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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-193299(P2021-193299A)
(43)【公開日】2021年12月23日
(54)【発明の名称】潤滑油の充填方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/02 20060101AFI20211126BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20211126BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20211126BHJP
   F04B 39/12 20060101ALI20211126BHJP
   F04B 39/14 20060101ALI20211126BHJP
【FI】
   F04B39/02 E
   F25B1/00 387Z
   F04C29/02 311A
   F04B39/12 F
   F04B39/14
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2021-88238(P2021-88238)
(22)【出願日】2021年5月26日
(11)【特許番号】特許第6970367号(P6970367)
(45)【特許公報発行日】2021年11月24日
(31)【優先権主張番号】特願2020-98477(P2020-98477)
(32)【優先日】2020年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下園 直樹
(72)【発明者】
【氏名】横山 知巳
【テーマコード(参考)】
3H003
3H129
【Fターム(参考)】
3H003AB03
3H003AC03
3H003BD00
3H003CE02
3H003CF00
3H129AA14
3H129AB03
3H129BB31
3H129CC32
(57)【要約】
【課題】圧縮機または冷凍装置に潤滑油を充填するために必要な工程を簡素化する。
【解決手段】対象物である圧縮機(20)に潤滑油を充填する方法において、第1工程と第2工程とを行う。第1工程は、潤滑油(30)を構成する基油を少なくとも含む第1成分を圧縮機(20)に充填する工程である。第2工程は、潤滑油(30)を構成する添加剤を少なくとも含む第2成分を圧縮機(20)に充填する工程である。第2工程における第2成分の充填量は、圧縮機(20)に充填される第1成分と第2成分の混合物における添加剤の濃度が所定の要求添加剤濃度となるように設定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍装置用の圧縮機(20)又は冷凍装置(10)を対象物とし、該対象物(10,20)に対して潤滑油を充填する方法であって、
上記潤滑油(30)を構成する基油を少なくとも含む第1成分を上記対象物(10,20)に充填する第1工程と、
上記潤滑油(30)を構成する添加剤を少なくとも含む第2成分を上記対象物(10,20)に充填する第2工程とを備え、
上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分の量を、上記第1工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第1成分と、上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分との混合物における添加剤の濃度が所定濃度となるように設定する
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記第1成分と上記第2成分のそれぞれが、基油と添加剤の混合物であり、
上記第2成分の添加剤の濃度が、上記第1成分の添加剤の濃度よりも高い
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。
【請求項3】
請求項1において、
上記第1成分は、基油だけによって構成され、又は基油と添加剤によって構成される
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。
【請求項4】
請求項1において、
上記第2成分は、添加剤だけによって構成され、又は基油と添加剤によって構成される
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
