特開2021-193334(P2021-193334A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2021193334-スズメバチ検知装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-193334(P2021-193334A)
(43)【公開日】2021年12月23日
(54)【発明の名称】スズメバチ検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/536 20060101AFI20211126BHJP
   A01M 1/00 20060101ALI20211126BHJP
【FI】
   G01S13/536
   A01M1/00 Q
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-98982(P2020-98982)
(22)【出願日】2020年6月6日
(11)【特許番号】特許第6950989号(P6950989)
(45)【特許公報発行日】2021年10月20日
(71)【出願人】
【識別番号】719006526
【氏名又は名称】由良 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】由良 晴彦
【テーマコード(参考)】
2B121
5J070
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121DA18
2B121DA63
2B121EA24
2B121EA30
2B121FA14
5J070AB15
5J070AC20
5J070AD02
5J070AE20
5J070AF02
5J070AH25
5J070AH34
5J070AH40
5J070AK14
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】 河川管理や配電線の巡視等の野外作業の多くでスズメバチの脅威があり、作業の際に風や河川流水音などの自然環境音や作業機器類の人工音が存在するなかでも、早期に、かつ確実にスズメバチを検知できる装置が求められている。
【解決手段】 スズメバチ検知装置4は、環境音の影響を受けにくい電波をセンシングに用い、ドプラー変位の影響を分離できる位相周波数検波方式レーダ送信・受信部2によってスズメバチ羽ばたき振動を電気信号に変換し、その後、振動情報の振動周波数 と ・振動情報のコヒーレンシー(位相連続性) または/および ・振動周波数揺らぎ につきスズメバチの羽ばたき振動から抽出した特徴との比較を行い、 特徴の一致/不一致によって前記振動情報の中にスズメバチの羽ばたき振動情報が含まれるか否かを判定し報知する判定・制御・報知部からなり、従来技術である音響検知方式より環境音の存在下でもスズメバチを検知し、確実に報知する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波又はミリ波の電波を輻射し、輻射された電波が周囲の反射体によって反射して戻った電波(反射信号)を受信し、受信した電波を周波数位相検波することにより固定反射体からの反射信号と振動している物体からの反射信号の振動情報を、検波した復調信号から得られる反射信号の振動情報の持つ振動周波数の違いによって分離できる位相周波数検波方式レーダ送信・受信部と、位相周波数検波出力から抽出した振動情報について、少なくとも振動情報の振動周波数と振動情報のコヒーレンシー(位相連続性)と振動周波数揺らぎの情報につきスズメバチの羽ばたき振動から抽出した特徴との比較を行い、特徴の一致/不一致によって前記振動情報の中にスズメバチの羽ばたき振動情報が含まれるか否かを判定し、付近にスズメバチが存在しているか否かを使用者に対して報知する判定・制御・報知部を備えたことを特徴とするスズメバチ検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スズメバチ検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本邦では古来スズメバチの幼虫(蜂の子)が貴重な栄養源として食用に供されていたため、意図的にスズメバチの巣を探して接近し、最終的には食用に巣を採取するという行為が地域によっては日常的に行われていた。