【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、流動性改質剤(B)5〜30質量部、リン系難燃剤(C)3〜20質量部、フルオロポリマー(D)0.05〜2質量部、板状の無機フィラー(E)を含む無機フィラー10〜100質量部、及び構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)0.1〜1質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物。
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、流動性改質剤(B)5〜30質量部、リン系難燃剤(C)3〜20質量部、フルオロポリマー(D)0.05〜2質量部、板状の無機フィラー(E)を含む無機フィラー10〜100質量部、及び構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)0.1〜1質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物。
前記流動性改質剤(B)がアクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリカーボネートオリゴマー及びポリカプロラクトンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
前記リン系難燃剤(C)が、縮合リン酸エステル系難燃剤(C−1)及び/又はホスファゼン化合物(C−2)である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
前記リン系酸化防止剤が亜リン酸エステル、リン酸エステル(ただし、難燃剤成分を除く)及びリン酸エステル金属塩から選ばれる少なくとも1種である請求項8に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
UL94試験に準拠した5Vのバーサンプル燃焼試験における厚み2.0mmでの難燃性が5VBである請求項1ないし13のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0037】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、少なくとも、ポリカーボネート樹脂(A)と、流動性改質剤(B)と、リン系難燃剤(C)と、フルオロポリマー(D)と、板状の無機フィラー(E)を含む無機フィラーと、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)を特定の割合で含有してなる。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて更にその他の成分を含有していてもよい。
【0038】
<メカニズム>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、リン系難燃剤(C)とフルオロポリマー(D)を所定の割合で含むことで、優れた難燃性を得ることができ、更に流動性、成形性も優れたものとなる。このようなリン系難燃剤(C)やフルオロポリマー(D)を含むポリカーボネート樹脂組成物において、板状の無機フィラー(E)を含む無機フィラーを所定の割合で含むことで、剛性、寸法精度、耐衝撃性に加え、難燃性もより一層優れたものとなる。また、流動性改質剤(B)を所定の割合で含むことで、難燃性を損なわずに流動性、成形性がより優れたものとなる。
特に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物では、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)を含むことで、金型離型性が向上する(離型抵抗値が低下する)という、酸化防止剤としての効果とは異なる異質の効果を得ることができ、剛性、難燃性、流動性、寸法精度、金型離型性のすべてに優れ、特にOA機器シャーシ・フレーム、光学ハウジング材に適したポリカーボネート樹脂組成物を実現することができる。
【0039】
<ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂(A)としては、従来公知の任意のポリカーボネート樹脂を使用できる。ポリカーボネート樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂が挙げられるが、好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂である。
【0040】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ヒドロキシ化合物と、ホスゲン又は炭酸のジエステルとを反応させることによって得られる、直鎖状または分岐鎖状の芳香族ポリカーボネート重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等の従来法によることができる。また、溶融法で製造され、末端基のOH基量を調整して製造されたポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0041】
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂の原料の一つである芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとして、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
さらに、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン等の分子中に3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール等を分岐化剤として少量併用することもできる。
これらの芳香族ジヒドロキシ化合物のなかでも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチンなどを前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよく、その使用量は、該ヒドロキシ化合物に対して0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0043】
エステル交換法による重合においては、ホスゲンの代わりに炭酸ジエステルがモノマーとして使用される。炭酸ジエステルの代表的な例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0044】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0045】
エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、触媒が使用される。触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が使用されるが、中でもアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が特に好ましい。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。エステル交換法では、上記重合触媒をp−トルエンスルホン酸エステル等で失活させることが一般的である。
【0046】
ポリカーボネート樹脂(A)として好ましいものは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が挙げられる。また、難燃性等を付与する目的で、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーを共重合させることができる。ポリカーボネート樹脂(A)は、原料の異なる2種以上の重合体及び/又は共重合体の混合物であってもよく、分岐構造を0.5モル%まで有していてもよい。
【0047】
芳香族ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂(A)の末端ヒドロキシル基含有量は、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす。実用的な物性を持たせるためには、ポリカーボネート樹脂(A)の末端ヒドロキシル基含有量は、通常30〜2000ppm、好ましくは100〜1500ppm、さらに好ましくは200〜1000ppmであり、末端ヒドロキシル基含有量を調節する封止末端剤としてはp−tert−ブチルフェノール、フェノール、クミルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等を使用することができる。
【0048】
芳香族ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂(A)中の残存モノマー量としては、芳香族ジヒドロキシ化合物が150ppm以下、好ましくは100ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。エステル交換法により合成された場合には、さらに炭酸ジエステル残存量が300ppm以下、好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは150ppm以下である。
【0049】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、20℃の温度で測定した溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、好ましくは18,000以上である。ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が18,000以上であれば、耐衝撃性などの機械的特性が良好となり、また、耐薬品性にも優れる傾向がある。ただし、粘度平均分子量が過度に大きいと、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性、成形性が損なわれるおそれがあるので、本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、18,000〜25,000、特に19,000〜24,000、とりわけ20,000〜23,000であることが好ましい。
