【課題】装置の稼働状態には、加工品を直接生み出す加工作業のような主作業のみならず、段取り替えなどの準備作業や、後作業、待機、トラブルによる停止やその対応などのトラブル対応作業も含まれている。このため、正確に装置の稼働状況から収益管理を行おうとすると、主作業の稼働と非稼働を把握するのみでは不十分である。そこで、装置の稼働状況をより詳細に監視できる装置状態監視システムを提供する。
【解決手段】一連の工程を実行する装置から取得される装置の稼働情報を時系列に取得する収集部と、収集部が取得した稼働情報を、装置が各工程にある場合に装置から得られる稼働情報をモデル化したマッチングデータとマッチングし、装置が実行中の工程に関する工程情報を決定する工程決定部と、を備える。
前記主作業は、前記装置により加工品を直接生み出す加工作業を含み、前記作業に付随して発生する作業は、段取り替え作業、後作業、待機、トラブル対応作業を含む、請求項3記載の装置状態監視システム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る装置状態監視システムの実施形態を添付図面に基づいて説明する。本実施形態においては、本発明に係る装置状態監視システムがアーク溶接などのための溶接や種々の加工・成形に用いられる、溶接または加工システムの状態監視に適用される場合を例に説明する。以下、単に溶接または加工システムを「溶接システム」という。また、単に溶接という場合には、「溶接または加工」を意味し得る。
【0010】
図1は、本実施形態における装置状態監視システム1の機能構成を示す概略的な機能ブロック図である。
【0011】
以下の説明において、「ユーザ」は、主に、溶接システム35をはじめとするユーザ設備(工場)内の装置を稼働し使用する者をいう。「販売者」は、装置(装置に付随する部品を含む。)をユーザに対し販売すること、装置をメンテナンスすること、もしくは装置を改造することを行う者をいう。「メーカ」は、販売者がユーザに販売する装置や部品を製造し販売者に販売する者をいう。「装置」および「部品」は、セル31に含まれる溶接システム35、ロボット本体36、治具・センサ類37、およびロボットコントローラ38、専用基板39、またはこれらの部品、PLC32、PLC−GW33、および通信GW34またはこれらに含まれる部品を含み得る。
【0012】
装置状態監視システム1は、ネットワーク2に接続されている。装置状態監視システム1は、ネットワーク2を介して、製造ライン3、…3n、販売者端末4、メーカ端末5、およびユーザ端末6、…、6nと接続している。
【0013】
製造ライン3、…3nは、ユーザにより管理される、複数のセル31からなる設備である。セル31は、製造ライン3に含まれる小区画を単位とした概念であり、同一の製造ライン3には複数のセル31a、31b、31cが含まれ得る。ここで、
図2は、製造ライン3と、セル31との関係を説明する図である。
【0014】
例えば、製品Aを製造するための製造ライン3Aには、セルA−1〜A−4およびセルC−1〜C−2で表されるセル31Aが含まれる。製品Bを製造するための製造ライン3Bには、セルB−1〜B−4およびセルC−1〜C−2で表されるセル31Bが含まれる。なお、セルC−1〜C−2のように、セル31は複数の製造ライン3に含まれ得る。
【0015】
ネットワーク2には、複数のユーザにより管理される複数(異なるユーザ)のユーザ設備が接続され得るが、各ユーザ設備はほぼ同様の構成を有するため、ここでは一のユーザ設備のみを図示して説明する。
【0016】
製造ライン3は、セル31、PLC32、PLC−GW33、および通信GW34を有している。
【0017】
セル31は、溶接システム35、ロボット本体36、治具・センサ類37、およびロボットコントローラ38を有している。
【0018】
溶接システム35は、溶接機、フィーダコントロールボックス、ワイヤー供給装置、溶接トーチ、トーチケーブルなどを含む。ロボット本体36は、溶接システム35を利用して溶接を自動的に行うためのロボットである。治具・センサ類37は、ポジショナなどの治具、位置センサ、温度センサ、振動計などのセンサ類、および撮像装置などを含む。
【0019】
溶接システム35およびロボット本体36は、ロボットコントローラ38に接続されている。ロボットコントローラ38は、PLC(Programmable Logic Controller)32の制御に基づいて、溶接システム35、ロボット本体36を制御する。
