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特開2021-188005樹脂組成物および該樹脂組成物からなるエラストマー材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-188005(P2021-188005A)
(43)【公開日】2021年12月13日
(54)【発明の名称】樹脂組成物および該樹脂組成物からなるエラストマー材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20211115BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20211115BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20211115BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20211115BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20211115BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20211115BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20211115BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20211115BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20211115BHJP
   A61L 29/02 20060101ALI20211115BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20211115BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20211115BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20211115BHJP
【FI】
   C08L33/06
   C08K3/013
   C08K3/36
   C08F2/44 A
   A61P9/00
   A61L27/16
   A61L27/02
   A61L27/50
   A61L27/50 300
   A61L27/44
   A61L29/02
   A61L29/04 100
   A61L29/12 100
   A61L29/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-96690(P2020-96690)
(22)【出願日】2020年6月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】浅井 文雄
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 敬和
(72)【発明者】
【氏名】鳴瀧 彩絵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】関 隆広
【テーマコード(参考)】
4C081
4J002
4J011
【Fターム(参考)】
4C081AB13
4C081AC08
4C081BA03
4C081BB07
4C081BB08
4C081CA08
4C081CA081
4C081CB05
4C081CB051
4C081CC05
4C081CF13
4C081CF132
4C081DA03
4C081DC13
4J002BG041
4J002BG051
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GB01
4J011PA13
4J011PB06
4J011PB22
4J011PC02
4J011PC08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】柔軟性、伸張性および靭性に優れた機械的特性を有し、かつ抗血栓性に優れたエラストマー材料として好適に使用することができる新規な樹脂組成物の提供。
【解決手段】ポリアクリレート樹脂とシリカ粒子を含有する樹脂組成物であって、前記ポリアクリレート樹脂が、少なくとも、下記一般式(1):

で示されるアクリレートモノマー(A)をモノマーユニットとして含有し、前記シリカ粒子の含有量が該樹脂組成物全体の9〜50体積%の範囲である上記樹脂組成物、該樹脂組成物よりなるエラストマー材料および医療用具。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリレート樹脂とシリカ粒子を含有する樹脂組成物であって、
前記ポリアクリレート樹脂が、少なくとも、
下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、Rは、水素原子、メチル基またはエチル基を表す;Rは水素原子またはメチル基を表す;nは1〜9の整数を表す。]で示されるアクリレートモノマー(A)
をモノマーユニットとして含有し、前記シリカ粒子の含有量が該樹脂組成物全体の9〜50体積%の範囲であることを特徴とする上記樹脂組成物。
【請求項2】
がメチル基である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
1が水素原子である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
架橋剤をさらに含む、請求項1〜3いずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
シリカ粒子を樹脂組成物全体の9〜50体積%含有する、請求項1〜4いずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の樹脂組成物からなるエラストマー材料。
【請求項7】
0.05〜0.25%伸長時の引張弾性率として、少なくとも350kPa有する、請求項6に記載のエラストマー材料。
【請求項8】
引張破断ひずみとして、少なくとも250%を示す、請求項6または請求項7に記載のエラストマー材料。
【請求項9】
引張破断応力として、少なくとも600kPaを示す、請求項6〜8いずれかに記載のエラストマー材料。
【請求項10】
破断時の引張エネルギーとして、少なくとも800kJ/m示す、請求項6〜9いずれかに記載のエラストマー材料。
【請求項11】
血小板粘着性指数が、0.5以下である請求項6〜10いずれかに記載のエラストマー材料。
【請求項12】
血小板粘着性指数が、0.3以下である請求項6〜11いずれかに記載のエラストマー材料。
【請求項13】
請求項6〜12いずれかに記載のエラストマー材料を含む医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性、伸張性および靭性に優れた機械的特性を有し、抗血栓性に優れたエラストマー材料として好適に使用することができる樹脂組成物および該樹脂組成物からなるエラストマー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
人工的に合成されたポリマー材料を生体親和性が必要とされる医療機器に利用に際しては、ポリマー材料表面と血液等の生体成分が接触した場合に生体組織がポリマー材料を異物と認識することに伴う、血小板をはじめとする生体組織成分のポリマー材料表面への付着、活性化と凝固を防止することが望まれる。
【0003】
例えば、カテーテル、人工血管、血液バッグ等をはじめとする血液と接触して使用される医療用具においては、血液の凝固を防ぐ抗血栓性が必要不可欠であり、このような抗血栓性を示すポリマー材料として、非特許文献1にポリ(2−メトキシエチルアクリレート)(PMEA)が示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1では、そのような抗血栓性を有する特定の分子構造のポリマー材料が、抗血栓性被膜を形成するコーティング剤として利用できることが示されているにすぎない。
【0005】
すなわち、PMEAをはじめとする抗血栓性を有するポリマー材料は力学強度に劣り、単一のポリマー材料から成るエラストマーあるいは成形体を得ることは困難であるため、利用方法はコーティング剤としての利用に限られ、基材となる材料の種類によって基材とコーティング膜の密着性が問題となるとともに、コーティング膜の剥離によって抗血栓性が失われることは避けられず、また、利用できる基材(成形体)の形状に制限があった。
【0006】
一方、非特許文献2には、特定の分子構造を有するアクリルポリマーとシリカ微粒子を含む複合エラストマー材料が透明性と優れた強靭性を有することが示されており、透明性と柔軟性が必要とされる医療用具への利用が期待できるが、抗血栓性をはじめとする生体適合性の有無は示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Tanaka,et al, Biomaterials 2000, 21, 1471−1481.
