【解決手段】一実施形態に係る検査装置100は、ワークWを加工可能なブレード4が取り付けられるスピンドル5に生じる振動を検知可能な第1センサ2a及び第2センサ2bと、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれから得られた情報に応じてスピンドル5に取り付けられたブレード4の異常を判定する異常検知システム20と、を備える。異常検知システム20は、スピンドル5が特定回転数により回転した場合における、第1センサ2aから得られたスピンドル5の振動を表す第1信号と、第2センサ2bから得られたスピンドル5の振動を表す第2信号と、に基づいてブレード4の異常を判定する。
前記判定部は、前記位相差データと前記基準位相差データとを比較した結果前記ブレードに異常が生じていないと判定した場合、前記基準位相差データを前記位相差データに置き換える、
請求項3又は4に記載の検査装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図面を参照しながら実施形態の詳細の例について説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0013】
図1の(a)及び(b)は、実施形態に係る例示的な工作機械1を示している。例示的な工作機械1は、加工対象物(工作物)であるワークWに対する加工が可能なダイサである。しかしながら、工作機械は、ダイサ以外の工作機械であってもよい。工作機械1は、一例として、ワークWを切断加工する。ワークWは、一例として、MLCC(Multi Layer Ceramic Capacitor:積層セラミックコンデンサ)のグリーンシートであってもよい。ワークWは、比較的軟質な材料によって構成されてもよい。また、ワークWはウェハ(又はウェハシート)であってもよい。このように、ワークWの種類及び材料は特に限定されない。
【0014】
工作機械1は、例えば、スピンドル5と、スピンドル5を回転駆動するスピンドルモータ6と、スピンドルモータ6の回転を制御可能なコントローラ10(制御部)と、を備える。コントローラ10は、例えば、工作機械1の各部の動作を制御する。スピンドル5の一端側には、ワークWの加工(切断加工)を行う工具であるブレード4が取り付けられる。スピンドル5の他端側は、例えば、工作機械1に固定されている。スピンドル5は、一例として、エアスピンドルである。例えば、コントローラ10は、スピンドルモータ6によるスピンドル5の回転、ワークWの搬送、又はワークWの位置決めを制御する。これにより、ワークWに対する加工が行われる。
【0015】
図1では、一例として、鉛直方向をZ方向、スピンドル5の軸線が延びる方向をY方向、Z方向及びY方向の双方に直交する方向をX方向として示している。例えば、工作機械1は、ワークWが載せられると共にワークWを回転させるθテーブル8と、θテーブル8の下部に位置してワークWをX方向に搬送するXテーブル7とを備える。しかしながら、ワークWを搬送(又は回転)させるための構成は、Xテーブル7及びθテーブル8に限られず、適宜変更可能である。
【0016】
ところで、ブレード4では、ワークWに対して加工を行っているうちに欠損が生じることがある。また、ブレード4に異物(例えば加工屑又は汚れ)が付着することがある。このように、ブレード4に異常が生じると、例えば、ブレード4によるワークWの切断性能が低下したり、ワークWに対する加工品質が劣化する可能性がある。具体例として、ワークWの切断面に異物が付着したり、切断面の形状不良が生じたりして、最終製品としてのワークWの品質に影響が生じる懸念がある。従って、ブレード4に異常が生じた場合に、ブレード4の当該異常を速やかに検出することが求められる。ブレード4の異常を速やかに検出できる場合、ワークWの品質への影響を抑えて、高品質なワークWの加工が可能となる。
【0017】
実施形態に係る工作機械1は、例えば、ブレード4の異常有無を検査する検査装置100を備える。検査装置100は、スピンドル5の振動を検出する複数のセンサと、ブレード4の異常判定を行う異常検知システム20(判定部)とを備える。複数のセンサは、ワークWを加工可能なブレード4が取り付けられる第1位置5aに生じる振動を検知可能である。複数のセンサとして、例えば、第1センサ2a、及び第1センサ2aとは異なる第2センサ2bが設けられる。第1センサ2a及び第2センサ2bは、例えば、後に詳述する異常検知システム20にセンサデータを送信する。
【0018】
一例として、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれは、ケーブル3を介して異常検知システム20に接続されている。しかしながら、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれと、異常検知システム20との接続態様は、ケーブル3等の有線接続に限られず、例えば、無線接続であってもよい。例えば、異常検知システム20は、工作機械1のコントローラ10と通信可能とされている。
【0019】
例えば、スピンドル5には、第1センサ2a及び第2センサ2bが取り付けられている。しかしながら、スピンドル5に取り付けられるセンサの数は、2に限られず、3以上のセンサが取り付けられていてもよい。すなわち、検査装置100は、第1センサ2a及び第2センサ2bの他に、更に第1センサ2a及び第2センサ2bとは別のセンサを備えていてもよい。第1センサ2aは、スピンドル5の振動を検知可能な振動センサを含んでもよい。この場合、第1センサ2aは、加速度をピックアップする加速度センサ、速度センサ、変位センサ、AE(Acoustic Emission)センサ、及び音響センサ(例えば、マイクロホン、又は音響ピックアップ等)のいずれかであってもよい。このように、第1センサ2aとしては、種々のセンシングデバイスを用いることが可能である。第2センサ2bについても同様である。
【0020】
第1センサ2aは、例えば、スピンドル5の外筒に取り付けられる。第1センサ2aは、スピンドル5に接触していてもよいし、スピンドル5から離間していてもよい。第1センサ2aがスピンドル5に接触している場合、例えば、第1センサ2aは、接着によってスピンドル5に固定されていてもよいし、機械的固定手段によってスピンドル5に固定されていてもよい。接着としては、例えば、両面テープ等のテープによる接着、又は接着剤による接着が挙げられる。機械的固定手段としては、例えば、ボルトナット接合、ネジ接合、又はラッチ係合、が挙げられる。
【0021】