なお、ポリカーボネート樹脂(A)としては、粘度平均分子量の異なる2種以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、粘度平均分子量が上記好適範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合して、上記分子量の範囲内としてもよい。
【0050】
さらに、本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)は、バージン原料としてのポリカーボネート樹脂のみならず、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂であってもよい。使用済みの製品としては、光学ディスクなどの光記録媒体、導光板、自動車窓ガラスや自動車ヘッドランプレンズ、風防などの車両透明部材、水ボトルなどの容器、メガネレンズ、防音壁やガラス窓、波板などの建築部材などが好ましく挙げられる。また、再生ポリカーボネート樹脂の形態についても特に制限されず、製品の不適合品、スプルー、又はランナーなどの粉砕品、及びそれらを溶融して得たペレットなどいずれも使用可能である。
【0051】
<流動性改質剤(B)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、流動性、成形性の向上、得られる成形品の表面外観の向上のために、流動性改質剤(B)を含有する。流動性改質剤(B)は、ポリカーボネート樹脂(A)の流動性を向上させる成分であり、各種の低分子化合物あるいは高分子化合物が使用できる。本発明で用いる流動性改質剤(B)として特に好ましいのは、シアン化ビニル−芳香族ビニル系共重合体、シアン化ビニル−ジエン−芳香族ビニル系共重合体、ポリカーボネートオリゴマー及びポリカプロラクトンから選ばれる1種、又は2種以上の組み合わせであり、中でもシアン化ビニル−芳香族ビニル系共重合体、シアン化ビニル−ジエン−芳香族ビニル系共重合体、ポリカーボネートオリゴマーが好ましく、とりわけシアン化ビニル−芳香族ビニル系共重合体を用いることが好ましい。
【0052】
シアン化ビニル−芳香族ビニル系共重合体は、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合した熱可塑性共重合体である。ここでシアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物を挙げることができ、特にアクリロニトリルが好ましい。また芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン等のスチレン及びスチレン誘導体が挙げられ、これらのうち好ましいのはスチレンである。なお、これらは単独で、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0053】
シアン化ビニル−芳香族ビニル系共重合体中におけるシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物由来の構造単位のそれぞれの好ましい割合としては、全体を100質量%とした場合、シアン化ビニル化合物由来の構造単位が10〜40質量%、より好ましくは15〜30質量%、芳香族ビニル化合物由来の構造単位が90〜60質量%、より好ましくは85〜70質量%である。更に共重合時において、これらのビニル化合物に、共重合可能な他のビニル系化合物を混合して使用することもでき、これらの混合割合は、シアン化ビニル−芳香族ビニル系共重合体中で前記他のビニル系化合物由来の構造単位が15質量%以下になることが好ましい。
【0054】
シアン化ビニル−芳香族ビニル系共重合体は、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合あるいは塊状・懸濁重合等の方法により製造されるが、いずれの方法によるものでもよい。また共重合反応で使用する開始剤、連鎖移動剤等は必要に応じて、公知のものが使用可能である。
【0055】
シアン化ビニル−芳香族ビニル系共重合体としては、特にアクリロニトリル−スチレン共重合体が好ましい。アクリロニトリル−スチレン共重合体の分子量を反映するメルトボリュームレート(MVR)としては220℃、荷重10kgで20〜200cm
3/10分が好ましく、70〜150cm
3/10分がより好ましい。アクリロニトリル−スチレン共重合体は、AS樹脂又はSAN樹脂として市販されているものを広く採用することができる。
【0056】
シアン化ビニル−ジエン−芳香族ビニル系共重合体は、シアン化ビニル化合物とジエン、及び芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体である。ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン等が挙げられ、好ましくは予め重合されたジエン系ゴムであり、例えばポリブタジエン系ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体系ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体系ゴム、ポリイソプレン系ゴムなどを挙げることができ、特にポリブタジエン系ゴムが好ましい。なお、これらは単独で、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0057】
シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物を挙げることができ、特にアクリロニトリルが好ましい。また芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン等のスチレン及びスチレン誘導体が挙げられ、これらのうち好ましいのはスチレンである。なお、これらは単独で、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0058】
シアン化ビニル−ジエン−芳香族ビニル系共重合体の好ましい共重合組成比としては、共重合体全体を100質量%とした場合、成形性向上の点からジエン系ゴム由来の構造単位が10〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜40質量%である。また、シアン化ビニル化合物由来の構造単位が5〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%、芳香族ビニル化合物由来の構造単位が20〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%である。更に共重合時において、他の共重合可能なビニル系化合物を混合して使用することもでき、これらの混合割合は、シアン化ビニル−ジエン−芳香族ビニル系共重合体中で前記他のビニル系化合物由来の構造単位が15質量%以下になることが好ましい。
【0059】
シアン化ビニル−ジエン−芳香族ビニル系共重合体は、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合あるいは塊状・懸濁重合等の方法により製造されるが、いずれの方法によるものでもよい。また共重合反応で使用する開始剤、連鎖移動剤等は必要に応じて、公知のものが使用可能である。
【0060】
シアン化ビニル−ジエン−芳香族ビニル系共重合体としては、特にアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体が好ましい。アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体は、ABS樹脂として市販されているものを広く採用することができる。
【0061】
ポリカーボネートオリゴマーは、好ましくは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパンで代表的に例示する芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンで代表されるカーボネート前駆体との反応や、芳香族二価フェノールとジフェニルカーボネート等とのエステル交換反応によって得られ、芳香族二価フェノール系化合物は単独で用いても混合して用いてもよい。
【0062】
ポリカーボネートオリゴマーは、その平均重合度が2〜15であることが好ましい。ポリカーボネートオリゴマーの平均重合度が2未満では成形時に成形品からブリードアウトするのが防止し難くなりやすく、平均重合度が15を超えると得られる成形品の外観が低下する虞がある。ポリカーボネートオリゴマーの重合度の調整は、ホスゲンを用いる界面重合法では、フェノール及び/又はアルキル置換フェノールを重合系に添加して、末端封鎖すればよい。
【0063】
ポリカプロラクトンは、カプロラクトン、特にε−カプロラクトンの重合物、すなわち[−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−CO−O−]の繰返し単位を有するものであり、重合体中にかかる構成単位を、少なくとも70質量%以上、好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上含有する重合体又は共重合体である。ポリカプロラクトンがε−カプロラクトンと他の単量体との共重合体である場合、ε−カプロラクトンと共重合する単量体としては、β−プロピオラクトン、ピバロラクトン、ブチロラクトンなどのラクトンモノマー、エチレンオキシド、1,2−プロピオンオキシド、1,3−プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキシド、スチレン、メチルメタクリレート、ブタジエン等の不飽和単量体及びテレフタル酸ジメチル、ジフェニルカーボネート等のカップリング剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ポリカプロラクトンのメチレン鎖の水素原子の一部はハロゲン原子、炭化水素基で置換されていてもよく、また、ポリカプロラクトンの末端は、エステル化、エーテル化などにより末端処理をしてあってもよい。
