【解決手段】レーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、レーザ発振装置60及びレーザトーチ40から成るレーザ照射装置と、溶接電源装置30及び溶接トーチ10から成るアーク溶接装置とを備える。このレーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、異材接合に用いることができる。そのため、アーク溶接装置は、溶接電流の平均値を10Hzから30Hzの間の周波数で変化させるように構成される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0017】
[実施の形態1]
図1は、本開示の実施の形態1に従うレーザ・アークハイブリッド溶接装置の全体構成を示す図である。
図1を参照して、レーザ・アークハイブリッド溶接装置1(以下、単に「ハイブリッド溶接装置1」と称する場合がある。)は、溶接トーチ10と、溶接ワイヤ20と、溶接電源装置30と、レーザトーチ40と、レーザ発振装置60とを備える。
【0018】
このハイブリッド溶接装置1は、異材接合の溶接に用いることができる。異材接合とは、互いに主成分が異なる異種材料の接合であり、ハイブリッド溶接装置1は、たとえば、GI鋼板やGA鋼板等の溶融亜鉛メッキ鋼板と、アルミニウム合金板との溶接に用いることができる。アルミニウム合金板には、軟質アルミニウムだけでなく、JIS規格の5000番台(たとえば5052)、6000番台(たとえば6063)、7000番台(たとえば7075)等の硬質アルミニウムも適用可能である。ハイブリッド溶接装置1によって、互いに接合される母材70の一方と他方とが、たとえば、重ね隅肉溶接継手やフレア溶接継手等によって接合される。
【0019】
溶接トーチ10及び溶接電源装置30は、母材70の接合部との間にアークを発生させることで溶接を行なうアーク溶接装置を構成する。溶接トーチ10は、母材70の接合部に向けて、溶接ワイヤ20及び図示しないシールドガスを供給する。溶接トーチ10は、溶接電源装置30から溶接電流の供給を受け、溶接ワイヤ20の先端と母材70の接合部との間にアーク25を発生させるとともに、溶接部に向けてシールドガス(アルゴンガスや炭酸ガス等)を供給する。
【0020】
溶接電源装置30は、アーク溶接を行なうための溶接電圧及び溶接電流を生成し、生成された溶接電圧及び溶接電流を溶接トーチ10へ出力する。また、溶接電源装置30は、溶接トーチ10における溶接ワイヤ20の送給速度も制御する。
【0021】
レーザトーチ40及びレーザ発振装置60は、母材70の接合部に向けてレーザを照射することで溶接を行なうレーザ照射装置を構成する。レーザトーチ40は、レーザ発振装置60からレーザ光の供給を受け、母材70の接合部に向けてレーザを照射する。レーザトーチ40からのレーザは、溶接トーチ10から発生するアーク25の近傍に照射され、このハイブリッド溶接装置1では、アーク25の溶接進行方向前方にレーザが照射される。アーク25の前方にレーザを照射することで、アーク25を安定させることができる。
【0022】
本実施の形態1に従うハイブリッド溶接装置1では、溶接トーチ10及び溶接電源装置30から成るアーク溶接装置の出力を数十Hzの周波数で揺動させる。詳しくは、溶接電流は、瞬時的には溶滴移行毎に高周波(たとえば100Hzレベル)で変動するところ、このハイブリッド溶接装置1では、溶接電流の平均値を数十Hzの周波数で揺動させる。数十Hzは、10Hzよりも低い数Hzとの比較において高い周波数レベルであることを示し、本実施の形態1では、溶接電流の平均値を10Hzから30Hzの間の周波数で変化させる。なお、以下では、「溶接電流」とは、特に断りのない限り、溶接電流の平均値を意味するものとする。
【0023】
溶接電流の変化幅は、本実施の形態1では、10Aから100Aの間の値に適宜設定される。なお、レーザトーチ40及びレーザ発振装置60から成るレーザ照射装置の出力は一定とする。以下、ハイブリッド溶接装置1において、アーク溶接装置の出力(溶接電流)を上記のように変化させる理由について説明する。なお、以下では、アーク溶接装置の出力を単に「アーク出力」と称する場合がある。
