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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-185344(P2021-185344A)
(43)【公開日】2021年12月9日
(54)【発明の名称】測定装置および測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/02 20060101AFI20211112BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20211112BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20211112BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20211112BHJP
【FI】
   G01B11/02 H
   B23K31/00 K
   B23K11/11
   G06T7/00 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-90239(P2020-90239)
(22)【出願日】2020年5月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健
【テーマコード(参考)】
2F065
4E165
5L096
【Fターム(参考)】
2F065AA12
2F065AA25
2F065AA26
2F065AA30
2F065BB13
2F065CC06
2F065CC15
2F065DD03
2F065FF04
2F065FF61
2F065JJ03
2F065MM02
2F065QQ03
2F065QQ21
2F065QQ24
2F065QQ28
2F065QQ31
2F065QQ41
2F065RR08
2F065SS09
2F065UU05
4E165AA01
4E165AB02
5L096BA03
5L096CA02
5L096FA06
5L096FA64
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】スポット溶接することで形成された試験片の断面におけるナゲットの各部の寸法を正確に測定できる測定装置および測定プログラムを提供すること。
【解決手段】入力画像Pとナゲット判定モデルMとから、入力画像PにおけるナゲットNが検出され、上板板厚メモリ12c及び下板板厚メモリ12dと、上板の上端および下板の下端との各値から板境界Bが測定され、検出されたナゲットNと板境界Bとからナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddが測定される。ここでナゲットNは、重ね合わせた鋼板Spと鋼板Spとの境界、即ち板境界Bを跨ぐように形成されるので、板境界BはナゲットNに関わる位置とされる。かかる板境界Bを基準にナゲットNにおけるナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddを測定することで、これらの寸法を正確に測定できる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の鋼板を重ね合わせてスポット溶接することで形成された試験片の断面の画像から前記試験片の断面における各部の寸法を測定する測定手段を備えた測定装置において、
前記試験片の断面の画像である入力画像を取得する取得手段と、
その取得手段で取得された入力画像からスポット溶接におけるナゲットを区別して検出するナゲット検出手段と、
前記取得手段で取得された入力画像から前記試験片における重ね合わせた鋼板と鋼板との境界である板境界を検出する板境界検出手段とを備え、
前記測定手段は、前記ナゲット検出手段で検出されたナゲットから前記入力画像におけるナゲットの各部の寸法を、前記板境界検出手段で検出された板境界を基準に測定することを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記測定手段は、その板境界検出手段で検出された板境界と、前記ナゲット検出手段で検出されたナゲットとの交点間の距離であるナゲット径を測定することを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記測定手段は、
前記板境界検出手段で検出された板境界と平行な直線である平行直線を複数算出する平行直線算出手段と、
その平行直線算出手段で算出された複数の平行直線のうち、平行直線と前記ナゲット検出手段で検出されたナゲットとの交点間の距離が、前記ナゲット径の所定の割合である平行直線を特定する直線特定手段とを備え、
その直線特定手段で特定された平行直線と前記板境界検出手段で検出された板境界との距離である溶込深さを測定する溶込深さ測定手段とを備えていることを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記入力画像は前記試験片と共に寸法の基準となる基準物が含まれるように撮像され、
その基準物における所定の寸法と、その寸法に該当する前記入力画像のピクセル数との関係を表す変換係数を取得する変換係数取得手段を備え、
前記測定手段は、その変換係数取得手段で取得された変換係数に基づき、前記ナゲットの各部の寸法を測定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の測定装置。
【請求項5】
前記ナゲット検出手段は、前記入力画像におけるナゲットとナゲット以外の物体とを異なる色で描画した画像であるナゲット領域画像を出力するものであり、
前記測定手段は、前記ナゲット検出手段で出力されたナゲット領域画像に基づいて、前記入力画像におけるナゲットの各部の寸法を測定することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の測定装置。
【請求項6】
前記ナゲット検出手段は、人工知能によって前記取得手段で取得された入力画像からスポット溶接におけるナゲットを区別して検出するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の測定装置。
【請求項7】
平板状の鋼板を重ね合わせてスポット溶接することで形成された試験片の断面の画像である入力画像を取得する取得ステップと、
その取得ステップで取得された入力画像からスポット溶接におけるナゲットを区別して検出するナゲット検出ステップと、
前記取得ステップで取得された入力画像から前記試験片における重ね合わせた鋼板と鋼板との境界である板境界を検出する板境界検出ステップと、
前記ナゲット検出ステップで検出されたナゲットから前記入力画像におけるナゲットの各部の寸法を、前記板境界検出ステップで検出された板境界を基準に測定する測定ステップとを、コンピュータに実行させることを特徴とする測定プログラム。
【請求項8】
