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特開2021-189100プローブ分子探索装置、及び、プローブ分子の探索方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-189100(P2021-189100A)
(43)【公開日】2021年12月13日
(54)【発明の名称】プローブ分子探索装置、及び、プローブ分子の探索方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20211115BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20211115BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20211115BHJP
   G01N 27/48 20060101ALI20211115BHJP
   G01N 27/28 20060101ALI20211115BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20211115BHJP
【FI】
   G01N27/416 336B
   G01N33/483 F
   G01N33/543 525U
   G01N27/48 311
   G01N27/28 301Z
   G01N27/327
   G01N27/28 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-96780(P2020-96780)
(22)【出願日】2020年6月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「レドックス環境応答能を持つ歯周病細菌由来の膜小胞」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045FB05
2G045GC20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】標的分子を無標識で電気化学的に検出する方法に用いることができるプローブ分子を迅速に探索できるプローブ分子探索装置を提供する。
【解決手段】電極付きウェルプレート110の電極と接続される接続具102と、電極の電位を掃引し、電流応答を測定する電気化学測定デバイス103と、酸化還元活性分子を含有するコントロール検体液について、測定された電流応答を、予め定めた基準と比較する接続確認部と、比較の結果、電流応答が、予め定めた基準を満足する場合、更に標的分子を添加して、検体液を調製するよう促す情報を表示部と、検体液が収容されたウェルの電流応答を、コントロール検体液の電流応答と比較する比較部とを有し、表示部は、検体液とコントロール検体液の電流応答の比較の結果、検体液の電流応答の方がより小さい場合、プローブ分子と標的分子とが複合体を形成可能だと判断するための情報を表示する、プローブ分子探索装置。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収容された液体と接触するように配置され、標的分子と特異的に結合し複合体を形成するためのプローブ分子が固定された電極を有するウェルが二次元アレイ状に配列されてなる電極付きウェルプレートの前記電極と接続される接続具と、
前記接続具を介して前記電極と接続され、前記電極の電位を掃引し、前記電極の電流応答を測定する電気化学測定デバイスと、
前記ウェルに収容された酸化還元活性分子を含有するコントロール検体液について、前記電気化学測定デバイスにより測定された電流応答を、予め定めた基準と比較する接続確認部と、
前記比較の結果、前記電流応答が、予め定めた基準を満足する場合、前記コントロール検体液に更に標的分子を添加して、前記ウェル内で検体液を調製するよう促す情報を表示部と、
前記検体液が収容されたウェルの電極の電位が前記電気化学測定デバイスにより掃引されて測定される電流応答を、前記コントロール検体液の電流応答と比較する比較部と、を有し、
前記表示部は、前記検体液と前記コントロール検体液の電流応答の比較の結果、前記検体液の電流応答の方がより小さい場合、前記プローブ分子と前記標的分子とが複合体を形成可能だと判断するための情報を表示する、プローブ分子探索装置。
【請求項2】
前記酸化還元活性分子が、[Fe(CN)3−、[Fe(CN)4−、[Ru(CN)3−、[Ru(CN)4−、[Mn(CN)3−、[Mn(CN)4−、[W(CN)3−、[W(CN)4−、[Os(CN)3−、[Os(CN)4−、[Mo(CN)3−、[Mo(CN)4−、[Cr(CN)3−、[Co(CN)3−、[PtCl2−、[SbCl3−、[RhCl3−、及び、[IrCl2−からなる群より選択される少なくとも1種の金属錯体の塩である、請求項1に記載のプローブ分子探索装置。
【請求項3】
前記電流応答がピーク形状である、請求項1又は2に記載のプローブ分子探索装置。
【請求項4】
前記プローブ分子が、タンパク質、ペプチド、核酸、及び、核酸類似体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプローブ分子探索装置。
【請求項5】
二次元アレイ状に配列されたウェルを有し、前記ウェルは、内部に液体を収容可能であり、前記ウェルの内部には、収容された前記液体と接触するように電極が配置され、前記電極には標的分子と特異的に結合し複合体を形成するためのプローブ分子が固定されてなる、電極付きウェルプレートの前記ウェルに収容された酸化還元活性分子を含有するコントロール検体液について、前記電極の電位を掃引して、前記酸化還元活性分子の酸化、及び、還元からなる群より選択される少なくとも一方に由来する電流応答を測定することと、
前記電流応答が、予め定めた基準を満足する場合、ユーザーに対して、前記コントロール検体液に標的分子を添加して、前記ウェル内で検体液を調製するよう促す情報を表示することと、
前記検体液が収容された前記ウェルの電極の電位を掃引して、測定された電流応答を前記コントロール検体液の電流応答と比較することと、