【非特許文献2】Y.Takeoka,et al., ACS Mater. Lett.2020, 2, 325-330.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、特に、柔軟性、伸張性および靭性に優れた機械的特性を有し、抗血栓性に優れたエラストマー材料として好適に使用することができる樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的が、ポリアクリレート樹脂とシリカ粒子を含有する樹脂組成物であって、
前記ポリアクリレート樹脂が、少なくとも、
下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、Rは、水素原子、メチル基またはエチル基を表す;Rは水素原子またはメチル基を表す;nは1〜9の整数を表す。]で示されるアクリレートモノマー(A)
をモノマーユニットとして含有し、前記シリカ粒子の含有量が該樹脂組成物全体の9〜50体積%の範囲であることを特徴とする上記樹脂組成物により達成できることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、新規な樹脂組成物を提供した。
本発明の樹脂組成物は、エラストマー材料として特に適している。
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、柔軟性、伸張性および靭性等の機械的特性に優れ、かつ抗血栓性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
図2】実施例2で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
図3】実施例3で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
図4】実施例4で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
図5】比較例1で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
図6】比較例2で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、少なくとも、ポリアクリレート樹脂とシリカ粒子を含有するものである。
【0013】
まず、前記樹脂組成物に含まれるポリアクリレート樹脂について説明する。
前記ポリアクリレート樹脂は、下記一般式(1)で示されるアクリレートモノマー(A)を、モノマーユニットとして含有することが必要である。
【化2】
【0014】
式(1)中、Rは、水素原子、メチル基またはエチル基、好ましくは水素原子またはメチル基、より好ましくはメチル基を表す。Rは水素原子またはメチル基、好ましくは水素原子を表す。nは1〜9、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3、さらにより好ましくは1〜2の整数を表す。
【0015】
上記一般式(1)で表されるアクリレートモノマー(A)は、熱重合または光重合によりアクリレート樹脂とすることができる。
【0016】
上記一般式(1)において、Rが水素原子であるアクリレートモノマーの場合、光重合の進行がより速いため、短時間でポリアクリレート樹脂とすることができる。このように光重合を使用することができると、種々の形状のエラストマーを容易に得ることができ、また、光造形式3Dプリンターによる成形や光硬化型コーティングが容易になる等の観点から有益である。
【0017】
一般式(1)で示されるアクリレートモノマーの具体例として、例えば、2−メトキシエチルアクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(数平均分子量300)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(数平均分子量1100)が挙げられる。シリカ粒子の分散性および得られる樹脂組成物の物理的特性から、好ましくは、2−メトキシエチルアクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、より好ましくは、2−メトキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、さらにより好ましくは2−メトキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートである。一般式(1)で示されるアクリレートモノマーは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0018】
一般式(1)で示されるアクリレートモノマーの内、光重合可能な具体例として、例えば、2−メトキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレートが挙げられる。シリカ粒子の分散性および得られる樹脂組成物の物理的特性から、好ましくは、2−メトキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、より好ましくは、2−メトキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、さらにより好ましくは2−メトキシエチルアクリレートである。係るアクリレートモノマーは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0019】