この際に、経験不足やちょっとした不注意でも刺傷受傷することがあったため、対処法としてスズメバチは黒色に反応するので着衣は白系のものにする、香りの刺激で攻撃してくることがあるため香りがするものを身につけない、付近にスズメバチが居る場合は急な動きをせず身をかがめてゆっくり行動する、万一刺された場合は全速でその場から離脱する、採取準備が完了するまで巣を刺激しない等の対処方法が広く伝承されてきた。
ところが、近年では多様な食材が容易に入手できる環境となっているため全国的に昆虫食が廃れてきて、蜂の子についても食用とする地域は長野県の一部等ごく限られた地域だけになっている。食用にしなくなった地域ではスズメバチへの対処方法を知る必然性が薄れた結果、対処方法の伝承が失われ、スズメバチに遭遇した際の誤った対処による刺傷事故、さらには刺傷の結果として希に生じる死亡事故が問題化してきた。また、元々スズメバチの生息地であった里山が開発等によって失われた結果、スズメバチが従来は比較的に少なかった住宅地、公園や河川敷などにも進出して、このような場所で職業的に作業する人の刺傷受傷が増加傾向にあるだけでなく、今日ではスズメバチへの対処方法の知見を持たない一般人が身近な公園や河川敷などで刺傷受傷する事件も時々報道されている。
【0003】
野外作業が不可避な業務、一例として河川管理業務に於いて、洪水に備えて堤防健全性の目視確認の際や、前記目視点検の障害となる雑草の草刈り業務を実施するために河川敷などに立ち入る際に、藪、草むら、高水敷に存在する樹林部等において本邦では最も危険とされるオオスズメバチを含むスズメバチ類に遭遇することが多くなり、現に多摩川では幸い死亡には至らなかったが除草作業中のスズメバチ刺害事故が発生している。スズメバチは本邦では広く分布しているため、同様の危険は配電線の巡視作業等、野外作業全般に共通して存在する。スズメバチは、昨今の厚生労働省人口動態統計によると刺傷による全国の死亡者数が毎年十数名以上にのぼっており、桁違いに多くの死亡者が病死としてカウントされているウイルス・細菌類は除くとすると、今日では、本邦野生生物の中ではクマや毒ヘビ毒魚等ではなくスズメバチが最も危険とも言われている。
【0004】
このため、スズメバチの活動が本邦では特に活発とされる8〜11月には、恐る恐る野外業務や野外活動を行っているのが現状である。
【0005】
このような状況に対応すべく先行技術として特許文献1ないし4では、スズメバチ等の発する音響を用いて存在を検知するスズメバチ等の検知装置が提案されている。
すなわち、スズメバチへの対処方法を習熟していない作業者にとって脅威であるスズメバチの存在を、危険な距離まで接近しないうちに報知するスズメバチ検知装置が野外作業者の安全確保のために求められている。
【0006】
また、非特許文献1によると、24GHz帯の人感センサ用途ドプラーセンサでは、人の検知を目的とした装置であるが、植栽のゆれやセンサの前を横切る虫などで有害な誤動作(誤検知)が生じ、人の検知を目的とした用途ではこれら誤検知を信号処理で軽減する必要があるとされている。この記述の対偶として誤検知を軽減する信号処理を行わなければ24GHz帯ドプラーセンサによる虫検知の可能性が導出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007ー289039号公報
【特許文献2】特開2010ー227018号公報
【特許文献3】特開2017ー189138号公報