第1センサ2aは、スピンドル5に直接固定されていてもよいし、固定部材(例えばセンサ固定治具)を介してスピンドル5に固定されていてもよい。固定部材に対する第1センサ2aの固定は、上記同様、接着による固定であってもよいし、機械的固定手段(一例としてネジ止め)による固定であってもよい。また、当該固定部材は、スピンドル5に対して着脱可能に固定されていてもよい。例えば、スピンドル5に磁性体が固定されており、当該磁性体を介して第1センサ2aがスピンドル5に着脱可能とされていてもよい。スピンドル5に対する第2センサ2bの取付態様については、例えば、第1センサ2aと同様である。
【0022】
スピンドル5に対する第1センサ2a及び第2センサ2bの場所は可変であってもよい。例えば、スピンドル5は第1センサ2a及び第2センサ2bの位置決め構造を備えていてもよい。位置決め構造としては、例えば、一定間隔を空けて配置された第1センサ2a用及び第2センサ2b用のネジ穴、又は、一定間隔を空けて配置された第1センサ2a用及び第2センサ2b用の磁性体が挙げられる。
【0023】
次に、スピンドル5とブレード4の詳細の例について説明する。
図2の(a)はスピンドル5にブレード4が装着されている状態の例を示し、
図2の(b)はスピンドル5からブレード4が外されている状態の例を示している。例えば、スピンドル5は、スピンドル外筒51と、スピンドル外筒51の内部に設けられるスピンドル軸52と、スピンドル外筒51及びスピンドル軸52の間に介在する軸受53a,53bとを備える。例えば、ブレード4はフランジ41によって固定されており、フランジ41は第1フランジ42a、第2フランジ42b及び締結ボルト43を備える。例えば、スピンドル外筒51に第1センサ2a及び第2センサ2bが取り付けられる。
【0024】
例示的なスピンドル5では、スピンドル外筒51及びスピンドル軸52が、軸受53a,53bによってラジアル方向に支持されると共に、軸受ナット55によってスラスト方向に固定される。例えば、ブレード4は、フランジ41によってスピンドル軸52に固定される。具体例として、第1フランジ42aは、スピンドル軸52のブレード4側に位置するテーパ部が挿入された状態で第2フランジ42bと共にブレード4を挟み込み、第2フランジ42bと共にブレード4を挟み込んだ状態で締結ボルト43によって締結される。ブレード4を挟み込む第1フランジ42a及び第2フランジ42bと締結ボルト43とは、第1フランジ42aに挿入されたスピンドル軸52のテーパ部に取付ナット54が締結されることによってスピンドル5に固定される。なお、スピンドル5及びブレード4の構造の詳細は、上記の例に限定されることはなく、適宜変更可能である。
【0025】
図3の(a)及び(b)のそれぞれは、検査装置100を構成する第1センサ2a、第2センサ2b、及び異常検知システム20の配置態様の例を示している。
図3の(a)に示されるように、異常検知システム20は、コントローラ10が内蔵された工作機械1の本体1Aとは別体とされていてもよい。この場合、異常検知システム20は、既存の工作機械1の本体1Aに後付可能な装置であってもよい。また、異常検知システム20は、本体1Aと一体とされていてもよいし、
図3の(b)に示されるように、本体1Aに内蔵されていてもよい。第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれと異常検知システム20とがケーブル3を介して互いに接続されている場合、ケーブル3は、工作機械1の外部に延びていてもよいし、工作機械1の内部に配置されていてもよい。
【0026】
第1センサ2a及び第2センサ2bの配置の例について説明する。例えば、第1センサ2aは、第2センサ2bと比較してブレード4の回転による影響を検知しやすい位置に配置される。すなわち、第1センサ2aはブレード4の回転による影響を検知しやすい第1位置5aに配置され、第2センサ2bは第1位置5aに比べてブレード4の回転による影響を受けにくい第2位置5bに配置される。換言すると、第2位置5bは、第1位置5aに比べて、ブレード4の回転による影響を検知しにくい位置であってもよい。検査装置100は、第1センサ2aで検知した振動、及び第2センサ2bで検知した振動、の特定周波数における特徴量(例えば、後述する位相差)に基づいてブレード4の異常を検出可能である。特定周波数については後に詳述する。
【0027】
例えば、ブレード4に異常が生じていなければ、ワークWの加工前後において特定周波数における特徴量が一定である(又は殆ど変わらないか、変動が比較的小さい)。一方、ワークWの加工中にブレード4に異常が生じた場合、ブレード4の異常が少なくとも第1位置5aにおける振動に影響すると考えられるので、加工前後で特徴量が変動する。本実施形態において、「加工前」は、加工直前だけでなく、加工を行う前のあらゆるタイミングを含んでおり、「加工後」は、加工直後だけでなく、加工を行った後のあらゆるタイミングを含む。また、第1センサ2aが配置される第1位置5aは、当該変動をセンシングしやすい位置であってもよい。
【0028】
例えば、第1センサ2aがスピンドル5のY方向の中央よりもブレード4側に配置され、第2センサ2bがスピンドル5のY方向の中央よりも固定側(一例としてスピンドルモータ6側)に配置されてもよい。例えば、第1センサ2aはスピンドル5においてブレード4の回転に起因したスピンドル5の振動を検知可能な第1位置5aに配置され、第2センサ2bはスピンドル5において第1位置5aよりもブレード4の回転に起因したスピンドル5の振動が小さい第2位置5bに配置されてもよい。
【0029】
なお、「ブレードの回転に起因したスピンドルの振動」としては、例えば、ブレード4の回転による工作機械1の回転体部品の共振に起因したスピンドル5の振動が挙げられる。また、第1センサ2aはスピンドル5においてブレード4の回転に起因したスピンドル5の振動の周波数を検知可能な第1位置5aに配置され、第2センサ2bはスピンドル5において第1位置5aで検知される振動の周波数とは異なる周波数の振動を検知可能な第2位置5bに配置されてもよい。
【0030】
第1位置5a及び第2位置5bは、スピンドル5に取り付けられたブレード4が回転したときの振動を予め測定することによって定められてもよい。第1位置5a及び第2位置5bは、例えば、ブレード4が取り付けられたスピンドル5のモデルをコンピュータのシミュレーション環境において構築し、ブレード4の回転に伴う振動をシミュレーションすることによって定められてもよい。このシミュレーションとしては、例えば、振動モード解析(固有値解析)が挙げられる。例えば、この振動モード解析を用いて実測値からモード(固有振動数)を算出し、共振応答(ものの揺れ方)、変形、又は応力集中部分を可視化するシミュレーションが可能である。
【0031】
