【課題】分離膜を用いた浄水処理に適した凝集処理部(凝集膜ろ過方法にあっては、分離膜を用いた浄水処理に適した凝集処理プロセス)を有する凝集膜ろ過システムおよび凝集膜ろ過方法を提供すること。
【解決手段】被処理水1に凝集剤が混和され、凝集処理が施される凝集処理部40と、凝集処理部40の後段に位置し、凝集処理部40で得られた凝集処理水を分離膜でろ過する膜ろ過部60と、有する凝集膜ろ過システム10である。凝集膜ろ過システム10は、凝集処理部が急速撹拌槽4および急速撹拌槽4の後段に位置する緩速撹拌槽5を備え、急速撹拌槽4での凝集剤が混和された被処理水1の水理学的滞留時間が、緩速撹拌槽4における水理学的滞留時間以上である。これにより、凝集処理水中に残留するアルミニウムナノ粒子が低減し、この残留アルミニウムナノ粒子に起因する膜汚染を回避することができる。さらに、本発明は、被処理水の凝集膜ろ過方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、浄水処理では固液分離プロセスとして砂ろ過が主流であったが、近年では、より高度な固液分離が期待できる精密ろ過膜(MF膜)や限外ろ過膜(UF膜)を用いた低圧膜ろ過法の導入が進んでいる。
【0003】
そして、昨今は、中大規模の浄水場の老朽化に伴う更新設備に膜ろ過を適用するケースが多くなっているが、その場合、水道原水として河川水などの表流水を利用しているため、色度成分などの溶解性物質除去の観点から膜前処理として凝集処理を組み合わせる場合が多い。
【0004】
前処理としての凝集処理は、膜ろ過法の課題の一つである有機性膜汚染の原因物質であるバイオポリマーの低減にも有効であるが、一方で、残留凝集剤による膜汚染の問題が生じる。
【0005】
浄水処理における凝集では、ポリ塩化アルミニウム(PACl)や硫酸バンド(Alm)などのアルミニウム系凝集剤が用いられるため、凝集処理水中に存在する残留アルミニウムが膜汚染の原因物質となる。
【0006】
凝集膜ろ過システムにおける凝集剤由来のアルミニウムによる膜汚染は、システムの安定運転の維持、経済性の観点から大きな問題となっており、膜汚染対策は、いろいろな側面から検討実施されているが、合理的に説明できない不明な点も多い。
【0007】
従来の凝集沈殿急速砂ろ過システムの場合、凝集処理系は、凝集剤を混和する急速撹拌槽と、急速撹拌槽で形成されたマイクロフロックを沈殿処理が可能な大きなフロックに成長させる緩速撹拌槽と、で構成される。
【0008】
非特許文献1によれば、急速撹拌槽の水理学的滞留時間は1〜5分程度を確保するように示されており、また、緩速撹拌槽の水理学的滞留時間は20〜40分程度とされている。
【0009】
MF膜やUF膜のような膜ろ過の前処理として凝集処理系を組み合わせる場合、膜の孔径が0.01〜0.1μmである事から、急速撹拌処理で形成される数〜数十μm程度の大きさのフロック、いわゆるマイクロフロックが形成されれば、膜の物理的な篩分け効果で除去が可能であるので、大きなフロックを形成するための緩速撹拌処理は不要と考えるのが合理的である。
【0010】
しかし、実際には、凝集フロックや凝集剤由来の残留アルミニウムによる膜汚染抑制を目的に凝集処理系が設計されるが、凝集剤による膜汚染現象のメカニズムが正確に理解されていない事から、過剰設計になったり、正しい設計根拠を持たないまま装置設計が行われたりしていると言っても過言ではない。また、そのような事を避けるために、パイロット規模の長期実証実験を行う事が多いが、非常に多額の費用が発生する事になる。
【0011】
例えば、ケーシング型中空糸膜モジュールをろ過膜として用いる場合、前処理として凝集処理を行う時は、凝集沈殿まで行った処理水を膜に供給する事を膜メーカーは取扱説明書などの資料に明示している。
【0012】
この理由は、ケーシング型中空糸膜モジュールの膜充填密度、すなわち、ケーシング内容積当たりの膜面積が比較的大きいため、付着性の高い凝集フロックが流入すると膜同士が束になる膜間閉塞現象が生じる危険性があるというためである事、また、中空糸膜は高分子膜であり、残留アルミニウムによる膜閉塞が生じ易い事が挙げられる。
