【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「ハイスループット高性能熱電材料探索とデバイス素子の作製」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【解決手段】 本発明の熱電変換材料は、少なくとも、M1(ただし、M1は、マグネシウム(Mg)および鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種の元素)、ケイ素(Si)、および、M2(ただし、M2は、スズ(Sn)およびアンチモン(Sb)からなる群から選択される少なくとも1種の元素)を含有するアモルファス母体と、アモルファス母体中に位置するM1とM2とを含有する結晶粒とを含有する。
少なくとも、M1(ただし、M1は、マグネシウム(Mg)および鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種の元素)、ケイ素(Si)、および、M2(ただし、M2は、スズ(Sn)およびアンチモン(Sb)からなる群から選択される少なくとも1種の元素)を含有するアモルファス母体と、
前記アモルファス母体中に位置するM1とM2とを含有する結晶粒と
を含有する、熱電変換材料。
前記結晶粒は、前記選択されたM1およびM2とは異なる、銀(Ag)、ビスマス(Bi)、ケイ素(Si)、アンチモン(Sb)、ニッケル(Ni)、硫黄(S)、および、ゲルマニウム(Ge)群から少なくとも1種選択されるM3で表される元素が添加されている、請求項7に記載の熱電変換材料。
前記基板は、フレキシブル高分子基板、ガラス基板、金属基板、セラミック基板、および、半導体基板からなる群から1つ選択される、請求項10に記載の熱電変換材料。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0016】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の熱電変換材料および製造方法を詳述する。
図1は、本発明による熱電変換材料を示す模式図である。
【0017】
本発明による熱電変換熱材料100は、M1(ただし、M1は、マグネシウム(Mg)および鉄(Fe)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)、ケイ素(Si)、および、M2(ただし、M2は、スズ(Sn)およびアンチモン(Sb)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)を含有するアモルファス母体110と、そのアモルファス母体110中に位置するM1とM2とを含有する結晶粒とを含有する。本願発明者らは、このような複合体とすることにより、薄膜であってもバルク同様の高い性能指数ZTを達成できることを見出した。
【0018】
アモルファス母体110に対する結晶粒120の体積比(結晶粒/アモルファス母体)は、好ましくは、40以上80以下の範囲を満たす。これにより、本発明の熱電変換材料は、優れた熱電性能を示し得る。さらに好ましくは、体積比は、50以上70以下の範囲を満たす。これにより、本発明の熱電変換材料は、さらに優れた性能を示し得る。なおさらに好ましくは、体積比は、55以上65以下の範囲を満たす。なお、体積比は、透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡によって材料の断面を観察した場合の、アモルファス母体110と結晶粒120との面積比から算出される。
【0019】
結晶粒120の平均粒径は、好ましくは、0.5nm以上100nm以下の範囲である。この範囲であれば、結晶粒120は、結晶を構成し、熱電性能を有し得る。さらに好ましくは、結晶粒120の平均粒径は、10nm以上30nm以下の範囲である。この範囲であれば、本発明の熱電変換材料は、優れた性能を示し得る。なおさらに好ましくは、結晶粒120の平均粒径は、15nm以上25nm以下の範囲である。なお、結晶粒120の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察された画像において無作為に選んだ結晶粒100点の粒径を測定し、その平均粒径とする。
【0020】
アモルファス母体110中のM1、SiおよびM2は、それぞれ、好ましくは、原子百分率(原子%)で、
40≦M1≦70、
20≦Si≦50、および、
1≦M2≦20
を満たす。これにより、結晶粒120が安定化し、優れた熱電性能を示し得る。
【0021】
アモルファス母体110中のM1、SiおよびM2は、それぞれ、より好ましくは、原子百分率(原子%)で、
50≦M1≦60、