前記ナゲット検出ステップは、人工知能によって前記取得ステップで取得された入力画像からスポット溶接におけるナゲットを区別して検出するものであることを特徴とする請求項7記載の測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、様々な鋼種および板厚の鋼板1,2を、様々な条件でスポット溶接を行い、そのスポット溶接部3におけるナゲットの板厚方向の断面の画像から、ナゲット径dN等のナゲットの各部の寸法を画像解析で測定することが開示されている。これにより、ナゲットの寸法を自動で測定できるので、作業員が定規等でナゲットの寸法を測定する必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−033706号公報(例えば、段落0029−0035,表2,3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、上記の画像からナゲットの各部の寸法を画像解析で測定する、具体的な手法が開示されていない。従って、上記の画像におけるナゲット以外の物体から寸法を測定したり、ナゲットにおいて寸法を測定すべき位置とズレた位置で寸法を測定する等して、ナゲットの各部の寸法を正確に測定できない虞があるという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、スポット溶接することで形成された試験片の断面におけるナゲットの各部の寸法を正確に測定できる測定装置および測定プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の測定装置は、平板状の鋼板を重ね合わせてスポット溶接することで形成された試験片の断面の画像から前記試験片の断面における各部の寸法を測定する測定手段を備えた装置であって、前記試験片の断面の画像である入力画像を取得する取得手段と、その取得手段で取得された入力画像からスポット溶接におけるナゲットを区別して検出するナゲット検出手段と、前記取得手段で取得された入力画像から前記試験片における重ね合わせた鋼板と鋼板との境界である板境界を検出する板境界検出手段とを備え、前記測定手段は、前記ナゲット検出手段で検出されたナゲットから前記入力画像におけるナゲットの各部の寸法を、前記板境界検出手段で検出された板境界を基準に測定するものである。
【0007】
また本発明の測定プログラムは、平板状の鋼板を重ね合わせてスポット溶接することで形成された試験片の断面の画像である入力画像を取得する取得ステップと、その取得ステップで取得された入力画像からスポット溶接におけるナゲットを区別して検出するナゲット検出ステップと、前記取得ステップで取得された入力画像から前記試験片における重ね合わせた鋼板と鋼板との境界である板境界を検出する板境界検出ステップと、前記ナゲット検出ステップで検出されたナゲットから前記入力画像におけるナゲットの各部の寸法を、前記板境界検出ステップで検出された板境界を基準に測定する測定ステップとを、コンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の測定装置によれば、板状の鋼板を重ね合わせてスポット溶接することで形成された試験片の画像である入力画像が取得され、取得された入力画像からスポット溶接におけるナゲットが区別して検出され、更に試験片における重ね合わせた鋼板と鋼板との境界である板境界が検出される。そして検出されたナゲットの各部の寸法が、板境界を基準に測定される。ここでナゲットは、重ね合わせた鋼板と鋼板との境界、即ち板境界を跨ぐように形成されるので、板境界はナゲットに関わる位置とされる。従って、ナゲットの各部の寸法をかかる板境界を基準に測定することで、ナゲットの各部の寸法を正確に測定できるという効果がある。
【0009】
請求項2記載の測定装置によれば、請求項1記載の測定装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。板境界とナゲットとの交点間の距離から、ナゲット径が算出される。これにより、作業員が定規等で実際に試験片を測定することなく、ナゲットの大きさの基準となるナゲット径を容易かつ正確に測定できるという効果がある。
【0010】
請求項3記載の測定装置によれば、請求項1又は2記載の測定装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。板境界と平行な直線である平行直線が複数算出され、その平行直線のうち、平行直線と検出されたナゲットとの交点間の距離がナゲット径の所定の割合である平行直線が特定され、その特定された平行直線と板境界との距離である溶込深さが測定される。これにより、作業員が定規等で実際に試験片を測定することなく、ナゲットの大きさの基準となる溶込深さを容易かつ正確に測定できるという効果がある。
【0011】
請求項4記載の測定装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。入力画像には、試験片と共に寸法の基準となる基準物が含まれ、その基準物の所定の寸法と、その寸法に該当する入力画像のピクセル数との関係を表す変換係数が取得され、その変換係数に基づいてナゲットの寸法が測定される。基準物の寸法に応じた変換係数に基づくことで、ナゲットの実際の寸法を容易かつ正確に測定できるという効果がある。
【0012】
請求項5記載の測定装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。ナゲット検出手段によって、入力画像におけるナゲットと、ナゲット以外の物体とを異なる色で描画した画像であるナゲット領域画像が出力され、そのナゲット領域画像からナゲットの各部の寸法が測定される。ナゲット領域画像において、ナゲットとナゲット以外の物体とが区別して描画されることで、ナゲット領域画像からナゲットを確実に検出できるので、ナゲットの各部の寸法を正確に測定できるという効果がある。
【0013】
請求項6記載の測定装置によれば、請求項1から5のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。人工知能によって入力画像からスポット溶接におけるナゲットが区別して検出されるので、ナゲットとナゲット以外の物体とが含まれる入力画像から、ナゲットを好適に検出できるという効果がある。
【0014】
請求項7記載の測定プログラムによれば、請求項1記載の測定装置と同様の効果を奏する。また、請求項8記載の測定プログラムによれば、請求項6記載の測定装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】測定装置を表す模式図である。
図2】(a)は、入力画像を表す図であり、(b)は、ナゲット領域画像を表す図であり、(c)は、ナゲットの各部の寸法を表す図である。
図3】(a)は、測定装置の電気的構成を示すブロック図であり、(b)は、学習データを模式的に示した図であり、(c)は、結果テーブルを模式的に示した図であり、(d)は、RAMを模式的に示した図である。
図4】(a)は、メイン処理のフローチャートであり、(b)は、学習処理のフローチャートである。
