特開2021-187748(P2021-187748A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2021-187748歯根膜細胞由来エクソソームを含む、ARDS治療用組成物、加齢性疾患治療用組成物、創傷治療用組成物、炎症性腸疾患治療用組成物、及び中枢神経疾患治療用組成物
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  • 特開2021187748-歯根膜細胞由来エクソソームを含む、ARDS治療用組成物、加齢性疾患治療用組成物、創傷治療用組成物、炎症性腸疾患治療用組成物、及び中枢神経疾患治療用組成物 図000006
  • 特開2021187748-歯根膜細胞由来エクソソームを含む、ARDS治療用組成物、加齢性疾患治療用組成物、創傷治療用組成物、炎症性腸疾患治療用組成物、及び中枢神経疾患治療用組成物 図000007
  • 特開2021187748-歯根膜細胞由来エクソソームを含む、ARDS治療用組成物、加齢性疾患治療用組成物、創傷治療用組成物、炎症性腸疾患治療用組成物、及び中枢神経疾患治療用組成物 図000008
  • 特開2021187748-歯根膜細胞由来エクソソームを含む、ARDS治療用組成物、加齢性疾患治療用組成物、創傷治療用組成物、炎症性腸疾患治療用組成物、及び中枢神経疾患治療用組成物 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-187748(P2021-187748A)
(43)【公開日】2021年12月13日
(54)【発明の名称】歯根膜細胞由来エクソソームを含む、ARDS治療用組成物、加齢性疾患治療用組成物、創傷治療用組成物、炎症性腸疾患治療用組成物、及び中枢神経疾患治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20211115BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20211115BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20211115BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20211115BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20211115BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20211115BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20211115BHJP
【FI】
   A61K35/12
   A61P11/00
   A61P17/02
   A61P29/00
   A61P1/00
   A61P25/00
   A61K35/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-91813(P2020-91813)
(22)【出願日】2020年5月27日
(71)【出願人】
【識別番号】520168804
【氏名又は名称】株式会社ExTherea
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ショクヴィスト セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】岩田 隆紀
(72)【発明者】
【氏名】今福 礼
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB46
4C087BB70
4C087CA10
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA66
4C087ZA89
4C087ZB11
(57)【要約】
【課題】歯根膜細胞由来エクソソームの新たな用途を提供する。
【解決手段】歯根膜細胞由来エクソソームに含まれるタンパク質を同定した結果、歯根膜細胞由来エクソソームを含有するARDS治療用組成物、歯根膜細胞由来エクソソームを含む加齢性疾患治療用組成物、歯根膜細胞由来エクソソームを含む創傷治療用組成物、歯根膜細胞由来エクソソームを含む炎症性腸疾患治療用組成物、及び歯根膜細胞由来エクソソームを含む中枢神経疾患治療用組成物、を提供できた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯根膜細胞由来エクソソームを含む、ARDS治療用組成物。
【請求項2】
歯根膜細胞由来エクソソームを含む、加齢性疾患治療用組成物。
【請求項3】
歯根膜細胞由来エクソソームを含む、創傷治療用組成物。
【請求項4】
