特開2021-194655(P2021-194655A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-194655(P2021-194655A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】アーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/00 20060101AFI20211129BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20211129BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20211129BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20211129BHJP
【FI】
   B23K9/00 330A
   B23K9/09
   B23K9/173 A
   B23K9/23 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-100633(P2020-100633)
(22)【出願日】2020年6月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩貴
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001CA03
4E001DD02
4E001DD05
4E001DE04
4E001EA01
4E082AA04
4E082AB03
4E082BA04
4E082EA02
4E082EB23
4E082EB25
4E082ED03
4E082EF02
4E082EF07
4E082EF15
4E082JA02
(57)【要約】
【課題】ステンレス鋼の溶接にてアークスタートの安定性を向上すること。
【解決手段】ステンレス鋼の溶接を行う消耗電極式アーク溶接装置において、アーク溶接の終了処理工程の中に、溶接電源が臨界電流以下の溶接電流を所定時間出力するエンド出力工程を有する。前記エンド出力工程により、溶接終了時点で、消耗電極のワイヤ径より大きな溶融球を消耗電極の先端に形成させる。形成した溶融球の先端にスラグが付着したとしても、溶融球の表面積が大きいことから導電可能な表面が露出しているため、その次のアークスタートにおいて安定したアークスタートを実現することができる。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電流を出力する溶接電源と、消耗電極を溶接部に送給する送給部と、前記消耗電極に前記溶接電流を給電する溶接トーチとから構成される消耗電極式アーク溶接装置において、
前記消耗電極の材料がステンレス鋼であって、
前記溶接電源が、溶接終了信号を受信して前記溶接電流の出力を停止するまでの終了処理期間に、所定の条件を満たす前記溶接電流を出力する終了処理工程を設けており、
前記終了処理工程には、前記溶接電源が臨界電流以下の前記溶接電流を所定時間出力することで、前記消耗電極の先端に前記消耗電極の長径より大きい長径を有する球状又は楕円球状の溶融球を生成するエンド出力工程があることを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項2】
前記終了処理工程は、前記溶接電源がパルス状の溶接電流を出力するパルス出力工程と、前記エンド出力工程とで構成され、前記終了処理工程における前記溶接電流は常に臨界電流以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置。
【請求項3】
前記終了処理工程は、前記溶接電源が溶接終了信号を受信してから開始されることを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接装置。
【請求項4】
前記溶融球の長径は前記消耗電極の長径の1.2倍より大きく1.4倍以下である
ことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のアーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接電流を出力する溶接電源と、消耗電極を溶接部に送給する送給部と、前記消耗電極に前記溶接電流を給電する溶接トーチとから構成される消耗電極式アーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式アーク溶接において、消耗電極と母材間にアーク放電を発生させるアークスタートは不安定な物理現象であることから、アークスタートの安定性の向上が常に求められている。そのため、アークスタートの安定性の向上のために、様々な方法や装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−189392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アークスタートの安定性の向上に対する方法の一つとして、特許文献1に示す方法がある。特許文献1では、アークスタートの前の溶接終了時で溶融電極の先端に形成される溶融球の状態に着目し、溶融球の形成に際して、溶融球の先端に絶縁物である溶融スラグが付着することを防ぐべく、所定の溶接電流を出力することが提案されている。