本発明の樹脂組成物に含まれる前記ポリアクリレート樹脂は、架橋剤として二官能以上のアクリレートモノマーをモノマーユニットとして用いてもよい。例えば、二官能アクリレートモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(ポリエチレングリコール鎖の分子量100〜10000)など、三官能アクリレートモノマーとして、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなど、四官能以上のアクリレートモノマーとして、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリペンタエリスリトールオクタアクリレート、テトラペンタエリスリトールデカアクリレート、ペンタペンタエリスリトールドデカアクリレートなどが挙げられる。シリカ粒子の分散性および得られる樹脂組成物の物理的特性から、好ましくは、二官能アクリレートモノマー、好ましくは、エチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、より好ましくは、ジエチレングリコールジアクリレートである。二官能以上のアクリレート類は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0020】
上記一般式(1)において、Rが水素原子であるアクリレートモノマーを使用する場合、得られるアクリレート樹脂が、ガラス転移点が零度を大きく下回る高粘着性となり、取り扱いが難しくなるとの理由から、前記二官能以上のアクリレートモノマーを架橋剤として使用することが好ましい。
【0021】
前記二官能以上のアクリレートモノマーは、全モノマーユニット100モル%に対して、5モル%未満、好ましくは2モル%未満、より好ましくは1モル%未満、さらにより好ましくは0.6モル%未満の範囲になる量が樹脂組成物に含有されてもよい。前記二官能以上のアクリレート類が5モル%以上の場合、エラストマー材料の引張破断伸度が著しく低下する。
【0022】
本発明の樹脂組成物に含まれる前記ポリアクリレート樹脂は、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤をモノマーユニットとして含有してもよい。
【化3】
【0023】
式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基、好ましくはメチル基を表す。Rは、メトキシ基またはエトキシ基、好ましくはメトキシ基を表す。Rは、メチル基、メトキシ基またはエトキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基を表す。
【0024】
一般式(2)で示されるシランカップリング剤の具体例として、例えば、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。機械的特性の向上の高さから、好ましくは3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランまたは3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、より好ましくは3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。一般式(2)で示されるシランカップリング剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0025】
本発明の樹脂組成物を光重合で調製する場合、前記一般式(2)で示されるシランカップリング剤は、Rが水素原子を使用するようにすればよい。
【0026】
前記シランカップリング剤は、使用する場合、シランカップリング剤のシリカ粒子に対する表面被覆比が0.005〜0.080、好ましくは0.006〜0.076、より好ましくは0.007〜0.080、さらにより好ましくは0.010〜0.075の範囲になる量が樹脂組成物に含有されるようにすればよい。
【0027】
ここで、表面被覆比は下記式で得られる値である。
[表面被覆比]=[樹脂組成物に含まれるシランカップリング剤の量(g)]×[シランカップリング剤の最小被覆面積(m/g)]÷[樹脂組成物に含まれるシリカ粒子の表面積(m)の和]
【0028】
「シランカップリング剤の最小被覆面積(m/g)」とは、シランカップリング剤1gがシリカ等の材料表面上にて反応、吸着等したときに、ランカップリング剤がその表面を被覆する面積を意味しており、通常、各シランカップリング剤の最小被覆面積は以下のようにして計算することができる。すなわち、トリアルコキシシランが加水分解して得られるSi(O) を半径2.10Åの球形からなるSi原子1個と半径1.52Åの球形からなるO原子3個、Si−Oの結合距離1.51Å、四面体角109.5°と仮定し、更にはシリカ表面のシラノール基とモデル中の3個のO原子が全て反応するとして、3個のO原子が被覆することができる最小の円形面積を計算する。その結果、1分子当たりの被覆面積は1.3×10−19/分子、これにアボガドロ定数6.0×1023分子/モルを掛けてモル当たりに換算すると7.8×10/モルとなる。各カップリング剤の最小被覆面積は、1モル当たりの被覆面積値を各シランカップリング剤の分子量で割ることにより得られる値をいう。
【0029】