30≦Si≦40、および、
5≦M2≦15
を満たす。これにより、結晶粒120がさらに安定化し、優れた熱電性能を示し得る。
【0022】
アモルファス母体110中のM1、SiおよびM2は、それぞれ、なおさらに好ましくは、原子百分率(原子%)で、
53≦M1≦57、
33≦Si≦37、および、
8≦M2≦12
を満たす。これにより、結晶粒120がさらに安定化し、優れた熱電性能を示し得る。なお、原子百分率は、エネルギー分散型X線分光法による検出深さ100μm程度の元素分析によって求められる。
【0023】
M1が、Mgであり、M2がSnである場合を説明する。
この場合、アモルファス母体110は、MgとSiとSnとを含有し、結晶粒120は、MgとSnとを含有する。好ましくは、結晶粒120は、Mg
2Snで表される化合物を含有する。Mg
2Snは、立方晶系の結晶構造を有し、空間群Fm3−m(International Tables for Crystallographyの225番の空間群)に属する。なお、本願明細書において、「3−」は3のオーバーバーを表す。このような特定の結晶構造を有するMg
2Snは、熱電変換材料として知られており、好ましい。ノンドープの場合、本発明の熱電変換材料は、p型として機能し得る。
【0024】
好ましくは、Mg
2Snの結晶粒120は、選択されたM1およびM2とは異なる、銀(Ag)、ビスマス(Bi)、ケイ素(Si)、アンチモン(Sb)、ニッケル(Ni)、硫黄(S)、および、ゲルマニウム(Ge)からなる群から少なくとも1種選択される元素(M3元素)が添加されていてもよい。これらの元素は、Mg
2Snのドーパントとして知られ、電気伝導率の向上、キャリア密度の向上、n型やp型など伝導型の制御等に有利である。例えば、ドーパントとしてAgを選択すれば、本発明の熱電変換材料の電気伝導率を向上させることができる。あるいは、ドーパントとしてSbを選択すれば、本発明の熱電変換材料は全体としてn型となり得る。なお、ドーパントとしてSbを選択した場合には、後述する、M1がMgであり、M2がSnおよびSbである場合に相当してよい。
【0025】
添加元素を含有する結晶粒120は、Mg
2Sn
1−aM3
aで表され、M3は上述の添加元素であり、aは、0.005以上0.05以下の範囲である。M3として2以上の添加元素を選択した場合には、合計量がxの範囲を満たせばよい。
【0026】
M1が、Mgであり、M2がSbである場合を説明する。
この場合、アモルファス母体110は、MgとSiとSbとを含有し、結晶粒120は、MgとSbとを含有する。好ましくは、結晶粒120は、Mg
3Sb
2で表される化合物を含有する。Mg
3Sb
2は、La
2O
3型構造を有し、空間群P3−m1(International Tables for Crystallographyの164番の空間群)に属する。このような特定の結晶構造を有するMg
3Sb
2は、熱電材料として知られており、好ましい。この場合、本発明の熱電変換材料は、n型として機能し得る。
【0027】
この場合、好ましくは、Mg
3Sb
2の結晶粒120は、Ag、Bi、Si、Sn、Ni、S、および、Geからなる群から少なくとも1種選択される元素(M4元素)が添加されていてもよい。これらの元素は、Mg
3Sb
2のドーパントとして知られ、電気伝導率の向上、キャリア密度の向上、n型やp型など伝導型の制御等に有利である。例えば、ドーパントとしてBiを選択すれば、本発明の熱電変換材料の電気伝導率を向上させることができる。あるいは、ドーパントとしてSnを選択すれば、本発明の熱電変換材料は全体としてp型となり得る。
【0028】
添加元素を含有する結晶粒120は、Mg
3Sb
2(1−b)M4
2bで表され、M4は上述の添加元素であり、bは、0.005以上0.05以下の範囲である。M4として2以上の添加元素を選択した場合には、合計量がxの範囲を満たせばよい。
【0029】
M1が、Mgであり、M2がSnおよびSbである場合を説明する。
この場合、アモルファス母体110は、MgとSiとSnとSbとを含有し、結晶粒120は、MgとSnとSbとを含有する。好ましくは、結晶粒120は、Mg
2Sn
1−xSb
x(xは、0.005≦x≦0.05)で表される化合物を含有する。Mg
2Sn
1−xSb
xは、CaF
2型構造を有し、空間群Fm3−m(International Tables for Crystallographyの225番の空間群)に属する。
【0030】
M1が、Feであり、M2がSnである場合を説明する。
この場合、アモルファス母体110は、FeとSiとSnとを含有し、結晶粒120は、FeとSnとを含有する。結晶粒120は、FeとSnとを含有する任意の化合物であってよいが、例示的には、FeSn、FeSn