【特許文献4】特開2019ー41612号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】データシート Rev.00 Dec. 24. 2013 NJR4265J1 1頁 外形および概要 新日本無線株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2にも記載があるごとく、スズメバチは願わくは10メートル、最低数メートル離れた位置で検知する必要がある。特許文献2等で提案された音響による検知装置は適切に試作すれば無響空間では所期の目的を達成できる可能性を確認できる。しかし野外では無響の条件は通常得られず、環境によって音響スペクトル分布は異なるが、一般に風や川の流れなどに起因して自然環境にある音響には、特許文献2の図5(1)にも例示された通りスズメバチの羽音音響スペクトルに相当する成分がスズメバチが検知範囲にはいない場合でも存在する。スズメバチの羽音の音響エネルギーは非常に小さい上に遠方で検知する必要があるため音響センシング型のスズメバチ検知装置では非常に小さい音響レベルを検知する必要がある。音響センサが拾う音響としては、風や川の水流音などスズメバチ以外にも様々なものがある。自然環境によるスズメバチ以外の音響レベルが大きい場合、条件によっては特許文献1ないし4の装置によってはスズメバチが危険な距離まで接近してからでないと検知できない場合がある。
【0010】
また、非特許文献1からドプラーセンサは誤検知軽減信号処理を行っていない場合、植栽のゆれやセンサの前を横切る虫なども検知することが読み取れる。実験的にドプラーセンサを固定し、オオスズメバチ働き蜂を容器に閉じ込めて一定の場所でホバリングさせた場合は、ドプラーセンサのドプラー検波出力スペクトラムにオオスズメバチ働き蜂の羽ばたき振動周波数である略100Hzが現れる。つまり、この条件ではオオスズメバチ働き蜂を検知可能である。
ここで、スズメバチの羽ばたき振動数は、種、サイズ、飛行条件、肉団子等の幼虫の餌の運搬中か否かなど種々の条件で異なるが、刺傷事故の最大原因であるスズメバチ巣への不用意な接近に限定すると、検知すべき対象は巣の表面近くでホバリングしながら警戒活動を行っている働き蜂に限定できる。種をオオスズメバチ働き蜂とすると、横浜市で取得した少数のデータでは羽ばたきの回数はほぼ一定で略100回/秒である。
ドアセンサ用途などで市販されているドプラーセンサのホモダイン検波出力につき音響スペクトル分析すると、反射波は羽の羽ばたきの影響で羽ばたき振動数で振幅変調されるため、検波出力として上述の通り基本周波数略100Hzの信号が得られる。
ここでドプラーセンサを固定という条件を外して、前記ドプラーセンサを持った人、つまり前記ドプラーセンサ自体が移動する実使用状態を考えると、周囲の固定物からの反射受信信号はドプラーシフトするが、周波数を24.15GHzと仮定すると移動速度が人が遅めに歩く速度である0.62メートル毎秒で略100Hzとなり、市販されているドプラーセンサはホモダイン検波方式(同期検波方)であるため、同期検波の基準周波数が一定であるのに対して反射して戻ってくる信号はこの場合100Hzずれているため、本来略100Hzであるはずの羽ばたき信号は略200Hzの信号として出力される。略200Hzの羽ばたき振動周波数を持つ昆虫はスズメバチ以外にも存在する可能性が大であるためスズメバチだけを検知対象とした場合には振動周波数でのフィルタリングの際に除外判定すべき周波数であり、略200Hzを除外する判定条件ではスズメバチの検知はできなくなる。ドプラー効果は周波数比例であるため、羽ばたき周波数のずれはレーダ周波数が高くなればさらに大きくなる。
さらに、前記ドプラーセンサが固定の状態では、路面や周囲の固定物からの反射信号検波出力はDC成分だけなので判定に影響しないが、移動する場合は歩くだけで固定物からの反射波検波出力としてスズメバチの羽ばたきと同じ帯域の信号が出力され、誤報の原因となる。他方、スズメバチが移動した場合は、スズメバチ羽ばたき振動周波数がドプラーシフトし、略100Hzから外れることにより検知が困難となる。