【0020】
PLC32は、ロボットコントローラ38および治具・センサ類37と接続され、予めプログラムされた制御内容に基づいてこれらを制御することにより、溶接システム35、ロボット本体36および治具・センサ類37(セル31)を上位的に制御する。
【0021】
また、溶接システム35、ロボットコントローラ38、およびPLC32は、専用基板39と接続されている。専用基板39は、溶接システム35、ロボットコントローラ38、およびPLC32から各種溶接に関する物理量などからなる稼働情報を取得するものであり、専用の演算用CPU(Central Processing Unit)を搭載している。
【0022】
稼働情報は、製造ライン3から得られる数値化可能な(出力可能な)情報の全てが該当する。稼働情報は、例えば、ロボットコントローラ38より得られるロボット本体36の軸を駆動するモータの運転情報、または溶接装置から得られる溶接条件を含む。モータの運転情報は、例えば、モータ電流指令値、実電流値、モータ速度指令値、実速度、またはエンコーダ位置情報を含む。溶接条件は、例えば、溶接手法、溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤー送給速度、溶接速度、溶接波形調整量、突き出し量、溶接トーチの前進角・後進角、狙い角、狙い位置、シールドガス流量、ウィービング条件、アークセンサ条件、多層盛溶接時の溶接位置オフセット量を含む。また、稼働情報は、これら溶接条件に基づいて動作する溶接システム35、ロボット本体36、および治具・センサ類37から計測される各種値を含む。これら稼働情報は、それぞれ所定の計測装置により計測される。
【0023】
また、稼働情報は、例えば、撮像装置により撮像された溶接部の撮像データ、この撮像データを処理することにより得られる溶接ビードの外観、ビードの余盛り高さ、ビード幅、スパッタ発生量を含む。さらに、稼働情報は、溶け込み計測装置から得られる溶け込み量、集音装置から得られるアーク音波形を含む。
【0024】
PLC32aは、一例として
図1に示すように、複数のセル31a、31bと接続されている。例えば、異なるセル31cには、別途のPLC32bが設けられており、このPLC32bも上記セル31aとほぼ同様の構成を有するセル31cと接続されている。
【0025】
PLC32および専用基板39は、PLC−GW(PLC-Gateway)33および通信GW(通信Gateway)34と順次接続されている。PLC−GW33は、装置に接続された複数のPLC32a、32b、および専用基板39の通信プロトコルを、装置状態監視システム1で利用可能な所定の形式に変換する。PLC−GW33は、通信GW34およびネットワーク2を介して、専用基板39から得られた上記稼働情報を装置状態監視システム1に送信する。PLC−GW33は、稼働情報を一定周期で取得し、送信する。このとき、セル31の稼働情報とともに、PLC−GW33または通信GW34に関する稼働情報も装置状態監視システム1に送信されてもよい。
【0026】
なお、専用基板39と接続される装置は、PLC32やロボットコントローラ38により制御されることなく作動する装置(例えばプレス機、溶接機単体)も含まれる。この場合、専用基板39は、これら装置と直接接続され、ON、OFF信号のような単に作動しているか否かを示す信号(例えば24V接点出力)など取得可能な電気信号を取得し、送信する。
【0027】
溶接システム35、ロボット本体36および治具・センサ類37などの装置状態監視システム1に情報を提供する各装置(以下単に「装置」という。)には、固有のIDが付与されている。また、装置を構成する部品(溶接トーチ、溶接ワイヤー、溶接チップなど)、および装置や部品で構成される要素(例えばロボット本体36の軸)にも同様に、固有のIDが付されている。装置状態監視システム1に提供される情報は、これらIDと関連付けられて識別可能に送信される。
【0028】
販売者端末4は、販売者が使用する端末(コンピュータ)である。販売者は、販売者端末4を利用して販売者端末4に対して開示対象となっている装置状態監視システム1内の情報にアクセスしたり、装置状態監視システム1より通知を受け取ったりする。
【0029】
