【解決手段】本発明の超音波ウォータージェット装置Wは、超音波を生成する超音波発振器1と、超音波発振器1の超音波を伝達する変換器2を固定する本体3と、本体3内に対してウォータージェットを供給する高圧水供給装置と、本体3の先端に配置され、液体を噴出するノズル5と、変換器2の先端側に径方向の外側に拡大した内部空間を有する導水部4とを備えている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
<<実施形態1>>
図1に、本発明に係る実施形態の超音波ウォータージェット装置Wの縦断面図を示す。なお、
図1における導水部4の構成の詳細は後記の
図2A、
図6A、
図6D、
図8A、
図9A、
図11で示す。
実施形態の超音波ウォータージェット装置Wは、ジェット水流の衝撃力を用いて、ワークを加工する装置である。
【0011】
超音波ウォータージェット装置Wは、超音波発振器1、変換器2、本体3、導水部4、ノズル5、およびキャップ6を具備している。
超音波発振器1は、超音波を発振させる。
変換器2は、超音波発振器1の超音波を、供給される液体の水に伝達する。変換器2は、柱状の胴部2aと軸部2bとを有している。軸部2bは、胴部2aより細径の円柱形状を呈している。軸部2bは、円柱部2b1と円柱部2b1の径が先端側に行くに従い細くなる傾斜部2b2とを有している。
【0012】
変換器2の胴部2aの一方端は超音波発振器1に固定され、他方端には軸部2bの円柱部2b1が固定されている。
【0013】
<本体3>
本体3は、変換器2を超音波ウォータージェット装置Wの一部として固定する。変換器2は、本体3に固定されている。
本体3には、変換器2の固定部3a、挿通孔3b、挿通孔3bが連通する拡大空間3c、水が供給される供給孔3d、ノズル5が固定されるノズル固定孔3eが設けられている。
【0014】
本体3の挿通孔3bにおける拡大空間3cの下流には導水部4が設けられている。
本体3の固定部3aには、変換器2の胴部2aが固定されている。
本体3の挿通孔3bは、変換器2の軸部2bの外径より大きな内径を有しており、変換器2の軸部2bが挿通される。本体3の挿通孔3bと変換器2の軸部2bとの間の空間sp1は、不図示の高圧水供給装置から供給される水で満たされている。空間sp1は、超音波発振器1からの超音波を変換器2の軸部2bを介して水に伝達する役割をもつ。
【0015】
拡大空間3cは、挿通孔3bの途中に設けられ、挿通孔3bの内径より大きな内径を有している。
供給孔3dからは、不図示の高圧水供給装置から、ウォータージェットに使用される水が拡大空間3cに供給されている。拡大空間3cは、挿通孔3bの内径より大きな内径をもつため、供給孔3dからの水が円滑に(滞りなく)変換器2の軸部2bと挿通孔3bとの間の空間sp1に供給される。
【0016】
導水部4は、本体3において、拡大空間3cの下流の挿通孔3bに設けられている。導水部4は、ウォータージェットに使用される水に急拡大効果とオリフィス効果を組み合わせて付与する役割を担う。これにより、導水部4は、供給される水に超音波を安定的に伝達するように制御している。導水部4の詳細は後記する。
【0017】
<ノズル5、キャップ6>
本体3、ノズル5、およびキャップ6は、変換器2の軸部2bを中心とする中心軸Oをもつ。
ノズル5は、傾斜孔5aとノズル孔5bとを有している。
傾斜孔5aは、端部側は径が大きく中央側は径が小さくなる傾斜をもつ。ノズル孔5bは、傾斜孔5aの径が小さい端部に連続して形成されている。
【0018】
ノズル孔5bの先端側から、加工対象のワークに対してウォータージェットが噴出される。
本体3の挿通孔3bの下流端は、ノズル5の傾斜孔5aの径が大きい端部に連続している。
キャップ6は、段付き内径をもつ筒状の部材である。キャップ6は、大径部6aと中径部6bと小径部6cと傾斜径部6dとを有している。
【0019】
大径部6aの内径と、中径部6bの内径と、小径部6cの内径と、傾斜径部6dの内径は、傾斜径部6dの内径<小径部6cの内径<中径部6bの内径<大径部6aの内径の関係にある。
キャップ6の大径部6aが本体3に固定されている。傾斜径部6dのノズル孔5bに続く一端側には、ノズル5の先端部が固定されており、傾斜径部6dの他端側はキャップ6の先端部となっている。
キャップ6の傾斜径部6dの内径s4は、内部側の一端側から外部側の他端側に行くに従って径が漸増している。
【0020】
傾斜径部6dの内径s4の小径の一端側は、ノズル5のノズル孔5bの径より大きい。これにより、傾斜径部6dの漸増する内径s4がノズル孔5bから加工対象のワークに対して噴出されるウォータージェットに干渉しないように構成されている。
