【課題】異常電圧を除去した溶接電圧に基づいて出力制御するパルスアーク溶接電源において、母材の材質がステンレス鋼であっても、アークが安定し、かつ、スパッタ発生量も少ない溶接を可能とすること。
【解決手段】溶接ワイヤ1を送給し、ピーク電流及びベース電流から形成される溶接電流Iwを通電し、溶接電圧Vwを検出し、この溶接電圧の検出値Vdを、基準電圧波形Vcを中心電圧値とする許容範囲Vc±ΔVc内に制限して電圧制限値Vftを算出する異常電圧除去制御を行い、電圧制限値Vftに基づいて前記溶接電圧Vwを出力制御するパルスアーク溶接電源において、許容範囲ΔVcを、母材の材質がステンレス鋼であるときは鉄鋼であるときよりも大きな値に設定する。また、許容範囲ΔVcを、シールドガスに占める不活性ガスの体積%が大きくなるほど大きな値に設定する。
溶接ワイヤを送給し、ピーク電流及びベース電流から形成される溶接電流を通電し、溶接電圧を検出し、前記溶接電圧の検出値を基準電圧波形を中心電圧値とする許容範囲内に制限して電圧制限値を算出する異常電圧除去制御を行い、前記電圧制限値に基づいて前記溶接電圧を出力制御するパルスアーク溶接電源において、
前記許容範囲を、母材の材質がステンレス鋼であるときは鉄鋼であるときよりも大きな値に設定する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接電源。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
[実施の形態1]
実施の形態1の発明は、溶接電圧の検出値を、基準電圧波形を中心電圧値とする許容範囲内に制限して電圧制限値を算出する異常電圧除去制御を行い、電圧制限値に基づいて溶接電圧を出力制御するパルスアーク溶接電源において、許容範囲を、母材の材質がステンレス鋼であるときは鉄鋼であるときよりも大きな値に設定する。
【0014】
図1は、実施の形態1に係るパルスアーク溶接方法を示す波形図である。同図(A)は溶接電流Iwを示し、同図(B)は溶接電圧Vwを示す。以下、同図を参照して説明する。
【0015】
同図(A)に示すように、時刻t1〜t2のピーク立上り期間Tup中は、ベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する遷移電流が通電し、続いて時刻t2〜t3のピーク期間Tp中は、上記のピーク電流Ipが通電し、続いて時刻t3〜t4のピーク立下り期間Tdw中は、上記のピーク電流Ipから上記のベース電流Ibへと下降する遷移電流が通電し、続いて時刻t4〜t5のベース期間Tb中は、上記のベース電流Ibが通電する。また、上記の溶接電流Iwの通電に対応して、同図(B)に示すように、上記のピーク立上り期間Tup中は、ベース電圧Vbからピーク電圧Vpへと上昇する遷移電圧が印加し、続いて上記のピーク期間Tp中は、上記のピーク電圧Vpが印加し、続いて上記のピーク立下り期間Tdw中は、上記のピーク電圧Vpから上記のベース電圧Vbへと下降する遷移電圧が印加し、続いて上記のベース期間Tb中は、上記のベース電圧Vbが印加する。時刻t1〜t5の期間を1パルス周期Tfとして繰り返して溶接が行われる。
【0016】
良好な溶接品質を得るためにアーク長を適正値に維持するアーク長制御が行われる。通常、このアーク長制御は、溶接電圧Vwがアーク長と略比例関係にあることを利用して、溶接電圧Vwの平均値が予め定めた電圧設定値と等しくなるようにパルス周期が制御される。このアーク長制御の方式は、周波数変調方式と呼ばれる。この場合、ピーク期間Tp、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは所定値に設定され、パルスパラメータとなる。ピーク電流Ipは臨界値以上に設定され、ピーク期間Tpと組み合わせてユニットパルス条件と呼ばれる。このユニットパルス条件は、1パルス周期1溶滴移行になるように設定される。ベース電流Ibは、臨界値未満の数十A程度の小電流値に設定される。ユニットパルス条件及びベース電流Ibは、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度等に応じて適正値に設定される。アーク長制御の方式には、上記の周波数変調方式以外にパルス幅変調方式がある。このパルス幅変調方式では、パルス周期Tf、ピーク電流Ip及びベース電流Ibが所定値に設定され、溶接電圧Vwの平均値が予め定めた電圧設定値と等しくなるようにピーク期間Tpが制御される。
