【課題】プッシュプル送給制御によって溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して行うアーク溶接方法において、送給抵抗が大きくなっても送給状態を安定化して溶接状態を良好にすること。
【解決手段】プッシュ側送給モータPMと、プル側送給モータWMと、プッシュ側送給モーPMタを正送回転させるプッシュ送給制御部PCと、プル側送給モータWMを正送回転及び逆送回転させるプル送給制御部FCと、を備え、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力して短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接を行うアーク溶接装置において、送給抵抗の大小を判別する送給抵抗判別部FRDをさらに備え、プル送給制御部FCは、送給抵抗判別部FRDが送給抵抗が大であると判別すると、正送回転の正送ピーク値Wsr及び逆送回転の逆送ピーク値Wrrが小さくなるように送給修正を行う。
プッシュ側送給モータと、プル側送給モータと、前記プッシュ側送給モータを正送回転させるプッシュ送給制御部と、前記プル側送給モータを正送回転及び逆送回転させるプル送給制御部と、を備え、
溶接電流及び溶接電圧を出力して短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接を行うアーク溶接装置において、
送給抵抗の大小を判別する送給抵抗判別部をさらに備え、
前記プル送給制御部は、前記送給抵抗判別部が送給抵抗が大であると判別すると、前記正送回転の正送ピーク値及び前記逆送回転の逆送ピーク値が小さくなるように送給修正を行う、
ことを特徴とするアーク溶接装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0016】
電源主回路MCは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路MCは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0017】
リアクトルWLは、溶接電流Iwを平滑して安定したアーク3を持続させる。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば100μHである。
【0018】
プッシュ側送給モータPMは、後述するプッシュ送給制御信号Pcを入力として、溶接ワイヤ1を所定のプッシュ送給速度Pwで正送する。
【0019】
モータ電流検出回路IMDは、上記のプッシュ側送給モータPMのモータ電流を検出してモータ電流検出信号Imdを出力する。このモータ電流検出信号Imdによって、プッシュ側送給モータPMのトルクを検出している
【0020】
プル側送給モータWMは、後述するプル送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを繰り返して溶接ワイヤ1をプル送給速度Fwで正逆送給する。プル側送給モータWMはエンコーダ(図示は省略)を備えており、このエンコーダからプル送給速度検出信号Fdが出力される。
【0021】
溶接ワイヤ1は、上記のプッシュ側送給モータPMに結合されたプッシュ側送給ロール6及び上記のプル側送給モータWMに結合されたプル側送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。
【0022】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0023】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0024】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。
【0025】
短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0026】
正送ピーク値設定回路WSRは、後述する送給抵抗判別信号Frdを入力として、送給抵抗判別信号FrdがLowレベル(送給抵抗 小)であるときは予め定めた通常値となり、Highレベル(送給抵抗 大)であるときは予め定めた減少値となる、正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。ここで、通常値及び減少値は正の値であり、例えば減少値は通常値の50%程度に設定される。
【0027】
逆送ピーク値設定回路WRRは、後述する送給抵抗判別信号Frdを入力として、送給抵抗判別信号FrdがLowレベル(送給抵抗 小)であるときは予め定めた通常値となり、Highレベル(送給抵抗 大)であるときは予め定めた減少値となる、逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。ここで、通常値及び減少値は負の値であり、例えば減少値の絶対値は通常値の絶対値の50%程度に設定される。
【0028】
プル送給速度設定回路FRは、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)のときは逆送ピーク値設定信号Wrrを送給速度設定信号Frとして出力し、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは正送ピーク値設定信号Wsrをプル送給速度設定信号Frとして出力する。
