【解決手段】一実施形態において、所望の抗原に特異的な3つの異種可変重鎖CDRと3つの異種可変軽鎖CDRとを含み、8.0〜9.0の等電点を有し、血液脳関門を通過することができる組み換え抗原結合タンパク質、および該組み換え抗原結合タンパク質と1つ以上の作用物質とを含む、対象の脳に作用物質を送達するための医薬組成物による。
重鎖および軽鎖を含む組み換え抗原結合タンパク質であって、前記重鎖が、フレームワーク領域1(FR1)、相補性決定領域1(CDR1)、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4構造を有する配列番号1の重鎖アクセプターフレームワークを含み、CDR1、CDR2、及びCDR3が異種可変重鎖CDRであり、かつ前記軽鎖が、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4構造を有する配列番号2の軽鎖アクセプターフレームワークを含み、CDR1、CDR2、及びCDR3が異種可変軽鎖CDRであり、前記重鎖のCDR及び前記軽鎖のCDRが、リツキシマブ、イブリツモマブ、トシツモマブ、オファツムマブ、カツマキソマブ、ゲムツズマブ、アレムツズマブ、エクリズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、トラスツズマブ、セルトルジマブ、ベバシズマブ、ラニビズマブ、又はイピリムマブの重鎖CDR及び軽鎖CDRである、前記組み換え抗原結合タンパク質。
【発明の概要】
【0004】
概要
血液脳関門を通過することができる抗体または抗体断片に関する組成物及び方法が本明細書に記載される。
【0005】
第1の態様において、本明細書で開示されるのは、(a)配列番号1の重鎖アクセプターフレームワーク、及び所望の抗原に特異的な少なくとも1つの異種可変重鎖CDRと、(b)配列番号2の軽鎖アクセプターフレームワーク、及び所望の抗原に特異的な少なくとも1つの異種可変軽鎖CDRとを含む、組み換え抗原結合タンパク質である。
【0006】
いくつかの実施形態において、組み換え抗原結合タンパク質は、所望の抗原に特異的な3つの異種可変重鎖CDRと3つの異種可変軽鎖CDRとを含む。いくつかの実施形態において、抗原は、表1に列挙される抗原から選択される。いくつかの実施形態において、可変重鎖CDR配列は、表1に列挙される抗原に特異的である。いくつかの実施形態において、可変軽鎖CDR配列は、表1に列挙される抗原に特異的である。
【0007】
いくつかの実施形態において、組み換え抗原結合タンパク質は、8.0〜9.0の等電点を有する。いくつかの実施形態において、組み換え抗原結合タンパク質は、約8.7の等電点を有する。
【0008】
いくつかの実施形態において、組み換え抗原結合タンパク質は、血液脳関門を通過することができる。
【0009】
いくつかの実施形態において、重鎖アクセプターフレームワークは、配列番号1と少なくとも90%同一である。いくつかの実施形態において、軽鎖アクセプターフレームワークは、配列番号2と少なくとも90%同一である。
【0010】
いくつかの実施形態において、抗原結合タンパク質は、完全な免疫グロブリン、scFv、Fab断片、F(ab’)2、ジスルフィド架橋によりヒンジ領域で連結されたFab断片、Fab’断片、Fv、単一ドメイン抗体(Dab)、ナノボディまたは二重特異性抗体である。
【0011】
別の態様において、本明細書で開示されるのは、上記の態様及び実施形態のいずれかの組み換え抗原結合タンパク質をコードする核酸である。
【0012】
別の態様において、本明細書で開示されるのは、上記の態様及び実施形態のいずれかの核酸を含む発現ベクターである。別の態様において、本明細書で開示されるのは、上記の態様及び実施形態のいずれかの発現ベクターを含む宿主細胞である。いくつかの実施形態において、宿主細胞は、細菌細胞または真核細胞であり、哺乳動物細胞であってよい。
【0013】
別の態様において、本明細書で開示されるのは、組み換え抗原結合タンパク質を治療上有効な量で投与することを含む、血液脳関門を通過する組み換え抗原結合タンパク質を送達する方法であり、当該組み換え抗原結合タンパク質は、(a)配列番号1の重鎖アクセプターフレームワーク、及び所望の抗原に特異的な少なくとも1つの異種可変重鎖CDRと、(b)配列番号2の軽鎖アクセプターフレームワーク、及び所望の抗原に特異的な少なくとも1つの異種可変軽鎖CDRとを含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、組み換え抗原結合タンパク質は、所望の抗原に特異的な3つの異種可変重鎖CDRと3つの異種可変軽鎖CDRとを含む。いくつかの実施形態において、抗原は、表1に列挙される抗原から選択される。いくつかの実施形態において、可変重鎖CDR配列は、表1に列挙される抗原に特異的である。いくつかの実施形態において、可変軽鎖CDR配列は、表1に列挙される抗原に特異的である。
【0015】
いくつかの実施形態において、組み換え抗原結合タンパク質は、8.0〜9.0の等電点を有する。いくつかの実施形態において、組み換え抗原結合タンパク質は、約8.7の等電点を有する。
【0016】
いくつかの実施形態において、重鎖アクセプターフレームワークは、配列番号1と少なくとも90%同一である。いくつかの実施形態において、軽鎖アクセプターフレームワークは、配列番号2と少なくとも90%同一である。
【0017】
いくつかの実施形態において、抗原結合タンパク質は、完全な免疫グロブリン、scFv、Fab断片、F(ab’)2、ジスルフィド架橋によりヒンジ領域で連結されたFab断片、Fab’断片、Fv、単一ドメイン抗体(Dab)、ナノボディまたは二重特異性抗体である。
【0018】
更なる態様において、本明細書で開示されるのは、がん、感染症、自己免疫疾患または移植拒絶の治療における使用のための、上記の態様及び実施形態の組み換え抗原結合タンパク質の使用である。
【0019】
対象の脳に作用物質を送達する方法が提供され、この方法は、プリツムマブ(pritumumab)と1つ以上の作用物質とを含むコンジュゲートを含む組成物を当該対象に投与することを含む。また、組成物およびキットも提供され、キットは、プリツムマブと1つ以上の作用物質とを含むコンジュゲートを含む組成物を含む。
[本発明1001]
(a)配列番号1の重鎖アクセプターフレームワーク、及び所望の抗原に特異的な少なくとも1つの異種可変重鎖CDRと、
(b)配列番号2の軽鎖アクセプターフレームワーク、及び所望の抗原に特異的な少なくとも1つの異種可変軽鎖CDRと
を含む、組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1002]
所望の抗原に特異的な3つの異種可変重鎖CDRと3つの異種可変軽鎖CDRとを含む、本発明1001の組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1003]
前記抗原が、表1に列挙される抗原から選択される、本発明1001の組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1004]
前記可変重鎖CDR配列が、表1に列挙される抗原に特異的である、本発明1001の組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1005]
前記可変軽鎖CDR配列が、表1に列挙される抗原に特異的である、本発明1001の組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1006]
8.0〜9.0の等電点を有する、本発明1001の組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1007]
約8.7の等電点を有する、本発明1001の組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1008]
血液脳関門を通過することができる、本発明1001の組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1009]
前記重鎖アクセプターフレームワークが、配列番号1と少なくとも90%同一である、本発明1001の組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1010]
前記軽鎖アクセプターフレームワークが、配列番号2と少なくとも90%同一である、本発明1001の組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1011]
完全な免疫グロブリン、scFv、Fab断片、F(ab’)
2、ジスルフィド架橋によりヒンジ領域で連結されたFab断片、Fab’断片、Fv、単一ドメイン抗体(Dab)、ナノボディまたは二重特異性抗体である、本発明1001の組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1012]
本発明1001〜1011のいずれかの組み換え抗原結合タンパク質をコードする、核酸。
[本発明1013]
本発明1012の核酸を含む、発現ベクター。
[本発明1014]
本発明1013の発現ベクターを含む、宿主細胞。
[本発明1015]
前記宿主細胞が細菌細胞または真核細胞である、本発明1014の宿主細胞。
[本発明1016]
前記真核細胞が哺乳動物細胞である、本発明1015の宿主細胞。
[本発明1017]
組み換え抗原結合タンパク質を治療上有効な量で投与することを含む、血液脳関門を通過する組み換え抗原結合タンパク質を送達する方法であって、
前記組み換え抗原結合タンパク質が、
(a)配列番号1の重鎖アクセプターフレームワーク、及び所望の抗原に特異的な少なくとも1つの異種可変重鎖CDRと、
(b)配列番号2の軽鎖アクセプターフレームワーク、及び所望の抗原に特異的な少なくとも1つの異種可変軽鎖CDRと
を含む、
前記方法。
[本発明1018]
前記組み換え抗原結合タンパク質が、所望の抗原に特異的な3つの異種可変重鎖CDRと3つの異種可変軽鎖CDRとを含む、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記抗原が、表1に列挙される抗原から選択される、本発明1017の方法。
[本発明1020]
前記可変重鎖CDR配列が、表1に列挙される抗原に特異的である、本発明1017の方法。
[本発明1021]
前記可変軽鎖CDR配列が、表1に列挙される抗原に特異的である、本発明1017の方法。
[本発明1022]
前記組み換え抗原結合タンパク質が8.0〜9.0の等電点を有する、本発明1017の方法。
[本発明1023]
前記組み換え抗原結合タンパク質が約8.7の等電点を有する、本発明1017の方法。
[本発明1024]
前記重鎖アクセプターフレームワークが、配列番号1と少なくとも90%同一である、本発明1017の方法。
[本発明1025]
前記軽鎖アクセプターフレームワークが、配列番号2と少なくとも90%同一である、本発明1017の方法。
[本発明1026]
前記抗原結合タンパク質が、完全な免疫グロブリン、scFv、Fab断片、F(ab’)2、ジスルフィド架橋によりヒンジ領域で連結されたFab断片、Fab’断片、Fv、単一ドメイン抗体(Dab)、ナノボディまたは二重特異性抗体である、本発明1017の方法。
[本発明1027]
がん、感染症、自己免疫疾患または移植拒絶の治療における使用のための本発明1001〜1011のいずれかの組み換え抗原結合タンパク質。
[本発明1028]
重鎖及び軽鎖を含み、
前記重鎖が配列番号1と少なくとも90%同一である配列を含み、
前記軽鎖が配列番号2と少なくとも90%同一である配列を含む、抗体と、
1つ以上の作用物質と
を含む、組成物
を対象に投与することを含む、対象の脳に作用物質を送達する方法。
[本発明1029]
前記作用物質がイメージング剤である、本発明1028の方法。
[本発明1030]
前記作用物質が治療薬である、本発明1028の方法。
[本発明1031]
前記治療薬が化学療法薬である、本発明1030の方法。
[本発明1032]
前記1つ以上の作用物質が前記抗体にコンジュゲートされている、本発明1028〜1031のいずれかの方法。
[本発明1033]
前記抗体がプリツムマブである、本発明1028〜1032のいずれかの方法。
[本発明1034]
前記抗体の重鎖が配列番号1を含む、本発明1028〜1032のいずれかの方法。
[本発明1035]
前記抗体の軽鎖が配列番号2を含む、本発明1028〜1032または1034のいずれかの方法。
[本発明1036]
前記抗体が、腫瘍細胞と特異的に結合するが正常細胞には結合しない、本発明1028〜1035のいずれかの方法。
[本発明1037]
重鎖及び軽鎖を含み、
前記重鎖が配列番号1と少なくとも90%同一である配列を含み、
前記軽鎖が配列番号2と少なくとも90%同一である配列を含む、抗体と、
1つ以上の作用物質と
を含む、組成物。
[本発明1038]
脳への送達のために製剤化される、本発明1037の組成物。
[本発明1039]
血液脳関門を通過することができる、本発明1037の組成物。
[本発明1040]
前記作用物質がイメージング剤である、本発明1037〜1039のいずれかの組成物。
[本発明1041]
前記作用物質が治療薬である、本発明1037〜1039のいずれかの組成物。
[本発明1042]
前記治療薬が化学療法薬である、本発明1041の組成物。
[本発明1043]
前記1つ以上の作用物質が前記抗体にコンジュゲートされている、本発明1037〜1042のいずれかの組成物。
[本発明1044]
