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特開2021-193094イミド基含有化合物、イミド基含有硬化剤ならびにエポキシ樹脂硬化物およびそれを用いた電気絶縁性材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-193094(P2021-193094A)
(43)【公開日】2021年12月23日
(54)【発明の名称】イミド基含有化合物、イミド基含有硬化剤ならびにエポキシ樹脂硬化物およびそれを用いた電気絶縁性材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/48 20060101AFI20211126BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20211126BHJP
【FI】
   C07D209/48CSP
   C08G59/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2021-136113(P2021-136113)
(22)【出願日】2021年8月24日
(62)【分割の表示】特願2021-507541(P2021-507541)の分割
【原出願日】2020年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2019-222849(P2019-222849)
(32)【優先日】2019年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】谷中 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】中井 誠
(72)【発明者】
【氏名】田窪 由紀
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AD08
4J036AF07
4J036DC15
4J036DC42
4J036DC44
4J036JA07
4J036JA08
(57)【要約】
【課題】本発明は、高温高電界下において電荷の局所的な蓄積が十分に防止されるとともに、耐熱性および誘電特性に十分に優れた電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物を製造するための硬化剤(特にイミド基含有化合物)を提供する。
【解決手段】本発明は、ジイミドジカルボン酸系化合物、ジイミドテトラカルボン酸系化合物およびモノイミドトリカルボン酸系化合物の群から選ばれるイミド基含有化合物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジイミドジカルボン酸系化合物、ジイミドテトラカルボン酸系化合物およびモノイミドトリカルボン酸系化合物の群から選ばれるイミド基含有化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のイミド基含有化合物から選ばれる、イミド基含有硬化剤。
【請求項3】
請求項2に記載のイミド基含有硬化剤と、エポキシ樹脂とからなるエポキシ樹脂硬化物。
【請求項4】
エポキシ樹脂が、1分子中、2個以上のエポキシ基を有する、請求項3に記載のエポキシ樹脂硬化物。
【請求項5】
イミド基含有硬化剤が200〜1100の分子量を有する、請求項3または4に記載のエポキシ樹脂硬化物。
【請求項6】
イミド基含有硬化剤が50〜500の官能基当量を有する、請求項3〜5のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物を含む電気絶縁性材料。
【請求項8】
請求項3〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物を含む封止材。
【請求項9】
パワー半導体モジュール用である請求項8に記載の封止材。
【請求項10】
請求項3〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物を含む碍子。
【請求項11】
送電線用である請求項10に記載の碍子。
【請求項12】
請求項3〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物を含む電線被覆材。
【請求項13】
電気自動車用である請求項12に記載の電線被覆材。
【請求項14】
請求項3〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物を含むプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミド基含有化合物、イミド基含有硬化剤ならびにエポキシ樹脂硬化物およびそれを用いた電気絶縁性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂及びその硬化剤からなるエポキシ樹脂硬化物は、熱的、力学的および電気的特性に優れており、電気電子材料を中心に工業的に広く利用されている。エポキシ樹脂硬化物を製造するための硬化剤としては、例えば、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤等が使用されている。
【0003】
近年、車載用パワーモジュールに代表されるパワーデバイスの分野では、更なる大電流化、小型化、高効率化が求められており、炭化ケイ素(SiC)半導体への移行が進みつつある。SiC半導体は、従来のシリコン(Si)半導体よりも高温条件下での動作が可能であることから、SiC半導体に使用される半導体封止材にもこれまで以上に高い耐熱性が要求されている(例えば、特許文献1)。また、パワーデバイスは小型化高出力化にともない、高温高電界下で使用されるが、高温高電界下では絶縁材料中で電荷が蓄積し、半導体内部の電界が変歪され、半導体素子の耐電圧を低下させる。従って、パワーデバイスの性能向上には、高温下での耐電圧を改善するべく、高温高電界下において電荷の蓄積が生じない材料の開発が必要である。
【0004】
また、送電線の分野では、従来から陶器やセラミックからなる碍子が用いられていたが、前記碍子は重くて脆いため、ポリマーを一部に用いた碍子が検討されている(例えば、特許文献2)。近年、碍子が高電圧化されつつあり、それにともない、碍子に用いるポリマーには、電荷の蓄積が生じないようにするため従来品よりもより低誘電性であって、高電圧化されても耐えられるように高絶縁性の材料が求められている。
【0005】
また、電気自動車の分野では、モータ等の電気機器を構成する電線に絶縁性の電線被覆材が用いられている(例えば、特許文献3)。近年、モータが高出力化され、インバーターサージによる部分放電の影響が大きくなりつつある。それにともない、モータに用いる電線被覆材は、インバーターサージが発生しにくくするため従来品よりもより低誘電性であって、高出力化されても耐えられるように高絶縁性の材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−305962号公報
【特許文献2】特開2013−234311号公報
【特許文献3】特開2012−224714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の発明者等は、従来の材料(特に従来の硬化剤を用いて製造されたエポキシ樹脂硬化物)を電気絶縁性材料として使用すると、高温高電界下において電荷が局所的に蓄積され、絶縁破壊に至ることがあるために、十分な絶縁性が得られないことを見い出した。例えば、パワーデバイスの分野において、従来の絶縁材料は、高温高電界環境により電荷が局所的に蓄積し、絶縁破壊に至ることがあった。
【0008】
本発明は、高温高電界下において電荷の局所的な蓄積が十分に防止される、エポキシ樹脂硬化物、および当該エポキシ樹脂硬化物を製造するための硬化剤(特にイミド基含有化合物)を提供することを目的とする。
【0009】
本発明はまた、高温高電界下において電荷の局所的な蓄積が十分に防止されるとともに、耐熱性および誘電特性に十分に優れたエポキシ樹脂硬化物、および当該エポキシ樹脂硬化物を製造するための硬化剤(特にイミド基含有化合物)を提供することを目的とする。
【0010】
本明細書中、電荷の局所的な蓄積とは、高温高電界下において電気絶縁性材料の内部で生じる電荷の偏在のことであり、電荷密度分布を経時的に測定することにより観察することができる電気的現象である。高温高電界とは、例えば、120℃以上(特に130〜150℃)の温度および40〜120kV/mm(特に80〜120kV/mm)の電界の環境のことである。電気絶縁性および絶縁性は、このような高温高電界下において電荷の局所的な蓄積が十分に防止される特性を包含する。