【0013】
しかし、水道水質基準を確実に達成するためには凝集処理は必要なものの、比較的清澄な原水である場合には、緩速撹拌処理、沈殿処理は過剰設備であり、膜ろ過法のメリットを著しく低減する。緩速撹拌処理を行うにしてもその目的、規模は合理的な設計が成されるべきである。
【0014】
特許文献1は、被処理水を塩基度70%のいわゆる超高塩基度PACl溶液と急速撹拌槽で混和して微細なフロックを形成し、次に緩速撹拌槽でこの微細なフロックを粗大化させて凝集処理水を得て、この凝集処理水をろ過膜でデッドエンドろ過する膜ろ過方法を開示する。これによれば、塩基度70%のいわゆる超高塩基度PACl溶液を用いる事で、一般に広く利用されている塩基度50%の通常塩基度PAClよりも膜汚染を低減できるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来の砂ろ過法の場合、水質基準の観点から、濁度、色度、有機物指標などに着目してジャーテストにより最適な凝集剤注入率や凝集pHを決定するが、膜ろ過法の場合、膜汚染の観点からも凝集条件を選定する必要がある。
【0018】
しかし、本来、固定条件となるべき、急速撹拌時間、緩速撹拌の有無、緩速撹拌を必要する場合の撹拌時間は、従来の凝集沈殿砂ろ過システムと同じ観点から選定されており、非常に経験的であり、決して合理的ではない。
【0019】
上述のとおり非特許文献1の急速撹拌槽の水理学的滞留時間および緩速撹拌槽の水理学的滞留時間は、従来の凝集沈殿急速砂ろ過システムを想定したものであり、凝集膜ろ過システムにとって最適なものかどうかは検討されていない。
【0020】
また、特許文献1は膜ろ過の前処理としての凝集処理に好適な凝集処理剤として超高塩基度PACl溶液を用いることを開示するが、急速撹拌槽で形成した微細なフロックを緩速撹拌槽で長時間撹拌して粗大化させるやり方は従来の凝集沈殿砂ろ過システムに適した凝集処理条件であると思われる。
【0021】
上記課題に鑑みた本願発明の目的は、分離膜を用いた浄水処理に適した凝集処理部を有する凝集膜ろ過システムを提供することにある。さらに、本願発明の目的は、分離膜を用いた浄水処理に適した凝集処理プロセスを有する凝集膜ろ過方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
発明者らが鋭意検討を重ねた結果、凝集膜ろ過システムにおいて重大な影響を及ぼす膜汚染因子は大きく分類すると二つあることがわかった。一つは凝集剤中に含まれる100nmより小さいアルミニウムナノ粒子であり、もう一つは、有機物などとの凝集粒子(有機物とアルミニウムの複合体)であり、その大きさも100nmより小さく、これもアルミニウムナノ粒子と言える。
【0023】
これらのアルミニウムナノ粒子は、前者は、急速撹拌時に凝集剤の注入により被処理水に添加される事になり、後者は、凝集剤注入時の数秒も経過しない間に被凝集物質と凝集剤が反応し生成する。
【0024】
これらのアルミニウムナノ粒子は、100nm未満と非常に小さく、また、濃度も希薄なため、それら自身で凝集して粗大化し難いので、凝集処理水中に残留し、膜汚染を引き起こす事になるため、膜ろ過処理前にこれらアルミニウムナノ粒子を除去することが重要である。
【0025】
発明者がさらに鋭意検討を重ねた結果、肉眼では視認できない、サブミクロンオーダーの微小フロック(0.1〜1μm程度)、いわゆるサブマイクロフロックや、数μm程度の比較的小さいマイクロフロック(1〜10μm程度)の形成過程と、これらサブマイクロフロックおよびマイクロフロックへのアルミニウムナノ粒子の衝突や取り込みとが、アルミニウムナノ粒子の除去メカニズムであることを確認した。逆に、緩速撹拌処理において目視観察できるような大きなフロックの形成過程とこの大きなフロックとアルミニウムナノ粒子の接触がアルミニウムナノ粒子の除去メカニズムではないことがわかった。
【0026】
また、アルミニウムナノ粒子の除去に効果的なサブマイクロフロック及びマイクロフロックの形成には、従来のフロック形成のための緩速撹拌ではなく、撹拌速度が速い急速撹拌の方が効果的であり、これらのフロック群とアルミニウムナノ粒子との衝突によりその成長が得られる事を見出した。
