【解決手段】 水電解システムは、酸素極と、酸素極側流路と、水素極と、水素極側流路と、を備え、水を電気分解することで酸素と水素を生成する電解セルと、電解セルの酸素極側流路に水供給流路を介して接続されており、電解セルに供給される水を貯留する水貯留部を備える水供給部と、電解セルの酸素極側流路に酸素側流路を介して接続されると共に、水供給流路と酸素供給流路を介して接続される第1酸素貯留部を備え、電解セルで生成された酸素を第1酸素貯留部に貯留し、第1酸素貯留部内の酸素を水供給流路に供給する酸素側処理部と、電解セルによる水の電気分解を停止した時に、酸素側処理部を制御して、酸素貯留部内の酸素を水供給流路に供給させる制御部と、を備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載の水電解システムでは、水電解停止時に、水供給流路や、水電解セル内に水が在る。水供給流路は、例えば、ステンレス鋼等の金属製の配管が用いられることが多く、また、水電解セル内には、金属メッシュ等の給電体が設けられていることが多い。そのため、水電解の停止時間が長いと、水供給流路や、水電解セル内に滞留する滞留水に、水供給流路としての金属製の配管や、水電解セル内の金属メッシュ等から金属イオンが溶出し、滞留水の導電率が上昇する場合がある。水電解システムにおける水電解開始時、水電解セルに水が供給される際に、滞留水も一緒に水電解セルに供給される。そのため、滞留水の導電率が上昇すると、水電解セルに供給される水の導電率が上昇し、水電解セルの電極が劣化する虞がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、水電解システムにおいて、電解セルに供給される水の導電率の上昇を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、水電解システムが提供される。この水電解システムは、酸素極と、酸素極側流路と、水素極と、水素極側流路と、を備え、水を電気分解することで酸素と水素を生成する電解セルと、前記電解セルの前記酸素極側流路に水供給流路を介して接続されており、前記電解セルに供給される水を貯留する水貯留部を備え、前記水貯留部内の水を、前記水供給流路を介して前記電解セルに供給する水供給部と、前記電解セルの前記酸素極側流路に酸素側流路を介して接続されると共に、前記水供給流路と酸素供給流路を介して接続される第1酸素貯留部を備え、前記電解セルで生成された酸素を前記酸素側流路を介して前記第1酸素貯留部に貯留し、前記第1酸素貯留部内の酸素を、前記酸素供給流路を介して前記水供給流路に供給する酸素側処理部と、前記電解セルによる水の電気分解を停止した時に、前記酸素側処理部を制御して、前記酸素貯留部内の酸素を前記水供給流路に供給させる制御部と、を備える。
【0008】
この構成によれば、電解セルによる水の電気分解を停止した時に、第1酸素側処理部の酸素貯留部内の酸素が水供給流路に供給される。水供給流路は、電解セルの酸素極側流路に接続されており、酸素極側流路には酸素側流路が接続されているため、供給された酸素は、水供給流路、電解セルの酸素極側流路、および酸素側流路を流れる。そのため、電解セルによる水の電気分解を停止した時に、水供給流路、電解セルの酸素極側流路、および酸素側流路内に在る水の少なくとも一部を、水電解によって生成された酸素によって、それらの流路から排出させることができる。そのため、電解セルによる水の電気分解の停止中に、水供給流路、電解セルの酸素極側流路、および酸素側流路内に滞留する滞留水の量を低減させることができ、水の電気分解開始時に電解セルに供給される水の導電率の上昇を抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態の水電解システムであって、前記酸素側処理部は、前記酸素側流路に接続される酸素側排出流路を、さらに備え、前記制御部は、前記電解セルによる水の電気分解を停止した後、前記電解セルによる水の電気分解を開始する時に、前記水供給部を制御して、前記水貯留部内の水を、前記水供給流路を介して前記電解セルの前記酸素極側流路に供給させ、前記酸素側処理部を制御して、前記電解セルの前記酸素極側流路から前記酸素側流路に流入した水を、前記酸素側排出流路を介して、前記水電解システムの外へ排出させてもよい。
【0010】
このようにすると、電解セルによる水の電気分解を開始する時に、水貯留部内の水が、水供給流路、電解セルの酸素極側流路、および酸素側流路を流れ、酸素側排出流路を介して水電解システムの外へ排出される。そのため、電解セルによる水の電気分解を停止した時に、第1酸素貯留部内の酸素を用いて水供給流路、電解セルの酸素極側流路、および酸素側流路をパージしてもなお、それらの流路に残留し、電解セルによる水の電気分解の停止中に、それらの流路内に滞留し、導電率が上昇した滞留水を、水によって水電解システム外に排出することができる。そのため、水の電気分解開始時に電解セルに供給される水の導電率の上昇を、さらに抑制することができる。
【0011】
(3)上記形態の水電解システムであって、前記酸素側処理部は、前記電解セルの前記酸素極側流路に前記酸素側流路を介して接続される第2酸素貯留部を、さらに備え、前記電解セルで生成された酸素を、前記第1酸素貯留部の圧力より低い圧力で前記第2酸素貯留部に貯留し、前記制御部は、前記電解セルによる水の電気分解を停止した時に、前記酸素側処理部を制御して、前記第1酸素貯留部と前記第2酸素貯留部との圧力差によって、前記第1酸素貯留部内の酸素を、前記水供給流路に供給させてもよい。
【0012】
このようにすると、第1酸素貯留部内の酸素を水供給流路に供給するためのポンプを用いず、第1酸素貯留部内の酸素を水供給流路に供給することができる。そのため、水電解システムの小型化、コスト低減に資することができる。また、電動ポンプを用いる場合と比較して、流路内の排水に要するエネルギを低減することができる。
【0013】
(4)上記形態の水電解システムは、前記電解セルの前記水素極側流路に水素側流路を介して接続されると共に、水素供給流路を介して前記電解セルの前記水素極側流路と接続される第1水素貯留部を備え、前記電解セルで生成された水素を、前記水素側流路を介して前記第1水素貯留部に貯留し、前記第1水素貯留部内の水素を、前記水素供給流路を介して前記電解セルの前記水素極側流路に供給する水素側処理部を、さらに備え、前記制御部は、前記電解セルによる水の電気分解を停止した時に、前記水素側処理部を制御して、前記第1水素貯留部内の水素を、前記水電解セルの前記水素極側流路に供給させてもよい。
【0014】
このようにすると、電解セルによる水の電気分解を停止した時に、第1水素側処理部の水素貯留部内の水素が電解セルの水素極側流路に供給される。水素極側流路には水素側流路が接続されているため、供給された水素は、電解セルの水素極側流路、および水素側流路を流れる。そのため、電解セルによる水の電気分解を停止した時に、電解セルの水素極側流路、および水素側流路内に在る水の少なくとも一部を、水電解によって生成された水素によって、それらの流路から排出させることができる。そのため、電解セルによる水の電気分解の停止中に、電解セルの水素極側流路内に滞留する滞留水の量を低減させることができ、滞留水の導電率が上昇することによる水素極の劣化を抑制すことができる。また、電解セルによる水の電気分解の停止中に、水素側流路内に滞留する滞留水の量を低減させることができ、例えば、水電解セルから水素側処理部に流入する水を、水電解セルに供給される水として再利用する場合に、電解セルに供給される水の導電率の上昇を抑制することができる。
【0015】
(5)上記形態の水電解システムであって、前記水素側処理部は、前記水素側流路に接続される水素側排出流路を、さらに備え、前記制御部は、前記電解セルによる水の電気分解を停止した後、前記電解セルによる水の電気分解を開始する時に、前記水素側処理部を制御して、前記第1水素貯留部内の水素を、前記水素供給流路を介して前記電解セルの前記水素極側流路に供給させ、前記電解セルの前記水素極側流路から前記水素側流路に流入した水素を、前記水素側排出流路を介して、前記水電解システムの外へ排出させてもよい。
【0016】
このようにすると、電解セルによる水の電気分解を開始する時に、水素貯留部内の水素が、電解セルの水素極側流路、および水素側流路を流れ、水素側排出流路を介して水電解システムの外へ排出される。そのため、電解セルによる水の電気分解を停止した時に、第1水素貯留部内の水素を用いて、電解セルの水素極側流路、および水素側流路をパージしてもなお、それらの流路に残留し、電解セルによる水の電気分解の停止中に、それらの流路内に滞留し、導電率が上昇した滞留水を、水電解によって生成された水素によって水電解システム外に排出することができる。そのため、例えば、水電解セルから水素側処理部に流入する水を、水電解セルに供給される水として再利用する場合に、電解セルに供給される水の導電率の上昇を、さらに抑制することができる。
【0017】
(6)上記形態の水電解システムであって、前記水素側処理部は、前記電解セルの前記水素極側流路に前記水素側流路を介して接続される第2水素貯留部を、さらに備え、前記電解セルで生成された水素を、前記第1水素貯留部の圧力より低い圧力で貯留し、前記制御部は、前記電解セルによる水の電気分解を停止した時に、前記水素側処理部を制御して、前記第1水素貯留部と前記第2水素貯留部との圧力差によって、前記第1水素貯留部内の水素を、前記電解セルの前記水素極側流路に供給させてもよい。
