(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-188421(P2021-188421A)
(43)【公開日】2021年12月13日
(54)【発明の名称】水力発電における水封式通気管の構造と、サイフォン式導水管中の気泡および空気塊を強制吐出させるルーチン的なサイフォン式導水管のメンテナンス方法。
(51)【国際特許分類】
E02B 9/00 20060101AFI20211115BHJP
【FI】
E02B9/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-96510(P2020-96510)
(22)【出願日】2020年6月2日
(11)【特許番号】特許第6785490号(P6785490)
(45)【特許公報発行日】2020年11月18日
(71)【出願人】
【識別番号】512172877
【氏名又は名称】株式会社マツザキ
(71)【出願人】
【識別番号】520195394
【氏名又は名称】株式会社共同技術コンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】100103986
【弁理士】
【氏名又は名称】花田 久丸
(72)【発明者】
【氏名】西口 謙二
(72)【発明者】
【氏名】柘植 博毅
(72)【発明者】
【氏名】松崎 将司
(57)【要約】
【課題】サイフォン式導水管内の空気塊や気泡を自然排出させ、かつ管内が負圧時でも排出口からの空気の逆流を完全阻止する逆止弁内蔵の通気管で、更に空気塊や気泡を一気に吐出排出できる大きな空気抜容量を有する通気管が無い点である。
【解決手段】水力発電のサイフォン式導水管の屈曲最上部から立直させた管本体の途中に、本管が正圧の時に開状態となる一方で、本管が負圧の時に閉状態となるスイング型逆止弁を設け、更に逆止弁上部には封止水を常時貯める封止水部を設けた水封式通気管を開示する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水力発電用のサイフォン式導水管(40)の垂直上方向に通水状態で取付けた中空管である通気管本体(11)と、該通気管本体(11)内で発電用水中の気泡を排出するスイング型の逆止弁(12)で構成された水封式通気管(10)において;
前記通気管本体(11)は発電用水車の停止時静水位より上方まで延在する垂直長を有し、
前記スイング型の逆止弁(12)はサイフォン式導水管(40)内の気泡排出方向に開閉自在に取付けられ、かつ該スイング型の逆止弁(12)はサイフォン式導水管(40)内の発電用水が定常流にある場合(正圧)の最低位動水勾配線(L)より下位に配置され、
前記スイング型の逆止弁(12)の弁体は、サイフォン式導水管(40)内の発電用水が定常流にある場合(正圧)には上方向に軸支回転して開放状態になることでサイフォン式導水管の発電用水中の気泡(13)を管外へ自動排出し、サイフォン式導水管(40)内の発電用水が瞬間的又は短時間だけ非定常流にある場合(負圧)には、停止閉鎖状態にすると共に、該弁体を、停止閉鎖状態前の定常流にある場合の運転時導水勾配線に合致する水位に残留した封止水により封止状態にすることで、大気の混入を完全に遮断するように構成されたことを特徴とする水封式通気管(10)。
【請求項2】
サイフォン式導水管(40)内の発電用水の空気塊および気泡を排除し、該発電用水を完全な密水状態にするルーチン的なサイフォン式導水管のメンテナンス方法において;
発電用水車のランナに向けノズルから吐出される発電用水の流量調整を行うニードル弁のニードル部分の出し入れ操作を短時間に繰返す所謂「あおり運転」することにより、サイフォン式導水管内に該導水管を傷めない範囲で衝撃波を意図的に発生させ、