【0017】
パルスアーク溶接においては、アークの陰極点は母材表面の酸化皮膜が存在する位置に形成される性質を有している。アークによって酸化皮膜は除去(クリーニング)されていくので、陰極点は酸化皮膜が残っている個所を求めて周辺部へと移動して形成されるようになる。この結果、アークは常に移動している不安定な状態になるために、短絡が発生しやすくなる。溶接ワイヤと母材とが短絡しその短絡が解除されてアークが再点弧したとき、母材表面の酸化皮膜の不均一に起因するアーク陰極点のふらつき現象が発生したとき等において、異常電圧が溶接電圧Vwに重畳することになる。この異常電圧はアーク長とは比例しない電圧であるので、アーク長を正確に検出するためには溶接電圧Vwに重畳した異常電圧を除去する必要がある。この除去のための方法としては、パルス波形の基準電圧波形Vc及び許容範囲ΔVcを設定し、溶接電圧VwがVc±ΔVcの範囲外になる部分は異常電圧であるとしてカットするようにしている。以下、この異常電圧除去制御について説明する。
【0018】
図2は、上記の基準電圧波形Vcの設定方法を示す図である。まず、
図4で後述するように、基準ピーク電圧値Vpc、基準ベース電圧値Vbc及び許容範囲ΔVcを設定する。そして、同図に示すように、ピーク立上り期間Tupの開始時点を0秒とする経過時間tによって、下式のように基準電圧波形Vcが定義される。
0≦t<Tup
Vc=((Vpc−Vbc)/Tup)・t+Vbc (11)式
Tup≦t<Tup+Tp
Vc=Vpc (12)式
Tup+Tp≦t<Tup+Tp+Tdw
Vc=((Vbc−Vpc)/Tdw)・(t−Tup−Tp)+Vpc (13)式
Tup+Tp+Tdw≦t<Tup+Tp+Tdw+Tb
Vc=Vbc (14)式
【0019】
例えば、同図に示すように、経過時間t=taにおける溶接電圧検出値がVd1であったとする。経過時間taはTup+Tp≦ta<Tup+Tp+Tdwのときであるので、上記(13)式に代入して、基準電圧波形の中心電圧値Vc1は下式となる。
Vc1=((Vbc−Vpc)/Tdw)・(ta−Tup−Tp)+Vpc
したがって、経過時間taのときの溶接電圧検出値Vd1は、許容範囲Vc1±ΔVc内に制限される。すなわち、Vd1≧Vc1+ΔVcのときには電圧制限値Vft1=Vc1+ΔVcに制限され、Vd1≦Vc1−ΔVcのときにはVft1=Vc1−ΔVcに制限される。このようにして算出された電圧制限値Vftは、異常電圧が略除去されたアーク長に略比例する電圧値となる。
【0020】
図3は、短絡解除直後のアーク再点弧に伴う異常電圧発生時の電圧波形図である。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(B)は基準電圧波形によって異常電圧を除去した後の電圧制限値Vftの時間変化を示す。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、基準電圧波形を中心電圧値Vcとする許容範囲Vc±ΔVc内に制限される。この結果、時刻t1〜t2の短絡期間中の電圧制限値Vft=Vc−ΔVcとなり、時刻t2〜t3の異常電圧発生期間中の電圧制限値Vft=Vc+ΔVcとなる。このように、異常電圧を略除去することができる。
【0021】
図4は、
図2で上述した基準電圧波形Vcを自動設定する方法を説明するための電圧制限値Vftの時間変化を示す図である。同図において、現時点は時刻tnであり、第n回目のパルス周期Tf(n)の開始時点である。また、第n−1回目のパルス周期Tf(n-1)におけるピーク期間のみの電圧制限値の平均値がピーク電圧制限値Vpf(n-1)であり、ベース期間のみの電圧制限値の平均値がベース電圧制限値Vbf(n-1)である。同様に、第n−m回目のパルス周期Tf(n-m)におけるピーク期間のみの電圧制限値の平均値がピーク電圧制限値Vpf(n-m)であり、ベース期間のみの電圧制限値の平均値がベース電圧制限値Vbf(n-m)である。
【0022】