ここでは既に特定小電力無線局 移動体検知センサ用無線設備として周波数割り当てがなされていてドプラーセンサとして市販製品がある24。15GHzで検討したが、スズメバチから有効な反射信号が得られ、無線標定用ミリ波レーダ用として周波数割り当てを受けられる別の周波数、たとえば76.5GHzとしてもあたりを警戒しながら移動するような速度である0.2メートル毎秒で略100Hz周波数となり、つまりドプラーセンサのレーダ周波数をいくらとしても作業上生じうる特定の移動速度でドプラーシフトが100Hzとなることには変わりない。また、スズメバチが移動することによって検知が困難となることも変わりない。結局、既に市場にあるホモダイン検波出力を用いたドプラーセンサは、どのレーダ周波数を選んだとしてもそのままではスズメバチ検知装置として実用にはならない。
【0011】
そこで、野外作業を行う際に、実使用環境・実使用条件で安全な間隔を保っているうちにスズメバチを検知することができる装置が求められている。
【0012】
本発明は、風や川の流れなどの色々な自然環境条件が存在する実際の野外作業現場で、移動作業中であっても、作業者がスズメバチに対して安全な間隔を確保できなくなる前にスズメバチを検知することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来技術では、野外使用の際に環境音響による検知感度低下が生じる。これを改善するために、本発明ではスズメバチの情報を捉えるセンサ自体に新たな技術を導入することと、センサが拾った信号中にスズメバチの羽ばたき振動情報が含まれるか否かを判定する判定条件としても新たにより簡便かつ有効な判定条件を導入することによって、スズメバチを実用的に検知する。
【0014】
まず、スズメバチ検知のセンサとして音響マイクロフォンではなく、風の影響の少ない電波を利用するレーダを利用した。一般的な移動体検知用簡易レーダ装置の検波方式はホモダイン検波による反射信号からドプラー変移分(速度情報)を取り出して移動物体有無を検知している。
本発明では、主として本発明装置の携行による移動や対象となるスズメバチの移動で常にドプラー変移分が受信されることを考慮し、携行による移動で生じるドプラー変移分による誤動作を回避するために、位相周波数検波を導入した。
これは、羽ばたくスズメバチからの反射波は振幅変調だけでなく位相変調も受けていることから、反射波の振幅変調成分を除去し、位相周波数検波することにより、完全に除去することはできないドプラー変移分を直流(速度成分)と数Hz以下の低周波(人の歩行による歩行速度ゆらぎ成分)とし、略100Hzである羽ばたき振動周波数との周波数領域を分けてフィルタによる分離を可能にした。
電波利用の優位性は非特許文献1の他、風の影響を受けにくい、草葉など多少の遮蔽物があっても透過して探知可能である。位相周波数検波に関して、位相周波数変調成分自体は実用上ドプラー効果の影響を受けないことが知られており、これはARISSスクールコンタクト(高速で移動する国際宇宙ステーションと地上にいる生徒との位相周波数変調による無線通信)の記録動画などで音声がそのままデンタルされている事からも容易に確認される。つまり、検知装置とスズメバチの一方又は両方が移動中でも静止時と同じ略100Hzの羽ばたき振動周波数をそのまま取り出すことができる。
なお、ここで「位相周波数検波」の語は位相偏移±180°以内といった制限のない周波数変調領域まで広い変調が掛かった位相変調を位相偏移に対して直線的に検波する意で用いている。本願発明装置が移動しながら稼働する際には、反射波にドプラー周波数変移により絶対位相が保存されず位相速度に応じたオフセットが掛かった状態となるが、これは位相変調の概念である位相偏移範囲±180°以内の概念を遙かに超越する位相変移となるため、±180度以内が定義域でそれより外側の情報が失われる狭義の位相検波器を本発明に用いることはできない。
【0015】