該発生した衝撃波をサイフォン式導水管(40)内部の発電用水中を請求項1記載の水封式通気管(10)まで伝搬させて、サイフォン式導水管内に混入する気泡(13)、および水封式通気管の逆止弁(12)の下部空間にある空気溜り部(14)に滞留する空気塊を、該伝搬した衝撃波により水封式通気管の出口から発電用水と共に一気に強制吐出させ、サイフォン式導水管(40)内部の発電用水を完全な密水状態にすることを特徴とするルーチン的なサイフォン式導水管のメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水力発電におけるサイフォン式導水管内の気泡および空気塊を自然排出させる水封式通気管の構造に関する。また水力発電の管理者が必要に応じ手動操作で水撃波を発生させて、同気泡および空気塊を強制吐出させるサイフォン式導水管のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの小型水力発電システムの水源としては、川の水を貯めずに例えば流れを堰き止める堰堤の横に設けられた取水槽から直接取水する流れ込み式(自流式)が多く採用されている。そして発電用水は、取水槽から沈砂池そして緩やかな勾配の導水路を経由して発電設備の真上に設けた発電所水槽まで導水される。この場合、取水槽から発電所水槽までは、比較的大きな断面を有するコンクリート製または鋼鉄製の開渠(開水路)や大口径管を用いて導水されることが多い。そして発電所水槽に導水された大容量の発電用水は水圧鉄管内を一気に落水させ発電用水車を回転させて発電を行う。なお発電所水槽でオーバーフローとなる発電用水は、余水路を経由して川に戻される。
【0003】
この様な従来型の水力発電の導水システムでは、例えば緩やかな勾配である開渠には取水口からの汚泥が堆積されやすく、また落葉等が混入しやすい。このため水路途中には落葉除去装置も必要となる。また季節により取水量が大きく変化するために、川の流水量が少ない場合でも十分な取水量が得られるサイズの水路を設置し、余った発電用水は川に戻すという無駄な水路確保を行う必要がある。また更に、急峻な地形で比較的大きな断面を有するコンクリート製または鋼鉄製の開渠や大口径鉄管を布設するのは、土木経済的に非常に無駄が多い作業を強いられる。もちろん取水槽とそれに加えて発電所の上部傾斜地に発電所水槽の両方を建設するのも無駄となり、これら全ての要素は安価な水力発電設備の構築にはマイナス要因となる場合が多い。
【0004】
このため効率良い取水方法として、同一口径のサイフォン式導水管により取水口から発電所の水車まで、サイフォンの原理を応用して導水する方式が昔から考えられている。この導水方式には二つの異なるタイプがある。その一つは大気圧下の取水口と高低差がある同じく大気圧下の発電所水槽へ送水し、この発電所水槽に一旦発電用水を蓄水してから水車へ一気に落水するオープンタイプである。そして他のタイプは取水口と発電所の水車間の水位差を途中で無駄に抜くことなく利用するいわゆるクローズドタイプである。このうち後者のクローズドタイプのサイフォン式導水管は
図1(A)に示すように、まず河川の取水口20から発電用水を取水し沈砂池30へ導水する。当然河川の水位は変位するが沈砂池では川砂等が除去され、発電用水をサイフォン式導水管40で発電所の水車・発電機50までサイフォンの原理で導水する。サイフォン式導水管40は自然の起伏地形に沿って僅かな下降傾斜角で地形に沿って布設された後に、発電所まで急傾斜で布設された圧力管で落水させる構造である。この地形に沿って布設された部分で、サイフォン式導水管40内部の空気が溜まり易い箇所には、空気抜のための通気管100、100が布設されている。この場合の通気管は、例えば直径50〜200mm程度の塩ビ管や鋼管が用いられる。もちろんこの通気管の好適なサイズは、導水管のサイズや流入水量その他の要素により所定の計算式により決定される。
【0005】