時刻tnにおいて、上記の第(n-1)〜第(n-m)回目のピーク電圧制限値Vpfを入力として、下式のようにピーク電圧移動平均値Vpr(n)を算出する。
Vpr(n)=(Vpf(n-1)+…+Vpf(n-m))/m (21)式
同様に、時刻tnにおいて、上記の第(n-1)〜第(n-m)回目のベース電圧制限値Vbfを入力として、下式のようにベース電圧移動平均値Vbr(n)を算出する。
Vbr(n)=(Vbf(n-1)+…+Vbf(n-m))/m (22)式
【0023】
そして、上述した(11)〜(14)式において、基準ピーク電圧値Vpcに上記のピーク電圧移動平均値Vprを代入し、かつ、基準ベース電圧値Vbcに上記のベース電圧移動平均値Vbrを代入すると、下式のように第n回目のパルス周期Tf(n)期間中の基準電圧波形が自動設定される。
0≦t<Tup
Vc(n)=((Vpr(n)−Vbr(n))/Tup)・t+Vbr(n) (31)式
Tup≦t<Tup+Tp
Vc(n)=Vpr(n) (32)式
Tup+Tp≦t<Tup+Tp+Tdw
Vc(n)=((Vbr(n)−Vpr(n))/Tdw)・(t−Tup−Tp)+Vpr(n) (33)式
Tup+Tp+Tdw≦t<Tup+Tp+Tdw+Tb
Vc(n)=Vbr(n) (34)式
【0024】
上述したように、パルス周期の開始時点ごとに、上記のピーク電圧移動平均値Vpr及びベース電圧移動平均値Vbrを算出し、上記(31)式〜(34)式によって基準電圧波形が自動設定される。上記において、ピーク電圧移動平均値Vprを算出するときに、ピーク電圧制限値Vpfを重み付け移動平均して算出しても良い。同様に、ベース電圧移動平均値Vbrを算出するときに、ベース電圧制限値Vbfを重み付け移動平均して算出しても良い。また、移動平均する期間の長さ(所定期間)は、過去数周期〜数十周期程度に設定する。この所定期間は、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度、溶接速度、溶接継手等の溶接条件に応じて実験によって適正値に設定される。アークスタートからm回のパルス周期Tfが経過するまでは、上記のピーク電圧移動平均値Vpr及び上記のベース電圧移動平均値Vbrを(21)式及び(22)式に基づいて算出することができない。そこで、この期間中は、ピーク電圧初期値及びベース電圧初期値を予め設定しておき、ピーク電圧移動平均値Vpr及びベース電圧移動平均値Vbrとして使用するようにする。
【0025】
上述したように、溶接電圧Vwには、送給速度の変動、トーチ高さの変動、溶融池状態の変動等に起因するアーク長の変動に伴う電圧変動と、陰極点の移動に等に起因する異常電圧とが重畳している。このアーク長の変動に伴う電圧変動は、アーク長制御を行うために正確に検出する必要がある。他方、アーク長の変動とは関係しない異常電圧については、できる限り除去することが、精密なアーク長制御を行うためには望ましい。ステンレス鋼のパルスアーク溶接においては、不活性ガスのアルゴンガスを主成分とするシールドガスが使用される。以下の説明における%は体積%を示している。すなわち、Ar98%+O2 2%の混合ガス又はAr100%のシールドガスが使用される。鉄鋼のパルスアーク溶接においては、活性ガスの炭酸ガスを主成分とするシールドガスが使用される。すなわち、CO2 70〜90%+Arの混合ガスが使用される。不活性ガスを主成分とするシールドガスを使用した場合、アーク長の変動に伴う電圧変動は活性ガスを主成分とするシールドガスを使用した場合に比べて大きくなる。このために、不活性ガスを主成分とするシールドガスを使用する場合の許容範囲ΔVcを、活性ガスを主成分とするシールドガスを使用する場合と同一値に設定すると、アーク長の変動に伴う電圧変動の一部を除去することになる。この結果、アーク長制御の精度が低下することになる。そこで、本実施の形態によれば、許容範囲ΔVcは、不活性ガスを主成分とするシールドガスを使用する母材の材質がステンレス鋼であるときは、活性ガスを主成分とするシールドガスを使用する母材の材質が鉄鋼であるときよりも大きな値に設定される。後述するように、許容範囲ΔVcは、溶接作業者が母材材質選択信号Msを選択することによって、母材の材質に適合した値に自動的に設定される。これにより、アーク長の変動に伴う電圧変動を正確に検出し、かつ、異常電圧を除去することができるので、母材の材質がステンレス鋼であっても、アークが安定し、かつ、スパッタ発生量も少ない溶接が可能となる。許容範囲ΔVcは、実験によって適正範囲に設定される。
