【課題】本発明は、X8RまたはX9Sの温度特性及び信頼性が保障される誘電体磁器組成物及びそれを含む積層セラミックキャパシター、並びに積層セラミックキャパシターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、キャパシター、インダクター、圧電素子、バリスター、またはサーミスターなどのセラミック材料を用いる電子部品は、セラミック材料からなるセラミックボディと、ボディの内部に形成された内部電極と、上記内部電極と接続されるようにセラミックボディの表面に設けられた外部電極と、を備える。
【0003】
セラミック電子部品のうち積層セラミックキャパシターは、積層された複数の誘電層と、それぞれの誘電層を挟んで対向配置される内部電極と、上記内部電極に電気的に接続された外部電極と、を含む。
【0004】
積層セラミックキャパシターは、小型でありながらも高容量が保証され、実装が容易であるという利点を有するため、コンピューター、PDA、携帯電話などの移動通信装置の部品として広く用いられている。
【0005】
積層セラミックキャパシターは、通常、内部電極用ペーストと誘電層用ペーストをシート法や印刷法などにより積層し、同時焼成することで製造される。
【0006】
近年、自動車における電子制御装置の割合が増加し、ハイブリッド(Hybrid)自動車及び電気自動車が開発されており、これに伴って、150℃以上の高温で使用可能な積層セラミックキャパシターの要求が益々増大している。
【0007】
現在、還元雰囲気で焼成可能であり、且つ200℃で特性が保障される製品に適用可能な誘電体材料としてC0G系の誘電体があるが、誘電率が30程度と非常に低いため、高容量製品を製作することは困難であるという問題がある。
【0008】
BaTiO
3の場合、誘電率が1000以上と高いが、キュリー温度125℃以上で誘電率が急激に低下する特徴を有するため、150℃以上の領域である200℃までは特性が保証されない。
【0009】
BaTiO
3のキュリー温度を上昇させる方法としては、Ba‐siteにPbを固溶させる方法が挙げられるが、Pbは環境規制物質として分類されていて、使用に多くの制約がある。
【0010】
その他に、BaTiO
3材料とBiを含むペロブスカイト(perovskite)材料であるBi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3、(Bi
0.5Na
0.5)TiO
3、Bi(Zn
0.5Ti
0.5)O
3、BiScO
3などの材料が、キュリー温度を上昇させ、且つ安定した高温部誘電率が実現されると知られているが、このような材料は、空気雰囲気でのみ焼成が可能である。
【0011】
すなわち、Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3、(Bi
0.5Na
0.5)TiO
3、Bi(Zn
0.5Ti
0.5)O
3、BiScO
3などの材料を用いてNi内部電極を含む積層セラミックキャパシターを製造する場合、還元雰囲気で焼成時に絶縁抵抗が急激に低下して使用が困難となるという問題がある。
【0012】
還元雰囲気で焼成可能な高温キャパシターの誘電材料としてNa(Nb,Ta)O
3が知られているが、Na(Nb,Ta)O
3の出発原料であるNb及びTaが非常に高価であるため、大量生産時に材料費が占める割合が大きいという欠点があり、BaTiO
3に比べて絶縁抵抗特性に劣るという問題がある。
【0013】
その他に、BaTi
2O
5は、キュリー温度が500℃程度であると知られているが、BaTi
2O
5も空気雰囲気でのみ焼成可能であり、耐還元性及び絶縁抵抗特性に劣るという問題がある。
【0014】
したがって、還元雰囲気で焼成する場合にも、BaTiO
3よりキュリー温度が高く、且つ正常な絶縁抵抗が実現可能な誘電体材料の開発が必要な状況である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されることがある。
【0026】
本発明は、誘電体磁器組成物に関するものであって、誘電体磁器組成物を含む電子部品としては、キャパシター、インダクター、圧電体素子、バリスター、またはサーミスターなどが挙げられ、以下では、誘電体磁器組成物及び電子部品の一例として積層セラミックキャパシターについて説明する。
【0027】
本発明において、誘電体磁器組成物の各副成分の含量は、母材粉末100mol当たりの各副成分のmol数で表現することができ、またはat%で表現することができる。
【0028】
本発明の副成分の含量を説明するにあたり、at%は、母材粉末1molに含まれるBa原子数に対する、各副成分の目標原子数の百分率値を意味する。
【0029】
目標原子とは、原子価可変アクセプター(Variable Valence Acceptor)原子、原子価固定アクセプター(Fixed Valence Acceptor)及び希土類金属(Rare metal)原子などを意味する。
【0030】
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、BaTiO
3で表される第1主成分と、BaTi
2O