図5】判定処理のフローチャートである。
図6】検出処理のフローチャートである。
図7】(a)は、ナゲットの検出開始前の表示装置の表示内容を表す図であり、(b)は、ナゲットの検出開始後の表示装置の表示内容を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、測定装置1を表す模式図である。測定装置1は、スポット溶接することで形成された試験片Tの断面の画像を取得し、その画像に基づいて試験片の各部の寸法を測定し、測定された寸法に基づいてスポット溶接された結果が所定の規格(例えばJRIS W 0161)に適合しているかを判定する装置である。
【0017】
測定装置1には、ユーザからの指示が入力される入力装置2と、表示装置3と、試験片Tの画像である入力画像P(図2(a)参照)を取得するカメラCとが設けられる。表示装置3は、入力画像Pや試験片Tの各部の寸法等を表示する出力装置である。
【0018】
試験片Tは、少なくとも2枚の鋼板Spを重ね合わせてスポット溶接することで形成され、そのスポット溶接された結果が、所定の規格に適合しているかを判定するための部材である。試験片Tにおけるスポット溶接された部分が板厚方向に切断され、その切断面がカメラCに向くように配置される。
【0019】
その試験片Tと隣り合う位置には、定規Jが配置される。定規Jは、所定間隔(例えば1mm)毎に目盛り線が刻まれた基準物である。定規Jは、その長手方向側が試験片Tの長手方向側と平行になるように配置される。
【0020】
カメラCの撮像範囲CAは、入力画像P内に試験片Tと定規Jとが含まれるように、なおかつ入力画像Pの水平方向が試験片T(即ち2枚の鋼板Sp)及び定規Jの長手方向と一致するように設定される。次に図2(a)を参照して、カメラCで取得される入力画像Pを説明する。
【0021】
図2(a)は、入力画像Pを表す図である。入力画像Pには、試験片Tの画像と定規Jとの画像が含まれる。試験片TにおけるナゲットNは、スポット溶接によって2枚以上(本実施形態では2枚)の鋼板Spの重ね合わせた部分が溶融して形成される。以下、試験片Tにおける複数の鋼板Spのうち、入力画像Pにおける最も上側の鋼板Spを「上板」、最も下側の鋼板Spを「下板」とそれぞれいう。
【0022】
ナゲットNは、スポット溶接で形成される溶融金属のことであり、上板と下板との重ね合わせた部分が溶融され、上板と下板との境界部である後述の板境界Bを跨ぐように形成される。従って、ナゲットNの外形の形状は、必ずしも単純な直線状や円形状とならず、不定形となる。また、カメラCが配置される照明の色温度やスポット溶接による溶融度合い、更には鋼板Spの鋼種等によって、入力画像Pに撮像されるナゲットNやその周囲の鋼板Spの色味が様々となる。これらによって、従来の画像処理では、入力画像PからナゲットNを正確に検出するのは困難である。
【0023】
そこで本実施形態では、多数のナゲットNを含む試験片Tの断面の画像と、対応する画像から検出すべきナゲットNの画像とを学習させた学習モデル(人工知能)である、ナゲット判定モデルMを用いて、入力画像PからナゲットNを区別して検出したナゲット領域画像Pnを作成し、そのナゲット領域画像Pnに基づいてナゲットNの寸法が測定される。かかるナゲット判定モデルMによるナゲットNの検出および寸法の測定を、図2(b),(c)を参照して説明する。
【0024】
図2(b)は、ナゲット領域画像Pnを表す図である。図2(b)におけるナゲット領域画像Pnは、図2(a)の入力画像Pをナゲット判定モデルMに入力することで作成された、ナゲットNとナゲットN以外の物体とを区別して描画した画像である。
【0025】
ナゲット判定モデルMは、多数のナゲットNを含む試験片Tの断面の画像と、その画像から検出すべきナゲットNの画像である教師画像との組み合わせを学習させた、学習モデルである。本実施形態ではナゲット判定モデルMとして「U−Net」と呼ばれる学習モデルを用いるが、他の学習モデルを用いても良い。
【0026】
ナゲット判定モデルMには、多数のナゲットNを含む試験片Tの断面の画像と、その画像から検出すべきナゲットNの教師画像とが学習されているので、ナゲット判定モデルMに基づくことで、入力画像PにおけるナゲットNの形状やナゲットN及び鋼板Spの色味が様々であっても、入力画像PからナゲットNを、ナゲットN以外の物体と区別して検出できる。
【0027】
このようなナゲット判定モデルMによって、入力画像Pから作成されたナゲット領域画像Pnは、図2(b)に示す通り、ナゲット判定モデルMで検出された入力画像PにおけるナゲットNと、ナゲットN以外の物体とが異なる態様で描画される。具体的には、ナゲットNの輪郭線である輪郭Neを境界に、ナゲットN部分とナゲットN以外の部分とが異なる色(例えば、ナゲットN部分が白色、ナゲットN以外の部分画像が黒色)で描画される。
【0028】
これにより、ナゲット領域画像PnにおいてナゲットNとナゲットN以外の物体とが明確に区別できるので、ナゲット領域画像PnからナゲットNの位置を、正確かつ容易に検出できる。このように検出されたナゲット領域画像PnからナゲットNの位置に基づいて、ナゲットNの各部の寸法が測定される。ここで図2(c)を参照して、測定装置1で測定されるナゲットNの各部の寸法を説明する。
【0029】
図2(c)は、ナゲットNの各部の寸法を表す図である。図2(c)は、図2(a)の入力画像PにナゲットNの各部の寸法を示した画像P'を表している。本実施形態では、ナゲットNの寸法として、ナゲット径Nhdと、上板溶込深さNupと、下板溶込深さNddとを測定する。具体的に、ナゲット径Nhdは、画像P'においてナゲットNの輪郭Neと2枚の鋼板Spを重ね合わせた境界部である板境界Bとの交点である交点B1,B2間の距離である。ナゲット径Nhdは、ナゲットNにおける板境界B方向、即ち鋼板Spの長手方向における大きさの基準とされる。
【0030】
上記した通り、入力画像Pにおいては、鋼板Spの重ね合わせ方向、即ち鋼板Spの長手方向は、入力画像Pの水平方向と一致している。よって以下では、入力画像Pにおける鋼板Spの長さ方向を「水平方向」といい、厚さ方向を「垂直方向」という。
【0031】
上板溶込深さNupは、板境界Bと平行な直線である平行直線であって、該平行直線のナゲットNの輪郭Neとの交点間の距離がナゲット径Nhdの8割の長さとなる平行直線のうち、板境界Bよりも上方の平行直線(即ち図2(c)の交点B3,B4による平行直線)と板境界Bとの距離である。また、下板溶込深さNddは、平行直線におけるナゲットNの輪郭Neとの交点間の距離がナゲット径Nhdの8割の長さとなる平行直線のうち、板境界Bよりも下方の平行直線(即ち図2(c)の交点B5,B6による平行直線)と板境界Bとの距離である。これら上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddは、ナゲットNにおける、板境界B及びナゲット径Nhdと直交した方向、即ち垂直方向における大きさの基準とされる。
【0032】
