【課題】本発明の目的は、上記問題を解決し、皮膜形成成分としてアクリル樹脂を含み、優れた毛羽発生の抑制効果と共に、低温条件でも優れたヒートクリーニング性を付与できるガラス長繊維用集束剤を提供することである。
表面に(A)アクリル樹脂と、(B)油脂と、(C)カチオン化セルロース及び/又はポリオキシエチレンアルキルエーテルとを含む皮膜が形成されているガラス長繊維を含む、ガラスヤーン。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.ガラス長繊維用集束剤
本発明のガラス長繊維用集束剤は、(A)アクリル樹脂と、(B)油脂と、(C)カチオン化セルロース及び/又はポリオキシエチレンアルキルエーテルとを含むことを特徴とする。本発明のガラス長繊維用集束剤では、前記3つの成分を一体として含むことにより、優れた毛羽発生の抑制効果を奏することが可能になると共に、400℃未満の低温条件でのヒートクリーニング性も良好であり、高温でのヒートクリーニング処理による強度低下を回避することが可能になっている。以下、本発明のガラス長繊維用集束剤について詳述する。
【0022】
なお、本明細書において、「ヒートクリーニング性」とは、ガラスヤーンに付着している不揮発性有機成分(ガラス長繊維用集束剤等に由来する不揮発性有機成分)をヒートクリーニング処理によって除去できる性能を意味する。
【0023】
[(A)アクリル樹脂]
本発明のガラス長繊維用集束剤は、皮膜形成成分としてアクリル樹脂(単に「(A)成分」と表記することもある)を含む。本発明で使用されるアクリル樹脂は、水中でエマルジョンを形成できるものであることが好ましい。
【0024】
アクリル樹脂は、重合性単量体として(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸誘導体を使用して重合させることにより得られるポリマーである。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の双方を含む化合物名である。
【0025】
(メタ)アクリル酸としては、具体的には、アクリル酸及びメタクリル酸が挙げられる。
【0026】
(メタ)アクリル酸誘導体としては、ラジカル重合が可能であればよく、例えば、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルプロピオン酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、及びこれらの塩等のカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、β−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有(メタ)アクリル酸系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸系単量体;アミノエチル(メタ)アクリレート、N−モノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸系単量体;2−アジリジニルエチル(メタ)アクリレート等のアジリジニル基含有(メタ)アクリル酸系単量体;アリル(メタ)アクリレート等のアリル基含有(メタ)アクリル酸系単量体;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等のシクロペンテニル基含有(メタ)アクリル酸系単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン等のジ(メタ)アクリル酸系単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のメチロールアミド基又はそのアルコキシ化物含有(メタ)アクリル酸系単量体;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン等のシリル基含有(メタ)アクリル酸系単量体;(メタ)アクリロイルイソシアナート、(メタ)アクリロイルイソシアナートエチルのフェノール又はメチルエチルケトオキシム付加物等のイソシアネート基及び/又はブロック化イソシアネート基含有(メタ)アクリル酸系単量体;(メタ)アクリルアミド、N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有(メタ)アクリル酸系単量体;ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のカルボニル基含有(メタ)アクリル酸系単量体;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセチル基含有(メタ)アクリル酸系単量体等が挙げられる。
【0027】
本発明で使用されるアクリル樹脂において、重合性単量体として(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体の中の1種が単独で使用されていてもよく、またこれらの中の2種以上が組み合わされて使用されていてもよい。
【0028】
本発明で使用されるアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体の中の1種のみを重合させたホモポリマーであってもよく、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体の中の2種以上を重合させたコポリマー、又は(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体の中の1種以上と、その他の重合性単量体1種以上とを重合させたコポリマーであってもよい。
【0029】
アクリル樹脂が、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸誘導体とその他の重合性単量体とのコポリマーである場合、当該その他の重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸誘導体と共重合が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、これらのハーフエステル、及びこれらの塩;不飽和ジカルボン酸系重合性単量体;アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有重合性単量体;ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩等のシリル基含有重合性単量体;2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基含有重合性単量体;アクロレイン等のカルボニル基含有重合性単量体;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等のビニルスルホン酸系重合性単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチラート、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル系重合性単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル系重合性単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、α−ハロスチレン、ビニルナフタリン、ジビニルスチレン等の芳香族ビニル化合物系重合性単量体;イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、エチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。これらの重合性単量体は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明のガラス長繊維用集束剤において、アクリル樹脂は、1種のものを単独で使用してもよく、2種以上のものを組み合わせて使用してもよい。
【0031】
本発明で使用するアクリル樹脂の平均粒子径(メジアン径)については、特に制限されないが、例えば、100〜1500nm程度が挙げられる。アクリル樹脂の平均粒子径がかかる範囲であれば、皮膜形成時における皮膜の乾燥性を良好にすることができる。本発明において、アクリル樹脂の平均粒子径は、動的光散乱光度計(大塚電子製LPAシステム;ELSZ-2000ZS)によって次の条件で測定される値である。樹脂エマルションを測定可能な濃度まで蒸留水で希釈した後、四面透過型10mm角セルに満たし、25℃の条件でHe−Neレーザーを照射し測定を行い、数平均粒子径値を求める。
【0032】