前記抗体がプリツムマブである、本発明1037〜1043のいずれかの組成物。
[本発明1045]
前記抗体の重鎖が配列番号1を含む、本発明1037〜1043のいずれかの組成物。
[本発明1046]
前記抗体の軽鎖が配列番号2を含む、本発明1037〜1043または1045のいずれかの組成物。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
モノクローナル抗体(mAb)は、同一の免疫細胞、すなわち、共通の生殖細胞のクローンによって産生される単一の抗原特異性を有する抗体であり、顕著な特異性、有効性及び安全性をもって、ほぼあらゆる細胞表面または分泌分子を標的にする能力があることから、従来にない薬物開発の機会を提供する。
【0022】
よく知られているように、標的抗原に結合する抗体の能力は、相補性決定領域(CDR)セグメントが担っている。可変ドメイン間の相違は、超可変領域(HV−1、HV−2及びHV−3)または(CDR1、CDR2及びCDR3)として知られる3つのループ上に位置する。CDRは、可変ドメイン内で、保存されたフレームワーク領域によって支持される。本開示は、ヒト天然モノクローナル抗体(プリツムマブ)のフレームワークを、ネズミ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒトモノクローナル抗体(mAb)などの他の抗体に由来する超可変領域をグラフティングするために使用して、血液脳関門を通過することができる新しい抗原結合タンパク質を生成することに関する。
【0023】
CDRは、異なる特異性及び親和性を有する抗体間で(1つのグループとして、または個別に)交換される。CDRのスワッピング(CDRグラフティングとも呼ばれる)は、ネズミ抗体のヒト化だけでなく、より安定した従来の抗体断片の構築にも利用されている技術である。本明細書で論じるように、プリツムマブのフレームワークは、ヒト起源のものであり、BBBを通過することができる固有の特徴を提供し、更に、そのCDRは、超可変であり、また安定性よりも結合親和性について選択されることから、ヒトIgG1(プリツムマブ)のフレームワーク上のCDRのバリエーションは、様々なヒト疾患を治療するのに極めて標的特異的であるが、BBBを通過することができないために使用できないモノクローナル抗体の臨床的有用性を向上させる革新的なアプローチであることを提案するものである。本明細書で開示されるように、本発明者らは、BBBを通過する医学的及び治療的に重要なCDRを含有する標的特異性モノクローナル抗体の送達に対するプリツムマブフレームワークの寄与を理解する目的で、一連のCDRスワップ変異体を構築する。
【0024】
具体的には、本発明者らは、プリツムマブがBBBを容易に通過するヒト抗体であることを明らかにした。異なる特異性及び/またはペイロードを抗体に配置すれば、これらの特異性及び/またはペイロードは脳に容易に送達されるはずである。プリツムマブ重鎖は、BBBを通過するための担体として機能し、新しい特異性及び/またはペイロードを送達する。したがって、本開示は、BBBを容易に通過する天然ヒト抗体を利用し、その固有の特徴を用いて追加の薬物を送達するものである。
【0025】
定義
本発明は、特定の方法、試薬、化合物、組成物または生体系に限定されず、これらは、当然のことながら変わり得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の態様を記載する目的でのみ使用され、限定を意図するものではないことも理解されたい。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈により別途明示される場合を除き、複数の指示対象を含む。
【0026】
本明細書で使用される「約」という用語は、量、時間的な幅などの測定可能な値を指す場合、指定値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、更により好ましくは±1%、またより好ましくは±0.1%の変動値を包含することを意味する。このような変動値は、本開示の方法の実施に適している。
【0027】
別途の定義がない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同一の意味を有する。本発明の試験実施には、本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法及び材料を使用することができるが、好ましい材料及び方法については、本明細書に記載される。
【0028】
「脊椎動物」、「哺乳動物」、「対象」、「哺乳動物対象」または「患者」は、同じ意味で使用され、哺乳類、例えば、ヒト患者及び非ヒト霊長類、更に、ウサギ、ラット及びマウス、ウシ、ウマ、ヤギなどの実験動物ならびに他の動物を指す。動物には、全ての脊椎動物、例えば、哺乳動物及び非哺乳動物、例えば、マウス、ヒツジ、イヌ、ウシ、トリ種、アヒル、ガチョウ、ブタ、ニワトリ、両生類及び爬虫類が含まれる。
【0029】
「治療すること」または「治療」は、一般に、(i)疾患を防ぐこと、例えば、予防、または(ii)対象疾患の症状を軽減もしくは排除すること、例えば、治療のいずれかを指す。したがって、治療は、予防的(疾患発症の予防もしくは遅延、またはその臨床的もしくは準臨床的症状の顕在化の予防)であり得るか、疾患の顕在化後における症状の治療的抑制もしくは緩和であり得る。
【0030】
「予防すること」または「予防」は、本発明の組成物を用いた予防のための投与を指す。
【0031】
「治療上有効な量」または「有効量」は、疾患の予防または疾患に伴う症状のうちの少なくとも1つの緩和(例えば、鎮静、減少、軽減)に十分な抗体組成物の量を指す。組成物の投与の利点が不利益を上回るのであれば、組成物の投与が疾患の症状を完全に排除することは必須ではない。同様に、「治療する」及び「治療すること」という用語は、疾患に関して本明細書で使用されるとき、対象の疾患が必ず治癒されること、またはその全ての臨床的徴候が排除されることを意味するのではなく、単に対象の病態のいくらかの緩和または改善が組成物の投与によって達成されることを意味することを意図するにすぎない。
【0032】
抗体及び断片
本明細書で使用されるとき、「抗体」という用語は、特定のエピトープに結合する任意の免疫グロブリンまたはインタクトな分子及びその断片を指す。かかる抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、一本鎖抗体、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’断片及び/または完全抗体のF(v)部分ならびにこれらのバリアントが含まれるが、これらに限定されない。この用語には、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM全てのアイソタイプが包含される。
【0033】
本明細書で使用されるとき、「抗体断片」という用語は、抗体の完全配列のうち、親抗体の抗原結合機能を保持する不完全な部分または単離された部分を特に指す。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFvの各断片、ダイアボディ、直鎖抗体、一本鎖抗体分子、ならびに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0034】
インタクト「抗体」は、ジスルフィド結合によって互いに連結された少なくとも2つの重鎖(H)及び2つの軽鎖(L)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書中、HCVRまたはV
Hと略す)及び重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、3つのドメインCH
1、CH
2及びCH
3からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書中、LCVRまたはV
Lと略す)及び軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインC
Lからなる。V
H及びV
L領域は、フレームワーク領域(FR)と称される保存性の高い領域に点在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域に更に細分することができる。各V
H及びV
Lは、3つのCDR及び4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって次の順番:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の各種細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1構成成分(C1q)などの宿主の組織または因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介することができる。抗体という用語には、結合する能力を保持する、インタクト抗体の抗原結合部分が含まれる。結合の例には、(i)V
L、V
H、C
L及びCH1ドメインからなる一価断片である、Fab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価断片である、F(ab’)
2断片;(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の一本のアームのV
L及びV
HドメインからなるFv断片;(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.,Nature,341:544−546(1989));ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。
【0035】
「抗原結合タンパク質」という用語は、当該抗原結合タンパク質が標的抗原を特異的に認識するように、抗体の抗原結合部位の全部または一部、例えば、重鎖及び/または軽鎖可変ドメインの全部または一部を含有する分子を指す。抗原結合タンパク質の非限定的な例には、完全長免疫グロブリン分子及びscFvのみならず、限定するものではないが、(i)V
L、V
H、C
L及びC
H1ドメインからなる一価断片である、Fab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価断片である、F(ab’)
2断片;(iii)ヒンジ領域の部分を含む本質的にFabである、Fab’断片(Fundamental Immunology(Paul ed.,3.sup.rd ed.1993)参照;(iv)V
H及びC
H1ドメインからなるFd断片;(v)抗体の一本のアームのV
L及びV
HドメインからなるFv断片;(vi)V
HもしくはV
LドメインからなるDab断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544−546)、ラクダ抗体(Hamers−Casterman,et al.,Nature 363:446−448(1993)及びDumoulin,et al.,Protein Science 11:500−515(2002)参照)またはサメ抗体(例えば、サメIg−NAR Nanobodies(商標)などの単一ドメイン抗体;ならびに(vii)1つの可変ドメイン及び2つの定常ドメインを含有する重鎖可変領域である、ナノボディを含む、抗体断片が挙げられる。
【0036】
「CDR」という用語は、抗原結合に主に寄与する抗体の可変ドメイン内の6つの超可変領域のうちの1つを指す。6つのCDRに関して最も一般的に使用されている定義のうちの1つは、Kabat E.A.et al.,(1991)Sequences of proteins of immunological interest.NIH Publication 91−3242)によって提供されたものである。
【0037】
本明細書で使用される「抗体フレームワーク」という用語は、VLまたはVHのいずれかの可変ドメインの一部であって、この可変ドメインの抗原結合ループ(CDR)の足場として機能する部分を指す。要するに、CDRのない可変ドメインである。
【0038】
本明細書で使用されるとき、「一本鎖抗体」または「一本鎖Fv(scFv)」という用語は、Fv断片のV
LとV
Hの2つのドメインの抗体融合分子を指す。Fv断片のV
LとV
Hの2つのドメインは、別個の遺伝子によってコードされているが、組み換え法を用いて、V
LとV
Hの領域が対になって一価分子を形成する単一のタンパク質鎖としての作製を可能にする、合成リンカーによって結合することができる(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Bird et al.,Science,242:423−426(1988);及びHuston et al.,Proc Natl Acad Sci USA,85:5879−5883(1988)を参照されたい)。このような一本鎖抗体は、「抗体」断片という用語の参照に含まれ、組み換え技術またはインタクト抗体の酵素的もしくは化学的切断によって調製することができる。
【0039】