図4は、第1センサ2a及び第2センサ2bの配置の別の例を示している。スピンドル5の回転方向(周方向)における第1センサ2aの位置と、スピンドル5の回転方向における第2センサ2bの位置とが互いに同一であってもよい。また、
図4に示されるように、スピンドル5の回転方向における第1センサ2aの位置と、スピンドル5の回転方向における第2センサ2bの位置とが互いに異なっていてもよい。
【0032】
例えば、第1センサ2aがスピンドル5の第1位置5aに配置され、第2センサ2bが第1センサ2aからある特定の距離D以上離間した第2位置5bに配置されてもよい。一例として、距離Dは、スピンドル5のY方向のブレード4側に位置する第1基準線L1と、スピンドル5のY方向のブレード4との反対側に位置する第2基準線L2との間の距離である。距離Dは、例えば、第1位置5aにおいて測定された振動の特定周波数の位相と、第2位置5bにおいて測定された振動の特定周波数の位相と、の位相差が基準値以上となる距離である。当該基準値は、例えば、実験又はシミュレーションによって予め定められてもよい。第1センサ2a及び第2センサ2bは、当該基準値以上の位相差を検出可能な位置であれば、任意の場所に配置することが可能である。
【0033】
次に、
図5を参照しながら検査装置100のシステム構成の例について説明する。前述したように、検査装置100は、第1センサ2a及び第2センサ2bと、異常検知システム20とを備える。異常検知システム20は、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれから得られた情報に応じてスピンドル5に取り付けられたブレード4の異常を判定する、例えば、異常検知システム20は、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれと接続されている。
【0034】
異常検知システム20は、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれから出力されたセンサ信号を入力信号として受け付ける。センサ信号は、例えば、第1センサ2aからの第1信号S1、及び第2センサ2bからの第2信号S2を含む。すなわち、異常検知システム20は、スピンドル5が特定回転数により回転した場合における、第1センサ2aから得られたスピンドル5の振動を表す第1信号S1と、第2センサ2bから得られたスピンドル5の振動を表す第2信号S2と、に基づいてブレード4の異常を判定する。特定回転数については後に詳述する。
【0035】
異常検知システム20は、工作機械1と通信可能に接続されており、例えば、コントローラ10と通信可能に接続されている。一例として、異常検知システム20は、工作機械1との間で各種データ又はコマンドを送受信可能であってもよい。異常検知システム20は、工作機械1と直接接続されていてもよく、工作機械1とデータ及びコマンドの送受信を行ってブレード4の異常検知の各処理を工作機械1と連動して実行してもよい。
【0036】
なお、異常検知システム20は、コントローラ10に接続されていなくてもよい。例えば、異常検知システム20がデータを入力するデータ入力部を備え、当該データ入力部を通じてオペレータが異常検知システム20にデータ入力を行ってもよい。当該データ入力部は、オペレータによる入力操作を受付可能であると共に、オペレータに対する情報の表示を行ってもよい。当該データ入力部は、オペレータに対して情報を表示する操作パネルを備えていてもよい。オペレータは、当該データ入力部を介して工作機械1の稼働状況の情報、又は異常検知処理の開始指示を異常検知システム20に入力してもよい。また、異常検知システム20によるブレード4の異常の判定結果が上記の操作パネルを介してオペレータに通知されてもよい。
【0037】
例示的な異常検知システム20は、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれに接続されたセンサデータ入力部21と、ブレード4の異常を検知する異常検知部22とを備える。異常検知システム20は、更に、ストレージ23を備えていてもよい。異常検知システム20は、そのハードウェア構成として、センサアンプ、A/D変換器、CPUユニット、HUB、ディスプレイ及びストレージの少なくともいずれかを備えていてもよい。
【0038】
センサデータ入力部21は、例えば、第1センサ2aからの第1信号S1と第2センサ2bからの第2信号S2とを異常検知部22が処理可能なデータに変換する。センサデータ入力部21は、当該変換を行ったデータを異常検知部22に提供する。センサデータ入力部21は、例えば、第1信号S1及び第2信号S2のそれぞれを増幅する増幅器(アンプ)としての機能を含む。一例として、センサデータ入力部21は、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれへの駆動電力を供給するセンサ電源としての機能を備えていてもよい。センサデータ入力部21は、第1信号S1及び第2信号S2のそれぞれがアナログ信号である場合、当該アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換機能を備えていてもよい。一例としてのセンサデータ入力部21は、異常検知システム20の電源、アンプ、及びA/D変換器を備える。
【0039】
しかしながら、センサデータ入力部21の構成は上記の例に限定されない。例えば、第1信号S1及び第2信号S2のそれぞれがデジタル信号である場合には、センサデータ入力部21は上記A/D変換機能を有しなくてもよい。また、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれが無線通信機能を備える場合には、センサデータ入力部21が第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれからの無線通信を処理する機能を備えてもよい。
【0040】
以上のように、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれとセンサデータ入力部21との接続態様、並びに、第1信号S1及び第2信号S2のそれぞれの形式等は特に限定されない。但し、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれとセンサデータ入力部21とが有線接続されていて且つ第1信号S1及び第2信号S2が共にアナログ信号である場合には、チャネル間の周波数のずれが生じないので、チャネルの時間遅れ等の問題を生じにくくすることができる。
【0041】