【0027】
加えて、発明者は、急速撹拌単独では、十分長く行った場合でも、アルミニウムナノ粒子の除去率は頭打ちになり向上しない場合が多く、この解決策として、急速撹拌処理を十分に行った後で短い緩速撹拌処理を行う事で急速撹拌では取りきれなかったアルミニウムナノ粒子をサブマイクロフロック及びマイクロフロックに取り込む事が可能となる事を見出したことに基づき、本願発明はなされたものである。
【0028】
すなわち、上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、
被処理水に凝集剤が混和され、凝集処理が施される凝集処理部と、前記凝集処理部で得られた凝集処理水を分離膜でろ過する膜ろ過部と、有する凝集膜ろ過システムであって、
前記凝集処理部が急速撹拌槽および前記急速撹拌槽の後段に位置する緩速撹拌槽を備え、前記急速撹拌槽での前記凝集剤が混和された被処理水の水理学的滞留時間が、前記緩速撹拌槽における水理学的滞留時間以上であることを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、凝集処理部における急速撹拌槽での水理学的滞在時間が緩速撹拌槽の水理学的滞在時間よりも大きいことで、アルミニウムナノ粒子のサブマイクロフロック及びマイクロフロックへの取り込みが促進される。これにより、凝集処理水中に残留するアルミニウムナノ粒子が低減し、この残留アルミニウムナノ粒子に起因する膜汚染を回避することができ、したがって、分離膜を用いた浄水処理に適した凝集処理部を有する凝集膜ろ過システムを提供することができる。
【0030】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の凝集膜ろ過システムにおいて、前記急速撹拌槽での水理学的滞留時間が6分以上であることを特徴とする。
【0031】
この構成によれば、アルミニウムナノ粒子のサブマイクロフロック及びマイクロフロックへの取り込みのために十分な急速撹拌槽での水理学的滞在時間を確保することができ、したがって、より効果的に凝集処理水中に残留するアルミニウムナノ粒子を低減させることができる。
【0032】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の凝集膜ろ過システムにおいて、前記緩速撹拌槽における水理学的滞留時間が3分以上であることを特徴とする。
【0033】
この構成によれば、急速撹拌後に残留するアルミニウムナノ粒子をより効果的にサブマイクロフロック及びマイクロフロックに取り込ませることができ、したがって、さらに効果的に凝集処理水中に残留するアルミニウムナノ粒子を低減させることができる。
【0034】
請求項4に記載の発明の被処理水の凝集膜ろ過方法は、
被処理水に凝集剤を混和し、凝集処理を施す凝集処理工程と、前記凝集処理工程で得られた凝集処理水を分離膜でろ過する膜ろ過工程と、前記凝集処理工程が、凝集剤が添加された被処理水を急速撹拌する急速撹拌プロセスと、前記急速撹拌プロセス後の被処理水を緩速撹拌する緩速撹拌プロセスと、を有し、前記急速撹拌プロセスの水理学的滞留時間が前記緩速撹拌プロセスの水理学的滞留時間以上であることを特徴とする。
【0035】
この構成によれば、凝集処理工程における急速撹拌プロセスの水理学的滞在時間が緩速撹拌プロセスの水理学的滞在時間よりも大きいことで、アルミニウムナノ粒子のサブマイクロフロック及びマイクロフロックへの取り込みが促進される。これにより、凝集処理水中に残留するアルミニウムナノ粒子が低減し、この残留アルミニウムナノ粒子に起因する膜汚染を回避することができ、したがって、分離膜を用いた浄水処理に適した凝集処理プロセスを有する凝集膜ろ過方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の凝集膜ろ過システムによれば、凝集処理部における急速撹拌槽での水理学的滞在時間が緩速撹拌槽の水理学的滞在時間よりも長いことで、アルミニウムナノ粒子のサブマイクロフロック及びマイクロフロックへの取り込みが促進される。これにより、凝集処理水中に残留するアルミニウムナノ粒子が低減し、この残留アルミニウムナノ粒子に起因する膜汚染を回避することができ、したがって、分離膜を用いた浄水処理に適した凝集処理部を有する凝集膜ろ過システムを提供することができる。