また、本発明で使用するアクリル樹脂の分子量としては、特に制限されないが、例えば、GPC法によるポリスチレン換算値により求めた重量平均分子量が、1千〜100万、好ましくは2千〜50万、より好ましくは10万〜50万が挙げられる。本発明において、アクリル樹脂の重量平均分子量は、以下の条件で測定される値である。
GPC装置:株式会社島津製作所製のProminence
カラム:SHODEX KF−800P,KF−005,KF−003,KF−001(4本直列して使用)
移動相:テトラヒドロフラン
流量:1mL/分
カラムオーブン温度:40℃
検出器:RI
分子量換算:標準ポリスチレン
【0033】
また、本発明で使用するアクリル樹脂において、TGA(熱重量分析)における330℃の重量減少率については、特に制限されないが、例えば、95質量%以上、好ましくは98.0〜99.9質量%が挙げられる。本発明において、アクリル樹脂のTGA(熱重量分析)における330℃の重量減少率は、アクリル樹脂を温度110℃で60分間熱処理して乾燥状態にした後に室温に戻して10〜30mgに秤量したものを測定サンプルとし、TGA測定にて、10℃/分の昇温速度で昇温させ、330℃に到達した時点での重量を測定することにより、重量の減少率を算出することによって求められる値である。
【0034】
本発明のガラス長繊維用集束剤において、アクリル樹脂は、エマルジョンの状態で含まれていることが望ましい。アクリル樹脂のエマルジョンは、公知の手法によって得ることができる。アクリル樹脂のエマルジョンの製造方法としては、例えば、(i)水、重合性単量体、乳化剤、重合開始剤等を一括混合して重合する方法;(ii)水、重合性単量体、乳化剤を予め混合したプレエマルジョンを滴下するプレエマルジョン法;或は(iii)シード樹脂を仕込んだ反応容器に、重合性単量体、重合開始剤等を滴下するモノマー滴下法等が挙げられる。
【0035】
アクリル樹脂のエマルジョンに添加される乳化剤の種類については、特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤が挙げられる。また、アクリル樹脂のエマルジョンに添加される重合開始剤の種類については、特に制限されないが、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が挙げられる。
【0036】
本発明で使用されるアクリル樹脂のエマルジョンの好適な一態様として、水、重合性単量体として(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸誘導体、乳化剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤、重合開始剤として過硫酸塩を混合した液を加熱することにより製造されたものが挙げられる。
【0037】
本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発成分の総質量100質量部に対する(A)成分の質量の割合としては、例えば、10〜80質量部、好ましくは10〜50質量部、更に好ましくは15〜40質量部が挙げられる。なお、本発明において、「不揮発成分」とは、常圧下、110℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0038】
また、本発明のガラス長繊維用集束剤における(A)成分の濃度としては、例えば、0.5〜1.0質量%、好ましくは0.6〜0.9質量%、更に好ましくは0.7〜0.9質量%が挙げられる。
【0039】
[(B)油脂]
本発明のガラス長繊維用集束剤は油脂(単に「(B)成分」と表記することもある)を含む。油脂は、主にガラス繊維間の潤滑成分として機能することにより、ガラスヤーンに柔軟性を付与し、優れた毛羽発生の抑制効果を具備させる役割を担う。
【0040】
本発明で使用される油脂の種類については、特に制限されないが、例えば、動物油、植物油、高級脂肪酸のエステル、炭化水素油等が挙げられる。
【0041】
動物油としては、具体的には、牛脂、牛脂、豚脂、馬油、ミンク油、魚油、卵黄油、及びこれらの硬化油(水素添加物)等が挙げられる。
【0042】
植物油としては、具体的には、ダイズ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、米胚芽油、サフラワー油、綿実油、ヤシ油、アーモンド油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、アボカド油、ツバキ油、パーシック油、カルナバロウ、キャンデリラロウ、ヒマシ油、ホホバ油、カカオ脂、ククイナッツ油、シアバター、月見草油、シソ油、茶実油、パーム核油、パーム油、ピーナッツ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、メドウホーム油、及びこれらの硬化油等が挙げられる。
【0043】
高級脂肪酸のエステルとしては、例えば、炭素数12〜22の高級脂肪酸と炭素数1〜22の1価アルコールとのエステル、好ましくは炭素数16〜22の高級飽和脂肪酸と炭素数1〜10の1価アルコールとのエステル、より好ましくは炭素数16〜22の高級飽和脂肪酸と炭素数1〜6の1価アルコールとのエステルが挙げられる。高級脂肪酸のエステルとして、具体的には、ステアリン酸ドデシル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。
【0044】
炭化水素油としては、具体的には、パラフィンワックス、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャトロプスワックス等が挙げられる。
【0045】
これらの油脂の中でも、好ましくは高級脂肪酸のエステル及び炭化水素油が挙げられる。
【0046】
本発明のガラス長繊維用集束剤において、油脂は、1種のものを単独で使用してもよく、2種以上のものを組み合わせて使用してもよい。
【0047】
本発明のガラス長繊維用集束剤において、油脂は、乳化状態で含まれていることが望ましい。油脂の乳化は、乳化剤等を使用して公知の手法によって行うことができる。
【0048】
本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発成分の総質量100質量部に対する(B)成分の質量の割合としては、例えば、20〜80質量部、好ましくは50〜80質量部、更に好ましくは50〜70質量部が挙げられる。
【0049】
本発明のガラス長繊維用集束剤において、(A)成分に対する(B)成分の比率については、特に制限されないが、例えば、(A)成分100質量部当たり、(B)成分が150〜300質量部、好ましくは220〜300質量部が挙げられる。
【0050】
また、本発明のガラス長繊維用集束剤における(B)成分の濃度としては、例えば、1.0〜3.0質量%、好ましくは1.5〜2.5質量%、更に好ましくは1.8〜2.2質量%が挙げられる。
【0051】
[(C)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はカチオン化セルロース]
本発明のガラス長繊維用集束剤はポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はカチオン化セルロース(単に、「(C)成分」と表記することがある)を含む。本発明において、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はカチオン化セルロースは、主にガラス繊維間の潤滑成分として機能することにより、ガラスヤーンに柔軟性を付与し、優れた毛羽発生の抑制効果を具備させると共に、400℃未満という低温条件でのヒートクリーニング性を良好にする役割を果たす。
【0052】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとは、ポリオキシエチレン鎖とアルキル基がエーテル結合している化合物である。本発明で使用されるポリオキシエチレンアルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素数としては、例えば、6〜30、好ましくは12〜24が挙げられる。また、本発明で使用されるポリオキシエチレンアルキルエーテルにおけるエチレンオキサイドの付加モル数としては、例えば、1〜60、好ましくは3〜50が挙げられる。
【0053】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして具体的には、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が挙げられる。
【0054】
