【実施例】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態を示す簡略化されたサーモパイル形状の熱電発電(TEG)デバイスの概念的構成を示す斜視図である。
サーモパイル状の接点は、単一の磁性体で構成された帯状又は線状の薄膜体よりなる金属導体線の接続点で、磁化方向の向きは、全光学ヘリシティ依存スイッチング(AO−HDS)によって隣接するストリップである磁性体20の長手方向導電パターン間で交互に切り替えられる。
【0020】
図において、本発明の垂直型熱電発電素子は、基板10、磁性体20よりなると共に、磁性体20とは別に温度勾配形成部30及び光照射手段35を備える。
基板10は、表面に磁性体20が形成されるもので、例えばガラス基板や、シリコン基板、酸化マグネシウム基板、サファイア基板のような薄膜作製に用いられる典型的な絶縁体材料に加えて、セラミックス基板や樹脂製基板でもよい。
【0021】
磁性体20は全光型磁化反転と異常ネルンスト効果を示すものあればよく、例えば、Gd
XFe
1−X−YCo
Y(0.20≦X≦0.28、0.03≦Y≦0.10)、Tb
XCo
1−X(0.08≦X≦0.34)、Tb
XFe
1−X(0.19≦X≦0.34)、Tb
XFe
1−X−YCo
Y(0.20≦X≦0.40、0.08≦Y≦0.30)、FePt等を用いることができる。
磁性体20は、ミアンダ形状に配置されているもので、上向き磁化部21、下向き磁化部22、第1の屈曲部23、第2の屈曲部24、第1の電極部25、第2の電極部26で構成されている。ミアンダ形状なので、磁性体20の巨視的な温度勾配方向は磁性体20の巨視的な結線方向と大略一致し(
図1のx方向)、磁性体20の振れ幅方向は磁性体20の微視的な長手方向導電パターンの熱起電力方向若しくは電場方向と大略一致(
図1のy方向)する。磁性体20の厚み方向(
図1のz方向)は、ミアンダ形状の巨視的な方向と、細部の微視的な方向とで一致する。ここで、磁性体20の巨視的な結線方向は、磁性体20が第1の電極部25と第2の電極部26の間で結線される方向を、基板10全体の形状、特に矩形形状の基板10の縁方向を基準に定めたものをいう。
【0022】
上向き磁化部21は、磁性体20の長手方向導電パターンであって、紙面上向き(z軸方向矢尻側)に磁化された磁性体よりなる。下向き磁化部22は、磁性体20の長手方向導電パターンであって、紙面下向き(z軸方向矢筈側)に磁化された磁性体よりなる。上向き磁化部21と下向き磁化部22は、交互に平行な状態で基板10上に配置されており、第1の屈曲部23と第2の屈曲部24によって、ミアンダ形状に配置されている。第1の屈曲部23は、上向き磁化部21の長手方向導電パターンにおけるy軸の一端を折返して、隣接する下向き磁化部22の長手方向導電パターンにおけるy軸の一端に接続する導電パターンである。第2の屈曲部24は、下向き磁化部22の長手方向導電パターンにおけるy軸の他端を折返して、隣接する上向き磁化部21の長手方向導電パターンにおけるy軸の他端に接続する導電パターンである。
【0023】
第1の電極部25は、最も低温側の部位に位置する上向き磁化部21が接続されるもので、ここでは上向き磁化部21の最近接部位が接続されており、マイナス電極板となっている。第2の電極部26は、最も高温側の部位に位置する上向き磁化部21が接続されるもので、ここでは上向き磁化部21の最近接部位が接続されており、プラス電極板となっている。
なお、第1の電極部25と第2の電極部26に接続される長手方向導電パターンは、温度勾配形成部30により形成される基板10の最も低温側34と最も高温側32に位置するものが接続されるものであり、上向き磁化部21となるか下向き磁化部22となるかは、基板10の幅と磁性体20の長手方向導電パターンのミアンダ形状の折り返し数によって定まる。
さらに、第1の電極部25と第2の電極部26は、マイナスの極性かプラスの極性となるかは、磁性体20の長手方向導電パターンの磁化方向によって定まるものである。従って、
