【解決手段】溶接トーチから溶接ワイヤを送給Fwしつつ溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶滴を移行させる溶滴移行期間と、母材に形成された溶融池を冷却する冷却期間Teとを繰り返すアーク溶接方法において、溶滴移行期間は、溶接ワイヤを正送給Fwするパルスアーク溶接期間Taと溶接ワイヤを正逆送給Fwする短絡移行アーク溶接期間Tcとから形成されており、冷却期間Te中は、アークを消弧し溶接トーチを溶接進行方向に移動Seさせる。パルスアーク溶接期間Taによって幅の広いビードを形成し、正逆送給の短絡移行アーク溶接期間Tcによってスパッタ発生量の少ないメリハリのあるウロコ状のビードを形成する。
溶接トーチから溶接ワイヤを送給しつつ前記溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶滴を移行させる溶滴移行期間と、前記母材に形成された溶融池を冷却する冷却期間とを繰り返すアーク溶接方法において、
前記溶滴移行期間は、前記溶接ワイヤを正送給するパルスアーク溶接期間と前記溶接ワイヤを正逆送給する短絡移行アーク溶接期間とから形成されており、
前記冷却期間中は、前記アークを消弧し前記溶接トーチを溶接進行方向に移動させる、
ことを特徴とするアーク溶接方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
[実施の形態1]
実施の形態1の発明は、溶滴移行期間と冷却期間とを繰り返すアーク溶接方法において、溶滴移行期間はパルスアーク溶接期間と短絡移行アーク溶接期間とから形成されており、冷却期間中は、アークを消弧し前記溶接トーチを溶接進行方向に移動させる。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述するインバータ駆動信号Dvに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記のインバータ駆動信号Dvによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0016】
リアクトルWLは、溶接電流Iwを平滑して安定したアーク3を持続させる。
【0017】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、パルスアーク溶接期間Ta中は溶接ワイヤ1を正送給し、短絡移行アーク溶接期間Tc中は溶接ワイヤ1を正逆送給し、冷却期間Te中は溶接ワイヤ1の送給を停止する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0018】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4の先端からはシールドガス(図示は省略)が噴出して、アーク3を大気から遮蔽する。シールドガスとしては、溶接ワイヤ1の材質が鉄鋼の場合にはアルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガスが使用され、溶接ワイヤ1の材質がアルミニウムの場合にはアルゴンガスが使用される。
【0019】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0020】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0021】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0022】
平均溶接電流設定回路IAVRは、予め定めた平均溶接電流設定信号Iavrを出力する。
【0023】
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
【0024】
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
【0025】
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
【0026】
逆送減速期間設定回路TRDRは、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
【0027】
正送ピーク値設定回路WSRは、後述するタイマ信号Tm、上記の平均溶接電流設定信号Iavr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、タイマ信号Tmが2(短絡移行アーク溶接期間Tc)に変化してから最初に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化するまでの期間中は予め定めた初期値となり、それ以外の期間中は平均溶接電流設定信号Iavrを入力とする予め定めた関数に基づいて算出された定常値となる正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
【0028】
逆送ピーク値設定回路WRRは、上記の平均溶接電流設定信号Iavrを入力として、予め定めた関数に基づいて算出された逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
【0029】