歯根膜細胞由来エクソソームを含む、炎症性腸疾患治療用組成物。
【請求項5】
歯根膜細胞由来エクソソームを含む、中枢神経疾患治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯根膜細胞由来エクソソームの新たな用途を提供するものである。より詳細には、歯根膜細胞由来エクソソームを含むARDS治療用組成物、歯根膜細胞由来エクソソームを含む加齢性疾患治療用組成物、歯根膜細胞由来エクソソームを含有する創傷治療用組成物、歯根膜細胞由来エクソソームを含有する炎症性腸疾患治療用組成物、及び歯根膜細胞由来エクソソームを含有する中枢神経疾患治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソーム(細胞外小胞)は、細胞から分泌される膜小胞であり、細胞内のタンパク質、脂質、核酸を細胞外に運搬することにより、局所や全身における細胞間の情報伝達を担っている。
【0003】
近年、エクソソームを疾患への治療薬として使用することが提案されている。
例えば本発明者らは、口腔上皮細胞を培養する際などに培地中に分泌される細胞外小胞を含む組成物が、皮膚や粘膜等の表皮や上皮組織の創傷治癒促進に効果を有することを見出している(特許文献1参照)。
また、ヒートショックにより改良されたエクソソーム組成物を用いて、歯周組織の修復及びやけどの修復を包含する軟組織の損傷を修復することが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/032186号
【特許文献2】特表2018−522593号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、エクソソームによる疾患の治療薬の開発が進んでいる。本発明は、歯根膜細胞由来エクソソームの新たな用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、歯根膜細胞由来エクソソームに対し網羅的なタンパク質解析を行い、歯根膜細胞由来エクソソームが有するタンパク質を同定した。そして、歯根膜細胞由来エクソソームが有する、以下の4つのタンパク質に着目した。
i)Antithrombin−III
ii)Argininosuccinate
iii)Lactadherin
iv)Integrin−linked kinase
【0007】
これらのタンパク質は既知のタンパク質である。
上記i)タンパクは、抗炎症作用、抗血栓作用などを有することが知られている(例えば、Okajima K et al. Semin Thromb Hemost. 1998;24(1):27-32. The anti-inflammatory properties of antithrombin III: new therapeutic implications. Dickneite G et al. Influence of Antithrombin III on Coagulation and Inflammation in Porcine Septic Shock. Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology. 1999;19:1566-1
572. 参照)。
上記ii)タンパクは、抗炎症作用などを有することが知られている(例えば、Shan YS et al. Argininosuccinate synthetase 1 suppression and arginine restriction inhibit cell migration in gastric cancer cell lines. Sci Rep. 2015;30;:9783. Gyeong IM et al. Endothelial Argininosuccinate Synthetase 1 Regulates Nitric Oxide Production and Monocyte Adhesion under Static and Laminar Shear Stress Conditions. Mun, J Biol Chem. 2011;286;2536-2542. Guillamat-Prats R et al. Effect of antithrombin in an in vitro model of acute respiratory distress syndrome. European Respiratory Journal. 2016;48参照)。