2、Fe
3Sn、Fe
3Sn
2、γ−Fe
5Sn
3、Fe
92Sn
8、または、Fe
75Sn
25で表される金属間化合物である。
【0031】
FeSnは、CoSn型構造を有し、空間群P6/mmm(International Tables for Crystallographyの191番の空間群)に属する。FeSn
2は、CuAl
2型構造を有し、空間群I4/mcm(International Tables for Crystallographyの140番の空間群)に属する。Fe
3Snは、Mg
3Cd型構造を有し、空間群P6
3/mmc(International Tables for Crystallographyの194番の空間群)に属するものであってもよいし、Cu
3Au型構造を有し、空間群Pm3−m(International Tables for Crystallographyの221番の空間群)に属してもよい。
【0032】
Fe
3Sn
2は、空間群R3−mh(International Tables for Crystallographyの166番の空間群)に属する。γ−Fe
5Sn
3は、空間群P6
3/mmc(International Tables for Crystallographyの194番の空間群)に属する。Fe
92Sn
8は、W型構造を有し、空間群Im3−m(International Tables for Crystallographyの229番の空間群)に属する。Fe
75Sn
25は、CsCl型構造を有し、空間群Pm3−m(International Tables for Crystallographyの221番の空間群)に属する。
【0033】
M1が、Feであり、M2がSbである場合を説明する。
この場合、アモルファス母体110は、FeとSiとSbとを含有し、結晶粒120は、FeとSbとを含有する。結晶粒120は、FeとSbとを含有する任意の化合物であってよいが、例示的には、FeSb
2、Fe
55Sb
45、FeSb
3、または、Fe
1−ySb
y(yは、0<y<0.05)で表される金属間化合物である。
【0034】
FeSb
2は、CuAl
2型構造を有し、空間群I4/mcm(International Tables for Crystallographyの140番の空間群)に属する。Fe
55Sb
45は、空間群P6
3/mmc(International Tables for Crystallographyの194番の空間群)に属する。FeSb
3は、CoAs
3型構造を有し、空間群Im3−(International Tables for Crystallographyの204番の空間群)に属する。Fe
1−ySb
yは、W型構造を有し、空間群Im3−m(International Tables for Crystallographyの229番の空間群)に属する。
【0035】
M1が、Feであり、M2がSnおよびSbである場合を説明する。
この場合、アモルファス母体110は、FeとSiとSnとSbとを含有し、結晶粒120は、FeとSnとSbとを含有する。結晶粒120は、FeとSnとSbとを含有する任意の化合物であってよいが、例示的には、Fe
1.45Sn
0.5Sb
0.5、FeSn
0.2Sb
1.8、FeSn
0.9Sb
0.1または、FeSn
1.85Sb
0.15で表される金属間化合物である。
【0036】
Fe
1.45Sn
0.5Sb
0.5は、Co
1.75Ge型構造を有し、空間群P6
3/mmc(International Tables for Crystallographyの194番の空間群)に属する。FeSn
0.2Sb
1.8は、FeS
2型構造を有し、空間群Pnnm(International Tables for Crystallographyの58番の空間群)に属する。FeSn
0.9Sb
0.1は、CoSn型構造を有し、空間群P6/mmm(International Tables for Crystallographyの191番の空間群)に属する。FeSn
1.85Sb
0.15は、CuAl
2型構造を有し、空間群I4/mcm(International Tables for Crystallographyの140番の空間群)に属する。
【0037】
本発明の熱電変換材料100は、特に形態は問わず、バルク、粉末、または、薄膜の形態であってもよい。本発明の熱電変換材料100は、アモルファス母体110中に特定の結晶粒120を位置させた複合体であるため、薄膜の形態であっても、高い熱電性能を示すことができる。
【0038】