短絡アーク送給速度設定回路FCRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成された送給速度パターンを短絡アーク送給速度設定信号Fcrとして出力する。この短絡アーク送給速度設定信号Fcrが正の値のときは正送期間となり、負の値のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0(但し、短絡移行アーク溶接期間Tcに切り替わった直後はパルス送給速度設定信号Far)から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで加速する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで加速する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する短絡アーク送給速度設定信号Fcrを出力する。
7)上記の1)〜6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンの短絡アーク送給速度設定信号Fcrが生成される。
【0030】
減流抵抗器Rは、上記のリアクトルWLと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡期間中の溶接電流Iwの通電路の抵抗値(0.01〜0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが溶接電流Iwの通電路に挿入されると、リアクトルWL及び溶接ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急速に消費される。
【0031】
トランジスタTRは、上記の減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0032】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0033】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0034】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0035】
短絡アーク電流設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、短絡アーク電流設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは、低レベル電流設定信号Ilrとなる短絡アーク電流設定信号Icrを出力する。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する短絡アーク電流設定信号Icrを出力する。
3)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる短絡アーク電流設定信号Icrを出力する。
【0036】
電流降下時間設定回路TDRは、予め定めた電流降下時間設定信号Tdrを出力する。
【0037】
小電流期間回路STDは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の電流降下時間設定信号Tdrを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から電流降下時間設定信号Tdrによって定まる時間が経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる小電流期間信号Stdを出力する。
【0038】
ピーク期間設定回路TPRは、後述する最終パルス周期信号Stfを入力として、最終パルス周期信号StfがLowレベルのときは予め定めた定常ピーク期間となり、最終パルス周期信号StfがHighレベルのときは予め定めた最終ピーク期間となるピーク期間設定信号Tprを出力する。
【0039】
ピーク立上り期間設定回路TURは、後述する最終パルス周期信号Stfを入力として、最終パルス周期信号StfがLowレベルのときは予め定めた定常ピーク立上り期間となり、最終パルス周期信号StfがHighレベルのときは予め定めた最終ピーク立上り期間となるピーク立上り期間設定信号Turを出力する。
【0040】
ピーク立下り期間設定回路TPDRは、後述する最終パルス周期信号Stfを入力として、最終パルス周期信号StfがLowレベルのときは予め定めた定常ピーク立下り期間となり、最終パルス周期信号StfがHighレベルのときは予め定めた最終ピーク立下り期間となるピーク立下り期間設定信号Tpdrを出力する。
【0041】
ベース期間設定回路TBRは、予め定めたベース期間設定信号Tbrを出力する。
【0042】
ピーク電流設定回路IPRは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、変調制御を行い、ピーク電流設定信号Iprを出力する。変調制御は、Ipr=Ip0−∫Kp・Ev・dtのように電圧誤差増幅信号Evを積分することによって行う。Ip0はピーク電流値の初期値であり、Kpはピーク電流変調制御のゲインを適正値に調整するための定数である。
【0043】
ベース電流設定回路IBRは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、変調制御を行い、ベース電流設定信号Ibrを出力する。変調制御は、Ibr=Ib0−∫Kb・Ev・dtのように電圧誤差増幅信号Evを積分することによって行う。Ib0はベース電流値の初期値であり、Kbはベース電流変調制御のゲインを適正値に調整するための定数である。
【0044】
電流通電判別回路CDは、上記の電流検出信号Idを入力として、電流検出信号Idの値が通電判別値(10A程度)以上のときは溶接電流Iwが通電していると判別してHighレベルとなる電流通電判別信号Cdを出力する。
