【課題】 スロットへのインシュレーターの配設で、スロットのコイル配置部分を適切な形状として、コイルのスロットへの挿通を容易に行え、且つ、コイルとコア間に空気が介在する状態を生じにくくして、コイルからコア側への伝熱を促せる、回転電機のコア部を提供する。
【解決手段】 回転電機における鉄心本体の各スロット13にインシュレーター15を設け、スロット13に面する側面同士が平行とはならない形状のティース11cに対し、このティース11cを含む鉄心本体11のスロット13に面する各面とコイルをなす平角線51の挿通部位との間にインシュレーター15が位置して、平角線挿通状態では、インシュレーター15が平角線51と鉄心本体11にそれぞれ接することから、インシュレーター15が平角線51で発生する熱を鉄心本体11へ伝えられ、放熱を促進させてコイルの温度上昇を抑え、回転電機の作動をより安定化できる。
磁性金属材料製の薄板を複数積層して形成され、回転電機の固定子又は回転子におけるコアとなる鉄心本体を少なくとも有し、当該鉄心本体の内周部又は外周部に複数等間隔で設けられたスロットに、コイルの一部をそれぞれ配設可能とされる、回転電機のコア部において、
前記鉄心本体の各スロット間に突出状態で形成されるティースが、一つのスロットを挟んで対向する側面同士を平行としない形状又は一部のみ平行である形状とされ、
前記各スロットが、当該各スロットに面する前記鉄心本体の各側面と一体に接合する、樹脂製の絶縁層を成型配設され、
当該絶縁層が、前記スロットの一部をなす空隙部を取り囲む形状を有して、当該空隙部に前記コイルをなす複数の平角線を挿通可能とされ、空隙部への平角線挿通状態では、平角線とティースとの間に介在することを
特徴とする回転電機のコア部。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転電機のコアは、前記特許文献に示される構成を有しており、例えば、コイルとティースとの間に絶縁紙を介在させるように設ける場合、コイル配設前に絶縁紙をティース間のスロットに挿入する工程などが必要となり、コイル配設工程の能率向上を図ることが難しいという課題を有していた。
【0005】
また、コイルが、矩形又は方形状断面の平角線とされるセグメント導体で形成され、これら導体を互いに連結して連続一体化するセグメントコイルとされる場合、コアのスロット形状が複数の平角線に対応した長方形でないと、スロットの平角線が入る箇所以外の隙間を埋めて平角線を固定するために複数の固定用部材を用いる必要があり、コストが発生する。このため、こうしたセグメントコイルを採用する場合には、通常は、コアの各スロットを平角線の複数配置状態に対応する長方形のスロット形状とし、固定用部材を必要最小限とするようにしていたが、コアや平角線が専用の形状となることで、新たなコスト上昇に繋がる場合があるという課題を有していた。
【0006】
この他、スロット形状が、一つ以上の直線又は曲線を組み合わせた複雑な輪郭を持つものとされる場合、コイルを取り巻く絶縁紙等の絶縁体とティースとの間に隙間が生じやすく、この隙間に空気が介在することで、伝熱性能が悪化してコイルからの放熱が適切に行えなくなるという課題を有していた。
【0007】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、スロットへのインシュレーターの配設で、スロットのコイル配置部分を適切な形状として、コイルのスロットへの挿通を容易に行え、且つ、コイルとコア間に空気が介在する状態を生じにくくして、コイルからコア側への伝熱を促せる、回転電機のコア部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の開示に係る回転電機のコア部は、磁性金属材料製の薄板を複数積層して形成され、回転電機の固定子又は回転子におけるコアとなる鉄心本体を少なくとも有し、当該鉄心本体の内周部又は外周部に複数等間隔で設けられたスロットに、コイルの一部をそれぞれ配設可能とされる、回転電機のコア部において、前記鉄心本体の各スロット間に突出状態で形成されるティースが、一つのスロットを挟んで対向する側面同士を平行としない形状又は一部のみ平行である形状とされ、前記各スロットが、当該各スロットに面する前記鉄心本体の各側面と一体に接合する、樹脂製の絶縁層を成型配設され、当該絶縁層が、前記スロットの一部をなす空隙部を取り囲む形状を有して、当該空隙部に前記コイルをなす複数の平角線を挿通可能とされ、空隙部への平角線挿通状態では、平角線とティースとの間に介在するものである。