【0024】
図2は、重ね継手のすみ肉溶接における接合部の断面の一例を示す図である。この
図2では、溶接進行方向(
図1のx方向)に垂直なyz平面に沿った断面が示されている。
【0025】
図2を参照して、この例では、母材(被溶接材)70は、GI材71と、GI材71上に重ねられたアルミニウム合金板72とを含む。そして、GI材71上におけるアルミニウム合金板72の端部に、接触部位74においてGI材71と接合する溶接ビード73が形成されている。
【0026】
異材接合の溶接においては、溶接に伴ない接合界面(接触部位74)に金属間化合物が生成される。GI材71とアルミニウム合金板72との異材接合の場合、生成される金属間化合物は、アルミニウムと鉄との合金(たとえば、FeAl、Fe
3Al、Fe
2Al
5等)である。金属間化合物は、母材70(GI材71及びアルミニウム合金板72)に比べて脆いため、接触部位74において金属間化合物における割れや接合強度の低下が生じる可能性がある。
【0027】
このような異材接合では、接合界面に生成される金属間化合物の分布量が多い(金属間化合物の層が厚い)場合に、金属間化合物層において割れが発生しやすい。本発明者らは、接合強度の高い異材接合を実現するために種々の実験を試みた結果、アーク出力を10Hzから30Hzの間の周波数で揺動させると、溶接金属の結晶粒が微細化されるとともに、接合界面の金属間化合物の分布量(厚み)が減少することを見い出した。金属間化合物の分布量(厚み)が減少することで、金属間化合物における割れが抑制され、接合強度の高い異材接合を実現することができる。
【0028】
図3は、アーク出力を変化させる周波数と、生成される金属間化合物の結晶粒サイズとの関係の一例を示す図である。
図3を参照して、溶接電流を数十Hzの周波数で揺動させた場合に、生成される結晶粒のサイズが小さくなる。これは、以下の理由によるものと考えられる。
【0029】
溶接電流を数十Hzの周波数で揺動させると、溶融池の表面の揺れが大きくなる現象がみられた。これは、溶接電流の周波数と溶融池の固有振動数とが近いために共振が生じたものと考えられる。溶融池の内部においては、溶湯の攪拌が生じ、溶湯の流動が激しくなる。これにより、結晶生成段階において発生するデンドライト組織(樹枝状組織)の枝や幹の分離が促進される。その結果、各々のデンドライト組織が小さくなり、その後形成される結晶粒も小さくなったものと考えられる。
【0030】
上記の現象の過程において、金属間化合物の結晶生成段階において発生するデンドライト組織の枝や幹が分離して溶接金属中に移動することにより、金属間化合物の分布量(厚み)は減少する。
【0031】
図3に示されるように、特に、アーク出力を10Hzから30Hzの間の周波数で変化させる場合に、結晶粒サイズの低減効果が大きい。そして、結晶粒サイズの低減効果が大きい同周波数帯において、金属間化合物の厚み低減効果も大きいものと考えられる。そこで、本実施の形態1に従うハイブリッド溶接装置1では、アーク出力を上記範囲内の周波数で変化させることとしたものである。
【0032】
図4は、参考例として、アーク出力を一定とした場合における溶接部の断面を模式的に示す図である。この
図4も、溶接進行方向(
図1のx方向)に垂直な断面が示されている。
図4を参照して、GI材71(Fe層)と、溶接ビード73(Al層)との間に、金属間化合物のIMC層75が形成されている。
【0033】
この参考例では、アーク出力が一定であり、アーク出力の揺動による溶融池の攪拌作用はない。そのため、アーク出力を揺動させて溶融池を攪拌した場合(後述)と比べて、金属間化合物の分布量が多くなる(IMC層75が相対的に厚くなる)。
【0034】
図5は、アーク出力を数十Hzの周波数で変化させた場合における溶接部の断面の一例を模式的に示す図である。すなわち、この
図5は、本実施の形態1に従うハイブリッド溶接装置1により溶接を行なった場合における溶接部の断面の一例を模式的に示している。なお、この
