【実施例1】
【0010】
<1>全体構成
図1に、本発明に係る裏込め用袋材A(以下、単に「袋材A」ともいう。)の全体構成を示す。
本発明に係る袋材Aは、土留材を、軸方向Xおよび周方向Yに複数連結して構造物を構成する際に、土留材の背面に取り付ける袋本体10を少なくとも有する部材である。
この袋本体10の内部に裏込め材を充填することで、袋本体10を膨張させ、土留材と地山との間の隙間を、膨張させた袋本体10の内部に充填された裏込め材で満たすことによって、土留材と地山との一体化を図る。
【0011】
<1.1>土留材
土留材は、地山の表面近傍に複数連結して、地山の土留機能を発揮する構造物を構成するための部材である。
土留材には、種々の形状の製品を用いることができ、具体的には、波形鋼板の周囲に連結用のフランジとなるフレームを接合してなるライナープレートやJプランクプレート、その他立坑やトンネルの土留材として使用可能な公知の部材を用いることができる。
なお、前記した波形鋼板の波形状は、正弦波形状、矩形波形状、三角波形状、台形波形状、またはこれらの組合せに係る形状など、種々の形状が含まれる。
本実施例では、土留材として、略正弦波形状を呈する波形鋼板B1の周囲に、連結用のフランジとなるフレームB2を接合してなる、ライナープレートBを用いている。
以下、各構成要素の詳細について説明する。
【0012】
<2>袋本体
袋本体10は、裏込め材を内部に充填するための部材である。
袋本体10の前面側には、袋内部と連通する筒状の注入口20を設けており、この注入口20を波形鋼板B1に設けた挿通孔B11に挿通して、ライナープレートBの前面に露出させた注入口20から裏込め材を注入し、袋本体10の内部に裏込め材を充填させて使用する。
【0013】
<3>袋本体の形状
袋本体10の形状は、特段限定せず、使用する土留材の形状に応じて適宜設計すればよい。
本実施例では、袋本体10の形状を、矩形状の土留材と略同等、若しくはやや小さく構成した形状とし、生地の周囲の一部または全部を、縫合や接着などの公知の方法を用いて袋形状としている。
【0014】
<4>生地の素材
袋本体10を構成する生地の素材は、不織布、織布など、可撓性や伸縮性を有する素材を用いることができる。
【0015】
<5>生地の伸度
袋本体10を構成する生地の伸度は、袋本体10の縦方向を構造物の軸方向Xとし、かつ袋本体10の横方向を構造物の周方向Yと定義したときに、前記袋本体10を構成する生地の縦方向側の伸度が、前記生地の横方向側の伸度よりも大きくなるよう構成する。
これは、袋本体10に裏込め材Cを充填した際に、袋本体10の膨張方向を制御するためである。
【0016】
なお、袋本体10に使用する生地は横方向側に伸びない態様とすることが好ましい。この「伸びない態様」とは、生地の伸度が0%であることのみを示すものではなく、例えば30%以下を意図するものである。
本実施例では、袋本体10に使用する生地の縦方向側の伸度を50%以上とし、横方向側の伸度を30%以下としている。
【0017】
<6>その他の構成
袋材Aには、土留材に対し、袋材Aを正しい位置で設置するための位置決め部30を設けても良い。
位置決め部30は、袋本体10の周囲から張り出すように設けた帯状部材で構成することができ、この帯状部材を土留材の周面に沿わせて固定すること等によって、ライナープレートBに対し所定の位置に袋本体10をセットすることができる。
本実施例では、袋本体10の上縁に位置決め部30を設けており、この位置決め部30を、ライナープレートBの上部のフレームB2の背面側の縁部と、前面側の縁部とで折曲して鉤状に構成することで、当該フレームB2に袋本体10を係止して位置決めした態様としている。
なお、本実施例では、ライナープレートBのフレームB2に、隣り合う別体のライナープレートBとの結合に用いる連結孔B21が設けてあるため、予め位置決め部30に、連結孔B21の位置に対応する取付孔31を設けておくか、現場設置時に、連結孔B21に重なる箇所を穿孔して取付孔31を形成してもよい。
【0018】
<7>使用例1(
図2,
図3)
図2,3を参照しながら、本発明に係る袋材の使用例について説明する。
【0019】
(1)ライナープレートへの設置〜充填作業の初期段階(
図2(a))
まず、袋材Aを、ライナープレートBの背面に取り付ける。
このとき、袋材Aの上縁に設けた位置決め部30をライナープレートBのフレームB2上部に沿わせるように折曲させ、上下に隣接するライナープレートBの連結機構を流用して取り付けることができる。
注入口20は、ライナープレートBの前背面を貫通させて設けてある挿通孔B11に差し込んで、ライナープレートBの前面側に露出させておく。
この状態で注入口20から裏込め材Cの注入を開始すると、裏込め材Cは袋材Aの下部から徐々に充填されていく。
【0020】
(2)縦方向への伸展促進(
図2(b))
裏込め材Cの注入が進んでいくにつれ、袋材Aは裏込め材Cの注入圧によって生地がもつ伸縮性に従って伸び、膨らみ始める。
このとき、本発明に係る袋材Aは、取り付け状態において、縦方向(ライナープレートBの軸方向、