このクローズドタイプのサイフォン式導水管では、上述の開渠や大口径管による導水やオープンタイプのサイフォン式導水管による導水方式とは異なり、比較的小径の密水状態のパイプを利用して取水口と発電所の水車間の水位差を途中で抜くことなく水位差を維持したまま起伏地形に沿って布設可能であるため、土木工事の負荷が軽く比較的安価である利点を有する。しかしながらこのクローズドタイプのサイフォン式導水管による導水は、サイフォン式導水管内を正圧状態すなわち大気圧以上の水圧を維持しつつ、気泡や空気塊が無い密水状態を維持させる必要がある。この理由はサイフォン式導水管内が負圧状態すなわち大気圧以下になると、水中のごく微小な「気泡核」を核として液体が沸騰したり、溶存気体の遊離によって小さな気泡が多数生じるキャビテーション現象が発生し、発電用水車の不安定回転やエロージョン(壊食)が発生しやすいからである。そのためクローズドタイプのサイフォン式導水管を使用する場合には、管内を常に正圧状態に保ち、この気泡を可能な限り発電用水中で生じさせない構造が要求される。
【0006】
上記クローズドタイプのサイフォン式導水管を正圧状態に保つ構造として、管の布設高を動水勾配線以下に保てば、開水路におけるような地形上の制約を受けずに送水可能である。
図1(B)には、サイフォン式導水管40および空気抜のための通気管100内の水位と、この動水勾配線との関係が示されている。すなわちこの動水勾配線は、1)大気圧、2)取水口との高低差、そして3)発電用水車へ流量変化により上下に変動する。まず発電所側の水車弁V1を閉の状態でパイプに導水すると、(B)に示すようにパイプ、通気管100が全て発電用水で満たされて通気管100内では停止時静水位まで水位は一旦上昇する。その後、発電所側の水車弁V1が開となり安定運転時(発電時)の流量が増減するに従い運転時動水勾配線は、最高位動水勾配線(H)と、最低位動水勾配線(L)の間を横切るように変化し、その際の水圧はそれぞれP1とP2の間で変動する。すなわち流量が少ない場合の水圧はP1となり、流量が多い場合の水圧はP2となる。この図では最高位動水勾配線(H)まで水位が上昇している状態が示されている。なお通気管内の水圧は、ベルヌーイの定理よりP1>P2となる。この管の布設高について、農林水産省農村振興局整備部設計課監修「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説」によれば、通気管管頭と停止時水位との余裕水頭は、最小でも0.5m程度以上を確保することが望ましいとされている。つまり安定運転時の水位は、少なくとも通気管管頭から0.5m以上は確保する必要がある。ただし水管理操作等によって流況が瞬間的または短時間だけ非定常流になった場合、このような余裕水頭の小さな地点では負圧が発生してパイプラインの破壊をもたらすことがある。例えばパイプ内で水圧が、大気圧と同等の水圧P3よりも更に下がり、負圧P4となり得る。すなわち図中では運転時動水勾配線が、負圧運転時動水勾配線(LL)の線まで下がる場合である。特に発電事業者は最大限の発電効率を求めるため、布設したサイフォン式導水管40の限界値近くまで発電用水を流す流量操作を行うことが多いため、管内が一時的にせよ負圧になり易い。このため負圧対策が十分施された通気管100が求められる。
【0007】
また更に上記クローズドタイプのサイフォン式導水管では、導水管内で不可避的に発生する小さな気泡を排出したり、通水始めの導水管内への空気混入および収縮によって局所的な圧力低下を生じやすいので、空気を排除する通気管100がサイフォン式導水管40の屈曲点に直立設置される。ただしサイフォン式導水管40内部が正圧(大気圧以上)を維持されている場合は、発生する小さな気泡は通気管100から自然排出され、上述のように発電用水車の不安定回転やエロージョン(壊食)の発生を防止することは可能であるが、サイフォン式導水管40内部が一時的であれ負圧になると通気管100から逆に外気を吸込み、発電用水車の不安定回転を引き起こす。従って負圧の際にも外気を吸込まない構成が求められている。
【0008】
サイフォン式導水管から空気を抜く手段として
図6に示す公開実用昭和59-184382に開示されているように、サイフォン式導水管の最高部上面に設けた吸気管から真空ポンプで排気する構成が考えられる。この例における取水は既存の堰堤を越えてサイフォン式導水管が布設されており、本願発明の自然流の導水とは異なるが、これに類似する構成は公開実用昭和58-151373、公開特許公報昭和54-96643、等にも開示されている。これ等はサイフォン式導水管の空気を真空ポンプで排気する構成であり、自然排出させるという本願発明の趣旨からすれば、オーバースペックの構成といえる。