本発明の熱電変換材料100が薄膜の形態である場合、基板上に位置してよい。このような基板には、フレキシブル高分子基板、ガラス基板、金属基板、セラミック基板、および、半導体基板からなる群から選択される。
【0039】
フレキシブル高分子基板は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリジメチルシラン等のシリコーンゴム、ポリイミド、ポリカーボネート、ポイメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル樹脂などであり得る。金属基板は、アルミニウム、ステンレス、チタン、銅などの基板であってよい。このような基板の上に酸化アルミニウム等の絶縁層を有していてもよい。セラミック基板は、アルミナ(Al
2O
3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、窒化ケイ素(Si
3N
4)焼結体などであり得る。半導体基板は、シリコン、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)などであり得る。
【0040】
特に、フレキシブル高分子基板を用いた場合には、本発明の熱電変換材料100はフレキシブルなシート状となり、フレキシブル熱電変換素子を提供できる。
【0041】
次に、本発明の熱電変換材料100を製造する例示的な製造方法を説明するが、これに限らないことに留意されたい。
図2は、本発明の熱電変換材料を製造する工程を示すフローチャートである。
図3は、本発明の熱電変換材料を製造する工程を示す模式図である。
図4は、本発明の熱電変換材料を製造する装置を示す模式図である。
【0042】
本発明の熱電変換材料100(
図1)は、物理的気相成長法により製造できるが、詳細には、ステップS210およびS220によって得られる。
ステップS210:M1
2Siで表される第1のターゲット420(
図4)と、M2で表される第2のターゲット430(
図4)とを用いた物理的気相成長法により、第1のターゲット420によって得られる第1の層310(
図3)と、第2のターゲット430によって得られる第2の層320(
図3)とを交互に積層し、第1の層310と第2の層320とが交互に積層した積層体300(
図3)を得る。
ステップS220:ステップS210で得られた積層体300を熱処理する。
ここで、M1およびM2の元素は、上述した通りであるため、説明を省略する。
【0043】
本発明者らは、驚くべきことに、上述の特定元素からなる積層体300を得、それを熱処理するだけで、アモルファス母体110(
図1)中にM1とM2とを含有する結晶粒120が分散した本発明の熱電変換材料100が得られることを見出した。
【0044】
これは交互に積層する過程、続く熱処理過程において、積層された第1の層310のM1原子が第2の層320へ拡散し、第2の層320のM2原子の一部が第1の層310に拡散し、M1とM2とが凝集し、金属間化合物が形成され、結晶粒120となり得る。一方、M1とSiとM2とはアモルファス母体110となり得る。これにより、M1、SiおよびM2を含有するアモルファス母体110中にM1とM2とを含有する結晶粒120が分散した複合体となる。積層体300の設計を制御するだけで、本発明の熱電変換材料100が得られるため、制御が容易である。
【0045】
本発明の熱電変換材料100を製造する例示的な装置400(
図4)を示す。装置400は、物理的気相成長法の中でもスパッタリング法を採用した場合の装置である。本発明の熱電変換材料100は、スパッタリング法以外にも、抵抗加熱蒸着や電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法、イオンプレーティングなども採用できるが、スパッタリング法であれば、制御が容易であるため、好ましい。
【0046】
装置400は、少なくとも、ガス導入口とガス排気口とを備える真空チャンバ410と、M1
2Siで表される第1のターゲット420と、M2で表される第2のターゲット430と、基板440を取り付ける基板ホルダーとを備え、基板440と第1のターゲット420および第2のターゲット430との間を接続する電源450とを備える。
図4では、交互積層が可能なように、第1のターゲット420および第2のターゲット430上にシャッター460を備える。必要に応じて、基板ホルダーを加熱可能な加熱手段を備えてもよい。各ターゲットが基板440の直下にくるよう、基板ホルダーまたはターゲットが回転可能なように構成されてもよい。また、複数の基板を取り付け可能な基板ホルダーを用いてもよい。ターゲットはスパッタソースに取り付けられていてもよい。
【0047】