メーカ端末5は、メーカが使用する端末である。メーカは、メーカ端末5を利用して、メーカ端末5に対して開示対象となっている装置状態監視システム1内の情報にアクセスしたり、装置状態監視システム1より通知を受け取ったりする。
【0030】
ユーザ端末6、…、6nは、各ユーザが使用する端末である。ネットワーク2には、複数のユーザにより管理される複数(異なるユーザ)のユーザ端末6、…6nが接続されているが、各ユーザ端末6、…6nはほぼ同様の構成を有するため、単にユーザ端末6として説明する。ユーザは、ユーザ端末6を利用して、ユーザ端末6に対して開示対象となっている装置状態監視システム1内の情報にアクセスしたり、装置状態監視システム1より通知を受け取ったりする。
【0031】
装置状態監視システム1は、例えば、クラウドコンピューティングを利用した、SaaS(Software as a Service)を利用したシステムである。装置状態監視システム1は、収集部11と、工程決定部21と、記憶部12と、表示制御部22と、演算部13と、通知部14と、発注部15と、を有している。
【0032】
収集部11は、ネットワーク2を介して製造ライン3より溶接システム35などの装置に関する稼働情報や種々の物理量などを取得する。収集部11は、取得した稼働情報などを、工程決定部21を通して稼働情報記憶部18に記録する。
【0033】
工程決定部21は、予め記憶されたマッチングに用いるマッチングデータを有している。工程決定部21は、マッチングデータと、収集部11により取得された稼働情報とを照合することにより、稼働情報から装置が実行中の工程を決定し、工程情報を生成する。工程決定部21は、生成した工程情報をマッチングデータとともに稼働情報記憶部18に記憶する。工程決定部21の詳細については、後述する。
【0034】
記憶部12は、販売情報記憶部17と、稼働情報記憶部18と、を有している。
【0035】
稼働情報記憶部18は、収集部11より得られる稼働情報を、工程決定部21を介して取得し、記憶する。また、稼働情報記憶部18は、工程決定部21により生成された工程情報と、この工程情報に関連付けられたマッチングデータとを関連付けて記憶する。
【0036】
表示制御部22は、稼働情報記憶部18に記憶された稼働情報や工程情報を読み込み、指定された形式で表示するための制御を行う。具体的には、表示制御部22は、販売者端末4、メーカ端末5、またはユーザ端末6より稼働情報などを表示するよう要求されると、要求に応じて情報を読み込み、販売者端末4、メーカ端末5またはユーザ端末6に所定の形式で表示する。
【0037】
なお、販売情報記憶部17、演算部13、通知部14および発注部15については、生成された工程情報を利用した機能を実行するため、工程情報を生成する処理を説明した後に詳細に説明する。
【0038】
次に、本実施形態における装置状態監視システム1により実行される処理について、詳細に説明する。以下、装置状態監視システム1が、セル31を対象として処理を実行する例を用いて説明する。セル31は、ある加工対象に溶接を施すため、一連の工程を実行する。すなわち、セル31の一連の工程には、「段取り替え」、「待機中」、「運転中」、および「異常発生」のように、実際に溶接を施す主作業のみならず、準備作業や後作業、トラブルによる中断などの主作業に付随して発生する作業が含まれる。すなわち、工程は、装置が実際に実施し得る種々の作業を含みうる概念である。
【0039】
ここで、
図3は、セル31が実行し得る一連の工程を視覚的に示した図である。
【0040】
これら工程は、稼働情報の取得元となるセル31の機種や、セル31の加工対象に依存するものではなく、またセル31以外の他の装置との間でも比較可能な情報であり、例えば収益管理や予実管理を行う上で用いることもできる情報である。
【0041】
例えば、セル31において、段取り替え(段替え)から運転までの各工程がどのような割合でどのような流れで実行されているか、について正確に把握することができると、計画と実績との比較や、作業効率の分析を行うことができる。
【0042】
セル31に依存する稼働情報の記録や集計を人的資源で補うことにより、セル31の収益管理や予実管理を行うことは可能である。しかしながら、稼働情報から自動的に、かつリアルタイムにセル31が実行している工程に関する工程情報を収集することができれば、収益管理や予実管理のための分析をより詳細に、より効率的に行うことができる。
【0043】
