【実施例1】
【0016】
図に示す例は、雌ねじと雄ねじとが螺合するねじ構造を構成するねじ部材のうちの雄ねじを具備したボルト(ねじ部材)である。
この例は、ねじ山が設けられたボルト本体に、規格領域と増加作用領域を先端部から順に備える(
図8参照)。
前記規格領域は、雄ねじの規格ねじが、一回りから四回り穿設された領域である(
図4参照)。前記規格ねじは、摩擦トルクを増強させる機能を持たない雄ねじ(締結前においては手で螺合できる雄ねじ)を備えた部分である。
ボルト本体の先端部に設けられた規格領域は、ねじ穴にボルトを正確にねじ入れるためのリードねじとして設けられている。
尚、前記リードねじは、緩み止め機能を与える締結位置に応じて五回り以上の規格ねじを穿設してもよい。
【0017】
前記増加作用領域は、前記規格ねじの頭部Aが遊び側へ屈曲した形状を持つ作用ねじが設けられた領域である(
図5乃至
図7)。
この部分においては、摩擦トルクを増強させる形態を持たない規格ねじから、頭部Aを屈曲させることで摩擦トルクを増強させる作用ねじへの移行が行われる。
尚、ここで「遊び側」とは、締め付け時に推進力を生むことなく遊びが生じるボルト先端側(以下その側に面する方向を「前方」と言う)を指し、逆に、締め付け時に推進力を生むボルトヘッド側(以下その側に面する方向を「後方」と言う)を「推進側」と言う
【0018】
この例の規格ねじのねじ山は、遠心方向へ向かって先細りとなった対照的な断面形状を備える。
前記ねじ山は、当該ボルトの螺旋軸から遠心方向へ延びる遠心線に対して前後相反する方向へそれぞれ30度傾斜した前方フランク面及び後方フランク面を当該遠心線に対して対称的に備える(
図4参照)。
加えて、両フランク面の先端部Cに双方が滑らかに連続する凸曲面を備え、両フランク面の先端部Cの反対側に位置する裾部Dに滑らかな凹曲面を備える。
尚、摩擦トルクを増強させない形態であれば前記遠心線Pに対して対称的なフランク面を有するねじ山に限るものではない。
【0019】
前記増加作用領域は、前記ボルト本体の表面に設けられたねじ山が、前記規格ねじにおけるねじ山の胴部(例えば、ねじ山の裾部Dから有効径の部位までの領域)Bの形態を維持しつつ、当該ボルト本体の後方(ヘッド側)へ進むに従って頭部Aの屈曲量が単調増加する領域である。
前記増加作用領域は、その領域中において頭部Aの屈曲が始まり、且つその屈曲量が段階的に又は連続的に徐々に増加するように成形され、当該規格ねじの頭部Aが雌ねじとの間で相互の干渉による摩擦トルクの増強を発生させる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじが形成される。
【0020】
前記作用ねじは、当該規格ねじの頭部Aが雌ねじとの干渉によりスプリングバック(
図4参照)を伴う変形が生じる程度に屈曲した形状を持つことによって、ねじ山の形態を損なうことの少ない安定したものとなる。
尚、ここでスプリングバックとは、加圧によって生じた変形の一部又は全部が圧力を除くことによって解消され、元の形態の一部又は全部が復元される現象をいう。
【0021】
この例は、ボルト本体のねじの先端部に具備する前記規格領域と、それに続く前記増加作用領域を備えていれば、その後方のねじ山がすべて規格ねじであっても緩み止め効果を得ることができる。
前記規格領域をボルト本体の先端部にリードねじとして配置することによって、螺合相手となる雌ねじの螺旋軸に当該ボルト本体の雄ねじの螺旋軸が合致する様に誘導され、前記規格領域に続いて前記増加作用領域が備えられることによって、当該増加作用領域がねじ入れられるに従って、徐々に頭部Aの摩擦トルクが累積し、ねじ締結時にあっては、頭部Aのスプリングバックに伴う雌ねじへの加圧が更に加わることによって、安定した緩み止め機能が担保されることとなる。
【0022】
前記ボルト本体は、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、更に、前記規格領域、前記増加作用領域又は減少作用領域を選択的に繋げることができる。