【0029】
プル送給制御回路FCは、上記のプル送給速度設定信号Frを入力として、プル送給速度設定信号Frの値に相当するプル送給速度Fwで溶接ワイヤ1を正逆送給するためのプル送給制御信号Fcを上記のプル側送給モータWMに出力する。プル送給制御回路FCは、送給抵抗判別信号FrdがHighレベル(送給抵抗 大)になると、プル送給速度設定信号Frの値を変化させて正送ピーク値及び逆送ピーク値を小さくする送給修正を行う。
【0030】
プッシュ送給速度設定回路PRは、予め定めた正の値のプッシュ送給速度設定信号Prを出力する。
【0031】
プッシュ送給制御回路PCは、上記のプッシュ送給速度設定信号Prを入力として、プッシュ送給速度設定信号Prの値に相当するプッシュ送給速度Pwで溶接ワイヤ1を正送給するためのプッシュ送給制御信号Pcを上記のプッシュ側送給モータPMに出力する。
【0032】
送給抵抗判別回路FRDは、上記のモータ電流検出信号Imd、上記のプル送給速度設定信号Fr及び上記のプル送給速度検出信号Fdを入力として、以下の処理1)〜処理3)の中から一つを設定によって選択して処理を行い、送給抵抗判別信号Frdを出力する。
処理1)モータ電流検出信号Imdの値が予め定めた基準電流値以上になると、送給抵抗判別信号FrdをHighレベルにして出力する。送給経路の送給抵抗が大きくなるほどプッシュ側送給モータPMのトルクが大きくなる。トルクはモータ電流検出信号Imdによって検出することができる。したがって、モータ電流検出信号Imdが基準電流値以上になると、送給抵抗が大きくなり、基準抵抗値以上になったことを示している。
処理2)プル送給速度設定信号Frの平均値とプル送給速度検出信号Fdの平均値との差分値が予め定めた基準差分値以上になると、送給抵抗判別信号FrdをHighレベルにして出力する。送給経路の送給抵抗が大きくなるほどプル送給速度検出信号Fdの平均値が小さくなる。したがって、上記の差分値が基準差分値以上になると、送給抵抗が大きくなり、基準抵抗値以上になったことを示している。
処理3)プル送給速度設定信号Frの正送ピーク値とプル送給速度検出信号Fdの正送ピーク値との差分値又は、プル送給速度設定信号Frの逆送ピーク値とプル送給速度検出信号Fdの逆送ピーク値との差分値が予め定めた基準差分値以上になると、送給抵抗判別信号FrdをHighレベルにして出力する。送給経路の送給抵抗が大きくなるほどプル送給速度検出信号Fdの正送ピーク値及び逆送ピーク値が小さくなる。したがって、上記の差分値が基準差分値以上になると、送給抵抗が大きくなり、基準抵抗値以上になったことを示している。
【0033】
減流抵抗器Rは、上記のリアクトルWLと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01〜0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、リアクトルWL及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。
【0034】
トランジスタTRは、上記の減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0035】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0036】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0037】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0038】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは、低レベル電流設定信号Ilrとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時スロープで予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する電流制御設定信号Icrを出力する。
3)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0039】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0040】
電流降下時間設定回路TDRは、予め定めた電流降下時間設定信号Tdrを出力する。
【0041】
小電流期間回路STDは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の電流降下時間設定信号Tdrを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から電流降下時間設定信号Tdrによって定まる時間が経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる小電流期間信号Stdを出力する。
【0042】