そこで、本実施形態における装置状態監視システム1は、セル31より、稼働情報を自動的に取得する。また、装置状態監視システム1は、この稼働情報に基づいてセル31が実行している工程を予め記憶されたマッチングデータとのマッチングにより決定することにより、稼働情報から工程情報を自動的に、かつリアルタイムに生成することができる。以下、工程情報を決定するための処理をフローチャートを用いて説明する。
【0044】
図4は、装置状態監視システム1により実行される工程情報決定処理を説明するフローチャートである。工程情報決定処理は、例えば収集部11が稼働情報を取得するたびなどの、所定タイミング、または所定時間毎に繰り返し実行される。
【0045】
ステップS101において、収集部11は、セル31よりネットワーク2を介して稼働情報を取得する。ここで使用される稼働情報は、上述した稼働情報のうち、セル31が実行中の工程を決定するために必要な情報であり、主に時間情報と、要素情報と、を有する。時間情報は、稼働情報がセル31から出力された日時を表す情報である。要素情報は、セル31に含まれる複数の稼働要素に関する情報であり、例えば各稼働要素において所定の状態が成立しているか否かを「0」および「1」の二値で表すことが可能な情報である。要素情報は、セル31の装置固有の(セル31依存の)内部状態を示す情報であり、工程情報のように一般化して他の装置と比較することが困難な類いの情報である。
【0046】
ここで、
図5は、収集部11が取得した稼働情報の一例を時系列で示す図である。
図5においては、セル31(セルA−1)から要素情報を32ビットの情報として取得する例が示されている。
図5に一例として示す32からなる要素情報は、
図3の各工程に併記された項目と一致しており、
図3においては、各工程に関連する要素情報が示されている。例えば「1工程生産待機」を決定するために必要な要素情報は、「モード1工程使用」、「1工程原位置」などである。
【0047】
要素情報は、例えば、セル31にレーザ射出異常が発生しているか否かに関する情報であり、レーザ射出異常が発生している場合には「1」、発生していない場合には「0」で表される。また、他の要素情報は、ある工程(例えば1工程)に使用される可動要素(例えば、ポジッショナー治具)が原位置にあるか否かに関する情報であり、可動要素が原位置にある場合には「1」、原位置にない場合には「0」で表される。
【0048】
ステップS102において、工程決定部21は、自らが有するマッチングデータを、収集部11から取得した要素情報(稼働情報)と照合する。
【0049】
マッチングデータは、セル31が各工程を実行中にセル31から得られるであろう要素情報のパターンをモデル化して定義したデータである。例えば、要素情報において、ある稼働要素が原位置にあり、かつ「モード1工程使用」が成立している場合には、セル31は「1工程の生産待機」という工程を実行中であることを定義するためのデータである。なお、「モード1工程使用」とは、作業者より1工程を使用する指示を受け付けている状態をいう。
【0050】
ステップS103において、工程決定部21は、マッチングデータの照合結果に基づいて、稼働情報から推定されるセル31が実行中の工程を決定する。具体的には、工程決定部21は、マッチングデータから比較対象の要素情報のパターンと一致するパターンを抽出し、そのパターンに定義づけられた工程から工程情報を生成する。
【0051】
ステップS104において、工程決定部21は、収集部11から取得した稼働情報をマッチングデータ(工程情報)と関連付けて、稼働情報記憶部18に随時記憶する。
【0052】
このようにして、工程決定部21により稼働情報に工程情報が関連付けされることにより、セル31に依存した内部的な稼働情報から、他の装置と相対的に比較可能な工程情報を生成(稼働情報を工程情報に変換)できる。工程情報は、例えば
図3で例示した工程の関連図と連動させて、セル31が実行中の工程(
図3においては「2工程生産待機」)を色を変えるなどして明示することで、現状をリアルタイムに把握できる。
【0053】
また、表示制御部22は、ユーザ端末6などから工程情報を表示する指示を受け付けた場合、種々の態様により工程情報を表示し、ユーザなどにセル31により実施された工程の実績を視覚的に把握させることができる。例えば、
図6は、工程情報の表示例を示す説明図である。
【0054】