本明細書で使用されるとき、「ヒト配列抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域(存在する場合)を有する抗体を含む。本発明のヒト配列抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列にコードされていないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダム変異導入もしくは部位特異的変異導入によって導入された変異、またはin vivoでの体細胞変異によって導入された変異)を含み得る。このような抗体は、例えば、PCT出願公開番号WO01/14424及びWO00/37504に記載されているような非ヒトトランスジェニック動物において作製することができる。ただし、「ヒト配列抗体」という用語は、本明細書で使用されるとき、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列上にグラフティングされた抗体(例えば、ヒト化抗体)を含むことを意図するものではない。
【0040】
また、組み換え免疫グロブリンを作製することもできる。Cabillyの米国特許第4,816,567号(その全体をあらゆる目的のために参照により本明細書に援用する);及びQueen et al.,Proc Natl Acad Sci USA,86:10029−10033(1989)を参照されたい。
【0041】
本明細書で使用されるとき、「モノクローナル抗体」という用語は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して、単一の結合特異性及び親和性を示す。したがって、「ヒトモノクローナル抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域(存在する場合)を有する単一の結合特異性を示す抗体を指す。一態様において、ヒトモノクローナル抗体は、非ヒトトランスジェニック動物(例えば、トランスジェニックマウス)から得られた、ヒトの重鎖導入遺伝子及び軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有する、不死化細胞に融合させたB細胞を含む、ハイブリドーマによって産生される。
【0042】
本明細書で使用されるとき、「抗原」という用語は、抗体の産生を刺激し、免疫応答を引き起こすことができる物質を指し、本開示中、「免疫原」という用語と同じ意味で使用され得る。厳密な意味では、免疫原は、免疫系からの応答を惹起する物質であり、一方、抗原は、特異的抗体に結合する物質として定義される。抗原またはその断片は、特定の抗体と接触する分子(すなわち、エピトープ)であってよい。タンパク質またはタンパク質の断片を使用して宿主動物を免疫化すると、そのタンパク質の多数の領域により、抗原(タンパク質上の所与の領域または三次元構造)に特異的に結合する抗体の産生が誘導され得る(すなわち、免疫応答を惹起する)。
【0043】
本明細書で使用されるとき、「ヒト化抗体」という用語は、その抗体がヒト抗体により近似し、元の結合能力をなおも保持するように、非抗原結合領域及び/または抗原結合領域内のアミノ酸配列が変更された少なくとも1つの抗体分子を指す。
【0044】
更に、適切な抗原特異性を有するマウス抗体分子に由来する遺伝子を、適切な生物活性を有するヒト抗体分子に由来する遺伝子とともにスプライシングすることによる、「キメラ抗体」を産生するために開発された技術(Morrison,et al.,Proc Natl Acad Sci,81:6851−6855(1984);その全体を参照により本明細書に援用する)を使用することができる。例えば、マウス抗体分子に由来する遺伝子を、適切な生物活性を有するヒト抗体分子に由来する遺伝子とともにスプライシングすることができる。キメラ抗体は、異なる部分が異なる動物種に由来する分子、例えば、ネズミmAbに由来する可変領域と、ヒト免疫グロブリン定常領域とを有するものである。
【0045】
更に、ヒト化抗体を作製するための技術が開発されている(例えば、米国特許第5,585,089号及び米国特許第5,225,539号参照;その全体を参照により本明細書に援用する)。免疫グロブリンの軽鎖または重鎖可変領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの超可変領域によって中断された「フレームワーク」領域からなる。簡潔に述べれば、ヒト化抗体は、非ヒト種に由来する1つ以上のCDRと、ヒト免疫グロブリン分子に由来するフレームワーク領域とを有する、非ヒト種由来の抗体分子である。
【0046】
あるいは、一本鎖抗体の産生について記載される技術を、本開示の免疫原性コンジュゲートに対する一本鎖抗体を産生するように変更してもよい。一本鎖抗体は、Fv領域の重鎖断片と軽鎖断片とをアミノ酸架橋を介して連結させることによって形成され、これにより一本鎖ポリペプチドが得られる。抗体分子のFab及びF(ab’)2の部分は、実質的にインタクトである抗体分子を周知の方法によってそれぞれパパイン及びペプシンでタンパク質分解反応することによって作製することができる。例えば、米国特許第4,342,566号を参照されたい。Fab’抗体分子部分もまたよく知られており、F(ab’)2部分から2つの重鎖部分を連結しているジスルフィド結合をメルカプトエタノールなどにより還元し、続いて、得られたタンパク質メルカプタンをヨードアセトアミドなどの試薬によりアルキル化することで作製される。
【0047】
アミノ酸部分は、AHoナンバリングスキームに従って指定することができる。AHoナンバリングシステムは、Honegger,A.and Pluckthun,A.(2001)J.Mol.Biol.309:657−670)に更に記載されている。あるいは、Kabatら(Kabat,E.A.,et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91−3242)に更に記載されているKabatナンバリングシステムを使用することもできる。抗体の重鎖及び軽鎖可変領域内のアミノ酸残基位置を特定するために使用される2つの異なるナンバリングシステムの変換表は、A.Honegger,J.Mol.Biol.309(2001)657−670.に記載されている。
【0048】
一態様において、本開示は、異種供給源に由来するCDRをグラフティングするためのヒトアクセプターフレームワーク配列を提供する。ヒトプリツムマブフレームワークが特に有用なフレームワークであることが判明した。
【0049】
したがって、本発明は、i)配列番号1と少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有する可変重鎖フレームワーク、及び/または(ii)配列番号2と少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有する可変軽鎖フレームワークを含む、抗原結合タンパク質アクセプターフレームワークを提供する。これらの配列を以下に示す。
【0050】
CDRをヒトアクセプターフレームワークへグラフティングするための一般的方法は、Winterの米国特許第5,225,539号及びQueenらのWO9007861A1に開示されており、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0051】
本発明の方法の例示的な実施形態では、CDRドナー抗体のアミノ酸配列をまず特定し、従来の配列アライメントツール(例えば、Needleman−Wunschアルゴリズム及びBlossum行列)を使用して配列を整列させる。ギャップの導入及び残基位置の命名は、従来の抗体ナンバリングシステムを使用して行うことができる。例えば、免疫グロブリン可変ドメインにはAHoナンバリングシステムを使用することができる。Kabatナンバリングスキームもまた、抗体の残基ナンバリングに最も広く採用されている標準法であるため、適用することができる。Kabatナンバリングは、例えば、SUBIMプログラムを使用して割り当てが可能である。このプログラムは、Kabat及び共同研究者によって確立されたシステムに従って、抗体配列の可変領域を解析し、配列に番号を付ける(Deret et al.1995)。フレームワーク領域及びCDR領域の特定は、概して、配列可変性に基づくKabat定義に従って行われ、最も一般的に使用されている。抗体の重鎖及び軽鎖可変領域内のアミノ酸残基位置を特定するために使用される2つの異なるナンバリングシステムの変換表は、A.Honegger,J.Mol.Biol.309(2001)657−670.に記載されている。Kabatナンバリングシステムは、Kabatら(Kabat,E.A.,et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91−3242)に更に記載されている。AHoナンバリングシステムは、Honegger,A.and Pluckthun,A.(2001)J.Mol.Biol.309:657−670)に更に記載されている。
【0052】
例えば、本明細書で開示されるアクセプターフレームワークを使用して、CDRの起源となった抗体の結合特性を保持するヒト抗体またはヒト化抗体を作製することができる。そのため、好ましい実施形態において、本発明は、ドナー抗原結合タンパク質に由来する重鎖CDR1、CDR2及びCDR3及び/または軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を更に含む、本明細書に開示される抗原結合タンパク質アクセプターフレームワークを包含する。したがって、一実施形態において、本発明は、(i)可変重鎖及び軽鎖CDR、(ii)配列番号1と少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または100%の同一性を有するヒト可変重鎖フレームワーク、(iii)配列番号2と少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または100%の同一性を有するヒト可変軽鎖フレームワークを含む、所望の抗原に特異的な抗原結合タンパク質を提供する。
【0053】
本開示の実施に有用なCDRを含む抗体の例には、以下のものが挙げられる。
【0055】
Magdelaine−Beuzelin C,Kaas Q,Wehbi V,Ohresser M,Jefferis R,Lefranc M−P,Watier H.Structure−function relationships of the variable domains of monoclonal antibodies approved for cancer treatment.Critical Reviews in Oncology/Hematology.64:210−225,2007をもとに、がん治療のために承認されたいくつかのモノクローナル抗体に由来する可変ドメインのアライメントを以下に示す。セツキシマブ(配列番号3)、リツキシマブ(配列番号4)、アレムツズマブ(配列番号5)、ベバシズマブ(配列番号6)、トラスツズマブ(配列番号7)、ペルツズマブ(配列番号8)、パニツムマブ(配列番号9)。
【0056】
イピリムマブのCDRは、米国特許第2009/0074787A1号に記載されている。
【0057】
ベバシズマブ(配列番号10)及びラニビズマブ(配列番号11)のVH及びV−κドメインのアライメントを以下に示す。
【0058】
別の態様において、本発明は、細胞毒素、薬物(例えば、免疫抑制剤)または放射性毒素などの治療的部分にコンジュゲートされている、本明細書で開示される抗体またはその断片を特徴とする。このようなコンジュゲートは、本明細書中、「免疫コンジュゲート」と呼ばれる。
【0059】
本発明の抗体コンジュゲートは、所与の生体応答を変更するために使用することができ、薬物部分は、古典的な化学療法剤に限定されると解釈されるものではない。例えば、薬物部分は、所望の生物活性を有するタンパク質またはポリペプチドであってよい。このようなタンパク質には、例えば、アブリン、リシンA、シュードモナス外毒素もしくはジフテリア毒素などの酵素活性毒素もしくはその活性断片;腫瘍壊死因子もしくはインターフェロン−γなどのタンパク質;または、例えば、リンフォカイン、インターロイキン−1(「IL−1」)、インターロイキン−2(「IL−2」)、インターロイキン−6(「IL−6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM−CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G−CSF」)もしくは他の成長因子などの生体応答調節物質が含まれ得る。
【0060】
プリツムマブは血液脳関門を通過することができるので、他の作用物質(例えば、イメージング剤または治療薬)を脳または他の腫瘍組織に送達するための送達ビヒクルとして使用することができる。したがって、重鎖及び軽鎖を含む抗体であって、当該重鎖が配列番号1と少なくとも90%同一である配列を含み、当該軽鎖が配列番号2と少なくとも90%同一である配列を含む、抗体と、1つ以上の作用物質(例えば、イメージング剤または治療薬)とを含む、組成物が提供される。任意選択により、作用物質は、抗体にコンジュゲートされる。任意選択により、治療薬は、化学療法薬である。任意選択により、コンジュゲートは、1つ以上の作用物質にコンジュゲートされている、本明細書に記載される組み換え抗原結合タンパク質を含む。任意選択により、組成物は、脳への送達のために製剤化される。任意選択により、組成物は、血液脳関門を通過することができる。任意選択により、抗体の重鎖は、配列番号1を含み、軽鎖は、配列番号2を含む。任意選択により、抗体は、プリツムマブである。
【0061】