図2における紙面上下方向に相当。)の伸度は、横方向(ライナープレートBの周方向、
図2における紙面奥行き方向)の伸度よりも大きく構成してあるため、袋材Aは、縦方向の伸びに応じて、
図2(b)に示すように、紙面上下方向および紙面左右方向に膨らんでいく。
その結果、注入口20よりも上部の空間に対しても、袋材Aの伸展および膨張に伴って裏込め材Cが充填されることとなる。
【0021】
(3)横方向への伸展抑制(
図3)
一方、本発明に係る袋材Aの横方向(ライナープレートBの周方向、
図2における紙面奥行き方向に相当。)の伸度は小さく構成してあるため、袋材Aは、横方向には伸びず、充填前の袋材Aの横長から大きく変化することはない。
そのため、
図3に示すように、裏込め材Cの注入後に、袋材Aの側端がライナープレートBの側端からはみ出さず、袋材Aの側端位置がライナープレートBの背面内に収まるため、ライナープレートBの周方向に連結する別体のライナープレートBの連結を妨げることがない。
したがって、作業時間の制約などから、一周分のライナープレートBの連結作業を一度に完成できない場合であっても作業の再開に支障が生じにくい。
したがって、本発明に係る袋材Aは、終電と始発の間に作業を行う必要がある、鉄道での立坑構築工事などに特に好適である。
【0022】
<8>使用例2(
図4)
本発明に係る袋材Aは、構造物を構成する土留材の全てについての設置を要するものに限らない。
例えば、
図4に示すように、地山Dの内周側に設ける構造物を構成する複数のライナープレートBのうち、側端を構成するライナープレートBに袋材Aを取り付けておき、この袋材Aに裏込め材Cを充填して、構造物の両側端のライナープレートBと地山Dとの間に閉塞空間を形成し、この閉塞空間に裏込め材Cを充填して構造物と地山Dとの間を裏込め材Cで一体化することもできる。
【実施例2】
【0023】
<1>形状保持材の配置(
図5(a))
図5に、実施例2に係る裏込め用袋材の概略図を示す。
本発明に係る袋材Aは、袋本体10の内部に形状保持材40を設けることもできる。
形状保持材40の形状は特段限定せず、棒状部材や板状部材などを採用することができる。また、形状保持材40の素材は、離隔距離の保持機能の観点から、弾性や伸縮性を有しない素材が望ましい。
本実施例では、形状保持材40を矩形状のシート体で構成しており、当該シート体の大きさを、充填前の袋材Aの平面形状の大きさとほぼ同じに構成している。
そして、形状保持材40の上縁および下縁を袋材Aに接合し、形状保持材40の両側縁は袋材Aと接合せずに開放した状態としている。
【0024】
<2>使用イメージ(
図5(b))
本実施例に係る袋材Aによれば、裏込め材Cの注入に伴い、袋本体10は縦方向に伸展して紙面上下方向に膨らもうとするものの、形状保持材40によって紙面上下方向への膨らみが抑制され、紙面左右方向に膨らむことになる。その結果、袋本体10はライナープレートBの背面と地山D表面を押しつけるように膨らみ、両者の間の隙間を埋めるように作用する。
また、形状保持材40の両側縁が袋本体10と接合せずに開放してあることから、注入口20から充填される裏込め材Cがこの開放部分から形状保持材40の背面にも回り込むため、袋本体10の内部の充填空間に均一に裏込め材Cを充填するにあたって、形状保持材40が障害になることもない。
【実施例4】
【0026】
<1>二叉部の形成(
図7)
図7に、実施例4に係る裏込め用袋材の概略図を示す。
本実施例に係る袋材Aは、実施例2で示す形状保持材40を設けつつ、袋本体10の縦方向下部側において、前記した形状保持材40を挟んで、前記袋本体10を前後方向に分岐した二叉部50を形成している。
形状保持材40の上縁は、袋本体10の上部と接合し、形状保持材40の下縁は袋本体10の下部側に設けた二叉部50の根本部分と接合している。
形状保持材40の両側縁は、袋本体10と接合せずに開放した状態とする。
また、形状保持材40の表面には、実施例3に示す連通部44を形成しておいても良い。
【0027】
なお、本発明に係る袋材Aにおいて、前記二叉部50を設けるにあたって、前記形状保持材40の構成は必須ではない。例えば袋本体10の生地の縫製位置を調整するなどの方法によって、予め二叉部50を備えた袋材Aとすることができる。
【0028】
<2>使用イメージ(
図8)
図8に、二叉部50を設けた裏込め用袋材の使用イメージを示す。
本実施例では、土留材であるライナープレートBからなる構造物において、ライナープレートBの縦方向に隣接するライナープレートB間に断面H形状の補強リングEを介在させている。
この補強リングEを構成する地山D側のフランジE1に、形状保持材40の下縁を当接させることで、袋本体10の二叉部50の前面側の分岐端51が補強リングEのウェブ内に位置し、二叉部50の背面側の分岐端51が補強リングEと地山Dとの間に位置することとなる。
この状態で裏込め材Cの充填を行うと、ライナープレートBと補強リングEとの間の隙間と、補強リングEと地山Dとの間の隙間の両方に、裏込め材Cが確実に充填され、地山D、土留材および補強リングEとの間を強固に一体化することができる。