誘電率および誘電正接は、一般的には、目的に応じて高い方が優れていると評価される場合、および低い方が優れていると評価される場合があるが、本発明において、誘電特性とは、特に誘電率および誘電正接の両者が十分に低減され得る性能のことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、特定のイミド基含有硬化剤とエポキシ樹脂とからなる硬化物が、耐熱性、誘電特性および絶縁性の全ての特性に優れていることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
<1> ジイミドジカルボン酸系化合物、ジイミドテトラカルボン酸系化合物およびモノイミドトリカルボン酸系化合物の群から選ばれるイミド基含有化合物。
<2> <1>に記載のイミド基含有化合物から選ばれる、イミド基含有硬化剤。
<3> <2>に記載のイミド基含有硬化剤と、エポキシ樹脂とからなるエポキシ樹脂硬化物。
<4> エポキシ樹脂が、1分子中、2個以上のエポキシ基を有する、<3>に記載のエポキシ樹脂硬化物。
<5> イミド基含有硬化剤が200〜1100の分子量を有する、<3>または4に記載のエポキシ樹脂硬化物。
<6> イミド基含有硬化剤が50〜500の官能基当量を有する、<3>〜<5>のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物。
<7> <3>〜<6>のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物を含む電気絶縁性材料。
<8> <3>〜<6>のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物を含む封止材。
<9> パワー半導体モジュール用である<8>に記載の封止材。
<10> <3>〜<6>のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物を含む碍子。
<11> 送電線用である<10>に記載の碍子。
<12> <3>〜<6>のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物を含む電線被覆材。
<13> 電気自動車用である<12>に記載の電線被覆材。
<14> <3>〜<6>のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化物を含むプリント配線板。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性、誘電特性および絶縁性に優れ、例えば、封止材(特に半導体封止材)、碍子、電線被覆材等への使用に適した電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物、および当該エポキシ樹脂硬化物を製造するための硬化剤(特にイミド基含有化合物)を提供することができる。
本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物は、特に高温高電界下において電荷の局所的な蓄積が十分に防止されるという、十分に優れた絶縁性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例A−1、B−1、B−2およびC−1のエポキシ樹脂硬化物についての電荷密度分布の経時的変化を示すチャートである。
図2図2は、比較例1〜3のエポキシ樹脂硬化物についての電荷密度分布の経時的変化を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のイミド基含有化合物は、硬化剤(特にエポキシ樹脂の硬化剤)として有用である。本発明のイミド基含有化合物は、硬化剤(特にエポキシ樹脂の硬化剤)として使用される場合、「イミド基含有硬化剤」とも称される。以下、本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物を詳しく説明するが、当該説明において、イミド基含有化合物はイミド基含有硬化剤として詳しく説明する。
【0016】
<電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物>
本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物は、イミド基含有硬化剤およびエポキシ樹脂から構成される。
【0017】
[イミド基含有硬化剤]
イミド基含有硬化剤としては、例えば、ジイミドジカルボン酸系化合物、ジイミドテトラカルボン酸系化合物、およびモノイミドトリカルボン酸系化合物等のイミド基含有化合物が挙げられる。イミド基含有硬化剤はこれらの群から選択される1種以上のイミド基含有硬化剤であってもよい。耐熱性、誘電特性および絶縁性のさらなる向上の観点から、好ましいイミド基含有硬化剤はジイミドジカルボン酸系化合物からなる群から選択される1種以上のイミド基含有硬化剤である。
【0018】
イミド基含有硬化剤の分子量は特に限定されず、耐熱性、誘電特性および絶縁性のさらなる向上の観点から、好ましくは200〜1100であり、より好ましくは300〜1000であり、さらに好ましくは300〜700であり、最も好ましくは400〜600である。
【0019】
イミド基含有硬化剤の官能基当量は特に限定されず、耐熱性、誘電特性および絶縁性のさらなる向上の観点から、好ましくは50〜500であり、より好ましくは800〜400であり、さらに好ましくは100〜400であり、最も好ましくは200〜350である。官能基当量は、分子量を、イミド基含有硬化剤が1分子あたり有する官能基(例えばカルボキシル基)の数で除することにより算出される値である。
【0020】
硬化剤に含まれるイミド基含有硬化剤の配合量は特に限定されず、耐熱性、誘電特性および絶縁性のさらなる向上の観点から、硬化剤全量に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。イミド基含有硬化剤の配合量が硬化剤全量に対して100質量%であるとは、硬化剤がイミド基含有硬化剤のみからなることを意味する。2種以上のイミド基含有硬化剤を配合する場合、それらの合計配合量が上記範囲内であればよい。
【0021】
(ジイミドジカルボン酸系化合物)
ジイミドジカルボン酸系化合物は、1分子中、2つのイミド基および2つのカルボキシル基を有する化合物である。ジイミドジカルボン酸系化合物はアミド基を有さない。原料化合物として、無水トリカルボン酸成分とジアミン成分とを用い、官能基同士の反応を行うことにより、アミド酸系化合物を製造し、イミド化反応を進めることによりジイミドジカルボン酸系化合物を製造することができる。ここで官能基同士の反応は、溶液中でも良いし、固相状態で反応をおこなってもよく、製造方法は特に限定されない。
【0022】
無水トリカルボン酸成分とジアミン成分とを用いたジイミドジカルボン酸系化合物は、1分子のジアミン成分に対して、2分子の無水トリカルボン酸成分が反応し、2つのイミド基が形成されてなる化合物である。
【0023】
無水トリカルボン酸成分とジアミン成分とを用いたジイミドジカルボン酸系化合物の製造に際し、ジアミン成分は、無水トリカルボン酸成分に対して通常は約0.5倍モル量、例えば0.1〜0.7倍モル量、好ましくは0.3〜0.7倍モル量、より好ましくは0.4〜0.6倍モル量、さらに好ましくは0.45〜0.55倍モル量で使用される。
【0024】
ジイミドジカルボン酸系化合物を構成し得る無水トリカルボン酸成分としては、特に限定されず、例えば、ジイミドジカルボン酸系化合物およびこれを用いて得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性、誘電特性および絶縁性のさらなる向上の観点から、芳香族環を含有する芳香族無水トリカルボン酸成分、特に無水トリメリット酸が好ましい。ジイミドジカルボン酸系化合物を構成し得る無水トリカルボン酸成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いることもできる。
【0025】
ジイミドジカルボン酸系化合物を構成し得るジアミン成分としては、特に限定されず、例えば、ジイミドジカルボン酸系化合物およびこれを用いて得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性、誘電特性、絶縁性、および溶解性のさらなる向上の観点から、芳香族環を含有する芳香族ジアミン成分、特に、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ダイマージアミンが好ましい。ジイミドジカルボン酸系化合物を構成し得るジアミン成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いることもできる。
【0026】
(ジイミドテトラカルボン酸系化合物)
ジイミドテトラカルボン酸系化合物は、1分子中、2つのイミド基および4つのカルボキシル基を有する化合物である。原料化合物として、テトラカルボン酸二無水物成分とモノアミノジカルボン酸成分とを用い、官能基同士の反応を行うことにより、アミド酸系化合物を製造し、イミド化反応を進めることによりジイミドテトラカルボン酸系化合物を製造することができる。ここで官能基同士の反応は、溶液中でも良いし、固相状態で反応をおこなってもよく、製造方法は特に限定されない。
