【実施例】
【0021】
以下、本発明に到達したことを示す実験を説明する。
<歯根膜細胞培養と、エクソソームの単離>
5代継代のヒト由来凍結歯根膜細胞を解凍し、完全培地を備えた150mmの細胞培養
皿に播種した。培地は、10%FBS(日本バイオセラム社製)と1%の抗生物質(ペニシリン−ストレプトマイシン、和光純薬製)を含むalpha−MEM培地を用いた。翌日、細胞はリン酸バッファ生理食塩水(PBS、和光純薬製)で洗浄し、フレッシュな培地を添加した。細胞は一代継代し、PBSで洗浄し、24時間血清無培地(1%の抗生物質を含むalpha−MEM)で24時間インキュベーションした後、12日〜13日増殖させた。その培地を収集し、トリパンブルー色素排除試験(サーモフィッシャーサイエンティフィック)により細胞の数と活性を測定した。培地は4℃で10分間、300xgで遠心分離し、得られた上清を新たなチューブに移し、4℃で10分間、3000xgで遠心分離して上清を収集した。得られた上清を100kDaの限外ろ過フィルタ(Amicon Ultra−14、メルクミリポール製)を用いて、約300mLから2.5mL以下の体積まで濃縮し、更に10kDaの限外ろ過フィルタ(Amicon Ultra−4、メルクミリポール製)を用いて500μL以下に濃縮した。濃縮物は、サイズ排除クロマトグラフィを用いて、エクソソームを含まない蛋白質からエクソソームを分離し、エクソソームサンプルを得た。
【0022】
<プロテオーム解析>
エクソソームサンプルは2%SDS溶解バッファに溶解し、SP3プロテインクリーンアップとダイジェスチョンプロトコルの改良版を用いて、タンパク質量分析の準備をした。5〜10μgのタンパク質に対し、それぞれ4mMのクロロアセトアミドでアルキレートした。Sera−Mag SP3ビーズミックス(20μL)を100%アセトニトリルと共にタンパク質サンプルに移し、終濃度を70%とした。この混合物を室温下18分間撹拌しながらインキュベートした。この混合物を磁気ラック上に配置して上清を捨て、次いで70%エタノール溶液で2回洗浄し、100%アセトニトリルで1回洗浄した。ビーズ−タンパク質混合物は、100μLのLysCバッファ(0.5M尿酸、50mMHEPES、pH7.6、LysCとタンパク質の割合1:50)に再溶解し、一晩インキュベートした。最終的にトリプシンを加えて一晩インキュベートし、その後SCXによりクリーンアップした。最終的なペプチド濃度は、Bio−Rad DC Assayにより決定した。
得られたサンプル約10μgをLCモバイルフェーズAに懸濁し、LC−MS/MSシステムに注入した。
【0023】
<LC−ESI−MS/MS>
Dionex UltiMate(登録商標)3000RSLC nano SystemとQ−Exactive質量計(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いてQ−ExactiveオンラインLC−MSを実施した。それぞれのサンプルを5μL注入した。サンプルはC18ガード脱塩カラムでトラップし、50cm長のC18カラムで分離した。ナノキャピラリー溶媒Aは、95%の水、5%のDMSO、0.1%のギ酸であり、溶媒Bは5%の水、5%のDMSO、95%のアセトニトリル、0.1%のギ酸であった。0.25μL/minの定量流量で、180分間かけて溶媒Bの量を6%〜43%に上昇させ、その後5分間で溶媒Bが100%となるように、溶媒Bの量を増加させた。
60,000解像度(質量レンジが300〜1500m/z)のFTMSマスタースキャンは、トップ5イオンでのデータ従属MS/MS(30,000解像度)に従い、30%の規格化衝突エネルギーで、高エネルギー衝突解離(HCD)を行った。前駆体は、2m/zウインドウで単離した。自動ゲインコントロール(AGC)ターゲットはMS1で1×10
6、MS2で1×10
5とした。全体のデューティサイクルは、2.5sまで続けた。ダイナミックエクスクルージョンは60sデュレーションとした。未配当チャージステートと、チャージステート1は除いた。アンダーフィル率1%を用いた。
【0024】
<ペプチド及びタンパク質の同定>
Sequest−PercolatorまたはTarget Decoy PSM Validatorを用いて、プロテオームディスカバ1.4(サーモフィッシャーサイエンティッフィク)ソフトウエアプラットフォームで、ホモサピエンスユニプロットデータベースに対して、上記MSの生データファイルを解析した。1%のFDRカットオフでフィルタをかけた。10ppmの前駆体イオン質量許容、HCD−FTMSでは0.02Da、CID−ITMSでは0.8Daのプロダクトイオン質量許容、を用いた。アルゴリズムは、最大2つの欠落した切断を有するトリプシンペプチドと考えられた。固定された修飾としてカルバミドメチル化(C)、変位し得る修飾として酸化(M)であった。