上記iii)タンパクは、血管新生作用、創傷治癒作用などを有することが知られている(例えば、Uchiyama A et al. MFG-E8 Regulates Angiogenesis in Cutaneous Wound Healing. Am J Pathol. 2014;184:1981-1990. Uchiyama A et al. Mesenchymal stem cells-derived MFG-E8 accelerates diabetic cutaneous wound healing. J Dermatol Sci. 2017;86:187-197. 参照)。
上記iv)タンパクは、幹細胞増殖作用などを有することが知られている(例えば、Yamabi et al. Overexpression of integrin-linked kinase induces cardiac stem cell expansion, The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery. 2006;132:1272-1279. Mao et al, ILK promotes survival and self-renewal of hypoxic MSCs via the activation of lncTCF7-Wnt pathway induced by IL-6/STAT3 signaling Citation metadata. Gene Ther. 2019:26:165-176. 参照)。
これらの事実より本発明者は、歯根膜細胞由来エクソソームが、上記タンパク質の作用により改善し得る疾患の治療薬として有効であることを見出し、その薬効を確認して、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の一形態は、歯根膜細胞由来エクソソームを含む、ARDS治療用組成物であり得る。
また、本発明の別の形態は、歯根膜細胞由来エクソソームを含む、加齢性疾患治療用組成物であり得る。
また、本発明の別の形態は、歯根膜細胞由来エクソソームを含む、創傷治療用組成物であり得る。
また、本発明の別の形態は、歯根膜細胞由来エクソソームを含む、炎症性腸疾患治療用組成物であり得る。
また、本発明の別の形態は、歯根膜細胞由来エクソソームを含む、中枢神経疾患治療用組成物であり得る。
【0009】
また、本発明の別の形態は、疾患患者の投与を必要とする箇所に、歯根膜細胞由来エクソソームを投与するステップを含む、ARDSの治療方法、加齢性疾患の治療方法, 創傷治療方法、炎症性腸疾患の治療方法、及び中枢神経疾患の治療方法であり得る。
【0010】
また、本発明の別の形態は、歯根膜細胞由来エクソソーム中の以下のいずれかのタンパク質を濃縮するステップ、を含む、ARDS治療用組成物の製造方法、加齢性疾患治療用組成物の製造方法、創傷治療用組成物の製造方法、炎症性腸疾患治療用組成物の製造方法、及び中枢神経疾患治療用組成物の製造方法であり得る。
i)Antithrombin−III
ii)Argininosuccinate
iii)Lactadherin
iv)Integrin−linked kinase
上記濃縮するステップは、上記タンパク質をソーティングすることで行うことが好ましい。
【0011】
また、本発明の別の形態は、歯根膜細胞由来エクソソーム中の、以下のいずれかのタンパク質をソーティングするステップを含む、タンパク質の精製方法であり得る。
i)Antithrombin−III
ii)Argininosuccinate
iii)Lactadherin
iv)Integrin−linked kinase
上記ソーティングするステップは、ソーティングするタンパク質の抗体を用いて行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、歯根膜細胞由来エクソソームの新たな用途、即ち歯根膜細胞由来エクソソームを含む、ARDS治療用組成物、加齢性疾患治療用組成物、創傷治療用組成物、炎症性腸疾患治療用組成物、及び中枢神経疾患治療用組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実験で培養した歯根膜細胞由来エクソソームの形態を示す顕微鏡画像である(図面代用写真)。
図2】実験で行った、プロテオーム解析の結果を示す図である。
図3】実験で行った、エクソソームを投与したラットの体重増加を示すグラフである。
図4】実験で行った、PBS及びエクソソーム局所投与後の創傷治癒を示す偏光顕微鏡である(図面代用写真)。
図5】実験で行った、PBS及びエクソソーム局所投与後の創傷治癒を示すヘマトキシリンエオジン染色写真である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
本発明の一形態は、歯根膜細胞由来エクソソームを含む、ARDS治療用組成物であり得る。また、本発明の別の形態は、歯根膜細胞由来エクソソームを含む、加齢性疾患治療用組成物であり得る。また、本発明の別の形態は、歯根膜細胞由来エクソソームを含む、創傷治療用組成物であり得る。また、本発明の別の形態は、歯根膜細胞由来エクソソームを含む、炎症性腸疾患治療用組成物であり得る。また、本発明の別の形態は、歯根膜細胞由来エクソソームを含む、中枢神経疾患治療用組成物であり得る。