比較の結果、検体液の電流応答がコントロール検体液の電流応答より小さい場合、プローブ分子と標的分子とが複合体を形成可能であると判断するための情報を表示することと、を含むプローブ分子の探索方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブ分子探索装置、及び、プローブ分子の探索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸等の標的分子を無標識で電気化学的に検出する方法の開発が進められている。このような方法としては、標的分子と特異的に複合体を形成可能なプローブ分子が固定された電極を用い、この電極の電気的特性の変化を検出することで、標的分子の存在を検知するものが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、「被検体を検出する方法であって、−前記被検体に特異的に結合するよう設計されたプローブ分子を表面に有する捕捉電極を提供すること−前記捕捉電極を試料液と接触させ、該試料液中の被検体に前記捕捉電極の表面でプローブ・被検体複合体を形成させること、および−前記試料液と接触させた後の前記捕捉電極の電気的特性を測定することを含み、前記電気的特性の変化が電極表面におけるプローブ・被検体複合体の形成を示すことを特徴とする方法。」が記載されている。
【0004】
プローブ分子が固定された電極の電気的特性の変化は、標的分子とプローブ分子との複合体の形成に由来して生じる。プローブ分子と標的分子とが複合体を形成すると、電極表面の静電状態、及び/又は、立体的状態が変化するためである。
【0005】
このような方法に用いるプローブ分子には、標的分子への特異的な結合性と、分子認識を電極の電気的特性の変化に変換する性能の両立が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2013−541698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者は、上記プローブ分子の探索に際し、標的分子への特異的な結合性の観点から選択されたものであっても、電極に固定した場合に、標的分子の認識を電極の電気的特性の変化として検出しにくい場合があることを知見している。すなわち、結合性と変換性能とを両立するプローブ分子を選択することは容易ではなく、多大な時間及び経費が必要であった。
【0008】
そこで、本発明は、標的分子を無標識で電気化学的に検出する方法に用いることができるプローブ分子を迅速に探索できるプローブ分子探索装置を提供することを課題とする。また、本発明はプローブ分子の探索方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0010】
[1] 内部に収容された液体と接触するように配置され、標的分子と特異的に結合し複合体を形成するためのプローブ分子が固定された電極を有するウェルが二次元アレイ状に配列されてなる電極付きウェルプレートの上記電極と接続される接続具と、上記接続具を介して上記電極と接続され、上記電極の電位を掃引し、上記電極の電流応答を測定する電気化学測定デバイスと、上記ウェルに収容された酸化還元活性分子を含有するコントロール検体液について、上記電気化学測定デバイスにより測定された電流応答を、予め定めた基準と比較する接続確認部と、上記比較の結果、上記電流応答が、予め定めた基準を満足する場合、上記コントロール検体液に更に標的分子を添加して、上記ウェル内で検体液を調製するよう促す情報を表示部と、上記検体液が収容されたウェルの電極の電位が上記電気化学測定デバイスにより掃引されて測定される電流応答を、上記コントロール検体液の電流応答と比較する比較部と、を有し、上記表示部は、上記検体液と上記コントロール検体液の電流応答の比較の結果、上記検体液の電流応答の方がより小さい場合、上記プローブ分子と上記標的分子とが複合体を形成可能だと判断するための情報を表示する、プローブ分子探索装置。
[2] 上記酸化還元活性分子が、[Fe(CN)3−、[Fe(CN)4−、[Ru(CN)3−、[Ru(CN)4−、[Mn(CN)3−、[Mn(CN)4−、[W(CN)3−、[W(CN)4−、[Os(CN)3−、[Os(CN)4−、[Mo(CN)3−、[Mo(CN)4−、[Cr(CN)3−、[Co(CN)3−、[PtCl2−、[SbCl3−、[RhCl3−、及び、[IrCl2−からなる群より選択される少なくとも1種の金属錯体の塩である、[1]に記載のプローブ分子探索装置。
[3] 上記電流応答がピーク形状である、[1]又は[2]に記載のプローブ分子探索装置。
[4] 上記プローブ分子が、タンパク質、ペプチド、核酸、及び、核酸類似体からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]〜[3]のいずれかに記載のプローブ分子探索装置。
[5] 二次元アレイ状に配列されたウェルを有し、上記ウェルは、内部に液体を収容可能であり、上記ウェルの内部には、収容された上記液体と接触するように電極が配置され、上記電極には標的分子と特異的に結合し複合体を形成するためのプローブ分子が固定されてなる、電極付きウェルプレートの上記ウェルに収容された酸化還元活性分子を含有するコントロール検体液について、上記電極の電位を掃引して、上記酸化還元活性分子の酸化、及び、還元からなる群より選択される少なくとも一方に由来する電流応答を測定することと、上記電流応答が、予め定めた基準を満足する場合、ユーザーに対して、上記コントロール検体液に標的分子を添加して、上記ウェル内で検体液を調製するよう促す情報を表示することと、上記検体液が収容された上記ウェルの電極の電位を掃引して、測定された電流応答を上記コントロール検体液の電流応答と比較することと、比較の結果、検体液の電流応答がコントロール検体液の電流応答より小さい場合、プローブ分子と標的分子とが複合体を形成可能であると判断するための情報を表示することと、を含むプローブ分子の探索方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、標的分子を無標識で電気化学的に検出する方法に用いることができるプローブ分子を迅速に探索できるプローブ分子探索装置を提供できる。また、本発明によれば、プローブ分子の探索方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本プローブ分子探索装置のハードウェア構成図である。