このような治療的部分を抗体にコンジュゲートする技術は、よく知られており、例えば、Amon et al.,“Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy”,in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy,Reisfeld et al.(eds.),pp.243−56(Alan R.Liss,Inc.1985);Hellstrom et al.,“Antibodies For Drug Delivery”,in Controlled Drug Delivery(2nd Ed.),Robinson et al.(eds.),pp.623−53(Marcel Dekker,Inc.1987);Thorpe,“Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review”,in Monoclonal Antibodies ’84:Biological And Clinical Applications,Pinchera et al.(eds.),pp.475−506(1985);“Analysis,Results,And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy”,in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy,Baldwin et al.(eds.),pp.303−16(Academic Press 1985)及びThorpe et al.,“The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody−Toxin Conjugates”,Immunol.Rev.,62:119−58(1982)を参照されたい。
【0062】
また、対象の脳に作用物質を送達する方法も提供される。方法は、重鎖及び軽鎖を含む抗体であって、当該重鎖が配列番号1と少なくとも90%同一である配列を含み、当該軽鎖が配列番号2と少なくとも90%同一である配列を含む、抗体と、1つ以上の作用物質(例えば、イメージング剤または治療薬)とを含む、組成物を、対象に投与することを含む。任意選択により、治療薬は、化学療法薬である。任意選択により、重鎖は、配列番号1を含み、軽鎖は、配列番号2を含む。任意選択により、抗体は、プリツムマブである。任意選択により、抗体は、腫瘍細胞に特異的と結合するが、正常細胞には結合しない。
【0063】
提供される組成物及び方法における使用(例えば、提供される抗体へのコンジュゲート)に好適な治療薬には、鎮痛薬、麻酔薬、興奮薬、コルチコステロイド、抗コリン薬、抗コリンエステラーゼ薬、抗痙攣薬、抗腫瘍薬、アロステリック阻害薬、アナボリックステロイド、リウマチ治療薬、精神治療薬、神経遮断薬、抗炎症薬、駆虫薬、抗生物質、抗凝固薬、抗真菌薬、抗ヒスタミン薬、抗ムスカリン薬、抗マイコバクテリア薬、抗原虫薬、抗ウイルス薬、ドパミン作動薬、血液作用薬、免疫作用薬、ムスカリン作動薬、プロテアーゼ阻害薬、ビタミン、成長因子及びホルモンからなる群から選択される治療薬が挙げられるが、これらに限定されない。作用物質及び用量の選択は、当業者であれば、治療が施される所与の疾患に基づいて容易に決定することができる。
【0064】
本明細書に記載されるように、抗体は、イメージング剤に結合またはコンジュゲートすることができる。イメージング剤及びその使用は知られている。任意選択により、イメージング剤は、「検出可能な部分」であり、分光学、光化学、生化学、免疫化学、化学または他の物理的手段によって検出可能な組成物である。例えば、有用な標識には、32P、蛍光色素、電子密度の高い試薬、酵素(例えば、ELISAにおいて一般に使用されるもの)、ビオチン、ジゴキシゲニンまたはハプテン及びタンパク質または検出を可能にすることができる他の実体(例えば、標的ペプチドと特異的に反応するペプチドまたは抗体に放射性標識を組み込むことによる)が含まれる。抗体を標識にコンジュゲートするには、当該技術分野において知られている任意の方法を利用することができ、例えば、Hermanson,Bioconjugate Techniques 1996,Academic Press,Inc.,San Diegoに記載されている方法が使用できる。検出可能な部分は、ガンマ放射体、ベータ放射体及びアルファ放射体、ガンマ放射体、陽電子放射体、X線放射体ならびに蛍光放射体からなる群から選択することができる。好適な蛍光性化合物には、フルオレセインナトリウム、フルオレセインイソチオシアナート、フィコエリトリン及びテキサスレッド塩化スルホニル、アロフィコシアニン(APC)、Cy5−PE、CY7−APC及びカスケードイエローが含まれる。
【0065】
任意選択により、検出可能な部分は、組織化学的手法、ELISA様アッセイ、共焦点顕微鏡法、蛍光検出法、セルソーティング法、核磁気共鳴法、ラジオイムノシンチグラフィー、X線撮影法、陽電子放射断層撮影法、コンピュータ断層撮影法、磁気共鳴画像法及び超音波検査法を使用して可視化することができる。
【0066】
抗体アッセイ
抗体の特異性及び親和性を確認し、これらの抗体が他のタンパク質と交差反応するかどうかを決定するために、目的抗体をアッセイするための多数のスクリーニングアッセイが当該技術分野において知られている。
【0067】
「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、抗原とその対応する抗体との間の相互作用を指す。相互作用は、結合分子によって認識されるタンパク質(すなわち、抗原またはエピトープ)の特定の構造の存在に依存する。結合が特異的であるためには、バックグラウンド抗原の抗体結合ではなく、目的のエピトープ(複数可)の抗体結合を伴う必要がある。
【0068】
抗体が作製されたら、アッセイを行い、その抗体が目的抗原に特異的であることを確認し、他の抗原との何らかの交差反応性を示すかどうかを決定する。このようなアッセイを実施する1つの方法は、米国特許出願公開第2004/0126829号に記載の血清スクリーニングアッセイである(その内容を参照により明示的に本明細書に援用する)。しかしながら、品質管理のための他のアッセイ法も当業者の技術範囲内であり、ゆえに、これらも本開示の範囲内である。
【0069】
本開示の抗体またはその抗原結合断片、バリアントもしくは誘導体は、その抗原に対する結合親和性についても記載または明記され得る。抗原に対する抗体の親和性は、任意の好適な方法を使用して実験的に決定することができる(例えば、Berzofsky et al.,“Antibody−Antigen Interactions,” In Fundamental Immunology,Paul,W.E.,Ed.,Raven Press:New York,N.Y.(1984);Kuby,Janis Immunology,W.H.Freeman and Company:New York,N.Y.(1992);及び本明細書に記載される方法を参照されたい)。特定の抗体−抗原相互作用について測定される親和性は、異なる条件(例えば、塩濃度、pH)下で測定した場合、変動し得る。したがって、親和性及び他の抗原結合パラメータ(例えば、K
D、K
a、K
d)の測定は、好ましくは、抗体及び抗原の標準液ならびに標準化された緩衝液を用いて行われる。
【0070】
親和性結合定数(K
aff)は、以下の式を使用して決定することができる。
式中、
である。
【0071】
[mAb]は、未結合の抗原部位の濃度であり、[mAg]は、2つの異なる抗原濃度(すなわち、[mAg]
t及び[mAg’]
t)で決定したときの未結合のモノクローナル結合部位の濃度である。(Beatty et al.,J Imm Meth,100:173−179(1987))。
【0072】
抗体抗原親和性及び反応速度論の検出及び測定には表面プラズモン共鳴(SPR)を使用することができる(例えば、Hearty,S.,et al.,Methods Mol.Biol.,907:411−42(2012);Malmqvist,M.,Current Opinion in Immunology,5:282−286(1993);Chatellier,J,et al.,J.Molecular Recognition,9:39−51(1996);Margulies,D.H.,et al.,Current Opinion in Immunology,8:262−270(1996);Forbes,B.E.,et al.,Eur.J.Biochem.,269:961−968(2002)参照)。
【0073】
抗体に関する「高親和性」という用語は、少なくとも約1×10
7リットル/モル、または少なくとも約1×10
8リットル/モル、または少なくとも約1×10
9リットル/モル、または少なくとも約1×10
10リットル/モル、または少なくとも約1×10
11リットル/モル、または少なくとも約1×10
12リットル/モル、または少なくとも約1×10
13リットル/モル、または少なくとも約1×10
14リットル/モルまたはそれ以上の平衡会合定数(K
aff)を指す。「高親和性」結合は、抗体アイソタイプごとに変わり得る。平衡解離定数K
Dは、抗体親和性を記述するためにも使用される用語であり、K
affの逆数である。
【0074】
平衡解離定数K
Dは、抗体親和性を記述するためにも使用される用語であり、K
affの逆数である。K
Dが使用される場合、抗体に関する「高親和性」という用語は、約1×10
−7モル/リットル未満、または約1×10
−8モル/リットル未満、または約1×10
−9モル/リットル未満、または約1×10
−10モル/リットル未満、または約1×10
−11モル/リットル未満、または約1×10
−12モル/リットル未満、または約1×10
−13モル/リットル未満、または約1×10
−14モル/リットルまたはそれ以下の平衡解離定数(K
D)を指す。
【0075】
本開示による抗体の作製は、生理学的ヒト免疫応答の過程で生じるもの、すなわち、ヒト免疫系によってのみ選択され得る抗体特異性の特徴を有する抗体を提供する。これらの抗体は、適切な製剤化を経て、予防薬または治療薬として使用することができる。
【0076】
特定の作用物質に関する「中和抗体」、「広範な中和抗体」または「中和モノクローナル抗体」は、本明細書において全て同じ意味で用いられ、当該作用物質が宿主内で機能する能力を中和することができる抗体である。いくつかの実施形態において、本開示に従って作製されたモノクローナル抗体は、その抗体が10
−9M以下(例えば、10
−10M、10
−11M、10
−12M以下)の濃度で中和することができる場合、中和活性を有する。
【0077】
本発明の免疫グロブリン分子は、任意の種類(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)またはサブクラスの免疫グロブリン分子であってよい。いくつかの実施形態において、抗体は、抗原結合抗体断片(例えば、ヒト)であり、Fab、Fab’及びF(ab’)
2、Fd、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(sdFv)及びV
LまたはV
Hドメインのいずれかを含む断片が含まれるが、これらに限定されない。抗原結合抗体断片は、一本鎖抗体を含め、可変領域(複数可)を、単独で、または次の全体もしくは一部:ヒンジ領域、CH1、CH2及びCH3ドメインとの組み合わせで含み得る。可変領域(複数可)と、ヒンジ領域、CH1、CH2及びCH3ドメインとの任意の組み合わせを含む抗原結合断片もまた本開示に含まれる。
【0078】
組み換え発現
本開示の方法はまた、核酸を利用して、目的抗体を発現することができる宿主細胞を作製することも提供する。
【0079】
いくつかの実施形態において、所望の抗体をコードするヌクレオチド配列を構築し、その後、異種発現系、例えば、293細胞またはCHO細胞を用いることができる。いくつかの実施形態において、抗体は、目的抗体をコードする核酸(例えば、重鎖及び/または軽鎖の遺伝子)を1つ以上得て、宿主細胞内での目的抗体の発現を可能にするために、その核酸を当該宿主内に挿入することによって、組み換え発現を行うことができる。
【0080】
組み換えDNA法を使用した抗体作製は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載されている。抗体の組み換え作製の場合、抗体をコードする核酸を単離し、更なるクローニング(DNAの増幅)または発現のために複製可能なベクター内に挿入する。モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)、容易に単離及び配列決定される。使用することができるベクターは、一般に、次のもの:シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター及び転写終結配列のうちの1つ以上を含むが、これらに限定されない。このような発現系の構成要素の例は、例えば、米国特許第5,739,277号に開示されている。本明細書のベクターでDNAをクローニングまたは発現させるのに好適な宿主細胞は、原核生物、酵母または高等真核細胞である(例えば、米国特許第5,739,277号参照)。
【0081】
医薬組成物
本明細書で開示される主題は、本開示に従って作製された抗体及び抗原結合タンパク質を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、本明細書で開示される方法を使用して作製された抗体または抗原結合タンパク質を1つ以上含むことができる。いくつかの実施形態において、本開示に従って作製された抗体または抗原結合タンパク質のパネルを医薬組成物に含めることができる。いくつかの実施形態において、本開示に従って作製された抗体または抗原結合タンパク質は、1つ以上の追加の作用物質、例えば、抗ウイルスもしくは抗がん薬物または鎮痛薬とともに含めることができる。