図5は、上記の
図4に対応するものである。
【0035】
図5を参照して、この場合も、GI材71(Fe層)と、溶接ビード73(Al層)との間に、金属間化合物のIMC層75が形成されている。
【0036】
この例では、アーク出力を数十Hzの周波数で揺動させて溶融池を攪拌することにより、生成される金属間化合物の一部が溶接金属(溶融金属)側に移動して混ざり込んだ形で溶接ビード73が形成される。そのため、アーク出力を一定とした場合(
図4)と比べて、金属間化合物の分布量が少なくなる(IMC層75が相対的に薄くなる)。したがって、IMC層75における割れの発生が抑制され、接合強度の高い異材接合を実現することができる。
【0037】
なお、アーク出力を変化させる周波数が低すぎると、金属間化合物の一部を溶接金属側に移動させるほどに溶融池が攪拌されず、金属間化合物の分布量の低減効果が得られない(IMC層75が薄くならない)。一方、アーク出力を変化させる周波数が高すぎても、アークのエネルギが平均化されるために溶融池の攪拌が十分に起こらず、金属間化合物の分布量の低減効果が得られない。このハイブリッド溶接装置1では、数十Hzの周波数(具体的には、10Hzから30Hzの間の周波数)でアーク出力を変化させることにより、溶融池を効果的に攪拌することができる。
【0038】
また、アーク出力を変化させる場合に、出力の変化幅が小さすぎると、溶融池を効果的に攪拌することができない。このハイブリッド溶接装置1では、10Aから100A程度の間の変化幅で溶接電流の平均値を周期的に変化させるので、溶融池を効果的に攪拌することができる。
【0039】
図6は、本実施の形態1におけるアーク溶接装置の出力波形の一例を示す図である。この
図6では、一例として、短絡移行型の溶接が行なわれる場合の溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの波形が示されている。なお、この
図6では、「溶接電流」の文言は、平均値ではない真の電流値を示す。
【0040】
図6を参照して、溶接電源装置30(
図1)は、溶接電圧Vwが設定電圧Vsetとなるように溶接電流Iwを調整する定電圧制御を行なう。なお、ワイヤ供給速度Wfは、設定電流Isetにより決定される。
【0041】
溶接電流Iw及び溶接電圧Vwは、瞬時的には溶滴移行毎に変動する。具体的には、たとえば、時刻t2において、溶接ワイヤ20が母材70に接触し、溶接ワイヤ20と母材70とは短絡状態となる。これにより、溶接電圧Vwは約0Vに低下する。
【0042】
溶接電源装置30は定電圧制御を行なっているため、溶接電圧Vwの低下に応じて溶接電流Iwが急激に上昇する。なお、溶接電流Iwが上昇するに従って、溶接ワイヤ20において抵抗発熱が生じるため、溶接電圧Vwは徐々に上昇する。
【0043】
溶接ワイヤ20の抵抗発熱により溶接ワイヤ20が溶融し始めると、溶接電流Iwによるピンチ効果により、溶融し始めた溶接ワイヤ20が細くなる。そうすると、溶接ワイヤ20の抵抗値が上昇し、抵抗発熱がさらに促進される。その結果、溶接ワイヤ20が溶断し、溶接ワイヤ20と母材70との間にアークが発生する。
【0044】
アークが発生すると、時刻t2〜t3の短絡期間に溶接ワイヤ20が温められているため、溶接ワイヤ20が急激に燃え上がる。その結果、アーク長が長くなり、時刻t3において、溶接電圧Vwは急上昇する。
【0045】
溶接電源装置30は定電圧制御を行なっているため、溶接電圧Vwの上昇に応じて溶接電流Iwが低下する。そして、溶接電流Iwの低下と溶接ワイヤ20の送給とにより、時刻t4において、溶接ワイヤ20が母材70に接触し、溶接ワイヤ20と母材70とは再び短絡状態となる。
【0046】
このように、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwは、瞬時的には溶滴移行毎に変動する(たとえば100Hzレベル)。そして、本実施の形態1に従うハイブリッド溶接装置1では、溶接電流Iwの平均値を示す平均電流Iaveが周波数fで揺動するように、アーク溶接装置が作動する。