5で表される第2主成分と、を含み、第1及び第2主成分を含む母材粉末が(1−x)BaTiO
3−xBaTi
2O
5で表されるときに、xは0.1≦x≦0.8を満たす。
【0031】
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、EIA(Electronic Industries Association)規格として明示したX8R(−55℃〜150℃、△C/C0±15%)またはX9S(−55℃〜200℃、△C/C0±22%)の性能特性を満たすことができる。
【0032】
より詳細に、本発明の一実施形態によると、ニッケル(Ni)を内部電極として用い、上記ニッケル(Ni)が酸化されない還元雰囲気で焼成する場合にも、絶縁抵抗を維持することができる誘電体磁器組成物を提供する。
【0033】
また、それを用いた積層セラミックキャパシターを提供することで、高い誘電率、高い絶縁抵抗、及び高いキュリー温度の各性能特性を同時に実現することができる。
【0034】
特に、本発明によると、誘電率の高いBaTiO
3とキュリー温度の高いBaTi
2O
5を用い、還元雰囲気で焼成可能な誘電体磁器組成物を用いて、一つの焼結体内で互いに異なる組成の2種の結晶粒からなる複合体形態の試料を製作し、これら2種の結晶粒の面積比率を制御することで、本発明において目標とする性能特性を実現することができる。
【0035】
以下、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物の各成分についてより具体的に説明する。
【0036】
a)母材粉末
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、BaTiO
3で表される第1主成分と、BaTi
2O
5で表される第2主成分と、を含み、第1及び第2主成分を含む母材粉末が(1−x)BaTiO
3−xBaTi
2O
5で表されるときに、xは0.1≦x≦0.8を満たす。
【0037】
上記第1主成分はBaTiO
3で表されることができる。上記BaTiO
3は、一般的な誘電体母材に用いられる材料であって、キュリー温度が略125℃程度である強誘電体材料であることができる。
【0038】
上記第1主成分は、BaTiO
3で表される成分だけでなく、Ca、Zrなどが一部固溶されて修正された(Ba
1−xCa
x)(Ti
1−yCa
y)O
3、Ba(Ti
1−yZr
y)O
3などの形態も可能である。
【0039】
上記第2主成分はBaTi
2O
5で表されることができる。
【0040】
すなわち、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物の母材粉末は、誘電率の高いBaTiO
3で表される材料と、キュリー温度の高いBaTi
2O
5で表される材料とを所定の割合で混合した形態として実施可能である。
【0041】
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、上記のように所定の割合で第1主成分と第2主成分の材料を混合して母材粉末を製作してこれを用いるため、還元雰囲気で焼成可能である。
【0042】
図1は、第1結晶粒及び第2結晶粒からなる微細構造、及び各結晶粒中でSTEM/WDS分析またはSTEM/EELS分析によりBa及びTiの含量の分析を行う位置P1、P2、P3、P4を示す模式図である。
【0043】
図1を参照すると、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物を用いて製造(還元雰囲気、焼成温度:1200℃)された誘電層の微細構造は、含量比Ti/Baが1.5未満である第1結晶粒10と、含量比Ti/Baが1.5〜2.5である第2結晶粒20と、を含む。
【0044】
一つの結晶粒におけるTi及びBaの含量は、P1〜P4の各地点で、Ti及びBaの各含量(at%)を測定して4箇所のデータの平均値から導出した。
【0045】
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物を用いた誘電層及び積層セラミックキャパシターは、高い誘電率、高い絶縁抵抗、及び高いキュリー温度の各性能特性を同時に達成することができる。
【0046】
より詳細には、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物を用いて製造された誘電層及びそれを含む積層セラミックキャパシターは、第2結晶粒の面積比率が全体面積に対して9.5〜81.4%であるため、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、及び常温誘電率150以上の全ての性能特性を同時に実現することができる。
【0047】
また、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物を用いて製造された誘電層及びそれを含む積層セラミックキャパシターは、第2結晶粒の面積比率が全体面積に対して9.5〜81.4%であるため、EIA(Electronic Industries Association)規格として明示したX8R(−55℃〜150℃、△C/C0±15%)またはX9S(−55℃〜200℃、△C/C0±22%)の性能特性を満たすことができる。