【0045】
パルス電流設定回路IARは、後述するタイマ信号Tm、上記のピーク期間設定信号Tpr、上記のピーク立上り期間設定信号Tur、上記のピーク立下り期間設定信号Tpdr、上記のベース期間設定信号Tbr、上記のピーク電流設定信号Ipr、上記のベース電流設定信号Ibr及び上記の電流通電判別信号Cdを入力として、以下の処理を行い、パルス電流設定信号Iarを出力する。
1)タイマ信号Tmが1(短絡移行アーク溶接期間Tc)又は3(冷却期間Te)のときは、ベース電流設定信号Ibrの値をパルス電流設定信号Iarとして出力する。
2)タイマ信号Tmが1(パルスアーク溶接期間Ta)に変化した後に、電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)に変化すると、ピーク立上り期間設定信号Turによって定まるピーク立上り期間Tuに移行する。このピーク立上り期間Tu中は、ベース電流設定信号Ibr)の値からピーク電流設定信号Iprの値へと上昇するパルス電流設定信号Iarを出力する。
3)続けて、ピーク期間設定信号Tprによって定まるピーク期間Tp中は、ピーク電流設定信号Iprの値を維持するパルス電流設定信号Iarを出力する。
4)続けて、ピーク立下り期間設定信号Tpdrによって定まるピーク立下り期間Tpd中は、ピーク電流設定信号Iprの値からベース電流設定信号Ibrの値へと下降するパルス電流設定信号Iarを出力する。
5)続けて、ベース期間設定信号Tbrによって定まるベース期間Tb中は、ベース電流設定信号Ibrの値を維持するパルス電流設定信号Iarを出力する。
6)上記の2)〜5)を1パルス周期として、タイマ信号Tmが2(短絡移行アーク溶接期間Tc)に変化するまで繰り返す。
【0046】
パルスアーク溶接期間設定回路TARは、予め定めたパルスアーク溶接期間設定信号Tarを出力する。短絡移行アーク溶接期間設定回路TCRは、予め定めた短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcrを出力する。冷却期間設定回路TERは、予め定めた冷却期間設定信号Terを出力する。
【0047】
タイマ回路TMは、上記のパルスアーク溶接期間設定信号Tar、上記の短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcr、上記の冷却期間設定信号Ter、上記の短絡判別信号Sd、上記のパルス電流設定信号Iar、上記のベース電流設定信号Ibr及び後述する送給速度設定信号Frを入力として、以下の処理を行い、タイマ信号Tm及び最終パルス周期信号Stfを出力する。
1)タイマ信号Tmが1(パルスアーク溶接期間Ta)に変化した時点からパルスアーク溶接期間設定信号Tarによって定まる期間が経過した後に、新たにパルス周期が開始されると最終パルス周期Tsfに入り、最終パルス周期Tsf中にパルス電流設定信号Iarがベース電流設定信号Ibrの値と等しくなった時点で最終パルス周期Tsfを終了してタイマ信号Tmは2(短絡移行アーク溶接期間Tc)に変化する。同時に、上記の最終パルス周期Tsf中のみHighレベルとなる最終パルス周期信号Stfを出力する。
2)タイマ信号Tmが2(短絡移行アーク溶接期間Tc)に変化した時点から短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcrによって定まる期間が経過した後に、短絡判別信号Sdが最初にLowレベル(アーク期間)に変化し、続く逆送減速期間Trdが終了して送給速度設定信号Frが0と等しくなった時点でタイマ信号Tmは3(冷却期間Te)に変化する。
3)タイマ信号Tmが3(冷却期間Te)に変化した時点から冷却期間設定信号Terによって定まる期間が経過した時点でタイマ信号Tmは1(パルスアーク溶接期間Ta)に戻る。
したがって、パルスアーク溶接期間Taは、パルスアーク溶接期間設定信号Tarの期間+最終パルス周期Tsfが開始するまでの期間+最終パルス周期Tsfの期間となる。短絡移行アーク溶接期間Tcは、短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcrの期間+その後に最初の短絡期間が終了し逆送減速期間Trdが終了するまでの期間となる。冷却期間Teは、冷却期間設定信号Terの期間となる。
【0048】
パルス正送給速度設定回路FASRは、上記の平均溶接電流設定信号Iavrを入力として、予め定めた関数に基づいて算出された正の値のパルス正送給速度設定信号Fasrを出力する。平均溶接電流値は平均送給速度によって定まるために、パルスアーク溶接のときの平均溶接電流値はこのパルス正送給設定信号Fasrによって定まる。
【0049】
パルス送給速度設定回路FARは、上記のタイマ信号Tm、上記のパルス正送給速度設定信号Fasr及び上記の電流通電判別信号Cdを入力として、タイマ信号Tmが1(パルスアーク溶接期間Ta)に変化すると予め定めたスローダウン送給速度となり、その後に電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)に変化するとパルス正送給速度設定信号Fasrの値となるパルス送給速度設定信号Farを出力する。
【0050】
送給速度設定回路FRは、上記のタイマ信号Tm、上記の短絡アーク送給速度設定信号Fcr及び上記のパルス送給速度設定信号Farを入力として、タイマ信号Tm=1(パルスアーク溶接期間Ta)のときはパルス送給速度設定信号Farの値となり、タイマ信号Tm=2(短絡移行アーク溶接期間Tc)のときは短絡アーク送給速度設定信号Fcrの値となり、タイマ信号Tm=3(冷却期間Te)のときは0となる送給速度設定信号Frを出力する。