歯根膜は歯根と歯槽骨との間に存在する組織で、歯周靭帯とも呼ばれる。歯根膜を構成する細胞は、主に線維芽細胞であるが、間葉系幹細胞も含まれる。またこれに限られるものではなく、骨芽細胞、破骨細胞、セメント芽細胞、マクロファージなどが含まれ得る。その採取方法は特に限定されず、既知の方法を適用できる。また、研究用に市販されている歯根膜細胞を用いてもよい。
細胞の由来は特に限定されないが、哺乳類由来の細胞であることが好ましく、治療の安全性からはヒトの歯根膜細胞であることが好ましい。
歯根膜細胞からのエクソソームの単離は、既知の方法で行うことができる。
【0016】
ARDSは、急性呼吸促拍症候群の略であり、急性肺疾患の一種である。歯根膜細胞由来のエクソソームに含まれるAntithrombin−III、 Argininos
uccinateは、抗炎症作用を有しており、特に呼吸器に生じる炎症を抑制する作用を有することから、歯根膜細胞由来のエクソソームを投与することで、ARDSの症状が改善され得る。
加齢性疾患は、フレイル、動脈硬化、心血管病変、骨粗しょう症等を含み、軟組織の損傷は含まない。歯根膜細胞由来のエクソソームに含まれるAntithrombin−III、 Argininosuccinate、Integrin−linked ki
naseは、抗炎症作用、抗血栓作用、幹細胞増殖作用を有しており、加齢による慢性的な炎症や血栓を改善する作用および内因性幹細胞枯渇状態を改善する作用を有することから、歯根膜細胞由来のエクソソームを投与することで、加齢性疾患の症状が改善され得る。
【0017】
創傷治癒に関しては、歯根膜細胞由来のエクソソームに含まれるLactadherin、Integrin−linked kinaseは血管新生作用、創傷治癒作用、幹細胞増殖作用を有しており、創傷治癒効果を有する。
炎症性腸疾患に関しては、歯根膜細胞由来のエクソソームに含まれるAntithrombin−III、 Argininosuccinateは、抗炎症作用を有しており
、歯根膜細胞由来のエクソソームを投与することで、炎症性腸疾患の症状が改善され得る。
中枢神経疾患に関しては、歯根膜細胞由来のエクソソームに含まれるAntithrombin−III、 Argininosuccinateは、抗炎症作用を有しており
、歯根膜細胞由来のエクソソームを投与することで、中枢神経疾患の症状が改善され得る。
【0018】
本実施形態の治療用組成物は、有効成分として治療上有効量の歯根膜細胞由来のエクソソームが含まれていれば、治療用組成物として生理学的に許容される他の成分を含んでいてもよい。例えば、治療用組成物中に、歯根膜細胞由来のエクソソームを0.1質量%以上含んでいてもよく、1質量%以上含んでいてもよく、5質量%以上含んでいてもよく、10質量%以上含んでいてもよく、25質量%以上含んでいてもよく、50質量%以上含んでいてもよく、75質量%以上含んでいてもよく、90質量%以上含んでいてもよい。
また、本実施形態は、歯根膜細胞由来のエクソソーム100%、即ち歯根膜細胞由来のエクソソームからなるARDS治療用医薬、加齢性疾患用医薬、創傷治療用医薬、炎症性腸疾患治療用医薬、又は中枢神経疾患治療用医薬であってもよい。
他の成分としては、生理食塩水、細胞保存液、細胞培養液、ハイドロゲル、細胞外マトリクス、凍結保存液当が挙げられる。
【0019】
治療用組成物又は治療用医薬の投与方法は特に限定されず、経皮投与、経口投与、注射などの直接投与があげられる。直接投与の場合には、疾患を有する生体組織へ、及び/又はその近傍へ、治療用組成物又は医薬を注射してもよい。経皮投与の場合には、液剤、クリーム剤、軟膏、貼付剤など、既知の経皮投与剤型とすることができる。経口投与の場合には、粉末、錠剤、液剤など既知の経口投与剤型とすることができる。
【0020】
歯根膜細胞由来のエクソソームは、上記i)〜iv)のタンパク質の抗体を用いて、エクソソーム中の上記i)〜iv)のタンパク質をソーティングすることで、当該タンパク質を濃縮するステップを経由して、治療用組成物を製造してもよい。このように治療用組成物の上記タンパク質濃度を上げることで、治療効果の向上が期待され得る。
また、エクソソーム中の上記i)〜iv)のタンパク質をソーティングすることで、当該タンパク質精製することもできる。精製には、上記i)〜iv)のタンパク質の抗体を用いることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明に到達したことを示す実験を説明する。
<歯根膜細胞培養と、エクソソームの単離>
5代継代のヒト由来凍結歯根膜細胞を解凍し、完全培地を備えた150mmの細胞培養
