延伸ロール間において赤外線でフィルムを加熱する方法は、延伸ロールの温度を低下させることができるため、ロールへのフィルムの融着や巻きつきが抑制され、フィルムのMDの厚み斑をより低減することが可能となる。
【0047】
MD延伸されたフィルムは、続いて連続的に、TD延伸される。
TD延伸の温度は、60〜100℃であることが好ましく、70〜95℃であることがより好ましい。
TD延伸の倍率(Y)は、最終的なフィルムの要求物性に依存し調整されるが、2.7倍以上、さらには3.0倍以上、特に3.6倍以上であることが好ましい。
【0048】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法では、延伸倍率比(X/Y)が0.82〜1.10となり、面倍率(X×Y)が12.00〜16.00となるように延伸することが必要である。上記延伸倍率比の範囲を満足せずに延伸した場合は、得られるポリエステルフィルムは、4方向の乾熱収縮率のバランスが劣るものとなり、乾熱収縮率の最大値と最小値の差が本発明で規定する範囲を超える傾向にあり、また、面倍率(X×Y)の値によっては、200℃、15分の熱処理による乾熱収縮率において本発明で規定する範囲を満足できない場合がある。また、面倍率(X×Y)が16.00を超えて延伸して得られるポリエステルフィルムは、200℃、15分の熱処理による乾熱収縮率において本発明で規定する範囲を満たすことが困難となり、面倍率(X×Y)が12.00未満で延伸して得られるポリエステルフィルムは、厚み斑において本発明の規定する範囲を満たすことが困難となり、低温熱ラミネート時の密着性に劣る傾向にある。
【0049】
TD延伸されたフィルムは、続いて、結晶化指数を大きくするための熱固定処理、および、フィルムの熱収縮特性等を調整するため、フィルムの幅を連続的に縮める熱弛緩処理を行う。
【0050】
熱固定処理温度は80〜180℃であることが好ましい。熱固定処理温度が80℃未満であると、得られるフィルムは、結晶化指数が小さく、強度が不十分となることがある。また、熱固定処理温度が180℃を超えると、得られるフィルムは、結晶化指数が大きくなり過ぎるため、金属板と熱圧着することが困難となりやすい。
【0051】
熱弛緩処理は、横延伸倍率の1〜10%とすることが好ましい。その後フィルムのTg以下に冷却して二軸延伸フィルムを得る。
延伸後の熱弛緩処理は、フィルムの寸法安定性を付与するために必要な工程であり、その方法として、熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等の公知の方法を用いることができる。このうち、均一に精度良く加熱できることから熱風を吹き付ける方法が最適である。
熱弛緩処理温度は140〜200℃であることが好ましく、150〜190℃であることがより好ましく、160〜180℃であることが最も好ましい。熱弛緩処理温度が140℃未満であると、本発明における4方向の乾熱収縮率が大きくなり、本発明のフィルムを得ることが困難となりやすい。また、熱弛緩処理温度が200℃を超えると、金属板との熱ラミネート性が低下し、本発明のフィルムを得ることが困難となりやすい。
【0052】
本発明のポリエステルフィルムには、金属板との熱圧着性およびその後の密着性をさらに向上させる目的で、共押出法やラミネート加工、あるいはコーティング加工により、接着層を設けることができる。接着層の厚みは、乾燥膜厚で1μm以下が好ましい。接着層は、特に限定されないが、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂やこれらの各種変性樹脂からなる熱硬化性樹脂層であることが好ましい。
また、金属板と熱圧着するフィルムの反対側には、金属缶体の外観や印刷性を向上させたり、フィルムの耐熱性や耐レトルト性等を向上させるために、1種もしくは2種以上の樹脂層を設けることができる。これらの層は、共押出法やラミネートあるいはコーティング加工により設けることができる。
【0053】
本発明のラミネート金属板は、上記フィルムが、金属板に積層されてなるものである。上記フィルムは、金属板との熱ラミネート性に優れているため、本発明のラミネート金属板は、接着剤を介さずに、上記フィルムが金属板に直接積層されたものであることが好ましい。
本発明のフィルムがラミネートされる金属板として、鋼板、アルミ等が挙げられ、クロム酸処理、リン酸処理、電解クロム酸処理、クロメート処理等の化成処理や、ニッケル、スズ、亜鉛、アルミ、砲金、真鍮、その他の各種メッキ処理などを施した金属板を用いることができる。