キャップ6は、ノズル5の固定と、ノズル5から伝搬されるウォータージェットによる内圧を受け止める。
【0021】
<変換器2>
変換器2は、超音波発振器1からの超音波を伝達する。
変換器2の最適な材料としては、音の伝達に応じて周りの素材との相性等もあるが、アルミニウム、チタン等が用いられる。音速から、材料の性能を予想すると、アルミニウム>チタン>SUS304(ステンレス)>SUS630(ステンレス)>チタン合金がよい。本実施形態では、変換器2の形状、強度を考慮して、SUS630を使用する。
【0022】
変換器2と本体3を接続する箇所でウォータージェットに使用される水をシールしている。
ここで、空間sp1が大きいとウォータージェットの内圧による、変換器2への負荷が大きくなるため、空間sp1を狭くするとよい。そこで、本超音波ウォータージェット装置Wでは、変換器2の軸部2bの外径ができるだけ小さくなるように調整している。
【0023】
また、変換器2は、超音波発振器1からの超音波の振動を抑えることなく(抑制/阻害しないように)本体3に固定されることが望ましい。
【0024】
特に、超音波の振動の節は、振幅がゼロであるので重要な意味合いを持つ。超音波の振動の節で固定すると超音波の振動への影響を抑えられる。
変換器2の本体3に対する固定部を超音波の振動の節の位置に一致させることで、固定部における超音波の振動の振幅はゼロとなる。そのため、超音波発振器1からの超音波の振動を可及的に抑制/阻害しないようにすることが可能である。
【0025】
そこで、変換器2を本体3に固定する箇所を超音波の振動の節の位置に一致させることが望ましい。
ここで、変換器2を本体3に固定する箇所は固定とともにシールが重要である。
【0026】
<導水部4>
従来の超音波ウォータージェット装置(特許文献1、2等)は、超音波は伝達しているが、ウォータージェットの噴流が安定せず、不連続的な施工形状となる課題があり、作業効率が悪い。
超音波がウォータージェットに適切に乗らないと、加工の効果が得られない。すなわち、超音波が正常にウォータージェットに伝搬して、はつり能力(加工能力)が増加するタイミングと、超音波が正常にウォータージェットに伝搬せず、はつり能力(加工能力)が増加しないタイミングがある。そのため、作業を安定して行えず、作業効率が低下する場合がある。
【0027】
また、従来、噴流は安定しているが、超音波が正常にウォータージェットに伝達しておらず、施工できない場合がある。つまり、施工はできるが、ウォータージェットに超音波を付加した恩恵を受けられず、処理能力が増加しない。そのため、ウォータージェットに超音波を付加したことによる最適な効果が得られない。
従来は、ウォータージェットの噴流の安定と、超音波の正常なウォータージェットへの伝達が両立できていない問題があった。
【0028】
これの対策として、本実施形態の導水部4(
図1参照)は、導水部4の内部空間pに安定した擾乱を発生させることで、超音波が安定してウォータージェットに伝達される。そのため、ウォータージェットの施工結果のばらつきを低減することができる。
導水部4の構成としては、スペーサ10を間に挟むことで、ウォータージェットとなる水が流れる内部空間pを作る構造としている。以下の実施例で具体的構成と加工結果を説明する。
【0029】
<超音波発振器1による超音波>
超音波発振器1は、周波数40kHzの超音波を用いている。
超音波の周波数、波長に応じて、超音波の節は変わってくる。そのため、ノズル5の大きさや各要素の配置部位の最適値、SOD(Stand of distance(対象物との距離))等は変わる。
【0030】
<実施例1>
図2Aに、実施例1の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4Aの縦断面図を示す。
図2Bに、実施例1の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4Aの内部空間p1を形成するのに用いたスペーサ10の斜視図を示す。
実施例1の導水部4Aの内部空間p1は、内径Φ16mm、幅4mmの寸法をもつ空間である。
【0031】
図2Bに示すスペーサ10は、厚さt1=2mm、内径d1=Φ16mmの寸法をもつ円環状の部材である。
実施例1の内部空間p1(
図2A)は、円環状のスペーサ10を2枚用いて、内径Φ16mm、幅4mmの寸法をもつ空間を形成したものである。スペーサ10を単数、複数用いることで、内部空間p1の大きさの調整が可能である。
実施例1を含めた以下の実施例は、下記のテスト条件で超音波ウォータージェット装置Wによる加工の試験を行った。
【0032】
超音波発振器1の発振周波数:40kHz
水の圧力:70MPa
水の流量:30L/min
ノズル5のノズル孔5bの径のノズル径:φ1.35mm