皿に播種した。培地は、10%FBS(日本バイオセラム社製)と1%の抗生物質(ペニシリン−ストレプトマイシン、和光純薬製)を含むalpha−MEM培地を用いた。翌日、細胞はリン酸バッファ生理食塩水(PBS、和光純薬製)で洗浄し、フレッシュな培地を添加した。細胞は一代継代し、PBSで洗浄し、24時間血清無培地(1%の抗生物質を含むalpha−MEM)で24時間インキュベーションした後、12日〜13日増殖させた。その培地を収集し、トリパンブルー色素排除試験(サーモフィッシャーサイエンティフィック)により細胞の数と活性を測定した。培地は4℃で10分間、300xgで遠心分離し、得られた上清を新たなチューブに移し、4℃で10分間、3000xgで遠心分離して上清を収集した。得られた上清を100kDaの限外ろ過フィルタ(Amicon Ultra−14、メルクミリポール製)を用いて、約300mLから2.5mL以下の体積まで濃縮し、更に10kDaの限外ろ過フィルタ(Amicon Ultra−4、メルクミリポール製)を用いて500μL以下に濃縮した。濃縮物は、サイズ排除クロマトグラフィを用いて、エクソソームを含まない蛋白質からエクソソームを分離し、エクソソームサンプルを得た。
【0022】
<プロテオーム解析>
エクソソームサンプルは2%SDS溶解バッファに溶解し、SP3プロテインクリーンアップとダイジェスチョンプロトコルの改良版を用いて、タンパク質量分析の準備をした。5〜10μgのタンパク質に対し、それぞれ4mMのクロロアセトアミドでアルキレートした。Sera−Mag SP3ビーズミックス(20μL)を100%アセトニトリルと共にタンパク質サンプルに移し、終濃度を70%とした。この混合物を室温下18分間撹拌しながらインキュベートした。この混合物を磁気ラック上に配置して上清を捨て、次いで70%エタノール溶液で2回洗浄し、100%アセトニトリルで1回洗浄した。ビーズ−タンパク質混合物は、100μLのLysCバッファ(0.5M尿酸、50mMHEPES、pH7.6、LysCとタンパク質の割合1:50)に再溶解し、一晩インキュベートした。最終的にトリプシンを加えて一晩インキュベートし、その後SCXによりクリーンアップした。最終的なペプチド濃度は、Bio−Rad DC Assayにより決定した。
得られたサンプル約10μgをLCモバイルフェーズAに懸濁し、LC−MS/MSシステムに注入した。
【0023】
<LC−ESI−MS/MS>
Dionex UltiMate(登録商標)3000RSLC nano SystemとQ−Exactive質量計(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いてQ−ExactiveオンラインLC−MSを実施した。それぞれのサンプルを5μL注入した。サンプルはC18ガード脱塩カラムでトラップし、50cm長のC18カラムで分離した。ナノキャピラリー溶媒Aは、95%の水、5%のDMSO、0.1%のギ酸であり、溶媒Bは5%の水、5%のDMSO、95%のアセトニトリル、0.1%のギ酸であった。0.25μL/minの定量流量で、180分間かけて溶媒Bの量を6%〜43%に上昇させ、その後5分間で溶媒Bが100%となるように、溶媒Bの量を増加させた。
60,000解像度(質量レンジが300〜1500m/z)のFTMSマスタースキャンは、トップ5イオンでのデータ従属MS/MS(30,000解像度)に従い、30%の規格化衝突エネルギーで、高エネルギー衝突解離(HCD)を行った。前駆体は、2m/zウインドウで単離した。自動ゲインコントロール(AGC)ターゲットはMS1で1×10、MS2で1×10とした。全体のデューティサイクルは、2.5sまで続けた。ダイナミックエクスクルージョンは60sデュレーションとした。未配当チャージステートと、チャージステート1は除いた。アンダーフィル率1%を用いた。
【0024】
<ペプチド及びタンパク質の同定>
Sequest−PercolatorまたはTarget Decoy PSM Validatorを用いて、プロテオームディスカバ1.4(サーモフィッシャーサイエンティッフィク)ソフトウエアプラットフォームで、ホモサピエンスユニプロットデータベースに対して、上記MSの生データファイルを解析した。1%のFDRカットオフでフィルタをかけた。10ppmの前駆体イオン質量許容、HCD−FTMSでは0.02Da、CID−ITMSでは0.8Daのプロダクトイオン質量許容、を用いた。アルゴリズムは、最大2つの欠落した切断を有するトリプシンペプチドと考えられた。固定された修飾としてカルバミドメチル化(C)、変位し得る修飾として酸化(M)であった。
VENNダイアグラムは、エンリッチメント解析(FUNRICH)を用いて生成された。ネットワークと遺伝子オントロジータームエンリッチメント分析はオープンソースSTRINGデータベースを用いて行った。一般的なタンパク質のコンタミネーションリストは、アフィニティー精製−質量分析オープンソースコンタミリポジトリ−から得、5回以上の平均スペクトルカウントを有するタンパク質は、コンタミネーションと考えた。