図2】電極付きウェルプレートの平面図である。
図3】電極付きウェルプレートの下面図である。
図4】接続具と、接続具に接続された状態の電極付きウェルプレートとを表す側面図である。
図5】スペーサー基材の平面図である。
図6】スペーサー基材のA−B断面図である。
図7】ピン付き基材の平面図である。
図8】ピン付き基材の側面図である。
図9】本プローブ分子探索装置の機能ブロック図である。
図10】本プローブ分子探索装置を用いてプローブ分子を探索する際の、基本的な測定原理を表す図である。
図11】ピーク電流と検体のウィルス力価との関係を表す模式図である。
図12A】ウェル位置についての本明細書における呼称を表す図である。
図12B】ウェルに収容された検体の種類を表す図である。
図12C】ウェルの作用電極に固定されたプローブ分子の種類を表す図である。
図12D図12A〜Cで表された各ウェルについて、SWV(矩形波ボルタンメトリー)法によって得られる電流応答(ボルタモグラム)をまとめて表示する画面表示を表す図である。
図13A】プローブ分子の探索方法を実施する際の、本プローブ分子探索装置のプロセッサの動作フローである。
図13B】プローブ分子の探索方法を実施する際の、本プローブ分子探索装置のプロセッサの動作フローである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本発明のプローブ分子探索装置について、図面を参照して説明する。図1は、本発明のプローブ分子探索装置の一実施形態(以下、「本プローブ分子探索装置」ともいう。)に係るハードウェア構成図である。
プローブ分子探索装置100は、接続具102と、電気化学測定デバイス103と、プロセッサ104と、記憶デバイス105と、表示デバイス106と、入力デバイス107とを有する。
電気化学測定デバイス103、プロセッサ104、記憶デバイス105、表示デバイス106、及び、入力デバイス107は、バス(図1中BUSと表示されている)を介して相互にデータを交換できるよう構成されている。
【0015】
電気化学測定デバイス103は接続具102を介して、電極付きウェルプレート110が有する電極と接続されている。後述するとおり、電極は電極付きウェルプレート110のウェルの表面に配置されており、ウェル内に収容された検体と接触するようになっている。
【0016】
図2は、電極付きウェルプレート110の平面図である。
電極付きウェルプレートは、基材201と、対電極203、作用電極204、及び、参照電極205とを有し、各電極は、基材201に二次元配列状に配置された凹欠構造であるウェル202の底部に配置されている。
なお、電極付きウェルプレート110は、ウェル202を4×3の12個有しているが、本プローブ分子探索装置に用いる電極付きウェルプレートは、上記に制限されず、より多くのウェルを有していてもよい。ウェルの数は、例えば、96個、384個、及び、1536個等であってもよい。本プローブ分子探索装置では、各ウェルの電極はそれぞれ接続具を介して後述する電気化学測定デバイス103と接続されている。各電極の電位の設定、及び、測定値の取得は、電気化学測定デバイス103によってそれぞれ独立に行われる。そのため、ウェルの数が多いほど、測定の効率がより高まる。
【0017】
ウェルプレート、及び、ウェルは、the Society for Biomolecular Screening(SBS)によって発展し、American National Standards Institute(ANSI)によって認可された規格(ANSI SLAS 1−2004 (R2012)、ANSI SLAS 2−2004 (R2012)、ANSI SLAS 3−2004 (R2012)、及び、ANSI SLAS 4−2004 (R2012))に準拠した形状であってもよい。
【0018】
電極付きウェルプレート110の各ウェル202の底面には、対電極203、作用電極204、及び、参照電極205が配置されている。
作用電極204は、ウェルの底面の中心付近を占めており、その周囲に円弧状の対電極203と参照電極205とが配置されている。作用電極204がウェル202の底面を中心付近を占めていると、収容された検体中の標的分子が作用電極204(すなわちその上に固定されたプローブ分子)と接触しやすい点で好ましい。
【0019】
特に、作用電極204の面積がウェルの底面積の30%以上を占める場合、検体中の標的分子が収容後に作用電極204とより接触しやすい点でより好ましい。
なお、電極付きウェルプレート110の各ウェル202には、作用電極204と、対電極203と、参照電極205とが配置されているが、電極付きウェルプレート110の各ウェルが有する電極の数は上記に制限されず、少なくとも一対(2個)の電極を有していればよい。また、電極の数の上限は特に制限されず、一般に10個以下が好ましく、6個以下がより好ましい。その場合、作用電極、及び、対電極をそれぞれ1つずつと、4個以下の参照電極とを有している形態が好ましい。
【0020】
なお、基材201には円筒状のウェル202が配置されているが、ウェルの形状は上記に制限されず、例えば、四角柱状、及び、三角柱状等であってもよい。
また、図2のウェル202は、基材201の表面の開口と、ウェルの底面の面積とが略同一であるが、上記に制限されず、基材の表面の開口から、ウェル底面に向かうウェルの深さ方向に向かって先細り形状のウェルであってもよい。ウェルが先細り形状である場合、収容された標的分子が、底面の中心部により移動しやすく、その位置を制御しやすいため、作用電極と接触させやすい点で好ましい。
【0021】
基材201の材質は絶縁性材料であれば特に制限されないが、ポリマーが好ましく、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリエーテルウレタン、ポリスルホン、ポリカーボネート、及び、ポリ塩化ビニル等のフッ素化、又は、塩素化ポリマー;ポリエチレン、及び、ポリプロピレン等のポリオレフィン;等が挙げられる。
また、スチレン/ブタジエン、α−メチルスチレン/ジメチルシロキサン、又はポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、及び、ポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン等も使用できる。
