【課題】 各建物ユニット毎に墨線に合わせて絶対的な位置調整を行え、かつ、容易に取り付け可能な建物ユニットの位置調整治具及びそれを用いた建物ユニットの位置調整方法を提供すること。
【解決手段】 略直方体形状の治具本体20と、その中央部に上下方向に貫通するアンカーボルトに挿し込むための中央部穴21と、治具本体20の一端の側面に水平方向に貫通する第一ボルト穴22と、第一ボルト穴22へ螺入された第一ボルト24と、を有する位置調整治具2。前記中央部穴21に、建物ユニットの床梁材に設けられた梁穴から突き出たアンカーボルトを挿通させると共に、第一ボルト24を螺入させ第一ボルト先端部26の丸先で床梁材を押すことにより、アンカーボルト4を支点としたテコの原理及びボルトの推進力を利用して、建物ユニットの絶対的な位置調整を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、建物ユニットをクレーンで吊り降ろす際の降下スピードは速いうえに、安全性や作業効率の方が優先されるため、据付け位置を微調整する余裕はほとんどない。また、建物ユニットの柱外面下部には柱蓋の溶接ビードや気密材などが配置されているため、正確な据付け位置を目視で確認することは難しい。また、
図12に示されるように、建物ユニットには僅かな歪み(対角寸法差)がある。したがって、上記方法で建物ユニットを墨線に合わせて設置することは困難である。
【0007】
また、特許文献1及び2の位置調整具はいずれも隣合う建物ユニット間に設置し、ユニット相互の反力により位置をずらす機構であるため(相対位置調整)、軽い方の建物ユニットが動くなど、どちらのユニットが動くか予測することは困難である。また、一方の建物ユニットだけを動かすためには、他方のユニットを仮に固定する必要があり、工数が増加してしまう。また、対角寸法差のある建物ユニットを、相対位置調整により墨線に正確に合わせることは難しい。
【0008】
さらに、墨線に合わせずに建物ユニットを据付けると、ユニット寸法・アンカー穴位置・基礎のアンカーボルト位置の誤差集積により、最後の方に設置するユニットは位置調整代がなくなる可能性がある。また、相対位置調整においては、基礎上にひかれた墨線は見ずに調整することになり、墨線が有効に活用できない。また、近年の工場取込の拡大により、位置調整具を取付けられる梁上スペースが減少しており、取付作業に時間がかかるといった問題もある。
【0009】
本発明の目的は、各建物ユニット毎に墨線に合わせて絶対的な位置調整を行え、かつ、容易に取り付け可能な建物ユニットの位置調整治具及びそれを用いた建物ユニットの位置調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、梁材と柱材とによって骨組みが形成される建物ユニットの絶対的な位置調整を行う際に使用される位置調整治具であって、略直方体形状の治具本体と、前記治具本体の中央部に上下方向に貫通するアンカーボルトに挿し込むための中央部穴と、前記治具本体の一端の側面に水平方向に貫通する第一ボルト穴と、前記第一ボルト穴へ螺入され、その回動動作により、先端部が床梁材を押すように構成された第一ボルトと、を有することを特徴とする位置調整治具を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記位置調整治具を使用して建物ユニットの絶対的な位置調整を行う建物ユニットの位置調整方法であって、建物ユニットを基礎上に設置する工程と、前記建物ユニットの床梁材に設けられた梁穴から突き出たアンカーボルトを、前記位置調整治具の中央部穴に挿通させる工程と、前記位置調整治具の第一又は第二ボルトを回動させ、その回動動作により前記建物ユニットを押すことで、前記建物ユニットの絶対的な位置調整をする工程と、を有する建物ユニットの位置調整方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、治具本体の中央部に上下方向に貫通する中央部穴を備えており、それにアンカーボルトを挿通させると共に、治具本体の一端に設けられたボルトの回動動作により建物ユニットを押すことで、アンカーボルトを支点としたテコの原理とボルトの推進力により、軽い力で建物ユニットの位置調整が可能となる。これにより、狭いスペースでの作業も容易に行うことができる。
【0013】
また、建物ユニット毎にアンカーボルトからの反力により位置調整を行うため、位置調整と並行して他の建物ユニットの据付作業を進めることが可能となり、位置調整を慎重に行う時間的余裕が生じるだけでなく、位置調整のやり直しも容易となる。さらに、クレーンによる据付作業はアンカーボルトが梁穴に入るようにさえすればよいので、より安全優先に、かつ、迅速に作業を行うことが可能となる。