【0018】
このようにすると、第1水素貯留部内の水素を電解セルに供給するためのポンプを用いず、第1水素貯留部内の水素を電解せるに供給することができる。そのため、水電解システムの小型化、コスト低減に資することができる。また、電動ポンプを用いる場合と比較して、流路内の排水に要するエネルギを低減することができる。
【0019】
(7)本発明の他の形態によれば、水電解システムが提供される。この水電解システムは、酸素極と、酸素極側流路と、水素極と、水素極側流路と、を備え、水を電気分解することで酸素と水素を生成する電解セルと、前記電解セルの前記酸素極側流路に水供給流路を介して接続されており、前記電解セルに供給される水を貯留する水貯留部を備え、前記水貯留部内の水を、前記水供給流路を介して前記電解セルに供給する水供給部と、前記電解セルの前記酸素極側流路に酸素側流路を介して接続される酸素貯留部と、前記酸素側流路に接続される酸素側排出流路と、を備え、前記電解セルで生成された酸素を、前記酸素側流路を介して前記酸素貯留部に貯留する酸素側処理部と、前記電解セルによる水の電気分解を停止した後、前記電解セルによる水の電気分解を開始する時に、前記水供給部を制御して、前記水貯留部内の水を、前記水供給流路を介して前記電解セルの前記酸素極側流路に供給させ、前記酸素側処理部を制御して、前記電解セルの前記酸素極側流路から前記酸素側流路に流入した水を、前記酸素側排出流路を介して、前記水電解システムの外へ排出させる制御部と、を備える。
【0020】
この構成によれば、電解セルによる水の電気分解を開始する時に、水貯留部内の水が、水供給流路、電解セルの酸素極側流路、および酸素側流路を流れ、酸素側排出流路を介して水電解システムの外へ排出される。そのため、電解セルによる水の電気分解の停止中に、水供給流路、電解セルの酸素極側流路、および酸素側流路内に滞留し、導電率が上昇した滞留水を、水によって水電解システム外に排出することができる。そのため、水の電気分解開始時に電解セルに供給される水の導電率の上昇を、さらに抑制することができる。
【0021】
(8)上記形態の水電解システムは、前記電解セルの前記水素極側流路に水素側流路を介して接続されると共に、水素供給流路を介して前記電解セルの前記水素極側流路と接続される第1水素貯留部を備え、前記電解セルで生成された水素を、前記水素側流路を介して前記第1水素貯留部に貯留し、前記第1水素貯留部内の水素を、前記水素供給流路を介して前記電解セルの前記水素極側流路に供給する水素側処理部を、さらに備え、前記制御部は、前記電解セルによる水の電気分解を停止した後、前記電解セルによる水の電気分解を開始する時に、前記水素側処理部を制御して、前記水素貯留部内の水素を、前記水素供給流路を介して前記電解セルの前記水素極側流路に供給させ、前記電解セルの前記水素極側流路から前記水素側流路に流入した水素を、前記水素側排出流路を介して、前記水電解システムの外へ排出させてもよい。
【0022】
このようにすると、電解セルによる水の電気分解を開始する時に、水素貯留部内の水素が、電解セルの水素極側流路、および水素側流路を流れ、水素側排出流路を介して水電解システムの外へ排出される。そのため、電解セルによる水の電気分解を停止した時に、第1水素貯留部内の水素を用いて、電解セルの水素極側流路、および水素側流路をパージしてもなお、それらの流路に残留し、電解セルによる水の電気分解の停止中に、それらの流路内に滞留し、導電率が上昇した滞留水を、水電解によって生成された水素によって水電解システム外に排出することができる。そのため、例えば、水電解セルから水素側処理部に流入する水を、水電解セルに供給される水として再利用する場合に、電解セルに供給される水の導電率の上昇を、さらに抑制することができる。
【0023】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、水電解システムの制御方法、水電解方法、水の電気分解をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等などの形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の水電解システム1の概略構成を示した説明図である。水電解システム1は、電解セル10と、酸素側処理部20と、水素側処理部30と、水供給部40と、制御部50を備える。本実施形態の水電解システム1では、電解セル10において水を電気分解することで酸素と水素を生成する。電気分解されなかった水とともに電解セル10から排出される酸素は酸素側処理部20において水が分離され、酸素側処理部20に貯留される。一方、電気分解されなかった水とともに電解セル10から排出される水素は、水素側処理部30において水が分離され、水素側処理部30に貯留される。また、酸素側処理部20および水素側処理部30で分離された水は、水供給部40に送られ、電解セル10での電気分解のために、再び電解セル10に供給される。本実施形態の水電解システム1では、水素と酸素を効率的にかつ高純度で生成するため、不純物が少ない純度が高められた純水に対して電気分解が行われるが、電気分解される水の純度は、これに限定されない。本明細書において、水の電気分解を、「水電解」ともいう。
【0026】
電解セル10は、PEM(Polymer Electrolyte Membrane)型水電解セルであって、膜電極接合体(以下、「MEA」という)11を有する。MEA11は、水素イオンと水を通すことが可能な電解質膜11aの両面に、水の電気分解によって生成された酸素イオンから酸素を生成する酸素極11bと、水素イオンから水素を生成する水素極11cと、が接合されたものである。酸素極11bには、溝や多孔質部材の細孔などの酸素極側流路12が形成されている。水素極11cには、酸素極側流路12と同様に、溝や多孔質部材の細孔などの水素極側流路13が形成されている。電解セル10には、MEA11の酸素極11bと水素極11cとに電力を供給する電源14が設けられている。
【0027】
電解セル10では、水供給部40が供給する水が酸素極側流路12を流れている状態において、MEA11の酸素極11bと水素極11cに電力が供給されると、酸素極11bにおいて水が電気分解され、酸素と水素イオンが生成される。生成された酸素は、電気分解されなかった水の一部とともに酸素極側流路12を通って電解セル10の外部に排出される。酸素極11bで生成された水素イオンは、電気分解されなかった水のうち電解セル10の外部に排出されなかった水(随伴水)とともに、酸素極11bから水素極11cに移動し、水素極11cにおいて電子と結合することで水素になる。水素極11cにおいて生成された水素は、随伴水とともに、水素極側流路13を通って電解セル10の外部に排出される。なお、本実施形態での酸素極側流路12における酸素と水の流れ方向は、
図1に示す点線矢印A12が示す方向であり、水素極側流路13における水素と随伴水の流れ方向は、
図1に示す点線矢印A13が示す方向である。
【0028】
電解セル10において水の電気分解を行うとき、酸素極側流路12に供給される水の一部は、過電圧により高温になっている電解セル10を冷却する冷媒となる。すなわち、本実施形態の水供給部40は、電気分解される水と電解セル10を冷却するための水を電解セル10に供給する。電解セル10を冷却した水は、上述した電気分解されなかった水として、酸素または水素とともに電解セル10の外部に排出される。酸素極側流路12から排出される酸素と水の混合物は、酸素側処理部20に送られる。水素極側流路13から排出される水素と水の混合物は、水素側処理部30に送られる。
【0029】
水供給部40は、水タンク41と、供給ポンプ43と、イオン交換器45と、送液ポンプ77と、イオン交換器79と、を備える。水供給部40は、電解セル10に供給される水を一時的に貯留し、電解セル10に水W70を供給する。本実施形態における水タンク41を、「水貯留部」とも呼ぶ。
【0030】
水タンク41は、外部の図示しない水供給装置から供給される水(
図1の点線矢印F40)を一時的に貯留する。また、水タンク41には、酸素側処理部20において気液分離された水と、水素側処理部30において気液分離された水が送られる。水タンク41は、水供給流路40a、水供給流路40d、供給ポンプ43、および水供給流路40bを介して電解セル10に接続されている。水タンク41内の水W70は、供給ポンプ43によって加圧されて電解セル10の酸素極側流路12に供給される。水タンク41は、水供給流路40aおよび水供給流路40bを介して供給ポンプ43に接続されている。
【0031】
供給ポンプ43は、ダイアフラム式のポンプであって、水素側処理部30から供給される水素の圧力によって駆動する。なお、供給ポンプ43の駆動方式は、これに限定されない。水素の流れによって歯車やタービンを回転させることで水タンク41に貯留されている水W70を加圧し、加圧された水を電解セル10に供給してもよい。
【0032】