図6(A)に示すように、表示制御部22は、工程情報に基づいて、ある一定期間においてセル31が実行した工程の割合を表形式で表示することができる。また、
図6(B)に示すように、表示制御部22は、セル31が実行した工程の割合を、円グラフ形式で表示することもできる。さらに、
図6(C)に示すように、表示制御部22は、セル31が実行した工程が時間軸で一覧できるよう、ガントチャート形式で表示することもできる。
【0055】
このような工程情報は、予めユーザなどにより作成され入力されたデータと関連付けられることにより、種々の分析に活用できる。例えば、ユーザは、工程情報を利用することにより、予実管理、材料の発注点予測などを行うことができる。販売者およびメーカは、得られる工程情報を利用することにより、消耗品の需要予測、装置または部品の故障予測、消耗品・材料の自動発注提案、材料の発注点予測、材料の製造予測などを行うことができる。
【0056】
例えば、装置状態監視システム1は、実際のセル31の実績としての工程情報をリアルタイムに、かつ正確に得ることができる。このため、装置状態監視システム1が、所要の分析部を有することにより、予算上の投入資源(例えば、材料費、原料費、人件費)に対して、出力される価値(例えば、完成品で得られる利益)の価格予実管理に関する分析を自動で処理できる。
【0057】
具体的には、装置状態監視システム1がセル31が稼働中において実行する全ての工程を正確に把握できるため、ある一定期間の加工品数に対して、直接的な加工(主作業)のために要した投入資源を単純に比較するのみならず、運転時間以外の準備作業および後作業(段取り替え作業、待機時間など)やトラブルに関与した投入資源なども考慮して、収益管理を行うことができる。
【0058】
また、装置状態監視システム1は、稼働情報と工程情報とを関連付けたマッチングデータを予め生成することにより工程を決定するため、マッチングデータさえあれば、どのような装置からであっても工程情報を生成できる。すなわち、装置状態監視システム1は、例えばPLC32やロボットコントローラ38により制御されないような、古い機械であっても、ON、OFF信号のような稼働状態を種々の出力端子から取得できれば、マッチングを経て工程情報を生成することができる。すなわち、装置の新旧に依らずどのような装置、工場であっても、装置状態監視システム1を適用可能である。
【0059】
次に、装置状態監視システム1により生成された工程情報を活用した処理の一例として、販売者が工程情報を用いて、装置または部品の故障予測を行う例を具体的に説明する。装置状態監視システム1は、故障予測を行うために、
図1に示す記憶部12の販売情報記憶部17と、演算部13と、通知部14と、発注部15と、を有する。
【0060】
販売情報記憶部17は、販売者によるユーザに対する装置または部品の販売情報を記録する。販売情報は、販売者がユーザに対して行った製品または部品の販売履歴、装置または部品のメンテナンス履歴、もしくは装置または部品の改造履歴を含み得る。販売情報記憶部17は、例えば、ユーザ情報(ユーザ名など)を頂点とするツリー構造を有している。例えば、販売情報記憶部17は、ユーザ情報の下位に、製造ライン3(ユーザ設備)に関する情報、セル31に関する情報、セル31に含まれる装置に関する情報、装置に含まれる要素または部品に関する情報を順次記録している。販売情報記憶部17は、これら情報に上述した装置固有のIDを付与して記録している。
【0061】
販売情報記憶部17は、販売者がユーザに対して行った販売、メンテナンス、改造に関する情報を販売者端末4より取得し、記録する。販売情報記憶部17は、販売情報の他に、ユーザごとの各装置や部品の必要在庫数など、販売者が販売に必要な情報を保持している。販売情報記憶部17は、各装置や部品に対する代替品に関する代替品情報も保持している。これら情報は、販売者端末4より適宜送信され、販売情報記憶部17に記録(更新、追加、または修正)される。販売情報記憶部17は、稼働情報記憶部18に記録された稼働情報と関連付けて記録される。関連付けは、IDによって行われる。
【0062】
演算部13は、予測部19と、提案部20と、を有している。
【0063】