【0009】
一方
図7には、配管中の空気を自然排出させ、かつ管内が負圧時でも排出口からの空気の逆流を阻止する逆止弁内蔵の空気抜弁が開示されている。この空気抜弁は(A)に示すように、筐体内のフロートにより空気が自動排出される一方で、筐体内部が負圧となった場合にも排出口から空気がサイフォン式導水管側へ逆流しないように逆止弁が取付けられている。水力発電におけるサイフォン式導水管内の水圧は発電機の負荷に応じて正圧/負圧間で変化することがあり得るため、この逆止弁内蔵の空気抜弁は一定の有用性を有する。しかしながら後述する「あおり運転」で大容量の発電用水と共に気泡および空気塊を一気に吐出排出させるには、この種の逆止弁内蔵の空気抜弁では、(B)に示す空気排出量線図で明らかなように空気抜きの容量が不十分であり、より簡便な構造で、かつ大きな空気抜容量を有する構造が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】公開実用昭和59-184382号公報
【特許文献2】公開実用昭和58-151373号公報
【特許文献3】公開特許昭和54-96643号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】MISUMI-VONA社製AF9(逆止弁内蔵の空気抜弁のカタログ)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
サイフォン式導水管内の気泡や空気塊を自然排出させ、かつ管内が負圧時でも排出口からの空気の逆流を完全阻止し、更に衝撃波により大容量の発電用水と共に気泡および空気塊を一気に吐出排出できる大きな空気抜容量を有する通気管が無い点である。特に逆止弁からの空気の逆流が確実に封止できる構造が要求される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本願発明は、水力発電のサイフォン式導水管の屈曲最上部から垂直に立てた通気管本体の途中に、サイフォン式導水管内の発電用水が定常流にある場合(正圧の時)には常に開状態を保持する一方で、サイフォン式導水管内の発電用水が非定常流にある場合(負圧の時)には閉状態となるスイング型逆止弁を管断面方向に設け、更にこの逆止弁上部には封止水を常時貯める封止水部を設けた水封式通気管を開示する。なおサイフォン式導水管内の水圧は水車・発電機の運転時における動水勾配線の変動に従い当然変動するが、ここで指称する正圧、負圧とは、管内が大気圧以上の場合を正圧、大気圧以下を負圧という。この水封式通気管の構成により、サイフォン式導水管が正圧の時には、空気溜り部の空気塊はスイング型逆止弁を押上げて封止水中を浮上し自然排出される。逆に一時的にせよサイフォン式導水管が負圧の時には、スイング型逆止弁を閉鎖し、スイング型逆止弁上部に滞留する封止水により水封され、外部からの空気逆入を確実に防止することができる。
【0014】
なおスイング型逆止弁を閉状態が一定時間以上継続すると、通水中の勾配折れ点、流入時の気泡混入、管布設時の施工誤差、等によりスイング型逆止弁直下の空気溜り部には空気塊が滞留する。この空気塊や管内の気泡は、定期的ないわゆる「あおり運転」によりサイフォン式導水管から排出することが可能である。すなわち水力発電では通常のメンテナンスの一環として、発電水車に対する吐出水量を調整するノズル口付近に付着するゴミを除去するために、ノズル口を徐々に拡大縮小運動させるいわゆる「あおり運転」が行われている。本願発明では、「あおり運転」を単にノズル口付近に付着したゴミを除去するために行うのみでなく、この「あおり運転」によりサイフォン式導水管内部で導水管を傷めない範囲で水撃波を意図的に生成させ、この水撃波を導水管内の発電用水中を上流方向に伝搬させる。