本実施形態では、これらナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddが、入力画像Pからナゲット判定モデルMによって作成されたナゲット領域画像Pn(図2(b)参照)に基づいて測定される。ナゲット領域画像Pnには、ナゲットNとナゲットN以外の物体が区別して描画されているので、ナゲットNを確実に検出し、これらの値を正確に測定できる。
【0033】
次に、図3を参照して、測定装置1の電気的構成を説明する。図3(a)は、測定装置1の電気的構成を示すブロック図である。図3(a)に示す通り、測定装置1は、CPU10と、ハードディスクドライブ(以下「HDD」という)11と、RAM12とを有し、これらはバスライン13を介して入出力ポート14にそれぞれ接続されている。入出力ポート14には更に、上記した入力装置2、表示装置3及びカメラCが接続される。
【0034】
CPU10は、バスライン13により接続された各部を制御する演算装置である。HDD11は、書き換え可能な不揮発性の記憶装置であり、測定プログラム11aと、上記のナゲット判定モデルMが記憶されるナゲット判定モデル11bと、学習データ11cと、結果テーブル11dと、判定基準データ11eとがそれぞれ保存される。CPU10によって測定プログラム11aが実行されると、図4(a)のメイン処理が実行される。学習データ11cには、ナゲット判定モデルMを学習するための画像が記憶される。図3(b)を参照して、学習データ11cを説明する。
【0035】
図3(b)は、学習データ11cを模式的に示した図である。学習データ11cには、ナゲットNが含まれる試験片Tの画像である入力画像と、その入力画像から検出すべきナゲットNの画像である教師画像とが対応付けられて記憶される。具体的に教師画像は、入力画像に基づいてユーザが作成された画像であって、入力画像から検出すべきナゲットNとナゲットN以外の物体とを異なる色、即ち図2(b)で説明したナゲット領域画像Pnと同様の態様で描画された画像が記憶される。
【0036】
学習データ11cには、ナゲットNの形状やナゲットN及び鋼板Spの色味が様々な入力画像と、その入力画像に対応する教師画像の組み合わせが多数(例えば10000組)記憶される。後述する学習処理で、学習データ11cに記憶された入力画像および教師画像を用いて、ナゲット判定モデルMが学習される。
【0037】
図3(a)に戻る。結果テーブル11dは、測定されたナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNdd等が記憶されるデータテーブルである。図3(c)を参照して結果テーブル11dを説明する。
【0038】
図3(c)は、結果テーブル11dを模式的に示した図である。結果テーブル11dには、入力画像Pから測定された上記のナゲット径Nhdと、上板溶込深さNupと、下板溶込深さNddと、入力装置2から入力された上板の板厚と、入力装置2から入力された下板の板厚と、測定に用いた入力画像Pと、その入力画像Pに対して測定されたナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNdd等を描画した結果画像Q(図7(b)参照)と、ナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNdd等から、スポット溶接が所定の規格に適合しているかどうかの判定結果(「OK」又は「NG」)とが対応付けられて記憶される。
【0039】
図3(a)に戻る。判定基準データ11eには、ナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddのそれぞれに対する所定の規格を満たすための基準値が記憶される。鋼板Spの上板または下板の板厚に応じて、所定の規格を満たすナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddが異なるため、鋼板Spの上板または下板の板厚に応じたそれぞれの基準値が判定基準データ11eに記憶される。なお、これら基準値は判定基準データ11eに記憶されるものに限られず、鋼板Spの上板または下板の板厚等から算出しても良い。この場合、例えば、上板溶込深さNupは鋼板Spの上板の板厚の20〜90%の値と規定されているため、この規定に基づいて上板溶込深さNupの基準値を算出すれば良い。
【0040】
RAM12は、CPU10が測定プログラム11aの実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するためのメモリである。図3(d)を参照して、RAM12を説明する。
【0041】
図3(d)は、RAM12を模式的に示した図である。図3(d)に示す通り、RAM12には、図2(a)に示すような入力画像Pが記憶される入力画像メモリ12aと、図2(b)に示すようなナゲット領域画像Pnが記憶されるナゲット領域画像メモリ12bと、上板の板厚の実際の寸法が記憶される上板板厚メモリ12cと、下板の板厚の実際の寸法が記憶される下板板厚メモリ12dと、上板の板厚のピクセル数が記憶される上板板厚ピクセルメモリ12eと、下板の板厚のピクセル数が記憶される下板板厚ピクセルメモリ12fと、変換係数メモリ12gと、ナゲットNの位置が記憶されるナゲット位置メモリ12hと、上記のナゲット径Nhdが記憶されるナゲット径メモリ12iと、板境界Bの位置が記憶される板境界位置メモリ12jと、上板溶込深さNupが記憶される上板溶込深さメモリ12kと、下板溶込深さNddが記憶される下板溶込深さメモリ12mと、結果画像Q(図7(b)参照)が記憶される結果画像メモリ12nとが設けられる。
【0042】
変換係数メモリ12gは、上記した定規Jの目盛り線に基づいて算出された変換係数が記憶されるメモリである。本実施形態において変換係数は、隣り合う目盛り線の実際の距離を、入力画像Pにおける隣り合う目盛り線間のピクセル数で除した値とされる。
【0043】
次に図4〜7を参照して、測定装置1のCPU10で実行されるメイン処理を説明する。図4(a)は、メイン処理のフローチャートである。メイン処理は、測定装置1の電源投入後に実行される処理である。
【0044】
メイン処理はまず、測定装置1の動作モードを確認する(S1)。本実施形態における測定装置1の動作モードには、学習データ11c(図3(b)参照)に基づいてナゲット判定モデルMへの学習を行う「学習モード」と、カメラCから取得された入力画像Pからナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddを測定し、それらが所定の規格に適合するか判定する「判定モード」とが設けられる。S1の処理では、入力装置2を介してユーザから指定された動作モードが確認される。
【0045】
S1の処理において、動作モードが学習モードの場合は(S1:学習モード)、学習処理(S2)を実行する。ここで、図4(b)を参照して学習処理を説明する。
【0046】