【0009】
このように本発明の開示によれば、回転電機における鉄心本体の各スロットに絶縁層を設け、スロットに面する側面同士が平行とはならないか一部のみ平行である形状のティースに対し、このティースを含む鉄心本体のスロットに面する各面とコイルをなす平角線の挿通部位との間に絶縁層が位置して、平角線挿通状態では、絶縁層が平角線と鉄心本体にそれぞれ当接することにより、平角線と鉄心本体に当接する絶縁層が、平角線で発生する熱を鉄心本体へ伝えられ、コイルから外部へ向かう伝熱の効率を向上させて放熱を促進させられ、コイルの温度上昇を抑えて、回転電機の作動をより安定化できる。
【0010】
また、ティース間で所定形状をなすスロットに対し、絶縁層の形状を適宜調整し、この絶縁層に囲まれる空隙部を平角線の形状に対応させて、平角線を問題なく挿通可能とすることができ、平角線からなるコイルの配置の自由度を高められると共に、スロット形状自体を平角線の形状に合わせたものとする必要はなく、スロットの形状やこのスロット形状に影響を与えるティースの形状についても高い自由度を与えられ、例えば、ティース形状を磁気的な効率を重視したものとするなどして、回転電機の作動安定化や出力向上等も図れることとなる。
【0011】
さらに、絶縁層が積層鉄心である鉄心本体のスロットに面する各面と一体に設けられることで、積層されて鉄心本体をなす各薄板を相互に固定でき、鉄心本体のねじり強度を向上させられる。加えて、鉄心本体に対し絶縁層を成型配設することで、絶縁層外縁部が鉄心本体の形状に特に制約なく追随して当接でき、例えば従来の絶縁紙を用いる場合のように、鉄心のティース基端側隅部に絶縁紙角部に対応するヌスミ部を設けるなどの、絶縁層を適切に配設するために鉄心本体側であらかじめ配慮した構造部分を設けるような対策を講じる必要はなく、鉄心本体の構造単純化によるコストダウンや、絶縁層と鉄心本体との接触面積の増大とそれに伴う放熱効率向上が図れる。
【0012】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記鉄心本体における前記空隙部の平面視形状が、前記平角線と略同形状であるものである。
このように本発明の開示によれば、空隙部の平面視形状をこれに挿通される平角線と略同形状として、空隙部への平角線挿通状態で平角線と絶縁層との間に隙間をほとんど生じさせないことにより、平角線で発生する熱を確実に絶縁層に伝えて、この絶縁層経由で鉄心本体に熱を逃がすことができ、平角線からの放熱効率をさらに高めて温度上昇を抑えられる。
【0013】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記鉄心本体の各ティースが、ティースを挟んで隣り合う二つのスロットにそれぞれ面する両側面を、鉄心本体の径方向と平行な向きとされ、ティースの前記両側面に挟まれる部分が、同一の幅で前記径方向に連続する形状とされるものである。
このように本発明の開示によれば、鉄心本体における各ティースの、スロットにそれぞれ面する両側面を、鉄心本体の径方向と平行な向きとして、各ティースが径方向に同じ幅で連続する形状部分を有することにより、各ティースに、径方向と直交する向きにおける断面積が一定となる部分を、径方向に連続させて生じさせられ、径方向に突出するティースにおける磁束を安定させられ、回転電機の回転を安定化して性能向上が図れる。
【0014】
また、ティース形状に基づいて、スロット形状が先細又は先太の略楔状となることで、鉄心本体と平角線との間に介在する絶縁層に厚さの変化を与えられ、絶縁層の厚さが大きい部分に対し、平角線のスロット内への挿入を容易にする形状への加工等が容易に行えると共に、絶縁層形状に基づいて成型時の樹脂材料の流動改善も図れる。