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の短絡判別信号Sd及び上記の小電流期間信号Stdを入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して予め定めた遅延期間が経過した時点までの期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)その後の大電流アーク期間中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
3)その後のアーク期間中に小電流期間信号StdがHighレベルとなる小電流アーク期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接装置の特性は、短絡期間、遅延期間及び小電流アーク期間中は定電流特性となり、それ以外の大電流アーク期間中は定電圧特性となる。
【0043】
図2は、
図1のアーク溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はプル送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示し、同図(F)はプル送給速度設定信号Frの時間変化を示し、同図(G)は送給抵抗判別信号Frdの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0044】
同図は、送給抵抗が基準抵抗値よりも小さい場合あるので、同図(G)に示すように、送給抵抗判別信号FrdはLowレベル(送給抵抗 小)のままである。図示は省略しているが、
図1のプッシュ送給速度設定信号Prは正の値の所定値となり、
図1のプッシュ送給速度Pwは一定の正送速度となる。
【0045】
同図(F)に示すように、プル送給速度設定信号Frは、短絡期間中は
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値となり、アーク期間中は
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値となる。プル送給速度設定信号Frは矩形波形となる。上述したように、同図(G)に示す送給抵抗判別信号FrdがLowレベルであるので、逆送ピーク値設定信号Wrrは予め定めた通常値となり、正送ピーク値設定信号Wsrも予め定めた通常値となる。
【0046】
同図(A)に示すプル送給速度Fwは、同図(F)に示すプル送給速度設定信号Frの値に制御される。プル送給速度Fwは、短絡期間中は負の値の逆送速度となり、アーク期間中は正の値の正送速度となる。プル送給速度Fwは、モータの過渡特性及び送給抵抗によってスロープ状に加速及び減速されるので、正負の台形波形となる。
【0047】
[時刻t1〜t2の短絡期間の動作]
正送期間中の時刻t1において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。これに応動して、同図(F)に示すように、プル送給速度設定信号Frは、
図1の正送ピーク値設定信号Wsrの値から逆送ピーク値設定信号Wrrの値へと切り換わり、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは正の値の正送ピーク値からスロープを有して負の値の逆送ピーク値へと変化し、時刻t2にアークが発生するまでその値を維持する。
【0048】
同図(B)に示すように、時刻t1〜t2の短絡期間中の溶接電流Iwは、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となる。その後、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時スロープで上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。
【0049】
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0050】
その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、
図1のくびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。
【0051】
くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、
図1の駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり
図1の減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、
図1の電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、トランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間が経過するまでは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので一旦減少した後に急上昇する。上述した各パラメータは、例えば以下の値に設定される。初期電流=40A、初期期間=0.5ms、短絡時スロープ=180A/ms、短絡時ピーク値=400A、低レベル電流値=50A、遅延期間=0.5ms。
【0052】
[時刻t2〜t3のアーク期間の動作]