そして前記屈曲最上部に設置した本願発明に係る水封式通気管の空気溜り部に滞留した空気塊や管内の気泡に対して、この伝搬させた水撃波を作用させ、発電用水と共にその滞留した空気塊や気泡を水封式通気管の出口から、発電用水と共に一気に遠隔吐出させて密水状態にするルーチン的なサイフォン式導水管のメンテナンス方法を開示する。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の水封式通気管は、空気溜り部の空気塊および管内の気泡をサイフォン式導水管の正圧を利用して自然排出させることができる。また反対に自然排出後は仮に一時的に管本体内が負圧になった場合には、封止水により管本体内への外部空気の逆流を確実に封止することが可能である。また別の実施例では、逆止弁の弁体が跳ね上がるスイング型であるため、発電所内から所定の制御手順によりサイフォン式導水管内で、導水管を傷めない範囲で水撃波を生じさせ、空気溜り部の空気塊および管内の気泡を一気に遠隔吐出させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(A)および(B)は、従来技術に係る空気抜のための通気管100、100を具備したクローズドタイプのサイフォン式導水管40の配置構成図である。
【
図2】
図2(A)は、本願発明に係る水封式通気管10の構成を示す外観図であり、(B)は逆止弁12の詳細図である(第一実施例)。
【
図3】
図3の(A)および(B)は定常流時における、本願発明に係る水封式通気管10内部にある逆止弁12の動作を説明する動作概念図である。
【
図4】
図4の(A)、(B)、および(C)は非定常流時における、本願発明に係る水封式通気管10内部にある逆止弁12の動作を説明する動作概念図である。
【
図5】
図5は、水力発電の管理者が必要に応じ手動操作で意図的に水撃波を発生させることで行なうルーチン的なサイフォン式導水管のメンテナンス方法を説明する概念図である(第二実施例)。
【
図6】
図6は、公開実用昭和59-184382に開示されているサイフォン式導水管の最高部上面に設けた吸気管から真空ポンプで排気する構成を示す概念図である。
【
図7】
図7(A)は従来技術に係る逆止弁内蔵の空気抜弁の断面図であり、(B)は空気排出量線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明は導水管内に不可避的に滞留する発電用水中の気泡および空気塊をサイフォン式導水管の正圧を利用して逆止弁を開放させて自然排出し、かつ一時的にサイフォン式導水管が負圧となった場合は、逆止弁の管内上部に滞留する封止水により外部空気の逆流を確実に封止する空気抜弁として機能する水封式通気管(第一実施例)を開示する。また単に空気抜きという機能のみでなく、発電所内の所定の制御手順によりサイフォン式導水管内で水撃波を生じさせて、発電所から遠隔場所にある上述の水封式通気管内に滞留した気泡および空気塊を強制吐出させるルーチン的なサイフォン式導水管のメンテナンス方法(第二実施例)を開示する。
【0018】
(第一実施例)
図2(A)は、本願発明に係る水封式通気管10の構成を示す外観図である。水封式通気管10はサイフォン式導水管40の垂直方向に通水状態で取付けた中空管である通気管本体11と、通気管本体11内の水平または斜め方向に固定されたスイング型の逆止弁12で構成されている。なお実際の装置では本図に示すように、逆止弁12の下部には補修時に止水する補修弁17と管内の内部水圧を表示する圧力計18が通水状態で設けられ、更に逆止弁12の上部には逆止弁より上部に滞留している封止水を整備時に排水するための弁付き排水管16が設けられているが、これ等は本願発明に係る水封式通気管10の本質的な構成要素ではない。通気管本体11の出口(排気・排水口)は、停止時静水位より高く設定されている。そして発電用水の運転時動水勾配線は発電用水の導水量に従い傾斜角が当然変動するが、この変動する運転時動水勾配線は通気管本体11に取付けた逆止弁12と停止時静水位の間を横切るように、通気管本体11の長さと逆止弁の取り付け位置が設定されている。つまり逆止弁12は、サイフォン式導水管(40)内の発電用水が定常流にある場合(正圧の時)に通気管本体11内で開状態となり、発電用水が非定常流にある場合(負圧の時)に閉状態となる位置に設置されている。なお