【0027】
テトラカルボン酸二無水物成分とモノアミノジカルボン酸成分とを用いたジイミドテトラカルボン酸系化合物は、1分子のテトラカルボン酸二無水物成分に対して、2分子のモノアミノジカルボン酸成分が反応し、2つのイミド基が形成されてなる化合物である。
【0028】
テトラカルボン酸二無水物成分とモノアミノジカルボン酸成分とを用いたジイミドテトラカルボン酸系化合物の製造に際し、モノアミノジカルボン酸成分は、テトラカルボン酸二無水物成分に対して通常は、約2倍モル量、例えば1.5〜10.0倍モル量、好ましくは1.8〜2.2倍モル量、より好ましくは1.9〜2.1倍モル量、さらに好ましくは1.95〜2.05倍モル量で使用される。
【0029】
ジイミドテトラカルボン酸系化合物を構成し得るテトラカルボン酸二無水物成分としては、特に限定されず、例えば、ジイミドテトラカルボン酸系化合物およびこれを用いて得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性、誘電特性、絶縁性および溶解性ならびに汎用性のさらなる向上の観点から、芳香族環を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分および/または芳香族環も脂肪族環も含有しない脂肪族テトラカルボン酸二無水物成分、特に3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物が好ましい。ジイミドテトラカルボン酸系化合物を構成し得るテトラカルボン酸二無水物成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いることもできる。
【0030】
ジイミドテトラカルボン酸系化合物を構成し得るモノアミノジカルボン酸成分としては、特に限定されず、例えば、ジイミドテトラカルボン酸系化合物およびこれを用いて得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性、誘電特性、絶縁性および溶解性のさらなる向上の観点から、芳香族環を含有する芳香族モノアミノジカルボン酸成分、特に2−アミノテレフタル酸、2−アミノイソフタル酸、4−アミノイソフタル酸、5−アミノイソフタル酸、3−アミノフタル酸、4−アミノフタル酸が好ましい。ジイミドテトラカルボン酸系化合物を構成し得るモノアミノジカルボン酸成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いることもできる。
【0031】
(モノイミドトリカルボン酸系化合物)
モノイミドトリカルボン酸系化合物は、1分子中、1つのイミド基および3つのカルボキシル基を有する化合物である。原料化合物として、無水トリカルボン酸成分とモノアミノジカルボン酸成分とを用い、官能基同士の反応を行うことにより、アミド酸系化合物を製造し、イミド化反応を進めることによりモノイミドトリカルボン酸系化合物を製造することができる。ここで官能基同士の反応は、溶液中でも良いし、固相状態で反応をおこなってもよく、製造方法は特に限定されない。
【0032】
無水トリカルボン酸成分とモノアミノジカルボン酸成分とを用いたモノイミドトリカルボン酸系化合物は、1分子の無水トリカルボン酸成分に対して、1分子のモノアミノジカルボン酸成分が反応し、1つのイミド基が形成されてなる化合物である。
【0033】
無水トリカルボン酸成分とモノアミノジカルボン酸成分とを用いたモノイミドトリカルボン酸系化合物の製造に際し、モノアミノジカルボン酸成分は、無水トリカルボン酸成分に対して通常は、約1倍モル量、例えば0.5〜5.0倍モル量、好ましくは0.8〜1.2倍モル量、より好ましくは0.9〜1.1倍モル量、さらに好ましくは0.95〜1.05倍モル量で使用される。
【0034】
モノイミドトリカルボン酸系化合物を構成し得る無水トリカルボン酸成分としては、特に限定されず、例えば、モノイミドトリカルボン酸系化合物およびこれを用いて得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性、誘電特性および絶縁性のさらなる向上の観点から、芳香族環を含有する芳香族無水トリカルボン酸成分、特に無水トリメリット酸が好ましい。モノイミドトリカルボン酸系化合物を構成し得る無水トリカルボン酸成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いることもできる。
【0035】
モノイミドトリカルボン酸系化合物を構成し得るモノアミノジカルボン酸成分としては、特に限定されず、例えば、モノイミドトリカルボン酸系化合物およびこれを用いて得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性、誘電特性および絶縁性のさらなる向上の観点から、芳香族環を含有する芳香族モノアミノジカルボン酸成分、特に2−アミノテレフタル酸、2−アミノイソフタル酸、4−アミノイソフタル酸、5−アミノイソフタル酸、3−アミノフタル酸、4−アミノフタル酸が好ましい。モノイミドトリカルボン酸系化合物を構成し得るモノアミノジカルボン酸成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いることもできる。
【0036】
[イミド基含有硬化剤の製造方法]
イミド基含有硬化剤は、溶媒中または無溶媒下で製造することができるが、製造方法は特に限定されない。
【0037】
溶媒中で製造する方法としては、例えば、N−メチル2−ピロリドンなどの非プロトン性溶媒に、所定の原料(例えば、無水トリカルボン酸成分、ジアミン成分、テトラカルボン酸二無水物成分、モノアミノジカルボン酸成分)を入れて80℃で攪拌した後、イミド化して得る方法がある。
【0038】
イミド化の方法としては、特に限定されず、例えば窒素雰囲気下で250℃〜300℃に加熱することによって行われる加熱イミド化法、カルボン酸無水物と3級アミンの混合物などの脱水環化試薬で処理することにより行われる化学的イミド化法であってもよい。
【0039】
無溶媒下で製造する方法としては、例えば、メカノケミカル効果を利用した方法が挙げられる。メカノケミカル効果を利用した方法とは、反応に用いる原料化合物を粉砕する際に生じる機械的エネルギーを利用することによりメカノケミカル効果を発現させることで有機化合物を得る方法である。
【0040】
メカノケミカル効果とは、反応環境下において固体状態にある原料化合物に機械的エネルギー(圧縮力、せん断力、衝撃力、摩砕力等)を付与することにより、当該原料化合物を粉砕し、形成される粉砕界面を活性化させる効果(または現象)のことである。これにより、官能基同士の反応が起こる。官能基同士の反応は通常、2つ以上の原料化合物分子間で起こる。例えば、官能基同士の反応は化学構造の異なる2つの原料化合物分子間で起こってもよいし、または化学構造の同じ2つの原料化合物分子間で起こってもよい。官能基同士の反応は限定的な1組の2つの原料化合物分子間のみで起こるわけではなく、通常は他の組の2つの原料化合物分子間でも起こる。官能基同士の反応により生成した化合物分子と、原料化合物分子との間で、新たに官能基同士の反応が起こってもよい。官能基同士の反応は通常、化学反応であり、これにより、2つの原料化合物分子間で、各原料化合物分子が有する官能基により、結合基(特に共有結合)が形成されて、別の1つの化合物分子が生成する。
【0041】
反応環境とは反応のために原料化合物が置かれる環境、すなわち機械的エネルギーが付与される環境という意味であり、例えば、装置内の環境であってもよい。反応環境下において固体状態にあるとは、機械的エネルギーが付与される環境下(例えば、装置内の温度および圧力下)において固体状態にあるという意味である。反応環境下において固体状態にある原料化合物は通常、常温(25℃)および常圧(101.325kPa)下で固体状態であればよい。反応環境下において固体状態にある原料化合物は、機械的エネルギーの付与の開始時において、固体状態にあればよい。本発明は、反応環境下において固体状態にある原料化合物が、機械的エネルギーの付与の継続に伴う温度および/または圧力等の上昇により、反応中(または処理中)に液体状態(例えば、溶融状態)に変化することを妨げるものではないが、反応率の向上の観点から、反応中(または処理中)、継続的に固体状態にあることが好ましい。
【0042】