【0064】
ポリカプロラクトンの数平均分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量で、4000〜50000が好ましく、より好ましくは5000〜40000、更には8000〜30000であることが好ましい。
ポリカプロラクトンの製造法としては、特に限定されないが、アルコール、グリコール、水等の適当な開始剤及びチタニウムテトラブトキシド、塩化スズ等の触媒を用い、ε−カプロラクトンを開環重合する方法が用いられる。
【0065】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中の流動性改質剤(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、5〜30質量部であり、好ましくは7〜20質量部、より好ましくは10〜15質量部である。流動性改質剤(B)の含有量が上記下限より少ないと、流動性改質剤(B)を配合したことによる流動性向上による成形性の向上効果や表面外観の向上効果を十分に得ることができず、上記上限より多いと難燃性、耐熱性、耐衝撃性が低下する傾向にあり、また外観不良が生じやすくなる。
【0066】
<リン系難燃剤(C)>
本発明で用いるリン系難燃剤(C)は、分子中にリンを含む難燃性付与成分であればよく、特に制限はないが、好ましいリン系難燃剤(C)としては縮合リン酸エステル系難燃剤(C−1)、ホスファゼン化合物(C−2)が挙げられる。
【0067】
リン系難燃剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0068】
(縮合リン酸エステル系難燃剤(C−1))
縮合リン酸エステル系難燃剤(C−1)としては、下記式(5)で表される縮合リン酸エステル化合物が挙げられる。
【0070】
上記式(5)で表される縮合リン酸エステル化合物は、kが異なる数を有する化合物の混合物であってもよく、かかるkが異なる縮合リン酸エステルの混合物の場合は、kはそれらの混合物の平均値となる。kは、通常0〜5の整数であり、異なるk数を有する化合物の混合物の場合は、平均のk数は好ましくは0.5〜2、より好ましくは0.6〜1.5、さらに好ましくは0.8〜1.2、特に好ましくは0.95〜1.15の範囲である。
【0071】
また、X
1は、二価のアリーレン基を示し、例えばレゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、2,3’−ジヒドロキシビフェニル、2,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシ化合物から誘導される二価の基である。これらのうち、特に、レゾルシノール、ビスフェノールA、3,3’−ジヒドロキシビフェニルから誘導される二価の基が好ましい。
【0072】
式(5)におけるp、q、r及びsは、それぞれ0又は1を表し、なかでも1であることが好ましい。
【0073】
式(5)におけるR
11、R
12、R
13及びR
14は、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示す。このようなアリール基としては、フェニル基、クレジル基、キシリル基、イソプロピルフェニル基、ブチルフェニル基、tert−ブチルフェニル基、ジ−tert−ブチルフェニル基、p−クミルフェニル基等が挙げられるが、フェニル基、クレジル基、キシリル基がより好ましい。
【0074】
式(5)で表される縮合リン酸エステル化合物の具体例としては、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート(EHDP)、tert−ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ビス−(tert−ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス−(tert−ブチルフェニル)ホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、ビス−(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート、トリス−(イソプロピルフェニル)ホスフェート等の芳香族リン酸エステル類;レゾルシノールビス−ジフェニルホスフェート(RDP)、レゾルシノールビス−ジキシレニルホスフェート(RDX)、ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェート(BDP)、ビフェニルビス−ジフェニルホスフェート等の縮合リン酸エステル類;等が挙げられる。
【0075】
式(5)で表される縮合リン酸エステル化合物の酸価は、0.2mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは0.15mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは0.1mgKOH以下であり、特に好ましくは0.05mgKOH/g以下である。かかる酸価の下限は実質的に0とすることも可能である。また、式(5)で表される縮合リン酸エステル化合物のハーフエステルの含有量は1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。酸価が0.2mgKOH/gを超える場合やハーフエステル含有量が1質量%を超える場合は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性や耐加水分解性の低下を招く。
【0076】
リン酸エステル化合物としては、上述のものの他に、リン酸エステル部位を含有するポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂又はエポキシ樹脂も含まれる。
【0077】
これらの縮合リン酸エステル系難燃剤(C−1)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
(ホスファゼン化合物(C−2))
本発明のホスファゼン化合物(C−2)は、分子中に−P=N−結合を有する有機化合物であり、ホスファゼン化合物(C−2)としては、好ましくは下記式(6A)で表される環状ホスファゼン化合物、下記式(6B)で表される鎖状ホスファゼン化合物、下記式(6A)及び下記式(6B)からなる群より選択される少なくとも一種のホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋ホスファゼン化合物が挙げられる。架橋ホスファゼン化合物としては、下記式(6C)で表される架橋基によって架橋されてなるものが難燃性の点から好ましい。
【0080】
(式(6A)中、aは3〜25の整数であり、R
5は、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
【0082】
(式(6B)中、bは3〜10,000の整数であり、Zは、−N=P(OR
5)
3基又は−N=P(O)OR
5基を示し、Yは、−P(OR
5)
4基又は−P(O)(OR
5)
2基を示す。R
5は、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
【0084】
(式(6C)中、Aは−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−S−、又は−O−であり、lは0又は1である。)
【0085】
式(6A)及び(6B)で表される環状及び/又は鎖状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、フェノキシホスファゼン、(ポリ)トリルオキシホスファゼン(例えば、o−トリルオキシホスファゼン、m−トリルオキシホスファゼン、p−トリルオキシホスファゼン、o,m−トリルオキシホスファゼン、o,p−トリルオキシホスファゼン、m,p−トリルオキシホスファゼン、o,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)キシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C
1−6アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼンや、(ポリ)フェノキシトリルオキシホスファゼン(例えば、フェノキシo−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm−トリルオキシホスファゼン、フェノキシp−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)フェノキシキシリルオキシホスファゼン、(ポリ)フェノキシトリルオキシキシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C
6−20アリールC
1−10アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン等が例示でき、好ましくは環状及び/又は鎖状フェノキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状C
1−3アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン、C
6−20アリールオキシC
1−3アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン(例えば、環状及び/又は鎖状トリルオキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状フェノキシトリルフェノキシホスファゼン等)である。なお、ここで、「C
1−6」の記載は「炭素数1〜6の」を意味し、「C
6−20」「C