【0015】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記鉄心本体におけるティースのスロットに面する側面が、鉄心本体をなす積層状態の各薄板における形状の不一致に起因する凹凸を有するものである。
このように本発明の開示によれば、鉄心本体を構成する複数の薄板の形状が一致しないことに基づいて、ティースのスロットに面する側面に凹凸が生じた状態となることにより、スロットに成型配設される絶縁層はティースの側面の凹部に食い込む状態となって、この側面に強力に密着一体化することとなり、鉄心本体をなす薄板相互の絶縁層による固定もさらに確実なものとなり、鉄心本体のねじり強度を大きく強化できる。そして、絶縁層がティース側面の凹部に食い込むように配設されることで、凹凸の存在に関わりなく、ティース側面と絶縁層との間に空気層が生じることはなく、絶縁層からティース側へ熱を効率よく伝えられる状態を確保できる。
【0016】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記絶縁層における前記空隙部に面する内周面が、周方向に波状の微小凹凸が繰り返し現れる形状を有するものである。
このように本発明の開示によれば、絶縁層の内周面に凹凸を設け、スロットへの平角線挿入状態では絶縁層の凸部分と平角線とが接することにより、絶縁層と平角線との接触面を小さくしてスロットへの平角線挿通時における摩擦を軽減でき、平角線の挿通をスムーズに進められる一方、挿入された平角線と絶縁層との接触状態を維持し、コイルから絶縁層を通じて鉄心本体へ伝熱可能として、コイルで発生する熱を確実に放熱させられる。
【0017】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記絶縁層が、ティースに接合する外周面と平角線に接触可能な内周面との間の厚さが他部より大きくなる所定箇所における、内周面の平角線挿入側の角部を、面取り加工されるものである。
【0018】
このように本発明の開示によれば、絶縁層における外周面と内周面との間の厚さが他部より大きくなる箇所で、内周面側の角部を面取り加工して、平角線端部の空隙部への挿入時に挿入の支障となる絶縁層の空隙部周りの角部を一部除去することにより、少なくとも面取り加工部分においては、空隙部に挿入しようとする平角線端部が絶縁層の角部に当たって挿入しにくい状態とならず、平角線端部を空隙部にスムーズに挿入して挿通状態とすることができ、平角線のスロット挿通作業を効率よく進められる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る回転電機のコア部を前記
図1〜
図6に基づいて説明する。本実施形態においては、回転電機としての電動機の固定子をなすコアの例について説明する。
【0021】
前記各図において本実施形態に係る回転電機のコア部10は、磁性金属材料製の薄板11aを複数積層して形成される鉄心本体11と、この鉄心本体11に複数設けられる各スロット13に面する鉄心本体11の各側面と一体に成型配設される、絶縁層をなす絶縁樹脂材料製のインシュレーター15とを備える構成である。
【0022】
本実施形態に係るコア部10を用いる回転電機は、前記コア部10にコイルを巻回状態で配設してなる固定子と、この固定子の内側に回転可能に配設される回転子と、これら固定子及び回転子を覆う中空箱状のケースとを備える公知の構成であり、詳細な説明を省略する。
【0023】
前記鉄心本体11は、磁性金属材料製の薄板11aを複数積層して形成される積層鉄心である。
鉄心本体11をなす薄板11aは、電磁鋼やアモルファス合金等からなる薄板材から打抜き形成されるものである。
【0024】
この鉄心本体11では、重ね合わせた薄板11a同士は、かしめで連結される。ただし、これに限らず、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の樹脂による固定、接着剤による接着、及び、薄板同士の溶接、のいずれか1又は2以上を用いて連結することもできる。
【0025】