図1に示すような上向き磁化部21と下向き磁化部22の配置であれば、第1の電極部25がマイナス電極板となり、第2の電極部26がプラス電極板となるが、上向き磁化部21と下向き磁化部22の配置が
図1に示すものと逆であれば、第1の電極部25がプラス電極板となり、第2の電極部26がマイナス電極板となる。また、逆符号の異常ネルンスト係数を有する磁性体を用いた場合は、逆符号の起電力が発生する。
【0024】
磁性体20の長手方向導電パターンの微視的な形状は、例えば大略直方体状であって、幅方向をx軸、長手方向をy軸、厚み方向をz軸とする。磁性体20の磁化Mの方向は、例えば磁性体20の厚み方向zとする。温度勾配がx方向に付いている場合は、磁性体20における電流の方向は磁性体20の長手方向yとなる。
熱電変換電力の表示部28は、第2の電極部26から第1の電極部25に流れる熱電エネルギーを模式的に表示するもので、特に
図5に示す比較例1、2との対比に用いている。
【0025】
温度勾配形成部30は、磁性体20に温度勾配を形成可能に設けられるもので、例えば電熱器のような熱源装置や自動車等の内燃機関、工場や製鉄所、パソコンやサーバー機などで発生する廃熱源が用いられる。磁性体20における温度勾配∇T又は/及び熱流Jqの方向は、例えば磁性体20の微視的な幅方向xとする。ここでは、基板10における磁性体20のパターンの幅方向xの端面において、一方側が高温側32となり、他方側が低温側34となる。
光照射手段35は、偏光を制御できるもので、例えばレーザ発振器と偏光板が用いられる。光照射手段35が照射する円偏光の方向は、例えば磁性体20の厚み方向zの成分を含むものとし、磁性体20の表面に照射される。右の円偏光(σ
+)が長手方向導電パターンに照明されることで、上向き磁化部21を形成する。左の円偏光(σ
−)が長手方向導電パターンに照明されることで、下向き磁化部22を形成する。
【0026】
このように構成された装置においては、
図1に示すように、光照射手段35で磁性体20に円偏光を照射したとき、ミアンダ形状の振れ幅方向に応じて、磁性体20の円偏光の照射された領域である長手方向導電パターン毎に、上向き磁化部21と下向き磁化部22とを定める。上向き磁化部21と下向き磁化部22を交互に配置することによって、異常ネルンスト効果によって生成された熱起電力を昇圧できる。
即ち、異常ネルンスト効果によって、磁性体20の磁化Mと温度勾配∇T又は/及び熱流Jqの外積方向に、電流Jc(異常ネルンスト効果による電場E
ANE)が生成される。なお、磁性体が磁化していれば、外部磁場は不要である。
【0027】
図2は本発明の一実施形態を示すCo/Pt多層膜サーモパイルベースの熱電発電(TEG)デバイスにおける磁気構成の磁気光学設計図で、(A)は[Co/Pt]
4多層膜の層構成図、(B)は[Co/Pt]
4サンプルの磁化M曲線(磁化の磁場H依存性)、(C)は室温でホールクロス形状での[Co/Pt]
4サンプルのホール抵抗R
H、(D)は[Co/Pt]
4多層膜サーモパイルベースの熱電発電(TEG)デバイスの概略図、(E)〜(H)は
図2(D)に示す磁性体パターン部の要部拡大部で、右(σ
+)および左(σ
−)の円偏光で照明された[Co/Pt]
4サンプルの磁気光学カー効果顕微鏡画像である。明るいコントラストは、薄膜面に垂直な上方向に沿った磁化Mの領域を表し、暗いコントラストは、薄膜面に垂直な下方向に沿った磁化Mの領域を表している。
【0028】
ここでは、本実施形態の磁性体パターン部60として、
図2(A)に示すように、サファイア基板61の上に、下地層62としてタンタル(Ta)5.0nmおよびプラチナ(Pt)4.3nm、Co/Pt多層膜63としてコバルト(Co)0.3nmとプラチナ(Pt)0.7nmを交互に4ペア積層した8層膜、上部酸化防止層64としてプラチナ(Pt)3.0nmを積層したものである。この強磁性Co/Pt多層膜63は、垂直磁気異方性を示すと共に、AOSを示すことは既知である。