【0054】
フィルムを金属板にラミネートする方法としては、金属板を予め160〜250℃まで予熱しておき、これとフィルムとを、金属板より30℃、さらには50℃以上低く温度制御されたロールによって圧接して熱圧着させた後、室温まで冷却する方法が挙げられ、これによりラミネート金属板を連続的に製造することができる。
金属板の加熱方法としては、ヒーターロール伝熱方式、誘導加熱方式、抵抗加熱方式、熱風伝達方式等が挙げられ、特に、設備費および設備の簡素化の点から、ヒーターロール伝熱方式が好ましい。
また、ラミネート後の冷却方法として、水等の冷媒中に浸漬する方法や、冷却ロールと接触させる方法を用いることができる。
【0055】
上記の方法により得られるラミネート金属板は、良好な製缶性を有しているので、そのまま加工処理を施すことができるが、ポリエステルの融点より10〜30℃高い温度で熱処理した後、急冷して、フィルムをアモルファスの状態にする(以下、「アモルファス処理」と記すことがある)ことにより、さらに高い加工性を付与することができる。
本発明のフィルムは、金属板に熱ラミネートし、上記アモルファス処理後の動摩擦係数が、0.30以下であることが好ましく、特に内面用フィルムとして使用する場合は、0.20以下であることがさらに好ましい。本発明のフィルムは、アモルファス処理後の動摩擦係数が0.30を超えると、絞りしごき成形する際のダイスおよびパンチとの摩擦によって、欠陥が発生しやすくなる。
【0056】
本発明の金属容器は、上記ラミネート金属板が成形されてなるものである。金属容器は、飲食料を充填して使用に供することができ得る形態にまで加工処理が施されたものであり、金属容器の一部分、例えば、巻き締め加工が可能な形状に成形された缶蓋も含まれる。特に、厳しいネックイン加工が施される3ピース缶(3P缶)の缶胴部材や、絞りしごき加工によって製造される2ピース缶(2P缶)の缶胴部材として用いる金属容器の製造において、本発明のフィルムの優れた加工性が発揮される。
本発明の金属容器は、その優れた耐レトルト性、フレーバー性、耐食性から、コーヒー、緑茶、紅茶、ウーロン茶、特に腐食性の高い酸性飲料(果汁飲料)や乳性飲料といった各種加工食品等の内容物を充填する場合に適している。
【実施例】
【0057】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明する。
実施例および比較例におけるフィルムの原料、および、特性値の測定法は、次の通りである。
【0058】
(原料)
ポリエステル(A)
A−1:ホモポリブチレンテレフタレート(PBT)、IV1.08dl/g、Tm223℃、Ti触媒40ppm含有、溶融粘度292Pa・s(280℃)、320Pa・s(275℃)、348Pa・s(270℃)、390Pa・s(260℃)
A−2:セバシン酸5モル%を共重合したポリブチレンテレフタレート(PBT/PBS5)、IV0.92dl/g、Tm217℃、Ti触媒40ppm含有、溶融粘度248Pa・s(280℃)、273Pa・s(275℃)、303Pa・s(270℃)、340Pa・s(260℃)
A−3:セバシン酸12モル%を共重合したポリブチレンテレフタレート(PBT/PBS12)、IV0.95dl/g、Tm204℃、Ti触媒40ppm含有、溶融粘度251Pa・s(280℃)、282Pa・s(275℃)、305Pa・s(270℃)、345Pa・s(260℃)
【0059】
ポリエステル(B)
B−1:ホモポリエチレンテレフタレート(PET)、IV0.75dl/g、Tm255℃、Ge触媒40ppm含有、溶融粘度285Pa・s(280℃)、310Pa・s(275℃)、333Pa・s(270℃)、375Pa・s(260℃)
B−2:ホモポリエチレンテレフタレート(PET)、IV0.64dl/g、Tm255℃、Sb触媒100ppm含有、溶融粘度237Pa・s(280℃)、265Pa・s(275℃)、291Pa・s(270℃)、336Pa・s(260℃)
B−3:イソフタル酸5モル%を共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/PEI5)、IV0.81dl/g、Tm233℃、Ge触媒100ppm含有、溶融粘度320Pa・s(280℃)、335Pa・s(275℃)、360Pa・s(270℃)、402Pa・s(260℃)