上記第1工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第1成分の量が、上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分の量よりも多い
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つにおいて、
上記第1工程の終了後に上記第2工程を行う
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つにおいて、
上記第1工程では、上記圧縮機(20)に上記第1成分を充填し、
上記第2工程では、上記第1工程において上記第1成分が充填された上記圧縮機(20)を取り付けた冷凍装置(10)に対して上記第2成分を充填する
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑油の充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、冷凍装置に設けられて冷媒を圧縮する圧縮機が開示されている。この圧縮機は、冷媒を吸入して圧縮する圧縮機構と、圧縮機構を駆動する電動機と、圧縮機構および電動機を収容する密閉容器状のケーシングとを備える。ケーシングの底部には,潤滑油が貯留されている。この圧縮機では、ケーシング内に貯留された潤滑油が、圧縮機構に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/147145号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、潤滑油は、基油と添加剤の混合物である。また、潤滑油における添加剤の濃度は、圧縮機が設けられる冷媒回路に充填された冷媒の種類によって異なる。そのため、適用対象の冷媒が互いに異なる圧縮機または冷凍装置を製造する工場では、冷媒の種類と同数の種類の潤滑油を用意し、使用予定の冷媒に対応した種類の潤滑油を選択して圧縮機または冷凍装置に充填する必要があった。
【0005】
しかし、そうするには、冷媒の種類と同数の種類の潤滑油を、調達し、保管し、在庫や品質を管理する必要がある。そのため、圧縮機または冷凍装置に潤滑油を充填するために必要な工程が複雑化するおそれがあった。
【0006】
本開示の目的は、圧縮機または冷凍装置に潤滑油を充填するために必要な工程を簡素化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、冷凍装置用の圧縮機(20)又は冷凍装置(10)を対象物とし、該対象物(10,20)に対して潤滑油を充填する方法を対象とする。そして、上記潤滑油(30)を構成する基油を少なくとも含む第1成分を上記対象物(10,20)に充填する第1工程と、上記潤滑油(30)を構成する添加剤を少なくとも含む第2成分を上記対象物(10,20)に充填する第2工程とを備え、上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分の量を、上記第1工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第1成分と、上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分との混合物における添加剤の濃度が所定濃度となるように設定することを特徴とする。
【0008】
第1の態様では、第1工程において第1成分が対象物(10,20)に充填され、第2工程において第2成分が対象物(10,20)に充填される。なお、第1工程と第2工程は、どちらか一方が他方の終了後に行われてもいいし、同時に並行して行われてもよい。第1工程と第2工程を経た対象物(10,20)の内部には、第1成分と第2成分の混合物が存在する。対象物(10,20)の内部に存在する第1成分と第2成分の混合物は、添加剤濃度が所定濃度の潤滑油(30)である。
【0009】
第1の態様では、第2工程において対象物(10,20)に充填される第2成分の量を調節することによって、第1工程と第2工程を経た対象物(10,20)の内部に存在する潤滑油(30)の添加剤濃度を自由に設定できる。そのため、第1成分と第2成分を用いることによって、充填すべき潤滑油の添加剤濃度が互いに異なる三種類以上の対象物(10,20)に対して、潤滑油を充填できる。従って、この態様によれば、対象物(10,20)に潤滑油を充填するために必要な工程を簡素化できる。
【0010】
本開示の第2の態様は、上記第1の態様において、上記第1成分と上記第2成分のそれぞれが、基油と添加剤の混合物であり、上記第2成分の添加剤の濃度が、上記第1成分の添加剤の濃度よりも高いことを特徴とする。