【0014】
さらに、アンカーボルトの締結は必ず行う作業であり、今後、工場取込を促進しても必ず本発明治具を取付けることができる。また、本発明治具による位置調整後にアンカーボルトを締結することで、建物ユニットの対角寸法差を矯正することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の位置調整治具2によって絶対的な位置調整が行われる建物ユニット1の構成を説明する斜視図である。
図2は位置調整治具2を主に構成する治具本体20の構成を説明する図、
図3は第一ボルト24の構成を説明する図、
図4は第二ボルト28の構成を説明する図、である。
図5及び
図6は、アンカーボルト4に位置調整治具2が取り付けられた状態を説明する図である。
【0017】
この建物ユニット1によって構成されるユニット建物(図示省略)は、工場で製作される複数の建物ユニット1,・・・を建築現場に搬送し、基礎5の上に前後左右に据付けてアンカーボルト4にて固定して1階部を構築するとともに、それらの(下階)建物ユニット1,・・・の上に別の(上階)建物ユニット1,・・・を据付け、互いに接合することで上層階を構築していく。
【0018】
建物ユニット1は、
図1に示すように、四隅に配置される柱材としての柱11,・・
・と、その柱11,・・・の下端間に差し渡される梁材としての床梁12,12A,・
・・と、柱11,・・・の上端間に架け渡される梁材としての天井梁13,13A,・
・・とによってボックス形のラーメン構造体(骨組構造体)に形成される。
【0019】
ここで、柱11は角形鋼管、床梁12,12A及び天井梁13,13Aは断面視コ字形の溝形鋼材によって形成されている。例えば、
図1に示すように、床梁12の上面は上フランジ121によって形成され、下面は上フランジ121と略平行な下フランジ122によって形成され、側面は上フランジ121と下フランジ122の側縁間を繋ぐウェブ123によって形成される。そして、下フランジ122には、基礎5から突き出たアンカーボルト4を挿通させるための梁穴124が形成されている。
【0020】
また、柱11と床梁12(12A)及び天井梁13(13A)は、接合枠材14(14A)を介して溶接接合される。この接合枠材14,14Aは、「ジョイントピース」ともいう。
【0021】
さらに、
図1に示すように、天井梁13,13間には平行に天井根太16,・・・が架け渡され、天井根太16,・・・の下面には天井板18が張り付けられる。また、床梁12,12間には、平行に床小梁15,・・・が差し渡され、床小梁15,・・・の上面には床板17が張り付けられる。ここで、床小梁15は、取付金具15aを介して床梁12に固定される。
【0022】
また、床板17は、柱11と床梁12,12Aとの接合部のみ切り欠かれている。この切り欠き部分を通して、作業者が位置調整やアンカーボルト4の締結を行うことができるようになっている。
【0023】
そして、本実施の形態では、このような建物ユニット1,・・・を基礎5上に据付けたときに生じる据付位置のズレを調整するための位置調整治具2、及びそれを利用して行われる建物ユニット1,・・・の位置調整方法について説明する。
【0024】
本実施の形態の位置調整治具2は、アンカーボルト4に取付けるための治具本体20と、建物ユニット1を押して位置調整を行うための第一ボルト24、第二ボルト28と、によって主に構成される。
【0025】
治具本体20は、
図2に示されるように、略直方体形状の鋼材等によって成形される。この治具本体20の寸法は、厚み10mm以上50mm以下程度、幅20mm以上50mm以下程度、長さ100mm以上200mm以下程度、とすることができる。具体的には、厚み19mm程度、幅38mm程度、長さ165mm程度、とすることができる。
【0026】
治具本体20の中央部には、アンカーボルト4に挿し込むための、上下方向に貫通する中央部穴21が形成されている。中央部穴21の直径は、アンカーボルト4の直径より僅かに大きい程度とすることができ、具体的には、アンカーボルト4の直径より0.1mm以上0.5mm以下大きい程度とすることができる。
【0027】
治具本体20の一方の端の側面には、水平方向に貫通する第一ボルト穴22が形成されている。この第一ボルト穴22は、第一ボルト24を回動させることにより出し入れ可能となっている。
図5に示されるように、第一ボルト24を床梁12のウェブ123の方向に螺入することにより、丸先形状の第一ボルト先端部26をウェブ123に押し当て、さらに第一ボルト24を螺入することで建物ユニット1を移動させ、据付け位置の微調整を行う。
