【実施例1】
【0011】
図1に本実施例のX線CT装置の全体構成図を示す。X線CT装置は、ガントリ1、演算装置2、表示装置3、ベッド4を備え、ベッド4に載置される被検者5で吸収されるX線光子をカウントし、カウント数に基づいて被検者5の断層画像を生成する装置である。以下、各部について説明する。
【0012】
ガントリ1は、X線管6と検出器パネル7を搭載して回転する回転部と、回転部を支持する静止部を有する。X線管6は100kV程度の高電圧で加速した電子をターゲットに当てることによりX線を発生させる。検出器パネル7は、被検者5を挟んでX線管6と対向配置され、被検者5を透過したX線光子をカウントし、X線光子数の空間的な分布を計測する。被検者5を透過したX線光子数を、被検者5がいないときのX線光子数から減算することにより、被検者5で吸収されるX線光子数が求められ、投影データとして取得される。なお検出器パネル7は光子計数型検出器でありX線光子のエネルギーを計測できるので、エネルギー成分毎の投影データが取得される。検出器パネル7の詳細は
図2を用いて後述する。
【0013】
X線管6と検出器パネル7が被検者5の周囲を回転する間に、X線管6による被検者5へのX線照射と、検出器パネル7によるX線光子のカウントが繰り返されることにより、様々な方向からの被検者5の投影データが取得される。投影データは、1秒の間に3000枚程度取得され、演算装置2へ送信される。ベッド4は、投影データが取得される被検者5の位置を調整するために、ガントリ1の開口部に向けて水平移動する。
【0014】
演算装置2は、一般的なコンピュータ装置と同様のハードウェア構成であり、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を備え、表示装置3や入力装置8、記憶装置9に接続される。演算装置2は、送信される複数の投影データを用いた画像再構成により断層画像を生成するとともに、各部の制御を行う。例えば、X線管6に印加される電圧や、X線管6と検出器パネル7の回転速度等の制御が演算装置2によって行われる。
【0015】
表示装置3は液晶ディスプレイやタッチパネル等であり、生成された断層画像等を表示する。入力装置8はキーボードやマウス等であり、X線管6に印加される電圧の設定等に用いられる。なお表示装置3がタッチパネルである場合、タッチパネルが入力装置8として機能する。記憶装置9はHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等であり、CPUで実行されるプログラムや投影データ、断層画像等の各種データを記憶する。
【0016】
図2を用いて検出器パネル7の一例について説明する。検出器パネル7は、放射線検出器10とコリメータ11とを有し、ガントリ1の回転部に設けられる。
【0017】
放射線検出器10は、被検者5を透過したX線光子を検出する半導体検出器である。放射線検出器10にはCdTeやCdZnTeが用いられ、X線が入射する側に高電圧電極15が、反対側に複数の読み出し電極13が設けられる。接地電圧である読み出し電極13に対して高電圧電極15には負の高電圧が印加され、高電圧電極15と読み出し電極13との間に電界が形成される。放射線検出器10にX線光子が入射すると、X線光子のエネルギーに応じた数の電子と正孔が発生する。X線光子の入射によって発生した電子は、電極間の電界によって最も近い読み出し電極13へ移動し、電気信号として読み出される。すなわち読み出し電極13が放射線検出器10の検出ピクセル12に対応する。
【0018】
コリメータ11は、被検者5等で発生する散乱線の放射線検出器10への入射を抑制するために、複数の孔を有する金属製の格子であって放射線検出器10の前段に設けられる。コリメータ11には、タングステンやモリブデン等の比重及び原子番号の大きい金属が用いられ、コリメータ11の孔は検出ピクセル12に対応するように位置が合わせられる。
【0019】
図3を用いて、X線光子の検出に係る機能ブロックについて説明する。