鉄心本体11の内周部には、複数の平角線51からなるコイルを設けるためのスロット13が複数等間隔で設けられ、各スロット13はいずれも鉄心本体11中央の回転子配設位置となる空間部分に通じている。なお、鉄心本体において、全てのスロットが等間隔で設けられる必要はなく、一部異なる間隔であってもかまわない。そして、鉄心本体11は、スロット13より外側で環状に連続するヨーク部11bと、このヨーク部11bの内周から径方向内方に突出する状態で各スロット13間に形成されるティース11cとを有する。この鉄心本体11のヨーク部11bとティース11cの形状は、鉄心本体11の軸方向の全体にわたって同一形状とされる場合と、同一でなく異なる形状部分を含む場合のいずれでもかまわない。
【0026】
前記ティース11cは、一つのスロット13を挟んで対向する側面同士、すなわち、ティース11cにおけるスロット13に面する側面と、スロット13を挟んでこれに対向する他のティースの側面とを、一部を除いて平行としない形状とされる。
【0027】
加えて、ティース11cは、このティース11cを挟んで隣り合う二つのスロット13にそれぞれ面するこのティース11cの両側面を、鉄心本体11の径方向と平行な向きとされ、ティース11cの前記両側面に挟まれる部分が、同一の幅で前記径方向に連続する形状とされる。
これにより、ティース11c間のスロット13はその横断面形状が鉄心本体11の中心寄りに位置するほど先細となる略くさび状となっている。
【0028】
一方、各スロット13は、これら各スロットごとに、スロット13に面する鉄心本体11の各側面、すなわち、ヨーク部11bの側面(内周面)及びティース11cの側面、と一体とされる、絶縁樹脂材料製のインシュレーター15を成型配設される構成である。
【0029】
前記インシュレーター15は、絶縁性のある樹脂材料、例えば、エポキシ系の熱硬化性樹脂など、を硬化させたものであり、スロット13の一部をなす空隙部13aを取り囲む形状を有する。
空隙部13aは、スロット13のうちインシュレーター15が設けられずに残った部分であり、前記コイルをなす複数整列状態の平角線51に対応した略長方形の横断面形状の貫通孔となっており、平角線51を挿通可能とされる。この空隙部13aへの平角線挿通状態では、平角線51の存在する部位を除いたスロット13の残り部分を、インシュレーター15が占めて、このインシュレーター15が平角線51と鉄心本体11(ヨーク部11b及びティース11c)との間に絶縁物として介在することとなる。
【0030】
この他、インシュレーター15は、鉄心本体11の軸方向の両端面からさらに軸方向外方へ所定量(例えば、0.2ないし3mm程度)突出させたり、鉄心本体11の軸方向の両端面に沿って所定量はみ出させるように配設してもかまわない。また、インシュレーター15は、鉄心本体11の軸方向の両端面から軸方向内方へ端部を所定量(例えば、鉄心本体11に使用する薄板11aの厚さ程度まで)後退させて、鉄心本体11の前記両端面に対し段差をなすように配設することもできる。
【0031】
インシュレーター15の空隙部13aに挿通可能な平角線51は、表面に絶縁皮膜が形成された矩形又は方形断面の金属製棒状体であり、挿通後に複数を連結一体化されてコイルとされるものである。この平角線をなす金属材料には、銅の他、アルミニウムを用いてもよく、また、銅合金やアルミニウム合金を用いてもよい。
【0032】
この平角線51は、1つの空隙部13aに複数本(例えば、6本)挿通され、空隙部13aでの占積率を大きくするように、複数本が鉄心本体11の径方向に整列し、隣り合う側面同士を当接させた状態で空隙部13aに配置される。
【0033】
次に、本実施形態に係るコア部の製造方法について説明する。前提として、あらかじめ、公知の製法により、薄板材から打抜いた複数の薄板11aを積層した鉄心本体11が得られているものとする。この鉄心本体11は、必要に応じて、積層した薄板11aをかしめ等で一体化してもよい。
【0034】
