【解決手段】紡績機1は、複数の紡績ユニット2と、複数の紡績ユニット2に対して作業を行う複数の糸継台車3と、複数の紡績ユニット2で一斉に紡績を開始するとき、その紡績の開始前までに、予め設定された初期配置に従って複数の糸継台車3が位置するように複数の糸継台車3を制御する中央制御装置4と、を備える。
前記制御装置は、前記初期配置として、前記複数の作業台車の間隔に対応する前記紡績ユニットの数が等しくなるように、前記複数の作業台車を制御する、請求項1に記載の紡績機。
前記制御装置は、前記複数の紡績ユニットの瞬停、停電、及び紡績の一斉停止の少なくとも何れかの後に、前記複数の紡績ユニットで一斉に前記紡績を開始するにあたり、前記初期配置に従って前記複数の作業台車が位置するように前記複数の作業台車を制御する、請求項1〜3の何れか一項に記載の紡績機。
前記制御装置は、前記複数の紡績ユニットにおける紡績条件が変更された場合に、変更後の紡績条件に基づく前記紡績を開始するよりも前に、前記初期配置に従って前記複数の作業台車が位置するように前記複数の作業台車を制御する、請求項1〜4の何れか一項に記載の紡績機。
前記作業台車に吸引空気流を供給するための供給孔が形成された吸引ダクトと、前記吸引ダクトに接続され前記吸引ダクト内に静圧を発生させるためのブロアと、前記吸引ダクトの前記供給孔を閉鎖又は開放させることが可能なシャッターとを有する吸引機構を更に備える、請求項1〜5の何れか一項に記載の紡績機。
前記制御装置は、前記ブロアの稼働により前記吸引ダクト内の静圧が前記吸引空気流の供給に必要な圧力に達するまでの期間に、前記初期配置に従って前記複数の作業台車が位置するように前記複数の作業台車を移動させる、請求項6に記載の紡績機。
前記制御装置は、前記複数の紡績ユニットの運転が停止された際に、前記初期配置に従って前記複数の作業台車が位置するように前記複数の作業台車を移動させる、請求項1〜8の何れか一項に記載の紡績機。
前記制御装置は、前記複数の紡績ユニットの運転が停止された後、前記ブロアの回転速度を低下させた状態で、前記初期配置に従って前記複数の作業台車が位置するように前記複数の作業台車を移動させる、請求項6に記載の紡績機。
前記制御装置は、前記複数の紡績ユニットにおける紡績条件が変更される場合には、変更前の紡績条件に基づく紡績を終了する際に、前記初期配置に従って前記複数の作業台車が位置するように前記複数の作業台車を移動させる、請求項1〜10の何れか一項に記載の紡績機。
前記制御装置は、前記初期配置に従った前記複数の作業台車のうち、少なくとも何れか1つの作業台車の作業対象の紡績ユニットが存在しないか又は紡績を行えない状態であるとき、紡績開始後の所定の作業順序における次の紡績ユニットに対して作業を行う位置に当該何れか1つの作業台車が位置するように、当該何れか1つの作業台車を制御する、請求項1〜12の何れか一項に記載の紡績機。
前記作業台車は、前記複数の紡績ユニットに対して、糸継ぎ動作の少なくとも一部を行う糸継装置、ボビンをセットするボビンセット装置、又はパッケージの取出し動作を行う玉揚装置の少なくとも何れかを含む、請求項1〜13の何れか一項に記載の紡績機。
前記制御装置は、前記複数の作業台車のスタートボタンが操作されたタイミング、中央制御装置が前記複数の紡績ユニットに一斉に前記紡績を開始させるタイミング、或いは、前記中央制御装置に設けられた初期配置操作専用ボタンが操作されたタイミングで、前記複数の作業台車を前記初期配置に向けて移動させる、請求項1〜14の何れか一項に記載の紡績機。
前記複数の紡績ユニットで一斉に前記紡績を開始するとき、ボビンストッカ及び/又はオーバーヘッドブローも連動して起動する、請求項1〜15の何れか一項に記載の紡績機。
前記制御装置は、前記初期配置として、前記複数の作業台車の間隔に対応する前記巻取ユニットの数が等しくなるように、前記複数の作業台車を制御する、請求項19に記載の糸巻取機。
前記作業台車は、前記複数の巻取ユニットに対して、ボビンをセットするボビンセット装置、又はパッケージの取出し動作を行う玉揚装置の少なくとも何れかを含む、請求項19〜21の何れか一項に記載の糸巻取機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の技術では、複数の作業台車が行う作業の効率化等が検討されているが、紡績中(紡績ユニットが起動している最中)の効率化に専ら着目されている。複数の紡績ユニットが一斉に紡績を開始する際に、どのように作業台車を配置すればよいか、又はどのように作業台車を移動させればよいか等といった観点での効率化については、検討が不十分であった。
【0005】
本発明は、複数の紡績ユニットが一斉に紡績を開始する際の作業台車による効率的な作業を可能とする紡績機及び紡績方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る紡績機は、複数の紡績ユニットと、複数の紡績ユニットに対して作業を行う複数の作業台車と、複数の紡績ユニットで一斉に紡績を開始するとき、紡績の開始前までに、予め設定された初期配置に従って複数の作業台車が位置するように複数の作業台車を制御する制御装置と、を備える。
【0007】
この紡績機によれば、一斉に紡績を開始するとき、複数の作業台車は、制御装置によって、予め設定された初期配置に従って複数の作業台車が位置するように制御される。従来は、一斉に紡績を開始するときには、例えば、各作業台車は、紡績機が前回運転を停止した時点で最後に作業を行った位置で停止し、その停止位置を維持していた。そのため、各作業台車がその停止位置から作業を開始すると、時間のロスが発生する等、各作業台車の移動(すなわち走行)が非効率になる傾向にあった。例えば、停止していた位置に近い紡績ユニットから各作業台車が作業を開始すると、隣り合う他の作業台車との干渉が発生する場合があり、何れかの作業台車による処理が遅れることとなる。本発明の紡績機によれば、一斉に紡績を開始するとき、複数の作業台車が、予め設定された初期配置に従って配置される。よって、初期配置を適切に設定しておくことにより、上記したような非効率を改善できる。したがって、複数の紡績ユニットが一斉に紡績を開始する際の作業台車による効率的な作業が可能となる。
【0008】
複数の作業台車には、複数の紡績ユニットに対する移動領域がそれぞれ割り当てられており、制御装置は、初期配置として、複数の作業台車のそれぞれに割り当てられた移動領域における設定位置に複数の作業台車のそれぞれが位置するように、複数の作業台車を制御してもよい。この制御により、各作業台車は、移動領域の中において効率的な作業を行うことができる。予め開始時の位置が設定されるので、上記した隣り合う他の作業台車との干渉も回避しやすい。
【0009】
制御装置は、初期配置として、複数の作業台車の間隔に対応する紡績ユニットの数が等しくなるように、複数の作業台車を制御してもよい。すなわち、複数の作業台車は、対応する紡績ユニットの数に関して、等間隔に配置される。この制御により、各作業台車は、例えば同じ方向に移動しながら順次作業を行っていくことで、効率的な作業を行うことができる。開始時の位置が離れているので、上記した隣り合う他の作業台車との干渉も回避しやすい。
【0010】
制御装置は、複数の紡績ユニットの瞬停、停電、及び紡績の一斉停止の少なくとも何れかの後に、複数の紡績ユニットで一斉に紡績を開始にあたり、初期配置に従って複数の作業台車が位置するように複数の作業台車を制御してもよい。この場合、各作業台車は、時間のロスを可能な限り低減しつつ、効率的に作業を開始することができる。
【0011】
制御装置は、複数の紡績ユニットにおける紡績条件が変更された場合に、変更後の紡績条件に基づく紡績を開始するよりも前に、初期配置に従って複数の作業台車が位置するように複数の作業台車を制御してもよい。この場合、紡績条件が変更された場合に、各作業台車は、変更後の紡績条件に基づく新たな紡績を効率的に開始することができる。
【0012】
紡績機は、作業台車に吸引空気流を供給するための供給孔が形成された吸引ダクトと、吸引ダクトに接続され吸引ダクト内に静圧を発生させるためのブロアと、吸引ダクトの供給孔を閉鎖又は開放させることが可能なシャッターとを有する吸引機構を更に備えてもよい。
【0013】
制御装置は、ブロアの稼働により吸引ダクト内の静圧が吸引空気流の供給に必要な圧力に達するまでの期間に、初期配置に従って複数の作業台車が位置するように複数の作業台車を移動させてもよい。吸引機構を備えた紡績機において、ブロアの稼働により吸引ダクト内の静圧が必要な圧力に達するには、ブロアの起動後、一定の時間を要する。この時間(期間)を利用して複数の作業台車を移動させることで、各作業台車は、時間のロスを最小限に抑えることができる。