【0025】
<結果>
<エクソソーム分離>
歯根膜細胞は播種後、再現性良く増殖し、線維芽細胞様の形態を呈した。形態を図1に示す。継代中や血清無培地への曝露後の形態の変化は観察されず、培地回収時の細胞活性は98〜100%であった。サイズ排除クロマトグラフィを用いてエクソソームを含まないタンパク質からエクソソームを分離した。
【0026】
<エクソソームのプロテオミックアナリシス>
質量分析を用いて、270種、341種、445種のタンパク質を、3つに分離されたエクソソームバッチから同定した。そして173種類は、全てのサンプルから同定された。これらの173種類のタンパク質のうち50は既にコンタミタンパクとして同定されていたため、これらのタンパク質は除外した。残りの123種類のタンパク質の一覧を以下の表1に示す。また、包括的なプロテオミックアナリシスの結果を図2に示す。
【0027】
【表1-1】
【0028】
【表1-2】

【0029】
【表1-3】
【0030】
これら同定されたタンパク質のうち、No.30、46、54、101タンパク質に着目した。これらのタンパク質は、上記説明したとおり既知のタンパク質であり、その作用が報告されている。これらの事実から、歯根膜細胞エクソソームには、ARDS治療、加齢性疾患治療、創傷治療、炎症性腸疾患治療、及び中枢神経疾患治療に効果があると、合理的に推測された。
【0031】
<創傷治癒効果の確認>
8匹の雄スプラーグドーリーラットを用いて全層創傷ラットを作成した。ラットは、イソフルラン吸入および、メデトミジンとミダゾラムと酒石酸ブトルファノールを皮下注射することで麻酔した。電気バリカンで背毛を剃り、毛は脱毛クリームで除去した。洗浄後、5mmの生検パンチを使用して、2つの平行する全層創傷を作成した。それぞれのラットの、1つの創傷は局所塗布により治療し、他の創傷は2か所の創傷部への注射により治療した。
局所塗布において、歯根膜由来エクソソームを創傷に塗布後45分間静置し、その上からデガダーム創傷被覆材を貼った。
ラットのうち半分はコントロールとしてPBSを、他の半分は歯根膜由来エクソソームを、1つの創傷に対し0.75μg投与した。
【0032】
ラットの体重は0日、2日目、4日目、6日目、7日目で計測した。顕微鏡写真を0日、2日目、4日目、7日目で撮影した。ラットは7日目に犠牲死し、創傷は8mmの生検パンチを用いて切除し、半分に切断しOCTコンパウンド中に凍結した。そして、8μmの凍結切片をクライオスタットで作製した。
切片はヘマトキシリンーエオシン(H&E)とピクロシリウスレッドとを用いて染色した。H&Eスライドは光学顕微鏡で可視化され、一方ピクロシリウスレッドスライドは偏光顕微鏡で可視化された。創傷の幅はイメージJ(ナショナル インスティテュート オブ ヘルス、米国)を用いて、1つの画像ごとに3つの線、即ち真皮の上部、中間及び下部を測定することで、計測した。
エクソソームで治療したラットは、PBSを投与したコントロール群と比べて4日目から研究終了までの間、有意に体重が増加した(図3参照)。
【0033】
断面組織学的評価においては、創傷の幅が減少し、コラーゲン沈着が増加したことから、エクソソームを局所投与したグループの創傷治癒がより進んだことが明らかになった(図4参照)。
また、創傷領域はエクソソームを投与した領域が明らかに小さくなった(図5参照)。
【0034】
<その他の治療効果の確認>
歯根膜細胞由来エクソソームの治療効果を確認するため、以下の試験を行う。
(1)歯根膜細胞由来エクソソームの、抗炎症作用/免疫調整作用を、混合リンパ球反応アッセイにより確認する。
(2)歯根膜細胞由来エクソソームの、抗凝固作用を、エカリン凝固時間アッセイにより確認する。
(3)歯根膜細胞由来エクソソームの、創傷治癒特性を、スクラッチアッセイにより確認する。
(4)歯根膜細胞由来エクソソームが、幹細胞の増殖を刺激することを確認する。
具体的には、以下の4つのタンパク質をノックアウトした歯根膜細胞由来のエクソソーム及び/又は中和抗体を用いて、確認を行う。
i)Antithrombin−III
ii)Argininosuccinate
iii)Lactadherin
iv)Integrin−linked kinase
なお、上記(1)の試験については、i)Antithrombin−IIIとii)Argininosuccinateを対象とし、上記(2)の試験はi)Antithrombin−IIIを対象とし、上記(3)の試験はiii)Lactadherinを対象とし、上記(4)の試験は、iiii)Integrin−linked kinaseを対象として行う。
上記4つのタンパク質は、その作用が報告されており、歯根膜細胞由来エクソソームの薬効は、合理的に期待される。
図1
図2
図3
図4
図5