【0051】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0052】
電流設定回路IRは、上記のタイマ信号Tm、上記の短絡アーク電流設定信号Icr及び上記のパルス電流設定信号Iarを入力として、タイマ信号Tm=1(パルスアーク溶接期間Ta)又は3(冷却期間Te)のときはパルス電流設定信号Iarの値となり、タイマ信号Tm=2(短絡移行アーク溶接期間Tc)のときは短絡アーク電流設定信号Icrの値となる電流設定信号Irを出力する。
【0053】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Ir及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流設定信号Ir(+)と電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0054】
電源特性切換回路SWは、上記のタイマ信号Tm、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の短絡判別信号Sd及び上記の小電流期間信号Stdを入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)タイマ信号Tm=2(短絡移行アーク溶接期間Tc)であり、かつ、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して上記の遅延期間が経過した時点までの期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)その後の大電流アーク期間中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
3)その後のアーク期間中に小電流期間信号StdがHighレベルとなる小電流アーク期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
4)タイマ信号Tm=2に変化した時点から短絡判別信号Sdが最初にHighレベルとなるまでの期間及びタイマ信号Tm=1のときは、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、短絡移行アーク溶接期間Tc中の溶接電源の特性は、短絡移行アーク溶接期間Tcが開始してから最初に短絡が発生するまでの期間、短絡期間、遅延期間及び小電流アーク期間中は定電流特性となり、それ以外の大電流アーク期間(タイマ信号Tm=2の期間において、短絡判別信号SdがHighからLowに変化してから上記の遅延時間が経過した時点から、小電流期間信号StdがLowからHighの変化する時点までの期間)中は定電圧特性となる。また、パルスアーク溶接期間Ta中の溶接電源の特性は、定電流特性となる。
【0055】
インバータ駆動回路DVは、上記のタイマ信号Tm及び上記の誤差増幅信号Eaを入力として、タイマ信号Tm=1(パルスアーク溶接期間Ta)又は2(短絡移行アーク溶接期間Tc)のときは誤差増幅信号Eaに基づいてPWM変調制御を行い電源主回路PMのインバータ回路を駆動するためのインバータ駆動信号Dvを出力し、タイマ信号Tm=3(冷却期間Te)のときはインバータ駆動信号Dvを出力しない。これにより、溶接電源は、パルスアーク溶接期間Ta又は短絡移行アーク溶接期間Tc中は電力を出力し、冷却期間Te中は出力を停止する。
【0056】
トーチ移動装置SEは、溶接トーチ4を把持しており、上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tm=1(パルスアーク溶接期間Ta)又は2(短絡移行アーク溶接期間Tc)のときは溶接トーチ4の移動を停止させ、タイマ信号Tm=3(冷却期間Te)のときは溶接トーチ4溶接線に沿って移動速度Seで所定処理だけ移動させる。このトーチ移動装置SEは、例えば溶接用ロボット、走行台車等である。
【0057】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接方法を示す
図1の溶接電源における冷却期間Teからパルスアーク溶接期間Taへの切換時の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示し、同図(F)はタイマ信号Tmの時間変化を示し、同図(G)はインバータ駆動信号Dvの時間変化を示し、同図(H)は溶接トーチの移動速度Seの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0058】
同図(F)に示すタイマ信号Tmの値は1〜3の数値であるが、3段階のステップ状の波形として表示している。同図(H)に示す溶接トーチの移動速度Seは、溶接トーチが移動しているときはHighレベルとして表示し、停止しているときはLowレベルとして表示している。
【0059】
同図において、時刻t1以前の期間が冷却期間Teとなり、時刻t1以降の期間がパルスアーク溶接期間Taとなる。
【0060】
時刻t1は、同図(F)に示すタイマ信号Tmが3(冷却期間Te)に変化した時点から
図1の冷却期間設定信号Terによって定まる期間が経過した時点である。したがって、時刻t1において、同図(F)に示すように、タイマ信号Tmは3から1に変化するので、冷却期間Teからパルスアーク溶接期間Taに入る。
【0061】