B−4:イソフタル酸8モル%を共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/PEI8)、IV0.73dl/g、Tm228℃、Ge触媒100ppm含有、溶融粘度281Pa・s(280℃)、302Pa・s(275℃)、329Pa・s(270℃)、360Pa・s(260℃)
B−5:イソフタル酸12モル%を共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/PEI12)、IV0.65dl/g、Tm219℃、Ge触媒100ppm含有、溶融粘度241Pa・s(280℃)、269Pa・s(275℃)、293Pa・s(270℃)、325Pa・s(260℃)
B−6:1,4−シクロヘキサンジメタノール3.5モル%を共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/CHDM)、IV0.78dl/g、Tm240℃、Ge触媒40ppm含有、溶融粘度295Pa・s(280℃),322Pa・s(275℃),350Pa・s(270℃),395Pa・s(260℃)
【0060】
(測定法)
A.フィルム測定位置
フィルムの各物性は、製膜したポリエステルフィルムの巾方向の中央部を測定した。
【0061】
B.融点(Tm)
Perkin Elmer社製DSC8000を用い、ポリエステルフィルム9mgを50℃で1分間等温保持後、300℃/分で280℃まで昇温して1分間等温保持し、さらに300℃/分で50℃まで急冷して3分間等温保持し、フィルムを非晶状態とした後、20℃/分で280℃まで昇温して融点を測定した。
【0062】
C.結晶化指数
Perkin Elmer社製DSC8000を用い、ポリエステルフィルム9mgを20℃で1分間等温保持後、20℃/分で280℃まで昇温したときの融解熱量ΔHmと昇温時結晶化熱量ΔHcとを測定し、差(ΔHm−ΔHc)を結晶化指数(J/g)として算出した。なお、ポリエステル(A)とポリエステル(B)の融解ピークが完全に分離している場合は、ΔHm=ΔH{ポリエステル(A)}+ΔH{ポリエステル(B)}とし、ポリエステル(A)とポリエステル(B)の融解ピークが僅かでも重複している場合は、ポリエステル(A)の融解開始温度からポリエステル(B)の融解終了温度までの間の全融解熱量をΔHmとした。
【0063】
D.乾熱収縮率
ポリエステルフィルムを23℃×50%RHで2時間調湿した後、フィルムの流れ方向(MD)を0°方向とし、MDから時計回りに45°方向、90°方向(TD)、135°方向の4方向において、測定方向に100mm、測定方向に対して垂直方向に10mmとなるようにポリエステルフィルムを裁断し、試料(各方向において5枚ずつ)を採取した(調湿1後の試料)。
採取した試料は、160℃、30分間、または200℃、15分間の条件で乾燥空気中に晒した後に、23℃×50%RH環境にて2時間調湿した(調湿2後の試料)。乾熱収縮率は、調湿1後と調湿2後の試料長さを測定し、次式にて算出した。算出された5枚の平均値を採用した。
乾熱収縮率(%)=[(調湿1後の試料長さ−調湿2後の試料長さ)÷調湿1後の試料長さ]×100
【0064】
E.厚み斑
ポリエステルフィルムを23℃×50%RH環境にて2時間調湿した後、
図1に示すように、フィルム上の任意の位置を中心点Aとし、フィルムの流れ方向(MD)を0°方向(a)とし、MDから時計回りに45°方向(b)、90°方向(TD)(c)、135°方向(d)の4方向へ、それぞれ100mmの直線L1〜L4の合計4本引いた。それぞれの直線上の中心点から10mm間隔で10点における厚みを、厚みゲージ(ハイデンハイン社製 HEIDENHAIN−METRO MT1287)を用いて、計40点測定した。
厚み斑は、この40点の測定値における最大厚みをT
max、最小厚みをT
min、平均厚みをT
aveとし、次式を用いて算出した。
厚み斑(%)=(T
max−T
min)/T
ave×100
【0065】
F.密着性
設定温度180℃、190℃または200℃に加熱した金属ロールと、シリコンゴムロールとの間に、ポリエステルフィルムと厚みが0.21mmのティンフリースチール板とを重ね合わせて、金属ロールにティンフリースチール板が接し、シリコンゴムロールにポリエステルフィルムが接するように供給し、速度20m/分、線圧4.9×10
4N/mで2秒間加熱接着し、その後、氷水中に浸漬し、冷却してラミネート金属板を得た。
また、金属ロールの設定温度を220℃に設定し、加熱接着時間を1秒間に変更した以外は、上記と同様にして、ラミネート金属板を得た。