【0014】
制御装置は、紡績を行っている複数の紡績ユニットのうち、複数の作業台車の何れかによる作業が必要になった紡績ユニットが発生したときに、その作業を要する紡績ユニットに対して複数の作業台車の何れかを紡績時移動速度で移動させるように制御し、複数の紡績ユニットで一斉に紡績を開始するときは、紡績時移動速度よりも遅い移動速度で、上記の期間に複数の作業台車を移動させるように制御してもよい。ブロアの起動中(すなわち静圧の上昇中)に作業台車を移動させると、作業台車がある紡績ユニットの前を通過しただけで、シャッターが開放される可能性がある。作業台車を紡績時移動速度(通常の移動速度)よりも遅い移動速度で移動させることで、シャッターが開きっぱなしになることを防止できる。
【0015】
制御装置は、複数の紡績ユニットの運転が停止された際に、初期配置に従って複数の作業台車が位置するように複数の作業台車を移動させてもよい。この場合、次に運転が開始されたときに、各作業台車の移動を待たなくてよい。よって、紡績機の運転を効率的に開始することができる。
【0016】
制御装置は、複数の紡績ユニットの運転が停止された後、ブロアの回転速度を低下させた状態で、初期配置に従って複数の作業台車が位置するように複数の作業台車を移動させてもよい。紡績ユニットの停止に伴ってブロアが停止した場合、吸引ダクト内の静圧が低下する。しかし上記の構成によれば、ブロアの駆動状態が継続され、作業台車の移動によりシャッターが開放されたままとなることを防止できる。
【0017】
制御装置は、複数の紡績ユニットにおける紡績条件が変更される場合には、変更前の紡績条件に基づく紡績を終了する際に、初期配置に従って複数の作業台車が位置するように複数の作業台車を移動させてもよい。この場合、各作業台車は、変更後の紡績条件に基づく新たな紡績を速やかに開始することができる。このことは、紡績機全体の稼働効率を向上させる。
【0018】
複数の作業台車のそれぞれには、複数の紡績ユニットに対する移動領域及び専属領域が割り当てられており、移動領域は専属領域を含み、制御装置は、初期配置として、専属領域のみにおける設定位置に複数の作業台車のそれぞれが位置するように、複数の作業台車を制御してもよい。この場合、移動領域と専属領域との差分の領域が設定されている場合でも、紡績開始時には当該差分の領域が考慮されず専属領域に限られた状態での作業が行われる。
【0019】
制御装置は、初期配置に従った複数の作業台車のうち、少なくとも何れか1つの作業台車の作業対象の紡績ユニットが存在しないか又は紡績を行えない状態であるとき、紡績開始後の所定の作業順序における次の紡績ユニットに対して作業を行う位置に当該何れか1つの作業台車が位置するように、当該何れか1つの作業台車を制御してもよい。この場合、対応する紡績ユニットが存在しないか又は紡績を行えない状態(いわば欠錘が生じた状態)でも、当該作業台車は、所定の作業順序における次の紡績ユニットに対して作業を行うことができる。作業台車は、欠錘が生じた状態でも右往左往することがなく、スムーズに作業を開始することができる。
【0020】
作業台車は、複数の紡績ユニットに対して、糸継ぎ動作の少なくとも一部を行う糸継装置、ボビンをセットするボビンセット装置、又はパッケージの取出し動作を行う玉揚装置の少なくとも何れかを含んでもよい。複数の作業台車が複数の紡績ユニットに対して作業を行う紡績機において、作業台車が何れの種類の作業を行う場合でも、紡績開始時の効率的な作業が可能である。
【0021】
制御装置は、複数の作業台車のスタートボタンが操作されたタイミング、中央制御装置が複数の紡績ユニットに一斉に紡績を開始させるタイミング、或いは、中央制御装置に設けられた初期配置操作専用ボタンが操作されたタイミングで、複数の作業台車を初期配置に向けて移動させてもよい。この場合、一斉に紡績を開始するときに、複数の作業台車が、初期位置に向けて移動するため、紡績をスムーズに開始させることができる。
【0022】
複数の紡績ユニットで一斉に紡績を開始するとき、ボビンストッカ及び/又はオーバーヘッドブローも連動して起動してもよい。ボビンストッカ及び/又はオーバーヘッドブローも連動して起動することで、紡績をより一層スムーズに開始させることができる。
【0023】
複数の紡績ユニットのそれぞれは、エアジェット紡績ユニットであってもよい。エアジェット紡績ユニットを備える紡績機において、一斉に紡績を開始する際の作業台車による効率的な作業が可能となる。
【0024】
本発明の別の態様は、複数の紡績ユニットと、複数の紡績ユニットに対して作業を行う複数の作業台車と、を備える紡績機における紡績方法であって、複数の紡績ユニットで一斉に紡績を開始するとき、その紡績の開始前までに、予め設定された初期配置に従って複数の作業台車が位置するように複数の作業台車を制御する。この紡績方法によれば、上述したのと同様の作用及び効果が奏される。
【0025】
本発明の別の態様に係る糸巻取機は、複数の巻取ユニットと、複数の巻取ユニットに対して作業を行う複数の作業台車と、複数の巻取ユニットで一斉に複数の作業台車による作業が必要になったとき、作業の開始前までに、予め設定された初期配置に従って複数の作業台車が位置するように複数の作業台車を制御する制御装置と、を備える。
【0026】
この糸巻取機によれば、複数の作業台車が一斉に作業を開始するとき、複数の作業台車は、制御装置によって、予め設定された初期配置に従って複数の作業台車が位置するように制御される。従来は、複数の作業台車が一斉に作業を開始するときには、例えば、各作業台車は、糸巻取機が前回運転を停止した時点で各作業台車が停止していた停止位置を維持していた。そのため、各作業台車がその停止位置から作業を開始すると、時間のロスが発生する等、各作業台車の移動(すなわち走行)が非効率になる傾向にあった。例えば、停止していた位置に近い巻取ユニットから各作業台車が作業を開始すると、隣り合う他の作業台車との干渉が発生する場合があり、何れかの作業台車による処理が遅れることとなる。本発明の糸巻取機によれば、複数の作業台車が一斉に作業を開始するとき、複数の作業台車が、予め設定された初期配置に従って配置される。よって、初期配置を適切に設定しておくことにより、上記したような非効率を改善できる。したがって、複数の作業台車が一斉に作業を開始する際の作業台車による効率的な作業が可能となる。
【0027】
複数の作業台車には、複数の巻取ユニットに対する移動領域がそれぞれ割り当てられており、制御装置は、初期配置として、複数の作業台車のそれぞれに割り当てられた移動領域における設定位置に複数の作業台車のそれぞれが位置するように、複数の作業台車を制御してもよい。この制御により、各作業台車は、移動領域の中において効率的な作業を行うことができる。予め開始時の位置が設定されるので、上記した隣り合う他の作業台車との干渉も回避しやすい。
【0028】
制御装置は、初期配置として、複数の作業台車の間隔に対応する巻取ユニットの数が等しくなるように、複数の作業台車を制御してもよい。すなわち、複数の作業台車は、対応する巻取ユニットの数に関して、等間隔に配置される。この制御により、各作業台車は、例えば同じ方向に移動しながら順次作業を行っていくことで、効率的な作業を行うことができる。開始時の位置が離れているので、上記した隣り合う他の作業台車との干渉も回避しやすい。
【0029】
作業台車は、複数の巻取ユニットに対して、ボビンをセットするボビンセット装置、又はパッケージの取出し動作を行う玉揚装置の少なくとも何れかを含んでもよい。複数の作業台車が複数の巻取ユニットに対して作業を行う糸巻取機において、作業台車が何れの種類の作業を行う場合でも、複数の作業台車による作業開始時の効率的な作業が可能である。
【発明の効果】
【0030】
本発明のいくつかの態様によれば、複数の紡績ユニットが一斉に紡績を開始する際の作業台車による効率的な作業が可能となる。複数の巻取ユニットに対して複数の作業台車が一斉に作業を開始する際の作業台車による効率的な作業が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での糸の走行方向における上流及び下流を意味する。
【0033】