【0022】
ウェル202の表面に配置された各電極の形成方法は特に制限されず、例えば、スクリーン印刷、及び、フォトリソグラフィー等の技術が使用できる。
作用電極204の材質としては特に制限されないが、例えば、金属材料としては、貴金属(金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。また、ステンレス、ハステロイ、インコネル、モネル、及び、ジュラルミン等の合金であってもよい。
また、炭素材料、例えば、カーボン、及び、グラファイト(グラフェン等)も使用できるプローブ分子の固定化がより容易である点で、作用電極204の材質は貴金属が好ましく、金がより好ましい。
【0023】
対電極203、及び、参照電極205も同様の材質を使用でき、作用電極204へのプローブ分子の固定化がより容易な点で、作用電極204とは異なる材質であることが好ましい。一例として、対電極203として白金を、参照電極205として銀/塩化銀電極を用いることができる。
【0024】
作用電極204の表面には、プローブ分子が固定されている。本明細書において、固定とは、検体液と接触した場合でも作用電極204の表面からプローブ分子が脱離しない状態を意味し、典型的には、プローブ分子と作用電極204とが典型的にはリンカー分子を介して化学的に結合している状態を意味する。
【0025】
プローブ分子は、標的分子と特異的に結合し複合体を形成するための分子である。このような分子としては、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、及び、核酸類似体等が挙げられる。なかでも、プローブ分子は、アプタマーと呼ばれる標的分子への特異的な結合能力を有する核酸、又は、その類似体が好ましい。なお、「選択的」とは、標的分子以外の物質との結合に比べて、標的分子との結合の親和性の程度がはるかに高いことを意味する。
【0026】
アプタマーは、4〜100塩基のヌクレオチドであることが好ましい。
アプタマーはDNA、RNA、核酸類似体、又は、これらの組み合わせであってもよい。また、含まれる塩基も、機能性、又は、修飾核酸塩基であってもよい。
【0027】
アプタマーのオリゴヌクレオチドはアデニン、グアニン、シトシン、ウラシル、及び、チミンからなる群より選択される塩基を含んでもよい。
また、アプタマーは、上記以外にも、プリン塩基、及び、ピリミジン塩基の公知の類似構造を有していてもよい。
プリン塩基、及び、ピリミジン塩基に類似する構造としては、例えば、アジリジニルシトシン、4−アセチルシトシン、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウラシル、5−カルボキシメチル−アミノメチルウラシル、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルアデニン、1−メチルシュードウラシル、1−メチルグアニン、1−メチルリノシン、2、2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシンN6−メチルアデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチル−ウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルクエオシン、5−メトキシウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、シュードウラシル、クエオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸、及び、2、6−ジアミノプリン等が挙げられる。
【0028】
また、アプタマーのオリゴヌクレオチドはリボース、又は、デオキシリボースの類似構造を有していてもよい。
このような類似構造としては、例えば、2′−O−メチル−、2′−O−アリル−、2′−フルオロ、及び、2′−アジド−リボース等の2′−置換糖等が挙げられる。また、アラビノース、キシロース、リキソース、ピラノース、フラノース、及び、セドヘプツロース等であってもよい。
【0029】
プローブ分子を電極表面に固定する方法は特に制限されず、公知の方法が使用できる。固定方法としては、例えば、リンカー分子を介して電極の表面に吸着させる方法が挙げられる。
リンカー分子は、作用電極204の表面にプローブ分子を連結することができる任意の分子を含み、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、アルコール、チオール、有機酸、エーテル、エステル、二硫化物、チオエステル、アミン、アミド、アミノ酸、ヌクレオチド、ポリマー、糖類、イオン複合体、ペプチド、及び、タンパク質等が挙げられる。
【0030】
また、上記以外にも、ポリマー中へ組み込んだり、ビオチンアビジンリンカーを用いたり、先に相補的なヌクレオチド又は類似体を作用電極204表面に固定し、それとのハイブリダイゼーションを用いる方法も使用できる。
【0031】
プローブ分子がアプタマーである場合について、作用電極204表面への固定方法をより具体的に説明する。
まず、作用電極204が金電極であって、プローブ分子がアプタマーである場合、金−チオール結合を介した固定方法が使用できる。アプタマーの末端にチオール基を修飾し、溶液中でインキュベートすることで、金電極表面にアプタマーを固定できる。
また、アビジン、ストレプトアビジン、及び、ニュートラルアジビン等で被覆された金電極上にビオチン化アプタマーを固定する方法も適用できる。
【0032】
また、作用電極204がグラッシーカーボン電極である場合、表面に金ナノ粒子をスクリーン印刷等で吸着させ、金ナノ粒子上にアプタマーを固定する方法が使用できる。
また、作用電極2045がグラファイト電極である場合、1−ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride(EDC)等のカップリング試薬と、N−Hydroxysuccinimide(NHS)とを加えてインキュベートすることで、表面のカルボン酸を活性エステルに変換する。ここに末端をアミノ基で修飾したアプタマーを加えるとカップリング反応が起き、アミド結合を介してアプタマーを固定することができる。