【0028】
第一ボルト24は、第一ボルト穴22へ螺入され、ラチェットめがね等の工具31を用いて螺入させることにより、丸先形状の第一ボルト先端部26が床梁12のウェブ123に当たり、床梁12を押すように構成されている。この第一ボルト24の寸法は特に限定されないが、長さは30mm以上70mm以下程度とすることができる。具体的には、長さ50mm程度の六角ボルト(M12)等を使用することができる。
【0029】
治具本体20の他方の端の先端には、第一ボルト穴22に対して直交方向に設けられた第二ボルト穴23が形成されていてもよい。この第二ボルト穴23は、第二ボルト28を回動させることにより出し入れするためのものである。
図9(B)に示されるように、第二ボルト28を柱11方向に回動させることにより、丸先形状の第二ボルト頭部29を柱11内面に押し当て、さらに第二ボルト28を回動させることで建物ユニット1を移動させ、据付け位置の微調整を行う。
【0030】
第二ボルト28は、第二ボルト穴23へ螺入され、柱11方向に回動させることにより、丸先形状の第二ボルト頭部29が柱11内面に当たり、柱11を押すように構成されている。この第二ボルト28の寸法は特に限定されないが、長さは20mm以上50mm以下程度とすることができる。具体的には、長さ25mm程度の六角ボルト(M10)等を使用することができる。
【0031】
ただし、後述するように、
図9(B)の矢印の方向への調整は、
図9(A)のように位置調整治具2を90°回転させて設置することによっても可能であるため、本実施の形態において第二ボルト穴23及び第二ボルト28は必須ではない。
【0032】
次に、本実施の形態の位置調整治具2の使用方法について、図面を参照して説明する。
図8、
図9は、位置調整治具2の使用方法の一例を説明する図である。
【0033】
あらかじめ基礎5(図示省略)上に、位置調整の目印としての墨線を引いておく。位置調整をする作業者が墨線を確認できるように、建物ユニット1の内部から見える基礎5上に墨線を引いておくとよい。
【0034】
位置調整は、建物ユニット1の内側から1ユニットずつ行う。まず、
図5、
図6、
図8に示されるように、墨線とのズレがある箇所のアンカーボルト4に、位置調整治具2の中央部穴21を挿し込むことにより、位置調整治具2を取付ける。
図8(A)では、柱11内面が墨線からズレているので、当該柱11に近いアンカーボルト4に位置調整治具2を取付ける。
【0035】
図8(B)のように、右方向に建物ユニット1を移動させる場合は、位置調整治具2の第一ボルト穴22に左側、すなわち床梁12のウェブ123と反対側、から第一ボルト24を螺入させることで、第一ボルト24を取付ける。そして、工具31を用いてさらに第一ボルト24を螺入させることで第一ボルト先端部26の丸先を前進させ、ウェブ123を押す。
【0036】
このとき、
図8(C)のように、第一ボルト先端部26をウェブ123に押し当てた状態でさらに第一ボルト24を螺入することにより、治具本体20はウェブ123から離れていく。しかし、治具本体20の中央部穴21はアンカーボルト4に挿し込まれ、軸支されているため、治具本体20はアンカーボルト4を軸として回転し、第一ボルト穴22と反対側の側面もウェブ123を押す。このように、位置調整治具2は、アンカーボルト4を支点としたテコの原理により、軽い力で建物ユニット1を動かすことができる。
【0037】
図9のように、上方向に建物ユニット1を移動させる場合は、
図9(A)のように、位置調整治具2を90°回転させて取付けるか、
図9(B)のように、位置調整治具2に第二ボルト28を取付ける。
図9(A)の場合、第一ボルト24を逆方向から螺入すること以外は、上記と同様に操作を行うことで、矢印の方向に建物ユニット1を移動させることができる。
【0038】
図9(B)の場合、まず、位置調整治具2の第二ボルト穴23に第二ボルト28を螺入させることで、第二ボルト28を取付ける。次に、上記と同様にして、アンカーボルト4に位置調整治具2を取付ける。そして、工具31を用いて第二ボルト28を回動させることで、第二ボルト頭部29の丸先を柱11に押し当て、柱11を押す。このようにして、矢印の方向に建物ユニット1を移動させることができる。
【0039】
次に、本実施の形態の位置調整治具2を用いた建物ユニット1の位置調整方法について、図面を参照して説明する。
図7は、建物ユニット1の据付工程を説明する図である。
図11は、建物ユニット1の位置調整手順を説明する図である。以下、