図2(A)では通気管本体11がクランク形状に屈曲した状態が図示されているが、原理的には直線状の例えば直径10cm程度の塩ビパイプで構成してもよい。
図2(B)には、一例としての逆止弁12の上部断面図と側面断面図が示されている。すなわち逆止弁12は通気管本体11を塞ぐように設置された円形の比重が略1の樹脂製である。一端を弱いコイルバネで付勢され蝶番でスイング動作可能とし、かつ他端は開閉自在の構造となっている。このため逆止弁12下部に滞留した空気塊や気泡の浮力により開放状態となり、この滞留した空気塊や気泡を自然排出できる構造を有している。逆止弁12はゴム製O-リングでゴムパッキングして気密性を向上させてもよい。
【0019】
次に
図3の(A)および(B)は、本願発明に係る水封式通気管10内部に固定設置された逆止弁12の定常流時(正圧時)の動作を示す動作概念図である。スイング型の逆止弁12の弁体は、通気管本体11の長軸上方向へ上述のように水平方向または一定の斜角で、軸支開放または軸支閉鎖する構造である。まず発電所内の水車弁V1が閉の状態でパイプ内に導水すると、一定時間後には(A)に示すように、パイプ、通気管本体11は停止時静水位まで全て発電用水で満たされる。この場合、逆止弁12は正圧となり、水に対する比重略1の素材を用いて作られた逆止弁12の弁体は、水中では自由浮遊するため開放自在の状態であり、このためパイプ内に残留している空気塊、および導水中に、勾配折れ点、流入時の気泡混入、管布設時の施工誤差、等により発生した気泡13は、逆止弁12を押上げて自動排出される。この様に逆止弁12のスイングする弁体の重量を弁体自身の浮力と完全同一にすれば水中では無重力状態となり、僅かな気泡でもその浮力により弁体は押上げられて気泡13は自動排出される。
【0020】
次に(B)では水車弁V1を開の状態とし発電が開始されると、その発電量はパイプ内の流量変化により当然変化する。この流量変化に伴い正圧を保ちつつ、パイプ内の水位は、水車・発電機50の安定発電範囲での最少流量に対応する最高位動水勾配線H(正圧P1)と、安定発電範囲での最多流量に対応する最低位動水勾配線L(正圧P2)の間で変化する。なお本願発明の水封式通気管10では、計画最多流量に対応する最低位動水勾配線Lよりも更に下位に(すなわちサイフォン式導水管40に近い方に)逆止弁12が設置されているため、逆止弁12の上部は発電用水で常に満たされている。従って逆止弁12は定常流下では常に発電用水中で開の状態を保ち、本図に示すようにサイフォン式導水管40内に発生した気泡13は常に逆止弁12を押上げて自動排出される。
【0021】
実際の水力発電では、水管理の誤操作あるいは予期せぬ水流の乱れ等によってサイフォン式導水管40内の流況が瞬間的に非定常流となり、水圧が負圧になる場合がある。
図4(A)は運転時動水勾配線が、逆止弁12の下すなわち負圧運転時動水勾配線LL(負圧P4)まで下がった場合の逆止弁12の状態を示している。この場合の管内水圧は、最低運転時動水勾配線Lで計測される水圧P2或いは大気圧P3よりも更に低い例えば水圧P4となり、仮に逆止弁12を有しない
図1の従来例に係る通気管100であれば、通気管から外気がサイフォン式導水管40内に逆流し、管内が負圧となりキャビテーション現象を生じさせる危険性を有している。これに対し本願発明では、この様な負圧の場合でも
図4(A)に示すように、逆止弁12上部の封止水部15に封止水を残留させたまま逆止弁12は瞬時に閉の状態となる。このためこの残留した封止水により、サイフォン式導水管40内の発電用水は外気から遮断され、外気の混入を完全に遮断することができる。更にまた
図4(B)に示すように、仮に逆止弁12が閉の状態にある一定時間内に気泡13が導水管空気溜り部14に一定容量だけ空気塊として蓄積されても、瞬間的又は短時間の非定常流がその後に例えば最低位運転時動水勾配線Lすなわち正圧P2に復帰すれば、