【0011】
第2の態様では、第2成分の添加剤濃度が第1成分の添加剤濃度よりも高いため、第2工程において対象物(10,20)に充填される第2成分の量を設定し易い。
【0012】
本開示の第3の態様は、上記第1の態様において、上記第1成分は、基油だけによって構成され、又は基油と添加剤によって構成されることを特徴とする。
【0013】
第3の態様では、第1成分に少なくとも基油が含まれる。
【0014】
本開示の第4の態様は、上記第1の態様において、上記第2成分は、添加剤だけによって構成され、又は基油と添加剤によって構成されることを特徴とする。
【0015】
第4の態様では、第2組成に少なくとも添加剤が含まれる。
【0016】
本開示の第5の態様は、上記第1〜第4のいずれか一つの態様において、上記第1工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第1成分の量が、上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分の量よりも多いことを特徴とする。
【0017】
第5の態様では、対象物(10,20)に対する第1成分の充填量が、対象物に対する第2成分の充填量よりも多くなる。
【0018】
本開示の第6の態様は、上記第1〜第5のいずれか一つの態様において、上記第1工程の終了後に上記第2工程を行うことを特徴とする。
【0019】
第6の態様では、第1成分が対象物(10,20)に充填された後に、第2成分が対象物(10,20)に充填される。
【0020】
本開示の第7の態様は、上記第1〜第6のいずれか一つの態様において、上記第1工程では、上記圧縮機(20)に上記第1成分を充填し、上記第2工程では、上記第1工程において上記第1成分が充填された上記圧縮機(20)を取り付けた冷凍装置(10)に対して上記第2成分を充填することを特徴とする。
【0021】
第7の態様では、内部に第1成分を貯留する圧縮機(20)が取り付けられた冷凍装置(10)に対して、第2成分が充填される。その結果、第2工程を経た冷凍装置(10)の圧縮機(20)には、添加剤濃度が所定値の潤滑油が存在することになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態1の潤滑油の充填方法を示す工程図である。
図2図2は、第1成分と第2成分の組成を示すグラフである。
図3図3は、冷媒の種類に対応した第1成分および第2成分の充填量を示すグラフである。
図4図4は、実施形態2の潤滑油の充填方法を示す工程図である。
図5A図5Aは、圧縮機の適用冷媒として用いられる冷媒の一覧表である。
図5B図5Bは、圧縮機の適用冷媒として用いられる冷媒の一覧表である。
図5C図5Cは、圧縮機の適用冷媒として用いられる冷媒の一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
《実施形態1》
実施形態1について説明する。本実施形態は、対象物である圧縮機(20)に対して潤滑油の充填する方法である。
【0024】
−圧縮機の構成−
先ず、対象物である圧縮機(20)について説明する。この圧縮機(20)は、冷凍装置用の圧縮機である。具体的に、この圧縮機(20)は、冷凍装置の冷媒回路に設けられる。そして、この圧縮機(20)は、蒸発器において蒸発した冷媒を吸入して圧縮し、圧縮した冷媒を吐出する。
【0025】
図1に示すように、対象物である圧縮機(20)は、いわゆる全密閉型スクロール圧縮機である。また、この圧縮機(20)は、低圧ドーム型の圧縮機である。
【0026】
具体的に、圧縮機(20)は、円筒型の容器状のケーシング(21)を備える。ケーシング(21)の内部には、スクロール流体機械である圧縮機構(22)と、圧縮機構(22)を駆動する電動機(23)とが収容される。ケーシング(21)には、吸入管(24)と吐出管(25)とが設けられる。吸入管(24)は、ケーシング(21)を貫通し、ケーシング(21)の内部空間に開口する。吐出管(25)は、ケーシング(21)を貫通し、圧縮機構(22)の吐出ポートに接続する。圧縮機構(22)は、吸入管(24)を通ってケーシング(21)内に流入した低圧冷媒を吸入して圧縮し、圧縮後の高圧冷媒を吐出管(25)へ吐出する。
【0027】
−潤滑油−
対象物である圧縮機(20)に充填される潤滑油について説明する。
【0028】
潤滑油は、基油(例えば、エーテル油等の合成油や鉱油)と、添加剤との混合物である。添加剤としては、酸化防止剤、極圧添加剤、酸捕捉剤、および酸素捕捉剤が例示される。なお、添加剤は、液体である必要は無く、粉末状の固体であってもよい。
【0029】