【0048】
第2結晶粒の面積比率が全体面積に対して9.5%未満である場合には、X8R(−55℃〜150℃、△C/C0±15%)またはX9S(−55℃〜200℃、△C/C0±22%)の性能特性を満たすことができず、81.4%を超える場合には、常温誘電率が150未満になるという問題がある。
【0049】
すなわち、全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%を外れる場合には、本発明において目標とする性能特性の一部を実現することはできない。
【0050】
特に制限されるものではないが、上記母材粉末の平均粒径は300nm以下であることができる。
【0051】
b)第1副成分
本発明の一実施形態によると、上記誘電体磁器組成物は、第1副成分として、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、及びZnの少なくとも一つ以上を含む酸化物または炭酸塩をさらに含むことができる。例えば、第1副成分はMnO
2またはV
2O
5であることができる。
【0052】
Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、及びZnは原子価可変アクセプター(Variable Valence Acceptor)である。
【0053】
第1副成分は、母材粉末100molに対して0.2mol〜5.0molとなるように含まれるようにしてもよい。または、第1副成分に含まれるMn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、及びZnから選択される少なくとも一つ以上の原子の総和が0.2at%〜5.0at%を満たすように含まれるようにしてもよい。
【0054】
第1副成分は、誘電体磁器組成物が適用された積層セラミックキャパシターの焼成温度を低下させ、高温耐電圧特性を向上させる役割を果たす。
【0055】
第1副成分の含量が母材粉末100molに対して0.2mol未満である場合には、高温耐電圧特性が低下し、第1副成分の含量が母材粉末100molに対して5.0molを超える場合にも、高温耐電圧特性が低下する問題が発生し得る。
【0056】
すなわち、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、0.2mol〜5.0molの含量を有する第1副成分をさらに含むことができ、これにより、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0057】
この際にも、後述するように全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%である。
【0058】
c)第2副成分
本発明の一実施形態によると、上記誘電体磁器組成物は、Baの酸化物及び炭酸塩からなる物質群から選択される一つ以上の物質を含む第2副成分を含むことができる。例えば、第2副成分はBaCO
3であってもよい。
【0059】
第2副成分は、母材粉末100mol当たりに0.2mol〜10.0molで含まれるようにしてもよい。
【0060】
第2副成分が添加されていないか、過剰な分量が添加される場合には、焼結密度が低くなり、高温耐電圧が50V/μm未満に減少するという問題がある。
【0061】
第2副成分が母材粉末100mol当たりに0.2mol〜10.0molの範囲内となるように含まれる場合、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0062】
この際にも、後述するように全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%である。
【0063】
d)第3副成分
本発明の一実施形態によると、誘電体磁器組成物は、Si元素の酸化物、Si元素の炭酸塩、及びSi元素を含むガラスからなる物質群から選択される一つ以上の物質を含む第3副成分を含むことができる。
【0064】
第3副成分は、上記母材粉末100molに対して0.2〜5.0molで含まれることができる。
【0065】
上記第3副成分の含量が誘電体母材粉末100molに対して0.2mol未満である場合には、焼結密度が低くて高温耐電圧が低下し、5.0molを超えて含まれる場合には、二次相の生成により高温耐電圧が低下する。
【0066】
第3副成分が上記母材粉末100molに対して0.2〜5.0molで含む場合、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0067】
この際にも、後述するように全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%である。
【0068】
e)第4副成分
本発明の一実施形態によると、上記誘電体磁器組成物は、Y、Dy、Ho、La、Ce、Nd、Sm、Gd、及びErの少なくとも一つを含む酸化物または炭酸塩を第4副成分としてさらに含むことができる。
【0069】