図4(b)は、学習処理のフローチャートである。学習処理は、まず、学習データ11cを用いた機械学習によって、ナゲット判定モデル11bのナゲット判定モデルMを調整する(S10)。具体的には、ナゲット判定モデルMには、入力画像からナゲット領域画像Pnを出力する際の、ナゲットNの検出度合い等を設定するためのパラメータ(係数)が用意されており、パラメータが調整可能に構成される。S10の処理では、学習データ11cにおける全ての入力画像からナゲット判定モデルMを用いて作成されたナゲット領域画像Pnと、該当する学習データ11cの教師画像とを比較し、これらの相違が小さくなるように、ナゲット判定モデルMのパラメータを自動調整する。
【0047】
S10の処理の後、再度学習データ11cにおける全ての入力画像からナゲット判定モデル11bのナゲット判定モデルMを用いて作成されたナゲット領域画像Pnと、該当する学習データ11cの教師画像とを比較し、これらの相違が十分に小さいかを確認する(S11)。S11の処理において、相違が大きい場合は(S11:No)、S10の処理を繰り返す。このようにナゲット判定モデルMへのパラメータの調整を繰り返すことで、ナゲット判定モデルMによるナゲットNの検出精度が向上するので、入力画像PからナゲットNをより好適に検出できる。一方で、S11の処理において、相違が十分に小さい場合は(S11:Yes)、学習処理を終了する。
【0048】
図4(a)に戻る。S1の処理において、動作モードが判定モードの場合は(S1:判定モード)、判定処理(S3)を実行する。図5〜7を参照して判定処理を説明する。
【0049】
図5は、判定処理のフローチャートである。判定処理は、まず、カメラCから入力画像Pを取得し、入力画像メモリ12aへ保存すると共に、表示装置3へ表示する(S20)。ここで図7(a)を参照して、表示装置3の表示内容を説明する。
【0050】
図7(a)は、ナゲットNの検出開始前の表示装置3の表示内容を表す図である。図7(a)に示す通り、表示装置3には、入力画面表示エリア3aと、結果画像表示エリア3bと、ナゲット径Nhd等の測定結果が表示される数値表示エリア3cとが設けられる。入力画面表示エリア3aには、図5のS20の処理で取得された入力画像Pが表示される。結果画像表示エリア3bには、入力画像Pに基づく結果画像Qが表示される。
【0051】
数値表示エリア3cには、上板の板厚を入力する上板エリア3dと、下板の板厚を入力する下板エリア3eと、ナゲットNの検出の開始を指示する検出開始ボタン3fと、ナゲット径Nhdを表示または入力するナゲット径エリア3gと、上板溶込深さNupを表示または入力する上板溶込深さエリア3hと、下板溶込深さNddを表示または入力する下板溶込深さエリア3iと、判定結果が表示される結果エリア3jと、次の入力画像Pの取得を指示する次の読込ボタン3kと、図5の判定処理の終了を指示する終了ボタン3mとが設けられる。
【0052】
このうち、ナゲット径エリア3g、上板溶込深さエリア3h及び下板溶込深さエリア3iにおいては、後述する検出処理で測定されたナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddがそれぞれ表示され、あるいは入力装置2を介してユーザから入力された値が表示される。
【0053】
図7(a)においては、ナゲットNの検出が実行される前なので、ナゲット径エリア3g、上板溶込深さエリア3h及び下板溶込深さエリア3iには、ブランク(空白)が表示され、結果画像表示エリア3bには結果画像Qの代わりに、ブランク画像BL(図7(a)では「×」で表す)が表示される。また、数値表示エリア3cでは、検出開始ボタン3fが操作可能であることを表す実線で表示されるのに対して、次の読込ボタン3k及び終了ボタン3mは、操作不可能であることを表す破線で表示される。なお、終了ボタン3mを常に操作可能であることを表す実線で表示しても良い。
【0054】
図5に戻る。S20の処理の後、ユーザから入力装置2を介して上板エリア3d及び下板エリア3e(共に図7(a)参照)に入力した値を、それぞれ上板板厚メモリ12c及び下板板厚メモリ12dに保存する(S21)。
【0055】
S21の処理の後、検出開始ボタン3fが操作されたかを確認する(S22)。S22の処理において、検出開始ボタン3fが操作されていない場合は(S22:No)、待機し、検出開始ボタン3fが操作された場合は(S22:Yes)、検出処理(S23)を実行する。ここで図6を参照して、S23の検出処理を説明する。
【0056】
図6は、検出処理のフローチャートである。検出処理は、入力画像メモリ12aの入力画像PからナゲットNを検出し、検出されたナゲットNに基づいてナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddを測定する処理である。
【0057】
検出処理はまず、入力画像メモリ12aの入力画像Pをナゲット判定モデルMに入力してナゲット領域画像Pnを作成し、そのナゲット領域画像Pnをナゲット領域画像メモリ12bへ保存する(S40)。S40の処理の後、ナゲット領域画像メモリ12bのナゲット領域画像PnからナゲットNの位置を取得し、その座標をナゲット位置メモリ12hへ保存する(S41)。
【0058】
S41の処理の後、入力画像Pにおける試験片Tや定規Jの位置および寸法を取得するため、まず入力画像Pにおける水平方向の直線状の画像を検出する(S42)。水平方向の直線状の画像の検出は、既知の画像処理(例えばハフ変換)によって行われる。
【0059】
S42の処理の後、入力画像Pにおける垂直方向(図2(a)における上下方向)の直線状の画像を検出し、検出された垂直方向の直線状の画像から定規Jの目盛り線を検出する(S43)。入力画像Pにおける垂直方向の直線状の画像の検出は、S42の処理と同様に、既知の画像処理(例えばハフ変換)によって行われる。本実施形態では、検出された垂直方向の直線状の画像のうち、入力画像Pにおける下端付近の垂直方向の直線状の画像が定規Jの目盛り線なので、かかる画像を検出する。
【0060】
S43の処理の後、S43の処理で検出された定規Jの隣り合う目盛り線間の実際の距離とピクセル数とから、変換係数を取得し、変換係数メモリ12gへ保存する(S44)。具体的には、S43の処理で検出された定規Jの隣り合う目盛り線をそれぞれ取得し、隣り合う目盛り線間における水平方向のピクセル数を取得する。そして、隣り合う目盛り線間の実際の距離(例えば1mm)を、隣り合う目盛り線間の水平方向のピクセル数で割ることで取得された値、即ち変換係数を、変換係数メモリ12gへ保存する。
【0061】
S44の処理の後、S42の処理で検出された入力画像Pの水平方向の直線状の画像から、上板の上端、および下板の下端を検出する(S45)。具体的に、図2(c)を用いてS45の処理を説明すると、入力画像Pにおける上端から1本目の直線状の画像が上板の上端とされ、入力画像Pにおける下端から2本目の水平方向の直線状の画像が、下板の下端とされる。
【0062】