本明細書では、潤滑油に含有される全ての添加剤の総量の、潤滑油の量に対する比率を「添加剤濃度」(単位:wt%)という。例えば、100gの潤滑油に含まれる4種類の添加剤の量の合計が5gである場合、その潤滑油の添加剤濃度は5wt%である。なお、複数種類の添加剤の配合割合は、圧縮機の構造、冷媒の種類、冷凍装置の用途などに応じて適宜設定される。
【0030】
−潤滑油の充填方法−
図1に示すように、本実施形態の潤滑油の充填方法では、第1工程と第2工程とが行われる。本実施形態の充填方法では、第1工程の終了後に第2工程が行われる。
【0031】
第1工程では、対象物である圧縮機(20)に対して、後述する第1成分が充填される。具体的に、第1工程では、圧縮機(20)の吸入管(24)に第1成分が注入される。吸入管(24)を通ってケーシング(21)内に流入した第1成分は、ケーシング(21)の底部に溜まる。
【0032】
第2工程では、対象物である圧縮機(20)に対して、後述する第2成分が充填される。具体的に、第2工程では、圧縮機(20)の吸入管(24)に第2成分が注入される。吸入管(24)を通ってケーシング(21)内に流入した第2成分は、ケーシング(21)の底部に溜る。ケーシング(21)の底部では、第1成分と第2成分とが混ざり合い、添加剤濃度が所定値の潤滑油(30)となる。
【0033】
〈第1成分、第2成分〉
第1成分と第2成分とについて説明する。第1成分と第2成分のそれぞれは、基油と添加剤の混合物である。
【0034】
図2に示すように、第2成分の添加剤濃度は、第1成分の添加剤濃度よりも高い。本実施形態において、第1成分の添加剤濃度は1.5wt%であり、第2成分の添加剤濃度は33wt%である。なお、ここに示した第1成分および第2成分の添加剤濃度の値は、単なる一例である。第2成分の添加剤濃度は、第1成分の添加剤濃度の10倍以上であるのが望ましく、20倍以上であるのが更に望ましい。
【0035】
第1成分に含まれる基油と、第2成分に含まれる基油とは、いずれも潤滑油を構成する基油と同じである。第1成分に含まれる添加剤の種類は、潤滑油を構成する添加剤の種類の全部であってもよいし、一部であってもよい。同様に、第2成分に含まれる添加剤の種類は、潤滑油を構成する添加剤の種類の全部であってもよいし、一部であってもよい。言い換えると、潤滑油に含まれている必要のある添加剤が、第1成分と第2成分の少なくとも一方に含まれていればよい。
【0036】
〈第1成分と第2成分の充填量〉
第1成分の充填量と、第2成分の充填量とについて説明する。第1成分の充填量は、第1工程において圧縮機(20)に充填される第1成分の量である。第2成分の充填量は、第2工程において圧縮機(20)に充填される第2成分の量である。
【0037】
第1成分の充填量と第2成分の充填量とは、対象物である圧縮機(20)についての要求油量と、要求添加剤濃度とに応じて設定される。要求油量は、対象物である圧縮機(20)に充填する必要のある潤滑油(30)の量である。要求油量は、主に圧縮機(20)の大きさに応じて定められる。要求添加剤濃度は、対象物である圧縮機(20)に充填される潤滑油(30)に要求される添加剤濃度である。要求添加剤濃度は、圧縮機(20)の適用冷媒に応じて定められる。圧縮機(20)の適用冷媒とは、圧縮機(20)が設けられる冷凍装置の冷媒回路に充填される冷媒である。
【0038】
第1成分の充填量と、第2成分の充填量とについて、図3に基づいて説明する。なお、図3に示す数値は、単なる一例である。
【0039】
図3に示す例において、要求油量は、1.7リットルである。また、圧縮機(20)の適用冷媒がR513Aである場合の要求添加剤濃度は3.5wt%であり、圧縮機(20)の適用冷媒がR1234yfである場合の要求添加剤濃度は5.0wt%である。なお、R513Aは、HFC−134aとHFO−1234yfからなる混合冷媒である。また、R1234yfは、HFO−1234yfからなる単一組成冷媒である。
【0040】
要求油量が1.7リットルであり、圧縮機(20)の適用冷媒がR513Aである場合、第1成分の充填量は1.6リットルであり、第2成分の充填量は0.1リットルである。この場合、第2成分の充填量は、第1成分と第2成分の混合物である潤滑油(30)の添加剤濃度が3.5wt%となるように定められる。
【0041】
要求油量が1.7リットルであり、圧縮機(20)の適用冷媒がR1234yfである場合、第1成分の充填量は1.5リットルであり、第2成分の充填量は0.2リットルである。この場合、第2成分の充填量は、第1成分と第2成分の混合物である潤滑油(30)の添加剤濃度が5.0wt%となるように定められる。
【0042】