時刻t1以前の冷却期間Te中は、同図(F)に示すように、タイマ信号Tmは3(冷却期間Te)となっている。同図(A)に示すように、送給速度Fwは0(送給停止)となっている。同図(H)に示すように、溶接トーチの移動速度SeはHighレベル(移動)となっており、所定の速度で移動している。同図(G)に示すように、インバータ駆動信号DvはLowレベル(出力停止)になっており、溶接電源からの出力は停止している。そのために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは0Aとなっており、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは0Vとなっている。同図(D)に示すように、短絡判別信号Sdは溶接電圧Vwが印加されていないので短絡状態ではないがHighレベルとなっている。同図(E)に示すように、小電流期間信号StdはLowレベルとなっている。したがって、時刻t1以前の冷却期間Te中は、溶接電源からの出力及び溶接ワイヤの送給を停止した状態で、溶接トーチが溶接線に沿って所定距離だけ移動する。
【0062】
時刻t1において、同図(F)に示すように、タイマ信号Tmが1に変化すると、パルスアーク溶接期間Taに入る。これに応動して、同図(G)に示すように、インバータ駆動信号DvがHighレベル(出力開始)に変化するので、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwが出力され、その値は溶接ワイヤと母材とが離れているので80V程度の無負荷電圧値となる。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは0Aのままである。同図(D)に示すように、短絡判別信号Sdは無負荷電圧が印加されるので、アーク発生状態ではないがLowレベルに変化する。同図(A)に示すように、送給速度Fwは予め定めたスローダウン送給速度となり、溶接ワイヤは母材へと正送給される。スローダウン送給速度は1m/min程度の遅い速度である。そして、同図(H)に示すように、溶接トーチの移動速度SeはLowレベルとなり、溶接トーチの移動は停止する。同図(G)に示すインバータ駆動信号DvのHighレベル(出力開始)及び同図(H)に示す溶接トーチの移動速度SeのLowレベル(停止)は、パルスアーク溶接期間Ta及び短絡移行アーク溶接期間Tcから形成される溶滴移行期間中継続する。
【0063】
時刻t2において、上述したスローダウン送給によって溶接ワイヤが母材と接触すると、同図(B)に示すように、溶接電流Iwが通電を開始し、
図1の電流通電判別信号CdがHighレベル(通電)に変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、スローダウン送給速度から加速し、
図1のパルス正送給速度設定信号Fasrによって定まる送給速度となり、溶接ワイヤは一定の送給速度で正送給される。溶接電流Iwが通電すると、アークが発生する。アークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値となる。同図(D)に示すように、短絡判別信号Sdは、アークが発生するので、Lowレベルを維持する。
【0064】
同図(B)に示すように、時刻t2〜t3の予め定めた定常ピーク立上り期間Tu中は、
図1のピーク電流設定信号Iprによって定まるピーク電流値Ipへと上昇する遷移電流が通電する。時刻t3〜t4の予め定めた定常ピーク期間Tp中は、上記のピーク電流値Ipが通電する。時刻t4〜t5の予め定めた定常ピーク立下り期間Tpd中は、上記のピーク電流値Ipから
図1のベース電流設定信号Ibrによって定まるベース電流値Ibへと下降する遷移電流が通電する。時刻t5〜t6の予め定めたベース期間Tb中は、上記のベース電流値Ibが通電する。パルスアーク溶接期間Ta中は、溶接電源は定電流特性となっている。このために、溶接電流Iwは、
図1のパルス電流設定信号Iarによって設定される。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、電流波形と相似した波形となる。時刻t2〜t6の期間が1パルス周期Tfとなる。アーク長を適正値に維持するために、溶接電圧Vwの平均値が目標値と等しくなるように、ピーク電流Ip及びベース電流Ibが変調制御される(電流変調制御)。これ以外の変調制御の方式としては、パルス周期Tfを変調する周波数変調制御、ピーク期間Tpを変調するピーク期間変調制御等がある。どの変調制御においても、1パルス周期Tf中に1つの溶滴が移行する、いわゆる1パルス周期1溶滴移行状態にすることで、溶接状態を良好にすることができる。各パラメータの数値例は、Tu=1.5ns、Tp=0.2ms、Tpd=1.5ms、Tb=7ms、Ip=350〜450A及びIb=30〜80Aである。
【0065】
パルスアーク溶接期間Taは、複数のパルス周期Tfを含んでいる。パルス周期Tfは、例えば10ms程度である。
【0066】
図3は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接方法を示す
図1の溶接電源におけるパルススアーク溶接期間Taから短絡移行アーク溶接期間Tcへの切換時の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示し、同図(F)はタイマ信号Tmの時間変化を示し、同図(G)はインバータ駆動信号Dvの時間変化を示し、同図(H)は溶接トーチの移動速度Seの時間変化を示し、同図(I)は最終パルス周期信号Stfの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0067】