予測部19は、販売情報および稼働情報(以下単に「稼働情報」という場合には、工程情報が関連付けられた情報も含み得る。)に基づいて機械学習することにより、装置または部品の故障のタイミング(故障予測時点)を予測する。具体的には、予測部19は、販売情報記憶部17および稼働情報記憶部18に蓄積された、装置が稼働してから故障するまでの過去の販売情報および稼働情報を機械学習し、装置または部品の故障時点を推測するための推測モデルを生成する。例えば、予測部19は、故障時点までの稼働情報の変化を定性的(確率分布的)に評価し、機械学習する。予測部19は、得られた推測モデルから現在の装置または部品が故障するまでの稼働状態との差分を得て、故障予測時点までの曲線(推移)を得る。予測部19は、装置が稼働してから故障するまでの過去の販売情報および稼働情報が得られるたびにこの推測モデルを更新し、さらに他ユーザの製造ライン3に関する情報も集積することにより、精度の高い故障時点の予測を行うようになっている。
【0064】
例えば、予測部19は、ロボット本体36のモータの故障予測について、モータに関する稼働情報を故障までのサイクルに関して機械学習し、応答性の鈍化、負荷率の変化、ならびに追加情報としての周囲温度および振動の周波数が、故障に与える影響を考慮した推測モデルを生成する。機械学習は、ディープラーニングなどの手法を用いることができ、さらには教師あり学習、教師なし学習、半教師あり学習、強化学習、トランスダクション、マルチタスク学習など、各種の手法を適用し得る。提案部20についても同様である。
【0065】
ここで、「故障」は、装置または部品が溶接に使用できない状態をいい、新しい装置または部品との交換が必要な状態を含む。また、「故障」は、装置または部品が溶接に使用できるが、所要の溶接品質を得ることができない状態を含む。
【0066】
提案部20は、販売情報、稼働情報および部品情報に基づいて機械学習することにより、装置または部品の代替品を提案する。具体的には、提案部20は、販売情報記憶部17および稼働情報記憶部18に蓄積された、過去の販売情報および稼働情報を機械学習し、現在使用中の装置または部品を代替品に代替した場合の評価を行うための推測モデルを生成する。提案部20は、この推測モデルから得られる代替品の評価に基づいて、現在使用中の製品または部品よりも好ましい代替品があるかどうかを判定する。
【0067】
通知部14は、予測部19および提案部20の推測結果に基づいて、ユーザ端末6に通知を行う。通知部14は、例えば、故障予測時点までの時間が、予め設定された通知を行う時間である通知時間未満である場合、ユーザ端末6にメールなどで通知を行う。また、通知部14は、ユーザに提案すべき代替品がある場合には、ユーザ端末6にメールなどで通知を行う。
【0068】
発注部15は、予測部19の推測結果に基づいて、故障が推測される装置または部品の発注処理を自動的に行う。例えば、故障予測時点までの時間が、予め設定された発注を行う時間である発注時間未満である場合、発注部15は、該当部品の情報を販売情報記憶部17に記録し、その内容を販売者端末4へ送信する。販売者は、この通知に基づいて、ユーザへ装置または部品を発送する。
【0069】
このような装置状態監視システム1は、すでに販売情報記憶部17に記録されている製造ライン3で使用されている装置または部品に関する詳細な情報、製造ライン3に関する情報などと、製造ライン3から得られる稼働情報とを関連付けて記録する。このため、装置または部品から得られる稼働情報のみで機械学習するよりも、ユーザの使用環境をより反映させて機械学習を実行することができる。
【0070】
図7は、本実施形態における装置状態監視システム1により実行される故障予測処理を説明するフローチャートである。
【0071】
図8は、製造ライン3および装置状態監視システム1における処理を特に説明するシーケンス図である。
【0072】
図7のステップS1において、収集部11は、稼働情報を取得する。すなわち、収集部11は、製造ライン3が装置または部品より取得した溶接に関する物理量(
図8のステップS11)を、ネットワーク2を介して取得する(ステップS12)。収集部11は、この溶接に関する物理量に対して上述した所要の処理を行うことにより、稼働情報を取得する(ステップS13)。
【0073】
ステップS2において、稼働情報記憶部18は、収集部11より稼働情報を取得し、記録する(ステップS14)。このとき、稼働情報記憶部18は、販売情報記憶部17に記憶された販売情報と関連付けて記録する(ステップS15)。
【0074】