【0037】
よって、膜ろ過の凝集前処理を最適化することができ、従来より前処理時間を短縮してシステム全体の運転時間を短縮しつつ、残留アルミニウムナノ粒子に起因する膜汚染が回避されることで分離膜のライフサイクルを延ばすことができると共に、膜の再生や交換によるシステムの運転中断時間も減らすことができる。
【0038】
本発明の凝集膜ろ過方法についても同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に本発明の好ましい実施の形態を示す。
【0041】
<凝集膜ろ過システム>
図1は本発明の第一実施の形態に係る凝集膜ろ過システム10を説明する模式図である。図示のように、凝集膜ろ過システム10は、被処理水1に凝集剤が混和され、凝集処理が施される凝集処理部40と、凝集処理部40の後段に位置し、凝集処理部40で得られた凝集処理水を分離膜でろ過する膜ろ過部60と、を有する。
【0042】
被処理水1には水道原水が用いられる。水道原水は、例えば、河川水、地下水、ダム湖水、湖沼水、伏流水、地下水などが挙げられる。
【0043】
凝集剤は、その種類に何ら制限はないが、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンドなどのアルミニウム系凝集剤が好ましい。また、塩基度も何ら制限される事は無く、50〜90%でのいずれでも構わない。
【0044】
本実施の形態においては、被処理水1は、ポンプまたは水位高低差で粉末活性炭混和槽2に流入し、同時に粉末活性炭注入設備3から粉末活性炭が注入される。この粉末活性炭処理は、本発明に直接的には関与しないが、粉末活性炭が負電荷を有している事からも、後段の凝集処理を担う槽での残留アルミニウム粒子の吸着及び付着が期待できるので本発明に組み合わせる事が好ましい。
【0045】
粉末活性炭混和槽2での接触時間は、処理対象物質が臭気物質ならば20分〜40分程度が適当であり、色度成分やトリハロメタン前駆物質に代表される消毒副生成物である有機物が対象の場合は15〜30分程度が必要である。また、後段の膜ろ過装置が槽浸漬型であれば、膜浸漬槽での粉末活性炭の吸着反応が期待できるので、粉末活性炭混和槽2の滞留時間(接触時間に相当)は3分程度で十分である。
【0046】
もちろん、原水水質によっては、粉末活性炭処理は省略されても何ら差し支えない。
【0047】
凝集処理部40は、急速撹拌槽4および急速撹拌槽4の後段に位置する緩速撹拌槽5を備える。
【0048】
本実施の形態において、粉末活性炭処理が施された被処理水1は、急速撹拌槽4(
図1では、急速撹拌槽41、42及び43で構成される)に送られるが、pH調整装置45により、苛性ソーダのようなアルカリ剤、又は、硫酸のような酸剤を注入し、凝集剤注入時の凝集pHが所定の値になるように、pH調整剤を注入する。薬品の注入位置は、粉末活性炭混和槽2のような位置の前槽または急速撹拌槽41のどちらでも構わない。次いで、凝集剤注入装置44により凝集剤を注入する。
【0049】
図示する本実施形態は一例であり、急速撹拌槽4は、三槽の急速撹拌槽から構成されても良いし、それ以下の二槽としても良いし、単槽でも差し支えない。もちろん、三槽以上でも構わない。単槽、もしくは槽数が少なくて滞留時間が短くなると、短絡流の発生や混合状態が悪くなるので、それを考慮した槽構成や槽構造とすれば良い。
【0050】
一槽の滞留時間の目安は、3分程度であるが、上記の事を満足できる構造であれば何ら制限される事はない。
【0051】
水道施設設計指針2012によると、従来のフロック形成池の撹拌強度(速度勾配)G値の望ましい値は、10〜75 1/sとしており、逆に、急速撹拌効果を得る撹拌強度は、G値で考えると、75 1/sより大きい値となる。
【0052】