装置400の内部は、ガス排気口を介して、ロータリーポンプ(図示せず)やターボ分子ポンプ(図示せず)によって排気され、真空に維持される。装置400のガス導入口を介して、Ar等のスパッタガスが導入されるが、混合ガスとなるようにガス導入口は複数あってもよい。また、電源450は、高圧電源や高周波電源等であり得る。高圧電源の場合、装置400はDCスパッタとして機能する。高周波電源の場合、装置400はRFスパッタとして機能し、さらに装置400が磁石を備える場合には、RFマグネトロンスパッタとして機能する。
【0048】
装置400には、ターゲットまたは基板ホルダーの回転制御、スパッタガス圧、真空排気システム、基板温度、バイアス電圧、シャッターの開閉等の制御パラメータを外部制御装置で制御するようにしてもよい。これにより、全自動での製造を可能にするだけでなく、再現性に優れる。
【0049】
ステップS210において、好ましくは、第1の層310の厚さd
310は、5nm以上15nm以下の範囲であり、第2の層320の厚さd
320は、0.5nm以上1.5nm以下の範囲となるように、積層する。これにより、ステップS220を行うと、アモルファス母体110中に結晶粒120が分散した、本発明の熱電変換材料100が得られる。
【0050】
ステップS210において、さらに好ましくは、第1の層310の厚さd
310は、8nm以上12nm以下の範囲であり、第2の層320の厚さd
320は、0.8nm以上1.2nm以下の範囲となるように、積層する。これにより、ステップS220を行うと、本発明の熱電変換材料100の生成がさらに促進される。
【0051】
ステップS210において、好ましくは、第1の層310の厚さに対する第2の層320の厚さの比(d
320/d
310)は、0.05以上0.5以下となるように積層する。これにより、上述の体積比を満たした熱電変換材料100が得られる。さらに好ましくは、d
320/d
310は、0.08以上0.15以下となるように積層する。これにより、ステップS220を行うと、上述の体積比を満たした熱電変換材料100の形成が促進される。
【0052】
ステップS210において、好ましくは、第1の層310と第2の層320とをそれぞれ100以上積層する。これにより、ステップS220を行うと、優れた熱電性能を有する熱電変換材料100を提供できる。なお、上限は特に制限はないが、熱電変換材料100の形態に応じて適宜設定される。薄膜の熱電変換材料100であれば、上限は300以下でよい。一方、バルクの熱電変換材料100であれば、1000以上であってもよい。
【0053】
ステップS210において、好ましくは、273K以上323K以下の温度範囲で積層する。これにより、M1、M2およびSiの望まない拡散を抑制し得る。
【0054】
ステップS210において、好ましくは、0.1パスカル(Pa)以上1Pa以下のガス圧で積層する。この範囲であれば、積層体300が得られやすい。より好ましくは、0.2Pa以上0.6Pa以下のガス圧で積層する。これにより、積層体300の形成が促進される。ここでガス圧は、好ましくは、Ar(アルゴン)、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Kr(クリプトン)およびXe(キセノン)からなる群から選択される不活性ガス(スパッタガス)の圧力である。
【0055】
例えば、M1がMgであり、M2がSnである場合、第1のターゲットはMg
2Siで表されてよく、第2のターゲットがSnで表されてよく、いずれかのターゲットが、上述したドーパント(Ag、Bi、Si、Sb、Ni、S、および、Ge)からなる群から少なくとも1種選択される元素)を含有してもよい。これにより、ドーパントが添加されたMg
2Snで表される結晶粒が形成される。ドーピング濃度は、上述したとおりである。
【0056】
基板440は、上述したように、フレキシブル高分子基板、ガラス基板、金属基板、セラミック基板、および、半導体基板からなる群から選択される。特に、ステップS210において、第1の層310および第2の層320を1000層以上積層した場合には、ステップS220後に基板440から剥離することにより、バルク状の熱電変換材料100が得られ、それを粉砕することにより、粉末状の熱電変換材料100が得られる。
【0057】
ステップS220において、好ましくは、積層体300を373K以上623K以下の温度範囲で、真空中または不活性ガス雰囲気中で加熱する。例示的な真空度は、高真空または超高真空の範囲であればよく、1×10
−8Pa以上1×10
−1Pa以下の範囲であるが、1×10
−5Pa以上1×10