【0082】
いくつかの実施形態において、医薬組成物はまた、抗体または抗原結合タンパク質を投与するための薬学的に許容される担体またはアジュバントも含有し得る。いくつかの実施形態において、担体は、ヒトにおける使用に対して薬学的に許容されるものである。担体またはアジュバントは、それ自体が、組成物の投与を受ける個体に対して有害な抗体の産生を誘発するものであってはならず、有毒であってもならない。好適な担体は、タンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アミノ酸共重合体及び不活性ウイルス粒子などのゆっくりと代謝される大きな高分子であり得る。
【0083】
薬学的に許容される塩は、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩及び硫酸塩などの鉱酸塩、または酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩及び安息香酸塩などの有機酸塩を使用することができる。
【0084】
治療用組成物中の薬学的に許容される担体は、水、生理食塩水、グリセロール及びエタノールなどの液体を追加的に含有し得る。更に、湿潤剤または乳化剤またはpH緩衝物質などの補助物質が当該組成物中に存在してもよい。このような担体は、患者による摂取のために、医薬組成物を、錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤及び懸濁剤として製剤化できるようにする。
【0085】
本明細書で開示される主題の組成物は、組成物の調製及び投与を容易にするための担体を更に含み得る。任意の好適な送達ビヒクルまたは担体を使用することができ、これらには、マイクロカプセル、例えば、マイクロスフェアまたはナノスフェア(Manome et al.(1994)Cancer Res 54:5408−5413;Saltzman&Fung(1997)Adv Drug Deliv Rev 26:209−230)、グリコサミノグリカン(米国特許第6,106,866号)、脂肪酸(米国特許第5,994,392号)、脂肪エマルジョン(米国特許第5,651,991号)、脂質または脂質誘導体(米国特許第5,786,387号)、コラーゲン(米国特許第5,922,356号)、多糖またはその誘導体(米国特許第5,688,931号)、ナノ懸濁液(米国特許第5,858,410号)、ポリマーミセルまたはコンジュゲート(Goldman et al.(1997)Cancer Res 57:1447−1451及び米国特許第4,551,482号、同第5,714,166号、同第5,510,103号、同第5,490,840号及び同第5,855,900号)、及びポリソーム(米国特許第5,922,545)が含まれるが、これらに限定されない。
【0086】
抗体配列は、当該技術分野において既知の方法、例えば、限定するものではないが、カルボジイミド結合、エステル化、過ヨウ素酸ナトリウム酸化に続く還元アルキル化、及びグルタルアルデヒド架橋を使用して、活性作用物質または担体に結合させることができる(Goldman et al.(1997)Cancer Res.57:1447−1451;Cheng(1996)Hum.Gene Ther.7:275−282;Neri et al.(1997)Nat.Biotechnol.15:1271−1275;Nabel(1997)Vectors for Gene Therapy.In Current Protocols in Human Genetics,John Wiley&Sons,New York;Park et al.(1997)Adv.Pharmacol.40:399−435;Pasqualini et al.(1997)Nat.Biotechnol.15:542−546;Bauminger&Wilchek(1980)Meth.Enzymol.70:151−159;米国特許第6,071,890号;及び欧州特許第0439095号)。
【0087】
本発明の治療用組成物は、いくつかの実施形態において、薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を含む。好適な製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、殺菌性抗生物質及び製剤を対象のレシピエントの体液と等張にする溶質を含有し得る、水性及び非水性の無菌注射液;ならびに懸濁化剤及び粘稠化剤を含み得る水性及び非水性の無菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または複数回用量の容器(例えば、密封されたアンプル及びバイアル)で提供することができ、使用直前に無菌液体担体(例えば、注射用水)の添加のみを要する凍結またはフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することができる。いくつかの例示的な成分は、いくつかの実施形態において0.1〜10mg/mlの範囲、いくつかの実施形態において約2.0mg/mlであるSDS;及び/またはいくつかの実施形態において10〜100mg/mlの範囲、いくつかの実施形態において約30mg/mlであるマンニトールもしくは別の糖;及び/またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。当該製剤の種類を考慮して、当該技術分野において慣用の任意の他の作用物質を使用することができる。いくつかの実施形態において、担体は、薬学的に許容されるものである。いくつかの実施形態において、担体は、ヒトにおける使用に対して薬学的に許容されるものである。
【0088】
本開示の医薬組成物は、5.5〜8.5、好ましくは6〜8、より好ましくは約7のpHを有し得る。pHは、緩衝液の使用により維持することができる。組成物は、滅菌及び/またはパイロジェンフリーであり得る。組成物は、ヒトに対して等張であり得る。本明細書で開示される主題の医薬組成物は、気密容器で供給することができる。
【0089】
医薬組成物は、本明細書に記載される1つ以上の抗体を有効量で含み得る。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、所望の疾患または病態を治療し、改善し、もしくは予防し、または検出可能な治療効果を示すのに十分な量を含み得る。治療効果には、身体的症状の軽減も含まれる。任意の特定の対象に対する正確な有効量は、対象の体格及び健康状態、病態の性質及び程度、ならびに投与のために選択された治療薬または治療薬の組み合わせに依存する。所与の状況に対する有効量は、当業者によって実施される日常的な実験で決定される。
【0090】
治療レジメン:薬物動態
本発明の医薬組成物は、投与方法に応じて、種々の単位剤形で投与することができる。典型的な抗体医薬組成物の用量は、当業者によく知られている。かかる用量は、典型的に本質は推奨的なものであり、具体的な治療状況または患者の耐性に応じて調整される。これを達成するのに適切な抗体の量を「治療上有効な用量」と定義する。この使用に効果的な投与計画及び量、すなわち、「投薬レジメン」は、疾患または病態のステージ、疾患または病態の重症度、患者の全般的な健康状態、患者の身体的状態、年齢、医薬製剤及び活性作用物質の濃度などを含む、種々の因子に依存する。患者の投薬レジメンを計算する際には、投与方法も考慮される。投薬レジメンは、薬物動態、すなわち、医薬組成物の吸収速度、バイオアベイラビリティ、代謝、クリアランスなどを考慮する必要がある。例えば、最新版のRemington’s;Egleton,Peptides 18:1431−1439,1997;Langer,Science 249:1527−1533,1990を参照されたい。
【0091】
本発明上、抗体を含む治療上有効な量の組成物は、約0.05〜1500μgのタンパク質、好ましくは約10〜1000μgのタンパク質、より好ましくは約30〜500μg、最も好ましくは約40〜300pg、またはこれらの値の間の任意の整数のタンパク質を含有する。例えば、本発明の抗体は、約0.1μg〜約200mg、例えば、約0.1μg〜約5μg、約5μg〜約10μg、約10μg〜約25μg、約25μg〜約50μg、約50μg〜約100μg、約100μg〜約500μg、約500μg〜約1mg、約1mg〜約2mgの用量で対象に投与することができ、任意選択で、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月及び/または1年後に追加投与を行ってもよい。任意の特定の患者に関する具体的な用量レベルは、使用される具体的な化合物の活性、年齢、体重、全般的な健康、性別、食習慣、投与時間、投与経路、排泄速度、薬物の組み合わせ及び治療中の特定の疾患の重症度を含む、種々の因子に依存することが理解される。
【0092】
投与経路には、経口、局所、皮下(subcutaneous)、筋肉内、静脈内、皮下(subcutaneous)、皮内、経皮及び皮下(subdermal)が含まれるが、これらに限定されない。投与経路に応じて、1投与当たりの体積は、好ましくは、約0.001〜10ml、より好ましくは、約0.01〜5ml、最も好ましくは約0.1〜3mlである。組成物は、対象の年齢、体重及び状態、使用される具体的な抗体製剤ならびに投与経路に適した計画及び期間にわたって、単回投与治療または反復投与治療で投与することができる。
【0093】
キット
本発明は、例えば、上記の治療用途に使用することができる、本開示に従って作製された抗体を含むキットを提供する。製造物品は、ラベルの付いた容器を含む。好適な容器には、例えば、ボトル、バイアル及び試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成され得る。容器は、上記のような治療用途に有効な活性作用物質を含む組成物を保持する。組成物中の活性作用物質は、抗体を含み得る。容器のラベルは、当該組成物が特定の治療用途または非治療用途に使用されることを示し、また、上記のようなin vivoまたはin vitroでの使用のいずれかのための指示を示すこともできる。
【0094】
本発明を実施するための具体的な態様の以下の実施例は、例示のみを目的として提供するものであり、本発明の範囲をいかなる形でも限定するものではない。
【実施例】
【0095】
実施例1.プリツムマブの血液脳関門の通過
プリツムマブが血液脳関門を通過することを実証するために、ヒト初代膠芽腫幹細胞(GBM8細胞;200K細胞)をNSGマウス脳内に頭蓋内注射した。35日後、マウスに50μgのプリツムマブ−Alexa647抗体を尾静脈を介して静脈内(i.v.)投与した。3.5時間後、マウス内皮細胞に選択的に結合するフルオレセイン標識G.simplicifoliaレクチン20μg(GSL I−BSL I;Vector Laboratories,Inc.,Burlingame,CA)をi.v.注射した。次いで、マウスを安楽死させ、脳を取り出し、スライスし、様々な領域の画像を共焦点顕微鏡(Nikon eclipse Ti)によって取得した。結果を
図2に示す。プリツムマブは、脳腫瘍組織に存在するが、正常組織には存在しない。これらの結果を更に調べるために、プリツムマブの脳内分布について検討した。正常脳領域では、プリツムマブ抗体は、注射4時間後、正常なインタクト血管中に主に存在し、血管周囲の漏出はごくわずかである(
図3)。腫瘍領域では、プリツムマブ抗体は、注射4時間後、腫瘍内の蛇行した大きな漏出性腫瘍血管の外側に主に存在する(
図4)。
【0096】
脳及び他の組織内のプリツムマブ分布を更に検討した。概して体重20〜25gの雄雌のSCIDマウスをマイクロアイソレーターケージ内でオートクレーブした床敷ならびにオートクレーブした食餌及び水で飼育した。このモデルの制限は、ヒト神経膠腫細胞を無胸腺nu/nuマウスまたはSCIDマウスに移植することを伴うことである。
【0097】
頭蓋内移植のために、UCSD動物実験研究指針に従って無菌外科的手術法を実施した。標的細胞(U87細胞株及び患者由来GBM8神経膠腫細胞の両方)を濃縮してコンパクト懸濁液にした(1〜2ul)。ケタミン/キシラジンを用いてマウスに麻酔をかけ、ベタダインで頭部を拭いた。循環水パッドで体温を維持した。5ulのハミルトンシリンジを使用して、腫瘍細胞懸濁液を前頭皮質に1ul/分で定位的に注射した。注入物質の逆流を防ぐために、シリンジを5分間その場に留置してから引き抜いた。
【0098】
画像化のために、腫瘍の成長に従って、移植腫瘍(U87及び患者由来GBM8神経膠腫細胞の両方)のMRI撮像を毎週実施した。適切なスキャン後、マウスを屠殺した。MRIプロトコルは以下のとおりとした。撮像中、1.5%イソフルオラン及び95%酸素の混合物でマウスに麻酔をかけた。MRIは、市販のスキャナーコンソールと連結している4.7T水平型システム(Bruker BioSpin Corporation(MA))で均一直交配置バードケージ型ヘッドコイルを使用して実施した。冠状面のT2強調画像(T2WI)(TR/TEeff=2,000/72ms)を、2D高速スピンエコーシーケンス、スライス厚1mm、平面分解能80um×130umで取得した。マグネビストGd−DTPAを0.7mmol/kgで腹腔内注射し、冠状面のT1強調画像(T1WI)(TR/TEeff=417/24.5ms)を造影剤注射の前に1回、後に2回取得した。造影後の撮像は、注射後12分に実施した。