メカノケミカル効果の詳細は明らかではないが、以下の原理に従うものと考えられる。1種以上の固体状態の原料化合物に機械的エネルギーを付与して粉砕が起こると、当該機械的エネルギーの吸収により粉砕界面が活性化される。このような粉砕界面の表面活性エネルギーにより、2つの原料化合物分子間で化学反応が起こるものと考えられる。粉砕とは、原料化合物粒子への機械的エネルギーの付与により、当該粒子が当該機械的エネルギーを吸収して、当該粒子に亀裂が生じ、表面が更新されることをいう。表面が更新されるとは、新たな表面として粉砕界面が形成されることである。メカノケミカル効果において、表面の更新により形成される新たな表面の状態は、粉砕による粉砕界面の活性化が起こる限り、特に限定されず、乾燥状態にあってもよいし、または湿潤状態にあってもよい。表面の更新による新たな表面の湿潤状態は、固体状態の原料化合物とは別の液体状態にある原料化合物に起因する。
【0043】
機械的エネルギーは、反応環境下において固体状態にある1種以上の原料化合物を含む原料混合物に対して付与される。原料混合物の状態は、機械的エネルギーの付与により、固体状態の原料化合物の粉砕が起こる限り、特に限定されない。例えば、原料混合物に含まれる全ての原料化合物が固体状態にあることに起因して、原料混合物は乾燥状態にあってもよい。また例えば、原料混合物に含まれる少なくとも1種の原料化合物が固体状態であり、かつ残りの原料化合物が液体状態であることに起因して、原料混合物は湿潤状態であってもよい。具体的には、例えば、原料混合物が1種のみの原料化合物を含む場合、当該1種の原料化合物は固体状態である。また例えば、原料混合物が2種の原料化合物を含む場合、当該2種の原料化合物はともに固体状態であってもよいし、または一方の原料化合物が固体状態にあり、かつ他方の原料化合物が液体状態にあってもよい。
【0044】
メカノケミカル効果を利用した方法において、官能基は、分子構造の中で反応性の原因となり得る1価の基(原子団)のことであり、炭素間二重結合、炭素間三重結合等の不飽和結合基(例えばラジカル重合性基)を除く概念で用いるものとする。官能基は、炭素原子およびヘテロ原子を含有する基である。ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群、特に酸素原子および窒素原子からなる群から選択される1つ以上の原子である。官能基は水素原子をさらに含有してもよい。反応に供される官能基は通常、2つの官能基であり、一方の官能基を有する原料化合物分子と、他方の官能基を有する原料化合物分子とは、構造が相互に異なっていてもよいし、または同一であってもよい。反応により、2つの原料化合物分子の結合(特に共有結合)が形成され、それらの1分子化が達成される。官能基同士の反応により、水、二酸化炭素、および/またはアルコール等の小分子が副生してもよいし、または副生しなくてもよい。
【0045】
官能基同士の反応は、化学反応し得るあらゆる官能基(特に1価の官能基)同士の反応であってもよく、例えば、カルボキシル基およびそのハロゲン化物(基)、酸無水物基、アミノ基、イソシアネート基、ならびにヒドロキシル基等からなる群から選択される2つの官能基の反応である。当該2つの官能基は、化学反応が起こる限り、特に限定されず、例えば、化学構造の異なる2つの官能基であってもよいし、または化学構造の同じ2つの官能基であってもよい。
【0046】
官能基同士の反応として、例えば、縮合反応、付加反応またはこれらの複合反応等が挙げられる。
【0047】
縮合反応とは、原料化合物分子間で、水、二酸化炭素、アルコール等の小分子の脱離を伴いながら、原料化合物分子間の結合または連結が達成される反応のことである。縮合反応として、例えば、アミド基が生成する反応(アミド化反応)、イミド基が生成する反応(イミド化反応)、またはエステル基が生成する反応(エステル化反応)等が挙げられる。
【0048】
付加反応は、官能基間での付加反応であり、原料化合物分子間で、小分子の脱離を伴うことなく、原料化合物分子間の結合または連結が達成される反応のことである。付加反応として、例えば、ウレア基が生成する反応、ウレタン基が生成する反応、および環状構造が開環する反応(すなわち、開環反応)等が挙げられる。開環反応は、環状構造を有する原料化合物(例えば、酸無水物基含有化合物、環状アミド化合物、環状エステル化合物、エポキシ化合物)において、環状構造の一部が開裂し、その開裂した部位と他の原料化合物の官能基との結合または連結が達成される反応のことである。開環反応により、例えば、アミド基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基が生成する。特に、原料化合物としての酸無水物基含有化合物における酸無水物基の開環反応においては、当該酸無水物基が開環されて、別の原料化合物分子(アミノ基またはヒドロキシル基)との結合または連結が達成される。その結果として、例えば、アミド基またはエステル基と、カルボキシル基とが同時に生成する。
【0049】
官能基同士の反応は、より詳しくは、例えば、以下の反応からなる群から選択される1種以上の反応であってもよい:
(A)酸無水物基と、アミノ基との反応により、(a1)アミド基およびカルボキシル基、(a2)イミド基、(a3)イソイミド基または(a4)これらの混合基が生成する反応;
(B)酸無水物基と、イソシアネート基との反応によりイミド基が生成する反応;
(C)カルボキシル基またはそのハロゲン化物(基)と、アミノ基またはイソシアネート基との反応により、アミド基が生成する反応;
(D)カルボキシル基またはそのハロゲン化物(基)と、ヒドロキシル基との反応により、エステル基が生成する反応;
(E)イソシアネート基と、アミノ基との反応により、ウレア基が生成する反応;
(F)イソシアネート基と、ヒドロキシル基との反応により、ウレタン基が生成する反応;および
(G)酸無水物基と、ヒドロキシル基との反応により、エステル基およびカルボキシル基が生成する反応。
【0050】
上記したイミド基含有硬化剤をそれぞれ上記した原料化合物から製造する場合において、官能基同士の反応は上記(A)の反応に対応する。無溶媒下で製造する方法においては、メカノケミカル効果を利用した方法を実施した後、溶媒中で製造する方法におけるイミド化の方法と同様の方法により、イミド化をおこなってもよい。
【0051】
[エポキシ樹脂]
本発明で用いられるエポキシ樹脂は1分子中、2個以上のエポキシ基を有する有機化合物である限り特に限定されない。エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、アクリル酸変性エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、リン変性エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂は単独でもよいし、2種類以上を併用してもよい。エポキシ基はグリシジル基であってもよい。エポキシ樹脂は市販品として入手可能である。
【0052】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は通常、100〜3000であり、好ましくは150〜300である。
【0053】
[添加剤]
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、硬化促進剤、熱硬化性樹脂、無機充填材、酸化防止剤、難燃剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0054】
硬化促進剤は特に限定されないが、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール当のイミダゾール類;4−ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン類;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の有機ホスフィン類が挙げられる。硬化促進剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
硬化促進剤の配合量は特に限定されず、例えば、後述のエポキシ樹脂溶液全量に対して、0.01〜2質量%であり、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性、誘電特性および絶縁性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.01〜1質量%であり、より好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0056】
熱硬化性樹脂は特に限定されず、例えば、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
無機充填材としては、シリカ、ガラス、アルミナ、タルク、マイカ、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、窒化珪素、窒化ホウ素等が挙げられる。無機充填材は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、無機充填材はエポキシシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されたものが好ましい。無機充填材は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0058】