第4副成分の含量は、母材粉末100molに対して0.25mol〜5.0mol以下となるようにしてもよい。または、第4副成分に含まれるY、Dy、Ho、La、Ce、Nd、Sm、Gd、及びErから選択される少なくとも一つ以上の原子の総和が0.5at%〜10.0at%を満たすように含まれるようにしてもよい。
【0070】
第4副成分は、本発明の一実施形態で誘電体磁器組成物が適用された積層セラミックキャパシターの信頼性低下を防止する役割を担うことができる。第4副成分が母材粉末100molに対して0.25mol〜5.0mol以下となるように含まれる場合、高い誘電率が実現され、且つ高温耐電圧特性が良好な誘電体磁器組成物を提供することができる。
【0071】
第4副成分を含む場合、第4副成分を含まない場合に比べて高温耐電圧特性が向上する。第4副成分の含量が母材粉末100molに対して5.0molを超える場合には、二次相の生成により高温耐電圧が減少するという問題がある。
【0072】
第4副成分が母材粉末100molに対して0.25mol〜5.0mol以下となるように含まれる場合、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0073】
この際にも、後述するように全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%である。
【0074】
f)第5副成分
本発明の一実施形態によると、上記誘電体磁器組成物は、第5副成分として、Mgを含む原子価固定アクセプター(fixed‐valence acceptor)元素の酸化物及び炭酸塩の一つ以上を含むことができる。例えば、第5副成分はMgCO
3であってもよい。
【0075】
上記第5副成分の含量は、母材粉末100molに対して0.5mol〜5.0mol以下となるようにしてもよい。
【0076】
第5副成分としてMgCO
3を含む場合、MgCO
3を含まない場合に比べて常温比抵抗値が高くなる効果がある。第5副成分の含量が母材粉末100molに対して5.0molを超える場合には、二次相が生成されて高温耐電圧が低くなるという問題がある。
【0077】
すなわち、第5副成分の含量が母材粉末100molに対して0.5mol〜5.0mol以下である場合、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0078】
この際にも、後述するように全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%である。
【0079】
図2は本発明の一実施形態による積層セラミックキャパシター100を示す概略的な斜視図であり、
図3は
図2のIII‐III'に沿って取った積層セラミックキャパシター100を示す概略的な断面図である。
【0080】
図2及び
図3を参照すると、本発明の他の実施形態による積層セラミックキャパシター100は、誘電層111と第1及び第2内部電極121、122とが交互に積層されたセラミックボディ110を有する。セラミックボディ110の両端部には、セラミックボディ110の内部に交互に配置された第1及び第2内部電極121、122とそれぞれ導通する第1及び第2外部電極131、132が形成されている。
【0081】
セラミックボディ110の形状は特に制限されないが、通常、六面体形状とすることができる。また、その寸法も特に制限されず、用途に応じて適切な寸法とすることができ、例えば、(0.6〜5.6mm)×(0.3〜5.0mm)×(0.3〜1.9mm)とすることができる。
【0082】
誘電層111の厚さは、キャパシターの容量設計に応じて任意に変更することができるが、本発明の一実施形態において、焼成後の誘電層の厚さは1層当たり0.1μm以上であることが好ましい。
【0083】
薄すぎる厚さの誘電層は、一層内に存在する結晶粒の数が少なくて(例えば、第1及び第2内部電極121、122の間に配置された誘電体の厚さ内の結晶粒数)信頼性に悪い影響を与えるため、誘電層の厚さは0.1μm以上となるようにすることができる。
【0084】
第1及び第2内部電極121、122は、それぞれの端面がセラミックボディ110の対向する両端部の表面に交互に露出するように積層されている。
【0085】
上記第1及び第2外部電極131、132は、セラミックボディ110の両端部に形成されており、交互に配置された第1及び第2内部電極121、122の露出端面に電気的に連結されてキャパシター回路を構成する。
【0086】
第1及び第2内部電極121、122に含有される導電性材料は特に限定されないが、本発明の一実施形態による誘電層111は、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物を用いて形成される。
【0087】
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、BaTiO
3で表される第1主成分と、BaTi
2O
5で表される第2主成分と、を含み、第1及び第2主成分を含む母材粉末が(1−x)BaTiO
3−xBaTi
2O
5で表されるときに、xは0.1≦x≦0.8を満たす。
【0088】