なお、本実施形態において、第1成分の添加剤濃度は、圧縮機(20)の適用冷媒がR134aである場合の要求添加剤濃度と等しい。本実施形態では、適用冷媒がR134aである圧縮機(20)に対して従来から充填されていた潤滑油を、第1成分として用いている。
【0043】
−実施形態1の特徴(1)−
本実施形態の潤滑油の充填方法では、第1工程において第1成分が対象物である圧縮機(20)に充填され、第2工程において第2成分が対象物(10,20)である圧縮機(20)に充填される。第2工程において圧縮機(20)に充填される第2成分の量は、第1工程において圧縮機(20)に充填される第1成分と、第2工程において圧縮機(20)に充填される第2成分との混合物における添加剤の濃度が、圧縮機(20)の適用冷媒に応じて定まる要求添加剤濃度となるように設定される。第1工程と第2工程を経た圧縮機(20)の内部に存在する第1成分と第2成分の混合物は、添加剤濃度が要求添加剤濃度の潤滑油(30)である。
【0044】
本実施形態の潤滑油の充填方法では、第2工程において圧縮機(20)に充填される第2成分の量を調節することによって、第1工程と第2工程を経た圧縮機(20)の内部に存在する潤滑油(30)の添加剤濃度を自由に設定できる。そのため、第1成分と第2成分を用いることによって、充填すべき潤滑油の添加剤濃度が互いに異なる三種類以上の圧縮機(20)に対して、潤滑油を充填できる。
【0045】
このように、本実施形態の潤滑油の充填方法では、充填すべき潤滑油の添加剤濃度が互いに異なる三種類以上の圧縮機(20)に対して潤滑油を充填する場合であっても、2種類の原料(具体的には、第1成分と第2成分)を調達し、保管し、在庫や品質を管理すればよい。従って、本実施形態によれば、圧縮機(20)に潤滑油を充填するために必要な工程を簡素化できる。
【0046】
−実施形態1の特徴(2)−
本実施形態の潤滑油の充填方法において用いられる第1成分および第2成分は、それぞれが基油と添加剤の混合物である。また、第2成分の添加剤の濃度は、第1成分の添加剤の濃度よりも高い。更に、本実施形態の潤滑油の充填方法では、第1工程において圧縮機(20)に充填される第1成分の量が、第2工程において圧縮機(20)に充填される第2成分の量よりも多い。
【0047】
従って、本実施形態によれば、第1成分よりも少量の第2成分によって潤滑油の添加剤濃度を変化させることが可能となり、第2工程における第2成分の充填量を設定し易くなる。
【0048】
−実施形態1の変形例−
本実施形態の潤滑油の充填方法では、第1工程と第2工程とを、同時に並行して行ってもよい。この場合、圧縮機(20)の吸入管(24)には、第1成分と第2成分の両方が同時に注入される。
【0049】
また、本実施形態の潤滑油の充填方法では、第2工程を先に行い、第2工程の終了後に第1工程を行ってもよい。この場合、圧縮機(20)の吸入管(24)には、先ず第2成分が注入され、その後に第1成分が注入される。
【0050】
《実施形態2》
実施形態2について説明する。本実施形態の潤滑油の充填方法は、第2工程が実施形態1の潤滑油の充填方法と異なる。
【0051】
図4に示すように、本実施形態の潤滑油の充填方法では、実施形態1と同様に、第1工程と第2工程とが順に行われる。
【0052】
第1工程では、実施形態1と同様に、対象物である圧縮機(20)に対して第1成分が充填される。具体的に、第1工程では、低圧ドーム型の圧縮機(20)の吸入管(24)に、所定量の第1成分が注入される。
【0053】
第1工程において第1成分を充填された圧縮機(20)は、冷凍装置(10)の冷媒回路(11)に取り付けられる。冷媒回路(11)には、圧縮機(20)に加えて、凝縮器(12)と、膨張弁(13)と、蒸発器(14)とが設けられる。圧縮機(20)は、吸入管(24)が蒸発器(14)のガス側端に接続され、吐出管(25)が凝縮器(12)のガス側端に接続される。また、冷媒回路(11)には、低圧側サービスポート(15)と高圧側サービスポート(16)とが設けられる。低圧側サービスポート(15)は、圧縮機(20)の吸入管(24)と蒸発器(14)を繋ぐ配管に設けられる。高圧側サービスポート(16)は、凝縮器(12)の液側端と膨張弁(13)を繋ぐ配管に設けられる。
【0054】
本実施形態の第2工程は、冷凍装置(10)を対象物として行われる。なお、この明細書において、冷凍装置(10)は、冷凍サイクルを行う装置を意味する。従って、この冷凍装置(10)には、室内の空気調和を行う空調機、倉庫または輸送用コンテナ等の庫内を冷却する冷凍機、ブライン等の熱媒体を冷却し又は加熱するチラー装置、水を加熱するヒートポンプ式給湯器などが含まれる。
【0055】