【0005】
特許文献1において、ステンレス鋼の溶接にてアークスタートの安定性を向上させるには溶融球が小さい方が良いとされ、溶融球の直径が溶融電極の直径と略同一になるよう制御されると示されている。しかし、溶融スラグの発生が多いステンレス鋼の溶接にて、溶融球の先端に溶融スラグが付着することを防ぐのは難しい。溶融球が小さいまま溶融球の先端に絶縁物である溶融スラグが付着すると、溶融球の表面積が小さいので溶融電極の先端に通電可能な部分がなくなりアーク放電せず、アークスタートに失敗する。
【0006】
そこで、本発明では、ステンレス鋼の溶接にてアークスタートの安定性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接電流を出力する溶接電源と、消耗電極を溶接部に送給する送給部と、前記消耗電極に前記溶接電流を給電する溶接トーチとから構成される消耗電極式アーク溶接装置において、前記消耗電極の材料がステンレス鋼であって、前記溶接電源が、溶接終了信号を受信して前記溶接電流の出力を停止するまでの終了処理期間に、所定の条件を満たす前記溶接電流を出力する終了処理工程を設けており、前記終了処理工程には、前記溶接電源が臨界電流以下の前記溶接電流を所定時間出力することで、前記消耗電極の先端に前記消耗電極の長径より大きい長径を有する球状又は楕円球状の溶融球を生成するエンド出力工程があることを特徴とするアーク溶接装置である。
【0008】
請求項2の発明は、前記終了処理工程は、前記溶接電源がパルス状の溶接電流を出力するパルス出力工程と、前記エンド出力工程とで構成され、前記終了処理工程における前記溶接電流は常に臨界電流以下であることを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置である。
【0009】
請求項3の発明は、前記終了処理工程は、前記溶接電源が溶接終了信号を受信してから開始されることを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接装置である。
【0010】
請求項4の発明は、前記溶融球の長径は前記消耗電極の長径の1.2倍より大きく1.4倍以下であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のアーク溶接装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ステンレス鋼の溶接にてアークスタートの安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】溶融球の形成とアークスタート性の関係を示す実験データである。
図2】本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置の全体構成である。
図3】本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置の出力波形である。
図4】本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置のブロック図である。
図5】本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置の応用例の出力波形である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
[実施の形態]
実施の形態の発明は、前記消耗電極の材料がステンレス鋼であって、前記溶接電源が、溶接終了信号を受信して前記溶接電流の出力を停止するまでの終了処理期間に、所定の条件を満たす前記溶接電流を出力する終了処理工程を設けており、前記終了処理工程には、前記溶接電源が臨界電流以下の前記溶接電流を所定時間出力することで、前記消耗電極の先端に前記消耗電極の長径より大きい長径を有する球状又は楕円球状の溶融球を生成するエンド出力工程があることを特徴とするアーク溶接装置である。
【0015】
図1に、溶融球の形成とアークスタート性の関係を示す実験データを示す。本実験は、消耗電極にSUS308のφ1.2mm、母材にSUS304、シールドガスに98%Ar+2%O2ガスを用い、溶接電流100A、溶接電圧23Vで溶接した後の溶融球の状態を観察し、消耗電極のワイヤ径に対する溶融球の長径の倍率を記録するとともに、その次のアークスタートの状態を記録したものである。
【0016】
本実験では、ワイヤ径に対する倍率は、1倍以下(図中の×1.0)、1倍より大きく1.2倍以下(図中の×1.2)、1.2倍より大きく1.4倍以下(図中の×1.4)、1.4倍より大きく1.6倍(図中の×1.6)の4段階に分けて、各ワイヤ径に対する倍率でのスタート回数100回におけるアークスタートの状態を集計した。また、アークスタートの状態は、アークスタートの信号が出力されてから所定時間(100ms)以内に、アークスタートする(図中の○)、アークスタートするがスタート部周辺にスパッタが付着する(図中の△)、アークスタートしない(図中の×)の3段階で評価した。
【0017】
図1より、溶融球の長径がワイヤ径に対して1倍以下であると、所定時間以内にアークスタートしない確率が大きい。所定時間以内にアークスタートしないということは、特に自動溶接では所定箇所を溶接できていないことを指すため問題となる。また図1より、少なくとも溶融球の長径がワイヤ径に対して1倍より大きければアークスタートすることが明らかである。