供給ポンプ43と電解セル10とに接続する水供給流路40bには、三方弁44が配置されている。三方弁44は、水供給流路40bを流れる水の一部をバイパス流路40cに流す。バイパス流路40cに配置されているイオン交換器45は、バイパス流路40cを流れる水の導電率をイオン交換によって低下させる。これにより、電解セル10の電極の劣化を抑制することができる。
【0033】
また、送液ポンプ77とイオン交換器79は、酸素側処理部20と水タンク41とを接続する酸素側流路20cに設けられている。送液ポンプ77は、酸素側処理部20から供給される酸素の圧力によって駆動するダイアフラム式のポンプである。送液ポンプ77は、酸素側処理部20から供給される水を加圧し、加圧した水を水タンク41に送る。イオン交換器79は、送液ポンプ77が水タンク41に送る水の導電率をイオン交換によって低下させる。なお、送液ポンプ77の駆動方式は、これに限定されない。酸素によって歯車やタービンを回転させることで、水を加圧し、水タンク41に送ってもよい。
【0034】
制御部50は、ROM、RAM、および、CPUを含んで構成されるコンピュータである。制御部50は、水電解処理、水電解停止処理、水電解開始処理(後述する)を含む水電解システム1全体の制御を行う。
【0035】
酸素側処理部20は、熱交換器21と、酸素側気液分離器23と、第1酸素タンク63と、第2酸素タンク65を備える。酸素側処理部20は、電解セル10の酸素極側流路12から排出される酸素と水の混合物から酸素を分離し、分離された酸素を貯留するとともに、気液分離によって得られた水W20を水供給部40の水タンク41に送る。また、酸素側処理部20は、貯留している酸素の一部を、水供給部70が有する送液ポンプ77に供給する。また、酸素側処理部20は、第1酸素タンク63内の酸素を、水供給部40の水供給流路40dに供給する。さらに、酸素側処理部20は、電解セル10から排出される水を水電解システム1外に排出可能である。本実施形態における第1酸素タンク63を、「第1酸素貯留部」、「酸素貯留部」とも呼び、第2酸素タンク65を、「第2酸素貯留部」とも呼ぶ。
【0036】
熱交換器21は、酸素側流路20aおよび酸素側流路20dを介して、電解セル10の酸素極側流路12に接続している。熱交換器21は、熱交換流体が流れる熱交換パイプ21aを有している。熱交換器21では、温度上昇した電解セル10を冷却したために比較的高温となっている酸素と水の混合物から、熱交換パイプ21aを流れる熱交換流体を用いて、熱を回収する。熱交換流体によって回収された熱は、例えば、外部の図示しない蓄熱体で蓄熱したり、外部の図示しない物体を直接加熱したりすることに利用される。電解セル10は過電圧により高温になっているため、電解セル10の酸素極側流路12から排出される水の一部は、水蒸気になっている。熱交換器21は、電解セル10から排出された水蒸気の少なくとも一部を液水にする。熱交換器21は、酸素側流路20bを介して酸素側気液分離器23に接続されている。
【0037】
酸素側気液分離器23は、例えば、サイクロン式の気液分離器であって、熱交換器21を通った後の酸素と水の混合物を、酸素と水とに気液分離する。上述の通り、熱交換器21によって水蒸気が液水になるため、酸素側気液分離器23に流入する酸素の湿度(水蒸気含有量)は、電解セル10から排出された酸素より低くなっている。すなわち、酸素側気液分離器23にて気液分離された酸素は、乾燥酸素ともいえる。本実施形態の酸素側気液分離器23では、酸素側気液分離器23内の上側に酸素が溜まり、下側に水W20が溜まる。なお、酸素側気液分離器23の気液分離の方法は、サイクロン式に限定されず、フィルタを用いる方法、遠心力を用いる方法や、冷却式であってもよい。
【0038】
酸素側気液分離器23は、酸素側流路20cを介して水供給部40に接続されている。酸素側気液分離器23には、酸素側気液分離器23内の水W20の水位を検出する水位計22aが設けられている。また、酸素側流路20cには、制御部50によって開閉制御されるオンオフ弁22が配置されている。水位計22aによって検出される水W20の水位が所定の水位以下のとき、制御部50がオンオフ弁22を閉じることで酸素側気液分離器23と水供給部40とを遮断する。一方、水位計22aによって検出される水W20の水位が所定の水位を超えるとき、制御部50がオンオフ弁22を開くことで、酸素側流路20cを介して酸素側気液分離器23内の水W20が水供給部40に送られる。
【0039】
また、酸素側気液分離器23は、酸素側流路60aおよび酸素側流路60bを介して第1酸素タンク63に接続されると共に、酸素側流路60a、酸素側流路60d、および酸素側流路60eを介して第2酸素タンク65に接続されている。酸素側気液分離器23にて気液分離された酸素は、水電解処理が行われている間は、酸素側流路60aおよび酸素側流路60bを介して第1酸素タンク63に流入し、水電解処理停止中は、酸素側流路60a、酸素側流路60d、および酸素側流路60eを介して第2酸素タンク65に流入する(後に詳述する)。酸素側流路60aには、逆止弁24が配置されている。逆止弁24は、酸素側気液分離器23から第1酸素タンク63および第2酸素タンク65への流体の流れを許容する一方、第1酸素タンク63および第2酸素タンク65から酸素側気液分離器23への流体の流れを遮断する。
【0040】
また、酸素側気液分離器23には酸素側気液分離器23における酸素の圧力を検出する圧力計68が設けられている。圧力計68は、検出した酸素の圧力を制御部50に出力する。
【0041】
第1酸素タンク63は、酸素側気液分離器23で気液分離によって得られた酸素を、比較的高圧で貯留する。第1酸素タンク63は、酸素側流路60cを介して第2酸素タンク65に接続されている。酸素側流路60cには、第1酸素タンク63の圧力を所定の圧力以下に維持する背圧弁67が設けられており、第1酸素タンク63に貯留されている酸素の圧力が所定値より大きくになったときに、背圧弁67が開いて、第1酸素タンク63から第2酸素タンク65に、酸素が流入する。すなわち、第2酸素タンク65は、第1酸素タンク63に貯留されている酸素の圧力に比べ低圧で酸素を貯留する。ここで、所定の圧力は、送液ポンプ77を用いて水タンク41に水を送ることが可能な圧力である。
【0042】
また、第1酸素タンク63は、酸素供給流路60fおよび酸素側流路60gを介して水供給部70が有する送液ポンプ77に接続されると共に、酸素供給流路60fおよび酸素供給流路60iを介して水供給部40の水供給流路40dに接続される。第1酸素タンク63内の酸素の一部は、送液ポンプ77に供給されて、送液ポンプ77の駆動に用いられる。また、第1酸素タンク63内の酸素の一部は、水供給流路40aに供給され、水供給流路、電解セル10の酸素極側流路12および酸素側流路のパージに用いられる(後に詳述する)。
【0043】
第2酸素タンク65は、酸素側流路60a、酸素側流路60d、および酸素側流路60eを介して酸素側気液分離器23とも接続されており、水供給流路、電解セル10の酸素極側流路12および酸素側流路のパージに用いられた酸素(第1酸素タンク63から供給された酸素)であって、酸素側気液分離器23によって液水が分離された酸素も、第2酸素タンク65に貯留される。
【0044】
また、第2酸素タンク65は、酸素側流路60eおよび酸素側流路60hを介して水供給部70の送液ポンプ77に接続しており、送液ポンプ77の駆動に使われて低圧となった酸素も貯留される。第2酸素タンク65に貯留される酸素は、必要に応じて水電解システム1の外部に排出され(
図1の点線矢印F20)、例えば、化学品の酸化や、製鋼における転炉での成分調整などに利用される。
【0045】
第2酸素タンク65と送液ポンプ77とを接続する酸素側流路60hには、逆止弁68が配置されている。逆止弁68は、送液ポンプ77から第2酸素タンク65への流体の流れを許容する一方、第2酸素タンク65から送液ポンプ77への流体の流れを遮断する。
【0046】
水素側処理部30は、水素側気液分離器31と、第1水素タンク33と、第2水素タンク35を備える。水素側処理部30は、電解セル10の水素極側流路13から排出される水素と水の混合物から水素を分離し、分離された水素を貯留するとともに、気液分離によって得られた水を水供給部40が有する水タンク41に送る。また、水素側処理部30は、貯留している水素の一部を、水供給部40が有する供給ポンプ43に供給する。また、水素側処理部30は、第1水素タンク33内の水素を、電解セル10の水素極側流路13に供給する。さらに、水素側処理部30は、電解セル10から排出される水を水電解システム1外に排出可能である。本実施形態における第1水素タンク33を、「第1水素貯留部」、「水素貯留部」とも呼び、第2水素タンク35を、「第2水素貯留部」とも呼ぶ。
【0047】
水素側気液分離器31は、水素側流路30aおよび水素側流路30nを介して、電解セル10の水素極側流路13に接続されている。水素側気液分離器31は、例えば、サイクロン式の気液分離器であって、水素極側流路13から排出された水素と水の混合物を、水素と水とに気液分離する。本実施形態の水素側気液分離器31では、水素側気液分離器31の上側に水素が溜まり、下側に水W30が溜まる。なお、水素側気液分離器31の気液分離の方法は、酸素側気液分離器23と同様に、サイクロン式に限定されず、フィルタを用いる方法や、遠心力を用いる方法、冷却式であってもよい。