本実施形態において、原水水質が悪く、凝集剤注入率が比較多くなる場合や、凝集pHが6程度と比較的低い場合には、急速撹拌槽4の滞留時間を長くとる必要が生じ、全体を均一に撹拌するためには三槽の急速撹拌槽で設計する事が好ましい。
【0053】
そのような場合、急速撹拌槽41と42の撹拌強度は同じ程度とし、急速撹拌槽43の撹拌強度は前者二槽よりも低くする事が好ましい。
【0054】
急速撹拌槽41及び42の撹拌強度は、G値で考えると、150 1/s以上が良く、さらに好ましくは、150〜250 1/s、最も望ましくは、250 1/s以上である。
【0055】
急速撹拌処理を行った後の凝集処理水は、緩速撹拌槽5に送られ、緩速撹拌処理を行う事で、みかけフロック形成が行われつつ、サブマイクロフロック及びマイクロフロックへのアルミニムナノ粒子の取り込みが行われる。
【0056】
緩速撹拌槽5における緩速撹拌処理は、G値が10〜75 1/sの範囲で行われる事が望ましいが、そのすぐ前段の急速撹拌槽43の撹拌強度は、100〜150 1/s程度のG値の範囲で運転される事が好ましい。
【0057】
この理由は、前記凝集条件のような場合、急速撹拌槽41及び42で生成するアルミニウムナノ粒子も非常に多くなり、緩速撹拌槽5のみではフロックへの取り込み能力が不足する可能性が高くなる。そこで、急速撹拌槽41及び42と緩速撹拌槽5の中間の撹拌強度領域を作る事により、アルミニムナノ粒子のサブマイクロフロック及びマイクロフロックへの接触効率を高く保ちながら、フロックへの取り込みも行わせる事により確実な膜汚染を抑制する凝集処理を行うためである。
【0058】
本発明において、急速撹拌槽4での凝集剤が混和された被処理水の水理学的滞留時間は、緩速撹拌槽5における水理学的滞留時間以上である。これにより、凝集処理水中に残留するアルミニウムナノ粒子が低減し、この残留アルミニウムナノ粒子に起因する後段の膜ろ過部60における分離膜の膜汚染を回避することができる。
【0059】
なお、水理学的滞留時間(Hydraulic retention time、HRTともいう)とは、ここでは急速撹拌槽4および緩速撹拌槽5のそれぞれに処理対象水が滞留する時間をいう。例えば、処理対象水の流量と各槽の体積とから各槽における水理学的滞留時間を算出することができる。
【0060】
急速撹拌槽4における水理学的滞留時間は2分以上であり、好ましくは3分以上であり、さらに好ましくは6分以上である。
【0061】
緩速撹拌槽5における水理学的滞留時間は1分以上であり、好ましくは2分以上であり、さらに好ましくは3分以上である。
【0062】
凝集処理部40(
図1では、急速撹拌部槽4および緩速撹拌槽5)を経た被処理水、すなわち、凝集処理水は、膜ろ過部60に送られる。
【0063】
膜ろ過部60の分離膜の種類は、高分子膜、無機膜、MF膜、UF膜のいずれでも構わないが、浸漬型膜モジュールが使用できる高分子膜、特に、物理的にも化学的にも強いPVDFを材質とする膜が好ましく、これも浸漬型膜モジュールが使用できるMF膜が好ましい。加えて、膜の形状は中空糸膜が容積効率的に好ましい。
【0064】
省エネルギの観点から水位差が利用できる孔径0.05μm以上の膜が好ましく、さらには、有機物による膜閉塞抑制の観点から、その最小径である0.05μmの膜が最適である。
【0065】
膜ろ過装置の構造は、ケーシング型でも槽浸漬型のいずれでも構わないが、高濁度原水への適用性が高い、槽浸漬型の方が好ましい。
【0066】
膜ろ過された凝集処理水は、処理水槽7に処理水としてある程度の時間滞留させ、浄水8として使用される。処理水槽7の処理水(膜ろ過水)は、分離膜の逆洗に使用されるが、その際、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を逆洗水に添加して分離膜に通水する。
【0067】
上記第一実施の形態では、凝集膜ろ過システム10は粉末活性炭混和槽2、pH調整装置45および三槽からなる急速撹拌槽4を備えているが、これらの構成が必須というわけではない。例えば、比較的清澄な水道原水を被処理水1とし、凝集剤添加後の被処理水1のpHが凝集pHと近いと想定されるような場合には、以下の第二実施の形態の凝集膜ろ過システムの態様を取ることも可能である。