【0029】
強磁性Co/Pt多層膜の磁化カーブは、
図2(B)に示すように、薄膜面に垂直な方向に磁界を与えた場合には、保磁力2.5kOe(≒200[kA/m])、飽和磁化1.5x10
3[emu・cm
−3]を有する大略矩形の磁気ヒステリシス曲線となっている。他方、薄膜面内方向に磁界を与えた場合には、磁気ヒステリシスは小さく、磁界の強さHとして±1kOeの範囲内では磁化Mとして±0.15x10
3[emu・cm
−3]まで急峻な変化をし、磁界の強さHとして中央部±1kOeの範囲外である±12kOeまでの領域では、その両端で磁化Mとして±0.6x10
3[emu・cm
−3]程度とする緩慢な傾きを有する直線状の変化をする。
【0030】
図2(C)に示すように、磁界の強さHを−15kOe(≒−1.2x10
3[kA/m])から+15kOe(≒+1.2x10
3[kA/m])まで往復走査したところ、ホール抵抗R
Hとして±0.28[Ω]の大略矩形の曲線領域を有する磁気ヒステリシス曲線が得られた。
図2(C)に示す異常ホール効果の測定により、AOSの効率を評価した。無磁場下で円偏光を照射することにより、90%以上の磁化が反転したことが確認された。
図2(C)右下に示す基板斜視図のように、磁性体パターンが配置された基板において、サーモパイルは、単一の強磁性体材料のみで構成され、磁化方向の向きは、AOSによって隣接するストリップ間で交互に切り替えられる。
【0031】
[Co/Pt]
4多層膜サーモパイルベースの熱電発電(TEG)デバイスは、
図2(D)に示す平面図のような、磁性体パターン部の配置となっている。なお、
図2(D)に示す磁性体パターン部の各部の符号は、
図1に示すサーモパイル形状の熱電発電(TEG)デバイスの対応する構成要素と同一符号を用いている。磁性体パターン部2E、2F、2G、2Hは
図2(E)〜(H)に示す拡大図の概括的な位置を示している。
【0032】
図2(E)〜(H)は、
図2(D)に示す磁性体パターン部の要部拡大部で、右(σ
+)および左(σ
−)の円偏光で照明された[Co/Pt]
4サンプルの磁気光学カー効果顕微鏡画像である。
図2(E)は、
図2(D)に示す磁性体パターン部2Eの拡大図で、第1の屈曲部23近傍の上向き磁化部21と下向き磁化部22との接続部を示している。
図2(F)は、
図2(D)に示す磁性体パターン部2Fの拡大図で、下向き磁化部22を示している。
図2(G)は、
図2(D)に示す磁性体パターン部2Gの拡大図で、第1の屈曲部23近傍の上向き磁化部21と下向き磁化部22との接続部を示している。
図2(H)は、
図2(D)に示す磁性体パターン部2Hの拡大図で、上向き磁化部21を示している。
【0033】
図3は本発明の一実施形態を示す、Co/Pt多層膜サーモパイルベースTEGデバイスを一様に磁化させた際に測定された熱起電力の温度差(ΔT)依存性の説明図である。
図3(A)は上向きの磁化方向、
図3(B)は下向きの磁化方向での、異常ネルンスト効果の模式的説明図である。なお、
図3(A)、(B)において図示する構成要素の符号に関しては、後で説明する
図5(B)に準拠している。即ち、磁性体50は、順方向導電パターン51、逆方向導電パターン52、第1の屈曲部53、第2の屈曲部54、第1の電極部55、第2の電極部56で構成されていると共に、熱電変換電力の表示部としての電圧計59を有している。このように構成された装置においては、隣接する順方向導電パターン51と逆方向導電パターン52よりなるストリップ間で熱起電力が打ち消しあうため、大きな異常ネルンスト効果による熱起電力は得られない。
図3(A)(B)においてはストリップが奇数本あるため、正味1本分の熱起電力のみが得られ、その符号は磁化反転により反転する。