酸化防止剤として、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0059】
難燃剤は特に限定されず、環境への影響の観点から非ハロゲン系難燃剤が好ましい。難燃剤としてはリン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤等が挙げられる。難燃剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0060】
<電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物の製造方法>
本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物は、イミド基含有硬化剤およびエポキシ樹脂を含む、後で詳述のエポキシ樹脂溶液を加熱することにより製造することができる。
例えば、エポキシ樹脂溶液を基材に塗工し、加熱により乾燥および硬化させることにより、本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物を製造することができる。硬化後、硬化物を基材から剥離して用いてもよい。エポキシ樹脂溶液の塗工方法は、特に限定されず、例えば、キャスティング法、ディッピング法等が挙げられる。エポキシ樹脂溶液を基材に塗布し、乾燥、硬化した後、基材から剥離することにより、エポキシ樹脂硬化物を、シート、フィルム等の形態で得ることができる。
【0061】
また例えば、エポキシ樹脂溶液を金型に流し込みつつ成形し、乾燥および硬化させることにより、本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物を製造することができる。エポキシ樹脂溶液の成形方法は、特に限定されず、例えば、トランスファ成形法、インジェクション成形法等が挙げられる。
【0062】
本発明のエポキシ樹脂溶液を用いて得られた被膜、フィルムおよびその積層体、そのモールド品(すなわち成形品)を加熱することにより、イミド基含有硬化剤とエポキシ樹脂とを反応させ、硬化を完全に達成することができる。加熱温度(硬化温度)は通常、80〜350℃であり、好ましくは130〜300℃である。加熱時間(硬化時間)は通常、1分〜20時間であり、好ましくは5分〜10時間である。
【0063】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、あらゆる寸法を有していてもよい。本発明のエポキシ樹脂硬化物が、例えば、被膜、板、フィルム、シート等の形態を有する場合、当該硬化物の厚みは通常、1μm〜100mmであってもよい。
【0064】
[エポキシ樹脂溶液]
エポキシ樹脂溶液は、少なくともイミド基含有硬化剤およびエポキシ樹脂を有機溶媒に混合してなる。好ましくは、エポキシ樹脂溶液においては、イミド基含有硬化剤およびエポキシ樹脂は有機溶媒中に溶解されており、少なくともイミド基含有硬化剤、エポキシ樹脂および有機溶媒は分子レベルで均一に混合されている。溶解とは、溶質が溶媒中、分子レベルで均一に混合されることをいう。溶液とは、溶質が溶媒中、分子レベルで均一に混合されている状態のことであり、例えば、常温(25℃)および常圧(101.325kPa)下において、溶質が溶媒に、肉眼にて透明に見える程度に溶解されている混合液体のことである。エポキシ樹脂溶液は、前記した添加剤をさらに含んでもよい。
【0065】
エポキシ樹脂溶液に用いる有機溶媒は、硬化剤およびエポキシ樹脂が均一に溶解できれば特に限定されず、環境への影響の観点から非ハロゲン化溶媒が好ましい。このような非ハロゲン化溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド化合物が挙げられる。これらの非ハロゲン化溶媒はいずれも汎用溶媒として有用である。前記有機溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
エポキシ樹脂溶液の製造方法は、特に限定されず、例えば、個別溶解法、一括溶解法等であってもよい。短時間で均一な樹脂溶液を得る観点から個別溶解法が好ましい。個別溶解法は、予めイミド基含有硬化剤とエポキシ樹脂をそれぞれ有機溶媒に混合および溶解した後、それらを混合する方法である。一括溶解法とは、イミド基含有硬化剤およびエポキシ樹脂を同時に有機溶媒に混合し、溶解する方法である。個別溶解法および一括溶解法において、混合温度は特に限定されず、例えば80〜180℃、特に100〜160℃であってよい。上記混合温度を達成するための加熱は、例えば、有機溶媒の還流加熱であってもよい。
【0067】
エポキシ樹脂溶液において、イミド基含有硬化剤の配合量は、得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性、誘電特性および絶縁性のさらなる向上の観点から、イミド基含有硬化剤の官能基当量がエポキシ樹脂のエポキシ当量に対して、好ましくは0.5〜1.5当量比、より好ましくは0.7〜1.3当量比となるような量であることが好ましい。イミド基含有硬化剤の官能基当量は、ヒドロキシ基またはカルボキシル基の含有量から算出される当量に相当する。
【0068】
エポキシ樹脂溶液において、イミド基含有硬化剤およびエポキシ樹脂の合計配合量は特に限定されず、得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性、誘電特性および絶縁性のさらなる向上の観点から、エポキシ樹脂溶液全量に対して、好ましくは30〜90質量%であり、より好ましくは40〜80質量%であり、さらに好ましくは50〜70質量%である。
【0069】
エポキシ樹脂溶液は通常、10〜70Pa・s、特に30〜70Pa・s、好ましくは40〜60Pa・sの粘度を有しており、いわゆるゲル形態を有するものではない。ゲルは粘度を有するものではなく、一般的に流動性を有さない固形物の状態のことである。エポキシ樹脂溶液は、詳しくは、さらなる溶媒と混合されると、相互に容易に相溶し、全体として分子レベルで均一に混合される。しかし、ゲルは、さらなる溶媒と混合されても、相互に相溶せずに塊状で残留し、全体として分子レベルで均一には混合されない。相溶の判定の際の混合は通常、溶液またはゲルを100gと、さらなる溶媒100gとの、常温(25℃)、常圧(101.325kPa)および100rpmの撹拌条件下での混合であってもよい。このとき「さらなる溶媒」は、溶液またはゲルに含まれる溶媒と相溶する溶媒であり、例えば、溶液またはゲルに含まれる溶媒と同じ構造式で表される溶媒である。エポキシ樹脂溶液の粘度は、ブルックフィールドデジタル粘度計により測定された30℃での粘度である。
【0070】
エポキシ樹脂溶液においては、エポキシ樹脂が無意に反応し難いために、上記のように比較的低い粘度を有し得る。このため、エポキシ樹脂溶液を用いて、十分な作業性で硬化物を製造することができる。詳しくは、エポキシ樹脂溶液は通常、10%以下の反応率を有している。反応率は、エポキシ樹脂が有するグリシジル基の全数に対する、エポキシ樹脂溶液中で反応したグリシジル基の数の割合である。
【0071】
<電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物の用途>
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、耐熱性、誘電特性および電気絶縁性のうちの少なくとも1つの特性(好ましくは少なくとも電気絶縁性を含む特性)が要求されるあらゆる用途において有用である。詳しくは、本発明のエポキシ樹脂硬化物は、あらゆる電気絶縁性材料として好ましく使用することができる。そのような電気絶縁性材料として、例えば、封止材(例えば、パワー半導体モジュール用封止材)、碍子(特に碍子被覆材)(例えば、送電線用碍子(特に送電線用碍子被覆材))、電線被覆材(例えば、電気自動車用電線被覆材)、プリント配線板用絶縁材料等が挙げられる。
【0072】
電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物の封止材としての使用:
本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物を封止材として使用する場合、例えば、パワー半導体モジュールを作製した後、モジュールがセットされた金型内にエポキシ樹脂溶液を充填し、乾燥および硬化することで、本発明のエポキシ樹脂硬化物をパワー半導体モジュール用封止材として使用することができる。
【0073】
電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物の碍子被覆材としての使用:
本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物を碍子被覆材として使用する場合、例えば、エポキシ樹脂溶液を用いて、碍子のコアの外周部(特に外周表面)を被覆して層を形成し、乾燥および硬化させることにより、本発明のエポキシ樹脂硬化物を碍子被覆材として使用することができる。コアとしては、通常、円筒状又は円柱状等の様々な形状に成形された、ガラス繊維強化エポキシ樹脂、ガラス繊維強化フェノール樹脂等のガラス繊維強化プラスチックが挙げられる。コアの外周部に形成される被覆材としてのエポキシ樹脂硬化物の厚さは、得られるポリマー碍子のサイズや形状(例えば、カサ部の有無や、その形状、サイズ、間隔)に応じて変更すればよいが、耐熱性、誘電特性および絶縁性等のさらなる向上の観点から、最も厚さの薄い部分が、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましい。本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物を碍子被覆材として使用する場合において、被覆材の厚みは通常、1〜100mmであり、好ましくは2〜50mmである。本発明のエポキシ樹脂硬化物を碍子被覆材として使用する場合、本発明のエポキシ樹脂硬化物は、絶縁性(特に電荷の局所的蓄積による絶縁破壊をより十分に防止する絶縁性)の観点から、送電線用の碍子被覆材として特に有用である。
【0074】
電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物の電線被覆材としての使用:
本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物を電線被覆材として使用する場合、エポキシ樹溶液を、導体の表面に塗布し、焼付け(すなわち乾燥および硬化)することにより、本発明のエポキシ樹脂硬化物を電線被覆材として使用することができる。導体としては、例えば、銅、銅合金が挙げられる。塗布方法および焼付け方法は、従来の電線被覆の形成方法における塗布方法および焼付け方法と同様な方法、条件により行うことができる。塗布および焼付けは、2回以上繰り返してもよい。エポキシ樹脂溶液は、他の樹脂と混合して用いてもよい。電線被覆材の厚みは、導体を保護する観点から、1〜100μmとすることが好ましく、10〜50μmとすることがより好ましい。本発明のエポキシ樹脂硬化物を電線被覆材として使用する場合、本発明のエポキシ樹脂硬化物は、絶縁性(特に電荷の局所的蓄積による絶縁破壊をより十分に防止する絶縁性)の観点から、電気自動車用の電線被覆材として特に有用である。
【0075】
電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物のプリント配線板用絶縁材料としての使用:
プリント配線板は通常、電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物を含み、さらにガラスクロスを含んでもよい。本発明の電気絶縁性エポキシ樹脂硬化物をプリント配線板用絶縁材料として使用する場合、エポキシ樹脂溶液をガラスクロスに含浸または塗布させた後、乾燥および硬化することで、本発明のエポキシ樹脂硬化物をプリント配線板用絶縁材料として使用することができる。プリント配線基板であってもよい。プリント配線板は、その表面上および/または内部に、配線(導体)が配置されてもよいし、かつ/または電子部品が取り付られてもよい。プリント配線板の厚みは特に限定されない。
【0076】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、その他の用途の電気電子材料、例えば、ブッシング変圧器用のモールド材、固体絶縁スイッチギア用のモールド材、原子力発電所用電気ペネトレーション、ビルドアップ積層板等の電気電子材料としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、評価および測定は以下の方法により行った。
【0078】
A.評価および測定
[イミド基含有硬化剤の作製方法と評価方法]
(1)イミド基含有硬化剤の作製方法
酸成分とアミン成分を表に記載の比率で混合した試料150gを、ワンダークラッシャー(大阪ケミカル株式会社)WC−3Cにより、およそ9000rpmの回転速度で1分間混合粉砕することを3回繰り返すことで、メカノケミカル処理を行った。
処理した試料をガラス容器に移し、イナートオーブン(ヤマト科学株式会社)DN411Iにて、窒素雰囲気下で焼成温度300℃、焼成時間2時間のイミド化反応を行った。
なお、イミド基含有硬化剤の同定は、後述のように、分子量が目的とする構造の分子量と同じであること、および赤外分光法においてイミド基に由来する吸収があることにより行った。
【0079】
(2)イミド基含有硬化剤の分子量
高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)により、以下の条件で測定し、分子量を求めた。
試料:イミド基含有硬化剤/DMSO溶液(200μg/mL)
装置:ブルカー・ダルトニクス製microTOF2−kp
カラム:Cadenza CD−C18 3μm 2mm×150mm
移動相:(移動相A)0.1% ギ酸水溶液、(移動相B)メタノール
グラジエント(B Conc.):0min(50%)−5,7min(60%)−14.2min(60%)−17min(100%)−21.6min(100%)−27.2min(50%)−34min(50%)
イオン化法:ESI
検出条件:Negativeモード
【0080】
(3)反応の確認
赤外分光法(IR)により、以下の条件で測定し、同定を行った。
【0081】
赤外分光法(IR)
装置:Perkin Elmer製 System 2000 赤外分光装置
方法:KBr法
積算回数:64スキャン(分解能4cm-1
イミド基に由来する1778cm−1付近および1714cm−1付近の吸収の有無を確認した。
◎:(反応が進行した)ある場合;
×:(反応が進行していない)ない場合。
【0082】
[エポキシ樹脂硬化物の評価方法]
(1)反応性
実施例および比較例の各々で得られたエポキシ樹脂硬化物について下記の条件により透過赤外吸収スペクトル(IR)測定を行い、グリシジル基の吸光度比を求めた。
グリシジル基に由来する吸収は、通常、900〜950cm−1の波数領域に検出される。これらの波数に検出される吸収ピークの両サイドの基底部を直線的に結んだ線をベースラインとし、ピークの頂点からベースラインに対し垂直に線を引いた時の交点からピークの頂点までの長さを吸光度とし、算出した。
【0083】
赤外分光法(IR)
装置:Perkin Elmer製 System 2000 赤外分光装置
方法:KBr法
積算回数:64スキャン(分解能4cm−1
【0084】
次に、グリシジル基の反応率の算出法の詳細について述べる
まず、実施例および比較例の各々で得られたエポキシ樹脂溶液をKBr粉末と混合することによりIR測定用試料を作製し測定を行った。得られたスペクトル中で最も高い吸光度を示すピークの強度が吸光度0.8〜1.0の範囲に入ることを確認し、グリシジル基の吸光度αを求めた。次に、この試料をオーブンにて窒素気流下300℃の温度で2時間熱処理して、硬化反応を完全に進行させた。この、硬化させた試料について同じ方法によりIR測定を行い、グリシジル基に起因する波数の吸光度α´を求めた。このとき試料の反応率を硬化反応前のグリシジル基の反応率を0%として、次式より求めた。
反応率(%)={1−(α´/α)}×100
◎:90%以上100%以下(最良);
○:80%以上90%未満(良);
△:70%以上80%未満(実用上問題なし);
×:70%未満(実用上問題あり)。
【0085】
(2)ガラス転移温度(Tg)(耐熱性)
示差走査熱量測定装置(DSC)により、以下の条件で測定し、同定を行った。
【0086】
装置:Perkin Elmer製 DSC 7
昇温速度:20℃/min
25℃から300℃まで昇温し、降温後、再度25℃から300℃まで昇温し、得られた昇温曲線中の転移温度に由来する不連続変化の開始温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0087】
・エポキシ樹脂として「jER828:三菱化学社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂」を用いた場合
◎:190℃≦Tg(最良);
○:170℃≦Tg<190℃(良);
△:140℃≦Tg<170℃(実用上問題なし);
×:Tg<140℃(実用上問題あり)。
【0088】
・エポキシ樹脂として「EOCN−1020−55:日本化薬社製、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂」を用いた場合
◎:200℃≦Tg(最良);
○:180℃≦Tg<200℃(良);
△:150℃≦Tg<180℃(実用上問題なし);
×:Tg<150℃(実用上問題あり)。
【0089】
(3)絶縁性(電荷密度分布の測定)