カチオン化セルロースとは、変性により正電荷を有する基を導入したセルロースをいう。変性はセルロースのグルコース残基における水酸基に対して行われることが好ましく、かかる変性により例えばエステル結合又はエーテル結合を介して正電荷を有する基を導入することができる。カチオン化セルロースとしては、例えば、変性により水中でアンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン等のオニウムイオン(正電荷)を呈する基を導入したセルロースが挙げられ、好ましくは水中でアンモニウムイオンを呈する基を導入したセルロースが挙げられる。なお、カチオン化セルロースは、負電荷を有する原子又は分子と塩を形成していてもよい。また、カチオン化セルロースは、本発明における溶媒に対して溶解性を示すものであればよく、変性度や分子量等は特に制限されない。
【0055】
本発明で使用されるカチオン化セルロースの好適な例として、第4級アンモニウム基を有するヒドロキシアルキルセルロースが挙げられる。第4級アンモニウム基を有するヒドロキシアルキルセルロースとしては、具体的には、塩化O−(2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル)ヒドロキシエチルセルロース、塩化O−(2−ヒドロキシ−3−(ラウリルジメチルアンモニオ)プロピル)ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは塩化O−(2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル)ヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。
【0056】
本発明のガラス長繊維集束剤では、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びカチオン化セルロースの中の1種を単独で含んでいてもよく、また、これらの中の2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0057】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びカチオン化セルロースの中でも、毛羽発生の抑制効果と低温条件でのヒートクリーニング性とをより一層向上させるという観点から、好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられる。
【0058】
(C)成分としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む場合、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発成分の総質量100質量部に対するポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量の割合としては、例えば、1〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、更に好ましくは2〜6質量部が挙げられる。
【0059】
(C)成分としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む場合、(A)成分に対するポリオキシエチレンアルキルエーテルの比率としては、例えば、(A)成分100質量部当たり、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが10〜50質量部、好ましくは10〜20質量部が挙げられる。
【0060】
また、(C)成分としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む場合、本発明のガラス長繊維用集束剤におけるポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度としては、例えば、0.1〜0.4質量%、好ましくは0.1〜0.3質量%、更に好ましくは0.1〜0.2質量%が挙げられる。
【0061】
(C)成分としてカチオン化セルロースを含む場合、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発成分の総質量100質量部に対するカチオン化セルロースの質量の割合としては、例えば、0.1〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部、更に好ましくは0.2〜0.8質量部が挙げられる。
【0062】
(C)成分としてカチオン化セルロースを含む場合、(A)成分に対するカチオン化セルロースの比率としては、例えば、(A)成分100質量部当たり、カチオン化セルロースが2〜8質量部、好ましくは2〜5質量部が挙げられる。
【0063】
また、(C)成分としてカチオン化セルロースを含む場合、本発明のガラス長繊維用集束剤におけるカチオン化セルロースの濃度としては、例えば、0.01〜0.05質量%、好ましくは0.01〜0.04質量%、更に好ましくは0.01〜0.03質量%が挙げられる。
【0064】
[(A)〜(C)成分の総量]
本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発成分の総質量100質量部に対する(A)〜(C)成分の総量((A)〜(C)成分の含有量の合計)の割合としては、例えば、50質量部以上、好ましくは60質量部以上が挙げられる。また、当該割合の上限値としては、例えば、100質量部、99質量部、95質量部、又は80質量部が挙げられる。
【0065】
[(A)〜(C)成分以外の不揮発性成分]
本発明のガラス繊維集束剤は、(A)〜(C)成分に加えて、本発明の効果を奏する範囲で、その他の不揮発性成分を含有することができる。
【0066】
本発明のガラス繊維集束剤に配合できる不揮発性成分として、例えば、柔軟剤成分が挙げられる。柔軟剤成分としては、例えば、ポリアミド誘導体、脂肪酸アミド誘導体、アルキルアミド誘導体、アミノ変性シリコン誘導体、ポリアミン誘導体等が挙げられる。これらの柔軟剤成分の中でも、好ましくはアルキルアミド誘導体が挙げられる。
【0067】
アルキルアミド誘導体としては、例えば、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。一般式(1)中、R
1は、直鎖状又は分岐状のアルキル基又はアルケニル基を示す。R
1はアルキル基又はアルケニル基の炭素数としては、例えば、7〜23、好ましくは10〜18、更に好ましくは12〜16が挙げられる。また、一般式(1)中、R
2は、メチル基、エチル基、ヒドロキシメチル基、又はヒドロキシエチル基を示す。
【化1】
【0068】
本発明のガラス繊維集束剤に柔軟剤成分を含有させる場合、発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発成分の総質量100質量部に対する柔軟剤成分の質量の割合としては、例えば、1〜12質量部、好ましくは3〜6質量部が挙げられる。
【0069】
また、本発明のガラス繊維集束剤に柔軟剤成分を含有させる場合、本発明のガラス長繊維用集束剤における柔軟剤成分の濃度としては、例えば、0.03〜0.3質量%、好ましくは0.05〜0.2質量%、更に好ましくは0.1〜0.2質量%が挙げられる。
【0070】
本発明のガラス繊維集束剤に配合できる不揮発性成分の他の例として、ポリエチレングリコールが挙げられる。ポリエチレングリコールを含む場合には、毛羽発生の抑制効果と低温条件でのヒートクリーニング性とをより一層向上させることが可能になる。
【0071】
本発明で使用されるポリエチレングリコールの平均分子量については、特に制限されないが、例えば、GPC法によるポリスチレン換算値により求めた重量平均分子量として、100〜1000、好ましくは200〜500が挙げられる。
【0072】
本発明のガラス繊維集束剤にポリエチレングリコールを含有させる場合、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発成分の総質量100質量部に対するポリエチレングリコールの質量の割合としては、例えば、15〜25質量部が挙げられる。
【0073】
また、本発明のガラス繊維集束剤にポリエチレングリコールを含有させる場合、本発明のガラス長繊維用集束剤におけるポリエチレングリコールの濃度としては、例えば、0.5〜0.8質量%、好ましくは0.6〜0.8質量%、更に好ましくは0.7〜0.8質量%が挙げられる。
【0074】
更に、本発明のガラス長繊維用集束剤は、前記アクリル樹脂や油脂を乳化状態にするために、前述する不揮発性成分の他に、乳化剤を含んでいることが望ましい。本発明のガラス長繊維用集束剤における乳化剤の濃度については、使用する乳化剤の種類に応じて、前記アクリル樹脂や油脂を乳化状態にできる範囲で適宜設定すればよい。
【0075】