【0048】
水素側気液分離器31は、水素側流路30bを介して水供給部40の水タンク41に接続されている。水素側気液分離器31には、水素側気液分離器31内の水W30の水位を検出する水位計32aが設けられている。また、水素側流路30bには、制御部50によって開閉制御されるオンオフ弁32が配置されている。水位計32aによって検出される水W30の水位が所定の水位以下のとき、制御部50がオンオフ弁32を閉じることで水素側気液分離器31と水供給部40とを遮断する。一方、水位計32aによって検出される水W30の水位が所定の水位を超えるとき、制御部50がオンオフ弁32を開くことで水素側流路30bを介して水素側気液分離器31内の水W30が水タンク41に送られる。
【0049】
また、水素側気液分離器31は、水素側流路30cおよび水素側流路30gを介して第1水素タンク33に接続されると共に、水素側流路30c、水素側流路30h、および水素側流路30iを介して第2水素タンク35に接続されている。水素側気液分離器31にて気液分離された水素は、水電解処理が行われている間は、水素側流路30cおよび水素側流路30gを介して第1水素タンク33に流入し、水電解処理停止中は、水素側流路30c、水素側流路30h、および水素側流路30iを介して第2水素タンク35に流入する(後に詳述する)。水素側流路30cには、逆止弁34が配置されている。逆止弁34は、水素側気液分離器31から第1水素タンク33および第2水素タンク35への流体の流れを許容する一方、第1水素タンク33および第2水素タンク35から水素側気液分離器31への流体の流れを遮断する。
【0050】
第1水素タンク33は、水素側気液分離器31で気液分離によって得られた酸素を、比較的高圧で貯留する。第1水素タンク33は、水素側流路30eを介して第2水素タンク35に接続されている。水素側流路30eには、第1水素タンク33の圧力を所定の圧力以下に維持する背圧弁37が設けられており、第1水素タンク33に貯留されている水素の圧力が所定値より大きくなったときに、背圧弁37が開いて、第1水素タンク33から第2水素タンク35に、水素が流入する。すなわち、第2水素タンク35は、第1水素タンク33に貯留されている水素の圧力に比べ低圧で水素を貯留する。ここで、所定の圧力は、供給ポンプ43を用いて電解セル10に水を供給することが可能な圧力である。
【0051】
第1水素タンク33は、水素供給流路30dおよび水素側流路30kを介して水供給部40の供給ポンプ43に接続されると共に、水素供給流路30dおよび水素供給流路30jを介して電解セル10に接続されている。水素供給流路30dには、制御部50からの指令に応じて水素供給流路30dを流れる水素の流量を調整する流量調整弁36が配置されている。制御部50からの指令によって、三方弁39aが水素供給流路30dと水素側流路30kとを接続すると共に、流量調整弁36が所定の流量になるように開弁することにより、第1水素タンク33内の水素の一部が供給ポンプ43に供給される。供給ポンプ43に供給される第1水素タンク33内の水素は、供給ポンプ43の駆動に用いられる。
【0052】
また、水素供給流路30jには、制御部50からの指令に応じて開閉するオンオフ弁39bが配置されている。制御部50からの指令によって、三方弁39aが水素供給流路30dと水素供給流路30jとを接続すると共に、流量調整弁36が所定の流量になるように開弁し、オンオフ弁39bが開弁することにより、第1水素タンク33内の水素の一部が電解セル10に供給され、水素極側流路13および水素側流路のパージに用いられる(後に詳述する)。
【0053】
第2水素タンク35は、水素側流路30c、水素側流路30h、および水素側流路30iを介して水素側気液分離器31と接続されており、水素極側流路13および水素側流路のパージに用いられた水素(第1水素タンク33から供給された水素)であって、水素側気液分離器31によって液水が分離された水素も、第2水素タンク35に貯留される。
【0054】
また、第2水素タンク35は、水素側流路30iおよび水素側流路30fを介して水供給部40の供給ポンプ43に接続されており、供給ポンプ43の駆動に使われて低圧となった水素も貯留される。第2水素タンク35に貯留される水素は、必要に応じて水電解システム1の外部に排出され(
図1の点線矢印F30)、例えば、炭化水素化合物の生成や、化学品の還元に利用される。
【0055】
第2水素タンク35と供給ポンプ43とを接続する水素側流路30fには、逆止弁38が配置されている。逆止弁38は、供給ポンプ43から第2水素タンク35への流体の流れを許容する一方、第2水素タンク35から供給ポンプ43への流体の流れを遮断する。
【0056】
図2は、水電解システム1における水電解処理の説明図である。
図2では、水電解処理が行われている間の流体の流れを、太線矢印で図示している。水電解システム1では、水供給部40が水供給流路40a、40d、および40bを介して電解セル10の酸素極側流路12に供給する水を電気分解し、酸素極11bで酸素を生成し、水素極11cで水素を生成する。このとき、電解セル10において電気分解されなかった水が、酸素極側流路12では、生成された酸素とともに酸素側流路20aに排出され、水素極側流路13では、生成された水素とともに水素側流路30aに排出される。
【0057】
制御部50は、水電解処理の開始指示を受け付けると、水電解処理を開始する。水電解処理開始時、制御部50は、酸素側処理部20が備える三方弁61を制御して、酸素側流路20aと酸素側流路20dを接続し、三方弁62を制御して酸素側流路60aと酸素側流路60bを接続し、三方弁69を制御して酸素供給流路60fと酸素側流路60gを接続する。また、制御部50は、水供給部40が備える三方弁47を制御して水供給流路40aと水供給流路40dを接続する。
【0058】
また、制御部50は、水素側処理部30が備える三方弁39eを制御して、水素側流路30aと水素側流路30nを接続し、三方弁39cを制御して水素側流路30cと水素側流路30gを接続し、三方弁39aを制御して水素供給流路30dと水素側流路30kを接続し、オンオフ弁39bを閉弁させる。
【0059】
次に、制御部50は、電源14を制御して、電解セル10に電力を供給させる。そして、制御部50が、水供給部40のオンオフ弁46を開弁し、水素側処理部30の流量調整弁36を開弁すると、供給ポンプ43が駆動され、水タンク41内の水W70が、水供給流路40a、水供給流路40d、および水供給流路40bを介して電解セル10の酸素極側流路12に供給され、電解セル10における水電解が開始される。ここで、制御部50は、電解セル10での水の電気分解の状況に合わせて流量調整弁36の流量を調整して開弁させる。例えば、電源14が、太陽光、水力、風力、波力、バイオマス、地熱などの再生可能エネルギー由来の電源である場合、再生可能エネルギー由来の電源から供給される電力は、電力量が大きく変動しやすい。そのため、制御部50は、電源14から供給される電力量に応じて、流量調整弁36の開度を調整して、供給ポンプ43に供給される水素の量を調整し、水タンク41から電解セル10に供給される水の量を制御する。電源14の種類は、特に限定されず、商用電源であってもよい。
【0060】
電解セル10において生成された酸素は、電解セル10において電気分解されなかった水とともに酸素極側流路12を流れ、酸素側流路20aに排出される。酸素側流路20aを流れる酸素と水の混合物は、熱交換器21において冷却された後、酸素側気液分離器23に送られる。酸素側気液分離器23では、酸素と水の混合物から気液が分離される。気液分離によって得られた酸素は、酸素側流路60aおよび酸素側流路60bを通って、第1酸素タンク63に貯留される。第1酸素タンク63で貯留されている酸素の圧力が所定値以上になると、背圧弁67が開いて、第1酸素タンク63から第2酸素タンク65に酸素が流入する。
【0061】
一方、気液分離によって得られた水W20は、酸素側流路20cを通って、水タンク41に送られる。詳しくは、酸素側気液分離器23の水W20は、酸素側気液分離器23の水W20の水位に応じて水タンク41に送られる。具体的には、水位計22aが検出する水W20の水位が所定の水位を超えるとき、制御部50は、オンオフ弁22を開く。このとき、酸素側気液分離器23の水W20は、酸素側気液分離器23における内部の酸素の圧力によって押し出される形で酸素側流路20cを流れ、イオン交換器79を介して水タンク41に送られる。
【0062】
酸素側気液分離器23内の水W20が水タンク41に送られるとき、酸素側気液分離器23から水タンク41に送られる水の量、すなわち、酸素側流路20cを流れる水の量が所定値より少ない場合、制御部50は、送液ポンプ77を駆動し、酸素側流路20cを流れる水の量を増加させる。具体的には、制御部50は、水W20を水タンク41に送るときに圧力計68が検出する酸素側気液分離器23の酸素の圧力から、酸素側流路20cを流れる水の量が所定値より少ないか否かを判定する。制御部50は、酸素側流路20cを流れる水の量が所定値より少ないと判定すると、第1酸素タンク63に貯留されている酸素が送液ポンプ77に供給されるように、流量調整弁66を開く。第1酸素タンク63の酸素が送液ポンプ77に送られると、送液ポンプ77が駆動し、酸素側流路20cを流れる水が加圧される。これにより、酸素側流路20cを流れる水の量が増加する。酸素側気液分離器23から酸素側流路20cに流入した水は、イオン交換器79によって導電率が低下されて、水タンク41に送られる。送液ポンプ77の駆動に用いられた酸素は、酸素側流路60hおよび酸素側流路60eを介して第2酸素タンク65に流入する。