図4(C)に示すように再び逆止弁12は開の状態となり空気塊は気泡13として自動排出される。この様に逆止弁12の一連のこの動作により、管内が負圧となっても封止水部15の封止水により確実に外気の侵入を防ぎ、また正圧に復帰すれば空気溜り部14に滞留した気泡13は順次自動排出される。
【0022】
(第二実施例)
次に
図5を参考にして、水力発電の管理者が必要に応じ手動操作で意図的に導水管を傷めない範囲で水撃波を発生させて、第一実施例で述べた通気管本体11の逆止弁12の下部の空気溜り部14にできた空気塊や気泡13を、強制吐出させるルーチン的なサイフォン式導水管のメンテナンス方法を説明する。なお水撃作用またはウォーターハンマーとは、水圧管内の水流を急に締め切ったときに、水の慣性で管内に衝撃波と高水圧が発生する現象である。例えば水力発電のペルトン水車の羽根車、すなわちランナには、その円周上にスプーンのような形をしたバケットがいくつも装着されている。バケットはノズルからの吐出水を反対方向に逃がしながらエネルギーを受け水車を回転させる。ランナに向け水流を吐出するノズルは、横軸のものには1本〜2本、立軸のものには複数本がランナの周囲を取り囲むように配置されている。この流量調整にはニードル弁が用いられる。ニードル弁のニードル部分の比較的浅い出し入れ操作は、ニードル弁先端に付着するゴミ等を除去するメンテナンス手段として一般に行われている。これに対し本願発明では、ニードル弁のニードル部分の出し入れ操作を、従来より更に深く行い、この操作を短時間に繰返すことにより衝撃波を導水管を傷めない範囲で人為的に発生させる。この場合、このニードル部分のニードル弁の先端部分(ニードルチップ)への出し入れ操作を適度な深さで行えば、それに応じた衝撃波がサイフォン式導水管40内を伝搬する。そのニードル部分の出し入れ操作の程度と衝撃波の強度の理論的な関係については、本願発明の本質的課題ではないので詳細は割愛するが、どの程度の深さでニードル弁のニードル部分の出し入れ操作を行うかについては、サイフォン式導水管40のサイズと発電所から上述の通気管本体11までの距離により、経験則により習熟することは可能である。
図4に示すように、逆止弁12の下部空間の空気溜り部14には、サイフォン式導水管40から上昇した気泡により形成された空気塊が自動排出されずに滞留することがあるが、この空気塊はキャビテーション現象の発生の防止あるいは発電用水車の安定回転やエロージョン(壊食)の発生を防止するために、発電用水から除去されるべきものである。そのため発電所の制御室でのニードル弁のニードル部分の出し入れ操作(あおり運転)により遠隔発生させた衝撃波を、この空気塊に直接作用させて、
図5に示すように大容量の発電用水と共に一気に空気塊と気泡13を吐出排出させる。なおこうした大容量の発電用水の吐出排出は、
図7に示す従来技術に係る逆止弁内蔵の空気抜弁では不可能である。これに対し本願発明では、上述のように「あおり運転」を定期的に発電所の制御室で行うことにより、発電用水中の空気塊と気泡13を排除し、発電用水を完全な密水状態にする遠隔操作を簡便に実施することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本願発明に係る水封式通気管10では、従来技術に係る逆止弁を有しない通気管と異なり、たとえ導水管40内の流況が瞬間的又は短時間だけ非定常流となり水圧が負圧となった場合でも、逆止弁12上部の封止水部15に残留させた封止水により外部からの空気混入を確実に遮断することが可能となる。またサイフォン式導水管内部に溜まった無用な空気塊を、ニードル弁のニードル部分の簡単な操作(あおり運転)により一気に除去することが可能となる。
【符号の説明】
【0024】
1 発電システム
10 水封式通気管
11 通気管本体
12 逆止弁
13 気泡
14 空気溜り部
15 封止水部
16 排水管
17 補修弁
18 圧力計
19 支柱
20 河川(取水口) 30 沈砂池
40 サイフォン式導水管
50 水車・発電機