本発明のガラス長繊維用集束剤において、(A)〜(C)成分以外の不揮発性成分を含有させる場合、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発成分の総質量100質量部に対して、(A)〜(C)成分以外の不揮発性成分の総量((A)〜(C)成分以外の不揮発性成分の合計量)の割合が、例えば、40質量部以下、好ましくは10〜40質量部、更に好ましくは20〜40質量部が挙げられる。
【0076】
[不揮発性成分の総濃度]
本発明のガラス長繊維用集束剤において、不揮発成分の総濃度((A)〜(C)成分、及びその他の不揮発性成分の合計濃度)としては、例えば、2.5〜4.5質量%、好ましくは3.0〜4.0質量%が挙げられる。
【0077】
[水性溶媒(揮発性成分)]
本発明のガラス長繊維用集束剤は、基剤として水性溶媒(揮発性成分)を含有する。水性媒体の種類については、特に制限されないが、例えば、水、水溶性有機溶媒、及びこれらの混用溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール類、N−メチルピロリドン等の極性溶媒が挙げられる。
【0078】
本発明のガラス長繊維用集束剤における水性溶媒の濃度は、不揮発性成分を除く残部を占めていればよい。
【0079】
[製造方法]
本発明のガラス長繊維用集束剤は、(A)〜(C)成分、必要に応じて配合される他の不揮発性成分、及び水性溶媒を所定量混合することにより得ることができる。また、(A)成分としてアクリル樹脂エマルジョン、及び(B)成分として乳化油脂をあらかじめ準備しておき、アクリル樹脂エマルジョン及び乳化油脂を他の成分と混合することにより、乳化形態のガラス長繊維用集束剤を簡便に得ることができる。
【0080】
[使用方法]
本発明のガラス長繊維用集束剤は、ガラス長繊維を集束させてガラスヤーン(ガラス繊維束)を調製するために使用される。本発明のガラス長繊維用集束剤で処理されたガラス長繊維は、不揮発性成分によって表面が皮膜で被覆された状態になる。
【0081】
本発明のガラス長繊維用集束剤の処理対象となるガラス長繊維の種類については、特に制限されないが、例えば、Eガラス、Tガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Cガラス、Hガラス、ARGガラス、石英ガラス等が挙げられる。これらの中でも、低温条件でのヒートクリーニング性をより一層向上させるという観点から、好ましくはEガラスが挙げられる。本発明において、Eガラスとは、具体的には、SiO
2が52〜56質量%、Al
2O
3が12〜16質量%、CaO+MgOが20〜25質量%、B
2O
3が5〜10質量%を含むガラス組成物からなるガラス素材である。
【0082】
また、本発明のガラス長繊維用集束剤の処理対象となるガラス長繊維の他の好適な例として、低誘電性を有するガラス長繊維が挙げられる。低誘電性を有するガラス長繊維を構成するガラス組成物としては、例えば、SiO
2が45〜60質量%、B
2O
3が15〜35質量%、Al
2O
3が10〜20質量%を含む、ガラス組成が挙げられる。低誘電性を有するガラス長繊維の好適な例として、周波数1MHzにおける誘電率が5.0未満であるガラス組成物が挙げられ、より具体的には、SiO
2が50〜56質量%、B
2O
3が20〜30質量%、Al
2O
3が10〜20質量%を含むガラス組成物が挙げられる。なお、本明細書において、「誘電率」とは真空の誘電率との比である比誘電率を指す。また、本明細書において、「周波数1MHzにおける誘電率」は、ASTM D150−87に準拠して、測定温度を20℃に設定して測定される値である。
【0083】
本発明のガラス長繊維用集束剤の処理対象となるガラス長繊維の繊維径については、特に制限されないが、毛羽発生の抑制効果と低温条件でのヒートクリーニング性とをより有効に発揮させるという観点から、好ましくは2〜5μm、更に好ましくは2〜4.5μmが挙げられる。
【0084】
本発明のガラス長繊維用集束剤の処理対象となるガラス長繊維の番手については、特に制限されないが、毛羽発生の抑制効果と低温条件でのヒートクリーニング性とをより有効に発揮させるという観点から、好ましくは1〜12tex、更に好ましくは1〜5tex、特に好ましくは1〜3texが挙げられる。
【0085】
本発明のガラス長繊維用集束剤を用いて1本のガラスヤーンに集束させるガラス長繊維のフィラメント数については、特に制限されないが、例えば、40〜400、好ましくは40〜200、更に好ましくは40〜100が挙げられる。
【0086】
本発明のガラス長繊維用集束剤を用いてガラス長繊維を処理してガラスヤーンを調製するには、ガラス長繊維に本発明のガラス長繊維用集束剤を塗布して集束し、乾燥すればよい。本発明のガラス長繊維用集束剤をガラス長繊維に塗布するには、例えば、ローラー型やベルト型のアプリケーター、スプレー等を使用すればよい。また、本発明のガラス長繊維用集束剤が塗布されたガラス長繊維を集束するには、公知の集束機を使用すればよい。また、集束後の乾燥は、例えば、室温〜150℃の範囲の温度条件で行えばよい。斯くして、本発明のガラス長繊維用集束剤をガラス長繊維に塗布して集束した後に乾燥することにより、水性溶媒等の揮発成分が除去され、ガラス長繊維の表面に本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる不揮発性成分による皮膜が形成されたガラスヤーンが得られる。斯くして得られたガラスヤーンは、必要に応じて、撚糸機で撚りをかけて、ガラスクロスの原料糸として使用できる。
【0087】
本発明のガラス長繊維用集束剤を処理対象となるガラス長繊維に付着させる量については、毛羽発生の抑制効果が有効に奏される範囲内になるように適宜設定すればよく、例えば、集束されたガラスヤーンの強熱減量が0.3〜2.0質量%、好ましくは0.3〜1.2質量%となる範囲内で設定すればよい。ガラスヤーンの強熱減量は、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる不揮発性成分の付着量に実質的に相当しており、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.3.2 強熱減量」に規定されている方法に従って測定される値である。
【0088】
2.ガラスヤーン
本発明のガラスヤーンは、表面に(A)アクリル樹脂と、(B)油脂と、(C)カチオン化セルロース及び/又はポリオキシエチレンアルキルエーテルとを含む皮膜が形成されているガラス長繊維を含むことを特徴とする。
【0089】
本発明のガラスヤーンは、前記ガラス長繊維用集束剤でガラス長繊維を処理することにより得ることができる。本発明のガラスヤーンにおいて、使用するガラス長繊維の種類、繊維径、番手等については、前記「1.ガラス長繊維用集束剤」の欄に記載の通りである。また、ガラス長繊維上に形成されている皮膜の量は、前記「1.ガラス長繊維用集束剤」の欄で記載する強熱減量と同様である。また、ガラス長繊維上に形成されている皮膜に含まれる(A)アクリル樹脂、(B)油脂、並びに(C)カチオン化セルロース及び/又はポリオキシエチレンアルキルエーテルの種類、当該皮膜に含まれ得るその他の不揮発性成分の種類、当該皮膜の組成等についても、前記「1.ガラス長繊維用集束剤」の欄で記載する各非揮発性成分の種類やそれらの組成と同様である。
【0090】
3.ガラスクロス
本発明のガラスクロスは、前記ガラスヤーンを原料糸として使用して製織した後にヒートクリーニング処理することにより得られる。本発明のガラスクロスは、(A)アクリル樹脂、(B)油脂、並びに(C)カチオン化セルロース及び/又はポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む皮膜が形成されているガラスヤーンを用いて製造されるため、製造時のヒートクリーニング処理において400℃未満という低温条件を採用でき、その結果、ヒートクリーニング処理によるガラスクロスの引張強度等の低下を抑制して、優れた引張強度を具備することができる。
【0091】
本発明のガラスクロスの織組織については、特に制限されないいが、例えば、平織、朱子織、ななこ織、からみ織、模紗織、綾織等が挙げられる。また、本発明のガラスクロスの織密度については、特に制限されないいが、例えば、経及び緯糸ともに10〜150本/25mm程度、50〜130本/25mm程度が挙げられる。
【0092】
本発明のガラスクロスの厚さについては、特に制限されないが、ヒートクリーニング処理によるガラスクロスの引張強度等の低下をより一層効果的に抑制して、優れた引張強度を具備させるという観点から、8〜20μm程度、好ましくは8〜15μm程度、更に好ましくは8〜13μm程度が挙げられる。
【0093】
本発明のガラスクロスの質量については、特に制限されないが、ヒートクリーニング処理によるガラスクロスの引張強度等の低下をより一層効果的に抑制して、優れた引張強度を具備させるという観点から、3〜30g/m
2程度、好ましくは3〜20g/m
2程度、更に好ましくは7〜14g/m
2程度が挙げられる。
【0094】