ステップS3において、予測部19は、稼働情報記憶部18より稼働情報を取得する(ステップS16)。また、予測部19は、販売情報記憶部17より販売情報を取得する(ステップS17)。予測部19は、取得したこれら情報に基づいて機械学習し、故障予測を行うための推測モデルを更新する(ステップS18)。なお、推測モデルは、販売情報記憶部17に新たな販売情報が記録されるたびなど、種々のタイミングで更新されてもよい。
【0075】
ステップS4において、予測部19は、推測モデルに基づいて故障予測時点を取得する(ステップS19)。予測部19は、取得した故障予測時点を、通知部14および発注部15に出力する(ステップS20、S21)。
【0076】
ステップS5において、通知部14は、故障予測時点まで予め設定された通知時間未満であるか否かの判定を行う。通知部14は、通知時間未満であると判定した場合(ステップS5のYES)、ステップS6において、ユーザ端末6に装置または部品が故障することが予測される時点までの時間が、通知時間に相当する時間未満である旨を通知する(ステップS22)。ユーザは、この通知を受信することにより、必要なメンテナンスや、交換部品などの発注作業を行うことができる。これにより、意図しない故障による停止時間を低減することができる。
【0077】
ステップS7において、発注部15は、故障予測時点まで予め設定された発注時間未満であるか否かの判定を行う。発注部15は、発注時間未満であると判定した場合(ステップS7のYES)、ステップS8において、故障に伴い交換が必要な装置または部品の発注処理を行う(ステップS23)。この処理は、ユーザが発注処理を行うことなく、装置状態監視システム1が自動的に必要な装置または部品を判断することにより行われる。発注部15は、販売情報記憶部17に記録されているユーザの必要在庫数を参照することにより、発注数も決定することができる。これにより、ユーザは、発注作業を行う手間を省くことができ、在庫管理を自動化できる。また、販売者も、ユーザとのやりとりの手間を省くことができる。通知部14が通知時間未満ではないと判定した場合(ステップS5のNO)、発注部15が発注時間未満ではないと判定した場合(ステップS7のNO)、およびS8の後、ステップS1に戻り、この処理は製造ライン3が稼働中において繰り返し実行される。
【0078】
次に、装置状態監視システム1により実行される代替品提案処理を説明する。
【0079】
図9は、装置状態監視システム1により実行される代替品提案処理を説明するフローチャートである。この代替品提案処理は、一定周期で行われてもよいし、所定のタイミング(例えば装置または部品の故障のタイミング)で実行されてもよい。代替品提案処理に対応する処理は、上述した故障予測処理の説明に用いた
図8のシーケンス図に続けて記載されているが、処理が実行されるタイミングはこれに限らない。
【0080】
ステップS31において、提案部20は、販売情報記憶部17より販売情報および代替品情報を適宜取得する(
図8のステップS41)。販売情報および代替品情報は、例えば、販売者端末4より適宜入力され、販売情報記憶部17に記録されている(
図8のステップS42)。
【0081】
ステップS32において、提案部20は、取得した情報に基づいて機械学習し、装置または部品に応じた故障予測時点を推測するための推測モデルを更新する(ステップS44)。ステップS33において提案部20は、推測モデルに基づいて、代替品を使用した場合の評価を行う(ステップS45)。なお、推測モデルは、販売情報記憶部17に新たな販売情報が記録されるたびなど、種々のタイミングで更新されてもよい。
【0082】
一例として、溶接チップの評価は、溶接電流および溶接電圧から判断可能な摩耗で評価することができる。提案部20は、推測モデルに基づいて、摩耗を小さくし生産性を向上させる、代替品としての溶接チップを選定する。提案部20は、例えば、現在使用されている溶接チップの交換周期および価格から一定期間における溶接チップのコストを算出する。また、提案部20は、代替品としての溶接チップを使用した場合に予測される溶接チップの交換周期および部品価格から一定期間における溶接チップのコストを算出する。提案部20は、これらのコストを比較し、代替品を使用した場合のコストが小さければ、代替品を使用すべきと評価することができる。
【0083】