【0099】
脳の強調は、腫瘍微小血管の透過性の尺度を表し、治療薬が腫瘍内でどのように分布し得るか、また造影剤が小さな腫瘍を強調できるかどうかに関係する。コントラスト強調比は、腫瘍組織を反対側の正常脳と比較することによって決定する通常の正規化法を使用した。腫瘍と頸部骨格筋(胸鎖乳突筋)を比較した強調比も算出した。これは、腫瘍浸潤及び浮腫に起因する参照白質の透過性変化から不正確さが生じる可能性があることから、腫瘍対正常脳比の確認を提供するために実施した。
【0100】
腫瘍と反対側の白質の比(TWR)及び腫瘍筋肉強調比(TMR)は、造影12分後のT1WIにおける、強調された腫瘍の平均シグナル強度をそれぞれ白質と頸部筋肉の平均シグナル強度で除したものとした。造影前と造影後の画像に関して、最大強調関心領域(ROI)を手動で選択した。各動物のT1及びT2取得を相互参照して、適切なROI位置を確保した。
【0101】
腫瘍形態については、全てのGBM8腫瘍(n=6)が明確な境界を有し、中心壊死は観察されなかった。T2WIの腫瘍は、周囲の脳実質と比較して相対的に均一な高強度を有し、全てが均一なはっきりと目に見えるコントラスト強調を示した。
【0102】
結果を
図5及び表2に示す。
図5は、種々の腫瘍細胞に特異的に結合するが正常細胞には結合しないプリツムマブを示す、組織スライス画像である。以下の表2は、腫瘍細胞と特異的に結合し、正常細胞とは結合しないプリツムマブを示す。プリツムマブは、そのハイブリドーマから得るか、例えば、Gupta,et al.,the Journal of Bioprocess Technology 98:318−326(2013)(「Gupta」)に記載のCHO細胞で製造した。
【0103】
(表2)ハイブリドーマから得たまたはCHO細胞で製造したプリツムマブの、正常細胞及び腫瘍細胞内分布
【0104】
実施例2.脳への送達が向上した抗体の生成
材料:
細胞株:大腸菌(E.coli) CJ236(New England Biolabs,Beverly,MA);大腸菌 SS320(Lucigen,Middleton,WI);大腸菌 One Shot(登録商標)OmniMAX(商標)2 T1R(Invitrogen,Grand Island,NY);チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;HEK 細胞。
【0105】
腫瘍組織及び腫瘍細胞株:腫瘍組織は、その臨床及び診断利用後に全て廃棄され、細胞株は、ATCC(USA)から入手する。腫瘍組織は、脳、乳房、子宮頸部、結腸、肝臓、黒色腫、卵巣及び膵臓の各がんを含む。正常組織対照として子宮平滑筋を使用する。これらの対照を含めることにより、本来のヒト−ヒトハイブリドーマ産生プリツムマブと特にフレームワークに関して同等である組み換え作製CDRスワッピング抗体の特異性が確定される。
【0106】
培地:合成培地の一例は、無血清培地中の脂質添加物である合成低密度リポタンパク質(sLDL)である(Hayavi and Halbert,2005)。sLDLは、水溶液を含む溶媒中の脂質溶解物を微少溶液操作することによって製造することができ、これにより天然LDLの物理化学的特徴を有する無毒性製品が生成される。化学的に成分が明らかな(動物性不含)培地中に0.1〜0.5mMクエン酸鉄を含めると、リボソーム形成及びタンパク質折り畳みに関連する遺伝子の上方制御が生じ、CHO細胞でのmAb発現が約1/3増加することが示されている(Bai et al.,2011)。
【0107】
抗体/試薬:特定の抗体ならびに他の免疫化学製品及び常用の試薬は、Sigma−Aldrich及びPierce Thermo Fisherから入手する。
【0108】
プリツムマブ:プリツムマブは、特許取得済みGPEx技術を使用してCatalentによって作製されている。
【0109】
Integrated DNA Technologies Program「PRIME QUEST」を使用したプリツムマブCDR及びフレームワークのプライマー設計:
【0110】
方法:
PCRプライマー及びフレームワークカセット:拡張パッケージ領域。GPEx(登録商標)プロセスで使用される全ての遺伝子構築物にみられるモロニーマウス白血病ウイルス拡張パッケージング領域の一部を増幅するようにPCRプライマーを設計する。以下に示すプライマーは、85bp断片のEPRを増幅する。
【0111】
EPR PCRプライマーは、
を含む。
【0112】
重鎖。これらのPCRプライマーは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4定常領域の一部を増幅するように設計する。以下に示すプライマーは、92bp断片の定常領域に増幅される。これらのプライマーは、
である。
【0113】
軽鎖。これらのPCRプライマーは、ヒトκ定常領域の一部を増幅するように設計する。以下に示すプライマーは、83bp断片の定常領域に増幅される。
【0114】
LC PCRプライマー:
【0115】
対照。これらのPCRプライマーは、CHO β1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子の一部を増幅するように設計する。以下に示すプライマーは、82bp断片のCHO β1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ−1遺伝子を増幅する。
【0116】
対照単一コピー遺伝子PCRプライマー:
【0117】
DNeasyゲノムDNA精製キット(カタログ番号69504、Qiagen(Valencia,CA))を使用して細胞株からDNAを単離する。PCR反応は、SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix(カタログ番号4311034、Applied Biosystem(Foster City,CA))で以下に記載する条件下で設定する。試料をBio−Rad社(Hercules,CA)のiQサイクラーで次のサイクルプログラムを使用して走らせる。
【0118】
PCR成分最終濃度に関するPCR反応設定
1反応当たりSYBR(登録商標)Green PCR Master Mix 12.5μL
プライマー最終濃度:各プライマーについて125nM
別個の反応は、それぞれ25μLの反応物(ヌクレアーゼ不含水中に希釈)に対して20ngのゲノムDNAを使用して、異なるプライマーセットのそれぞれについて実施する;
ヌクレアーゼ不含水を加えて最終体積25μLにする。
各試料(EPR及び内部対照)を3つ組で実施する。
【0119】
試料は、Bio−Rad社のPCRプログラム用のiQサイクラーで次のサイクルプログラムを使用して走らせる。
ステップ1:95℃ 9分(変性及びポリメラーゼ活性化)
ステップ2:94℃ 15秒(変性)
60℃ 1分(アニーリングと合成のステップの組み合わせ)ステップ2のように40サイクル
遺伝子コピー指数をコントロールアッセイ(β1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ−1)のCtから遺伝子導入アッセイ(EPR、HCまたはLC)のCtを差し引くことによって算出する。
【0120】
発現レトロベクターへの遺伝子クローニング:
目的CDRをグラフトしたプリツムマブ(P−mAb)重鎖を発現レトロベクターにクローニングする。1回目のPCR反応において、CPS−M(Catalent)独自のウシα−ラクトアルブミンシグナルペプチド配列を含むP−mAb重鎖可変領域CDSを、プライマー
を使用して、合成DNA断片プラスミドGDD2120.0001から増幅する。プライマーSP75’は、5’末端でHind III部位及びシグナルペプチドの翻訳開始コドン直前にKozak翻訳開始配列に付加される。プライマーP−mAbHC2は、2つの配列間の重複部分の付加によるP−mAb重鎖定常領域へのインフレーム融合のための可変領域配列を増幅する。2回目のPCR反応において、P−mAb重鎖定常領域を、プライマー
ならびにDNA鋳型としてのGDD2110.0004プラスミドを使用して、可変領域との融合が可能なように増幅する。GDD2110.0004プラスミドは、CPS−Mによって予め構築し、重鎖定常領域配列の反応源とする。プライマーP−mAbHC1は、プライマーP−mAbHC2の逆相補体であるため、2つの配列間の重複部分の付加による可変領域へのインフレーム融合のための増幅された定常領域配列を構築する目的に役立つ。プライマーINHC2は、重鎖定常領域の3’末端をコードし、容易なクローニングのためのXho I部位を与える。PCR反応1及び2の増幅産物を最も外側のプライマーSP75’及びINHC2を含むDNA鋳型として使用して、可変領域と定常領域を一緒に結合させ、完全長P−mAb重鎖CDSを増幅する。得られたPCR産物をHind III及びXho I制限エンドヌクレアーゼで消化し、同じ酵素で同様に消化したレトロベクタープラスミドpFCSnewMCS−WPRE−SIN(new ori)(GDD1008.0146)にライゲートする。
【0121】
得られたクローンは、組み立てられた重鎖遺伝子及びフランキング領域全体にわたって配列決定し、クローンが所望の完全長P−mAb重鎖CDSをコードしていることを確認する。
【0122】
発現レトロベクターへのP−mAb軽鎖遺伝子クローニング:1回目のPCR反応において、CPS−M独自のウシα−ラクトアルブミンシグナルペプチド配列を含むP−mAb軽鎖可変領域CDSを、プライマー
を使用して、合成DNA断片プラスミドGDD2120.0001から増幅する。プライマーSP75’は、5’末端でHind III部位及びシグナルペプチドの翻訳開始コドン直前にKozak翻訳開始配列に付加される。プライマーPmabLC2は、2つの配列間の重複部分の付加によるP−mAb軽鎖定常領域へのインフレーム融合のための軽鎖可変領域配列を増幅する。2回目のPCR反応において、P−mAb軽鎖定常領域を、プライマー
ならびにDNA鋳型としてのGDD2103.0003プラスミドを使用して、軽鎖可変領域との融合が可能なように増幅する。GDD2103.0003プラスミドは、CPS−Mによって予め構築し、この反応における軽鎖定常領域配列の供給源とする。プライマーPmabLC1は、プライマーPmabLC2の逆相補体であるため、可変領域へのインフレーム融合のための増幅された定常領域配列を構築する目的に役立つ。プライマーINLC2は、軽鎖定常領域の3’末端をコードし、容易なクローニングのためのXho I部位を与えた。
【0123】
PCR反応1及び2の増幅産物を最も外側のプライマーSP75’及びINLC2を含むDNA鋳型として使用して、可変領域及び定常領域を結合させ、完全長P−mAb軽鎖CDSを増幅する。得られたPCR産物をHind III及びXho I制限エンドヌクレアーゼで消化し、同じ酵素で同様に消化したレトロベクタープラスミドpFCS−newMCSWPRE−SIN(new ori)(GDD1008.0146)にライゲートする。得られたクローンから単離したプラスミドDNAを、組み立てられた軽鎖遺伝子及びフランキング領域全体にわたって配列決定し、クローンが所望の完全長P−mAb軽鎖CDSをコードしていることを確認した。
【0124】
Catalent Pharma Solutions−Middletonの発現レトロベクター構築物pFCS−newMCS−WPRE−SIN(new ori)(GDD1008.0146)の開発:pFCS−newMCS−SIN(new ori)(GDD1008.0136)(後述)にWPRE転写後調節エレメント(機能については後述)を付加することによって、最新世代のGPEx(登録商標)発現プラスミドpFCS−newMCS−WPRE−SIN(new ori)(GDD1008.0146)を作製する。簡潔に述べれば、pCNS−newMCS−WPRE(new ori)(GDD1008.0068)(後述)をClaIで消化し、WPRE含有断片を単離及び精製する。このWPRE断片を、ClaIによるpFCS−newMCS−SIN(new ori)(GDD1008.0136)の消化から精製した主要ベクター断片にライゲートする。制限エンドヌクレアーゼHindIII及びNaeIを使用して組み換え分子をスクリーニングし、WPREエレメントの正しい配向を確認する。得られたベクターのClaI挿入部位の配列を確認する。
【0125】