【0018】
図2は、実施の形態におけるアーク溶接装置の全体構成である。アーク溶接装置は、溶接電源WMと、溶接トーチ1と、送給部WFと、起動信号入力部TSとから構成されている。
【0019】
起動信号入力部TSは、起動信号Tsを出力する。溶接電源WMは、前記起動信号Tsを入力とし、溶接電流Iw、溶接電圧Vw、及び送給速度信号Fcを出力する。溶接電源WMは、起動信号TsがONの間、所定の溶接電流Iw、溶接電圧Vw、及び送給速度信号Fcを出力する。送給部WFは、送給速度信号Fcを入力とし、消耗電極3を送給速度信号Fcの示す送給速度Wfで、溶接トーチ1へ送給する。
【0020】
溶接トーチ1は、消耗電極3に対し、内部の給電部材(図示は省略)を介して溶接電流Iw、溶接電圧Vwを供給する。前記起動信号TsがONの間、消耗電極3と母材2の間にはアーク4が発生する。
【0021】
図3は、実施の形態におけるアーク溶接装置の出力波形である。 図3では、前記起動信号TsがONからOFFに変化し、溶接を終了させる部分を抜き出して図示している。同図(A)は前記起動信号Ts、同図(B)は前記送給速度Wf、同図(C)は前記溶接電流Iw、同図(D)は前記溶接電圧Vwである。
【0022】
時刻t1は、作業者がアーク溶接を終了させるために、前記起動信号入力部を操作して、前記起動信号TsがONからOFFに変化したタイミングである。時刻t1以前は定常出力期間Tmであり、所定の溶接電流Iw、溶接電圧Vw、送給速度Wfを出力し、アーク溶接を実施する。
【0023】
時刻t1において、前記溶接電源WMはアーク溶接を終了することを認識し、溶接電流の出力を停止する一連の終了処理を開始する。終了処理を実施する期間を終了処理期間Tendと称する。図3では、終了処理期間Tendがパルス出力期間Tpと、エンドパルス期間Teとから構成される場合を説明する。
【0024】
時刻t1から開始される前記パルス出力期間Tpは、所定の時間ないし所定の回数、パルス状の前記溶接電流Iwを出力する期間である。前記パルス出力期間Tpは、溶融球の形成する期間である。本実施の形態においては、パルスピーク電流Ippをパルスピーク時間Tppの間出力した後、パルスベース電流Ipbをパルスベース時間Tpbの間出力するパルス形状を3回出力する。前記溶接電圧Vwは、前記溶接電流Iwの変化に応じて、上下する。例えば、パルスピーク電流Ippは400A、パルスピーク時間Tppは1.2ms、パルスベース電流Ipbは50A、パルスベース時間Tpbは8.8msである。また、送給速度Wfは、時刻t1のタイミングで急減させて0にする。
【0025】
時刻t2において、前記パルス出力期間Tpが終了し、エンドパルス期間Teが開始される。エンドパルス期間Teは、前記パルス出力期間Tpにおいて形成した溶融球を離脱させることなく、安定してアークを消弧する期間である。エンドパルス期間Teでは、臨界電流Ilmt以下の電流であるエンドパルス電流Iepをエンドパルス時間Tepの間出力する。臨界電流Ilmtとは、ブロビュール移行からスプレー移行へと遷移する境界の電流値であり、臨界電流Ilmt以下ならばグロビュール移行になり、以上ならばスプレー移行になる。臨界電流Ilmtは、シールドガスの組成や消耗電極のワイヤ径や材質などにより変化するが、概ね200Aから350Aである。例えば、エンドパルス電流Iepは80A、エンドパルス時間Tepは、1.5msである。
【0026】
時刻t3において、前記エンドパルス期間Teが終了し、前記溶接電源WMは前記溶接電流Iw、前記溶接電圧Vwの出力を停止する。
【0027】
図4は本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0028】
動作状態回路SSは、前記起動信号Tsを入力とし、状態信号Ssを出力する。状態信号Ssは、前記起動信号Tsを元に前記溶接電源WMの出力期間を定義する信号であり、図3に示す前記定常出力期間Tm、溶接終了期間Te、パルス出力期間Tp、エンドパルス出力期間Teなどを示す信号である。
【0029】
定常条件入力回路WMMは、定常条件信号Wmmを出力する。定常条件信号Wmmには、前記定常出力期間Tmに、前記溶接電源WMが出力すべき前記溶接電流Iw、前記溶接電圧Vw、前記送給部WFが出力すべき前記送給速度Wfを出力するために必要な情報が含まれる。
【0030】
パルス条件入力回路WMPは、パルス条件信号Wmpを出力する。パルス条件信号Wmpには、前記パルス出力期間Tp、前記パルス出力期間Tpに前記溶接電源WMが出力すべき前記溶接電流Iw、前記溶接電圧Vw、前記パルス出力期間Tpに前記送給部WFが出力すべき前記送給速度Wfを出力するために必要な情報が含まれる。図3の波形を出力するために、前記パルスピーク電流Ipp、前記パルスベース電流Ipb、前記パルスピーク時間Tpp、前記パルスベース時間Tpbがパルス条件信号Wmpに含まれている。
【0031】
エンドパルス条件入力回路WMEは、エンドパルス条件信号Wmeを出力する。エンドパルス条件信号Wmeは、前記エンドパルス出力期間Te、前記エンドパルス出力期間Teに前記溶接電源WMが出力すべき前記溶接電流Iw、前記溶接電圧Vw、前記エンドパルス出力期間Teに前記送給部WFが出力すべき前記送給速度Wfを出力するために必要な情報が含まれる。図3の波形を出力するために、前記エンドパルス電流Iep、前記エンドパルス時間Tepがエンドパルス条件信号Wmeに含まれている。