【0047】
具体的には、周波数fで交互に切り替わるロー(L)出力期間及びハイ(H)出力期間に応じて、平均電流Iaveが所定の変化幅で変化するように設定電流Isetが設定され、平均電流Iaveが設定電流Isetとなるように設定電圧Vsetが設定される。そして、溶接電圧Vwが設定電圧Vsetとなるように溶接電流Iwが調整される。平均電流Iaveの上記所定の変化幅は、たとえば10A〜100Aである。
【0048】
なお、ロー出力期間及びハイ出力期間の各々において、ワイヤ送給速度Wfが一定(すなわち設定電流Isetが一定)の下で定電圧制御(設定電圧Vsetが一定)が行なわれる場合、アーク長の自己制御作用によって、アーク長と平均電流Iaveとが一定に維持される。したがって、ロー出力期間及びハイ出力期間の各々において、設定電圧Vset及び設定電流Isetを適宜設定することにより、平均電流Iaveを所望の値に一定に制御することができる。
【0049】
なお、アーク溶接の形態は、短絡及びアークを繰り返す短絡移行型に限定されるものではなく、ピーク期間及びベース期間を繰り返すパルス溶接であってもよい。パルス溶接の場合、平均電流Iaveが周波数fで変化し、かつ、その変化幅が10Aから100Aの値となるように、設定電圧Vsetが周期的に変更される。そして、溶接電圧Vwの平均値Vaveが設定電圧Vsetとなるようにピーク電流及びベース電流の変調が行なわれ、結果として平均電流Iaveが目標に制御される。
【0050】
以上のように、この実施の形態1においては、溶接電流の平均値を数十Hz(10Hzから30Hz)の周波数で揺動させることにより、溶融池内において溶湯が効果的に攪拌され、生成された金属間化合物の溶接金属中への移動が起こる。その結果、溶融池の攪拌が行なわれない場合に比べて、接合界面に生成される金属間化合物の分布量(厚み)が低減する。したがって、この実施の形態1によれば、金属間化合物における割れが抑制され、接合強度の高い異材接合を実現することができる。
【0051】
また、本実施の形態1によれば、アーク出力(溶接電流)を10Aから100Aの間の変化幅で変化させるので、溶融池内において溶湯がより効果的に攪拌され、結晶生成段階において発生するデンドライト組織(樹枝状組織)の枝や幹の分離がさらに促進される。その結果、接合界面の金属間化合物の分布量(厚み)が低減し、接合強度の高い異材接合を実現することができる。
【0052】
[実施の形態2]
接合部への入熱量(J)が多いと、溶融池の凝固速度が遅くなることにより、溶接に伴なって生成される金属間化合物の生成量が多くなる。レーザは、通常、照射領域における照射エネルギ密度を高めて効果的に部材を溶融するために、照射領域においてフォーカスが合うように焦点が調整される。しかしながら、この場合、接合部への入熱量が多くなり、上述のように、金属間化合物の生成量が増加することにより接合強度が低下する可能性がある。
【0053】
そこで、金属間化合物の生成量を抑制するために入熱量を抑制することが考えられる。しかしながら、入熱量を抑制すると、溶接ビードと母材との接合面積が減少し、その結果、接合強度が低下する可能性がある。接合面積の減少による接合強度の低下は、溶接ビード幅を大きくすることで解消可能である。
【0054】
入熱量を抑制するために、レーザの焦点をデフォーカスすることが考えられる。しかしながら、レーザの焦点をデフォーカスしただけでは、レーザ照射領域の平面形状は通常円形であるから、溶接幅方向の入熱量の分布は、中央部において最大であり、端部へ向かうに従って減少する。したがって、中央部から離れた部位(たとえば幅方向端部)において入熱量が不足し、接合強度が不足する可能性がある。
【0055】