図6に戻る。S45の処理の後、上板板厚メモリ12c及び下板板厚メモリ12dの各値を、変換係数メモリ12gの変換係数を用いてピクセル数に変換し、上板板厚ピクセルメモリ12e及び下板板厚ピクセルメモリ12fに保存する(S46)。具体的には、上板板厚メモリ12c及び下板板厚メモリ12dの各値を変換係数メモリ12gの変換係数で除した値を、上板板厚ピクセルメモリ12e及び下板板厚ピクセルメモリ12fそれぞれに保存する。
【0063】
S46の処理の後、上板板厚ピクセルメモリ12e及び下板板厚ピクセルメモリ12fと、S46の処理で変換した上板の上端および下板の下端との各値から、板境界Bの座標を算出し、板境界位置メモリ12jへ保存する(S47)。具体的には、上板の上端の座標から上板板厚ピクセルメモリ12eのピクセル数分だけ下方に移動した位置、及び下板の下端の座標から下板板厚ピクセルメモリ12fのピクセル数分だけ上方に移動した位置が板境界Bの位置なので、かかる位置の座標が、板境界位置メモリ12jに保存される。
【0064】
S47の処理の後、ナゲット位置メモリ12h及び板境界位置メモリ12jの各座標と変換係数メモリ12gの変換係数とから、ナゲット径Nhdを測定し、ナゲット径メモリ12iに保存する(S48)。具体的にナゲット径Nhdは、ナゲット位置メモリ12hにおけるナゲットNの輪郭Neと、板境界位置メモリ12jの板境界Bとの交点B1,B2(図2(c)参照)の座標を取得し、取得された交点B1,B2間の長さが即ちナゲット径Nhdとして測定される。更に測定されたナゲット径Nhdに変換係数メモリ12gの変換係数を乗じることで、ナゲット径Nhdの実際の寸法に変換され、かかる寸法がナゲット径メモリ12iに保存される。
【0065】
S48の処理の後、板境界位置メモリ12jの板境界Bと平行な直線である平行直線を複数算出する(S49)。S49の処理の後、算出された平行直線のうち、ナゲット位置メモリ12hのナゲットNの輪郭Neとの交点間の距離がナゲット径メモリ12iのナゲット径Nhdの8割である平行直線を特定する(S50)。
【0066】
S50の処理の後、特定された平行直線と板境界位置メモリ12jの板境界Bとの距離と、変換係数メモリ12gの変換係数とから上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddを測定し、上板溶込深さメモリ12k及び下板溶込深さメモリ12mへ保存する(S51)。具体的に、S50の処理で特定された平行直線のうち、板境界位置メモリ12jの板境界Bよりも上方の平行直線(具体的には図2(c)における交点B3,B4を通る平行直線)と板境界位置メモリ12jの板境界Bとの距離が、上板溶込深さNupとして測定される。更に測定された上板溶込深さNupに変換係数メモリ12gの変換係数を乗じることで、上板溶込深さNupの実際の寸法に変換され、かかる寸法が上板溶込深さメモリ12kに保存される。
【0067】
一方、S50の処理で特定された平行直線のうち、板境界位置メモリ12jの板境界Bよりも下方の平行直線(具体的には図2(c)における交点B5,B6を通る平行直線)と板境界位置メモリ12jの板境界Bとの距離が下板溶込深さNddとして測定される。更に測定された下板溶込深さNddに変換係数メモリ12gの変換係数を乗じることで、下板溶込深さNddの実際の寸法に変換され、かかる寸法が下板溶込深さメモリ12mに保存される。
【0068】
以上の検出処理では、まず、入力画像メモリ12aの入力画像Pとナゲット判定モデルMとから、入力画像PにおけるナゲットNが検出される。上板板厚メモリ12c及び下板板厚メモリ12dと、上板の上端および下板の下端との各値から板境界Bが測定され、検出されたナゲットNの輪郭Neと板境界Bとからナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddが測定される。ここでナゲットNは、図2(c)に示したように、重ね合わせた鋼板Spと鋼板Spとの境界、即ち板境界Bを跨ぐように形成されるので、板境界BはナゲットNに関わる位置とされる。かかる板境界Bを基準に、ナゲットNにおけるナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddを測定することで、これらの寸法を正確に測定できる。
【0069】
また、入力画像Pにおける上板の上端や下板の下端といった水平方向の直線状の画像や、定規Jの目盛り線といった垂直方向の直線状の画像が、画像処理によって検出される。形状が単純なこれら直線状の画像を画像処理で検出することで、ナゲット判定モデルMのような学習モデルを予め用意し、直線状の画像の検出の際に学習モデルを参照する必要がない。これにより、直線状の画像の検出を容易かつ迅速に行うことができる。
【0070】
ナゲットNを検出するナゲット判定モデルMは、様々な形状および色味のナゲットNの画像とその画像から検出すべき教師画像とに基づいた学習モデルとして構成される。かかるナゲット判定モデルMに入力画像メモリ12aの入力画像Pを入力することで、入力画像PからナゲットNをナゲットN以外の物体と区別して検出できるので、ナゲットNの誤検出を抑制できる。
【0071】
加えて、ナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddの算出に際して、定規Jの目盛り線に基づく変換係数メモリ12gの変換係数が用いられる。これにより、入力画像Pのピクセル数に基づくナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddから、これらの実際の寸法を正確かつ容易に測定できる。
【0072】
図5に戻る。S23の検出処理の後、入力画像メモリ12aの入力画像Pに、ナゲット位置メモリ12hのナゲットN、図6のS45の処理で算出された上板の上端および下板の下端、ならびに板境界位置メモリ12jの板境界Bのそれぞれの位置と、ナゲット径メモリ12iのナゲット径Nhd、上板溶込深さメモリ12kの上板溶込深さNup及び下板溶込深さメモリ12mの下板溶込深さNddのそれぞれの寸法情報とを合成した、結果画像Q(図7(b)参照)を生成し、結果画像メモリ12nへ保存する(S24)。
【0073】
S24の処理の後、ナゲット径メモリ12iのナゲット径Nhd、上板溶込深さメモリ12kの上板溶込深さNup、下板溶込深さメモリ12mの下板溶込深さNdd及び結果画像メモリ12nの結果画像Qを、表示装置3へ表示する(S25)。かかるS25の処理による表示装置3の表示内容を、図7(b)を参照して説明する。
【0074】
図7(b)は、ナゲットNの検出開始後の表示装置3の表示内容を表す図である。図7(b)に示す通り、ナゲットNの検出開始後の表示装置3における結果画像表示エリア3bには、図5のS25の処理により結果画像メモリ12nの結果画像Qが表示される。結果画像表示エリア3bの結果画像Qと、入力画面表示エリア3aの入力画像Pとを比較することで、ナゲットNや板境界B等の位置と、ナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddのそれぞれの寸法情報とを、視覚的に把握できる。
【0075】