また、他の例として、溶接ワイヤーの評価は、ワイヤーの送線モータの電流および電圧から判断可能な送線抵抗で評価することができる。提案部20は、推測モデルに基づいて、送線抵抗を小さくする代替品としての溶接ワイヤーを選定する。提案部20は、例えば交換頻度、歩留まり、ワイヤーに起因する一次的なトラブルによる停止または空転(いわゆるチョコ停)の回数を評価項目として、現在使用されている溶接ワイヤーと代替品としての溶接ワイヤーとを比較する。提案部20は、代替品の方が良い評価であれば、代替品を使用すべきと評価することができる。
【0084】
ステップS34において、提案部20は、現在使用されている装置または部品が使用される場合に比べて、代替品が使用される場合のほうが評価が改善されるか否かの判定を行う。提案部20は、改善されると判定した場合(ステップS34のYES)、評価情報を通知部14に出力する(ステップS46)。ステップS35において、通知部14は、評価情報に基づいて、代替品を提案する内容の通知をユーザ端末6に対して行う(ステップS47)。一方、提案部20は改善されないと判定した場合(ステップS34のNO)、処理を終了する。
【0085】
このような装置状態監視システム1は、販売者により管理され、顧客情報や販売情報を保持する顧客関係管理(CRM)システムのようなシステムに、製造ライン3より取得される稼働情報を関連付けて記憶することにより、販売者は、販売者自身が保有する販売履歴、メンテナンス履歴または改造履歴に関する販売情報と稼働情報とが関連付けられた情報を、入力や装置情報の収集や入力の手間をかけることなく得ることができる。装置状態監視システム1は、この情報に基づいて機械学習を行うことにより、より実態に即した精度の高い故障予測を行うことができる。
【0086】
また、装置状態監視システム1は、販売者が故障予測に関する情報を得ることができるため、販売者自身の販売予測や、販売者に対して製品や部品を販売するメーカの製造予測および販売予測にも情報を活用することができる。その結果、販売者またはメーカは、製品または部品の適正な供給タイミングや供給数量を予測することができ、在庫が無くなる前に補給を提案することもできるというメリットを享受することができる。さらに、メーカは、製品開発のターゲットを定量的に把握することもできる。
【0087】
装置状態監視システム1は、販売者のユーザに関する情報を管理するためのCRMシステムである場合、販売者に対する複数のユーザから得られる同種の装置または部品に関する情報を横断的に利用することができるため、得られる情報量が多く、より精度の高い予測ができる。故に、装置状態監視システム1は、複数社(複数のユーザ、販売者、メーカ)にまたがって生産情報を共有、最適化および改良方針の提供を実現することができるシステムである。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0089】
例えば、
図1の製造ライン3の構成は一例であって、PLC32、PLC−GW33および専用基板39は省略が可能であり、ロボットコントローラ38などから直接ネットワーク2に溶接に関する物理量が送信されるようにしてもよい。
【0090】
販売者端末4、メーカ端末5、およびユーザ端末6は必須ではなく、また工程情報を利用する分析のための演算部13や通知部14、発注部15も本発明の装置状態監視システム1の必須の構成ではない。また、稼働情報をネットワーク2を介して送信することも必須ではなく、装置状態監視システム1が工場内などの閉じたネットワーク上で実現されてもよい。
【0091】
「販売店」は、ユーザに装置または部品を販売する者であり、メーカが直接ユーザにこれらを販売する場合には「販売店」にメーカが含まれる。
【0092】
図1においては、装置状態監視システム1の各部が同一のシステム内にある例が示されているが、一部がネットワーク2を介して異なるシステムに含まれていてもよい。例えば、収集部11や演算部13は、異なるSaaSを利用してもよい。
【0093】
装置状態監視システム1は、例えば販売者にとっての顧客関係管理(CRM)システムであってもよく、顧客情報の管理・分析などに用いられるものであってもよい。
【0094】
装置状態監視システム1が溶接または加工システムの状態監視に適用される例を用いて説明したが、製造業以外にも、工事現場、各種プラント、商業施設、医療施設など、一連の工程を実行する装置が用いられる施設、設備であればどのような業種にも適用可能である。