【0063】
電解セル10において生成された水素は、電解セル10において電気分解されなかった水とともに水素極側流路13を流れ、水素側流路30aに排出される。水素側流路30aを流れる水素と水の混合物は、水素側気液分離器31において、水素と水の混合物から気液が分離される。気液分離によって得られた水素は、水素側流路30cを通って、第1水素タンク33に貯留される。第1水素タンク33で貯留されている水素の圧力が所定値以上になると、背圧弁37が開いて、第1水素タンク33から第2水素タンク35に酸素が流入する。
【0064】
ここで、第1水素タンク33に貯留されている水素の圧力について説明する。第1水素タンク33には、逆止弁34が配置されている水素側流路30cを通って、気液分離によって得られた水素が流入する。この気液分離される水素は、電解セル10での水の電気分解によって継続的に生成されているため、第1水素タンク33にも継続的に水素が供給される。一方、第1水素タンク33からの水素が流れる水素側流路30eには、背圧弁37が配置されており、第1水素タンク33からの水素の圧力が、背圧弁37にあらかじめ設定されている圧力値より大きくならない限り、水素側流路30eには水素は流れない。また、第1水素タンク33からの水素が流れる水素供給流路30dには、水素供給流路30dを流れる水素の流量を調整する流量調整弁36が配置されており、制御部50からの指令がないと水素供給流路30dには水素は流れない。このように、本実施形態の水電解システム1では、第1水素タンク33には水素が継続的に供給される一方、第1水素タンク33からは限定的にしか水素は排出されないため、第1水素タンク33内の水素の圧力は、比較的高い圧力となる。
【0065】
第1水素タンク33に貯留されている水素は、水素供給流路30dおよび水素側流路30kを介して供給ポンプ43に供給される。供給ポンプ43では、第1水素タンク33から供給される水素を用いて、水タンク41に貯留されている水を加圧する。本実施形態では、供給ポンプ43は、上述した高圧水素によって駆動するため、水の電気分解と電解セル10の冷却を両立させるのに十分な量の水を電解セル10に供給することができる。
【0066】
供給ポンプ43の駆動に用いられた水素は、比較的低い圧力となっており、水素側流路30fおよび水素側流路30iを介して第2水素タンク35に送られる。すなわち、第2水素タンク35では、背圧弁37が開くことによって第1水素タンク33から送られる水素と、供給ポンプ43から送られる水素とが貯留される。
【0067】
一方、気液分離によって得られた水W30は、水素側流路30bを通って、水タンク41に送られる。詳しくは、水素側気液分離器31の水W30は、水素側気液分離器31の水W30の水位に応じて水タンク41に送られる。具体的には、水位計32aが検出する水W30の水位が所定の水位を超えるとき、制御部50は、オンオフ弁32を開く。このとき、水素側気液分離器31の水W30は、水素側気液分離器31における内部の水素の圧力によって押し出される形で水素側流路30bを流れて水タンク41に送られる。
【0068】
上述の通り、水電解システム1では、水電解処理が行われている間、電解セル10において電気分解されなかった水のうち、酸素側処理部20から水タンク41に送られて再利用される水は、イオン交換器79によって導電率が低下されている。また、水タンク41から電解セル10に供給される水の一部は、一部は、イオン交換器45においてイオン交換され、導電率が低下されている。そのため、水電解システム1において水電解処理が行われる際は、導電率が低い水が電解セル10に供給される。
【0069】
制御部50は、水電解処理の終了指示を受け付けると、水供給部40のオンオフ弁46を閉弁させ、水素側処理部30の流量調整弁36およびオンオフ弁39bを閉弁させ、電源14からの電力供給を停止させる。これにより、電解セル10による水電解が停止される。また、制御部50は、酸素側処理部20の流量調整弁66、オンオフ弁22、および水素側処理部30のオンオフ弁32を閉弁させて水電解処理を終了し、後述する水電解停止処理に移行する。
【0070】
例えば、電源14が、再生可能エネルギー由来の電源である場合、電力量が大きく変動するため、電源14の出力電力が所定の閾値を超えたとき、水電解処理が開始され、電源14の出力電力が所定の閾値を下回ったとき、水電解処理が終了されてもよい。すなわち、水電解処理の開始指示、および終了指示を、電源14の出力電力に応じて、制御部50が受け付けてもよい。また、水電解システム1が起動され、所定の時間経過後に水電解処理が開始され、水電解システム1の運転停止指示が入力されたら(例えば、水電解システム1の起動スイッチがオフにされる)、水電解処理が終了されてもよい。
【0071】
図3は、水電解システム1における水電解停止処理の説明図である。
図3では、水電解停止処理が行われている間の流体の流れを、太線矢印で図示している。水電解システム1では、水電解停止処理において、制御部50は、電源14から電解セル10への電力供給を停止させると共に、水供給部40から電解セル10への水の供給を停止させる。これにより、電解セル10による水の電気分解が停止する。そして、制御部50は、第1酸素タンク63に貯留された酸素を用いて水供給流路、酸素極側流路12、および酸素側流路のパージを行うと共に、第1水素タンク33に貯留された水素を用いて水素極側流路13および水素側流路のパージを行う。
【0072】
水電解停止処理開始時、制御部50は、酸素側処理部20が備える三方弁61を制御して、酸素側流路20aと酸素側流路20dを接続し、三方弁62を制御して酸素側流路60aと酸素側流路60dを接続し、三方弁69を制御して酸素供給流路60fと酸素供給流路60iを接続する。また、制御部50は、水供給部40が備える三方弁47を制御して酸素供給流路60iと水供給流路40dを接続し、オンオフ弁46を閉弁させる。
【0073】
制御部50が流量調整弁66を開弁させると、第1酸素タンク63内の高圧酸素は、酸素供給流路60f、酸素供給流路60i、水供給流路40d、供給ポンプ43、および水供給流路40bを流れて電解セル10に流入する。そして、酸素は、酸素極側流路12を流れて酸素側流路20aに流入し、酸素側流路20d、熱交換器21、酸素側流路20bを通って酸素側気液分離器23に流入する。酸素が上記の流路等を流れる際に、流路等の内に在る水は、酸素によって、酸素側気液分離器23に排出される。すなわち、上記の流路等が、第1酸素タンク63内の酸素によってパージされる。酸素側気液分離器23にて水が分離された酸素は、酸素側流路60a、酸素側流路60d、酸素側流路60eを通って第2酸素タンク65に流入する。
【0074】
上述の通り、水の電気分解を停止した時、酸素側流路60aが酸素側流路60dおよび酸素側流路60eを介して第2酸素タンク65に接続される。すなわち、第1酸素タンク63と第2酸素タンク65とが、酸素供給流路60f、酸素供給流路60i、水供給流路40d、供給ポンプ43、水供給流路40b、酸素極側流路12、酸素側流路20a、酸素側流路20d、熱交換器21、酸素側流路20b、酸素側気液分離器23、酸素側流路60a、酸素側流路60d、および酸素側流路60eを介して接続される。そのため、第1酸素タンク63と第2酸素タンク65との圧力差を利用して、第1酸素タンク63から第2酸素タンク65へ、上記の経路で第1酸素タンク63内の酸素が流すことができる。その結果、水供給流路、供給ポンプ43、酸素極側流路12、酸素側流路、および熱交換器21内の水を排出させることができる。
【0075】
また、水電解停止処理開始時、制御部50は、水素側処理部30が備える三方弁39eを制御して、水素側流路30aと水素側流路30nを接続し、三方弁39cを制御して水素側流路30cと水素側流路30hを接続し、三方弁39aを制御して水素供給流路30dと水素供給流路30jを接続する。
【0076】
制御部50が流量調整弁36を開弁させると共にオンオフ弁39bを開弁させると、第1水素タンク33内の高圧水素は、水素供給流路30d、および水素供給流路30jを流れて電解セル10に流入する。そして、水素は、水素極側流路13を流れて水素側流路30aに流入し、水素側流路30nを通って水素側気液分離器31に流入する。水素が上記の水素側流路を流れる際に、流路内に在る水は、水素によって、水素側気液分離器31に排出される。すなわち、上記の流路が、第1水素タンク33内の水素によってパージされる。水素側気液分離器31にて水が分離された水素は、水素側流路30c、水素側流路30h、水素側流路30iを通って第2水素タンク35に流入する。
【0077】