加えて、図5のS25の処理により、数値表示エリア3cにおけるナゲット径エリア3gにはナゲット径メモリ12iのナゲット径Nhdの値が表示され、上板溶込深さエリア3hには上板溶込深さメモリ12kの上板溶込深さNupの値が表示され、下板溶込深さエリア3iには、下板溶込深さメモリ12mの下板溶込深さNddの値が表示される。
【0076】
従って、作業員は、結果画像表示エリア3bの結果画像QでナゲットNの検出結果の概要を確認しながら、具体的なナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddの値をナゲット径エリア3g、上板溶込深さエリア3h及び下板溶込深さエリア3iで確認できる。これにより、作業員によるナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddの検証を効率良くできる。
【0077】
また図7(b)では、ナゲットNの検出が実行された後なので、ナゲットNの検出の重複を防ぐため、検出開始ボタン3fが操作不可能であることを表す破線で表示される。一方で、ナゲットNの検出が実行され、ナゲット径Nhd等が測定された後なので、次の読込ボタン3kと終了ボタン3mとが、操作可能であることを表す実線で表示される。
【0078】
図5に戻る。S25の処理の後、上板板厚メモリ12c、下板板厚メモリ12d、ナゲット径メモリ12i、上板溶込深さメモリ12k及び下板溶込深さメモリ12mに各値が、判定基準データ11eの基準値に適合しているかを判定し、その結果を表示装置3の結果エリア3j(図7(b)参照)に表示する(S26)。
【0079】
具体的には、判定基準データ11eから上板板厚メモリ12c及び下板板厚メモリ12dの板厚に該当するナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddの基準値をそれぞれ取得する。取得された各基準値に、ナゲット径メモリ12iのナゲット径Nhd、上板溶込深さメモリ12kの上板溶込深さNup及び下板溶込深さメモリ12mの下板溶込深さNddが全て適合する場合は、結果エリア3jに「OK」が表示され、1つでも適合しない場合は結果エリア3jに「NG」が表示される。
【0080】
即ち入力画像メモリ12aの入力画像Pから検出されたナゲットNに基づいて、ナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddが測定される。測定されたナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddに基づいて、入力画像Pにおける試験片Tのスポット溶接が所定の規格に適合しているかが判定される。
【0081】
これにより、測定に用いるナゲットNと判定に用いるナゲットNとを同一とできるので、測定されたナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddに基づくスポット溶接が、所定の規格に適合しているかを正確に判定できる。また、入力画像Pの取得のみで、ナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddの測定と、試験片Tへのスポット溶接の判定とを共に実施できるので、これら測定および判定を容易とし、作業員の手間を軽減できる。
【0082】
S26の処理の後、入力装置2を介して、ナゲット径エリア3g、上板溶込深さエリア3h又は下板溶込深さエリア3iのうち1つ以上の値が異常な値であるかを確認する(S27)。S27の処理において、ナゲット径エリア3g、上板溶込深さエリア3h又は下板溶込深さエリア3iのうち1つ以上の値が異常な値である場合は(S27:Yes)、作業員が入力装置2を介してナゲット径エリア3g、上板溶込深さエリア3h又は下板溶込深さエリア3iに入力した値で、該当するナゲット径メモリ12i、上板溶込深さメモリ12k及び下板溶込深さメモリ12mを更新し(S28)、S24以下の処理を繰り返す。なお、S28の処理で作業員が入力する値は、作業員自身が入力画像P又は結果画像Qから測定したナゲット径Nhd、上板溶込深さNup又は下板溶込深さNddでも良いし、別途の画像処理ソフトウェアで測定したナゲット径Nhd、上板溶込深さNup又は下板溶込深さNddでも良い。
【0083】
また、S27の処理において、ナゲット径エリア3g等が異常な値であるかどうかの確認に加え、作業員が結果画像表示エリア3bの結果画像Qに表示されるナゲット径Nhd、上板溶込深さNup又は下板溶込深さNddの位置が異常であると判断した場合は、S28の処理を実行して、作業員が入力装置2を介してナゲット径エリア3g等に入力した値で該当するナゲット径メモリ12i等を更新し、加えて、結果画像表示エリア3bの結果画像Qに表示されるナゲット径Nhd等の寸法情報の表示位置を、作業員が入力装置2を介して修正しても良い。この場合、これらの処理の後に、入力装置2を介して修正された結果画像Qを結果画像メモリ12nに保存することでS24の処理を省略し、S25以下の処理を実行すれば良い。
【0084】
S27の処理において、ナゲット径エリア3g、上板溶込深さエリア3h及び下板溶込深さエリア3iの値がいずれも正常である場合は(S27:No)、上板板厚メモリ12c、下板板厚メモリ12d、ナゲット径メモリ12i、上板溶込深さメモリ12k及び下板溶込深さメモリ12mの各値と、結果画像メモリ12nの結果画像Qと、S26の処理で判定された判定結果とを結果テーブル11dに追加する(S29)。結果テーブル11dに追加された各値や結果画像Qを確認することで、判定処理を実行した後でもスポット溶接が所定の規格に適合しているかの検証や、またナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddの寸法に関する検証等を行うことができる。
【0085】
また、結果テーブル11dに追加された入力画像から対応する教師画像をユーザが作成し、これらを学習データ11cへ追加した上でS3の学習処理を行う。これにより、実際の判定処理に用いられた画像に基づいて、ナゲット判定モデル11bのナゲット判定モデルMが学習されるので、入力画像PからのナゲットNの検出精度をより向上させることができる。
【0086】
S29の処理の後、次の読込ボタン3k又は終了ボタン3m(共に図7(b)参照)が操作されたかを確認する(S30)。S30の処理において、次の読込ボタン3kが操作された場合は(S30:次の読込ボタン)、次の試験片Tに対する入力画像Pの取得を行うため、S20以下の処理を繰り返す。一方で、S30の処理において、終了ボタン3mが操作された場合は(S30:終了ボタン)、判定処理を終了する。
【0087】
図4(a)に戻る。S2又はS3の後、S1以下の処理を繰り返す。
【0088】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0089】