【0033】
なお、アプタマーを固定化する前に、電極上の不純物を除去してもよい。不純物の除去方法は特に制限されないが、例えば、緩衝液中、窒素ガスでパージしながら電極電位を繰り返し掃引する方法が挙げられる。
【0034】
次に、図3には、電極付きウェルプレート110の下面図を示した。ウェル202の底面に配置された作用電極204、対電極203、及び、参照電極205は、ウェル202の底面から基材201の下面へと延びる基材の厚み方向に沿って配置されたビア208及びそれに接続された配線209を介してそれぞれパッド210、211、及び、212と接続されている。
【0035】
図1に戻り、接続具102は、電極付きウェルプレート110の電極と後述する電気化学測定デバイスを103とを接続するためのインターフェースである。
図4は、接続具102と、接続具102に接続された状態の電極付きウェルプレート110とを表す側面図である。
【0036】
図4において、接続具102は、スペーサー基材401と、ピン付き基材402とを有し、スペーサー基材401と電極付きウェルプレート110とが直接接触するように積層されている。
図5には、スペーサー基材401の平面図を示した。
また、図6には、スペーサー基材401のA−B断面図を示した。
【0037】
スペーサー基材401は、その厚み方向に沿って、上面から下面へと延びる、貫通孔601を有している。この貫通孔は、電極付きウェルプレート110の下面に配置されたパッド210、211、及び、212をピン付き基材402に対して露出させる機能を有する。
【0038】
なお、図5において、貫通孔601は円筒状であるが、貫通孔601の形状は上記に制限されない。四角柱であっても、三角柱であってもよい。貫通孔601はパッド210、211、及び、212を露出するような形状であればよい。
【0039】
図7は、ピン付き基材402の平面図であり、図8はピン付き基材402の側面図である。ピン付き基材402は、基材701と、基材701上に配置されたピン702、703、及び、704とを有する。
電極付きウェルプレート110を接続具102上に配置すると、パッド210に対してピン703が接触する。同様に、パッド212に対してピン704が接触し、パッド211に対して、ピン703が接続する。
各ピンは、図示しない配線等によって電気化学測定デバイス103と接続され、ウェル毎に同一の又は異なる条件を設定して、同時並行で電気化学測定ができるよう構成されている。
【0040】
スペーサー基材401、及び、基材701は、絶縁性材料で形成されていることが好ましく、基材201の材料として説明した材料を用いることができる。
また、ピン702〜704には、電極203〜205の材料としてすでに説明した材料を用いることができる。
【0041】
図1に戻り、プロセッサ104は、プローブ分子探索装置100の各部を制御して、プローブ分子探索装置100の機能を実現する。
プロセッサ104は、例えば、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application−specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)、及び、GPGPU(General−purpose computing on graphics processing units)等である。
【0042】
記憶デバイス105は、各種プログラム、及び、データを一時的に、及び/又は、非一時的に記憶する機能を有し、プロセッサ104の作業エリアを提供する。
記憶デバイス105は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等である。
【0043】
電気化学測定デバイス103は、接続具102を介して電極109に電圧を印加して、電流応答を計測する。電気化学測定デバイス103は、記憶デバイス105に記憶されたプログラムがプロセッサ104により実行され、制御される。
【0044】
プロセッサ104により制御された電気化学測定デバイス103は、作用電極204の電位、及び/又は、電流を制御し、これらを計測できる。
電気化学測定デバイス103は、例えば、ポテンシオスタットである。
【0045】
表示デバイス106は、ウェル毎の計測結果、計測条件、電極への電圧印加状況、検体名、及び、操作手順等を表示する。表示デバイス106は、液晶ディスプレイ、及び、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等である。
また、表示デバイス106は、後述する入力デバイス107と一体として構成されていてもよい。この場合、表示デバイス106がタッチパネルディスプレイであって、GUI(Graphical User Interface)を提供する形態が挙げられる。
【0046】
入力デバイス107は、電極への電圧印加条件、計測条件、及び、検体名等を入力できる。入力デバイス107は、キーボード、マウス、スキャナ、及び、タッチパネル等である。
【0047】
図9は、本プローブ分子探索装置の機能ブロック図である。プローブ分子探索装置900は制御部901と、記憶部902と、表示部903と、入力部904と、接続確認部905と、比較部906と、すでに説明した電気化学測定デバイス103と、接続具102とを有する。
【0048】
制御部901は、プロセッサ104を含んで構成され、記憶部902、表示部903、入力部904、接続確認部905、比較部906、及び、電極付きウェルプレート110の電極と接続具102を介して接続された電気化学測定デバイス103のそれぞれを制御してプローブ分子探索装置100の各機能を実現する。
【0049】
記憶部902は、記憶デバイス105を含んで構成される。記憶デバイス105には、プロセッサ104が各部を制御するためのプログラム、計算を行うためのプログラム、及び、基準(基準データ)等が予め記憶されている。
【0050】
接続確認部905は、記憶デバイス105に記憶されたプログラムがプロセッサ104により実行され、実現される機能である。接続確認部905は後述する動作によって電極付きウェルプレート110の電極と電気化学測定デバイス103とが接続具102を介して電気的に正常に接続されているかを確認するための機能である。