【0068】
図2は、本発明の第二実施の形態に係る凝集膜ろ過システム100を説明する模式図である。図示のように、凝集膜ろ過システム100は、一槽の急速撹拌槽4−2および緩速撹拌槽5−2を有する凝集処理部40−2と、膜ろ過部60−2と、を有する。
【0069】
急速撹拌槽4−2には凝集剤注入装置44−2が設けられている。粉末活性炭混和槽およびpH調整装置45は設けられていない。
【0070】
本実施の形態において、被処理水1は急速撹拌槽4−2に供給され、凝集剤添加後に急速撹拌処理後、緩速撹拌槽5−2で緩速撹拌処理が施される。急速撹拌槽4−2での凝集剤が混和された被処理水の水理学的滞留時間は、緩速撹拌槽5−2における水理学的滞留時間以上である。
【0071】
緩速撹拌後の凝集処理水は膜ろ過部60−2において分離膜でろ過され、処理水として処理水槽7−2に貯留され、浄水となる。
【0072】
<被処理水の凝集膜ろ過方法>
本発明は、さらに、被処理水の凝集膜ろ過方法を提供する。
図3は、本発明の凝集膜ろ過方法を説明するフローチャートである。
【0073】
本発明の凝集膜ろ過方法は、図示のように、凝集処理工程(S110)と、膜ろ過工程(S120)とを有する。
【0074】
[凝集処理工程(S110)]
本工程では、被処理水に凝集剤が混和され、凝集処理が施される。被処理水および凝集剤は、上記凝集膜ろ過システムの項目に記載されているとおりである。
【0075】
凝集処理は、凝集剤が添加された被処理水を急速撹拌する急速撹拌プロセスと、急速撹拌プロセス後の被処理水を緩速撹拌する緩速撹拌プロセスと、を有する。
【0076】
急速撹拌プロセスの撹拌強度は、G値で考えると、150 1/s以上が良く、さらに好ましくは、150〜250 1/s、最も望ましくは、250 1/s以上であり、緩速撹拌プロセスの撹拌強度は、G値が10〜75 1/sの範囲で行われる事が望ましい。
【0077】
また、急速撹拌プロセスを複数の急速撹拌により行う場合には、緩速撹拌プロセスが行われる槽のすぐ前段に位置する急速撹拌槽の撹拌強度は、100〜150 1/s程度のG値の範囲で運転される事が好ましい。
【0078】
本工程において、急速撹拌プロセスの水理学的滞留時間は、緩速撹拌プロセスの水理学的滞留時間以上である。
【0079】
これにより、凝集処理水中に残留するアルミニウムナノ粒子が低減し、この残留アルミニウムナノ粒子に起因する後段の膜ろ過工程(S120)における分離膜の膜汚染を回避することができる(以上、凝集処理工程(S110))。
【0080】
[膜ろ過工程(S120)]
本工程では、凝集処理工程(S110)で得られた凝集処理水を分離膜でろ過する。
【0081】
本工程において、分離膜および分離膜を有する膜ろ過装置の構成については、上記凝集膜ろ過システムの項目に記載された構成を用いることができる。
【0082】
分離膜でろ過されたろ過水は、処理水槽に処理水としてある程度の時間滞留させ、浄水8として使用される。
【0083】
本発明の凝集膜ろ過システムおよび凝集膜ろ過方法の効果は、以下に示すような、みかけのケーキろ過定数の測定方法においてもそれを簡単に評価する事ができ、凝集処理条件の決定を行う事ができる。
【0084】
具体的には、凝集処理後の凝集処理水に対して膜ろ過試験を行う事により、分離膜(MF膜等)の表層にアルミニウムナノ粒子から成るケーキ層形成させ、そのろ過抵抗から凝集処理水中のアルミニムナノ粒子の濃度を間接的に定量する。そして、この膜ろ過試験の結果を一般的なケーキろ過理論を用いて解析し、みかけのケーキろ過定数(Kcと呼ばれる事が多い)を算出し、それらを比較するものである。実用上の観点から直観的に分かり易く非常に便利である。
【0085】
みかけのケーキろ過定数の測定は、ケーキろ過の閉塞モデルに基づくケーキろ過式により行うことができる(例えば、角屋正人著、日本ポール株式会社 マーケティング・コミュニケーショングループ編集発行、2013 SPRING Pall News、117巻第10〜第15頁を参照)。
【0086】