得られたラミネート金属板から、幅18mmの短冊状の試験片(長辺がフィルムのMD、短辺がフィルムのTDであり、端部はラミネートせず、ラミネートされた部分がMDに8cm以上確保されるようにする)を10枚切り出した。次に、この試験片のフィルム面に、JIS Z−1522に規定された粘着テープを貼り付け、島津製作所社製オートグラフで、10mm/分の速度で180度剥離試験を行い、その剥離強力を測定した。剥離強力が2.9N以上である場合、ラミネート金属板の剥離界面がポリエステルフィルム/ティンフリースチール板から、ポリエステルフィルムの凝集破壊や引張によるフィルム切断に移行する場合が多く認められたため、2.9Nを本発明における密着性評価の基準とし、2.9N以上の剥離強力を有する試験片の枚数により、ポリエステルフィルムとティンフリースチール板との密着性を評価した。2.9N以上の剥離強力を有する試験片の枚数が、実質的には6枚以上であり、8枚以上が好ましく、10枚全てであることがより好ましい。
【0066】
G.保存試験(50℃、3ヶ月)後の密着性
上記Fで得られたラミネート金属板を、120℃で30分間レトルト処理後、50℃で3ヶ月保存した後、ラミネート金属板から、幅18mmの短冊状の試験片(長辺がフィルムのMD、短辺がフィルムのTD)を10枚切り出し、上記Fと同様に剥離強力を測定した。上記Fと同様に、10枚の試験片のうち、剥離強力が2.9N以上である試験片の枚数によって、保存試験後のポリエステルフィルムとティンフリースチール板との密着性を評価した。
【0067】
H.製缶性
上記Fで得られたラミネート金属板を、熱風オーブンを用いて260℃で30秒間の加熱した後、急冷することによって、アモルファス処理した。アモルファス処理したラミネート金属板を、ダイスとパンチを使用し、底面直径65mm、高さ250mmの成形容器に、80ストローク/分の速度で絞りしごき成形を行い、2ピース缶を作成した。
得られた2ピース缶に120℃、30分間のレトルト処理を行った後に、1質量%の食塩水を缶内部に満たし、缶体を陽極にして6Vの電圧をかけた時の電流値を測定し、ポリエステルフィルムの欠陥の程度により製缶性を評価した。電流が多く流れるほど欠陥が多いことを示す。実用的には、電流値の最大値が5mA以下であり、4mA以下であることが好ましく、2.2mA以下であることがより好ましい。
【0068】
I.被覆性
上記Hの製缶性の評価において、120℃、30分間のレトルト処理を行った後、50℃で3ヶ月保存した。その後、Hと同様の方法で電流値を測定した。内面フィルムとして用いる場合には、50℃、3ヶ月の保存試験後において実用的には、電流値の最大値が5mA以下であり、4mA以下であることが好ましく、2.2mA以下であることがより好ましい。
【0069】
J.透明性
黒色印刷された金属板(L値は14.0)を用い、上記Fの方法でラミネート金属板を得た後、上記Hの方法で2ピース缶を作製し、色差計(日本電色工業社製 簡易型分光色差計 NF333、光源:F8、視角:10度)を用いて、外面フィルムがラミネートされた金属板の黒色印刷部のL値を測定した。
測定されたL値が小さい程、黒色の度合いが強く、外面フィルムは、印刷外観へ及ぼす影響は少なく、L値が大きい程、黒色の度合いが弱く、外面フィルムは、白化し、印刷外観に悪影響を与える。
黒色印刷部のL値が14.0である金属板に外面フィルムがラミネートされた金属缶は、実用的には、L値が30未満であることが好ましく、20未満であることがより好ましく、16未満であることがさらに好ましい。
【0070】
K.保味保香性
上記Fの方法において、金属ロールの設定温度が200℃の条件で熱ラミネートして得られたラミネート金属板を用いて、上記Hの方法で得られた2ピース缶に水を充填し、120℃で30分間レトルト処理した。10人の試験者によって、レトルト処理後の2ピース缶の水について、2ピース缶に充填されたレトルト処理前の水を無味無臭として、下記4段階で評価した。
◎:10人全員が金属の味および匂いを感じない。
〇:10人中1〜2人が金属の味または匂いを感じる。
△:10人中3〜4人が金属の味または匂いを感じる。
×:10人中5人以上が金属の味または匂いを感じる。
【0071】
L.製膜性
150m/分のライン速度でフィルム製膜時の巻取工程において、500N/mの張力で10000m巻取った際に発生した巻ずれについて、巻取りロールの全幅に対する巻ずれの最大値の割合から、製膜性を下記3段階で評価した。
〇:巻取ロール全幅の1%未満