まず、鉄心本体11を、モールド装置30の所定位置に置く。このモールド装置30は、鉄心本体11をその軸方向両側から挟み込む上型31及び下型32と、鉄心本体11の最も中心寄りの面となるティース11cの内側端面に当接可能な閉塞体33と、鉄心本体11の各スロット13における空隙部13aにあたる領域に対し挿抜可能とされる中子34と、下型32に沿うように配設されて中子34を支持する中子基部36と、上型31と鉄心本体11との間に配置されるカルプレート37と、中子基部36と鉄心本体11との間に配置される分離プレート38とを有するものである。上型31と鉄心本体11との間に配置されるカルプレート37には、樹脂を各スロット13に導く樹脂流路35(例えば、ランナ、ゲート孔)が形成される。
【0035】
モールド装置30は、鉄心本体11の軸方向両側に、上型31と下型32をそれぞれ配置し、上型31で上から押さえられるカルプレート37を鉄心本体11の上端面に当接させる。また、下型32と中子基部36で支持される分離プレート38を鉄心本体11の下端面に当接させる。これにより、スロット13における鉄心本体11の軸方向の開口部を、後述する中子34の配置領域を除いて全て閉塞できる。
【0036】
また、モールド装置30の下型32上に設けられた分離プレート38の開口を通じて、各スロット13にそれぞれ中子34を下から挿入配置する。
中子34をスロット13に挿入するにあたり、スロット13をティースの基端寄り部分から先端寄り部分にかけて先細形状となるように設計していることに基づき、中子34をスロットの広い側(ティース基端寄り)に入れるようにすれば、中子を挿入しやすくすることができ、好ましい。
【0037】
さらに、鉄心本体11の径方向内側にあるティース11cの先端面に、モールド装置30の閉塞体33を当接させる。これにより、スロット13における鉄心本体11の径方向の開口部を閉塞できる。
【0038】
こうして閉塞体33でティース先端を押圧することで、鉄心本体11の径方向外側(外周側)に動くティース先端と中子とを接触させられ、これらでスロットの先端を閉塞状態とすることができる。
なお、閉塞体33はなくてもよく、この場合は、スロット13における鉄心本体11の径方向の開口部を中子34の端部で閉塞する。
【0039】
図4及び
図5に示すように、モールド装置30で鉄心本体の各スロット13を閉塞状態とした後、成型工程として、モールド装置30のカルプレート37及び分離プレート38と、中子34とで閉じられた空間、すなわち、中子34の外周面と鉄心本体11のスロット13に面する側面との間の隙間に、樹脂を注入する。
【0040】
この樹脂の注入は、モールド装置30に設けられる図示しない樹脂溜めポット内に収容された樹脂材料を、プランジャーによる押圧で樹脂溜めポットから押出し、カルプレート37の樹脂流路35を通じて、中子34と鉄心本体11の側面との間の隙間に圧入することで実行される。樹脂の注入に際しては、モールド装置30によって、鉄心本体11に対しその軸方向や径方向に所定荷重を加え、鉄心本体とこれに接するモールド装置各部との間が開いて樹脂が漏れ出すことのないようにする。
【0041】
なお、インシュレーター15のティース基端寄り部分からティース先端寄り部分にかけてその厚さが変化する形状に基づいて、樹脂注入用のゲート位置を、インシュレーター15の厚さの大きい箇所に対応する隙間部分に面するように設定すれば、樹脂が、インシュレーターの厚い部分に対応する隙間の広い箇所から、インシュレーター15の薄い部分に対応する隙間の狭い箇所へ向けて流動することとなる。こうして、隙間の広い箇所を通じて、隙間の狭くなった箇所まで樹脂を到達させられ、仮に樹脂をスロットの軸方向端部の両方からではなく片方からしか注入できない場合でも、樹脂の未充填等の問題が生じにくくなる。
【0042】
また、鉄心本体11と当接するカルプレート37と分離プレート38の面のうち、中子34の外周に接する箇所に凹部を形成することで、形成したインシュレーター15に、鉄心本体11の軸方向両端面からさらに軸方向の外方へ突出する部分や、鉄心本体11の軸方向両端面に沿ってはみ出すように延設する部分を一体形成することもできる。
【0043】
注入された樹脂を硬化させることで、ティース11cの両側面とその基端側となるヨーク部11bの内周面に接合し一体化した状態のインシュレーター15が形成され、鉄心本体11の各スロット13にインシュレーター15を備えたコア部10が完成状態となる。