−1Pa以下の高真空であれば、通常の真空装置を使用できるため好ましい。不活性ガス雰囲気は、上述した不活性ガスを使用できる。これにより、M1、M2が拡散し、M1、M2およびSiを含有するアモルファス母体110が形成し、その中にM1およびM2を含有する結晶粒120が分散した熱電変換材料100が効率的に得られる。さらに好ましくは、積層体300を423K以上523K以下の温度範囲で加熱する。これにより、本発明の熱電変換材料100の製造が促進される。
【0058】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明の熱電変換材料を用いた熱電変換素子について説明する。
【0059】
図5は、本発明の熱電変換素子を示す模式図である。
【0060】
図5は、本発明の熱電変換材料が薄膜形態である場合の熱電変換素子500を示す。本発明による熱電変換素子500は、少なくとも本発明の熱電変換材料を備る。ここでは、分かりやすさのために、本発明の熱電変換材料が、M1がMgであり、M2がSnである場合の、Mg、SiおよびSnを含有するアモルファス母体110中にMg
2Snで表される結晶粒120が分散した、p型であり、薄膜熱電変換材料であるものとして説明する。
【0061】
詳細には、本発明による熱電発電素子500は、一対のp型熱電変換材料520およびn型熱電変換材料530、ならびに、これらのそれぞれの端部に電極540を含む。電極540により、p型薄膜熱電変換材料520およびn型薄膜熱電変換材料530は、電気的に直列に接続される。これら、一対のp型薄膜熱電変換材料520およびn型薄膜熱電変換材料530、ならびに、電極540は、基板510上に位置する。基板510は、上述したように、フレキシブル高分子基板、ガラス基板、金属基板、セラミック基板、および、半導体基板からなる群から選択される。基板510がフレキシブル高分子基板であれば、熱電変換素子500は、フレキシブルなシート型熱電変換素子となり得る。
【0062】
ここで、p型薄膜熱電変換材料520は、M1がMgであり、M2がSnである場合の本発明の薄膜熱電変換材料である。n型薄膜熱電変換材料530は、特に制限はないが、例示的には、カーボンナノチューブ、フラーレン、Bi
2(Se,Te)
3、PbTe、SiGe、GaP、Gd
2Se
3、FeSi
2等が挙げられる。これらの材料は、n型熱電変換材料として知られており、薄膜の形態をとり得る。あるいは、n型薄膜熱電変換材料530として、本発明のn型を示す薄膜熱電変換材料(例えば、M1がMgであり、M2がSnであり、ドーパントしてSbを含む)を用いてもよい。
【0063】
電極540は、通常の電極材料であり得るが、例示的には、Al、Ni、Cu、Pt、酸化インジウムスズ(ITO)等である。
【0064】
電極540の一方が高温側、電極540のもう一方が低温側となるような環境に、本発明の熱電変換素子500を設置して、端部の電極を電気回路等に接続すると、ゼーベック効果によって電圧が発生し、電極540の一方、n型薄膜熱電変換材料530、電極540のもう一方、p型薄膜熱電変換材料520の順で電流が流れる。詳細には、n型熱電変換材料530内の電子が、高温側の電極540から熱エネルギーを得て、低温側の電極540へ移動し、そこで熱エネルギーを放出し、それに対して、p型薄膜熱電変換材料520の正孔が高温側の電極540から熱エネルギーを得て、低温側の電極540へ移動して、そこで熱エネルギーを放出するという原理によって電流が流れる。
【0065】
本発明では、p型薄膜熱電変換材料520として実施の形態1で説明した本発明の熱電変換材料100のうち、M1がMgであり、M2がSnであるものを用いるので、フレキシブルで素子の曲げにも追随する熱電変換素子500を実現できる。また、本発明の熱電変換材料を用いれば、とりわけ200℃以下の低温領域において高い熱電性能にも優れるため、体温および廃熱を利用したウェアラブルデバイスおよびIoT電源としてフレキシブル熱電変換素子を提供できる。
【0066】
このように、本発明の熱電変換素子は、好ましくは、本発明の熱電変換材料(
図5ではp型熱電変換材料)と、それとは伝導型の異なる熱電変換材料(
図5ではn型熱電変換材料)とを備え、交互に直列に接続され得る。
【0067】
図5では、π型の熱電変換素子を用いて説明したが、本発明の熱電変換材料は、U字型熱電変換素子(図示せず)に用いてもよい。この場合も同様に、本発明の熱電変換材料からなるn型熱電変換材料およびp型熱電変換材料が、交互に電気的に直列に接続されて構成される。
【0068】