VENNダイアグラムは、エンリッチメント解析(FUNRICH)を用いて生成された。ネットワークと遺伝子オントロジータームエンリッチメント分析はオープンソースSTRINGデータベースを用いて行った。一般的なタンパク質のコンタミネーションリストは、アフィニティー精製−質量分析オープンソースコンタミリポジトリ−から得、5回以上の平均スペクトルカウントを有するタンパク質は、コンタミネーションと考えた。
【0025】
<結果>
<エクソソーム分離>
歯根膜細胞は播種後、再現性良く増殖し、線維芽細胞様の形態を呈した。形態を
図1に示す。継代中や血清無培地への曝露後の形態の変化は観察されず、培地回収時の細胞活性は98〜100%であった。サイズ排除クロマトグラフィを用いてエクソソームを含まないタンパク質からエクソソームを分離した。
【0026】
<エクソソームのプロテオミックアナリシス>
質量分析を用いて、270種、341種、445種のタンパク質を、3つに分離されたエクソソームバッチから同定した。そして173種類は、全てのサンプルから同定された。これらの173種類のタンパク質のうち50は既にコンタミタンパクとして同定されていたため、これらのタンパク質は除外した。残りの123種類のタンパク質の一覧を以下の表1に示す。また、包括的なプロテオミックアナリシスの結果を
図2に示す。
【0027】
【表1-1】
【0028】
【表1-2】
【0029】
【表1-3】
【0030】
これら同定されたタンパク質のうち、No.30、46、54、101タンパク質に着目した。これらのタンパク質は、上記説明したとおり既知のタンパク質であり、その作用が報告されている。これらの事実から、歯根膜細胞エクソソームには、ARDS治療、加齢性疾患治療、創傷治療、炎症性腸疾患治療、及び中枢神経疾患治療に効果があると、合理的に推測された。
【0031】
<創傷治癒効果の確認>
8匹の雄スプラーグドーリーラットを用いて全層創傷ラットを作成した。ラットは、イソフルラン吸入および、メデトミジンとミダゾラムと酒石酸ブトルファノールを皮下注射することで麻酔した。電気バリカンで背毛を剃り、毛は脱毛クリームで除去した。洗浄後、5mmの生検パンチを使用して、2つの平行する全層創傷を作成した。それぞれのラットの、1つの創傷は局所塗布により治療し、他の創傷は2か所の創傷部への注射により治療した。
局所塗布において、歯根膜由来エクソソームを創傷に塗布後45分間静置し、その上からデガダーム創傷被覆材を貼った。
ラットのうち半分はコントロールとしてPBSを、他の半分は歯根膜由来エクソソームを、1つの創傷に対し0.75μg投与した。
【0032】
ラットの体重は0日、2日目、4日目、6日目、7日目で計測した。顕微鏡写真を0日、2日目、4日目、7日目で撮影した。ラットは7日目に犠牲死し、創傷は8mmの生検パンチを用いて切除し、半分に切断しOCTコンパウンド中に凍結した。そして、8μmの凍結切片をクライオスタットで作製した。
切片はヘマトキシリンーエオシン(H&E)とピクロシリウスレッドとを用いて染色した。H&Eスライドは光学顕微鏡で可視化され、一方ピクロシリウスレッドスライドは偏光顕微鏡で可視化された。創傷の幅はイメージJ(ナショナル インスティテュート オブ ヘルス、米国)を用いて、1つの画像ごとに3つの線、即ち真皮の上部、中間及び下部を測定することで、計測した。
エクソソームで治療したラットは、PBSを投与したコントロール群と比べて4日目から研究終了までの間、有意に体重が増加した(
図3参照)。
【0033】
断面組織学的評価においては、創傷の幅が減少し、コラーゲン沈着が増加したことから、エクソソームを局所投与したグループの創傷治癒がより進んだことが明らかになった(
図4参照)。
また、創傷領域はエクソソームを投与した領域が明らかに小さくなった(
図5参照)。
【0034】
<その他の治療効果の確認>
歯根膜細胞由来エクソソームの治療効果を確認するため、以下の試験を行う。
(1)歯根膜細胞由来エクソソームの、抗炎症作用/免疫調整作用を、混合リンパ球反応アッセイにより確認する。
(2)歯根膜細胞由来エクソソームの、抗凝固作用を、エカリン凝固時間アッセイにより確認する。
(3)歯根膜細胞由来エクソソームの、創傷治癒特性を、スクラッチアッセイにより確認する。
(4)歯根膜細胞由来エクソソームが、幹細胞の増殖を刺激することを確認する。
具体的には、以下の4つのタンパク質をノックアウトした歯根膜細胞由来のエクソソーム及び/又は中和抗体を用いて、確認を行う。
i)Antithrombin−III
ii)Argininosuccinate
iii)Lactadherin
iv)Integrin−linked kinase
なお、上記(1)の試験については、i)Antithrombin−IIIとii)Argininosuccinateを対象とし、上記(2)の試験はi)Antithrombin−IIIを対象とし、上記(3)の試験はiii)Lactadherinを対象とし、上記(4)の試験は、iiii)Integrin−linked kinaseを対象として行う。
上記4つのタンパク質は、その作用が報告されており、歯根膜細胞由来エクソソームの薬効は、合理的に期待される。