【0044】
そして、コア部10に対し、モールド装置30で閉塞体33を使用している場合は、その閉塞体33を鉄心本体11内周のティース11c先端面から離す。その後、鉄心本体11から上型31、カルプレート37、中子34、下型32、及び分離プレート38をそれぞれ離隔させてコア部10を解放する。このコア部10は、モールド装置30から取り出された後、コイルの配設等の後工程に供給され、コア部10の各スロット13に平角線51を挿通される。平角線51はスロット13の空隙部13aに挿通されてインシュレーター15に取り囲まれた状態となっており、この平角線51は周囲のインシュレーター15に一部当接している。
【0045】
コア部10のインシュレーター15は、空隙部13aに面して、コイルをなす平角線51と接する側面(内周面)の、平角線51に対する摩擦抵抗を、従来のコイルとコア間の絶縁に用いられていた絶縁紙と比較して少なくするように形成されている。このため、平角線51をスロット13に挿通する際、平角線51はインシュレーター15と接触しても抵抗を受けにくく、平角線51をスムーズに挿通できる。
【0046】
そして、コア部10の各スロット13に挿通された平角線51は、周方向に数個おきの(又は、周方向に隣り合う)スロット13に配置された平角線51同士で結線され、電気的に接続されてコイルとされる。最終的に、これらコア部とコイルは、巻線の配線やケースへの取付で回転電機の固定子として使用可能な状態とされる。
【0047】
インシュレーター15は、モールド装置で成型配設されることから、従来のコイルとコア間の絶縁に用いられていた絶縁紙より薄く形成することができる。このため、スロット13におけるコイル(平角線)の占有率を高められ、より多くの電流をコイルに流すことができ、出力を向上させることができる。
【0048】
また、インシュレーター15は、その鉄心本体11の径方向外側寄り部分における厚さを、鉄心本体11の径方向内側寄り部分の厚さより厚くなるように形成される(
図2参照)。これにより、インシュレーター付加による鉄心本体の連結強度向上度合いは、鉄心本体11の径方向外側で径方向内側より大きくなる。各スロット13の空隙部13aに挿通させた平角線51を結線する際には、鉄心本体11の径方向外側で径方向内側より大きな応力がかかる状態となるものの、鉄心本体11ではこうした部位ごとの応力に応じた連結強度を付与されていることで、問題なく応力に対抗して影響を回避できる。
【0049】
さらに、鉄心本体11の連結強度は、インシュレーター15の付加により、強度向上の度合いが部位ごとに異なるものの、全体として向上していることから、鉄心本体11をなす薄板11a同士をブロックかしめ(かしめレスコア)として一体化した場合であっても、薄板同士の連結を確実に維持して鉄心本体として問題なく使用できる。
【0050】
続いて、本実施形態に係るコア部を適用した回転電機における、コイルからコア部への伝熱状態について説明する。
回転電機を作動させ、巻線をなす各コイルに電流が流れると、コイルをなす平角線51に熱が発生する。平角線11で生じた熱は、平角線外周とコア部10の鉄心本体11との間に介在するインシュレーター15における熱伝導性が、コイル周囲の空気における熱伝導性より優れることから、主にインシュレーター15を介して鉄心本体11へ伝わる。
【0051】
すなわち、コイルで生じた熱は、コイルのうちスロット13の空隙部13aに収まった部分の平角線51から、その表面に密着するインシュレーター15に伝わり、さらに、インシュレーター15から、これと密着する鉄心本体11に伝わり、さらにケース等に伝わることとなる。
【0052】
インシュレーター15は、スロット13で鉄心本体11の側面に沿って設けられているが、このインシュレーター15の空隙部13aに面する内周面の配置形状は、モールド装置30の中子34により決まることから、鉄心本体11の側面の真直度に影響を受けることなく、面の真直度を確保できる。仮に、複数積層した薄板の端部が現れる鉄心本体の側面に、凹凸がある場合でも、インシュレーターでこうした凹凸を吸収して、その影響を回避することができ、インシュレーターでは与えられた真直度の条件を満たして軸方向に平行な面を的確に得られる。