また、澱粉系集束剤で処理したガラスヤーンを用いて得られたガラスクロスでは、400℃以上の高温条件でのヒートクリーニング処理が必要であるため、不可避的にガラスクロスを構成するガラスヤーンの引張強度が低下するという欠点がある。例えば、400℃、60時間の条件でヒートクリーニング処理を行うと、ガラスヤーンの引張強度は、ヒートクリーニング処理前に比べて半分以下にまで低下する。これに対して、本発明のガラスクロスでは、前記ガラスヤーンを用いて製造されるため、ヒートクリーニング処理において400℃未満という低温条件を採用でき、その結果、ガラスクロスを構成するガラスヤーンが優れた引張強度を具備することができる。このような本発明の効果を鑑みれば、本発明のガラスクロスの好適な態様として、ガラスクロスを構成するガラスヤーンが、高い引張強度を有しているもの、具体的には、引張強度が0.45N/tex以上、好ましくは0.45〜0.60N/tex、より好ましくは0.50〜0.60N/texであるものが挙げられる。このような引張強度を備えたガラスヤーンを含むガラスクロスは、280〜330℃の温度条件でヒートクリーニング処理を行うことによって好適に得ることができる。
【0095】
また、本発明のガラスクロスの強熱減量としては、例えば、0.10質量%以下、好ましくは0.04〜0.10質量%が挙げられる。ガラスクロスの強熱減量は、ガラスクロスに含まれる不揮発性有機成分の付着量に実質的に相当しており、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.3.2 強熱減量」に規定されている方法に従って測定される値である。
【0096】
また、本発明のガラスクロスの好適な一態様として、ガラス材料がEガラス又は周波数1MHzにおける誘電率が5.0未満であるガラス組成物であり、ガラスクロスを構成するガラスヤーンの引張強度が0.50N/tex以上、好ましくは0.45〜0.60N/tex、より好ましくは0.50〜0.60N/texであり、且つ強熱減量が0.10質量%以下、好ましくは0.04〜0.10質量%であるものが挙げられる。
【0097】
本発明のガラスクロスの用途については、特に制限されず、従来、ガラスクロスが適用されているあらゆる用途に使用することができる。また、プリント配線板用のガラスクロス(プリント配線板の芯材として使用されるガラスクロス)では、高密度実装や軽薄短小化に対応するために、厚さを薄くすることが要求されているが、従来技術では、薄いガラスクロスでは毛羽が発生し易いという欠点があった。これに対して、本発明のガラスクロスでは、薄くしても毛羽の発生を抑制でき、プリント配線板用のガラスクロスの要求特性を十分満足させることができる。このような本発明の効果を鑑みれば、本発明のガラスクロスの用途の好適な例として、プリント配線板用のガラスクロス、特に薄型のプリント配線板用のガラスクロスが挙げられる。薄型のガラスクロスの厚さとしては、例えば、8〜20μmが挙げられる。
【0098】
本発明のガラスクロスは、前記ガラスヤーンを原料糸として使用して製織した後にヒートクリーニング処理することにより得られる。具体的には、本発明のガラスクロスは、以下の工程A及びBを経て得ることができる。
工程A:前記ガラスヤーンを経糸及び緯糸として生機クロスを製織する工程。
工程B:前記生機クロスをヒートクリーニング処理する工程。
【0099】
前記工程Aでは、前記ガラスヤーンを経糸及び緯糸として使用し、ガラスクロスの織組織や織密度等に応じて公知の手法で製織すればよい。
【0100】
また、前記工程Aで使用する経糸には、更に2次サイズ剤で処理されていてもよい。使用する2次サイズ剤の組成については、特に制限されないが、好ましくは、前記ガラス長繊維用集束剤と同じ組成のものが挙げられる。
【0101】
前記工程Bにおけるヒートクリーニング処理の温度条件については、特に制限されず、得られるガラスクロスの強熱減量が前述する範囲になるように適宜設定すればよいが、例えば、250〜600℃が挙げられる。また、前述の通り、本発明のガラスクロスは、400℃未満という低温条件でのヒートクリーニング処理を採用でき、その結果、ヒートクリーニング処理によるガラスヤーンの引張強度等の低下を抑制できるので、引張強度の低下を抑制するという観点から、ヒートクリーニング処理の条件として、好ましくは400℃未満、より好ましくは280〜390℃、更に好ましくは280〜330℃、特に好ましくは290〜330℃が挙げられる。
【0102】
前記工程Bにおけるヒートクリーニング処理の時間については、採用する温度条件に応じて得られるガラスクロスの強熱減量が前述する範囲になるように適宜設定すればよいが、例えばガラスクロスをロール製品(巻き芯にガラスクロスを巻き取った製品)とする場合であって、ロール製品のままヒートクリーニング処理する場合は48〜96時間、好ましくは48〜72時間、更に好ましくは48〜60時間が挙げられる。
【0103】
また、本発明のプリント配線板用ガラスクロスの製造方法において、必要に応じて、前記工程A及びB以外のその他の処理工程を含むことができる。このような処理工程としては、例えば、ガラスクロスを構成するガラスヤーンを拡幅する開繊処理工程や、シランカップリング剤による表面処理工程等が挙げられる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例によって本発明の詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0105】
1.試験方法
1−1.ガラスヤーン及びガラスクロスの強熱減量
ガラスヤーン及びガラスクロスの強熱減量は、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.3.2 強熱減量」に規定されている方法に従って、測定、算出した。なお、実施例4〜6及び比較例5のガラスヤーンについては、更に下記熱処理条件1で熱処理して室温に戻したものについても強熱減量(熱処理条件1後(330℃)の強熱減量)を測定した。
・熱処理条件1:330℃の熱風炉中に吊り下げ、加熱時間を60分として熱処理
【0106】
1−2.ガラス長繊維の単繊維直径(μm)
ガラス長繊維の単繊維直径は、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.6 単繊維直径」のB法(横断面法)に規定されている方法に従って、測定、算出した。
【0107】
1−3.ガラスヤーンの番手(tex)
ガラスヤーンの番手は、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.1 番手」に規定されている方法に従って、測定、算出した。
【0108】
1−4.ガラスヤーンの毛羽(個/100m)
得られたガラスヤーンについて、100m/分の速度で解舒してテンションバーを通過した後の毛羽の数をセンサーにてカウントした。1kmカウントし、100m当たりの毛羽数(個/100m)を求めた。
【0109】
1−5.ガラスクロスの織密度
JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.9 密度(織り密度)」に規定されている方法に従って、経糸及び緯糸の織密度を測定、算出した。
【0110】
1−6.ガラスクロスの厚さ
ガラスクロスの厚さは、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.10 クロス及びマットの厚さ」に規定されている方法に従って、測定、算出した。
【0111】
1−7.ガラスクロスの質量
ガラスクロスの質量は、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の[7.2 クロス及びマットの質量(質量)]に規定されている方法に従って、測定、算出した。
【0112】
1−8.ガラスヤーンの引張強度(N/tex)
ヒートクリーニング処理前の生機からガラスヤーンを抜き出した。当該ガラスヤーンを下記熱処理条件1又は2で熱処理して室温に戻したものをサンプルとして引張試験を行った。引張試験は、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4 引張強さ」に規定されている方法に従って、引張試験機として株式会社インテスコ社製2100型を用い、つかみ間隔250mm、試験速度250mm/minとして、n数を10本として、引張強力(N)の平均値を算出し、上記ガラスヤーンの番手で除すことにより、引張強度(N/tex)を算出した。
なお、上記熱風炉での熱処理条件としては、次の2条件で行った。
・熱処理条件1:330℃の熱風炉中に吊り下げ、加熱時間を60分として熱処理
・熱処理条件2:400℃の熱風炉中に吊り下げ、加熱時間を60分として熱処理
【0113】
1−9.ガラスクロスのヒートクリーニング性