異常検知部22は、センサデータ入力部21から提供されたセンサデータを分析して工作機械1におけるブレード4に異常が生じているか否かを判定する。異常検知部22は、異常検知のための前述した基準値(例えば、基準となる位相差、具体的には、基準となる第1センサ2aからの第1信号S1と第2センサ2bからの第2信号S2との位相差)を設定する。例えば、異常検知部22は、ワークWの加工後のタイミングにおいてスピンドル5を特定回転数で回転(ワークWを加工していない状態における空転)することによって、特定周波数の振動データを取得する。
【0042】
例えば、異常検知部22は、取得した振動データから第1信号S1と第2信号S2との位相差を算出する。異常検知部22は、前述した基準値と、ワークWを加工した後における第1信号S1及び第2信号S2の位相差と、を比較してブレード4の異常の有無を判定する。具体例として、異常検知部22は、基準値と、加工後の第1信号S1及び第2信号S2の位相差と、の差分を閾値と比較することによって、ブレード4の異常有無を判定する。
【0043】
異常検知部22は、工作機械1のコントローラ10と通信可能に接続されていてもよい。異常検知部22は、コントローラ10から各種データを取得可能であってもよい。異常検知部22は、例えば、コントローラ10から、ブレード4の異常検知処理を開始するトリガを受信してもよい。一例として、異常検知部22は、工作機械1の稼働状況を表す情報を取得可能であってもよい。工作機械1の稼働状況を表す情報とは、例えば、スピンドルモータ6等、工作機械1のモータの回転制御の情報、又は加工等の工程の開始若しくは停止に関する情報が挙げられる。異常検知部22は、例えば、センサデータ、異常検知処理の工程において生成されたデータ、及び異常検知の結果(判定結果)をストレージ23に提供してもよい。
【0044】
ストレージ23は、異常検知部22によって得られたデータを記憶(記録)する記憶装置である。ストレージ23の構成は特に限定されない。例えば、ストレージ23は、組み込み型の記憶装置(一例として、内蔵SSD(Solid State Drive)又はHDD(Hard Disk Drive))であってもよいし、周辺機器として接続可能な外付け型記憶装置であってもよい。更に、ストレージ23は、通信ネットワークを介して接続可能な記憶装置(一例としてNAS(Network Attached Strage))等であってもよい。また、ストレージ23はクラウドストレージであってもよい。ストレージ23の記憶方式は特に限定されない。
【0045】
ストレージ23としての記憶装置の種類は、入手性、記憶容量、RW(Read/Write)性能、又は耐久性等を鑑みて適宜選択されうる。ストレージ23は、一例として、HDD/SSDである。ストレージ23は、例えば、異常検知部22によるブレード4の判定結果のログを記録する。しかしながら、判定結果を記憶しない場合には、異常検知システム20からストレージ23を省略することも可能である。
【0046】
図6は、異常検知部22の機能の詳細を示す機能ブロック図である。
図6に例示されるように、異常検知部22は、機能的構成要素として、FFT演算部22aと、位相演算部22bと、判定処理部22cとを備える。異常検知部22は、更に、管理部22dを備えてもよい。異常検知部22の機能的構成要素は、異常検知システム20に実装されたソフトウェアプログラムによって実現されてもよいし、専用のハードウェア(一例としてASIC(Application Specific Integrated Circuit)等)によって実現されてもよい。また、異常検知部22の機能的構成要素は、ソフトウェアプログラムと専用又は汎用ハードウェアとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0047】
管理部22dは、異常検知部22の各部を統括制御する機能を有し、例えば、異常検知部22による異常検知処理のプロセスを制御するように構成されていてもよい。管理部22dは、異常検知システム20が工作機械1と接続されている場合には、工作機械1との間で各種のデータ又はコマンドの送受信を行ってもよい。各種のデータ又はコマンドとは、異常検知処理の開始若しくは終了のトリガ、異常検知のためのスピンドル5の回転(回転数等)の制御、又は異常判定の結果、等が挙げられる。
【0048】
管理部22dは、基準値(基準となる位相差)の初期値を設定してもよい。管理部22dは、異常判定のために回転(空転)させるスピンドル5の特定回転数を設定してもよい。管理部22dは、前述した特定周波数を設定してもよい。なお、基準値、特定回転数、及び特定周波数は、予め異常検知システム20に設定された値であってもよいし、異常検知システム20を操作するオペレータによって設定可能な値であってもよい。
【0049】
FFT演算部22aは、特定のタイミングでスピンドル5を空転させたときに第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれによって測定されたスピンドル5の振動のセンサデータをFFT処理する。なお、この空転のときのスピンドル5の回転数が特定回転数に相当する。このように、特定回転数で回転するスピンドル5を第1センサ2a及び第2センサ2bが測定することにより、FFT演算部22aは、ブレード4の異常判定に用いられる特定周波数の成分のデータを抽出する。特定回転数及び特定周波数は、異常検知システム20に予め与えられていてもよいし、異常検知システム20によって算出されるものであってもよい。特定回転数及び特定周波数の設定方法については後に詳述する。
【0050】
位相演算部22bは、例えば、FFT演算部22aによって抽出された特定周波数の振動成分について、第1センサ2aから得られた振動成分(第1信号S1)の位相と、第2センサ2bから得られた振動成分(第2信号S2)の位相との位相差を算出する。判定処理部22cは、例えば、位相演算部22bによって算出されたワークWの加工後の位相差と、基準値とを比較してブレード4の異常有無を判定する。一例として、判定処理部22cは、加工後の位相差と基準値との差分が閾値未満である場合にブレード4に異常が発生していないと判定し、加工後の位相差と基準値との差分が当該閾値以上である場合にブレード4に異常が発生していると判定してもよい。基準値及び閾値については後に詳述する。
【0051】
次に、本実施形態に係るブレード4の検査方法の工程の例について
図7を参照しながら説明する。以下では、ブレード4の異常を判定する判定方法の例について説明する。ブレード4の異常判定は、1つのワークWに対する加工が完了する度に行われてもよいし、1ロット(一定単位の数のワークWの加工)が完了する度に行われてもよく、ブレード4の異常判定のタイミング及び頻度は特に限定されない。但し、工作機械1の生産性(例えば単位時間あたりのアウトプット)に対する影響を抑える観点では、ブレード4の異常判定は、ワークWの加工以外のタイミングで行われるのがよい。また、ブレード4の異常判定は、工作機械1の加工以外の工程と並行して実行されてもよい。