判定条件としては、羽ばたきに特徴的でその他の雑音から羽ばたきを分離できる可能性が高い羽ばたきの物理的メカニズムによって生じるコヒーレンシー(様々な解釈があるが、本願では物:羽が物理的に振動する制約から生じる振動の位相連続性の意味で用いる)およびスズメバチがホバリングする際に一定位置を保つために羽ばたき振動数を制御する振動数の揺らぎパターンを新たに追加する。
ここで、自然の環境音は草葉等の振動を介してレーダ反射波中にもいくらか含まれてしまうが、スズメバチがいない場合、略100Hzの成分は単一の対象から発せられたものではなく、多数の振動が合成されたノイズ成分であるためスペクトルとしては検出されても通常はコヒーレンシーを有しない。
揺らぎパターンとは、周囲に車両や草刈り機等の人工物が稼働している場合、コヒーレンシーを有する略100Hzの成分を検知することがあるが、これらはフライホイールを有する回転体から発せられるもので、通常秒単位の短時間では揺らぎのない一定回転数と見なせるため、ホバリングしている際には常に1〜数Hzの揺らぎパターンを有するスズメバチと区別できる。
ただしマルチコプター(マルチコプター:複数回転翼を有する狭義のドローン、以下ドローンと表記)は、その飛行制御原理上、常にフィードバック制御により回転数ゆらぎが生じているため、ドローンの振動成分中に略100Hz成分が含まれる場合は、本発明装置がスズメバチと誤認することがある。本邦ではドローンの飛行には種々の制限があるため、作業者の作業対象エリアで同時にドローンが飛行している場合、作業者自身か作業者の所属組織関係者が飛ばしていることがほとんどである。ドローンによる点検や撮影が必要な場合は、予め本発明装置と組み合わせテストして本発明装置が誤動作しない機体を使う事が強く推奨される。
なお、予めスズメバチの巣の位置を把握しておく等の目的でドローンに本発明装置を搭載する場合は、上述同様、機体振動(本発明装置機械的に入力される振動と本願発明装置のサイドローブ等で振動反射信号として受信される反射部材の振動の両方)に100Hz近辺成分のスズメバチ類似振動が生じない機体を選ぶ必要があるほか、本発明装置の報知部分をリアルタイム対人報知でなく、位置情報とスズメバチ有無情報をペアでメモリーに記録するなどして、調査終了後にスズメバチの存在位置をする等報知方法を変更する。レーダ装置では常にトレードオフとなる不検知と誤検知のバランスを目的に合わせる必要があるが、ドローン搭載の場合はリアルタイム報知で要求されるバランスとは異なり、時間を取って確認することが可能であるため、誤検知に目をつぶって感度を上げ、不検知を避ける設定とし、本発明装置がスズメバチを検知している間の略100Hzベースバンド信号を合わせてメモリーに記録しておき、人間系でスズメバチかそれ以外か識別して地図にプロットする等で、スズメバチの巣の位置をより確実に把握し得る。
なお、何れの場合もドローンをスズメバチの巣に接近させすぎるとスズメバチが巣を攻撃されたと誤認してドローンが数十〜数百匹のスズメバチの総攻撃を受け、周囲に居る人に刺傷被害が及ぶことも考えられるため、この点にも注意を要する。
【0016】
コヒーレンシーと揺らぎの判定条件は、現状で電池駆動可能なレーダ出力と実用上ヘルメットに装着して携行できるアンテナの大きさ(=指向性利得:法的制約も同時にある)では離れた場所のスズメバチからの反射波は条件によるが周囲の草木等からの反射レベルに近く、振動スペクトラムだけでは十分な検出信頼性が得られなかったために、主たる判定条件として追加した。図2,3に示す実施例ではPLL回路によってコヒーレンシーの確認を行っているが、PLLは相手周波数に追従する狭帯域フィルタとしても働くため、信号対雑音比を大きく向上でき、検知対象スズメバチ羽ばたき振動周波数の揺らぎの範囲とPLLプルインレンジを一致させる設定とすれば、広い帯域の振動スペクトラム観測(PLLプルインレンジの広くとった状態と等価)ではS/Nマイナスになる条件でも埋もれた信号にPLLがロックして存在を検知できる可能性が高まる。なお、スズメバチの羽ばたき振動数揺らぎの範囲とPLLプルインレンジを一致させる設定とすれば、自動的にスズメバチの羽ばたき振動スペクトラム周波数範囲内だけが判定条件となるため、積極的な振動スペクトラム周波数の判定を行う必要がなくなる。