ノズル5の移動速度:12mm/s
ノズル5のパス回数:1回(ノズル5のパス回数の記載がない場合は、パス回数:1回とする)
【0033】
図3に、実施例1〜5の加工対象である対象ワークw1の加工試験結果の上面図の写真を示す。
図3に示す実施例1〜5の試験の対象ワークw1は、アルミニウム合金のA5052である。
実施例1の
図3に示す対象ワークw1の加工形状k11のSOD(Stand of distance(対象ワークw1との距離))は100mmである。
【0034】
図4に、実施例1〜3の加工対象である対象ワークw2の加工試験結果の斜視図の写真を示す。
図4に示す実施例1〜3の試験の対象ワークw2は、一般構造用圧延鋼材のSS400である。
【0035】
図4のテスト条件は、
SODが100mmである
実施例1の
図4に示す対象ワークw2の加工は、加工形状k12が40パスではつり深さ0.443mmであり、加工形状k13が92パスではつり深さ1.021mmである。
SOD:100mmにおける内径Φ16mm、幅4mmの内部空間p1での加工は、良好である。
【0036】
図5に、実施例1でSODを30〜110mmと変化させた場合の対象ワークw1の加工試験結果の上面図の写真を示す。
表1に、加工形状j11〜j14の条件と結果を示す。
【0037】
【表1】
図5の加工形状j11〜j16の結果から、加工形状j11のSOD=30mm以外は良好な結果であった。
【0038】
<実施例2>
図6Aに、実施例2の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4Bの縦断面図を示す。
図6B、
図6Cに、それぞれ実施例2の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4Bの内部空間p2を形成するのに用いた第1スペーサ10a1、第2スペーサ10a2の斜視図を示す。
実施例2の導水部4Bの内部空間p2(
図6A参照)は、内径Φ16mm、幅3mmの寸法をもつ空間である。
【0039】
図6Bに示す第1スペーサ10a1は、厚さt21=1mm、内径d21=Φ16mmの寸法をもつ円環状の部材である。
図6Cに示す第2スペーサ10a2は、厚さt22=2mm、内径d22=Φ16mmの寸法をもつ円環状の部材である。
実施例2の導水部4の内部空間p2は、円環状の第1スペーサ10a1と第2スペーサ10a2を用いて、内径Φ16mm、幅4mmの寸法をもつ空間を形成した。
【0040】
実施例2の
図3に示すに示す対象ワークw1の加工形状k21のSOD(Stand of distance(対象ワークw1との距離))は100mmである。
実施例2の
図4に示す対象ワークw2の加工では、加工形状k22が40パスではつり深さ0.336mmであり、加工形状k23が92パスではつり深さ0.744mmである。
【0041】
図6Dに、実施例2の他例の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4B1の縦断面図を示す。
実施例2の導水部4B1の内部空間p21は、内径Φ16mm、幅3mmの寸法をもつ空間である。導水部4B1の内部空間p21は、
図6Aの導水部4Bの内部空間p2より、1mmの距離、変換器2の傾斜部2b2側に配置したものである。内部空間p21は、変換器2の円柱部2b1における傾斜部2b2との境界に配置している。
【0042】
図7に、実施例2でSODを30〜120mmと変化させた場合の対象ワークw1の加工試験結果の上面図の写真を示す。
加工形状j21〜j26は、
図6Aの導水部4Bのウォータージェットの加工結果である。
表2に、加工形状j21〜j29の条件と結果を示す。
【0044】
加工形状j27〜j29は、
図6Dの他例の導水部4B1のウォータージェットの加工結果である。
【0045】
図7の結果より、
図6Aの導水部4Bのウォータージェットの加工の方が
図6Dの導水部4B1のウォータージェットよりも良好な結果であった。
【0046】
<実施例3>
図8Aに、実施例3の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4Cの縦断面図を示す。
図8B、
図8Cに、それぞれ実施例3の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4Cの内部空間p3を形成するのに用いた第1スペーサ10b1、第2スペーサ10b2の斜視図を示す。
実施例3の導水部4Cの内部空間p3は、内径Φ22mm、幅2mmの寸法をもつ空間を間に挟んだ内径Φ16mm、幅1mmの寸法をもつ2つの空間で成る。
【0047】