本実施形態の第2工程では、対象物である冷凍装置(10)に対して、第2成分が充填される。具体的に、第2工程では、冷凍装置(10)の冷媒回路(11)の低圧側サービスポート(15)に、所定量の第2成分が注入される。低圧側サービスポート(15)を通って冷媒回路(11)に流入した第2成分は、最終的には圧縮機(20)の吸入管(24)を通ってケーシング(21)内に流入する。圧縮機(20)のケーシング(21)内では、第1成分と第2成分とが混ざり合い、添加剤濃度が所定値の潤滑油(30)となる。
【0056】
本実施形態の第2工程では、冷媒回路(11)に第2成分を注入する前に、冷媒回路(11)内を減圧しておくのが望ましい。具体的には、高圧側サービスポート(16)又は低圧側サービスポート(15)に真空ポンプを接続し、真空ポンプで冷媒回路(11)内の空気等のガスを排出することによって、冷媒回路(11)内の圧力を大気圧よりも低くする。そして、その後に低圧側サービスポート(15)から冷媒回路(11)へ第2成分を注入する。こうすることによって、第2成分を冷媒回路(11)へ容易に流入させることができる。
【0057】
−実施形態2の特徴−
本実施形態の潤滑油の充填方法において、第1工程では、圧縮機(20)に第1成分を充填し、第2工程では、第1工程において第1成分が充填された圧縮機(20)を取り付けた冷凍装置(10)に対して第2成分を充填する。
【0058】
ここで、同一機種の圧縮機が搭載され、且つ充填される冷媒が互いに異なる第1冷凍装置と第2冷凍装置があったとする。第1冷凍装置と第2冷凍装置は、それぞれに充填される冷媒が異なるため、それぞれの圧縮機に充填される潤滑油の要求添加剤濃度が互いに異なる。
【0059】
このような場合、第1工程では、第1冷凍装置に搭載される予定の圧縮機と、第2冷凍装置に搭載される予定の圧縮機の両方に対して同量の第1成分を充填する一方、第2工程では、第1冷凍装置と第2冷凍装置に対して異なる量の第2成分を充填することができる。このようにすれば、第1冷凍装置に搭載される予定の圧縮機と、第2冷凍装置に搭載される予定の圧縮機とを区別する必要がなくなる。その結果、第1冷凍装置に搭載される予定の圧縮機と、第2冷凍装置に搭載される予定の圧縮機の生産台数を個別に管理する必要がなくなり、第1冷凍装置および第2冷凍装置の製造工程を簡略化できる。
【0060】
《その他の実施形態》
上記実施形態の潤滑油の充填方法については、次のような変形例を適用してもよい。なお、以下の変形例は、潤滑油の充填方法の趣旨に反しない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0061】
−第1変形例−
実施形態1及び2の潤滑油の充填方法において、対象物である圧縮機(20)は、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機であってもよい。
【0062】
高圧ドーム型の圧縮機(20)では、吸入管(24)が圧縮機構(22)の吸入ポートに接続し、吐出管(25)がケーシング(21)の内部空間に開口する。圧縮機構(22)は、圧縮した冷媒をケーシング(21)の内部空間に吐出する。圧縮機構(22)からケーシング(21)の内部空間へ吐出された冷媒は、吐出管(25)を通ってケーシング(21)の外部へ流出する。
【0063】
実施形態1の潤滑油の充填方法を高圧ドーム型の圧縮機(20)に適用した場合、第1工程では第1成分が圧縮機(20)の吐出管(25)に注入され、第2工程では第2成分が圧縮機(20)の吐出管(25)に注入される。また、実施形態2の潤滑油の充填方法を高圧ドーム型の圧縮機(20)に適用した場合、第1工程では第1成分が圧縮機(20)の吐出管(25)に注入される。
【0064】
−第2変形例−
実施形態1及び2の潤滑油の充填方法において、対象物である圧縮機(20)は、全密閉型のスクロール圧縮機に限定されない。対象物である圧縮機(20)は、ロータリ圧縮機であってもよいし、スクリュー圧縮機であってもよい。また、対象物である圧縮機(20)は、ケーシングが分解可能な半密閉型の圧縮機であってもよいし、電動機がケーシングの外部に設けられた開放型の圧縮機であってもよい。
【0065】
−第3変形例−
上記の各実施形態および各変形例の潤滑油の充填方法において、対象物である圧縮機(20)に対して第1成分又は第2成分を注入する場所は、吸入管(24)又は吐出管(25)に限定されない。例えば、圧縮機(20)のケーシング(21)に潤滑油を注入するための給油口が設けられている場合は、その給油口から第1成分又は第2成分を注入してもよい。
【0066】
−第4変形例−
上記の各実施形態および各変形例の潤滑油の充填方法において、第1工程において対象物に充填される第1成分は、潤滑油を構成する基油のみで構成されていてもよい。
【0067】