実施例等で示していないが、DSPで実現する場合は当然にPLLもDSP上で実現可能である。ただし、PLLでは演算量が多くなるため、コヒーレンシー確認と揺らぎ情報も併せて得られる自己相関によるのが有利かもしれない。なお、この場合に別に必要となる狭帯域フィルタ効果は、DSP上ではPLLを構成する以外で、たとえば適応逆ノッチ・フィルタ技術を用いて狭帯域フィルタの中心周波数を揺らぎに追従させることでも同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスズメバチ検知装置によれば、実際に野外作業を行う際に危険な距離まで接近しないうちにスズメバチを検知することができ、巣への接近を回避することで、刺傷事故防止に資する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のスズメバチ検知装置のブロック図である。
図2】本発明のスズメバチ検知装置の実施例を概略的に示すブロック図である。 図に記載の各周波数は概略値の一例で、表記の値に限定するものではない。
図3】本発明のスズメバチ検知装置の実施例を概略的に示す斜視図である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施例に限定される訳ではない。さらに、以下に説明する実施例では、スズメバチに対する安全教育を受けた作業者が使用することを前提に、検知対象を目視で巣の発見がほぼ不可能、且つ人に対する危険性が最大と言われている、地中に営巣するオオスズメバチ働き蜂だけに限定している。学校行事等の事前安全点検やボランティアによる清掃・除草活動など、スズメバチに対する十分な安全教育を受けない者が活動する際の安全を確保する目的等では、注意すれば容易に巣を目視で発見できるにもかかわらず、オオスズメバチ同様に刺傷事故、さらには死亡事故の原因ともなっている黄色スズメバチや、場合によっては(九州地区などの場合)新顔のツマアカスズメバチやツマグロスズメバチも検知対象に含めるべきかも知れない。知る限りでこれらはオオスズメバチより小型のため羽ばたき振動周波数が何れもオオスズメバチより高めになるだけで、コヒーレンシー、振動周波数揺らぎは同様にあるため、検知振動周波数を変更すれば同様に検知できると考えられる。PLL方式の場合、プルインレンジを広げれば1系統のままこれら各種スズメバチの全部を検知することも理論上可能だが、信号対雑音比を十分確保して誤報率を下げるために、種ごとに検知回路を設けるべきである。
また、説明を明確にするため以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0020】
本発明に掛るスズメバチ検知装置の実施例を、図2図3に基づいて説明する。このスズメバチ検知装置4は、図3に示すようにヘルメット5に組み込んで人体に装着する。
【0021】
ヘルメット5に組み込まれたスズメバチ検知装置4は、図2の構成のものである。図2のうち送信アンテナ11、受信アンテナ21とLED光報知34は外から見える。送信アンテナ11と受信アンテナ21それぞれのビーム方向は、作業者が周囲を確認する際の視線方向に合わせ、また、送信アンテナ11と受信アンテナ21間の直接の結合(送信アンテナ11から受信アンテナ21への直接の電波の飛び込み)を避けるように実装する。LED光報知34、スピーカー音響報知35、バイブレーター振動報知36は使用者が実作業状態で有効に報知を感知出来るように実装する。セルフテストSW33は本発明に必須ではないが、万一にも故障で検知しない事を回避するためには有効で、誤操作しにくい位置に実装する。また、バイブレーター振動報知36は、これも本発明に必須ではないが、送信アンテナ11、受信アンテナ21に疑似スズメバチ振動を与えて周囲の反射物からの反射波を拾ってスズメバチ検知装置の健全性をセルフテストできるように実装する。また、送信アンテナ11、受信アンテナ21は使用周波数を透過する材質であればカバー(レドーム)内に実装しても良い。