【0052】
まず、異常判定のための基準データ(例えば基準値)を設定する(ステップS11)。例えば、ワークWを加工する前に、基準値が設定される。具体例として、工作機械1の起動後且つワークWの加工前に、スピンドル5をZ方向に沿って上昇させスピンドル5を特定回転数(一例として20000rpm、回転周波数:333Hz)で回転(空転)させる。そして、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれによって特定回転数で回転させたときにおけるスピンドル5の振動を計測し、当該振動のうち特定周波数(一例として8.17kHz)の振動について、第1センサ2aの計測値と第2センサ2bの計測値との間の位相差を計算する。このように加工前に計算した位相差が基準値として設定される。
【0053】
次に、ワークWを加工する(ステップS12)。
図7の(b)は、ワークWの加工の工程の例を示すフローチャートである。
図7の(b)に示されるように、工作機械1によるワークWの加工を行う前に、例えば、初期処理及びワーク待ちを行い(ステップS21、ステップS22)、その後、ワークWの搬送を行う。初期処理は、例えば、工作機械1の起動後、又は工作機械1の一定時間稼働後に行われる工作機械1の各種処理を示している。ワーク待ちは、ワークWが工作機械1にセットされるのを待つことを示している。
【0054】
このとき、ワークWは所定の加工位置に搬送される。一例として、ワークWはXテーブル7によってブレード4の下部にまで搬送される(ステップS23)。その後、ワークWを加工状態にセットする。例えば、θテーブル8によってブレード4に対するワークWの位置の微調整を行ってワークWのセットを行った後に、ブレード4によってワークWを加工する(ステップS24、ステップS25)。なお、ワークWの加工前又は加工後に前処理又は後処理が行われてもよい。更に、ワーク待ち、ワークWの搬送、及びワークWのセットの少なくともいずれかと並行して、異常判定のためのセンサデータが計測されてもよい(スピンドル5を回転して第1センサ2a及び第2センサ2bによる測定がなされてもよい)。また、ワーク待ち、ワークWの搬送、及びワークWのセットの少なくともいずれかと並行して、ステップS11における基準データを設定する処理が実行されてもよい。
【0055】
加工の更なる具体例として、ブレード4をZ方向に沿って下降させ、ワークWにブレード4で切れ込みを入れ、ワークWとブレード4をX方向に相対的に動かしてワークWを切削加工する。そして、ワークWの幅以上にブレード4をX方向に相対移動させた後にZ方向に沿って上昇させ、ワークWをY方向に移動させた後、上記と同様、ワークWを複数箇所切削加工してもよい。以上のようにワークWに対する加工を行った後には、例えばXテーブル7によってワークWを搬送し、ワークWに対して次工程を実行し(ステップS26)、ワークWの加工の一連の工程が完了する。なお、ワークWの加工の工程は、上記の例に限られず、更に別の工程を備えていてもよいし、前述した工程の一部が省略されてもよい。
【0056】
ワークWの加工を行った後には、例えば、ワークWの加工後における第1センサ2a及び第2センサ2bからのセンサデータを取得する(ステップS13)。具体例として、ワークWの加工後、改めてスピンドル5を特定回転数(一例として20000rpm)で回転させる。例えば、このスピンドル5の回転は5秒程度行う。そして、スピンドル5を回転させているときに第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれがスピンドル5の振動を計測し(振動を複数のセンサが検知する工程)、特定周波数(一例として8.17kHz)の振動について第1センサ2a及び第2センサ2bの位相差を計算する。
【0057】
そして、ブレード4の異常判定を行う(ブレードの異常を判定する工程、ステップS14)。具体例として、FFT演算部22aが第1センサ2aの振動データと第2センサ2bの振動データとをFFT解析し、第1センサ2a及び第2センサ2bごとに特定周波数の成分の振動データを抽出する。そして、抽出された第1センサ2aの振動データと第2センサ2bの振動データとの位相差(加工後位相差)を位相演算部22bが算出する。その後、判定処理部22cが加工後位相差と基準値とを比較してブレード4の異常有無の判定を行う。
【0058】
判定処理部22cは、例えば、ステップS13で得られた加工後の位相差と、基準値との比較を行ってブレード4の異常有無の判定を行う。具体例としては、ステップS15において、加工後の位相差と基準値との差分が閾値以上であるか否かに応じてブレード4の異常判定を行う。例えば、加工後の位相差と基準値との差分が閾値以上である場合には異常と判定してステップS17に移行し(ステップS15においてYES)、加工後の位相差と基準値との差分が当該閾値以上でない場合には異常でないと判定する(ステップS15においてNO)。
【0059】
例えば、異常でないと判定された場合には、ステップS16に移行して、基準データを更新してもよい(ステップS16)。このとき、位相差の判定の基準となる基準値を更新してもよい。ステップS17では、ステップS14及びステップS15において判定されたブレード4の異常判定の結果が出力される。異常判定の結果の出力の態様は、特に限定されない。例えば、ブレード4が異常と判定されたときに、アラームを出力してもよいし、工作機械1の動作を停止させてもよい。
【0060】
また、ブレード4の異常の程度を複数段階としてもよい。例えば、ブレード4の異常の程度として、より重度な第1異常と、軽度な第2異常を含んでいてもよい。この場合、例えば、ブレード4が第2異常と判定されたときにアラームを出力し、ブレード4が第1異常と判定されたときに工作機械1の動作を停止させてもよい。以上のようにブレード4の異常判定の結果を出力した後に一連の工程を完了する。
【0061】
前述したブレード4の検査方法の例についてまとめると、当該検査方法は、ワークWの加工後に特定回転数でスピンドル5を空転する工程、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれによって特定周波数の振動を測定する工程、測定された振動の位相差を算出する工程、算出した位相差(加工後位相差)と基準値との差分を算出する工程、並びに、算出した差分と閾値とを比較してブレード4に異常が生じたか否かを判定する工程、を備える。
【0062】