1−10」等についても同様である。また、「(ポリ)フェノキシ・・・」の記載は「フェノキシ・・・」と「ポリフェノキシ・・・」の一方又は双方をさす。
【0086】
式(6A)で表される環状ホスファゼン化合物としては、R
5がフェニル基である環状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような環状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、塩化アンモニウムと五塩化リンとを120〜130℃の温度で反応させて得られる環状及び直鎖状のクロロホスファゼン混合物から、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、デカクロロシクロペンタホスファゼン等の環状のクロルホスファゼンを取り出した後にフェノキシ基で置換して得られる、フェノキシシクロトリホスファゼン、オクタフェノキシシクロテトラホスファゼン、デカフェノキシシクロペンタホスファゼン等の化合物が挙げられる。また、該環状フェノキシホスファゼン化合物は、式(6A)中のaが3〜8の整数である化合物が好ましく、aの異なる化合物の混合物であってもよい。なかでも、a=3のものが50質量%以上、a=4のものが10〜40質量%、a=5以上のものが合わせて30質量%以下である化合物の混合物が好ましい。
【0087】
式(6B)で表される鎖状ホスファゼン化合物としては、R
5がフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような鎖状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、上記の方法で得られるヘキサクロロシクロトリホスファゼンを220〜250℃の温度で開還重合し、得られた重合度3〜10,000の直鎖状ジクロロホスファゼンをフェノキシ基で置換することにより得られる化合物が挙げられる。該直鎖状フェノキシホスファゼン化合物の、式(6B)中のbは、好ましくは3〜1,000、より好ましくは3〜100、さらに好ましくは3〜25である。
【0088】
架橋フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、4,4’−スルホニルジフェニレン(ビスフェノールS残基)の架橋構造を有する化合物、2,2−(4,4’−ジフェニレン)イソプロピリデン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−オキシジフェニレン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−チオジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等の、4,4’−ジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等が挙げられる。
【0089】
また、架橋ホスファゼン化合物としては、上記式(6A)においてR
5がフェニル基である環状フェノキシホスファゼン化合物が上記式(6C)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物又は、上記式(6B)においてR
5がフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼン化合物が上記式(6C)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物が難燃性の点から好ましく、環状フェノキシホスファゼン化合物が上記式(6C)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物がより好ましい。
【0090】
また、架橋フェノキシホスファゼン化合物中のフェニレン基の含有量は、式(6A)で表される環状ホスファゼン化合物及び/又は式(6B)で表される鎖状フェノキシホスファゼン化合物中の全フェニル基及びフェニレン基数を基準として、通常50〜99.9%、好ましくは70〜90%である。また、該架橋フェノキシホスファゼン化合物は、その分子内にフリーの水酸基を有しない化合物であることが特に好ましい。
【0091】
本発明においては、ホスファゼン化合物(C−2)は、上記式(6A)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物、及び、上記式(6A)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物よる成る群から選択される少なくとも1種であることが、難燃性及び機械的特性の点から好ましい。
このようなホスファゼン化合物(C−2)の市販品としては、例えば、フェノキシホスファゼンである伏見製薬所社製の「ラビトルFP−110T」及び大塚化学社製の「SPS100」等が挙げられる。
【0092】
これらのホスファゼン化合物(C−2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0093】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物におけるリン系難燃剤(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、3〜20質量部であり、好ましくは3〜15質量部であり、より好ましくは3〜10質量部である。リン系難燃剤(C)の含有量が3質量部を下回る場合は、難燃性が不十分となり、20質量部を超えると耐熱性の低下や機械物性の低下を引き起こす。
【0094】
また、リン系難燃剤(C)は、前述の流動性改質剤(B)の含有量に対するリン系難燃剤(C)の含有量の重量割合(以下「(C)/(B)割合」と称す場合がある。)が20質量%以上、特に35質量%以上、とりわけ50質量%以上、中でも60質量%以上となるように含有されていることが好ましい。(C)/(B)割合が20質量%以上であると、リン系難燃剤(C)による難燃性の向上効果をより有効に得ることができる。ただし、(C)/(B)比を過度に大きくすると流動性改質剤(B)及びリン系難燃剤(C)それぞれの好適含有量を満たすことができなくなる場合があるので、(C)/(B)割合は100質量%以下、特に80質量%以下であることが好ましい。
【0095】
<フルオロポリマー(D)>
フルオロポリマー(D)は、通常ポリフルオロエチレン構造を含む重合体あるいは共重合体であり、具体例としては、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられるが、中でもテトラフルオロエチレン重合体が好ましい。
また、このフルオロポリマー(D)としては、フィブリル形成能を有するものが好ましく、具体的には、フィブリル形成能を有するフルオロポリマー樹脂が挙げられる。このように、フィブリル形成能を有することで、燃焼時の滴下防止性が著しく向上する傾向にある。
【0096】
また、フルオロポリマー(D)として、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂も好適に使用することができる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂を用いることで、分散性が向上し、成形品の表面外観が向上し、表面異物を抑制できる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂は、公知の種々の方法により製造でき、例えば(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
【0097】
フルオロポリマーを被覆する有機系重合体を生成するための単量体としては、ポリカーボネート樹脂(A)に配合する際の分散性の観点から、ポリカーボネート樹脂(A)との親和性が高いものが好ましく、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体がより好ましい。
【0098】
フルオロポリマー(D)は、その見掛け密度が0.4g/ml以上であることが好ましい。フルオロポリマー(D)の見掛け密度が0.4g/ml以上とすることで燃焼時の滴下防止性がより向上する。フルオロポリマーの見掛け密度は、より好ましくは0.45g/ml以上であり、また、ハンドリング性の観点から、好ましくは2.0g/ml以下であり、より好ましくは1.5g/ml以下であり、更に好ましくは1.0g/ml以下である。
なお、フルオロポリマーの見掛け密度は、JIS K6820に基づく、見掛け密度測定装置を用いて行う。
【0099】
これらのフルオロポリマー(D)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0100】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物におけるフルオロポリマー(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.05〜2質量部である。フルオロポリマー(D)の含有量が0.05質量部より少ないと難燃性向上効果が不十分になりやすく、2質量部を超えると樹脂組成物を成形した成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じやすい。フルオロポリマー(D)の含有量は、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、また1.5質量部以下が好ましく、特に1.2質量部以下であることが好ましい。
【0101】
<無機フィラー>
本発明で用いる無機フィラーは板状の無機フィラー(E)を含む。
板状の無機フィラー(E)としては、タルク、マイカ、ガラスフレーク、カオリン、鱗片状黒鉛等が挙げられる。剛性、耐衝撃性、外観の観点から、好ましくはタルク、マイカであり、特にタルクを用いることが好ましい。
【0102】
本発明で用いる板状の無機フィラー(E)は平均粒径が150μm以下であることが好ましい。板状の無機フィラー(E)の平均粒径が150μm以下であると、曲げ特性等の機械的強度がより優れたものとなる。耐衝撃性、外観の観点から、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下である。