【0022】
本発明装置を移動体検知センサ用特定省電力無線局として本邦電波法の技術基準適合証明を得る予定の場合はレーダ送信部10に対して空中線(アンテナ)電力だけでなく空中線利得(アンテナゲイン)についても制限がある。他の種別の無線標定局とする場合も電波法に種々の制限がある。なお、本発明装置ではアンテナを円偏波にするメリットは特に無いが、円偏波アンテナとする場合は反射で旋回方向が反転することに注意を要する。
【0023】
レーダ受信部は実施例では局部発振器23を持つスーパーヘテロダイン方式で、中間周波数を位相周波数検波してスズメバチ1の羽ばたき振動信号を含むベースバンド信号を得る。略100Hz BPF・PLL 31 は、スズメバチ1が遠距離にある場合には、羽ばたき振動信号成分強度が非常に小さくなるため、等価的に狭帯域としてSN比を稼ぐ他、PLLがロックしていればコヒーレンシー有りと判定でき、また、VCO制御電圧が安定か揺らいでいるかで人工的な機械振動かフィードバック制御による揺らぎがある生物由来の振動かも識別判定でき、回路規模を押さえられる。
【0024】
本発明装置のセンシング方式はレーダそのものであるため、受信信号レベルはレーダ方程式で計算され、距離の4乗則となり、遠い場合は非常に小さなレベルとなる。検波出力を低雑音狭帯域項利得増幅器でPLLの入力条件に合うよう増幅し、近距離では増幅器を飽和させることでもスズメバチ検知の目的を果たすことは可能である。しかし、これでは距離情報を捨てることになるため、距離情報が必要な場合は、別に距離測定のために飽和しないレベル検知系を設けても良いが、増幅器を適切に設計したAGC(自動利得調整)増幅器とし、利得制御信号電圧を距離情報として使うと回路を簡素化できる。
【0025】
もちろん送信アンテナ11と受信アンテナ21、並びに送信発振器12と局部発振器23を共用して直交検波してA/Dし、その後は全てDSPによるデジタル信号処理で前記位相周波数検波以降を実現することも可能であるが、この場合はドプラー効果により生じる悪影響を避けるためには直交検波に高い直交性が必要になる。
【0026】
なお、ここで例示している略100Hzは、横浜市において最盛期の9〜11月頃に若干数のオオスズメバチ働き蜂についてホバリング時羽ばたき振動数を本発明に係るマイクロ波レーダ装置で測定した大略値である。春先に活動する女王蜂の羽ばたき振動数はこれより低く、秋に発生するオス蜂は振動数が高い。但しオス蜂は刺すための針そのものを持たず、女王蜂については攻撃性が低く人間に出会うとほぼ女王蜂が逃げるために人間に対する脅威はほぼないとされているようなので、これらは考慮せず、働き蜂だけをターゲットに判定条件を設定するのが、最大探知距離を最小誤報率で得るために有利となる。当然に種が異なれば振動数は異なる値となる。
【0027】
判定・制御32は、判定前処理のかなりの部分が略100Hz BPF・PLL で処理済みなので、小規模マイコンなどでPLLがロックしていること、これはロックにより振動情報の振動周波数と振動情報のコヒーレンシー(位相連続性)が既に判定済みとなるため、VCO制御電圧をA/Dしてゆらぎ有無・周期を見る程度で完結させることができる。
なお、図2では略100Hzのレベル信号も見ているが、これはスズメバチまでの距離を割り出すためで、PLLのロック条件に元々レベルは含まれるため本発明に必須ではない。使い方としては、レベル値でたとえば遠中近と距離を3段階に区分し、スピーカー35の音響報知として音声合成(又は録音再生等)による発声で、たとえば 遠:「止まれ、前方にスズメバチ」 、中:「ゆっくり戻れ、ハチに近い」、近:「しゃがめ、ゆっくり戻れ。刺されたら全力で逃げろ!」と指示し、LED 34の色を変える/点滅させる、バイブレーター36の振動周期を変えるなど、いろいろな対応が可能になる。さらには、巣の駆除・採集などの目的で、巣の位置を特定したい場合には、レベルによって音響報知のトーンを変化させ、頭を振る等してアンテナをマニュアルスキャンすれば人間系による判断が必要にはなるが、レーダとして「標定」を行うことも可能となる。