市販されているシランカップリング剤については、その特性値が表示記載されており、本発明においては、販売元が表示記載している値を使用するようにすればよい。
【0030】
また、「シリカ粒子の表面積(m)の和」は、「平均粒子径から求めたシリカ粒子の表面積(m)」×「シリカ粒子の添加量(g)÷「シリカ粒子の密度(g/cm)」÷「平均粒子径から求めたシリカ粒子の体積(m)」を計算することにより得られる値である。
【0031】
本発明の樹脂組成物中のポリアクリレート樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、一般式(1)で示されるアクリレートモノマー(A)の他に異なるアクリレートモノマーを組み合わせてもよく、一般式(2)で示されるシランカップリング剤(B)の他に異なるシランカップリング剤を組み合わせてもよい。
【0032】
次に、本発明で使用するシリカ粒子について説明する。
本発明においてシリカ粒子は、本発明の樹脂組成物をエラストマー材料として使用できるようにするため、また樹脂組成物の強靭性向上のために重要な構成要素である。シリカ粒子を含有させないと、大きな変形に耐えられない脆弱な材料となる。
本発明で使用するシリカ粒子の形状は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、分散媒への分散性の観点から「球状」であることが好ましい。また、球状シリカを使用することにより、透明なエラストマーを得ることが可能となる。
本発明において、「球状」とは、棒状、板状のものを除き、真球、略球状、回転楕円体である場合をいい、表面に凹凸があるものでもよい。「球状シリカ粒子」とは、そのような「球状」の形状をしたシリカ粒子である。
【0033】
このような球状シリカ粒子としては、公知のもの、例えば、粉末状の球状シリカ粒子、コロイダルシリカ(シリカゾル)等を使用することができ、異なる平均粒子径を有する種々の公知のものが知られており、市販もされている。
【0034】
本発明で使用するシリカ粒子は、平均粒子径が10μm未満であり、好ましくは5μm未満、より好ましくは1μm未満、さらにより好ましくは500nm未満、最も好ましくは200nm未満である。本発明において平均粒子径とは、遠心沈降式粒子径分布測定装置により測定したモード径で表している。
【0035】
前記シリカ粒子の含有量は、樹脂組成物全体の9〜50体積%、好ましくは12〜48体積%、より好ましくは15〜45体積%、さらにより好ましくは、18〜45体積%、最も好ましくは10〜40体積%である。シリカ粒子の含有量が少ない程、シリカ粒子充填によるポリマー材料の補強効果が小さく、引張弾性率および引張破断応力に劣るエラストマー材料となる。粒状シリカ粒子の含有量が多すぎる場合、シリカ粒子のアクリレートモノマーへの均一分散が困難になる。
【0036】
本発明におけるシリカ粒子の含有量を示す樹脂組成物中の体積%(V(%))は、
樹脂組成物の密度(d(g/m))と、500℃、1時間加熱後の重量(m(g))残差から求めた重量保持率(%)から、下記式に従い得られる。
V(%)=[樹脂組成物の密度(g/cm)]×[500℃、1時間加熱後の重量保持率(%)]÷[球状シリカ粒子の密度(2.2g/cm)]
【0037】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも一般式(1)で表されるアクリレートモノマー(A)、シリカ粒子を含む分散液を重合することにより得られる。
【0038】
重合方法としては、熱重合開始剤による熱重合、光重合開始剤による紫外線等の活性エネルギー線照射を伴う光重合などを用いることができ、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その他の重合方法を用いても良い。
【0039】
<熱重合開始剤>
熱重合開始剤としては、加熱によってラジカルを発生し、樹脂組成物中の重合性官能基の重合を開始させるために用いられものであれば特にその構造が限定されるものではない。例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられ、反応性から2,2‘−アゾイソブチロニトリル(AIBN)が好ましい。熱重合開始剤の添加量は、アクリルモノマー成分100重量部に対して、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、7質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。これらの熱重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
<光重合開始剤>
光重合開始剤は、紫外線照射によりラジカルが発生し、樹脂組成物中の重合性官能基の重合を開始させるために用いられものであれば特にその構造が限定されるものではない。光重合開始剤としては、波長360nmから470nmの光吸収をもつ開始剤を使用することが好ましく、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系、αアミノアセトフェノン系、ベンゾフェノン系、カンファーキノン系およびチオキサントン系の開始剤が挙げられる。これらの開始剤を使用することにより、樹脂組成物内部まで重合が効率良く進行するため力学的強度が向上し、開始剤やモノマー等の残留成分量が低減される。