そこで、この実施の形態2では、レーザトーチ40は、レーザが照射される照射領域の形状、及び照射領域におけるレーザの照射エネルギ密度の分布を調整する調整機構を含む。この調整機構は、当該調整機構が設けられない場合に比べて、照射領域を溶接の幅方向に拡大する。そして、調整機構は、レーザによる入熱量(J)の溶接幅方向の分布が、その幅方向の中央部における入熱量が幅方向の端部における入熱量よりも少なくなるプロファイルとなるように、照射領域の形状及び照射エネルギ密度の分布を調整する。本実施の形態2では、そのような調整機構として、レーザトーチ40に回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)が設けられる。このような調整機構(DOE)が設けられることにより、接合部への入熱量を抑制して金属間化合物の生成量を抑制しつつ、広い溶接ビード幅を形成することができる。その結果、接合部の接合強度を確保することができる。
【0056】
図7は、実施の形態2におけるレーザトーチ40の構成を概略的に示す図である。
図7を参照して、レーザトーチ40は、DOE41と、レンズ42とを含む。レーザ発振装置60から出力されたレーザ光は、DOE41及びレンズ42を通過して母材70に照射され、母材70において照射領域80が形成される。
【0057】
DOE41は、レーザ発振装置60から受けるレーザ光を、回折現象を利用して所望のビームパターンに加工する。具体的には、DOE41は、レーザ発振装置60から受ける入射光を幾何学的に分散し、母材70上の照射領域80が、DOE41が設けられない場合よりも拡幅され、かつ、略矩形となるように、照射レーザを成形する。
【0058】
レンズ42は、DOE41によって加工されたレーザ光を集光して、母材70に向けて出力する。
【0059】
図8は、照射領域80の平面形状の一例を示す図である。
図8において、X軸方向は、レーザトーチ40の進行方向を示し、Y軸方向は、溶接の幅方向を示す。
図8を参照して、照射領域80が略矩形となるように、DOE41によってレーザ光が加工される。
【0060】
点線群は、レーザの照射エネルギ密度の分布を示している。図示のように、照射領域80において、幅方向(Y軸方向)の中央Cから幅方向の端部へ向かうに従って照射エネルギ密度が高くなるように、DOE41によってレーザが成形される。
【0061】
なお、この例では、照射領域80は、レーザトーチ40の進行方向(X軸方向)に平行な対辺が短辺であり、幅方向(Y軸方向)に平行な対辺が長辺であるものとしたが、照射領域80は、略正方形であってもよいし、レーザトーチ40の進行方向(X軸方向)に平行な対辺を長辺としてもよい。
【0062】
図9は、溶接幅方向の入熱量の分布を示す図である。
図9において、(a)は、レーザによる入熱量の分布を示し、(b)は、アークによる入熱量の分布を示す。(c)は、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の分布を示す。すなわち、(c)は、レーザ及びアークによるトータルの入熱量の分布を示している。各図において、縦軸は、入熱量Qを示し、Y軸方向は、溶接の幅方向を示す。入熱量Qは、幅方向の各点において、溶接開始から終了までのトータルの入熱量(J)である。
【0063】
図9を参照して、
図8に示した照射領域80を有するレーザ照射によって、レーザによる入熱量の分布は、(a)に示されるように、幅方向の中央Cにおける入熱量が少なく、端部へ向かうにつれて入熱量が多くなるプロファイルとなる。なお、参考までに、レーザ照射領域の平面形状が仮に円形である場合には、照射領域において、中央の照射エネルギ密度を低くし、周辺部の照射エネルギ密度が高くしたとしても、入熱量としては、幅方向の中央において多くなり、幅方向の端部へ向かうにつれて少なくなる可能性が高い。
【0064】
アークによる入熱量の分布は、(b)に示されるように、幅方向の中央Cにおける入熱量が多く、端部へ向かうにつれて入熱量が少なくなるプロファイルとなる。したがって、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の熱分布は、(c)に示されるように、幅方向において略均一となっている。
【0065】
言い換えると、アークによる入熱量のプロファイルを考慮して、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の熱分布のプロファイルが幅方向において略均一となるように、レーザによる入熱量のプロファイルが決定される。そして、そのレーザによる入熱量のプロファイルに基づいて、レーザの照射領域80の形状及び照射エネルギ密度分布(