【0051】
後述するとおり、標的分子とプローブ分子とが結合し、複合体を形成する場合、得られる電流応答が複合体の形成前と比較して(言い換えれば、コントロール検体液と比較して)小さくなる。そのため、接続具102を介した電極と電気化学測定デバイス103との接触状態を予め確認しておくことで、接触不良で電流応答が得られない(又は小さい)のか、又は、複合体の形成により電流応答が小さいのか、という、電流応答が抑制されている原因を明確にすることができる。言い換えれば、上記機能により、複数のウェルの測定を同時並行して行う場合でも、より信頼性の高い測定を行うことが可能になる。
【0052】
接続確認部905は、制御部901に制御されて、電極付きウェルプレート110のウェルに収容された酸化還元活性分子を含有するコントロール検体液について、同じく制御部901により制御された電気化学測定デバイス103により測定された電流応答を予め定めた基準と比較する。
【0053】
この基準は、接続具102を介して電極付きウェルプレート110の電極と電気化学測定デバイス103とが正常に接続されていれば取得されるであろう電流応答を元に予め定められ、記憶部902に記憶されている。より具体的には、ウェルに収容されたコントロール検体液に含まれる酸化還元活性分子の種類、及び、量に応じて選択される、酸化還元電位、酸化ピーク電位、還元ピーク電位、酸化ピーク電流、及び、還元ピーク電流等に基づく値である。
基準は、典型的には、酸化還元電位等を含むように設定された数値範囲であることが好ましい。
【0054】
電流応答の測定、及び、基準との比較は、ウェル毎に独立して行われ、ウェル毎に接続状態が確認される。なお、各ウェルには同一種類のコントロール検体液が収容されていてもよいし、別の種類のコントロール検体液が収容されていてもよい。
また、コントロール検体液は、酸化還元活性分子以外にも、支持電解質等を含有していてもよい。
【0055】
表示部903は、表示デバイス106を含んで構成され、各種の情報、及び、データを表示等する機能を有する。
表示部903は、接続確認部905によるコントロール検体液の電流応答と基準との比較の結果、測定された電流応答が予め定めた基準を満足する、典型的には基準の数値範囲内に含まれる場合、コントロール検体液に対して更に標的分子を添加して、上記ウェル内で検体液を調製するよう促す情報を表示する。
【0056】
コントロール検体液の電流応答が基準範囲内である場合、接続具102を介した電極付きウェルプレート110の電極と電気化学測定デバイス103との接続は正常であると判断できる。この場合、コントロール検体液に標的分子を添加して検体液をウェル内で調製すれば、検体液の測定を実施できる。表示部903はユーザーに対して、典型的には、接続が正常であること、及び、各ウェルに標的分子を添加するよう、装置の使用者(ユーザー)に対して促す情報を表示する。
【0057】
比較部906は、記憶デバイス105に記憶されたプログラムがプロセッサ104により実行され実現される機能である。比較部906は、検体液が収容されたウェルの電極の電位が、制御部901により制御され、電気化学測定デバイス103により掃引され、測定された電流応答を、上記コントロール検体の電流応答と比較する。
【0058】
比較する値は特に制限されないが、典型的には、酸化ピーク電流、及び/又は、還元ピーク電流が好ましい。標的分子がプローブ分子と結合すると、典型的には酸化ピーク電流の大きさ(絶対値)、及び、還元ピーク電流の大きさ(絶対値)が小さくなるため、コントロール検体液と検体液(標的分子が含まれるもの)とを比較することで、標的分子のプローブ分子への結合状態を評価するためのデータを得ることができる。
【0059】
表示部903は、評価の結果、検体液の電流応答の方がより小さい場合、プローブ分子と標的分子とが複合体を形成可能だと判断するための情報を表示する機能もまた有する。
【0060】
入力部904は、入力デバイス107を含んで構成され、ユーザーからの操作を受け付ける機能を有する。
【0061】
(プローブ分子探索方法)
次に、本プローブ分子探索装置を用いてプローブ分子を探索する方法について説明する。
まず、本プローブ分子探索装置を用いてプローブ分子を探索する際の、基本的な測定原理について、図10を用いて説明する。
【0062】
図10は、それぞれ、酸化還元活性分子(例えば、[Fe(CN)3−、[Fe(CN)4−)を含有し、更に、標的分子としてウィルスを含有し、かつ、その力価(PFU:plaque−forming unit/mL)が所定の範囲(a)、(b)、(c)となるよう調整された検体のSWV(矩形波ボルタンメトリー)法測定によって得られるボルタモグラムの模式図である。なお、検体のウィルス力価は、(a)<(b)<(c)の順に大きい。
なお、標的分子としては、ウィルス以外でもよく、デオキシリボ核酸、リボ核酸、タンパク質又はペプチド、及び、多糖類等であってもよい。
【0063】
図10の横軸はプローブ分子が固定された電極(作用電極)の電位を表す軸である。SWV法におけるポテンシャル波形は、階段波形に矩形波を重畳したパルス状であり、縦軸は差電流を表す軸である。
図10のように、各検体からは、酸化還元活性分子の酸化還元反応に由来するピーク形状の電流応答曲線が得られることが理解される。更に、このピーク電流(ピークトップの電流Ia、Ib、Ic)の大きさは、それぞれ、検体中のウィルス力価の増加に応じで減少することも理解される。
図11は、ピーク電流と検体のウィルス力価との関係の模式図である。図11からも、ウィルス力価の増加に従って、ピーク電流が減少することが理解される。
【0064】
このように、電流応答と検体中の標的分子(この場合、ウィルス)の量とには相関があることが本発明者らの検討により判明している。これは、プローブ分子と標的分子とが複合化することにより、作用電極の静電状態が変化したことに起因する(electrostatic repulsion)。
【0065】
本プローブ分子探索装置は、上記を基本的な測定原理とし、更に、表面にプローブ分子が固定された電極を有する電極付きウェルプレートと接続可能な接続具と、各ウェルの電極電位を独立に制御可能な電気化学測定デバイスとを有しているため、各ウェルのプローブ分子の特性を迅速かつ簡便に評価できる。