光重合開始剤として、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、エチル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルホリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、2−[4−(メチルチオベンゾイル)]−2−(4−モルホリニル)プロパン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、[4−[4−メチルフェニル]チオ]フェニル]フェニルメタノン、4−(ジメチルアミノ)安息香酸エチル、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、4,4’−ビス−(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、1−[4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]−2−メチル−2−[(4−メチルフェニル)スルフォニル]プロパン−1−オン、(メチルイミノ)ジエタン−2,1−ジイル(4−ジメチルアミベンゾエ−ト)、フェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム、ビス(4−メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム等が挙げられ、反応性から2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、エチル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド、フェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム、ビス(4−メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムが好ましく、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドがより好ましい。光重合開始剤の添加量は、アクリルモノマー成分100重量部に対して、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、7質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。これらの光重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
また、重合反応において、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプトカルボン酸類;メルカプト酢酸メチル、3−メルカプトプロピオン酸メチル、3−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、3−メルカプトプロピオン酸n−オクチル、3−メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、3−メルカプトプロピオン酸ステアリル、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)等のメルカプトカルボン酸エステル類;エチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、1,2−ジメルカプトエタン等のアルキルメルカプタン類;2−メルカプトエタノール、4−メルカプト−1−ブタノール等のメルカプトアルコール類;ベンゼンチオール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール、2−ナフタレンチオール等の芳香族メルカプタン類;トリス〔(3−メルカプトプロピオニロキシ)−エチル〕イソシアヌレート等のメルカプトイソシアヌレート類;2−ヒドロキシエチルジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のジスルフィド類;ベンジルジエチルジチオカルバメート等のジチオカルバメート類;α−メチルスチレンダイマー等の単量体ダイマー類;四臭化炭素等のハロゲン化アルキル類等が挙げられる。連鎖移動剤の添加量は、アクリルモノマー成分100重量部に対して、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、7質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0042】
シリカ粒子として、粉末状のシリカ粒子を用いる場合、まず、シリカ粒子をアクリレートモノマー(A)に分散させることが好ましい。シリカ粒子のアクリレートモノマー(A)への分散方法は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、特に限定されないが、分散効果の高さから超音波処理による方法が好ましい。
【0043】
シリカ粒子として、コロイダルシリカ(シリカゾル)を用いる場合、有機溶媒としては、前記アクリルモノマー成分を混合するものを用いることが好ましく、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類が挙げられる。脱溶媒のしやすさから、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、n−プロピルアルコール等のアルコール系、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系の有機溶媒が挙げられ、具体的には、メタノール、イソプロピルアルコールあるいはメチルエチルケトンに分散されたコロイダルシリカ(シリカゾル)が好ましい。