上述の通り、水の電気分解を停止した時、水素側流路30cが水素側流路30hおよび水素側流路30iを介して第2水素タンク35に接続される。すなわち、第1水素タンク33と第2水素タンク35とが、水素供給流路30d、水素供給流路30j、水素極側流路13、水素側流路30a、水素側流路30n、水素側気液分離器31、水素側流路30c、水素側流路30h、および水素側流路30iを介して接続される。そのため、第1水素タンク33と第2水素タンク35との圧力差を利用して、第1水素タンク33から第2水素タンク35へ、上記の経路で第1水素タンク33内の水素を流すことができる。その結果、水素極側流路13、および水素側流路内の水を排出させることができる。
【0078】
制御部50は、所定の時間経過後、酸素側処理部20の流量調整弁66、水素側処理部30の流量調整弁36およびオンオフ弁39bを閉弁させて、水電解停止処理を終了する。
【0079】
図4は、水電解システム1における水電解開始処理の説明図である。
図4では、水電解開始処理が行われている間の流体の流れを、太線矢印で図示している。水電解システム1では、水電解処理を再開する直前、換言すると、電解セル10による水の電気分解を停止した後、電解セル10による水の電気分解を開始する時に、水電解開始処理を行う。水電解開始処理では、制御部50は、水タンク41に貯留された水W70を用いて、水供給流路、酸素極側流路12、および酸素側流路内に滞留する滞留水の排出を行い、第1水素タンク33に貯留された水素を用いて水素極側流路13および水素側流路内に滞留する滞留水の排出を行う。
【0080】
水電解開始処理が開始されると、制御部50は、酸素側処理部20が備える三方弁61を制御して、酸素側流路20aと酸素側排出流路20eを接続する。また、制御部50は、水供給部40が備える三方弁47を制御して水供給流路40aと水供給流路40dを接続する。また、制御部50は、水素側処理部30が備える三方弁39eを制御して、水素側流路30aと水素側排出流路30mを接続し、三方弁39aを制御して水素供給流路30dと水素供給流路30jを接続する。
【0081】
制御部50が水素側処理部30の流量調整弁36を開弁させると共にオンオフ弁39bを開弁させると、第1水素タンク33内の高圧水素は、水素供給流路30dおよび水素供給流路30jを介して電解セル10に流入する。そして、水素は、水素極側流路13を流れて水素側流路30aに流入し、水素側排出流路30mを通って水電解システム1の外に排出される。第1水素タンク33内の水素が上記の流路を流れる際に、流路内に在る水は水素によって押し流され、水素と共に水電解システム1の外に排出される。
【0082】
所定時間経過後、制御部50は、流量調整弁36およびオンオフ弁39bを閉弁させ、三方弁39aを制御して、水素供給流路30dと水素側流路30kを接続する。その後、制御部50が流量調整弁36を開弁すると、第1水素タンク33内の水素は、水素供給流路30dおよび水素側流路30kを介して供給ポンプ43に流入する。供給ポンプ43は、第1水素タンク33から供給される水素を用いて、水タンク41に貯留されている水を加圧する。制御部50が、オンオフ弁46を開弁させ、第1水素タンク33から供給ポンプ43に水素が供給されると、水タンク41内の水W70が、水供給流路40a、水供給流路40d、供給ポンプ43および水供給流路40bを流れて電解セル10に流入する。そして、水タンク41から供給された水は、酸素極側流路12を流れて酸素側流路20aに流入し、酸素側排出流路20eを通って水電解システム1の外に排出される。水タンク41から供給された水が上記の流路を流れる際に、流路内に滞留する滞留水は、水タンク41から供給された水によって押し流され、水電解システム1の外に排出される。供給ポンプ43に供給された水素は、水素側流路30fおよび水素側流路30iを介して第2水素タンク35に流入する。
【0083】
このように、水電解開始処理では、第1水素タンク33内の水素を用いて、水素極側流路13および水素側流路内の滞留水を排出させることができ、水タンク41内の水を用いて、水供給流路、酸素極側流路12、および酸素側流路内の滞留水を排出させることができる。
【0084】
制御部50は、所定の時間経過後、水供給部40のオンオフ弁46を閉弁させ、水素側処理部30の流量調整弁36およびオンオフ弁39bを閉弁させて、水電解開始処理を終了し、上述の水電解処理に移行する。
【0085】
上述の水電解処理、水電解停止処理、および水電解開始処理を実現するプログラムは、制御部50に、予め記憶されていてもよい。また、プログラムはプログラム提供者側から通信ネットワークを介して、提供されてもよい。また、プログラムは、市販され、流通している可搬型記憶媒体に格納されていてもよい。この場合、この可搬型記憶媒体は外付け又は内蔵の読取装置にセットされて、制御部50によってそのプログラムが読み出されて、実行されてもよい。可搬型記憶媒体としてはCD−ROM、DVD−ROM、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、ICカード、USBメモリ装置など様々な形式の記憶媒体を使用することができる。このような記憶媒体に格納されたプログラムが読取装置によって読み取られる。
【0086】
以上説明したように、本実施形態の水電解システム1によれば、電解セル10における水電解処理実施時に、電解セル10において生成された生成ガス(酸素、水素)を貯留し、電解セル10における水電解処理の停止時に、貯留された生成ガスを用いて、酸素側流路、水供給流路、水素側流路、および電解セル10等のパージを行うことができる。具体的には、第1酸素タンク63に貯留された酸素を用いて、水供給流路40d、供給ポンプ43、水供給流路40b、酸素極側流路12、酸素側流路20a、酸素側流路20d、熱交換器21、および酸素側流路20bをパージすることができる。一方、第1水素タンク33に貯留された水素を用いて、水素極側流路13、水素側流路30a、および水素側流路30nをパージすることができる。
【0087】
本実施形態の水電解システム1では、さらに、電解セル10による水電解処理の開始時(開始直前)に、水電解開始処理を行い、水供給流路、酸素極側流路および酸素側流路等の内の滞留水を、水タンク41内の水を用いて排水し、水素極側流路および水素側流路内の滞留水を、第1水素タンク33内の水素を用いて排水させている。具体的には、水電解システム1では、水タンク41内の水を用いて、水供給流路40a、水供給流路40d、供給ポンプ43、水供給流路40b、酸素極側流路12、および酸素側流路20a内の滞留水を排出させることができる。一方、水電解システム1の水素側では、第1水素タンク33に貯留された水素を用いて、水素極側流路13および水素側流路30a内の滞留水を排出させることができる。
【0088】
水電解システム1では、電解セル10に水を供給するため、水が流れる水供給流路40a、水供給流路40d、供給ポンプ43、水供給流路40b、および酸素極側流路12内には、電解セル10の電解停止時に、水が在る。また、電解セル10の酸素極11b側で生成された酸素は、水と共に酸素側流路20aに流入し、酸素側流路20d、熱交換器21、酸素側流路20bを流れて酸素側気液分離器23に流入するため、電解セル10の電解停止時に、酸素側流路20a、酸素側流路20d、熱交換器21、および酸素側流路20b内にも水が在る。また、電解セル10の酸素極11b側に供給された水は、電解質膜11aを透過して水素極11c側に移動するため、水素極11c側で生成された水素は、水と共に水素側流路30aに流入し、水素側流路30nを流れて水素側気液分離器31に流入する。そのため、電解セル10の電解停止時に、水素極側流路13、水素側流路30aおよび水素側流路30n内にも水が在る。
【0089】
水供給流路、酸素側流路、水素側流路としては、例えば、ステンレス鋼等の金属製の配管が用いられることが多く、また、電解セル10の内には、金属メッシュ等の給電体が設けられていることが多い。そのため、電解の停止時間が長いと、水供給流路や、水電解セル内(酸素極側流路12、水素極側流路13)に滞留する滞留水に、水供給流路、酸素側流路、水素側流路としての金属製の配管や、水電解セル内の金属メッシュ等から金属イオンが溶出し、滞留水の導電率が上昇する場合がある。水電解システム1における水電解開始時、電解セル10に水が供給される際に、滞留水も一緒に電解セル10に供給される。そのため、滞留水の導電率が上昇すると、電解セル10に供給される水の導電率が上昇する。水電解処理の再開時に、導電率が高い水が電解セル10に供給されると、不純物イオンの電極への吸着、酸化による電極の劣化に伴う水電解効率の低下が生じる虞がある。また、水電解により発生するガス中に不純物ガス成分が混じる虞がある。
【0090】
これに対し、本実施形態の水電解システム1によれば、電解セル10における水電解処理の停止時に、水電解停止処理によって水の供給路、酸素側流路、水素側流路、および電解セル10内の流路のパージを行うため、水電解処理の停止時にこれらの流路内に在る水の量を低減することができる。そのため、水電解処理の停止中に、それらの流路内に滞留する滞留水の量を低減することができる。電解セル10内の滞留水の量を低減することにより、電極や給電体と滞留水との接触による金属イオンの溶出による電解セル10の劣化を抑制することができる。さらに、水電解システム1では、電解セル10による水電解処理の開始時(開始直前)に水電解開始処理を行い、水電解停止処理を行ってもなお流路内に残留し、滞留している滞留水を、水電解処理開始直前に排出させることができる。すなわち、導電率が高い滞留水を、水電解処理開始前に排出させることができる。その結果、水電解処理の再開時に電解セル10に供給される水の導電率の上昇を抑制することができ、電解セル10の電極の劣化を抑制し、電解セル10の耐久性を向上させることができる。なお、水電解システム1において、電解セル10に供給される水の導電率を、常に1μS/cmより小さい状態(純水状態)に維持することが好ましい。