図3の機能ブロックには、演算装置2や放射線検出器10、高電圧電極15、読み出し電極13とともに、フロントエンドIC14、データ収集回路21、スリップリング22、検出制御部23、高電圧電源24が含まれる。
【0020】
フロントエンドIC14は、基板上に搭載された複数のICで構成され、読み出し電極13で読み出された電気信号をA/D変換してデータ収集回路21へ出力する。データ収集回路21は、多数のデジタル信号を統合し、スリップリング22を介して演算装置2へ送信する。
【0021】
演算装置2は受信したデータを用いた画像再構成により断層画像を生成するとともに、入力装置8を介して設定されるスキャン条件等に基づいてガントリ1の回転部に備えられる検出制御部23を制御する。なお生成された断層画像は表示装置3に表示されたり、記憶装置9に保存されたりする。記憶装置9には演算装置2に送信されたデータが保存されても良い。
【0022】
検出制御部23は演算装置2からの指示に従って、データ収集回路21とともに、高電圧電源24を制御する。高電圧電源24は高電圧電極15に高電圧を印加する回路である。すなわち、検出制御部23によって、高電圧電極15に高電圧を印加するか否かが制御されるとともに、データ収集回路21にデータ収集を開始させるか否かが制御される。
【0023】
図4を用いて、放射線検出器10の分極化の影響について説明する。
図4(a)は放射線検出器10にX線光子が入射したときに生成される出力波形の一例であり、横軸は時間、縦軸は検出器出力である。また
図4(b)は出力波形の波高値の経時変化である減衰曲線の一例であり、横軸は高電圧の印加時間、縦軸は検出器出力の波高値である。
【0024】
光子計数型検出器では、不感時間τの間にX線光子が入射する毎にパルス出力201が生じ、パルス出力201の波高値は光子エネルギーに比例する。
図4(a)には、入射したX線光子の光子エネルギーが低いときのパルス出力201Lと、高いときのパルス出力201Mが例示される。すなわち検出器出力を閾値Th1、Th2、Th3等で区分けすることによって、光子エネルギー毎にX線光子を弁別できる。
【0025】
しかしながら、放射線検出器10に高電圧が印加され続けると内部に電子や正孔がトラップされ、高電圧の印加時間の経過とともに分極化が進む。分極化は電子や正孔の移動を遅らせるので、電極間で発生した電子の一部は不感時間τ内に読み出し電極13へ達することができず、
図4(b)に示すように印加時間が長くなるにつれて波高値が低下する。すなわち、同じ光子エネルギーのX線光子が入射したとしても、異なる波高値になるので、計測されるX線光子のエネルギーに誤差が生じる。なお、波高値の変化量は高電圧が印加された直後、例えば
図4(b)の期間1が最も大きく、期間2、期間3と時間が進むにつれて小さくなる。つまり、放射線検出器10の分極化は、高電圧の印加時間の経過とともに安定する。
【0026】
そこで本実施例では、放射線検出器10の分極化が安定してからデータ収集を開始する。なお出力波形の波高値が低下し過ぎると放射線検出器10のSNRも低下するので、所定の閾値以上の波高値となる期間、例えば
図4(b)の期間3ではなく期間2でデータ収集が行われることが望ましい。
図5を用いて、本実施例の処理の流れについて説明する。
【0027】
(S501)
演算装置2が、被検者5に係るデータである被検体データを取得する。被検体データは、操作者によって入力装置8から入力されたり、ネットワークを介して送信されたりする。被検体データを取得した演算装置2はデータ収集の準備を指示する信号を検出制御部23に送信する。
【0028】
(S502)
検出制御部23は、データ収集の準備を指示する信号を受信すると、高電圧電源24をオンにする。高電圧電源24がオンになることにより、高電圧電極15に高電圧が印加され、放射線検出器10がX線光子を検出できるようになるとともに、分極化が進行し始める。
【0029】
(S503)
演算装置2が、被検者5のスキャンに係る条件であるスキャン条件を取得する。スキャン条件は、操作者によって入力装置8から入力されたり、ネットワークを介して送信されたりする。スキャン条件を取得した演算装置2はガントリ1に対して被検者5のスキャンを指示する。