殊に、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、更に、前記増加作用領域又は減少作用領域を選択的に繋げておき、好ましくは、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、同増加作用領域を一定長周期(好ましくはボルトがねじ入れられる長さ以下の周期)でつなげておくことによって、当該ボルト本体の全長について平均的に作用領域を得ることができる他、螺合相手となるねじ山及びフランク面の消耗が満遍なく生じ、緩み止め機能を長く維持することができる。
【0023】
尚、前記減少作用領域は、前記ボルト本体の表面に設けられたねじ山が、前記規格ねじの胴部Bの形態を維持しつつ、当該ボルト本体の後方(ヘッド側)へ進むに従って頭部Aの屈曲量が段階的に又は連続的に単調減少する領域である。
前記減少作用領域は、その領域中において頭部Aの屈曲量が徐々に減少するように成形され、当該規格ねじの頭部Aが雌ねじとの間でスプリンバックによる雄ねじへの加圧等による摩擦トルクの増加が生じる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじが徐々にプリべリングトルクを増大させない規格ねじに変化する。
ここで、プリベリングトルクとは、締結時以外のねじ込み又はねじ戻しに必要なトルクであって、締結時以外のねじ込み又はねじ戻しに必要なトルクが発生する仕掛けを施したねじ部材をプリべリングトルク型ねじ部材という。
【0024】
この例のねじ山は、前記規定領域、増加作用領域及び減少作用領域のいずれにあっても、遊び側へ屈曲した頭部Aを含む前後フランク面は、前記ねじ山が形作る螺旋の遠心方向Pに面し、その傾斜角度は、当該ねじ山の遠心線Pに対して5度以上となるように設定されている(
図1、
図3又は
図7(B)参照)。
【0025】
この例は、ねじ山の頭部Aの屈曲の中心Oは、当該ねじ山の断面内の中央に位置し、且つ当該ねじ部材の有効径の前記螺旋軸側に設定されている。
前記作用ねじにおける前記ねじ山の頭部Aの最大屈曲角度は、当該ねじ山の遠心線Pに対して20度以上30度以下に設定されている(
図5乃至
図7参照)。
尚、前記ボルト本体と螺合する雌ねじが切られたねじ穴は、前記規格領域のねじ山のフランク面に倣うフランク面を備え、前記増加作用領域及び減少作用領域の摩擦ねじ部及び変形ねじ部が上記のごとく良好に機能する遊びを設けた雌ねじを備えるものとする
【実施例2】
【0026】
本発明による緩み止めねじ部材は、例えば、ナットその他のなどのねじ穴を備えたねじ部材(以下「雌ねじ部材」という)として構成することもできる。
この際、当該雌ねじ部材の螺合相手となるねじ部材(以下「雄ねじ部材」という)として、例えば、前記規格領域のみが設けられたボルトを使用する。
図9に示す例は、前記ボルトが螺合する雌ねじ部材のねじ穴に、規格領域と増加作用領域を先端部(ねじ穴の入り口側)から順に備える構成を採る。
【0027】
この例の前記規格領域は、雌ねじの規格ねじが、一回りから四回り穿設された領域である(
図9参照)。当該雌ねじ部材の先端部に設けられた規格領域は、ねじ穴にボルトを正確にねじ入れるためのリードねじとして設けられている。
この例の前記規格ねじは、雄ねじとの間で摩擦トルクを増強させる機能を持たない雌ねじ(締結前においては手で螺合できる雌ねじ)を備えた部分である。
尚、前記リードねじは、緩み止め機能を与える締結位置に応じて五回り以上の規格ねじを穿設してもよい。
【0028】
前記増加作用領域は、前記規格ねじの頭部Aが、遊び側(締め付け時に推進力を生むことなく遊びが生じる側へ屈曲した形状を持つ作用ねじが設けられた領域である(
図9参照)。
この部分においては、摩擦トルクを増強させる形態を持たない規格ねじから、頭部Aを屈曲させることで摩擦トルクを増強させる作用ねじへの移行が行われる。
【0029】
この例の規格ねじのねじ山は、向心方向へ向かって先細りとなった対照的な断面形状を持ち、その螺旋軸から遠心方向へ延びる遠心線Pに対して前後相反する方向へ30度傾斜した前方フランク面及び後方フランク面を備える。
加えて、両フランク面の先端部Cに、平面又は双方が滑らかに連続する凸曲面を備え、両フランク面の先端部Cの反対側に位置する裾部Dに滑らかな凹曲面を備える。