図3(C)は異なる磁化方向に対する熱起電力のΔT依存性であり、磁化方向に依存する異常ネルンスト効果成分と、磁化方向に依存しないゼーベック効果に由来するバックグラウンド成分が重畳した結果である。
図3(D)は、
図3(C)における磁化方向に依存する成分(異常ネルンスト効果)と依存しない成分(ゼーベック効果)を分離した結果である。
【0034】
図3(C)に示すように、上向きの磁化方向(
図3(A))では、温度勾配形成部30により形成される基板10の低温側34と高温側32の温度差ΔTが9Kの場合、正味熱起電力は21μVとなる。他方、下向きの磁化方向(
図3(B))では、温度勾配形成部30により形成される基板10の低温側34と高温側32の温度差ΔTが9Kの場合、正味熱起電力は27μVとなる。熱起電力の大きさは、いずれの磁化方向においてもΔTに比例する。
図3(D)に示すように、計算されたゼーベックオフセット電圧は、温度勾配形成部30により形成される基板10の低温側34と高温側32の温度差ΔTが9Kの場合、24μVである。従って、ゼーベック係数は、2.70μV/Kとなる。温度勾配に垂直な異常ネルンスト効果(ANE)の寄与は、温度勾配形成部30により形成される基板10の低温側34と高温側32の温度差ΔTが9Kの場合、−3μVである。従って、異常ネルンスト効果による単位温度差当たりの熱起電力は、−0.35μV/Kとなる。
【0035】
図4は本発明の一実施形態を示す、異なる磁化構成で設計されたCo/Pt多層膜サーモパイルベースTEGデバイスで測定された熱起電力のΔT依存性の説明図である。
図4(A)、(B)は光(σ
+)および左(σ
−)の円偏光でAOSを介して設計された交互の磁化方向を持つCo/Pt多層膜サーモパイルを示している。ここで、
図4(A)は
図2(D)に示す磁性体パターン部の上向き磁化部21と下向き磁化部22と同一の配列、
図4(B)は
図2(D)に示す磁性体パターン部の上向き磁化部21と下向き磁化部22とは逆の配列を示している。
図4(C)は異なる磁化構成での対応する正味熱起電力、
図4(D)は異なる磁化構成で計算された異常ネルンスト効果(ANE)に由来する熱起電力成分を示している。
【0036】
図4(A)は、
図3(A)に示す上向きの磁化方向の長手方向導電パターンに対して、一つおきに左の円偏光(σ
−)を照射して、下向きの磁化方向の長手方向導電パターンを形成したものである。
図4(B)は、
図3(B)に示す下向きの磁化方向の長手方向導電パターンに対して、一つおきに右の円偏光(σ
+)を照射して、上向きの磁化方向の長手方向導電パターンを形成したものである。
【0037】
図4(C)に示すように、右の円偏光(σ
+)を照射した場合(
図4(B))では、温度勾配形成部30により形成される基板10の低温側34と高温側32の温度差ΔTが9Kの場合、正味熱起電力は52μVとなる。他方、左の円偏光(σ
−)を照射した場合(
図4(A))では、温度勾配形成部30により形成される基板10の低温側34と高温側32の温度差ΔTが9Kの場合、正味熱起電力は−5μVとなる。熱起電力の大きさは、いずれの場合においてもΔTに比例する。
【0038】
図4(D)に示すように、異常ネルンスト効果による単位温度差当たりの熱起電力は、右の円偏光(σ
+)を照射した場合と左の円偏光(σ
−)を照射した場合のそれぞれに対して、3.18μV/Kと−3.31μV/Kとなる。これらの値の絶対値の差は実験誤差の範疇であり、符号反転は異常ネルンスト効果による熱起電力が磁化反転により反転することを反映している。この結果は、
図3(D)に示す均一な磁化を持つCo/Pt多層サーモパイルと比較して、約9.5倍の増強比を示している。
図4で用いたCo/Pt多層膜サーモパイルベースTEGデバイスは計13本の長手方向導電パターンから形成されているため、理想的には13倍の増強比が得られるはずであるが、実験的に見積もられた増強比は理想値より低くなっている。これはAOSの効率が100%ではないことなどが要因であり、素子作製条件の最適化によって13倍までは増強可能である。長手方向導電パターンの本数を増やせば、それに応じて理想増強比をさらに上げることができる。