ヒートクリーニング性が悪い場合には、ヒートクリーニング処理後に不揮発性有機成分が残存し、それが色調として現れるため、ヒートクリーニング性は、ヒートクリーニング前後の色差で評価できる。そこで、ヒートクリーニング処理(330℃、60分)前後のガラスクロスの色調検査を行った。色調検査では、色彩色差計(コニカミノルタ製、CR300)を用いて「CIE1976(L*a*b*)色差式」にて、色差(ΔE)を求めた。色差(ΔE)は、0〜0.1は目視では色の違いを判別できないレベル、0.2〜0.4は色検査に慣れた人なら判別できるレベル、0.8〜1.5が品質管理の基準になることの多いレベル、3.0以上になると色違いによるクレームにつながる可能性が高くなるレベルとされている。従って、色差(ΔE)が1.5以下である場合に、ヒートクリーニング性を有するものとして判定できる。
【0114】
2.ガラス長繊維用集束剤の調製に使用した材料
実施例及び比較例において、ガラス長繊維用集束剤における各配合成分としては、以下のものを使用した。
(1)アクリル樹脂エマルジョン:互応化学社製、商品名GF−6[不揮発性成分25質量%;TGA(熱重量分析)における330℃の重量減少率98質量%;アクリル樹脂の重量平均分子量30万;アクリル樹脂の平均粒子径(メジアン径)150nm;アクリル樹脂以外に、水、重合性単量体としてメタクリル酸2−エチルへキシル及びメタクリル酸イソブチル、乳化剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(商品名ノニオンHT−501、日油株式会社)、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを混合した液を加熱することにより製造されたもの]
(2)油脂乳化液A:松本油脂製薬株式会社製商品名KP−2708(主成分がステアリン酸ブチルの乳化液、油脂含有量は50質量%)
(3)油脂乳化液B:吉村油化学株式会社製、商品名スムーサーSW45(パラフィンワックス乳化液、パラフィンワックス含有量は30質量%)
(4)カチオン化セルロース:塩化O−(2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル)ヒドロキシエチルセルロース(カチオン化セルロース:98質量%)
(5)ポリオキシエチレンアルキルエーテル:松本油脂製薬株式会社製、商品名マーポテロンLE(ポリオキシエチレンアルキルエーテル:30質量%)
(6)N,N,N,N−テトラアルキル第四級アンモニウム塩:東邦化学工業株式会社製、商品名アンステックスSAG−25(N,N,N,N−テトラアルキル第四級アンモニウム塩:25質量%)
(7)ポリオキシエチレンアルキルエステル:一方社油脂工業株式会社製、商品名ノイランO−6(ポリオキシエチレンアルキルエステル:30質量%)
(8)アルキルアミド誘導体:松本油脂製薬株式会社製、商品名KP−914(アルキルアミド誘導体:30質量%)
(9)ポリエチレングリコール(平均分子量300):東邦化学工業株式会社製、商品名PEG−300
(10)ポリエチレングリコール(平均分子量400):東邦化学工業株式会社製、商品名PEG−400
【0115】
3.ガラス長繊維用集束剤、ガラスヤーン及びガラスクロスの製造
[実施例1]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
下記組成となるように各成分を混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。なお、下記質量部は、「水」及び「合計」以外は不揮発成分量に換算した値であり、「合計」は揮発成分と不揮発成分の合計値である。
アクリル樹脂エマルジョン: 75質量部
油脂乳化液A: 150質量部
パラフィンワックス乳化液: 50質量部
カチオン化セルロース: 2質量部
アルキルアミド誘導体: 15質量部
水: 9708質量部
合計: 10000質量部
【0116】
ガラス長繊維用集束剤の質量に対する、全不揮発成分の質量(g)の割合としては、2.92質量%であった。不揮発成分の組成比を表1に記載する。
【0117】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を、紡糸炉から紡出させた複数のガラス長繊維(Eガラス、フィラメント径4.1μm)にロールアプリケーターを用いて塗布し、当該ガラス長繊維を1本の束(ストランド)に集束させた。次いで、このストランドを、撚りをかけずにチューブに巻き取り、ケーキを得た。次いで、得られたケーキを室温で乾燥した。乾燥後のケーキからストランドを解舒しつつ、撚りをかけながら、ボビンに巻き付け、ガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が0.25質量%であった。
【0118】
(3)ガラスクロスの製造
得られたガラスヤーンを緯糸として使用した。また、得られたガラスヤーンに対して、ガラスヤーンの製造で使用したガラス長繊維用集束剤と同一組成の2次サイズ剤を常法により付与して糊付けし、ビーミングを行い、得られた整経ビームを経糸として使用した。経糸及び緯糸をエアージェット織機にセットし、経糸密度が95本/25mm、緯糸密度が95本/25mmとなるように、平織組織で製織した。製織後、水流処理による開繊処理を施して、生機クロスを得た。得られた生機クロスの強熱減量は1.2質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。
【0119】
得られた生機クロスをA4版の大きさに切断し、330℃の熱風炉中に吊り下げた状態で60分間処理することにより、ヒートクリーニング処理を行い、ガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの強熱減量は0.07質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0120】
[実施例2]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
下記組成となるように各成分を混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。なお、下記質量部は、「水」及び「合計」以外は不揮発成分量に換算した値であり、「合計」は揮発成分と不揮発成分の合計値である。
アクリル樹脂エマルジョン: 75質量部
油脂乳化液A: 150質量部
パラフィンワックス乳化液: 50質量部
カチオン化セルロース: 2質量部
アルキルアミド誘導体: 3質量部
水: 9270質量部
合計: 10000質量部
【0121】
ガラス長繊維用集束剤の質量に対する、全不揮発成分の質量(g)の割合としては、2.8質量%であった。不揮発成分の組成比を表1に記載する。
【0122】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を使用したこと以外は、実施例1と同条件でガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が0.22質量%であった。
【0123】
(3)ガラスクロスの製造
得られたガラスヤーンを使用したこと、経糸の2次サイズ剤として前記ガラス長繊維用集束剤(実施例2)と同一組成のものを使用したこと以外は、実施例1と同条件で生機クロス及びガラスクロスを製造した。
【0124】
得られた生機クロスの強熱減量は1.2質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。また、得られたガラスクロスの強熱減量は0.07質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0125】
[実施例3]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
下記組成となるように各成分を混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。なお、下記質量部は、「水」及び「合計」以外は不揮発成分量に換算した値であり、「合計」は揮発成分と不揮発成分の合計値である。
アクリル樹脂エマルジョン: 75質量部
油脂乳化液A: 150質量部
油脂乳化液B: 50質量部
ポリオキシエチレンアルキルエーテル: 12質量部
アルキルアミド誘導体: 30質量部
水: 9683質量部
合計: 10000質量部
【0126】
ガラス長繊維用集束剤の質量に対する、全不揮発成分の質量(g)の割合としては、3.17質量%であった。不揮発成分の組成比を表1に記載する。
【0127】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を使用したこと以外は、実施例1と同条件でガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が0.38質量%であった。