【0091】
水電解システム1では、第1酸素タンク63内の酸素を、水タンク41と供給ポンプ43とを繋ぐ水供給路に流入させるため、供給ポンプ43のパージも行うことができる。供給ポンプ43が金属製である場合、パージを行うことにより、電解セル10に供給される水の導電率の向上を抑制することができる。
【0092】
電解セル10に電力を供給する電源14として、例えば、太陽光の再生可能エネルギー由来の電源を用いる場合、夜間は電力が供給されないため、水電解処理が停止され、電源14からの電力供給が開始されるまで、比較的長い時間、水電解処理が停止される。水電解処理の停止時に水電解システム1内に水が在り、長時間、水電解システム1内に滞留すると、滞留水の導電率が向上する可能性が高い。そのため、電源14として再生可能エネルギー由来の電源を用いる場合に、水電解システム1を採用すると、滞留水の導電率の向上を抑制することができるため、好適である。なお、電源14が商用電源である場合にも、水電解処理停止に伴う滞留水の導電率の向上を、適切に抑制することができる。
【0093】
また、水電解システム1では、水電解停止処理において、酸素側流路、水供給流路、および酸素極側流路12のパージには、酸素が用いられ、水素側流路および水素極側流路13のパージには、水素が用いられる。すなわち、水電解によって酸素が生成される酸素極11b側の酸素極側流路12に繋がる流路は酸素でパージされ、水電解によって水素が生成される水素極11c側の水素極側流路13に繋がる流路は水素でパージされる。そのため、水電解処理を開始した際に、電解セル10から排出される気体は、酸素側では酸素、水素側では水素である。そのため、例えば、空気を用いて、水電解システム1内の各流路をパージする場合と比較して、水電解処理によって電解セル10から排出される酸素および水素の純度を向上させることができる。
【0094】
また、水電解システム1では、電解セル10における水電解により生成され、それぞれ貯留された酸素および水素を用いて、水電解システム1内の流路のパージを行っている。そのため、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスを用いてパージを行う場合と比較して、パージ用のガスを貯留する貯留タンク等が不要であるため、水電解システム1の小型化、コスト低減に資することができる。
【0095】
また、水電解によって生成された酸素であって、水電解停止処理において、水電解システム1の流路のパージに用いられた酸素は、第2酸素タンク65に貯留される。また、水電解によって生成された水素であって、水電解停止処理において、水電解システム1の流路のパージに用いられた水素は、第2水素タンク35に貯留される。すなわち、パージに用いられた酸素および水素は、廃棄されない。そのため、水電解によって生成された酸素および水素のうち、水電解システム1外に供給されて利用可能な酸素および水素の量の低下を抑制することができる。
【0096】
また、水電解システム1の上記流路等に滞留する滞留水は、水電解システム1の外に排出され、再利用されない。そのため、水タンク41内の水の導電率の上昇を抑制することができる。
【0097】
さらに、水電解システム1では、水電解開始処理において、水タンク41内の水を用いて、水供給流路、酸素極側流路12、および酸素側流路内の滞留水を排出させている。すなわち、水電解開始時(水電解開始直前)に、導電率が低い純水が酸素極側流路12に供給される。そのため、気体を用いて、水供給流路、酸素極側流路12、および酸素側流路内の滞留水を排出させる場合と比較して、電解質膜11aの湿潤状態を良好に保つことができ、水電解効率の低下を抑制することができる。
【0098】
また、本実施形態の水電解システム1は、イオン交換器45およびイオン交換器79を備え、電解セル10に供給される水の導電率をイオン交換によって低下させている。上述の通り、水電解システム1では、水電解停止処理および水電解開始処理によって、電解セル10に供給される水の導電率の上昇を抑制することができるため、イオン交換器45およびイオン交換器79の交換頻度を抑制することができ、純水製造コストを削減することができる。
【0099】
また、水電解システム1の酸素側処理部20は、高圧で酸素を貯留する第1酸素タンク63と、第1酸素タンク63より低圧で酸素を貯留する第2酸素タンク65とを備え、第1酸素タンク63と第2酸素タンク65との圧力差を利用して、第1酸素タンク63内の酸素を水供給流路に供給している。同様に、水電解システム1の水素側処理部30は、高圧で水素を貯留する第1水素タンク33と、第1水素タンク33より低圧で水素を貯留する第2水素タンク35とを備え、第1水素タンク33と第2水素タンク35との圧力差を利用して、第1水素タンク33内の水素を電解セル10に供給している。そのため、流路等の内の水を排出するためにポンプ等を別個に設ける場合と比較して、水電解システム1の小型化、コスト低減、エネルギの低減に資することができる。
【0100】
また、本実施形態の水電解システム1によれば、電気分解されずに電解セル10の酸素極側流路12から排出される水は、酸素側気液分離器23によって酸素と分離され、水タンク41に送られる。また、電解セル10の水素極側流路13から排出される水は、水素側気液分離器31によって水素と分離され、水タンク41に送られる。酸素側気液分離器23と水素側気液分離器31から水タンク41に送られた水は、再び、電解セル10に供給され、電気分解される。水電解システム1に用いられる水は、純度が高い水であるため、製造に多くの費用がかかっている。そこで、電気分解されずに電解セル10から排出された水を電気分解に再利用することによって、酸素および水素の製造コストを低減することができる。
【0101】
また、本実施形態の水電解システム1によれば、水素側気液分離器31を用いて第1水素タンク33に貯留される前の水素から水を取り除く。同様に、酸素側気液分離器23を用いて第1酸素タンク63に貯留される前の酸素から水を取り除く。これにより、湿度が低い水素や酸素を用いて、水電解システム1内の流路のパージを行うことができる。
【0102】
また、本実施形態の水電解システム1によれば、水タンク41の水W70を電解セル10に送るために加圧する供給ポンプ43には、第1水素タンク33の水素が供給される。これは、1molの水の電気分解によって0.5molの酸素と、1molの水素とが生成されるように、水の電気分解においては水素の発生量が酸素の発生量より多いためである。これにより、第1水素タンク33の内容積と第1酸素タンク63の内容積とが同じである場合、第1水素タンク33内の水素の圧力は、第1酸素タンク63内の酸素の圧力より高くなりやすいため、供給ポンプ43を駆動しやすくなる。
【0103】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態の水電解システム1Aの概略構成を示した説明図である。水電解システム1Aは、電解セル10と、酸素側処理部20Aと、水素側処理部30と、水供給部40Aと、制御部50を備える。第2実施形態の水電解システム1Aが第1実施形態の水電解システム1と異なる点は、酸素側処理部20Aが第2酸素タンク65を備えず、酸素供給ポンプ80を備える点と、水供給部40Aが送液ポンプ77およびイオン交換器79を備えない点である。第1実施形態と同一の構成には、同一の符号を付して、先行する説明を参照する。
【0104】
酸素側処理部20Aが備える酸素供給ポンプ80は、電動ポンプである。酸素供給ポンプ80は酸素供給流路60fに設けられ、制御部50によって制御されて、第1酸素タンク63内の酸素を酸素供給流路60fを介して水供給流路40dに流入させる。
【0105】
水供給部40Aは、第1実施形態における送液ポンプ77およびイオン交換器79を備えないため、気液分離によって得られた水W20は、酸素側流路20cを通って、そのまま、水タンク41に送られる。
【0106】
図6は、水電解システム1Aにおける水電解停止処理の説明図である。
図6では、水電解停止処理が行われている間の流体の流れを、太線矢印で図示している。水電解停止処理開始時、制御部50は、酸素側処理部20Aが備える三方弁61を制御して、酸素側流路20aと酸素側流路20dを接続し、水供給部40Aが備える三方弁47を制御して酸素供給流路60fと水供給流路40dを接続し、オンオフ弁46を閉弁させる。
【0107】