即ち、ミアンダ形状に配置された長手方向導電パターンに対して、右の円偏光(σ
+)又は/及び左の円偏光(σ
−)を長手方向導電パターンに照明することで、上向き磁化部21と下向き磁化部22を交互に配列することで、温度勾配形成部30により形成される基板10の低温側34と高温側32の温度差ΔTによって、大きな異常ネルンスト効果による熱起電力が得られる。
【0039】
図5は従来の異常ネルンスト効果による熱電変換装置を説明する図で、(A)は比較例1、(B)は比較例2を示している。なお、
図5(A)、(B)において、
図1と同一作用をするものには同一符号を付して説明を省略する。
図5(A)に示す比較例1では、サーモパイルは、異常ネルンスト係数が異なる2つの磁性体FM1、FM2で構成される。2つの強磁性体は同一方向に磁化している(+z方向または−z方向に沿ったM)。即ち、磁性体40は、第1の磁性材料部41、第2の磁性材料部42、第1の屈曲部43、第2の屈曲部44、第1の電極部45、第2の電極部46で構成されている。
第1の磁性材料部41は、磁性体40の長手方向導電パターンであって、紙面上向き(z軸方向矢尻側)に磁化された磁性体材料FM1よりなる。第2の磁性材料部42は、磁性体40の長手方向導電パターンであって、紙面上向きに磁化された磁性体材料FM2よりなる。第1の磁性材料部41と第2の磁性材料部42は、交互に平行な状態で基板10上のy軸に沿って配置されており、第1の屈曲部43と第2の屈曲部44によって、ミアンダ形状に配置されている。
【0040】
第1の屈曲部43は、第1の磁性材料部41の長手方向導電パターンにおけるy軸の一端を折返して、隣接する第2の磁性材料部42の長手方向導電パターンにおけるy軸の一端に接続する導電パターンである。第2の屈曲部44は、第2の磁性材料部42の長手方向導電パターンにおけるy軸の他端を折返して、隣接する第1の磁性材料部41の長手方向導電パターンにおけるy軸の他端に接続する導電パターンである。第1の電極部45と第2の電極部46は、
図1に示す第1の電極部25と第2の電極部26と同様である。
比較例1によれば、第1の磁性材料部41と第2の磁性材料部42は、交互に平行な状態で基板10上に配置されており、磁性体材料FM1、FM2の異常ネルンスト係数が異なれば一様磁化でサーモパイルとして機能するが、異なる磁性体材料FM1、FM2で製造されており、製造工程が複雑になる。
【0041】
図5(B)に示す比較例2では、サーモパイルは、磁化方向(図に示す+z方向)が同じである1つの強磁性体のみで構成される。即ち、磁性体50は、順方向導電パターン51、逆方向導電パターン52、第1の屈曲部53、第2の屈曲部54、第1の電極部55、第2の電極部56で構成されている。順方向導電パターン51は、磁性体50の長手方向導電パターンであって、紙面上向き(+z方向)に磁化された磁性体よりなる。逆方向導電パターン52は、磁性体50の長手方向導電パターンであって、紙面上向きに磁化された磁性体よりなる。順方向導電パターン51と逆方向導電パターン52は、交互に平行な状態で基板10上のy軸に沿って配置されており、第1の屈曲部53と第2の屈曲部54によって、ミアンダ形状に配置されている。
【0042】
第1の屈曲部53は、順方向導電パターン51におけるy軸の一端を折返して、隣接する逆方向導電パターン52におけるy軸の一端に接続する導電パターンである。第2の屈曲部54は、逆方向導電パターン52におけるy軸の他端を折返して、隣接する順方向導電パターン51におけるy軸の他端に接続する導電パターンである。第1の電極部55と第2の電極部56は、
図1に示す第1の電極部25と第2の電極部26と同様である。
比較例2の長手方向導電パターンの配置は、