図11に示す(a)〜(h)に従って調整手順を説明する。
【0040】
(a)基礎5(図示省略)上に、位置調整の目印としての墨線を引く。このとき、位置調整をする作業者が墨線を確認できるように、建物ユニット1の内側から見える隅角部近辺の基礎5上に墨線を引くことができる。
【0041】
(b)
図7に示すように、建物ユニット1をクレーンで吊下ろして基礎5上に設置する。このとき、アンカーボルト4に建物ユニット1の梁穴124が入りさえすれば良いので、位置精度を気にする必要はなく、安全優先で作業する。なお、最初のユニットの位置調整を待たずに、他のユニットの据付作業を順次進行させることができる。
【0042】
(c)まずは、ユニット建物の外周部に当たる、押し調整が可能な側の柱11の位置を、左右・上下方向に調整する。柱位置が決まったら、位置調整治具2をアンカーボルト4から取外し、当該アンカーボルト4を締結することで、柱11を固定する。
【0043】
(d)次に、(c)で固定した柱11と同一桁面の柱位置を上下方向に調整し、桁面が墨線と平行になるようにする。柱位置が決まったら、位置調整治具2をアンカーボルト4から取外し、当該アンカーボルト4を締結することで、柱11を固定する。
【0044】
(e)そして、反対側の桁面の柱11のうちいずれか一方の柱位置を左右方向に調整する。この時、位置調整治具2を取外すと建物ユニット1の床面に反力が生じるため、先に同じ床梁12の反対側のアンカーボルト4を締結する。
【0045】
(f)最後に、位置調整治具2をアンカーボルト4から取外し、当該アンカーボルト4を締結することで、最初の建物ユニット1の位置調整を終了する。
【0046】
(g)2番目以降の建物ユニット1も、位置精度を気にせず据付ける。なお、最初の建物ユニット1の位置調整が終了する前に、他のユニットの据付けを順次進行させてもよい。
【0047】
(h)2番目以降の建物ユニット1の位置調整も、上記(c)〜(f)の手順を繰り返すことにより行うことができる。
【0048】
以下、本実施の形態の位置調整治具2とそれを用いた建物ユニット1の位置調整方法の作用について説明する。
【0049】
位置調整治具2は、治具本体20の中央部に上下方向に貫通する中央部穴21と、治具本体20の一端の側面に水平方向に貫通する第一ボルト穴22と、それに螺入される第一ボルト24と、を備えている。中央部穴21にアンカーボルト4を挿通させることで、アンカーボルト4により治具本体20が軸支されているため、第一ボルト24の螺入動作により第一ボルト先端部26が床梁12のウェブ123を押すと同時に、治具本体20はアンカーボルト4を軸として回転し、第一ボルト穴22と反対側の端の側面もウェブ123を押す。
【0050】
このように、位置調整治具2は、アンカーボルト4を支点としたテコの原理とボルトの推進力を利用することにより、軽い力で建物ユニット1の位置調整が可能となり、狭いスペースでの作業も容易に行うことができる。
【0051】
また、
図10に示されるように、中央部穴21の直径をアンカーボルト4の直径より僅かに大きい程度とし、中央部穴21をアンカーボルト4にぴったりと嵌めるようにした場合には、アンカーボルト4にかかる負担を軽減することができる。すなわち、位置調整治具2により建物ユニット1を移動させる際には、アンカーボルト4からの反力を利用する。このとき、アンカーボルト4の矢印で示した点に反力(P)がかかるが、中央部穴21をアンカーボルト4にぴったり嵌めることで、アンカーボルト4は上下で両端支持されることになって、基礎5側だけが支持される片持ち梁状態と比べて曲げモーメントの大きさは二分の一となる。
【0052】
また、1箇所ずつ柱位置の調整を行った後にアンカーボルト4を締結することで、建物ユニット1の対角寸法差を矯正することができ、墨線に建物ユニット1を確実に合わせることが可能となる。
【0053】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0054】
例えば、前実施の形態では、位置調整用の第一及び第二ボルトとして六角ボルトを使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、多角形の頭部を有するボルト等を使用して位置調整を行うこともできる。
【0055】
また、前実施の形態では、1つ目の建物ユニットの位置調整が終わってから2つ目のユニットの据付けを行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、1つ目の位置調整と並行して2つ目以降のユニットの据付けを順次進行させることも可能である。