図1に示す繊維機械としての紡績機1は、並設された多数の紡績ユニット2を備えている。この紡績機1は、複数の糸継台車(作業台車)3と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、を備えている。なお、紡績機1が設置される工場では、糸継台車3に対して紡績糸10の糸道側に、紡績ユニット2の配列方向に延びる作業者通路が設けられる。作業者は、作業者通路側から、各紡績ユニット2の操作及び監視等を行うことができる。
【0034】
図1及び
図2に示されるように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、空気紡績装置9と、糸貯留装置12と、ワキシング装置14と、巻取装置13と、を備えている。ドラフト装置7は紡績機1の筐体6の上端近傍に設けられている。このドラフト装置7から送られてくる繊維束8は空気紡績装置9で紡績される。空気紡績装置9から送出された紡績糸10は糸監視装置52を通過した後、糸貯留装置12で更に下方に送られてワキシング装置14でワックスが付与される。その後、紡績糸10は、巻取装置13によって巻き取られ、これによりパッケージ45が形成される。
【0035】
ドラフト装置7は、スライバ15(繊維束8)をドラフトする。このドラフト装置7は
図2に示されるように、バックローラ対16、サードローラ対17、エプロンベルト18を装架したミドルローラ対19、及びフロントローラ対20の4つのローラ対を備えている。各ローラ対16,17,19,20のボトムローラは、原動機ボックス5又は個別に設けられた不図示の駆動源からの動力により駆動される。各ローラ対16,17,19,20は、回転速度を異ならせて駆動され、この結果、上流側から供給されたスライバ15を延伸して繊維束8にし、下流側の空気紡績装置9に送ることができる。
【0036】
空気紡績装置9は、旋回気流を利用して繊維束8に撚りを与え、紡績糸10を生成する。すなわち、各紡績ユニット2は、エアジェット紡績ユニットである。空気紡績装置9は、詳細な説明及び図示は省略するが、繊維案内部と、旋回気流発生ノズルと、中空ガイド軸体と、を備えている。繊維案内部は、ドラフト装置7から送られた繊維束8を、空気紡績装置9の内部に形成される紡績室に案内する。旋回気流発生ノズルは、繊維束8の経路の周囲に配置され、紡績室内に旋回気流を発生させる。この旋回気流によって、紡績室内の繊維束8の繊維端が反転され旋回する。中空ガイド軸体は、紡績された紡績糸10を紡績室から空気紡績装置9の外部へと案内する。
【0037】
空気紡績装置9の下流には、糸貯留装置12が設けられている。この糸貯留装置12は、紡績糸10に所定の張力を与えて空気紡績装置9から引き出す機能と、糸継台車3による糸継ぎ時などに空気紡績装置9から送出される紡績糸10を滞留させて紡績糸10の弛みを防止する機能と、巻取装置13側の張力の変動が空気紡績装置9側に伝わらないように張力を調節する機能と、を有している。
図2に示されるように、糸貯留装置12は、糸貯留ローラ21と、糸掛け部材22と、上流側ガイド23と、電動モータ25と、下流側ガイド26と、糸貯留量センサ27と、を備えている。
【0038】
糸掛け部材22は、紡績糸10に係合する(引っ掛ける)ことが可能に構成されており、紡績糸10に係合した状態で糸貯留ローラ21と一体回転することにより、当該糸貯留ローラ21の外周面に紡績糸10を巻き付けることができる。
【0039】
糸貯留ローラ21は、その外周面に紡績糸10を一定量巻き付けて貯留することができる。糸貯留ローラ21は、電動モータ25によって回転駆動される。この構成で、糸貯留ローラ21の外周面に巻き付けられた紡績糸10は、糸貯留ローラ21が回転することにより当該糸貯留ローラ21を締め付けるようにして巻かれ、糸貯留装置12よりも上流側の紡績糸10を引っ張る。即ち、外周面に紡績糸10を巻き付けた状態の糸貯留ローラ21を所定の回転速度で回転させることで、糸貯留装置12は、紡績糸10に所定の張力を与えて空気紡績装置9から紡績糸10を所定の速度で引き出し、所定の速度で下流側に搬送することができる。
【0040】
糸貯留量センサ27は糸貯留ローラ21上に貯留されている紡績糸10の貯留量を非接触式で検出し、ユニットコントローラ53(
図3参照)に送信するように構成されている。
【0041】
上流側ガイド23は糸貯留ローラ21のやや上流側に配置される。上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21の外周面に対して紡績糸10を適切に案内する案内部材であるとともに、空気紡績装置9から伝播してくる紡績糸10の撚りが当該上流側ガイド23よりも下流側に伝わることを防止する撚り止めの役割を兼ねている。
【0042】
紡績機1の筐体6の前面側であって空気紡績装置9と糸貯留装置12との間の位置には、糸監視装置52が設けられている。空気紡績装置9で紡出された紡績糸10は、糸貯留装置12で巻き取られる前に糸監視装置52を通過する。糸監視装置52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠陥を検出した場合に、糸欠陥検出信号をユニットコントローラ53へ送信する。
【0043】
上記ユニットコントローラ53は、糸欠陥検出信号を受信すると、直ちに、空気紡績装置9の旋回気流発生ノズルからの圧空の噴出を停止させる。これにより、旋回気流が停止して繊維束8の加撚が停止すると共に空気紡績装置9への繊維束8の導入も停止する。そして、空気紡績装置9において繊維の連続状態が分断され、紡績糸10が切断される。ユニットコントローラ53は、ドラフト装置7等も停止させる。また、ユニットコントローラ53は糸継台車3に制御信号を送り、糸継台車3を当該紡績ユニット2に対応する作業位置まで走行させる。糸継台車3の制御装置38は、紡績を行っている複数の紡績ユニット2のうち、複数の糸継台車3の何れかによる作業が必要になった紡績ユニット2が発生したときに、紡績ユニット2に対して複数の糸継台車3の何れかを紡績時移動速度で移動させるように制御する。その後、空気紡績装置9等を再び駆動し、糸継台車3に糸継ぎを行わせて巻取りを再開させる。このとき、糸貯留装置12は、空気紡績装置9が紡績を再開してから巻取りが再開されるまでの間、空気紡績装置9から連続的に送出される紡績糸10を糸貯留ローラ21に滞留させて紡績糸10の弛みを取る。
【0044】
紡績機1では、複数の紡績ユニット2に対して、複数の糸継台車3が設けられている。糸継台車3の台数は紡績ユニット2の台数よりも少ない。すなわち、1つの糸継台車3が複数の紡績ユニット2に対して、作業としての糸継ぎ動作を行う。糸継台車3は、
図1及び
図2に示されるように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れ又は糸切断が発生すると、レール41に沿って当該紡績ユニット2まで走行し、停止する。サクションパイプ44は、軸を中心に上方向に回動し、空気紡績装置9から送出される紡績糸10を吸い込みつつ捕捉する。そして、サクションパイプ44は、軸を中心に下方向に回動し、紡績糸10をスプライサ43へ案内する。サクションマウス46は、軸を中心に下方向に回動し、巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉する。そして、サクションマウス46は、軸を中心に上方向に回動し、紡績糸10をスプライサ43へ案内する。スプライサ43は、案内された紡績糸10の糸端同士の糸継ぎを行う。
【0045】
巻取装置13は、支軸70まわりに揺動可能に支持されたクレードルアーム71を備える。このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するためのボビン48を回転可能に支持することができる。
【0046】
また、巻取装置13は、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備えている。巻取ドラム72は、ボビン48の外周面、及びボビン48に紡績糸10が巻き取られることにより形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、巻取装置13は、トラバースガイド76を不図示の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を不図示の電動モータによって駆動することで、紡績糸10を綾振りしつつ巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、パッケージ45を巻き取る。トラバース装置75のトラバースガイド76は、複数の紡績ユニット2で共有されるシャフトにより、各紡績ユニット2で共通に駆動される。