一方で、板状の無機フィラー(E)を配合することによる剛性や寸法精度等の向上効果を有効に得る上で、板状の無機フィラー(E)の平均粒径は2μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましい。
なお、ここで、板状の無機フィラー(E)の粒子径とは板状の無機フィラー(E)を2枚の平行な板で挟んだ場合、その平行板の間隔が最も広くなる部分の長さであり、板状の無機フィラー(E)の板面の長径に該当する。板状の無機フィラー(E)の平均粒径は、得られた成形品の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察し、任意に選択した50個の測定値の数平均値として求める、或いはマイクロトラックレーザー回折法により測定することもできるが、例えば、製品として供給される板状の無機フィラー(E)であれば、製品規格としての平均粒径を採用することもできる。
【0103】
これらの板状の無機フィラー(E)は、1種のみを用いてもよく、材質や粒径等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0104】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、配合される全無機フィラー中に、板状の無機フィラー(E)を60質量%以上含むことが好ましい。
ポリカーボネート樹脂組成物に配合する無機フィラー中の板状の無機フィラー(E)の割合が60質量%以上であれば、板状の無機フィラー(E)を用いることによる剛性、寸法精度、低反り性、難燃性の向上効果を有効に得ることができる。剛性、寸法精度、低反り性、難燃性の観点から、無機フィラー中の板状の無機フィラー(E)の含有割合は70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、特に無機フィラーの100質量%が板状の無機フィラー(E)であることが好ましい。
【0105】
本発明においては、無機フィラーとして板状の無機フィラー(E)以外の無機フィラー(以下、「他の無機フィラー(F)」と称す場合がある。)を板状の無機フィラー(E)とともに用いてもよい。その場合、他の無機フィラー(F)の含有割合は、全無機フィラー中に好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0106】
他の無機フィラー(F)としては特に制限はないが、ガラス繊維(チョップドストランド)、ミルドガラス繊維(ガラス短繊維)、ガラスビーズ等のガラス系フィラー;炭素繊維、炭素短繊維、カーボンナノチューブなどの炭素系フィラー;チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム等のウィスカー;ワラストナイト、カオリナイト、ゾノトライト、セピオライト、アタバルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイトなどの珪酸塩化合物;シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム等が挙げられ、好ましくはガラス繊維である。これらの他の無機フィラー(F)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0107】
板状の無機フィラー(E)等の無機フィラーは、ポリカーボネート樹脂(A)との接着性を高めるため、シラン処理剤等の各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としては特に限定されず、従来公知のものを使用することができるが、メチル水素シロキサン等のハイドロジェンシロキサン化合物やエポキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、及び、アミノシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤が、ポリカーボネート樹脂(A)の物性を低下させることが少ないため好ましい。その他にもポリオキシエチレンシラン等を用いることができる。
無機フィラーを表面処理剤で処理する方法には特に限定はなく、通常の方法で実施しうる。例えば、板状の無機フィラー(E)に表面処理剤を添加し、溶液中であるいは加熱しながら撹拌あるいは混合することで行なうことができる。
【0108】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における無機フィラーの含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、10〜100質量部である。無機フィラーの含有量が10質量部を下回ると剛性、寸法安定性等の向上効果が不十分となり、100質量部を超えると脆化(衝撃強度の低下)、外観の悪化などの問題が生じる場合がある。これらの観点から、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対する無機フィラーの含有量は15〜90質量部、特に25〜70質量部であることが好ましい。
【0109】
<構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、金型離型性を高めるために、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)を含有する。構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)は、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を有することで、一般的な酸化防止剤の効果に加えて、離型抵抗値を低減し、金型離型性を高めることができる。
酸化防止剤(G)が有する炭素数10以上の非環式アルコキシ基のアルコキシ基としては、金型離型性の観点から炭素数13,18又は24の鎖状アルコキシ基が好ましく、特にステアロイル基が好ましい。
【0110】
構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)としては、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、酸化防止剤としての効果、金型離型性の観点から好ましく、特にリン系酸化防止剤が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。リン系酸化防止剤の1種又は2種以上とヒンダードフェノール系酸化防止剤の1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0111】
なお、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であっても、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を有さないもの、例えば、非環式アルコキシ基を有していても、その炭素数が9以下のものの場合は、後掲の比較例に示されるように、金型離型性の向上効果を得ることはできない。金型離型性の効果は、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)に特有のものである。
【0112】
リン系酸化防止剤としては、亜リン酸エステル、リン酸エステル(ただし、難燃剤成分を除く)及びリン酸エステル金属塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0113】
以下、これらのリン系酸化防止剤について説明する。
【0114】
(亜リン酸エステル)
亜リン酸エステルとしては、下記式(1)で表されるものが好ましい。
【0116】
(式(1)中、R
1は炭素数10以上のアルキル基であり、2つのR
1は同一であっても異なっていてもよい。)
【0117】
前記式(1)中、R
1のアルキル基としては、炭素数10〜30のアルキル基が好ましく、特に炭素数13,18又は24の鎖状アルコキシ基が好ましく、とりわけステアリル基が好ましい。
【0118】
亜リン酸エステルの具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ−C12−C15−アルキル(プロパン−2,2−ジイルビス(4,1−フェンイレン))ビス(フォスファイト)等が挙げられる。
【0119】
上記の中で、好ましい亜リン酸エステルは、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトである。
【0120】
(リン酸エステル)
リン酸エステル(ただし、難燃剤成分を除く)としては、下記式(2)で表されるものが好ましい。
【0122】
(式(2)中、R
2は炭素数10以上のアルキル基であり、(3−n)個のR
2は同一であっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を表す。)
【0123】
前記式(2)中、R
2は、好ましくは炭素数10〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数10〜25のアルキル基、特に好ましくは炭素数13,18又は24の鎖状アルコキシ基であり、アルキル基としては、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基などが挙げられる。
nは1又は2であることが好ましい。
【0124】
(リン酸エステル金属塩)
リン酸エステル金属塩としては、下記式(3)又は下記式(4)で表されるものが好ましい。
【0126】
(式(3),(4)中、R
3は炭素数10以上のアルキル基であり、Mは金属である。)
【0127】
前記式(3),(4)中、R
3は、好ましくは炭素数10〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数10〜25のアルキル基、特に好ましくは炭素数13,18又は24の鎖状アルコキシ基であり、アルキル基としては、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基などが挙げられる。