第1及び第2内部電極121、122の厚さは、用途などに応じて適宜決めることができ、特に制限されるものではないが、例えば、0.1〜5μmまたは0.1〜2.5μmとすることができる。
【0089】
上記第1及び第2外部電極131、132に含有される導電性材料としては、特に限定されないが、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、またはこれらの合金を用いることができる。
【0090】
上記第1及び第2外部電極131、132の厚さは、用途などに応じて適宜決めることができ、特に制限されるものではないが、例えば、10〜50μmとすることができる。
【0091】
以下、実施例及び比較例により本発明のキャパシター及び誘電体磁器組成物をさらに詳細に説明するが、これは発明の具体的な理解のためのものであって、本発明の範囲が実施例により限定されるものではない。
【0092】
下記の表1、表3及び表5に記載された組成にしたがって、エタノールとトルエンを溶媒として分散剤とともに混合した後、バインダーを混合してセラミックシートを製作した。
【0093】
主成分母材としては、平均粒子サイズが300nmであるBaTiO
3及びBaTi
2O
5粉末を用いた。
【0094】
成形されたセラミックシートにニッケル(Ni)電極を印刷し、21層を積層して活性シートを製作し、活性シートの上部及び下部に位置するカバーとしてカバー用シート(10〜13μm)を25層積層し、これを圧着することで圧着バー(bar)を製作した。
【0095】
その後、圧着バー(bar)を切断機を用いて3.2mm×1.6mmのサイズのチップに切断した。
【0096】
切断したチップを、脱バインダー処理のためにか焼した後、還元雰囲気(1.0%のH
2/99%のN
2(H
2O/H
2/N
2雰囲気))下で1200℃で焼成を行い、焼成されたチップにCuペーストを用いて外部電極を形成した。
【0097】
上記のように完成されたプロトタイプの積層セラミックキャパシター(Proto‐type MLCC)試験片の常温静電容量及び誘電損失を、LCR‐meterを用いて1kHz、AC0.2V/μmの条件で測定した。
【0098】
静電容量と積層セラミックキャパシターの誘電体の厚さ、内部電極の面積、積層数から、積層セラミックキャパシターの誘電体の誘電率を計算した。
【0099】
常温絶縁抵抗は、サンプルを10個ずつ取って、DC10V/μmを印加した状態で60秒経過後に測定した。
【0100】
温度による静電容量の変化は、−55℃〜200℃の温度範囲で測定した。
【0101】
高温IR昇圧実験では、200℃で電圧ステップを5V/μmずつ増加させながら抵抗劣化挙動を測定した。この際、各ステップの時間は10分であり、5秒間隔で抵抗値を測定した。
【0102】
高温IR昇圧実験から高温耐電圧を導出した。これは、200℃で誘電体の単位厚さ当たりにDC5V/μmの電圧ステップ(voltage step)を10分間印加し、この電圧ステップを継続的に増加させながら測定したときに、IRの値を10
5Ω以上に維持可能な上限電圧を意味する。
【0103】
RC値は、AC0.2V/μm、1kHzで測定した常温容量値と、DC10V/μmで測定した絶縁抵抗値とを乗じた値である。
【0104】
また、表2、4、6は、表1、3、5に記載の組成に該当するニッケル(Ni)内部電極が適用されたプロトタイプの積層セラミックキャパシター(Proto‐type MLCC)の特性を示す。
【0107】
表1の実施例1〜12は、母材粉末(1−x)BaTiO
3−xBaTi
2O
5100molに対して、第1副成分MnO
2が0.5mol、第2副成分BaCO
3が1.0mol、第3副成分SiO
2が1.0molであるときの、xによる実施例を示したものである。表2は、表1の実施例1〜12の誘電体磁器組成物を用いて製作した誘電層及びニッケル(Ni)内部電極を含む、還元雰囲気で焼成したプロトタイプの積層セラミックキャパシターの特性を示す。
【0108】
BaTi
2O
5の組成比x値が0.05未満である場合(実施例1、2)には、高温150℃TCC(150℃)±15%を超えており、x値が0.9以上であってBaTi
2O
5が過剰な分量である場合(実施例11、12)には、常温比抵抗が1×10
11Ohm‐cm未満に低下し、高温(200℃)耐電圧が50V/μm未満に低下するという問題がある。
【0109】
BaTi
2O
5の組成比x値が0.1〜0.8の範囲に該当する場合(実施例2〜11)、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0110】
本発明の一実施例による誘電体組成物を用いて還元雰囲気(1.0%のH
2/99%のN
2(H
2O/H
2/N
2雰囲気))下で1200℃で焼成して誘電層を製造するか、これにニッケル(Ni)内部電極を印刷して積層セラミックキャパシターを製造した場合、誘電層の微細構造は第1結晶粒及び第2結晶粒を含む。
【0111】
一つの結晶粒中で、P1〜P4、総4地点のBa及びTiの含量をSTEM/WDSまたはSTEM/EELSにより分析した。
【0112】