【0047】
紡績機1は、糸継台車3に吸引空気流を供給するための吸引機構81を備えている。吸引機構81は、ブロア82と、吸引ダクト85と、シャッター84とを有する。ブロアボックス80には、紡績ユニット2の各部及び糸継台車3等に供給するエア(静圧)を発生させるエア供給源としてのブロア82が格納されている。
図2に示されるように、糸継台車3の下部には、供給パイプ83が配置されている。ブロア82は、吸引ダクト85に接続されており、吸引ダクト85内に静圧を発生させる。ブロア82は、例えば中央制御装置(制御装置)4によって制御される。供給パイプ83は、糸継台車3が移動することで、吸引ダクト85の外表面と接触した状態で移動する(摺動する)。吸引ダクト85の外表面には、紡績ユニット2ごとに供給孔85aが形成されている。この供給孔85aは、吸引ダクト85に例えば回転可能に取り付けられたシャッター84が回転することで、開閉状態が切り替えられる。
【0048】
例えば、糸継台車3が、ある紡績ユニット2で糸継ぎを行うため、ある紡績ユニット2の位置に到着する。このとき、供給パイプ83がシャッター84に係合してシャッター84を回転させる。これにより、供給孔85aが露出し(開放され)、供給孔85aと供給パイプ83とが接続される。供給孔85aを通じて、糸継台車3に吸引空気流が供給される。糸継台車3が他の紡績ユニット2で糸継ぎを行う旨の要求を受けて移動すると、再び供給パイプ83がシャッター84に係合してシャッター84を回転させる。これにより、供給孔85aが閉鎖される。
【0049】
吸引機構81の構成は、上記した態様に限られず、その他の公知の態様が採用されてもよい。糸継台車3に対して吸引空気流を供給する機構であって、糸継台車3の到着と出発に伴って、シャッター84が開放及び閉鎖される構成であれば、他の態様が採用されてもよい。
【0050】
シャッター84は、吸引ダクト85内の静圧が上昇して必要な圧力に達している場合は、吸引ダクト85内の静圧によって供給孔85a上に引き寄せられて密着している。しかし、吸引ダクト85内の静圧が所定の圧力未満である場合には、糸継台車3の移動時に供給パイプ83がシャッター84に接触すると、シャッター84は回転し、供給孔85aが開放されたままの状態になる可能性がある。本実施形態では、供給孔85aが開放されたままの状態で維持されないよう、糸継台車3の移動タイミングが制御されている。
【0051】
次に、紡績機1の電気的構成を説明する。
図3は、紡績機の電気的構成を示すブロック図である。
図3に示されるように、紡績機1は、中央制御装置(制御装置)4を備える。中央制御装置4は、紡績機1の各紡績ユニット2に紡績を行わせる。中央制御装置4は、複数の紡績ユニット2の所定数(1又は2以上)ごとに設けられたユニットコントローラ53に、信号線を介して接続される。中央制御装置4は、例えば、原動機ボックス5内に設けられている。中央制御装置4は、紡績ユニット2の状態に関する信号をユニットコントローラ53から受信する。紡績ユニット2の状態に関する信号には、例えば、紡績糸10が切れて糸継ぎが必要になった旨の信号(糸継要求信号)及び/又は、紡績ユニット2に何らかの異常が発生して停止した旨の信号等がある。
【0052】
図5に示されるように、複数の紡績ユニット2は、例えば、各糸継台車3に割り当てられた専属領域S(詳しくは後述)に応じて、n台ずつにグルーピングされていると考えることができる(nは2以上の自然数)。本実施形態では、一例として、糸継台車3の台数がN台であり、n台の紡績ユニット2がNセット並設されている(Nは2以上の自然数)。各紡績ユニット2には、ユニット番号Y11からYNnが割り当てられており、このユニット番号は、各紡績ユニット2のユニットコントローラ53に記憶されている。このユニット番号の情報は、紡績ユニット2が糸継要求信号などを中央制御装置4へ送信する際に、その信号に含められる。これにより中央制御装置4は、現在、どの番号の紡績ユニット2が糸継ぎを要求しているかを認識することができる。
【0053】
中央制御装置4は、糸継台車3の制御装置(制御装置)38に対しても信号線を介して接続されており、各制御装置38に対して糸継要求信号及び各種情報を送信したり、糸継台車3側から各種情報を取得したりする。中央制御装置4から各制御装置38へ送信される各種情報には、糸継台車3の位置についての情報が含まれている。
【0054】
図3では、1つのみの糸継台車3が記載されているが、全ての糸継台車3が、同様の電気的構成を備える。糸継台車3は、それぞれ、スプライサ43、走行輪42を駆動する走行輪駆動モータ35、紡績ユニット2ごとに設けられた不図示のドックを検知するためのドックセンサ36、台車側送信部37、制御装置38、及び、範囲端検出センサ39を備えている。
【0055】
糸継台車3の制御装置38は、走行輪駆動モータ35を作動させることで、糸継要求(作業要求)を行った紡績ユニット(作業要求ユニット)2に向けて糸継台車3を移動させる。糸継台車3の制御装置38は、ドックセンサ36の検知結果に基づいて、糸継要求を行った紡績ユニット2に対応する作業位置に当該糸継台車3を位置決めして停止させた上で、スプライサ43等を作動させて糸継ぎを行わせる。
【0056】
糸継台車3の台車側送信部37は、糸継台車3が目的の紡績ユニット2の作業位置に到着して停止したとき、当該目的の紡績ユニット2に備えられたセンサ(識別手段)61へ信号を出力する。そして、信号を受信したセンサ61を備える紡績ユニット2のユニットコントローラ53は、自身のユニット番号を含む信号を、当該糸継台車3の制御装置38に対して出力する。これにより、停止中の糸継台車3は、複数ある紡績ユニット2のうち、どの紡績ユニット2の作業位置に現在停止しているか、即ち、自己の位置情報を認識することができる。そして、糸継台車3がその位置から走行を開始すると、糸継台車3は、この位置情報を基準としてドックセンサ36の検知数をカウントすることにより、現在の位置を認識することができる。
【0057】
中央制御装置4は、上述のように、紡績ユニット2のユニットコントローラ53より出力される信号を受信することで各糸継台車3の位置を把握することができる。中央制御装置4は、把握されたある第1の糸継台車3の位置についての情報を別の第2の糸継台車3へ送信する。中央制御装置4は、把握された第2の糸継台車3の位置についての情報を第1の糸継台車3へ送信する。これにより、各糸継台車3は、互いの現在位置を把握することができる。
【0058】
糸継台車3の台車側送信部37から紡績ユニット2のセンサ61へ送信される信号には、糸継台車3を識別するための識別信号が含まれている。これにより、紡績ユニット2は、何れの糸継台車3によって糸継ぎ作業が行われるかを認識することができる。
【0059】
次に、糸継台車3の移動領域について説明する。糸継台車3は、紡績機1内に敷設された共通のレール41に沿って走行する走行輪42(
図1及び
図2参照)を備えており、この走行輪42を走行輪駆動モータ35(
図3参照)によって駆動することで走行する。なお、レール41は、上レール1aと下レール41bとにより構成されている。糸継台車3がレール41に沿って走行する際、上レール41aは糸継台車3の上側をガイドし、下レール41bは糸継台車3の下側をガイドする。
【0060】
図5に示されるように、各糸継台車3は、紡績ユニット2に対して作業を行うための領域である移動領域X内を移動するように設定されている。各糸継台車3は、移動領域X内を移動して、移動領域X内の紡績ユニット2のうち作業対象とする紡績ユニット2の作業位置で停止し、作業対象とする紡績ユニット2に対して糸継ぎ作業を行う。
【0061】
糸継台車3の制御装置38は、移動領域X(
図5参照)に対向する複数の紡績ユニット2から糸継要求がされている場合、基本的には、糸継要求を行った紡績ユニット2の中で最も近い位置に存在する紡績ユニット2を、糸継ぎ作業の対象として選択する。糸継台車3が移動する移動領域Xは、1つの糸継台車3が移動する専属領域Sと、隣接する2つの糸継台車3の移動領域Xが重複するオーバーラップ領域Tとを含む。すなわち、複数の糸継台車3のそれぞれには、複数の紡績ユニット2に対する移動領域X及び専属領域Sが割り当てられている。専属領域Sは、各糸継台車3に対して重複することなく割り当てられた領域である。全ての専属領域Sは、例えば全ての紡績ユニット2に対応する。移動領域Xは、専属領域Sを含む。専属領域Sは、オーバーラップ領域Tの一部を含む。