【0030】
(S504)
ガントリ1の回転部が回転を開始する。所定の加速期間の後、回転部はスキャン条件で定められたスキャン速度、例えば0.5s/回転で回転する。
【0031】
(S505)
検出制御部23は、放射線検出器10の分極化が安定したか否かを判定する。本ステップは分極化が安定するまで繰り返され、分極化が安定するとS506へ処理が進められる。また本ステップは、S504にて回転部の回転速度が定速になってから実行されることが望ましい。
【0032】
分極化が安定したか否かは、
図4(b)に例示される減衰曲線に基づいて判定されても良い。例えば、放射線検出器10が自然放射線を検出することによって出力される波高値の経時変化が所定の値以下になったときに分極化が安定したと判定される。または、データ収集に先立って計測された減衰曲線を用いて、高電圧が印加されてから分極化が安定するまでの時間である安定時間が予め算出され、高電圧電源24がオンになった時点からの経過時間が安定時間に達したときに分極化が安定したと判定される。なお安定時間は、減衰曲線の微係数が所定の値に達する時間として算出され、減衰曲線とともに記憶装置9に記憶される。
【0033】
(S506)
検出制御部23は、放射線検出器10の波高値が所定の閾値より大きいか否かを判定する。波高値が閾値より大きければS508へ、波高値が閾値以下であればS507へ処理が進められる。
【0034】
波高値が所定の閾値より大きいか否かは、
図4(b)に例示される減衰曲線に基づいて判定されても良い。例えば、放射線検出器10が自然放射線を検出することによって出力される波高値が閾値と比較される。または、データ収集に先立って計測された減衰曲線を用いて、波高値が閾値以下になるまでの時間であるリフレッシュ時間が予め算出され、高電圧電源24がオンになった時点からの経過時間がリフレッシュ時間に達したときに波高値が閾値以下であると判定される。
【0035】
(S507)
検出制御部23は、放射線検出器10の分極化を解消するためにリフレッシュ処理を実行する。リフレッシュ処理とは高電圧電源24を一旦オフにしてから再度オンにする処理である。すなわち、高電圧電源24がオフになることで放射線検出器10の分極化が解消されるとともに印加時間がリセットされ、高電圧電源24が再度オンになることで放射線検出器10がX線光子を検出できるようになる。リフレッシュ処理の実行後は、S505へ処理が戻る。
【0036】
(S508)
ガントリ1の回転部がスキャンデータを収集する。すなわち、X線管6から被検者5へX線が照射され、被検者5を透過したX線光子が放射線検出器10に入射する。そして放射線検出器10に入射したX線光子が生成する電子が読み出し電極13で読み出され、フロントエンドIC14でのA/D変換やデータ収集回路21でのデータ統合を経て、スキャンデータとして演算装置2へ送信される。
【0037】
(S509)
演算装置2は、スキャンデータの収集が終了したか否かを判定する。本ステップはスキャンデータの収集が終了するまで繰り返され、スキャンデータの収集が終了するとS510へ処理が進められる。
【0038】
(S510)
検出制御部23は、高電圧電源24をオフにする。
【0039】
以上説明した処理の流れにより、光子計数型検出器の分極化の影響を抑制できる放射線撮像装置を提供することができる。すなわち分極化が安定してからスキャンデータが収集されるので、計測されるX線光子のエネルギーに誤差を低減でき、エネルギー成分に分けられた医用画像の画質に悪影響を与えずに済む。
【0040】
なお、S506とS507は必須ではなく、S505で分極化が安定したと判定されたあと、S508へ処理が進められても良い。S506とS507が処理の流れに含まれる場合、出力波形の波高値が低下し過ぎることがないので、放射線検出器10のSNRの低下を抑制できる。
【0041】
なお本発明の放射線撮像装置は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。