しかしながら、ブレード4の検査方法の工程は、必ずしも上記に限定されず、適宜変更可能である。例えば、予め収集した学習データ(ブレード4の破損前後のデータ)を用いて、加工後位相差と基準値との差分を説明変数とし、破損の有無を目的変数とした分析処理を行うことによってブレード4の異常判定の判定モデルを作成してもよい。判定モデルの出力は、例えば、破損の有無を示すラベルによって行われてもよく(分類モデル)、ブレード4が破損している確率を示す数値によって行われてもよい(回帰モデル)。これらの判定モデルに、算出した加工後位相差が入力(適用)されることによって、ブレード4の破損の有無が判定されてもよい。ブレード4の検査方法の工程に、統計モデル又は機械学習モデルが用いられてもよい。
【0063】
次に、異常判定のためにスピンドル5を回転させるときの回転数である特定回転数について説明する。特定回転数は、ブレード4を交換したとき、又は、ブレード4が異常であると判定された後であってドレッシング等で修正を行ったときに求められてもよい。例えば、ある基本周波数Fmでスピンドルモータ6を回した場合のスピンドル5の振動のパワースペクトラムを算出し、そのスピンドルモータ6の基本周波数Fmの両側にサイドバンドとなるピークの周波数(例えば第1周波数F1及び第2周波数F2)が現れる回転数を特定回転数として特定する。
【0064】
図8及び
図9に例示されるように、まずスピンドルモータ6の基本回転数を初期値として設定する(ステップS31)。初期値は、例えば、スピンドル5の回転軸の固有振動数のN倍(又はその周辺)としてもよい(Nは実数)。このNの値は、実験結果等から予め定められた値であってもよいし、N=1.0から始めて100rpm又は1000rpm単位で回転数を変えながら探索されてもよい(総当たり的にスイープする探索によって定められてもよい)。
【0065】
この探索の過程で上記基本周波数Fmのピークの両側に、略同じ間隔でサイドバンド成分のピーク(適切なサイドバンドである第1周波数F1及び第2周波数F2)が検出されるかどうかを確認する(ステップS32)。一例として、スピンドル5の[軸の固有振動数のM倍(Mは実数)±{(軸の固有値)±フランジの固有値}]に合致する周波数をサイドバンド成分としてもよい。しかしながら、サイドバンド成分の求め方は上記の例に限られず適宜変更可能である。例えば、上記の「軸」は前述したスピンドル5のスピンドル軸52に相当し、「フランジ」は前述したフランジ41に相当する。
【0066】
そして、適切なサイドバンド成分が検出された場合には、そのときの回転数を特定回転数として設定する。一方、適切なサイドバンド成分が検出されない場合には、上記のNの値を変更したり、基本回転数Fmを一定量増減させたりして、基本回転数Fmを設定し直す。
図9の(a)は、適切なサイドバンドの例をグラフの実線(図中の「選定OK」)で示し、適切でないサイドバンドの例をグラフの破線(図中の「選定NG」)で示している。適切なサイドバンドの例では、基本周波数Fmと、基本周波数Fmより高い第1周波数F1と、基本周波数Fmより低い第2周波数F2と、に振動のピークが検出され、第1周波数F1と基本周波数Fmとの差が、基本周波数Fmと第2周波数F2との差と同程度となる。一方、適切でないサイドバンドの例では、第1周波数F1と基本周波数Fmとの差が、基本周波数Fmと第2周波数F2との差と同程度でない。ここで、「同程度」とは、完全に同一である場合に限られず、例えば、グラフ上において同一であると視認できる程度の場合、及び2つの値の差が所定値以下である場合も「同程度」に含まれる。
【0067】
一例として、基本周波数Fmの値、第1周波数F1の値、及び第2周波数F2の値の関係は、以下の式(1)、式(2)及び式(3)のように表されてもよい。
a×F0×N ≦ Fm ≦ b×F0×N ・・・(1)
F1=Fm+{F0±α} ・・・(2)
F2=Fm−{F0±α} ・・・(3)
上記の式(1)において、F0はスピンドル5の回転軸の固有振動数、Nは2以上の自然数、aは実数、bはaより大きい実数、をそれぞれ示している。一例として、aの値は0.8であり、bの値は1.2である。また、上記の式(2)、式(3)において、αはスピンドル5の一部を構成するフランジ41の固有振動数を示している。
【0068】
前述したように、例示的な位相演算部22bは、第1センサ2a(第1信号S1)から抽出されたスピンドル5の振動のうち特定周波数の成分の振動の位相と、第2センサ2b(第2信号S2)から抽出されたスピンドル5の振動のうち当該特定周波数の成分の振動の位相と、の位相差を位相差データとして生成する。ここで、特定周波数について詳細に説明する。
【0069】
まず、ワークWの加工前においてスピンドル5を空転し、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれによって加工前の振動を測定する。例えば、
図9の(b)に示されるように、FFT演算部22aは、測定された加工前の振動についてFFTスペクトラムを正常FFT波形として測定する(ステップS33)。なお、
図9の(b)のグラフにおいて、横軸は周波数を示しており、縦軸は振幅を示している。
【0070】
そして、ワークWの加工後においてスピンドル5を空転し、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれによって加工後の振動を測定する。このとき、FFT演算部22aは、測定された加工後の振動についてFFTスペクトラムを加工後のFFT波形として生成する(ステップS34)。
【0071】
FFT演算部22aによって生成されたFFTスペクトラムのうち、例えば、加工前後における振幅の変動が比較的大きい周波数を特定周波数として抽出する(ステップS35)。なお、加工前後における振幅の変動が最も大きい周波数だけでなく、当該周波数を中心とした一定範囲の帯域Hに含まれるピークを有する複数の周波数が設定されてもよい。すなわち、複数の特定周波数が選択されてもよい。
【0072】
上記とは別の特定周波数の設定方法について説明する。この設定方法において、特定周波数は、例えば、ブレード4が破損する前後のデータを実験等によって予め収集し、当該収集したデータに基づいて設定されてもよい。具体例として、ワークWの加工前及び加工後のそれぞれにおいてスピンドル5を特定回転数によって空転し、第1センサ2a及び第2センサ2bによって加工前及び加工後のそれぞれの振動を測定する。
【0073】
図10に示されるように、測定した振動のそれぞれに対して、例えば、センサデータ入力部21がA/D変換を行い、FFT演算部22aがFFT計算を行う(ステップS41,ステップS42)。そして、測定した加工前後の振動のそれぞれに対し、ある周波数における第1センサ2a及び第2センサ2bの位相差を、周波数を変えながら(総当たり的に)計算する(ステップS43)。