図3(A)、(B)の配置と同様である。比較例2の場合は、磁化方向が同じである1つの強磁性体のみで構成されるため、異常ネルンスト効果により得られる熱起電力が順方向導電パターン51と逆方向導電パターン52とで打ち消しあうため、サーモパイルとして機能しない。
【0043】
図6は、本発明の他の実施形態を示す簡略化されたサーモパイル形状の熱電発電(TEG)デバイスの概念的構成を示す斜視図である。本発明の他の実施例として、原理的には磁性体20の長手方向導電パターンがy方向に形成されている場合に、温度勾配がz方向、磁化がx方向でもy方向に異常ネルンスト効果による熱起電力が生じるため、熱電変換素子として機能する。
【0044】
図において、本発明の垂直型熱電発電素子は、基板10、磁性体80よりなると共に、磁性体80とは別に温度勾配形成部70及び光照射手段37を備える。
基板10は、表面に磁性体80が形成されるもので、例えばガラス基板や、シリコン基板、酸化マグネシウム基板、サファイア基板のような薄膜作製に用いられる典型的な絶縁体材料に加えて、セラミックス基板や樹脂製基板でもよい。
【0045】
磁性体80は全光型磁化反転と異常ネルンスト効果を示すものあればよく、例えば、Gd
XFe
1−X−YCo
Y(0.20≦X≦0.28、0.03≦Y≦0.10)、Tb
XCo
1−X(0.08≦X≦0.34)、Tb
XFe
1−X(0.19≦X≦0.34)、Tb
XFe
1−X−YCo
Y(0.20≦X≦0.40、0.08≦Y≦0.30)、FePt等を用いることができる。
磁性体80は、ミアンダ形状に配置されているもので、幅方向正側磁化部としての右向き磁化部81、幅方向反側磁化部としての左向き磁化部82、第1の屈曲部83、第2の屈曲部84、第1の電極部85、第2の電極部86で構成されている。ミアンダ形状なので、磁性体80の巨視的な温度勾配方向は磁性体80の厚みと大略一致し(
図6のz方向)、磁性体80の振れ幅方向は磁性体80の微視的な長手方向導電パターンの熱起電力方向もしくは電場方向と大略一致(
図6のy方向)する。磁性体80の巨視的な結線方向(
図6のx方向)は、磁性体80の磁化方向Mであり、右向き磁化部81と左向き磁化部82とがある。ここで、磁性体80の巨視的な結線方向は、磁性体80が第1の電極部85と第2の電極部86の間で結線される方向を、基板10全体の形状、特に矩形形状の基板10の縁方向を基準に定めたものをいう。
【0046】
右向き磁化部81は、磁性体80の長手方向導電パターンであって、紙面右向き(+x方向)に磁化された磁性体よりなる。左向き磁化部82は、磁性体80の長手方向導電パターンであって、紙面左向き(−x方向)に磁化された磁性体よりなる。右向き磁化部81と左向き磁化部82は、交互に平行な状態で基板10上に配置されており、第1の屈曲部83と第2の屈曲部84によって、ミアンダ形状に配置されている。第1の屈曲部83は、左向き磁化部82の長手方向導電パターンにおけるy軸の一端を折返して、隣接する右向き磁化部81の長手方向導電パターンにおけるy軸の一端に接続する導電パターンである。第2の屈曲部84は、右向き磁化部81の長手方向導電パターンにおけるy軸の他端を折返して、隣接する左向き磁化部82の長手方向導電パターンにおけるy軸の他端に接続する導電パターンである。
【0047】
第1の電極部85は、紙面の最も右側の部位に位置する左向き磁化部82が接続されるもので、ここでは左向き磁化部82の最近接部位が接続されており、マイナス電極板となっている。第2の電極部86は、紙面の最も左側の部位に位置する左向き磁化部82が接続されるもので、ここでは左向き磁化部82の最近接部位が接続されており、プラス電極板となっている。
なお、第1の電極部85と第2の電極部86に接続される長手方向導電パターンは、温度勾配形成部70により形成される基板10の最も低温側74と最も高温側72に位置するものが接続されるものであり、右向き磁化部81となるか左向き磁化部82となるかは、基板10の幅と磁性体80の長手方向導電パターンのミアンダ形状の折り返し数によって定まる。また、温度勾配∇Tは高温側に向かう方に向くベクトルなので、図中の∇Tにマイナス符号を付してある。