また、上記の各実施形態および各変形例の潤滑油の充填方法において、第2工程において対象物に充填される第2成分は、潤滑油を構成する添加剤のみで構成されていてもよい。
【0068】
−第5変形例−
上記実施形態1では、圧縮機(20)の適用冷媒として、R513Aと、R1234yfと、R134aとを例示した。R134aは、HFC(hydrofluorocarbon)冷媒である。R1234yfは、HFO(hydrofluoroolefin)冷媒である。R513Aは、HFO冷媒を含む混合冷媒である。
【0069】
上記の各実施形態および各変形例において、圧縮機(20)の適用冷媒は、上記の三つに限定されない。圧縮機(20)の適用冷媒であるHFC冷媒としては、R134aの他に、R23,R32、R143a、R152a、R245fa、R404A、R407C、R407E、R410A、R507Aが例示される。圧縮機(20)の適用冷媒であるHFO冷媒またはHFO冷媒を含む混合冷媒としては、図5A図5B,及び図5Cの一覧表に示す単一組成冷媒および混合冷媒が例示される。
【0070】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。また、明細書および特許請求の範囲の「第1」および「第2」という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本開示は、潤滑油の充填方法について有用である。
【符号の説明】
【0072】
10 冷凍装置(対象物)
20 圧縮機(対象物)
30 潤滑油
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
【手続補正書】
【提出日】2021年9月2日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍装置用の圧縮機(20)又は冷凍装置(10)を対象物とし、該対象物(10,20)に対して潤滑油を充填する方法であって、
上記潤滑油(30)を構成する基油を少なくとも含む第1成分を上記対象物(10,20)に充填する第1工程と、
上記潤滑油(30)を構成する添加剤を少なくとも含む第2成分を上記対象物(10,20)に充填する第2工程とを備え、
上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分の量を、上記第1工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第1成分と、上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分との混合物における添加剤の濃度が所定濃度となるように設定し、
上記第1成分と上記第2成分のそれぞれが、基油と添加剤の混合物であり、
上記第2成分の添加剤の濃度が、上記第1成分の添加剤の濃度よりも高い
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記第1工程の終了後に上記第2工程を行う
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。
【請求項3】
冷凍装置用の圧縮機(20)又は冷凍装置(10)を対象物とし、該対象物(10,20)に対して潤滑油を充填する方法であって、
上記潤滑油(30)を構成する基油を少なくとも含む第1成分を上記対象物(10,20)に充填する第1工程と、
上記潤滑油(30)を構成する添加剤を少なくとも含む第2成分を上記対象物(10,20)に充填する第2工程とを備え、
上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分の量を、上記第1工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第1成分と、上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分との混合物における添加剤の濃度が所定濃度となるように設定し、
上記第1工程では、上記圧縮機(20)に上記第1成分を充填し、
上記第2工程では、上記第1工程において上記第1成分が充填された上記圧縮機(20)を取り付けた冷凍装置(10)に対して上記第2成分を充填する
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
上記第1工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第1成分の量が、上記第2工程において上記対象物(10,20)に充填される上記第2成分の量よりも多い
ことを特徴とする潤滑油の充填方法。