4地点のBa及びTiの含量の平均値を用いて計算した結果、第1結晶粒は「含量比Ti/Ba<1.5」を満たす結晶粒であると定義され、第2結晶粒は「1.5≦含量比Ti/Ba≦2.5」を満たす結晶粒であると定義される。
【0113】
表1の実施例1〜12を参照すると、本発明の目標特性を達成するために、積層セラミックキャパシターの誘電層は第1及び第2結晶粒を含み、全体面積に対する第2結晶粒の面積比率は9.5〜81.4%であることが分かる。
【0114】
すなわち、積層セラミックキャパシターの誘電層の微細構造を観察したときに、単位面積当たりの第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%である場合に、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0117】
表3の実施例13〜20は、母材粉末0.5BaTiO
3−0.5BaTi
2O
5100molに対して、第2副成分BaCO
3が1.0mol、第3副成分SiO
2が1.0molであるときの、第1副成分MnO
2の含量を変化させることによる実施例を示したものである。表4は、表3の実施例13〜20の誘電体磁器組成物を用いて製作した誘電層及びニッケル(Ni)内部電極を含む、還元雰囲気で焼成したプロトタイプの積層セラミックキャパシターの特性を示す。
【0118】
第1副成分MnO
2が添加されていない場合(実施例13)には、高温耐電圧が50V/μm未満に低くなるという問題が発生し、第1副成分MnO
2が母材粉末100molに対して8molと過剰に添加された場合(実施例20)にも、高温耐電圧が50V/μm未満に低下するという問題が発生することが分かる。
【0119】
すなわち、第1副成分MnO
2の含量が母材粉末100molに対して0.2mol〜5.0molである場合(実施例14〜19)に、高温(200℃)耐電圧が50V/μm以上の優れた特性を達成することができる。
【0120】
表3の実施例21〜23は、第2副成分としてMnO
2及びV
2O
5をともに含む実施例を示し、表4は、表3の実施例21〜23の誘電体磁器組成物を用いて製作した誘電層及びニッケル(Ni)内部電極を含む、還元雰囲気で焼成したプロトタイプの積層セラミックキャパシターの特性を示す。
【0121】
第1副成分としてMnO
2を単独で含む場合(実施例15及び19)や、MnO
2及びV
2O
5をともに含む場合(実施例21及び22)にも、第1副成分として含まれるMn及びV原子の総和のat%が同一である場合には、類似の特性が実現されることが分かる。
【0122】
すなわち、Mnが単独で0.5at%含まれる場合(実施例15)と、Mn及びVがともに0.5at%(Mn:0.25at%、V:0.25at%)含まれる場合(実施例21)、互いに類似の特性を有することが分かる。
【0123】
また、Mnが単独で5.0at%含まれる場合(実施例19)と、Mn及びVがともに5.0at%(Mn:2.5at%、V:2.5at%)含まれる場合(実施例22)、互いに類似の特性を有することが分かる。
【0124】
第2副成分として含まれる原子価可変アクセプター(Variable Valence Acceptor)の総含量がat%基準で0.2〜5.0at%である場合(実施例14〜19、21及び22)、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0125】
この際にも、全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%を満たすことが分かる。
【0126】
また、表3の実施例24〜32は、母材粉末0.5BaTiO
3−0.5BaTi
2O
5100molに対して、第1副成分MnO
2が0.5mol、第3副成分SiO
2が1.0molであるときの、第2副成分BaCO
3の含量を変化させることによる実施例を示したものである。表4は、表3の実施例24〜32の誘電体磁器組成物を用いて製作した誘電層及びニッケル(Ni)内部電極を含む、還元雰囲気で焼成したプロトタイプの積層セラミックキャパシターの特性を示す。
【0127】
第2副成分BaCO
3が添加されていない場合(実施例24)または第2副成分BaCO
3が母材粉末100molに対して15mol程度と過量に添加された場合(実施例32)には、焼結密度が低くて、高温耐電圧が50V/μm未満に低下するという問題が発生する。
【0128】
すなわち、第2副成分BaCO
3の含量が母材粉末100molに対して0.2mol〜10molである場合(実施例25〜31)、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0129】
この際にも、全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%を満たすことが分かる。
【0130】
また、表3の実施例33〜39は、母材粉末0.5BaTiO
3−0.5BaTi
2O
5100molに対して、第1副成分MnO
2が0.5mol、第2副成分BaCO
3が1.0molであるときの、第3副成分SiO