さらに、第1の電極部85と第2の電極部86は、マイナスの極性かプラスの極性となるかは、磁性体80の長手方向導電パターンの磁化方向によって定まるものである。従って、
図6に示すような右向き磁化部81と左向き磁化部82の配置であれば、第1の電極部85がマイナス電極板となり、第2の電極部86がプラス電極板となるが、右向き磁化部81と左向き磁化部82の配置が
図6に示すものと逆であれば、第1の電極部85がプラス電極板となり、第2の電極部86がマイナス電極板となる。また、巨視的な結線方向の矢尻側は、プラス電極板からマイナス電極板に電流が流れる方向をいう。巨視的な結線方向の矢筈側は、矢尻側と逆になる。逆符号の異常ネルンスト係数を有する磁性体を用いた場合は、逆符号の起電力が発生する。
【0048】
磁性体80の長手方向導電パターンの微視的な形状は、例えば大略直方体状であって、幅方向をx軸、長手方向をy軸、厚み方向をz軸とする。磁性体80の磁化Mの方向は、例えば磁性体80の幅方向xとする。温度勾配がz方向に付いている場合は、磁性体80における電流の方向は磁性体80の長手方向yとなる。
熱電変換電力の表示部88は、第2の電極部86から第1の電極部85に流れる熱電エネルギーを模式的に表示するものである。
【0049】
温度勾配形成部70は、磁性体80に温度勾配を形成可能に設けられるもので、例えば電熱器のような熱源装置や自動車等の内燃機関、工場や製鉄所、パソコンやサーバー機などで発生する廃熱源が用いられる。磁性体80における温度勾配∇T又は/及び熱流Jqの方向は、例えば磁性体80の厚み方向zとする。ここでは、基板10における磁性体80のパターンの厚み方向zの表面において、裏面側が高温側72となり、表面側が低温側74となる。
光照射手段37は、偏光を制御できるもので、例えばレーザ発振器と偏光板が用いられる。光照射手段37が照射する円偏光の方向は、例えば磁性体80の幅方向xの成分を含むものとし、磁性体80の表面に照射される。右の円偏光(σ
+)が長手方向導電パターンに照明されることで、左向き磁化部82を形成する。左の円偏光(σ
−)が長手方向導電パターンに照明されることで、右向き磁化部81を形成する。
【0050】
このように構成された装置においては、
図6に示すように、光照射手段37で磁性体80に円偏光を照射したとき、ミアンダ形状の振れ幅方向に応じて、磁性体80の円偏光の照射された領域である長手方向導電パターン毎に、右向き磁化部81と左向き磁化部82とを定める。右向き磁化部81と左向き磁化部82を交互に配置することによって、異常ネルンスト効果によって生成された熱起電力を昇圧できる。
即ち、異常ネルンスト効果によって、磁性体80の磁化Mと温度勾配∇T又は/及び熱流Jqの外積方向に、電流Jc(異常ネルンスト効果による電場E
ANE)が生成される。なお、強磁性体が磁化していれば、外部磁場は不要である。
【0051】
なお、本発明の実施例として、
図1や
図6に示す実施形態を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の実施態様が、当業者に自明な範囲で考えられる。例えば、
図1に示す実施例では磁性体の温度勾配形成方向(x方向)が磁性体の磁化方向(z方向)と直交する方向であり、磁性体の温度勾配形成方向と、磁性体の磁化方向とに直交する方向(y方向)に磁性体の長手方向導電パターンが形成されている配置を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、薄膜面内方向に向いている磁化を全光型磁化反転技術で反転させることも可能である。
また、本発明の垂直型熱電発電素子を用いた電子機器としては、情報携帯端末、情報処理用コンピュータ、集積回路を搭載した音響電子機器や映像電子機器、セットトップボックス等、各種の電子機器が対象となる。