【0128】
Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛やアルミニウムなどの金属が挙げられる。
【0129】
前述の通り、特に、亜リン酸エステルとしてはジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。また、リン酸エステルとしては、R
2のアルキル基の炭素数が13、18又は24であるものがより好ましく、特に、下記式(2A)で表され、式(2A)におけるn=1のジステアリルアシッドホスフェートとn=2のモノステアリルアシッドホスフェートとの混合物であるものが好ましい。また、リン酸エステル金属塩としては、R
3のアルキル基の炭素数が13、18又は24であり、Mが亜鉛であるものが好ましく、特に、下記式(3A),(4A)で表され、下記式(3A)で表されるジステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩と下記式(4A)で表されるモノステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩の混合物が好ましい。
O=P(OH)
n(OC
18H
37)
3−n …(2A)
【0131】
構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
【0132】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中の構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.1〜1質量部であり、好ましくは0.1〜0.7質量部、更に好ましくは0.2〜0.5質量部である。構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)の含有量が上記下限以上であれば、この酸化防止剤(G)を含有することによる金型離型性の向上効果を十分に得ることができる。構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)の含有量が多過ぎてもそれに見合う効果が得られない場合があり、耐加水分解性の低下やモールドデポット等の問題を引き起こす場合もあるので、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)の含有量は上記上限以下とすることが好ましい。
【0133】
<他の熱可塑性樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。この場合、その種類及び配合量は、成形性、耐薬品性等の性能を向上させるなどの目的で、適宜選択できる。ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、共重合ポリエステル等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレンや耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)等のスチレン系樹脂、ポリアクリレートやポリメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が挙げられる。これらのポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上の任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0134】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中にポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を含む場合、その配合量は、好ましくはポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂の合計量の50質量%未満であり、より好ましくは30質量%以下であり、最も好ましくは20質量%以下である。
【0135】
<添加剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、所望の物性を得るため、必要に応じて各種の添加剤、例えば耐衝撃性改質剤、紫外線吸収剤、前述の構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)以外の酸化防止剤や熱安定剤等の安定剤、顔料、染料、滑剤、リン系難燃剤(C)以外の難燃剤、摺動性改良剤などを配合することができる。また、本発明によれば、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)の配合で、金型離型性を改善することができるが、更に別途離型剤を配合することで、金型離型性をより一層良好なものとすることができることから、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は更に離型剤を含んでいてもよい。
【0136】
(耐衝撃性改質剤)
耐衝撃性改質剤としては、コア/シェル型グラフト共重合体が挙げられ、ゴム成分をコア層とし、その周囲に、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、芳香族ビニル化合物、及び不飽和ニトリル化合物等から選ばれる少なくとも1種の単量体成分を共重合して形成されたシェル層からなるコア/シェル型グラフト共重合体が好ましい。
【0137】
ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート−2−エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、シリコーン−アクリレート複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴムやエチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴムなどのエチレン−α−オレフィン系ゴム、エチレン−アクリルゴム、フッ素ゴムなどを挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
【0138】
本発明において、コア/シェル型グラフト共重合体として好ましいのは、シリコーン−アクリレート複合ゴムをコアとするグラフト共重合体であり、特にシリコーン−アクリレート複合ゴムのコアの周囲に、アクリル系重合体または共重合体成分をシェル層とするコア/シェル型グラフト共重合体である。
【0139】
コア層を構成するシリコーン−アクリレート複合ゴムとしては、ポリオルガノシロキサン、例えば、ジメチルシロキサン単位を構成単位として含有する重合体と、(メタ)アクリル酸エステル化合物あるいはアクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物等のアクリル系成分から構成されるものが好ましい。
【0140】
アクリル系成分のシェルとしては、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物などを重合することにより得られる。
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;フェニルメタクリレート、ナフチルメタクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有(メタ)アクリレート;等が挙げられるが、なかでもメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メチルメタクリレートがより好ましい。
なお、上記(メタ)アクリル酸エステル化合物は1種または2種以上を使用することができる。
【0141】
また、上記(メタ)アクリル酸エステル化合物の他に、その他のビニル系単量体を含有してよい。その他のビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等);等が挙げられる。
【0142】
さらに、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン等の芳香族多官能ビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の多価アルコールの不飽和カルボン酸エステル類;アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル等の不飽和カルボン酸アリルエステル;ジアリルフタレート、ジアリルセバケート、トリアリルトリアジン等のジ及びトリアリル化合物等の架橋性単量体を併用することもできる。
【0143】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に耐衝撃性改質剤を含有させる場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、1〜10質量部、好ましくは3〜8質量部である。耐衝撃性改質剤の含有量が1質量部を下回ると、耐衝撃性の改良効果を十分に得ることができず、10質量部を上回ると、耐熱性や難燃性が低下する。
【0144】
(酸化防止剤)
構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)以外の酸化防止剤としては、前述の構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つリン系酸化防止剤以外のリン系酸化防止剤及び前述の構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤以外のヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
【0145】
構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つリン系酸化防止剤以外のリン系酸化防止剤としては、前記式(1)におけるR
1が炭素数9以下のアルキル基であるか或いはアリール基である亜リン酸エステル、前記式(2)におけるR