図8に示した形状及び照射エネルギ密度分布)が決定され、そのような照射領域80を実現するDOE41の構成が決定される。
【0066】
或いは、(a)に示されるようなレーザによる入熱量のプロファイルが得られるようにDOE41を構成し、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の熱分布のプロファイルが幅方向において略均一となるように、溶接トーチ10の出力を溶接電源装置30によって調整してもよい。
【0067】
溶接部への入熱量及び各溶接プロセスの熱分布によって溶接部の機械的特性が決まることから、上記のようにレーザによる入熱量とアークによる入熱量との和を調整することにより、溶接部において所望の機械的特性を得ることができる。そして、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和を幅方向において均一化することにより、生成される金属間化合物が一部に集中することのない、品質の高い溶接ビードを形成することができる。
【0068】
なお、特に異材接合の溶接(たとえば、アルミニウム合金板と溶融亜鉛メッキ鋼板との溶接等)においては、金属間化合物の生成量及びその分布を制御する上で、溶融金属の量及びその分布を制御する必要がある。本実施の形態では、上記のような調整機構によってレーザによる入熱量のプロファイルを調整することにより、主に母材の溶融を調整することができ、溶接のビード幅と、溶融池の深さ(溶込深さ)及びその分布とを調整することができる。また、溶接トーチ10の出力を溶接電源装置30によって調整することにより、主に溶接ワイヤの溶融を調整することができ、溶融金属の量を調整することができる。
【0069】
以上のように、この実施の形態2によれば、
図8に示したレーザ照射領域を形成可能なDOE41が設けられることにより、入熱量の幅方向の分布は、
図9に示したようなプロファイルとなる。したがって、接合部への入熱量を抑制して金属間化合物の生成量を抑制しつつ、広い溶接ビード幅を形成することができる。その結果、接合部の接合強度を確保することができる。
【0070】
また、この実施の形態2によれば、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の幅方向の分布(プロファイル)を調整することにより、溶接部において所望の機械的特性を得ることができる。さらに、レーザによる入熱量とアークによる入熱量との和の幅方向の分布を幅方向において均一化することにより、生成される金属間化合物が一部に集中することのない、品質の高い溶接ビードを形成することができる。
【0071】
また、上記のような調整機構(DOE41)によってレーザによる入熱量のプロファイルを調整することにより、母材の溶融を調整することができ、溶接のビード幅と、溶融池の深さ(溶込深さ)及びその分布とを調整することができる。また、溶接電源装置30によって溶接トーチ10の出力を調整することにより、溶接ワイヤの溶融を調整することができ、溶融金属の量を調整することができる。
【0072】
なお、上記の実施の形態2では、DOE41によって、
図8に示したようなレーザの照射領域80を形成するものとしたが、DOEに代えて、母材70に照射されるレーザを母材70上で走査可能なレーザスキャン装置をレーザトーチに設けてもよい。そして、レーザスキャン装置によりレーザを走査することによって、実施の形態2と同様の照射領域を形成するようにしてもよい。
【0073】
なお、上記の各実施の形態では、アーク溶接は、溶接ワイヤ20を用いる溶極式(マグ溶接やミグ溶接等)のものとしたが、溶接ワイヤ20に代えて非消耗材の電極(タングステン等)を用いる非溶極式(ティグ溶接等)のものであってもよい。
【0074】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。