【0053】
これにより、空隙部13aに挿通された平角線51外周面とインシュレーター15の内周面とはほとんど平行をなす状態が得られ、これらの面の間には、一方の面に対する他方の面の傾きに起因する隙間が生じにくく、インシュレーター15は鉄心本体11の側面に接合一体化していることと合わせて、平角線51と鉄心本体11との間に介在する空気を減らし、平角線51と鉄心本体11との間における伝熱効率を向上させられ、コイルからの放熱を促進できる。
【0054】
また、インシュレーター15をモールド装置30で成型配設することで精度よく形成でき、寸法の誤差を小さくでき、平角線51の入る空隙部13aの周りに挿通のためのクリアランスを大きく設定する必要がないことで、空隙部13aに挿通する平角線51とインシュレーター15との間のクリアランス自体を小さくすることができ、平角線51と鉄心本体11との間に介在する空気の層を薄くして、この点でも平角線51と鉄心本体11との間における伝熱効率を向上させられる。
【0055】
このように、本実施形態に係る回転電機のコア部は、鉄心本体11の各スロット13にインシュレーター15を設け、スロット13に面する側面同士が平行とはならない形状のティース11cに対し、このティース11cを含む鉄心本体11のスロット13に面する各面とコイルをなす平角線51の挿通部位との間にインシュレーター15が位置して、平角線挿通状態では、インシュレーター15が平角線51と鉄心本体11にそれぞれ当接することから、平角線51と鉄心本体11に当接するインシュレーター15が、平角線51で発生する熱を鉄心本体11へ伝えられ、コイルから外部へ向かう伝熱の効率を向上させて放熱を促進させられ、コイルの温度上昇を抑えて、より大きな電流を流すことができる。
【0056】
また、ティース間で所定形状をなすスロット13に対し、インシュレーター15の形状を適宜調整し、このインシュレーター15に囲まれる空隙部13aを平角線51の形状に対応させて、平角線51を問題なく挿通可能とすることができ、平角線51からなるコイルの配置の自由度を高められると共に、スロット形状自体を平角線51の形状に合わせたものとする必要はなく、スロット13の形状やこのスロット形状に影響を与えるティース11cの形状についても高い自由度を与えられ、例えば、ティース11cの形状を、ティース11cのコイルが巻回される部分である、そのヨーク部11b寄りの基端部から先端近傍までが、鉄心本体11の径方向に平行な等幅で且つ等断面積の角柱状となって、磁束を均一化できる形状として、回転電機の作動安定化や出力向上等も図れることとなる。
【0057】
さらに、インシュレーター15が積層鉄心である鉄心本体11のスロット13に面する各面と一体に設けられることで、積層されて鉄心本体11をなす各薄板11aを相互に固定でき、鉄心本体11のねじり強度を向上させられる。加えて、鉄心本体11に対しインシュレーター15を成型配設することで、インシュレーター外縁部が鉄心本体11の形状に特に制約なく追随して密着でき、例えば従来の絶縁紙を用いる場合のように、鉄心のティース基端側隅部に絶縁紙角部に対応するヌスミ部を設けるなどの、インシュレーターを適切に配設するために鉄心本体側であらかじめ配慮した構造部分を設けるような対策を講じる必要はなく、鉄心本体11の構造単純化によるコストダウンが図れる。
【0058】
なお、前記実施形態に係るコア部を適用する回転電機を電動機としているが、これに限らず、回転電機は発電機であってもかまわない。また、コア部は、インナーロータ構造における固定子の一部とされる構成としているが、これに限られるものではなく、アウターロータ構造における固定子の一部とすることもできる。加えて、コア部は固定子だけでなく、巻線タイプのロータのコアとして用いる構成とすることもできる。
【0059】