ケーキろ過の閉塞モデルとは、ろ材を均一な内径、長さを持った円管の束と仮定した場合、負荷した粒子が円管を塞ぐことなく、ろ材(円管の束)の表面に体積していくというモデルである。その場合、
図4(a)に示すように、円管tの束上に負荷した粒子pの量に比例して、堆積粒子p(ケーキ層)の厚みが増していく。ここで、堆積粒子pによる抵抗増加は、
図4(b)に示す円管tが長くなったことに置き換えられる。
【0087】
そして、ハーゲンポアズイユの式をろ材に適用し、上記ケーキろ過の閉塞モデルも考慮して計算を進めることにより、定圧ろ過の場合には、以下の式(1)
【化1】
(式(1)中、Jは単位ろ過面積あたりの流量(m
3/m
2・s)を、J
0は単位ろ過面積あたりの初期流量(m
3/m
2・s)を、Kcはケーキろ過定数(1/m)、閉塞係数ともいう)を、vは単位面積あたりのろ液量(m
3/m
2)を、それぞれ示す。)を、
定流量ろ過の場合には、以下の式(2)
【化2】
(式(2)中、ΔPは円管両端での差圧(Pa)を、ΔP
0は円管両端での初期差圧(Pa)を、Kcはケーキろ過定数((1/m)、閉塞係数ともいう)を、vは単位面積あたりのろ液量(m
3/m
2)を、それぞれ示す。)
を、それぞれ得ることができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0089】
1.膜及びフィルターホルダー
以下の実施例および比較例において、膜はメルク社製のVVHP膜(疎水性PVDF膜、孔径0.1μm)を使用し、直径25mmの平膜用ガラス製フィルターホルダーを使用した。
【0090】
2.膜ろ過試験(みかけのケーキろ過定数の測定)
以下の実施例および比較例において、吸引ポンプを用いて全量定圧ろ過(吸引圧力90kPa)で240mLの供試水を膜に通水し、ろ過水量経時変化を測定し、上記(1)の式に当てはめてケーキろ過定数Kc、すなわち、K
VVHPの値(1/m)を求めた。
【0091】
<実施例1〜4および比較例1〜2>
被処理水には、比較的清澄な時期の冬季の河川水(濁度:0.7度、色度:3.3度、pH7.3、TOC:0.9mg/L、UVA260:0.114(5cmセル))を使用した。
【0092】
この被処理水に対し、ポリ塩化アルミニウム(PACl、塩基度50%)を注入率20mg/Lで添加し、500mLのビーカーを使用して凝集処理を行った。
【0093】
撹拌条件は、凝集pH7.0、急速撹拌処理(130rpm)→緩速撹拌処理(30rpm)とし、それぞれの処理時間を変化させて凝集処理を行い、凝集処理水を得て、そのみかけのケーキろ過定数(K
VVHP)(以下、単にK
VVHPともいう)を求めた。
【0094】
得られた凝集処理水について、撹拌時間およびみかけのケーキろ過定数(K
VVHP)は以下の表1および
図5に示すとおりである。なお、表中、急3−緩0のラベル(比較例1)は、急速撹拌処理の水理学的滞留時間が3分間であり、緩速撹拌処理の水理学的滞留時間が0分間(すなわち、緩速撹拌処理が行われていない)であったことを示す。他の実施例、比較例のラベルの説明についても同様である。
【0095】
【表1】
【0096】
表1および
図5によれば、急速撹拌処理のみ(比較例1(急3-緩0)、比較例2(急6-緩0))では、処理時間が長いほど、K
VVHPの値は低下するものの十分には下がらない。
【0097】
また、従来の急速撹拌処理の範囲である、急速撹拌3分の条件においては、その後に行う緩速撹拌の時間が長くなるほどK
VVHPの値は低下するが、従来の凝集処理条件に一番近い比較例4(急3-緩9)でさえK
VVHPの値は4.5であった。
【0098】
また、急速撹拌のみで3分とする場合(比較例1(急3-緩0))よりも、それに緩速撹拌を同じ3分で加えた実施例1(急3-緩3)の方が、K
VVHPの値は低下した。
【0099】
一方、急速撹拌を6分以上として緩速撹拌を行った場合は、急速撹拌のみ、急速撹拌3分に緩速撹拌を加えたいずれの場合よりも、K
VVHPの値は低下した。
【0100】
さらに、急速撹拌6分よりも9分の方がK
VVHPの値は低下したが、その差は僅かであり、急速撹拌時間は6〜9分が最適であると考えられた。