同図(F)に示すタイマ信号Tmの値は1〜3の数値であるが、3段階のステップ状の波形として表示している。同図(H)に示す溶接トーチの移動速度Seは、溶接トーチが移動しているときはHighレベルとして表示し、停止しているときはLowレベルとして表示している。
【0068】
同図(G)に示すインバータ駆動信号DvのHighレベル(出力開始)及び同図(H)に示す溶接トーチの移動速度SeのLowレベル(停止)は、パルスアーク溶接期間Ta及び短絡移行アーク溶接期間Tcから形成される溶滴移行期間中継続する。そして、冷却期間Teに入ると、インバータ駆動信号DvはLowレベル(出力停止)に変化して溶接電源からの出力が停止し、溶接トーチの移動速度SeはHighレベル(移動)に変化して溶接トーチは移動を開始する。
【0069】
同図において、時刻t1以前の期間がパルスアーク溶接期間Taとなり、時刻t1〜t11の期間が短絡移行アーク溶接期間Tcとなり、時刻t11以降の期間が冷却期間Teとなる。
【0070】
時刻t0は、同図(F)に示すタイマ信号Tmが1(パルスアーク溶接期間Ta)に変化した時点からの経過時間が
図1のパルスアーク溶接期間設定信号Tarによって定まる期間に達した後に、新たにパルス周期が開始される時刻となる。時刻t0において、同図(I)に示すように、最終パルス周期信号StfがHighレベルに変化して最終パルス周期Tsfに入る。時刻t0〜t1の最終パルス周期Tsf中は、同図(B)に示すように、予め定めた最終ピーク立上り期間Tu中は、
図1のピーク電流設定信号Iprによって定まるピーク電流値Ipへと上昇する遷移電流が通電する。その後の予め定めた最終ピーク期間Tp中は、上記のピーク電流値Ipが通電する。その後の予め定めた最終ピーク立下り期間Tpd中は、上記のピーク電流値Ipから
図1のベース電流設定信号Ibrによって定まるベース電流値Ibへと下降する遷移電流が通電する。時刻t1において、最終ピーク立下り期間Tpdが終了して、溶接電流Iwが上記のベース電流Ibになると、同図(I)に示すように、最終パルス周期信号StfはLowレベルに戻り、最終パルス周期Tsfが終了する。最終パルス周期Tsf中の最終ピーク立上り期間Tu、最終ピーク期間Tp及び最終ピーク立下り期間Tpdの値は、最終パルス周期Tsf中に形成された溶滴が移行しない値に設定される。したがって、パルスアーク溶接期間Ta中に溶接ワイヤに溶滴が形成された状態で短絡移行アーク溶接期間Tcに移行する。
【0071】
時刻t1は、同図(F)に示すタイマ信号Tmが1(パルスアーク溶接期間Ta)に変化した時点から
図1のパルスアーク溶接期間設定信号Tarによって定まる期間が経過した後に、新たにパルス周期になり最終パルス周期Tsfに入り、最終パルス周期Tsf中に
図1のパルス電流設定信号Iarが
図1のベース電流設定信号Ibrの値と等しくなるタイミングとなる。そして、時刻t1において、同図(F)に示すように、タイマ信号Tmは1から2に変化する。したがって、時刻t1において、パルスアーク溶接期間Taから短絡移行アーク溶接期間Tcに切り換わる。同図において、時刻t1以前の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、
図1のパルス正送給速度設定信号Fasrによって定まる一定の速度で正送給されている。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwと相似した波形となる。同図(D)に示すように、短絡判別信号Sdは、アーク期間が継続しているのでLowレベルのままである。同図(E)に示すように、小電流期間信号Stdは、Lowレベルのままである。
【0072】
時刻t1において、同図(F)に示すように、タイマ信号Tmが2に変化して短絡移行アーク溶接期間Tcに入る。これに応動して、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正送ピーク値Wspへと加速され、時刻t3に短絡が発生するまでその値を維持する。この期間中の正送ピーク値Wspは、タイマ信号Tmが2に変化してから最初に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化するまでの期間中であるので、予め定めた初期値となる。これ以降の正送ピーク値Wspは、予め定めた定常値となる。初期値は、この期間中の溶接状態が安定になるように、定常値とは独立して設定される。初期値=定常値としても良い。
【0073】
時刻t1に短絡移行アーク溶接期間Tcが開始してから時刻t3に最初の短絡が発生するまでの期間中は、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、溶接電源が定電流特性となっているので、
図1の低レベル電流設定信号Ilrによって定まる低レベル電流値となる。
【0074】
同図(A)に示す送給速度Fwは、
図1の短絡アーク送給速度設定回路FCRから出力される短絡アーク送給速度設定信号Fcrの値に制御される。送給速度Fwは、
図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、
図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、
図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び
図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、短絡アーク送給速度設定信号Fcrは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。