2の含量を変化させることによる実施例を示したものである。表4は、表3の実施例33〜39の誘電体磁器組成物を用いて製作した誘電層及びニッケル(Ni)内部電極を含む、還元雰囲気で焼成したプロトタイプの積層セラミックキャパシターの特性を示す。
【0131】
第3副成分SiO
2の含量が母材粉末100molに対して0.1mol以下である場合(実施例33及び34)には、焼結密度が低くて、高温耐電圧が50V/μm未満に低くなるという問題が発生し、第3副成分SiO
2の含量が母材粉末100molに対して7.0mol程度に過量である場合(実施例39)には、二次相の生成などにより高温耐電圧が50V/μm未満に低下するという問題が発生する。
【0132】
すなわち、第3副成分SiO
2の含量が母材粉末100molに対して0.2mol〜5.0molである場合(実施例35〜38)、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0133】
この際にも、全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%を満たすことが分かる。
【0136】
表5の実施例40〜46は、母材粉末0.5BaTiO
3−0.5BaTi
2O
5100molに対して、第1副成分MnO
2が0.5mol、第2副成分BaCO
3が1.0mol、第3副成分SiO
2が1.0molであるときの、第4副成分Y
2O
3の含量を変化させることによる実施例を示したものである。表6は、表5の実施例40〜46の誘電体磁器組成物を用いて製作した誘電層及びニッケル(Ni)内部電極を含む、還元雰囲気で焼成したプロトタイプの積層セラミックキャパシターの特性を示す。
【0137】
第4副成分Y
2O
3が添加されていない場合(実施例7)に比べて、第4副成分としてY
2O
3が添加されると、高温耐電圧特性が向上することが分かる。しかし、第4副成分Y
2O
3が母材粉末100molに対して7molと過量に添加される場合(実施例46)には、二次相の生成などにより高温耐電圧が50V/μm未満に低下するという問題がある。
【0138】
表5の実施例47〜49は、母材粉末0.5BaTiO
3−0.5BaTi
2O
5100molに対して、第1副成分MnO
2が0.5mol、第2副成分BaCO
3が1.0mol、第3副成分SiO
2が1.0molであるときの、第4副成分DY
2O
3の含量を変化させることによる実施例を示したものである。表6は、表5の実施例47〜49の誘電体磁器組成物を用いて製作した誘電層及びニッケル(Ni)内部電極を含む、還元雰囲気で焼成したプロトタイプの積層セラミックキャパシターの特性を示す。
【0139】
実施例42と47、実施例45と48、実施例46と49を互いに比較すると、at%基準で第4副成分に含まれた希土類元素の含量が同一であると、希土類元素の種類にかかわらず類似の特性が実現されることが分かる。
【0140】
すなわち、第4副成分が母材粉末100molに対して0.25mol〜5.0molで含まれる場合や、at%基準で第4副成分の希土類元素が0.5at%〜10at%で含まれる場合(実施例40〜45、47及び48)、本発明において目標とする性能特性を以下のように実現することができる。すなわち、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0141】
この際にも、全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%を満たすことが分かる。
【0142】
また、表5の実施例50〜55は、母材粉末0.5BaTiO
3−0.5BaTi
2O
5100molに対して第1副成分MnO
2が0.5mol、第2副成分BaCO
3が1.0mol、第3副成分SiO
2が1.0mol、第4副成分Y
2O
3が2.0molであるときの、第5副成分MgCO
3の含量変化による実施例を示したものである。表6は、表5の実施例50〜55の誘電体磁器組成物を用いて製作した誘電層及びニッケル(Ni)内部電極を含む、還元雰囲気で焼成したプロトタイプの積層セラミックキャパシターの特性を示す。
【0143】
第5副成分MgCO
3が添加される場合には、第5副成分MgCO
3が添加されていない場合(実施例7)に比べて常温比抵抗値が向上する効果がある。しかし、第5副成分MgCO
3が母材粉末100molに対して7mol程度と過量に添加される場合(実施例55)には、二次相の生成などにより高温耐電圧が50V/μm未満に低下するという問題が発生することを確認することができる。
【0144】
すなわち、第5副成分MgCO
3が母材粉末100molに対して0.5mol〜5.0molで含まれる場合(実施例50〜54)、本発明において目標とする性能特性として、常温比抵抗1×10
11Ohm‐cm以上、高温(200℃)耐電圧50V/μm以上、TCC(150℃)±15%未満、TCC(200℃)±22%未満、及び常温誘電率150以上の全ての特性を同時に実現することができる。
【0145】
この際にも、全体面積に対する第2結晶粒の面積比率が9.5〜81.4%を満たすことが分かる。
【0146】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。