図5では、n型薄膜熱電変換材料530を用いて説明してきたが、n型薄膜熱電変換材料530に代えて、金属材料や別のp型薄膜熱電変換材料を用いてもよい。例えば、n型薄膜熱電変換材料530に代えて金属材料を用いる場合、金属材料は電極540と同様の材料であってよい。n型薄膜熱電変換材料530に代えてp型薄膜熱電変換材料を用いる場合、p型薄膜熱電変換材料520に用いた本発明の熱電変換材料のゼーベック係数と異なるゼーベック係数、好ましくはより小さなゼーベック係数を有する別の本発明の熱電変換材料を採用できる。このような構成であっても、上述のように熱エネルギーを電気に効率的に変えることができる。
【0069】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0070】
[実施例1]
実施例1では、M1がMgであり、Mg
2Siで表されるターゲットと、M2がSnであるターゲットを用いて、スパッタリング法により積層体を得、熱処理を行い、本発明の熱電変換材料を製造した(
図2のステップS210およびS220)。
【0071】
コンビナトリアル・スパッタ・コーティング・システム(COSCOS)(例えば、コンバーテック2008.3を参照)を用いた。COSCOSは、外部制御装置を備えており、基板ホルダーの回転制御、真空排気システム、スパッタガス圧、基板温度、バイアス電圧、ターゲット−基板間距離、シャッターの開閉等を自動制御した。
【0072】
COSCOSの真空チャンバには、Mg
2Siからなるターゲット(直径:50mm、厚さ:6mm、高純度化学社製)、および、Snからなるターゲット(直径:50mm、厚さ:6mm、高純度化学社製)を設置した。
【0073】
基板には熱電特性評価(アルミナ(Al
2O
3)コート)基板(サイズ:10mm×10mm×0.3mm、LINSEIS社製)およびフレキシブル高分子基板としてポリイミドであるカプトンフィルム(登録商標)(サイズ:25mm×16mm×0.5mm)を用い、洗浄し、基板ホルダー(最大14枚設置可能)に設置した。ターゲット−基板間距離は55mmに固定した。真空チャンバにはArガス(純度99.999%以上)が接続され、水晶振動子膜厚計(QCM)により、膜厚をモニタリングした。表1に示す実験条件を外部制御装置に登録し、全自動により積層体を製造した。
【0074】
得られた積層体を、表1に示すように、真空中(真空度:1×10
−4Pa)で473Kの温度で2時間熱処理した。
【0075】
このようにして得られた薄膜試料を観察した。観察結果を
図6に示す。薄膜試料の断面の様子を、エネルギー分散型X線分光(EDX)を備えた透過型電子顕微鏡(TEM、JEM−2100F、日本電子株式会社製)を用いて観察し、元素分析を行った。結果を
図8〜
図11および表2に示す。
【0076】
薄膜試料の熱電特性を一体型熱電性能評価装置(LINSEIS社)により測定した。結果を
図12〜
図18および表3に示す。
【0077】
[比較例1]
比較例1では、表1に示すように、熱処理を行わない以外は、実施例1と同様であった。実施例1と同様に、断面の様子を観察し、熱電特性を測定した。結果を
図7、
図12〜
図18、表2および表3に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
以上の結果をまとめて説明する。
図6は、実施例1の薄膜(基板はカプトンフィルム)の様子を示す図である。
【0080】
図6に示されるように、実施例1で得られた薄膜は、折り曲げても剥離せず、フレキシビリティに優れていることが分かった。
【0081】
図7は、比較例1の薄膜の断面のTEM像を示す図である。
図8は、実施例1の薄膜の断面のTEM像を示す図である。
【0082】
図7に示されるように、熱処理をしていない比較例1の薄膜は、積層による層状の様態を示し、積層体(超格子)であることが分かる。比較例1の薄膜は、
図2のステップS210後の積層体300(
図3)に相当し得る。一方、
図8に示されるように、熱処理をした実施例1の薄膜は、層状の様態を示さず、均一であった。このことから、積層体への熱処理により構造変化が生じていることが分かった。
【0083】
図9は、実施例1の薄膜の断面の種々の倍率のTEM像を示す図である。
【0084】
図9(A)および(B)によれば、熱処理後の実施例1の薄膜は、全体に均一な構造を示す。
図9(C)によれば、縞状を示す部分が分散して示される。
図9(D)は、
図9(C)の縞状の部分を拡大して示す。縞状の部分は結晶粒であり、結晶粒100点の粒径の平均粒径は、20nmであった。このことから、実施例1の薄膜は、熱処理によって、アモルファス母体と、そこに分散した結晶粒とを含有した複合体であることが分かった。
【0085】
図10は、実施例1の薄膜のHADDF−STEM像およびEDXマッピングを示す図である。
【0086】
実施例1の薄膜の断面のアモルファス母体100nmにわたって、Mg、SiおよびSnの各元素をカウントした。