【0044】
本発明の樹脂組成物の好ましい製造方法は、所定量のシリカ粒子を、一般式(1)で表されるアクリレートモノマー(A)に混合分散させた分散液を作製し、該分散液に必要により重合開始剤、その他のアクリルモノマー、所望の添加剤を混合分散させ、得られた分散液を重合することからなる。該所望の添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、架橋剤、有機溶剤等が挙げられ、目的に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で添加使用することができる。
【0045】
本発明の樹脂組成物は、エラストマー材料として好適に使用できる。
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、補強性、機械的特性(引張弾性率、引張破断応力、引張破断ひずみ、破断時の引張エネルギー等)、抗血栓性に優れている。
【0046】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、引張弾性率として、350kPa以上、好ましくは400kPa以上、さらに好ましくは450kPa以上を有する。
【0047】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、引張破断ひずみとして、250%以上、好ましくは350%以上を有する。
【0048】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、引張破断応力として、600kPa以上、好ましくは1000kPa以上、さらに好ましくは1500kPa以上を有する。
【0049】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、破断時の引張エネルギーとして800kJ/m以上、好ましくは1500kJ/m以上、より好ましくは2000kJ/m以上を有する。
【0050】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、上記機械的特性に加え、抗血栓性に優れるため、生体適合性材料として好適に用いることができる。
【0051】
生体適合性が低い材料表面に血液等が接触した場合には物質表面への血小板の付着が生じる一方で、生体適合性が高い材料表面では血小板の付着が抑制されることが知られており、後者が抗血栓性に優れた材料とされる。各種材料表面に、生体組織中のタンパク質の吸着、変性等が生じると、血小板は吸着や変性を生じたタンパク質に吸着して変性して血栓などを生じるため、各種物質表面が示す生体適合性を評価する手段として血小板粘着性を評価する手法が一般的である。
【0052】
本発明においては、血小板粘着性の評価は、ヒト全血から調整した血小板濃度が1.75×10cells/mLの血小板懸濁液を一辺8mmのシート状サンプルに200μLずつ滴下し、37℃、1時間静置したときのサンプル表面に付着した血小板数を比較することで行った。
【0053】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、血小板粘着性の評価における[樹脂組成物からなるエラストマー材料の血小板付着数(cells/cm)]/[PET樹脂の血小板付着数(cells/cm)](以下、「血小板粘着性指数」という。)が、0.5以下であり、好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.3以下である。[PET樹脂の血小板付着数(cells/cm)]が、本血小板粘着性の評価における対照値である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の樹脂組成物は、エラストマー材料として好適に使用でき、ディスプレイ用部材、ガラス中間膜、コーティング剤、粘着剤、接着剤、制振材料、3Dプリンター用材料、自己修復材料等の産業部材用途ならびに抗血栓性が必要とされる医療用具に利用可能である。中でも、抗血栓性が必要とされる医療用具、例えば、カテーテル、人工血管、血液バッグ等への利用に期待がかかる。
【実施例】
【0055】
以下、具体的に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はそれらの実施例に限定的に解釈されるべきでなく、本発明の概念に接した当業者が想到し、実施可能であると観念するであろうあらゆる技術的思想、その具体的態様が本発明に含まれるものとして理解されるべきものである
【0056】
実施例中の各特性値の測定、評価方法は以下のように行った。
(1)樹脂組成物中の球状シリカ粒子の体積%
島津製作所社製、乾式密度計(AccPyc1330)を用いて求めた樹脂組成物の密度(d(g/m))と、島津製作所社製、示差熱・熱重量同時測定装置(DTG−60)を用いて求めた500℃、1時間加熱後の重量(m(g))残差から求めた重量保持率(%)から、球状シリカ粒子の体積%(V(%))を下記式に従い計算した。

V(%)=[樹脂組成物の密度(g/cm)]×[500℃、1時間加熱後の重量保持率(%)]÷[球状シリカ粒子の密度(2.2g/cm)]
【0057】
(2)機械的特性