時刻t2において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、プル送給速度Fwは負の値の逆送ピーク値からスロープを有して正の値の正送ピーク値へと変化し、時刻t3に短絡が発生するまでその値を維持する。
【0053】
時刻t2においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t2〜t21の遅延期間の間は低レベル電流値を継続する。その後、時刻t21から溶接電流Iwは急速に増加してピーク値となり、その後は徐々に減少する大電流値となる。この時刻t21〜t22の大電流アーク期間中は、
図1の電圧誤差増幅信号Evによって溶接装置のフィードバック制御が行われるので、定電圧特性となる。したがって、大電流アーク期間中の溶接電流Iwの値はアーク負荷によって変化する。
【0054】
時刻t2にアークが発生してから
図1の電流降下時間設定信号Tdrによって定まる電流降下時間が経過する時刻t22において、同図(E)に示すように、小電流期間信号StdがHighレベルに変化する。これに応動して、溶接装置は定電圧特性から定電流特性に切り換えられる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは低レベル電流値に低下し、短絡が発生する時刻t3までその値を維持する。同様に、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwも低下する。小電流期間信号Stdは、時刻t3に短絡が発生するとLowレベルに戻る。
【0055】
図3は、溶接途中において送給抵抗が増大したときのプル送給速度Fwの変化を示す波形図である。同図(A)は送給抵抗判別信号Frdの時間変化をしめし、同図(B)はプル送給速度設定信号Frの時間変化を示し、同図(C)はプル送給速度Fwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示す。同図において、溶接電流Iw、溶接電圧Vw及びプッシュ送給速度Pwの波形は
図2と同様であるので、図示は省略する。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0056】
同図(D)に示すように、短絡判別信号Sdは、時刻t1〜t2の期間はHighレベル(短絡期間)となり、時刻t2〜t3の期間はLowレベル(アーク期間)となり、時刻t3〜t4の期間はHighレベル(短絡期間)となり、時刻t4〜t5の期間はLowレベル(アーク期間)となり、時刻t5〜t6の期間はHighレベル(短絡期間)となり、時刻t6〜t7の期間はLowレベル(アーク期間)となる。
【0057】
[時刻t1〜t3:送給抵抗が基準抵抗値よりも小さい状態]
この場合の各波形は、上述した
図2の場合となる。同図(A)に示すように、送給抵抗判別信号FrdはLowレベル(送給抵抗 小)となる。同図(B)に示すように、プル送給速度設定信号Frは、時刻t1〜t2の短絡期間中は
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrの予め定めた通常値となり、時刻t2〜t3のアーク期間中は
図1の正送ピーク値設定信号Wsrの予め定めた通常値となり、矩形波形となる。同図(C)に示すように、プル送給速度Fwは、時刻t1〜t2の短絡期間中は
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって設定された逆送ピーク値となり、時刻t2〜t3のアーク期間中は
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって設定された正送ピーク値となる。プル送給速度Fwの逆送ピーク値及び正送ピーク値への各変化は、送給抵抗の大きさによって定まるスロープを有しているので、正負の台形波形となる。
【0058】
[時刻t3〜t5:期間途中に送給抵抗が基準抵抗値よりも大きくなる状態]
同図(A)に示すように、送給抵抗判別信号Frdは、アーク期間中の時刻t41において、送給抵抗が基準抵抗値以上となったために、Highレベル(送給抵抗 大)に変化する。この期間中に、溶接姿勢が変化して送給経路の屈曲が大きくなり、送給抵抗が大きくなる。また、溶接を繰り返して行なっていると、次第に送給経路が磨耗して送給抵抗が大きくなる。送給抵抗判別信号Frdは、上述したように、以下の処理1)〜3)のいずれかが成立したときに、Highレベルに変化する。
処理1)モータ電流検出信号Imdの値が予め定めた基準電流値以上になると、送給抵抗判別信号FrdをHighレベルにして出力する。送給経路の送給抵抗が大きくなるほどプッシュ側送給モータPMのトルクが大きくなる。トルクはモータ電流検出信号Imdによって検出することができる。したがって、モータ電流検出信号Imdが基準電流値以上になると、送給抵抗が大きくなり、基準抵抗値以上になったことを示している。
処理2)プル送給速度設定信号Frの平均値とプル送給速度検出信号Fdの平均値との差分値が予め定めた基準差分値以上になると、送給抵抗判別信号FrdをHighレベルにして出力する。送給経路の送給抵抗が大きくなるほどプル送給速度検出信号Fdのスロープが緩やかになり平均値が小さくなる。したがって、上記の差分値が基準差分値以上になると、送給抵抗が大きくなり、基準抵抗値以上になったことを示している。