図10ではグレースケールで示すが、明るく示される部分にMg、SiおよびSnの各元素が存在することを示す。このことから、実施例1の薄膜中のアモルファス母体は、Mg、SiおよびSnを含有することが分かった。
【0087】
表2に示すように、100nmの抽出方向にわたって、Mg、SiおよびSnの元素が検出され、それぞれの平均原子パーセントは、55原子%(Mg)、35原子%(Si)および10原子%(Sn)であった。すなわち、アモルファス母体中のMg、SiおよびSnは、それぞれ、原子%で、
50≦Mg≦60、
30≦Si≦40、および、
5≦Sn≦15
を満たすことを確認した。
【0088】
図11は、実施例1の薄膜中の異なる4つの結晶粒の極微電子線回折像を示す図である。
【0089】
立方晶(空間群Fm3−m)であるMg
2SnのPDF#00−007−0247(PDFカード)を用いて、電子線入射方向[−5−6−9]と[112]との場合のd値および面角度を算出した。
【0090】
point1−1は、電子線入射方向[−5−6−9]で入射した場合の電子線回折像であり、図中のスポット1〜3についてd値および面角度を求めたところ、PDFカードから算出される値と良好に一致した。
【0091】
point1−2〜1−4は、電子線入射方向[112]で入射した場合の電子線回折像であり、各図中のスポット1〜3についてd値および面角度を求めたところ、PDFカードから算出される値と良好に一致した。
【0092】
このことから、実施例1の薄膜中の結晶粒は、Mg
2Snで表され、立方晶系の結晶構造を有し、空間群Fm3−mの対称性を有することが分かった。
【0093】
図9等の実施例1の薄膜の断面のTEM像から算出した結晶粒の含有量(体積比)を求めた。結晶粒の体積比は、アモルファス母体の面積に対する結晶粒の面積から算出した。表2に示すように、結晶粒の含有量(体積比)は、60と算出され、50以上70以下の範囲を満たすことを確認した。
【0094】
【表2】
【0095】
図12は、実施例1および比較例1の薄膜のゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
図13は、実施例1および比較例1の薄膜の電気伝導率の温度依存性を示す図である。
図14は、実施例1および比較例1の薄膜のキャリア濃度の温度依存性を示す図である。
図15は、実施例1および比較例1の薄膜の移動度の温度依存性を示す図である。
【0096】
図12によれば、驚くべきことに、実施例1の薄膜のゼーベック係数は、正の値を有し、比較例1のそれに比べて、顕著に増大した。
図13によれば、実施例1の薄膜の電気伝導率は、比較例1のそれに比べて、低下した。
図14によれば、実施例1の薄膜のキャリア濃度は、比較例1のそれに比べて、低下した。
図15によれば、実施例1の薄膜の移動度は、室温近傍では増大したものの、温度の上昇に伴い低下する傾向を示した。実施例1の薄膜のゼーベック係数の増大は、熱処理により、Mg
2Snの結晶粒の生成と、キャリア濃度の低下とによるものと考える。
【0097】
以上より、本発明のMg、SiおよびSnを含有するアモルファス母体と、その中に分散して位置するMg
2Sn結晶粒とを含有する複合体は、p型熱電変換材料として機能することが分かった。周知の熱電変換材料であるMg
2Si系バルクでは、温度の上昇にともない、ゼーベック係数は増加し、電気伝導率が低下することが知られているが、本発明の熱電変換材料は、ゼーベック係数も電気伝導率も、温度の上昇にともない増加しており、周知の熱電変換材料とは機構が異なることを示唆する。
【0098】
図16は、実施例1および比較例1の薄膜の比熱の温度依存性を示す図である。
図17は、実施例1および比較例1の薄膜の熱伝導率の温度依存性を示す図である。
図18は、実施例1および比較例1の薄膜の性能指数ZTの温度依存性を示す図である。
【0099】
図16によれば、実施例1の薄膜の比熱は、比較例1のそれに比べて、低下した。これは、結晶粒の生成や膜組成の違いによる。
図17によれば、実施例1の薄膜の熱伝導率は、比較例1のそれに比べて、増大した。これは、フォノンが支配的に寄与したためと考える。しかしながら、実施例1の薄膜の熱伝導率は、比較例1のそれよりも増大したものの、Mg
2Si系に比べて、極めて低いことが分かった。これは、本発明の熱電変換材料が、アモルファス母体と結晶粒との共存の効果による考えられる。
【0100】
図18によれば、実施例1の薄膜のZTは、比較例1のそれよりも顕著に大きくなっており、323Kにおいて0.022であった。この値は、薄膜の中でもっとも大きな値であり、驚くべきことに、Mg
2Si系のバルクの値と同等であった。これらの結果をまとめて表3に示す。
【0101】
【表3】