また、前記実施形態に係る回転電機のコア部において、インシュレーター15は、鉄心本体11のスロット13に成型配設される際に完全に硬化させて鉄心本体11と一体化される構成としているが、これに限らず、インシュレーターをなす樹脂材料が鉄心本体のスロットに成型配設される際に、一旦硬化を所定割合進行させて、インシュレーターとしての形状を維持し、且つ鉄心本体に一体化された状態を保持可能としたら、硬化を中断して、硬化途上ながらコア部として一応の完成状態として取り扱う構成とすることもできる。
【0060】
この場合、後の工程で、鉄心本体のスロットにコイルをなす平角線を挿通させた状態で、熱や光、所定成分の雰囲気等によりインシュレーター樹脂材料の硬化をあらためて進行させ、インシュレーターの完全な硬化状態を得る仕組みとすることもでき、完全硬化したインシュレーターを平角線に確実に密着させられる。インシュレーターを完全硬化の過程でわずかに膨張するような樹脂材料にすれば、平角線との密着度合いがより一層向上し、好ましい。
【0061】
また、前記実施形態に係る回転電機のコア部においては、各スロット13の空隙部13aに平角線51を挿入する際にその挿入を容易にするための構造を特に採用しない構成としているが、この他、
図7及び
図8に示すように、インシュレーター15における他部より厚さの大きい部分(例えば、ティース基端寄り部分)における空隙部13a周縁のうち平角線挿入側(例えば、上側)の角部に面取り加工を施す構成とすることもできる。このような面取り加工で得られた面取り部15aで、平角線の誘い込みが可能となり、平角線を容易に挿入でき、コア部への平角線挿通工程の短縮化や省力化が図れる。
【0062】
こうした面取り加工は、モールド装置30におけるコア部10の平角線挿入側にあたる型(例えば、上型31)又は中子34に、インシュレーター15の厚さ大の部分の角部対応位置に突出する凸部を設けて、成型により面取り形状を得るようにすれば、インシュレーター15に対し除去加工を行うことなく効率よく所望の面取り形状を形成できる。
【0063】
また、
図9に示すように、インシュレーター15の空隙部13aに面する側面(内周面)に、波状の凹凸15bを形成する構成とすることもできる。この場合、平角線挿入の際に、インシュレーター15の内周面と平角線51外周面との接触面積を減らせることで、平角線51の挿入に伴う摩擦抵抗を抑えられ、平角線51を空隙部13aにスムーズに挿入できる。
【0064】
こうした凹凸を形成する加工についても、モールド装置30における中子34の側面に、インシュレーター15の側面に設けたい凹凸に対応した凸部及び凹部を設けて、成型により凹凸形状を得るようにすれば、インシュレーター15に対し除去加工を行うことなく効率よく所望の凹凸面を形成できる。
【0065】
さらに、
図10に示すように、インシュレーター15におけるティース基端部寄りの隅部に、ヌスミ部15cを設ける構成とすることもできる。このようにヌスミ部15cが設けられることで、平角線51の角部がインシュレーター15の隅部に接触して摩擦抵抗が生じることを回避でき、平角線51をスロット13の空隙部13aにスムーズに挿通させられ、コア部への平角線挿通工程の短縮化や省力化が図れる。
【0066】
こうしたヌスミ部15cを設ける加工についても、モールド装置30における中子34の角部のうち、インシュレーター15におけるティース基端部寄りの隅部に対応するものに、インシュレーター15の隅部に設けたいヌスミ部に対応した凸部を形成して、成型によりヌスミ部となる凹形状を得るようにすれば、インシュレーター15に対し除去加工を行うことなく効率よくヌスミ部を設けることができる。
【0067】
なお、前述した実施形態においては、モールド装置30の使用にあたり、鉄心本体11の各スロット13にそれぞれ中子34を下から挿入する場合について説明したが、これに限られるものではなく、各スロット13にそれぞれ中子34を上から挿入してもよい。この場合には、モールド装置30の上型31下に設けられたカルプレート37の開口を通じて、各スロット13にそれぞれ中子34を上から挿入配置することになる。また、前述した実施形態において、樹脂の注入方向については特に記載していないが、樹脂は、モールド装置30に設けられる図示しないプランジャーによる押圧により、鉄心本体11の上下のどちらか一方から注入される。