実施例および比較例の各々で得られたエポキシ樹脂硬化物について高温測定用パルス静電応力(PEA)測定システムにより、以下の条件で電荷密度分布を測定し、得られるサンプル中の最大電界の評価を行った。エポキシ樹脂硬化物サンプルはシリコンオイルに浸された状態で高電圧印加ユニットに設置後、140℃になるまで加熱し、140℃に到達した後、140℃一定に制御して、30分後に直流電圧を印加した。陽極(アノード)には試料の音響特性インピーダンスを考慮して、市販の導電性PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)のシートを用い、陰極(カソード)はアルミニウム板を用いた。エポキシ樹脂硬化物(試料)はフィルム形状を有し、陽極と陰極との間で挟持されている。直流電圧を印加するに際しては、試料の厚さを考慮して、平均電界が20kV/mmに相当する直流電圧を10分間印加し、その後5分間短絡して、その電圧印加中および短絡中にパルス電圧(5ns,200V)を1ms間隔(1kHz)で印加し、得られた波形を1000回加算平均して1波形を得た。なお、測定間隔は10秒である。上記の20kV/mmの印加中および短絡中の測定が終了した後には、平均印加電界が40kV/mmとなるよう、印加する直流電圧を増加させ、上記と同様の一連の測定を行ない、これを順次、60,80,100および120kV/mmに相当する平均印加電界下で測定を繰り返した。このように経時的に測定された電荷密度分布を図1および図2に示す。図1は、実施例A−1、B−1、B−2およびC−1のエポキシ樹脂硬化物(特にビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂硬化物)についての電荷密度分布の経時的変化を示すチャートである。図2は、比較例1〜3のエポキシ樹脂硬化物(特にビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂硬化物)についての電荷密度分布の経時的変化を示すチャートである。最大電界(特に最大電界/印加電界の比)が小さいほど、絶縁性に優れていることを示す。
【0090】
装置:高電圧印加ユニット
試料寸法:長さ50mm×幅50mm×厚み100μm以上150μm以下
印加電界:20、40、60、80、100、120kV/mm
測定温度:140℃
【0091】
・エポキシ樹脂として「jER828:三菱化学社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂」を用いた場合
◎:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.1以下であった(最良);
○:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.1より大きく1.3以下であった(良);
△:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.3より大きく1.5以下であった(実用上問題なし);
×:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.5より大きかった(実用上問題あり)。
【0092】
・エポキシ樹脂として「EOCN−1020−55:日本化薬社製、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂」を用いた場合
◎:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.2以下であった(最良);
○:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.2より大きく1.4以下であった(良);
△:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.4より大きく1.6以下であった(実用上問題なし);
×:印加電界に対するサンプル中の最大電界の比が最大で1.6より大きかった(実用上問題あり)。
【0093】
(4)誘電特性(誘電率、誘電正接)
インピーダンス・アナライザにより、以下の条件で測定し、評価を行った。
【0094】
インピーダンス・アナライザ
装置:アジレント・テクノロジー株式会社製E4991A RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ
試料寸法:長さ20mm×幅20mm×厚み150μm
周波数:1GHz
測定温度:23℃
試験環境:23℃±1℃、50%RH±5%RH
【0095】
・エポキシ樹脂として「jER828:三菱化学社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂」を用いた場合
◎:誘電率≦2.6(最良);
○:2.6<誘電率≦3.0(良);
△:3.0<誘電率≦3.3(実用上問題なし);
×:3.3<誘電率(実用上問題あり)。
◎:誘電正接≦0.0175(最良);
○:0.0175<誘電正接≦0.020(良);
△:0.020<誘電正接≦0.030(実用上問題なし);
×:0.030<誘電正接(実用上問題あり)。
【0096】
・エポキシ樹脂として「EOCN−1020−55:日本化薬社製、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂」を用いた場合
◎:誘電率≦2.8(最良);
○:2.8<誘電率≦3.2(良);
△:3.2<誘電率≦3.4(実用上問題なし);
×:3.4<誘電率(実用上問題あり)。
◎:誘電正接≦0.0195(最良);
○:0.0195<誘電正接≦0.030(良);
△:0.030<誘電正接≦0.042(実用上問題なし);
×:0.042<誘電正接(実用上問題あり)。
【0097】
(5)総合評価
耐熱性、誘電特性および絶縁性の評価結果に基づいて、総合的に評価した。
◎:全ての評価結果が◎であった。
○:全ての評価結果うち、最も低い評価結果が○であった。
△:全ての評価結果うち、最も低い評価結果が△であった。
×:全ての評価結果うち、最も低い評価結果が×であった。
【0098】
[エポキシ樹脂溶液の評価方法]
(1)エポキシ樹脂溶液の粘度
実施例および比較例の各々で得られたエポキシ樹脂溶液について、ブルックフィールドデジタル粘度計(東機産業TVB−15M)を用いて30℃での粘度(Pa・s)を測定した。
【0099】
(2)エポキシ樹脂溶液に含まれるイミド基含有硬化剤の溶解性
実施例および比較例の各々で得られたエポキシ樹脂溶液中の溶け残り成分(残存物)の有無を目視により観察した。
◎(溶解性有り):溶け残り無し;150℃での混合10分間以内に完全に溶解した。
○(溶解性有り):溶け残り無し;150℃での混合10分間超で完全に溶解した(溶解までに時間を要する)。
×(溶解性無し):溶け残り有り;得られたエポキシ樹脂溶液中に溶け残りがあった。
【0100】
B.原料
(1)イミド基含有硬化剤
[ジイミドジカルボン酸の作製]
合成例A−1
前記した「イミド基含有硬化剤の作製方法」に基づいてジイミドジカルボン酸を作製した。詳しくは、以下の通りである。
粉砕槽に、粒状の無水トリメリット酸521質量部と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル479質量部を添加し、混合粉砕を行った。
その後、前記混合物をガラス容器に移し、イナートオーブンにより、窒素雰囲気下で300℃、2時間のイミド化反応を行い、イミド基含有硬化剤を作製した。
【0101】
[ジイミドテトラカルボン酸の作製]
合成例B−1
前記した「イミド基含有硬化剤の作製方法」に基づいてジイミドテトラカルボン酸を作製した。詳しくは、以下の通りである。
粉砕槽に、粒状の3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物471質量部と2−アミノテレフタル酸529質量部を添加し、混合粉砕を行った。
その後、前記混合物をガラス容器に移し、イナートオーブンにより、窒素雰囲気下で300℃、2時間のイミド化反応を行い、イミド基含有硬化剤を作製した。
【0102】
合成例B−2
酸二無水物組成およびモノアミン組成を変更する以外は、合成例B−1と同様の操作をおこなって、イミド基含有硬化剤を得た。
【0103】
[モノイミドトリカルボン酸の作製]
合成例C−1
前記した「イミド基含有硬化剤の作製方法」に基づいてモノイミドトリカルボン酸を作製した。詳しくは、以下の通りである。
粉砕槽に、粒状の無水トリメリット酸515質量部と2−アミノテレフタル酸485質量部を添加し、混合粉砕を行った。
その後、前記混合物をガラス容器に移し、イナートオーブンにより、窒素雰囲気下で300℃、2時間のイミド化反応を行い、イミド基含有硬化剤を作製した。
【0104】
(2)エポキシ樹脂
・jER828:三菱化学社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量184〜194g/eq