【0026】
図5は、実施の形態1に係るパルスアーク溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0027】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路と、整流された直流を平滑するコンデンサと、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路と、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランスと、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路と、整流された直流を平滑するリアクトルと、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってPWM変調制御を行ないその結果に基づいてインバータ回路を駆動する駆動回路と、を備えている。
【0028】
溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給され、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4の先端からはシールドガスが噴出され、アーク3を大気から遮蔽する。
【0029】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。
【0030】
材質選択回路MSは、母材の材質に対応した番号を溶接作業者が選択すると、その番号の値となる材質選択信号Msを出力する。例えば、鉄鋼を選択するとMs=1となり、ステンレス鋼を選択するとMs=2となる。
【0031】
許容範囲設定回路ΔVCは、上記の材質選択信号Msを入力として、材質選択信号Msに適合した予め定めた許容範囲設定信号ΔVcを出力する。許容範囲設定信号ΔVcは、母材材質選択信号Ms=2(ステンレス鋼)であるときは、Ms=1(鉄鋼)であるときよりもおおきな値に設定される。
【0032】
電圧制限値算出回路FTは、上記の電圧検出信号Vdを後述する基準電圧波形信号Vc及び上記の許容範囲設定信号ΔVcによって定まる許容範囲Vc±ΔVc内に制限して、電圧制限値信号Vftを出力する。
【0033】
電圧移動平均値算出回路VRAは、上記の電圧制限値信号Vftを入力として、
図4で上述したように、ピーク電圧移動平均値信号Vpr及びベース電圧移動平均値信号Vbrを算出する。これらの算出方法は、上述した(21)式及び(22)式に基づいて行われる。
【0034】
基準電圧波形設定回路VCは、上記のピーク電圧移動平均値信号Vpr及び上記のベース電圧移動平均値信号Vbrを入力として、
図2で上述したような基準電圧波形信号Vcを出力する。この基準電圧波形信号Vcの設定は、上述した(31)式〜(34)式によって行われる。
【0035】
電圧積分回路SVは、各パルス周期の開始時点から上記の電圧制限値信号Vftを積分(1/t)∫Vft・dtして、電圧積分値信号Svを出力する。ここで、tは各パルス周期の開始時点からの経過時間(秒)である。したがって、この電圧積分値信号Svの値は、電圧制限値信号Vftの平均値を刻々と算出していることになる。
【0036】
電圧設定回路VRは、予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。比較回路CMは、上記の電圧積分値信号Svと上記の電圧設定信号Vrとを比較して、同じ値になった時点でパルス周期を終了するために短時間Highレベルとなるパルス周期信号Tfを出力する。Sv=Vrとなることは、各パルス周期における電圧制限値信号Vftの平均値が電圧設定信号Vrの値と等しくなったことを意味している。このようにして、上述したアーク長制御が行われる。したがって、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化する間隔が各パルス周期の長さとなる。