【0074】
一例として、周波数0.2Hzから10.0kHz(10000Hz)まで0.2Hz間隔で加工前後の振動のスペクトルデータを取得し、それぞれのスペクトルデータについて位相差を計算する(上記の例の場合50000×2の数のデータに対して計算を行う)。そして、上記の計算の結果、ブレード4の破損前後の位相差の変化が顕著な周波数を特定周波数として設定する(ステップS44)。なお、最も顕著な周波数の1つを特定周波数として特定してもよいし、最も顕著な周波数から上位X個(Xは自然数)の周波数を特定周波数として特定してもよい。すなわち、特定周波数の数は、単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0075】
前述したように、異常検知部22は、基準値と、加工後の第1信号S1及び第2信号S2の位相差と、の差分を閾値と比較することによって、ブレード4の異常有無を判定する。以下では、上記の閾値の設定について説明する。例えば、閾値は、ブレード4が破損する前後のデータを予め収集し、収集したデータに基づいて設定されてもよい。すなわち、閾値は、予め行った実験の結果から定められてもよい。また、閾値は、機械学習によって設定されてもよい。
【0076】
具体例として、ワークWの加工前後でスピンドル5を特定回転数により回転し、特定周波数の位相差データを収集する。そして、
図11に示されるように、例えば、初期値を0とした場合における位相差の変化量の絶対値を算出し、ブレード4が破損する前後における位相差の絶対値についてヒストグラムを作成する。例えば、作成したヒストグラムから、破損と無破損との境目の位相差となる閾値Vを設定する。なお、複数の特定周波数が設定されている場合には、複数の閾値Vを設定することも可能である。
【0077】
次に、上記の基準値の設定について
図12の例を参照しながら説明する。
図12は、ワークWの加工のロットと第1センサ2a及び第2センサ2bの位相差との関係を模式的に示すグラフである。
図12のグラフ中の初期値は、例えば、最初のロット(一例として、工作機械1を起動(若しくは再起動)した後の初のロット、又は新たな工程に組み替えた後の初のロット)におけるワークWの加工前に設定される位相差の値である。
【0078】
一例として、最初のロット(1ロット目)の開始時点(ワークWの加工前)に、例えば、特定回転数でスピンドル5を空転し、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれによって特定周波数の振動をFFT演算部22aが抽出する。例えば、位相演算部22bが第1センサ2aと第2センサ2bの位相差を算出し、算出した位相差を基準値とする。基準値は、1ロット目の前に算出した位相差の値をそのまま用いてもよいし、ある特定のタイミング、又は一定のタイミングで更新されてもよい。
【0079】
例えば、
図12に示されるように、基準値は、ロット毎に更新されてもよい。すなわち、ある単位の数のワークWの加工が終わったときに基準値が更新されてもよい。
図12は、基準値と閾値との関係の例を示している。
図12の例では、1ロットの加工が完了した後であってブレード4に異常が生じていないと判定されたときに、当該ロットの終了時点における位相差(加工後位相差)を用いて基準値が更新される例を示している。
【0080】
例えば、初期値である基準値(1)が、1ロット目終了後に基準値(2)、2ロット目終了後に基準値(3)、3ロット目終了後に基準値(4)と基準値が大きくなるにつれて閾値が閾値a、閾値b、閾値c、閾値dと大きくなってもよい。この場合、例えば、基準値の増加に伴って増加した閾値dを基にブレード4の異常判定が行われる。しかしながら、閾値は基準値の増加に伴って増加しなくてもよく、例えば、基準値の増加に伴って増加しない閾値aを基にブレード4の異常判定が行われてもよい。このように、基準値と閾値との関係は適宜変更可能である。
【0081】
以上、特定回転数の設定、特定周波数の設定、閾値の設定、及び基準値の設定、の例について説明した。これらの設定は、一例として、異常検知部22の管理部22dによって行われる。しかしながら、管理部22dとは別の機能的構成要素によって行われてもよい。例えば、検査装置100(異常検知システム20)が、特定回転数を設定する特定回数設定部、特定周波数を設定する特定周波数設定部、閾値を設定する閾値設定部、及び基準値を設定する基準値設定部、の少なくともいずれかを機能的構成要素として備えていてもよい。また、特定回転数の設定、特定周波数の設定、閾値の設定、及び基準値の設定の少なくともいずれかは、動的に行われてもよいし、手動(例えば手入力)によって行われてもよい。
【0082】
次に、実施形態に係る検査装置100、検査方法、及び工作機械1の作用効果について説明する。検査装置100、検査方法、及び工作機械1によれば、スピンドル5に生じる振動を第1センサ2a及び第2センサ2bが検知し、第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれから得られた情報に応じてスピンドル5に取り付けられたブレード4の異常を判定する。ブレード4の異常判定は、第1センサ2aから得られた第1信号S1と、第2センサ2bから得られた第2信号S2とに基づいて行われる。
【0083】
第1信号S1は、スピンドル5が特定回転数で回転した場合における第1センサ2aから得られたスピンドル5の振動を表す信号であり、第2信号S2は、スピンドル5が当該特定回転数で回転した場合における第2センサ2bから得られたスピンドル5の振動を表す信号である。従って、スピンドル5の互いに異なる場所に配置された第1センサ2aからの第1信号S1と第2センサ2bからの第2信号S2とに基づいてブレード4の異常判定を行うので、ブレード4の破損等の異常を検出することができる。ブレード4の異常を検出することによって、ブレード4による加工品質の劣化を未然に防ぐことができる。
【0084】
前述したように、異常検知システム20は、第1信号S1から抽出されたスピンドル5の振動のうち特定周波数の成分の振動の位相と、第2信号S2から抽出されたスピンドル5の振動の位相と、の位相差を表す位相差データを生成してもよく、位相差データと、異常が生じていない(例えばワークWの加工前の)ブレード4に基づいて設定された基準データ(例えば基準値)とを比較した結果からブレード4の異常を判定してもよい。この場合、第1センサ2aの第1信号S1から抽出した振動の位相と、第2センサ2bの第2信号S2から抽出した振動の位相と、の位相差データを基準値と比較してブレード4の異常判定を行う。従って、スピンドル5に配置された第1センサ2aと第2センサ2bとの位相差からブレード4の異常判定を行うので、ブレード4の異常判定を容易に且つ高精度に行うことができる。