当然、巣に接近するとスズメバチの攻撃を誘発することになり、この場合は刺傷事故を避けるために防護服で完全に防護する等の刺傷防止対策を要する。この際に、本発明装置によれば容易に巣の場所を特定することが出来るが、スズメバチ、特にオオスズメバチは昆虫生態系の頂点に立ち、各種昆虫の勢力バランスを保ち生態系を維持するための重要な種であることを十分理解し、自家の食用に採取することは現状許容されていると考えられるが、単純に駆除するだけの場合は、営巣場所等が真に人に対する脅威となっているかを熟慮のうえ、むやみに駆除しないことが求められる。
なお、受信レベルでの距離推定は誤差が大きそうに思えるが、対象物の大きさがまちまちである一般的な船舶レーダなどと異なりここでは検知対象をスズメバチの特定の種(たとえばオオスズメバチ働き蜂)に限定している。このため、検知対象とするスズメバチのRCS(レーダ反射面積)は、個体が異なっても寸法が略一定であるため、スズメバチに対するレーダ波の入射角も一定であれば距離によらず略一定と見なせること、これによりレーダ方程式で考慮すべきは受信レベルが距離の4乗則となることだけで済むため、距離に対するレベルの変化は十分大きいことから実用的な距離レンジ(遠い:スズメバチはいるが現在位置はまだ安全、中距離:注意しながら離れるべき、近い:直ちに離れる、対応を誤れば危険)程度の推定は電波の往復時間測定等の複雑な技術によらず、単に受信レベルを使って十分可能である。
【0028】
LED 光報知34は常に使用者の視界に入る位置に設置する。作業のあいだ常時点灯しているとうっとうしいため、異常時以外消灯を推奨するが、これも必須ではない。
【0029】
バイブレーター36は騒音環境で使用する際など、ヘルメット帽体を振動させて確実に使用者にスズメバチ検知を知らせるためのものだが、本発明装置の電源投入時とセルフテストスイッチ33押し下げ時に振動報知時の振動パターンとは異なるスズメバチ羽ばたきパターンで本発明装置を振動させ、周りからの反射を拾って検知を発報するか装置全体のセルフテスト機能を兼ねている。
【産業上の利用可能性】
【0030】
野外作業を業として実施する場合は、安全確保の観点から産業分野によらずヘルメット着用が常識であり、図2に示す装置を図3のごとく実装することでスズメバチの脅威がある屋外作業全般に特に作業者の負担を増すことなく汎用的に利用できる。本発明外となるが、屋外作業で同様に脅威となる雷の探知装置は広く市販されているため、これを組み合わせてヘルメットに組み込めば野外作業をさらに安心して実施できる。但し、作業員には予めスズメバチ(と場合により雷も)の対応方法を教育しておくことが安全確保上大前提となる。
産業の語に含まれるか不明だが、学校行事やボランティアによる草刈り等で職業的でなくハチに不慣れな人たちによる野外作業を想定した場合、使い方を教育したうえで本発明装置を全員に配布する等は非現実的であるため、主催者側が事前に行動範囲をドローン用として製作された(詳細を示さないが当業者であれば容易に製作できる)本発明装置をドローンに搭載する等して予めくまなくスズメバチ有無を確認しておくことで、より参加者の安全を確保するような使い方もできる。
以上、本発明装置により危険な距離まで接近しないうちにスズメバチを検知できるようになり、野外作業をより安全に実施可能になる。
【符号の説明】
【0031】
1 ターゲット(スズメバチ)
2 位相周波数検波方式レーダ送信・受信部
3 判定・制御・報知部
4 スズメバチ検知装置(本発明に係る装置)
5 ヘルメット
10 レーダ送信部
11 送信アンテナ
12 送信発振器
20 レーダ受信部
21 受信アンテナ
22 ミキサ
23 局部発振器
24 増幅・位相周波数検波
30 判定・制御・報知部
31 略100Hz BPF・PLL
32 判定・制御
33 セルフテストスイッチ
34 LED 光報知
35 スピーカー 音響報知
36 バイブレーター 振動報知・セルフテスト
図1
図2
図3