【0066】
次に、本プローブ分子探索装置を用いて取得されたデータに基づく、プローブ分子の評価の一例を説明する。
図12A〜Cは、電極付きウェルプレートの平面模式図であり、各図は同一の電極付きウェルプレートの同一部分を示す図である。このうち、図12Aは、図中に注釈として「well position」と記載されているとおり、ウェル位置についての本明細書における呼称を表す図である。図12Bは、図中に注釈として「specimen」と記載されているとおり、各ウェルに収容された検体の種類を表す図である。なお、収容されている検体については後述する。
また、図12Cは、図中に注釈として「probe」と記載されているとおり、各ウェルの作用電極に固定されたプローブ分子の種類を表す図である。「I」「II」「III」はそれぞれ同一のプローブ分子を意味する記号である。
【0067】
次に、図12Dは、図12A〜Cで表された各ウェルについて、SWV法によって得られる電流応答(ボルタモグラム)をまとめて表示する画面表示を表す図である。各ボルタモグラムの横軸は電位、縦軸は(差)電流である。図12Dの各模式図を見ると、それぞれ、酸化還元活性分子の酸化還元反応に由来する電流ピークが検出されていることが理解される。なお、ボルタモグラムの右上の「A1」等は、ウェル位置に対応している。
【0068】
次に、収容されている検体について説明する。
収容されている検体は「Ctrl」と表示されたコントロール検体、「low titer」と記載されている、ウィルス力価の低い検体(「低力価検体」)、及び、「high titer」と記載されているウィルス力価の高い検体(「高力価検体」)である。
低力価検体、及び、高力価検体に含まれる標的分子はそれぞれ同一種類のウィルスである。コントロール検体は上記ウィルスを含有していない。
低力価検体と高力価検体とにおけるウィルス力価をそれぞれどのように調整するかは特に制限されず、期待する測定可能範囲(下限値〜上限値)等に応じて設定すればよい。
【0069】
なお、図12A〜Dでは取得されたデータに基づくプローブ分子の評価を説明するために、A1ウェルにコントロール検体液、A2ウェル、及び、A3ウェルに標的分子を含む検体液が収容されている形態とされている。本プローブ分子探索装置を用いたプローブ分子の探索方法における検体の配置はこれに制限されず、プローブ分子の探索方法のフローについては後述する。
【0070】
各検体は、酸化還元活性分子を含有している。
本明細書において、酸化還元活性分子とは、典型的には電気化学的手法によって、酸化、及び/又は、還元され得る任意の分子または分子複合体を意味する。一般に、酸化還元活性分子は、電位を印加することで、作用電極表面で酸化、又は、還元されるため、この酸化還元活性分子の酸化/還元反応に由来する電流が作用電極で測定される。
【0071】
酸化還元活性分子は、特に制限されないが、一般に金属錯体の塩が好ましい。
金属錯体としては、例えば、[Fe(CN)3−、[Fe(CN)4−、[Ru(CN)3−、[Ru(CN)4−、[Mn(CN)3−、[Mn(CN)4−、[W(CN)3−、[W(CN)4−、[Os(CN)3−、[Os(CN)4−、[Mo(CN)3−、[Mo(CN)4−、[Cr(CN)3−、[Co(CN)3−、[PtCl2−、[SbCl3−、[RhCl3−、及び、[IrCl2−等が挙げられる。
【0072】
塩を形成する対イオンは反対の電荷を有する任意のイオンであってよい。対イオンとしては、例えば、アルカリ土類金属イオンが好ましい。リチウムイオン、ナトリウムイオン、及び、カリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種のカチオンが好ましい。
【0073】
検体中の酸化還元活性分子の含有量は、特に制限されないが、一般に、0.001mM以上が好ましく、0.02mM以上がより好ましく、0.1mM以上が更に好ましく、100mM以下が好ましく、50mM以下がより好ましく、10mM以下が更に好ましい。
なお、検体中には、2種以上の酸化還元活性分子が含有されていてもよく、検体が2種以上の酸化還元活性分子を含有する場合、その含有量は上記数値範囲内が好ましい。
【0074】
検体中の総イオン強度としては特に制限されないが、一般に、0.010〜100mMが好ましく、0.20〜50mMがより好ましく、1.00〜10mMが更に好ましい。
【0075】
これらの検体が収容された電極付きウェルプレートを準備する方法としては特に制限されず、用手的に準備されてもよく、公知の自動分注デバイス等を用いて自動で行われてもよい。公知の自動分注デバイスを用いて電極付きウェルプレートに検体を収容する場合、本プローブ分子探索装置が自動分注デバイスを更に有する形態であってもよい。すなわち、本プローブ分子探索装置のプロセッサによって、自動分注デバイスを制御し、電極付きウェルプレートに各検体を分注する形態であってもよい。
【0076】
次に、得られたボルタモグラムから、プローブ分子の評価を行う方法の一例について説明する。
なお、図12Dは、SWV法の測定結果をまとめて表示する画面表示であるが、電極の電位を掃引する方法としてはこれに制限されない。電位の掃引の方法としては、電流応答がピーク形状となる方法が好ましく、SWV法の他、サイクリックボルタンメトリー(CV)法、及び、微分パルスボルタンメトリー(DPV)法等であってもよい。
【0077】
まず、図12Dの横並びの3つウェルの組み合わせ(A1〜A3、B1〜B3、C1〜C3)を見る。すると、コントロール検体、低力価検体、及び、高力価検体の順に、ピーク電流が減少していることが理解される。この横並びの3つのウェルの電極には、同一のプローブ分子が固定されている。これらのウェルの測定結果には、同一のプローブ分子が固定された電極の、異なる検体に対する電流応答の変化が反映されている。
【0078】
次に、縦並びの3つのウェルの組み合わせを見る。
まず、A1、B1、C1の比較では、A1及びC1は、B1と比較して、より大きなピーク電流が得られることが理解される。
これらのウェルには、コントロール検体が収容されており、このことから、A1、及び、C1(プローブ分子I、及び、プローブ分子III)は、B2(プローブ分子II)と比較して、検体中の酸化還元活性分子の酸化還元電流をより高感度に検出できることが理解される。