△:巻取ロール全幅の1〜2%
×:巻取ロール全幅の2%より大きい
【0072】
M.加工性
金属板との熱ラミネート工程を、金属ロールの温度を200℃として、24時間操業した。ポリエステルフィルム中の低分子量ポリマー成分がシリコンゴムロールを汚染し、シリコンゴムロールに付着した汚れが、ポリエステルフィルムへ転写する直前に、シリコンゴムロールの掃除を行なって、シリコンゴムロール掃除の回数により下記3段階で、加工性を評価した。
〇:0〜1回
△:2〜3回
×:4回以上
【0073】
N.溶融粘度
100℃で10時間真空乾燥した樹脂について、直径0.5mm、長さ2.0mmのノズルを付けたフローテスター(島津製作所製 CFT−500)を用い、温度280℃、275℃、270℃、260℃で、予熱時間180sの条件で、荷重を変えて4点測定した。得られた剪断速度−溶融粘度曲線より、剪断速度1000s
−1時の見かけの溶融粘度を読みとった。
【0074】
O.滑り性
JISK7125に従って、ポリエステルフィルム、および、金属板に200℃で熱ラミネート後にアモルファス処理したラミネート金属板を、23℃×50%RHの環境で2時間調湿した後、同温湿度条件にて、フィルムの上に、63mm×63mmの表面積である質量200gの平滑なメタル治具を滑らせた時の動摩擦係数を測定した。
【0075】
実施例1
ポリエステル(A−1)60質量部とポリエステル(B−1)40質量部、さらに平均粒径2.5μmの凝集シリカ0.08質量%をドライブレンドし、これをTダイ(吐出口の間隔1.9mm)を備えた押出機を用いて275℃、滞留時間8分で単層のシート状に押出し、急冷固化して延伸後のフィルムの厚みが12μmとなるように未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートを逐次二軸延伸法にて延伸した。まず、縦延伸機にてMD延伸倍率(X)が3.45倍となるように、1.15倍の倍率で第1段目のMD延伸を行った後、連続的に3.00倍の倍率で第2段目のMD延伸を行った。なお、延伸温度は、第1段目のMD延伸、第2段目のMD延伸ともに70℃で行った。さらに引続き、MD延伸されたフィルムの端部を、テンター式横延伸機のクリップに把持し、TD延伸倍率(Y)が3.70倍となるように延伸した。これらの延伸によって、延伸倍率比(X/Y)は0.93であり、面倍率は(X×Y)は12.77であった。
次いで、熱弛緩処理温度を160℃とし、TDの弛緩率を5.0%として、4秒間の熱弛緩処理を施した後、室温まで冷却してロール状に巻き取り、厚さ12μmのポリエステルフィルムを得た。
【0076】
実施例2〜43、比較例1〜17
ポリエステル(A)とポリエステル(B)の種類と質量比を、またシート成形工程、構成層数、延伸工程および熱弛緩処理工程の条件を、表1、4、7に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ12μmのポリエステルフィルムを得た。
なお、実施例35〜38において、複層構成の未延伸シートは、多層フィードブロックを用いて押出しする方法によって、成形した。
また、実施例34〜38において、ポリエステル(A)とポリエステル(B)の合計量に対して1.5質量%の割合で、低分子量ポリマーとして、ポリエチレンワックス(住化カラー社製 BEP643、重量平均分子量17500)を含有する層を設けた。ポリエチレンワックスを含有する層は、実施例35の2層構成のフィルムでは2層目に、実施例36の4層構成のフィルムでは2層目と3層目に、実施例37の5層構成のフィルムでは3層目に、実施例38の10層構成のフィルムでは5層目と6層目に、それぞれ、配置した。
また、実施例35においては、動摩擦係数の測定は、低分子量ポリマー含有層を測定面として実施した。
【0077】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1〜9に示した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
【表8】
【0086】
【表9】
【0087】
実施例1〜43で得られたポリエステルフィルムは、ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(A)とポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(B)の質量比、4方向の乾熱収縮率、4方向における乾熱収縮率の最大値と最小値の差、厚み斑、結晶化指数が、本発明で規定する範囲であったため、広い温度域での熱ラミネートが可能であり、金属板との密着性が優れ、製缶性に優れており、製缶後の透明性に優れていた。また、レトルト処理後の保味保香性に優れ、レトルト処理後に長期保存した場合であっても金属板との密着性に優れており、被覆性にも優れていた。