【0062】
例えば、図示左端の糸継台車3に関して、専属領域Sは、ユニット番号Y11からY1nの紡績ユニット2に対応し、オーバーラップ領域Tは、ユニット番号Y1(n−1)からY22の紡績ユニット2に対応している。図示中央の糸継台車3に関して、専属領域Sは、ユニット番号Y21からY2nの紡績ユニット2に対応し、オーバーラップ領域Tは、ユニット番号Y2(n−1)からY32(3つめの専属領域Sに属するため図示されていない)の紡績ユニット2に対応している。
【0063】
すなわち、専属領域Sのみに属する紡績ユニット2に対しては、ある特定の糸継台車3のみによって糸継ぎ作業が行われる。オーバーラップ領域Tに属する紡績ユニット2は、ある特定の糸継台車3及びそれに隣接する糸継台車3によって糸継ぎ作業が行われる。オーバーラップ領域Tに含まれる紡績ユニット2の台数は、適宜に設定可能である。オーバーラップ領域Tに属する紡績ユニット2の台数(上記例では4台)は、通常、専属領域Sに属する紡績ユニット2の台数よりも少ない。また、糸継台車3ごとに、専属領域Sに属する紡績ユニット2の台数が異なってもよい。或いは、オーバーラップ領域Tに属する紡績ユニット2の台数が、オーバーラップ領域Tごとに異なってもよい。
【0064】
このように、紡績機1では、複数の紡績ユニット2に対する作業範囲である移動領域Xが複数の糸継台車3のそれぞれに割り当てられると共に、隣接する2つの移動領域Xがオーバーラップ領域Tにおいて重複している。各糸継台車3には、オーバーラップ領域Tを含まない専属領域Sが割り当てられている。
【0065】
各糸継台車3の制御装置38(
図3参照)は、各糸継台車3に設定された移動領域Xと、他の糸継台車3に設定された移動領域Xとを把握(記憶)している。各糸継台車3の制御装置38は、各糸継台車3に設定された専属領域Sと、隣接する他の糸継台車3の移動領域Xと重複するオーバーラップ領域Tとを把握(記憶)している。各糸継台車3に備えられた範囲端検出センサ39は、糸継台車3の移動領域Xの範囲端を検出する。具体的には、糸継台車3に備えられた範囲端検出センサ39は、上レール41aに設けられた不図示の範囲端検出用ドックを検出することで、移動領域Xの範囲端を検出する。
【0066】
紡績機1では、上述した各糸継台車3における移動制御に加えて、紡績機1における紡績を一斉に開始する際における糸継台車3の作業効率を考慮した制御が行われる。この制御は、中央制御装置4によって行われてもよく、中央制御装置4及び制御装置38の協働によって行われてもよい。
【0067】
以下の説明では、中央制御装置4が、紡績開始時における各糸継台車3の移動制御(走行制御又は配置制御とも言える)を行う。但し、中央制御装置4ではなく、各糸継台車3の制御装置38が、紡績開始時における各糸継台車3の移動制御を行ってもよい。
【0068】
中央制御装置4は、複数の紡績ユニット2で一斉に紡績を開始するとき、予め設定された初期配置に従って複数の糸継台車3が位置するように、複数の糸継台車3を制御する。中央制御装置4がこの制御を行うタイミングには、種々の態様があり得る。中央制御装置4は、糸継台車3の初期配置を記憶している。初期配置にも、種々の態様があり得る。中央制御装置4は、図示しないCPU等のプロセッサ、ROM及びRAM等のメモリ、ストレージ及び通信デバイス等を有する公知のコンピュータとして構成され、ROM等に予め記憶されたプログラムを実行する。
【0069】
[第1の実施例]
以下、紡績機1において紡績を一斉に開始させる幾つかのタイミング(制御例)について説明する。まず、
図4から
図6を参照して、一斉カット後の中央制御装置4による糸継台車3の移動制御について説明する。まず、紡績機1の稼働中にオペレータによって原動機ボックス5の不図示の一斉停止ボタンが押されると、中央制御装置4は、紡績機1における紡績を一斉に停止させる(ステップS01)。一斉停止ボタン(一斉カットボタンとも呼ばれる)が押されるのは、保全員が各紡績ユニット2のプログラムを更新したとき等である。
【0070】
このように一斉停止ボタンが押されると、各紡績ユニット2及び各糸継台車3は動作を停止する。例えば、
図5に示されるように、各糸継台車3は、移動領域Xの範囲内で最後に糸継ぎを行った位置で停止している。この停止位置は、専属領域S内、又はオーバーラップ領域T内である。
【0071】
その後、例えば、オペレータによって、原動機ボックス5に設けられたスタートボタンが操作されることで、中央制御装置4は、紡績機1における紡績を一斉に開始させるための準備を行う(ステップS02)。紡績機1における紡績の一斉開始のタイミングは、原動機ボックス5に設けられたスタートボタンが押されたときに限られず、複数の紡績ユニット2が運転開始状態になった後に、複数の糸継台車3に設けられたスタートボタンが全て操作された(押された)ときであってもよい。或いは、全ての糸継台車3のスタートボタンが操作されることを待たずに、各糸継台車3のスタートボタンが操作された時点で、スタートボタンが操作された糸継台車3から順に初期配置に従って移動してもよい。運転開始指令を受けた糸継台車3は、中央制御装置4によって制御されて、後述するように移動する。
【0072】
なお、オペレータが原動機ボックス5に設けられたスタートボタンを押したときに、原動機ボックス5に設けられた不図示の操作ディスプレイに、「糸継台車が動いても大丈夫ですか?」等といった注意喚起のためのポップアップ表示がなされ、オペレータがOKボタンを押したタイミングで、紡績機1における紡績を一斉に開始させるための準備が開始されてもよい。この場合、オペレータは、全ての糸継台車3のスタートボタンを操作してからOKボタンを押してもよく、或いは、OKボタンの操作は省略されてもよい。
【0073】
続いて、中央制御装置4は、複数の糸継台車3を移動させる(ステップS03)。中央制御装置4は、複数の糸継台車3を、予め設定された初期配置に従って位置するように移動させる。例えば、中央制御装置4は、複数の糸継台車3を、
図5に示される前回の停止位置から、
図6に示される初期配置に向けて移動させる。
図6に示されるように、ステップS03では、初期配置として、専属領域Sにおける設定位置に複数の糸継台車3がそれぞれ位置させられる。
【0074】
専属領域Sにおける設定位置は、専属領域Sにおける何れか一方側の端であってもよい。一方側の端は、全ての糸継台車3について同じ側であることが好ましい。
図6に示される実施例では、各糸継台車3は、各専属領域Sにおける1番目の紡績ユニット2に対応する作業位置に位置しているが、各専属領域Sにおけるn番目の紡績ユニット2に対応する作業位置に位置していてもよい。
【0075】
本実施例において、中央制御装置4は、初期配置に従って複数の糸継台車3が位置するように複数の糸継台車3を制御する(配置制御を行う)。中央制御装置4は、制御の開始時において、ある糸継台車3が初期配置に従った位置とは異なる位置に配置されている場合は、配置制御として、当該糸継台車3を移動させる制御を行う。一方、中央制御装置4は、制御の開始時において、ある糸継台車3が偶然に初期配置に従った位置に配置されている場合は、配置制御として、当該糸継台車3を移動させず、当該位置を維持する制御を行う。このように、中央制御装置4による配置制御は、制御の開始時における糸継台車3の位置が何れの位置であるか(例えば、何れの作業位置であるか)によって、糸継台車3を移動させる制御と、糸継台車3の位置を維持する制御とを含む。
【0076】
本実施形態では、
図5及び
図6に示される紡績ユニット2の配列及び専属領域Sの割り当ての場合、各専属領域Sに属する紡績ユニット2の台数はn台であって等しいので、複数の糸継台車3の間隔に対応する紡績ユニット2の数は等しくなる。
【0077】
紡績開始時には、全ての紡績ユニット2において糸継ぎが必要である。したがって、糸継台車3は、何れの紡績ユニット2に向けて走行しても、糸継ぎの必要性の観点では問題ないが、紡績機1では、紡績開始時にこのように規則性をもった配列で、糸継台車3が移動する。続いて、中央制御装置4は、各糸継台車3に対して、対応する紡績ユニット2が存在するか否かを確認(判断)させる(ステップS04)。通常は全ての紡績ユニット2が存在するが、場合によっては、1つ又は複数の紡績ユニット2がメンテナンス等のために存在しない(欠錘となっている)場合がある。そのような場合には、中央制御装置4は、糸継台車3に対して、紡績開始時の所定の作業順序における次の紡績ユニット2に対して糸継ぎを行う位置に、当該糸継台車3を位置させる。