JISK7161−2に準じて、応力/ひずみ曲線を得、0.05−0.025%伸長時の引張弾性率、引張破断応力、引張破断ひずみ、破壊時の引張エネルギーを測定した。
【0058】
引張試験は、厚さ1mmの樹脂組成物のシートから、打ち抜き型を用いて7号ダンベル試験片(JISK7161−2)を作製した。島津製作所社製、引張試験機(EZ−LX)を用いて、標準環境(温度23±2℃、空気中、湿度(50±10%))下、ひずみ0.3%までは0.1mm/minの引張速度にて行い、ひずみ0.3%以降は50mm/minの引張速度にて行った。
【0059】
(2−1)0.05−0.25%伸長時の引張弾性率
下記の基準で、0.05−0.25%伸長時の引張弾性率を評価した。
〇:350kPa≦引張弾性率
×:引張弾性率<350kPa
【0060】
引張弾性率として350kPaを評価の境目としたのは、樹脂組成物の粘着性が低下して取り扱いが容易になることの理由による。
【0061】
(2−2)引張破断応力
下記の基準で、引張破断応力を評価した。
〇:600kPa≦引張破断応力
×:引張破断応力<600kPa
【0062】
引張破断応力として600kPaを評価の境目としたのは、瞬間的な外力に対する耐久性確保の理由による。
【0063】
(2−3)引張破断ひずみ
下記の基準で、引張破断ひずみを評価した。
〇:250%≦引張破断ひずみ
×:引張破断ひずみ<250%
【0064】
引張破断ひずみとして250%を評価の境目としたのは、エラストマー材料としての伸縮性確保の理由による。
【0065】
(2−4)引張エネルギー
下記基準で、破壊時の引張エネルギーを評価した。
〇:破壊時の引張エネルギー≧800kJ/m
×:800kJ/m>破壊時の引張エネルギー
【0066】
引張エネルギーとして800kJ/mを評価の境目としたのは、大きな変形に耐えるための靭性確保の理由による。
【0067】
(3)血小板粘着性
ヒト全血と3.2%クエン酸ナトリウム緩衝液を9:1で混合した溶液をクボタ社製、高速冷却遠心機(6200)にて遠心分離(200g、5分)し、上澄み液を回収し、多血小板血漿成分PRP(platelet rich plasma)とした。
PRPの一部を分取し、残りのPRPをさらに遠心分離(1500g、10分)し、同様に上澄みを回収し、乏血小板血漿成分PPP(platelet poor plasma)とした。
PRPをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて100倍に希釈してPRPの血小板数を光学顕微鏡でカウントし、血小板濃度が1.75×10cells/mLとなるように、PRPをPPPで希釈して血小板懸濁液を調製した。
【0068】
一辺8mmの正方形に切り出した各実施例、比較例の樹脂組成物のシートをエッペンドルフ社製セルイメージングカバーガラス(8チャンバー)内に設置し、調整した血小板懸濁液を各シートに200μLずつ滴下した後、37℃、1時間静置した。
その後、血小板懸濁液を吸取り、シートをPBS400μLで2回洗浄し、1%グルタルアルデヒドPBS溶液200μLを滴下し、得られたシートを37℃、2時間静置した。
その後、1%グルタルアルデヒドPBS溶液を吸取り、シートをPBS300μLで2回、PBS:超純水=1:1の溶液300μLで1回、超純水300μLで1回洗浄を行った後、37℃で風乾させた。
乾燥させたシートをフィルジェン社製、オスミウムプラズマコーター(OPC60A)にてオスミウムコートを行い、日本電子社製、FE−SEM(JSM−7500FA)によってシート表面に付着した血小板の数を計測した。計測は各シート(N=3)において各5視野で行い、各視野における血小板付着数を単位面積当たりの血小板数に換算して、平均値を求めた。
各シート表面に付着した血小板の数とPETフィルム(対照)(エンブレット(登録商標)S−50(ユニチカ社製))表面に付着した血小板の数を基準として、
[血小板粘着性指数]=[樹脂組成物からなるエラストマー材料の血小板付着数(cells/cm)]/[PETの血小板付着数(cells/cm)]
を求めた。
【0069】
PETフィルム(対照)の[PETの血小板付着数(cells/cm)]値は、
8.4×10(cells/cm)であった。
【0070】
下記基準で血小板粘着性の評価を行った。
〇:血小板粘着性指数≦0.5
×:0.5<血小板粘着性指数
【0071】
血小板粘着性として血小板粘着性指数値0.5を評価の境目としたのは、血栓の形成を低く抑えることができる傾向が強くみられるからである。血小板付着数は少ないほど抗血栓性に優れるため、血小板粘着性指数の下限値は特に制限されない。
【0072】
実施例1
ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(MEO2MA、アルドリッチ社製)2712質量部、平均粒子径110nmの球状シリカ粒子(Silbol 110、富士化学社製)3288質量部を試験管に仕込み、超音波ホモジナイザー(UP200St、ヒールッシャー社製)にて5℃で10分間かけて分散させた。
重合開始剤として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(関東化学社製)3.55質量部を加え、混合した。
その後、得られた分散液を、FEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体)シートを張り付けたガラス板2枚で挟んだ厚み1mmの型枠に注入し、70℃のオーブンで15時間加熱し、厚み1mmのシートを得た。