特に、MD延伸を3段で行った実施例2、23、25、29のフィルムは、2段で行った実施例1、22、24、28のフィルムよりも厚み斑が改善され、保存前後における密着性、製缶性、被覆性がさらに向上した。
実施例13のフィルムは、延伸倍率比および面倍率が外面用フィルムに最も好適な条件であるため、金属缶の外面フィルムに求められる製缶後の透明性に最も優れていた。
実施例6のフィルムは、延伸倍率比および面倍率が内面用フィルムに最も好適な条件であるため、レトルト処理後に長期保存した場合であっても欠点が増加せず、金属缶の内面フィルムに求められるレトルト処理後の長期保存における被覆性に最も優れていた。
実施例1、34〜38の対比からわかるように、高温での金属板ラミネート加工時においては、ポリエステルフィルムは、構成層数が少ない方が、金属板との熱ラミネート性およびその後の密着性に優れていた。
実施例17〜21の対比からわかるように、実施例19で得られたポリエステルフィルムは、最も好ましい温度で熱処理されているため、160℃、30分や200℃、15分の熱処理による乾熱収縮率が最も好ましい範囲となり、金属板との熱ラミネート性およびその後の密着性に優れていた。
たとえば、実施例8、26、43の対比からわかるように、ポリエステル(B)として共重合ポリエチレンテレフタレートを含有するポリエステルフィルムは、厚み斑が大きい場合であっても、低い温度域での熱ラミネート性に優れており、高い密着性が保たれていた。
【0088】
一方、比較例1、2のフィルムは、ポリエステル(A)とポリエステル(B)の合計質量におけるポリエステル(A)の割合が70質量%を超えているため、レトルト処理後の長期保存における被覆性に劣り、製缶後の透明性にも劣り、比較例1のフィルムは、レトルト処理後の長期保存における密着性にも劣る結果となった。
比較例3〜6のフィルムは、ポリエステル(B)の割合が45質量%を超えているため、製缶後の透明性が低く、レトルト処理後に長期保存した際の被覆性に劣り、比較例6のフィルムは、低温での金属板ラミネート加工において、フィルムと金属板との密着性に劣る結果となった。
比較例11の、MD延伸を1段で行なったフィルムは、厚み斑が本発明で規定する範囲を超え、このため、低温での熱ラミネートにおいて、密着性に劣り、製缶性、被覆性においては、低温だけでなく高温での熱ラミネートにおいても劣り、透明性に劣っていた。
比較例7、10、14のフィルムは、延伸倍率比が本発明で規定する範囲を満たさなかったため、乾熱収縮率が本発明の規定する範囲を超え、さらに乾熱収縮率の最大値と最小値の差が本発明で規定する範囲を満足できなかったため、熱ラミネート温度が高いと、密着性、製缶性、被覆性が劣り、製缶後の透明性に劣る結果となった。
比較例8〜9、12〜13のフィルムは、延伸倍率比に加えて面倍率も本発明で規定する範囲を満たさなかったため、乾熱収縮率の最大値と最小値の差に加えて4方向の乾熱収縮率が本発明で規定する範囲を満足できないことがあり、このため、密着性、製缶性、被覆性に劣り、製缶後の透明性に劣るものであった。
比較例15のフィルムは、面倍率が本発明で規定する範囲を下回っていたため、厚み斑が本発明で規定する範囲を超え、このため、低温での熱ラミネートにおいて、密着性、製缶性、被覆性に劣り、製缶後の透明性に劣るものであった。
比較例16のフィルムは、面倍率が本発明で規定する範囲を超えているため、乾熱収縮率の最大値と最小値の差が本発明で規定する範囲を超え、このため、熱ラミネート温度が高いと、密着性、製缶性、被覆性に劣り、製缶後の透明性に劣るものであった。
比較例17の、MD延伸を1段で行なったフィルムは、厚み斑が本発明で規定する範囲を超え、このため、低温での熱ラミネートにおいて、密着性に劣り、製缶性、被覆性においては、低温だけでなく高温での熱ラミネートにおいても劣り、透明性に劣っていた。さらに、結晶化指数が本発明で規定する範囲を満たさなかったため、保味保香性に劣るものであった。
比較例8〜10、12〜14のフィルムは、200℃での熱ラミネート加工後、金属板との密着性が劣っており、アモルファス処理時の収縮に耐えられず、金属板から剥離したため、アモルファス処理後の滑り性を評価することができなかった。