GPEx(登録商標)発現プラスミドpFCS−newMCS−SIN(new ori)(GDD1008.0136)は、自己不活性型(SIN)ベクターであり、5’ LTR中にある完全長ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー/プロモーターを特徴とする。完全長ヒトCMVプロモーター及び3’LTRの変異(SIN)版は、ウイルス価を増加させ、5’LTRプロモーター干渉を低減させることによって、発現を改善する。このベクターは、これまで極めて成功している発現ベクターpCS−newMCS−WPRE(new ori)(GDD1008.0074)の遺産である。プラスミドpFCS−newMCS−SIN(new ori)(GDD1008.0136)は、プラスミドpFCNS−newMCS−SIN(new ori)(GDD1008.0140)から3’部分の拡張パッケージング領域(EPR)及びNeo遺伝子(ネオマイシンリン酸転移酵素、選択マーカー)の一部を包含するEcoRI/HindIII断片の除去し、当該EPRを、その欠損部分を含むpCSnewMCS−WPRE(new ori)(GDD1008.0074)の小さなEcoRI/HindIII断片で補うことによって、構築される。プラスミドpCSnewMCS−WPRE(new ori)(GDD1008.0074)は、GPEx(登録商標)の前世代発現ベクターであり、その開発の流れを以下に記載する。構築物pFCNS−newMCS−SIN(new ori)(GDD1008.0140)は、プラスミドpFCNS−newMCS−WPRE−SIN(new ori)GDD1008.0141からClaI制限断片含有WPRE配列を除去することによって得られる。プラスミドpFCNS−newMCS−WPRE−SIN(new ori)(GDD1008.0141)は、ネオマイシン選択マーカー遺伝子の上流の5’LTR領域に挿入したプラスミドpLNC−MCS(GDD1008.0001)のPCRによって増幅させた完全長ヒトCMVプロモーターをクローニングすることによって、ベクターpCNS−newMCS−WPRE(new ori)(GDD1008.0068)から作製される。最後に、構築物pCNS−newMCSWPRE(new ori)(GDD1008.0068)は、プラスミドpUC19由来の高コピー複製起点をプラスミドpCNS−newMCS−WPRE(GDD1008.0033)に付加することによって作製される。プラスミドpCNS−newMCS−WPRE(GDD1008.0033)の起源及び進化については、GPEx(登録商標)の以前の基本発現ベクターpCSnewMCS−WPRE(new ori)(GDD1008.0074)の開発に関する記述において以下に詳述する。
【0126】
プラスミドpCS−newMCS−WPRE(new ori)(GDD1008.0074)は、本来はプラスミドpLNCXII(GD0004)に由来する。pLNCXIIプラスミドは、ウィスコンシン大学マディソン校Paul Sondel博士の研究室から受領したプラスミドpLNC−cc49(GDD1008.0049)からcc49遺伝子を除去することによってCatalent Pharma Solutions−Middletonで再作製されるものである。pLNCX IIプラスミドは、A.D.Millerによって作製されたpLNCXプラスミド(Genbank ACCESSION M28247)にわずかな変更を加えたものである(Eco RI部位の除去;国立衛生研究所のJeffery Schlom博士の研究室で実施されたKashmiri et al.Hybridoma 14:461−473 1995)。pLNCX IIプラスミドは、オリゴヌクレオチドを変更して、hCMVプロモーターの後にマルチクローニングサイトを作製している(プラスミドpLNC−MCS GDD1008.0001)。レトロベクター粒子の産生を向上させるために、ヒトCMVプロモーターを使用してpLNC−MCSの5’ LTR U5領域を置き換えてプラスミドpCNC−MCS(GDD1008.0085)を作製する。このように使用した場合、LTRの5’末端にあるヒトCMVプロモーターは、レトロベクター粒子に組み込まれず、産生細胞株に挿入されない。
【0127】
ウッドチャックB型肝炎ウイルスのPol遺伝子に由来するセグメントは、当時のSalk InstituteのTom Hope博士から入手される(プラスミドpBluescript II SK+ WPRE−B11)。この断片(WPRE−ウッドチャック転写後調節エレメント)は、イントロン欠損mRNAの核から細胞質への輸送を増大させ、更に、mRNA中にこの配列を含む遺伝子発現を向上させる。プラスミドpBluescript II SK+ WPRE−B11配列は、開発者によって変異され、プロモーター機能及びタンパク質pXをコードする推定癌遺伝子の断片の開始コドンが除去される。WPRE断片をマルチクローニングサイトから3’側に挿入し、プラスミドpLNC−MCS−WPRE(GDD1008.0005)を作製する。その後、WPRE断片をpLNC−MCS−WPREからpCNC−MCSに移して、pCNCMCS−WPRE(GDD1008.0030)を作製した。
【0128】
サルサイトメガロウイルス(sCMV)プロモーターは、HTLV Tax遺伝子のための発現プラスミドであるプラスミドIEXの一部として、イリノイ大学のTom Hope博士から入手される。サルCMVプロモーターに関する文献及び知的財産背景に関する調査では、サルCMVプロモーターが高い構成活性を有する点でhCMVプロモーターと同様であり、パブリックドメインで利用可能なことが記されている。sCMVプロモーター断片をIEXプラスミドからPCR増幅し、これを使用してpLNC−MCS中のhCMVプロモーターを置き換え、プラスミドpSCMV−MCS(GDD1008.0018)を作製する。その後、sCMVプロモーター断片をPCRにより改変して5’末端中のSal I部位を除去し、hCMVプロモーターの代わりにpCNC−MCS−WPREにクローニングして、プラスミドpCNS−MCS−WPRE(GDD1008.0031)を作製する。
【0129】
オリゴヌクレオチドの第2セットを使用して、マルチクローニングサイトに更なる制限酵素部位を加え、プラスミドpCNSnewMCS−WPRE(GDD1008.0033)を作製する。産生細胞株においてレトロベクター挿入物からネオマイシンリン酸転移酵素タンパク質が過剰に産生されるおそれを低減するために、pCNS−newMCS−WPREからNEO遺伝子を除去して、pCS−newMCS−WPRE(GDD1008.0054)を作製する。プラスミド調製物の収率を改善するために、pCS−newMCSWPRE中の大腸菌複製起点をプラスミドpUC19由来の複製起点に置き換える。これにより、プラスミドpCS−newMCS−WPRE(new ori)、GDD1008.0074が作製される。
【0130】
Cos−7発現:COS7細胞をHealth Science Research Resources Bank(Osaka)から入手した。これは、サッカロミセス属の半数体株である。本項は、所望のタンパク質を短期間で効率的に産生するCOS細胞の使用について記載する。これらの細胞は、SV40起点でのウイルスDNA複製を開始するのに必要なSV40ラージ腫瘍性(T)抗原を高レベルで発現する。COS細胞発現系を短期間での高レベルタンパク質発現に適したものにするには、3つの要因:(1)トランスフェクション48時間後に、COS細胞中のSV40起点含有プラスミドが高コピー数を達成すること、(2)良好なCOS細胞発現/シャトルベクターが利用可能であること、及び(3)COS細胞を効率的にトランスフェクションする簡単な方法が利用可能であることが関与する。細胞表面抗原または細胞質タンパク質をコードするDNAを(適切なベクターで)トランスフェクトした各COS細胞は、トランスフェクションから72時間後、数千から数十万コピーのタンパク質を発現する。トランスフェクトしたDNAが分泌タンパク質をコードしている場合、トランスフェクションから1週間後に、トランスフェクトしたCOS細胞の上清から最大10μgのタンパク質を回収することができる。cDNAライブラリーのスクリーニング、細胞表面タンパク質をコードするcDNA、分泌タンパク質及びDNA結合タンパク質の単離、ならびに安定細胞株の調製前のタンパク質発現ベクターの迅速な試験には、COS細胞一過性発現系も使用されている。
【0131】
ELISA:プリツムマブ抗体を捕捉試薬として使用するサンドイッチELISAを構築した。検出抗体には、ビオチン標識された組み換え抗体を使用する。この相同抗体フォーマットは、標的抗原が複数のエピトープを有するという仮定により、可能となる。マイクロタイタープレート(96ウェルNunc Maxisorp)を、0.5M炭酸ナトリウム(pH9.5)中の濃度10μg/mlの精製した非標識プリツムマブ抗体を用いて、25℃で終夜コーティングする。次いで、5mM EDTA及び1%スクロースを含有するTris緩衝生理食塩水(TBS)中で作製した1%スキムミルクを用いて、プレートを25℃で4時間ブロッキングする。このようにして調製したプレートは、少なくとも12ヶ月間、乾燥密閉で保存できる。希釈は全て20mM EDTAを添加したImmunoBooster緩衝液(Bioworld Consulting Laboratories,LLC)で行う。洗浄緩衝液は、0.05%Tween−20(非イオン性界面活性剤)を含有するTBSである。培養したヒト腫瘍細胞の界面活性剤抽出物を抗原源として使用して標準曲線を得る。単位は、細胞/ウェルとする。同様の方法でヒト脳腫瘍細胞由来の抽出物も作製する。上記したとおり、全ての腫瘍細胞株は、American Type Culture Collection(Manassas,VA)から購入し、10%FBS(加熱不活性化済み)と8mMグルタミンを含有するRPMI培地で成長させる。標的抗原に対する抗体の直接結合を測定するために、細胞を無血清培地中で5日間成長させ、馴化培養液を濾過し、1つの大きなロットで4℃で保存する。細胞抽出標準液を希釈して各プレート上でサンドイッチELISAを実施する。インキュベーションは全て25℃で実施した。体積は全て100ul/ウェルである。プレートを15分間インキュベートし、洗浄緩衝液で3回洗浄した。次いで、ビオチン標識プリツムマブ抗体を1μg/mlでウェルに添加し、15分間インキュベートし、プレートを3回洗浄する。プレートにペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(1:5,000希釈)を15分間加え、プレートを洗浄緩衝液で3回、TBSで2回洗浄する。プレートにTMB基質(BioFX Laboratories Inc.)を添加し、15分間インキュベーションすることによってシグナルを生じさせ、次いで、0.5M硫酸の添加により発色反応を停止させる。吸光度450nmで測定することによってデータを取得し、GraphPad PrismまたはMicrosoft Excelソフトウェアプログラムを使用して解析した。
【0132】
免疫組織化学(IHC):IHC分析には、抗体を精製し、HRP(American Qualex提供)に共有結合させ、これを使用して、種々の組織切片、例えば、脳、乳房、子宮頸部、結腸、肝臓、黒色腫、及び膵臓の各組織切片を分析する。ドナーに必要な診断及び臨床評価後に残った腫瘍組織を処理するか、または残ったパラフィンブロックを使用して、プリツムマブまたはそのハイブリッドCDR型の反応性をIHCで決定する。この目的のために、パラフィンブロックから5um切片を切り出し、スライド上に置き、60℃で終夜、乾燥及び脱パラフィン化する。エピトープを賦活化するために、pH9のDako Target Retrieval Solution(Dako カタログ番号S2367)を圧力釜とともに使用し、スライドを30分間熱処理する。次いで、スライドをDako Autostainerで、3%過酸化水素を使用して5分間、一次抗体(HRP−プリツムマブまたは対照)を1:25の希釈で使用して1時間、ポリマーベースのPower Vision Plus検出溶液(Leica カタログ番号PV6104)を使用して30分間、更にDABを使用して10分間、染色する。染色したスライドをヘマトキシリンで1分間対比染色し、脱水し、病理検査のためにカバースリップをのせる。
【0133】
IEF(等電点電気泳動):IEFは、3.5〜9.5のpH範囲を使用し、LonzaのIsoGel Agaroseをそのプロトコルに従って使用して実施する。IEFプレートを最初にクマシーブルーで染色し、次いで、シルバー染色で脱染色する。
【0134】
可溶性抗体を用いた免疫蛍光アッセイ(FACS)解析:
樹立細胞株(黒色腫、肺、乳房)から新たに培養した腫瘍細胞を、本明細書に別途記載するように、FACS解析に使用する。95%超の生存率を有する対数増殖期の培養物の細胞をEDTA0.02%(Sigma)とともにインキュベーションした後、ゆっくりとこすり落とし、試験管1本当たり3×105個の細胞を使用する。可溶性プリツムマブまたは選択したGPExクローンの試験抗体を上記方法によって調製する。腫瘍細胞を抗体(FCS RPMI 1640で1/1に希釈)とともに、前処理した(1%BSA)プラスチックチューブ中、37℃で1時間インキュベートする。FCS RPMI 1640で3回洗浄した後、細胞を、ビオチン標識した抗ヒトIgG抗体(1:50)(Vector Lab)とともに4℃で1時間インキュベートする。3回の洗浄ステップ(1%BSA PBS及びPBS)後、フィコエリトリンストレプトアビジン(1:20)を20℃で20分間加える。反復実験では、FITC標識した抗ヒトIgG(Fab’)2(1:25)(Sigma−Aldrich)を使用する。最後に、免疫蛍光標識された細胞を1%ホルマリンPBSで固定する。10000個の細胞をFACS Calibur(BD Biosciences)で計数し、Cell Questにより解析する。
【0135】
CDRの特定及びCDR除去/挿入−ポリメラーゼ連鎖反応(PCR):
PCR:ネズミモノクローナル抗体(mAb)由来のCDRをヒト抗体フレームワーク上にグラフティングするために、2つの新しい組み換えPCR技術のアプローチを採用した(Daugherty BL,DeMartino JA,Law MF,Kawka DW,Singer II,Mark GE(1991)Polymerase chain reaction facilitates the cloning,CDR grafting,and rapid expression of a murine monoclonal antibody directed against the CD18 component of leukocyte integrins.Nucleic Acids Research,19:2471−2476)。一方のアプローチは、クローニングされたヒト可変領域テンプレートの利用可能性に依拠するが、他方の手法は、ヒト可変領域タンパク質の配列データにのみ依存する。組み換えヒト化抗体の一過性発現は、一般に、アデノウイルス主要後期プロモーターによって駆動され、非リンパ系哺乳動物細胞へのトランスフェクション後、48時間以内に検出することができる。これらのアプローチを使用すると、ネズミmAbのcDNAクローニングを開始してからわずか6週間以内で、組み換えヒト化抗体の発現が可能になる。