2が炭素数9以下のアルキル基であるか或いはアリール基であるリン酸エステル、前記式(3),(4)におけるR
3が炭素数9以下のアルキル基であるか或いはアリール基であるリン酸エステル金属塩が挙げられる。
【0146】
このうち、亜リン酸エステルの具体例としては、ジノニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビスノニルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−イソプロピルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0147】
また、リン酸エステルとしては、前記式(2)におけるR
2が炭素数1〜9のアルキル基、フェニル基、ノニルフェニル基、ステアリルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチル−メチルフェニル基、トリル基であるもの、好ましくは炭素数2〜9のアルキル基であるものが挙げられる。アルキル基としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基などが挙げられる。
【0148】
また、リン酸エステル金属塩としては、前記式(3),(4)におけるR
3が炭素数1〜9のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基であり、より好ましくは炭素数2〜9のアルキル基、フェニル基、ノニルフェニル基、ステアリルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチル−メチルフェニル基、トリル基であり、特に好ましくは炭素数2〜9のアルキル基であるものが挙げられる。アルキル基としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基などが挙げられる。
Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛やアルミニウムなどの金属が挙げられる。
【0149】
また、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つヒンダードフェノール系酸化防止剤以外のヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0150】
構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)以外の酸化防止剤は2種以上を併用してもよい。
【0151】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)以外の酸化防止剤を含有させる場合、その配合量は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、通常0.001〜1質量部、好ましくは0.01〜0.5質量部である。酸化防止剤(G)以外の酸化防止剤の配合量が0.001質量部未満の場合は抗酸化剤としての効果が不十分であり、1質量部を超える場合は効果が頭打ちとなり、またモールドデポット等の問題を引き起こす場合もある。
【0152】
(離型剤)
離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0153】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族1価、2価又は3価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中では、好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の1価又は2価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が更に好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0154】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0155】
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0156】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0157】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで、脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが更に好ましい。脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは200〜5000である。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であればよい。
【0158】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0159】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に離型剤を含有させる場合、その配合量は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、通常0.001〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部である。離型剤の配合量が0.001質量部未満の場合は離型性の効果が十分でない場合があり、2質量部を超える場合は、耐加水分解性の低下やモールドデポット等の問題を引き起こす場合がある。
【0160】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤の具体例としては、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物などの有機紫外線吸収剤が挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステルの群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0161】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物が挙げられる。また、その他のベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、2−ビス(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール][メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0162】
上記の中では、好ましくは、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−メチレン−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール]である。
【0163】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に紫外線吸収剤を含有させる場合、その配合量は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、通常0.01〜3質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。紫外線吸収剤の配合量が0.01質量部未満の場合は耐候性の改良効果が不十分の場合があり、3質量部を超える場合はモールドデボジット等の問題が生じる場合がある。
【0164】
(染顔料)
染顔料としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;亜鉛華、弁柄、酸化クロム、酸化チタン、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料が挙げられる。有機顔料及び有機染料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。これらの中では、熱安定性の点から、カーボンブラック、酸化チタン、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
【0165】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に染顔料を含有させる場合、その配合量は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、通常20質量部以下、好ましくは15質量部以下、更に好ましくは12質量部以下である。染顔料の配合量が20質量部を超える場合は耐衝撃性が損なわれる場合がある。
【0166】
<ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、従来から知られている方法で各成分を混合し、溶融混練することにより製造することができる。具体的な混合方法としては、熱可塑性樹脂(A)、流動性改質剤(B)、リン系難燃剤(C)、フルオロポリマー(D)、板状の無機フィラー(E)を含む無機フィラー、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)、及び必要に応じて配合されるその他の添加成分を所定量秤量し、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用いて混合した後、バンバリーミキサー、ロール、プラペンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどを用いて溶融混練する方法が挙げられる。
【0167】