処理3)プル送給速度設定信号Frの正送ピーク値とプル送給速度検出信号Fdの正送ピーク値との差分値又は、プル送給速度設定信号Frの逆送ピーク値とプル送給速度検出信号Fdの逆送ピーク値との差分値が予め定めた基準差分値以上になると、送給抵抗判別信号FrdをHighレベルにして出力する。送給経路の送給抵抗が大きくなるほどプル送給速度検出信号Fdのスロープが緩やかになり正送ピーク値及び逆送ピーク値が設定値まで到達できずに小さくなる。したがって、上記の差分値が基準差分値以上になると、送給抵抗が大きくなり、基準抵抗値以上になったことを示している。
【0059】
時刻t3時点において、送給抵抗判別信号FrdはLowレベル(送給抵抗 小)であるので、同図(B)に示すように、プル送給速度設定信号Frは、時刻t3〜t4の短絡期間中は
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrの通常値となり、時刻t4〜t5のアーク期間中は
図1の正送ピーク値設定信号Wsrの通常値となり、時刻t1〜t3の期間と同様になる。同図(C)に示すように、プル送給速度Fwは、時刻t3〜t4の短絡期間中は
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって設定された逆送ピーク値となり、時刻t4〜t5のアーク期間中は
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって設定された正送ピーク値となる。しかし、送給抵抗が大きくなっているので、プル送給速度Fwの逆送ピーク値及び正送ピーク値への各変化のスロープは緩やかになる。このために、プル送給速度Fwの平均送給速度は、プル送給速度設定信号Frの平均送給速度よりも小さくなる。
【0060】
[時刻t5〜t7:送給抵抗が基準抵抗値以上の状態]
時刻t5時点において、送給抵抗判別信号FrdはHighレベル(送給抵抗 大)であるので、同図(B)に示すように、プル送給速度設定信号Frは、時刻t5〜t6の短絡期間中は
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrの予め定めた減少値に小さくなり、時刻t6〜t7のアーク期間中は
図1の正送ピーク値設定信号Wsrの予め定めた減少値に小さくなる。同図(C)に示すように、プル送給速度Fwは、時刻t5〜t6の短絡期間中は
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって設定された逆送ピーク値となり、時刻t6〜t7のアーク期間中は
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって設定された正送ピーク値となる。逆送ピーク値及び正送ピーク値が減少値へと小さくなっているので、プル送給速度Fwは、スロープは緩やかであるが、直ぐに正逆のピーク値に達する。送給抵抗が大きくなると、プル送給速度Fwは、加減速のスロープが緩やかになるために、プル送給速度設定信号Frの設定波形から変異した波形となる。そこで、正逆のピーク値を小さくすることで、プル送給速度Fwは設定波形とほぼ相似した波形となる。この結果、平均送給速度が変動することを抑制することができるので、溶接ビード及び溶接品質を良好に維持することができる。
【0061】
上記において、プル送給速度設定信号Frの正逆ピーク値の減少値は、通常値であるときの平均送給速度と等しくなるように設定されることが望ましい。送給抵抗判別信号Frdは、上述した処理1)〜3)のいずれかが成立している期間中のみHighレベルとなるようにしても良い。また、送給抵抗判別信号Frdが溶接途中でHighレベルに変化すると、溶接終了まで維持するようにしても良い。さらに、送給抵抗が大きくなる溶接区間が予想される場合は、その区間中に送給抵抗判別信号FrdをHighレベルにしても良い。また、上記においては、送給抵抗を大小の2段階で判別する場合について説明したが、3段階以上に分けて判別し、それに対応して正逆ピーク値の減少値も多段階に変化するようにしても良い。例えば、プル送給速度設定信号Frの正送ピーク値の通常値は80m/min、減少値は40m/minであり、逆送ピーク値の通常値は−30m/min、減少値は−15m/minである。
【0062】
上述した実施の形態1によれば、送給抵抗の大小を判別する送給抵抗判別部をさらに備え、プル送給制御部は、送給抵抗判別部が送給抵抗が大であると判別すると、正送回転の正送ピーク値及び逆送回転の逆送ピーク値が小さくなるように送給修正を行う。これにより、送給抵抗が大きくなっても平均送給速度の変動を抑制することができるので、溶接品質を良好に維持することができる。
【0063】
さらに、本実施の形態によれば、送給抵抗判別部は、送給抵抗の大小の判別を、プッシュ側送給モータのモータ電流によって行う。これにより、送給抵抗の大小を自動的に判別することができるので、操作性が良好になる。
【0064】
さらに、本実施の形態によれば、送給抵抗判別部は、送給抵抗の大小の判別を、プル側送給モータの送給速度の設定波形と検出波形との差分によって行う。これにより、送給抵抗の大小を自動的に判別することができるので、操作性が良好になる。
【0065】
さらに、本実施の形態によれば、送給修正は、送給修正の前後で平均送給速度が等しくなるように行う。これにより、送給抵抗が変化しても平均送給速度は一定値になるので、溶接品質がより向上する。