【0136】
CDRの特定及びCDR除去/挿入:Fieldsらによって詳述されているように、ハイブリドーマ細胞から目的CDRを特定し、除去及び挿入する(Fields C,O’Connell D,Xiao S,Lee GU,Billiald P,Muzard J:(2013)Creation of recombinant antigen−binding molecules derived from hybridomas secreting specific antibodies.Nature Protocols 8:1125−1148)。このプロトコルは、機能性可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)遺伝子の迅速な特定及びクローニングならびに組み換え細菌における発現に最適化した合成DNA配列の設計及びクローニングを介した、モノクローナル抗体に由来する組み換え一価抗原結合分子の設計及び開発について記載する。典型的に、モノクローナル抗体は、極めて多くの場合、免疫化マウスのBリンパ球をネズミ骨髄腫細胞と融合することから生じるマウスハイブリドーマから得られる。ここに記載されるプロトコルは、広範囲の生体分子標的を標的にする複数の抗体をベースにした分子の開発を成功させるために以前から活用されている。本プロトコルは、本分野に特化していないと思われる研究グループにとっても利用しやすく、作業日50日以内で、機能性IgGを分泌するハイブリドーマ細胞から機能的な組み換え抗原結合分子を簡単明瞭にリバースエンジニアリングすることを可能にするものである。更に、抗体断片の精製の簡便な手法もこのプロトコルに記載されている。
【0137】
プロテインA精製方法:
プロテインAクロマトグラフィーを使用した抗体分子の精製:抗体タンパク質の精製は、通常のmAb精製に使用される方法と本質的に同じである。使用されるプロトコルを以下に概説する。
1.プロテインAカラムを指示のとおりに調製する(GE Healthcare)。
2.細胞培養培地(結合緩衝液で1:1に希釈)を、樹脂の上部に重ねることによってカラムに静かに加える。
3.10倍量の洗浄/結合緩衝液でカラムを洗浄するか、280nmでの溶出液の吸光度がバックグラウンドレベルに近づくまで洗浄する。
4.溶出液が直ちに中和されるように、各回収チューブに100mlの1M Tris緩衝液(pH8.0)を添加する。
5.抗体を溶出するために、樹脂の上部に溶出緩衝液をゆっくりと添加し、準備した回収チューブ中に溶出液を回収する(0.9ml/チューブ)。
6.全容量が回収されるまで、最大8本のチューブまで繰り返す。
7.10〜20μlの溶出画分を300mlのCoomassie Plus Protein Assay Reagent(Pierce)(マイクロタイタープレート中)に添加することによって陽性画分を特定する。陽性画分は青色反応を示す。
8.陽性画分を合わせ、試料の1000倍量のPBSに対して終夜透析する。
9.透析した試料のOD280を測定する。
10.抗体タンパク質濃度をUV280nmで決定することができる。
11.SDS−PAGEによって試料の純度を確認する。非還元条件下では抗体分子の約200kDaの単一バンドが観察されるはずであり、還元条件下では、37.5kDa(LC)及び62.5kDa(HC)の2つのバンドが観察されるはずである。
12.精製したタンパク質を−20℃で保存する。
【0138】
SDS PAGE:
ポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用したモノクローナル抗体の分析のために、先に記載されているように、Laemmli還元試料緩衝液中、10℃で5分間、抗体をインキュベーションして、マウスIgG1の重鎖から誘導された2つの加水分解断片を生成する(Davagnino J,Wong C,Shelton L,Mankarious S(1995)Acid hydrolysis of monoclonal antibodies.J Immunol Method.185:177−180)。切断部位は、アミノ末端配列によって特定される。
【0139】
ウェスタンブロット:
個々の発現系における抗体の発現レベルは、先に記載されている手順に従ったウェスタンブロットによって評価される(T.Matsuo,A.Yamamoto,T.Yamamoto,K.Otsuki,N.Yamazaki,M.Kataoka,H.Terada,Y.Shinohara,Replacement of C305 in heart/muscle−type isozyme of human carnitine palmitoyltransferase I with aspartic acid and other amino acids,Biochem.Genet.48(2010)193−201)。特定の抗体を上記のとおりに調製する。
【0140】
タンパク質濃度の測定:
ミトコンドリア画分のタンパク質濃度を、ウシ血清アルブミンを標準としたBCAタンパク質アッセイキットの使用により測定した。
【0141】
抗体結合親和性:
IgG二重特異性抗体の強固な生成は長年の課題であった。既存の方法は、それぞれ個々の抗体の広範なエンジニアリング、共通の軽鎖の発見、または複雑かつ労力のかかる生化学的処理を必要とする。ここで、本発明者らは、計算上の合理的な設計アプローチと実験的構造検証とを組み合わせて、直交するFab界面を含む抗体の重鎖及び軽鎖を生成する。これらの界面を組み込んだ親モノクローナル抗体は、同時に共発現させると、改善した重鎖−軽鎖対を有する二重特異性IgGに組み立てられる。このアプローチで生成された二重特異性IgGは、天然IgGの薬物動態及び他の望ましい特性を示すが、標的抗原に一価で結合する。したがって、これらのCDRグラフト試薬は、多くの生物工学的用途及び治療用途において有用であり得る。
【0142】
mAb及びCDRグラフト抗体の親和性測定:
再設計した重鎖−軽鎖を含有するmAbの親和性を表面プラズモン共鳴(Biacore 3000、GE Lifesciences)を使用して決定する。FabをWTプリツムマブIgG1及びCRD2含有IgG1から作製する。ヤギ抗ヒトIgG−Fc(Jackson Immunolabs、カタログ番号109−005−098)を10mM酢酸塩(pH5)で40μg/mlに希釈し、標準的な1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)/N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)アミンカップリングプロトコルを使用して、CM5チップ表面に約10,000RUまで固定化する。異なる供給源から入手したヒト抗体のFcを5μl/分で4分間注入することによりセンサーシップ表面上に捕捉させる。流量を30μl/分まで増加させ、各Fabの2回目の注入(50、35、20、10、5、2または1nM)を実施する。ランニング緩衝液(及び希釈緩衝液)は、HBS−EP 10mM Hepes、150mM NaCl、3mM EDTA、0.005%ポリソルベート20である。チップ表面は、0.1Mグリシン(pH2.0)を2回注入することによって再生する。濃度系列を1:1結合モデルにフィッティングさせ、結合(ka)及び解離の速度定数(kd)ならびに平衡解離定数(KD)を決定する。
【0143】
軽鎖特異性及びCDRグラフトIgG組み立ての質量分析測定:
Agilent 1100 HPLCでタンパク質G(PG)IDセンサーカートリッジ(Life Technologies)を使用してタンパク質を精製する。精製した試料をAgilent 6210飛行時間型液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)システム分子量分析計で分析する。軽鎖及び重鎖成分の理論上の質量平均分子量をGPMawプログラム(v.8.20)を使用して決定する。軽鎖競合実験では、検出器に当たるイオン化軽鎖の相対数を使用して、設計重鎖またはWT重鎖に結合した設計軽鎖とWT軽鎖の比を定量する。
【0144】
Fabタンパク質結晶化:
パパインを使用するタンパク質分解により完全長IgGを切断することによってFabタンパク質を生成する。プリツムマブFab(Cλを含む)結晶スクリーニングを16mg/mlのタンパク質で実施する。100mM酢酸ナトリウム(pH4.6)/30%PEG MME 2K/200mM硫酸アンモニウム中で4日後に結晶(薄い板状の微結晶)が現れるはずである。PEG MME 2Kを含むリザーバー溶液中で結晶を極低温保護する。濃度を10%増加し、20%グリセロールを添加する。可変ドメイン内の秩序の改善は、同一条件に10%MPDを加え12.4mg/mlのタンパク質で結晶を生成することによって達成される。CDRを含有するプリツムマブFabは、15mg/mlのタンパク質の使用により結晶化される。
【0145】
構造決定:
X線回折データをAdvanced Photon Source(Argonne National Laboratory)のLRL−CATビームラインを使用して標準的な極低温条件下で取得し、これをMOSFLM、SCALA及びTRUNCATEの使用により構造因子振幅に変換する。全ての構造について、PHASERを使用して解析し、REFMACを使用して精密化し、XTALVIEW/XFITを使用して可視化及び再構築する。続く設計変異体(CRD1及びCRD2の中間体)の構造について、この親構造を検索モデルとして使用してPhaserにより解析する。プリツムマブの親Fabは、プリツムマブの既知の構造及び抗体の可変ドメインを使用して解析する。原子モデルの立体化学上の品質は、自動化品質管理手順を使用してモニターされる。
【0146】
ファージディスプレイライブラリー:
Kunkelらの古典的なオリゴヌクレオチド特異的変異導入法に基づいて最適化された手順を使用することにより、非常に大きいファージディスプレイ抗体レパートリー(>10
10メンバー)を極めて迅速に構築することができる。重要な点は、この方法が拡張可能であり、また、極めて高効率であるのと同時に最大4つの独立した領域を変異させられることである。まず、dut−/ung− 大腸菌宿主を使用して、変異導入オリゴヌクレオチドがアニーリングされるウラシル含有ssDNA(dU−ssDNA)鋳型を封入したファージを増殖させる。「停止鋳型」は、CDR中に終止コドンを含有する。この親停止鋳型は、完全長Fabプリツムマブ融合タンパク質を発現できないことから、これにより変異抗体のみが提示されることを確保する。したがって、残存した鋳型クローンは、選択中に、ファージプールから除外される。Fabライブラリー内の多様性は、特定位置に種々の塩基を含有する変異導入オリゴヌクレオチドを使用して縮重コドンセットを生成することによって設計することができる。あるいは、トリヌクレオチドセットから合成したオリゴヌクレオチドを使用することによって、コドン使用頻度の微調整を行うことができる。特定のアミノ酸に対して特定のコドンを選択することによって、CDRアミノ酸を、天然抗体に通常みられるものまたは抗原認識に特に良好に適するものに偏らせた。ssDNA鋳型にアニーリングする変異導入オリゴヌクレオチドは、相補DNA鎖の合成を開始するように機能し、ウラシルを欠く合成娘鎖を形成する。次いで、リガーゼを合成DNA断片に融合させ、共有結合閉環状ヘテロ二本鎖DNA(CCC−dsDNA)を形成する。次いで、ヘテロ二本鎖DNAを、合成鎖が鋳型鎖と比較して優先的に増幅される、dut+/ung+ 大腸菌 SS320の高コンピテント株にエレクトロポレーションする。
【0147】
大腸菌宿主への形質転換により、二本鎖プラスミドとしてファージミド複製が生じる。ヘルパーファージとの重感染の際に、一本鎖DNA(ssDNA)の複製が開始され、ファージミドssDNAは、ファージミドコードタンパク質を含有するファージ粒子中にパッケージされる。これにより、Fabの表現型とコードファージミド遺伝子型との間の物理的結合が提供される。M13KO7などのヘルパーファージが、いくつかのファージミドコード融合タンパク質を組み込んだファージ粒子の組み立てに必要な全てのタンパク質を供給する。感染細胞から産生されるこれらのファージ粒子は、選択中に宿主大腸菌細胞が抗原に導入されないため、遺伝的バーコードとFabライブラリーの相互作用の読み取りの両方を満たす。
【0148】
具体的な態様について記載し、例示してきたが、かかる態様は、単なる例示にすぎず、添付の特許請求の範囲に基づき、限定と解釈されるものではない。
【0149】
本明細書で引用される全ての公開物及び特許出願は、それぞれの個々の公開物または特許出願があらゆる目的のために参照により援用されることが具体的かつ個別に示された場合と同様に、その全体をあらゆる目的のために参照により本明細書に援用する。
【0150】
上述の組成物及び方法について、理解を明確にするために例示及び実施例によりある程度詳細に記載したが、本発明の教示に照らして、添付の特許請求の趣旨または範囲を逸脱することなく、本発明にいくつかの変更及び改変を施し得ることは、当業者には極めて明白であろう。