【0078】
例えば、
図7に示されるように、図中の左から2番目の糸継台車3は、専属領域Sの端に位置するユニット番号Y21の紡績ユニット2に対する作業位置に到達すべきであるが、ユニット番号Y21の紡績ユニット2(作業対象の紡績ユニット)が存在しない。或いは、ユニット番号Y21の紡績ユニット2が存在しても、当該紡績ユニット2(作業対象の紡績ユニット)が紡績を行えない状態である場合も同様である。そのような場合、糸継台車3は、作業順序として1番目に設定されたユニット番号Y21の紡績ユニット2ではなく、ユニット番号Y2nへと向かう方向における次の紡績ユニット2である、ユニット番号Y22の紡績ユニット2の作業位置へと移動する。
図7に示される欠錘時の場合においても、左端の糸継台車3と左から2番目の糸継台車3との間隔は、紡績ユニット2の台数において、元々設定されていた
図6に示される間隔と同様である。すなわち、糸継台車3と糸継台車3の間隔に対応する紡績ユニット2の台数は(n−1)台である。
【0079】
このようなステップS04の制御は、ステップS03の制御に含められてもよい。すなわち、糸継台車3を移動させる際に、中央制御装置4が、又は糸継台車3が、ユニット番号Y21の紡績ユニット2が存在しないことを検知して、糸継台車3が、最初からユニット番号Y22の紡績ユニット2に向けて移動してもよい。
【0080】
続いて、中央制御装置4は、複数の糸継台車3に対して、糸継ぎ動作を開始させる(ステップS05)。中央制御装置4は、複数の糸継台車3に対して、上記した作業順序で糸継ぎ作業を行わせる。例えば、中央制御装置4は、
図6の左側の糸継台車3により、ユニット番号Y11からY1nへの順で複数の紡績ユニット2の糸継ぎ作業を行わせる。
【0081】
以上のように、中央制御装置(制御装置)4は、複数の紡績ユニット2で一斉に紡績を開始するときに、その紡績の開始前までに、初期配置に従って複数の糸継台車3を位置させておく。より具体的には、複数の糸継台車3が初期配置に従って位置した後、オペレータは、糸継台車3が停止している紡績ユニット2のスタートボタン(図示略)を操作する。これにより、当該紡績ユニット2において糸継ぎ動作が開始される。但し、オペレータによる紡績ユニット2のスタートボタンの操作は省略されてもよい。この場合、糸継台車3が紡績ユニット2に到着した後、糸継台車3による糸継ぎ動作は自動的に開始される。
【0082】
紡績機1又は複数の紡績ユニット2において「一斉に紡績を開始する」とは、複数の紡績ユニット2において、「紡績のための運転を開始する」こと(広義の紡績動作)を意味する。すなわち、「紡績」は、紡績糸10を実際に生成する動作(狭義の紡績動作)を意味するのではない。「一斉に紡績を開始するとき」とは、全ての紡績ユニット2で紡績(巻取)を開始する必要がある状態であり、糸継台車(作業台車)3が順番に作業を行っていく必要がある状態を意味する。
【0083】
本実施形態の紡績機1によれば、一斉に紡績を開始するとき、その紡績の開始前までに、複数の糸継台車3は、中央制御装置4によって、予め設定された初期配置に従って複数の糸継台車3が位置するように制御される。従来は、一斉に紡績を開始するときには、例えば、各糸継台車3は、紡績機1が前回運転を停止した時点で最後に作業を行った位置で停止し、その停止位置を維持していた。そのため、各糸継台車3がその停止位置から作業を開始すると、時間のロスが発生する等、各糸継台車3の移動(すなわち走行)が非効率になる傾向にあった。例えば、停止していた位置に近い紡績ユニット2から各糸継台車3が作業を開始すると、隣り合う他の糸継台車3との干渉が発生する場合があり、何れかの糸継台車3による作業が遅れることとなる。本実施形態の紡績機によれば、一斉に紡績を開始するとき、複数の糸継台車3が、予め設定された初期配置に従って配置される。よって、初期配置を適切に設定しておくことにより、上記したような非効率を改善できる。したがって、複数の紡績ユニット2が一斉に紡績を開始する際の糸継台車3による作業を効率的に行うことが可能となる。
【0084】
紡績開始時に専属領域Sの中央位置から糸継ぎ作業を開始すると、糸継台車3は、専属領域Sの端まで作業した後、再度離れた反対側の未作業の紡績ユニット2までの走行が必要となる。しかし、本実施形態では、専属領域Sの端から糸継ぎ作業を開始するため、このようなロスがない。
【0085】
複数の糸継台車3には、複数の紡績ユニット2に対する専属領域Sがそれぞれ割り当てられており、中央制御装置4は、初期配置として、専属領域Sにおける設定位置に複数の糸継台車3がそれぞれ位置するように、複数の糸継台車3を制御する。一斉に紡績を開始するとき、中央制御装置4によって、専属領域Sにおける設定位置に複数の糸継台車3がそれぞれ位置するように制御される。この制御により、各糸継台車3は、専属領域Sの中において効率的に作業を行うことができる。予め開始時の位置が設定されるので、上記した隣り合う他の糸継台車3との干渉も回避しやすい。
【0086】
中央制御装置4は、初期配置として、複数の糸継台車3の間隔に対応する紡績ユニット2の数が等しくなるように、複数の糸継台車3を制御する。すなわち、複数の糸継台車3は、対応する紡績ユニット2の数に関して、等間隔に配置される。並列方向において各紡績ユニット2の幅が同一であれば、複数の糸継台車3の間隔は同じ距離になる。この制御により、各糸継台車3は、例えば同じ方向に移動しながら順次作業を行っていくことで、効率的な作業を行うことができる。開始時の位置が離れているので、上記した隣り合う他の糸継台車3との干渉も回避しやすい。
【0087】
複数の糸継台車3のそれぞれには、複数の紡績ユニット2に対する移動領域X及び専属領域Sが割り当てられている。隣接する2つの移動領域Xがオーバーラップ領域Tにおいて重複している。中央制御装置4は、初期配置として、専属領域Sのみにおける設定位置に複数の糸継台車3がそれぞれ位置するように、複数の糸継台車3を制御する。オーバーラップ領域Tが設定されている場合でも、紡績開始時にはオーバーラップ領域Tが考慮されず専属領域Sに限られた状態での作業が行われる。移動領域Xは専属領域Sを含む。オーバーラップ領域Tは、移動領域Xと専属領域Sとの差分の領域に相当する。中央制御装置4による配置制御は、移動領域Xのうち、一方側のオーバーラップ領域Tの一部と、他方側のオーバーラップ領域Tの一部とが差し引かれた領域である専属領域Sのみにおいて行われる。差し引かれるオーバーラップ領域Tの一部は、専属領域Sからはみ出た部分であり、例えば、各オーバーラップ領域Tの半分である。
【0088】
中央制御装置4は、初期配置に従った複数の糸継台車3のうち、少なくとも何れか1つの糸継台車3に対応する紡績ユニット2が存在しないか又は紡績を行えない状態であるとき、紡績開始後の所定の作業順序における次の紡績ユニット2に対して作業を行う位置に当該何れか1つの糸継台車3が位置するように、当該何れか1つの糸継台車3を制御する。対応する紡績ユニット2が存在しないか又は紡績を行えない状態(いわば欠錘が生じた状態)でも、当該糸継台車3は、所定の作業順序における次の紡績ユニット2に対して作業を行うことができる。糸継台車3は、欠錘が生じた状態でも右往左往することがなく、スムーズに作業を開始することができる。
【0089】
糸継台車3は、複数の紡績ユニット2に対して糸継ぎ動作を行うスプライサ43を含む。
複数の糸継台車3が複数の紡績ユニット2に対して作業を行う紡績機1において、糸継台車3が糸継ぎ作業を行う場合に、紡績開始時の効率的な作業が可能である。
【0090】
中央制御装置4は、複数の糸継台車3のスタートボタンが全て操作されたタイミング、又は中央制御装置4が複数の紡績ユニット2に一斉に紡績を開始させるタイミングで、複数の糸継台車3を初期配置に向けて移動させる。この場合、一斉に紡績が開始するときに、複数の糸継台車3が、初期位置に向けて移動するため、紡績をスムーズに開始させることができる。
【0091】
複数の紡績ユニット2のそれぞれは、エアジェット紡績ユニットである。エアジェット紡績ユニットを備える紡績機1において、一斉に紡績を開始する際の糸継台車3による効率的な作業が可能となる。
【0092】