【0128】
(3)ガラスクロスの製造
得られたガラスヤーンを使用したこと、経糸の2次サイズ剤として前記ガラス長繊維用集束剤(実施例3)と同一組成のものを使用したこと以外は、実施例1と同条件で生機クロス及びガラスクロスを製造した。
【0129】
得られた生機クロスの強熱減量は1.0質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。また、得られたガラスクロスの強熱減量は0.08質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0130】
[実施例4]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
下記組成となるように各成分を混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。なお、下記質量部は、「水」及び「合計」以外は不揮発成分量に換算した値であり、「合計」は揮発成分と不揮発成分の合計値である。
アクリル樹脂エマルジョン: 75質量部
油脂乳化液A: 150質量部
油脂乳化液B: 50質量部
ポリオキシエチレンアルキルエーテル: 12質量部
アルキルアミド誘導体: 15質量部
水: 9698質量部
合計: 10000質量部
【0131】
ガラス長繊維用集束剤の質量に対する、全不揮発成分の質量(g)の割合としては、3.02質量%であった。不揮発成分の組成比を表1に記載する。
【0132】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を使用したこと以外は、実施例1と同条件でガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が0.44質量%であった。また、熱処理条件1で熱処理した後のガラスヤーンの強熱減量は0.04質量%であった。
【0133】
(3)ガラスクロスの製造
得られたガラスヤーンを使用したこと、経糸の2次サイズ剤として前記ガラス長繊維用集束剤(実施例4)と同一組成のものを使用したこと以外は、実施例1と同条件で生機クロス及びガラスクロスを製造した。
【0134】
得られた生機クロスの強熱減量は1.0質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。また、得られたガラスクロスの強熱減量は0.06質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0135】
[実施例5]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
下記組成となるように各成分を混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。なお、下記質量部は、「水」及び「合計」以外は不揮発成分量に換算した値であり、「合計」は揮発成分と不揮発成分の合計値である。
アクリル樹脂エマルジョン: 75質量部
油脂乳化液A: 150質量部
油脂乳化液B: 50質量部
ポリオキシエチレンアルキルエーテル: 12質量部
アルキルアミド誘導体: 15質量部
ポリエチレングリコール(平均分子量300): 75質量部
水: 9623質量部
合計: 10000質量部
【0136】
ガラス長繊維用集束剤の質量に対する、全不揮発成分の質量(g)の割合としては、3.77質量%であった。不揮発成分の組成比を表1に記載する。
【0137】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を使用したこと以外は、実施例1と同条件でガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が0.49質量%であった。また、熱処理条件1で熱処理した後のガラスヤーンの強熱減量は0.04質量%であった。
【0138】
(3)ガラスクロスの製造
得られたガラスヤーンを使用したこと、経糸の2次サイズ剤として前記ガラス長繊維用集束剤(実施例5)と同一組成のものを使用したこと以外は、実施例1と同条件で生機クロス及びガラスクロスを製造した。
【0139】
得られた生機クロスの強熱減量は0.9質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。また、得られたガラスクロスの強熱減量は0.09質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0140】
[実施例6]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
下記組成となるように各成分を混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。なお、下記質量部は、「水」及び「合計」以外は不揮発成分量に換算した値であり、「合計」は揮発成分と不揮発成分の合計値である。
アクリル樹脂エマルジョン: 75質量部
油脂乳化液A: 150質量部
油脂乳化液B: 50質量部
ポリオキシエチレンアルキルエーテル: 12質量部
アルキルアミド誘導体: 15質量部
ポリエチレングリコール(平均分子量400): 75質量部
水: 9623質量部
合計: 10000質量部
【0141】
ガラス長繊維用集束剤の質量に対する、全不揮発成分の質量(g)の割合としては、3.77質量%であった。不揮発成分の組成比を表1に記載する。
【0142】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を使用したこと以外は、実施例1と同条件でガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が0.40質量%であった。また、熱処理条件1で熱処理した後のガラスヤーンの強熱減量は0.04質量%であった。
【0143】
(3)ガラスクロスの製造
得られたガラスヤーンを使用したこと、経糸の2次サイズ剤として前記ガラス長繊維用集束剤(実施例6)と同一組成のものを使用したこと以外は、実施例1と同条件で生機クロス及びガラスクロスを製造した。
【0144】
得られた生機クロスの強熱減量は1.0質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。また、得られたガラスクロスの強熱減量は0.09質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0145】
[比較例1]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
下記組成となるように各成分を混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。なお、下記質量部は、「水」及び「合計」以外は不揮発成分量に換算した値であり、「合計」は揮発成分と不揮発成分の合計値である。
アクリル樹脂エマルジョン: 75質量部
油脂乳化液A: 150質量部
油脂乳化液B: 50質量部
N,N,N,N−テトラアルキル第四級アンモニウム塩: 12質量部
アルキルアミド誘導体: 30質量部
水: 9683質量部
合計: 10000質量部
【0146】
ガラス長繊維用集束剤の質量に対する、全不揮発成分の質量(g)の割合としては、3.17質量%であった。不揮発成分の組成比を表1に記載する。
【0147】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を使用したこと以外は、実施例1と同条件でガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が0.35質量%であった。
【0148】
(3)ガラスクロスの製造
得られたガラスヤーンを使用したこと、経糸の2次サイズ剤として前記ガラス長繊維用集束剤(比較例1)と同一組成のものを使用したこと以外は、実施例1と同条件で生機クロス及びガラスクロスを製造した。
【0149】
得られた生機クロスの強熱減量は、1.1質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。また、得られたガラスクロスの強熱減量は0.13質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0150】
[比較例2]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
下記組成となるように各成分を混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。なお、下記質量部は、「水」及び「合計」以外は不揮発成分量に換算した値であり、「合計」は揮発成分と不揮発成分の合計値である。
油脂乳化液A: 150質量部
油脂乳化液B: 50質量部