【0073】
得られたシートの樹脂組成物中の球状シリカ粒子の体積%は39%であった。
【0074】
得られた厚み1mmのシートを使用して、引張試験を行った。得られた応力/ひずみ曲線を図1に示す。
応力/ひずみ曲線から得られる機械的特性(引張弾性率、引張破壊応力、引張破壊ひずみ、破壊時の引張エネルギー)の測定結果・評価結果をまとめて下記表1中に示した。
【0075】
血小板粘着性の測定結果・評価結果も表1中に示した。
【0076】
実施例2
2−メトキシエチルアクリレート(MEA、東京化成工業社製)2070質量部、ジエチレングリコールジアクリレート(DEGDA、東京化成工業社製)、平均粒子径110nmの球状シリカ粒子(Silbol 110、富士化学社製)2477質量部を試験管に仕込み、超音波ホモジナイザー(UP200St、ヒールッシャー社製)にて5℃で10分間かけて分散させた。
重合開始剤として、2,4,6‐トリメチルベンゾイル‐ジフェニル‐フォスフィンオキサイド(アルドリッチ社製)2.69質量部を加え、混合した。
その後、得られた分散液を、FEPシートを張り付けたガラス板2枚で挟んだ厚み1mmの型枠に注入し、紫外線照射装置(UVF−204S、三永電機社製)にて365nm、10mW/cm、120秒間の光照射を行い、厚み1mmのシートを得た。
【0077】
得られたシートの樹脂組成物中の球状シリカ粒子の体積%は40%であった。
【0078】
得られた厚み1mmのシートを使用して、引張試験を行った。得られた応力/ひずみ曲線を図2に示す。
応力/ひずみ曲線から得られる機械的特性(引張弾性率、引張破壊応力、引張破壊ひずみ、破壊時の引張エネルギー)をまとめて表1中に示した。
【0079】
血小板粘着性の測定結果・評価結果も表1中に示した。
【0080】
比較例1
アクリレートモノマー(A)、シリカ粒子を表1に示すものになるように変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製し評価した。
【0081】
得られたシートを使用して引張試験を行って得られた応力/ひずみ曲線を図5に示す。
【0082】
比較例1における樹脂組成物の各成分(割合)、樹脂組成物中の球状シリカ粒子の体積%、得られたシートの機械的特性(引張弾性率、引張破壊応力、引張破壊ひずみ、破壊時の引張エネルギー)および血小板粘着性の測定結果・評価結果を表1にまとめた。
【0083】
実施例3〜4、比較例2
アクリレートモノマー(A)、架橋剤(B)、シリカ粒子を表1に示すものになるように変更した以外は、実施例2と同様にしてシートを作製し評価した。
【0084】
得られたシートを使用して引張試験を行って得られた応力/ひずみ曲線を図3(実施例3)、図4(実施例4)、図6(比較例2)に示す。
【0085】
各実施例、各比較例における樹脂組成物の各成分(割合)、樹脂組成物中の球状シリカ粒子の体積%、得られたシートの機械的特性(引張弾性率、引張破壊応力、引張破壊ひずみ、破壊時の引張エネルギー)および血小板粘着性の測定結果・評価結果を表1にまとめた。
【0086】
比較例3
アクリレートモノマー(A)、シリカ粒子を表1に示すものになるように変更した以外は、実施例2と同様にしてシートを作製した。
【0087】
得られたシートは粘着性が強く強度に劣っていたため、機械的特性の測定が困難であった。得られたシート400質量部を塩化メチレン1600質量部に溶解した溶液を調整し、ユニチカ社製、PETフィルム(エンブレットS−50)上にナイフコーターを用いて塗工し、風乾することで樹脂組成物被膜を有するPETフィルムを得た。得られたPETフィルムを用いて、血小板粘着性試験を行った。
【0088】
下記表1に、各実施例、各比較例における樹脂組成物の各成分(割合)、樹脂組成物中の球状シリカ粒子の体積%、得られたシートの機械的特性(引張弾性率、引張破壊応力、引張破壊ひずみ、破壊時の引張エネルギー)および血小板粘着性の測定結果・評価結果をまとめた。
【0089】
【表1】
【0090】
表1から明らかなように、実施例1〜4で得られた樹脂組成物は、0.05〜0.25%伸長時の引張弾性率が高く、引張破壊応力および引張破壊ひずみが大きく、破壊時の引張エネルギーが大きく、高靭性の優れた機械的特性を有していた。また、血小板粘着性指数が0.3以下であり、材料表面への血小板の付着が抑制された抗血栓性に優れた材料であることを示している。
【0091】
実施例1,2および比較例1、2の血小板粘着性の相対値から、シリカを含有させることにより樹脂が有する血小板粘着性が落ちていないことが判るが、この結果は驚くべき結果である。
【0092】
一方、比較例1の樹脂組成物は、シリカ粒子を含まないため、0.05〜0.25%伸長時の引張弾性率および引張破壊応力が低いものであった。
シリカ粒子を含まない比較例1の組成物は、エラストマー材料として使用に適しているものではなかった。
【0093】
比較例2の樹脂組成物は、シリカ粒子を含まないため、0.05〜0.25%伸長時の引張弾性率、引張破壊応力、引張破壊ひずみおよび破壊時の引張エネルギーが小さく、脆いものであった。
シリカ粒子を含まない比較例2の組成物では、エラストマー材料として使用に適しているものではなかった。
【0094】
比較例3の樹脂組成物は、シリカ粒子および架橋剤を含まないため、粘着性の高いシートとなり、材料強度が著しく乏しく引張試験に使用するダンベル試験片が採取できなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6