制御部50が流量調整弁66を開弁させ、酸素供給ポンプ80を駆動すると、第1酸素タンク63内の酸素は、酸素供給流路60f、水供給流路40d、供給ポンプ43、および水供給流路40bを流れて電解セル10に流入する。そして、酸素は、酸素極側流路12を流れて酸素側流路20aに流入し、酸素側流路20d、熱交換器21、酸素側流路20bを通って酸素側気液分離器23に流入する。酸素が上記の流路等を流れる際に、流路等の内に在る水は、酸素によって、酸素側気液分離器23に排出される。すなわち、上記の流路等が、第1酸素タンク63内の酸素によってパージされる。酸素側気液分離器23にて水が分離された酸素は、酸素側流路60aを通って第1酸素タンク63に流入する。
【0108】
水素側処理部30の制御および流体の流れは、第1実施形態と同一であるため、先行する説明を参照する。
【0109】
以上説明したように、本実施形態の水電解システム1Aによっても、水電解停止処理によって、電解セル10、流路等の内に在る水の少なくとも一部を排出することができるため、水電解処理の停止時にこれらの流路等の内に在る水の量を低減することができる。そのため、水電解処理の停止中に、それらの流路等の内に滞留する滞留水の量を低減することができる。電解セル10内の滞留水の量を低減することにより、電極や給電体と滞留水との接触による金属イオンの溶出による電解セル10の劣化を抑制することができる。また、水電解システム1A内の滞留水の量を低減することにより、水電解処理の再開時に電解セル10に供給される水の導電率の上昇を抑制することができる。
【0110】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態の水電解システム1Bの概略構成を示した説明図である。水電解システム1Bは、電解セル10と、酸素側処理部20Bと、水素側処理部30と、水供給部40Aと、制御部50を備える。第3実施形態の水電解システム1Bが第2実施形態の水電解システム1Aと異なる点は、酸素側処理部20Bが第1酸素タンク63を備えない点である。第1実施形態および第2実施形態と同一の構成には、同一の符号を付して、先行する説明を参照する。
【0111】
酸素側処理部20Bが備える酸素側気液分離器23は、酸素供給流路60fを介して水供給流路40dに接続されている。詳しくは、酸素供給流路60fは、酸素側気液分離器23の比較的上方であって、気液分離された酸素が貯留される部分に接続されている。本実施形態の酸素側気液分離器23を、「第1酸素貯留部」、「酸素貯留部」とも呼ぶ。
【0112】
図8は、水電解システム1Bにおける水電解停止処理の説明図である。
図8では、水電解停止処理が行われている間の流体の流れを、太線矢印で図示している。水電解停止処理開始時、制御部50は、酸素側処理部20Bが備える三方弁61を制御して、酸素側流路20aと酸素側流路20dを接続し、水供給部40Aが備える三方弁47を制御して酸素供給流路60fと水供給流路40dを接続し、オンオフ弁46を閉弁させる。
【0113】
制御部50が流量調整弁66を開弁させ、酸素供給ポンプ80を駆動すると、酸素側気液分離器23内の酸素は、酸素供給流路60f、水供給流路40d、供給ポンプ43、および水供給流路40bを流れて電解セル10に流入する。そして、酸素は、酸素極側流路12を流れて酸素側流路20aに流入し、酸素側流路20d、熱交換器21、酸素側流路20bを通って酸素側気液分離器23に流入する。酸素が上記の流路等を流れる際に、流路等の内に在る水は、酸素によって、酸素側気液分離器23に排出される。すなわち、上記の流路等が、酸素側気液分離器23内の酸素によってパージされる。酸素側気液分離器23に流入した酸素と水の混合物は、酸素側気液分離器23によって気液分離される。
【0114】
水素側処理部30の制御および流体の流れは、第1実施形態と同一であるため、先行する説明を参照する。
【0115】
以上説明したように、本実施形態の水電解システム1Bによっても、水電解停止処理によって、電解セル10、流路等の内に在る水の少なくとも一部を排出することができるため、水電解処理の停止時にこれらの流路等の内に在る水の量を低減することができる。そのため、水電解処理の停止中に、それらの流路等の内に滞留する滞留水の量を低減することができる。電解セル10内の滞留水の量を低減することにより、電極や給電体と滞留水との接触による金属イオンの溶出による電解セル10の劣化を抑制することができる。また、水電解システム1A内の滞留水の量を低減することにより、水電解処理の再開時に電解セル10に供給される水の導電率の上昇を抑制することができる。
【0116】
また、本実施形態の水電解システム1Bでは、酸素側気液分離器23が第1酸素貯留部、酸素貯留部として機能するため、水電解システム1Bの小型化およびコスト低減に資することができる。
【0117】
<第4実施形態>
図9は、第4実施形態の水電解システム1Cの概略構成を示した説明図である。水電解システム1Cは、電解セル10と、酸素側処理部20Cと、水素側処理部30と、水供給部40Cと、制御部50を備える。第4実施形態の水電解システム1Cが第1実施形態の水電解システム1と異なる点は、酸素側処理部20Cが酸素供給流路60iを備えない点である。第1実施形態と同一の構成には、同一の符号を付して、先行する説明を参照する。
【0118】
酸素側処理部20Cが酸素供給流路60iを備えないため、第1酸素タンク63内の酸素は水供給流路40dに流入されない。すなわち、第4実施形態の水電解システム1Cでは、第1実施形態の水電解システム1において行われる水電解停止処理が行われない。本実施形態の水電解システム1Cでは、水電解処理が終了されたときに、水電解システム1C内に在る水は、水電解処理の停止中、そのまま滞留する。そして、水電解処理が再開されるときに、水電解開始処理が行われて滞留水が排出される。
【0119】
図10は、水電解システム1Cにおける水電解開始処理の説明図である。
図10では、水電解開始処理が行われている間の流体の流れを、太線矢印で図示している。水電解処理開始時、水電解システム1Cにおいても、第1実施形態の水電解システム1と同様に、制御部50は、水タンク41に貯留された水W70を用いて、水供給流路、酸素極側流路12、および酸素側流路内に滞留する滞留水の排出を行い、第1水素タンク33に貯留された水素を用いて水素極側流路13および水素側流路内に滞留する滞留水の排出を行う。
【0120】
以上説明したように、本実施形態の水電解システム1Cによっても、水電解開始処理によって、電解セル10、流路等の内に滞留水の少なくとも一部を水電解システム1Cの外に排出することができる。そのため、水電解処理の再開時に電解セル10に供給される水の導電率の上昇を抑制することができる。
【0121】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0122】
・上記実施形態では、水電解システム1において、水電解停止処理と水電解開始処理との両方を行う例を示したが、水電解停止処理と水電解開始処理のいずれか一方のみを行ってもよい。このようにしても、電解セル10に供給される水の導電率の上昇を抑制することができる。
【0123】
・上記実施形態では、酸素側の流路および水供給流路内の水を排出すると共に、水素側の流路内の水を排出する例を示したが、水素側の流路内の水を排出しなくてもよい。水電解において、電解セルの酸素極側に水が供給されるため、水素側の流路に存在する水の量は、酸素側の流路および水供給流路内に存在する水の量と比較して少ないためである。
【0124】
・上記第2実施形態では、酸素側処理部20Aにおいて第2酸素タンク65を備えず、酸素供給ポンプ80を用いて第1酸素タンク63内の酸素を送り出す例を示したが、他の形態では、水素側処理部30において同様に、第2水素タンク35を備えず、水素供給ポンプを用いて第1水素タンク63内の水素を送り出してもよい。また、酸素処理部および水素処理部の両方において、ポンプを用いて、タンク内の気体(酸素または水素)を送り出してもよい。
【0125】
・上記第3実施形態では、酸素側処理部20Bにおいて第1酸素タンク63を備えず、酸素側気液分離器23に貯留されている酸素を水供給流路40dに供給する例を示したが、他の形態では、水素側処理部30において同様に、第1水素タンク33を備えず、水素側気液分離器31に貯留されている水素を電解セル10に供給してもよい。また、酸素処理部および水素処理部の両方において、気液分離器内の気体(酸素または水素)を送り出してもよい。
【0126】
・上記実施形態において、気液分離器において分離された水を水タンク41に送って、再度、電解セル10に供給する例を示したが、気液分離器において分離された水を水タンク41に送らなくてもよい。また、気液分離器において分離された水を電解セル10に供給しなくてもよい。
【0127】
・上記実施形態において、第1酸素タンク63内の酸素を、水タンク41と供給ポンプ43とを繋ぐ水供給路に流入させる例を示したが、供給ポンプ43と電解セル10とを繋ぐ水供給流路40bに流入させてもよい。
【0128】
・上記実施形態において、酸素側排出流路20eを電解セル10と熱交換器21とを繋ぐ酸素側流路に接続する例を示したが、酸素側排出流路20eを熱交換器21と酸素側気液分離器23とを繋ぐ酸素側流路20bに接続してもよい。このようにすると、酸素側流路20d、熱交換器21、および酸素側流路20b内の滞留水も水電解システム1の外に排出することができる。
【0129】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。