【0075】
[時刻t3〜t6の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t3において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。これに応動して、時刻t3〜t4の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。例えば、正送減速期間Tsd=1msに設定される。
【0076】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t4〜t5の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。例えば、逆送加速期間Tru=1msに設定される。
【0077】
時刻t5において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t6にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t3〜t6の期間が短絡期間となる。逆送ピーク期間Trpは所定値ではないが、4ms程度となる。例えば、逆送ピーク値Wrp=−60m/minに設定される。
【0078】
同図(B)に示すように、時刻t3〜t6の短絡期間中の溶接電流Iwは、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となる。その後、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時傾斜で上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。
【0079】
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0080】
その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、
図1のくびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。
【0081】
くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、
図1の駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり
図1の減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、
図1の短絡アーク電流設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、トランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、短絡アーク電流設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間が経過するまでは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので一旦減少した後に急上昇する。上述した各パラメータは、例えば以下の値に設定される。初期電流=40A、初期期間=0.5ms、短絡時傾斜=180A/ms、短絡時ピーク値=400A、低レベル電流値=50A、遅延期間=0.8ms。
【0082】
[時刻t6〜t9のアーク期間の動作]
時刻t6において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、時刻t6〜t7の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。例えば、逆送減速期間Trd=1msに設定される。
【0083】
時刻t7において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t7〜t8の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。例えば、正送加速期間Tsu=1msに設定される。
【0084】
時刻t8において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t9に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t6〜t9の期間がアーク期間となる。正送ピーク期間Tspは所定値ではないが、4ms程度となる。例えば、正送ピーク値Wsp=70m/minに設定される。
【0085】
時刻t6においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t6〜t61の遅延期間の間は低レベル電流値を継続する。その後、時刻t61から溶接電流Iwは急速に増加してピーク値となり、その後は徐々に減少する大電流値となる。この時刻t61〜t81の大電流アーク期間中は、
図1の電圧誤差増幅信号Evによって溶接電源のフィードバック制御が行われるので、定電圧特性となる。したがって、大電流アーク期間中の溶接電流Iwの値はアーク負荷によって変化する。
【0086】
時刻t6にアークが発生してから
図1の電流降下時間設定信号Tdrによって定まる電流降下時間が経過する時刻t81において、同図(E)に示すように、小電流期間信号StdがHighレベルに変化する。これに応動して、溶接電源は定電圧特性から定電流特性に切り換えられる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは低レベル電流値に低下し、短絡が発生する時刻t9までその値を維持する。同様に、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwも低下する。小電流期間信号Stdは、時刻t9に短絡が発生するとLowレベルに戻る。