【0085】
前述した基準データは、ブレード4がワークWを加工する前のタイミングにおいて、スピンドル5が特定回転数により回転したときに測定された、第1信号S1から抽出されたスピンドル5の振動のうち特定周波数の成分の振動の位相と、第2信号S2から抽出されたスピンドル5の振動のうち特定周波数の成分の振動の位相と、の位相差を表す基準位相差データ(例えば、前述した基準値)を含んでもよい。異常検知システム20は、ブレード4がワークWを加工した後のタイミングにおいて、スピンドル5が特定回転数により回転したときに測定された第1信号S1及び第2信号S2に基づいて生成された位相差データと、基準位相差データとを比較してブレード4の異常を判定してもよい。この場合、加工前の位相差データである基準位相差データと加工後の位相差データとを比較してブレード4の異常判定を行うので、加工前後に生じたブレード4の異常を速やかに検知することができる。
【0086】
異常検知システム20は、上記の位相差データ及び基準位相差データの差分と閾値とを比較してブレード4の異常を判定してもよい。この場合、加工前後の位相差データの差分と、閾値との比較によって異常判定が行われるので、ブレード4の異常判定を容易に行うことができる。
【0087】
異常検知システム20は、上記の位相差データと基準位相差データとを比較した結果ブレード4に異常が生じていないと判定した場合、基準位相差データを当該位相差データに置き換えてもよい。このように、ブレード4に異常が生じていないと判定した場合には、基準位相差データを加工後の位相差データに置き換えることができる。
【0088】
前述したように、特定回転数は、スピンドル5が回転したときに第1センサ2a及び第2センサ2bのそれぞれにより測定された振動に、少なくとも、スピンドル5の回転数に相当する周波数を表す基本周波数Fmと、基本周波数Fmより高い第1周波数F1と、基本周波数Fmより低い第2周波数F2と、に振動のピークが検出される回転数であってもよい。第1周波数F1と基本周波数Fmとの差は、基本周波数Fmと第2周波数F2との差と同程度であってもよい。この場合、特定回転数の設定をサイドバンドが現れる基本周波数Fmに基づいて行うことができるので、特定回転数の設定をより適切に行うことができる。第1周波数F1における振幅は、第2周波数F2における振幅と同程度であってもよいし、基本周波数Fmの振幅より小さくてもよい。
【0089】
特定周波数は、ブレード4がワークWを加工する前に特定回転数により空転したときに測定された振動の加工前のFFTスペクトラムと、ブレード4がワークWを加工した後に特定回転数により空転したときに測定された振動の加工後のFFTスペクトラムと、に基づいて設定されてもよい。この場合、加工前後の振動のFFTスペクトラムから特定周波数が設定されるので、特定周波数の設定をより適切に行うことができる。従って、位相差に基づくブレード4の異常判定をより高精度に行うことができる。
【0090】
特定周波数は、予め測定されたブレード4の破損前の位相差データ、及び予め測定されたブレード4の破損後の位相差データ、に基づいて設定されてもよい。この場合、実測値に基づいて特定周波数が予め設定されるので、位相差に基づくブレード4の異常判定をより適切に行うことができる。
【0091】
異常検知システム20は、第1センサ2a及び第2センサ2bから得られた情報に基づいて特定回転数を動的に設定してもよい。この場合、第1センサ2a及び第2センサ2bのセンサデータから特定回転数が自動的に設定されるので、特定回転数の設定を容易に行うことができる。
【0092】
異常検知システム20は、第1センサ2a及び第2センサ2bから得られた情報に基づいて特定周波数を動的に設定してもよい。この場合、第1センサ2a及び第2センサ2bのセンサデータから特定周波数が自動的に設定されるので、特定周波数の設定を容易に行うことができる。
【0093】
また、工作機械1では、ワークWの搬送、及びブレード4によるワークWの加工、を制御するコントローラ10を備え、コントローラ10によるワークWの搬送中であって且つワークWが加工される前に基準位相差データが設定されてもよい。ワークWが加工された後に位相差データが算出され、異常検知システム20は、位相差データと、基準位相差データとを比較してブレード4の異常を判定してもよい。この場合、工作機械1によるワークWの加工及び搬送とブレード4の異常判定とを並行して行うことが可能となる。従って、より適切なタイミングでブレード4の異常検知を行うことができる。
【0094】
ワークWが加工される前に特定回転数が設定され、設定された特定回転数に基づいて特定周波数が設定されてもよい。この場合、ワークWが加工される前に予め特定回転数を定めることができ、予め定めた特定回転数に基づいて特定周波数を設定することができる。
【0095】
コントローラ10は、ワークWが加工される前に、スピンドル5の回転数を(例えば一定範囲内において)変更してもよく、異常検知システム20は、変更された回転数により回転するスピンドル5について第1センサ2a及び第2センサ2bから得られた情報に基づいて、特定回転数を動的に設定してもよい。この場合、回転するスピンドル5、第1センサ2a及び第2センサ2bを基に特定回転数が自動的に設定されるので、特定回転数の設定を容易に行うことができる。
【0096】
コントローラ10は、異常検知システム20の判定結果に応じて工作機械1の挙動を制御してもよい。この場合、異常検知システム20がブレード4の異常を検知したときに工作機械1の挙動が制御されるので、ブレード4の状況に応じた工作機械1の適切な制御が可能となる。例えば、ブレード4の異常発生時に工作機械1を停止したり警報を出力したりすることができると共に、オペレータ等に速やかにブレード4の異常を報知することが可能となる。
【0097】
以上、本開示に係る検査装置、検査方法、及び工作機械について実施形態を用いて例示した。しかしながら、本開示に係る検査装置、検査方法、及び工作機械は、前述した実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲において変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。すなわち、検査装置及び工作機械の各部の構成、機能及び配置態様、並びに、検査方法の内容及び順序は、上記の要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。また、前述した実施形態、例及びバリエーションの組み合わせ、並びに、それらの変形、又は改良形態の組み合わせも本開示に係る技術の範囲に含まれる。