・EOCN−1020−55:日本化薬社製、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量195g/eq
【0105】
(3)イミド系硬化剤以外の硬化剤
・PHENOLITE TD−2131:DIC社製、ノボラック型フェノール樹脂、イミド基を含まない硬化剤;当該硬化剤は以下の構造式を有する。
【0106】
【化1】
【0107】
・HN−2200:日立化成社製、脂環式酸無水物、イミド基を含まない硬化剤;当該硬化剤は以下の構造式を有する。
【0108】
【化2】
【0109】
・jERcure113:三菱ケミカル社製、変性脂環式アミン、イミド基を含まない硬化剤。
【0110】
実施例A−1
合成例A−1で得られたイミド基含有硬化剤とエポキシ樹脂(jER828)を1.0/1.1(当量比)の割合で混合した試料60質量部に対して、硬化促進剤(2−エチル−4−メチルイミダゾール、東京化成工業社製)0.2質量部と、ジメチルホルムアミド(DMF)39.8質量部とを室温(すなわち20℃)にて混合し、150℃で0.5時間の還流加熱を行い、エポキシ樹脂溶液を得た。
本実施例で得られたエポキシ樹脂溶液は50Pa・sの粘度を有しており、十分に良好な作業性を有していた。
【0111】
得られたエポキシ樹脂溶液をアルミ基材に300μmの厚みで塗工し、作製した塗膜をイナートオーブンにて、窒素雰囲気下、180℃で2時間、続いて300℃で2時間乾燥して、脱溶媒および硬化反応を行った。得られたアルミ基材付き試料からアルミ基材を除去し、エポキシ樹脂硬化物を得た。エポキシ樹脂硬化物(エポキシ樹脂「jER828」を用いたエポキシ樹脂硬化物)の平均厚みは112μmであった。本明細書中、平均厚みは任意の10点での厚みの平均値のことである。
【0112】
なお、エポキシ樹脂として「jER828」の代わりに、「EOCN−1020−55」(日本化薬社製、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)を用いる以外、本実施例における上記した方法と同様の方法により、エポキシ樹脂溶液およびエポキシ樹脂硬化物を作製した。エポキシ樹脂溶液は50Pa・sの粘度を有しており、十分に良好な作業性を有していた。エポキシ樹脂硬化物(エポキシ樹脂「EOCN−1020−55」を用いたエポキシ樹脂硬化物)の平均厚みは103μmであった。
【0113】
実施例B−1、B−2およびC−1ならびに比較例1
合成例B−1、B−2またはC−1で得られたイミド基含有硬化剤または硬化剤「PHENOLITE TD−2131」を用いる以外は実施例A−1と同様の操作をおこなって、エポキシ樹脂溶液およびエポキシ樹脂硬化物を作製した。なお、各実施例において使用されるイミド基含有硬化剤は、当該実施例番号と同じ番号の合成例で得られたものである。
【0114】
実施例B−1、B−2およびC−1ならびに比較例1で得られたエポキシ樹脂溶液に含まれるエポキシ樹脂におけるグリシジル基の反応率はいずれも10%以下であった。
実施例B−1、B−2およびC−1ならびに比較例1で得られたエポキシ樹脂溶液の粘度はいずれも30〜70Pa・sであり、十分に良好な作業性を有していた。
【0115】
エポキシ樹脂硬化物の平均厚みは以下の通りであった。
エポキシ樹脂「jER828」を用いたエポキシ樹脂硬化物の平均厚み:
116μm(実施例B−1)、115μm(実施例B−2)、122μm(実施例C−1)、112μm(比較例1)。
エポキシ樹脂「EOCN−1020−55」を用いたエポキシ樹脂硬化物の平均厚み:
120μm(実施例B−1)、104μm(実施例B−2)、114μm(実施例C−1)、106μm(比較例1)。
【0116】
比較例2
脂環式酸無水物硬化剤HN−2200とエポキシ樹脂(jER828)、および硬化促進剤(2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール、三菱ケミカル社製)を100/80/1(重量比)の割合で室温(すなわち20℃)にて混合し、エポキシ樹脂溶液を得た。
本比較例で得られたエポキシ樹脂溶液は50Pa・sの粘度を有しており、十分に良好な作業性を有していた。
【0117】
得られたエポキシ樹脂溶液をアルミ基材に300μmの厚みで塗工し、作製した塗膜をイナートオーブンにて、窒素雰囲気下、120℃で5時間、続いて150℃で15時間乾燥して、硬化反応を行った。得られたアルミ基材付き試料からアルミ基材を除去し、エポキシ樹脂硬化物を得た。エポキシ樹脂硬化物(エポキシ樹脂「jER828」を用いたエポキシ樹脂硬化物)の平均厚みは133μmであった。
【0118】
なお、エポキシ樹脂として「jER828」の代わりに、「EOCN−1020−55」(日本化薬社製、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)を用いる以外、本比較例における上記した方法と同様の方法により、エポキシ樹脂溶液およびエポキシ樹脂硬化物を作製した。エポキシ樹脂溶液は40Pa・sの粘度を有しており、十分に良好な作業性を有していた。エポキシ樹脂硬化物(エポキシ樹脂「EOCN−1020−55」を用いたエポキシ樹脂硬化物)の平均厚みは140μmであった。
【0119】
比較例3
変性脂環式アミン硬化剤jERcure113とエポキシ樹脂(jER828)を100/10(重量比)の割合で室温(すなわち20℃)にて混合し、エポキシ樹脂溶液を得た。
本比較例で得られたエポキシ樹脂溶液は50Pa・sの粘度を有しており、十分に良好な作業性を有していた。
【0120】
得られたエポキシ樹脂溶液をアルミ基材に300μmの厚みで塗工し、作製した塗膜をイナートオーブンにて、窒素雰囲気下、80℃で1時間、続いて150℃で3時間乾燥して、硬化反応を行った。得られたアルミ基材付き試料からアルミ基材を除去し、エポキシ樹脂硬化物を得た。エポキシ樹脂硬化物(エポキシ樹脂「jER828」を用いたエポキシ樹脂硬化物)の平均厚みは139μmであった。
【0121】
なお、エポキシ樹脂として「jER828」の代わりに、「EOCN−1020−55」(日本化薬社製、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)を用いる以外、本比較例における上記した方法と同様の方法により、エポキシ樹脂溶液およびエポキシ樹脂硬化物を作製した。エポキシ樹脂溶液は40Pa・sの粘度を有しており、十分に良好な作業性を有していた。エポキシ樹脂硬化物(エポキシ樹脂「EOCN−1020−55」を用いたエポキシ樹脂硬化物)の平均厚みは123μmであった。
【0122】
実施例および比較例の各々における硬化剤の特性値およびエポキシ樹脂硬化物の特性値を表1〜表4に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
実施例A−1〜C−1のエポキシ樹脂硬化物は、本発明の要件を満たしていたため、耐熱性、誘電特性および絶縁性の全ての物性に十分に優れていた。
【0128】
これらの実施例の中でも、ジイミドジカルボン酸系化合物を用いた実施例A−1のみにおいて、耐熱性、誘電特性および絶縁性の全ての評価結果は◎を達成している。
【0129】
比較例1〜3のエポキシ樹脂硬化物は、イミド基を含有しない硬化剤を用いたため、耐熱性、誘電特性および絶縁性のうちの少なくとも1つの物性に劣っていた。
【0130】
特に絶縁性について、実施例および比較例の各々のエポキシ樹脂硬化物における最大電界/印加電界の比ならびに図1および図2の電荷密度分布の経時的変化チャートから、以下の事項が明らかである。
・実施例A−1、B−1、B−2およびC−1のエポキシ樹脂硬化物では、高温高電界下において、電荷の局所的な蓄積が十分に防止されていた;
・比較例1〜3のエポキシ樹脂硬化物では、高温高電界下において、電荷の局所的な蓄積が起こった。
【0131】
電荷密度分布の経時的変化チャートからの、電荷の局所的な蓄積現象の観察について、詳しくは、以下の通りである;
図1より、実施例A−1、B−1、B−2およびC−1のエポキシ樹脂硬化物は、陽極と陰極との間で、略一様な電荷密度分布を示していた。
図2より、比較例1〜3のエポキシ樹脂硬化物は、陽極と陰極との間(特に陰極(カソード)の近傍)で、電荷の局所的な蓄積(すなわち、電荷の偏在)が観察された。図2において、電荷の局所的な蓄積がよく現れている部分を実線(だ円形状)により包囲して示した。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、十分に優れた耐熱性、誘電特性および絶縁性を有する。このため、本発明のエポキシ樹脂硬化物は、パワー半導体モジュール用の封止材(特に半導体封止材)、ブッシング変圧器用のモールド材、固体絶縁スイッチギア用のモールド材、送電線用の碍子、電気自動車用の電線被覆材、原子力発電所用電気ペネトレーション、プリント配線板用の絶縁材料、ビルドアップ積層板等の電気電子材料に好適に用いることができる。
図1
図2