【0079】
次に、同じく、縦並びのA2、B2、C2を見る。
A2、B2、C2にはそれぞれ低力価検体が収容されている。これをそれぞれ左隣のウェル(コントロール検体)の結果と比較する。例えば、A1、A2に着目し、コントロール検体のピーク電位(例えば、IA1)に対する低力価検体のピーク電位(例えば、IA2)の比率を計算する。このようにして、IA2/IA1、IB2/IB1、及び、IC2/IC1を計算し、互いに比較すると、プローブ分子IIは、他と比較して、この値がより大きいことが理解される。
この結果から、プローブ分子IIは、他と比較すると、より感度が悪い、又は、標的分子との結合性がより悪い可能性があることが理解される。
【0080】
次に、A3、C3を見る。
プローブ分子IにおけるIA2に対するIA3の比(IA3/IA2)と、プローブ分子IIIにおけるIC2に対するIC3の比(IC3/IC2)とを比較すると、プローブ分子Iの方がより小さい。これにより、プローブ分子Iは、ダイナミックレンジがより広い可能性があることが理解される。
【0081】
これらのプローブ分子を標的分子の検出用センサーに用いる場合、低力価検体〜高力価検体を測定範囲とするなら、プローブ分子Iは標的分子の吸着性、変換性能、ダイナミックレンジのいずれにおいても、プローブ分子II、及び、プローブ分子IIIと比較して、より優れていることが理解される。また、プローブ分子IIは吸着性、又は、変換性能に問題があることが理解される。また、プローブ分子IIIは、低力価の検体に対する感度が高い可能性がある一方、ダイナミックレンジが低く、プローブ分子Iには及ばない可能性があると評価できる。
【0082】
上記はプローブ分子の評価方法の一例であるが、上記のように、本プローブ分子探索装置を用いれば、標的分子の力価を段階的に調整した複数の検体を準備することで、多数の要素が複雑にからみ、容易に評価できなかった電極に固定された状態のプローブ分子の性能を、より簡単、かつ、迅速な方法で評価できる。
【0083】
次に、本プローブ分子探索装置を用いたプローブ分子の探索方法について説明する。図13A図13Bは、プローブ分子の探索方法を実施する際の、本プローブ分子探索装置のプロセッサ104の動作フローを示す図である。
まず、プロセッサ104は、電気化学測定デバイス103を制御して、接続具102を介して接続された作用電極204の電位を掃引する(ステップS10)。このとき、各ウェルにはコントロール検体液が収容されている。各ウェルにコントロール検体を収容する方法としては、用手的に行われていもよいし、すでに説明した自動分注デバイスにより自動的に行われてもよい。
【0084】
次に、プロセッサ104は、接続確認部905を制御して、得られたコントロール検体液の電流応答を予め定めた基準と比較し(ステップS11)、その結果、基準を満足する場合(ステップS12:YES)、更に、表示部903を制御して、表示デバイス106にコントロール検体液に標的分子を添加して、ウェル内で検体液を調製するよう促す情報を表示する(ステップS13)。
【0085】
コントロール検体液の電流応答が予め定めた基準を満足することを確認することで、各ウェルの電極が接続具を介して電気化学測定デバイスと電気的に正常に接続されていることが確認されるため、より信頼性の高い測定が可能になる。
特に本プローブ分子探索装置においては、典型的には、プローブ分子と標的分子との結合により電流応答がより小さくなるため、本ステップによって接触の不良の可能性を排除することができるという効果がある。
【0086】
一方、本ステップにおいて、コントロール検体液の電流応答が予め定めた基準を満足しない場合、そのウェルにおける電極と電気化学測定デバイスとの接続状態が正常ではない可能性がある。この場合、プロセッサ104は、表示部903を制御して、表示デバイス106に電極付きウェルプレート110と接続具102との接続状態の確認を促す情報を表示(図13B:ステップS18)してもよい。
この場合、電極付きウェルプレート110が再接続されると、入力部904を介したユーザーからの指示、又は、電極付きウェルプレート110の再接続を検知したことをトリガーとして、再度ステップS10が実行される。
【0087】
ステップS13に戻り、ウェル内で検体液が用手、又は、自動分注デバイスにより自動で調整されると、次に、プロセッサ104は、検体液が収容されたウェルの電極の電位を掃引して電流応答を測定し(ステップS14)、更に、比較部906を制御して、測定された検体液の電流応答をコントロール検体液の電流応答と比較する(ステップS15)。
【0088】
その結果、検体液の電流応答がコントロール検体の電流応答より小さい場合(ステップS16:YES)、更に、表示部903を制御して、表示デバイス106にプローブ分子と標的分子とが複合体を形成可能であると判断するための情報を表示する。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本プローブ分子探索装置によれば、標的分子への特異的な結合性と、分子認識を電極の電気的特性の変化に変換する性能を有するプローブ分子の探索をより容易に行うことができる。本プローブ分子探索装置を用いて探索されるプローブ分子(例えば、アプタマー)を電極に固定したプローブ分子固定電極は、標的分子を電気化学的に検出、定量できるセンサーに使用できる。このようなセンサーは、標的分子(例えば、ウィルス)を迅速かつ簡便に検出でき、疾病の診断等に応用可能である。
【符号の説明】
【0090】
100、900 :プローブ分子探索装置、102 :接続具、103 :電気化学測定デバイス、104 :プロセッサ、105 :記憶デバイス、106 :表示デバイス、107 :入力デバイス、110 :電極付きウェルプレート、201 :基材、202 :ウェル、203 :対電極、204 :作用電極、205 :参照電極、208 :ビア、209 :配線、210〜212 :パッド、401 :スペーサー基材、402 :ピン付き基材、601 :貫通孔、701 :基材、702〜704 :ピン、901 :制御部、902 :記憶部、903 :表示部、904 :入力部、905 :接続確認部、906 :比較部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B