図8Bに示す第1スペーサ10b1は、厚さt31=1mm、内径d31=Φ16mmの寸法をもつ円環状の部材である。
図8Cに示す第2スペーサ10b2は、厚さt32=1mm、内径d32=Φ22mmの寸法をもつ円環状の部材である。
実施例3の導水部4の内部空間p3は、円環状の2枚の第2スペーサ10b2と、2枚の第2スペーサ10b2を間に挟んだ一対の第1スペーサ10b1とを用いて、形成される空間である。
【0048】
実施例3の
図3に示す対象ワークw1の加工形状k31のSOD(Stand of distance(対象ワークw1との距離))は100mmである。
実施例3の
図4に示す対象ワークw2の加工では、SOD:100mmである。加工形状k32が40パスではつり深さ0.290mmであり、加工形状k33が92パスではつり深さ0.741mmである。
実施例3の内部空間p3で、良好な加工結果が得られた。
【0049】
<実施例4>
図9Aに、実施例4の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4Dの縦断面図を示す。
図9Bに、実施例4の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4Dの内部空間p4を形成するのに用いたスペーサ10cの斜視図を示す。
実施例4の導水部4Dの内部空間p4は、内径がΦ22mm、幅が2mmの寸法をもつ空間である。
【0050】
図9Bに示すスペーサ10cは、厚さt4=1mm、内径d4=Φ22mmの寸法をもつ円環状の部材である。
実施例4の導水部4の内部空間p4は、円環状の2枚のスペーサ10cを用いて形成された。
実施例4の
図3に示す対象ワークw1の加工形状k41のSODは100mmである。
【0051】
図10に、実施例4の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4DでSODを30〜90mmと変化させた場合の対象ワークw1の加工試験結果の上面図の写真を示す。
表3に、加工形状j41〜j46の条件を示す。
【表3】
【0052】
図10の結果から、加工形状j42のSOD=60mmが最も良好な加工性であった。加工形状j41のSOD=30mmは最も加工性が悪い。その他の加工形状j43〜j46は、ほぼ良好な加工性である。
【0053】
<実施例5>
図11に、実施例5の超音波ウォータージェット装置Wの導水部4Eの縦断面図を示す。
実施例5の導水部4Eの内部空間p5は、内径がΦ16mm、幅が1mmの寸法をもつ空間である。
内部空間p5は、本体3に形成したものであり、変換器2の円柱部2b1における傾斜部2b2との境界に配置したものである。
【0054】
実施例5の導水部4Eを用いた加工結果は、
図3に示す加工形状j51、j52、j53である。
表4に、加工形状j51〜j53の条件と結果を示す。
【表4】
【0055】
図3の加工形状j51〜j53は、従来より優れた加工性を示した。
実施例5より、内部空間p5は、円柱部2b1と傾斜部2b2との境界よりも、円柱部2b1側に配置する方が好ましい。
実施例1〜5の結果から、超音波ウォータージェット装置Wに、幅:1〜5mm、内径:φ16、φ22の空間を、変換器2の傾斜部2b2より上流に設けることで、ワークw1、w2に対するはつり量を根拠に有効に加工できることが確認できた。
【0056】
そのため、幅:約1〜6mm、内径:約φ14〜φ24程度の空間で有効に機能するものと考えられる。
また、スペーサ(10、10a1、10a2、10b1、10b2、10c)を用いることで、内部空間p1〜p4の大きさの調整が容易に行える。
実施形態の超音波ウォータージェット装置Wは、変換器2の軸部2bの先端(傾斜部2b2)が短いので、そもそも振動が発生しにくい構造になっている。
【0057】
超音波ウォータージェット装置Wは、ウォータージェットが本体3の内部に供給された後、導水部4の内部空間p(p1〜p5)に向けて急拡大した後、変換器2の先端の傾斜部2b2へオリフィス効果を経て、ノズル5から噴射されるようになっている。
本体3のウォータージェットの流路の内部で、急拡大とオリフィスを繰り返していることが効果に繋がっていると考えられる。
以上より、超音波ウォータージェット装置Wは、導水部4の内部空間p(p1〜p5)に安定した擾乱を発生させることで、超音波が安定してウォータージェットに伝達されるため、ウォータージェットの施工結果のばらつきを低減することができる。
【0058】
また、導水部4の内部空間p(p1〜p5)内への急拡大効果とオリフィス効果を組み合わせることによって、ノズル5内の流れを制御することができる。
【0059】
<<その他の実施形態>>
1.実施形態は1例を示したものであり、特許請求の範囲内で様々な形態が可能である。