上記の制御において、中央制御装置4は、複数の紡績ユニット2の瞬停及び/又は停電後に、複数の紡績ユニット2で一斉に紡績を開始してもよい。この場合、瞬停及び/又は停電後の紡績開始時に、各糸継台車3は、時間のロスを可能な限り低減しつつ、効率的に作業を開始することができる。瞬停とは、紡績機1に瞬間的に電力が供給されない事象である。停電とは、瞬停よりも長い期間に渡って、紡績機1に電力が供給されない事象である。
【0093】
[第2の実施例]
中央制御装置4は、複数の紡績ユニット2における紡績条件が変更された場合に、変更後の紡績条件に基づく紡績を開始するよりも前(ロット開始前)に、初期配置に従って複数の糸継台車3が位置するように複数の糸継台車3を制御してもよい。この制御例においても、複数の糸継台車3に設けられたスタートボタンが全て操作されたとき、又は、原動機ボックス5に設けられたスタートボタンが操作されたときに、上記したステップS03と同様、中央制御装置4により、全ての糸継台車3は初期配置に従って配置される。例えば、全ての糸継台車3が初期配置に従って位置していない場合は、複数の糸継台車3は一斉に移動する(これらの何れかの操作が糸継台車3の一斉移動のトリガーとなる)。本明細書において、「一斉に移動する」とは、全ての糸継台車3の移動開始が同時であることまでは問わず、移動開始のタイミングが少しズレていてもよく、同時期に行われればよい。この場合、紡績条件が変更された場合に、各糸継台車3は、変更後の紡績条件に基づく新たな紡績を効率的に開始することができる。紡績条件とは、例えば、紡績機1における紡績速度、生成する紡績糸10の種類(番手及び/又は原料等)、ドラフト装置7の設定(ドラフト比及びローラ間距離(ゲージ)等である。
【0094】
[第3の実施例]
続いて、
図8を参照して、中央制御装置4による他の制御例について説明する。
図8に示す制御例では、
図4に示した制御例とは異なり、中央制御装置4は、複数の紡績ユニット2の運転が停止された際に、初期配置に従って複数の糸継台車3が位置するように複数の糸継台車3を移動させる。以下の制御は、例えば、紡績機1の電源が切られる前に実行される。
【0095】
この制御例においても、複数の糸継台車3に設けられたスタートボタンが全て操作されたとき、又は、原動機ボックス5に設けられたスタートボタンが操作されたときに、以下の制御が実施され、糸継台車3が一斉に移動する(これらの何れかの操作が糸継台車3の一斉移動のトリガーとなる)。まず、中央制御装置4は、複数の紡績ユニット2に対して、紡績を停止させる(ステップS11)。続いて、中央制御装置4は、ブロア82を停止させずに、ブロア82を紡績時よりも低い単位時間当たりの回転数(低回転)で運転させる(ステップS12)。そして、中央制御装置4は、初期配置に従って複数の糸継台車3が位置するように、紡績時移動速度よりも遅い移動速度で複数の糸継台車3を移動させる(ステップS13)。その後、中央制御装置4は、ブロア82を停止させる(ステップS14)。
【0096】
この制御によれば、上記の
図4に示した制御と同様、複数の紡績ユニット2が一斉に紡績を開始する際の糸継台車3による効率的な作業が可能となる。また、紡績機1の紡績終了と共に、各糸継台車3が所定位置に移動する。次に紡績機1の運転が開始されたときに、各糸継台車3の移動を待たなくてよい。よって、紡績機1の運転を効率的に開始することができる。
【0097】
このように、中央制御装置4は、複数の紡績ユニット2の運転が停止された後、ブロア82の回転速度を低下させた状態で複数の糸継台車3を移動させる。複数の紡績ユニット2の運転の停止に伴ってブロア82が停止した場合、吸引ダクト85内の静圧が低下する。しかし上記の構成によれば、糸継台車3の移動に伴いシャッター84が開放されたとしても、ブロア82の駆動状態が継続されているため、シャッター84が開放されたままとなることを防止できる。
【0098】
なお、上記の制御において、中央制御装置4は、複数の紡績ユニット2における紡績条件が変更される場合(ロット終了時)には、変更前の紡績条件に基づく紡績を終了する際に、初期配置に従って複数の糸継台車3が位置するように複数の糸継台車3を移動させてもよい。この場合、各糸継台車3は、変更後の紡績条件に基づく新たな紡績を速やかに開始することができる。このことは、紡績機1全体の稼働効率を向上させる。
【0099】
[第4の実施例]
中央制御装置4による更に他の制御例について説明する。この制御例は、紡績機1の電源が入れられたときに実行される。この制御例においても、複数の糸継台車3に設けられたスタートボタンが全て押されたとき、又は、原動機ボックス5に設けられたスタートボタンが操作されたときに、糸継台車3が一斉に移動する(これらの何れかの操作が糸継台車3の一斉移動のトリガーとなる)。例えば、まず、中央制御装置4は吸引機構81のブロア82を起動させる。その後、上記した第1の実施例のステップS03と同様、中央制御装置4は、複数の糸継台車3を移動させる。このとき、中央制御装置4は、上記した第1の実施例のステップS04と同様、各糸継台車3に対して、対応する紡績ユニット2が存在するか否かを確認(判断)させてもよい。
【0100】
続いて、ブロア82による運転が継続されることで、吸引ダクト85内の静圧が、必要圧力に到達する。言い換えれば、中央制御装置4は、ブロア82の稼働により吸引ダクト85内の静圧が吸引空気流の供給に必要な圧力に達するまでの期間に、初期位置に従って複数の糸継台車3が位置するように、複数の糸継台車3を移動させる。
【0101】
このように、吸引ダクト85における静圧が十分に上昇するまでに糸継台車3を移動させるため、中央制御装置4は、紡績中の糸継台車3の移動速度(紡績時移動速度)よりも遅い移動速度で、上記のブロア82による昇圧期間に、複数の糸継台車3を移動させる。その後、中央制御装置4は、上記した第1の実施例のステップS05と同様、複数の糸継台車3に対して、糸継ぎ動作を開始させる。
【0102】
吸引機構81を備えた紡績機1において、ブロア82の稼働により吸引ダクト85内の静圧が必要な圧力に達するには、ブロア82の起動後、一定の時間を要する。この時間(期間)を利用して複数の糸継台車3を移動させることで、各糸継台車3は、時間のロスを最小限に抑えることができる。
【0103】
ブロア82の起動中(すなわち静圧の上昇中)に複数の糸継台車3を移動させると、糸継台車3がある紡績ユニット2に対応する作業位置を通過しただけで、シャッター84が開放される可能性がある。糸継台車3を紡績時移動速度(通常の移動速度)よりも遅い移動速度で移動させることで、糸継台車3の移動によりシャッター84が開きっぱなしになることを防止できる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、糸継台車3による糸継ぎ動作は、上記したエアを用いたスプライスに限られず、機械式のノッティングであってもよく、紡績ユニット2自体も動作して糸継ぎを助けるピーシングの少なくとも一部であってもよい。ピーシングとは、パッケージ45の紡績糸10を少なくとも空気紡績装置9まで逆送させ、ドラフト装置7によるドラフト動作と空気紡績装置9による紡績動作を再開することにより、紡績糸10を連続状態とする糸継ぎ動作である。すなわち、作業台車は、上記した糸継ぎ動作の少なくとも一部を行う糸継装置を含んでもよい。
【0105】
作業台車は、複数の紡績ユニット2に対して、ボビンをセットするボビンセット装置、又はパッケージの取出し動作を行う玉揚装置の少なくとも何れかを含んでもよい。紡績機1がボビンセット装置及び/又は玉揚装置を備える台車を複数備える場合であっても、上述した実施形態と同様の、紡績ユニット2が一斉に紡績を開始する際と同じく効率的な作業が可能である。
【0106】
上記実施形態では、n台の紡績ユニット2がNセット並設されていたが、紡績ユニット2の台数はこれに限られない。また、移動領域Xにおける設定位置が、例えば、専属領域Sにおける一方側の端から数えてn番目(nは2以上N未満の自然数)に設定されてもよい。この場合も、各糸継台車3に対する紡績ユニット2の割り当てが均等であれば、初期配置における糸継台車3は紡績ユニット2の台数に関して等間隔となる。或いは、各糸継台車3に応じて、それぞれ異なる位置が設定されてもよい。
【0107】
上記実施形態では、中央制御装置4は、糸継台車3に、ユニット番号Y11からY1nへの順で複数の紡績ユニット2の糸継ぎ作業を行わせた(