上記実施形態では、ナゲット領域画像Pnは、入力画像PにおけるナゲットNとナゲットN以外の物体とを異なる色で描画した。しかし、ナゲット領域画像Pnの態様はこれに限られず、例えば、入力画像PにおけるナゲットNとナゲットN以外の物体とを異なる模様で描画しても良いし、ナゲットNの輪郭線のみ描画しても良い。かかる場合は、学習データ11c(図3(b)参照)における教師画像に、入力画像から検出すべき対応するナゲットNとナゲットN以外の物体との模様や、ナゲットNの輪郭Ne(図2(b)参照)のみからなる画像を記憶させ、S2の学習処理(図5)を実行すれば良い。
【0090】
上記実施形態では、入力画像Pとナゲット判定モデルMとによって、ナゲット領域画像Pnを取得した。しかし、入力画像Pとナゲット判定モデルMとから取得されるのは、ナゲット領域画像Pnに限られず、例えば、入力画像PにおけるナゲットNの位置を表す数値等、画像以外の情報でも良い。かかる場合は、学習データ11c(図3(b)参照)における教師画像の代わりに、入力画像Pから取得したい情報を記憶させ、S2の学習処理を実行すれば良い。
【0091】
上記実施形態では、図6のS42,S43の処理では、画像処理によって水平方向または垂直方向の直線状の画像を取得した。しかし、直線状の画像の取得は、画像処理に限られず、例えば、直線状の画像が検出できるように学習した学習モデルを作成し、入力画像Pとかかる学習モデルとによって入力画像Pにおける直線状の画像を取得しても良い。
【0092】
上記実施形態では、図6のS47の処理において、板境界Bを上板板厚メモリ12c、下板板厚メモリ12d、上板の上端および下板の下端の各値から算出したが、これに限られず、画像処理によって板境界Bを取得しても良い。かかる場合は、図6のS42の処理で取得された入力画像Pにおける水平成分の直線状の画像から、板境界Bに該当する画像を取得すれば良い。例えば、図2(c)においては、画像P'における上部から2番目の水平方向の直線状の画像が板境界Bに該当するので、かかる直線状の画像を板境界Bとすれば良い。
【0093】
上記実施形態では、入力画像PからナゲットNの各部の寸法として、ナゲット径Nhd、上板溶込深さNup及び下板溶込深さNddを測定したが、これに限られず、ナゲットNの他の部分の寸法を測定しても良い。また、入力画像PからナゲットNに関する寸法を測定するものに限られず、例えば、試験片TにおけるナゲットN以外の部分の寸法を検出しても良い。
【0094】
上記実施形態では、重ね合わせた2枚の鋼板Spに形成されるナゲットNのナゲット径Nhdを測定したが、これに限られず、3枚以上の重ね合わせた鋼板Spに形成されるナゲットNのナゲット径Nhdを測定しても良い。例えば、鋼板Spを3枚重ね合わせ、3枚の鋼板Spを跨ぐように形成されるナゲットNのナゲット径Nhdは、一番上の鋼板Sp(即ち上板)と真ん中の鋼板Spとの境界部である上板境界における上板ナゲット径と、一番下の鋼板Sp(即ち下板)と真ん中の鋼板Spとの境界部である下板境界における下板ナゲット径との、2か所存在する。
【0095】
そこで図3(a),(c)の結果テーブル11dには、ナゲット径Nhdの代わりに、上板ナゲット径と下板ナゲット径とを記憶し、判定基準データ11eには、鋼板Spの板厚に応じた上板ナゲット径と下板ナゲット径との基準値を記憶する。また、RAM12には、板境界位置メモリ12jの代わりに、上板境界の位置が記憶される上板境界位置メモリと、下板境界の位置が記憶される下板境界位置メモリとを設け、ナゲット径メモリ12iの代わりに、上板ナゲット径が記憶される上板ナゲット径メモリと、下板ナゲット径が記憶される下板ナゲット径メモリとを設ける。
【0096】
そして、図6のS47の処理において、上板の上端の座標から上板板厚メモリ12cの板厚分だけ下方に移動した位置である上板境界を測定して上板境界位置メモリへ保存し、下板の下端の座標から下板板厚メモリ12dの板厚分だけ上方に移動した位置である下板境界を測定して下板境界位置メモリへ保存する。S48の処理において、ナゲット位置メモリ12hにおけるナゲットNと上板境界との交点間の長さである上板ナゲット径を測定して上板ナゲット径メモリへ保存し、ナゲットNと下板境界との交点間の長さである下板ナゲット径を測定して下板ナゲット径メモリへ保存する。
【0097】
図5のS24の処理において、上板ナゲット径メモリと下板ナゲット径メモリとの各寸法情報を結果画像Qに合成し、S25の処理において、上板ナゲット径メモリ及び下板ナゲット径メモリの各値と、結果画像Qとを表示装置3へ表示し、S26の処理において、上板ナゲット径メモリ及び下板ナゲット径メモリと判定基準データ11eとを用いて判定を行い、その判定結果を表示装置3に表示する。また、S27,S28の処理において、修正された上板ナゲット径と下板ナゲット径とを上板ナゲット径メモリと下板ナゲット径メモリとに保存し、S29の処理において、上板ナゲット径メモリ及び下板ナゲット径メモリの各値と、結果画像Qと、判定結果とを結果テーブル11dへ追加すれば良い。
【0098】
上記実施形態では、試験片Tと共に入力画像Pに含まれる基準物として、定規Jを例示したが、これに限られず、例えば、官製はがきや名刺等、予め寸法が規定されているものを、適宜基準物に用いても良い。また、定規J等の基準物の配置を省略しても良い。その場合、例えば、試験片Tの長手方向側の辺を所定の長さ(例えば10cm)にしておき、かかる長さと、入力画像Pにおける試験片Tの長手方向側の辺のピクセル数とから変換係数を取得しても良いし、他の手法によって変換係数を取得しても良い。
【0099】
上記実施形態では、入力画像PをカメラCから取得したが、これに限られず、例えば、スキャナ等のカメラC以外の他の撮像装置から取得しても良いし、HDD12に記憶された画像を入力画像Pとして取得しても良い。
【0100】
上記実施形態では、図7(a),(b)の表示装置3に、入力画面表示エリア3aと、結果画像表示エリア3bと、数値表示エリア3cとを表示したが、これに限られず、例えば、数値表示エリア3cの表示を省略して、入力画面表示エリア3aと結果画像表示エリア3bとのみを表示しても良いし、入力画面表示エリア3aの表示を省略して、結果画像表示エリア3bと数値表示エリア3cとのみを表示しても良いし、入力画面表示エリア3aと結果画像表示エリア3bとを省略して、数値表示エリア3cのみを表示しても良い。
【0101】
上記実施形態では、測定プログラム11aが組み込まれた測定装置1を例示したが、これに限られず、パーソナルコンピュータやスマートフォン、タブレット端末等の情報処理装置(コンピュータ)で測定プログラム11aを実行する構成としても良い。
【符号の説明】
【0102】
1 測定装置
11a 測定プログラム
P 入力画像
J 定規(基準物)
N ナゲット
Sp 鋼板
T 試験片
S20 取得手段、取得ステップ
S40 ナゲット検出手段、ナゲット検出ステップ
S44 変換係数取得手段
S47 板境界検出手段、板境界検出ステップ
S48 測定手段の一部、測定ステップの一部
S49 測定手段の一部、平行直線算出手段
S50 測定手段の一部、直線特定手段
S51 測定手段の一部、測定ステップの一部、溶込深さ測定手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7