【0037】
経過時間測定回路STは、上記のパルス周期信号TfがHighレベルに変化した時点(各パルス周期の開始時点)からの経過時間を測定して、経過時間信号Stを出力する。
【0038】
ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0039】
電流制御設定回路IRCは、上記の経過時間信号St、上記のピーク電流設定信号Ipr及び上記のベース電流設定信号Ibrを入力として、経過時間信号Stが0にリセットされるごとに、予め定めたピーク立上り期間Tup中はベース電流設定信号Ibrの値からピーク電流設定信号Iprの値へと上昇する電流制御設定信号Ircを出力し、その後の予め定めたピーク期間Tp中はピーク電流設定信号Iprの値を電流制御設定信号Ircとして出力し、その後の予め定めたピーク立下り期間Tdw中はピーク電流設定信号Iprの値からベース電流設定信号Ibrの値へと下降する電流制御設定信号Ircを出力し、その後のベース期間Tb中はベース電流設定信号Ibrの値を電流制御設定信号Ircとして出力する。
【0040】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Ircとこの電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0041】
送給制御回路FCは、予め定めた送給速度設定値で溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0042】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、許容範囲を、シールドガスに占める不活性ガスの体積%が大きくなるほど大きな値に設定する。
【0043】
図6は、本発明の実施の形態2に係るパルスアーク溶接電源のブロック図である。同図は、上述した
図5と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図5の材質選択回路MSを不活性ガス比率設定回路ARに置換し、
図5の許容範囲設定回路ΔVCを第2許容範囲設定回路ΔVC2に置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
【0044】
不活性ガス比率設定回路ARは、シールドガスに占める不活性ガスの体積%を設定するための不活性ガス比率設定信号Arを出力する。シールドガスが、不活性ガス0%(CO2 100%)の場合にはAr=0となり、不活性ガス20%(CO2 80%)の場合はAr=20となり、不活性ガス98%(O2 2%)の場合はAr=98となり、不活性ガス100%の場合はAr=100となる。不活性ガスは、アルゴンガスAr、ヘリウムガスHe等である。
【0045】
第2許容範囲設定回路ΔVC2は、上記の不活性ガス比率設定信号Arを入力として、不活性ガス比率設定信号Arを入力とする予め定めた許容範囲算出関数に基づいて許容範囲を算出して、許容範囲設定信号ΔVcを出力する。許容範囲算出関数については、
図7で後述する。
【0046】
図7は、横軸に示す不活性ガス比率設定信号Ar(%)と縦軸に示す許容範囲設定信号ΔVc(V)との関係を示す図である。同図に示すように、Ar=0%のときはΔVc=2Vとなり、Ar=100%のときはΔVc=4Vとなっている。母材の材質が鉄鋼である場合にはAr=0〜20%の範囲のシールドガスが使用される。ステンレス鋼の場合にはAr=98〜100%のシールドガスが使用される。同図から分かるように、不活性ガス比率が大きくなるほど許容範囲は大きくなる。これは、不活性ガス比率が大きくなるほど、アーク長の変化が大きくなるためである。すなわち、不活性ガス比率が大きくなると、アーク長の変化が大きくなるので、許容範囲を大きくしないとアーク長に比例する溶接電圧を異常電圧であると誤判別して除去してしまうからである。
【0047】
上述した実施の形態2の発明によれば、不活性ガス比率が大きくなるほど許容範囲が大きくなるようにしている。このために、使用するシールドガスの不活性ガス比率に応じて適正な許容範囲を設定することができるので、アークの安定性をさらに向上させることができる。