図6参照)。中央制御装置4は、糸継台車3に、ユニット番号Y1nからY11への順で複数の紡績ユニット2の糸継ぎ作業を行わせてもよい。すなわち、中央制御装置4は、例えば各専属領域Sにおいて、各糸継台車3に、ユニット番号YmnからYm1への順(mは1以上N以下の自然数)で糸継ぎ作業を行わせてもよい。中央制御装置4は、各糸継台車3を、同じ方向に移動させて順次糸継ぎ作業を行わせてもよいが、各糸継台車3を、異なる方向に移動させて順次糸継ぎ作業を行わせてもよい。すなわち、中央制御装置4は、一部の糸継台車3を上記のmの数が増加する第1の方向に移動させて順次糸継ぎ作業を行わせ、他の一部の糸継台車3を上記のmの数が減少する第2の方向(第2の方向は第1の方向と反対である)に移動させて順次糸継ぎ作業を行わせてもよい。
【0108】
中央制御装置4は、初期配置として、オーバーラップ領域Tを含む移動領域Xにおける設定位置に複数の糸継台車3がそれぞれ位置するように、複数の糸継台車3を制御してもよい。一部の糸継台車3又は全ての糸継台車3に対して、オーバーラップ領域Tが設定されなくてもよい。その場合、当該糸継台車3において、移動領域Xは上記の専属領域Sと一致する。
【0109】
上記実施形態では、
図5及び
図6に示されるように、各専属領域Sにおける割り当て台数はn台であって等しく、複数の糸継台車3の間隔に対応する紡績ユニット2の数は等しくなっていた。しかし、紡績機よっては専属領域Sの設定がなされない場合もあり得る。そのような場合でも、中央制御装置4は、複数の紡績ユニット2で一斉に紡績を開始するとき、初期配置として、複数の糸継台車3の間隔に対応する紡績ユニット2の数が等しくなるように、複数の糸継台車3を制御することができる。
【0110】
停電が生じた場合の第1の実施例において、又は第4の実施例において、中央制御装置4は、紡績ユニット2で一斉に紡績を開始するとき、不図示のボビンストッカ及びオーバーヘッドブローを起動させてもよい。ボビンストッカは、巻取管であるボビンをストックするため装置である。オーバーヘッドブローは、複数の紡績ユニット2の並列方向に沿って移動し、紡績ユニット2に対して空気を噴射することによって、紡績ユニット2の清掃を行う装置である。ボビンストッカ及び/又はオーバーヘッドブローも連動して起動することで、紡績をより一層スムーズに開始させることができる。
【0111】
停電が生じた場合の第1の実施例において、中央制御装置4は、ブロア82を起動させてもよい。中央制御装置4は、ブロア82の稼働により吸引ダクト85内の静圧が吸引空気流の供給に必要な圧力に達するまでの期間に、初期位置に従って複数の糸継台車3が位置するように、複数の糸継台車3を移動させてもよい。
【0112】
図8に示される第4の実施例では、中央制御装置4は、ブロア82の回転速度を低下させた状態で複数の糸継台車3を移動させていた(ステップS12)。しかし、このようなブロア82の低回転運転が省略されてもよい。言い換えると、中央制御装置4は、ブロア82の回転速度を維持した状態で複数の糸継台車3を移動させてもよい。
【0113】
上記変形例では、中央制御装置4は、紡績時移動速度よりも遅い移動速度で複数の糸継台車3を移動させていた。しかし、このような糸継台車3の低速移動が省略されてもよい。例えば、オペレータが開いたシャッター84を閉めるのであれば、ブロア82の低回転運転又は糸継台車3の低速移動が実施されなくてもよい。紡績機1の運転停止に伴いブロア82を即座に停止させてもよい。紡績機1の運転停止に伴いブロア82を即座に停止したとしても、ブロア82への停止指令からブロア82が実際に停止するまでの期間、又は当該期間よりも少し長い期間においては、吸引ダクト85内の静圧が残っている。この間の期間に糸継台車3を初期配置に従って移動させてもよい。紡績機1の運転開始に伴い糸継台車3が通常の移動速度(例えば上記の紡績時移動速度)で移動させられてもよい。
【0114】
中央制御装置4に初期配置操作専用ボタンを設け、紡績機1の稼働時の任意のタイミングで、複数の糸継台車3を初期配置に従って移動できるように紡績機1を構成してもよい。これにより、オペレータは、上記実施形態及び変形例のタイミング以外でも、オペレータが希望する任意のタイミングで、複数の糸継台車3を移動させることができる。
【0115】
紡績ユニットは、糸道が下から上へと構成されたエアジェット紡績ユニットであってもよい。紡績ユニットは、オープンエンド精紡機等であってもよい。オープンエンド精紡機とは、上記紡績ユニット2において、ドラフト装置及び空気紡績装置の代わりにオープンエンド紡績装置(ロータ式紡績装置)が設けられた精紡機である。オープンエンド紡績装置とは、コーミングローラ又は空気流によってスライバ15の繊維を分離し、分離繊維を高速回転しているロータ内に空気流によって搬送し、ロータの内壁で繊維を収束させる装置である。
【0116】
本発明は、複数の紡績ユニットと複数の作業台車とを備えた紡績機に限られない。例えば、変形例として、複数の台車(例えば玉揚台車)を備える自動ワインダ(糸巻取機)に、本発明が適用されてもよい。上述した実施形態、実施例及び変形例における紡績ユニットが巻取ユニットに置き換えられた場合でも、当業者であれば、そのような自動ワインダを実施でき、自動ワインダにおいて、複数の巻取ユニットで一斉に複数の作業台車による作業が必要になったとき、作業を開始する際の作業台車による効率的な作業が可能であることを理解する。
【0117】
自動ワインダは、例えば、精紡ボビン又はパッケージから糸を巻き取ってパッケージを形成する公知の機械である。自動ワインダは、複数の巻取ユニットと、複数の巻取ユニットに対して作業を行う複数の作業台車とを備える。作業台車は、例えば、複数の巻取ユニットに対して、ボビンをセットするボビンセット装置、又はパッケージの取出し動作を行う玉揚装置の少なくとも何れかを含む。制御装置は、複数の巻取ユニットで一斉に複数の作業台車による作業が必要になったとき、作業の開始前までに、予め設定された初期配置に従って複数の作業台車が位置するように複数の作業台車を制御する。
【0118】
この自動ワインダによれば、複数の巻取ユニットで一斉に複数の作業台車による作業が必要になったとき、作業開始前までに、複数の作業台車は、制御装置によって、予め設定された初期配置に従って複数の作業台車が位置するように制御される。従来は、複数の作業台車が一斉に作業を開始するときには、例えば、各作業台車は、自動ワインダが前回運転を停止した時点で各作業台車が停止していた停止位置を維持していた。そのため、各作業台車がその停止位置から作業を開始すると、時間のロスが発生する等、各作業台車の移動(すなわち走行)が非効率になる傾向にあった。例えば、停止していた位置に近い巻取ユニットから各作業台車が作業を開始すると、隣り合う他の作業台車との干渉が発生する場合があり、何れかの作業台車による処理が遅れることとなる。この自動ワインダによれば、複数の作業台車が一斉に作業を開始するとき、作業の開始前までに、複数の作業台車が、予め設定された初期配置に従って配置される。よって、初期配置を適切に設定しておくことにより、上記したような非効率を改善できる。したがって、自動ワインダにおいて複数の作業台車が一斉に作業を開始する際の作業台車による効率的な作業が可能となる。例えば、全ての巻取ユニットから同時期にパッケージを排出(玉揚)するとき、又は、全ての巻取ユニットに対して同時期に新しいボビンを供給するときに、複数の台車が互いに干渉することなく作業ができる。
【0119】
複数の作業台車には、例えば、複数の巻取ユニットに対する移動領域がそれぞれ割り当てられている。制御装置は、例えば、初期配置として、複数の作業台車のそれぞれに割り当てられた移動領域における設定位置に複数の作業台車のそれぞれが位置するように、複数の作業台車を制御する。この制御により、各作業台車は、移動領域の中において効率的な作業を行うことができる。予め開始時の位置が設定されるので、上記した隣り合う他の作業台車との干渉も回避しやすい。
【0120】
制御装置は、例えば、初期配置として、複数の作業台車の間隔に対応する巻取ユニットの数が等しくなるように、複数の作業台車を制御する。すなわち、複数の作業台車は、対応する巻取ユニットの数に関して、等間隔に配置される。この制御により、各作業台車は、例えば同じ方向に移動しながら順次作業を行っていくことで、効率的な作業を行うことができる。開始時の位置が離れているので、上記した隣り合う他の作業台車との干渉も回避しやすい。
【0121】
複数の作業台車が複数の巻取ユニットに対して作業を行う自動ワインダにおいて、作業台車がボビンのセット又はパッケージの取出し等の何れの種類の作業を行う場合でも、複数の作業台車による作業開始時の効率的な作業が可能である。