カチオン化セルロース: 2質量部
アルキルアミド誘導体: 30質量部
水: 9768質量部
合計: 10000質量部
【0151】
ガラス長繊維用集束剤の質量に対する、全不揮発成分の質量(g)の割合としては、2.32質量%であった。不揮発成分の組成比を表1に記載する。
【0152】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を使用したこと以外は、実施例1と同条件でガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が0.19質量%であった。
【0153】
(3)ガラスクロスの製造
得られたガラスヤーンを使用したこと、経糸の2次サイズ剤として前記ガラス長繊維用集束剤(比較例2)と同一組成のものを使用したこと以外は、実施例1と同条件で生機クロス及びガラスクロスを製造した。
【0154】
得られた生機クロスの強熱減量は、1.2質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。また、得られたガラスクロスの強熱減量は0.13質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0155】
[比較例3]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
下記組成となるように各成分を混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。なお、下記質量部は、「水」及び「合計」以外は不揮発成分量に換算した値であり、「合計」は揮発成分と不揮発成分の合計値である。
アクリル樹脂エマルジョン: 75質量部
油脂乳化液A: 150質量部
油脂乳化液B: 50質量部
アルキルアミド誘導体: 30質量部
水: 9695質量部
合計: 10000質量部
【0156】
ガラス長繊維用集束剤の質量に対する、全不揮発成分の質量(g)の割合としては、3.05質量%であった。不揮発成分の組成比を表1に記載する。
【0157】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を使用したこと以外は、実施例1と同条件でガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が0.29質量%であった。
【0158】
(3)ガラスクロスの製造
得られたガラスヤーンを使用したこと、経糸の2次サイズ剤として前記ガラス長繊維用集束剤(比較例3)と同一組成のものを使用したこと以外は、実施例1と同条件で生機クロス及びガラスクロスを製造した。
【0159】
得られた生機クロスの強熱減量は、1.1質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。また、得られたガラスクロスの強熱減量は0.15質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0160】
[比較例4]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
下記組成となるように各成分を混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。なお、下記質量部は、「水」及び「合計」以外は不揮発成分量に換算した値であり、「合計」は揮発成分と不揮発成分の合計値である。
アクリル樹脂エマルジョン: 75質量部
油脂乳化液A: 150質量部
油脂乳化液B: 50質量部
ポリオキシエチレンアルキルエステル: 15質量部
アルキルアミド誘導体: 30質量部
水: 9680質量部
合計: 10000質量部
【0161】
ガラス長繊維用集束剤の質量に対する、全不揮発成分の質量(g)の割合としては、3.2質量%であった。不揮発成分の組成比を表1に記載する。
【0162】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を使用したこと以外は、実施例1と同条件でガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が0.31質量%であった。
【0163】
(3)ガラスクロスの製造
得られたガラスヤーンを使用したこと、経糸の2次サイズ剤として前記ガラス長繊維用集束剤(比較例4)と同一組成のものを使用したこと以外は、実施例1と同条件で生機クロス及びガラスクロスを製造した。
【0164】
得られた生機クロスの強熱減量は、1.1質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。また、得られたガラスクロスの強熱減量は0.21質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0165】
[比較例5]
(1)ガラスヤーンの準備
澱粉によって被膜が形成されているガラスヤーン(ユニチカグラスファイバー株式会社製商品名BC3000 1/0 0.5Z X−4)を準備した。なお、当該ガラスヤーンを構成するガラス長繊維はEガラスからなり、そのフィラメント径は4.1μmであった。また、当該ガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.68tex、強熱減量が1.00質量%であった。また、熱処理条件1で熱処理した後のガラスヤーンの強熱減量は0.16質量%であった。
【0166】
(2)ガラスクロスの製造
前記ガラスヤーンを使用したこと、経糸の2次サイズ剤としてポリビニルアルコールを主成分とするものを使用したこと以外は、実施例1と同条件で生機クロス及びガラスクロスを製造した。
【0167】
得られた生機クロスの強熱減量は、2.4質量%、厚さは18μm、質量は12.8g/m
2であった。また、得られたガラスクロスの強熱減量は0.77質量%、厚さは15μm、質量は12.5g/m
2であった。
【0168】
4.評価結果
実施例1〜6及び比較例1〜5で得られたガラスヤーン及びガラスクロスの物性を測定した結果を表1に示す。
【0169】
【表1】
【0170】
実施例1〜6では、アクリル樹脂と、油脂と、カチオン化セルロース又はポリオキシエチレンアルキルエーテルとを含むガラス長繊維用集束剤を使用したことにより、優れた毛羽発生の抑制効果が認められ、プリント配線板用の薄いガラスクロスの製造に適するものであった。また、実施例1〜6では、400℃以下の温度条件でのヒートクリーニング性に優れており、得られたガラスヤーンは、400℃以下の温度条件でのヒートクリーニング処理によって製造していても、ヒートクリーニング処理が不十分であることに起因する色目(焼色)が生じるのを十分に抑制できていた。
【0171】
特に、実施例1及び4〜6では、全不揮発成分中の質量(g/L)に対する柔軟剤成分の不揮発成分の質量の合計(g/L)の割合が3〜6質量%であるガラス長繊維用集束剤を使用したことにより、毛羽発生の抑制効果が格段に向上していた。とりわけ、実施例4〜6では、アクリル樹脂と、油脂と、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとを含み、全不揮発成分中の質量(g/L)に対する柔軟剤成分の不揮発成分の質量の合計(g/L)の割合が3〜6質量%であるガラス長繊維用集束剤を使用したことにより、毛羽発生の抑制効果が格段向上すると共に、400℃以下の温度条件でのヒートクリーニング性も格段に向上していた。
【0172】
一方、比較例1では、カチオン化セルロース又はポリオキシエチレンアルキルエーテルを含まないガラス長繊維用集束剤を使用しており、400℃以下の温度条件でのヒートクリーニング処理を行うと、ガラスクロスに色目(焼色)が生じており、400℃以下の温度条件でのヒートクリーニング性が劣っていた。
【0173】
比較例2では、アクリル樹脂を含まないガラス長繊維用集束剤を使用しており、毛羽の発生抑制効果が不十分で、プリント配線板用の薄いガラスクロスの製造に適していなかった。更に、比較例2は、400℃以下の温度条件でのヒートクリーニング性も劣っていた。
【0174】
比較例3では、アクリル樹脂及び油脂を含むが、カチオン化セルロース又はポリオキシエチレンアルキルエーテルを含まないガラス長繊維用集束剤を使用しており、毛羽の発生抑制効果が不十分で、プリント配線板用の薄いガラスクロスの製造に適していなかった。更に、比較例3は、400℃以下の温度条件でのヒートクリーニング性も劣っていた。
【0175】
比較例4は、アクリル樹脂、油脂、及びポリオキシエチレンアルキルステルを含むガラス長繊維用集束剤を使用しており、400℃以下の温度条件でのヒートクリーニング性が劣っていた。
【0176】
比較例5は、ガラス長繊維用集束剤皮膜形成成分として澱粉を単独で使用しているものであり、400℃以下の温度条件でのヒートクリーニング性が劣っていた。