<ポリカーボネート樹脂組成物の好適物性>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、好ましくは後述の実施例の項に記載されるUL94試験に準拠したV試験における厚み1.5mmでの難燃性がV−0又はV−1を満たす優れた難燃性を有する。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、また、好ましくは後述の実施例の項に記載されるUL94試験に準拠した5Vのバーサンプル燃料試験における厚み2.0mmでの難燃性が5VBを満たす優れた難燃性を有する。
【0168】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、後述の実施例の項に記載されるISO178に準拠した曲げ強度が110MPa以上で、曲げ弾性率が5000MPa以上というような高剛性を有する。
【0169】
更に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は後述の実施例の項に記載される金型離型性の評価において、離型抵抗値18MPa以下、特に16MPa以下というような優れた金型離型性を有する。
【0170】
[成形品]
本発明の成形品は、上述のような本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるものである。
【0171】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品を製造する場合の成形方法としては、熱可塑性樹脂材料から成形品を成形する従来から知られている方法が、制限なく適用できる。具体的には、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシストなどの中空成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、インモールドコーティング(IMC)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。
【0172】
[用途]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品は、剛性、難燃性、流動性、寸法精度、金型離型性に優れるものであり、各種用途に好適に用いることができる。特に本発明の成形品は、特にOA機器のシャーシやフレーム材、光学ハウジング等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0173】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0174】
[使用原料]
以下の実施例及び比較例で用いた使用原料は、下記表1,表2に示す通りである。
【0175】
【表1】
【0176】
【表2】
【0177】
[評価方法]
以下の実施例及び比較例における各種特性及び物性の評価方法は以下の通りである。
【0178】
<流動性>
実施例及び比較例で得られたペレットを、100℃で6時間乾燥させた後、日精樹脂工業社製NEX80III(型締力80トン)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度60℃、射出圧力100MPa、射出時間5秒、成形サイクル40秒の条件で、幅20mm、厚さ2mmのバーフロー成形品を射出成形し、その流動長(単位:mm)を評価した。
この値は200〜350mm程度が好ましい。
【0179】
<成形収縮率異方性>
実施例及び比較例で得られたペレットを、100℃で6時間乾燥させた後、日精樹脂工業社製NEX80III(型締力80トン)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、保圧90MPa、保圧時間8秒、成形サイクル45秒の条件で、長さ80mm、幅40mm、厚さ3.2mmの試験片を射出成形した。得られた試験片の樹脂の流れ方向(MD)及び流れと直交方向(TD)の寸法を測定し、金型の寸法から収縮率を算出し、MDの値をTDの値で割った値から成形収縮率の異方性を評価した。
この方法で算出した値が1に近いほど、収縮率の異方性が小さく、寸法精度や低反り性に優れている。
【0180】
<曲げ特性>
実施例及び比較例で得られた厚み4mmのISO多目的試験片を用い、ISO178に準拠して曲げ弾性率と曲げ強度を測定して評価した。曲げ弾性率は5000MPa以上が好ましく、曲げ強度は110MPa以上が好ましい。
【0181】
<難燃性評価1>
実施例及び比較例で得られた厚み1.5mmのUL試験用試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料燃焼試験)に準拠し、V試験を行った。V試験とは、鉛直に保持した試験片に、所定の大きさの炎を真下から10秒間接炎し、消炎後に更に10秒間接炎し、残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法である。計5本の試験片で試験を行い、V−0、V−1及びV−2を有するためには以下の表3に示す基準を満たすことが必要となる。
【0182】
【表3】
【0183】
ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間と発光(火種がある状態)を続ける時間の合計である。また、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。
【0184】
<難燃性評価2>
実施例及び比較例で得られた厚み2.0mmのUL試験用試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料燃焼試験)に準拠し、5Vのバーサンプル燃焼試験を行った。5Vのバーサンプル燃焼試験とは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片に、所定の炎の大きさ、バーナーの角度で、試験片の所定の位置に5秒間接炎、離して5秒間保持を4回繰り返し、更に5秒間接炎(5回目)した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法である。計5本の試験片で試験を行い、5VBを有するためには、5本の試験片全てで以下の表4に示す基準を満たすことが必要となる。
【0185】
【表4】
【0186】
ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間と発光(火種がある状態)を続ける時間の合計である。また、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。
【0187】
<金型離型性>
実施例及び比較例で得られたペレットを、100℃で6時間乾燥させた後、住友重機械工業社製SE100D(型締力100トン)を用いて、シリンダー温度285℃、金型温度40℃、保圧70MPa、保圧時間5秒、サイクル時間33秒の条件で、
図1に示す、中央に仕切壁1Aを有する箱型の成形品1を成形し、突き出しピンにかかる圧力をロードセルにより測定した。20ショットを連続で成形し、11ショット目から20ショット目の圧力の平均値を離型抵抗値とした。
この方法で算出した離型抵抗値が小さいほど、金型離型性に優れており、離型抵抗値は18MPa以下が好ましく、16MPa以下が特に好ましい。
【0188】
[実施例1〜22、比較例1〜4]
<樹脂ペレットの製造>
表5〜7に示す原料を用い、リン系難燃剤(C)のC1と無機フィラー(F)以外を表5〜7に示す割合で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機TEX30αに上流のフィーダーより供給し、必要に応じてリン系難燃剤(C)のC1を液注ポンプによりバレルの途中より供給し、更に必要に応じて無機フィラー(F)をサイドフィーダーによりバレルの途中より供給しながら、回転数200rpm、吐出量30kg/h、バレル温度270℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて冷却し、ペレタイザーを用いてペレット化してポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0189】
<試験片の作製>
得られたペレットを、100℃で6時間乾燥させた後、東洋機械金属社製射出成形機Si−80−6(型締力80トン)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度60℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形し、厚み4mmのISO多目的試験片を成形した。
同様に、得られたペレットを、100℃で6時間乾燥させた後、住友重機械工業社製SE100D(型締力100トン)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度60℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚み1.5mm及び2.0mmのUL試験用試験片をそれぞれ成形した。
【0190】
得られたペレット及び試験片を用いて、前述の評価を行い、結果を表5〜7に示した。
【0191】
【表5】
【0192】
【表6】
【0193】
【表7】
【0194】
表5〜7より、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、剛性、難燃性、流動性、寸法精度、金型離型性のすべてに優れることが分かる。
これに対して、本発明の要件を満たさない比較例1〜4は、剛性、難燃性、流動性、寸法精度、金型離型性のいずれかが劣る。
即ち、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)も、その他の酸化防止剤(g)も含まない比較例1は、離型抵抗値が大きく、金型離型性に劣る。構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を持つ酸化防止剤(G)ではなく、構造中に炭素数10以上の非環式アルコキシ基を有さないその他の酸化防止剤(g)を含む比較例2〜4では、比較例1よりも金型離型性はわずかに改善されるが、十分ではなく、離型抵抗値は18.4〜20.9MPaとやはり大きな値を示す。
よって、酸化防止剤による金型離型性の改善効果は、炭素数10以上の非環式アルコキシ基によるものと考えられる。