【0087】
時刻t9〜t10の期間には複数回の短絡期間及びアーク期間が含まれるが、上述した時刻t3〜t9と同様であるので、波形の表示及びその説明は省略する。 短絡移行アーク溶接期間Tcは、短絡期間とアーク期間との繰り返しの複数の周期を含んでいる。短絡/アークの1周期は、例えば12ms程度である。
【0088】
時刻t10において、アークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、時刻t10〜t11の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。この期間の動作は、上述した時刻t6〜t7の期間と同様である。この期間中はアークが発生した状態で溶接ワイヤは逆送されるので、時刻t11時点では溶接ワイヤの先端と母材とは所定距離だけ離れた状態となっている。
【0089】
時刻t11は、タイマ信号Tmが2(短絡移行アーク溶接期間Tc)に変化した時点から短絡移行アーク溶接期間設定信号Tcrによって定まる期間が経過した後に、短絡判別信号Sdが最初にLowレベル(アーク期間)に変化し、続く逆送減速期間Trdが終了して送給速度設定信号Frが0と等しくなった時点である。このために、時刻t11において、同図(F)に示すように、タイマ信号Tmは3に変化して、(冷却期間Te)に入る。
【0090】
時刻t11において、冷却期間Teに入ると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは0となり、送給は停止する。これにより、溶接ワイヤは先端が母材から所定距離だけ離れた状態で停止することになる。同図(G)に示すように、インバータ駆動信号DvはLowレベルに変化するので、溶接電源の出力は停止する。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは0Aとなり、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは0Vとなり、アークは消弧する。また、同図(H)に示すように、溶接トーチの移動速度SeはHighレベルに変化するので、溶接トーチは溶接線に沿って所定距離だけ移動を開始する。この結果、冷却期間Te中は、アークを消弧し、溶接トーチを溶接進行方向に所定距離だけ移動させる。
【0091】
実施の形態1に係るアーク溶接方法では、
図2及び
図3で上述したように、パルスアーク溶接期間Ta及び短絡移行アーク溶接期間Tcから形成される溶滴移行期間と、冷却期間Teとを繰り返す。例えば、Ta=300ms、Tc=200ms、Te=500msである。実施の形態1に係るアーク溶接方法は、鉄鋼、アルミニウム、ステンレス鋼等に適用することができる。
【0092】
上述した実施の形態1によれば、溶接トーチから溶接ワイヤを送給しつつ溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶滴を移行させる溶滴移行期間と、母材に形成された溶融池を冷却する冷却期間とを繰り返すアーク溶接方法において、溶滴移行期間は、溶接ワイヤを正送給するパルスアーク溶接期間と溶接ワイヤを正逆送給する短絡移行アーク溶接期間とから形成されており、冷却期間中は、アークを消弧し溶接トーチを溶接進行方向に移動させる。 溶滴移行期間中は、溶接トーチを停止又は遅い速度で移動させた状態で、アーク溶接を行い溶融池を形成する。冷却期間中は、アークを消弧して溶融池を冷却しつつ、溶接トーチを溶接進行方向に移動させる。溶融池は冷却期間中に凝固し溶接痕となる。上記のような溶滴移行期間と冷却期間とを繰り返すことにより、円形状の溶接痕が一方向に連なったウロコ状のビードを形成することができる。溶滴移行期間は、溶接ワイヤを正送給するパルスアーク溶接期間と溶接ワイヤを正逆送給する短絡移行アーク溶接期間とから形成される。パルスアーク溶接期間によって幅の広いビードを形成し、正逆送給の短絡移行アーク溶接期間によってスパッタ発生量の少ないメリハリのあるウロコ状のビードを形成する。このために、本実施の形態では、溶滴移行期間と冷却期間とを繰り返すアーク溶接方法において、スパッタ発生量が少なく、メリハリのある幅の広いウロコ状のビードを形成することができる。
【0093】
さらに、本実施の形態によれば、パルスアーク溶接期間中に溶滴が形成された状態で短絡移行アーク溶接期間に移行することが好ましい。このようにすると、短絡移行アーク溶接期間中の最初の短絡期間における溶滴移行状態が良好になるので、スパッタ発生が少なくなり、溶接状態も安定化する。この結果、パルスアーク溶接期間から短絡移行アーク溶接期間への移行が円滑になる。
【0094】
さらに、本実施の形態によれば、短絡移行アーク溶接期間中にアークが発生している状態で冷却期間に移行することが好ましい。このようにすると、溶接ワイヤの先端が母材から離反した状態で冷却期間に移行するので、溶接トーチの移動が容易になる。このときに、短絡移行アーク溶接期間中のアークが発生した状態で、溶接ワイヤの逆送減速期間が終了した時点でアークを消弧し冷却期間に移行するようにすると、溶接ワイヤの先端と母材との離反距離を適正な所定距離に制御することができる。このために、続くパルスアーク溶接期間の開始時点においてスローダウン送給される期間が適正値となるのでアーク点弧が容易になる。