【0032】
条件切替回路SWは、前記状態信号Ss、前記定常条件信号Wmm、前記パルス条件信号Wmp、及び前記エンドパルス条件信号Wmeを入力とし、溶接出力信号Wcsを出力する。条件切替回路SWは、前記状態信号Ss、前記パルス条件信号Wmpに含まれる前記パルス出力期間Tp、前記エンドパルス条件信号Wmeに含まれる前記エンドパルス出力期間Teに従って、溶接出力信号Wcsとして出力すべき条件信号を切り替える。
【0033】
制御回路CNTは、前記溶接出力信号Wcsを入力とし、制御信号Cnt及び送給制御信号Fsを出力する。制御回路CNTにおいて、前記溶接出力信号Wcsの定める前記溶接電流Iw、前記溶接電圧Vwを出力するための制御信号Cntを出力する。また、前記溶接出力信号Wcsの定める前記送給速度Wfを出力するための送給制御信号Fsを出力する。
【0034】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、前記制御信号Cntに従ってインバータ制御による出力制御を行い、前記溶接電流Iw及び前記溶接電圧Vwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル等、前記溶接電流Iw及び前記溶接電圧Vwを出力し、安定して溶接を行うのに必要な回路を備えている。
【0035】
送給制御回路FCは、前記送給制御信号Fsを入力とし、前記送給速度信号Fcを出力とする。送給制御回路FCにおいて、前記送給速度信号Fcを調整し、前記送給部WFが前記送給速度Wfを安定して出力できるよう制御する。
【0036】
[応用例]
上述の実施の形態において、前記終了処理期間Tendの内、前記エンドパルス期間Teの前記溶接電流Iwが前記臨界電流Ilmt以下であることを示したが、前記終了処理期間Tendの前記溶接電流Iwが常に臨界電流Ilmt以下であるアーク溶接装置について説明する。
【0037】
図5は実施の形態におけるアーク溶接装置の応用例の出力波形である。上述の図3と異なり、前記パルス出力期間Tpに出力される前記溶接電流Iwが三角波状になっており、前記パルスピーク電流Ippが前記臨界電流Ilmt以下にである。すなわち、前記終了処理期間Tendの前記溶接電流Iwは、常に前記臨界電流Ilmt以下である。
【0038】
前記溶接電流Iwが前記臨界電流Ilmt以下であるので、溶融球が消耗電極の先端から離脱することがない。そのため、アーク出力を停止したのちに、ワイヤ径より大きい溶融球が安定して形成される。また消耗電極の粘性にもよるが、前記溶接電流Iwを三角波状に揺動することで、溶融球が球形に形成されやすくなるため、アークスタート性の向上がさらに見込まれる。
【0039】
また図1より、溶融球の長径がワイヤ径に対して1.4倍より大きく過大であると、スタート部周辺にスパッタが付着し、これもまた問題になる。すなわち、溶融球の長径にはワイヤ径に対して適切な大きさというものがあり、図1によれば1.2倍より大きく1.4倍以下である。
【0040】
次に、上述した本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置の作用効果について説明する。ステンレス鋼の溶接において、前記エンドパルス期間Teに前記臨界電流Ilmt以下の溶接電流を出力して溶融球を離脱させずにアーク出力を停止することで、ワイヤ径より大きい溶融球が形成される。溶融球の先端にスラグが付着したとしても、溶融球の表面積が大きいことからスラグのない通電する部分が露出するため、確実にアークスタートする。
【0041】
さらに、前記終了処理期間Tendの前記溶接電流Iwは、常に前記臨界電流Ilmt以下であると、スプレー移行にならないため溶融球を離脱させずに成長させることができるので、溶融球が安定して形成できる。また、図2及び図5より、本発明の実施の形態は、前記定常出力期間Tmの溶接波形がパルス溶接(図2に示す)であっても、短絡溶接(図5に示す)であっても実現できる特徴を有する。
【0042】
しかるに、本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置は、ステンレス鋼の溶接にてアークスタートの安定性が向上する。
【符号の説明】
【0043】
CNT 制御回路
Cnt 制御信号
FC 送給制御回路
Fc 送給速度信号
Fs 送給制御信号
Iep エンドパルス電流
Ilmt 臨界電流
Ipb パルスベース電流
Ipp パルスピーク電流
Iw 溶接電流
PM 電源主回路
Ss 状態信号
SS 動作状態回路
SW 条件切替回路
Te エンドパルス期間
Te エンドパルス出力期間
Te 溶接終了期間
Tend 終了処理期間
Tep エンドパルス時間
Tm 定常出力期間
Tp パルス出力期間
Tpb パルスベース時間
Tpp パルスピーク時間
Ts 起動信号
TS 起動信号入力部
Vw 溶接電圧
Wcs 溶接出力信号
Wf 送給速度
WF 送給部
WM 溶接電源
Wme エンドパルス条件信号
WME エンドパルス条件入力回路
Wmm 定常条件信号
WMM 定常条件入力回路
Wmp パルス条件信号
WMP パルス条件入力回路
1 溶接トーチ
2 母材
3 消耗電極
4 アーク
図1
図2
図3
図4
図5