尚、雄ねじとの関係で摩擦トルクを増強させる形態を持たない形態であれば前記遠心線Pに対して対称的なフランクを有するねじ山に限るものではない。
【0030】
前記増加作用領域は、前記ねじ穴の内面に設けられたねじ山が、前記規格ねじにおけるねじ山の胴部(例えば、ねじ山の裾部Dから有効径の部位までの領域)Bの形態を維持しつつ、当該雌ねじ部材のねじ穴の奥へ進むに従って頭部Aの屈曲量が単調増加する領域である。
前記増加作用領域は、その領域中において頭部Aの屈曲が始まり、且つその屈曲量が段階的に又は連続的に徐々に増加するように成形され、当該規格ねじの頭部Aが雄ねじとの間で相互の干渉による摩擦トルクの増加が生じる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじが形成される。
【0031】
この例も、雌ねじ部材の開口部(入り口側)に具備する前記規格領域と、それに続く前記増加作用領域を備えていれば、その後方のねじ山がすべて規格ねじであっても緩み止め効果を得ることができる。
前記規格領域を雌ねじ部材の開口部にリードねじとして配置することによって、螺合相手となる雄ねじの螺旋軸に当該雌ねじ部材の雌ねじの螺旋軸が合致する様に誘導され、前記規格領域に続いて前記増加作用領域が備えられることによって、当該増加作用領域がねじ入れられるに従って、徐々に頭部Aの摩擦トルクが累積し、ねじ締結時にあっては、頭部Aのスプリングバックに伴う雄ねじへの加圧が更に加わることによって、安定した緩み止め機能が担保されることとなる。
【0032】
前記雌ねじ部材は、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、更に、前記規格領域、前記増加作用領域又は減少作用領域を選択的に繋げることができる。
殊に、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、更に、前記増加作用領域又は減少作用領域を選択的に繋げておき、好ましくは、前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域に続いて、同増加作用領域を一定長周期(好ましくはボルトがねじ入れられる長さ以下の周期)でつなげておくことによって、当該ボルト本体の全長について平均的に作用領域を得ることができる他、螺合相手となるねじ山及びフランク面の消耗が満遍なく生じ、緩み止め機能を長く維持することができる。
【0033】
尚、両側にねじ穴の入り口を持つナットなどの場合には、先端部及び後端部に前記規格領域(リードねじ)及び前記増加作用領域を配置した上で、前記規格領域、前記増加作用領域又は減少作用領域をねじ穴の全長にわたって前後対称的に配置することもできる。
【0034】
前記減少作用領域は、前記雌ねじ部材のねじ穴の内面に設けられたねじ山が、前記規格ねじの胴部Bの形態を維持しつつ、当該雌ねじ部材のねじ穴の奥へ進むに従って頭部Aの屈曲量が段階的に又は連続的に単調減少する領域である。
前記減少作用領域は、その領域中において頭部Aの屈曲量が徐々に減少するように成形され、当該規格ねじの頭部Aが雄ねじとの間でスプリンバックによる雄ねじへの加圧等による摩擦トルクが生じる程度に屈曲した形状を持つ作用ねじが徐々にプリべリングトルクを増大させない規格ねじに変化する。
【0035】
この例のねじ山は、前記規定領域、増加作用領域及び減少作用領域のいずれにあっても、前記遊び側へ屈曲した頭部Aを含む前後フランク面は、前記ねじ山が形作る螺旋の向心方向Pに面し、その傾斜角度は、当該ねじ山の遠心線Pに対して5度以上となる様に設定されている(
図7(B)参照)。
この例は、ねじ山の頭部Aの屈曲の中心Oは、当該ねじ山の断面内の中央に位置し、且つ当該ねじ部材の有効径の外側に設定されている。
前記作用ねじにおける前記ねじ山の頭部Aの最大屈曲角度は、当該ねじ山の遠心線Pに対して20度以上30度以下に設定されている。
【0036】
以上の如く、上記緩み止めねじ部材によれば、最大屈曲角度や、規格領域と作用領域の組み合わせ又は領域比率を調整することにより、適切にプリべリングトルクを制御することができる。